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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】鋼管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/04 20060101AFI20220121BHJP
【FI】
F16L15/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020538213
(86)(22)【出願日】2019-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2019026013
(87)【国際公開番号】W WO2020039750
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2018154574
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】杉野 正明
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-281059(JP,A)
【文献】中国実用新案第201574696(CN,U)
【文献】中国実用新案第201763269(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0119657(US,A1)
【文献】国際公開第2015/182128(WO,A1)
【文献】国際公開第98/50720(WO,A1)
【文献】米国特許第4004832(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0321826(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103362459(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のピンと管状のボックスとからなる鋼管用ねじ継手であって、
前記ピンは、テーパ雄ねじ部及びショルダ部を含み、
前記テーパ雄ねじ部は、ねじ頂面、ねじ底面、荷重フランク面及び挿入フランク面を含み、
前記ボックスは、前記テーパ雄ねじ部と噛み合うテーパ雌ねじ部、及び前記ピンの前記ショルダ部に対応するショルダ部を含み、
前記テーパ雌ねじ部は、ねじ頂面、ねじ底面、荷重フランク面及び挿入フランク面を含み、
前記ピンの前記ショルダ部が前記ボックスの前記ショルダ部と接触して締結が完了した状態で、前記テーパ雄ねじ部の前記ねじ底面が前記テーパ雌ねじ部の前記ねじ頂面と干渉しながら接触し、前記テーパ雄ねじ部の前記ねじ頂面と前記テーパ雌ねじ部の前記ねじ底面との間に隙間が形成され、
前記鋼管用ねじ継手の管軸を含む縦断面において、
前記テーパ雄ねじ部の前記ねじ頂面は、円弧からなる第1角部を介して前記テーパ雄ねじ部の前記荷重フランク面につながり、
前記テーパ雄ねじ部の前記ねじ頂面は、円弧からなる第2角部を介して前記テーパ雄ねじ部の前記挿入フランク面につながり、
前記テーパ雄ねじ部の前記荷重フランク面及び前記挿入フランク面はそれぞれ直線からなり、
前記テーパ雄ねじ部の前記荷重フランク面のフランク角は負角であり、
前記テーパ雄ねじ部の前記ねじ頂面は、前記第1角部と前記第2角部との両方に正接する凸の曲線からなり、
前記テーパ雄ねじ部の表面に固体潤滑被膜を備える、鋼管用ねじ継手。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記縦断面において、前記第1角部を形成する円弧を含む仮想の第1円、前記第2角部を形成する円弧を含む仮想の第2円、及び前記テーパ雄ねじ部の前記ねじ頂面に隣接するとともに前記仮想の第1円と前記仮想の第2円との両方に正接する仮想の直線を引いたとき、前記仮想の直線と、前記テーパ雄ねじ部の前記ねじ頂面を形成する前記曲線と、の前記管軸に垂直な方向の距離のうちの最大距離が0.1mm~0.3mmである、鋼管用ねじ継手。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記縦断面において、前記テーパ雄ねじ部の前記ねじ頂面を形成する前記曲線が円弧、楕円弧又は放物線である、鋼管用ねじ継手。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記縦断面において、
前記テーパ雄ねじ部の前記荷重フランク面の前記管軸に垂直な方向の高さが前記テーパ雄ねじ部のねじ高さの30%以上70%以下であり、
前記テーパ雄ねじ部の前記挿入フランク面の前記管軸に垂直な方向の高さが前記テーパ雄ねじ部の前記ねじ高さの30%以上70%以下である、鋼管用ねじ継手。
