(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 5/10 20060101AFI20220121BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220121BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20220121BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20220121BHJP
B32B 38/18 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
B05D5/10
B05D7/24 302Y
B05D3/10 F
B05D3/12 Z
B32B38/18 D
(21)【出願番号】P 2017217110
(22)【出願日】2017-11-10
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】321011088
【氏名又は名称】シーカ・ハマタイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】阿部 愛美
(72)【発明者】
【氏名】松木 裕一
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-224914(JP,A)
【文献】特開2010-150373(JP,A)
【文献】特開平09-048863(JP,A)
【文献】特開2011-245743(JP,A)
【文献】特開2015-048471(JP,A)
【文献】特開平09-003221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B32B1/00-43/00
B29C71/04
C08J7/00-7/02
7/12-7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックの表面Aを乾式処理して、乾式処理された表面Bを有する乾式処理プラスチックを得る工程1と、
前記表面Bを、水及び極性溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤とシランカップリング剤とを含有する拭取用組成物を含んだ洗浄用具で拭き、前記洗浄用具で拭かれた表面Cを有する洗浄プラスチックを得る工程2と、
前記表面Cに、
ウレタン系接着剤及びプライマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を付与し、積層体を得る工程3とを有する、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記プラスチックが、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記乾式処理が、プラズマ処理、コロナ処理、フレーム処理、イトロ処理、紫外線処理及びエキシマ処理からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記工程2において、前記表面Bに対して25~0.25kPaの力を掛けて、前記洗浄用具で前記表面Bを拭く、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記拭取用組成物が、前記溶剤として水を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記シランカップリング剤が、アミン系シランカップリング剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記シランカップリング剤が、加水分解性シリル基と、アミノ基及びイミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する脂肪族炭化水素基とを有するシラン化合物、
前記シラン化合物の加水分解縮合物、並びに、
加水分解性シリル基と、アミノ基及びイミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種とを有し、主鎖として有機ポリマーを有する有機ポリマー型シランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記シランカップリング剤が、水溶性である、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記シランカップリング剤の含有量が、前記拭取用組成物全量に対して、0.01~30質量%である、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記表面Bのぬれ張力が、39mN/m以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記表面Cのぬれ張力が、34mN/m以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記表面Bのぬれ張力が、65mN/mを超える、請求項1~11のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
前記表面Cのぬれ張力が、45mN/mを超える、請求項12に記載の積層体の製造方法。
【請求項14】
前記工程1において、重合性モノマーを使用しない、請求項1~13のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックと接着剤との接着性を高めるために、プラスチックをプラズマ処理などの乾式処理によって表面処理し、プラスチックの表面を親水化させることが知られている(例えば非特許文献1)。
また、乾式処理後のプラスチックにおいては、接着性の低下を防ぐため、一般的に、乾式処理後の表面を洗浄しない、又は、上記表面に接触しないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】「接着の技術」、vol.36 No.3 (2016) 通巻124号 〔24〕~〔28〕 平成28年12月末日発行、発行所 一般社団法人 日本接着学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようななか、本発明者らは非特許文献1を参考にして、プラズマ処理されたポリオレフィンと接着剤との積層体を評価したところ、このような積層体は接着性が低い場合があることが明らかとなった。
