(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
C07C 43/13 20060101AFI20220204BHJP
C10M 105/54 20060101ALI20220204BHJP
C10M 107/38 20060101ALI20220204BHJP
G11B 5/725 20060101ALI20220204BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220204BHJP
C07C 43/03 20060101ALN20220204BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220204BHJP
C10N 40/18 20060101ALN20220204BHJP
【FI】
C07C43/13 D CSP
C10M105/54
C10M107/38
G11B5/725
C07B61/00 300
C07C43/03
C10N30:00 Z
C10N40:18
(21)【出願番号】P 2020200462
(22)【出願日】2020-12-02
(62)【分割の表示】P 2016158134の分割
【原出願日】2016-08-10
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】福本 直也
(72)【発明者】
【氏名】柳生 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕太
(72)【発明者】
【氏名】植竹 祥子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】冨田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 隆太
(72)【発明者】
【氏名】室伏 克己
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-218659(JP,A)
【文献】特開平08-063739(JP,A)
【文献】国際公開第2009/035075(WO,A1)
【文献】特開2009-029980(JP,A)
【文献】特開2013-018961(JP,A)
【文献】特開2005-032366(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084781(WO,A1)
【文献】特表2014-509677(JP,A)
【文献】特開2009-270093(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093237(WO,A1)
【文献】特許第6804893(JP,B2)
【文献】Guo, X.-C. 他,A multidentate lubricant for use in hard disk drives at sub-nanometer thickness,Journal of Applied Physics ,2012年,111(2),,024503/1-024503/7
【文献】FUJITSU, 2007.01, vol.58.1, p.48-52
【文献】REGISTRY(STN)[online],2009.12.17 [検索日 2021.07.20]CAS登録番号 1197993-72-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R
1-CH
2-R
2-CH
2-R
3(1)
(式(1)中、R
1は
下記式(4)で表される末端基であり、R
2は下記式(3)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖
であり、R
3は水酸基またはR
1である。)
-(CF
2)
y-1-O-((CF
2)
yO)
z-(CF
2)
y-1-(3)
(式(3)中、yは3~4の整数を表し、zは1~30の整数を表す。)
【化1】
(式(4)中、xは1である。)
【請求項2】
下記式(2)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R
1-CH
2-R
2-CH
2-R
1(2)
(式(2)中、R
1は
下記式(4)で表される末端基であり、R
2は下記式(3)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖
である。)
-(CF
2)
y-1-O-((CF
2)
yO)
z-(CF
2)
y-1-(3)
(式(3)中、yは3~4の整数を表し、zは1~30の整数を表す。)
【化2】
(式(4)中、xは1である。)
【請求項3】
前記式(1)における化合物が、下記式(5)で表される
請求項1に記載の含フッ素エーテル化合物。
【化3】
(式(5)中、mは1~11の整数を表す。)
【請求項4】
前記式(2)における化合物が、下記式(8)で表される
請求項2に記載の含フッ素エーテル化合物。
【化4】
(式(8)中、mは1~11の整数を表す。)
【請求項5】
数平均分子量が800~10000の範囲内である請求項1~
請求項4のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物。
【請求項6】
請求項1~
請求項5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
【請求項7】
基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層とが順次設けられた磁気記録媒体であって、前記潤滑層が、請求項1~
請求項5のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項8】
前記潤滑層の平均膜厚が、0.5nm~3nmである
請求項7に記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の潤滑剤用途に好適な含フッ素エーテル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置の記録密度を向上させるために、高記録密度に適した磁気記録媒体の開発が進められている。
従来、磁気記録媒体として、基板上に記録層を形成し、記録層上にカーボン等の保護層を形成したものがある。保護層は、記録層に記録された情報を保護するとともに、磁気ヘッドの摺動性を高める。しかし、記録層上に保護層を設けただけでは、磁気記録媒体の耐久性は十分に得られない。このため、一般に、保護層の表面に潤滑剤を塗布して潤滑層を形成している。
【0003】
磁気記録媒体の潤滑層を形成する際に用いられる潤滑剤としては、例えば、CF2を含む繰り返し構造を有するフッ素系のポリマーの末端に、水酸基等の極性基を有する化合物を含有するものが提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4632144号公報
【文献】特開2013-163667号公報
【文献】特許第5613916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気記録再生装置においては、より一層、磁気ヘッドの浮上量を小さくすることが要求されている。このため、磁気記録媒体における潤滑層の厚みを、より薄くすることが求められている。
しかし、潤滑層の厚みを薄くすると、保護層の表面を被覆している潤滑層と保護層との密着性が不足し、潤滑剤層中の含フッ素エーテル化合物が異物(スメア)として磁気ヘッドに付着するピックアップが発生する場合があった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、保護層との密着性が良好で、ピックアップを抑制できる潤滑層を形成できる磁気記録媒体用潤滑剤の材料として、好適に用いることができる含フッ素エーテル化合物を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の含フッ素エーテル化合物を用いた潤滑層を有する磁気記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。
その結果、剛直性を有するパーフルオロポリエーテル(以下「PFPE」と記載する場合がある。)鎖の少なくとも一方の末端に、2つ以上の極性基を含み、各極性基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、前記極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している炭素数3以上の有機末端基を配置した含フッ素エーテル化合物とすればよいことを見出し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0008】
[1]下記式(1)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R1-CH2-R2-CH2-R3 (1)
(式(1)中、R1は2つ以上の極性基を含み、各極性基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、前記極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している炭素数3以上の有機末端基であり、R2は下記式(3)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含み、R3は水酸基またはR1である。)
-(CF2)y-1-O-((CF2)yO)z-(CF2)y-1- (3)
(式(3)中、yは2~4の整数を表し、zは1~30の整数を表す。)
【0009】
[2]下記式(2)で表されることを特徴とする含フッ素エーテル化合物。
R1-CH2-R2-CH2-R1 (2)
