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特許7012923立方晶窒化硼素焼結体、およびそれを含む切削工具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体、およびそれを含む切削工具
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/16 20060101AFI20220121BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20220121BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20220121BHJP
   C04B 35/5831 20060101ALI20220121BHJP
   C04B 35/5835 20060101ALI20220121BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20220121BHJP
   C22C 29/08 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
C22C29/16 A
B23B27/14 B
B23B27/20
C04B35/5831
C04B35/5835
C22C1/05 M
C22C29/08
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021572078
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2021028501
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2020130674
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 顕人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 勇一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
(72)【発明者】
【氏名】朝川 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】植田 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
(72)【発明者】
【氏名】濱 久也
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-207688(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092369(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/16
C04B 35/5831
C04B 35/5835
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
70体積%以上100体積%未満の立方晶窒化硼素と、結合材とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合材は、第1材料と第2材料とを含み、
前記第1材料は、タングステン、コバルトおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素を含む1または2以上の第1化学種であって、
前記第1化学種は、金属、合金、金属間化合物、化合物または固溶体であり、
前記第2材料は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルおよびクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2金属元素を含む1または2以上の第2化学種であって、
前記第2化学種は、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する固溶体であり、
前記第2化学種は、アルミニウムが0.1原子%以上10原子%以下固溶し、
前記第2材料は、1μm以下の平均粒径を有する粒子である、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記第2化学種は、アルミニウムが0.1原子%以上7原子%以下固溶している、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記第2化学種は、アルミニウムが0.1原子%以上5原子%以下固溶している、請求項1または請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
X線回折法を用いて前記立方晶窒化硼素焼結体のX線回折強度を測定し、その結果を示した、横軸を2θとし、縦軸を相対強度とするグラフにおいて、
前記立方晶窒化硼素焼結体は、前記立方晶窒化硼素の(111)面における前記相対強度のピークをIBNとし、前記第2材料の(111)面における前記相対強度のピークをIaとした場合、
0.001≦Ia/IBN≦0.3の関係式を満たす、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
X線回折法を用いて前記立方晶窒化硼素焼結体のX線回折強度を測定し、その結果を示した、横軸を2θとし、縦軸を相対強度とするグラフにおいて、
前記立方晶窒化硼素焼結体は、前記立方晶窒化硼素の(111)面における前記相対強度のピークをIBNとし、前記第2材料の(111)面における前記相対強度のピークをIaとした場合、
0.01≦Ia/IBN≦0.2の関係式を満たす、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項6】
前記第1化学種は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロムおよびモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第3金属元素が10原子%超過50原子%以下固溶している、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項7】
前記第1化学種は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロムおよびモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第3金属元素が20原子%以上45原子%以下固溶している、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項8】
前記第1化学種は、固溶体であって、
前記第1化学種は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素が0.1原子%以上10原子%以下固溶している、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項9】
前記第2化学種は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素が0.1原子%以上5原子%以下固溶している、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項10】
前記第1化学種は、固溶体であって、
前記第1化学種は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素が0.2原子%以上5原子%以下固溶し、
前記第2化学種は、前記第4金属元素が0.2原子%以上3原子%以下固溶している、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項11】
前記立方晶窒化硼素焼結体は、酸素を1.5質量%以下含む、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項12】
前記立方晶窒化硼素焼結体は、酸素を0.7質量%以下含む、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項13】
前記立方晶窒化硼素焼結体は、前記立方晶窒化硼素を80体積%以上95体積%以下含む、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体を含む、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化硼素焼結体、およびそれを含む切削工具に関する。本出願は、2020年7月31日に出願した日本特許出願である特願2020-130674号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
切削工具等に用いられる高硬度材料として、立方晶窒化硼素焼結体(以下、「cBN焼結体」とも記す)がある。cBN焼結体は、通常、立方晶窒化硼素粒子(以下、「cBN粒子」とも記す)と結合材とからなり、cBN粒子の含有割合によってその特性が異なる傾向がある。
【0003】
このため切削加工の分野においては、被削材の材質、要求される加工精度等によって、切削工具に適用されるcBN焼結体の種類が使い分けられる。たとえば、立方晶窒化硼素(以下、「cBN」とも記す)の含有割合の高いcBN焼結体(以下、「High-cBN焼結体」とも記す)は、焼結合金等の切削に好適に用いることができる。
【0004】
しかしHigh-cBN焼結体は、突発的な欠損が発生しやすい傾向がある。これは、cBN粒子同士の結合力が弱く、cBN粒子が脱落してしまうことに起因すると考えられる。たとえば、国際公開第2005/066381号(特許文献1)は、結合材の適切な選択により、High-cBN焼結体における突発的な欠損の発生を抑制する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/066381号
【発明の概要】
【0006】
本開示の一態様に係る立方晶窒化硼素焼結体は、70体積%以上100体積%未満の立方晶窒化硼素と、結合材とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、上記結合材は、第1材料と第2材料とを含み、上記第1材料は、タングステン、コバルトおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素を含む1または2以上の第1化学種であって、上記第1化学種は、金属、合金、金属間化合物、化合物または固溶体であり、上記第2材料は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルおよびクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2金属元素を含む1または2以上の第2化学種であって、上記第2化学種は、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する固溶体であり、上記第2化学種は、アルミニウムが0.1原子%以上10原子%以下固溶し、上記第2材料は、1μm以下の平均粒径を有する粒子である。
【0007】
本開示の一態様に係る切削工具は、上記立方晶窒化硼素焼結体を含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、機械部品の急速な高機能化に伴い、機械部品となる被削材の難削化が加速している。これに伴い、切削工具の短寿命化によるコスト増という問題が顕在化している。このため、High-cBN焼結体のさらなる改良が望まれる。この点に鑑み、本開示は、長寿命化を可能とする立方晶窒化硼素焼結体、およびそれを含む切削工具を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、長寿命化を可能とする立方晶窒化硼素焼結体、およびそれを含む切削工具を提供することができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、切削時に繰返しの発熱および急冷が刃先で起こることが、High-cBN焼結体において突発的な欠損が発生しやすい原因の一つであることを知見した。具体的には、繰返しの発熱および急冷によって刃先の表面が伸縮することに刃先の内部が追随できず、刃先の表面において熱亀裂が生じることによって突発的な欠損に至るのである。本発明者らは、上記知見に基づき、熱膨張係数がcBNに近い金属化合物粉末(後述する第2材料等)を他の結合材材料とともにcBN焼結体中に添加し、分散させることを想到した。さらに上記金属化合物粉末が切削時に亀裂の起点とならないように、上記金属化合物粉末の粒径を微細とすることにも想到した。これにより切削時において刃先の表面での熱亀裂の発生を抑制し、もって欠損に対する安定性を大幅に向上させることを実現し、本開示に到達した。以下、最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0011】
[1]本開示の一態様に係る立方晶窒化硼素焼結体は、70体積%以上100体積%未満の立方晶窒化硼素と、結合材とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、上記結合材は、第1材料と第2材料とを含み、上記第1材料は、タングステン、コバルトおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素を含む1または2以上の第1化学種であって、上記第1化学種は、金属、合金、金属間化合物、化合物または固溶体であり、上記第2材料は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルおよびクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2金属元素を含む1または2以上の第2化学種であって、上記第2化学種は、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する固溶体であり、上記第2化学種は、アルミニウムが0.1原子%以上10原子%以下固溶し、上記第2材料は、1μm以下の平均粒径を有する粒子である。このような特徴を有する立方晶窒化硼素焼結体は、切削工具に適用した場合に、該切削工具の長寿命化を実現することができる。
【0012】
