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特許7012497伝搬時間測定装置、気体濃度測定装置および伝搬時間測定プログラム
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  • 特許-伝搬時間測定装置、気体濃度測定装置および伝搬時間測定プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】伝搬時間測定装置、気体濃度測定装置および伝搬時間測定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/024 20060101AFI20220121BHJP
   G01N 29/44 20060101ALI20220121BHJP
   G01M 3/24 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
G01N29/024
G01N29/44
G01M3/24 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017194478
(22)【出願日】2017-10-04
(65)【公開番号】P2019066423
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000189486
【氏名又は名称】上田日本無線株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻谷 浩一
(72)【発明者】
【氏名】新福 修史
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 泰弘
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-249691(JP,A)
【文献】特開2002-131427(JP,A)
【文献】特開平09-061523(JP,A)
【文献】特開2017-090219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01M 3/24
G01H 3/00
G01H 5/00
G01S 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1超音波を測定空間に送信し、当該第1超音波に時間的に続く第2超音波を前記測定空間に送信する送信部と、
前記測定空間を伝搬した超音波を受信する受信部と、
前記第1超音波および前記第2超音波が前記送信部から送信されたタイミング、ならびに、前記第1超音波および前記第2超音波が前記受信部で受信されたタイミングに基づいて、前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求める伝搬時間測定部と、を備え、
前記第2超音波は、前記第1超音波に対して逆位相であり、
前記伝搬時間測定部は、
前記受信部が受信する超音波に基づき前記受信部から出力される受信信号を取得し、前記受信信号に含まれる前記第1超音波の成分、および、前記受信信号に含まれる前記第2超音波の成分によって前記受信信号の時間波形に形成される境界点を検出し、前記境界点のタイミングに基づいて前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求め、
前記伝搬時間測定部は、さらに、前記受信信号の上限包絡線が有する1つの極小点に対応する正のピークよりも1つ前の正のピークが現れた探索ポイント時間、若しくは、前記受信信号の上限包絡線における複数の極小点のうち極小点深度が最も大きいものに対応する正のピークよりも1つ前の正のピークが現れた探索ポイント時間を特定し、あるいは、
前記受信信号の下限包絡線が有する1つの極大点に対応する負のピークよりも1つ前の負のピークが現れた探索ポイント時間、若しくは、前記受信信号の下限包絡線における複数の極大点のうち極大点深度が最も大きいものに対応する負のピークよりも1つ前の負のピークが現れた探索ポイント時間を特定し、
前記探索ポイント時間の直後のゼロクロス点を前記境界点として検出することを特徴とする伝搬時間測定装置。
【請求項2】
請求項における伝搬時間測定装置において、
前記第2超音波は、その振幅が前記第1超音波の振幅よりも大きいことを特徴とする伝搬時間測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載の伝搬時間測定装置と、
前記測定空間を超音波が伝搬する時間に基づいて、前記測定空間内における特定の気体の濃度を測定する濃度測定部と、
を備えることを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項4】