そこで、本発明は接着性に優れる積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、乾式処理されたプラスチックの表面を水及び極性溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤とシランカップリング剤とを含有する拭取用組成物を含んだ洗浄用具で拭くことによって、所望の効果が得られることを見出し、本発明に至った。
本発明は上記知見等に基づくものであり、具体的には以下の構成により上記課題を解決するものである。
【0006】
1. プラスチックの表面Aを乾式処理して、乾式処理された表面Bを有する乾式処理プラスチックを得る工程1と、
上記表面Bを、水及び極性溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤とシランカップリング剤とを含有する拭取用組成物を含んだ洗浄用具で拭き、上記洗浄用具で拭かれた表面Cを有する洗浄プラスチックを得る工程2と、
上記表面Cに、接着剤及びプライマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を付与し、積層体を得る工程3とを有する、積層体の製造方法。
2. 上記プラスチックが、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記1に記載の積層体の製造方法。
3. 上記乾式処理が、プラズマ処理、コロナ処理、フレーム処理、イトロ処理、紫外線処理及びエキシマ処理からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記1又は2に記載の積層体の製造方法。
4. 上記工程2において、上記表面Bに対して25~0.25kPaの力を掛けて、上記洗浄用具で上記表面Bを拭く、上記1~3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
5. 上記拭取用組成物が上記溶剤として水を含む、上記1~4のいずれかに記載の積層体の製造方法。
6. 上記シランカップリング剤が、アミン系シランカップリング剤である、上記1~5のいずれかに記載の積層体の製造方法。
7. 上記シランカップリング剤が、加水分解性シリル基と、アミノ基及びイミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する脂肪族炭化水素基とを有するシラン化合物、
上記シラン化合物の加水分解縮合物、並びに、
加水分解性シリル基と、アミノ基及びイミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種とを有し、主鎖として有機ポリマーを有する有機ポリマー型シランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記1~6のいずれかに記載の積層体の製造方法。
8. 上記シランカップリング剤が、水溶性である、上記1~7のいずれかに記載の積層体の製造方法。
9. 上記シランカップリング剤の含有量が、上記拭取用組成物全量に対して、0.01~30質量%である、上記1~8のいずれかに記載の積層体の製造方法。
10. 上記表面Bのぬれ張力が、39mN/m以上である、上記1~9のいずれかに記載の積層体の製造方法。
11. 上記表面Cのぬれ張力が、34mN/m以上である、上記1~10のいずれかに記載の積層体の製造方法。
12. 上記表面Bのぬれ張力が、65mN/mを超える、上記1~11のいずれかに記載の積層体の製造方法。
13. 上記表面Cのぬれ張力が、45mN/mを超える、上記12に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層体の製造方法によれば、接着性に優れる積層体を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について以下詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、使用される各成分はその成分に該当する物質をそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。成分が2種以上の物質を含む場合、成分の含有量は、2種以上の物質の合計の含有量を意味する。
また、本明細書において、使用される各成分はその製造方法について特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0009】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体の製造方法(本発明の製造方法)は、
プラスチックの表面Aを乾式処理して、乾式処理された表面Bを有する乾式処理プラスチックを得る工程1と、
上記表面Bを、水及び極性溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤とシランカップリング剤とを含有する拭取用組成物を含んだ洗浄用具で拭き、上記洗浄用具で拭かれた表面Cを有する洗浄プラスチックを得る工程2と、
上記表面Cに、接着剤及びプライマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を付与し、積層体を得る工程3とを有する、積層体の製造方法である。
なお、本明細書において、上記「水及び極性溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤」を単に「溶剤」と称する場合がある。
【0010】
本発明の組成物はこのような構成をとるため、所望の効果が得られるものと考えられる。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
一般的に、プラスチックにプラズマ処理のような乾式処理をすると、上記プラスチックの表面において、例えば酸素原子等を有する親水性基が発生する。また、上記の親水性基の発生とともに、プラスチックを構成するポリマーの鎖が切断される場合がある。
親水性を多く発生させるためプラスチックに上記乾式処理が過剰に施されると、プラスチックの表面のポリマーの切断も多くなり、その結果、プラスチックの最表面のポリマーが短く切断され、分子鎖が短いポリマー(短ポリマー)が発生する。上記短ポリマーが多く発生すると短ポリマーの層(短ポリマー層)がプラスチックの少なくとも一部を覆うと考えられる。短ポリマー層は極薄い層と考えられる。
このようにプラスチックに乾式処理が(過剰に)施されると、上記プラスチックは、最表面における上記短ポリマー層と、上記短ポリマー層の下に、親水化され且つ分子鎖が長いままのポリマーの層(適正処理部)とを有すると考えられる。
【0011】
ここで、上記短ポリマーは乾式処理による親水性基を有するため(上記短ポリマーは上記親水性基を比較的多く有する場合がある。)、乾式処理されたプラスチックに接着剤等を付与すれば、プラスチックと接着剤等とは接着しやすいと考えられる。