(式(2)中、R1は2つ以上の極性基を含み、各極性基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、前記極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している炭素数3以上の有機末端基であり、R2は下記式(3)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含む。)
-(CF2)y-1-O-((CF2)yO)z-(CF2)y-1- (3)
(式(3)中、yは2~4の整数を表し、zは1~30の整数を表す。)
【0010】
[3]R1に含まれる極性基が水酸基である[1]または[2]に記載の含フッ素エーテル化合物。
[4]前記R1がエーテル結合(-O-)を有する[1]~[3]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
[5]前記R1が下記式(4)の末端基である[1]~[4]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0011】
【化1】
(式(4)中、xは1~3の整数を表す。)
【0012】
[6]前記式(1)における化合物が、下記式(5)で表される[1][3]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0013】
【化2】
(式(5)中、mは1~11の整数を表す。)
【0014】
[7]前記式(1)における化合物が、下記式(6)で表される[1][3]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0015】
【化3】
(式(6)中、nは1~7の整数を表す。)
【0016】
[8]前記式(1)における化合物が、下記式(7)で表される[1][3]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0017】
【化4】
(式(7)中、nは1~7の整数を表す。)
【0018】
[9]前記式(2)における化合物が、下記式(8)で表される[2]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0019】
【化5】
(式(8)中、mは1~11の整数を表す。)
【0020】
[10]前記式(2)における化合物が、下記式(9)で表される[2]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0021】
【化6】
(式(9)中、nは1~7の整数を表す。)
【0022】
[11]前記式(2)における化合物が、下記式(10)で表される[2]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0023】
【化7】
(式(10)中、nは1~7の整数を表す。)
【0024】
[12]前記式(1)における化合物が、下記式(11)で表される[1][3]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0025】
【化8】
(式(11)中、lは1~15の整数を表す。)
【0026】
[13]前記式(1)における化合物が、下記式(12)で表される[1][3]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0027】
【化9】
(式(12)中、mは1~11の整数を表す。)
【0028】
[14]前記式(1)における化合物が、下記式(13)で表される[1][3]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0029】
【化10】
(式(13)中、mは1~11の整数を表す。)
【0030】
[15]前記式(2)における化合物が、下記式(14)で表される[2]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0031】
【化11】
(式(14)中、lは1~15の整数を表す。)
【0032】
[16]前記式(2)における化合物が、下記式(15)で表される[2]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0033】
【化12】
(式(15)中、mは1~11の整数を表す。)
【0034】
[17]前記式(2)における化合物が、下記式(16)で表される[2]~[5]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
【0035】
【化13】
(式(16)中、mは1~11の整数を表す。)
【0036】
[18]数平均分子量が800~10000の範囲内である[1]~[17]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物。
[19][1]~[18]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体用潤滑剤。
[20]基板上に、少なくとも磁性層と、保護層と、潤滑層とが順次設けられた磁気記録媒体であって、前記潤滑層が、[1]~[18]のいずれかに記載の含フッ素エーテル化合物を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
[21]前記潤滑層の平均膜厚が、0.5nm~3nmである[20]に記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0037】
本発明の含フッ素エーテル化合物は、上記式(1)で表される化合物であり、磁気記録媒体用潤滑剤の材料として好適である。
本発明の磁気記録媒体用潤滑剤は、本発明の含フッ素エーテル化合物を含むため、保護層との密着性が良好で、ピックアップを抑制できる潤滑層を形成できる。
本発明の磁気記録媒体は、保護層との密着性が良好で、ピックアップを抑制できる潤滑層を有するため、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の含フッ素エーテル化合物、磁気記録媒体用潤滑剤および磁気記録媒体について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0040】
[含フッ素エーテル化合物]
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、下記式(1)で表される。
R1-CH2-R2-CH2-R3 (1)
(式(1)中、R1は2つ以上の極性基を含み、各極性基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、前記極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している炭素数3以上の有機末端基であり、R2は下記式(3)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含み、R3は水酸基またはR1である。)
-(CF2)y-1-O-((CF2)yO)z-(CF2)y-1- (3)
(式(3)中、yは2~4の整数を表し、zは1~30の整数を表す。)
【0041】
ここで、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤(以下「潤滑剤」と略記する場合がある。)を用いて、磁気記録媒体の保護層上に潤滑層を形成した場合に、高い被覆率で保護層の表面を被覆でき、保護層との密着性に優れる潤滑層となる理由について説明する。
【0042】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、式(1)に示すように、R2で表されるパーフルオロポリエーテル鎖(以下「PFPE鎖」と略記する場合がある。)の一方の末端に、R1で表される末端基が配置され、他方の末端にR3で表される末端基が配置されている。R1で表される末端基に含まれる2つ以上の極性基は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層において、含フッ素エーテル化合物と保護層とを密着させる。R2で表されるPFPE鎖は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層において、保護層の表面を被覆するとともに、磁気ヘッドと保護層との摩擦力を低減させる。更に、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層では、直鎖状フッ素化アルキルエーテル基からなる剛直性を有する繰り返しユニットを有する式(3)で表されるPFPE鎖を含むR2が、R1およびR3の有する極性基によって保護層に密着(吸着)されている。
このため、PFPE鎖は、保護層上にループ構造を形成できる。その結果、保護層との密着性が良好な潤滑層となる。
【0043】
また、R1で表される末端基に含まれる2つ以上の極性基は、それぞれ異なる炭素原子に結合し、前記極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している。R1で表される末端基を有する含フッ素エーテル化合物は、例えば、極性基の結合している炭素原子同士が結合している末端基を有するフッ素エーテル化合物と比較して、凝集しにくい。よって、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層では、保護層に密着(吸着)せずに存在している含フッ素エーテル化合物が凝集して、異物(スメア)として磁気ヘッドに付着することを防止でき、ピックアップが抑制される。また、含フッ素エーテル化合物同士が凝集しにくいため、潤滑層中の含フッ素エーテル化合物が、保護層上で面方向に広がって延在した状態で配置されやすい。
よって、上記の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いることで、厚みを薄くしても、高い被覆率で保護層の表面を被覆でき、かつ耐摩耗性の良好な潤滑層を形成できる。
【0044】
