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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】切削加工機及び切削加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/36 20140101AFI20220121BHJP
   B23K 26/142 20140101ALI20220121BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20220121BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/142
B23K26/00 M
G05B19/404 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020506417
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2019008528
(87)【国際公開番号】W WO2019176632
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2018044118
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】永山 岳大
(72)【発明者】
【氏名】菅野 和宏
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特公昭62-043792(JP,B2)
【文献】特開平07-236987(JP,A)
【文献】特開2013-154365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
G05B 19/404
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物を切削加工する加工機本体と、
前記加工機本体を制御するNC装置と、
を備え、
前記NC装置は、
前記加工対象物を切削加工することによって得られる最終加工製品の寸法及び形状を含む製品形状情報に基づいて設定された加工プログラムと加工条件とに基づいて、前記加工対象物を切削加工する切削工具の工具径を補正するための工具径補正情報を生成する工具径補正量演算部と、
前記加工プログラムと前記加工条件と前記工具径補正情報とに基づいて工具軌跡制御信号を生成する加工軌跡演算部と、
前記工具軌跡制御信号に基づいて前記加工機本体を制御する駆動制御信号を生成する駆動制御部と、
を有し、
前記加工機本体は、
ノズルが先端に取り付けられ、前記加工対象物との相対位置を変化させることにより、前記加工対象物を切削加工する加工ユニットと、
前記駆動制御信号に基づいて、前記切削工具によって前記加工対象物が切削加工される切削加工跡に相当する、非円形状を有する工具軌跡を制御する工具軌跡制御部と、
を有し、
前記加工条件として前記工具軌跡を制御するための基準となる制御中心点と前記ノズルの中心点とのオフセット量が設定されている場合に、
前記加工軌跡演算部は、前記制御中心点を前記ノズルの中心点に対して切削加工の進行方向に前記オフセット量だけ変位させる前記工具軌跡制御信号を生成し、
前記加工機本体は、前記駆動制御信号に基づいて、前記制御中心点が前記ノズルの中心点に対して前記進行方向に変位するように前記工具軌跡を制御する
削加工機。
【請求項2】
前記加工機本体は、前記NC装置により制御され、レーザビームを射出するレーザ発振器をさらに備え、
前記ノズルは、前記レーザビームを前記加工対象物に照射するための開口部を有し、
前記工具軌跡制御部は、前記加工ユニットの内部に収容され、前記開口部から射出されるレーザビームを非円形状の振動パターンで振動させることにより、前記工具軌跡を制御する
求項1に記載の切削加工機。
【請求項3】
前記レーザビームによる前記加工対象物の溶融物を排出するアシストガスを前記加工機本体へ供給するアシストガス供給装置をさらに備え、
前記加工ユニットは、前記ノズルの開口部から前記アシストガスを前記加工対象物に吹き付ける
求項2に記載の切削加工機。
【請求項4】
加工対象物を切削加工することによって得られる最終加工製品の寸法及び形状を含む製品形状情報に基づいて設定された加工プログラムと加工条件とに基づいて、前記加工対象物を切削加工する切削工具の工具径を補正するための工具径補正情報を生成し、
前記加工プログラムと前記加工条件と前記工具径補正情報とに基づいて工具軌跡制御信号を生成し、
前記工具軌跡制御信号に基づいて駆動制御信号を生成し、
前記加工条件として、前記加工対象物を切削加工するためのノズルの中心点と、前記切削工具によって前記加工対象物が切削加工される切削加工跡に相当する、非円形状を有する工具軌跡を制御するための基準となる制御中心点とのオフセット量が設定されている場合に、
前記制御中心点を前記ノズルの中心点に対して切削加工の進行方向に前記オフセット量だけ変位させる前記工具軌跡制御信号を生成し、
前記駆動制御信号に基づいて、前記制御中心点が前記ノズルの中心点に対して前記進行方向に変位するように前記工具軌跡を制御する
削加工方法。
【請求項5】
前記ノズルの先端部に形成されている開口部からレーザビームを射出して前記加工対象物に照射し、
前記レーザビームを非円形状の振動パターンで振動させることにより、前記工具軌跡を制御する
求項4に記載の切削加工方法。
【請求項6】
前記加工対象物にアシストガスを吹き付け、前記レーザビームによる前記加工対象物の溶融物を排出する請求項5に記載の切削加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザビームを照射して加工対象物を加工するレーザ加工機等の切削加工機及び切削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工機として、レーザビームを照射して加工対象物を加工し、所定の形状を有する製品を製作するレーザ加工機が普及している。レーザ加工機は、製品が所定の形状を有して製作されるように、レーザビームによる切削量を考慮した工具径補正により切削加工を実行する。特許文献1には、工具径補正により切削加工を実行するレーザ加工機の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6087483号公報
【発明の概要】
【0004】
レーザ加工機において、レーザビームを射出するノズルと加工対象物を載せる加工テーブルとの相対位置が固定されている状態では、レーザビームは通常、円形状を有するため、切削加工跡も円形状を有する。複数の種類の回転工具を備えたマシニングセンタにおいても、回転工具の位置座標が固定されている状態では、切削加工跡は通常、円形状を有する。ウォータジェット加工機においても、高圧水が射出される位置座標が固定されている状態では、切削加工跡は通常、円形状を有する。従って、工具径補正は、ノズル、回転工具、高圧水等の切削工具の位置座標が固定されている状態における切削加工跡が円形状であることを前提としている。
