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特許7012560ロータハブの鍛造型、およびロータハブの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】ロータハブの鍛造型、およびロータハブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21K 1/40 20060101AFI20220121BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20220121BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
B21K1/40
B21J5/02 C
H02K15/02 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018033878
(22)【出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2019147172
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩信
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 健志
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-043433(JP,U)
【文献】特開2005-205499(JP,A)
【文献】実開昭56-117941(JP,U)
【文献】特開2006-142983(JP,A)
【文献】米国特許第01373726(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/40
B21J 5/02
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造加工によりロータハブを製造するロータハブの鍛造型であって、
前記ロータハブの外形に沿った凹部が形成されたキャビティ型と、
前記ロータハブの外形に沿った凸部が形成されたコア型と、を備え、
前記コア型は、コア中央型と、前記コア中央型を径方向の外側から囲繞するコア囲繞型と、前記コア囲繞型を径方向に外側から囲繞するコア可動型と、を含み、
前記コア可動型は、前記コア中央型および前記コア囲繞型に対して軸方向に変位自在に設けられ、前記ロータハブの回転軸に沿う縦断面視で、前記回転軸と直交する径方向の外側に向けて延び、かつ前記ロータハブのディスク載置面を有するフランジ部を成形し、径方向の外側には開口部が形成され
前記キャビティ型と、前記コア中央型及び前記コア囲繞型とは、前記フランジ部が成形される前の第1中間材を固定し、
前記コア可動型は、前記コア中央型及び前記コア囲繞型に対して軸方向に沿って前記キャビティ型方向に変位し前記第1中間材に前記フランジ部を成形した第2中間材を成形することを特徴とするロータハブの鍛造型。
【請求項2】
前記開口部は、前記縦断面視で、径方向の外側に向けて開口し、
前記コア可動型は、前記フランジ部を成形する際に前記第1中間材の一部を前記開口部から径方向の外側に逃して前記フランジ部を成形し、前記第2中間材に残留ひずみが生じることを抑制することを特徴とする請求項1に記載のロータハブの鍛造型。
【請求項3】
前記フランジ部を成形する部分のうち、径方向の外側に位置する部分には、前記回転軸に沿う軸方向の内側に向けて突出する段差部が形成され、
前記コア可動型は、前記フランジ部となる部分が径方向の外側に向けて延びる過程において、前記段差部と径方向に干渉させ、前記フランジ部となる部分の径方向の外側に向けた過剰な変形を抑制することを特徴とする請求項2に記載のロータハブの鍛造型。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の前記ロータハブの鍛造型を用い鍛造加工により前記ロータハブを製造するロータハブの製造方法であって、
前記キャビティ型と前記コア中央型及び前記コア囲繞型とにより前記第1中間材を固定し、
前記コア可動型を前記コア中央型及び前記コア囲繞型に対して軸方向に沿って前記キャビティ型方向に変位し、前記第1中間材に前記フランジ部を成形した前記第2中間材を成形することを特徴とするロータハブの製造方法。
【請求項5】
鍛造加工によりロータハブを製造するロータハブの製造方法であって、
前記ロータハブのうち、ディスク載置面を有する前記フランジ部を除く前記第1中間材を成形する第1鍛造工程と、
