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特許7012595二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法、及び二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法、及び二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20220121BHJP
   B01J 23/75 20060101ALI20220121BHJP
   C07C 1/12 20060101ALI20220121BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20220121BHJP
   C07C 9/08 20060101ALI20220121BHJP
   C07C 9/10 20060101ALI20220121BHJP
   C07C 9/14 20060101ALI20220121BHJP
   C07C 9/06 20060101ALI20220121BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
B01J37/02 101C
B01J23/75 M ZAB
C07C1/12
C07C9/04
C07C9/08
C07C9/10
C07C9/14
C07C9/06
C07B61/00 300
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018084322
(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公開番号】P2019188340
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】山根 典之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 公仁
(72)【発明者】
【氏名】加藤 讓
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-190638(JP,A)
【文献】特開平03-052825(JP,A)
【文献】特表2011-517426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 1/12
C07C 9/04
C07C 9/08
C07C 9/10
C07C 9/14
C07C 9/06
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを主成分とする触媒担体に、コバルトを担持させる際に、酢酸コバルトを主体とする前駆体溶液を用いて前記触媒担体に担持する工程を有し、
前記酢酸コバルトを主体とする前駆体溶液のpHが4.0~7.3であり、
前記シリカを主成分とする触媒担体は、シリカ含有量が50質量%以上100質量%未満であり、不純物とアルミナの少なくともいずれかを含み、
前記酢酸コバルトを主体とする前駆体溶液は、酢酸コバルトの含有量が50重量%以上である前駆体を溶媒に溶解させた溶液であることを特徴とする、二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項2】
前記触媒中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量合計が0.08~3.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項3】
前記触媒中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量合計が0.15~3.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項4】
前記酢酸コバルトを主体とする前駆体が酢酸塩であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項5】
前記酢酸コバルトを主体とする前駆体が酢酸塩及び硝酸塩からなり、前記酢酸コバルトを主体とする前駆体溶液のpHが4.0~7.3の範囲であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項6】
前記触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量の合計が、金属換算で0.08~2.0質量%であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項7】
前記触媒担体中のナトリウムの含有量が、金属換算で0.2~1.9質量%であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法にて製造した触媒を用いた反応により、二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する方法。
【請求項9】
前記反応がスラリー床を用いた液相反応であることを特徴とする請求項8に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素と水素を反応させて炭化水素を製造するための触媒の製造方法、及び該製造方法で製造された触媒を用いた、二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化への関心が高まっている。特に、温室効果ガス排出削減等の国際的枠組みを協議する気候変動枠組条約締約国会議(COP)では、世界共通の長期目標として産業革命前からの平均気温の上昇を2℃よりも十分下方に保持することを目的とし、排出ピークをできるだけ早期に抑え、最新の科学に従って急激に削減することを目標とされている。COP21パリ協定では、全ての国が長期の温室効果ガス低排出開発戦略を策定・提出するように努めるべきとされており、我が国の日本では長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すこととされた。
【0003】
このような背景の下、人為的に排出されている温室効果ガスの中では、二酸化炭素の影響量が最も大きいと見積もられており、二酸化炭素の排出削減のための対策技術開発が各所で精力的に行われている。このような対策技術の一つとして、排出された二酸化炭素を有用物に変換する幾つかの試みが提案されているが、二酸化炭素を別の物質に変換させるためには大きなエネルギーが必要であり、反応を促進させるための有効な触媒の開発が望まれていた。
【0004】