【0005】
そのため、レーザ加工機等の切削加工機は、切削工具による切削加工跡の半径分または切削加工跡の半幅分を工具径補正量に設定し、工具径補正量分だけシフトさせて加工対象物を切削加工するときの軌跡を制御する。一般的に、従来の切削加工機では、工具径補正は切削加工跡が非円形状の場合に対応していない。
【0006】
実施形態は、切削工具の位置座標が固定されている状態における切削加工跡が非円形状であっても、切削工具の工具径を精度よく補正することができる切削加工機及び切削加工方法を提供することを目的とする。
【0007】
実施形態の第1の態様によれば、加工対象物を切削加工する加工機本体と、前記加工機本体を制御するNC装置とを備え、前記NC装置は、前記加工対象物を切削加工することによって得られる最終加工製品の寸法及び形状を含む製品形状情報に基づいて設定された加工プログラムと加工条件とに基づいて、前記加工対象物を切削加工する切削工具の工具径を補正するための工具径補正情報を生成する工具径補正量演算部と、前記加工プログラムと前記加工条件と前記工具径補正情報とに基づいて工具軌跡制御信号を生成する加工軌跡演算部と、前記工具軌跡制御信号に基づいて前記加工機本体を制御する駆動制御信号を生成する駆動制御部とを有し、前記加工機本体は、ノズルが先端に取り付けられ、前記加工対象物との相対位置を変化させることにより、前記加工対象物を切削加工する加工ユニットと、前記駆動制御信号に基づいて、前記切削工具によって前記加工対象物が切削加工される切削加工跡に相当する、非円形状を有する工具軌跡を制御する工具軌跡制御部とを有し、前記加工条件として前記工具軌跡を制御するための基準となる制御中心点と前記ノズルの中心点とのオフセット量が設定されている場合に、前記加工軌跡演算部は、前記制御中心点を前記ノズルの中心点に対して切削加工の進行方向に前記オフセット量だけ変位させる前記工具軌跡制御信号を生成し、前記加工機本体は、前記駆動制御信号に基づいて、前記制御中心点が前記ノズルの中心点に対して前記進行方向に変位するように前記工具軌跡を制御する切削加工機が提供される。
【0008】
実施形態の第2の態様によれば、加工対象物を切削加工することによって得られる最終加工製品の寸法及び形状を含む製品形状情報に基づいて設定された加工プログラムと加工条件とに基づいて、前記加工対象物を切削加工する切削工具の工具径を補正するための工具径補正情報を生成し、前記加工プログラムと前記加工条件と前記工具径補正情報とに基づいて工具軌跡制御信号を生成し、前記工具軌跡制御信号に基づいて駆動制御信号を生成し、前記加工条件として、前記加工対象物を切削加工するためのノズルの中心点と、前記切削工具によって前記加工対象物が切削加工される切削加工跡に相当する、非円形状を有する工具軌跡を制御するための基準となる制御中心点とのオフセット量が設定されている場合に、前記制御中心点を前記ノズルの中心点に対して切削加工の進行方向に前記オフセット量だけ変位させる前記工具軌跡制御信号を生成し、前記駆動制御信号に基づいて、前記制御中心点が前記ノズルの中心点に対して前記進行方向に変位するように前記工具軌跡を制御する切削加工方法が提供される。
【0009】
実施形態の切削加工機及び切削加工方法によれば、切削工具の位置座標が固定されている状態における切削加工跡が非円形状であっても、切削工具の工具径を精度よく補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態の切削加工機の全体的な構成例を示す図である。
図2A図2Aは、ノズルと工具軌跡との関係を示す図である。
図2B図2Bは、ノズルと工具軌跡との関係を示す図である。
図2C図2Cは、ノズルと工具軌跡との関係を示す図である。
図3図3は、工具軌跡制御部の構成例を示す図である。
図4図4は、工具軌跡の制御を開始するときのノズルの移動速度と工具軌跡の移動速度との関係を示す図である。
図5A図5Aは、ノズルと工具軌跡との関係を示す図である。
図5B図5Bは、ノズルと工具軌跡との関係を示す図である。
図5C図5Cは、ノズルと工具軌跡との関係を示す図である。
図5D図5Dは、ノズルと工具軌跡との関係を示す図である。
図5E図5Eは、ノズルと工具軌跡との関係を示す図である。
図6図6は、工具軌跡の制御を終了するときのノズルの移動速度と工具軌跡の移動速度との関係を示す図である。
図7図7は、工具軌跡をノズルの中心点に対して切削加工の進行方向に変位させたときのアシストガスの流れを概念的に示す一部破断の側面図である。
図8図8は、工具軌跡をノズルの中心点に対して切削加工の進行方向に変位させたときのアシストガスの流れを概念的に示す一部破断の平面図である。
図9図9は、工具軌跡の制御を開始するときのノズルの移動速度と工具軌跡の移動速度との関係を示す図である。
図10図10は、工具軌跡の制御を終了するときのノズルの移動速度と工具軌跡の移動速度との関係を示す図である。
図11A図11Aは、一実施形態の切削加工方法の一例を示すフローチャートである。
図11B図11Bは、一実施形態の切削加工方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施形態の切削加工機及び切削加工方法について、添付図面を参照して説明する。切削加工機及び切削加工方法の一例として、レーザ加工機及びレーザ加工方法について説明する。
【0012】
図1に示すように、切削加工機1は、レーザ発振器10と、加工機本体100と、NC装置(数値制御装置)200と、アシストガス供給装置400とを備える。NC装置200は、レーザ発振器10と加工機本体100とアシストガス供給装置400とを制御する。アシストガス供給装置400は、切削加工機1の外部に設置してもよい。
【0013】
レーザ発振器10はレーザビームを生成して射出する。レーザ発振器10から射出されたレーザビームは、プロセスファイバ11を介して加工機本体100へ伝送される。加工機本体100は、レーザビームを加工対象物Wに照射し、かつ、加工対象物Wとレーザビームのビームスポットとの相対位置を変化させることにより、加工対象物Wを切削加工する。
【0014】
レーザ発振器10としては、レーザダイオードより発せられる励起光を増幅して所定の波長のレーザビームを射出するレーザ発振器、または、レーザダイオードより発せられるレーザビームを直接利用するレーザ発振器が好適である。レーザ発振器10は、例えば、固体レーザ発振器、ファイバレーザ発振器、ディスクレーザ発振器、または、ダイレクトダイオードレーザ発振器(DDL発振器)である。
【0015】