伝搬時間測定器に読み込まれる伝搬時間測定プログラムにおいて、
前記伝搬時間測定器は、
超音波を測定空間に送信する送信部と、
前記測定空間を伝搬した超音波を受信する受信部と、
前記送信部を制御して前記送信部に超音波を送信させると共に、前記送信部から超音波が送信されたタイミング、および超音波が前記受信部で受信されたタイミングに基づいて、前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求める伝搬時間測定部と、を備え、
前記伝搬時間測定プログラムは、
第1超音波を前記測定空間に送信し、前記第1超音波に時間的に続く第2超音波を前記測定空間に送信する送信処理であって、前記第2超音波は前記第1超音波に対して逆位相である送信処理を、前記送信部に実行させるステップと、
前記第1超音波および前記第2超音波が前記送信部から送信されたタイミング、ならびに、前記第1超音波および第2超音波が前記受信部で受信されたタイミングに基づいて、前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求めるステップと、
を前記伝搬時間測定器に実行さ
前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求めるステップは、
前記受信部が受信する超音波に基づき前記受信部から出力される受信信号を取得し、前記受信信号に含まれる前記第1超音波の成分、および、前記受信信号に含まれる前記第2超音波の成分によって前記受信信号の時間波形に形成される境界点を検出し、前記境界点のタイミングに基づいて前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求めるステップを含み、
前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求めるステップは、
前記受信信号の上限包絡線が有する1つの極小点に対応する正のピークよりも1つ前の正のピークが現れた探索ポイント時間、若しくは、前記受信信号の上限包絡線における複数の極小点のうち極小点深度が最も大きいものに対応する正のピークよりも1つ前の正のピークが現れた探索ポイント時間を特定し、あるいは、
前記受信信号の下限包絡線が有する1つの極大点に対応する負のピークよりも1つ前の負のピークが現れた探索ポイント時間、若しくは、前記受信信号の下限包絡線における複数の極大点のうち極大点深度が最も大きいものに対応する負のピークよりも1つ前の負のピークが現れた探索ポイント時間を特定し、
前記探索ポイント時間の直後のゼロクロス点を前記境界点として検出するステップを含むことを特徴とする伝搬時間測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波送信器、伝搬時間測定装置、気体濃度測定装置および伝搬時間測定プログラムに関し、特に、超音波が測定空間を伝搬する時間を求める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池から供給される電力によって走行する燃料電池車について、広く研究開発が行われている。燃料電池は水素および酸素の化学反応によって電力を発生する。一般に、水素が燃料として燃料電池に供給され、酸素は周囲の空気から燃料電池に取り入れられる。燃料電池車には水素タンクが搭載され、水素タンクから燃料電池に水素が供給される。水素タンク内の水素が少なくなったときは、サービスステーションに設置された水素供給装置から燃料電池車の水素タンクに水素が供給される。
【0003】
水素は可燃性の気体であるため、燃料電池車や水素供給装置からの水素の漏れの監視が必要となる。そこで、燃料電池車や水素供給装置と共に、水素濃度測定装置が広く用いられている。水素濃度測定装置は、空気中に含まれる水素の濃度を測定したり、水素濃度が所定値を超えたときに警報を発したりする機能を有する。
【0004】
以下の特許文献1および2には、特定の気体の濃度を測定する装置が記載されている。これらの特許文献に記載されている装置は、測定対象の空気における超音波の伝搬速度等、超音波の伝搬特性に基づいて特定の気体の濃度を測定するものであり、水素の濃度の測定に用いてもよい。また、特許文献3~6には、本願発明に関連する技術として、超音波パルスの波形に基づいて、超音波パルスが受信されたタイミングを特定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-214203号公報
【文献】特開平3-223669号公報
【文献】特開平8-254454号公報
【文献】特開平9-127244号公報
【文献】特開平9-184716号公報
