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特許7012671鉄鋼鋳造作業用の仮鋳型上またはコア上に塗型するための耐火コーティング組成物
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  • 特許-鉄鋼鋳造作業用の仮鋳型上またはコア上に塗型するための耐火コーティング組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】鉄鋼鋳造作業用の仮鋳型上またはコア上に塗型するための耐火コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   B22C 3/00 20060101AFI20220121BHJP
【FI】
B22C3/00 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018568947
(86)(22)【出願日】2017-06-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 EP2017066105
(87)【国際公開番号】W WO2018002206
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-29
(31)【優先権主張番号】102016211930.3
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591194322
【氏名又は名称】ヒュッテネス-アルベルトゥス ヒェーミッシェ ヴェルケ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【住所又は居所原語表記】Wiesenstrasse 23,D-40549 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】ヘフト ルネ
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104550677(CN,A)
【文献】国際公開第93/017815(WO,A1)
【文献】米国特許第02618530(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のものを含む、酸によって硬化されているバインダー及び珪砂を含む鉄鋼鋳造用の非永久鋳型上またはコア上に鋳型コーティングを生成させるための耐火コーティング組成物の使用であって、
a)炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、及び/又は、二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、
b)キャリア液体、及び
c)耐火材料
鋳造作業中に鋳造物の表面上の白膜形成を防止するかまたは低減するための、使用。
【請求項2】
下記のものを含む、耐火コーティング組成物の、請求項1に記載の使用
a)アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸水素塩、
b)キャリア液体、及び
c)耐火材料。
【請求項3】
下記のものを含む、鉄鋼鋳造用の非永久鋳型上またはコア上に鋳型コーティングを生成させるための、耐火コーティング組成物
a)炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩と二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、
又は
アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸水素塩、
又は
アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の二リン酸二水素塩、
b)キャリア液体、及び
c)耐火材料。
【請求項4】
下記のものを含む、請求項3に記載の耐火コーティング組成物。
a)炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩と、二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩。
【請求項5】
前記耐火コーティング組成物が、1:26~10:2.6の範囲の炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩と二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩とのモル比を有する、及び/又は
炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩と二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩との混合物を含み、及び
前記耐火コーティング組成物が、pH 7~9.9を有する、請求項に記載の耐火コーティング組成物。
【請求項6】
前記耐火コーティング組成物が、被覆性耐火コーティングである、請求項3~5のいずれか1項に記載の耐火コーティング組成物。
【請求項7】
(i)前記炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩が、炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムであり、及び/又は
(ii)前記二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩が二リン酸二水素二ナトリウムである、
請求項のいずれか1項に記載の耐火コーティング組成物。
【請求項8】
下記のものを含む、請求項のいずれか1項に記載の耐火コーティング組成物
(a)前記耐火コーティング組成物の全質量に基づいて、0.5~30質量%の前記炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、及び/又は
(b)前記耐火コーティング組成物の全質量に基づいて、0.5~30質量%の前記二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩。
【請求項9】
前記キャリア液体が
a)水であるかまたは水を含有し、及び/又は