請求項1から3のいずれか1項に記載の前記ロータハブの鍛造型を用い、前記キャビティ型と前記コア中央型及び前記コア囲繞型とにより前記第1中間材を固定し、前記コア可動型を前記コア中央型及び前記コア囲繞型に対して軸方向に沿って前記キャビティ型方向に変位し、前記第1中間材に前記フランジ部を成形した前記第2中間材を成形する第2鍛造工程と、を備えことを特徴とするロータハブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータハブの鍛造型、およびロータハブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータハブの製造方法として、被加工材に切削加工を施す方法が知られている。このような製造方法では、被加工材から製品形状を直接削り出すため、被加工材の体積のうち、最終製品とならない切削代の体積が占める割合が大きくなる。すなわち、材料効率が良くないために製造コストがかさむという問題があった。
【0003】
そこで、下記特許文献1に示すように、被加工材に粗加工としての塑性加工を施した後に、仕上げ加工としての切削加工を施す製造方法が知られている。
この製造方法では、仕上げ加工としての切削加工の前に、粗加工としての塑性加工を施すため、切削加工での切削代を小さくすることが可能になり、材料効率を改善し、製造コストを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5643682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のロータハブの製造方法では、塑性加工において材料に残留ひずみ生じることで、ロータハブのフランジ部のうち、特に高い加工精度が要求されるディスク載置面の平面度を確保しづらかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、材料に残留ひずみ生じるのを抑えることができるロータハブの鍛造型、およびロータハブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、鍛造加工によりロータハブを製造するロータハブの鍛造型であって、前記ロータハブの外形に沿った凹部が形成されたキャビティ型と、前記ロータハブの外形に沿った凸部が形成されたコア型と、を備え、前記コア型は、コア中央型と、前記コア中央型を径方向の外側から囲繞するコア囲繞型と、前記コア囲繞型を径方向に外側から囲繞するコア可動型と、を含み、前記コア可動型は、前記コア中央型および前記コア囲繞型に対して軸方向に変位自在に設けられ、前記ロータハブの回転軸に沿う縦断面視で、前記回転軸と直交する径方向の外側に向けて延び、かつ前記ロータハブのディスク載置面を有するフランジ部を成形し、径方向の外側には開口部が形成され、前記キャビティ型と、前記コア中央型及び前記コア囲繞型とは、前記フランジ部が成形される前の第1中間材を固定し、前記コア可動型は、前記コア中央型及び前記コア囲繞型に対して軸方向に沿って前記キャビティ型方向に変位し前記第1中間材に前記フランジ部を成形した第2中間材を成形することを特徴とする。
【0008】
本発明では、ロータハブの鍛造型のうち、ディスク載置面を有するフランジ部を成形する部分の一部に開口部が形成されている。
このため、被加工材に鍛造加工を施してフランジ部を成形する際に、被加工材の一部が開口部から外側に逃げることが可能になり、被加工材のうち、フランジ部となる部分に加えられる鍛造加工の負荷を低減することができる。これにより、材料に残留ひずみ生じるのを抑えることができる。
【0009】
また、本発明に係るロータハブの鍛造型における前記開口部は、前記縦断面視で、径方向の外側に向けて開口し、前記コア可動型は、前記フランジ部を成形する際に前記第1中間材の一部を前記開口部から径方向の外側に逃して前記フランジ部を成形し、前記第2中間材に残留ひずみが生じることを抑制する
【0010】
本発明では、フランジ部を成形する際に、被加工材の一部が開口部から外側に逃げる向きを、フランジ部が成形される向きと一致させることができる。これにより、鍛造加工によりフランジ部に加えられる負荷を顕著に低減することが可能になり、より一層効果的に材料に残留ひずみ生じるのを抑えることができる。
【0011】
また、前記フランジ部を成形する部分のうち、径方向の外側に位置する部分には、前記回転軸に沿う軸方向の内側に向けて突出する段差部が形成され、前記コア可動型は、前記フランジ部となる部分が径方向の外側に向けて延びる過程において、前記段差部と径方向に干渉させ、前記フランジ部となる部分の径方向の外側に向けた過剰な変形を抑制することを特徴とする。
【0012】
本発明では、鍛造型におけるフランジ部を成形する部分に段差部が形成されている。このため鍛造加工時に、被加工材のうち、フランジ部となる部分が径方向の外側に向けて延びる過程において、段差部と径方向に干渉することで、径方向の外側に向けて過剰に変形しすぎるのを抑制し、精度よくフランジ部を成形することができる。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るロータハブの製造方法は、前述したいずれか1つのロータハブの鍛造型を用い鍛造加工により前記ロータハブを製造するロータハブの製造方法であって、前記キャビティ型と前記コア中央型及び前記コア囲繞型とにより前記第1中間材を固定し、前記コア可動型を前記コア中央型及び前記コア囲繞型に対して軸方向に沿って前記キャビティ型方向に変位し、前記第1中間材に前記フランジ部を成形した前記第2中間材を成形することを特徴とする。