レーザ発振器10は、波長900nm~1100nmの1μm帯のレーザビームを射出する。ファイバレーザ発振器及びDDL発振器を例とすると、ファイバレーザ発振器は、波長1060nm~1080nmのレーザビームを射出し、DDL発振器は、波長910nm~950nmのレーザビームを射出する。
【0016】
加工機本体100は、加工対象物Wを載せる加工テーブル101と、門型のX軸キャリッジ102と、Y軸キャリッジ103と、加工ユニット104と、工具軌跡制御部300とを有する。加工対象物Wは例えばステンレス鋼よりなる板金である。加工対象物はステンレス鋼以外の鉄系の板金であっても構わないし、アルミニウム、アルミニウム合金、銅鋼などの板金であっても構わない。レーザ発振器10から射出されたレーザビームは、プロセスファイバ11を介して加工機本体100の加工ユニット104へ伝送される。工具軌跡制御部300は加工ユニット104の内部に収容されている。
【0017】
X軸キャリッジ102は、加工テーブル101上でX軸方向に移動自在に構成されている。Y軸キャリッジ103は、X軸キャリッジ102上でX軸と直交するY軸方向に移動自在に構成されている。X軸キャリッジ102及びY軸キャリッジ103は、加工ユニット104を加工対象物Wの面に沿って、X軸方向、Y軸方向、または、X軸とY軸との任意の合成方向に移動させる移動機構として機能する。
【0018】
加工機本体100は、加工ユニット104を加工対象物Wの面に沿って移動させる代わりに、加工ユニット104は位置が固定されていて、加工対象物Wが移動するように構成されていてもよい。加工機本体100は、加工対象物Wの面に対する加工ユニット104の相対的な位置を移動させる移動機構を備えていればよい。
【0019】
加工ユニット104にはノズル106が取り付けられている。ノズル106の先端部には円形の開口部105が形成されている。加工ユニット104に伝送されたレーザビームは、ノズル106の開口部105から射出され、加工対象物Wに照射される。
【0020】
アシストガス供給装置400は、アシストガスAGを加工機本体100の加工ユニット104に供給する。アシストガス供給装置400は、加工対象物Wがステンレス鋼であれば窒素を、加工対象物Wが軟鋼であれば酸素をアシストガスAGとして加工ユニット104に供給する。アシストガスAGは、混合ガスでもよく、その目的が酸化抑制なのか、酸化反応熱を利用するのかによって、混合比を任意に設定できるものである。
【0021】
加工機本体100の加工ユニット104は、加工対象物Wを切削加工するときに、ノズル106の開口部105からレーザビームを加工対象物Wに照射し、かつ、アシストガスAGを加工対象物Wに吹き付ける。アシストガスAGは、レーザビームによる加工対象物Wの溶融物を排出する。
【0022】
工具軌跡制御部300は、加工ユニット104内を進行して開口部105から射出されるレーザビームを、非円形状の振動パターンで振動させるビーム振動機構として機能する。工具軌跡制御部300がレーザビームを非円形状の振動パターンで振動させることにより、加工ユニット104は非円形状の工具軌跡により加工対象物Wを切削加工する。工具軌跡制御部300の具体的な構成例、及び、工具軌跡制御部300がレーザビームのビームスポットを非円形状の振動パターンで振動させる方法については後述する。ここで、工具軌跡とは、一定時間内に非円形状の振動パターンで振動させたビーム振動によってなされたビームの軌跡が描いた図形であって、振動工具形状を指す。つまり、通常は、ノズル106から射出される円形のレーザビームそのものが切削工具であり、そのビーム半径分が工具径補正となるが、ここでは、振動パターンで描いた図形の工具軌跡を切削工具とする。ノズル106と加工テーブル101との相対位置が固定されている状態における切削加工跡は、工具軌跡に対応する。
【0023】
CAD(Computer Aided Design)装置20は、加工対象物Wを切削加工することによって得られる最終加工製品の寸法及び形状を含む製品形状情報に基づいて製品形状データ(CADデータ)SDを生成し、CAM(computer aided manufacturing)装置21へ出力する。CAM装置21は、製品形状データSDに基づいて、切削加工機1が切削加工を実行するための加工プログラム(NCデータ)PPを生成し、加工条件CPを指定する。即ち、加工プログラムPPと加工条件CPとは、最終加工製品の寸法及び形状を含む製品形状情報に基づいて設定させる。
【0024】
加工プログラムPPには、切削加工の進行方向の左側に工具径補正量分だけシフトさせて軌跡制御を実行するG41(左工具径補正)、または、切削加工の進行方向の右側に工具径補正量分だけシフトさせて軌跡制御を実行するG42(右工具径補正)で示されるGコードが含まれている。
【0025】
CAM装置21は、加工条件CPとして、切削工具に相当する工具軌跡を指定する。工具軌跡は例えば非円形状を有する。CAM装置21は、工具軌跡の制御中心点とノズル106の中心点とのオフセット量を設定することができる。加工条件CPには、工具軌跡が指定され、かつ、工具軌跡の制御中心点とノズル106の中心点とのオフセット量が設定された工具軌跡制御情報が含まれている。なお、制御中心点とは、従前のレーザ加工の工具径補正の場合のレーザビーム中心であり、本件の場合は工具軌跡を非円形状の切削工具とするとき、切断ラインを切削工具と製品の境界とするときの切断ライン(切断位置)に対して切削工具を制御する中心の位置である。
【0026】
加工条件CPには、加工対象物Wの材質及び厚さ等の材料パラメータが指定された加工対象情報が含まれている。加工条件CPには、レーザビームの出力、加工速度、及び、ノズル106の開口部105の直径(ノズル径)等の加工パラメータ、及び、アシストガス条件等の切削加工情報が含まれている。即ち、加工条件CPには、工具軌跡制御情報と加工対象情報と切削加工情報とが含まれている。
【0027】
CAM装置21は、加工プログラムPPと加工条件CPとを切削加工機1のNC装置200へ出力する。NC装置200は、加工プログラムPPと加工条件CPとに基づいて、レーザ発振器10とアシストガス供給装置400とを制御する。NC装置200は、加工プログラムPPと加工条件CPとに基づいて、加工機本体100を制御してX軸キャリッジ102及びY軸キャリッジ103を駆動させることにより、ノズル106を目的の位置へ移動させる。
【0028】
NC装置200は、加工プログラムPPと加工条件CPとに基づいて、加工機本体100の工具軌跡制御部300を制御することにより、ノズル106の開口部105より射出されるレーザビームのビームスポットの軌跡を制御する。ビームスポットの軌跡は工具軌跡に相当する。切削加工機1は、ノズル106の開口部105内において、工具軌跡をオフセット量に応じて変位させることができる。
【0029】
