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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】脚部耐震補強の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20220124BHJP
   F17C 13/08 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
E04G23/02 D
F17C13/08 301Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017172554
(22)【出願日】2017-09-07
(65)【公開番号】P2019049104
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000147729
【氏名又は名称】株式会社石井鐵工所
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏治
(72)【発明者】
【氏名】日下部 庸人
【審査官】津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216904(JP,A)
【文献】特開2014-122540(JP,A)
【文献】特開2006-316403(JP,A)
【文献】特開2012-127134(JP,A)
【文献】特開2013-124471(JP,A)
【文献】特開2017-115371(JP,A)
【文献】特開2014-101725(JP,A)
【文献】特開2009-256928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
F17C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の隣接する支柱相互間をX字状に交差したブレースで連結した既設構造物における、前記支柱上部の上部ブレース接合部及び前記支柱下部の下部ブレース接合部各々を補強する脚部耐震補強の方法であって、前記支柱上部の上部ブレース接合部及び前記支柱下部の下部ブレース接合部近傍に挿入孔を開口する開口ステップと、袋状に成形された袋体を前記挿入孔から前記支柱の中空内部に挿入する挿入ステップと、前記支柱の手前側と奥側の2箇所に設けた開口部から支持部材を前記支柱の軸方向と直交する方向に挿通し、前記袋体を該支持部材上に載置し、前記支柱内部に固定する固定ステップと、前記袋体上部のホース注入口に取付けられた充填材注入用ホースから前記袋体の内部に充填材を前記袋体の内部に充填し、該袋体を前記支柱の内部に嵌合するように膨張させ、前記ホース注入口を閉止する充填ステップと、前記支柱の挿入孔に閉止部材を取付ける復旧ステップとを備えたことを特徴とする脚部耐震補強の施工方法。
【請求項2】
前記袋体は、通気性を有する網袋で形成し、該袋体の先端部に袋体支持板を取付け、前記支持部材上に載置し、かつ前記充填材は、前記袋体の内部に充填する際に流体状で充填され、前記袋体の内部充填後に該袋体内部で硬化することを特徴とする請求項1記載の脚部耐震補強の施工方法。
【請求項3】
前記支柱の挿入孔に閉止部材を取付ける復旧ステップにおいて、前記支柱内部が高圧となった際に前記支柱内部の空気を放出する機構を有する閉止部材を取付けることを特徴とする請求項1記載の脚部耐震補強の施工方法。
【請求項4】
前記閉止部材は、前記支柱内部の空気を放出する機構として、100℃以上に達すると溶断する温度ヒューズを有することを特徴とする請求項記載の脚部耐震補強の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧縮ガスや液化ガス等を貯蔵する球形タンクの支持構造のような、支柱相互間にブレースを有す既設鋼構造物について、耐震性の向上を目的とした補強を行うための施工方法及びその施工のための部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8に示すように、既設の球形タンク1の球殻体2は支柱3と基礎4によって支持され、支柱3の相互間には、球形タンクの水平振動を抑制して、支持強度を高めるために、X字状に交差させたブレース5を設けている。
