(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】関節動作状況における複数象限カップリングによる2足ロボットのデジタル油圧駆動方法
(51)【国際特許分類】
B25J 5/00 20060101AFI20220121BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
B25J5/00 F
B25J5/00 E
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2021521815
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 CN2020115592
(87)【国際公開番号】W WO2021077950
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2021-04-14
(31)【優先権主張番号】202010226464.X
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521162399
【氏名又は名称】之江実験室
(74)【代理人】
【識別番号】100128347
【氏名又は名称】西内 盛二
(72)【発明者】
【氏名】▲謝▼ 安桓
(72)【発明者】
【氏名】成 利波
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 丹
(72)【発明者】
【氏名】朱 世▲強▼
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-274142(JP,A)
【文献】特表2017-522195(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0233279(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105686930(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102378669(CN,A)
【文献】ウッディサード ロードマイ,”階段昇降可能な無動力油圧循環システムを有する大腿義足”,第31回日本ロボット学会学術講演会,RSJ2013AC1K3-02
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
G05D 3/00- 3/20
A61H 1/00- 5/00
A61F 2/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節動作状況における複数象限カップリングによる2足ロボットのデジタル油圧駆動方法であって、
2足ロボットの構成及び歩振りに基づいて順運動学と動力学モデルを構築し、腿・足部の位置及び関節の受力状況に応じてロボットの腿部油圧関節運動の有限状態機械を設計し、各油圧関節の負荷、運動状態及び変化規則を取得し、これに基づいて各油圧関節に対応する運動動作状況グラフを構築するステップ(1)と、
各時刻のすべての動作状況グラフの複数象限カップリング併存特徴を分析して、デジタル油圧システムの圧力と流量の分布を取得し、前記油圧システムの圧力と流量の分布に基づいて、2足ロボット油圧システムの総エネルギー効率値を説明する無次元コスト関数を構築し、ロボット制御における前記2足ロボットの総エネルギー効率値に対応する重みを設定するステップ(2)と、
対応する重みに基づいて各油圧シリンダに対応するデジタルバルブ群の動作モードをマッチングし、油圧シリンダを駆動して動作させ、ロボットを制御して運動させるステップ(3)と、を含むことを特徴とする2足ロボットのデジタル油圧駆動方法。
【請求項2】
ステップ(1)における運動動作状況グラフは油圧シリンダの負荷状態、デジタル油圧バルブの動作モード及びそれらのマッピング関係を含むことを特徴とする請求項1に記載の2足ロボットのデジタル油圧駆動方法。
【請求項3】
前記油圧シリンダの負荷状態は、速度-負荷座標系において、第1象限から第4象限までの負荷状態がそれぞれ負の負荷、正の負荷、負の負荷、正の負荷として示され、前記デジタル油圧バルブの動作モードは、それぞれ通常、浮動、再生、回収の4つのモードに分けられることを特徴とする請求項2に記載の2足ロボットのデジタル油圧駆動方法。