【請求項5】
請求項4に記載の鋼管用ねじ継手であって、
前記縦断面において、
前記テーパ雄ねじ部の前記ねじ底面は、円弧からなる第1隅部を介して前記テーパ雄ねじ部の前記荷重フランク面につながり、
前記テーパ雄ねじ部の前記ねじ底面は、円弧からなる第2隅部を介して前記テーパ雄ねじ部の前記挿入フランク面につながり、
前記第1角部の半径が前記ねじ高さの5%以上35%以下であり、
前記第2角部の半径が前記ねじ高さの15%以上50%以下であり、
前記第1隅部の半径が前記ねじ高さの15%以上50%以下であり、
前記第2隅部の半径が前記ねじ高さの5%以上35%以下である、鋼管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の連結に用いられるねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油井、天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう)において、地下資源を採掘するために油井管(OCTG:Oil Country Tubular Goods)と呼ばれる鋼管が使用される。鋼管は順次連結される。鋼管の連結にねじ継手が用いられる。
【0003】
鋼管用ねじ継手の形式は、カップリング型とインテグラル型に大別される。カップリング型ねじ継手の場合、連結対象の一対の管材のうち、一方の管材が鋼管であり、他方の管材がカップリングである。この場合、鋼管の両端部の外周に雄ねじ部が形成され、カップリングの両端部の内周に雌ねじ部が形成される。そして、鋼管とカップリングとが連結される。インテグラル型ねじ継手の場合、連結対象の一対の管材がともに鋼管であり、別個のカップリングを用いない。この場合、鋼管の一端部の外周に雄ねじ部が形成され、他端部の内周に雌ねじ部が形成される。そして、一方の鋼管と他方の鋼管とが連結される。
【0004】
雄ねじ部が形成された管端部の継手部分は、雌ねじ部に挿入される要素を含むことから、ピンと称される。一方、雌ねじ部が形成された管端部の継手部分は、雄ねじ部を受け入れる要素を含むことから、ボックスと称される。これらのピンとボックスは、管材の端部であるため、いずれも管状である。
【0005】
鋼管用ねじ継手(以下、単に「ねじ継手」ともいう)のねじはテーパねじである。そのため、ピンは、雄ねじ部として、テーパ雄ねじ部を含む。ボックスは、雌ねじ部として、そのテーパ雄ねじ部と噛み合うテーパ雌ねじ部を含む。また、ねじ継手のねじは、API規格のバットレスねじに代表される台形ねじである。台形ねじでは、テーパ雄ねじ部(以下、単に「雄ねじ部」ともいう)及びテーパ雌ねじ部(以下、単に「雌ねじ部」ともいう)は、それぞれ、ねじ頂面、ねじ底面、荷重フランク面及び挿入フランク面の4つの面を含み、さらにそれらの面を接続する円弧等の角部又は隅部を含む。ねじ頂面、ねじ底面、荷重フランク面及び挿入フランク面は、形状と機能により明確に区別される。
【0006】
通常、ピン及びボックスはそれぞれショルダ部を含む。ボックスへのピンのねじ込みによりピンのショルダ部がボックスのショルダ部と接触する。引き続きピンを所定量回転させるとボックスへのピンの締結が完了する。これにより、締付け軸力が発生し、ピンの荷重フランク面がボックスの荷重フランク面に強く押し付けられる。締結が完了した状態(以下、「締結状態」ともいう)では、雄ねじ部のねじ底面(以下、「雄ねじ底面」ともいう)が雌ねじ部のねじ頂面(以下、「雌ねじ頂面」ともいう)と干渉しながら接触する。一方、雄ねじ部のねじ頂面(以下、「雄ねじ頂面」ともいう)と雌ねじ部のねじ底面(以下、「雌ねじ底面」ともいう)との間には隙間が形成される。
【0007】
ピン及びボックスがそれぞれシール面を含む場合もある。この場合、締結状態で、ピンのシール面がボックスのシール面と干渉しながら接触し、メタル接触によるシール部が形成される。
【0008】
従来、ボックスにピンをねじ込んで締結する際、潤滑剤としてグリスコンパウンドがねじ部(雄ねじ部及び雌ねじ部)に塗布される。近年では、環境規制及び締結作業の効率化のため、グリスコンパウンドに代えて、固体潤滑被膜がねじ部の表面に予め形成される(例えば、国際公開WO2007/042231号(特許文献1)、及び国際公開WO2009/072486号(特許文献2)参照)。
【0009】
固体潤滑被膜は、もともとは流動性のある半固体の潤滑剤であり、ブラシやスプレー等を用いてねじ部の表面に塗布される。塗布された半固体の潤滑剤は、硬化処理(例:冷却、紫外線照射等)を施されて固化し、固体潤滑被膜となる。
【0010】