また、二酸化炭素の排出削減に資する技術とするためには、二酸化炭素から需要の多い有用物を製造する必要がある。炭化水素(メタンやガソリン等の燃料)は二酸化炭素を炭素源として製造可能な有用物の中でも最も需要が多く、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する技術は二酸化炭素の排出削減のための対策技術として位置付けられる。
【0005】
化学反応によって炭化水素を製造する技術としては、一酸化炭素と水素の混合ガス、いわゆる合成ガスを原料として、触媒を用いて変換するFischer-Tropsch(フィッシャー・トロプシュ、F-T)合成反応が知られている。この際の触媒としては、コバルト系、鉄系が有効であり、世界中で精力的に技術開発が行われてきた。主触媒であるコバルト、鉄の微細構造、助触媒の機能等、触媒性能に対する触媒組成、構造の詳細が明らかにされている。
一方、二酸化炭素と水素を原料とした炭化水素への変換においても、従来のF-T合成用の触媒に似た組成の鉄系触媒を使用する試みについての報告(非特許文献1、2)や、コバルト系触媒を使用する報告(非特許文献3)がある。しかしながら、二酸化炭素と水素を原料とした炭化水素の製造技術に関しては、地球温暖化への関心の高まりを受けて取り組みの始まった研究が多く、特に使用する触媒の性能に対する詳細な検討は十分とは言えない状況である。
【0006】
二酸化炭素と水素を原料とした炭化水素の製造における化学反応は、従来の一酸化炭素と水素を原料としたF-T合成反応と同様に発熱反応であるが、プラントの安定操業のためには反応熱を効果的に除去することが重要である。反応形式としては、気相合成プロセス(固定床、噴流床、流動床)と、液相合成プロセス(スラリー床)があり、それぞれ特徴を有しているが、熱除去効率が高く、生成した高沸点炭化水素の触媒上への蓄積やそれに伴う反応管閉塞が起こらないスラリー床が有利であると予想される。しかし、二酸化炭素を排出する発生源において、炭化水素への変換プラントを併設する場合には、天然ガス田を対象とした従来のF-T合成プラントと比較して炭化水素の生産量は少なくなると考えられ、この場合にはマイクロチャネル反応器が有利となる可能性も考えられる。マイクロチャネル反応器は、極微細な溝を多数有しており、化学反応の効率化の向上が期待できる反応器として近年、特に注目されている。
【0007】
一般的に触媒の活性は、高ければ高いほど好ましいことは言うまでもないが、特にスラリー床では、良好なスラリー流動状態を保持するためにはスラリー濃度を一定の値以下にする必要があるという制限が存在するため、触媒の高活性化は、プロセス設計の自由度を拡大する上で、非常に重要な要素となる。
【0008】
また、一般的に触媒の粒子径は、熱や物質の拡散が律速となる可能性を低くするという観点からは、小さいほど好ましい。しかし、スラリー床による炭化水素の製造では、生成する炭化水素の内、高沸点炭化水素は反応容器内に蓄積されるため、触媒と生成物との固液分離操作が必ず必要になることから、触媒の粒子径が小さ過ぎる場合、分離操作の効率が大きく低下するという問題が発生する。よって、スラリー床用の触媒には最適な粒子径範囲が存在することになり、一般的に20~250μm程度、平均粒径として40~150μm程度が好ましいとされているが、以下に示すように、反応中に触媒が破壊、粉化を起こして、粒子径が小さくなることがあり、注意が必要である。
【0009】
即ち、スラリー床では相当高い原料ガス空塔速度(0.1m/秒以上)で運転されることが多く、触媒粒子は反応中に激しく衝突するため、触媒粒子の物理的な強度や耐摩耗性(耐粉化性)が不足すると、反応中に触媒粒径が低下して、上記分離操作に不都合をきたすことがある。更に、スラリー床では液媒体として有機物を使用するが、炭素源として二酸化炭素、一酸化炭素のいずれを使用する場合でも多量の水を副生するため、耐水性が低く、水により強度低下や破壊、粉化を起こし易い触媒を用いる場合は、反応中に触媒粒径が細かくなることがあり、上記と同様に分離操作に不都合をきたすことになる。
【0010】
また、一般的に、スラリー床用の触媒は、上記したような最適粒径となるように粉砕して粒度調整をして実用に供することが多い。ところが、このような破砕状の触媒には予亀裂が入っていたり、鋭角な突起が生じていたりすることが多く、機械的強度や耐摩耗性に劣る。そのため、破砕状の触媒をスラリー床に用いた場合には、触媒が破壊して微粉が発生することになり、生成する高沸点炭化水素と触媒との分離が著しく困難になるという欠点を有していた。
【0011】
また、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する反応においては、一酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する反応と比較して副生する水の量が多くなる。一般的に炭化水素製造のための触媒の活性種は金属状態であることから、炭化水素の原料として二酸化炭素を用いる場合は、副生する水と金属状態の活性種が反応して金属酸化物に変化することによる触媒失活が起こり易くなる。
以下に、一酸化炭素と水素を原料とした炭化水素の製造時の化学反応式と、二酸化炭素と水素を原料とした炭化水素の製造時の化学反応式を示す。
【0012】
【化1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】M.Albercht et al., Applied Catalysis B:Environmental, 204(2017)119-126
【文献】Y.H.Choi et al., Applied Catalysis B:Environmental, 202(2017)605-610
【文献】C.G.Visconti et al., Catalysis Today, 277(2016)161-170
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、二酸化炭素と水素を原料とする炭化水素の製造においては、触媒性能に及ぼす因子に関する知見は十分ではない。その上、一酸化炭素と水素を原料とする炭化水素の製造時と同等の転化率で比較すると、二酸化炭素と水素を原料とする場合の反応では副生する水が多い状況となる。このような反応における触媒活性は未だ十分ではない上、鉄系触媒では炭素数が5以上(C5以上)の液状生成物は得られるものの反応温度が300℃程度と厳しく、一方、コバルト系触媒を使用すると反応温度は220℃程度と比較的緩やかになるもののC5以上の液状生成物の生成量はわずかという状況である。このような状況下から、炭化水素への変換プラントの設計自由度を拡大する観点からも、二酸化炭素と水素を原料とした炭化水素の製造時に使用可能な高性能触媒の開発が急務である。