【請求項4】
前記ロボットの腿部油圧関節運動の有限状態機械は、離地瞬間状態、足部離地状態、腿部を前に振る状態、離地最高点状態、腿部を後に振る状態、着地瞬間状態、圧縮減速状態、伸展加速状態を含むことを特徴とする請求項1に記載の2足ロボットのデジタル油圧駆動方法。
【請求項5】
ステップ(2)における総エネルギー効率値の無次元コスト関数は、次の式のとおりであり、
【数1】
P(t)が油圧システムの総電力であり、nが油圧シリンダの数であり、P
Li(t)がi番目の油圧シリンダの仕事電力であり、P
wi(t)がi番目の油圧シリンダに対応する散逸電力であり、該油圧シリンダに対応するパイプラインシステムの損失及びアクチュエータの損失を含み、η
pが油圧ポンプの総効率値であることを特徴とする請求項1に記載の2足ロボットのデジタル油圧駆動方法。
【請求項6】
各デジタルバルブ群は4つの高速スイッチ型のデジタル油圧バルブによって構成され、ロードポート独立制御技術を用いることを特徴とする請求項1に記載の2足ロボットのデジタル油圧駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2足ロボットの油圧駆動分野に関し、特に関節動作状況における複数象限カップリングによる2足ロボットのデジタル油圧駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2足ロボットはその独特のヒトのような構造及び運動方式により、柔軟性、環境適応性等の性能において優れた表現を有するが、一方で、ロボット全体の機動性、バランス、ロバスト性等に対して極めて高い要求を提出し、それにより2足ロボットが足型ロボット分野の人気スポット及び難点となった。効率的、高精度、軽量の駆動システムは2足ロボットの重要な技術の1つである。電気駆動技術に比べて、油圧駆動はパワー密度が高く、出力が大きく、直線運動を実施しやすいという多くの優位性を有し、現在ロボットの高機動性を実現する最適な選択の1つである。
【0003】
油圧駆動システムは2足ロボットに広く応用されているが、そのエネルギー消費は常に油圧駆動型の足型ロボットの開発及び応用を制限する主なボトルネックでした。現在、世界では、最も高い油圧駆動レベルの1つを有する4足ロボットであるBigDogのエネルギー効率値(Cost of Transport、CoT=P/mv、)が15と高く、同種類の生物のエネルギー効率レベルより遥かに高く、これは、油圧駆動型の脚・足型ロボットのエネルギー効率の向上に余地があることを示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の2足ロボットの油圧システムはエネルギー消費が大きく、エネルギー効率値が小さいという問題に対して、関節動作状況における複数象限カップリングによる2足ロボットのデジタル油圧駆動方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は以下の技術案によって実現される。
【0006】
関節動作状況における複数象限カップリングによる2足ロボットのデジタル油圧駆動方法であって、
2足ロボットの構成及び歩振りに基づいて順運動学と動力学モデルを構築し、腿・足部の位置及び関節の受力状況に応じてロボットの腿部油圧関節運動の有限状態機械を設計して、各油圧関節の負荷、運動状態及び変化規則を取得し、これに基づいて各油圧関節に対応する運動動作状況グラフを構築するステップ(1)と、
【0007】
各時刻のすべての動作状況グラフの複数象限カップリング併存特徴を分析して、デジタル油圧システムの圧力と流量の分布を取得し、前記油圧システムの圧力と流量の分布に基づいて、2足ロボット油圧システムの総エネルギー効率値を説明する無次元コスト関数を構築し、ロボット制御における前記2足ロボットの総エネルギー効率値に対応する重みを設定するステップ(2)と、
【0008】
対応する重みに基づいて各油圧シリンダに対応するデジタルバルブ群の動作モードをマッチングし、油圧シリンダを駆動して動作させ、ロボットを制御して運動させるステップ(3)と、
を含む2足ロボットのデジタル油圧駆動方法。
【0009】
更に、ステップ(1)における運動動作状況グラフは油圧シリンダの負荷状態、デジタル油圧バルブの動作モード及びそれらのマッピング関係を含む。