しかしながら、ねじ部に塗布された半固体の潤滑剤は、塗布から固化までの期間で流動する。これにより、固化前の潤滑剤の膜厚が不均一になる。具体的には、例えば国際公開WO2015/182128号(特許文献3)に開示されるように、ねじ頂面と荷重フランク面とをつなぐ角部、及びねじ頂面と挿入フランク面とをつなぐ角部では膜厚が薄くなる。ねじ頂面では、その中央部で膜厚が特に分厚くなる。このような膜厚の不均一さは固化後にも維持される。そのため、固体潤滑被膜の膜厚が不均一になる。
【0011】
上記のとおり、締結状態で、雄ねじ頂面と雌ねじ底面との間には隙間が形成される。つまり、締結中でも、雄ねじ頂面と雌ねじ底面との間に隙間が形成される。この場合、雄ねじ頂面で固体潤滑被膜が分厚いと、締結中にその固体潤滑被膜が剥離する。剥離した固体潤滑剤は、雄ねじ頂面と雌ねじ底面との間の隙間を無造作に転がる。その隙間を転がる固体潤滑剤が大量になると、ボックスへのピンのスムーズなねじ込みが阻害される。これにより、締結の不具合が発生する。
【0012】
例えば、トルクチャートのハンピングが生じたり、ハイショルダリングが発生したりする。ねじ継手は通常、トルク管理で締結される。ハンピングやハイショルダリングが発生した場合、締結途中であるにもかかわらず高いトルクが発生する。この場合、締結途中の時点で締結が終了する。つまり、締め込み不足の状態で締結が終了する。その結果、シール部に所定の干渉量が導入されずにリークし易い状態となったり、ねじに所定の締付け軸力が導入されずに緩み易い状態になる。そのため、所望のシール性能と継手強度が得られない。
【0013】
このような問題に対し、特許文献3のねじ継手では、雄ねじ頂面の中央部に浅い溝が設けられる。その雄ねじ頂面に塗布された半固体の潤滑剤は、その溝によって膜厚が薄くなる方向に広がる。そのため、雄ねじ頂面において、半固体の潤滑剤の膜厚が分厚くならずに均一になり、固体潤滑被膜も均一になる。したがって、特許文献3のねじ継手によれば、締結の不具合を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開WO2007/042231号
【文献】国際公開WO2009/072486号
【文献】国際公開WO2015/182128号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献3のねじ継手では、雄ねじ頂面に溝を設けるために、その溝に対応する凸の形状を有する特殊なねじ切り工具を用いる。この場合、工具の寿命が短く、工具を頻繁に交換しなければならない、という不都合が生じる。また、溝の無い普通の雄ねじ部を加工した後に、溝加工専用の工具を用いてもよい。この場合、トータルの加工時間が長くなる、という不都合が生じる。いずれにしても、ねじ継手の生産性の低下は否めない。
【0016】
本発明の目的は、雄ねじ部の表面に固体潤滑被膜を備えた鋼管用ねじ継手であって、ねじ継手の生産性を損なうことなく、締結の不具合を抑制することができる鋼管用ねじ継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の実施形態による鋼管用ねじ継手は、管状のピンと管状のボックスとからなる。ピンは、テーパ雄ねじ部及びショルダ部を含む。テーパ雄ねじ部は、ねじ頂面、ねじ底面、荷重フランク面及び挿入フランク面を含む。ボックスは、テーパ雄ねじ部と噛み合うテーパ雌ねじ部、及びピンのショルダ部に対応するショルダ部を含む。テーパ雌ねじ部は、ねじ頂面、ねじ底面、荷重フランク面及び挿入フランク面を含む。ピンのショルダ部がボックスのショルダ部と接触して締結が完了した状態で、テーパ雄ねじ部のねじ底面がテーパ雌ねじ部のねじ頂面と干渉しながら接触し、テーパ雄ねじ部のねじ頂面とテーパ雌ねじ部のねじ底面との間に隙間が形成される。
【0018】
上記のねじ継手の管軸を含む縦断面において、テーパ雄ねじ部のねじ頂面は、円弧からなる第1角部を介してテーパ雄ねじ部の荷重フランク面につながる。さらに、テーパ雄ねじ部のねじ頂面は、円弧からなる第2角部を介してテーパ雄ねじ部の挿入フランク面につながる。さらに、テーパ雄ねじ部の荷重フランク面及び挿入フランク面はそれぞれ直線からなる。さらに、テーパ雄ねじ部の荷重フランク面のフランク角は負角である。さらに、テーパ雄ねじ部のねじ頂面は、第1角部と第2角部との両方に正接する凸の曲線からなる。そして、上記のねじ継手は、テーパ雄ねじ部の表面に固体潤滑被膜を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施形態による鋼管用ねじ継手によれば、雄ねじ部の表面に固体潤滑被膜を備える場合であっても、ねじ継手の生産性を損なうことなく、締結の不具合を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、第1実施形態の鋼管用ねじ継手の代表例を示す縦断面図である。
図2図2は、第1実施形態の鋼管用ねじ継手におけるねじ部の領域を拡大した縦断面図である。
図3図3は、図2に示す雄ねじ部の固体潤滑被膜が形成される前の縦断面図である。