【文献】特開2007-187506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、超音波の伝搬速度に基づいて特定の気体の濃度を測定する装置には、気体の濃度を測定する空間が設けられている。この濃度測定空間には超音波を送受信する超音波振動子が設けられている。送信用の超音波振動子から超音波が送信されてから、濃度測定空間内を伝搬した超音波が受信用の超音波振動子で受信されるまでの伝搬時間と、予め求められた伝搬距離とに基づいて、超音波の伝搬速度が求められる。
【0007】
しかし、受信用の超音波振動子で受信される超音波パルスの時間波形が、振幅が一定である等の特徴がない時間波形である場合、超音波パルスが受信されるタイミングの検出が困難となることがある。この場合、濃度測定空間内を伝搬した超音波の伝搬時間の測定精度が低下し、気体の濃度の測定精度が低下することがある。
【0008】
本発明は、超音波の伝搬時間の測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の関連技術は、伝搬時間測定装置に搭載される超音波送信器において、前記伝搬時間測定装置は、測定空間に超音波を送信し、超音波が送信されたタイミングと、前記測定空間を伝搬した超音波が受信されたタイミングとに基づいて、前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求める装置であり、前記超音波送信器は、第1超音波を前記測定空間に送信し、前記第1超音波に時間的に続く第2超音波を前記測定空間に送信する送信部を備え、前記第2超音波は、前記第1超音波に対して逆位相であることを特徴とする。
【0010】
望ましくは、前記第2超音波は、その振幅が前記第1超音波の振幅よりも大きい。
【0011】
また、本発明は、第1超音波を測定空間に送信し、当該第1超音波に時間的に続く第2超音波を前記測定空間に送信する送信部と、前記測定空間を伝搬した超音波を受信する受信部と、前記第1超音波および前記第2超音波が前記送信部から送信されたタイミング、ならびに、前記第1超音波および前記第2超音波が前記受信部で受信されたタイミングに基づいて、前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求める伝搬時間測定部と、を備え、前記第2超音波は、前記第1超音波に対して逆位相であり、前記伝搬時間測定部は、前記受信部が受信する超音波に基づき前記受信部から出力される受信信号を取得し、前記受信信号に含まれる前記第1超音波の成分、および、前記受信信号に含まれる前記第2超音波の成分によって前記受信信号の時間波形に形成される境界点を検出し、前記境界点のタイミングに基づいて前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求め、前記伝搬時間測定部は、さらに、前記受信信号の上限包絡線が有する1つの極小点に対応する正のピークよりも1つ前の正のピークが現れた探索ポイント時間、若しくは、前記受信信号の上限包絡線における複数の極小点のうち極小点深度が最も大きいものに対応する正のピークよりも1つ前の正のピークが現れた探索ポイント時間を特定し、あるいは、前記受信信号の下限包絡線が有する1つの極大点に対応する負のピークよりも1つ前の負のピークが現れた探索ポイント時間、若しくは、前記受信信号の下限包絡線における複数の極大点のうち極大点深度が最も大きいものに対応する負のピークよりも1つ前の負のピークが現れた探索ポイント時間を特定し、前記探索ポイント時間の直後のゼロクロス点を前記境界点として検出することを特徴とする。
【0012】
望ましくは、前記第2超音波は、その振幅が前記第1超音波の振幅よりも大きい。
【0014】
望ましくは、前記測定空間を超音波が伝搬する時間に基づいて、前記測定空間内における特定の気体の濃度を測定する濃度測定部と、を備える。
【0015】
また、本発明は、伝搬時間測定器に読み込まれる伝搬時間測定プログラムにおいて、前記伝搬時間測定器は、超音波を測定空間に送信する送信部と、前記測定空間を伝搬した超音波を受信する受信部と、前記送信部を制御して前記送信部に超音波を送信させると共に、前記送信部から超音波が送信されたタイミング、および超音波が前記受信部で受信されたタイミングに基づいて、前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求める伝搬時間測定部と、を備え、前記伝搬時間測定プログラムは、第1超音波を前記測定空間に送信し、前記第1超音波に時間的に続く第2超音波を前記測定空間に送信する送信処理であって、前記第2超音波は前記第1超音波に対して逆位相である送信処理を、前記送信部に実行させるステップと、前記第1超音波および前記第2超音波が前記送信部から送信されたタイミング、ならびに、前記第1超音波および第2超音波が前記受信部で受信されたタイミングに基づいて、前