【0014】
本発明では、前述したいずれか1つのロータハブの鍛造型を用いて鍛造加工を行うので、鍛造加工において前述した各作用効果を奏功させることができる。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明に係るロータハブの製造方法は、鍛造加工によりロータハブを製造するロータハブの製造方法であって、前記ロータハブのうち、ディスク載置面を有する前記フランジ部を除く前記第1中間材を成形する第1鍛造工程と、請求項1から3のいずれか1項に記載の前記ロータハブの鍛造型を用い、前記キャビティ型と前記コア中央型及び前記コア囲繞型とにより前記第1中間材を固定し、前記コア可動型を前記コア中央型及び前記コア囲繞型に対して軸方向に沿って前記キャビティ型方向に変位し、前記第1中間材に前記フランジ部を成形した前記第2中間材を成形する第2鍛造工程と、を備えことを特徴とする。
【0016】
本発明では、第2鍛造工程において、前述したいずれか1つのロータハブの鍛造型を用いて鍛造加工を行うので、鍛造加工において前述した各作用効果を奏功させることができる。
また、第1鍛造工程において、フランジ部を除く部分を成形するので、特に高い加工精度が要求されるフランジ部と、フランジ部を除く部分と、を別の鍛造加工において成形することができる。これにより、それぞれの鍛造工程に用いられる金型の加工精度や成形条件等に自由度を与えることが可能になり、フランジ部の加工精度を確保しながら、製造コストがかさむのを抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のロータハブの鍛造型、およびロータハブの製造方法によれば、材料に残留ひずみ生じるのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るロータハブの製造方法により得らえたロータハブを示す縦断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るロータハブの製造方法に用いられる第1鍛造型の縦断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るロータハブの製造方法に用いられる第2鍛造型の縦断面図である。
図4図2に示す第1鍛造型を用いた第1鍛造工程の開始時の状態を示す縦断面図である。
図5図2に示す第1鍛造型を用いた第1鍛造工程の終了時の状態を示す縦断面図である。
図6図3に示す第2鍛造型を用いた第2鍛造工程の開始時の状態を示す縦断面図である。
図7図3に示す第2鍛造型を用いた第2鍛造工程の終了時の状態を示す縦断面図である。
図8】変形例に係るロータハブの製造方法における第1鍛造工程を示す図である。
図9】変形例に係るロータハブの製造方法における第2鍛造工程を示す図である。
図10】本発明の検証試験において、比較例1の解析結果を示す図である。
図11】本発明の検証試験において、実施例1の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係るロータハブ1の製造型、およびロータハブ1の製造方法について説明する。まず、ロータハブ1の構成について説明する。
図1に示すように、ロータハブ1は、図示しないアウターロータ式のスピンドルモータを構成する筒状の回転子である。ロータハブ1は、例えばステンレス鋼等の金属材料により形成されている。
【0020】
以下の説明において、ロータハブ1の回転軸Oに沿う方向を軸方向といい、軸方向のうち、ロータハブ1に近接する方向を軸方向の内側、ロータハブ1から離間する方向を軸方向の外側という。
また、回転軸Oと直交する方向を径方向といい、回転軸O回りに周回する方向を周方向という。
【0021】
ロータハブ1は、有頂筒状の筒部10と、筒部10の開口縁部10Aから径方向の外側に向けて延びるフランジ部20と、を備えている。フランジ部20は、筒部10の開口縁部10Aに、全周にわたって円環状に形成されている。
ロータハブ1は周方向に回転自在に支持され、図示しないスピンドルモータの駆動により周方向に回転する。
【0022】
ロータハブ1は、例えば情報記録再生装置等に用いられ、ディスク(磁気記録媒体)を回転自在に支持する。ディスクにおける中央の孔に、ロータハブ1の筒部10が嵌合されて固定される。
筒部10は、平面視で円形状を呈する頂壁部11と、頂壁部11の外周縁部から、軸方向に延びる筒状の周壁部12と、を備えている。周壁部12の軸方向の端部に、開口縁部10Aが形成されている。
【0023】
フランジ部20は、ディスクの孔の縁部が載置されるディスク載置面21を有している。ディスク載置面21は、フランジ部20の外表面のうち、上方を向く部分に形成されている。ディスクが載置されるディスク載置面21には、全周にわたって高い平面度が要求される。