図4図4は、図2に示す雄ねじ部の縦断面図である。
図5図5は、第2実施形態の鋼管用ねじ継手におけるねじ部の領域を拡大した縦断面図である。
図6図6は、第3実施形態の鋼管用ねじ継手におけるねじ部の領域を拡大した縦断面図である。
図7図7は、図6に示す雄ねじ部の固体潤滑被膜が形成される前の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態による鋼管用ねじ継手は、管状のピンと管状のボックスとからなる。ピンは、テーパ雄ねじ部及びショルダ部を含む。テーパ雄ねじ部は、ねじ頂面、ねじ底面、荷重フランク面及び挿入フランク面を含む。ボックスは、テーパ雄ねじ部と噛み合うテーパ雌ねじ部、及びピンのショルダ部に対応するショルダ部を含む。テーパ雌ねじ部は、ねじ頂面、ねじ底面、荷重フランク面及び挿入フランク面を含む。ピンのショルダ部がボックスのショルダ部と接触して締結が完了した状態で、テーパ雄ねじ部のねじ底面がテーパ雌ねじ部のねじ頂面と干渉しながら接触し、テーパ雄ねじ部のねじ頂面とテーパ雌ねじ部のねじ底面との間に隙間が形成される。
【0022】
上記のねじ継手の管軸を含む縦断面において、上記のねじ継手は以下の構成を含む。テーパ雄ねじ部のねじ頂面は、円弧からなる第1角部を介してテーパ雄ねじ部の荷重フランク面につながる。テーパ雄ねじ部のねじ頂面は、円弧からなる第2角部を介してテーパ雄ねじ部の挿入フランク面につながる。テーパ雄ねじ部の荷重フランク面及び挿入フランク面はそれぞれ直線からなる。テーパ雄ねじ部の荷重フランク面のフランク角は負角である。テーパ雄ねじ部のねじ頂面は、第1角部と第2角部との両方に正接する凸の曲線からなる。そして、上記のねじ継手は、テーパ雄ねじ部の表面に固体潤滑被膜を備える。
【0023】
本実施形態のねじ継手によれば、雄ねじ頂面の全体がなだらかに盛り上がっている。つまり、雄ねじ頂面は平坦ではないし、その雄ねじ頂面に溝は設けられていない。雄ねじ頂面に塗布された半固体の潤滑剤には表面張力が作用する。表面張力は通常、物体の表面エネルギーを最小にする方向に働き、気液界面においては液体の自由表面の面積を最小にするような駆動力を与える。そのため、曲率半径の小さい箇所に塗布された半固体の潤滑剤は、より曲率半径の大きい箇所に流動する。隣り合う表面で曲率半径の差が大きいほど、この流動は顕著となる。
【0024】
従来の台形ねじにおいては、平坦なねじ頂面の曲率半径は無限大であるので、ねじ頂面と角部との曲率半径差は極めて大きい。そのため、半固体の潤滑剤の顕著な流動により膜厚の不均一さが大きくなっていた。本実施形態のねじ継手では、雄ねじ頂面の全体がなだらかに盛り上がっているため、ねじ頂面と角部との曲率半径差は、従来の台形ねじに比してかなり小さい。そのため、半固体の潤滑剤の不用意な流動も抑えられる。これにより、雄ねじ頂面において、半固体の潤滑剤の膜厚が分厚くならずに均一になり、固体潤滑被膜の膜厚も均一になる。したがって、締結の不具合を抑制することができる。その結果、所望のシール性能と継手強度が得られる。
【0025】
雄ねじ部を形成するためのねじ切り工具は、なだらかに盛り上がったねじ頂面に対応する凹の形状を有する。ねじ切り加工時、凹の形状部分が受ける負荷は、凸の形状部分が受ける負荷よりも遙かに小さい。そのため、工具の寿命が特に短くなるわけではない。したがって、ねじ継手の生産性は損なわれない。
【0026】
本実施形態のねじ継手では、平坦な荷重フランク面と平坦な挿入フランク面が存在する。さらに荷重フランク面のフランク角が負角となっている。つまり、荷重フランク面がフック状に傾斜している。そのため、締付け軸力が荷重フランク面に有効に作用する。これにより、引張荷重が作用してもジャンプアウトが生じにくい。したがって、継手強度が高い。
【0027】
本実施形態のねじ継手で用いられる固体潤滑被膜は、塗布時に流動性を有し、塗布後に硬化処理を施されて固化するものであれば、特に限定されない。つまり、電着被膜、圧着被膜等のように、固化までに流動することがない固体潤滑被膜は含まれない。
【0028】
本実施形態のねじ継手では、締結状態で雄ねじ頂面と雌ねじ底面との間に隙間が形成される限り、雌ねじ底面の形状は限定されてない。例えば、ねじ継手の縦断面において、雌ねじ底面は直線からなる。この場合、雌ねじ底面の全体が平坦である。また、ねじ継手の縦断面において、雌ねじ底面は、雄ねじ頂面に対応するように凹の曲線からなってもよい。この場合、雌ねじ底面の全体がなだらかに凹んでいる。
【0029】
典型的な例では、ピン及びボックスがそれぞれシール面を含む。この場合、締結状態で、ピンのシール面がボックスのシール面と干渉しながら接触し、メタル接触によるシール部が形成される。ただし、シール面を設けなくてもよい。
【0030】