b)1種以上の有機溶媒であるかまたは1種以上の有機溶媒を含有し、前記有機溶媒の1種又はすべてが1種または複数種のアルコールである、請求項3~8のいずれか1項に記載の耐火コーティング組成物。
【請求項10】
前記キャリア液体がアルコールであるかまたはアルコールを含有し、アルコールはメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、ペンタン-1-オール、ペンタン-2-オール、ペンタン-3-オール、2-メチルブタン-1-オール、2-メチルブタン-2-オール、3-メチルブタン-1-オール、3-メチルブタン-2-オール、2,2-ジメチルプロパン-1-オール、ヘキサン-1-オール、ヘキサン-2-オール、ヘキサン-3-オール、2-メチルペンタン-1-オール、3-メチルペンタン-1-オール、4-メチルペンタン-1-オール、2-メチルペンタン-2-オール、3-メチルペンタン-2-オール、4-メチルペンタン-2-オール、2-メチルペンタン-3-オール、3-メチルペンタン-3-オール、2,2-ジメチルブタン-1-オール、2,3-ジメチルブタン-1-オール、3,3-ジメチルブタン-1-オール、2,3-ジメチルブタン-2-オール、3,3-ジメチルブタン-2-オール、2-エチルブタン-1-オールおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項のいずれか1項に記載の耐火コーティング組成物。
【請求項11】
下記のもの
a)いずれの場合においても前記耐火コーティング組成物の全質量に基づいて、3~15質量%の炭酸水素ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウム、ならびに3~15質量%の二リン酸二水素二ナトリウム、
b)水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール及びそれらの混合物からなる群から選択されるキャリア液体、及び
c)シリカ、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、ムライト、ジルコンサンド、ケイ酸ジルコニウム、オリビン、タルク、マイカ、コークス、長石、珪藻土、か焼カオリン、カオリナイト、メタカオリナイト、ケイ酸マグネシウム、酸化鉄、ボーキサイト、黒鉛、及びそれらの混合物からなる群から選択される耐火材料、
を含む、請求項4~10のいずれか1項に記載の耐火コーティング組成物であって、pH 7~9.9を有する、前記耐火コーティング組成物。
【請求項12】
i)炭酸水素ナトリウムまたは炭酸ナトリウムとii)二リン酸二水素二ナトリウムとの質量比が、1:10~10:1の範囲である、請求項11に記載の耐火コーティング組成物
【請求項13】
下記の工程を含む、鋳造物の製造方法:
(i)酸によって硬化される1種以上のバインダーおよび珪砂を含む化学結合鋳型基材から構成される鋳造用鋳型を準備するかまたは製造する工程、
(ii)前記鋳造用鋳型の少なくとも1つの領域を請求項12のいずれか1項に記載の耐火コーティング組成物でコーティングし、コートされた前記耐火コーティング組成物を乾燥する工程、
(iii)前記鋳造用鋳型に溶融鉄-炭素合金を充填する工程、及び
(iv)前記鋳造用鋳型内で前記鉄-炭素合金を凝固させて鋳造物を得る工程。
【請求項14】
鋳造物を製造するための化学結合鋳型基材から構成される鋳造用鋳型であって、前記化学結合鋳型基材が酸によって硬化されている1種以上のバインダー及び珪砂を含み、前記鋳造用鋳型の少なくとも1つの領域が請求項12のいずれか1項に記載の耐火コーティング組成物でコートされている、前記鋳型。
【請求項15】
鋳造工業用の耐火コーティングにおける添加剤としての、炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩と二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩との混合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、鉄鋼鋳造用の非永久鋳型上またはコア上に鋳型コーティングを生成させるための耐火コーティング組成物、鉄鋼鋳造用の非永久鋳型上またはコア上に鋳型コーティングを生成させるための炭酸および/または二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩の使用、鋳造物の製造方法および鋳造物を製造するための化学結合鋳型基材から構成される鋳造用鋳型に関する。
【0002】
鉄鋼業および非鉄金属産業のほとんどの製品は、最初の成形のために鋳造工程を経ている。ここでは、溶融材料、鉄系金属または非鉄系金属が特定の加工物特性を有する成形体に変換される。鋳造物の成形のためには、まず溶融金属を受け入れるための非常に複雑な鋳造用鋳型を時には製造しなければならない。上記鋳造用鋳型は、各鋳造作業後に破壊される非永久鋳型と、いずれの場合にも多数の鋳造物を製造することができる永久鋳型とに分けられる。上記非永久鋳型は、通常、硬化性バインダーによって強化される耐火性の粒状鋳型材料からなる。
鋳型は負の鋳型であり、鋳造によって充填される空洞を含有し、製造される鋳造物を得る。将来の鋳造の内部輪郭はコアによって形成される。鋳型の製造において、製造される鋳造物のパターンによって鋳型材料における空洞が成形される。内部輪郭は、別々のコアボックスに形成されるコアによって表される。
鋳造用鋳型を製造するために、低温もしくは高温のプロセスによって硬化を生じさせることができる有機バインダーまたは無機のバインダーのいずれも使用することが可能である。低温プロセスという用語は、鋳型材料混合物を加熱することなく本質的に室温で硬化が起こるプロセスを意味する。ここで、硬化は通常化学反応によって行われ、それは、例えば、硬化させるべき鋳型材料混合物に気体触媒を通過させることによって、または鋳型材料混合物に液体触媒を添加することによって誘発することができる。高温プロセスの場合には、成形後、鋳型材料混合物を、例えばバインダーに存在する溶媒を追い出すか、またはバインダーを架橋によって硬化させる化学反応を開始させるのに充分に高い温度に加熱する。
【0003】
大型鋳造物、例えば船舶用ディーゼルエンジンのエンジンブロックまたは風力タービン用のローターのハブのような大型機械部品用の鋳造用鋳型の製造では、「非焼成バインダー」が大部分使用されている。「非焼成プロセス」では、耐火性鋳型基材(例えば砂)を最初に触媒(硬化剤)でしばしばコーティングし、次いでバインダーを添加し、混合することにより耐火性鋳型基材の触媒がコートされた粒子上に均一に分配する。このプロセスでは、連続流水式ミキサーがよく使われる。次に、得られた鋳型材料混合物を成形して、成形体を得ることができる。バインダーおよび触媒は鋳型材料混合物中に均一に分配されるので、硬化は大きな成形体でもほぼ均一に行われる。