【0010】
更に、前記油圧シリンダの負荷状態は速度-負荷座標系において、第1象限から第4象限までの負荷状態がそれぞれ負の負荷、正の負荷、負の負荷、正の負荷として示され、前記デジタル油圧バルブの動作モードがそれぞれ通常、浮動、再生、回収の4つのモードに分けられる。
【0011】
更に、前記ロボット腿部運動の有限状態機械には、離地瞬間状態、足部離地状態、腿部を前に振る状態、離地最高点状態、腿部を後に振る状態、着地瞬間状態、圧縮減速状態、伸展加速状態を含む。
【0012】
更に、ステップ(2)における総エネルギー効率値の無次元コスト関数は、次の式のとおりである。
【数1】
P(t)が油圧システムの総電力であり、nが油圧シリンダの数であり、P
Li(t)がi番目の油圧シリンダの仕事電力であり、P
wi(t)がi番目の油圧シリンダに対応する散逸電力であり、該油圧シリンダに対応するパイプラインシステムの損失及びアクチュエータの損失を含み、η
pが油圧ポンプの総効率値である。
【0013】
更に、各デジタルバルブ群は4つの高速スイッチ型のデジタル油圧バルブによって構成され、ロードポート独立制御技術を用いる。
【発明の効果】
【0014】
従来技術に比べて、本発明は以下の有益な効果を有する。本発明のデジタル油圧駆動方法は2足ロボットの油圧関節負荷及び運動状態の循環往復特徴、並びに関節動作状況に複数の象限が同時にカップリングされる特徴が存在することを十分に考慮して、グローバル角度からデジタル油圧バルブ群の動作モードのマッチングを最適化し、負仕事関節エネルギーを吸収し、正仕事関節エネルギーの補給を減少し、スロットル、オーバーフロー等の油圧パイプラインシステムのエネルギー損失を減少し、それにより2足ロボットのデジタル油圧関節を効率的に駆動するという目的を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は2足ロボットの腿部運動の有限状態機械を示す図である。
【
図2】
図2は2足ロボットの油圧関節の負荷状態を示す図である。
【
図3】
図3はプログラマ可能なデジタルバルブの動作モードを列挙する図である。
【
図4】
図4は2足ロボットの腿部関節の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の目的及び効果がより明確になるように、図面を参照しながら好適な実施例によって本発明を詳しく説明する。理解されるように、ここで説明される具体的な実施例は本発明を解釈するためのものであって、本発明を制限するためのものではない。
【0017】
本発明は関節動作状況における複数象限カップリングによる2足ロボットのデジタル油圧駆動方法を提供し、具体的に以下のステップを含む。
【0018】
(1)2足ロボットの構成及び歩振りに基づいて順運動学と動力学モデルを構築し、腿・足部の位置及び関節の受力状況に応じてロボット腿部油圧関節運動の有限状態機械を設計し、人間が歩く歩振りを模擬する。設計された有限状態機械が
図1に示され、離地瞬間状態、足部離地状態、腿部を前に振る状態、離地最高点状態、腿部を後に振る状態、着地瞬間状態、圧縮減速状態、伸展加速状態を含む。各油圧関節の負荷、運動状態及び変化規則を取得し、これに基づいて各油圧関節に対応する運動動作状況グラフを構築する。前記運動動作状況グラフには油圧シリンダの負荷状態、デジタル油圧バルブの動作モード及びそれらのマッピング関係を含む。
図2に示すように、前記油圧シリンダの負荷状態は、速度v
c-負荷F
L座標系において、第1象限から第4象限までの負荷状態がそれぞれ負の負荷、正の負荷、負の負荷、正の負荷として示され、
図3に示すように、前記デジタル油圧バルブの動作モードは油圧シリンダの両側の受力及び流量方向によって通常、浮動、再生、回収の4つのモードに分けられる。負の負荷状態に対応するデジタル油圧バルブの動作モードは通常及び再生の2つのモードがあり、正の負荷状態に対応するデジタル油圧バルブの動作モードは通常、浮動、再生、回収の4つのモードがある。通常モードとは、給油オイルがすべて外部油ダクトから由来し、戻りオイルが直接油タンクに戻ることを意味し、浮動モードとは、すべての給油オイルが油タンク及び外部油ダクトを通過せずに戻りオイルからのものであることを意味し、再生モードとは、ロッドキャビティ内のすべてのオイルがロッドレスキャビティに入り又はロッドレスキャビティから由来し、不足又は余分な油圧作動油がすべて外部油ダクトにより補充又は回収されることを意味し、回収モードとは、回収された高圧オイルが外部油ダクトに戻り、給油された低圧オイルがすべて油タンクから由来することを意味する。