上記のねじ継手は、下記の構成を含むことが好ましい。ねじ継手の縦断面において、第1角部を形成する円弧を含む仮想の第1円、第2角部を形成する円弧を含む仮想の第2円、及びテーパ雄ねじ部のねじ頂面に隣接するとともに仮想の第1円と仮想の第2円との両方に正接する仮想の直線を引いたとき、仮想の直線と、テーパ雄ねじ部のねじ頂面を形成する曲線と、の管軸に垂直な方向の距離のうちの最大距離bが0.1mm~0.3mmである。最大距離bが0.1mm以上であれば、固体潤滑被膜の膜厚が有効に均一になる。好ましくは、最大距離bは0.2mm以上である。一方、最大距離bが0.3mm以下であれば、荷重フランク面の管軸に垂直な方向の高さが有効に確保され、継手強度への悪影響がない。
【0031】
典型的な例では、ねじ継手の縦断面において、テーパ雄ねじ部のねじ頂面を形成する曲線が円弧、楕円弧又は放物線である。
【0032】
上記のねじ継手は、下記の構成を含むことが好ましい。ねじ継手の縦断面において、テーパ雄ねじ部の荷重フランク面の管軸に垂直な方向の高さLSH(以下、「荷重フランク面高さ」ともいう)がテーパ雄ねじ部のねじ高さHの30%以上70%以下である。さらに、テーパ雄ねじ部の挿入フランク面の管軸に垂直な方向の高さSSH(以下、「挿入フランク面高さ」ともいう)がテーパ雄ねじ部のねじ高さHの30%以上70%以下である。
【0033】
荷重フランク面高さLSHがねじ高さHの30%以上であれば、継手強度への悪影響がない。好ましくは、荷重フランク面高さLSHはねじ高さHの40%以上である。一方、荷重フランク面高さLSHがねじ高さHの70%以下であれば、後述する角部と隅部に十分な大きさの円弧を用いることができる。この場合、角部が締結時に相手部材の表面を傷つけることがなく、耐焼付き性への影響がない。さらに、最大距離bの確保にも支障がない。またこの場合、隅部での極端な応力集中を避けることができ、疲労強度などへの悪影響がない。
【0034】
また、挿入フランク面高さSSHがねじ高さHの30%以上であれば、継手の圧縮強度への悪影響がない。好ましくは、挿入フランク面高さSSHはねじ高さHの40%以上である。一方、挿入フランク面高さSSHがねじ高さHの70%以下であれば、後述する角部と隅部に十分な大きさの円弧を用いることができる。この場合、角部が締結時に相手部材の表面を傷つけることがなく、耐焼付き性への影響がない。さらに、最大距離bの確保にも支障がない。またこの場合、隅部での極端な応力集中を避けることができ、疲労強度などへの悪影響がない。
【0035】
このねじ継手の場合、下記の構成を含むことが好ましい。ねじ継手の縦断面において、テーパ雄ねじ部のねじ底面は、円弧からなる第1隅部を介してテーパ雄ねじ部の荷重フランク面につながる。さらに、テーパ雄ねじ部のねじ底面は、円弧からなる第2隅部を介してテーパ雄ねじ部の挿入フランク面につながる。さらに、第1角部の半径R1がねじ高さHの5%以上35%以下である。さらに、第2角部の半径R2がねじ高さHの15%以上50%以下である。さらに、第1隅部の半径R3がねじ高さHの15%以上50%以下である。さらに、第2隅部の半径R4がねじ高さHの5%以上35%以下である。
【0036】
第1角部、第2角部、第1隅部及び第2隅部それぞれの半径R1、R2、R3及びR4は、設計上で適切な値を設定される。特に、第2角部の半径R2と第1隅部の半径R3は次の設計思想に基づいて設定される。第2角部の半径R2があまりに小さい場合、スタビング性能が阻害される。ここでスタビング性能とは、ピンをボックスに挿入した際に、いかに早く確実に雄ねじ部が雌ねじ部にはまってピンの回転を開始できる状態になるか、という性能をいう。さらにこの場合、ボックスへのピンの挿入の際に雌ねじ部の表面が疵付いてしまい、耐焼付き性能が低下する。したがって、半径R2は設計事情の許す範囲で大きな値を設定される。第1隅部の半径R3があまりに小さい場合、締結や引張負荷の際に過度に応力集中が発生し、耐疲労性能が低下する。したがって、半径R3は設計事情の許す範囲で大きな値を設定される。第1角部の半径R1と第2隅部の半径R4には半径R2と半径R3のような事情はない。したがって、半径R1と半径R4は、前述の荷重フランク面高さLSHと挿入フランク面高さSSHを確保できるように設定される。
【0037】
以下に、図面を参照しながら、本実施形態の鋼管用ねじ継手の具体例を説明する。
【0038】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の鋼管用ねじ継手の代表例を示す縦断面図である。図2は、第1実施形態の鋼管用ねじ継手におけるねじ部の領域を拡大した縦断面図である。図3及び図4は、図2に示す雄ねじ部の縦断面図である。図3には、固体潤滑被膜が形成される前の状態が示される。図4には、固体潤滑被膜が形成された状態が示される。図2図4中には、ボックス20に対するピン10のねじ込み進行方向が白抜き矢印で示される。本明細書において、縦断面とは、ねじ継手の管軸CLを含む断面を意味する。なお、図1及び図2には、固体潤滑被膜の図示が省略される。