詳しくは、支柱3には、球殻体2と接続する上部支柱3a及び基礎4に固定する下部支柱3bとで構成される鋼管が用いられ、ブレース5には、鋼棒材のタイロッドブレースや鋼管材のパイプブレースが使用されるが、図示例のブレース5は、パイプブレース5aの場合を示している。
このようなブレース構造を有する既設の球形タンク1の一部において、大規模な地震により、前記の支柱3とプレース5との接合部が座屈する等の事例が発生し、当該部分の強度を向上させる必要が生じている。
なお、支柱3相互間にブレース5を有す構造は、前記球形タンク1に限定されず、鋼構造物において幅広く使用されている。
【0003】
従来技術の発明には、例えば特許文献1「球形タンク支持部材補強方法および補強支持部材」の発明がある。この発明には、既設の球形タンクの支柱下部にモルタル等の凝固剤を注入する穴を穿設し、支柱内にモルタルを充填固化させて補強する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2「鋼管ブレースを有する既設球形タンクの補強方法」の発明がある。この発明には、球形タンクの各支柱にモルタルを注入して充填するための開口部を設け、支柱及びブレースの内部に充填物を用いながらモルタルを部分的に充填して補強する方法が開示されている。
【0005】
さらにまた、本出願人による特許文献3「球形タンクの支柱及び又はブレースの補強施工法」の発明がある。この発明には、既設の球形タンクの下部支柱の中間部を撤去し、次いで上下に位置する上部ブレース接合部及び下部ブレース接合部の中空内部に補強円板を設置し、続いて新規の補強中間支柱を設置する球形タンクの支柱及び又はブレースの補強施工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭53-24623号公報
【文献】特開2016-216904号公報
【文献】特開2015-193397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
球形タンク1のような支柱3相互間にブレース5を有す既設鋼構造物において、ブレース5接合部の支柱3の中空内部に補強部材がない場合、地震時に支柱3とブレース5の接合部に大きな圧縮力が作用し、支柱3が破損するおそれがあった。
支柱3やブレース5の脚部耐震補強の方法としては、支柱3又はブレース5の全体の部材厚さを従来より更に増した部材や更に太径の部材に取り替える方法等があった。但し、支柱3又はブレース5を新規の部材に取り替えるためには、堅固な支保工で支えながら既設支柱3を切断して、新規の支柱3を取付けるという大規模な工事が必要となり、長い工事期間と多大な工事費用を必要とする問題があった。
また、支柱に穴を開け、鋼管内部全体に流動モルタル等を充填し、固化させて、支柱強度を高める方法もあった。しかし、強度解析の結果から、支柱3とブレース5との接合部分の強度のみに問題がある場合、前記した補強方法では、過剰補強や過剰コストとなる問題があった。また、重量増加によって基礎4への負荷が大きくなり、基礎4の補強が更に必要となるケースもあった。
そこで、支柱3相互間にブレース5を有す既設の支柱3鋼管内部に部分的に補強部材を追加して耐震補強することが可能で、かつ大掛かりな支保工を用いることなく、簡単に施工することが可能な脚部耐震補強の施工方法が求められていた。
【0008】
特許文献1の「球形タンク支持部材補強方法および補強支持部材」の発明は、既設の球形タンクの支柱を部分的に切断撤去することなく、球形タンクの支柱を耐震補強する方法であるが、支柱に穴を設けて支柱内全体にモルタル等の凝固剤を詰めて支柱全体を耐震補強する方法であり、支柱のブレース接合部のみを部分的に補強する方法に関するものではない。
【0009】
特許文献2の「鋼管ブレースを有する既設球形タンクの補強方法」の発明は、既設の球形タンクの支柱を部分的に切断撤去することなく、球形タンクの支柱を耐震補強する方法であるが、支柱に開口部を設けて支柱及びブレースの内部に充填物を用いながらモルタルを部分的に充填して補強する方法に関するものであり、支柱の鋼管内部に部分的に補強部材を追加する方法に関するものではない。
【0010】
特許文献3の「球形タンクの支柱及び又はブレースの補強施工法」の発明は、既設の球形タンクのブレース接合部の支柱の中空内部に部分的に補強円板を設置して耐震補強する方法に関するものであるが、既設の支柱を部分的に切断撤去して新規の支柱に取り替える補強施工法に関するものであり、支柱に挿入孔を設けて該支柱の内部に袋体を挿入し、該袋体に充填材を充填する補強方法に関するものではない。
【0011】