また、R1で表される末端基では、極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している。このため、潤滑剤の塗布される保護層が炭素または窒素を含む炭素で形成されている場合に、R1の有する2つ以上の極性基が保護層の表面に対して同一方向を向きやすく、極性基が保護層面に対して密着しやすい立体的な配置となる。したがって、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層は、特に、保護層が炭素または窒素を含む炭素で形成されている場合に、より一層保護層との密着性が良好となる。
【0045】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、R1は2つ以上の極性基を含み、各極性基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、前記極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している炭素数3以上の有機末端基である。
式(1)におけるR1は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能などに応じて適宜選択できる。
【0046】
R1における極性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミノカルボキシル基などが挙げられる。R1における極性基は、保護層との密着性が良好な含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層が得られるため、水酸基であることが好ましい。なお、エーテル結合(-O-)は、R1における極性基には含まれない。
【0047】
R1における極性基の数は、2つ以上であり、2~4であることが好ましい。R1における極性基の数が多いと立体障害により、極性基が保護層の面に向きにくくなる。このため、R1における極性基の数は、2つであることが最も好ましい。
R1における2つ以上の極性基は、全て異なるものであってもよいし、一部または全部が同じものであってもよい。
【0048】
R1における連結基は、特に限定されるものではなく、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能などに応じて適宜選択できる。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などの炭素数1~4のアルキレン基が挙げられる。これらのアルキレン基はエーテル結合を介して連結されていてもよい。
R1は、エーテル結合(-O-)を有することが好ましい。R1におけるエーテル結合は、連結基に含まれていることが好ましい。
【0049】
R1は、下記式(4)で表される末端基であることが好ましい。式(4)で表される末端基は、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤の塗布される保護層と、潤滑剤を塗布して形成した潤滑層との密着性向上に寄与する。
【0050】
【化14】
(式(4)中、xは1~3の整数を表す。)
【0051】
式(4)において、xが1~3の整数である場合、式(4)中のR2側の水酸基と、末端の水酸基との間の距離が適正となる。その結果、より一層、異物(スメア)を生じさせにくい潤滑層を形成できるものとなる。
【0052】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物において、R3は水酸基またはR1である。
R3が水酸基である場合、式(4)の末端の水酸基と同様に、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤の塗布される保護層と水素結合による密着性が得られるため、好ましい。
R3がR1である場合、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤の塗布される保護層と、潤滑剤を塗布して形成した潤滑層との密着性が、より良好なものとなるため、好ましい。
R3がR1である場合、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物におけるR3とR1とは、下記式(2)で表されるように同じであってもよいし、異なっていてもよい。
式(1)におけるR3は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤に求められる性能などに応じて適宜選択できる。
【0053】
R1-CH2-R2-CH2-R1 (2)
(式(2)中、R1は2つ以上の極性基を含み、各極性基がそれぞれ異なる炭素原子に結合し、前記極性基の結合している炭素原子同士が、極性基の結合していない炭素原子を含む連結基を介して結合している炭素数3以上の有機末端基であり、R2は下記式(3)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含む。)
-(CF2)y-1-O-((CF2)yO)z-(CF2)y-1- (3)
(式(3)中、yは2~4の整数を表し、zは1~30の整数を表す。)
【0054】
式(1)および式(2)中、R2は下記式(3)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖(PFPE鎖)を含む。式(3)で表されるPFPE鎖は、含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を保護層上に塗布して潤滑層を形成した場合に、保護層の表面を被覆するとともに、潤滑層に潤滑性を付与して磁気ヘッドと保護層との摩擦力を低減させる。また、式(3)で表されるPFPE鎖は、例えば、式(3)で表される以外のPFPE鎖からなる繰り返しユニットを含むものと比較して、剛直性が高い。このため、本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、主鎖の剛直性が高いものである。
-(CF2)y-1-O-((CF2)yO)z-(CF2)y-1- (3)
(式(3)中、yは2~4の整数を表し、zは1~30の整数を表す。)
【0055】
式(3)において、yは2~4の整数であり、zは1~30の整数である。式(3)におけるyは2~3の整数であることが好ましい。式(3)におけるzは1~20の整数であることが好ましく、1~15の整数であることがより好ましい。
【0056】
本実施形態では、式(3)のyが2~4の整数であって、zが1~30の整数であるので、含フッ素エーテル化合物の数平均分子量が、好ましい範囲になる。また、式(3)のyが2~4の整数であり、zが1~30の整数であるため、PFPE鎖中の炭素原子数に対する酸素原子数(エーテル結合(-O-)数)の割合が適正となり、適度な剛直性を有する含フッ素エーテル化合物となる。また、式(3)のyが2~4の整数であり、zが1~30の整数であるため、保護層上に塗布された含フッ素エーテル化合物中の極性基の向きが、PFPE鎖の剛直性によって保持されやすくなり、含フッ素エーテル化合物が保護層上で凝集しにくくなる。その結果、含フッ素エーテル化合物によって、厚みの薄い潤滑層を十分な被覆率で保護層上に形成できるとともに、PFPE鎖が保護層上にループ構造を形成できる。
【0057】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、具体的には、下記式(5)~(20)で表されるいずれかの化合物であることが好ましい。
ただし、各式におけるl、m、nの各数値は、その数値範囲の整数値のいずれかであることを意味する。例えば、下記式(17)が示す化合物は、nが1,2,3,・・・,7のいずれかを示すものである。したがって、式(17)で表される化合物の示す範囲は、nが1~7のうちの少なくとも1つの化合物であり、nが1~7の全ての化合物からなる混合物を示すものではない。他の式についても同様である。
【0058】
【化15】
(式(17)中、nは1~7の整数を表す。)
【0059】
【化16】
(式(5)中、mは1~11の整数を表す。)
【0060】
【化17】
(式(6)中、nは1~7の整数を表す。)
【0061】
【化18】
(式(7)中、nは1~7の整数を表す。)
【0062】
【化19】
(式(18)中、nは1~7の整数を表す。)
【0063】
【化20】
(式(8)中、mは1~11の整数を表す。)
【0064】
【化21】
(式(9)中、nは1~7の整数を表す。)
【0065】
【化22】
(式(10)中、nは1~7の整数を表す。)
【0066】
【化23】
(式(19)中、mは1~11の整数を表す。)
【0067】
【化24】
(式(11)中、lは1~15の整数を表す。)
【0068】
【化25】
(式(12)中、mは1~11の整数を表す。)
【0069】
【化26】
(式(13)中、mは1~11の整数を表す。)
【0070】
【化27】
(式(20)中、mは1~11の整数を表す。)
【0071】
【化28】
(式(14)中、lは1~15の整数を表す。)
【0072】
【化29】
(式(15)中、mは1~11の整数を表す。)
【0073】
【化30】
(式(16)中、mは1~11の整数を表す。)
【0074】
式(1)で表される含フッ素エーテル化合物が、式(5)~(20)で表されるいずれかの化合物である場合、より一層、保護層との密着性が良好で、ピックアップを抑制できる潤滑層を形成できるものとなり、好ましい。
式(5)~(20)で表される含フッ素エーテル化合物の中でも特に、式(2)で表される含フッ素エーテル化合物である、式(8)~(10)(14)~(16)(18)(20)で表される含フッ素エーテル化合物は、保護層との密着性が良好な潤滑層を形成できるため、好ましい。