【0019】
(2)各時刻のすべての動作状況グラフの複数象限カップリング併存特徴を分析して、デジタル油圧システムの圧力と流量の分布を取得する。前記油圧システムの圧力と流量の分布に基づいて、2足ロボット油圧システムの総エネルギー効率値を説明する無次元コスト関数を構築し、前記2足ロボットの総エネルギー効率値に対応する重みを設定する。前記無次元コスト関数はグローバル関節油圧シリンダの正の負荷及び負の負荷の分布状況、並びにパイプラインシステム及び実行システムによる電力損失を計算し、システムが外部油圧エネルギーの入力及び油圧作動油流量トポロジー構造の最適解を必要とするかどうかを決定する。
【0020】
【数2】
P(t)が油圧システムの総電力であり、nが油圧シリンダの数であり、P
Li(t)がi番目の油圧シリンダの仕事電力であり、P
wi(t)がi番目の油圧シリンダに対応する散逸電力であり、該油圧シリンダに対応するパイプラインシステムの損失及びアクチュエータの損失を含み、η
pが油圧ポンプの総効率値である。
【0021】
多目的最適化配置戦略は無次元コスト関数を基に、エネルギー効率値及びシステムのロバスト性、安定性、迅速性のバランスをまとめて考慮して、グローバルデジタルバルブ群に多目的最適化の動作モード配置戦略を構築し、対応する重みを取得する。
【0022】
(3)対応する重みに基づいて各油圧シリンダに対応するデジタルバルブ群の動作モードをマッチングし、油圧シリンダを駆動して動作させ、ロボットを制御して運動させる。各デジタルバルブ群は4つの高速スイッチ型のデジタル油圧バルブによって構成され、ロードポート独立制御技術を用いて油圧シリンダの張力及び流量をデカップリングすることにより、油圧シリンダの動作モードを柔軟に切り替えることができる。
【実施例】
【0023】
図4は代表的な2足ロボットの腿部構造を示す図であり、その左右の2つの腿はそれぞれ6つの自由度を有し、合計で少なくとも12個の油圧関節がある。本実施例は両側の膝関節を例として説明する。
【0024】
まず、ロボットの通常歩行歩振りに対して運動学と動力学分析を行う。腿部が着地瞬間から圧縮減速段階まで、膝関節は湾曲減速状態にあり、油圧シリンダは
図2における第2象限の正の負荷状態にあり、外部に対して負の仕事をし、伸展加速から離地瞬間まで、膝関節は伸展加速段階にあり、油圧シリンダは
図2における第1象限の負の負荷にあり、外部に対して正の仕事をし、足部離地から腿部を前に振る段階まで、膝関節は伸展減速段階にあり、油圧シリンダは
図2における第4象限の正の負荷にあり、外部に対して負の仕事をし、離地最高点から腿部を後に振る段階まで、膝関節は湾曲加速状態にあり、油圧シリンダは第3象限にあり、外部に対して正の仕事をする。
【0025】
着地瞬間から離地瞬間まで、ロボットの腿部は常に地面に接触しており、大きな負荷をかける必要があり、油圧シリンダに対応するデジタルバルブ群の動作モードを
図3における第2象限の再生、回収及び第1象限の通常、再生としてもよい。足部離地から腿部を後に振る段階まで、ロボットの腿部は地面に接触しておらず、膝関節油圧シリンダは下腿以下の部分の慣性を克服して仕事をするだけでよく、負荷がより小さく、対応するデジタルバルブ群の動作モードは
図3における第4象限の浮動、再生及び第3象限の通常であってもよい。
【0026】
本実施例では、2足膝関節の運動及び負荷状態のみを考慮して、油圧パイプラインのエネルギー損失及び油圧ポンプの効率等の要素を考慮しないため、最適化目的がより少なく、片側の膝関節の回収又は再生した後の余分な油圧エネルギーを他側の膝関節に容易に輸送することができ、これにより、2足ロボットの腿部油圧関節の効率的な省エネ駆動を実現する。
【0027】
当業者であれば理解されるように、以上の説明は本発明の簡単な実施例であって、本発明を制限するためのものではない。本発明の趣旨や原則内に行った修正や等価置換等はいずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。