[2]上記第2化学種は、アルミニウムが0.1原子%以上7原子%以下固溶していることが好ましい。これにより、上記切削工具の長寿命化をより十分に実現することができる。
【0013】
[3]上記第2化学種は、アルミニウムが0.1原子%以上5原子%以下固溶していることが好ましい。これにより、上記切削工具の長寿命化をより十分に実現することができる。
【0014】
[4]X線回折法を用いて上記立方晶窒化硼素焼結体のX線回折強度を測定し、その結果を示した、横軸を2θとし、縦軸を相対強度とするグラフにおいて、上記立方晶窒化硼素焼結体は、上記立方晶窒化硼素の(111)面における上記相対強度のピークをIBNとし、上記第2材料の(111)面における上記相対強度のピークをIaとした場合、0.001≦Ia/IBN≦0.3の関係式を満たすことが好ましい。これにより、上記切削工具の刃先強度の向上と優れた耐摩耗性とを両立させることができる。
【0015】
[5]X線回折法を用いて上記立方晶窒化硼素焼結体のX線回折強度を測定し、その結果を示した、横軸を2θとし、縦軸を相対強度とするグラフにおいて、上記立方晶窒化硼素焼結体は、上記立方晶窒化硼素の(111)面における上記相対強度のピークをIBNとし、上記第2材料の(111)面における上記相対強度のピークをIaとした場合、0.01≦Ia/IBN≦0.2の関係式を満たすことが好ましい。上記切削工具の刃先強度の向上と優れた耐摩耗性とをより十分に両立させることができる。
【0016】
[6]上記第1化学種は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロムおよびモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第3金属元素が10原子%超過50原子%以下固溶していることが好ましい。これにより、上記切削工具の耐欠損性を向上させることができる。
【0017】
[7]上記第1化学種は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロムおよびモリブデンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第3金属元素が20原子%以上45原子%以下固溶していることが好ましい。これにより、上記切削工具の耐欠損性を向上させることができる。
【0018】
[8]上記第1化学種は、固溶体であって、上記第1化学種は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素が0.1原子%以上10原子%以下固溶していることが好ましい。これにより、上記切削工具の耐欠損性を向上させることができる。
【0019】
[9]上記第2化学種は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素が0.1原子%以上5原子%以下固溶していることが好ましい。これにより、上記切削工具の耐欠損性を向上させることができる。
【0020】
[10]上記第1化学種は、固溶体であって、上記第1化学種は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素が0.2原子%以上5原子%以下固溶し、上記第2化学種は、上記第4金属元素が0.2原子%以上3原子%以下固溶していることが好ましい。これにより、上記切削工具の耐欠損性をより十分に向上させることができる。
【0021】
[11]上記立方晶窒化硼素焼結体は、酸素を1.5質量%以下含むことが好ましい。これにより、上記切削工具の耐欠損性を向上させることができる。
【0022】
[12]上記立方晶窒化硼素焼結体は、酸素を0.7質量%以下含むことが好ましい。これにより、上記切削工具の耐欠損性をより十分に向上させることができる。
【0023】
[13]上記立方晶窒化硼素焼結体は、上記立方晶窒化硼素を80体積%以上95体積%以下含むことが好ましい。これにより、cBNの含有量が極めて多い立方晶窒化硼素焼結体において、切削工具の長寿命化を実現することができる。
【0024】
[14]本開示の一態様に係る切削工具は、上記立方晶窒化硼素焼結体を含む。このような特徴を有する切削工具は、長寿命化を実現することができる。
【0025】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す)について説明する。ただし、本実施形態はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。さらに、本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0026】
〔立方晶窒化硼素焼結体(cBN焼結体)〕
本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体(cBN焼結体)は、70体積%以上100体積%未満の立方晶窒化硼素(cBN)と、結合材とを含むcBN焼結体である。上記結合材は、第1材料と第2材料とを含む。上記第1材料は、タングステン、コバルトおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素を含む1または2以上の第1化学種であって、上記第1化学種は、金属、合金、金属間化合物、化合物または固溶体である。上記第2材料は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルおよびクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2金属元素を含む1または2以上の第2化学種であって、上記第2化学種は、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する固溶体である。言い換えると上記第2化学種は、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種に他の元素が固溶した固溶体である。さらに上記第2化学種は、アルミニウムが0.1原子%以上10原子%以下固溶している。上記第2材料は、1μm以下の平均粒径を有する粒子である。このような特徴を有するcBN焼結体は、切削工具に適用した場合に、該切削工具の長寿命化を実現することができる。
【0027】
上記cBN焼結体は、酸素を1.5質量%以下含むことが好ましい。これにより従来のcBN焼結体に比べ、上記cBN焼結体中の酸素を含む脆弱相(例えばAl23相等)の含有量を十分に低減することができ、もって上記cBN焼結体を適用した切削工具において、耐欠損性を向上させることができる。
【0028】
上記cBN焼結体は、酸素を0.7質量%以下含むことがより好ましい。上記cBN焼結体における酸素の含有量の下限値は、理想値としての0質量%である。
【0029】
cBN焼結体における酸素の含有量(質量%)は、cBN焼結体に対して走査電子顕微鏡(SEM)付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いた組織観察、および元素分析等を実行することによって確認することができる。
【0030】
具体的には、まずcBN焼結体の任意の位置を切断し、cBN焼結体の断面を含む試料を作製する。上記断面は、集束イオンビーム装置、クロスセクションポリッシャ装置等を用いることにより作成することができる。次に、上記断面をSEMにて500倍で観察することにより反射電子像を得る。上記反射電子像に対してEDXによる元素分析を実行することにより、上記酸素の含有量(質量%)を定量することができる。ここで上記cBN焼結体における酸素の含有量(質量%)は、3視野の上記反射電子像に対し、上述したEDXによる元素分析によって得られた酸素の含有量(質量%)の値から平均値を求めることにより、当該平均値をcBN焼結体における酸素の含有量(質量%)とすることができる。cBN焼結体における酸素の含有量(質量%)は、酸素分析装置(商品名:「EMG950」、株式会社堀場製作所製)を用いても測定可能である。当該装置によりSEM付帯のEDXを用いた元素分析と同様な酸素の含有量の数値が得られるが、高精度であるという利点がある。
【0031】
<立方晶窒化硼素(cBN)>
本実施形態に係るcBN焼結体は、上述のように70体積%以上100体積%未満のcBNを含む。上記cBN焼結体は、上記cBNを80体積%以上95体積%以下含むことが好ましく、上記cBNを85体積%以上95体積%以下含むことがより好ましい。すなわち上記cBN焼結体は、いわゆるHigh-cBN焼結体である。ここで上記cBNは、0.1~10μmの平均粒径(D50)を有する立方晶窒化硼素粒子(以下、「cBN粒子」とも記す)であることが好ましい。上記cBN粒子は、硬度、強度、靱性が高く、cBN焼結体中の骨格としての役割を果たす。cBN焼結体におけるcBNの含有量(体積%)は、後述する混合粉末に用いられるcBN粉末の含有量(体積%)と実質的に同一の量となる。したがって、混合粉末に用いられるcBN粉末の含有量を制御することにより、cBN焼結体中のcBNの含有量を、所望の範囲に調製することができる。
【0032】
cBN焼結体におけるcBNの含有量(体積%)は、cBN焼結体に対し、誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP)による定量分析、走査電子顕微鏡(SEM)付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)または透過型電子顕微鏡(TEM)付帯のEDXを用いた組織観察、元素分析等を実行することによって確認することができる。
【0033】
たとえばSEMを用いた場合、次のようにしてcBNの含有量(体積%)を求めることができる。まずcBN焼結体の任意の位置を切断し、cBN焼結体の断面を含む試料を作製する。上記断面の作製は、集束イオンビーム装置、クロスセクションポリッシャ装置等を用いることができる。次に、上記断面をSEMにて2000倍で観察することにより反射電子像を得る。上記反射電子像において、cBNが存在する領域は黒色領域として、結合材が存在する領域は灰色領域または白色領域としてそれぞれ現れる。
【0034】
次に、上記反射電子像に対して画像解析ソフト(たとえば、三谷商事株式会社の「WinROOF」)を用いて二値化処理を行い、該二値化処理後の画像から各面積比率を算出する。次に上記面積比率が上記断面の奥行き方向にも連続するとみなすことにより、上記面積比率をcBN焼結体中のcBNの含有量(体積%)として求めることができる。なお、この測定方法によって後述する結合材の含有量(体積%)を同時に求めることができる。
【0035】
またcBN粒子の面積基準のD50(平均粒径)は特に限定されず、たとえば0.1~10μmとすることができる。通常、D50が小さい方がcBN焼結体の硬度が高くなる傾向があり、粒径のばらつきが小さい方が、cBN焼結体の性質が均質となる傾向がある。cBN粒子のD50は、0.5~4μmとすることが好ましい。
【0036】
cBN粒子のD50は次のようにして求められる。まず上述したcBN粒子の含有量の測定方法に準じてcBN焼結体の断面を含む試料を作製することにより、反射電子像を得る。次いで、上記の画像解析ソフトを用いて上記反射電子像中の各黒色領域の円相当径を算出する。この場合において、5視野以上を観察することによって100個以上のcBN粒子の円相当径を算出することが好ましい。
【0037】
次いで、各円相当径を最小値から最大値まで昇順に並べて累積分布を求める。累積分布において累積面積50%となる粒径がD50となる。なお円相当径とは、計測されたcBN粒子の面積と同じ面積を有する円の直径を意味する。
【0038】
<結合材>
本実施形態に係るcBN焼結体は、上述のように結合材を含む。上記結合材は、第1材料と第2材料とを含む。さらにcBN焼結体は、使用する原材料、製造条件等に起因する不可避不純物を含み得る。上記結合材の含有量(体積%)としては、0体積%超過30体積%以下であることが好ましく、5~20体積%であることがより好ましい。結合材は、難焼結性材料であるcBNを工業レベルの圧力温度で焼結可能とする役割を果たす。さらに結合材は、鉄との反応性がcBNより低いため、高硬度焼入鋼の切削において化学的および熱的な摩耗を抑制する役割も果たす。cBN焼結体が結合材を含有すると、高硬度焼入鋼の高能率加工における耐摩耗性が向上する。
【0039】
ここで上記cBN焼結体において含み得る不可避不純物としては、リチウム(Li)、炭素(C)、酸素(O)、硫黄(S)等が挙げられる。上記不可避不純物は、cBN焼結体中に不可避不純物の1種単独で0.5質量%以下含まれる場合があり、不可避不純物全体の総和として1質量%以下含まれる場合がある。本明細書において、cBN焼結体において含み得る「不可避不純物」については、cBNおよび結合材以外の第3成分として扱うものとする。
【0040】
(第1材料)
第1材料は、タングステン(W)、コバルト(Co)およびアルミニウム(Al)からなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素を含む1または2以上の第1化学種であって、上記第1化学種は、金属、合金、金属間化合物、化合物または固溶体である。第1材料は、具体的には炭化タングステン(WC)、Coを含む金属、Coを含む合金、Coを含む金属間化合物、Alを含む金属、Al化合物、ならびにこれらの金属、合金、金属間化合物および化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する固溶体である。第1材料は、より具体的には、炭化タングステン(WC)、金属Co、WC-Co固溶体、W-Co固溶体、金属Al、Al化合物としてのCoAl、Al23、AlNおよびAlB2、ならびにこれらの複合化合物、その他W2Co216、W3Co3C等が例示される。ここで本明細書においては、「CoAl」はAl化合物として扱うものとする。
【0041】
第1材料は、これを構成する第1化学種が、金属、合金、金属間化合物、化合物または固溶体である場合、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)からなる群より選ばれる少なくとも1種の第3金属元素が固溶している可能性がある。第1材料は、これを構成する第1化学種が、金属、合金、金属間化合物、化合物または固溶体である場合、上記第3金属元素が10原子%超過50原子%以下固溶していることが好ましい。すなわち第1材料を構成する第1化学種は、金属、合金、金属間化合物、化合物または固溶体であって、上記第1化学種は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、CrおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種の第3金属元素が10原子%超過50原子%以下固溶していることが好ましい。第1化学種は、上記第3金属元素が20原子%以上45原子%以下固溶していることがより好ましい。ここで本明細書において第1化学種に固溶している第3金属元素の含有量(固溶量、たとえば10原子%超過50原子%以下)は、第1化学種全体を100原子%とした場合の含有量を表すものである。後述する第4金属元素の含有量(固溶量)も同様に、第1化学種全体を100原子%とした場合の含有量を表すものである。