【0024】
次に、ロータハブ1の製造方法について説明する。
ロータハブ1の製造方法では、粗加工としての鍛造加工、および仕上げ加工としての切削加工によりロータハブ1を製造する。
ロータハブ1の粗加工は、ロータハブ1のうち、フランジ部20を除く部分を成形する第1鍛造工程と、フランジ部20を成形する第2鍛造工程と、を備えている。
【0025】
図2に示すように、第1鍛造工程では、第1鍛造型30が用いられる。第1鍛造型30は、第1キャビティ型31と第1コア型32とを備えている。
第1キャビティ型31は固定型であり、ロータハブ1の外形に沿った第1凹部33が形成されている。第1凹部33は平面視で円形状を呈している。第1凹部33は、回転軸Oと同軸に配置されている。
【0026】
第1キャビティ型31は、複数の金型により構成されている。第1キャビティ型31は、円柱状の第1キャビティ中央型31Aと、第1キャビティ中央型31Aを径方向の外側から囲繞する第1キャビティ囲繞型31Bと、を備えている。
第1キャビティ中央型31Aおよび第1キャビティ囲繞型31Bはそれぞれ、回転軸Oと同軸に配置されている。第1キャビティ囲繞型31Bの内周面に、ロータハブ1の周壁部12が成形される。
【0027】
第1コア型32は可動型であり、ロータハブ1の外形に沿った凸部が形成されている。第1コア型32は、複数の金型により構成されている。
第1コア型32は、円柱状の第1コア中央型32Aと、第1コア中央型32Aを径方向の外側から囲繞する筒状の第1コア囲繞型32Bと、を備えている。
第1コア中央型32Aおよび第1コア囲繞型32Bはそれぞれ、回転軸Oと同軸に配置されている。
【0028】
図3に示すように、第2鍛造工程では、第2鍛造型(本発明のロータハブ1の鍛造型)40が用いられる。第2鍛造型40は、第2キャビティ型41と第2コア型42とを備えている。
第2キャビティ型41は固定型であり、ロータハブ1の外形に沿った第2凹部43が形成されている。第2凹部43は平面視で円形状を呈している。第2凹部43は、回転軸Oと同軸に配置されている。第2キャビティ型41は、1つの金型により構成されている。
【0029】
第2コア型42には、ロータハブ1の外形に沿った凸部が形成されている。第2コア型42は、固定型と可動型と含む複数の金型により構成されている。
第2コア型42は、円柱状の第2コア中央型42Aと、第2コア中央型42Aを径方向の外側から囲繞する筒状の第2コア囲繞型42Bと、を備えている。
第2コア中央型42Aおよび第2コア囲繞型42Bはそれぞれ、固定型となっており、回転軸Oと同軸に配置されている。
【0030】
第2コア型42は、第2コア囲繞型42Bを径方向の外側から囲繞する筒状の第2コア可動型42Cを更に備えている。第2コア可動型42Cは回転軸Oと同軸に配置されている。
第2コア可動型42Cは、第2コア中央型42Aおよび第2コア囲繞型42Bに対して軸方向に変位自在とされている。
このため、第2鍛造工程において、第2コア中央型42Aおよび第2コア囲繞型42Bを軸方向に変位させることなく、第2コア可動型42Cだけを軸方向に変位させることができる。これにより、第2コア可動型42Cは、ロータハブ1のフランジ部20を成形する。
【0031】
第2コア可動型42Cのうち、径方向の外側に位置する部分には、軸方向の内側(第2キャビティ型41側)に向けて突出する段差部42Dが形成されている。
段差部42Dは、第2コア可動型42Cの軸方向の端面における外周縁部に配置され、前記端面から下方に向けて突出している。段差部42Dは、全周にわたって環状に形成されている。
なお、段差部42Dは、例えば周方向に間欠的に複数形成されてもよいし、例えば第2コア可動型42Cの軸方向の端面のうち、径方向の中間部に形成されてもよい。
【0032】
そして本実施形態では、第2鍛造型40におけるフランジ部20を成形する部分の一部には、開口部50が形成されている。開口部50は、縦断面視で径方向の外側に向けて開口している。
開口部50は、第2キャビティ型41と、第2コア可動型42Cの段差部42Dと、の軸方向の間に形成されている。開口部50は、第2キャビティ型41と段差部42Dとの間に、全周にわたって形成されている。
【0033】
開口部50の軸方向の大きさは、段差部42Dの軸方向の大きさよりも大きくなっている。
開口部50の軸方向の大きさは、径方向および周方向の全域にわたって一様となっている。なお、前述したように段差部42Dの形状を変更することで、開口部50の軸方向の大きさを任意に変更することができる。
【0034】
次に、第1鍛造工程および第2鍛造工程の手順について説明する。
第1鍛造工程では、図4に示すように、第1鍛造型30における第1キャビティ型31の第1凹部33内に、被加工材1Aを配置する。被加工材1Aは例えば円柱状のステンレス鋼等である。
次に、被加工材1Aを軸方向に挟む第1キャビティ型31の反対側の位置に、第1コア型32を配置する。図示の例では、第1コア型32は、被加工材1Aの上方に配置されている。