【0039】
図1に示すねじ継手はカップリング型のねじ継手である。図1を参照し、ねじ継手は、ピン10とボックス20とから構成される。ねじ継手のねじはテーパねじである。ピン10は、雄ねじ部11及びショルダ部16を含む。このショルダ部16は、ピン10の先端に設けられる。ボックス20は、ピン10の雄ねじ部11に対応する雌ねじ部21、及びピン10のショルダ部16に対応するショルダ部26を含む。また、ピン10はシール面17を含む。このシール面17は、雄ねじ部11とショルダ部16との間に設けられる。ボックス20は、ピン10のシール面17に対応するシール面27を含む。
【0040】
図1及び図2を参照し、ピン10の雄ねじ部11は、ねじ頂面12、ねじ底面13、荷重フランク面15及び挿入フランク面14を含む。一方、ボックス20の雌ねじ部21は、ねじ頂面22、ねじ底面23、荷重フランク面25及び挿入フランク面24を含む。
【0041】
雄ねじ頂面12は雌ねじ底面23と対向する。詳細は後述するが、ねじ継手の縦断面において、雄ねじ頂面12は凸の曲線からなる。つまり、雄ねじ頂面12はなだらかに盛り上がっている。ねじ継手の縦断面において、雌ねじ底面23は直線からなる。つまり、雌ねじ底面23は平坦である。
【0042】
雄ねじ底面13は雌ねじ頂面22と対向する。ねじ継手の縦断面において、雄ねじ底面13は直線からなる。つまり、雄ねじ底面13は平坦である。ねじ継手の縦断面において、雌ねじ頂面22は直線からなる。つまり、雌ねじ頂面22は平坦である。
【0043】
第1実施形態では、ねじ継手の縦断面において、雄ねじ底面13は、雄ねじ部11の長手方向(管軸CL方向)の全域にわたって同一直線上にある。雌ねじ頂面22も、雌ねじ部21の長手方向の全域にわたって同一直線上にある。雌ねじ底面23も、雌ねじ部21の長手方向の全域にわたって同一直線上にある。これらの直線は、管軸CLから所定のテーパ角で傾いている。
【0044】
雄ねじ部11の挿入フランク面14は雌ねじ部21の挿入フランク面24と対向する。ねじ継手の縦断面において、雄ねじ部11の挿入フランク面14は直線からなる。つまり、雄ねじ部11の挿入フランク面14は平坦である。ねじ継手の縦断面において、雌ねじ部21の挿入フランク面24は直線からなる。つまり、雌ねじ部21の挿入フランク面24は平坦である。
【0045】
雄ねじ部11の荷重フランク面15は雌ねじ部21の荷重フランク面25と対向する。ねじ継手の縦断面において、雄ねじ部11の荷重フランク面15は直線からなる。つまり、雄ねじ部11の荷重フランク面15は平坦である。ねじ継手の縦断面において、雌ねじ部21の荷重フランク面25は直線からなる。つまり、雌ねじ部21の荷重フランク面25は平坦である。ここで、荷重フランク面15及び25のフランク角θは負角となっている。つまり、荷重フランク面15及び25がフック状に傾斜している。
【0046】
ボックス20へのピン10のねじ込みにより、雄ねじ部11が雌ねじ部21と噛み合う。ピン10のショルダ部16はボックス20のショルダ部26と接触する(図1参照)。締結状態では、ショルダ部16及び26によって締付け軸力が発生し、ピン10の荷重フランク面15がボックス20の荷重フランク面25に強く押し付けられる。さらに、雄ねじ底面13が雌ねじ頂面22と干渉しながら接触する。一方、雄ねじ頂面12と雌ねじ底面23との間には隙間が形成される。雄ねじ部11の挿入フランク面14と雌ねじ部21の挿入フランク面24との間には隙間が形成される。また、ピン10のシール面17がボックス20のシール面27と干渉しながら接触し、メタル接触によるシール部が形成される(図1参照)。
【0047】
図3及び図4を参照し、ねじ継手の縦断面において、雄ねじ頂面12は、第1角部12aを介して雄ねじ部11の荷重フランク面15につながる。第1角部12aは半径がR1の円弧からなる。雄ねじ頂面12は、第2角部12bを介して雄ねじ部11の挿入フランク面14につながる。第2角部12bは半径がR2の円弧からなる。雄ねじ底面13は、第1隅部13aを介して雄ねじ部11の荷重フランク面15につながる。第1隅部13aは半径がR3の円弧からなる。雄ねじ底面13は、第2隅部13bを介して雄ねじ部11の挿入フランク面14につながる。第2隅部13bは半径がR4の円弧からなる。
【0048】
第1角部12aの半径R1はねじ高さHの5%以上35%以下である。第2角部12bの半径R2はねじ高さHの15%以上50%以下である。第1隅部13aの半径R3はねじ高さHの15%以上50%以下である。第2隅部13bの半径R4がねじ高さHの5%以上35%以下である。
【0049】