球状黒鉛鋳鉄(GJS)は、炭素が主に球状(ノジュラー)の形態で存在する鉄-炭素材料である。球状黒鉛を含有する鋳鉄は鋼のような材料特性を有する。黒鉛のノジュラー形状により、非常に良好な永久変形(伸び)を伴う高い強度が得られる。パーライトの割合が低いことによって、作業性とそれに伴う工具寿命の両方が向上する。球状黒鉛鋳鉄は、例えば、自動車産業、機械建造および造船に、圧力容器にまたは風力産業に使用されている。GJS鋳鉄グレードはDIN EN 1563、鋳造作業-球状黒鉛を含有する鋳鉄に記載されている。
片状黒鉛鋳鉄(GJL)も優れた実用的特性を有し、多くの場合、GJSと同様の要件を当業者に課している。工業的実施に関連するGJLとGJSとの間の本質的な違いは当業者に知られている。
GJSおよびGJLの鋳造では、「ピットのある表面」と呼ばれる鋳造欠陥が発生する。
【0004】
これらの欠陥は、鋳肌上または鋳膚内に発生する痘斑のある粗さとへこみである。それらは白からわずかに青みがかった外観を有するコーティングで覆われている。そのため、この欠陥は「白膜(white film)」とも呼ばれる。上記コーティングは本質的に(繊維状)酸化ケイ素からなる。鋳造物が粒子ブラスト処理されると、上記コーティングは取り除かれ、ピットのある表面だけが残る。
この欠陥は、化学的結合鋳型材料からなり、それは次に珪砂および酸硬化バインダーからなる鋳造用の鋳型およびコアによって製造されたGJSおよびGJLの鋳造物の場合に生じる。特に、酸硬化フラン樹脂鋳型材料および他の酸硬化、低温硬化プロセス、例えばフェノール樹脂プロセスの場合にこの欠陥が発生する。この欠陥の最大の感受性は、再生フラン樹脂砂に見られ、強熱減量は3~4.5%であった。
この欠陥は、クローニング法によって製造されたコアおよび鋳型を使用するときならびにクレイボンド鋳型材料(「グリーンサンド」)法においても生じる。
この欠陥の発生の詳細な説明は下記の参考文献に見ることができる:
1) M. Schrod, H. J. Wojtas, Oberflaechenfehler insbesondere bei GJS, 7th Mold Material Conference, Duisburg February 2008
2) H. G. Levelink, F.P.M.A Julien, Eigenschaften von regeneriertem Furanharzsand, Giesserei 68 (1981) 340
3) S. Hasse, Guβ- und Gefuegefehler, Schiele & Schoen, Berlin, 2nd edition, 2003, 343。
【0005】
文献DE 20 2015 105 368 U1号は、珪砂と酸硬化バインダーとを含む鋳造用鋳型の鋳型材料のための溶浸剤としてかつ鋳造工程中のピットのある表面の形成を抑制するための1種以上の塩基からなる塩基性成分と塩基性成分のキャリア液体とを含む塩基性組成物の使用を開示している。
WO 2004/071738 A1号は、充填剤として水溶性塩を含むコーティング組成物を開示している。鋳造技術で使用するための塩コアのための耐火コーティングとしてのこのコーティング組成物の使用も記載している。
文献WO 2009/007093 A2号は、セラミック材料と、水ガラス系バインダーおよびフッ化物含有成分と組合せた耐火性バインダーからなる群から選択される少なくとも1種のバインダーとを含む耐火コーティング組成物を開示している。使用される水ガラスは炭酸塩と珪砂との反応により製造され、上記反応中に、二酸化炭素が逃げ、上記炭酸塩が分解される。
DD 63 853 A1号は、軽金属および非鉄金属を鋳造するための永久鋳型用の耐火コーティングを開示している。記載された上記耐火コーティングは、鋳込温度では溶融せずかつ分解しないアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、好ましくは炭酸ナトリウムまたは硫酸ナトリウムまたは硫酸マグネシウムを含有する。
EP 2 853 320 A1号は、金属を鋳造するためのコートした鋳型砂から構成される鋳造用鋳型および鋳造用コアを記載している。第1の層は硬化されており、水ガラスおよび/またはリン酸塩ガラスからなる第1の層は、上記鋳型砂の鋳型砂粒の表面上に配置されている。リン酸塩ガラスはガラス形成剤として主に五酸化リンを含有するガラスである。
【0006】
白い堆積物は主に厚壁部品、すなわち中位~重い鋳造物の場合に発生する。高弾性を有する比較的小さい小型鋳造物でさえも影響を受ける。この欠陥は、大部分は、熱的に強い応力がかかった鋳造物のゾーン、例えば半径で発生するが、そこからより広い領域にわたって広がることもできる。影響を受けたゾーンの表面の下では、黒鉛は部分的に縮退した形態で存在する。
鋳造欠陥は鋳造工場のフェトリングの増加につながり、これまでのところ、影響を受けた領域の大きさの増加によってのみ対抗することができる。極端な場合には、ピットのある表面は鋳造物の不合格を招く。
鋳肌の粗さとへこみのために、影響を受けた領域は、鋳造物の品質管理のために超音波試験または亀裂試験を受ける前に、まずコストがかかる方法で研磨しなければならない。
冷間硬化鋳型材料と非永久鋳型とを使用してGJSおよびGJLの鋳造物を製造する方法において、良好な鋳肌を有する鋳造物を再現的におよび安価に製造することを可能にする一定の方法が必要である。このために、鋳造物の表面の部分的な領域においてもピットのある表面が回避される解決策を見出すことが必要とされている。
【0007】
S. Hasse, Guβ- und Gefuegefehler, Schiele & Schoen, Berlin, 2nd edition, 2003, 343には既にいくつかの対策が記載されており、それによって鋳造欠陥を少なくとも減らすことができる。しかしながら、記載された対策は、例えば砂の廃棄物の増加により鋳造工程を費用のかかるものとし、それ故に経済的に実行可能でないかまたは工業的に実施するのが困難であるので、まだ全く満足できるものではない。