NC装置200は、工具径補正量演算部201と、加工軌跡演算部202と、駆動制御部203とを有する。工具径補正量演算部201、及び、加工軌跡演算部202には、CAM装置21から加工プログラムPPと加工条件CPとが入力される。工具径補正量演算部201は、加工プログラムPPと加工条件CPとに基づいて、加工対象物Wを切削加工するための切削工具の工具径を補正するための工具径補正情報TCを生成する。
【0030】
図2A図2B、及び、図2Cを用いて、ノズル106と工具軌跡との関係について説明する。図2A図2B、及び、図2Cは、ノズル106の内部から開口部105を介して加工対象物Wに照射されるレーザビームのビームスポットの軌跡(工具軌跡)を示している。
【0031】
図2A図2B、及び、図2Cに示す各符号について説明する。符号TPは工具軌跡を示している。工具軌跡TPは加工対象物Wを切削加工するための切削工具に相当する。工具軌跡TPの形状は切削工具の形状に相当する。工具軌跡TPは例えば非円形状を有する。
【0032】
符号BSは加工対象物Wに照射されるレーザビームのビームスポットを示している。レーザ加工機の場合、工具軌跡TPはレーザビームのビームスポットBSの軌跡に相当する。図2A図2B、及び、図2Cには、非円形状の一例として、ビームスポットBSが楕円上を回転するように振動する振動パターンの工具軌跡TPを示している。なお、工具軌跡TPの振動パターンは非円形状を含む自由形状であればよい。
【0033】
ビームスポットBSは工具軌跡TP上を回転移動する。図2A図2B、及び、図2Cに示す矢印は、ビームスポットBSの回転方向を示している。なお、図2A図2B、及び、図2CではビームスポットBSが左回りに回転移動する状態を示しているが、ビームスポットBSが右回りに回転移動するようにしてもよい。
【0034】
符号CNはノズル106の中心点(以下、ノズル中心点CNとする)を示している。ノズル中心点CNと開口部105の中心点とは一致している。符号CLは工具軌跡TPを制御するための基準となる制御中心点を示している。符号LTは工具軌跡TPが移動する軌跡、具体的には制御中心点CLの軌跡(以下、制御中心軌跡LTとする)を示している。
【0035】
符号DTは切削加工の進行方向(所定の方向)を示す。制御中心軌跡LTは、工具軌跡TPの制御中心点CLが進行方向DTに移動する軌跡に相当する。図2Aは加工対象物Wを右方向に切削加工する状態を示している。図2Bは加工対象物Wを右下方向に円弧上に切削加工する状態を示している。図2Cは加工対象物Wを右方向に切削加工し、さらに左下方向に切削加工する状態を示している。
【0036】
図2Aに示す符号MVL及びMVRは工具径補正値を示している。工具径補正値MVL及びMVRは、制御中心点CLから加工面形成位置MPL及びMPRまでの距離に相当する。加工面形成位置MPL及びMPRは、工具軌跡TPが切削加工の進行方向DTに移動したときに、加工対象物Wに加工面が形成される位置である。即ち、加工面形成位置MPL及びMPRは、工具軌跡TPにおいて工具径が最大となる位置である。工具径補正値MVLは左工具径補正におけるパラメータであり、工具径補正値MVRは右工具径補正におけるパラメータである。
【0037】
符号STは工具軌跡TPの制御中心点CLとノズル中心点CNとのオフセット量を示している。オフセット量STは、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離(長さ)に相当する。
【0038】
図2Aに示すように、加工対象物Wを右方向に切削加工する場合、オフセット量STは、ノズル中心点CNから制御中心点CLまでの制御中心軌跡LT上における右方向の距離(長さ)に相当する。図2Bに示すように、加工対象物Wを右下方向に円弧上に切削加工する場合、オフセット量STは、ノズル中心点CNから制御中心点CLまでの制御中心軌跡LT上における右下方向の円弧上の距離(長さ)に相当する。図2Cに示すように、加工対象物Wを右方向に切削加工し、さらに左下方向に切削加工する場合、オフセット量STは、ノズル中心点CNから制御中心点CLまでの制御中心軌跡LT上における右方向の距離(長さ)と左下方向の距離(長さ)とが加算された距離(長さ)に相当する。
【0039】
工具径補正量演算部201は、加工条件CPに含まれる工具軌跡TPを認識する。工具径補正量演算部201は、加工条件CPに工具軌跡制御情報としてオフセット量STが設定されているか否かを認識する。
【0040】
加工条件CPにオフセット量STが設定されていないと認識された場合、工具径補正量演算部201は、認識された工具軌跡TPとノズル106の軌跡NP(以下、ノズル軌跡NPとする)と切削加工の進行方向DTとに基づいて、工具軌跡TPの制御中心点CLとノズル中心点CNとを一致させる工具径補正情報TCを生成する。ノズル軌跡NPとは、具体的にはノズル中心点CNの軌跡である。
【0041】
加工条件CPにオフセット量STが設定されていると認識された場合、工具径補正量演算部201は、認識された工具軌跡TPとノズル軌跡NPと切削加工の進行方向DTとオフセット量STとに基づいて、工具軌跡TPの制御中心点CLをノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTにオフセット量STだけ変位させる工具径補正情報TCを生成する。
【0042】
加工条件CPにオフセット量STが設定されている場合、工具径補正情報TCは、ノズル軌跡NP(ノズル中心点CNを含む)と、工具軌跡TP(制御中心点CLを含む)と、制御中心軌跡LTと、工具径補正値MVL及びMVRと、オフセット量STとを含む。
【0043】
工具径補正量演算部201は、左工具径補正と右工具径補正の両方の補正情報を含む工具径補正情報TCを加工軌跡演算部202へ出力する。加工軌跡演算部202には、CAM装置21から加工プログラムPPと加工条件CPとが入力され、工具径補正量演算部201から工具径補正情報TCが入力される。加工軌跡演算部202は、加工プログラムPPに含まれているGコードを翻訳する。なお、加工プログラムPPはGコードの代わりにロボット言語等を含んでいてもよい。
【0044】
加工軌跡演算部202は、翻訳結果に基づいて、左工具径補正にて切削加工するか、右工具径補正にて切削加工するかのいずれかの切削加工補正条件を決定する。
【0045】
加工軌跡演算部202は、加工プログラムPPと加工条件CPと工具径補正情報TCと決定された切削加工補正条件とに基づいて、制御中心点CLをノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTにオフセット量STだけ変位させるための工具軌跡制御信号TSを生成する。加工軌跡演算部202は、工具軌跡制御信号TSを駆動制御部203へ出力する。駆動制御部203は、工具軌跡制御信号TSに基づいて、加工機本体100を制御する駆動制御信号CSを生成する。駆動制御部203は駆動制御信号CSを加工機本体100へ出力する。
【0046】