さらに、雄ねじ部11の荷重フランク面15の管軸CLに垂直な方向の高さLSHが雄ねじ部11のねじ高さHの30%以上70%以下である。雄ねじ部11の挿入フランク面14の管軸CLに垂直な方向の高さSSHが雄ねじ部11のねじ高さHの30%以上70%以下である。ここで、荷重フランク面高さLSHは、管軸CLに垂直な面に荷重フランク面15を投影したときの径方向の高さ(距離)と読み替えられる。挿入フランク面高さSSHは、管軸CLに垂直な面に挿入フランク面14を投影したときの径方向の高さ(距離)と読み替えられる。
【0050】
ねじ継手の縦断面において、雄ねじ頂面12は凸の曲線からなる。この曲線は、第1角部12aを形成する半径R1の円弧を含む仮想の第1円C1と、第2角部12bを形成する半径R2の円弧を含む仮想の第2円C2と、の両方に正接する。図3及び図4には、ねじ頂面12を形成する曲線が円弧である例が示される。具体的には、図3を参照し、第1角部12aを形成する円弧を含む仮想の第1円C1を描く。第2角部12bを形成する円弧を含む仮想の第2円C2を描く。そして、雄ねじ頂面12に隣接するとともに仮想の第1円C1と仮想の第2円C2との両方に接する仮想の直線Cを描く。このとき、仮想の直線Cと、雄ねじ頂面12を形成する曲線と、の管軸CLに垂直な方向の距離のうちの最大距離bが0.1mm~0.3mmである。
【0051】
例えば、設計上では、雄ねじ部11においてねじ高さHが定められる。第1実施形態の場合、雄ねじ底面13は、管軸CLから所定のテーパ角で傾いた線A上にある。この線Aを管軸CLから遠ざかる方向にねじ高さHだけ平行移動させる。平行移動された線B上に、凸の雄ねじ頂面12が接する。この線Bを管軸CLに近づく方向に所定の距離(最大距離b)だけ平行移動させる。平行移動された線Cが上記の仮想の直線である。第1実施形態の場合、仮想の直線Cは管軸CLから所定のテーパ角で傾いている。この直線Cと荷重フランク面15との両方に接する円C1が上記の仮想の第1円である。その直線Cと挿入フランク面14との両方に接する円C2が上記の仮想の第2円である。そして、線Bに接するとともに、第1円C1と第2円C2との両方に正接するように、ねじ頂面12が定められる。さらに、荷重フランク面15とねじ頂面12とをつなぐ第1円C1の円弧が第1角部12aとなる。挿入フランク面14とねじ頂面12とをつなぐ第2円C2の円弧が第2角部12bとなる。
【0052】
図4を参照し、ピン10の雄ねじ部11の表面に固体潤滑被膜30が形成される。固体潤滑被膜30は、塗布時には流動性を有し、塗布後に硬化処理を施されて固化するものである。固体潤滑被膜30の固化に先立ち、雄ねじ頂面12に塗布された半固体の潤滑剤の不用意な流動が抑えられる。これは、雄ねじ頂面12の全体が平坦ではなくて、なだらかに盛り上がっていることと、半固体の潤滑剤に表面張力が作用することによる。そのため、雄ねじ頂面12において、半固体の潤滑剤の膜厚が分厚くならずに均一になり、固体潤滑被膜30の膜厚も均一になる。
【0053】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態の鋼管用ねじ継手におけるねじ部の領域を拡大した縦断面図である。第2実施形態のねじ継手は、上記した第1実施形態のねじ継手を変形したものである。以下、第1実施形態のねじ継手と重複する構成についての説明は省略する。後述する第3実施形態でも同様とする。
【0054】
図5を参照し、ねじ継手の縦断面において、雌ねじ底面23は、雄ねじ頂面12に対応するように凹の曲線からなる。つまり、雌ねじ底面23はなだらかに凹んでいる。このような構成であっても、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0055】
[第3実施形態]
図6は、第3実施形態の鋼管用ねじ継手におけるねじ部の領域を拡大した縦断面図である。図7は、図6に示す雄ねじ部の固体潤滑被膜が形成される前の縦断面図である。
【0056】
図6及び図7を参照し、ねじ継手の縦断面において、雄ねじ頂面12は凸の曲線からなる。雄ねじ底面13、雌ねじ頂面22及び雌ねじ底面23は、それぞれ直線からなる。ただし、第3実施形態では、ねじ継手の縦断面において、雄ねじ底面13は管軸CLと平行である。雌ねじ頂面22も管軸CLと平行である。雌ねじ底面23も管軸CLと平行である。
【0057】
