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特許7012658アミロイドβタンパク質の排出を刺激する組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】アミロイドβタンパク質の排出を刺激する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/203 20060101AFI20220204BHJP
   A61K 31/07 20060101ALI20220204BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20220204BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220204BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
A61K31/203
A61K31/07
A61K31/192
A61P25/28
A61P43/00 121
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018549168
(86)(22)【出願日】2017-03-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 US2017021799
(87)【国際公開番号】W WO2017160629
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-09
(31)【優先権主張番号】62/308,374
(32)【優先日】2016-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517318218
【氏名又は名称】ラッシュ ユニヴァーシティ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】パハン カリパダ
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ アルナヴァ
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0313863(US,A1)
【文献】The Journal of Biological Chemistry,2015年,Vol.290, No.16,pp.10309-10324
【文献】The Journal of Neuroscience,2014年,Vol.34, No.29,pp.9607-9620
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 45/00-45/08
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の脳内のアミロイドβタンパク質集合体を低減するための組成物であって、治療効果量のビタミンA又はレチノイン酸と増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)のアゴニストの組合せを含み、前記PPARαのアゴニストがゲムフィブロジルであり、前記治療効果量がアストロサイトによるアミロイドβタンパク質の取り込みを刺激し、かつアストロサイトにおけるアミロイドβタンパク質の分解を刺激する量である、成物。
【請求項2】
前記組成物がレチノイン酸を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が少なくとも1つの薬学的に許容される担体を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が経口投与されるための組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、皮下、関節内、皮内、静脈内、腹腔内及び筋肉内経路から成る群より選択される経路によって投与されるための組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、直接対象の中枢神経系に投与されるための組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記対象が、アルツハイマー病の症状を示す対象である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
対象の脳内のアミロイドβタンパク質集合体を低減するための組成物であって、治療効果量のレチノイン酸とゲムフィブロジルの組合せを含み、前記治療効果量がアストロサイトによるアミロイドβタンパク質の取り込みを刺激し、アストロサイトにおけるアミロイドβタンパク質の分解を刺激し、かつ対象の脳内のアミロイドβタンパク質集合体を低減する量であり、前記組成物が少なくとも1つの薬学的に許容される担体を更に含む、組成物。
【請求項9】
前記組成物が経口投与される、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、皮下、関節内、皮内、静脈内、腹腔内及び筋肉内経路から成る群より選択される経路によって投与される、請求項に記載の組性物。
【請求項11】
前記組成物が、直接対象の中枢神経系に投与される、請求項に記載の組成物。
【請求項12】
前記対象が、アルツハイマー病の症状を示す対象である、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本特許出願は、2016年3月15日に出願された米国仮特許出願第62/308,374号の出願日の利益を請求するものであり、参照によりその内容を本明細書に援用する。
本発明は、一般的に、アミロイドβタンパク質集合体のアストログリアによる取り込み及び分解を刺激するための組成物及び方法に関連する。本発明の一態様は、臨床的に効果のある量のビタミンA又はその誘導体と増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)のアゴニストの組合せを、そのような治療を必要とするヒト又は獣医学的対象に投与することを含む、アルツハイマー病を予防又は治療する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、古典的な記憶障害と認知障害を伴う進行性の神経変性疾患である。アルツハイマー病の病理学的特徴は、アミロイドβオリゴマー(Aβ40/42)で構成される老人斑(SP)の存在、及び神経原繊維濃縮体(NFT)の形成であり、脳の大脳皮質及び海馬中でのタウの異常リン酸化に起源がある(1,2)。Aβの異常蓄積及びNFTの形成は、神経炎症及びそれに伴うニューロン損失を誘発し、アルツハイマー病の主要な原因となる(3)。
集合傾向のあるAβ40/42断片は、アミロイド先駆タンパク質(APP)上のβ-及びγ-セクレターゼの連続的な活動により生成され、α-セクレターゼの活動は、集合傾向にはない溶解性APP(sAPP)断片を産生する(4,5)。αセクレターゼは主として形質膜に結合するが、多くのβ-セクレターゼは、エンドソーム-リソソームコンパートメントに存在する(6,7)。加えて、いくつかのカテプシン(D及びE)は、β-/γ-セクレターゼ類似の活動を示すことができた(8)。APPの処理は分泌経路又はエンドソーム-リソソーム経路のいずれかで起こり得る。新たに合成されたAPPは、形質膜に運ばれ、そこで主にα-セクレターゼによって処理されるか(分泌経路)、時にはAPPはエンドサイトーシスによってエンドソームにリサイクルされ、そこでβ-及びγ-セクレターゼによって処理され(エンドソーム-リソソーム経路)、Aβ断片を生成するかのいずれかが可能である(9,10)。
通常条件下では、リソソーム中の他のプロテアーゼ(主にカテプシンB)による更なる切断がAβ断片をさらに小さな無害な断片に分解し、それはリサイクル又は細胞から抹消される(11)。また、インビトロ、インビボの両方の条件で、細胞外Aβはまたエンドサイトーシスされ、リソソーム中で分解されることができた(12)。老化又はその他の病的状況によるリソソーム機能の低下は、リソソーム内でのAβ断片の異常蓄積及びリソソーム負荷の増加をもたらし得る。これが、リソソーム膜の破裂につながる可能性があり、それにより毒性のAβが細胞基質に放出されるのみならず、ネクローシス性又はアポトーシス性の細胞死を開始することができるリソソーム膜透過性(LMP)を誘発する(13)。したがって、リソソーム機能の向上が、アルツハイマー病におけるAβ排出の可能性ある治療機構となり得る、ということが肝要である。