「Beitrag zum Entstehungsmechanismus des Gussoberflaechenfehlers weiβer Belag und Erarbeiten von Loesungsvorschlaegen zur Vermeidung, thesis by E. Potaturina, TU Bergakademie Freiberg, March 2014」には、浸透性耐火コーティングが記載されている。これらの浸透性耐火コーティングは、酸化マンガン(IV)(軟マンガン鉱)を含有する。酸化マンガン(IV)(軟マンガン鉱)は水やアルコールに不溶であり、両性的に反応する。二酸化マンガンを含む含浸性耐火コーティングの使用は、上記二酸化マンガンが鋳型材料の熱抵抗を低下させるという欠点を有する。鋳造欠陥が発生する恐れがある。さらに、E. Potaturinaによって記載されているように、これらの浸透性耐火コーティングは「ピットのある表面」の鋳造欠陥を減らすことができることがせいぜいである。
通常、鋳造工程では、浸透性耐火コーティング、すなわち鋳型材料中に浸透しかつ鋳型材料中の細孔をそれらの耐火材料で満たす耐火コーティングが使用される。それらは、浸透および浸食のような鋳造欠陥を避けるのに特に適している。これらの耐火コーティングは、通常、比較的大量の耐火材料を含有し、無機バインダーまたは有機バインダーも含有し得る。市販の耐火コーティングは、通常は、鋳型材料に施用すると浸透する。
【0008】
本発明の主な目的は、鋳造工程中のピットのある表面(白膜)の形成が抑制されるかまたは大幅に減少する方法を見出すことである。このような方法では、例えば、GJSおよびGJLの鋳造物を従来の大きさで製造することが可能であるはずである。
本発明の重要な態様は、主要な目的を達成するために有毒化学物質を使用しないこと、および鋳造中の有毒化合物の放出が最小限に抑えられるかまたは完全に回避されることである。
理想的には、鋳造工場では通常存在するコアおよび鋳型製造のための材料を使用して鋳造工場で通例のプロセスを使うことが可能であり続けるべきである。GJSおよびGJLの鋳造物を製造するための鋳型およびコアの重要な領域のみを処理することも可能であることが好ましい;これにより製造コストを節約することができる。さらに、複雑な補償対策や新たな砂の追加を避けるために、鋳型材料サイクルをプロセスがほとんど負うべきでない。下記の点の少なくとも1つ、好ましくはいくつかまたはすべてを回避することまたは達成することも可能であるはずである:
- 不合格の回避
- フェトリングの回避
- 処理追加の増加を回避
- 要求される表面品質の達成
- 鋳肌の焼結の回避
- 試験労力の削減、例えば超音波試験/亀裂試験において
- 完成した鋳造物の機械的特性の改善。
【0009】
この目的は、驚くべきことに、下記を含む、鉄鋼鋳造用の非永久鋳型上またはコア上に鋳型コーティングを生成させるための耐火コーティング組成物によって達成される
a)炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩および/または二リン酸アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、
b)キャリア液体および
c)耐火材料。
驚くべきことに、我々自身の研究は、炭酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩および二リン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩を個々にまたは互いに組合せて鋳造欠陥「白膜」を大幅に減少または完全に回避することができることを示した。同時に、炭酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩および二リン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩は、毒物学的に問題がない。
本発明のために、耐火性材料は、鋳鉄や鋳鋼に一般に使用される1300~1600℃の範囲の温度で安定である材料、すなわち鋳造工業で広く使われている酸化条件下でもその化学組成を維持し、好ましくはその物理的性質も維持する材料である。
【0010】
本発明によれば特に好ましい本発明の耐火コーティング組成物の実施態様において、耐火コーティング組成物は被覆性耐火コーティングであり、浸潤性耐火コーティングではない。
本発明のためには、被覆性耐火コーティングは、鋳型材料中に2mm未満浸透するか、または好ましくは鋳型材料中に浸透せず、通常溶融物と直接接触する。被覆性耐火コーティングは、鋳型材料への施用後に鋳型材料上に被覆層を形成する。
本発明のためには、浸潤性耐火コーティングは、鋳型材料中に少なくとも2~4mm浸透する耐火コーティングである。
本発明によれば、炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩が第一または第二炭酸塩でありかつ/または二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩が二リン酸二水素塩であるのが好ましい。
第二炭酸塩は一般式MHCO3を有し、炭酸水素塩であり、第二炭酸塩は一般式M2CO3またはMCO3(Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属である)を有する。
鉄鋼鋳造用の非永久鋳型上またはコア上に鋳型コーティングを生成させるために耐火コーティング組成物を使用する場合に本発明の耐火コーティング組成物において特に良好な鋳造結果を生じるので、我々自身の研究は、本発明によれば炭酸水素塩又は二リン酸二水素塩が特に好ましいことを示した。
【0011】
本発明によれば、炭酸のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩がリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムまたはストロンチウムの塩である本発明に従う耐火コーティング組成物が好ましく、特にナトリウム塩が好ましい。
本発明によれば、炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩が炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムである耐火コーティング組成物が好ましい。