【0042】
第1材料は、これを構成する第1化学種において第3金属元素が上述した範囲の量で固溶していることにより、高強度となるので耐欠損性を向上させることができる。この場合、高強度焼結合金を断続切削にて加工するのに極めて好適となる。高強度焼結合金の断続切削は連続加工と比較し、結合材の機械的摩滅が顕著になることが知られる。上記機械的摩滅が進行すると、cBN同士の結合力も低下するため、加工中に切削工具に亀裂が発生し、刃先の欠損に至る可能性がある。本実施形態のcBN焼結体によれば、上述のように第1材料において第3金属元素を上述した範囲の量で固溶させて強靭化することにより、機械的摩滅が低減され、もって高強度焼結合金に対する長距離の切削加工が可能となる。
【0043】
第1材料は、上記第3金属元素の固溶量が10原子%以下である場合、後述する第4元素を固溶した場合と同じ効果を得ることができる。第1材料は、上記第3金属元素の固溶量が50原子%を超過する場合、被削材に対する耐摩耗性が低下する傾向がある。なお上記第3金属元素は、本開示の好ましい効果を得るための成分であるため、第1材料を構成する第1化学種に固溶する固溶量は、0原子%であってもよい。
【0044】
第1材料は、これを構成する第1化学種が固溶体である場合、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)からなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素が固溶している場合がある。第1材料は、これを構成する第1化学種が固溶体である場合、上記第4金属元素が0.1原子%以上10原子%以下固溶していることが好ましい。すなわち第1材料を構成する第1化学種は、固溶体であって、上記第1化学種は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素が0.1原子%以上10原子%以下固溶していることが好ましい。第1化学種は、上記第4金属元素が0.2原子%以上5原子%以下固溶していることがより好ましい。第1材料は、これを構成する第1化学種において第4金属元素が上述した範囲の量で固溶していることにより、高強度となるので耐欠損性を向上させることができる。
【0045】
第1材料は、上記第4金属元素の固溶量が0.1原子%未満である場合、上述した効果を十分に得ることができない傾向がある。第1材料は、上記第4金属元素の固溶量が10原子%を超過する場合、第4金属元素がWであるときを除いて上述した第3元素を固溶した場合と同じ効果を得ることができる。なお上記第4金属元素は、本開示の好ましい効果を得るための成分であるため、第1材料を構成する第1化学種に固溶する固溶量は、0原子%であってもよい。
【0046】
第1材料は、これを構成する第1金属元素であるW、Co、Al等の機能に基づいて上記cBN焼結体の長寿命化に特に有効と考えられる。第1に、CoおよびAlは触媒機能を有するため、後述の焼結工程において、cBN粒子同士の結合を促進することができる。第2に、Wは、結合材の熱膨張係数をcBN粒子の熱膨張係数に近づけるために有効と推察される。なお、上記の触媒機能とは、cBN粒子を構成するB(硼素)およびN(窒素)が、CoまたはAlを介して拡散したり、析出したりすることを促進する機能を意味する。
【0047】
(第2材料)
上記第2材料は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)およびクロム(Cr)からなる群より選ばれる少なくとも1種の第2金属元素を含む1または2以上の第2化学種であって、上記第2化学種は、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する固溶体である。さらに第2化学種は、アルミニウム(Al)が0.1原子%以上10原子%以下固溶している。第2化学種は、Alが0.1原子%以上7原子%以下固溶していることが好ましい。上記第2化学種は、Alが0.1原子%以上5原子%以下固溶していることがより好ましい。ここで本明細書において第2化学種に固溶しているAlの含有量(固溶量、たとえば0.1原子%以上10原子%以下)は、第2化学種全体を100原子%とした場合の含有量を表すものである。後述する第4金属元素の含有量(固溶量)も同様に、第2化学種全体を100原子%とした場合の含有量を表すものである。
【0048】
第2材料は、これを構成する第2化学種においてAlが上述した範囲の量で固溶することにより、高硬度となるので耐摩耗性を向上させることができる。第2材料は、Alの固溶量が0.1原子%未満である場合、上述した効果が十分に得られない傾向がある。一方、第2材料においてAlを10原子%を超過して固溶させることは、第2材料からAlNまたはAl23へ分解が進む傾向があるので、困難である。
【0049】
上記第2材料は、1μm以下の平均粒径を有する粒子である。これにより切削時に焼結体の機械的な摩耗の進行を抑制することができる。第2材料は、0.5μm以下の平均粒径を有する粒子であることが好ましく、0.3μm以下の平均粒径を有する粒子であることがより好ましい。第2材料の粒子の平均粒径の下限値は、特に制限されないが、たとえば0.05μmとすることができる。
【0050】
第2材料は、塩化ナトリウム型の結晶構造を有することが好ましい。これにより第2材料を高硬度とすることができ、もって耐摩耗性を向上させることができる。なお、第2材料が塩化ナトリウム型の結晶構造を有することは、X線回折法にて上記cBN焼結体のX線回折強度を測定し、その結果を、横軸を2θとし、縦軸を相対強度として表したグラフにおいて、塩化ナトリウム型のブラッグピークが20°から90°の範囲にて得られた際に確認することができる。
【0051】
第2材料の平均粒径の測定方法については、まずcBN焼結体からサンプルを採取し、アルゴンイオンスライサを用いて、上記サンプルから30~100nmの厚みの薄片化した切片を作製する。次いで、当該切片に対してSTEM(走査型透過電子顕微鏡、商品名:「JSM-7800F」、日本電子株式会社製)にて20000倍で観察し、さらにEDXによる元素マッピングを行うことによって第1金属元素が存する領域を特定する。次に、上記第1金属元素が存する領域を、観察倍率を10万倍に変更して観察することにより第2材料の粒子を捉える。さらに上記第2材料の粒子の外郭線上の任意の2点間を結ぶ線分のうち、最大となる線分の距離(以下、「2点間の最大距離」とも記す)を測定する。上記の操作を10視野において繰り返することにより、10点の2点間の最大距離を得る。この10点の値から平均値を求めることにより、当該平均値を第2粒子の平均粒径とすることができる。
【0052】
さらに第2材料は、これを構成する第2化学種において、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素が0.1原子%以上5原子%以下固溶していることが好ましい。上記第2材料は、これを構成する第2化学種において、上記第4金属元素が0.2原子%以上3原子%以下固溶していることがより好ましい。すなわち第2材料は、Alに加えて上記第4金属元素が所定量固溶していることが好ましい。これにより第2材料が高強度となるので耐欠損性を向上させることができる。
【0053】
第2材料は、上記第4金属元素の固溶量が0.1原子%未満である場合、上述した効果を十分に得ることができない傾向がある。第2材料は、上記第4金属元素の固溶量が10原子%を超過する場合、被削材に対する耐摩耗性が低下する傾向がある。なお上記第4金属元素は、本開示の好ましい効果を得るための成分であるため、第2材料を構成する第2化学種に固溶する固溶量は、0原子%であってもよい。さらに第1材料中に固溶する第4金属元素と、第2材料中に固溶する第4金属元素とは、上述した群より選ばれる同じ種類の金属元素であってもよく、異なる種類の金属元素であってもよい。
【0054】
<結合材の組成の測定方法>
結合材の組成は、XRD(X線回折測定)およびICPを組み合わせることによって特定することができる。具体的には、まずcBN焼結体から厚み0.45~0.5mm程度の試験片を切り出し、該試験片に対してXRD分析を実行することにより、X線回折ピークから化合物、金属等を定性的に特定する。次に、上記試験片を密閉容器内で弗硝酸(濃硝酸(60%):蒸留水:濃弗酸(47%)=2:2:1の体積比混合の混合酸)に浸漬することにより、結合材が溶解された酸処理液を得る。さらに該酸処理液に対してICP分析を実行し、各金属元素の定量分析を行う。最後に、XRDの結果およびICP分析の結果を解析することにより、結合材の組成を決定することができる。さらに結合材の詳細な組成(第1材料および第2材料の組成)については、次の方法により特定することができる。
【0055】
<TEM-EDXによる第1材料および第2材料の組成の特定ならびこれらを区別する方法>
上記結合材は、上述のように第1材料と第2材料とを含む。第1材料は、第1金属元素であるAlを含む金属、およびAl化合物の両方またはいずれか一方の第1化学種である場合があり、かつ上記第1化学種は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、CrおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種の第3金属元素が上述した範囲の量で固溶する金属、合金、金属間化合物、化合物または固溶体である場合、もしくはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素が上述した範囲の量で固溶する固溶体である場合がある。一方、第2材料は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、TaおよびCrからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2金属元素を含む1または2以上の第2化学種である。上記第2化学種は、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する固溶体であって、Alが上述した範囲の量で固溶している。さらに上記第2化学種は、上記Alに加えて、上記第4金属元素が固溶している場合がある。
【0056】
このように第1材料を構成する第1化学種と、第2材料を構成する第2化学種とは、構成元素の観点から比較した場合、窒素(N)および炭素(C)を含むか否かの点でのみ異なる場合がある。この場合において、第1化学種および第2化学種の組成の特定、およびこれらの区別は、上記cBN焼結体を、透過型電子顕微鏡付帯のエネルギー分散型X線分析装置(TEM-EDX)を用いて分析することにより行うことができる。具体的には、たとえば上記cBN焼結体においてcBN粒子同士が隣接することにより“cBN粒子/結合材層/cBN粒子”の構造が形成された領域(以下、「第1領域」とも記す)を対象とし、上記TEM-EDXを用いて元素分析することにより、第1化学種および第2化学種の組成の特定、およびこれらの区別を行うことができる。
【0057】
上記TEM-EDXによる分析では、まずcBN焼結体からサンプルを採取し、アルゴンイオンスライサを用いて、上記サンプルから30~100nmの厚みの薄片化した切片を作製する。次いで、当該切片をTEM(透過型電子顕微鏡)にて50000倍で観察することによって第1画像を得る。さらに第1画像中から上記第1領域を一つ任意に選択する。次に、選択された上記第1領域中のcBN粒子と結合材との界面を含む領域(以下、「界面領域」とも記す)が、画像の中央付近を通るように位置決めを行い、観察倍率を200万倍に変更して観察することにより、第2画像(100nm×100nm)を得る。上記第2画像において、上記界面領域は、画像の一端から画像の中央付近を通って、該一端に対向する他の一端(他端)に伸びるように存在することとなる。
【0058】
次に、第2画像に対してEDXによる元素マッピング分析を実行し、上記第1領域における各種の元素(遷移金属元素、その他の金属元素および非金属元素)の分布を分析する。この場合において上記の界面領域の形状に一致するように、B(硼素)およびN(窒素)の原子濃度が高い領域と、それ以外の領域とが観察される。BおよびNの原子濃度が高い領域は、cBN粒子の領域であるので、結合材の領域となるそれ以外の領域における元素マッピング分析をさらに進める。
【0059】
その結果、上記第2金属元素と、Alと、N(窒素)またはC(炭素)の少なくともいずれか一方との分布(各元素が存在することおよびその濃度)が確認された領域が、第2化学種が存する領域であると特定することができ、もって第2化学種の組成を特定することができる。第2化学種が存する領域では、上記第4金属元素の分布が確認される場合がある。一方、第1化学種が存する領域は、NおよびCの分布が確認されない領域として特定することができ、もって第1化学種の組成を特定することができる。さらに第1化学種が存する領域では、W、CoまたはAlの少なくともいずれかの金属元素とともに、上記第3金属元素または上記第4金属元素と、酸素、硼素等の非金属元素との分布が確認される場合がある。以上により、第1化学種および第2化学種の組成の特定、およびこれらの区別を行うことができる。なお、上記第1化学種に固溶する第3金属元素の原子濃度、上記第1化学種および第2化学種に固溶する第4金属元素の原子濃度、および第2化学種に固溶するAlの原子濃度は、それぞれ上記のEDXによる元素マッピング分析を5視野の第2画像に対して行うことにより得られた原子濃度の各値から平均値を求め、当該平均値を上記第3金属元素、第4金属元素またはAlの原子濃度とすることができる。
【0060】
<Ia/IBN