【発明の概要】
【0003】
(好ましい実施形態の概要)
ある態様において、本発明は、そのような治療を必要とする対象に、治療効果量の増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)のアゴニストとビタミンA又はその誘導体の組合せを含む組成物を投与することを含む対象の脳内におけるアミロイドβタンパク質集合体を低減させる方法を提供する。ある実施形態において、前記アゴニストは、両親媒性のカルボン酸である。別の実施形態では、アゴニストは、クロフィブラート、ゲムフィブロジル、シプロフィブラート、 ベザフィブラート、クリノフィブラート又はフェノフィブラートである。前記組成物はまた少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含むことができる。
別の実施形態では、治療効果量は脳内に存在するアストロサイトによるアミロイドβタンパク質の取り込みを刺激する量である。また別の実施形態において、治療効果量は、そのようなアストロサイトによるアミロイドβタンパク質の分解を刺激する量である。
【0004】
対象はヒト、例えば、アルツハイマー病の症状を提示するヒト対象であってよい。前記組成物は経口投与されてよい。代替的に、前記組成物は、皮下、関節内、皮内、静脈内、腹腔内又は筋肉内経路で投与される。別の実施形態では、前記組成物は、直接中枢神経系に投与される。
本発明の別の態様は、治療効果量の増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)のアゴニストを含む組成物を対象に投与することを含む、対象の脳の脳内アミロイドβタンパク質集合体を低減するための方法を提供する。特定の実施形態では、前記アゴニストは、両親媒性カルボン酸である。前記アゴニストは、例えば、クロフィブラート、ゲムフィブロジル、シプロフィブラート、 ベザフィブラート、クリノフィブラート又はフェノフィブラートであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1A-B】図1(A-B)は、GFBとRA処置が、マウス初代アストロサイトにおけるAβ取り込みを向上させることを示す。図1(A)において、マウス初代アストロサイトを、24時間、GFBとRAで処置し、続いて、500nMのFAM-タグ付加Aβオリゴマー(1-42)とともに、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、8時間インキュベートした。Aβ取り込みアッセイは本明細書に記載の方法で実施した。データはDMSO処置対照との比較によるパーセンテージ変化で示す。図1(B)は、マウス初代アストロサイトをGFB及びRAで処置し、500nMのHF-Aβ(1-42)及び75nMのLysotracker Redとともに観察前にインキュベートしたものの顕微鏡写真を示す。スケールバー=20μM。p*<0.05、DMSO処置対照に対して。全てのデータは3つの独立した実験の平均±標準誤差を表す。
図2A-D】図2(A-C)は、HSPG、TFEB及びLDLRの、マウス初代アストロサイトにおけるGFB及びRA仲介Aβ取り込みにおける効果を示す。図2(A):マウス初代アストロサイトをDMSO又はGFB-RAで処置し、続いてヘパリン希釈物(100μg/ml)で処置し、更に500nMのFAM-Aβ中で4時間インキュベートした。Aβ取り込みアッセイを実施し、データを非処置対照に対するパーセンテージ変化で表す。図2(B):マウス初代アストロサイトにスクランブルsiRNA、Tfeb siRNA又はLDLR siRNAを形質移入し、GFB-RAで処置し、続いて500nMのFAM-Aβ中で4時間インキュベートした。Aβ取り込みアッセイからのデータは、DMSO及びスクランブルsiRNA処置対照に対するパーセンテージ変化で表す。図2C:定量RT-PCRを実施し、siRNAによるLDLRサイレンシングの有効性及びPPARα(-/-)細胞のLDLRレベルを測定した。図2(D):定量RT-PCRを実施し、siRNAによる、TFEBサイレンシングの効果を測定した。p*<0.05、対象に対して;ns-有意差なし。全てのデータは3つの独立した実験の平均±標準誤差を表す。
図3A-D】図3(A-D)は、GFB及びRA処置が、マウス初代アストロサイト中のAβ分解を向上させることを示す。図3(A):マウス初代アストロサイトを24時間GFB及びRA処置し、続いて500nMのFAM-タグ付加Aβオリゴマー(1-42)とともに4時間インキュベートし、Aβを含まない培地で15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間及び8時間成長させた。Aβ分解アッセイを方法セクションに記載のとおり実施した。データは、非洗浄対照との比較によるパーセンテージ変化で表した。図3(B):GFB及びRA処置したマウス初代アストロサイトを、500nMのHF-Aβ(1-42)とともにインキュベートし、4時間及び6時間洗浄して、更に75nMのLysotracker Redとともにインキュベートし、顕微鏡下で観察した。スケールバー=20μM。p*<0.05、非洗浄対照に対して。図3(C):マウス初代アストロサイトをGFB及びRAで24時間処置し、続いて100nMのバフィロマイシンA1とともに45分間処置して、500nMのFAM-Aβとともにインキュベートし、Aβを含まない培地で6時間洗浄し、分解アッセイを実施した。データは、非洗浄対照に対するパーセンテージ変化で表す。図3(D):DMSO又はGFB-RAとともに処置する前に、スクランブルsiRNA又はTfeb siRNAのいずれかを形質移入したマウス初代アストロサイトでAβ分解アッセイを行った。データは、DMSO処置し、スクランブルsiRNAを形質移入した対照と比較する。p*<0.05、対照に対して:ns-有意差なし。全てのデータは3つの独立した実験の平均±標準誤差を表す。全てのデータは3つの独立した実験の平均±標準誤差を表す。
図4A-E】図4(A-E)は、マウス初代アストロサイト中のAβ取り込み及び分解におけるPPARα及びPPARβの役割を示す。図4(A):PPARα(-/-)、PPARβ(-/-)及びWT動物から単離したマウス初代アストロサイトを単離し、GFB-RA又はDMSOで処置し、続いて500nMのFAM-Aβとともにインキュベートし、Aβ取り込みアッセイに供した。データをDMSO処置したWT対照と比較し、パーセンテージ変化で表した。p*<0.05、対照に対して:ns-有意差なし。図4(B):PPARα(-/-)、PPARβ(-/-)及びWT動物から単離したマウス初代アストロサイトを単離し、GFB-RAで処置し、続いて500nMのFAM-Aβで4時間インキュベートし、Aβを含まない培地で6時間洗浄し、Aβ分解アッセイに供した。データの分析は「議論」の箇所で詳細に記載する。p*<0.05、対照に対して:ns-有意差なし。WT(図4(C))、PPARα(-/-)(図4(D))及びPPARβ(-/-)(図4(E))動物から単離されたマウス初代アストロサイトを単離し、DMSOで処置し、続いて500nMのHF-647-Aβとともに4時間、75nMのLysotrackerで45分間インキュベートし(第1パネル)、GFB-RAで処置し、続いて500nMのHF-647-Aβとともに4時間、75nMのLysotrackerで45分間インキュベートし(第2パネル)、GFB-RAで処置し、続いて500nMのHF-647-Aβとともに4時間インキュベートし、Aβを含まない培地で6時間洗浄して、75nMのLysotracker中で45分間インキュベートし(第3パネル)、顕微鏡下で観察した。スケールバー=20μm。全てのデータは3つの独立した実験の平均±標準誤差を表す。