驚くべきことに、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムが特に良好な性質を有することがわかった。炭酸水素ナトリウムは食品添加物、例えばベーキングパウダーに使用されているので、毒物学的に問題でない。炭酸ナトリウムもまた食品添加物として使用されており、ソーダの名前としてよく知られている。さらに、両方の化合物は大量に入手可能であり、安価である。さらに、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸ナトリウムを含有する本発明に従う耐火コーティング組成物は、鋳造欠陥「白膜」の非常に大きな減少または回避を示す。
本発明によれば、耐火コーティング組成物の全質量に基づいて、0.1~50質量%、好ましくは0.5~30質量%、特に好ましくは3~15質量%の炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩量を含む耐火コーティング組成物が好ましい。
本発明によれば、耐火コーティング組成物の全質量に基づいて、0.1~50質量%、好ましくは0.5~30質量%、特に好ましくは3~15質量%のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩量を含む二リン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含む耐火コーティング組成物が好ましい。
【0012】
本発明のためには、1:26~10:2.6の範囲、好ましくは1:13~5:2.6の範囲、特に好ましくは1:5.2~1:1.3の範囲の炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩と二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩とのモル比を有する耐火コーティング組成物が好ましい。
我々自身の研究は、炭酸または二リン酸のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩の含有量が鋳造物の品質に影響を与えることを示した。炭酸または二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩の割合が少なすぎると、全くまたはほとんど効果がなくなるが、高すぎる割合では効果はもはや改善されない。
本発明によれば、二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩が二リン酸二水素二ナトリウムである本発明に従う耐火コーティング組成物が好ましい。
驚くべきことに、二リン酸二水素二ナトリウムが特に良好な性質を有することが見られた。二リン酸二水素二ナトリウムは、食品添加物として、例えばベーキングパウダーに使用されているので、毒物学的に問題でない。さらに、それは大量に入手可能であり、安価である。さらに、二リン酸二水素二ナトリウムを含有する本発明に従う耐火コーティング組成物は、鋳造欠陥「白膜」の非常に大きな減少または回避を示す。
炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩および二リン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含有する本発明に従う耐火コーティング組成物が特に好ましい。
【0013】
驚くべきことに、我々自身の研究は炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩と二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩との混合物が鋳造欠陥「白膜」のほぼ完全な回避をもたらすことを示した。これらの混合物は、この形態で個々の化合物によって達成されることができない相乗効果を有する。さらに、炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩と二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩との混合物の使用によってもまた鋳肌の焼結を非常に強く回避するかまたは完全に防止することができることがわかった。
本発明によれば、炭酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩として、炭酸ナトリウムおよび/または炭酸水素ナトリウム、および二リン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩として二リン酸二水素二ナトリウムを含有する耐火コーティング組成物が特に好ましい。
特に、a)炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウムと、b)二リン酸二水素二ナトリウムとの混合物は、我々自体の研究において、鋳造欠陥「白膜」の完全またはほぼ完全な回避および鋳肌の焼結の防止を示す。
【0014】
本発明のためには、1:10~10:1の範囲、好ましくは1:5~5:1の範囲、特に好ましくは1:2~2:1の範囲のa)炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウムとb)二リン酸二水素二ナトリウムとの質量比を有する耐火コーティング組成物が好ましい。
本発明によれば、炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩と二リン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩との混合物を含む耐火コーティング組成物が好ましく、それの場合には耐火コーティング組成物はpH 7~9.9、好ましくはpH 7.5~9.5を有する。
本発明の耐火コーティング組成物の別の実施態様においては、耐火コーティングは、炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を含むが、二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を含まず、pH 9~10、好ましくはpH 9.5~11.5を有する。
本発明の耐火コーティング組成物の別の実施態様においては、耐火コーティングは、炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を含むが、二リン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含まず、pH 9~12、好ましくはpH 9.5~11.5を有する。