しかし、乾式処理されたプラスチックと接着剤等との接着性は低い場合があることが明らかとなった(本明細書の比較例1-1、2-1参照)。
【0012】
これは、表面に上記短ポリマーを有するプラスチックに接着剤等を付与して積層体を形成すると、上記積層体において、上記接着剤等は、上記短ポリマーと反応できるものの、上記短ポリマー層の下にある、親水化され且つ分子鎖が長いままのポリマーの層(本質的に基材となり得る層)とは反応しにくいためと考えられる。
このように、上記接着剤等は親水化され且つ分子鎖が長いままのポリマーの層と反応しにくく、短ポリマーは切断前のポリマーと比較してポリマーの絡みが少ないため、上記接着剤等は上記親水化され且つ分子鎖が長いままのポリマーの層と短ポリマー層の境界から剥離しやすいのではないかと本発明者らは推測する。
【0013】
これに対して、本発明の製造方法では、工程2において、乾式処理プラスチックの表面Bを、上記溶剤とシランカップリング剤とを含有する拭取用組成物を含んだ洗浄用具で拭くことによって、短ポリマーを表面Bから除去できると考えらえる。
これは、上記拭取用組成物が短ポリマーを溶解し得る、及び/又は、表面Bを上記洗浄用具で拭くことによって表面Bに物理的な力が加わり、短ポリマーが表面Bから拭取られるためと考えられる。
そして、上記洗浄用具の洗浄用具で拭かれた後の洗浄プラスチックの表面Cには、親水化され且つ分子鎖が長いままのポリマーおよび上記ポリマーに付着したシランカップリング剤が存在すると考えられる。
上記のように表面Cに親水化され且つ分子鎖が長いままのポリマーおよび上記ポリマーに付着したシランカップリング剤があり、接着剤等が表面Cと直接またはシランカップリング剤を介して反応できることによって、本発明の製造方法で製造される積層体は接着性に優れると考えられる。
以下、本発明の組成物に含有される各成分について詳述する。
【0014】
<<工程1>>
工程1は、プラスチックの表面Aを乾式処理して、乾式処理された表面Bを有する乾式処理プラスチックを得る工程である。
【0015】
<プラスチック>
工程1において使用されるプラスチックは特に制限されない。
プラスチックとしては、例えば、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アセテート樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂が挙げられる。
なかでも、ポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンは特に制限されない。例えば、ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレンプロピレン共重合体;ノルボルネン類を開環重合し、水素添加して得られる重合体のようなシクロオレフィンポリマー(COP);テトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンとの共重合体のようなシクロオレフィンコポリマー(COC)が挙げられる。
プラスチックは、例えば、難接着性樹脂であってもよい。
【0016】
上記プラスチックは、更に、添加剤を含有することができる。添加剤は、樹脂に配合できるものであれば特に制限されない。添加剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、白色充填剤(例えば、タルク)のような充填剤が挙げられる。
【0017】
<乾式処理>
工程1において上記プラスチックの表面Aに施される乾式処理は特に制限されない。例えば、プラズマ処理、コロナ処理、フレーム処理、イトロ処理、紫外線(UV)処理及びエキシマ処理が挙げられる。
なかでも、プラズマ処理が好ましい態様の1つとして挙げられる。プラズマ処理は特に制限されない。
乾式処理に使用される原料ガスとしては、例えば、酸素、窒素、空気が挙げられる。原料ガスは乾燥されていてもよい。
【0018】
乾式処理によって、プラスチックに親水性基を付与することができる。親水性基としては、例えば、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、カルボニル基、エーテル結合のような酸素原子含有基;アミノ基、イミノ基のような窒素原子含有基が挙げられる。
上記プラスチックの片面又は両面を乾式処理してもよい。
【0019】
<乾式処理プラスチック>
工程1において、乾式処理後、乾式処理プラスチックが得られる。乾式処理プラスチックは、乾式処理された表面Bを有する。
・表面Bのぬれ張力
表面Bのぬれ張力は、通常、34mN/m以上であればよく、39mN/m以上とできる。表面Bのぬれ張力の上限は特に制限されないが、73mN/m以下であってもよい。
【0020】
ただし、上記乾式処理の程度等によって、上記表面Bは、適性処理を越えた過剰処理領域となることがある。表面Bのぬれ張力が大きいほど、乾式処理によるプラスチック表面の損傷(例えば、上記の短ポリマーの発生)が大きくなると考えられる。
本発明において、表面Bのぬれ張力が65mN/mを超える場合、表面Bが過剰処理の状態である(過剰処理領域に該当する)ものとする。
【0021】
本発明において、基材(の表面A、B又はC)のぬれ張力は、JIS K6768:1999「プラスチック-フィルム及びシート-ぬれ張力試験方法」に準じて室温条件下で測定された。試験用混合液としてぬれ張力試験用混合液(和光純薬製)が使用された。
なお、上記測定方法によって測定可能なぬれ張力の上限は73.0mN/mである。
このため、本発明において、ぬれ張力の測定値が73mN/mであった場合、そのぬれ張力は73mN/m以上であることを意味する。
【0022】
<<工程2>>
工程2は、上記表面Bを、水及び極性溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤とシランカップリング剤とを含有する拭取用組成物を含んだ洗浄用具で拭き、上記洗浄用具で拭かれた表面Cを有する洗浄プラスチックを得る工程である。
なお、本発明において、「拭取用組成物を含んだ洗浄用具」を以下単に「洗浄用具」と称する場合がある。また、上記拭取用組成物を含ませるために使用される基剤を「洗浄基材」と称する。
【0023】
<洗浄用具>
工程2において、乾式処理プラスチックの表面Bを拭くために、拭取用組成物を含んだ洗浄用具が使用される。
【0024】
上記洗浄用具において、拭取用組成物の含有量は、上記洗浄用具全体に対して、10~95質量%が好ましく、80~95質量%がより好ましい。
【0025】
<洗浄基材>
拭取用組成物を含ませるために使用される洗浄基材は特に制限されない。
上記洗浄基材としては、例えば、布、紙、スポンジが挙げられる。
上記洗浄基材の材質としては、例えば、セルロース、ポリアミド、ポリエステル、メラミンが挙げられる。
上記布の形態としては、例えば、不織布、織布が挙げられる。