即ち、本発明は、十分なC5以上の液状生成物が製造可能であり、活性、選択性、耐久性の高い、二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法、及び、当該触媒を用いた二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、シリカを主体とする触媒担体にコバルト成分が担持される触媒を、酢酸コバルトを主体とする前駆体溶液を用いて製造するとともに、前駆体溶液のpHを適正範囲に調整することにより、二酸化炭素と水素を原料とする炭化水素の製造において触媒の活性、耐久性が向上し、炭素数5以上の液状炭化水素を十分に製造できることを見出し、本発明に至った。
【0016】
本発明は、二酸化炭素と水素からの炭化水素の製造時に使用する、高い活性、選択性、耐久性を有する触媒の製造方法及び該触媒を用いた炭化水素の製造方法に関する。更に詳しくは、以下に記す通りである。
【0017】
(1)シリカを主成分とする触媒担体に、コバルトを担持させる際に、酢酸コバルトを主体とする前駆体溶液を用いて前記触媒担体に担持する工程を有し、前記酢酸コバルトを主体とする前駆体溶液のpHが4.0~7.3であり、前記シリカを主成分とする触媒担体は、シリカ含有量が50質量%以上100質量%未満であり、不純物とアルミナの少なくともいずれかを含み、前記酢酸コバルトを主体とする前駆体溶液は、酢酸コバルトの含有量が50重量%以上である前駆体を溶媒に溶解させた溶液であることを特徴とする、二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(2)前記触媒中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量合計が0.08~3.5質量%であることを特徴とする上記(1)に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(3)前記触媒中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量合計が0.15~3.5質量%であることを特徴とする上記(1)に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(4)前記酢酸コバルトを主体とする前駆体が酢酸塩であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(5)前記酢酸コバルトを主体とする前駆体が酢酸塩及び硝酸塩からなり、前記酢酸コバルトを主体とする前駆体溶液のpHが4.0~7.3の範囲であることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(6)前記触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量の合計が、金属換算で0.08~2.0質量%であることを特徴とする上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(7)前記触媒担体中のナトリウムの含有量が、金属換算で0.2~1.9質量%であることを特徴とする上記(1)~(6)のいずれか1項に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(8)上記(1)~(7)のいずれかに記載の製造方法にて製造した触媒を用いた反応により、二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する方法。
(9)前記反応がスラリー床を用いた液相反応であることを特徴とする上記(8)に記載の二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、二酸化炭素と水素を原料とする炭化水素の製造時に使用することができ、反応温度が低くても活性、C5以上の液状炭化水素の選択性に優れ、耐久性の高い触媒の製造方法、及び、当該触媒を用いた二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する方法を提供することができる。従って、本発明の製造方法によって製造された触媒は、耐久性が高く、比較的低い反応温度でも十分な活性を発揮できるため、十分な量の炭化水素を生産することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の、二酸化炭素を水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法、ならびに二酸化炭素と水素からから炭化水素を製造する方法の実施形態を更に詳述する。
【0020】
まず、二酸化炭素と水素から炭化水素を製造する触媒の製造方法(以下、単に触媒の製造方法とも称する。)によって製造する触媒について説明する。
本実施形態の製造方法によって製造する触媒は、二酸化炭素と水素を原料とする炭化水素製造時の化学反応に活性を有する金属としてコバルトを含むものである。すなわち、触媒活性種としてコバルト成分を触媒担体に担持してなるものである。
また、触媒担体としては、シリカを主成分とするものである。ここでいうシリカを主成分とする担体(以下、シリカ担体とも称する。)とは、シリカ含有量が50質量%以上で100質量%未満のものであり、シリカ以外にアルミナを含有するシリカ-アルミナ担体や、シリカ担体の製造工程における不可避的不純物を少量含むものであっても構わない。触媒中、及び触媒担体中のシリカ含有量の測定方法は、酸分解やアルカリ溶融等の前処理後にICP発光分光分析法(ICP-AES法)にて測定する方法とする。
【0021】
触媒中には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムが含まれる場合があり、これら元素は各製造工程において混入してしまうものであるが、特に触媒担体の製造工程においては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムは当該工程で使用される洗浄水に含有されるものや、シリカ担体の出発原料に含有される金属によるものがある。
【0022】
また、触媒担体にコバルト等の金属系化合物を担持する工程の際には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムは、担持する金属系化合物の前駆体や、担持の際の処理水や洗浄水、担持後の乾燥工程や焼成工程で入り込む可能性がある。
従来では、これらナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウム等は活性低下を招く不純物元素として、触媒中の含有量を極力低減するようされてきた。しかしながら本発明者らの検討の結果、二酸化炭素を水素から炭化水素を製造するための触媒が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属を適切な範囲で含有することで、液状生成物の選択率が向上することが分かった。なお、触媒性能へ最も影響が大きいのは、アルカリ金属のナトリウム、及びカリウムであり、次に影響が大きいのはアルカリ土類金属のカルシウムとマグネシウムである。