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求めるステップと、を前記伝搬時間測定器に実行さ前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求めるステップは、前記受信部が受信する超音波に基づき前記受信部から出力される受信信号を取得し、前記受信信号に含まれる前記第1超音波の成分、および、前記受信信号に含まれる前記第2超音波の成分によって前記受信信号の時間波形に形成される境界点を検出し、前記境界点のタイミングに基づいて前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求めるステップを含み、前記測定空間を超音波が伝搬する時間を求めるステップは、前記受信信号の上限包絡線が有する1つの極小点に対応する正のピークよりも1つ前の正のピークが現れた探索ポイント時間、若しくは、前記受信信号の上限包絡線における複数の極小点のうち極小点深度が最も大きいものに対応する正のピークよりも1つ前の正のピークが現れた探索ポイント時間を特定し、あるいは、前記受信信号の下限包絡線が有する1つの極大点に対応する負のピークよりも1つ前の負のピークが現れた探索ポイント時間、若しくは、前記受信信号の下限包絡線における複数の極大点のうち極大点深度が最も大きいものに対応する負のピークよりも1つ前の負のピークが現れた探索ポイント時間を特定し、前記探索ポイント時間の直後のゼロクロス点を前記境界点として検出するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、超音波の伝搬時間の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】気体濃度測定装置を模式的に示す図である。
図2】気体濃度測定装置の詳細な構成を示す図である。
図3】送信回路で生成される送信パルス信号を示す図である。
図4】受信パルス信号の例を示す図である。
図5】複数の極小点が上限包絡線に現れる受信パルス信号の例を模式的に示す図である。
図6】気体濃度測定装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1には、本発明の実施形態に係る気体濃度測定装置が模式的に示されている。気体濃度測定装置は、気体濃度を測定するための空間を有する筐体10を備えており、筐体10内の気体を伝搬する超音波の伝搬速度に基づいて気体濃度を測定する。筐体10には通気孔20が設けられており、通気孔20を介して気体が筐体10の内外を流通する。筐体10における濃度測定空間の形状は、例えば、直方体形状、円筒形状等とする。濃度測定空間は、必ずしも筐体10の壁によって全方向が囲まれていなくてもよく、少なくとも超音波を送受信できる空間であればよい。
【0020】
気体濃度測定装置は、筐体10内に収容された回路基板12を備えている。回路基板12には、測定回路14、送信振動子16、受信振動子18およびコネクタ22が実装されている。送信振動子16は、測定回路14の動作に基づいて超音波を送信する。受信振動子18は、送信振動子16から送信され、筐体10の内面における反射面24で反射した超音波を受信する。測定回路14は、超音波が送信されてから受信されるまでの時間と、予め記憶された超音波の伝搬距離に基づいて、超音波の伝搬速度を求める。測定回路14は、自らが備える温度センサによる検出値によって筐体10内の温度を測定し、さらに、超音波の伝搬速度および温度測定値に基づいて気体濃度を求める。測定回路14は、外部装置としてコネクタ22に接続されたコンピュータ、表示装置等に気体濃度測定値を出力する。
【0021】
図2には、本発明の実施形態に係る気体濃度測定装置の詳細な構成が示されている。気体濃度測定装置は、筐体10、送信振動子16、受信振動子18、測定回路14およびコネクタ22を備える。測定回路14は、送信回路38、受信回路40、プロセッサ28および記憶部42を備える。測定回路14には、送信振動子16、受信振動子18、およびコネクタ22が接続されている。
【0022】
プロセッサ28は、記憶部42に記憶されたプログラム、あるいは、予め自らに記憶されたプログラムを実行することで、内部に送受信制御部30、伝搬時間測定部32および濃度測定部36を構成する。これらの構成要素は、プロセッサ28で実現する代わりに、ハードウエアであるディジタル回路によって個別に構成してもよい。
【0023】
気体濃度測定装置が水素濃度を測定する処理について説明する。送信回路38および送信振動子16は、超音波を送信する送信部として動作する。送信回路38は、送受信制御部30による制御に従って、送信振動子16に送信パルス信号を出力する。送信振動子16は、電気信号である送信パルス信号を超音波に変換し、送信超音波パルスを送信する。この送信超音波パルスは筐体10の反射面24で反射する。