【0075】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、数平均分子量が800~10000の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が800以上であると、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤が蒸散しにくいものとなり、潤滑剤が蒸散して磁気ヘッドに移着することを防止できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、1000以上であることがより好ましい。また、数平均分子量が10000以下であると、含フッ素エーテル化合物の粘度が適正なものとなり、これを含む潤滑剤を塗布することによって、容易に厚みの薄い潤滑層を形成できる。含フッ素エーテル化合物の数平均分子量は、潤滑剤に適用した場合に扱いやすい粘度となるため、4000以下であることが好ましい。
【0076】
数平均分子量は、ブルカー・バイオスピン社製AVANCEIII400による1H-NMRおよび19F-NMRによって測定された値である。NMR(核磁気共鳴)の測定において、試料をヘキサフルオロベンゼン/d-アセトン(1/4v/v)溶媒へ希釈し、測定に使用した。19F-NMRケミカルシフトの基準は、ヘキサフルオロベンゼンのピークを-164.7ppmとし、1H-NMRケミカルシフトの基準は、アセトンのピークを2.2ppmとした。
【0077】
「製造方法」
本実施形態の含フッ素エーテル化合物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を用いて製造できる。本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、例えば、以下に示す製造方法を用いて製造できる。
まず、式(1)におけるR2に対応するパーフルオロポリエーテル鎖の両末端に、それぞれヒドロキシメチル基(-CH2OH)が配置されたフッ素系化合物を用意する。
【0078】
次いで、フッ素系化合物の両末端(または一方の末端)に配置されたヒドロキシメチル基の水酸基を、式(1)におけるR1からなる有機末端基を有する化合物で置換する。含フッ素エーテル化合物として、R3が水酸基である含フッ素エーテル化合物を製造する場合、上記の置換反応の際に、R1からなる有機末端基を有する化合物を、パーフルオロポリエーテル鎖に対して1当量分用いる。また、含フッ素エーテル化合物として、R3がR1である含フッ素エーテル化合物を製造する場合、上記の置換反応の際に、R1からなる有機末端基を有する化合物を、パーフルオロポリエーテル鎖に対して2当量分以上用いる。これらの置換反応は、従来公知の方法を用いて行うことができ、式(1)におけるR1およびR3の種類などに応じて適宜決定できる。以上の方法により、式(1)で表される化合物が得られる。
【0079】
本実施形態の含フッ素エーテル化合物は、上記式(1)で表される化合物である。したがって、これを含む潤滑剤を用いて保護層上に潤滑層を形成すると、式(1)においてR2で表されるPFPE鎖によって、保護層の表面が被覆されるとともに、磁気ヘッドと保護層との摩擦力が低減される。また、本実施形態の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑剤を用いて形成した潤滑層では、R1で表される有機末端基が有する2つ以上の水酸基における分子間相互作用により、優れた耐摩耗性が得られる。
【0080】
また、本実施形態の含フッ素エーテル化合物では、PFPE鎖が、PFPE鎖に連結されたR1で表される有機末端基の有する2つ以上の極性基と保護層との結合によって、保護層上に密着される。したがって、潤滑層と保護層とが強固に結合され、ピックアップが抑制される。
【0081】
[磁気記録媒体用潤滑剤]
本実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含む。
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むことによる特性を損なわない範囲内であれば、潤滑剤の材料として使用されている公知の材料を、必要に応じて混合して用いることができる。
公知の材料の具体例としては、例えば、FOMBLIN(登録商標) ZDIAC、FOMBLIN ZDEAL、FOMBLIN AM-2001(以上Solvay Solexis社製)、Moresco A20H(Moresco社製)などが挙げられる。本実施形態の潤滑剤と混合して用いる公知の材料は、数平均分子量が1000~10000であることが好ましい。
【0082】
本実施形態の潤滑剤が、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の他の材料を含む場合、本実施形態の潤滑剤中の式(1)で表される含フッ素エーテル化合物の含有量が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0083】
本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むため、厚みを薄くしても、高い被覆率で保護層の表面を被覆でき、保護層との密着性に優れる潤滑層を形成できる。また、本実施形態の潤滑剤は、式(1)で表される含フッ素エーテル化合物を含むため、保護層に密着(吸着)せずに存在している潤滑剤層中の含フッ素エーテル化合物が、凝集しにくい。よって、含フッ素エーテル化合物が凝集して、異物(スメア)として磁気ヘッドに付着することを防止でき、ピックアップが抑制される。
【0084】
[磁気記録媒体]
図1は、本発明の磁気記録媒体の一実施形態を示した概略断面図である。
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、付着層12と、軟磁性層13と、第1下地層14と、第2下地層15と、磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられた構造をなしている。
【0085】
「基板」
基板11としては、例えば、AlもしくはAl合金などの金属または合金材料からなる基体上に、NiPまたはNiP合金からなる膜が形成された非磁性基板等を用いることができる。
また、基板11としては、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコンカーバイド、カーボン、樹脂などの非金属材料からなる非磁性基板を用いてもよいし、これらの非金属材料からなる基体上にNiPまたはNiP合金の膜を形成した非磁性基板を用いてもよい。
【0086】
「付着層」
付着層12は、基板11と、付着層12上に設けられる軟磁性層13とを接して配置した場合に、基板11の腐食の進行を防止する。
付着層12の材料は、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金等から適宜選択できる。付着層12は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0087】
「軟磁性層」
軟磁性層13は、第1軟磁性膜と、Ru膜からなる中間層と、第2軟磁性膜とが順に積層された構造を有していることが好ましい。すなわち、軟磁性層13は、2層の軟磁性膜の間にRu膜からなる中間層を挟み込むことによって、中間層の上下の軟磁性膜がアンチ・フェロ・カップリング(AFC)結合した構造を有していることが好ましい。軟磁性層13がAFC結合した構造を有していると、外部からの磁界に対しての耐性、並びに、垂直磁気記録特有の問題であるWATER(Wide Area Track Erasure)現象に対しての耐性を高めることができる。
【0088】
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜は、CoFe合金からなる膜であることが好ましい。
第1軟磁性膜および第2軟磁性膜がCoFe合金からなる膜である場合、高い飽和磁束密度Bs(1.4(T)以上)を実現できる。
また、第1軟磁性膜および第2軟磁性膜に使用されるCoFe合金には、Zr、Ta、Nbの何れかを添加することが好ましい。これにより、第1軟磁性膜および第2軟磁性膜の非晶質化が促進され、第1下地層(シード層)の配向性を向上させることが可能になるとともに、磁気ヘッドの浮上量を低減することが可能となる。
軟磁性層13は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0089】
「第1下地層」
第1下地層14は、その上に設けられる第2下地層15および磁性層16の配向や結晶サイズを制御するための層である。第1下地層14は、磁気ヘッドから発生する磁束の基板面に対する垂直方向成分を大きくするとともに、磁性層16の磁化の方向をより強固に基板11と垂直な方向に固定するために設けられている。
第1下地層14は、NiW合金からなる層であることが好ましい。第1下地層14がNiW合金からなる層である場合、必要に応じてNiW合金にB、Mn、Ru、Pt、Mo、Taなどの他の元素を添加してもよい。
第1下地層14は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0090】
「第2下地層」
第2下地層15は、磁性層16の配向が良好になるように制御する層である。第2下地層15は、RuまたはRu合金からなる層であることが好ましい。
第2下地層15は、1層からなる層であってもよいし、複数層から構成されていてもよい。第2下地層15が複数層からなる場合、全ての層が同じ材料から構成されていてもよいし、少なくとも一層が異なる材料から構成されていてもよい。
第2下地層15は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0091】
「磁性層」
磁性層16は、磁化容易軸が基板面に対して垂直または水平方向を向いた磁性膜からなる。磁性層16は、CoとPtを含む層であり、さらにSNR特性を改善するために、酸化物や、Cr、B、Cu、Ta、Zr等を含む層であってもよい。
磁性層16に含有される酸化物としては、SiO2、SiO、Cr2O3、CoO、Ta2O3、TiO2等が挙げられる。
【0092】
磁性層16は、1層から構成されていてもよいし、組成の異なる材料からなる複数の磁性層から構成されていてもよい。