左工具径補正にて切削加工する場合、駆動制御部203は、ノズル軌跡NPと工具軌跡TPと制御中心軌跡LTと工具径補正値MVLとオフセット量STとに基づいて駆動制御信号CSを生成する。右工具径補正にて切削加工する場合、駆動制御部203は、ノズル軌跡NPと工具軌跡TPと制御中心軌跡LTと工具径補正値MVRとオフセット量STとに基づいて駆動制御信号CSを生成する。
【0047】
駆動制御部203は、駆動制御信号CSにより、加工機本体100のX軸キャリッジ102及びY軸キャリッジ103と工具軌跡制御部300とを制御する。加工機本体100は、駆動制御信号CSに基づいてX軸キャリッジ102及びY軸キャリッジ103を駆動させ、ノズル106を、ノズル軌跡NP上を移動させる。工具軌跡制御部300は、駆動制御信号CSに基づいて、ノズル106の開口部105より射出されるレーザビームのビームスポットBSの軌跡を制御する。
【0048】
図3を用いて、工具軌跡制御部300の具体的な構成例、及び、工具軌跡制御部300がレーザビームのビームスポットBSを非円形状の振動パターンで振動させる方法の一例を説明する。
【0049】
図3に示すように、工具軌跡制御部300は加工ユニット104の内部に収容されている。工具軌跡制御部300は、コリメータレンズ331と、ガルバノスキャナユニット340と、ベンドミラー334と、集束レンズ335とを有する。コリメータレンズ331は、プロセスファイバ11より射出されたレーザビームを平行光(コリメート光)に変換する。
【0050】
ガルバノスキャナユニット340は、スキャンミラー341(第1のスキャンミラー)と、スキャンミラー341を回転駆動させる駆動部342(第1の駆動部)と、スキャンミラー343(第2のスキャンミラー)と、スキャンミラー343を回転駆動させる駆動部344(第2の駆動部)とを有する。
【0051】
駆動部342は、駆動制御部203の制御により、スキャンミラー341を所定の方向(例えばX方向)に所定の角度範囲で往復駆動させることができる。スキャンミラー341は、コリメータレンズ321により平行光に変換されたレーザビームをスキャンミラー343に向けて反射する。
【0052】
駆動部344は、駆動制御部203の制御により、スキャンミラー343を、スキャンミラー341の駆動方向とは異なる方向(例えばY方向)に所定の角度範囲で往復駆動させることができる。スキャンミラー343は、スキャンミラー341により反射されたレーザビームをベンドミラー334に向けて反射する。
【0053】
ベンドミラー334は、スキャンミラー343により反射されたレーザビームをX軸及びY軸に垂直なZ軸方向下方に向けて反射させる。集束レンズ335はベンドミラー334により反射したレーザビームを集束して、加工対象物Wに照射する。
【0054】
ガルバノスキャナユニット340は、スキャンミラー341とスキャンミラー343とのいずれか一方または双方を高速で例えば1000Hz以上で往復振動させることにより、工具軌跡TPを多種の非円形状にすることができる。即ち、一定の光強度以上のレーザビームを単位時間当たりに複数個所へ集束(集光)させることにより、加工対象物Wに接して実質的に加工に寄与する工具形状を、多種の非円形状にすることが任意にできる。
【0055】
図4図5A図5B図5C図5D図5E図6図7、及び、図8を用いて、加工対象物Wの切削加工方法における工具軌跡TPの実施例1の制御方法について説明する。
【実施例1】
【0056】
図4は工具軌跡TPの制御を開始するときのノズル106(具体的にはノズル中心点CN)の移動速度と工具軌跡TP(具体的には制御中心点CL)の移動速度との関係を示している。図4は、縦軸がノズル106(ノズル中心点CN)、及び、工具軌跡TP(制御中心点CL)の移動速度(相対速度)を示し、横軸が時間軸を示している。
【0057】
図5A図5B図5C図5D、及び、図5Eは、図4に示す各時点t10、t11、t12、t13、及びt14におけるノズル106(開口部105)と工具軌跡TPとの関係を示している。図5A図5B図5C図5D、及び、図5Eは、図2Aに対応し、加工対象物Wを右方向に切削加工する状態を示している。
【0058】
切削加工機1の加工機本体100は、駆動制御信号CSに基づいて、図4に示す時点t10にて工具軌跡TPの制御を開始する。時点t10では、ノズル106、及び、工具軌跡TPは停止した状態である。時点t10では、図5Aに示すように、工具軌跡TPの制御中心点CLがノズル中心点CNと一致した状態である。
【0059】
切削加工機1は、制御中心点CLがノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTに変位するように工具軌跡TPを制御する。切削加工機1は、時点t10にて制御中心点CLが進行方向DTに第1の加速度AR1で移動するように工具軌跡TPの制御を開始する。
【0060】
時点t10後の時点t11では、工具軌跡TP(制御中心点CL)は第1の加速度AR1で進行方向DTに移動中であり、ノズル106は停止した状態である。時点t11では、図5Bに示すように、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLは、オフセット量STの1/2未満(DL<1/2×ST)である。距離DLは、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNに対する制御中心点CLの変位量に相当する。
【0061】
切削加工機1は、時点t11後の時点t12にて、第1の加速度AR1で移動する工具軌跡TP(制御中心点CL)を、進行方向DTに所定の速度(一定速度)PSで移動させる。時点t10から時点t12までの期間では、ノズル106は停止した状態である。切削加工機1は、時点t12にてノズル中心点CNが進行方向DTに第2の加速度AR2で移動するようにノズル106の移動を開始する。
【0062】
図4は、進行方向DTにおいて工具軌跡TP(制御中心点CL)の第1の加速度AR1とノズル106(ノズル中心点CN)の第2の加速度AR2とが同じ(AR1=AR2)である場合を示している。時点t12では、図5Cに示すように、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLは、オフセット量STの1/2(DL=1/2×ST)である。
【0063】
時点t12後の時点t13では、工具軌跡TP(制御中心点CL)は所定の速度PSで進行方向DTに移動中であり、ノズル106(ノズル中心点CN)は第2の加速度AR2で進行方向DTに移動中である。時点t13では、図5Dに示すように、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLは、オフセット量STの1/2よりも長く、オフセット量STよりも短い(1/2×ST<DL<ST)。
【0064】