【0023】
以上述べたように、本実施形態の製造方法によって製造する触媒においては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計含有量を適切な範囲に制御することが好ましい。これらのうち、カリウムは、シリカを主成分とする担体から製造した触媒中には、ごく僅かしか含まれていないことが多く、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムの含有量が比較的多い。なお、これらの不純物金属は、酸化物等の化合物となって存在するものも多いが、全て金属換算した量で含有量を算出する。
触媒中において、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの総含有量は、活性低下の抑制ならびに選択性の向上のバランスを考慮して、0.08~3.5質量%(800~35000ppm)が好ましく、より好ましくは0.15~3.5質量%、更に好ましくは0.2~2.0質量%、最も好ましくは0.2~1.2質量%である。なお、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量は総含有量であり、これらの中でいずれかが含まれない場合もあるが、その場合においてもこれらの総含有量が0.08~3.5質量%であると好ましい。
【0024】
次に、本実施形態の触媒の製造方法について説明する。
本実施形態の触媒の製造方法は、シリカを主成分とする触媒担体に、酢酸コバルトを主体とする前駆体溶液を用いて、コバルト成分を担持する工程を有する。
シリカを主成分とする担体へコバルト成分を担持する方法は、通常の含浸法、インシピエントウェットネス(Incipient Wetness)法、沈殿法、イオン交換法等によればよい。担持において使用する原料(前駆体)であるコバルト成分は、酢酸コバルトを主体とするものである。
【0025】
本実施形態による触媒の製造方法は、シリカ担体に対し、コバルト前駆体溶液のpHが4.0~7.3の範囲になるように調整した上でコバルト成分を担持するものである。
コバルト前駆体溶液のpHを上記範囲に調整することにより、触媒担体全体に渡り、均質な分散をさせることが可能となる。コバルト前駆体溶液のpHが4.0未満となると、コバルト担持後の触媒ではコバルトが触媒担体に不均質に担持されることになり、二酸化炭素から炭化水素を製造する反応において副生する水が存在する雰囲気下では、近接したコバルト粒子が合体凝集(シンタリング)を起こしやすく、反応表面積の低下等により長時間安定した活性を示すことが不可能になる。一方、コバルト前駆体溶液のpHが7.3を超えると、シリカ担体自体の溶解、溶出が起こり、コバルトが担持されるべき細孔が減ること等により、コバルト粒子が不均質に担持されてしまうため、同様に、反応中の高い副生水分圧下では、コバルト粒子のシンタリングが起こって、長時間の安定した活性を示すことが不可能になる。そのため、コバルト前駆体溶液のpHは4.0以上、7.3以下とし、好ましくは4.5以上、7.3以下とし、さらに好ましくは5.0以上、7.3以下とする。
【0026】
酢酸コバルトを主体する前駆体溶液を用いてコバルト成分を担体に担持させる方法について説明する。
まず、酢酸コバルトを主体する前駆体としては、酢酸塩からなるものを用いることが好ましく、または酢酸塩及び硝酸塩からなるものを用いることも好ましい。
具体的には、コバルト化合物である、酢酸コバルト、硝酸コバルト、ギ酸コバルト、シュウ酸コバルト、塩化コバルト、炭酸コバルト、硫酸コバルトからなる群のうち、酢酸コバルトを少なくとも含み、かつ酢酸コバルトが重量比で過半となるような割合で混合した混合物を用い、この混合物を溶媒に溶解させた溶液をコバルト前駆体溶液とする。そしてこのコバルト前駆体溶液を用いて、シリカを主成分とする担体に担持する。ここで、混合物を溶解させる溶媒としては、上記コバルト化合物を溶解することができ、かつ最終的な500℃前後の焼成工程で除去できるものであればよく、例えば、水やアルコール、有機酸などを好適に用いることができる。
【0027】
コバルト前駆体溶液のpHを4.0~7.3の範囲に調整する方法について説明する。
酢酸コバルトを主体とするコバルト化合物を溶解させた時点の溶液のpHは、その溶解量に比例するものの、一般にはpHが4.0を下回ると予想される。その場合にはアルカリ溶液を適宜混合することでpHを調整する方法などが挙げられる。しかしながら、前述のシリカ担体中の不純物として触媒活性に悪影響を及ぼす元素であるアルカリ金属、中でもナトリウム、カリウムが成分中に含まれる化合物を溶解させたアルカリ溶液は適当でなく、例えば、硝酸アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸やテトラメチルアンモニウムを水に溶解させたものやアンモニア水溶液などが好適に用いられる。また、本前駆体溶液中のpHを測定する手法としては、一般的な手法で測定することが可能であるが、例えば、pHメーター等を好適に用いることができる。
【0028】
コバルト成分の担持後は必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行う。
【0029】
コバルトの担持率は、5~50質量%であり、好ましくは10~40質量%である。この範囲を下回ると活性を十分発現しない場合があり、また、この範囲を上回ると分散度が低下して、担持したコバルトの利用効率が低下することがあり、不経済となるため、好ましくない。ここでいうコバルトの担持率とは、担持したコバルトが最終的に100%還元されるとは限らないため、100%還元されたと考えた場合の金属コバルトの質量が触媒質量全体に占める割合を指す。触媒中のコバルトの定量方法は、酸分解やアルカリ溶融等の前処理後にICP-AES法にて測定する方法とする。
【0030】
上述のようにして得られた触媒の寿命延長効果(耐久性)を評価する方法としては、触媒をオートクレーブに溶媒と共に仕込み強撹拌状態として、二酸化炭素と水素を供給しながら昇温・昇圧することでオートクレーブ内を完全混合状態に保ちながら炭化水素を製造する反応を行い、断続的に撹拌を停止する手法が挙げられる。完全混合状態では、活性点で副生した水は直ちに原料ガス、生成ガスと混合されるが、撹拌を停止した状態では副生した水とガスとの混合が進まず、副生した水は活性点近傍に滞留することになり、水への耐性が低い触媒は急速に活性低下することとなる。撹拌停止によって触媒を活性低下させた後、再度撹拌を開始し、完全混合状態として触媒活性を評価し、撹拌停止前後での活性低下の度合を評価することで副生水への耐性を把握できる。
【0031】
その他には、高圧ポンプで強制的に水をオートクレーブ内に導入して、水分圧が高い条件を作り出す手法でも評価することができる。いずれも副生水への耐性は、水分圧を高い条件とした前後での活性の比率で評価する。