本実施形態に係るcBN焼結体は、X線回折法を用いた分析に基づいて次のような特徴を有することが好ましい。すなわちX線回折法を用いてcBN焼結体のX線回折強度を測定し、その結果を示した、横軸を2θとし、縦軸を相対強度とするグラフにおいて、上記cBN焼結体は、上記cBNの(111)面における上記相対強度のピークをIBNとし、上記第2材料の(111)面における上記相対強度のピークをIaとした場合、0.001≦Ia/IBN≦0.3の関係式を満たすことが好ましい。上記cBN焼結体は、上記cBNの(111)面における上記相対強度のピークをIBNとし、上記第2材料の(111)面における上記相対強度のピークをIaとした場合、0.01≦Ia/IBN≦0.2の関係式を満たすことがより好ましい。
【0061】
cBN焼結体のX線回折強度は、通常のX線回折装置で測定することができるため、装置および測定条件が特に限定されるべきではない。たとえば焼結体のX線回折強度は、X線回折装置(商品名(型番):「MiniFlex600」、株式会社リガク製、解析ソフト:「PDXL2」)を用いて測定することができる。測定条件は、たとえば次のとおりとすればよい。
【0062】
(X線回折強度の測定条件)
特性X線: Cu-Kα
管電圧: 40kV
管電流: 15mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ-2θ法
X線回折装置のスキャンスピード:5°/分、ステップ:0.02°、スキャン範囲:10~120°。
【0063】
ここで上記の解析から、上記cBN焼結が0.001≦Ia/IBN≦0.3の関係式を満たすことは、cBN焼結体においてcBNに対する第2材料の相対的な含有量比が0.001以上0.3以下であることを意味する。これによりcBN焼結体は、cBNに対して十分な量の第2材料を含むことができ、もってcBN焼結体を切削工具に適用した場合、該切削工具の刃先強度の向上と優れた耐摩耗性とを両立させることができる。一方、cBN焼結体におけるcBNと、第2材料との相対的な含有量比をX線回折強度の比で表わす理由は、次のとおりである。すなわち、上述したSEMおよびSTEMを用いた分析手法は、焼結体中の局所領域を分析する手法であって、1粒の粒子の組成分析、およびその粒径分析において優れるが、焼結体全体を対象とした焼結体中のcBNと第2材料の存在比率等の分析では、X線回折法を用いる手法がより正確な分析に適するからである。
【0064】
a/IBNが0.001未満である場合、cBNに対する第2材料の量が些少であるために、刃先強度の向上が不十分となる傾向がある。Ia/IBNが0.3を超過する場合、cBNに対する第2材料の量が過多であるために、耐摩耗性および耐欠損性を十分に得ることができない傾向がある。すなわち上述した関係式は、本実施形態のcBN焼結体が、焼結体中の第2材料の含有量をcBNの含有量と対比して適切な量に制御されているか否の指標とすることができる。上記cBN焼結体は、0.01≦Ia/IBN≦0.2の関係式を満たすことがより好ましく、0.05≦Ia/IBN≦0.1の関係式を満たすことがさらに好ましい。
【0065】
<作用>
本実施形態に係るcBN焼結体は、上述のように結合材として、第1材料と第2材料とを含む。上記第1材料は、W、CoおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素を含む1または2以上の第1化学種であって、上記第1化学種は、金属、合金、金属間化合物、化合物または固溶体である。上記第2材料は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、TaおよびCrからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2金属元素を含む1または2以上の第2化学種であって、上記第2化学種は、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する固溶体である。上記第2化学種は、アルミニウムが0.1原子%以上10原子%以下固溶している。さらに上記第2材料は、1μm以下の平均粒径を有する粒子である。この場合においてcBN焼結体は、以下の理由に基づいて、切削工具に適用した場合に該切削工具の長寿命化が可能となることが推察される。
【0066】
まず第2材料が、Ti、Zr、Hf、V、Nb、TaおよびCrからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2金属元素を含む1または2以上の第2化学種であって、上記第2化学種は、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する固溶体であることにより、これを熱膨張係数がcBNに近い金属化合物粉末として、他の結合材材料とともにcBN焼結体中に分散させることができる。これにより焼結体中の熱膨張係数のギャップが小さくなることで切削加工中に熱亀裂の起点ができにくく、耐欠損性が向上する。さらに第2化学種がAlを含むため、当該Alに基づく触媒機能も得ることができる。第2材料が1μm以下の平均粒径を有する粒子であることにより、切削時に機械的な摩耗の進行を抑制することができる。以上により本実施形態に係るcBN焼結体においては、これを切削工具に適用した場合、その切削時に刃先の表面での熱亀裂の発生を顕著に抑制することができると考えられる。これにより、欠損に対する安定性を大幅に向上することができる。
【0067】
さらに第1材料を構成する第1化学種に第3金属元素または第4金属元素を上述した範囲の量で固溶させたり、第2材料を構成する第2化学種に第4金属元素を上述した範囲の量で固溶させたりすることにより、上記切削工具の耐欠損性を向上させることができる。上記cBN焼結体が0.001≦Ia/IBN≦0.3の関係式を満たすことにより、刃先強度の向上と優れた耐摩耗性とを両立させることができる。以上より、本実施形態に係るcBN焼結体は、切削工具に適用した場合、該切削工具の長寿命化を可能とすることが推察される。
【0068】
〔切削工具〕
本実施形態に係る切削工具は、上記cBN焼結体を含む。具体的には、上記切削工具は、上記cBN焼結体を基材として含むことが好ましい。基材となるcBN焼結体の表面の一部または全部に対しては、被膜が被覆されていてもよい。
【0069】
本実施形態に係る切削工具の形状および用途は特に制限されない。たとえば上記切削工具の形状および用途は、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、クランクシャフトのピンミーリング加工用チップ等を挙げることができる。
【0070】
さらに本実施形態に係る切削工具は、工具の全体がcBN焼結体からなるもののみに限らず、工具の一部(特に刃先部位(切れ刃部)等)のみがcBN焼結体からなるものも含む。たとえば、超硬合金等からなる基体(支持体)の刃先部位のみがcBN焼結体で構成されるようなものも本実施形態に係る切削工具に含まれる。この場合、文言上、その刃先部位を切削工具とみなすことができる。換言すれば、cBN焼結体が切削工具の一部のみを占める場合であっても、cBN焼結体を切削工具と呼ぶものとする。
【0071】
本実施形態に係る切削工具は、上記刃先部位を少なくとも覆う被膜を含むことができる。この場合、従来公知の方法によりcBN焼結体における上記刃先部位に被膜を形成することができる。上記被膜を形成する方法は、たとえばイオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法およびイオンミキシング法などの物理蒸着法が挙げられる。さらに化学蒸着法によって被膜を形成することも可能である。上記被膜の組成は、特に限定されるべきではなく、従来公知の被膜を任意に採用することができる。たとえば被膜の組成としては、AlTiSiN、AlCrN、TiZrSiN、CrTaN、HfWSiN、CrAlN、TiN、TiBNO、TiCN、TiCNO、TiB2、TiAlN、TiAlCN、TiAlON、TiAlONC、Al23などを例示することができる。
【0072】
本実施形態に係る切削工具は、上記cBN焼結体を含むことから、切削時に熱亀裂の発生を顕著に抑制することができ、もって長寿命化が可能となる。
【0073】
〔立方晶窒化硼素焼結体の製造方法〕
本実施形態に係るcBN焼結体の製造方法については、切削工具に適用した場合に長寿命化を可能とする上述したようなcBN焼結体が得られる限り、特に制限されるべきではない。しかしながら歩留まり等の観点から、たとえば次の製造方法によりcBN焼結体を得ることが好ましい。本発明者らは、cBN焼結体を製造するプロセスにおいて、熱膨張係数がcBNに近い金属化合物粉末(第2材料原料粉末)を準備し、これを第1材料原料粉末およびcBN粉末と混合すること等によって、長寿命化が可能となるcBN焼結体を製造し得ることを知見した。
【0074】
具体的には、本実施形態に係るcBN焼結体の製造方法は、第1材料原料粉末、第2材料原料粉末およびcBN粉末を準備する工程(第1工程)と、上記第1材料原料粉末、第2材料原料粉末およびcBN粉末を混合することにより、70体積%以上100体積%未満のcBN粉末と、0体積%超過30体積%以下の結合材(第1材料および第2材料)とからなる混合粉末を調製する工程(第2工程)と、上記混合粉末を焼結することによりcBN焼結体を得る工程(第3工程)とを含むことが好ましい。以下、各工程について詳述する。
【0075】
<第1工程>
第1工程は、第1材料原料粉末、第2材料原料粉末およびcBN粉末を準備する工程である。まず第1材料原料粉末は、次のようにして準備することができる。たとえばWC粉末、Co粉末およびAl粉末を従来公知の方法で製造し、または市場から入手し、これらの粉末を所定の質量比率で混合する。上記の所定の質量比率とは、たとえば第1材料原料粉末中のAlの質量比が10質量%以上となるような比率とすることが、Alの第2材料を構成する第2化学種への固溶が促進される観点から好ましい。次に、これを真空下で熱処理(たとえば900~1300℃)することにより金属間化合物を得る。さらに上記金属間化合物を湿式のボールミル、湿式のビーズミル等で粉砕することにより、第1材料原料粉末を準備することができる。各粉末の混合方法は特に制限されないが、効率よく均質に混合する観点から、ボールミル混合、ビーズミル混合、遊星ミル混合、およびジェットミル混合などが好ましい。各混合方法は、湿式でもよく乾式でもよい。上記第1材料原料粉末の準備に関しては、WC粉末、Co粉末およびAl粉末を混合する際に、構成元素としてTi、Zr、V、Nb、Hf、Ta、CrおよびMoからなる群より選ばれる少なくとも1種の第3金属元素、またはTi、Zr、V、Nb、Hf、Ta、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素を含む金属粉末をさらに加えることができる。
【0076】
ここで上記第3金属元素または第4金属元素を第1材料中で固溶させる場合、上記第3金属元素または第4金属元素を含む金属粉末が添加された第1材料原料粉末に対し、表面処理を行うことが好ましい。第1材料原料粉末の表面処理としては、プラズマ処理またはアンモニア処理を挙げることができる。
【0077】
第1材料原料粉末の表面処理が、プラズマ処理である場合、プラズマ発生装置内において上記第1材料原料粉末をアルゴンを含むガス雰囲気に曝すことにより、第1材料原料粉末の表面をエッチングすることができる。第1材料原料粉末の表面処理は、アンモニア処理を実行する場合、所定の容器内において上記第1材料原料粉末をアンモニアを含むガス雰囲気に曝すことにより、第1材料原料粉末の表面をエッチングすることができる。これにより、後述する加圧加熱処理時に上記第3金属元素または第4金属元素を第1材料原料粉末中に微量固溶させることができる。
【0078】
上記第3金属元素または第4金属元素を第1材料中で多量に固溶させる場合、アトマイズ粉末を使用することができる。上記アトマイズ粉末とは、上記第3金属元素または第4金属元素として選ばれる1種と、第1材料として選ばれる1種(たとえばCo)とを予め溶融し、かつ急速冷却することによって合金化した粉末をいう。アトマイズ粉末を使用した場合、当該粉末自体が第1材料と上記第3金属元素または第4金属元素との溶融金属から生成された合金に該当するため、第1材料中に上記第3金属元素または第4金属元素をより固溶させ易くなる。
【0079】
アトマイズ粉末の製造方法については、特に制限されることなく従来公知のアトマイズ法を適用することができる。たとえばガスアトマイズ法を用い、真空中にてアルミナ製るつぼで原料(第3金属元素または第4金属元素として選ばれる1種、および第1材料として選ばれる1種)を高周波誘導加熱により融解して合金化し、続いて該つるぼ直下のノズルから溶融した合金を落下させ、これに対して高圧アルゴンもしくは高圧窒素を噴霧することができる。これにより、上記原料からなるアトマイズ粉末を得ることができる。
【0080】
次に第2材料原料粉末は、次のようにして準備することができる。まずTi、Zr、Hf、V、Nb、TaおよびCrからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2金属元素を含む窒化物、炭化物または炭窒化物である第2化学種粉末を従来公知の方法で製造し、または市場から入手することにより準備する。次に、上記第2化学種粉末を湿式のボールミルまたはビーズミル等により、第2化学種粉末の1次粒子の平均粒径(D50)が1μm以下となるように粉砕する。さらに粉砕された上記第2化学種粉末に対しプラズマ処理またはアンモニア処理を実行することにより、第2化学種粉末を表面処理する。
【0081】
第2化学種粉末の表面処理は、たとえばプラズマ処理を実行する場合、プラズマ発生装置内において上記第2化学種粉末をアルゴンを含むガス雰囲気に曝すことにより、第2化学種粉末の表面をエッチングする。第2化学種粉末の表面処理は、たとえばアンモニア処理を実行する場合、所定の容器内において上記第2化学種粉末をアンモニアを含むガス雰囲気に曝すことにより、第2化学種粉末の表面をエッチングする。アンモニアを含むガスとしては、NH3、N2およびH2の混合ガス等を用いることができる。第2化学種粉末の表面処理によって、後述する加圧加熱処理時に第2化学種粉末中にAlを微量固溶させることができる。
【0082】
次に表面処理した上記第2化学種粉末に対し、第2化学種粉末中のAlの含有量が0.1原子%以上10原子%以下となるように、金属AlまたはAl化合物(上述したCoAl、Al23、AlNおよびAlB2、ならびにこれらの複合化合物等)を含む粉末を配合し、湿式のボールミルまたはビーズミルにより混合する。その後、金属AlまたはAl化合物と、第2化学種粉末との混合粉末を加圧加熱処理し、次いで粉砕することによって第2材料原料粉末を準備することができる。ここで上記加圧加熱処理は、たとえば800~1300℃、0.3~0.6MPaで保持時間0.5~5時間とする条件により実行することができる。さらに上記第2材料原料粉末の準備に関しては、金属AlまたはAl化合物と、第2化学種粉末とを混合する際に、構成元素としてTi、Zr、V、Nb、Hf、Ta、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれる少なくとも1種の第4金属元素を含む金属粉末をさらに加えることができる。