時点t13後の時点t14にて、図5Eに示すように、ノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLはオフセット量STと一致する。即ち、制御中心点CLは、ノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTにオフセット量STだけ変位した状態となる。
【0065】
切削加工機1は、時点t14にて、第2の加速度AR2で移動するノズル106(ノズル中心点CN)を、進行方向DTに所定の速度PSで移動させる。時点t14以降は、切削加工機1は、ノズル106と工具軌跡TPとを一定のオフセット量STを維持して、進行方向DTに同じ速度PSで移動させる。従って、切削加工機1は、時点t14以降は、工具軌跡TP(制御中心点CL)がノズル106(ノズル中心点CN)と一定のオフセット量STを維持した状態で加工対象物Wを切削加工する。
【0066】
図6は工具軌跡TPの制御を終了するときのノズル106(具体的にはノズル中心点CN)の移動速度と工具軌跡TP(具体的には制御中心点CL)の移動速度との関係を示している。図6は、縦軸がノズル106(ノズル中心点CN)、及び、工具軌跡TP(制御中心点CL)の移動速度(相対速度)を示し、横軸が時間軸を示している。図6図4に対応する。
【0067】
図5E図5D図5C図5B、及び、図5Aは、図6に示す各時点t20、t21、t22、t23、及びt24におけるノズル106(開口部105)と工具軌跡TPとの関係を示している。
【0068】
図4に示す時点t14から図6に示す時点t20までの期間では、図5Eに示すように、切削加工機1は、ノズル106(ノズル中心点CN)と工具軌跡TP(制御中心点CL)とを一定のオフセット量STを維持して、進行方向DTに同じ速度PSで移動させる。
【0069】
時点t14から時点t20までの期間では、ノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLがオフセット量STと一致している。即ち、切削加工機1は、時点t14から時点t20までの期間では、工具軌跡TP(制御中心点CL)がノズル106(ノズル中心点CN)と一定のオフセット量STを維持した状態で加工対象物Wを切削加工する。
【0070】
切削加工機1は、時点t20にて、所定の速度PSで移動する工具軌跡TP(制御中心点CL)を、進行方向DTにマイナスの加速度である第3の加速度AR3で減速させる。時点t20ではノズル106は所定の速度PSで進行方向DTに移動中である。
【0071】
時点t20後の時点t21では、ノズル106は所定の速度PSで進行方向DTに移動中であり、工具軌跡TPは第3の加速度AR3で進行方向DTに減速中である。時点t21では、図5Dに示すように、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLは、オフセット量STの1/2よりも長く、オフセット量STよりも短い(1/2×ST<DL<ST)。
【0072】
切削加工機1は、時点t21後の時点t22にて、第3の加速度AR3で進行方向DTに減速する工具軌跡TPの移動を停止させる。切削加工機1は、時点t22にて、レーザビームの振動を停止させ、かつ、加工対象物Wへのレーザビームの照射を停止させる。時点t14から時点t22までの期間では、ノズル106は所定の速度PSで進行方向DTに移動する。切削加工機1は、時点t22にて、所定の速度PSで移動するノズル106(ノズル中心点CN)を、進行方向DTにマイナスの加速度である第4の加速度AR4で減速させる。
【0073】
図6は、進行方向DTにおいて工具軌跡TP(制御中心点CL)の第3の加速度AR3とノズル106(ノズル中心点CN)の第4の加速度AR4とが同じである場合を示している。時点t22では、図5Cに示すように、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLは、オフセット量STの1/2(DL=1/2×ST)である。
【0074】
時点t22後の時点t23では、ノズル106は第4の加速度AR4で進行方向DTに減速中である。時点t23では、図5Bに示すように、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLは、オフセット量STの1/2未満(DL<1/2×ST)である。切削加工機1は、時点t23後の時点t24にて、ノズル106の移動を停止させ、加工対象物Wの切削加工を終了する。時点t24では、図5Aに示すように、工具軌跡TPの制御中心点CLがノズル中心点CNと一致した状態、即ち、初期状態となる。
【0075】
加工条件CPに工具軌跡の制御中心点とノズルの中心点とのオフセット量STが設定されている場合、切削加工機1は、工具軌跡TPをオフセット量STに応じてノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTに変位させた状態で、加工対象物Wを切削加工する。図7、及び、図8は、加工機本体100が、ノズル106の中心軸に対して工具軌跡TPを切削加工の進行方向に変位させ、加工対象物Wを切削加工する状態を示している。図7、及び、図8に示す符号CAは、ノズル中心点CNを通る、ノズル106の中心軸(以下、ノズル中心軸CAとする)を示している。
【0076】
図7、及び、図8において、アシストガス供給装置400から加工機本体100へ供給されるアシストガスAGは、ノズル106の開口部105から加工対象物Wに吹き付けられる。加工機本体100は、工具軌跡TPをオフセット量STに応じてノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTに変位させた状態で加工対象物Wを切削加工する。そのため、進行方向DTの後方側に生成される溶融物Wmeltに作用するアシストガスAGの量を増やすことができる。これにより、溶融物Wmeltの排出性を向上させることができる。
【0077】
図5A図5B図5D図5E図9、及び、図10を用いて、加工対象物Wの切削加工方法における工具軌跡TPの実施例2の制御方法について説明する。
【実施例2】
【0078】
図9は工具軌跡TPの制御を開始するときのノズル106(具体的にはノズル中心点CN)の移動速度と工具軌跡TP(具体的には制御中心点CL)の移動速度との関係を示している。図9は、縦軸がノズル106(ノズル中心点CN)、及び、工具軌跡TP(制御中心点CL)の移動速度(相対速度)を示し、横軸が時間軸を示している。図9図4に対応する。図5A図5B図5D、及び、図5Eは、図9に示す各時点t30、t31、t33、及びt34におけるノズル106(開口部105)と工具軌跡TPとの関係を示している。
【0079】
切削加工機1は、図9に示す時点t30にて工具軌跡TPの制御を開始する。時点t30では、ノズル106、及び、工具軌跡TPは停止した状態である。時点t30では、図5Aに示すように、工具軌跡TPの制御中心点CLがノズル中心点CNと一致した状態である。
【0080】