【0032】
以下に、本実施形態の触媒を得る方法の一例を示す。
まず、酢酸コバルト水溶液を調製後、必要に応じて、酸性溶液を加えてpHが4.0~7.3のコバルト前駆体溶液を調製する。次いで、該コバルト前駆体溶液を、シリカを主成分とする触媒担体に含浸させた後、乾燥、又は乾燥と焼成処理を行い、必要に応じて乾燥と還元処理、又は乾燥と焼成と還元処理を行うことで、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する触媒を得ることができる。
【0033】
コバルトの含浸を行った後、必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き担体表面のコバルト化合物をコバルト金属に還元(例えば、常圧水素気流中450℃-15h、通常は250~600℃程度の範囲であるが、特に限定されない。)することで触媒が得られるが、焼成して酸化物に変化させた後にこの還元処理を行っても、焼成せずに直接還元処理を行ってもよい。
【0034】
還元処理の温度を高くしたり時間を長くしたりすることにより還元条件を厳しくすると、還元処理後に金属系化合物が酸化物の状態から金属状態まで還元される比率が高くなり、さらに極端に厳しい還元処理を行うと活性金属のみの状態にすることも可能となる。しかし、一般的な還元条件ではコバルト酸化物を一部含有する化学状態となることが多い。
【0035】
還元処理後の触媒は、大気に触れて酸化失活しないように取り扱う必要があるが、担体上のコバルト金属の表面を大気から遮断するような安定化処理を行うと、大気中での取り扱いが可能となり好適である。この安定化処理には、低濃度の酸素を含有する窒素、二酸化炭素、不活性ガスを触媒に触れさせて、担体上の活性金属の極表層のみを酸化するいわゆるパッシベーション(不動態化処理)を行ったり、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する反応を液相で行う場合には反応溶媒や溶融したワックス等に浸漬して大気と遮断したりする方法があり、状況に応じて適切な安定化処理を行えばよい。
【0036】
また、コバルト成分、担体構成元素以外の触媒中のアルカリ金属、アルカリ土類金属を所定の範囲内に制御することが、活性や液状炭化水素の選択性の向上および触媒コストに対して極めて効果的である。すなわち、触媒活性の低下を抑制するためには触媒中のアルカリ金属、アルカリ土類金属の含有量は低い方が望ましいが、極度に低減することは製造コスト面で望ましくない。その上、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムは液状炭化水素の選択性に好影響を及ぼす因子であることから、アルカリ金属、アルカリ土類金属の含有量は、これらの効果をバランスよく享受できるよう適正の範囲内に制御することが望ましい。
本実施形態のようにシリカを主成分とする担体では、前記したように、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムが担体中に含まれることが多い。活性、選択性への影響はナトリウム、カリウムが強く、中でもナトリウムの存在の影響が最も強い。すなわち、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムは、活性の低下を抑制する観点からはその含有量は少ない方が望ましいが、選択性を向上させる因子でもあることから、特にナトリウムはその含有量を適切な範囲となるよう制御することが望ましい。なお、カリウムは、上記作用の影響が強いものの、製造方法や担体の種類によって、担体中に存在しないことも多い。
【0037】
シリカを主成分とする触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計含有量は、金属換算で0.08~2.0質量%(800~20000ppm)が好ましく、より好ましくは0.2~2.0質量%、更に好ましくは0.2~1.2質量%である。触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計含有量が2.0質量%を上回ると、反応活性が低下するため、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計含有量は2.0質量%以下とすることが好ましい。
また、前述のように、活性や選択性等の触媒性能へ最も影響が大きいのは、アルカリ金属のナトリウムである。そのため、本実施形態において、触媒担体中のナトリウムの含有量は、金属換算で0.2~1.9質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.2~1.8質量%である。
なお、触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量は、後に詳述するに、シリカ担体の製造時に使用する洗浄水を調整することで制御することが可能であるが、触媒担体中のこれら元素の含有量が上記範囲未満であっても、後述するように、担体に担持すること所望の含有量に調整することも可能である。
【0038】
また、コバルトの担持操作中に、少量であればナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムが混入してもよく、具体的には、上記のとおり金属換算で2.0質量%以下であれば許容される。また本実施形態にかかる触媒の製造方法においては、極端に純度の高いコバルト前駆体を使用せずとも一定の作用効果を享受できる。すなわち、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量が極度に低減された純度の高いコバルト前駆体を用いることは製造コストを徒に高めることとなるため、触媒コストの観点から一定量以上のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムが含有されることが好ましい。また、液状炭化水素の選択性を向上させる観点から、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量を0.08質量%以上とすることが好ましい。ここで、触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの定量方法としては、例えば酸分解やアルカリ溶融等の前処理後にICP-AES法にて測定する方法が挙げられる。
【0039】
また、シリカを主成分とする触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの合計含有量が少ない場合には、これら成分を触媒担体に担持することで上記範囲内の含有量に調整することができる。