【0083】
cBN粉末は、従来公知の超高圧合成法によってBとNとから調製することにより準備することができる。さらにcBN粉末は、市場から入手することにより準備することもできる。cBN粉末の平均粒子径は特に制限されないが、高硬度であり、優れた耐摩耗性および耐欠損性を兼ね備えるcBN焼結体を形成する観点から、上記平均粒子径は0.1~10μmが好ましく、0.5~5μmがより好ましい。
【0084】
<第2工程>
第2工程は、上記第1材料原料粉末、第2材料原料粉末およびcBN粉末を混合することにより、70体積%以上100体積%未満のcBN粉末と、0体積%超過30体積%以下の結合材(第1材料および第2材料)とからなる混合粉末を調製する工程である。具体的には、第2工程では、上記第1材料原料粉末、第2材料原料粉末およびcBN粉末に対し、エタノール、アセトン等を溶媒に用いた湿式ボールミル混合を実行することにより上記の混合粉末を調製することが好ましい。上記第1材料原料粉末と、第2材料原料粉末との混合比率(質量比率)については、第1材料原料粉末:第2材料原料粉末として10:1~1:10とすることが好ましい。混合粉末の調製後は自然乾燥によって溶媒が除去される。さらに混合粉末に対しては、熱処理(たとえば、真空下で850℃以上)を実行することが、表面に吸着された水分等の不純物を除去することができるので好ましい。
【0085】
<第3工程>
第3工程は、上記混合粉末を焼結することによりcBN焼結体を得る工程である。本工程においては、上記混合粉末が高温高圧条件下に曝されて焼結されることにより、cBN焼結体が製造される。具体的には、第3工程では、真空シールされた上記混合粉末を超高温高圧装置を用いることによって焼結処理する。焼結処理する温度条件は、1500℃以上2000℃未満が好ましく、1600℃以上1900℃以下がより好ましい。保持時間は、10~60分とすることが好ましい。焼結圧力条件は特に制限されないが、5.5~8GPaであることが好ましい。以上により、cBN焼結体を製造することができる。
【0086】
<作用効果>
本実施形態に係るcBN焼結体の製造方法は、上記の各工程を経ることにより、長寿命化が可能となるcBN焼結体を製造することができる。
【実施例
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0088】
〔試料の作製〕
以下の手順に従って、試料1~試料80のcBN焼結体を作製した。試料1~試料23、試料25~試料28、試料31~試料34、試料36~試料54、試料56~試料59および試料60~試料80の各cBN焼結体が実施例であり、試料24、試料29~試料30、試料35および試料55の各cBN焼結体が比較例である。
【0089】
<試料1>
(第1工程)
まず市販のWC粉末(商品名:「WC20」、株式会社アライドマテリアル製)、Co粉末(商品名:「Sシリーズ」、Freeport Cobalt Oy社製)およびAl粉末(商品名:「♯900」、ミナルコ株式会社製)を準備した。次に、上述した各粉末を質量比率でWC:Co:Alが3:8:2となるようにアルゴンの不活性雰囲気下で配合した。なお、各粉末の平均粒径は1μmであった。さらに上記の質量比率で配合した粉末に対し、真空下で1200℃の熱処理を実行することにより金属間化合物を作製した。この金属間化合物を湿式ビーズミルで粉砕した。これにより、第1材料原料粉末を準備した。
【0090】
次に第2材料原料粉末を調製するための粉末(第2化学種粉末)として市販のTiN粉末(ケナメタル社製)を入手し、これをビーズミルで平均粒径が0.3μmとなるまで粉砕した。さらに粒径が0.3μmとしたTiN粉末に対して表面プラズマ装置(商品名:「FEMTO-LFS」、Diener社製)を用いてプラズマ処理を実行し、アルゴンを含むガス雰囲気に30分間曝すことによりTiN粉末を表面処理した。
【0091】
次に表面処理したTiN粉末に対し、第2材料原料粉末中のAlの含有量が4原子%となるように、AlN粉末(株式会社トクヤマ製)を配合し、湿式のビーズミルにより粉砕しながら混合した。さらに、上記TiN粉末と上記AlN粉末との混合粉末を加圧加熱処理し、次いで粉砕することによって第2材料原料粉末を準備した。ここで上記加圧加熱処理は、900℃、0.3MPaで保持時間3時間とする条件により実行した。さらに、従来公知の超高圧合成法により平均粒径1μmであるcBN粉末を準備した。
【0092】
(第2工程)
上記第1材料原料粉末、上記第2材料原料粉末および上記cBN粉末とを、質量比率でcBN粉末:第1材料原料粉末:第2材料原料粉末が90:4.0:6.0となるように配合し、エタノールを用いた湿式ボールミル法により均一に混合した。その後、自然乾燥により溶媒を除去するとともに、上記混合粉末に対して900℃の真空下で熱処理した。以上により、混合粉末を調製した。
【0093】
(第3工程)
上記混合粉末を焼結することにより、cBN焼結体を作製した。具体的には、上記混合粉末をWC-6%Coの超硬合金製円盤とCo箔とに接した状態で、Ta(タンタル)製の容器に充填し真空シールした。次いで、これをベルト型超高圧高温発生装置を用い、7GPaおよび1700℃の条件で15分間焼結した。以上より、試料1のcBN焼結体を作製した。試料1のcBN焼結体の第2材料(TiN)におけるAlの固溶量は、上述したTEM-EDXを用いた分析によれば5原子%であった。また上記混合粉末を上記超硬合金製円盤とCo箔とに接した状態で焼結したため、試料中のcBN含有量は、仕込み量(95体積%)から低下し、表1に示すとおりとなった。
【0094】
<試料2>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてZrN粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと以外、試料1と同じ要領により、試料2のcBN焼結体を作製した。
【0095】
<試料3>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてHfN粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと以外、試料1と同じ要領により、試料3のcBN焼結体を作製した。
【0096】
<試料4>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてVN粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと以外、試料1と同じ要領により、試料4のcBN焼結体を作製した。
【0097】
<試料5>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてNbN粉末(日本新金属株式会社製)を用いたこと以外、試料1と同じ要領により、試料5のcBN焼結体を作製した。
【0098】
<試料6>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてTaN粉末(株式会社高純度化学研究所製)用いたこと以外、試料1と同じ要領により、試料6のcBN焼結体を作製した。
【0099】
<試料7>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてCrN粉末を用いたこと以外、試料1と同じ要領により、試料7のcBN焼結体を作製した。上記CrN粉末は、Cr2N粉末(日本新金属株式会社製)を窒素雰囲気下で900℃、0.3MPaの加圧熱処理を行うことにより準備した。
【0100】
<試料8>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてTiC粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて以下の条件下でアンモニア処理を実行することにより上記TiC粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料8のcBN焼結体を作製した。
【0101】
(アンモニア処理条件)
アンモニア流量: 0.5L/min
窒素流量 : 5L/min
炉内圧力 : 大気圧
炉内温度 : 1000℃
保持時間 : 4時間。
【0102】
<試料9>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてZrC粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて試料8と同じ要領によりアンモニア処理を実行し、上記ZrC粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料9のcBN焼結体を作製した。
【0103】
<試料10>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてHfC粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて試料8と同じ要領によりアンモニア処理を実行し、上記HfC粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料10のcBN焼結体を作製した。
【0104】
<試料11>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてVC粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて試料8と同じ要領によりアンモニア処理を実行し、上記VC粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料11のcBN焼結体を作製した。
【0105】
<試料12>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてNbC粉末(日本新金属株式会社製)を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて試料8と同じ要領によりアンモニア処理を実行し、上記NbC粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料12のcBN焼結体を作製した。
【0106】
<試料13>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてTaC粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて試料8と同じ要領によりアンモニア処理を実行し、上記TaC粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料13のcBN焼結体を作製した。
【0107】
<試料14>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてTiCN粉末を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて試料8と同じ要領によりアンモニア処理を実行し、上記TiCN粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料14のcBN焼結体を作製した。上記TiCN粉末は、上記TiC粉末(株式会社高純度化学研究所製)と上記TiN粉末(ケナメタル社製)とを湿式ボールミルにて混合することにより得た混合粉末を金型で型押しした後、アルゴン雰囲気において2200℃で焼成し、次いで粉砕することにより準備した。
【0108】
<試料15>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてZrCN粉末を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて試料8と同じ要領によりアンモニア処理を実行し、上記ZrCN粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料15のcBN焼結体を作製した。上記ZrCN粉末は、上記ZrC粉末(株式会社高純度化学研究所製)と上記ZrN粉末(株式会社高純度化学研究所製)とを湿式ボールミルにて混合することにより得た混合粉末を金型で型押しした後、アルゴン雰囲気において2200℃で焼成し、次いで粉砕することにより準備した。
【0109】
<試料16>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてHfCN粉末を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて試料8と同じ要領によりアンモニア処理を実行し、上記HfCN粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料16のcBN焼結体を作製した。上記HfCN粉末は、上記HfC粉末(株式会社高純度化学研究所製)と上記HfN粉末(株式会社高純度化学研究所製)とを湿式ボールミルにて混合することにより得た混合粉末を金型で型押しした後、アルゴン雰囲気において2200℃で焼成し、次いで粉砕することにより準備した。
【0110】
<試料17>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてVCN粉末を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて試料8と同じ要領によりアンモニア処理を実行し、上記VCN粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料17のcBN焼結体を作製した。上記VCN粉末は、上記VC粉末(株式会社高純度化学研究所製)と上記VN粉末(株式会社高純度化学研究所製)とを湿式ボールミルにて混合することにより得た混合粉末を金型で型押しした後、アルゴン雰囲気において2200℃で焼成し、次いで粉砕することにより準備した。
【0111】