例えば、磁性層16が、第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、さらに酸化物を含んだ材料からなるグラニュラー構造であることが好ましい。第1磁性層に含有される酸化物としては、例えば、Cr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Co等の酸化物を用いることが好ましい。その中でも、特に、TiO2、Cr2O3、SiO2等を好適に用いることができる。また、第1磁性層は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも、特に、Cr2O3-SiO2、Cr2O3-TiO2、SiO2-TiO2等を好適に用いることができる。
【0093】
第1磁性層は、Co、Cr、Pt、酸化物の他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。
上記元素を1種類以上含むことにより、磁性粒子の微細化を促進、または結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0094】
第2磁性層には、第1磁性層と同様の材料を用いることができる。第2磁性層は、グラニュラー構造であることが好ましい。
第3磁性層は、Co、Cr、Ptを含み、酸化物を含まない材料からなる非グラニュラー構造であることが好ましい。第3磁性層は、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Re、Mnの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。第3磁性層がCo、Cr、Ptの他に上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進、または結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性および熱揺らぎ特性が得られる。
【0095】
磁性層16が複数の磁性層で形成されている場合、隣接する磁性層の間には、非磁性層を設けることが好ましい。磁性層16が、第1磁性層と第2磁性層と第3磁性層の3層からなる場合、第1磁性層と第2磁性層との間と、第2磁性層と第3磁性層との間に、非磁性層を設けることが好ましい。
隣接する磁性層間に非磁性層を適度な厚みで設けることで、個々の膜の磁化反転が容易になり、磁性粒子全体の磁化反転の分散を小さくすることができ、S/N比をより向上させることができる。
【0096】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層は、例えば、Ru、Ru合金、CoCr合金、CoCrX1合金(X1は、Pt、Ta、Zr、Re,Ru、Cu、Nb、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、W、Mo、Ti、V、Zr、Bの中から選ばれる1種または2種以上の元素を表す。)等を好適に用いることができる。
【0097】
磁性層16の隣接する磁性層間に設けられる非磁性層には、酸化物、金属窒化物、または金属炭化物を含んだ合金材料を使用することが好ましい。具体的には、酸化物として、例えば、SiO2、Al2O3、Ta2O5、Cr2O3、MgO、Y2O3、TiO2等を用いることができる。金属窒化物として、例えば、AlN、Si3N4、TaN、CrN等を用いることができる。金属炭化物として、例えば、TaC、BC、SiC等を用いることができる。
非磁性層は、例えば、スパッタリング法により形成できる。
【0098】
磁性層16は、より高い記録密度を実現するために、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向を向いた垂直磁気記録の磁性層であることが好ましいが、面内磁気記録であってもよい。
磁性層16は、蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法等、従来の公知のいかなる方法によって形成してもよいが、通常、スパッタリング法により形成される。
【0099】
「保護層」
保護層17は、磁性層16を保護するための層である。保護層17は、一層から構成されていてもよいし、複数層から構成されていてもよい。保護層17の材料としては、炭素、窒素を含む炭素、炭化ケイ素などが挙げられる。
保護層17の成膜方法としては、炭素を含むターゲット材を用いるスパッタ法や、エチレンやトルエン等の炭化水素原料を用いるCVD(化学蒸着法)法、IBD(イオンビーム蒸着)法等を用いることができる。
【0100】
「潤滑層」
潤滑層18は、磁気記録媒体10の汚染を防止する。また、潤滑層18は、磁気記録媒体10上を摺動する磁気記録再生装置の磁気ヘッドの摩擦力を低減させて、磁気記録媒体10の耐久性を向上させる。
潤滑層18は、
図1に示すように、保護層17上に接して形成されている。潤滑層18は、保護層17上に上述した実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤を塗布することにより形成されたものである。したがって、潤滑層18は、上述の含フッ素エーテル化合物を含む。
【0101】
潤滑層18は、潤滑層18の下に配置されている保護層17が、炭素、窒素を含む炭素、炭化ケイ素で形成されている場合、保護層17に含まれる含フッ素エーテル化合物と高い結合力で結合される。その結果、潤滑層18の厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面が被覆された磁気記録媒体10が得られやすくなり、磁気記録媒体10の表面の汚染を効果的に防止できる。
【0102】
潤滑層18の平均膜厚は、0.5nm(5Å)~3nm(30Å)であることが好ましく、0.5nm(5Å)~2nm(20Å)であることがより好ましい。
潤滑層18の平均膜厚が0.5nm以上であると、潤滑層18がアイランド状または網目状とならずに均一の膜厚で形成される。このため、潤滑層18によって、保護層17の表面を高い被覆率で被覆できる。また、潤滑層18の平均膜厚を3nm以下にすることで、磁気ヘッドの浮上量を十分小さくして、磁気記録媒体10の記録密度を高くできる。
【0103】
保護層17の表面が潤滑層18によって十分に高い被覆率で被覆されていない場合、磁気記録媒体10の表面に吸着した環境物質が、潤滑層18の隙間を通り抜けて、潤滑層18の下に侵入する。潤滑層18の下層に侵入した環境物質は、保護層17と吸着、結合し汚染物質を生成する。そして、磁気記録再生の際に、この汚染物質(凝集成分)がスメアとして磁気ヘッドに付着(転写)して、磁気ヘッドを破損したり、磁気記録再生装置の磁気記録再生特性を低下させたりする。
【0104】
汚染物質を生成させる環境物質としては、例えば、シロキサン化合物(環状シロキサン、直鎖シロキサン)、イオン性化合物、オクタコサン等の比較的分子量の高い炭化水素、フタル酸ジオクチル等の可塑剤等が挙げられる。イオン性不純物に含まれる金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等を挙げることができる。イオン性不純物に含まれる無機イオンとしては、例えば、塩素イオン、臭素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、アンモニウムイオン等を挙げることができる。イオン性不純物に含まれる有機物イオンとしては、例えば、シュウ酸イオン、蟻酸イオン等を挙げることができる。
【0105】
「潤滑層の形成方法」
潤滑層18を形成するには、例えば、基板11上に保護層17までの各層が形成された製造途中の磁気記録媒体を用意し、保護層17上に潤滑層形成用溶液を塗布する方法が挙げられる。
【0106】
潤滑層形成用溶液は、上述の実施形態の磁気記録媒体用潤滑剤を必要に応じて溶媒で希釈し、塗布方法に適した粘度および濃度とすることにより得られる。
潤滑層形成用溶液に用いられる溶媒としては、例えば、バートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)等のフッ素系溶媒等が挙げられる。
【0107】
潤滑層形成用溶液の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコート法やディップ法等が挙げられる。
ディップ法を用いる場合、例えば、以下に示す方法を用いることができる。まず、ディップコート装置の浸漬槽に入れられた潤滑層形成用溶液中に、保護層17までの各層が形成された基板11を浸漬する。次いで、浸漬槽から基板11を所定の速度で引き上げる。
このことにより、潤滑層形成用溶液を基板11の保護層17上の表面に塗布する。
ディップ法を用いることで、潤滑層形成用溶液を保護層17の表面に均一に塗布することができ、保護層17上に均一な膜厚で潤滑層18を形成できる。
【0108】
本実施形態の磁気記録媒体10は、基板11上に、少なくとも磁性層16と、保護層17と、潤滑層18とが順次設けられたものである。本実施形態の磁気記録媒体10では、保護層17上に接して上述の含フッ素エーテル化合物を含む潤滑層18が形成されている。この潤滑層18は、厚みが薄くても、高い被覆率で保護層17の表面を被覆している。
よって、本実施形態の磁気記録媒体10では、イオン性不純物などの汚染物質を生成させる環境物質が、潤滑層18の隙間から侵入することが防止されている。したがって、本実施形態の磁気記録媒体10は、表面上に存在する汚染物質が少ないものである。また、本実施形態の磁気記録媒体10における潤滑層18は、異物(スメア)を生じさせにくく、ピックアップを抑制できる。また、本実施形態の磁気記録媒体10における潤滑層18は、優れた耐摩耗性を有する。
【実施例】
【0109】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0110】
「実施例1」
窒素雰囲気下、300mLのナスフラスコに、HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)n