図5A-F】図5(A-F)は、GFB-RA処置がリソソーム活動をオートファジーフラックスと同様増加させたことを示す。図5(A-B)マウス初代アストロサイトを、形質移入しないか、スクランブルsiRNA又はTfeb siRNAを形質移入して、DMSO又はGFB-RAで処置した。全細胞抽出を調製し、CtsB(A)及びCtsD(B)のためカテプシンアッセイ(本明細書に詳細記載する)に供した。図5(B)DMSO又はGFB-RAで処置した細胞からの全細胞抽出を用いてCtsB及びCtsDのレベルについてイムノブロットを実施した。図5(D)イムノブロットの濃度測定分析、β-アクチンで正規化。図5(E)100nMバフィロマイシンA1又は500nMAβオリゴマーの存在若しくは非存在下で、マウス初代アストロサイトをDMSO又はGFB-RA処置した。全細胞抽出をLC3及びp62のレベルのためにイムノブロットに供した。図5(F)イムノブロットの濃度測定分析、β-アクチンで正規化。p*<0.05、対照に対して;ns-有意差なし。全てのデータは3つの独立した実験の平均±標準誤差を表す。
図6図6は、異なるIFチャンネル中の漏れ込みシグナルについての試験を示す。マウス初代アストロサイトをDMEM/F12培地で培養し、別々にLysoTracker Red(上部パネル)及びHF647-Aβ(下部パネル)で染色した。Dapiを核の染色に用いた。IF顕微鏡下で、DAPI、Cy2、Cy3及びCy5チャンネル中で細胞を観察した。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
(定義)
別途定義されない限り、本明細書で用いられる全ての技術的及び科学的用語は、本発明が関連する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。争いが生じる場合は、本文書が、定義を含めて、支配権を有するであろう。好ましい方法及び物質は以下に記載されるが、本明細書に記載されたものと同様または同等の方法及び物質を、本発明の実施又は試験において、用いることができる。
「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」という用語の使用及び発明を記述する文脈(特に以下の特許請求の範囲の文脈)における類似の引用は、別途本明細書に示される、あるいは明らかに文脈的に矛盾しない限り、単数及び複数の両方を含むものと解釈される。本明細書における値の範囲の列挙は、別途本明細書に示されない限り、単に当該範囲に入るそれぞれ別個の値を個別に参照することの略式の方法として用いることを意図したものであり、それぞれの別個の値は、あたかも個別に本明細書に列挙されたかのように明細書に編入される。本明細書に記述された全ての方法は、別途本明細書に示される、または明確に文脈的に矛盾しない限り、いずれか適切な順番で実施することができる。本明細書で提供される、任意の及び全ての例または例示的な言葉(例えば「などの」、「たとえば」)の使用は、単に本発明をよりよく解明することを意図したものであり、別途請求されていない限り、本発明の対象範囲に限界を付すものではない。本明細書の文言は、任意の請求されていない要素が本発明の実施にとって本質的であることを示していると解釈されるべきでない。
「治療効果」という用語は、本明細書で用いられる場合、病理症状、病勢進行、または、例えば、ヒトまたは動物の対象の脳内におけるアミロイドβタンパク質の集合のような不調に屈服することに関係した生理的状態又は抵抗することについて、好転、またはその他の点での改善を誘発する効果を意味する。「治療効果のある量」という用語は、薬について用いられる場合、ヒトまたは動物の患者に治療効果を与える薬の量を意味する。
【0007】
(アミロイドβタンパク質の排出を刺激する方法)
アルツハイマー病は最も一般的なヒト神経変性疾患であり、進行性のニューロン死と記憶喪失をもたらす。神経病理学的にこの病気は、アミロイドβ(Aβ)タンパク質の集合体、40-43アミノ酸タンパク質分解断片の構成する神経原繊維変化と老人斑の両方の存在によって特徴づけられる。アルツハイマー病の脳において、ニューロンが死ぬ一方で、アストロサイトやミクログリアのようなグリア細胞は死なない。アストロサイトは脳内の主要な細胞タイプであり、進行したアルツハイマー病においてさえ、アミロイド斑を破砕するために用いられている可能性がある。
治療効果量の増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)のアゴニストを含む組成物の投与はアストロサイト中のアミロイドβ(Aβ)の取り込み及び分解を刺激する。前記組成物はまた、ビタミンA又はその誘導体を含んでよい。前記アゴニストは、両親媒性カルボン酸であることができる。ある特定の実施形態では、前記アゴニストは、クロフィブラート、ゲムフィブロジル、シプロフィブラート、ベザフィブラート、クリノフィブラート又はフェノフィブラートである。ある好ましい実施形態において、前記組成物は、ゲムフィブロジルとレチノイン酸の組合せを含む。
【0008】
FDAに承認された脂質低下剤であるゲムフィブロジル及びビタミンA誘導体レチノイン酸はアミロイドβ(Aβ)のアストロサイト中での取り込み及び分解を刺激する。低密度リポタンパク質受容体(LDLR)は、前記取り込みにおいて重要な役割を果たし、TFEBが仲介するリソソーム活動の誘発が前記分解に決定的に重要である。ゲムフィブロジルとレチノイン酸処置はまた、アストロサイト中でオートファジーフラックス及びリソソーム活動を増加し、LC3-11形成の増加及びカテプシン(B/D)活性の増加からそれぞれ観察された。
さらに、ゲムフィブロジルとレチノイン酸のAβ取り込み/分解に与える効果は、ゲムフィブロジル-レチノイン酸が仲介するTFEBの誘導に重要な役割を果たすペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)の不存在にあっては停止する。これらの結果は、PPARαが、リソソームA(3排出の向上を通じて、アストログリアのAβ取り込み及び分解の重要な制御因子であることを明らかにし、ビタミンA誘導体レチノイン酸及びゲムフィブロジル又はその他のPPARαアゴニストの組合せがアルツハイマー病患者におけるAβ斑負荷を低減し得ることを示唆する。
ゲムフィブロジル、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)のアゴニストはそれのみで、及び全てのトランスレチノイン酸(RA)と共に、脳細胞中のTFEBを向上させることができる。レチノイドX受容体(RXRα)及び、PPARβ及びPPARγではなくPPARαが、GFB-仲介TFEBの上方制御に関与している。レポーターアッセイ及びクロマチン免疫沈降調査により、Tfeb促進因子のPPAR結合サイト上での、RXRα、PPARα及びPPARγ共活性因子1α(PGCα)の補充を確認した。続いて、薬が仲介するTFEBの誘導は、細胞内での特定のリソソームタンパク質の増加及びリソソーム増殖を引き起こした(14)。これらの発見はまた、TFEB促進因子上のPGC1αの補充によるTFEBの転写制御を示した別の研究と整合した(15,16)。
【0009】
マウスアストロサイトによるAβ取り込み及び分解におけるリソソーム活動の向上は、インビトロAβ取り込み及び分解アッセイを用いて評価され、細胞内Aβ負荷の顕微鏡観察によって支持された。GFB-RAで刺激した場合、Aβの取り込み及び分解の両方の著しい増加が、WT及びPPARβ(-/-)細胞で観察されたが、PPARα(-/-)細胞では観察されなかった。LDLRsiRNAによるLDLRのサイレンシングは、Aβ取り込み率を低減したが、TFEBの遺伝子サイレンシングは、分解率を低減した。さらに、GFB-RA処置により仲介することができたオートファジーフラックス及びリソソーム活動において、著しい変化が、カテプシンB/D(CtsB/D)、LC3-I/II及びp62のレベルをモニターすることによって観察された。我々のデータは、PPARα:RXRα:PGC1α活性によるTFEB上方制御(及び生物発生リソソームの増加)が、Aβ取り込みの増加、及びこれに続くマウス初代アストロサイト中のリソソーム中におけるエンドサイトースされたAβの分解を導くことを示す。
【0010】
(医薬組成物)