<試料18>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてNbCN粉末を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて試料8と同じ要領によりアンモニア処理を実行し、上記NbCN粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料18のcBN焼結体を作製した。上記NbCN粉末は、上記NbC粉末(日本新金属株式会社製)と上記NbN粉末(日本新金属株式会社製)とを湿式ボールミルにて混合することにより得た混合粉末を金型で型押しした後、アルゴン雰囲気において2200℃で焼成し、次いで粉砕することにより準備した。
【0112】
<試料19>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末としてTaCN粉末を用いたこと、ならびにプラズマ処理に代えて試料8と同じ要領によりアンモニア処理を実行し、上記TaCN粉末を表面処理したこと以外、試料1と同じ要領により、試料19のcBN焼結体を作製した。上記TaCN粉末は、上記TaC粉末(株式会社高純度化学研究所製)と上記TaN粉末(株式会社高純度化学研究所製)とを湿式ボールミルにて混合することにより得た混合粉末を金型で型押しした後、アルゴン雰囲気において2200℃で焼成し、次いで粉砕することにより準備した。
【0113】
<試料20>
第1工程において、表面処理したTiN粉末に対し、第2材料原料粉末中のAlの含有量が2原子%となるようにAlN粉末(株式会社トクヤマ製)を配合し、湿式のビーズミルにより粉砕しながら混合したこと以外、試料1と同じ要領により、試料20のcBN焼結体を作製した。試料20のcBN焼結体の第2材料(TiN)におけるAlの固溶量は、上述したTEM-EDXを用いた分析によれば3原子%であった。
【0114】
<試料21>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るための各粉末を質量比率でWC:Co:Alが3:8:1となるように配合したこと、ならびに表面処理したTiN粉末に対し、第2材料原料粉末中のAlの含有量が0.1原子%となるようにAlN粉末(株式会社トクヤマ製)を配合し、湿式のビーズミルにより粉砕しながら混合したこと以外、試料1と同じ要領により、試料21のcBN焼結体を作製した。試料21のcBN焼結体の第2材料(TiN)におけるAlの固溶量は、上述したTEM-EDXを用いた分析によれば0.1原子%であった。
【0115】
<試料22>
第1工程において、表面処理したTiN粉末に対し、第2材料原料粉末中のAlの含有量が6原子%となるようにAlN粉末(株式会社トクヤマ製)を配合し、湿式のビーズミルにより粉砕しながら混合したこと以外、試料1と同じ要領により、試料22のcBN焼結体を作製した。試料22のcBN焼結体の第2材料(TiN)におけるAlの固溶量は、上述したTEM-EDXを用いた分析によれば7原子%であった。
【0116】
<試料23>
第1工程において、表面処理したTiN粉末に対し、第2材料原料粉末中のAlの含有量が9原子%となるようにAlN粉末(株式会社トクヤマ製)を配合し、湿式のビーズミルにより粉砕しながら混合したこと以外、試料1と同じ要領により、試料23のcBN焼結体を作製した。試料23のcBN焼結体の第2材料(TiN)におけるAlの固溶量は、上述したTEM-EDXを用いた分析によれば10原子%であった。
【0117】
<試料24>
第1工程において、表面処理したTiN粉末に対し、第2材料原料粉末中のAlの含有量が14原子%となるようにAlN粉末(株式会社トクヤマ製)を配合し、湿式のビーズミルにより粉砕しながら混合したこと以外、試料1と同じ要領により、試料24のcBN焼結体を作製した。試料24のcBN焼結体の第2材料(TiN)におけるAlの固溶量は、上述したTEM-EDXを用いた分析によれば15原子%であった。
【0118】
<試料25>
第1工程において、表面処理したCrN粉末に対し、第2材料原料粉末中のAlの含有量が2原子%となるようにAlN粉末(株式会社トクヤマ製)を配合し、湿式のビーズミルにより粉砕しながら混合したこと以外、試料7と同じ要領により、試料25のcBN焼結体を作製した。試料25のcBN焼結体の第2材料(CrN)におけるAlの固溶量は、上述したTEM-EDXを用いた分析によれば3原子%であった。
【0119】
<試料26>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るための各粉末を質量比率でWC:Co:Alが3:8:1となるように配合したこと、ならびに表面処理したCrN粉末に対し、第2材料原料粉末中のAlの含有量が0.1原子%となるようにAlN粉末(株式会社トクヤマ製)を配合し、湿式のビーズミルにより粉砕しながら混合したこと以外、試料7と同じ要領により、試料26のcBN焼結体を作製した。試料26のcBN焼結体の第2材料(CrN)におけるAlの固溶量は、上述したTEM-EDXを用いた分析によれば0.1原子%であった。
【0120】
<試料27>
第1工程において、表面処理したCrN粉末に対し、第2材料原料粉末中のAlの含有量が6原子%となるようにAlN粉末(株式会社トクヤマ製)を配合し、湿式のビーズミルにより粉砕しながら混合したこと以外、試料7と同じ要領により、試料27のcBN焼結体を作製した。試料27のcBN焼結体の第2材料(CrN)におけるAlの固溶量は、上述したTEM-EDXを用いた分析によれば7原子%であった。
【0121】
<試料28>
第1工程において、表面処理したCrN粉末に対し、第2材料原料粉末中のAlの含有量が9原子%となるようにAlN粉末(株式会社トクヤマ製)を配合し、湿式のビーズミルにより粉砕しながら混合したこと以外、試料7と同じ要領により、試料28のcBN焼結体を作製した。試料28のcBN焼結体の第2材料(CrN)におけるAlの固溶量は、上述したTEM-EDXを用いた分析によれば10原子%であった。
【0122】
<試料29>
第1工程において、表面処理したCrN粉末に対し、第2材料原料粉末中のAlの含有量が14原子%となるようにAlN粉末(株式会社トクヤマ製)を配合し、湿式のビーズミルにより粉砕しながら混合したこと以外、試料7と同じ要領により、試料29のcBN焼結体を作製した。試料29のcBN焼結体の第2材料(CrN)におけるAlの固溶量は、上述したTEM-EDXを用いた分析によれば15原子%であった。
【0123】
<試料30>
第2工程において、cBN粉末と第1材料原料粉末と第2材料原料粉末とを混合せず、もって第3工程において100質量%のcBN粉末を15GPaおよび2200℃の条件で15分間焼結したこと以外、試料1と同じ要領により、試料30のcBN焼結体を作製した。
【0124】
<試料31>
第2工程において、cBN粉末と第1材料原料粉末と第2材料原料粉末とを質量比率でcBN粉末:第1材料原料粉末:第2材料原料粉末が98:1:1となるように配合したこと、ならびに第3工程において、混合粉末をWC-6%Coの超硬合金製円盤とCo箔とを添加せずにTa(タンタル)製の容器に充填することにより焼結したこと以外、試料25と同じ要領により、試料31のcBN焼結体を作製した。ここで上記混合粉末をWC-6%Coの超硬合金製円盤とCo箔とを添加せずにTa(タンタル)製の容器に充填することにより焼結した場合、試料中のcBN含有量は、表1に示すとおり仕込み量(99体積%)と一致した。
【0125】
<試料32>
第3工程において、混合粉末をWC-6%Coの超硬合金製円盤とCo箔とを添加せずにTa(タンタル)製の容器に充填することにより焼結したこと以外、試料25と同じ要領により、試料32のcBN焼結体を作製した。
【0126】
<試料33>
第2工程において、cBN粉末と第1材料原料粉末と第2材料原料粉末とを質量比率でcBN粉末:第1材料原料粉末:第2材料原料粉末が90:5:5となるように配合したこと、ならびに第3工程においてcBN粉末を6.5GPaおよび1700℃の条件で15分間焼結したこと以外、試料25と同じ要領により、試料33のcBN焼結体を作製した。
【0127】
<試料34>
第2工程において、cBN粉末と第1材料原料粉末と第2材料原料粉末とを質量比率でcBN粉末:第1材料原料粉末:第2材料原料粉末が90:5:5となるように配合したこと、ならびに第3工程においてcBN粉末を5.5GPaおよび1700℃の条件で15分間焼結したこと以外、試料25と同じ要領により、試料34のcBN焼結体を作製した。
【0128】
<試料35>
第2工程において、cBN粉末と第1材料原料粉末と第2材料原料粉末とを質量比率でcBN粉末:第1材料原料粉末:第2材料原料粉末が90:5:5となるように配合したこと、ならびに第3工程においてcBN粉末を4.5GPaおよび1700℃の条件で15分間焼結したこと以外、試料25と同じ要領により、試料35のcBN焼結体を作製した。
【0129】
<試料36>
第2工程において、第1材料原料粉末と第2材料原料粉末との混合比率を質量比率で1:2とすることにより、cBN粉末と第1材料原料粉末と第2材料原料粉末とを質量比率でcBN粉末:第1材料原料粉末:第2材料原料粉末が90:3.3:6.7となるように配合したこと以下、試料25と同じ要領により、試料36のcBN焼結体を作製した。
【0130】
<試料37>
第2工程において、第1材料原料粉末と第2材料原料粉末との混合比率を質量比率で2:1とすることにより、cBN粉末と第1材料原料粉末と第2材料原料粉末とを質量比率でcBN粉末:第1材料原料粉末:第2材料原料粉末が90:6.7:3.3となるように配合したこと以下、試料25と同じ要領により、試料37のcBN焼結体を作製した。
【0131】
<試料38>
第2工程において、第1材料原料粉末と第2材料原料粉末との混合比率を質量比率で1:4とすることにより、cBN粉末と第1材料原料粉末と第2材料原料粉末とを質量比率でcBN粉末:第1材料原料粉末:第2材料原料粉末が90:2:8となるように配合したこと以下、試料25と同じ要領により、試料38のcBN焼結体を作製した。
【0132】
<試料39>
第2工程において、第1材料原料粉末と第2材料原料粉末との混合比率を質量比率で4:1とすることにより、cBN粉末と第1材料原料粉末と第2材料原料粉末とを質量比率でcBN粉末:第1材料原料粉末:第2材料原料粉末が90:8:2となるように配合したこと以下、試料25と同じ要領により、試料39のcBN焼結体を作製した。
【0133】
<試料40>
第2工程において、第1材料原料粉末と第2材料原料粉末との混合比率を質量比率で1:9とすることにより、cBN粉末と第1材料原料粉末と第2材料原料粉末とを質量比率でcBN粉末:第1材料原料粉末:第2材料原料粉末が90:1:9となるように配合したこと以下、試料25と同じ要領により、試料40のcBN焼結体を作製した。
【0134】
<試料41>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末に加え、市販のTi粉末(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)を準備するとともに、上記各粉末を質量比率でWC:Co:Al:Tiが3:8:0.7:0.3となるように配合したこと、ならびに上記Ti粉末に対して予め上記表面プラズマ装置を用いてプラズマ処理を実行し、アルゴンを含むガス雰囲気に30分間曝すことにより表面処理したこと以外、試料36と同じ要領により、試料41のcBN焼結体を作製した。なお試料41において、上記プラズマ処理によって第1材料および第2材料中に第4金属元素(Ti)が固溶したことを、上述したTEM-EDXにより確認した。
【0135】
<試料42>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末とともに準備し、かつ予めプラズマ処理を実行する粉末として、上記Ti粉末に代えてZrC粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと以外、試料41と同じ要領により、試料42のcBN焼結体を作製した。なお試料42において、上記プラズマ処理によって第1材料および第2材料中に第4金属元素(Zr)が固溶したことを、上述したTEM-EDXにより確認した。
【0136】
<試料43>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末とともに準備し、かつ予めプラズマ処理を実行する粉末として、上記Ti粉末に代えてHfC粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと以外、試料41と同じ要領により、試料43のcBN焼結体を作製した。なお試料43において、上記プラズマ処理によって第1材料および第2材料中に第4金属元素(Hf)が固溶したことを、上述したTEM-EDXにより確認した。
【0137】
<試料44>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末とともに準備し、かつ予めプラズマ処理を実行する粉末として、上記Ti粉末に代えてVC粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと以外、試料41と同じ要領により、試料44のcBN焼結体を作製した。なお試料44において、上記プラズマ処理によって第1材料および第2材料中に第4金属元素(V)が固溶したことを、上述したTEM-EDXにより確認した。
【0138】
<試料45>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末とともに準備し、かつ予めプラズマ処理を実行する粉末として、上記Ti粉末に代えてNbC粉末(日本新金属株式会社製)を用いたこと以外、試料41と同じ要領により、試料45のcBN焼結体を作製した。なお試料45において、上記プラズマ処理によって第1材料および第2材料中に第4金属元素(Nb)が固溶したことを、上述したTEM-EDXにより確認した。
【0139】
<試料46>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末とともに準備し、かつ予めプラズマ処理を実行する粉末として、上記Ti粉末に代えてTaC粉末(株式会社高純度化学研究所製)を用いたこと以外、試料41と同じ要領により、試料46のcBN焼結体を作製した。なお試料46において、上記プラズマ処理によって第1材料および第2材料中に第4金属元素(Ta)が固溶したことを、上述したTEM-EDXにより確認した。
【0140】