洗浄基材から、ローラー、刷毛を除くことが好ましい態様として挙げられる。
【0026】
<拭取用組成物>
拭取用組成物は、水及び極性溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤とシランカップリング剤とを含有する。
【0027】
(溶剤)
上記拭取用組成物に含有される溶剤は、水及び極性溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0028】
・水
上記水は特に制限されない。例えば、蒸留水が挙げられる。
【0029】
・極性溶剤
上記極性溶剤は特に制限されない。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールのようなアルコール;アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン;酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルのようなエーテル化合物;ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0030】
上記溶剤は、接着性により優れるという観点から、少なくとも水を含むことが好ましく、水のみであることがより好ましい。
【0031】
水と極性溶剤とを併用する場合、水に対する極性溶剤の質量比(極性溶剤/水)は、接着性により優れるという観点から、0.1~99質量%が好ましく、0.1~50質量%がより好ましい。
【0032】
(シランカップリング剤)
拭取用組成物に含有されるシランカップリング剤は、加水分解性シリル基又はシラノール基と、官能基とを有する化合物であれば特に制限されない。
【0033】
・加水分解性シリル基
シランカップリング剤が有する加水分解性シリル基としては、例えば、アルコキシシリル基が挙げられる。1個のケイ素原子に結合するアルコキシ基の数は、2個又は3個であるのが好ましい。上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。
1個のケイ素原子に結合するアルコキシ基の数が2個以下である場合、ケイ素原子に結合できる炭化水素基は特に制限されない。例えば、アルキル基、フェニル基が挙げられる。
【0034】
・シラノール基
シラノール基は、ケイ素原子にOH基が結合したものであればよい。シラノール基は、例えば、上記加水分解性シリル基が加水分解したものであってもよい。
シランカップリング剤は、上記加水分解性シリル基又はシラノール基を、1分子中、1個又は複数有することができる。
【0035】
・官能基
シランカップリング剤が有する官能基としては例えば、アミノ基、イミノ基(-NH-)、エポキシ基、ヒドロキシ基が挙げられる。なかでもアミノ基、イミノ基が好ましい。
なお、後述する加水分解縮合物がエポキシ基を有する場合、上記エポキシ基は少なくとも一部又は全部が加水分解されていてもよい。加水分解されたエポキシ基は、ヒドロキシ基を形成できる。
シランカップリング剤は、上記官能基を、1分子中、1個又は複数有することができる。
シランカップリング剤は、官能基としてアミノ基及び/又はイミノ基を有するアミン系シランカップリング剤が好ましい。
【0036】
シランカップリング剤において、加水分解性シリル基又はシラノール基は有機基又はポリシロキサンと結合できる。官能基も同様である。
加水分解性シリル基又はシラノール基は連結基として有機基又はポリシロキサンを介して官能基と結合してもよい。
・有機基
上記有機基は特に制限されない。例えば、炭化水素基が挙げられる。具体的には例えば、脂肪族炭化水素基(直鎖状、分岐状、環状、又は、これらの組合せを含む。)が挙げられる。
有機基は、例えば、後述する、シラン化合物の骨格;シラン化合物の加水分解縮合物における主鎖(ポリシロキサン骨格)と官能基との連結基;有機ポリマー型シランカップリング剤の主鎖又は側鎖を形成できる。
なお、本明細書において、官能基としてのイミノ基が有機基としての炭化水素基に結合するとは、上記炭化水素基の任意の炭素原子がイミノ基を形成する窒素原子に置き換わることを意味する。
また、本明細書において、ジアミノアルキル基は、1つのアルキル基(脂肪族炭化水素基)を構成する炭素原子及び水素原子のうちの任意の2個を窒素原子に置換した基、又は、アルキル基(脂肪族炭化水素基)を構成する水素原子又は炭素原子の任意の1個を窒素原子に置換した基が2つあることを意味する。
【0037】
上記シランカップリング剤としては、例えば、低分子化合物(シラン化合物)、
低分子化合物の加水分解縮合物、及び、
主鎖として有機ポリマーを有する化合物(有機ポリマー型シランカップリング剤)が挙げられる。
【0038】
・シラン化合物
上記シランカップリング剤が低分子化合物(例えば、ケイ素原子及び有機基がモノマー単位)である場合、これを「シラン化合物」と称する場合がある。
シラン化合物は1分子あたり、1個又は複数のケイ素原子を有することができる。なお、シラン化合物が複数のケイ素原子を有する場合、上記複数のケイ素原子はポリシロキサン骨格((-Si-O-)で表される繰り返し単位を複数有するポリマー)を形成しない。
シラン化合物は、官能基(例えば、アミノ基、イミノ基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種)が、有機基としての脂肪族炭化水素基に結合することが好ましい。
上記シラン化合物としては、例えば、アミノシラン化合物(官能基としてアミノ基及び/又はイミノ基を有するシラン化合物)、エポキシシラン化合物(官能基としてエポキシ基を有するシラン化合物)が挙げられる。
【0039】
・加水分解縮合物(ポリシロキサン型シランカップリング剤)
本発明において、上記シラン化合物の加水分解縮合物(加水分解性シリル基又はシラノール基と、官能基とを有する、ポリシロキサン型シランカップリング剤)を単に「加水分解縮合物」と称する場合がある。
シラン化合物が加水分解縮合することによって、ポリシロキサン骨格((-Si-O-)で表される繰り返し単位を複数有するポリマー)が形成される。
上記加水分解縮合物はオリゴマーであってもよい。
上記加水分解縮合物において、加水分解性シリル基又はシラノール基は、ポリシロキサン骨格に結合できる。
上記加水分解縮合物において、官能基は、直接又は有機基を介してポリシロキサン骨格に結合できる。官能基(例えば、アミノ基、イミノ基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種)は、有機基としての脂肪族炭化水素基を介してポリシロキサン骨格に結合することが好ましい。
上記ポリシロキサン骨格を構成するケイ素原子に更に例えば、アルキル基、フェニル基が結合してもよい。