本発明の別の態様は、増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)又はPPARαのアゴニストである薬剤を含む医薬組成物を提供する。ある実施形態では、前記アゴニストは、両親媒性カルボン酸である。例えば、前記アゴニストは、クロフィブラート、ゲムフィブロジル、シプロフィブラート、ベザフィブラート、クリノフィブラート又はフェノフィブラートであってよい。また別の本発明の態様は、増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)又はPPARαのアゴニストとビタミンA又はその誘導体である薬剤の組合せを含む医薬組成物を提供する。ある好ましい実施形態では、前記医薬組成物は、ゲムフィブロジルとレチノイン酸を含む。
前記医薬組成物は、例えば、錠剤、ピル、糖衣錠、硬及び軟ゲルカプセル、顆粒、ペレット、水性、脂質、油性またはその他の溶液、水中油型乳剤のような乳剤、リポソーム、水性あるいは油性懸濁液、シロップ、エリキシール(alixiers)、固体乳剤、固体分散剤、または分散性パウダーの形状を取ることができる。経口投与のための医薬組成物中では、該薬剤は、一般的に知られ、使用されているアジュバント及び賦形剤、例えば、アラビアゴム、滑石、デンプン、糖(例えば、マンニトース、メチルセルロース、ラクトース)、ゼラチン、界面活性剤、ステアリン酸マグネシウム、水溶性または非水溶性溶媒、パラフィン誘導体、架橋剤、分散剤、乳化剤、潤滑剤、保存料、香味料(例えば、精油)、溶解性向上剤(例えば、ベンジルベンゾエートまたはベンジルアルコール)または生物学的利用能向上剤(例えばGELUCIRE)と混合してもよい。医薬組成物中で、該薬剤はまた、微小粒子、例えばナノ粒子組成物中に分散されてもよい。
非経口投与のため、該薬剤または該薬剤の医薬組成物は、生理的に許容される希釈剤、例えば、水、バッファー、溶解剤と共に、あるいは抜きの油、界面活性剤、分散剤または乳化剤に溶解しまたは懸濁させることができる。油としては、例えば、オリーブオイル、ピーナッツオイル、綿実油、大豆油、ひまし油及びごま油が用いられ得るがこれらに限定するものではない。より一般的には、非経口投与のため、該薬剤または該薬剤の医薬組成物は、水性、脂質、油性またはその他の種類の溶液または懸濁液の形状であってもよく、あるいはリポソームまたはナノ懸濁液の形状で投与されてさえよい。
【0011】
(投与方法)
前記医薬組成物は、治療効果量の該薬剤を対象に送達することを可能とするいかなる方法によって投与されてもよい。投与方法としては、経口、局所、経皮及び非経口経路が、組織への直接注入やカテーテルによる送達と同様に挙げられるが、これらに限られるわけではない。非経口経路としては、皮下、皮内、関節内、静脈内、腹腔内及び筋肉内の経路が挙げられるが、これに限られるわけではない。ある実施形態では、投与経路は局所または経皮投与であり、例えば、ローション、クリーム、パッチ、注射、体内埋め込み装置、移植装置またはその他の制御された放出担体による。投与経路には、いかなる非経口経路も含め、組成物を大循環に直接送達するいかなる経路(例えば、注射)も含まれる。あるいは、投与は、中枢神経系への直接の送達によってもよい。
本発明による方法の一つの実施形態は、前記組成物を、アルツハイマー病の発達を阻害若しくはその程度を小さくするために十分な用量、濃度及び時間、投与することを含む。別の実施形態は、本発明は、前記組成物を対象の脳内のアミロイドβタンパク質集合体を低減するために十分な用量、濃度及び時間、投与することを含む。また別の実施形態において、本発明は、前記組成物を、対象の脳内のアストロサイトによるアミロイドβタンパク質集合体の取り込みを刺激するために十分な用量、濃度及び時間、投与することを含む。別の実施形態では、本発明は前記組成物を、対象の脳内のアストロサイトによるアミロイドβタンパク質集合体の分解を刺激するために十分な用量、濃度及び時間、投与することを含む。
【0012】
特定の実施形態は、前記組成物を、対象の体重1Kgあたり約0.1μgと約100mgの間の量、対象の体重1Kgあたり約0.1μgと約10mgの間の量、対象の体重1Kgあたり約0.1μgと約1mgの間の量、全身的に投与することを含む。該方法を実施するにあたっては、前記組成物は、一日1回の用量または一日複数回の用量で投与することができる。この治療方法は、長期間にわたる投与を必要とする場合がある。投与された一回分の服用量または全体の投与量は、医師によって定められ、患者の体重、年齢、患者の一般的健康状態及び組成物に対する患者の耐久力といった要因に依存するであろう。
本発明の実施形態は、下記実施例によってさらに説明されるが、それは特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0013】
実施例1-初代マウスアストログリアの単離
アストログリアを記載のとおり(17,18)Giulian及びBaker(19)の手続きに従って混合グリア培養物から単離した。簡潔に述べると、第9日に、混合グリア培養物をダルベッコ改変イーグル培地/F-12で3回洗浄し、240rpmで2時間、37℃でロータリーシェーカー上で振とうしてマイクログリアを除去した。2日後、オリゴデンドログリアを除去するため24時間、振とうを繰り返し、全ての非アストログリア細胞の完全な除去を確実にした。付着した細胞を、更なる研究のため、新しいプレートに藩種した。
【0014】
実施例2-半定量的な逆転写酵素結合ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
全RNAをマウス初代アストロサイト及びヒト初代アストロサイトから、RNA-Easy Qiagenキットを用いて、製造者のプロトコルに従って単離した。先に記載のとおり(20)、プライマーとしてオリゴ(dT)12-18、及びモロニ―マウス白血病逆転写酵素(MMLV-RT、イントロジェン)を20μl反応混合物中で用いて、半定量的RT-PCRを実施した。結果として得られたcDNAを、Promega Master Mixとマウス遺伝子のためのプライマーを用いて適切に増幅した。Tfebプライマー:フォワード:5’-aacaaaggcaccatcctcaa-3’ 配列番号:1;リバース:5’-cagctcggccatattcacac-3’ 配列番号:2。Ldlrプライマーをサンタクルズバイオテクノロジー(Cat.No.sc-35803-PR)から購入した。増幅生成物を2%アガロースゲル上で電気泳動させ、臭化エチジウムで染色して可視化した。グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(Gapdh)mRNAを負荷コントロールとして、等量のcDNAが各サンプルから合成されることを確認するため用いた。
【0015】
実施例3 定量的リアルタイムPCR
mRNAの定量を、ABI-Prism7700配列検出システムでSYBR Select master mixを用いて行った。標的遺伝子のmRNA発現は、Gapdh mRNAのレベルに正規化され、データはABI配列検出システム1.6ソフトウェアで処理した。
【0016】
実施例4-イムノブロッティング
ウェスタンブロット法を先述(21,22)のとおり修正しつつ行った。簡潔に述べると、細胞を1XRIPA緩衝液中で掻き取り、Bradford試薬を用いてタンパク質を測定し、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)緩衝液を添加して、NuPAGE(登録商標)Novex(登録商標)4-12%ビスートリスゲル(インビトロジェン)上で電気泳動させ、Thermo-Pierce高速セミドライ式ブロッターを用いて、ニトロセルロースメンブレン(Bio-Rad)上にタンパク質を移した。前記メンブレンをTBSプラスツイン20(TBST)で15分間洗浄し、BSAを含有するTBST中で1時間ブロックした。次にメンブレンを一晩4℃で振とう条件下で以下の1°抗原とともにインキュベートした;CtsB(Cell Signalling Technology,1:1000)、CtsD(Cell Signalling Technology,1:1000)、LC3(Novus,1:500)、p62(Abcam, 1:500)及びβ-actin(Abcam, 1:1000)。翌日、メンブレンをTBST中で1時間洗浄し、2°抗原中で1°抗原ホストに対して(全て1:10,000; Jackson ImmunoResearch)室温で1時間インキュベートし、更に1時間洗浄し、Odyssey(登録商標) Infrared Imaging System (Li-COR,Lincoln,NE)の下で可視化した。