例えば、設計上では、雄ねじ部11において、挿入フランク面14側のねじ高さHSと、荷重フランク面15側のねじ高さHLが定められる。第3実施形態の場合、挿入フランク面14側のねじ高さHSに基づいて雄ねじ部11が設計される。雄ねじ底面13は、管軸CLと平行な線A’上にある。この線A’を管軸CLから遠ざかる方向に挿入フランク面14側のねじ高さHSだけ平行移動させる。平行移動された線B’上に、凸の雄ねじ頂面12が接する。この線B’を管軸CLに近づく方向に所定の距離(最大距離b)だけ平行移動させる。平行移動された線C’が上記の仮想の直線である。第3実施形態の場合、仮想の直線C’は管軸CLと平行である。この直線C’と荷重フランク面15との両方に接する円C1が上記の仮想の第1円である。その直線C’と挿入フランク面14との両方に接する円C2が上記の仮想の第2円である。そして、線B’に接するとともに、第1円C1と第2円C2との両方に正接するようにねじ頂面12が定められる。さらに、荷重フランク面15とねじ頂面12とをつなぐ第1円C1の円弧が第1角部12aとなる。挿入フランク面14とねじ頂面12とをつなぐ第2円C2の円弧が第2角部12bとなる。
【0058】
このような構成であっても、第1実施形態と同様の効果を奏する。なお、第2実施形態のように、ねじ継手の縦断面において、雌ねじ底面23は、雄ねじ頂面12に対応するように凹の曲線からなってもよい。
【実施例
【0059】
本実施形態による効果を確認するため、有限要素法による数値シミュレーション解析を実施し、雄ねじ部に塗布された半固体の潤滑剤の膜厚を調査した。
【0060】
[試験条件]
FEM解析のモデルとして、図3に示す第1実施形態の雄ねじ部を用い、ねじ高さHを種々変更した。試験No.1のモデルは比較例であり、雄ねじ頂面の縦断面形状が直線であった。試験No.2及び3はそれぞれ実施例1及び2であり、雄ねじ頂面の縦断面形状が単一の円弧であった。共通の条件は下記のとおりである。
【0061】
・ねじピッチ:5TPI(1インチあたりのねじ山の数が5つ)
・ねじ山幅:ピッチライン上で2.48mm
・ねじテーパ:6.25%(テーパ角:約1.8°)
・荷重フランク面のフランク角:-3°
・挿入フランク面のフランク角:10°
・荷重フランク面高さLSH:0.82mm
・挿入フランク面高さSSH:0.86mm
・第1角部の半径R1:0.35mm
・第2角部の半径R2:0.76mm
・第1隅部の半径R3:0.35mm
・第2隅部の半径R4:0.15mm
【0062】
FEM解析では、雄ねじ部及び固化前の潤滑剤を平面ひずみ要素でモデル化したものを使用した。雄ねじ部は弾性体とし、その縦弾性係数を210GPaとした。固化前の潤滑剤は流動性のある粘塑性流体とした。具体的には、固化前の潤滑剤に関し、粘性係数は200センチストークスとし、質量密度は1.0×10-6kg/mm3とし、表面張力は22m(ミリ)N/mとした。試験No.1~3のいずれでも、同量の粘塑性流体をスプレー塗布し、均一な初期膜厚を与えた。初期膜厚は0.1mmとした。この状態から、表面張力と粘性による流動の解析を行い、実際にほぼ流動が停止する100秒経過後の膜厚を調査した。なお、雄ねじ頂面につながる第1角部及び第2角部で焼付きを生じないとする膜厚の下限は0.012mmとした。
【0063】
[評価方法]
雄ねじ頂面での最大膜厚を抽出した。さらに、第1角部及び第2角部での最小膜厚を抽出した。そして、両角部での最小膜厚に対する雄ねじ頂面での最大膜厚の比(以下、「膜厚比」ともいう)を算出し、膜厚の均一さを評価した。膜厚比が小さいほど膜厚が均一であることを意味する。結果は下記の表1のとおりである。
【0064】
【表1】
【0065】
[試験結果]
表1に示す結果から、次のことが示される。実施例1及び2の膜厚比は比較例の膜厚比よりも小さかった。したがって、実施例1及び2のねじ継手により固体潤滑剤の膜厚を均一にできた。また、比較例の角部の最小膜厚は、焼付きを生じないとする膜厚下限と同等であった。これに対し、実施例1及び2の角部の最小膜厚は、その膜厚下限に対して余裕があった。これは、実施例1及び2では潤滑剤の塗布量を低減できることを意味する。
【0066】
その他、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、ねじ継手の形式は、カップリング型及びインテグラル型のいずれでも構わない。ショルダ部の設置場所、設置数等は特に限定されない。メタル接触によるシール部が設けられる場合、その設置場所、設置数等は限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のねじ継手は、油井管として用いる鋼管の連結に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0068】
10 ピン
11 雄ねじ部
12 ねじ頂面
12a 第1角部
12b 第2角部
13 ねじ底面
13a 第1隅部
14b 第2隅部
14 挿入フランク面
15 荷重フランク面
16 ショルダ部
17 シール面
20 ボックス
21 雌ねじ部
22 ねじ頂面
23 ねじ底面
24 挿入フランク面
25 荷重フランク面
26 ショルダ部
27 シール面
30 固体潤滑被膜
CL 管軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7