本発明の耐火コーティング組成物の別の実施態様においては、耐火コーティングは、二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を含むが、炭酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含まず、pH 5~8、好ましくはpH 5.5~7.5を有する。
【0015】
本発明によれば、キャリア液体が水であるかまたは水を含有する耐火コーティング組成物が好ましい。
キャリア液体としての水は、特に、それが容易に入手でき、安価でかつ毒物学的に問題でないという利点を有する。さらに、炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩(特に炭酸水素ナトリウムまたは炭酸ナトリウム)および二リン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩(特に二リン酸二水素二ナトリウム)は水に非常に溶けやすい。
本発明によれば、キャリア液体がアルコールであるかまたはアルコールを含有する本発明に従う耐火コーティング組成物が好ましく、好ましくはメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、ペンタン-1-オール、ペンタン-2-オール、ペンタン-3-オール、2-メチルブタン-1-オール、2-メチルブタン-2-オール、3-メチルブタン-1-オール、3-メチルブタン-2-オール、2,2-ジメチルプロパン-1-オール、ヘキサン-1-オール、ヘキサン-2-オール、ヘキサン-3-オール、2-メチルペンタン-1-オール、3-メチルペンタン-1-オール、4-メチルペンタン-1-オール、2-メチルペンタン-2-オール、3-メチルペンタン-2-オール、4-メチルペンタン-2-オール、2-メチルペンタン-3-オール、3-メチルペンタン-3-オール、2,2-ジメチルブタン-1-オール、2,3-ジメチルブタン-1-オール、3,3-ジメチルブタン-1-オール、2,3-ジメチルブタン-2-オール、3,3-ジメチルブタン-2-オール、2-エチルブタン-1-オールおよびそれらの混合物からなる群から選択され、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよびそれらの混合物が特に好ましい。
【0016】
本発明によれば、キャリア液体が1種以上の有機溶媒と水との混合物であり、上記有機溶媒が好ましくはアルコールである、耐火コーティング組成物が好ましい。我々自身の実験では、水と特に好ましいアルコールが特に良好な実用的性質を有することが示された。それらは充分に速く気化し、生理学的に問題でないかまたは生理学的にほとんど問題でなく、鋳造工場において大規模な安全予防策なしに使うことができる。
本発明によれば、耐火コーティング組成物の固形分が5~85質量%、好ましくは10~80質量%、特に好ましくは30~70質量%である耐火コーティング組成物が好ましい。
本発明によれば、耐火コーティング組成物が、耐火コーティング組成物の固形分に基づいて10~85質量%の耐火材料を含有する耐火コーティング組成物が好ましい。
本発明によれば、耐火材料が、シリカ、酸化アルミニウム(好ましくはα-アルミナ)、二酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、ムライト、ジルコンサンド、ケイ酸ジルコニウム、かんらん石、タルク、マイカ、コークス、長石、珪藻土、か焼カオリン、カオリナイト、メタカオリナイト、ケイ酸マグネシウム、酸化鉄、ボーキサイト、黒鉛、およびそれらの混合物、好ましくはケイ酸マグネシウム(特にタルク)、ケイ酸ジルコニウムおよびそれらの混合物からなる群から選択される耐火コーティング組成物が好ましい。
本発明によれば、着色顔料、流動学的添加剤、浮遊剤および/または増粘剤をさらに含む、本発明に従う耐火コーティング組成物が好ましい。
【0017】
本発明によれば、下記からなるかまたは下記を含む鉄鋼鋳造用の非永久鋳型上またコア上に鋳型コーティングを生成させるための耐火コーティング組成物が特に好ましい
a)いずれの場合も上記耐火コーティング組成物の全質量に基づいて、3~15質量%の炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウムと、3~15質量%の二水素二リン酸二ナトリウム、
b)水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよびそれらの混合物からなる群から選択されるキャリア液体、
c)シリカ、酸化アルミニウム(好ましくはα-アルミナ)、二酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、ムライト、ジルコンサンド、ケイ酸ジルコニウム、かんらん石、タルク、マイカ、コークス、長石、珪藻土、か焼カオリン、カオリナイト、メタカオリナイト、ケイ酸マグネシウム、酸化鉄、ボーキサイト、黒鉛およびそれらの混合物、好ましくはケイ酸マグネシウム(特にタルク)、ケイ酸ジルコニウムおよびそれらの混合物からなる群から選択される耐火材料、
ここで、上記耐火コーティング組成物がpH 7~9.9、好ましくはpH 7.5~9.5を有し、かつ
a)炭酸水素ナトリウムまたは炭酸ナトリウムとb)二リン酸二水素二ナトリウムとの質量比は、好ましくは1:10~10:1の範囲、より好ましくは1:5~5:1の範囲、特に好ましくは1:2~2:1の範囲である。
【0018】
本発明のさらなる態様は、鉄鋼鋳造用の非永久鋳型上またはコア上に鋳型コーティングを生成させるための、炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩および/または二リン酸のアルカリ金属もしくはアルカリ金属塩の使用を提供する。
本発明によれば、鉄鋼鋳造用の珪砂および酸硬化バインダーを含むことが好ましい非永久鋳型またはコア上にコーティングするための本発明の耐火コーティング組成物を使用することが好ましい。
本発明によれば、鋳造作業中の鋳造物の表面上の白膜の形成を防止または減少させるための使用もまた好ましい。
本発明のさらなる態様は、鋳造工業用の耐火コーティングにおける添加剤としての炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩および/または二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩の使用を提供する。