【0024】
図3には、送受信制御部30による制御に従って送信回路38で生成される送信パルス信号が示されている。横軸は時間を示し縦軸は振幅を示す。この送信パルス信号は、正極信号および負極信号の対からなる差動信号である。送信振動子16から送信される超音波パルスは、正極信号から負極信号を減算して、直流成分が除去された信号に基づくものとなる。時間t0から5周期分の矩形波の正極信号が生成され、時間t0から5周期後の時間t1に、逆位相の矩形波が3周期に亘って正極信号として生成される。時間t0から時間t1までの間、負極信号のレベルは0である。そして、時間t1以降に3周期分の矩形波の負極信号が生成される。時間t1以降では、負極信号は正極信号に対して逆極性の関係にある。このような送信パルス信号によれば、第6周期目において振幅が小さくなった後に振幅が大きくなる超音波パルスが送信振動子16から送信される。
【0025】
ここでは、5周期の正相の信号の後に、3周期の逆相の信号が続く送信パルス信号について説明した。正相信号の周期数(繰り返しの数)および逆相信号の周期数は任意である。また、逆相信号の振幅は、正相信号の振幅と同一であってもよいし、正相信号の振幅と異なってもよい。すなわち、逆相信号の振幅は、正相信号の振幅の2倍でなくてもよく、任意の大きさであってもよい。さらに、逆相信号の周波数は、正相信号の周波数と異なってもよい。送信パルス信号として、正相信号の後に逆相信号が続く信号を用いることで、受信振動子18で受信される超音波パルスの波形の変化が顕著となり、超音波パルスが受信されるタイミングを特定する処理の精度が高くなる。
【0026】
このように、本実施形態に係る気体濃度測定装置には超音波送信器が構成される。超音波送信器は、正相信号に基づいて生成される第1超音波を濃度測定空間に送信し、正相信号に続く逆相信号に基づいて生成される第2超音波を濃度測定空間に送信する送信部(送信回路38および送信振動子16)を備える。第2超音波は、第1超音波に対して逆位相であり、その振幅が第1超音波の振幅と異なる。
【0027】
受信振動子18および受信回路40は、超音波を受信する受信部として動作する。受信振動子18は、筐体10の反射面24で反射した超音波パルスを受信し、この受信超音波パルスを電気信号である受信パルス信号に変換して受信回路40に出力する。受信回路40は受信パルス信号のレベルを調整しプロセッサ28に出力する。プロセッサ28は、受信パルス信号を表す受信データを記憶部42に記憶する。この受信データは、受信パルス信号の値と時間とを対応付けたデータである。プロセッサ28内に構成された伝搬時間測定部32は、記憶部42に記憶された受信データを参照し、送信回路38が送信パルス信号を出力してから受信回路40が受信パルス信号を出力するまでの伝搬時間tpを求める。
【0028】
図4には、図3に示される送信パルス信号に従って送信超音波パルスを送信した場合における受信パルス信号の例が示されている。横軸は時間を示し縦軸は振幅を示す。受信パルス信号は、複数の波打ちが時間軸上で連なった時間波形を有する。ただし、0レベルから増加して極大となり、その後、減少してゼロクロス点で正から負になり、負方向に増加して極小となり、その後、正方向に増加して次のゼロクロス点に至る時間波形を、「1つの波打ち」として定義する。ゼロクロス点は、受信パルス信号の振幅正負値が0となるその時間波形上の点である。また、以下の説明では、1つの波打ちの極大値をピーク値として定義する。
【0029】
受信パルス信号では、最初の波打ちから後の波打ちに向かうにつれてピーク値が大きくなり、所定数番目の波打ちより後にピーク値が一旦小さくなり、再び、後の波打ちに向かうにつれてピーク値が大きくなる。そして、最もピーク値が大きい波打ちより後の波打ちに向かうにつれてピーク値が小さくなる。図4に示されている例では、最初の波打ちから6番目の波打ちまでピーク値が大きくなり、7番目の波打ちでピーク値が一旦小さくなり、再び、後の波打ちに向かうにつれてピーク値が大きくなっている。図4には、最初に極大値(正のピーク)が現れる受信パルス信号が示されているが、最初に極小値(負のピーク)が現れる受信パルス信号が現れる場合もある。
【0030】
図2の伝搬時間測定部32は、記憶部42に記憶された受信データを参照し、次のような処理に従って、超音波パルスが受信された時間を求める。すなわち、伝搬時間測定部32は、受信パルス信号の上限包絡線の極小点に対応する正のピークよりも1つ前の正のピークが現れた探索ポイント時間を特定する。ここで、上限包絡線とは正のピークを結ぶ包絡線をいう。伝搬時間測定部32は、探索ポイント時間の直後のゼロクロス点(境界点)の時間である境界点時間tzを求める。
【0031】
伝搬時間測定部32は、境界点時間tzから送信パルス信号の位相が変化した時間t1(図3)を減算した伝搬時間tp(tz-t1)を求める。