そして、第1コア型32を軸方向の内側(下方)に向けて変位させて、冷間鍛造を行う。なお、鍛造加工は熱間鍛造であってもよい。
【0035】
これにより、図5に示すように、被加工材1Aが変形し、外形がロータハブ1の外形に近い第1中間材1Bが成形される。本実施形態では、第1中間材1Bは、図1に示したロータハブ1と上下が逆の状態で成形される。
【0036】
第1キャビティ囲繞型31Bと、第1コア囲繞型32Bと、の径方向の間に、ロータハブ1の周壁部12となる中間周壁部12Aが形成されている。
ここで、第1鍛造加工ではフランジ部20を成形しないため、第1中間材1Bにはフランジ部20が形成されていない。
【0037】
第2鍛造工程では、図6に示すように、第2鍛造型40における第2キャビティ型41の第2凹部43内に、第1中間材1Bを配置する。この際、第1中間材1Bの中間周壁部12Aは、第2キャビティ型41の上面から上方に向けて突出している。すなわち、中間周壁部12Aは、第1鍛造工程の際に、軸方向に押し出されて成形されている。
【0038】
次に、被加工材1Aを軸方向に挟む第2キャビティ型41の反対側の位置に、第2コア型42を配置する。図示の例では、第2コア型42は、第1中間材1Bの上方に配置されている。また、第2コア可動型42Cは、中間周壁部12Aにおける軸方向の外端部に当接している。
【0039】
そして、第2コア可動型42Cを軸方向の内側(下方)に向けて変位させて、冷間鍛造を行う。なお、鍛造加工としては熱間鍛造であってもよい。
これにより、図7に示すように、中間周壁部12Aが変形し、外形が第1中間材1Bよりもさらにロータハブ1の外形に近い第2中間材1Cが成形される。第2中間材1Cには、径方向の外側に向けて延びる中間フランジ部20Aが形成されている。
【0040】
前述したように、第2鍛造工程では、第1中間材1Bの中間周壁部12Aのみを変形させる。このため、第2中間材1Cの形状のうち、第2凹部43の内側に配置された部分の形状は、第1中間材1Bの形状のうち、第1凹部33の内側に配置された部分の形状と一致している。
【0041】
ここで、第2鍛造工程において、中間フランジ部20Aが成形される過程について詳述する。
中間周壁部12Aは、第2コア可動型42Cからの加圧により、径方向の外側に向けて変形する。この際、中間周壁部12Aのうち、軸方向の端部に位置し、径方向の外側に向けて変形する部分(以下、変形部12Bという、図6参照)は、第2鍛造型40の開口部50から径方向の外側に向けて逃げるように変形する。
【0042】
また、変形部12Bのうち、軸方向の外側(上方)に位置する部分は、第2コア可動型42Cの段差部42Dと径方向に干渉する。
このため、変形部12Bは、軸方向の外端部が径方向の外側に向けた変形を規制された状態となり、変形部12Bのうち、段差部42Dと干渉していない部分が径方向の外側に向けて変形する。これにより、変形部12Bが過剰に変形することが抑えられ、変形部12Bの形状が崩れるのを抑制することができる。
【0043】
ここで、中間フランジ部20Aは、段差部42Dと干渉しながら成形されるため、軸方向の厚みが径方向の位置により異なっている。
すわなち、中間フランジ部20Aは、周壁部12から径方向に延びる内側フランジ部20Bと、内側フランジ部20Bよりも径方向の外側に位置し、内側フランジ部20Bよりも軸方向に薄い外側フランジ部20Cと、を備えている。
【0044】
最後に、第2鍛造型40から第2中間材1Cを取り出して、切削加工による仕上げ加工を行う。仕上げ加工では、まず、中間フランジ部20Aにおける外側フランジ部20Cを切除する。
そして、周壁部12の外周面、およびフランジ部20における軸方向の外側を向く外面のうち、周壁部12の外周面と連なる部分を切削する。これにより、フランジ部20における軸方向の外側を向く外面のうち、周壁部12の外周面と連なる部分にディスク載置面21が形成される。
以上の工程により、図1に示すロータハブ1が製造される。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係るロータハブ1の鍛造型によれば、ロータハブ1の第2鍛造型のうち、フランジ部20を成形する部分の一部に開口部50が形成されている。
このため、被加工材1Aに鍛造加工を施してフランジ部20を成形する際に、第1中間材1Bの一部が開口部50から外側に逃げることが可能になり、第1中間材1Bのうち、フランジ部20となる部分に加えられる鍛造加工の負荷を低減することができる。これにより、材料に残留ひずみが生じるのを抑えることができ、仕上げ加工での加工精度を容易に確保することができる。
【0046】
また、開口部50が縦断面視で、径方向の外側に向けて開口しているので、フランジ部20を成形する際に、被加工材1Aの一部が開口部50から外側に逃げる向きを、フランジ部20が成形される向きと一致させることができる。