上記加水分解縮合物として、例えば、アミノシラン化合物及び/又はエポキシシラン化合物の加水分解縮合物が挙げられる。具体的には例えば、アミノシランオリゴマー、エポキシシランオリゴマーが挙げられる。
本明細書において、アミノシランオリゴマーはアミノシラン化合物のオリゴマー(加水分解縮合物)を意味する。エポキシシランオリゴマーはエポキシシラン化合物のオリゴマー(加水分解縮合物)を意味する。
【0040】
・有機ポリマー型シランカップリング剤
本発明において、加水分解性シリル基又はシラノール基と官能基とを有し、主鎖として有機ポリマーを有するシランカップリング剤を「有機ポリマー型シランカップリング剤」と称する場合がある。
上記有機ポリマー型シランカップリング剤において、加水分解性シリル基又はシラノール基と官能基とは、主鎖である有機ポリマーに結合できる。上記有機ポリマー(主鎖)は、炭素を含む有機物で形成される重合体であればよい。
シランカップリング剤が有機ポリマー型シランカップリング剤である場合、官能基は、主鎖に直接又は有機基を介して結合することができる。加水分解性シリル基又はシラノール基も同様である。
【0041】
シランカップリング剤は、アミノシラン化合物、エポキシシラン化合物、これらの加水分解縮合物(ポリシロキサン型シランカップリング剤)、官能基としてアミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ポリマー型シランカップリング剤が好ましく、アミノシラン化合物、その加水分解縮合物、官能基としてアミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ポリマー型シランカップリング剤がより好ましい。
【0042】
・アミノシラン化合物
アミノシラン化合物としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシランのような、1個のアミノ基を有する脂肪族炭化水素基を有するアミノシラン化合物;
ジ(アミノアルキル)アルコキシシラン;
ジ(アミノ)アルキルアルコキシシラン;
2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランのような、アミノ基及びイミノ基をそれぞれ1個有する脂肪族炭化水素基を有する(アミノ・イミノ)アルキルシラン化合物;
N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランのような、1個のイミノ基を有する肪族炭化水素基を有するアミノシラン化合物が挙げられる。
【0043】
・アミノシラン化合物の加水分解縮合物
アミノシラン化合物の加水分解縮合物としては、例えば、アミノ基及び/又はイミノ基を有する脂肪族炭化水素基を有するポリシロキサンが挙げられる。上記脂肪族炭化水素基はケイ素原子に結合できる。
上記加水分解縮合物は更にアルキル基を有することができる。上記アルキル基はケイ素原子に結合できる。
アミノシラン化合物の加水分解縮合物が有するアミノ基又はイミノ基は、蟻酸のようなカルボン酸と塩を形成してもよい。
【0044】
・エポキシシラン化合物
エポキシシラン化合物としては例えば、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられる。
【0045】
・エポキシシラン化合物の加水分解縮合物
エポキシシラン化合物の加水分解縮合物としては、例えば、エポキシ基を有するポリシロキサンが挙げられる。エポキシ基は主鎖(ポリシロキサン)と有機基(例えば脂肪族炭化水素基)を介してケイ素原子に結合できる。
上記加水分解縮合物は更にアルキル基を有することができる。上記アルキル基はケイ素原子に結合できる。
エポキシシラン化合物の加水分解縮合物において、一部又は全部のエポキシ基が加水分解されていてもよい。
【0046】
シランカップリング剤は、接着性により優れるという観点から、水溶性(水性)であることが好ましい。
【0047】
・シランカップリング剤の含有量
シランカップリング剤の含有量は、接着性により優れるという観点から、上記拭取用組成物全量に対して、0.01~30質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、0.5~3質量%が更に好ましい。
なお、シランカップリング剤が分散媒を含有する分散体である場合、上記シランカップリング剤の含有量は、分散体中のシランカップリング剤の固形分(正味のシランカップリング剤)の量を意味する。上記分散媒は上記溶剤と同じであってもよい。
【0048】
(拭取用組成物の調製方法)
上記拭取用組成物の調製方法としては、例えば、溶剤とシランカップリング剤とを混合することによって、拭取用組成物を調製できる。
シランカップリング剤が分散体である場合、上記シランカップリング剤に上記溶剤を加えて拭取用組成物を調製することができる。上記溶剤は上記分散媒と同じ種類であることが好ましい。
拭取用組成物は、溶剤及びシランカップリング剤のみを含有することが好ましく、水及びシランカップリング剤のみを含有することがより好ましい。
【0049】
(洗浄用具の調製方法)
上記洗浄用具の調製方法としては、例えば、上記洗浄基材を上記拭取用組成物に浸漬させ、上記拭取用組成物を含んだ洗浄用具を上記拭取用組成物から引き上げ、引き上げられた洗浄用具を絞ることによって、上記洗浄用具を調製できる。
上記洗浄用具は、上記洗浄基材に上記拭取用組成物が浸み込んだ状態であればよい。
【0050】
<拭く>
上記洗浄用具で表面Bを拭く際、上記洗浄用具は、例えば、広げた状態若しくは折った状態で、又は、1つ若しくは複数の洗浄用具を重ねた状態で、使用することができる。
また、表面Bの上で上記洗浄用具を、例えば、往復させてもよいが、1回拭くのが好ましい。
【0051】
工程2において、表面Bに対して(例えば垂直方向に)、25~0.25kPaの力(圧力)を掛けて、上記洗浄用具で表面Bを拭くことが好ましい。上記力は、13.5~1.0kPaがより好ましい。
上記力は、電子天秤(商品名BX 4200H、島津製作所社製)上に乾式処理プラスチックを乗せて、ゼロ点調整し、洗浄用具で乾式処理プラスチックの表面を拭き、その際、乾式処理プラスチックにかかった荷重を測定した。なお、1kgfを9.8Nとする。
1回拭いたときの荷重、又は、複数回拭いた若しくは往復させた場合は上記測定の平均値を、乾式処理プラスチックに接触した洗浄用具の面積で割り、上記力を算出した。
【0052】
(洗浄プラスチック)
工程2において、上記洗浄用具で拭かれた表面Cを有する洗浄プラスチックを得ることができる。
上記洗浄用具で拭かれた後、表面Cに残った、拭取用組成物を乾燥させてもよい。乾燥方法は特に制限されない。例えば、自然乾燥が挙げられる。
【0053】
(表面Cのぬれ張力)
上記表面Cのぬれ張力は、34mN/m以上が好ましい。