【0032】
複数の極小点が上限包絡線に現れる場合には、伝搬時間測定部32は、次のような処理を実行してもよい。すなわち、伝搬時間測定部32は、上限包絡線の極小点の直前に現れた上限包絡線の極大点でのピーク値から、その極小点でのピーク値を減算した下り評価値と、上限包絡線の極小点の直後に現れた上限包絡線の極大点でのピーク値から、その極小点でのピーク値を減算した上り評価値の和である極小点深度を求める。極小点深度は、上限包絡線の極小点が現れる凹みの深さを表す評価値である。伝搬時間測定部32は、上限包絡線に現れる複数の極小点のうち、極小点深度が最も大きい極小点に対応する正のピークよりも1つ前の正のピークが現れた探索ポイント時間tcを特定する。そして、探索ポイント時間tcの直後のゼロクロス点の時間である境界点時間tzを求める。伝搬時間測定部32は、境界点時間tzから送信パルス信号の位相が変化した時間t1を減算した伝搬時間tp=(tz-t1)を求める。
【0033】
図5には複数の極小点が上限包絡線44に現れる受信パルス信号の例が模式的に示されている。上限包絡線44には2つの極小点BおよびDがある。上限包絡線44の極小点Bの直前に上限包絡線44に現れた極大点Aでのピーク値yaから、極小点Bでのピーク値ybを減算した下り評価値e1は、e1=ya-ybである。また、上限包絡線44の極小点Bの直後に上限包絡線44に現れた極大点Cでのピーク値ycから、極小点Bでのピーク値ybを減算した上り評価値f1は、f1=yc-ybである。したがって、極小点Bについての極小点深度dbは、db=e1+f1=(ya-yb)+(yc-yb)である。
【0034】
一方、上限包絡線44の極小点Dの直前に上限包絡線44に現れた極大点Cでのピーク値ycから、極小点Dでのピーク値ydを減算した下り評価値e2は、e2=yc-ydである。また、上限包絡線44の極小点Dの直後に上限包絡線44に現れた極大点Eでのピーク値yeから、極小点Dでのピーク値ydを減算した上り評価値f2は、f2=ye-ydである。したがって、極小点Dについての極小点深度ddは、dd=e2+f2=(yc-yd)+(ye-yd)である。
【0035】
図5に示されている受信パルス信号では、極小点深度dd=(yc-yd)+(ye-yd)の方が、極小点深度db=(ya-yb)+(yc-yb)よりも大きい。したがって、伝搬時間測定部32は、極小点Dに対応する正のピークよりも1つ前の正のピーク(極大点C)が現れた探索ポイント時間tcを特定する。そして、探索ポイント時間tcの直後のゼロクロス点の時間である境界点時間tzを求める。伝搬時間測定部32は、境界点時間tzから送信パルス信号の位相が変化した時間t1を減算した伝搬時間tp(tz-t1)を求める。
【0036】
このように、伝搬時間測定部32は、受信振動子18が受信する超音波パルスに基づき受信回路40から出力される受信信号としての受信パルス信号を取得し、受信超音波パルスに含まれる第1超音波の成分、および、受信超音波パルスに含まれる第2超音波の成分によって受信パルス信号の時間波形に形成される境界点を検出し、送信パルス信号が送信されたタイミングと境界点のタイミングとに基づいて濃度測定空間を超音波が伝搬する伝搬時間tpを求める。
【0037】
すなわち、気体濃度測定装置には、濃度測定空間に超音波を送信し、超音波が送信されたタイミングと、濃度測定空間を伝搬した超音波が受信されたタイミングとに基づいて、濃度測定空間を超音波が伝搬する時間を求める伝搬時間装置が構成されている。
【0038】
なお、上記では、受信パルス信号の正のピークおよび上限包絡線を用いて伝搬時間tpを求める処理について説明した。伝搬時間測定部32は、受信パルス信号の負のピークおよび下限包絡線を用いて伝搬時間tpを求めてもよい。ここで、下限包絡線とは負のピークを結ぶ包絡線をいう。この場合、伝搬時間測定部32は、受信パルス信号の下限包絡線の極大点に対応する負のピークよりも1つ前の負のピークが現れた探索ポイント時間tdを特定する。伝搬時間測定部32は、探索ポイント時間tdの直前のゼロクロス点(境界点)の時間である境界点時間tzを求める。
【0039】
また、複数の極大点が下限包絡線に現れる場合には、伝搬時間測定部32は、次のような処理を実行してもよい。すなわち、伝搬時間測定部32は、下限包絡線の極大点の直前に現れた下限包絡線の極小点での値(負のピーク値)を、その極大点での負のピーク値から減算した上り評価値と、下限包絡線の極大点の直後に現れた下限包絡線の極小点での負のピーク値を、その極大点での負のピーク値から減算した下り評価値の和である極大点深度を求める。極大点深度は、下限包絡線の極大点が現れる凹みの深さを表す評価値である。伝搬時間測定部32は、下限包絡線に現れる複数の極大点のうち、極大点深度が最も大きい極大点に対応する負のピークよりも1つ前の負のピークが現れた探索ポイント時間tdを特定する。そして、探索ポイント時間tdの直前のゼロクロス点の時間である境界点時間tzを求める。伝搬時間測定部32は、境界点時間tzから送信パルス信号の位相が変化した時間t1を減算した伝搬時間tp=(tz-t1)を求める。