【0017】
実施例5-アミロイドβ取り込みアッセイ
マウス初代アストロサイトを黒色96ウェルプレートに載せた。適切な処置の後、前記ウェルを37℃で500nMFAM-タグ付加Aβオリゴマー(1-42)で適当な時間インキュベートした。最終的に、Aβ含有培地を除去し、ウェルを優しく通常の培地で洗浄し、続いて細胞外Aβを100μlのPBS中0.2%トリパンブルーとともに2分間冷却した。吸引後、蛍光をVictor X2マイクロプレートリーダー(Perkin Elmer)中、Ex./Em.485/535で測定した。前記ウェルは更に100μlのPBS中50μg/mlヘキスト 33342色素とともに30分間インキュベートし、蛍光をEx./Em.360/465nmで測定した(23)。Aβ蛍光は、細胞数の変化性がもしあれば、それを説明するためヘキスト蛍光で正規化した。
【0018】
実施例6-アミロイドβ分解アッセイ
マウス初代アストロサイトを載せて、処置して、次いでFAM-タグ付加Aβ(1-42)とともに、4時間インキュベートした。インキュベート後、Aβ含有培地を除去し、優しく1回洗浄した後、プレートを通常の培地とともに、37℃で異なる時間インキュベートした。Aβの測定及びヘキスト蛍光は上述のとおり測定した。
【0019】
実施例7-アミロイドβ取り込み/分解のための免疫細胞化学
マウス初代アストロサイトを6ウェルプレートに置かれた正方形のカバースリップ上で培養した。処置後、細胞を500nMのHF-647タグ付加Aβオリゴマー(1-42)とともにインキュベートした。分解研究のため、細胞は、Aβ含有培地を除去した後、通常の培地中で更に成長させた。インキュベート後、75nMのLysoTracker Red DND99を含有する培地中で細胞を更に30分間インキュベートした。続いて細胞を洗浄し、ガラススライド上に固定し、BX41蛍光顕微鏡下で観察した(23)。
【0020】
実施例8-カテプシンアッセイ
マウス初代アストロサイトを培養し、処置し、2.5mMのEDTA、0.01%のTriton-X100及び2.5mMのDTTを伴う100mM酢酸ナトリウム、pH5.5中で溶解した。
カテプシンBアッセイのため、上清を30分間、pH6.0で、100μMのZ-Arg-Arg-AMC.7-アミノー4-メチルクマリンとともにインキュベートし、AMCを標準として用いた。蛍光をVictor X2マイクロプレートリーダー中、Ex./Em.355/460nmで測定した。
カテプシンDアッセイのため、上清を10μMの基質7-メトキシクマリン-4-アセチル-(Mca)-Gly-Lys-Pro-Ile-Leu-Phe-Phe-Arg-Leu-Lys-2,4 ニトロフェニル(Dnp)-D-Arg-NH2 、pH4.0で30分間インキュベートした。Mca-Pro-Leu-OHを標準として用いた。蛍光は、Ex./Em.320/420nmで測定した。
サンプルの蛍光読み取り値をそれぞれの標準と比較して、得られた生成物の量を測定した。カテプシン活性(単位)を細胞抽出物のmgあたりで計算し、37℃で、1時間あたり、1単位の酵素活性が1nモルの生成物を放出するものと考えた(24,25)。
【0021】
実施例9-濃度測定分析
タンパク質ブロットをImageJ(NIH、Bethesda、MD)を用いて解析し、バンドをそれぞれのβ-アクチン負荷対照で正規化した。免疫蛍光定量データは、1条件当たり少なくとも25の異なるイメージについて3つの独立した一連の実験からの、それぞれの対照に対する平均倍変化で表したものである。
【0022】
実施例10-統計解析
値を、少なくとも3つの独立した実験の平均±標準誤差で表す。差についての統計解析をスチューデントのt検定を経て行った。この統計的有意差についての基準は、p<0.05であった。
【0023】
実施例11-GFB及びRA処置によるマウス初代アストロサイトにおけるAβ取り込みの向上
リソソーム活動は、アルツハイマー病脳内のAβの排出に不可欠である。したがって、我々は、マウス初代アストロサイトによる細胞外Aβの取り込みにおいてリソソーム生物発生を向上させるGFB-RAの効果を探索した。我々は、細胞による取り込みのAβレベルの変化を測定するため、定量的インビトロアッセイ及び定性的顕微鏡解析の両方を行った。
インビトロアッセイは、細胞内からのFAM-タグ付加Aβ(1-42)のシグナル強度を定量的に測定することができる堅調な技術である。細胞は、GFB-RAで処置し、FAM-Aβ(1-42)とともに様々な時間(15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、及び8時間)更にインキュベートした。Aβのシグナル強度を、各ウェルにおける細胞数の変化性がもしあれば、それを説明するため、最初そのヘキストに対して正規化した。次に、GFB-RA処置サンプルの正規化したAβシグナルを、その対応するDMSO処置したものと比較し、各時間におけるAβシグナルのパーセンテージ変化を計算した。
【0024】
Aβ含有培地中で2時間インキュベートした後に、GFB-RA処置細胞内のAβ量は、DMSO処置細胞に比較して~60%多かった。4時間で、処置細胞中のAβシグナルは、対照よりも約~80%高かった(図1A)。しかしながら、更に8時間までインキュベートしても、処置細胞中のAβ含有量の更なる増加は得られず、4時間のインキュベーションがアッセイのために最適な時間であろうことを示した。したがって、更なる取り込みアッセイでは、この時間がAβのインキュベーションに選択された。
細胞をHF-647-タグ付加Aβ(1-42)とともに2時間インキュベートし、続いてLysoTracker Redとともに4時間インキュベートして、蛍光顕微鏡検査を行った。我々は2時間、及び4時間インキュベートされたGFB-RA処置細胞中のHF-647-Aβの点状シグナルがDMSO対照に対して増加したことを観察した。更に、Aβシグナルは、LysoTrackerシグナルと共存し、細胞により取り込まれたAβは細胞内の酸性小胞(後期エンドソーム又はリソソーム)内に存在することを示した(図1B)。Aβシグナルのパターン及びLysoTrackerシグナルのパターンは類似すると予想されることから、我々は細胞を別々にLysoTracker及びHF-647-Aβとインキュベートし、任意の蛍光の漏れ込み(bleed through signal)を全てのチャンネルについて試験した。予想通り、LysoTrackerのみがCY2及びCY3チャンネルの間でわずかなシグナルの重複を示したが、HF-647-Aβについての他のいかなるチャンネルにおいても、その真のシグナルであるCY5チャンネル以外からの有意な漏れ込みはなかった(図6)。
【0025】
実施例12-GFB-RAが媒介するAβ取り込みにおけるLDLR及びTFEBの効果
Aβは、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)に補助される微飲作用を通じて取り込まれることができた(26)。したがって、GFB-RAが仲介するAβ取り込みの向上のメカニズムを明瞭にするため、我々はAβ取り込みアッセイをヘパリン(HSPGの阻害因子)の存在下でまず行った。ヘパリン存在下でGFB-RAで処置した細胞は、Aβ取り込みにおいて~40%の増加を示したのに対し、ヘパリン不存在の下でGFB-RA処置した細胞は~80%の増加を示した(図2A)。しかしながら、この取り込みレベルの低減は統計的に優位であったが、まだ約40%の取り込みがヘパリン存在下で行われており、このことは別の因子が取り込みプロセスの原因となっている可能性を示す。我々は細胞にTfeb siRNAを形質移入し、Tfeb siRNA形質移入細胞中のAβ取り込みレベルに、スクランブルsiRNA形質移入細胞に比べてわずかな減少(統計的に優位ではなく、p=0.59)を観察した(図2B)。TFEBサイレンシングの有効性を図2Dに示す。これらのデータは、HSPGもTFEBもそれだけがAβの取り込み向上の原因であるわけではないという考えを更に強めることとなった。最近の報告は、LDLR及びLRP1のようなリポタンパク質受容体がまたグリア細胞におけるAβのインターナリゼーションを促進していることを示唆している。興味深いことに、LDLRの肝臓発現が、Aktリン酸化及びSREBP2の転写活動が関与するPPARαに依存したメカニズムによるフェノフィブラート(FF)によって誘発されるとの報告がある(27,28)。したがって、我々はさらに細胞にLdlr siRNAを形質移入し、GFB-RAのAβの取り込みへの効果がLDLRの不存在にあって減じることを観察した(図2B)。LDLRサイレンシングの効率は、図2Cから明らかである。また、GFBで処置すると、フィブラートは、RAとともにWTアストロサイト中でLDLRの発現を誘発したが、PPARα(-/-)細胞中ではしなかった(図2C)。これらを考え合わせると、この一連のデータは、GFB-RAが、LDLR仲介エンドサイトーシスを経由して、アストロサイト中のAβの取り込みを促すことを示している。