<試料47>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末とともに準備し、かつ予めプラズマ処理を実行する粉末として、上記Ti粉末に代えてCr2N粉末(日本新金属株式会社製)を用いたこと以外、試料41と同じ要領により、試料47のcBN焼結体を作製した。なお試料47において、上記プラズマ処理によって第1材料および第2材料中に第4金属元素(Cr)が固溶したことを、上述したTEM-EDXにより確認した。
【0141】
<試料48>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末とともに準備し、かつ予めプラズマ処理を実行する粉末として、上記Ti粉末に代えてMo粉末(株式会社アライドマテリアル製)を用いたこと以外、試料41と同じ要領により、試料48のcBN焼結体を作製した。なお試料48において、上記プラズマ処理によって第1材料および第2材料中に第4金属元素(Mo)が固溶したことを、上述したTEM-EDXにより確認した。
【0142】
<試料49>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末とともに準備し、かつ予めプラズマ処理を実行する粉末として、上記Ti粉末に代えてW粉末(株式会社アライドマテリアル製)を用いたこと以外、試料41と同じ要領により、試料49のcBN焼結体を作製した。なお試料49において、上記プラズマ処理によって第1材料および第2材料中に第4金属元素(W)が固溶したことを、上述したTEM-EDXにより確認した。
【0143】
<試料50>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るための各粉末を質量比率でWC:Co:Al:Tiが3:8.5:0.4:0.1となるように配合したこと以外、試料41と同じ要領により、試料50のcBN焼結体を作製した。なお試料50において、上記Ti粉末のプラズマ処理によって第1材料および第2材料中に第4金属元素(Ti)が固溶したことを、上述したTEM-EDXにより確認した。
【0144】
<試料51>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末とともに準備し、かつ予めプラズマ処理を実行する粉末として、上記Ti粉末に代えてCr2N粉末(日本新金属株式会社製)を用いたこと以外、試料50と同じ要領により、試料51のcBN焼結体を作製した。なお試料51において、上記Cr2N粉末のプラズマ処理によって第1材料および第2材料中に第4金属元素(Cr)が固溶したことを、上述したTEM-EDXにより確認した。
【0145】
<試料52>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末として準備したCrN粉末に対するプラズマ処理の時間を60分間としたこと以外、試料51と同じ要領により、試料52のcBN焼結体を作製した。
【0146】
<試料53>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末として準備したCrN粉末に対するプラズマ処理の時間を90分間としたこと以外、試料51と同じ要領により、試料53のcBN焼結体を作製した。
【0147】
<試料54>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための第2化学種粉末として準備したCrN粉末に対するプラズマ処理を実行しなかったこと以外、試料51と同じ要領により、試料54のcBN焼結体を作製した。
【0148】
<試料55>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための粉末として準備したCrN粉末を粉砕せず、150μmメッシュの篩を用いて篩分けのみ実行したこと以外、試料7と同じ要領により、試料55のcBN焼結体を作製した。
【0149】
<試料56>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末とともに準備した上記ZrC粉末(株式会社高純度化学研究所製)に対し、プラズマ処理を実行せず、上記WC粉末、Co粉末およびAl粉末に対して上記プラズマ処理を実行したこと以外、試料42と同じ要領により、試料56のcBN焼結体を作製した。上記ZrC粉末に対してプラズマ処理をしなかったことにより、試料56では第2材料中に第4金属元素(Zr)が固溶せず、第1材料のみに第3金属元素(Zr)が固溶したものと推測される。
【0150】
<試料57>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための粉末としてCrN粉末に、上記プラズマ処理を実行したZrN粉末(株式会社高純度化学研究所製)を原子比でCr:Zrが94:3となるように配合して準備したこと以外、試料7と同じ要領により、試料57のcBN焼結体を作製した。
【0151】
<試料58>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るための各粉末を質量比率でWC:Co:Al:ZrCが3:8.5:0.4:0.1となるように配合したこと以外、試料56と同じ要領により、試料58のcBN焼結体を作製した。上記ZrC粉末に対してプラズマ処理をしなかったことにより、試料58では第2材料中に第4金属元素(Zr)が固溶せず、第1材料のみに第3金属元素(Zr)が固溶したものと推測される。
【0152】
<試料59>
第1工程において、第2材料原料粉末を調製するための粉末として準備する上記CrN粉末および上記ZrN粉末を原子比でCr:Zrが96.5:0.5となるように配合したこと以外、試料57と同じ要領により、試料59のcBN焼結体を作製した。
【0153】
<試料60>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末およびAl粉末とともにCoCrアトマイズ粉末を準備したこと、上記CoCrアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったこと、および上記各粉末を質量比率でWC:CoCr:Alが3:8.3:0.7となるように配合したこと以外、試料47と同じ要領によって試料60のcBN焼結体を作製した。試料60では上記CoCrアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったことにより、第2材料中には第3金属元素(Cr)が固溶しなかったものと推測される。なおCoCrアトマイズ粉末は、質量比Co:Cr=5.9:2.4とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびCrの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0154】
<試料61>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備したCoCrアトマイズ粉末に関し、これを質量比Co:Cr=6.4:1.9としてガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得たこと以外、試料60と同じ要領によって試料61のcBN焼結体を作製した。
【0155】
<試料62>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備したCoCrアトマイズ粉末に関し、これを質量比Co:Cr=6.8:1.5としてガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得たこと以外、試料60と同じ要領によって試料62のcBN焼結体を作製した。
【0156】
<試料63>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備したCoCrアトマイズ粉末に関し、これを質量比Co:Cr=7.3:1.0としてガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得たこと以外、試料60と同じ要領によって試料63のcBN焼結体を作製した。
【0157】
<試料64>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備したCoCrアトマイズ粉末に関し、これを質量比Co:Cr=7.7:0.6としてガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得たこと以外、試料60と同じ要領によって試料64のcBN焼結体を作製した。
【0158】
<試料65>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備したCoCrアトマイズ粉末に関し、これを質量比Co:Cr=5.6:2.7としてガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得たこと以外、試料60と同じ要領によって試料65のcBN焼結体を作製した。
【0159】
<試料66>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末およびAl粉末とともにCoTiアトマイズ粉末を準備したこと、上記CoTiアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったこと、および上記各粉末を質量比率でWC:CoTi:Alが3:7.3:0.7となるように配合したこと以外、試料47と同じ要領によって試料66のcBN焼結体を作製した。試料66では上記CoTiアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったことにより、第2材料中には第3金属元素(Ti)が固溶しなかったものと推測される。なおCoTiアトマイズ粉末は、質量比Co:Ti=5.6:1.7とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびTiの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0160】
<試料67>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末およびAl粉末とともにCoZrアトマイズ粉末を準備したこと、上記CoZrアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったこと、および上記各粉末を質量比率でWC:CoZr:Alが3:8.8:0.7となるように配合したこと以外、試料47と同じ要領によって試料67のcBN焼結体を作製した。試料67では上記CoZrアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったことにより、第2材料中には第3金属元素(Zr)が固溶しなかったものと推測される。なおCoZrアトマイズ粉末は、質量比Co:Zr=5.6:3.2とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびZrの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0161】
<試料68>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末およびAl粉末とともにCoHfアトマイズ粉末を準備したこと、上記CoHfアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実しなかったこと、および上記各粉末を質量比率でWC:CoHf:Alが3:12:0.7となるように配合したこと以外、試料47と同じ要領によって試料68のcBN焼結体を作製した。試料68では上記CoHfアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったことにより、第2材料中には第3金属元素(Hf)が固溶しなかったものと推測される。なおCoHfアトマイズ粉末は、質量比Co:Hf=5.6:6.4とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびHfの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0162】
<試料69>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末およびAl粉末とともにCoVアトマイズ粉末を準備したこと、上記CoVアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったこと、および上記各粉末を質量比率でWC:CoV:Alが3:7.4:0.7となるように配合したこと以外、試料47と同じ要領によって試料69のcBN焼結体を作製した。試料69では上記CoVアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったことにより、第2材料中には第3金属元素(V)が固溶しなかったものと推測される。なおCoVアトマイズ粉末は、質量比Co:V=5.6:1.8とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびVの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0163】
<試料70>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末およびAl粉末とともにCoNbアトマイズ粉末を準備したこと、上記CoNbアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったこと、および上記各粉末を質量比率でWC:CoNb:Alが3:8.8:0.7となるように配合したこと以外、試料47と同じ要領によって試料70のcBN焼結体を作製した。試料70では上記CoNbアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったことにより、第2材料中には第3金属元素(Nb)が固溶しなかったものと推測される。なおCoNbアトマイズ粉末は、質量比Co:Nb=5.6:3.2とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびNbの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0164】