切削加工機1は、制御中心点CLがノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTに変位するように工具軌跡TPを制御する。切削加工機1は、時点t30にて制御中心点CLが進行方向DTに第5の加速度AR5で移動するように工具軌跡TPの制御を開始する。切削加工機1は、時点t30にてノズル中心点CNが切削加工の進行方向DTに第6の加速度AR6(AR6<AR5)で移動するようにX軸キャリッジ102及びY軸キャリッジ103を駆動する。
【0081】
時点t30後の時点t31では、工具軌跡TP(制御中心点CL)は第5の加速度AR5で進行方向DTに移動中であり、ノズル106(ノズル中心点CN)は第6の加速度AR6で進行方向DTに移動中である。時点t31では、図5Bに示すように、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLは、オフセット量STの1/2未満(DL<1/2×ST)である。距離DLは、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNに対する制御中心点CLの変位量に相当する。
【0082】
切削加工機1は、時点t31後の時点t32にて、第5の加速度AR5で移動する工具軌跡TP(制御中心点CL)を、進行方向DTに所定の速度(一定速度)PSで移動させる。時点t32では、ノズル106は進行方向DTに第6の加速度AR6で移動中である。
【0083】
時点t32後の時点t33では、工具軌跡TP(制御中心点CL)は所定の速度PSで進行方向DTに移動中であり、ノズル106(ノズル中心点CN)は第6の加速度AR6で進行方向DTに移動中である。時点t33では、図5Dに示すように、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLは、オフセット量STの1/2よりも長く、オフセット量STよりも短い(1/2×ST<DL<ST)。
【0084】
時点t33後の時点t34にて、図5Eに示すように、ノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLはオフセット量STと一致する。即ち、制御中心点CLは、ノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTにオフセット量STだけ変位した状態となる。
【0085】
切削加工機1は、時点t34にて、第6の加速度AR6で移動するノズル106(ノズル中心点CN)を、進行方向DTに所定の速度PSで移動させる。時点t34以降は、切削加工機1は、ノズル106と工具軌跡TPとを一定のオフセット量STを維持して、進行方向DTに同じ速度PSで移動させる。従って、切削加工機1は、時点t34以降は、工具軌跡TP(制御中心点CL)がノズル106(ノズル中心点CN)と一定のオフセット量STを維持した状態で加工対象物Wを切削加工する。
【0086】
図10は工具軌跡TPの制御を終了するときのノズル106(具体的にはノズル中心点CN)の移動速度と工具軌跡TP(具体的には制御中心点CL)の移動速度との関係を示している。図10は、縦軸がノズル106(ノズル中心点CN)、及び、工具軌跡TP(制御中心点CL)の移動速度(相対速度)を示し、横軸が時間軸を示している。図10図6または図9に対応する。
【0087】
図5E図5D図5B、及び、図5Aは、図10に示す各時点t40、t41、t43、及びt44におけるノズル106(開口部105)と工具軌跡TPとの関係を示している。
【0088】
図9に示す時点t34から図10に示す時点t40までの期間では、図5Eに示すように、切削加工機1は、ノズル106(ノズル中心点CN)と工具軌跡TP(制御中心点CL)とを一定のオフセット量STを維持して、進行方向DTに同じ速度PSで移動させる。
【0089】
時点t34から時点t40までの期間では、ノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLがオフセット量STと一致している。即ち、切削加工機1は、時点t34から時点t40までの期間では、工具軌跡TP(制御中心点CL)がノズル106(ノズル中心点CN)と一定のオフセット量STを維持した状態で加工対象物Wを切削加工する。
【0090】
切削加工機1は、時点t40にて、所定の速度PSで移動する工具軌跡TP(制御中心点CL)を、進行方向DTにマイナスの加速度である第7の加速度AR7で減速させる。時点t40ではノズル106は所定の速度PSで進行方向DTに移動中である。
【0091】
時点t40後の時点t41では、ノズル106は所定の速度PSで進行方向DTに移動中であり、工具軌跡TPは第7の加速度AR7で進行方向DTに減速中である。時点t41では、図5Dに示すように、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLは、オフセット量STの1/2よりも長く、オフセット量STよりも短い(1/2×ST<DL<ST)。距離DLは、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNに対する制御中心点CLの変位量に相当する。
【0092】
切削加工機1は、時点t41後の時点t42にて、所定の速度PSで移動するノズル106を、進行方向DTにマイナスの加速度である第8の加速度AR8で減速させる。時点t42では工具軌跡TPは第7の加速度AR7で進行方向DTに減速中である。
【0093】
時点t42後の時点t43では、工具軌跡TPは第7の加速度AR7で進行方向DTに減速中であり、ノズル106は第8の加速度AR8で進行方向DTに減速中である。時点t43では、図5Bに示すように、制御中心軌跡LT上におけるノズル中心点CNから制御中心点CLまでの距離DLは、オフセット量STの1/2未満(DL<1/2×ST)である。
【0094】
時点t43後の時点t44では、図5Aに示すように、工具軌跡TPの制御中心点CLがノズル中心点CNと一致した状態、即ち、初期状態となる。切削加工機1は、時点t44にてレーザビームの振動を停止させ、かつ、加工対象物Wへのレーザビームの照射を停止させる。切削加工機1は、時点t44にてノズル106の移動を停止させ、加工対象物Wの切削加工を終了する。
【0095】
切削加工機1は、加工条件CPに工具軌跡の制御中心点とノズルの中心点とのオフセット量STが設定されている場合、切削加工機1は、工具軌跡TPをオフセット量STに応じてノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTに変位させた状態で、加工対象物Wを切削加工する。そのため、図7、及び、図8に示すように、切削加工の進行方向DTの後方側に生成される溶融物Wmeltに作用するアシストガスAGの量を増やすことができる。これにより、溶融物Wmeltの排出性を向上させることができる。
【0096】