【0026】
実施例13-GFB及びRA処置がマウス初代アストロサイト中のAβの分解を向上させる
我々はAβとLysoTracker(リソソーム色素)の共存を観察した(図1B)。したがって、オルガネラが適切に機能すれば、リソソーム内部でAβの分解があるであろうことは必然である。我々は、TFEBの誘発(及びそれに続くリソソーム遺伝子及びリソソーム生物発生の誘発)がリソソーム中のAβ分解プロセスを加速できたか否かを観察したかった。我々は同じインビトロアッセイを細胞内Aβ含有量のために手配したが、今回は、Aβとともに4時間インキュベートした後、該細胞をAβを含まない培地中で異なる時間(15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、及び8時間)成長させた。DMSO処置細胞及びGFB-RA処置細胞の正規化されたAβシグナル(ヘキストシグナルに対して正規化されたもの)を、Aβを含まない培地で成長させなかったそれぞれの対応物(「0分洗浄」と呼ぶ)と比較した。予想通り、Aβのリソソーム処理の基底レベルは、細胞内Aβのシグナル強度を、6~8時間の間で、0分洗浄細胞に比べて、~20%低減させた。一方で、GFB-RAで処置された細胞は、加速された排出速度を示し、6~8時間の間で、~40%シグナルを低減させた(図3A)。データは最適な分解が6時間であることを示し、その時間が更なる分解アッセイに用いられた(「6時間洗浄」と呼ぶ)。我々はまた、6時間洗浄後のHF-647-Aβの点の減少を顕微鏡下で可視化した(図3B)。Aβシグナルの喪失がリソソーム処理のためであるか否かを決定するため、我々は、リソソームの酸性化を阻害しそれによってその活性を低減するバフィロマイシンA1(BafA1)とともに細胞をインキュベートした。BafA1の存在は、GFB-RAで処置された細胞中で観察されたAβの喪失の加速化を阻み、BafA1存在下では、Aβ分解速度は、DMSO措置細胞とGFB-RA処置細胞の両方でほぼ同じとなった(図3C)。更に、Tfeb siRNAの細胞への形質移入はまた、GFB-RAが仲介する、Aβの加速化したリソソーム分解を減じた(図3D)。まとめると、これらのデータは、GFB-RA処置が仲介するリソソーム生物発生の誘発は、リソソームによるAβ分解のプロセスを加速化することができたことを示す。
【0027】
実施例14-PPARα及びPPARβのGFB-RA仲介Aβ取り込み及び分解における役割
PPARαはTFEBの転写活性化の仲介、及びそれに続く、リソソーム生物発生の向上において重要な役割を果たす。我々は、PPARα及びPPARβの不存在が、マウス初代アストロサイト中のAβ取り込み及び分解の制御に影響を与えることを試験した。WT、PPARα(-/-)及びPPARβ(-/-)動物から単離された細胞をGFB及びRAで処置し、更にFAM-Aβ(1-42)(インビトロアッセイのため)及びHF-647-Aβとともに、LysoTrackerRed(顕微鏡のため)と併せてインキュベートした。以前同様、Aβシグナルは、細胞数の任意の変化性を説明するため、ヘキストシグナルで正規化した。
Aβ取り込みアッセイは、Aβとともに4時間インキュベート後、細胞内のAβ含有量の顕著な増加(FAM-Aβシグナル強度で測定)を、WT及びPPARβ(-/-)細胞の両方で示したが、PPARα(-/-)細胞では示さなかった(図4A)。全ての細胞のシグナル強度をDMSO処置WT対照と比較した。GFB-RA処置されたPPARα(-/-)細胞中のAβレべルにわずかな増加(~20%)があったが、GFB-RA処置されたWT及びPPARβ(-/-)細胞中のそれぞれ~80%及び70%の増加に比べれば著しくはなかった(図4A)。PPARのAβ分解における役割を評価するため、WT及びノックアウト動物からの細胞を処置し、Aβでインキュベートし、更にAβを含まない培地で6時間成長させた。GFB-RA処置されたアストロサイトの各細胞タイプについて、6時間洗浄を行ったあるいは行わないものの正規化されたAβシグナルを、最初にそれらの対応するDMSO処置対照と比較した。そして、6時間洗浄GFB-RA処置細胞の細胞内Aβシグナルのパーセンテージ変化(先にそれらのDMSO処置対照に対して正規化したもの)を0分洗浄GFB-RA処置細胞(先にそれらのDMSO処置対照に対して正規化したもの)と各細胞タイプについて計算した。我々は、WT及びPPARβ(-/-)細胞の両方についてAβレベルの~60%低減を観察したが、PPARα(-/-)の場合は30~35%のシグナル喪失に過ぎなかった(図4B)。初期に観察された通り、Aβはこれら3つの細胞タイプで差別的に取り込まれたが、Aβ含有量についてのパーセンテージ変化を6時間洗浄前と後で比較すると(派生物については詳細に議論の場所で記述する)、Aβ取り込みの変化性を説明し、Aβ分解の絶対尺度を提供した。
【0028】
更に、顕微鏡観察から、PPARα(-/-)細胞中で、PPARβ(-/-)及びWT細胞に比べて、AβとLysoTrackerの両方のシグナル強度の低減が明らかになった(図4C、4D及び4E)。これは、PPARαの不存在はGFB-RA仲介リソソーム増殖の向上を、Aβ取り込みの鍵となる成分であるLDLRの発現の減少と同様に停止するという我々の先の発見と合致した。
顕微鏡解析はまた、6時間洗浄後のWT及びPPARβ(-/-)中で、HF-647-Aβの点は減少するが、PPARα(-/-)細胞中では著しい変化は認められないことを明らかにした(図4C、4D及び4E)。まとめると、これらのデータは、PPARαは二重の役割を有することを示している。すなわち、LDLR発現を制御することによって、それはAβの取り込みを促進することが可能であり、また、TFEBを介してリソソーム生物発生を向上させることにより、それはリソソーム中でのAβ分解の加速化を誘発する。
【0029】
実施例15-GFB及びRA処置がリソソーム活性及びオートファジーフラックスを向上させた
Aβのリソソーム分解の向上のため、我々はリソソーム活性とオートファジーのためのマーカーを調査した。我々は、リソソーム中のAβ断片の分解に関わる2つの重要なカテプシンである、カテプシンB(CtsB)及びカテプシンD(CtsD)におけるGFB-RA処置を評価した。カテプシン活性アッセイを、Tfeb siRNAの存在又は不存在の両方についてGFB-RA処置細胞において、物質及び方法に記載のとおり実施し、GFB-RA処置による活性の任意の変化が、TFEBを介して仲介されるか否かを決定した。我々のデータは、GFB-RA処置により両方のカテプシンの活性の増加を示す。siRNAによるTFEBのサイレンシングは、カテプシン活性への薬剤の効果を停止した(図5A及び5B)。両カテプシンのタンパク質レベルは、GFB-RA処置細胞で約2~3倍増加することが認められた(図5C及び5D)。これは、CtsB及びCtsDがTFEBの直接のターゲットであること及びTFEB活性の向上が、続いてカテプシンのレベル及び活性を同様に誘発するという発見と整合する。
【0030】