1CF2CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテル(n1=1~7の混合物、数平均分子量1280、分子量分布1.2)(10g)と、t-ブタノール(70mL)と、カリウムtert-ブトキシドを(0.9g)とを投入して混合物とした。得られた混合物を、70℃に加熱しながら1時間撹拌した。
次いで、上記の混合物にエピブロモヒドリン(3.1g)を滴下し、さらに70℃に加熱しながら5時間撹拌し、25℃まで冷却した。その後、上記のナスフラスコにフッ素系溶剤(商品名:アサヒクリン(登録商標)AK-225、旭硝子社製)を加えて、上記の反応生成物を水洗し、ナスフラスコ内の有機相を回収した。続いて、回収した有機相に硫酸ナトリウムを加えて脱水し、フィルター濾過を行った。次いで、エバポレーターを用いて、濾液から溶媒を留去した。その後、残渣をカラムクロマトグラフィにより分離した。
以上の工程により、式(A)で表される無色透明な液状の化合物1(5.0g)が得られた。
【0111】
得られた化合物1の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.60(1H),2.77(1H),3.12(1H),3.57(1H),3.95(1H),4.00(2H),4.12(2H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-130.00~-129.00(12F),-127.48(2F),-124.33(2F),-86.42(4F),-84.00~-83.00(24F)
【0112】
【化31】
(式(A)中、n
1は1~7の整数を表す。)
【0113】
窒素雰囲気下、100mLナスフラスコに式(A)で表される化合物1(1g)と、t-ブタノール(10mL)とを投入し、均一になるまで撹拌して、混合物を得た。次いで、上記の混合物にエチレングリコール(0.8mL)と、カリウムtert-ブトキシド(0.2g)とを加え、70℃に加熱しながら、9時間撹拌し、25℃まで冷却した。
その後、上記のナスフラスコに、フッ素系溶剤(商品名:アサヒクリン(登録商標)AK-225、旭硝子社製)を加えて、上記の反応生成物を水洗し、式(A)で表される化合物1と同様にして、回収、脱水、濾過し、残渣をカラムクロマトグラフィにより分離した。
以上の工程により、式(B)で表される無色透明な液状の化合物2(0.7g)が得られた。当該化合物は、n1=1~7の化合物の混合物である。
【0114】
得られた化合物2の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=3.30~4.10(11H),4.12(2H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-130.00~-129.00(12F),-127.48(2F),-124.33(2F),-86.42(4F),-84.00~-83.00(24F)
【0115】
【化32】
(式(B)中、n
1は1~7の整数を表す。)
【0116】
「実施例2」
HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)n
1CF2CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテル(n1=1~7の混合物、数平均分子量1280、分子量分布1.2)に代えて、HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)m
1CF2CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテル(m1=1~11の混合物、数平均分子量1800、分子量分布1.2)を用いたこと以外は、実施例1における式(B)で表される化合物2と同様にして、下記式(C)で表される無色透明な液状の化合物3(0.7g)を得た。当該化合物は、m1=1~11の化合物の混合物である。
【0117】
得られた化合物3の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=1.79(2H),3.30~4.10.(11H),4.12(2H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-130.00~-129.00(18F),-127.48(2F),-124.33(2F),-86.42(4F),-84.00~-83.00(36F)
【0118】
【化33】
(式(C)中、m
1は1~11の整数を表す。)
【0119】
「実施例3」
エチレングリコールに代えて、1,3-プロピレングリコールを用いたこと以外は、実施例1における式(B)で表される化合物2と同様にして、下記式(D)で表される無色透明な液状の化合物4(0.7g)を得た。当該化合物は、n1=1~7の化合物の混合物である。
【0120】
得られた化合物4の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=1.79(2H),3.30~4.10.(11H),4.12(2H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-130.00~-129.00(12F),-127.48(2F),-124.33(2F),-86.42(4F),-84.00~-83.00(24F)
【0121】
【化34】
(式(D)中、n
1は1~7の整数を表す。)
【0122】
「実施例4」
エチレングリコールに代えて、1,4-ブチレングリコールを用いたこと以外は、実施例1における式(B)で表される化合物2と同様にして、下記式(E)で表される無色透明な液状の化合物5(0.7g)を得た。当該化合物は、n1=1~7の化合物の混合物である。
【0123】
得られた化合物5の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=1.61(2H), 1.71(2H),3.30~4.10.(11H),4.12(2H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-130.00~-129.00(12F),-127.48(2F),-124.33(2F),-86.42(4F),-84.00~-83.00(24F)
【0124】
【化35】
(式(E)中、n
1は1~7の整数を表す。)
【0125】
「実施例5」
エピブロモヒドリンの滴下量を6.2gとしたこと以外は、実施例1における式(A)で表される化合物1と同様にして、下記式(F)で表される無色透明な液状の化合物6(6.0g)を得た。
【0126】
得られた化合物6の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.60(2H),2.77(2H),3.12(2H),3.57(2H),3.98(2H),4.12(4H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-130.00~-129.00(12F) ,-124.33(4F),-86.42(4F),-84.00~-83.00(24F)
【0127】
【化36】
(式(F)中、n
1は1~7の整数を表す。)
【0128】
窒素雰囲気下、300mLナスフラスコに式(F)で表される化合物6(1g)と、t-ブタノール(10mL)とを投入し、均一になるまで撹拌して、混合物を得た。次いで、上記の混合物にエチレングリコール(1.1mL)と、カリウムtert-ブトキシド(0.2g)とを加え、70℃に加熱しながら、9時間撹拌し、25℃まで冷却した。
その後、上記のナスフラスコに、フッ素系溶剤(商品名:アサヒクリン(登録商標)AK-225、旭硝子社製)を加えて、上記の反応生成物を水洗し、式(A)で表される化合物1と同様にして、回収、脱水、濾過し、残渣をカラムクロマトグラフィにより分離した。以上の工程により、式(G)で表される無色透明な液状の化合物7(0.7g)が得られた。当該化合物は、n1=1~7の化合物の混合物である。
【0129】
得られた化合物7の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=3.30~4.10(18H),4.12(4H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-130.00~-129.00(12F) ,-124.33(4F),-86.42(4F),-84.00~-83.00(24F)
【0130】
【化37】
(式(G)中、n
1は1~7の整数を表す。)
【0131】
「実施例6」
HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)n
1CF2CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテル(n1=1~7の混合物、数平均分子量1280、分子量分布1.2)に代えて、HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)m
1CF2CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテル(m1=1~11の混合物、数平均分子量1800、分子量分布1.2)を用いたこと以外は、実施例5における式(G)で表される化合物7と同様にして、下記式(H)で表される無色透明な液状の化合物8(0.7g)を得た。当該化合物は、m1=1~11の化合物の混合物である。
【0132】
得られた化合物8の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=3.30~4.10(18H),4.12(4H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-130.00~-129.00(18F),-124.33(4F),-86.42(4F),-84.00~-83.00(36F)
【0133】
【化38】
(式(H)中、m
1は1~11の整数を表す。)