シリカを主成分とする担体へナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムを担持する方法は、通常の含浸法、インシピエントウェットネス(Incipient Wetness)法、沈殿法、イオン交換法等によればよい。担持において使用する原料(前駆体)としては、担持後に乾燥処理又は、乾燥処理及び焼成処理を行う際に、カウンターイオン(例えば炭酸ナトリウムであればNaCO中の(CO2-)が揮散するものであり、溶媒に溶解するものであれば特に制限はなく、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩等が使用可能であるが、担持操作をする際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが製造コストの低減や安全な製造作業環境の確保のためには好ましい。
【0040】
このような担体を用いて製造する触媒中のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの総量としては0.08~3.5質量%が好ましい。触媒中の不純物量の定量方法は前記触媒担体中の方法と同様であり、酸分解やアルカリ溶融等の前処理後にICP-AES法にて測定する。
【0041】
一般にシリカの製造方法は、乾式法と湿式法に大別される。乾式法としては燃焼法、アーク法等、湿式法としては沈降法、ゲル法等があり、いずれの製造方法でも触媒担体を製造することは可能である。しかしながら、ゲル法を除く上記方法では球状に成形することが技術的、経済的に困難である為、シリカゾルを気体媒体中又は液体媒体中で噴霧させて容易に球状に成形することが可能であるゲル法が好ましい。
【0042】
例えば、上記ゲル法にてシリカ担体を製造する際には、製造工程で多量の硫酸ナトリウムが生成するため、これを取り除くために通常多量の洗浄水を用いる。一方、上述したようなアルカリ金属、アルカリ土類金属の不純物の含有量を適切な範囲とする観点からは、全く洗浄しない方法や、使用する洗浄水を極端に少なくすることで硫酸ナトリウムを適切な範囲で残存させる方法が考えられる。しかし、硫酸ナトリウムを多量に含有したシリカ担体は比表面積、細孔容積、細孔径の物性制御が困難となり、活性や触媒の機械特性が不安定となるおそれがある。従って、シリカ担体の物性も同時に適切な範囲とするためには、硫酸ナトリウムの除去が必要であり、多量の洗浄水を用いた洗浄工程が必要である。なおこの洗浄工程において、工業用水等のアルカリ金属、アルカリ土類金属を多く含んだ洗浄水のみを用いると、担体中に多量のアルカリ金属、アルカリ土類金属が残留することになり、シリカ担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの含有量を上記範囲とすることが可能である。しかし、この洗浄工程において必ずしもナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの含有量を確保しなければならないわけではないので、洗浄水としてイオン交換水等のアルカリ金属、アルカリ土類金属を全く含まないものを使用することもできる。洗浄水としてイオン交換水を用いる場合は、後述するように、シリカ担体を製造後に、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの含有量を上記範囲となるよう担持させることができる。
このように、シリカ担体中のアルカリ金属、アルカリ土類金属の含有率制御の方法としては、適切な含有率の工業用水を選択する他、イオン交換水などのアルカリ金属、アルカリ土類金属を全く含まないものを工業用水と組み合わせて用いることもできる。
【0043】
洗浄工程によって、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの含有量が適切な範囲を下回る場合には、シリカ担体を製造後、これら成分を担持することで含有させることができる。シリカを主成分とする担体へこれら成分を担持する方法は、通常の含浸法、インシピエントウェットネス(Incipient Wetness)法、沈殿法、イオン交換法等によればよい。担持において使用する原料(前駆体)である化合物としては、溶媒に溶解するものであれば特に制限はなく、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、水酸化物等が使用可能であるが、担持操作をする際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが製造コストの低減や安全な製造作業環境の確保のためには好ましい。なお、水溶液にした際にアルカリ性が強すぎるものは、シリカ担体を溶解させることがあるため、アルカリ性であっても弱いもの、例えば炭酸塩が好ましい。
【0044】
シリカ担体は鉄、アルミニウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属以外の不純物が含まれることが多く、これら不純物の含有量を低下させることで触媒性能を向上させることが好ましい。
また、触媒中のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムを適切な範囲に制御する方法としては、シリカ担体の製造段階においては、担体の物性制御の観点から、これらのアルカリ金属およびアルカリ土類金属を含めて可能な限り不純物量を低下させておき、その後に、アルカリ金属、アルカリ土類金属を担持させることが好ましい。
【0045】
以上述べたような担体を用いて触媒を製造することにより、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する反応において液状炭化水素の選択性や活性、耐久性を高めることができるため、液状炭化水素の生産量が高い触媒を得ることが可能となる。
【0046】
シリカ担体の物理性状としては特に限定されないが、触媒活性の観点からは、金属の分散度を高く保ち、さらに、担持したコバルト金属の反応に寄与する効率を向上させるためには、高比表面積の担体を使用することが好ましい。しかし、担体の比表面積を大きくするためには、気孔径を小さくする、細孔容積を大きくする必要があるものの、この二つの要因を増大させると、耐摩耗性や強度が低下することになるため、以下に示す範囲とすることが、活性、強度の両面から好ましい。すなわち、担体の物理性状としては、細孔径が8~50nm、比表面積が80~450m/g、細孔容積が0.3~2.0mL/gを同時に満足するものが、触媒用の担体として好適である。細孔径が8~30nm、比表面積が100~400m/g、細孔容積が0.4~1.5mL/gを同時に満足するものであればより好ましく、細孔径が10~20nm、比表面積が150~350m/g、細孔容積が0.4~1.2mL/gを同時に満足するものであれば更に好ましい。上記の比表面積はBET法で、細孔容積は水銀圧入法で測定することができる。また、細孔径はガス吸着法で測定することが可能である。