<試料71>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末およびAl粉末とともにCoTaアトマイズ粉末を準備したこと、上記CoTaアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったこと、および上記各粉末を質量比率でWC:CoTa:Alが3:12:0.7となるように配合したこと以外、試料47と同じ要領によって試料71のcBN焼結体を作製した。試料71では上記CoTaアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったことにより、第2材料中には第3金属元素(Ta)が固溶しなかったものと推測される。なおCoTaアトマイズ粉末は、質量比Co:Ta=5.6:6.4とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびTaの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0165】
<試料72>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために、市販の上記WC粉末およびAl粉末とともにCoMoアトマイズ粉末を準備したこと、上記CoMoアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったこと、および上記各粉末を質量比率でWC:CoMo:Alが3:9:0.7となるように配合したこと以外、試料47と同じ要領によって試料72のcBN焼結体を作製した。試料72では上記CoMoアトマイズ粉末に対してプラズマ処理を実行しなかったことにより、第2材料中には第3金属元素(Mo)が固溶しなかったものと推測される。なおCoMoアトマイズ粉末は、質量比Co:Mo=5.6:3.4とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびMoの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0166】
<試料73>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備した市販の上記WC粉末、Al粉末およびCoTiアトマイズ粉末に関し、質量比率でWC:CoTi:Alが3:5.7:0.7となるように配合したこと以外、試料66と同じ要領によって試料73のcBN焼結体を作製した。なおCoTiアトマイズ粉末は、質量比Co:Ti=5.6:0.1とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびTiの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0167】
<試料74>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備した市販の上記WC粉末、Al粉末およびCoZrアトマイズ粉末に関し、質量比率でWC:CoZr:Alが3:5.8:0.7となるように配合したこと以外、試料67と同じ要領によって試料74のcBN焼結体を作製した。なおCoZrアトマイズ粉末は、質量比Co:Zr=5.6:0.2とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびZrの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0168】
<試料75>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備した市販の上記WC粉末、Al粉末およびCoHfアトマイズ粉末に関し、質量比率でWC:CoHf:Alが3:5.9:0.7となるように配合したこと以外、試料68と同じ要領によって試料75のcBN焼結体を作製した。なおCoHfアトマイズ粉末は、質量比Co:Hf=5.6:0.3とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびHfの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0169】
<試料76>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備した市販の上記WC粉末、Al粉末およびCoVアトマイズ粉末に関し、質量比率でWC:CoV:Alが3:5.7:0.7となるように配合したこと以外、試料69と同じ要領によって試料76のcBN焼結体を作製した。なおCoVアトマイズ粉末は、質量比Co:V=5.6:0.1とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびVの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0170】
<試料77>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備した市販の上記WC粉末、Al粉末およびCoNbアトマイズ粉末に関し、質量比率でWC:CoNb:Alが3:5.8:0.7となるように配合したこと以外、試料70と同じ要領によって試料77のcBN焼結体を作製した。なおCoNbアトマイズ粉末は、質量比Co:Nb=5.6:0.2とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびNbの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0171】
<試料78>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備した市販の上記WC粉末、Al粉末およびCoTaアトマイズ粉末に関し、質量比率でWC:CoTa:Alが3:5.9:0.7となるように配合したこと以外、試料71と同じ要領によって試料78のcBN焼結体を作製した。なおCoTaアトマイズ粉末は、質量比Co:Ta=5.6:0.3とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびTaの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0172】
<試料79>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備した市販の上記WC粉末、Al粉末およびCoMoアトマイズ粉末に関し、質量比率でWC:CoMo:Alが3:5.9:0.7となるように配合したこと以外、試料72と同じ要領によって試料79のcBN焼結体を作製した。なおCoMoアトマイズ粉末は、質量比Co:Mo=5.6:0.3とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびMoの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0173】
<試料80>
第1工程において、第1材料原料粉末を得るために準備した市販の上記WC粉末、Al粉末およびCoCrアトマイズ粉末に関し、質量比率でWC:CoCr:Alが3:5.7:0.7となるように配合したこと以外、試料60と同じ要領によって試料80のcBN焼結体を作製した。なおCoCrアトマイズ粉末は、質量比Co:Cr=5.6:0.1とし、これをガスアトマイズ法を用いた上述の方法で合成することにより得た。より均一に固溶させるため、原料のCoおよびCrの両方の金属粉末に対し上記のプラズマ処理を実施した。
【0174】
〔評価〕
<cBN含有量、第2材料中のAl固溶量>
上記試料1~試料80の各cBN焼結体に関し、上述した測定方法に基づいて、cBN含有量(体積%)、第2材料中のAl固溶量(原子%)を求めた。結果を表1~表4に示す。なお表1~表4においては、各試料中の第2材料の種別についても示した。
【0175】
<Ia/IBN
上記試料1~試料80の各cBN焼結体に関し、上述した測定方法に基づいてIa/IBNを求めた。結果を表1~表4に示す。
【0176】
<第2材料の平均粒径(D50)>
上記試料1~試料80の各cBN焼結体に関し、上述した測定方法に基づいて第2材料の平均粒径を求めた。結果を表1~表4に示す。
【0177】
<第2材料の結晶構造>
上記試料1~試料80の各cBN焼結体に関し、上述した測定方法に基づいて結晶構造を調べたところ、試料30を除く第2材料を含む試料は全て、第2材料が塩化ナトリウム型の結晶構造を有することを確認した。
【0178】
<酸素量>
上記試料1~試料80の各cBN焼結体に関し、上述した測定方法に基づいてcBN焼結体中の酸素量(質量%)を求めた。結果を表1~表4に示す。
【0179】
<第1材料および第2材料の両方または一方に固溶する第3金属元素または第4金属元素の種別と固溶量>
上記試料41~試料59および試料60~80の各cBN焼結体に関しては、上述した測定方法(TEM-EDXを用いた分析)に基づいて、第1材料および第2材料の両方または一方に固溶する第3金属元素または第4金属元素の種別と固溶量とを求めた。なお、試料47および試料51~試料54は、第2金属元素と第4金属元素が同一となる例であるが、この場合、第2材料として第2金属元素と、第4金属元素とが同様に固溶しているため、第4金属元素を添加することによる効果は認められない。
【0180】
<第1切削試験:焼結合金に対する切削試験>
上記試料1~試料59の各cBN焼結体から、各試料の切削工具(基材形状:TNGA160404、刃先処理T01225)を作製した。これを用いて、以下の切削条件の下で切削試験(第1切削試験)を実施した。
【0181】
〈切削条件〉
切削速度:200m/min.
送り速度:0.1mm/rev.
切込み:0.1mm
クーラント:DRY
切削方法:端面連続切削
旋盤:LB4000(オークマ株式会社製)
被削材:円筒状焼結部品(住友電気工業社製の焼入焼結合金D40、焼入れされた端面切削部の硬度:HRB75)。
【0182】
切削距離0.5km毎に刃先を観察し、逃げ面摩耗量を測定した。逃げ面摩耗量が200μm以上となる時点の切削距離を測定した。なお、上記切削距離を切削工具の寿命とした。結果を表1~表3に示す。切削距離が長いほど、切削工具は長寿命化したと評価することができる。
【0183】
<第2切削試験:鋳鉄に対する切削試験>
上記試料1~試料59の各cBN焼結体から各試料の切削工具(基材形状:SNGN090308LE、ホルダ:RM3080R、SNGN090308、刃先処理T01225)を作製した。これを用いて、以下の切削条件の下で切削試験(第2切削試験)を実施した。
【0184】
〈切削条件〉
切削速度:1500m/min.
送り速度:0.15mm/rev.
切込み:0.4mm
クーラント:WET
クーラント液:エマルション96(水で20倍に希釈)
切削方法:断続切削
旋盤:NEXUS 530-II HS(ヤマザキマザック株式会社製)
被削材:FC250パーライト板(鋳鉄)2枚を同時加工。
【0185】
切削距離0.5km毎に刃先を観察し、逃げ面摩耗量を測定した。逃げ面摩耗量は切削前の刃先稜線の位置からの摩耗による後退幅とした。欠損した場合は、欠損の大きさを脱落量とした。逃げ面摩耗量が0.1mm以上となる時点を切削工具の寿命とし、その時点で切削除去した鋳鉄体積(単位は、cm3)を測定した。結果を表1~表3に示す。切削除去した鋳鉄体積が大きいほど、切削工具は長寿命化したと評価することができる。
【0186】
【表1】
【0187】
【表2】
【0188】
【表3】
【0189】
<第3切削試験:焼結合金に対する断続切削試験>
上記試料60~試料80および試料55の各cBN焼結体から、各試料の切削工具(基材形状:CNGA120408、刃先処理T01225)を作製した。これを用いて、以下の切削条件の下で断続切削試験(第3切削試験)を実施した。
【0190】
〈切削条件〉
切削速度:180m/min.
送り速度:0.1mm/rev.
切込み:0.15mm
クーラント:DRY
クーラント液:エマルション96(水で20倍に希釈)
切削方法:断続切削
旋盤:LB4000(オークマ株式会社製)
被削材:高強度焼結合金(FLA-07C2M相当)端面、ねじ穴4個空き。
【0191】
切削距離0.5km毎に刃先を観察し、欠損(刃先における100μm以上の大きさの欠けを「欠損」と定義)の有無を確認した。欠損した時点を切削工具の寿命とし、それまでの切削距離を測定した。結果を表4に示す。切削距離が長いほど、切削工具は長寿命化したと評価することができる。
【0192】
【表4】
【0193】
〔考察〕
表1~3によれば、実施例となる試料1~試料23、試料25~試料28、試料31~試料34、試料36~試料54および試料56~試料59の各cBN焼結体から得た切削工具は、比較例となる試料24、試料29~試料30、試料35および試料55のcBN焼結体から得た切削工具に比べ、第1切削試験および第2切削試験の結果が良好であり、長寿命化していることが理解される。
【0194】
表4によれば、実施例となる試料60~試料80の各cBN焼結体から得た切削工具は、比較例となる試料55のcBN焼結体から得た切削工具に比べ、第3切削試験の結果が良好であり、長寿命化していることが理解される。すなわち第1材料において第3金属元素が10原子%超過50原子%以下固溶している場合、耐欠損性が顕著に向上することが理解される。
【0195】
以上、本開示の実施形態および実施例について説明を行ったが、上述の各実施形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0196】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【要約】
立方晶窒化硼素焼結体は、70体積%以上100体積%未満の立方晶窒化硼素と、結合材とを含み、結合材は、第1材料と第2材料とを含み、第1材料は、タングステン、コバルトおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1金属元素を含む1または2以上の第1化学種であって、金属、合金、金属間化合物、化合物または固溶体であり、第2材料は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルおよびクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2金属元素を含む1または2以上の第2化学種であって、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する固溶体であり、かつアルミニウムが0.1原子%以上10原子%以下固溶し、第2材料は、1μm以下の平均粒径を有する粒子である。