【0134】
「実施例7」
エチレングリコールに代えて、1,3-プロピレングリコールを用いたこと以外は、実施例5における式(G)で表される化合物7と同様にして、下記式(I)で表される無色透明な液状の化合物9(0.7g)を得た。当該化合物は、n1=1~7の化合物の混合物である。
【0135】
得られた化合物9の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=1.79(4H),3.30~4.10.(18H),4.12(4H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-130.00~-129.00(12F),-124.33(4F),-86.42(4F),-84.00~-83.00(24F)
【0136】
【化39】
(式(I)中、n
1は1~7の整数を表す。)
【0137】
「実施例8」
エチレングリコールに代えて、1,4-ブチレングリコールを用いたこと以外は、実施例5における式(G)で表される化合物7と同様にして、下記式(J)で表される無色透明な液状の化合物10(0.7g)を得た。当該化合物は、n1=1~7の化合物の混合物である。
【0138】
得られた化合物10の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=1.61(4H),1.71(4H),3.30~4.10.(18H),4.12(4H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-130.00~-129.00(12F),-124.33(4F),-86.42(4F),-84.00~-83.00(24F)
【0139】
【化40】
(式(J)中、n
1は1~7の整数を表す。)
【0140】
「参考例9」
実施例1におけるHOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)n
1CF2CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテルを、HOCH2CF2O(CF2CF2O)m
1CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテル(m1=1~11の混合物、数平均分子量1330、分子量分布1.1)に代えたこと以外は、式(A)で表される化合物1と同様にして、下記式(K)で表される無色透明な液状の化合物11(5.2g)を得た。
【0141】
得られた化合物11の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.60(1H),2.77(1H),3.12(1H),3.57(1H),3.88(1H),3.93(2H),4.08(2H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-89.50~-88.50(40F),-81.25(2F),-78.50(2F)
【0142】
【化41】
(式(K)中、m
1は1~11の整数を表す。)
【0143】
実施例1における式(A)で表される化合物1を、式(K)で表される化合物11に代えたこと以外は、式(B)で表される化合物2と同様にして、下記式(L)で表される無色透明な液状の化合物12(0.7g)を得た。当該化合物は、m1=1~11の化合物の混合物である。
【0144】
得られた化合物12の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=3.30~4.10(11H),4.08(2H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-89.50~-88.50(40F),-81.25(2F),-78.50(2F)
【0145】
【化42】
(式(L)中、m
1は1~11の整数を表す。)
【0146】
「参考例10」
HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)n
1CF2CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテルに代えて、HOCH2CF2O(CF2CF2O)l
1CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテル(l1=1~15の混合物、数平均分子量1800、分子量分布1.2)を用いたこと以外は、実施例2における式(C)で表される化合物3と同様にして、下記式(M)で表される無色透明な液状の化合物13(0.7g)を得た。当該化合物は、l1=1~15の化合物の混合物である。
【0147】
得られた化合物13の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=3.30~4.10(11H),4.08(2H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-89.50~-88.50(56F),-81.25(2F),-78.50(2F)
【0148】
【化43】
(式(M)中、l
1は1~15の整数を表す。)
【0149】
「参考例11」
実施例1における式(A)で表される化合物1を式(K)で表される化合物11に代えたことと、エチレングリコールに代えて、1,3-プロピレングリコールを用いたこと以外は、実施例1における式(B)で表される化合物2と同様にして、下記式(N)で表される無色透明な液状の化合物14(0.7g)を得た。当該化合物は、m1=1~11の化合物の混合物である。
【0150】
得られた化合物14の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=1.79(2H),3.30~4.10(11H),4.08(2H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-89.50~-88.50(40F),-81.25(2F),-78.50(2F)
【0151】
【化44】
(式(N)中、m
1は1~11の整数を表す。)
【0152】
「参考例12」
実施例1における式(A)で表される化合物1を式(K)で表される化合物11に代えたことと、エチレングリコールに代えて、1,4-ブチレングリコールを用いたこと以外は、実施例1における式(B)で表される化合物2と同様にして、下記式(O)で表される無色透明な液状の化合物15(0.7g)を得た。当該化合物は、m1=1~11の化合物の混合物である。
【0153】
得られた化合物15の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=1.61(2H),1.71(2H),3.30~4.10(11H),4.08(2H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-89.50~-88.50(40F),-81.25(2F),-78.50(2F)
【0154】
【化45】
(式(O)中、m
1は1~11の整数を表す。)
【0155】
「参考例13」
実施例1におけるHOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)n
1CF2CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテルを、HOCH2CF2O(CF2CF2O)m
1CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテル(m=1~11の混合物、数平均分子量1330、分子量分布1.1)に代え、エピブロモヒドリンの滴下量を5.9gとしたこと以外は、式(A)で表される化合物1と同様にして、下記式(P)で表される無色透明な液状の化合物16(5.9g)を得た。
【0156】
得られた化合物16の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=2.60(2H),2.77(2H),3.12(2H),3.57(2H),3.88(2H),4.08(4H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-89.50~-88.50(40F),-78.50(4F)
【0157】
【化46】
(式(P)中、m
1は1~11の整数を表す。)
【0158】
実施例5における式(F)で表される化合物6を、式(P)で表される化合物16に代えたこと以外は、式(G)で表される化合物7と同様にして、下記式(Q)で表される無色透明な液状の化合物17(0.7g)を得た。当該化合物は、m1=1~11の化合物の混合物である。
【0159】
得られた化合物17の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=3.30~4.10(18H),4.08(4H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-89.50~-88.50(40F),-78.50(4F)
【0160】
【化47】
(式(Q)中、m
1は1~11の整数を表す。)
【0161】
「参考例14」
HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)n
1CF2CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテルに代えて、HOCH2CF2O(CF2CF2O)l
1CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテル(l1=1~15の混合物、数平均分子量1800、分子量分布1.2)を用いたこと以外は、実施例5における式(G)で表される化合物7と同様にして、下記式(R)で表される無色透明な液状の化合物18(0.7g)を得た。当該化合物は、l1=1~15の化合物の混合物である。
【0162】