オートファジー又はオートファジー経路のブロックの欠如は、細胞内のオートファジー液胞におけるAβの異常な蓄積をもたらし、Aβに誘発される神経細胞毒性の主な原因の一つであることが報告されている(9)。したがって、我々は、GFB-RA処置細胞中のオートファジーフラックスの変化を、LC3(LC3-I/LC3-II)及びp62/SQSTM1のレベルをモニタリングすることによって観察した。GFB-RA処置は、LC3-Iのホスファチジルエタノールアミン接合形である、LC3-IIのレベルを増加させた(図5E及び5F)。LC3-IからLC3-IIへの変換は、オートファジー誘発の特徴である。我々は更にリソソーム活性をBafA1を用いてブロックし、LC3-IIの更なる蓄積を観察した(図5E及び5F)。以前の研究と整合的に、我々はまた、LC3-IIの蓄積がある条件でのp62のレベルの低減が、オートファジーフラックスの向上を更に強化することを観察した(図5E及び5F)。
これらを考えあわせると、これらのデータは、TFEBを介し、GFB-RAに仲介され、PPARαに依存する形でのリソソーム生物発生の増加は、マウス初代アストロサイトによるリソソーム中でのAβ取り込み及びそれに続く分解を誘発することができるという、我々の仮説を確認するものである。
【0031】
実施例16-実験プロトコルについての議論
Aβ産生におけるリソソーム活動の役割である、取り込み及び排出については、過去数年の間によく確立されてきた(1,2,7,11,23)。ここで、我々は、GFB-RAによるリソソーム生物発生の向上をマウス初代アストロサイトによるAβ取り込み及び分解において観察した。FAM-タグ付加Aβ(1-42)を用いたインビトロアッセイを96ウェルマイクロプレートで行い、同時に複数のサンプル/処置の評価を可能とした。細胞外シグナルと死細胞からのシグナルをトリパンブルーを用いて抑制することで、生存細胞からの細胞内Aβシグナルのみが、485/535nm(Ex./Em.)で検出された。更に、同じウェルからのAβシグナルをヘキスト33342シグナルで360/465nmで正規化することで、細胞数の変化性を説明する。
実験のタイプによって、データを適切な対照と比較し、Aβ取り込み/分解の倍数変化又はパーセンテージ変化で表した。WT及びPPARβ(-/-)細胞が、処置に伴い、Aβ取り込みの著しい増加を示す一方、PPARα(-/-)細胞はそれほどの増加を示さなかった。HF-647-AβシグナルとLysoTrackerの共存が顕微鏡下で観察され、インターナライズされたAβが実際にリソソームの中で最後を迎えたことを示した。ヘパリン及びLDLR siRNA存在下での細胞内Aβシグナルの低減は、アストロサイトによる細胞外Aβのエンドサイトーシス及び微飲作用におけるHSPGとLDLRの役割を示した。PPARα又はTFEB活性と微飲作用との間の関連は十分わかっていないが、リソソーム生物発生の増加は、飲作用胞のターンオーバーを向上させ、それによりHSPGが仲介するAβの取り込みを増加させるように思われる。
【0032】
LDLRのAβの取り込み及び分解における役割は十分確立されている。先の研究はLDLRの過剰発現がAβの沈着を防ぎ、細胞外Aβの排出を向上させたことを示した(29)。前記効果は、アルツハイマー病の最も強い遺伝子リスク因子の1つである、アポリポタンパク質E(ApoE)の関与あり又はなしで仲介することができた(27-29)。更に、LDLR過剰発現はまた大脳Aβの脳から血液への輸送率を促進することが示され、それにより、病理的なAβの脳からの排出を向上させる(30)。また、LDLRがアルツハイマー病の5XFADマウスモデル(5XFAD/LDLR-/-)から除かれた場合、アミロイドβの蓄積の増加とグリア細胞の炎症反応の低減の証拠があり、このことは、神経膠症とAβ排出におけるApoEから独立したLDLRの役割を示す(31)。興味深いことに、Aβ取り込みの別の候補であるLDLRの発現は、またPPARαの活性化によりSREBP2を介して制御される。ゲムフィブロジルと同じクラスに属する別のフィブラートであるフェノフィブラート(FF)は、PPARα-SREBP2仲介経路における肝臓LDLRを上方制御することが示されている(32)。我々の研究においても、PPARαの活性因子としてよく知られているGFBでの処置は、WT細胞においてLDLR発現を増加させたが、PPARα(-/-)細胞中では増加させなかった。また、アストロサイト中のLDLRノックダウンは、Aβ取り込みの向上を減じた。このデータに基づき、我々は、インビトロでマウス初代アストロサイト中でのAβ取り込みをLDLRに依存するやり方で促進する場合のPPARαの新しい役割(その活性化因子、GFBも同様に)を明らかにした。
【0033】
分解アッセイもまた同様のやり方で行った。この場合、細胞を、Aβを含まない培地で、シグナルを計測する前に、様々な時間、成長させた。BafA1によるリソソーム活動の阻害又はTFEBのサイレンシングは、Aβ分解の低減を示し、Aβ分解におけるリソソームの役割を強めた(1-42)。しかしながら、我々がAβ分解をWT、PPARα(-/-)及びPPARβ(-/-)細胞中でアッセイした場合、計算はより複雑であった。この場合、我々は3つの異なる細胞タイプ(WT、PPARα(-/-)及びPPARβ(-/-))を有しており、それらはGFB-RA処置にAβ取り込みにおいて差別的な反応を示すものである。したがって、適切な分解評価のため、6時間洗浄後のAβのレベルを、洗浄前のAβ(0分洗浄)との倍率変化で、個別に、それぞれのタイプのGFB-RA処置細胞について、比較しなければならなかった。
第1段階の導出
ヘキストシグナルで正規化したAβシグナル=Aβnorm(全ての条件について)
第2段階の導出
Aβnorm(DMSO,0分洗浄)に対して正規化したAβnorm(Tx,0分洗浄)=Aβfold(Tx,0分洗浄)
Aβnorm(DMSO,6時間洗浄)に対して正規化したAβnorm(Tx,6時間洗浄)=Aβfold(Tx,6時間洗浄)
第3段階の導出
{Aβfold(Tx,6時間洗浄)/Aβfold(Tx,0分洗浄)}* 100 = %変化
このAβシグナルの第3段階の導出により、同じ細胞による洗浄前のAβの純取り込み量と比較した細胞内のAβ含有量の純減の間で比較することが可能となった。
【0034】
最終的に、リソソーム活動を、2つの加水分解酵素、カテプシンB及びDの活性をモニタリングすることによって計測した。CtsB及びCtsDは、2つの公知のTFEBの直接のターゲットであり、予期される通り、我々はこれら酵素の活性及びレベルの増加を観察した。Aβ産生のエンドソーム-リソソーム経路において、リソソーム加水分解酵素によって生成したβアミロイド断片は、続いてカテプシンによって分解される(CtsB及びD)(8)。カテプシンの阻害は、Aβ断片の急速な蓄積を引き起こし、その一方で増加したカテプシン活性は、Aβの効果的な分解及びAβ斑の低減をもたらすことが示されている(33)。また、オートファジー向上は、Aβのリソソーム分解を結果としてもたらし、ニューロンをAβに誘発される神経毒性から守ることが示されている(34)。
オートファジープロセスによる異常な又は不適切なAβの処理はまた、細胞外スペースへの有毒なAβ断片の分泌を引き起こし、オートファジーの欠陥は、リソソーム中でのAβの蓄積をもたらし、それによりLMPを引き起こす(13)。したがって、我々はまた、オートファジーフラックスの変化を、LC3-IからL3-IIへの転換及びそれと結合したタンパク質p62をモニタリングすることによって確認した。微小管結合タンパク質1(MAP1)軽鎖3(MAP-LC3又は単にLC3)は自由な溶解性形状(LC3-I)で存在し、それはAtg4の酵素反応によってホスファチジルエタノールアミンと共有結合する(LC3-II)(35,36)。オートファジーの誘導を導くシグナルは、転換のきっかけとなる。LC3-IIはオートファゴソーム膜に結合したままであり、このことは新たなオートファジー液胞の産生に不可欠である(37,38)。LC3-I/IIのレベルの変化をモニタリングすることは、オートファジー誘導をモニターするためのシンプルかつ効果的な方法であると考えられている(10)。しかしながら、LC3-IIレベルの単なる増加は必ずしも完全なオートファジーを示すものではない。LC3-II自身がオートファジー分解の後半段階で分解し、そのことがLC3イムノブロット結果の解釈をより複雑なものとする。
【0035】