図11A及び図11Bに示すフローチャートを用いて、切削加工機1による加工対象物Wの切削加工方法の一例を説明する。CAD装置20は、図11Aに示すフローチャートのステップS1にて、最終加工製品の寸法及び形状を含む製品形状情報に基づいて製品形状データSDを生成する。さらに、CAD装置20は、製品形状データSDをCAM装置21へ出力する。
【0097】
CAM装置21は、ステップS2にて、製品形状データSDに基づいて、切削加工機1の加工プログラムPP(Gコードを含む)を生成し、加工条件CPを指定する。さらに、CAM装置21は加工プログラムPPと加工条件CPとを切削加工機1のNC装置200へ出力する。
【0098】
NC装置200の工具径補正量演算部201、及び、加工軌跡演算部202には、ステップS2にてCAM装置21から加工プログラムPPと加工条件CPとが入力される。工具径補正量演算部201は、ステップS3にて、加工条件CPとして工具軌跡TPの制御中心点CLとノズル中心点CNとのオフセット量STが設定されているか否かを認識する。
【0099】
加工条件CPとしてオフセット量STが設定されていないと認識された場合、工具径補正量演算部201は、ステップS4にて、工具軌跡TPの制御中心点CLとノズル中心点CNとを一致させる工具径補正情報TCを生成する。加工条件CPとしてオフセット量STが設定されていると認識された場合、工具径補正量演算部201は、ステップS4にて、工具軌跡TPの制御中心点CLをノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTにオフセット量STだけ変位させる工具径補正情報TCを生成する。さらに、工具径補正量演算部201は、工具径補正情報TCを加工軌跡演算部202へ出力する。
【0100】
加工軌跡演算部202には、ステップS2にてCAM装置21から加工プログラムPPと加工条件CPとが入力され、ステップS4にて工具径補正量演算部201から工具径補正情報TCが入力される。加工軌跡演算部202は、ステップS5にて、加工プログラムPPに含まれているGコードを翻訳する。さらに、加工軌跡演算部202は、翻訳結果に基づいて、左工具径補正にて切削加工するか、右工具径補正にて切削加工するかのいずれかの切削加工補正条件を決定する。
【0101】
加工軌跡演算部202は、ステップS6にて、加工プログラムPPと加工条件CPと工具径補正情報TCと決定された切削加工補正条件とに基づいて、制御中心点CLがノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTにオフセット量STだけ変位させるための工具軌跡制御信号TSを生成する。さらに、加工軌跡演算部202は、工具軌跡制御信号TSを駆動制御部203へ出力する。
【0102】
駆動制御部203は、図11Bに示すフローチャートのステップS7にて、工具軌跡制御信号TSに基づいて、加工機本体100を制御する駆動制御信号CSを生成する。さらに、駆動制御部203は駆動制御信号CSを加工機本体100へ出力する。
【0103】
NC装置200は、ステップS8にて、レーザ発振器10と加工機本体100とアシストガス供給装置400とを制御する。これにより、加工機本体100の加工ユニット104は、ノズル106の開口部105から、アシストガス供給装置400から供給されるアシストガスAGを加工対象物Wに吹き付け、かつ、レーザ発振器10から射出されるレーザビームを加工対象物Wに照射し、かつ、レーザビームを工具軌跡制御部300により所定の振動パターンで振動させる。
【0104】
レーザ発振器10、加工機本体100、及び、アシストガス供給装置400における各動作のタイミングは、加工プログラムPPと加工条件CPとに基づいてNC装置200により制御される。
【0105】
加工機本体100は、ステップS9にて、ノズル106を移動させ、かつ、工具軌跡TPをオフセット量STに応じてノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTに変位させた状態で、加工対象物Wを切削加工する。
【0106】
NC装置200は、ステップS10にて、レーザ発振器10と加工機本体100とアシストガス供給装置400とを制御する。加工機本体100の工具軌跡制御部300はレーザビームの振動を停止する。レーザ発振器10はレーザビームの射出を停止する。アシストガス供給装置400は加工機本体100へのアシストガスAGの供給を停止する。切削加工機1は加工対象物Wの切削加工を終了する。
【0107】
本実施形態の切削加工機及び切削加工方法では、工具軌跡TPに基づく補正情報とノズル軌跡NPに基づく補正情報とを含む工具径補正情報TCを生成する。本実施形態の切削加工機及び切削加工方法では、工具径補正情報TCに基づいて加工ユニット104の駆動と工具軌跡制御部300の駆動とを制御することにより、ノズル軌跡NPと工具軌跡TPとを制御する。従って、本実施形態の切削加工機及び切削加工方法によれば、切削工具に相当する工具軌跡、または、ノズルと加工ステージとの相対位置が固定されている状態における切削加工跡が非円形状であっても、切削工具の工具径を精度よく補正することができる。
【0108】
加工条件CPに、工具軌跡の制御中心点とノズル106の中心点とのオフセット量が設定された工具軌跡制御情報が含まれている場合がある。本実施形態の切削加工機及び切削加工方法では、加工条件CPに工具軌跡制御情報が含まれていない場合には、工具軌跡TPの制御中心点CLとノズル中心点CNとを一致させる工具径補正情報TCを生成する。
【0109】
本実施形態の切削加工機及び切削加工方法では、加工条件CPに工具軌跡制御情報が含まれている場合には、工具軌跡TPの制御中心点CLをノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTにオフセット量STだけ変位させる工具径補正情報TCを生成する。
【0110】
従って、本実施形態の切削加工機及び切削加工方法によれば、工具軌跡TPをオフセット量STに応じてノズル中心点CNに対して切削加工の進行方向DTに変位させた状態で加工対象物Wを切削加工するため、進行方向DTの後方側に生成される溶融物Wmeltに作用するアシストガスAGの量を増やすことができる。これにより、溶融物Wmeltの排出性を向上させることができる。
【0111】
本発明は以上説明した本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。本実施形態の切削加工機及び切削加工方法では、レーザ加工機及びレーザ加工方法を例に挙げて説明したが、本発明は例えばウォータジェット加工機に対しても適用可能である。
【0112】
本願の開示は、2018年3月12日に出願された特願2018-044118号に記載の主題と関連しており、それらの全ての開示内容は引用によりここに援用される。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B