上記表面Cのぬれ張力は、上記表面Bのぬれ張力よりも小さいことが好ましい。
【0054】
・表面Bのぬれ張力が65mN/mを超える場合の表面Cのぬれ張力
上記表面Bのぬれ張力が65mN/mを超える場合、上記表面Cのぬれ張力は、上記表面Bのぬれ張力と同等又はそれ未満となることができる。また、この場合、上記表面Cのぬれ張力は、45mN/mを超えることが好ましい。
【0055】
・表面Bのぬれ張力が65mN/m以下の場合の表面Cのぬれ張力
上記表面Bのぬれ張力が65mN/m以下である場合、上記表面Cのぬれ張力は、34mN/m以上65mN/m以下又は未満であればよく、34mN/m以上60mN/m以下又は50mN/m未満とできる。
【0056】
・表面Bのぬれ張力から表面Cのぬれ張力への下がり幅
表面Bのぬれ張力から表面Cのぬれ張力への下がり幅は、0mN/m以上(又は0mN/m超)15mN/m以下であることが好ましい。
なお、表面Bのぬれ張力から表面Cのぬれ張力への下がり幅は、表面Bのぬれ張力から表面Cのぬれ張力への差(表面Bのぬれ張力-表面Cのぬれ張力)を意味する。
また、本発明において、表面Bのぬれ張力の測定結果が73mN/mであった場合、これは上記のとおり73mN/m以上であることを意味する。しかし、上記下がり幅の算出の際には、上記表面Bのぬれ張力を一律に73mN/mとした。表面Cについても同様である。このため、表面B及びCのぬれ張力の測定結果が73mN/mであった場合、上記下がり幅は0mN/mとなる。
【0057】
<<工程3>>
工程3は、上記洗浄プラスチックの表面Cに、接着剤及びプライマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を付与し、積層体を得る工程である。
上記表面Cに接着剤を付与することが好ましい態様の1つとして挙げられる。
上記工程2で使用される拭取用組成物は接着剤を含まないことが好ましい態様として挙げられる。上記プライマーについても同様である。
【0058】
(接着剤)
工程3において使用されうる接着剤は特に制限されない。例えば、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、変性シリコーン系接着剤が挙げられる。
なかでも、ウレタン系接着剤が好ましい態様の1つとして挙げられる。
ウレタン系接着剤は特に制限されない。例えば、ウレタンプレポリマーを含有する組成物、ウレタンプレポリマーとポリオールとを有する組成物が挙げられる。
【0059】
・ウレタンプレポリマー
ウレタンプレポリマーは、1分子内に複数のイソシアネート基を有するポリマーである。ウレタンプレポリマーは、イソシアネート基を分子末端に有するのが好ましい。ウレタンプレポリマーとしては、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリイソシアネート化合物と1分子中に2個以上の活性水素含有基を有する化合物(以下、「活性水素化合物」と略す。)とを、活性水素含有基に対してイソシアネート基が過剰となるように反応させることにより得られる反応生成物等を用いることができる。
本発明において、活性水素含有基は活性水素を含有する基を意味する。活性水素含有基としては例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基が挙げられる。
【0060】
(ポリイソシアネート化合物)
ウレタンプレポリマーの製造の際に使用されるポリイソシアネート化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有するものであれば特に限定されない。
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI。例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI。例えば、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート)、1,4-フェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネートのような芳香族ポリイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)のような、脂肪族及び/又は脂環式のポリイソシアネート;これらのカルボジイミド変性ポリイソシアネート;これらのイソシアヌレート変性ポリイソシアネートが挙げられる。
【0061】
(活性水素化合物)
ウレタンプレポリマーの製造の際に使用される1分子中に2個以上の活性水素含有基を有する化合物(活性水素化合物)は特に限定されない。活性水素含有基としては、例えば、水酸(OH)基、アミノ基、イミノ基が挙げられる。
【0062】
上記活性水素化合物としては、例えば、1分子中に2個以上の水酸(OH)基を有するポリオール化合物、1分子中に2個以上のアミノ基および/またはイミノ基を有するポリアミン化合物等が好適に挙げられ、中でも、ポリオール化合物であるのが好ましい。
【0063】
上記ポリオール化合物は、OH基を2個以上有する化合物であれば、その分子量および骨格などは特に限定されず、その具体例としては、ポリエーテルポリオール;ポリエステルポリオール;アクリルポリオール、ポリブタジエンジオール、水素添加されたポリブタジエンポリオールなどの炭素-炭素結合を主鎖骨格に有するポリマーポリオール;低分子多価アルコール類;これらの混合ポリオールが挙げられる。なかでも、ポリエーテルポリオールが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0064】
ウレタンプレポリマーは、接着性により優れ、硬化性に優れるという観点から、ポリエーテルポリオールと芳香族ポリイソシアネート化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマーであるのが好ましい。
ウレタンプレポリマーの製造方法は特に制限されない。例えば、活性水素化合物が有する活性水素含有基(例えばヒドロキシ基)1モルに対し、1.5~2.5モルのイソシアネート基が反応するようにポリイソシアネート化合物を使用し、これらを混合して反応させることによってウレタンプレポリマーを製造することができる。
ウレタンプレポリマーはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
上記ウレタン系接着剤がウレタンプレポリマーの他に更に例えば、ポリオールを含有する場合、更に含有できるポリオールとしては、例えば、上記ウレタンプレポリマーを製造する際に使用されるポリオール化合物と同様のものが挙げられる。
【0066】
(プライマー)