【0047】
二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する反応に十分な活性を発現する触媒を得るためには、触媒担体の比表面積は80m/g以上であることが望ましい。この比表面積を下回ると、担持した金属の分散度が低下してしまい、活性金属の反応への寄与効率が低下するため好ましくない。また、比表面積を450m/g超とすると、細孔容積と細孔径が上記範囲を同時に満足することが困難となり好ましくない。そのため、触媒担体の比表面積は80~450m/gとすることが好ましい。
【0048】
触媒担体の細孔径を小さくするほど比表面積を大きくすることが可能となるが、8nmを下回ると、細孔内のガス拡散速度が水素と二酸化炭素では異なり、細孔の奥へ行くほど水素分圧が高くなるという結果を招き、メタン等の軽質炭化水素が多量に生成することになることに加えて、生成した炭化水素の細孔内拡散速度も低下し、結果として、見かけの反応速度を低下させることとなるため、細孔径は8nm以上とすることが好ましい。また、一定の細孔容積で比較を行うと、細孔径が大きくなるほど比表面積が低下するため、細孔径が50nmを超えると、比表面積を増大させることが困難となり、活性金属の分散度が低下してしまうため、細孔径は50nm以下とすることが好ましい。
【0049】
触媒担体の細孔容積は0.3~2.0mL/gの範囲内にあるものが好ましい。触媒担体が0.3mL/gを下回るものでは、細孔径と比表面積が上記範囲を同時に満足することが困難となり好ましくなく、また、触媒担体の2.0mL/gを上回る値とすると、強度が低下してしまうため、好ましくない。
【0050】
前述したように、スラリー床を用いた液相反応用の触媒には、耐摩耗性、強度が要求される。また、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する反応では、水が副生するために、水の存在下で破壊、粉化するような触媒又は担体を用いると、前述したような不都合が生じることになるために注意を要する。よって、予亀裂が入っている可能性が高く、鋭角な角が折損、剥離し易い破砕状の担体ではなく、球状の担体を用いた触媒が好ましい。球状の度合については、例えば、形状の複雑さを測る指標の1つであって、粒子を画像解析した際の二次元画像における面積と周囲長を元に数値で表現する円形度を用いて規定した場合、この円形度が0.7以上の担体が好ましい。球状の担体を製造する際には、一般的なスプレードライ法等の噴霧法を用いればよい。特に、20~250μm程度の粒径の球状シリカ担体を製造する際には、噴霧法が適しており、耐摩耗性、強度、耐水性に優れた球状シリカ担体が得られる。
【0051】
本実施形態による製造方法によって製造した触媒は、高い耐久性を有するため、反応によって副生する水が流動上の滞留域において分圧が高くなるスラリー床の他、通常の固定床や、マイクロチャネル反応器での反応においても、副生水によって一定の分圧を持つため、良好な寿命特性を示す。
【0052】
二酸化炭素を排出する発生源において、炭化水素への変換プラントを併設する比較的小規模なプラントの場合、極微細な溝を多数有するマイクロチャネル反応器が有利となる可能性が考えられるが、ミリオーダー以下の流路に触媒を充填することを考慮すると、スラリー床の場合と同様に、シリカ担体の粒径は20~250μm程度が好ましい。
【0053】
このようなシリカ担体の製造法を以下に例示する。
珪酸アルカリ水溶液と酸水溶液とを混合し、pHが2~10.5となる条件で生成させたシリカゾルを、空気等の気体媒体中又は前記ゾルと不溶性の有機溶媒中へ噴霧してゲル化させ、次いで、酸処理、水洗、乾燥する。ここで、珪酸アルカリとしては珪酸ソーダ水溶液が好適で、NaO:SiOのモル比は1:1~1:5、シリカの濃度は5~30質量%が好ましい。用いる酸としては、硝酸、塩酸、硫酸、有機酸等が使用できるが、製造する際の容器への腐食を防ぎ、有機物が残留しないという観点からは、硫酸が好ましい。酸の濃度は1~10mol/Lが好ましく、この範囲を下回るとゲル化の進行が著しく遅くなり、また、この範囲を上回るとゲル化速度が速過ぎてその制御が困難となり、所望の物性値を得ることが難しくなるため、好ましくない。また、ゲル化させる際に有機溶媒中へ噴霧する方法を採用する場合には、有機溶媒として、ケロシン、パラフィン、キシレン、トルエン等を用いることができる。
【0054】
以上、本実施形態に係る触媒の製造方法を説明してきたが、上記のような構成あるいは製造法を用いれば、強度や耐摩耗性を損なうことなく、高い活性を発現し、高い選択性を有する、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造する触媒の提供が可能となる。
また、このような触媒を用い、二酸化炭素と水素を原料として炭化水素を製造することにより、比較的低い反応温度でも十分な活性を発揮できるため、十分な量の炭化水素を生産することが可能となる。
【0055】
なお、炭化水素への変換プラントとして、マイクロチャネル反応器ではない通常の固定床を採用する場合には、反応器内での圧力損失を勘案して、触媒はペレット状の形状に成型することが好ましく、例えば、シリカを主成分とする触媒担体を含有する前駆体を押出成型にて加工することが可能である。
【0056】
なお、本実施形態の炭化水素の製造方法で使用する二酸化炭素と水素の混合ガスには、二酸化炭素と水素の合計が全体の50体積%以上であるガスが生産性の面から好ましく、特に、水素と二酸化炭素のモル比(水素/一酸化炭素)が0.5~4.0の範囲であることが望ましい。これは、水素と二酸化炭素のモル比が0.5未満の場合には、原料ガス中の水素の存在量が少な過ぎるため、二酸化炭素の水素化反応が進み難く、生産性が高くならないためであり、一方、水素と二酸化炭素のモル比が4.0を超える場合には、原料ガス中の二酸化炭素の存在量が少な過ぎるため、触媒活性に関わらず液状炭化水素の生産性が高くならないためである。
【実施例
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0058】
酢酸コバルト四水和物を前駆体として、コバルト濃度として5%の水溶液を調製し、さらに5mol/Lの硝酸水溶液を混合して、pHが1.1~7.0となるように調整した。この水溶液を用い、表1に示すような、シリカを主成分とする触媒担体(比表面積:300m/g、平均粒径:100μm)にインシピエントウェットネス法でコバルト成分を担持した。なお、触媒担体中のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの含有量は、担体製造時の洗浄工程の制御することで調整した。
その後、乾燥処理、焼成処理、還元処理、パッシベーション処理を施し、触媒を調整した。得られた触媒A~Kについては表1~3に示す通りである。
【0059】