本発明によれば、鋳造工業用の耐火コーティングにおける添加剤としてのa)二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩またはb)(少なくとも)1種の炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩と(少なくとも)1種の二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩との混合物の使用が好ましい。
【0019】
本発明によれば、鋳造工業用の耐火コーティングにおける添加剤としてのa)炭酸ナトリウムおよび/またはb)炭酸水素ナトリウムおよび/またはc)二リン酸二水素二ナトリウムの使用が特に好ましい。
本発明によれば、鋳造工業用の耐火コーティングにおける添加剤としてのa)二リン酸二水素二ナトリウムおよび/またはb)下記の混合物の使用が特に非常に好ましい
b.i)二リン酸二水素ナトリウムと
b.ii)炭酸水素ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウム。
本発明によれば、鋳造工業用の耐火コーティングにおける添加剤としてのa)炭酸ナトリウムおよび/またはb)炭酸水素ナトリウムおよび/またはc)二リン酸二水素二ナトリウムの使用もまた好ましく、それにより本発明に従う耐火コーティング組成物が得られる。
本発明のさらなる態様は、下記の工程を含む、鋳造物の製造方法を提供する:
(i)1種以上の酸硬化バインダーおよび珪砂を含むことが好ましい化学結合鋳型基材から構成される鋳造用鋳型を準備または製造する工程、
(ii)本発明に従う耐火コーティング組成物で上記鋳造用鋳型の少なくとも1つの領域をコーティングし、コートされた上記耐火コーティング組成物を乾燥する工程、
(iii)上記鋳造用鋳型に溶融鉄-炭素合金を充填する工程、
(iv)上記鋳造用鋳型内で上記鉄-炭素合金を凝固させて鋳造物を得る工程。
【0020】
本発明によれば、鋳造物の製造方法であって、鋳造用鋳型の少なくとも1つの領域を本発明に従う耐火コーティング組成物でコーティングする前に、浸透性耐火コーティングを鋳造用鋳型の少なくとも1つの領域に施用する、前記方法が好ましい(本発明の方法の工程(ii))。上記浸透性耐火コーティングは、好ましくは酸化アルミニウムおよび/またはカオリン、特に好ましくは、いずれの場合も上記浸透性耐火コーティングの全質量に基づいて、50~75質量%の酸化アルミニウムおよび/または5~10質量%のカオリンを含有する。
本発明によれば、鋳造物の製造方法であって、鋳造用鋳型の上記少なくとも1つの領域を本発明に従う耐火コーティング組成物でコーティングする(本発明の方法の工程(ii))前に、第1の被覆性耐火コーティングを鋳造用鋳型の少なくとも1つの領域に施用し、この第1の被覆性耐火コーティングが炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩および/または二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を含まない、前記方法もまた好ましい。この場合、施用された上記第1の被覆性耐火コーティングが施用後に乾燥されるのが好ましい。さらに、上記第1の被覆性耐火コーティングは、好ましくはムライトおよび/または黒鉛、特に好ましくは、いずれの場合も上記被覆性耐火コーティングの全質量に基づいて、50~75質量%のムライトおよび/または1~5質量%の黒鉛を含有する。
鋳造物を製造するための本発明の方法の特に好ましい実施態様においては、本発明に従う耐火コーティング組成物で鋳造用鋳型の少なくとも1つの領域にコーティングする(本発明による方法の工程(ii))前に、鋳造用鋳型の少なくとも1つの領域に浸透性耐火コーティングを施用し、次いで炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩および/または二リン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含まない第1の被覆性耐火コーティングを鋳造用鋳型の少なくとも1つの領域に施用し、乾燥する。
【0021】
したがって、本発明によれば、下記の工程を含む、鋳造物を製造する方法が特に好ましい:
(a)1種以上の酸硬化バインダーおよび珪砂を含むことが好ましい化学結合鋳型基材から構成される鋳造用鋳型を準備または製造する工程、
(b)上記鋳造用鋳型の少なくとも1つ領域を浸透性耐火コーティングでコーティングする工程、
(c)工程(b)でコートされた上記鋳造用鋳型の上記領域の少なくとも一部を被覆性耐火コーティングでコーティングし(この第1の被覆性耐火コーティングは炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩および/または二リン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を含んでいない)、施用した上記第1の被覆性耐火コーティングを乾燥する工程、
(d)工程(c)でコートされた上記鋳造用鋳型の上記領域の少なくとも一部を本発明に従う耐火コーティング組成物でコーティングし、コートされた上記耐火コーティング組成物を乾燥する工程、
(e)上記鋳造用鋳型に溶融鉄-炭素合金を充填する工程、
(f)上記鋳造用鋳型内で上記鉄-炭素合金を凝固させて鋳造物を得る工程。
【0022】
本発明のさらなる態様は、鋳造物を製造するための化学結合鋳型基材から構成される鋳造用鋳型であって、上記化学結合鋳型基材が1種以上の酸硬化バインダーおよび珪砂を含むことが好ましく、上記鋳造用鋳型の少なくとも1つの領域が本発明に従う耐火コーティング組成物で所定の方法でコーティングされている、上記鋳造用鋳型を提供する。
本発明によれば、浸透性耐火コーティングでさらにコーティングされており、上記浸透性耐火コーティングが本発明の上記耐火コーティング組成物の下に上記化学結合鋳型基材中に浸透している鋳造用鋳型が好ましい。
本発明によれば、被覆性耐火コーティングをさらに含有し、この被覆性耐火コーティングが炭酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩および/または二リン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含まず、この被覆性耐火コーティングが本発明の上記耐火コーティング組成物と化学結合鋳型基材との間に層を形成する、上記鋳造用鋳型もまた好ましい。