工程3において使用されうるプライマーの有無および種類は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。具体的には、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂を含有する組成物が挙げられる。プライマーは、接着剤及び/又は基材(プラスチック)に応じて選択できる。
【0067】
(積層体)
工程3において、表面Cに、接着剤及びプライマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を付与し、積層体を得ることができる。
上記付与の方法は特に制限されない。例えば、従来公知の塗布の方法が挙げられる。
【0068】
また、上記付与後、室温又は加熱条件下において、接着剤を硬化させる又はプライマーを乾燥させることができる。温度条件は、使用される接着剤又はプライマーによって適宜決定できる。
【0069】
上記積層体は、上記洗浄プラスチックと、接着剤及びプライマーからなる群から選ばれる少なくとも1種で形成される層とを有する。
【0070】
また、上記積層体は、少なくとも接着剤を含む層の上に、更に、別の基材を有することができる。
上記別の基材としては、例えば、ガラス、ゴム、プラスチック及び金属が挙げられる。
上記別の基材が乾式処理がなされたプラスチックである場合、別の基材としての乾式処理がなされたプラスチックに、接着性により優れるという観点から、上記工程2の処理を施すことが好ましい。
上記少なくとも接着剤を含む層としては、例えば、接着剤だけの1層;接着剤及びプライマーの2層を有する層;プライマー、接着剤及びプライマーの3層を有する層が挙げられる。
【0071】
更に別の基材を有する積層体としては、例えば、2つの上記洗浄プラスチック(以下これを「2つのプラスチック」と称する場合がある。)の間に、上記少なくとも接着剤を含む層を有する積層体が挙げられる。
【0072】
上記2つのプラスチックの間に、上記少なくとも接着剤を含む層を有する積層体の製造方法としては、例えば、上記工程1及び上記工程2にしたがって、上記2つのプラスチックをそれぞれ作成し(上記2つのプラスチックは同一でも異なってもよい。)、上記工程3に従って、上記2つのプラスチックの少なくとも一方に少なくとも接着剤を付与する。次に、上記工程3の後、更に、工程4において、上記接着剤を付与した洗浄プラスチックと残りの洗浄プラスチックとを貼り合せることによって、上記2つのプラスチックの間に、上記少なくとも接着剤を含む層を有する積層体を製造することができる。
上記貼り合せのあとに、室温又は加熱条件下において、接着剤を硬化させることができる。
【0073】
本発明の製造方法は、例えば、自動車部品の組み立てなどに適用することができる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
【0075】
<拭取用組成物の調製>
下記第1表の各実施例及び比較例の欄に示す、溶剤とシランカップリング剤とを、正味のシランカップリング剤の含有量が、各拭取用組成物全量に対して、同表に示す「シランカップリング剤の含有量」となるように混合し、拭取用組成物を調製した。
なお、第1表の「溶剤」欄に記載された、蒸留水以外の有機溶剤は市販品である。
【0076】
[実施例1-1~14、比較例1-1~8、実施例2-1~15、比較例2-1~7]
<工程1>
各実施例用に、基材(プラスチック)として、タルク入り複合ポリプロピレン(商品名 ダイセルPP PP複合樹脂 PT4N1、ダイセルポリマー社製。縦12cm、横、2.5cm、厚さ3mm)を6枚用意した。
上記基材に対して、プラズマ処理装置として、商品名FG3001(放射ノズル RD1004)、プラズマトリート社製を用いて、以下のプラズマ処理条件で、それぞれプラズマ処理を行い、プラズマ処理プラスチックを得た。
【0077】
(プラズマ処理条件)
プラズマ処理条件は、以下のとおりである。
・上記基材と放射ノズルとの距離:5mm
・処理速度:80mm/秒
・パス回数:1パス
・装置出力:21万kHz
・原料ガス:ドライエア
【0078】
(プラズマ処理プラスチックの表面Bのぬれ張力)
各プラズマ処理プラスチックの表面Bのぬれ張力を、JIS K6768:1999「プラスチック-フィルム及びシート-ぬれ張力試験方法」に準じて室温条件下で測定した。試験用混合液としてぬれ張力試験用混合液(和光純薬製)を用いた。
各プラズマ処理プラスチックのぬれ張力が、65mN/mを超えることを確認した。
なお、第1表において、表面Bのぬれ張力「73mN/m」は、表面Bのぬれ張力が73mN/m以上であることを意味する。
【0079】
<工程2>
(洗浄用具の調製)
洗浄基材として、商品名ベンコット(旭化成社製。キュプラ連続長繊維不織布。1枚当たりの重さ0.6g)を用いた。
上記洗浄基材を上記のとおり調製された各拭取用組成物に浸漬させ、上記組成物から拭取用組成物を含んだ洗浄用具を引き上げて、引き上げられた洗浄用具を絞った。
上記洗浄用具の重さは、1枚当たり4.5~3.0gであった。
【0080】
(洗浄用具を用いた処理)
上記のプラズマ処理プラスチックの表面Bを、上記表面に対して7.5kPaの力を掛けながら、上記のとおり調製した各洗浄用具1枚で、片道で1回拭いて、洗浄プラスチックを得た。
比較例1-1、比較例2-1において、プラズマ処理プラスチックは洗浄用具で拭かれていない。
比較例1-2、比較例2-2では、プラズマ処理プラスチックを、洗浄用具で拭く代わりに、水に浸漬させ、上記浸漬後、水から取出し、空気乾燥した。
【0081】
(表面Cのぬれ張力)
上記のとおり得られた各洗浄プラスチックの表面Cのぬれ張力を、上記と同様の方法で測定した。結果(6枚の洗浄プラスチックのぬれ張力の平均値)を第1表に示す。
なお、第1表において、表面Cのぬれ張力「73mN/m」は、表面Cのぬれ張力が73mN/m以上であることを意味する。
【0082】
<工程3>
【0083】
(接着剤1)
接着剤1として、2液型ウレタン系接着剤(ウレタンプレポリマーを含む主剤:WS-222、ポリオール系の硬化剤:B-1。いずれも横浜ゴム社製。)を用いた。上記主剤:上記硬化剤(質量比)を10:1で使用し、これらを混合して接着剤1として使用した。
【0084】
(接着剤2)
接着剤2として、2液型ウレタン系接着剤(ウレタンプレポリマーを含む主剤:WS-242、ポリオール系の硬化剤:AN-1。いずれも横浜ゴム社製。)を用いた。上記主剤:上記硬化剤(質量比)を10:1で使用し、これらを混合して接着剤2として使用した。
【0085】
(積層体)
各実施例に上記6枚の洗浄プラスチックを2枚一組で使用し、3個の積層体を製造した。
各積層体に使用される2枚の洗浄プラスチックのうち、1枚の洗浄プラスチックの表面Cに上記接着剤を塗布した。