得られた化合物18の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=3.30~4.10(11H),4.08(2H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-89.50~-88.50(56F),-81.25(2F),-78.50(2F)
【0163】
【化48】
(式(R)中、l
1は1~15の整数を表す。)
【0164】
「参考例15」
実施例5における式(F)で表される化合物6を、式(P)で表される化合物16に代えたことと、エチレングリコールに代えて、1,3-プロピレングリコールを用いたこと以外は、実施例5における式(G)で表される化合物7と同様にして、下記式(S)で表される無色透明な液状の化合物19(0.7g)を得た。当該化合物は、m1=1~11の化合物の混合物である。
【0165】
得られた化合物19の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=1.79(4H),3.30~4.10(18H),4.08(4H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-89.50~-88.50(40F),-78.50(4F)
【0166】
【化49】
(式(S)中、m
1は1~11の整数を表す。)
【0167】
「参考例16」
実施例5における式(F)で表される化合物6を、式(P)で表される化合物16に代えたことと、エチレングリコールに代えて、1,4-ブチレングリコールを用いたこと以外は、実施例5における式(G)で表される化合物7と同様にして、下記式(T)で表される無色透明な液状の化合物20(0.7g)を得た。当該化合物は、m1=1~11の化合物の混合物である。
【0168】
得られた化合物20の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=1.61(4H),1.71(4H),3.30~4.10(18H),4.08(4H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-89.50~-88.50(40F),-78.50(4F)
【0169】
【化50】
(式(T)中、m
1は1~11の整数を表す。)
【0170】
このようにして得られた実施例1~8、参考例9~16の化合物を、式(1)および式(2)に当てはめたときの構造と、R2に含まれる式(3)のyの値、およびR1が式(4)のときのxの値を表1に示す。
【0171】
【0172】
「比較例1」
HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)nCF2CF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテルに代えて、HOCH2CF2O(CF2CF2O)p(CF2O)qCF2CH2OHで表されるフルオロポリエーテル(p=1~7、q=1~7、数平均分子量1300、分子量分布1.1)を用いたこと以外は、実施例2における式(C)で表される化合物3と同様にして、下記式(U)で表される無色透明な液状の化合物21(0.7g)を得た。
【0173】
得られた化合物21の1H-NMRおよび19F-NMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
1H-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=3.30~4.50(13H)
19F-NMR(acetone-D6):δ[ppm]=-91.15~-88.51(24F),-83.21(1F),-81.22(1F),-80.61(1F),-78.75(1F),-55.65~-51.59(12F)
【0174】
【化51】
(式(U)中、pは1~7の整数を表し、qは1~7の整数を表す。)
【0175】
「比較例2」
特許4632144に記載の方法により下記式(V)で表される化合物22を合成した。
【0176】
【化52】
(式(V)中、pは1~7の整数を表し、qは1~7の整数を表す。)
【0177】
「比較例3」
特許4632144に記載の方法により下記式(W)で表される化合物23を合成した。
【0178】
【化53】
(式(W)中、rは1~11の整数を表し、sは1~11の整数を表す。)
【0179】
このようにして得られた実施例1~8、参考例9~16および比較例1~3の化合物の数平均分子量を、上述した1H-NMRおよび19F-NMRの測定により求めた。その結果を表2に示す。
【0180】
次に、以下に示す方法により、実施例1~8、参考例9~16および比較例1~3で得られた化合物を用いて潤滑層形成用溶液を調製した。そして、得られた潤滑層形成用溶液を用いて、以下に示す方法により、磁気記録媒体の潤滑層を形成し、実施例1~8、参考例9~16および比較例1~3の磁気記録媒体を得た。
【0181】
「潤滑層形成用溶液」
実施例1~8、参考例9~16および比較例1~3で得られた化合物を、それぞれフッ素系溶媒であるバートレル(登録商標)XF(商品名、三井デュポンフロロケミカル社製)に溶解し、保護層上に塗布した時の膜厚が9Å~11Åになるようにバートレルで希釈し、潤滑層形成用溶液とした。
【0182】
「磁気記録媒体」
直径65mmの基板上に、付着層と軟磁性層と第1下地層と第2下地層と磁性層と保護層とを順次設けた磁気記録媒体を用意した。保護層は、炭素からなるものとした。
保護層までの各層の形成された磁気記録媒体の保護層上に、実施例1~8、参考例9~16および比較例1~3の潤滑層形成用溶液を、ディップ法により塗布した。なお、ディップ法は、浸漬速度10mm/sec、浸漬時間30sec、引き上げ速度1.2mm/secの条件で行った。
その後、潤滑層形成用溶液を塗布した磁気記録媒体を、120℃の恒温槽に入れ、10分間加熱して潤滑層形成用溶液中の溶媒を除去することにより、保護層上に潤滑層を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0183】
このようにして得られた実施例1~8、参考例9~16および比較例1~3の磁気記録媒体の有する潤滑層の膜厚を、FT-IR(商品名:Nicolet iS50、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定した。その結果を表2に示す。
また、実施例1~8、参考例9~16および比較例1~3の磁気記録媒体について、以下に示す方法により、ボンド率の測定とピックアップ抑制試験とを行い、評価した。その結果を表2に示す。
【0184】
(潤滑層と保護層との密着性(ボンド率)測定)
潤滑層の形成された磁気記録媒体を、溶媒であるバートレル中に10分間浸漬して、引き上げる方法により洗浄した。磁気記録媒体を溶媒中に浸漬する速度は10mm/secとし、引き上げる速度は1.2mm/secとした。
その後、洗浄前に行った潤滑層の膜厚の測定と同じ方法で、潤滑層の膜厚を測定した。
【0185】
そして、洗浄前の潤滑層の膜厚をA、洗浄後(溶媒浸漬後)の潤滑層の膜厚をBとし、AとBとの比((B/A)×100(%))から潤滑剤の結合率(ボンド率)を算出した。算出したボンド率を用いて、以下に示す基準により、潤滑層と保護層との密着性を評価した。
【0186】
「密着性(ボンド率)評価」
○:ボンド率が50%以上
×:ボンド率が50%未満
【0187】
(ピックアップ抑制試験)
スピンスタンドに磁気記録媒体および磁気ヘッドを装着し、常温減圧下(約250torr)で10分間磁気ヘッドを定点浮上させた。その後、磁気ヘッドの磁気記録媒体と相対する面(潤滑層の表面)を、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)分析装置を用いて分析した。そして、ESCAで測定したフッ素由来のピークの強度(信号強度(a.u.))から、磁気ヘッドへの潤滑剤の付着量を表3に示す基準により評価した。その結果を表2に示す。
【0188】
【0189】
【0190】
表2に示すように、実施例1~8、参考例9~16では、潤滑層と保護層との密着性(ボンド率)の評価結果、およびピックアップ抑制試験の評価結果が、いずれも良好であった。このことから、磁気記録媒体の保護層上に、実施例1~8、参考例9~16の化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を用いて潤滑層を形成することで、厚みが9Å~11Åと薄くても、保護層との密着性に優れ、ピックアップを生じさせにくい潤滑層が得られることがわかった。
【0191】
これに対し、表2に示すように、比較例1~3では、ボンド率が実施例1~8、参考例9~16と比較して小さい値となった。また、比較例1~3では、ピックアップ抑制試験の評価結果が×であった。
これらの結果は、実施例1~8、参考例9~16で使用した含フッ素エーテル化合物が、直鎖状フッ素化アルキルエーテル基からなる繰り返しユニットを有する式(3)で表されるPFPE鎖を含むため、比較例1~3で使用した含フッ素エーテル化合物と比較してPFPE鎖が剛直性を有するものとなり、保護層との密着性が強くなったことによるものと推定される。
【0192】
また、表2に示すように、R3がR1である(式(2))実施例5~8では、R3が水酸基である実施例1~4と比較して、ボンド率が高かった。また、R3がR1である(式(2))参考例13~16では、R3が水酸基である参考例9~12と比較して、ボンド率が高かった。これらの結果から、R1がR2の両方の末端に配置されることで、より密着性が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明の含フッ素エーテル化合物を含む磁気記録媒体用潤滑剤を用いることにより、厚みを薄くしても、保護層との密着性に優れ、ピックアップを生じさせにくい潤滑層が得られる。
【符号の説明】
【0194】
10・・・磁気記録媒体、11・・・基板、12・・・付着層、13・・・軟磁性層、
14・・・第1下地層、15・・・第2下地層、16・・・磁性層、17・・・保護層、
18・・・潤滑層。