触媒の反応性を評価するため、内容積300mLのオートクレーブを用い、上述のようにして調製した1.5gの触媒(Co担持率は20~30質量%)と100mLのn-C16(n-ヘキサデカン)を仕込んだ後、220℃、2.0MPa-Gの条件下、撹拌子を800min-1で回転させながら、W(触媒質量)/F(二酸化炭素と水素の混合ガス流量)=3.0(g・h/mol)となるように当該混合ガス(H/CO=3.0(モル比))を調整して流通させた。そして、反応中、供給ガス及びオートクレーブ出口ガスの組成をガスクロマトグラフィーにより求め、CO転化率、CH選択率、C選択率、C選択率、C選択率、C5+選択率、炭素数5以上の液状炭化水素の生産性(C5+生産性(g/kg-cat.h))を得た。
【0060】
また、触媒の耐水性を評価するため、以下の実験を実施した。
内容積300mLのオートクレーブを用い、上述の方法で調整した1.5gの触媒と100mLのn-C16を仕込んだ後、230℃-2.2MPa-G、オートクレーブの撹拌速度を800min-1に保持した条件で、CO転化率が25%となるようにW/FのF(H/CO=3.0の混合ガス)を調整し、数時間の安定運転後、撹拌を停止して6h保持した。その後、再度、撹拌速度を800min-1に設定し、さらに数時間の安定運転を実施した。撹拌停止中は活性点近傍では局所的に副生する水が滞留し、触媒が失活し易い条件となるため、撹拌停止による活性低下の度合を把握することで、触媒寿命を評価することが可能である。反応中は供給ガス及びオートクレーブ出口ガスの組成をガスクロマトグラフィーにより求め、撹拌停止前のCO転化率、撹拌再開後のCO転化率を得て活性保持率を求めた。
この活性保持率が高い触媒である程、活性の低下が抑制され耐水性(耐久性)に優れたた触媒であると評価できる。
【0061】
表1~3に記載したCO転化率、CH選択率、C選択率、C選択率、C選択率、C5+選択率、活性保持率は、それぞれ次に示す式により算出した。
【0062】
【数1】
【0063】
以上説明した製造方法によって、表1~3に示す触媒A~Kそれぞれを調整し、以上の評価方法によって選択性、活性保持率を評価した。表1~3に実施例、比較例の反応結果をまとめた。
【0064】
(実施例1)
表1のAに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率24.4%、CH選択率90.1%、C選択率0.9%、C選択率0.3%、C選択率0.1%、C5+選択率8.6%、C5+生産性30g/kg-cat.h、活性保持率90.3%であった。実施例1では担体中のNa、K、Ca、Mgの合計含有量(濃度)が、好ましい範囲未満だったので、他の実施例に比べてC5+選択率が少々低い結果となった。
【0065】
(実施例2)
表1のBに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率22.5%、CH選択率83.5%、C選択率2.5%、C選択率2.6%、C選択率1.0%、C5+選択率10.4%、C5+生産性33g/kg-cat.h、活性保持率89.9%であった。
【0066】
(実施例3)
表1のCに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率20.2%、CH選択率81.7%、C選択率2.1%、C選択率1.8%、C選択率1.1%、C5+選択率13.3%、C5+生産性38g/kg-cat.h、活性保持率91.3%であった。
【0067】
(実施例4)
表1のDに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率18.1%、CH選択率82.1%、C選択率1.7%、C選択率1.8%、C選択率1.0%、C5+選択率13.4%、C5+生産性34g/kg-cat.h、活性保持率90.6%であった。
【0068】
(実施例5)
表1のEに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率14.9%、CH選択率85.1%、C選択率2.7%、C選択率1.6%、C選択率0.7%、C5+選択率9.9%、C5+生産性21g/kg-cat.h、活性保持率87.4%であった。実施例5では担体中のNa、K、Ca、Mgの合計含有量(濃度)が、好ましい範囲を超えたので、他の実施例に比べて活性保持率が少々低い結果となった。
【0069】
(実施例6)
表2のFに示すような触媒を、コバルト前駆体のpHが4.0となるように5.0mol/Lの硝酸水溶液を混合して調整した水溶液を用いて調製し、反応を行ったところ、CO転化率19.1%、CH選択率79.1%、C選択率2.0%、C選択率1.3%、C選択率1.0%、C5+選択率16.6%、C5+生産性45g/kg-cat.h、活性保持率82.1%であった。
【0070】
(実施例7)
表2のGに示すような触媒を、酢酸コバルト四水和物と硝酸コバルト六水和物が重量比で4:1の割合で用いてpHが4.5となるように調整した水溶液を用いて調製し、反応を行ったところ、CO転化率19.6%、CH選択率78.7%、C選択率2.1%、C選択率1.5%、C選択率1.1%、C5+選択率16.6%、C5+生産性46g/kg-cat.h、活性保持率84.8%であった。
【0071】
(実施例8)
表2のHに示すような触媒を、コバルト前駆体のpHが7.0となるように5.0mol/Lの硝酸水溶液を混合して調整した水溶液を用いて調製し、反応を行ったところ、CO転化率21.0%、CH選択率82.2%、C選択率2.2%、C選択率1.7%、C選択率1.0%、C5+選択率12.9%、C5+生産性38g/kg-cat.h、活性保持率92.4%であった。
【0072】
(実施例9)
表2のIに示すような触媒を用いて反応を行ったところ、CO転化率16.4%、CH選択率85.1%、C選択率1.8%、C選択率1.3%、C選択率0.7%、C5+選択率11.1%、C5+生産性26g/kg-cat.h、活性保持率91.5%であった。
【0073】
(比較例1)
表3のJに示すような触媒を、酢酸コバルト四水和物と硝酸コバルト六水和物が重量比で1:5の割合で用いてpHが2.0となるように調整した水溶液を用いて調製し、反応を行ったところ、CO転化率18.8%、CH選択率79.1%、C選択率2.0%、C選択率1.3%、C選択率1.1%、C5+選択率16.5%、C5+生産性44g/kg-cat.h、活性保持率76.2%であった。
【0074】
(比較例2)
表3のKに示すような触媒を、硝酸コバルト六水和物を前駆体として調製し、反応を行ったところ、CO転化率18.5%、CH選択率78.5%、C選択率2.1%、C選択率1.2%、C選択率1.0%、C5+選択率17.3%、C5+生産性45g/kg-cat.h、活性保持率74.3%であった。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】