上記接着剤を塗布した洗浄プラスチックに、もう1枚の洗浄プラスチックを重ねた。詳細には、2枚の洗浄プラスチックにおいて表面Cが対向し、両方の洗浄プラスチックが長手方向に互いに1cm重なるよう、貼り合せた(貼り合せ後の接着剤の厚さは3mm)。上記のように洗浄プラスチックを重ね合せた後、室温条件下にて3日間養生し、積層体を得た。
【0086】
[実施例1-15]
上記工程1のプラズマ処理条件を以下に代えた他は、実施例1-3と同様にして、積層体を製造した。プラズマ処理された基材のぬれ張力(平均値)は58mN/mであった。
・上記基材と放射ノズルとの距離:15mm
・処理速度:175mm/秒
・パス回数:1パス
・装置出力:21万kHz
・原料ガス:ドライエア
【0087】
[実施例2-16]
上記工程1のプラズマ処理条件を以下に代えた他は、実施例2-3と同様にして、積層体を製造した。プラズマ処理された基材のぬれ張力(平均値)は58mN/mであった。
・上記基材と放射ノズルとの距離:15mm
・処理速度:175mm/秒
・パス回数:1パス
・装置出力:21万kHz
・原料ガス:ドライエア
【0088】
<評価>
上記のとおり製造された積層体を用いて剪断試験を行い、接着強度及び破壊モードを評価した。結果を第1表に示す。
上記剪断試験は、JIS K6850:1999に準じて、引張り速度50mm/分、20℃の条件下で行われた。
上記のとおり各実施例及び比較例において積層体を3個作製し、それぞれの積層体を評価した。
第1表の各実施例及び比較例において、各評価項目について、上記3個の積層体の評価結果の平均値を示した。
なお、破壊モードの評価において、CFは接着剤の凝集破壊を意味し、MFは基材の破壊を意味し、AFは接着剤と基材表面との界面破壊を意味する。「CF」欄における数値は、接着面積全体に対するCFの面積の割合(%)である。「MF」欄における数値は、接着面積全体に対するMFの面積の割合(%)である。「AF」欄における数値は、接着面積全体に対するAFの面積の割合(%)である。
【0089】
【表1】
※工程2の代わりに、プラズマ処理された基材を水に浸漬させ、水から引き上げたあと、空気中で自然乾燥した。
【0090】
【表2】
※工程2の代わりに、プラズマ処理された基材を水に浸漬させ、水から引き上げたあと、空気中で自然乾燥した。
【0091】
第1表に示したシランカップリング剤の詳細は以下のとおりである。
・(化合物1):水溶性のアミン系シランカップリング剤。アミノシランオリゴマー。商品名ダイナシラン SIVO 140、エボニック インダストリーズAG社製、固形分含有量25質量%。主鎖としてポリシロキサン骨格を有し、アミノ基及び/又はイミノ基を有する脂肪族炭化水素基を有するアミノシランオリゴマー(加水分解縮合物)によるコロイダルシリカ水溶液。pH=4-5。
【0092】
・(化合物2):水溶性のアミン系シランカップリング剤。アミノ修飾ポリシロキサンギ酸塩。商品名ダイナシラン SIVO 160、エボニック インダストリーズAG社製、固形分含有量9質量%。主鎖としてポリシロキサン骨格を有する。アミノ基及び/又はイミノ基を有する脂肪族炭化水素基を有する。pH=4-5。
【0093】
・(化合物3):水溶性の、有機ポリマー型多官能アミノシランカップリング剤。商品名X-12-972F、信越化学工業社製、固形分含有量15質量%。主鎖として有機ポリマーを有し、側鎖として、複数のアミノ基と複数のトリエトキシシリル基とを有する。
【0094】
・(化合物4):ケイ素原子に結合するアミノアルキル基を有する、水系のアミノシランオリゴマー(アミノシラン化合物の加水分解縮合物)。主鎖としてポリシロキサン骨格を有する。商品名Dynasylan(登録商標)HYDROSIL 1151、エボニック インダストリーズAG社製。水溶液、固形分(正味のシランカップリング剤:上記アミノシランオリゴマー)約40質量%。pH=約10。
【0095】
・(化合物5):ケイ素原子に結合するアミノアルキル基を有し、且つ、ケイ素原子に結合するアルキル基を有する、水系のアミノシランオリゴマー(アミノシラン化合物の加水分解縮合物)。主鎖としてポリシロキサン骨格を有する。商品名Dynasylan(登録商標)HYDROSIL 2627、エボニック インダストリーズAG社製。水溶液、固形分(正味のシランカップリング剤:上記アミノシランオリゴマー)19~21質量%。上記アミノシランオリゴマー全量に対するアミン含有量2.0~2.5%。pH=約10。
【0096】
・(化合物6):ケイ素原子に結合するジアミノアルキル基を有し、且つ、ケイ素原子に結合するアルキル基を有する、水系のアミノシランオリゴマー(アミノシラン化合物の加水分解縮合物)。主鎖としてポリシロキサン骨格を有する。商品名Dynasylan(登録商標)HYDROSIL 2776、エボニック インダストリーズAG社製。水溶液、固形分(正味のシランカップリング剤:上記アミノシランオリゴマー)23~27質量%。上記アミノシランオリゴマー全量に対するアミン含有量4.2~4.7%。pH=約10。
【0097】
・(化合物7):ケイ素原子に結合するアミノアルキル基を有し、且つ、ケイ素原子に結合するアルキル基を有する、水系のアミノシランオリゴマー(アミノシラン化合物の加水分解縮合物)。主鎖としてポリシロキサン骨格を有する。商品名Dynasylan(登録商標)HYDROSIL 2909、エボニック インダストリーズAG社製。水溶液、固形分(正味のシランカップリング剤:上記アミノシランオリゴマー)30~40質量%。pH=約4。
【0098】
・(化合物8):加水分解されたエポキシ基を有する、水系のエポキシシランオリゴマー(エポキシシランの縮合物)。商品名Dynasylan(登録商標)HYDROSIL 2926、エボニック インダストリーズAG社製。水溶液、固形分(正味のシランカップリング剤:上記エポキシシランオリゴマー)30~40質量%。pH=約3。
【0099】
・(化合物9):エポキシ基を有するアルコキシシリル化合物(2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)。商品名KBM-303、信越化学工業社製。固形分100質量%。
【0100】
・n-ヘキサン:市販品
・IPA:イソプロパノール、市販品
【0101】
第1表に示す結果から明らかなように、プラズマ処理プラスチックを所定の洗浄用具で拭かず、そのまま使用した比較例1-1、比較例2-1は、接着性が低かった。
プラズマ処理プラスチックを、洗浄用具で拭く代わりに、水に浸漬し、上記浸漬後、水から取出し、空気乾燥した比較例1-2、比較例2-2は、接着性が低かった。
拭取用組成物が、所定の溶剤を含有せず代わりに非極性溶剤を含有し、シランカップリング剤を含有しない比較例1-3は、接着性が低かった。
拭取用組成物が所定の溶剤を含有せず代わりに非極性溶剤を含有する比較例1-4~8、2-3~7は、接着性が低かった。
【0102】
これに対して、本発明の製造方法によれば、接着性に優れる積層体が得られた。