【0040】
図2に戻って水素濃度の測定について説明する。記憶部42には伝搬距離d0が記憶されている。伝搬距離d0は、超音波が送信振動子16から筐体10の反射面24に至り、反射面24から受信振動子18に至る区間の距離を予め測定した値である。濃度測定部36は記憶部42から伝搬距離d0を読み込み、伝搬距離d0を伝搬時間tpで割ることで伝搬速度測定値vm(=d0/tp)を求める。また、濃度測定部36は、温度センサ26による検出値に基づいて温度測定値Tmを求める。濃度測定部36は、次の(数1)に基づいて水素濃度pを求める。
【0041】
【数1】
【0042】
ここで、kは気体の比熱比であり、Rは気体定数である。Mhは水素の分子量であり、Maは水素を含まない空気の分子量である。測定対象の空気の組成を窒素80%、酸素20%のみと仮定すれば、比熱比kは1.4としてよい。また、気体定数Rは8.31、水素の分子量Mhは2.0、空気の分子量Maは28.8である。上述のように伝搬速度測定値vmおよび温度測定値Tmは、濃度測定部36によって求められる。
【0043】
(数1)の右辺の各値は既知であるため、濃度測定部36は(数1)に従って水素濃度pを求める。プロセッサ28は、このように求められた水素濃度pをコネクタ22から外部のコンピュータに出力する。気体濃度測定装置が表示パネルを備えている場合には、プロセッサ28は表示パネルに水素濃度pを表示してもよい。
【0044】
上述のように本実施形態に係る気体濃度測定装置には超音波送信器が構成される。超音波送信器は、正相信号に基づいて生成される第1超音波を濃度測定空間に送信し、正相信号に続く逆相信号に基づいて生成される第2超音波を濃度測定空間に送信する送信部(送信回路および送信振動子16)を備える。第1超音波に続く第2超音波は、第1超音波に対して逆位相である。これによって、受信回路40から出力される受信パルス信号の上限包絡線には極小点が現れる。さらに、第1超音波に続く第2超音波は、その振幅が第1超音波の振幅と異なるため、このような極小点が顕著に現れる。したがって、上限包絡線の極小点を検出し、この極小点に対応する正のピークよりも1つ前の正のピークが現れた探索ポイント時間tcを特定し、探索ポイント時間tcの直後のゼロクロス点の時間である境界点時間tzを求める処理が可能となる。この処理は、包絡線に大きな変化がない超音波パルスが受信された時間を特定するよりも容易である。したがって、境界点時間tzの測定が高精度で行われ、さらには、伝搬時間tp、伝搬速度vmおよび水素濃度pの測定が高精度で行われる。
【0045】
また、第1超音波を濃度測定空間に送信し、第1超音波に時間的に続く逆位相の第2超音波を濃度測定空間に送信した場合、気体の密度、温度等の測定条件の変動が、境界点時間tzに及ぼす影響が小さいことが確かめられている。したがって、本実施形態に係る気体濃度測定装置によれば、測定条件の変化による測定誤差が抑制される。
【0046】
なお、上記では、送信振動子16と受信振動子18とが個別に設けられた構成について説明した。これらの超音波振動子は共通化してもよい。すなわち、1つの共通の超音波振動子が送信回路38および受信回路40に接続された構成を採用し、その超音波振動子が超音波パルスの送信および受信を行ってもよい。
【0047】
また、上記では、送信振動子16から筐体10の反射面24に超音波を送信し、筐体10の反射面24で反射した超音波を受信振動子18で受信する構造について説明した。このような構造の他、図6に示されているように、送信振動子16と受信振動子18とを対向させた構造を採用してもよい。この場合、送信振動子16から送信され筐体10内を伝搬した超音波が、受信振動子18で直接受信される。送信振動子16と受信振動子18とを直接結ぶ経路の距離が伝搬距離となる。
【0048】
上記では、気体濃度測定装置として、水素の濃度を測定する実施形態について説明した。気体濃度測定装置は、その他の気体の濃度を測定してもよい。この場合、(数1)における比熱比k、分子数等を測定対象の気体の値に置き換えた処理が実行される。
【符号の説明】
【0049】
10 筐体、12 回路基板、14 測定回路、16 送信振動子、18 受信振動子、20 通気孔、22 コネクタ、24 反射面、26 温度センサ、28 プロセッサ、30 送受信制御部、32 伝搬時間測定部、36 濃度測定部、38 送信回路、40 受信回路、42 記憶部、 44 上限包絡線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6