これにより、鍛造加工によりフランジ部20に加えられる負荷を顕著に低減することが可能になり、より一層効果的に被加工材1Aに残留ひずみが生じるのを抑えることができる。
【0047】
また、鍛造型におけるフランジ部20を成形する部分に段差部42Dが形成されている。このため鍛造加工時に、第1中間材1Bのうち、フランジ部20となる部分が径方向の外側に向けて延びる過程において、段差部42Dと径方向に干渉することで、径方向の外側に向けて過剰に変形しすぎるのを抑制することができる。これにより、精度よくフランジ部20を成形することができる。
【0048】
また、第1鍛造工程において、フランジ部20を除く部分を成形するので、特に高い加工精度が要求されるフランジ部20と、フランジ部20を除く部分と、を別の鍛造加工において成形することができる。これにより、それぞれの鍛造工程に用いられる金型の加工精度や成形条件等に自由度を与えることが可能になり、フランジ部20の加工精度を確保しながら、製造コストがかさむのを抑えることができる。
【0049】
また、第1鍛造型30における第1キャビティ型31が複数に分割されているので、第1鍛造工程において第1キャビティ型31に生じる応力を分散することができる。
このような金型を分割することによる応力分散の効果は、第1コア型32、および第2コア型42においても同様に奏功することができる。
【0050】
(変形例)
次に、図8および図9を参照して、変形例に係るロータハブ1の製造方法について説明する。
変形例に係るロータハブ1の製造方法では、第2鍛造型40のみを用いてロータハブ1を成形する。すなわち、変形例に係るロータハブ1の製造方法では、まず、図8に示すように、第2キャビティ型41の第2凹部43に被加工材1Aを配置する。
【0051】
そして、第1鍛造工程として、図9に示すように、第2コア型42のうち、第2コア中央型42Aおよび第2コア囲繞型42Bのみを下方に向けてスライドさせて鍛造加工を行う。これにより、第2凹部43内に第1中間材1Bが成形される。
また、第2鍛造工程として、第2コア可動型42Cを下方に向けてスライドさせて鍛造加工を行う。これにより、図7に示すように、第2凹部43内に第2中間材1Cが成形される。そして最後に、前述したように切削加工による仕上げ加工を行う。これにより、図1に示すロータハブ1が製造される。
【0052】
(検証試験)
次に、本発明のロータハブの製造方法の効果を確認した検証試験について説明する。
この検証試験では、有限要素法を用いて、仕上げ加工前における中間材の内部に発生するひずみ量について数値解析を行った。
この数値解析では、比較例1として、開口部50が設けられていない鍛造型により成形された中間材を採用した。
また、実施例1として、本発明のロータハブ1の製造方法により成形された第2中間材1Cを採用した。
【0053】
比較例1の解析結果を図10に、実施例1の解析結果を図11に示す。なお、図10および図11では、図7のA部に対応する中間フランジ部周辺の状態を拡大して図示している。
図10および図11を比較すると、実施例1に係る第2中間材1Cが、比較例1に係る中間材よりもひずみ量のバラつきが小さいことが確認できた。このため、仕上げ加工において残留歪みの影響で加工精度が悪くなることが回避できることが確認できた。
以上のように、本発明のロータハブ1の製造方法によれば、材料に残留ひずみ生じるのを抑えることができる。
【0054】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態では、ロータハブ1の製造方法が、第1鍛造工程と第2鍛造工程とを備えている構成を示したが、このような態様に限られない。ロータハブ1の製造方法として、一回の鍛造加工によりフランジ部20を含むロータハブ1の全体を成形してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、開口部50が縦断面視で径方向の外側に向けて開口している構成を示したが、このような態様に限られない。開口部50は径方向の内側を向いて開口してもよいし、軸方向を向いて開口してもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、第2鍛造型40のうち、フランジ部20を成形する部分に段差部42Dが形成されている構成を示したが、このような態様に限られない。第2鍛造型40のうち、フランジ部20を成形する部分に段差部42Dが形成されなくてもよい。
【0058】
また、第1鍛造型30および第2鍛造型40それぞれの構成については前述の態様に限られない。各金型の分割数や固定型又は可動型の種類については、任意に変更することができる。
【0059】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 ロータハブ
20 フランジ部
21 ディスク載置面
30 第1鍛造型
40 第2鍛造型(鍛造型)
42D 段差部
50 開口部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11