本発明の文脈において、好ましいものとして上述した複数の態様は同時に実現されることが好ましい;そのような態様および対応する特徴の添付の特許請求の範囲で示した組合せが特に好ましい。
本発明を実施例および図面によって以下に具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例8で製造された鋳造物の「X」と印を付けた領域の写真である。鋳造物の「X」と印を付けた部分は、実施例8において本発明に従う耐火コーティング組成物でコーティングした鋳型の部分からのものである。鋳造物の表面は、欠陥がなく、表面の「白膜」、焼結またはピットがない。
【実施例
【0024】
実施例1:
EN-GJS 400-15から構成され、鋳造質量19200kgおよびピース質量15800kgを有する鋳造用の鋳型(ANZ E 101)を製造した。上記鋳型は、鋳造中に高熱応力を受ける複数の半径を有する。鉄と砂との質量比は約1:1であった。上記鋳型の鋳型材料として、平均粒径0.33mmの機械的に再生されたフランサンドを使用した。バインダーとしてHuettenes-Albertus、デュッセルドルフからのバインダーSRV-1を使用し、活性化剤としてHuettenes-Albertus、デュッセルドルフからの活性化剤7809を使用した。
上記鋳型の特に特徴のある領域(この実施例では領域「A」)に、高耐火性ケイ酸マグネシウムおよび酸化物-セラミック成分および水をベースとし、9質量%の炭酸ナトリウムを含有する本発明に従う耐火コーティング組成物(pH 10.6)を施用した。
約1320℃の鋳込温度で鋳造した後、鋳造物を検査した。本発明に従う耐火コーティング組成物で処理された領域「A」では、鋳造物は「白膜」の形成を示さなかった。「白膜」は鋳造物の未処理領域で見られた。
【0025】
実施例2:
実施例2は、高耐火性ケイ酸マグネシウムおよび酸化物-セラミック成分および水をベースとし、9質量%の二リン酸二水素二ナトリウムを含有する本発明に従う耐火コーティング組成物(pH 5.5)を施用した以外は、実施例1と同様にして実施した。
約1320℃の鋳込温度で鋳造した後、鋳造物を検査した。本発明に従う耐火コーティング組成物で処理された領域では、鋳造物は「白膜」の形成を示さなかった。「白膜」は鋳造物の未処理領域で見られた。
【0026】
実施例3:
実施例3は、高耐火性ケイ酸マグネシウムおよび酸化物-セラミック成分および水をベースとし、4.5質量%の二リン酸二水素二ナトリウムおよび4.5質量%の炭酸ナトリウムを含有する本発明に従う耐火コーティング組成物(pH 9.0)を施用した以外は、実施例1と同様にして実施した。
約1320℃の鋳込温度で鋳造した後、鋳造物を検査した。本発明に従う耐火コーティング組成物で処理された領域では、鋳造物は「白膜」の形成を示さなかった。「白膜」は鋳造物の未処理領域で見られた。
【0027】
実施例4:
実施例4は、高耐火性ケイ酸マグネシウムおよび酸化物-セラミック成分および水をベースとし、9質量%の二リン酸二水素二ナトリウムを含有する本発明に従う耐火コーティング組成物(pH 5.5)を施用した以外は、実施例1と同様にして実施した。
本発明に従う耐火コーティング組成物を施用する前に上記鋳型を浸透性耐火コーティングFoseco PDI 1658/1で前処理した。
約1320℃の鋳込温度で鋳造した後、鋳造物を検査した。本発明に従う耐火コーティング組成物で処理された領域では、鋳造物は「白膜」の形成に大幅な低減を示した。「白膜」は鋳造物の未処理領域で見られた。
【0028】
実施例5:
実施例5は、高耐火性ケイ酸マグネシウムおよび酸化物-セラミック成分および水をベースとし、9質量%の炭酸ナトリウムを含有する本発明に従う耐火コーティング組成物(pH 10.6)を施用した以外は、実施例1と同様にして実施した。
本発明に従う耐火コーティング組成物を施用する前に上記鋳型を浸透性耐火コーティングFoseco PDI 1658/1で前処理した。
約1320℃の鋳込温度で鋳造した後、鋳造物を検査した。本発明に従う耐火コーティング組成物で処理された領域では、鋳造物は「白膜」の形成に大幅な低減を示した。「白膜」は鋳造物の未処理領域で見られた。
【0029】
実施例6:
実施例6は、高耐火性ケイ酸マグネシウムおよび酸化物-セラミック成分および水をベースとし、9質量%の炭酸ナトリウムを含有する本発明に従う耐火コーティング組成物(pH 5.5)を施用した以外は、実施例1と同様にして実施した。
本発明に従う耐火コーティング組成物を施用する前に上記鋳型を浸透性耐火コーティングFoseco PDI 1658/1で、続いて第1の被覆性耐火コーティングFoseco PDI 1514/4で前処理し、続いて乾燥させた。
約1320℃の鋳込温度で鋳造した後、鋳造物を検査した。本発明に従う耐火コーティング組成物で処理された領域では、鋳造物は「白膜」の形成に非常に大幅な低減を示した。「白膜」は鋳造物の未処理領域で見られた。
【0030】
実施例7:
実施例7は、高耐火性ケイ酸マグネシウムおよび酸化物-セラミック成分および水をベースとし、9質量%の炭酸ナトリウムを含有する本発明に従う耐火コーティング組成物(pH 10.6)を施用した以外は、実施例1と同様にして実施した。
本発明に従う耐火コーティング組成物を施用する前に上記鋳型を浸透性耐火コーティングFoseco PDI 1658/1で、続いて第1の被覆性耐火コーティングFoseco PDI 1514/4で前処理し、続いて乾燥させた。
約1320℃の鋳込温度で鋳造した後、鋳造物を検査した。本発明に従う耐火コーティング組成物で処理された領域では、鋳造物は「白膜」の形成に非常に大幅な低減を示した。「白膜」は鋳造物の未処理領域で見られた。
【0031】
実施例8
実施例8は、高耐火性ケイ酸マグネシウムおよび酸化物-セラミック成分および水をベースとし、4.5質量%の炭酸ナトリウムを含有する本発明に従う耐火コーティング組成物(pH 9.0)を施用した以外は、実施例1と同様にして実施した。
本発明に従う耐火コーティング組成物を施用する前に上記鋳型を浸透性耐火コーティングFoseco PDI 1658/1で、続いて第1の被覆性耐火コーティングFoseco PDI 1514/4で前処理し、続いて乾燥させた。
約1320℃の鋳込温度で鋳造した後、鋳造物を検査した。本発明に従う耐火コーティング組成物で処理された領域では、鋳造物は「白膜」の形成も表面の焼結も示さなかった。処理領域における鋳造物の表面は欠陥が全くなく、処理領域のフェトリングは必要なかった。「白膜」は鋳造物の未処理領域で見られた。
得られた鋳肌の写真を図1に示す(領域「X」)。
図1