したがって、LC3-I/IIレベルをオートファジー活性化因子と阻害因子の両方の存在下でモニタリングすることが、データを解釈するためにより良い方法であると提案されている(39,40)。リソソーム阻害条件下でのLC3-IIの蓄積増加は、オートファジーフラックスの持続的な増加のためであるが、リソソーム分解によるLC3-IIの排出を低減した。一方、別のオートファジーマーカーであるp62は、またセクエストソーム1(SQSTM1)としても知られ、LC3-IIをオートファゴソームに運び、大多数のp62はオートファゴソーム形成の初期段階で分解される(39-42)。p62とLC3の負の相関が予期され、他のグループ同様我々のデータに認められたように、GFB-RA処置細胞中のオートファジーフラックスの増加を示した。
【0036】
APP処理、Aβ産生及び分解におけるオートファジーの役割は広範囲にわたって研究されている。APP処理のエンドソーム-リソソーム経路が、先に議論された通り、病理的Aβ断片の生成を制御するうえで著しく貢献する(7,9)。APPはリソソーム中で処理されるため、リソソーム機能の遮断は、Aβ分解及び分泌の抑制と同様に、リソソーム内及び外におけるAβの蓄積をもたらす(43,44)。神経芽細胞腫細胞系では、N2a、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3)の阻害は、リソソーム生物発生を促し、リソソーム中でのAβ分解を促進する(45)。また、LDLR-関連タンパク質1(LPR1)は、ニューロン内でのAβインターナリゼーション及び分解を仲介する(46,47)。多数の受容体、例えば、補体受容体1(CR1)、スカベンジャー受容体(SR-A)、CD36、終末糖化産物受容体(RAGE)、Toll様受容体(TLRs)、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-beta1)、ミエロイド細胞上に発現した誘発性受容体(TREM2)等は、細胞外Aβと相互作用し、Aβ取り込み及び分解を導くシグナリングメカニズムを誘発するマイクログリアの表面上で確認されている(48-51)。Aβ排出及び分解におけるアストロサイトの役割は、アストロサイトはApoE-Aβ複合体を細胞外のスペースからインターナリゼーションし、引き続いてそれらを分解又は血管周囲腔に分泌するため、利益になるものと考えられている(52-54)。アストロサイトはまた、AβをNEP、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)又はインシュリン分解酵素(IDE)の酵素反応によって分解することが可能である(55-60)。しかしながら、長時間病理的なAβに曝されることは、アストロサイトがそのような大量のAβカーゴを取扱うことを不可能とし、アストロサイト中でのAβ蓄積をもたらす(61,62)。過去数年間、リソソーム生物発生の向上は、Aβインターナリゼーション及び分解に決定的な役割を果たすことが示されてきた。グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)プロモーター又はCMV-プロモーターに動かされた、TFEB遺伝子を有するアデノ随伴ウィルス(AAV)が、定位的注入により、APP/PS1マウスの海馬に投与され、これは特にアストロサイト又はニューロンをそれぞれターゲットとしたものである。TFEB過剰発現はリソソーム生物発生の誘導を導き、最終的には、間質液からのアストロサイトによるAβの取り込み及び排出の向上及びニューロンによるAPP処理の向上をもたらし、それはAβ産生を低減する(23,63)。これらの研究は、アルツハイマー病におけるアストロサイトのAβ排出の重要性を明確にするが、薬が仲介するリソソーム生物発生の誘発によるAβ排出の向上はこれまで十分に研究されてこなかった。
要約すると、フィブラートによるPPARαの活性化は、マウス初代アストロサイトによるAβ取り込み及び排出の向上を導く。この研究の結果は、これまで知られていなかったPPARαの性質に脚光を当て、リソソーム貯蔵疾患同様、アルツハイマー病に新しい治療オプションを提供し、TFEBによるより動態的な制御を明らかにするものである。
【0037】
(参考文献)








【0038】
本発明はその特定の例示的な実施形態を参照して説明及び例証されているが、該発明がそれら例示的な実施形態に限られることを意図するものではない。下記特許請求の範囲に規定されている本発明の真の範囲及び趣旨から逸脱することなく、変形や修正を施すことは可能であることを当業者であれば認識するであろう。したがって、本発明のすべてのそのような変形及び修正は、添付された特許請求の範囲及びそれと均等な範囲内に含まれることを意図している。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕対象の脳内のアミロイドβタンパク質集合体を低減するための方法であって、そのような治療を必要とする対象に治療効果量のビタミンA又はその誘導体と増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)のアゴニストの組合せを含む組成物を投与するステップを含む、前記方法。
〔2〕治療効果量がアストロサイトによるアミロイドβタンパク質の取り込みを刺激する量である、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕治療効果量が、アストロサイトによるアミロイドβタンパク質の分解を刺激する量である、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕前記アゴニストが、両親媒性カルボン酸である、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕前記アゴニストが、クロフィブラート、ゲムフィブロジル、シプロフィブラート、ベザフィブラート、クリノフィブラート及びフェノフィブラートから成る群より選択される、前記〔4〕に記載の方法。
〔6〕前記アゴニストが、ゲムフィブロジルである、前記〔5〕に記載の方法。
〔7〕前記組成物がレチノイン酸を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔8〕前記組成物が少なくとも1つの薬学的に許容される担体を更に含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔9〕前記組成物が経口投与される、前記〔1〕に記載の方法。
〔10〕前記組成物が、皮下、関節内、皮内、静脈内、腹腔内及び筋肉内経路から成る群より選択される経路によって投与される、前記〔1〕に記載の方法。
〔11〕前記組成物が、直接対象の中枢神経系に投与される、前記〔1〕に記載の方法。
〔12〕前記対象が、アルツハイマー病の症状を示す対象である、前記〔1〕に記載の方法。
〔13〕前記対象がヒト対象である、前記〔1〕に記載の方法。
〔14〕対象の脳内のアミロイドβタンパク質集合体を低減するための方法であって、治療効果量の増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)のアゴニストを含む組成物を対象に投与するステップを含む、前記方法。
〔15〕PPARαのアゴニストを投与することを含み、前記アゴニストが両親媒性カルボン酸である、前記〔14〕に記載の方法。
〔16〕前記アゴニストが、クロフィブラート、ゲムフィブロジル、シプロフィブラート、ベザフィブラート、クリノフィブラート及びフェノフィブラートから成る群より選択される、前記〔15〕に記載の方法。
〔17〕前記アゴニストが、ゲムフィブロジルである、前記〔16〕に記載の方法。
〔18〕前記組成物が、ビタミンA又はその誘導体を更に含む、前記〔14〕に記載の方法。
〔19〕前記組成物がレチノイン酸を更に含む、前記〔14〕に記載の方法。
〔20〕前記組成物が少なくとも1つの薬学的に許容される担体を更に含む、前記〔19〕に記載の方法。
〔21〕前記対象がヒト対象である、前記〔14〕に記載の方法。
〔22〕ビタミンA又はその誘導体、増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)のアゴニスト及び少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む、組成物。
〔23〕前記増殖因子活性化受容体α(「PPARα」)のアゴニストがゲムフィブロジルであり、ビタミンA誘導体がレチノイン酸である、前記〔22〕に記載の組成物。
図1A-B】
図2A-D】
図3A-D】
図4A-C】
図4D-E】
図5A-F】
図6