この発明は上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、支柱相互間にブレースを有す既設鋼構造物について地震による水平振動に対する剛性と強度を高め耐久性と安全性を向上させるために、既設の支柱を切断撤去することなく、簡単な施工で既設支柱のブレース接合部のみを部分的に補強することが可能な脚部耐震補強の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明に係る脚部耐震補強の施工方法は、複数本の隣接する支柱相互間をX字状に交差したブレースで連結した既設構造物における、前記支柱上部の上部ブレース接合部及び前記支柱下部の下部ブレース接合部各々を補強する脚部耐震補強の方法であって、前記支柱上部の上部ブレース接合部及び前記支柱下部の下部ブレース接合部近傍に挿入孔を開口する開口ステップと、袋状に成形された袋体を前記挿入孔から前記支柱の中空内部に挿入する挿入ステップと、前記支柱の手前側と奥側の2箇所に設けた開口部から支持部材を前記支柱の軸方向と直交する方向に挿通し、前記袋体を該支持部材上に載置し、前記支柱内部に固定する固定ステップと、前記袋体上部のホース注入口に取付けられた充填材注入用ホースから前記袋体の内部に充填材を前記袋体の内部に充填し、該袋体を前記支柱の内部に嵌合するように膨張させ、前記ホース注入口を閉止する充填ステップと、前記支柱の挿入孔に閉止部材を取付ける復旧ステップとを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の脚部耐震補強の施工方法は、前記袋体を、通気性を有する網袋で形成し、該袋体の先端部に袋体支持板を取付け、前記支持部材上に載置し、かつ前記充填材が、前記袋体の内部に充填する際に流体状で充填され、前記袋体の内部充填後に該袋体内部で硬化することを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の脚部耐震補強の施工方法は、前記支柱の挿入孔に閉止部材を取付ける復旧ステップにおいて、前記支柱内部が高圧となった際に前記支柱内部の空気を放出する機構を有する閉止部材を取付けることを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の脚部耐震補強の施工方法は、前記閉止部材が、前記支柱内部の空気を放出する機構として、100℃以上に達すると溶断する温度ヒューズを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明に係る脚部耐震補強の施工方法は、複数本の隣接する支柱相互間をX字状に交差したブレースで連結した既設構造物における、前記支柱上部の上部ブレース接合部及び前記支柱下部の下部ブレース接合部各々を補強する脚部耐震補強の方法であって、前記支柱上部の上部ブレース接合部及び前記支柱下部の下部ブレース接合部近傍に挿入孔を開口する開口ステップと、袋状に成形された袋体を前記挿入孔から前記支柱の中空内部に挿入する挿入ステップと、前記支柱の手前側と奥側の2箇所に設けた開口部から支持部材を前記支柱の軸方向と直交する方向に挿通し、前記袋体を該支持部材上に載置し、前記支柱内部に固定する固定ステップと、前記袋体上部のホース注入口に取付けられた充填材注入用ホースから前記袋体の内部に充填材を前記袋体の内部に充填し、該袋体を前記支柱の内部に嵌合するように膨張させ、前記ホース注入口を閉止する充填ステップと、前記支柱の挿入孔に閉止部材を取付ける復旧ステップとを備えたので、
既設鋼構造物の支柱の一部を切断分離し、新規の支柱を取付けることなく、既設支柱に挿入孔を開けて袋体を挿入し、該袋体に充填材を充填する簡単な施工で、支柱を部分的に補強することが可能である。
支柱に部分的に挿入孔を開口する脚部耐震補強の方法であるため、タンク本体等の上部構造物の荷重で開口部が押し潰されることがなく、袋体の内部に充填材を充填し、該袋体を膨張させて支柱の中空内部に嵌合させることにより、安全に補強することが可能である。 支柱の上下に位置する上部ブレース接合部及び下部ブレース接合部の夫々の中空内部に嵌合するように充填材が充填された袋体を設置し、地震動により大きな圧縮力が作用する部分のみを効率的に補強することができる。すなわち、地震によって球形タンク等の既設鋼構造物が水平振動して支柱のブレース接合部近傍に大きな圧縮力が掛かった場合の下部支柱の損傷を防止することが可能である。また、袋体を萎ませた状態で支柱内部に挿入した後、充填材を充填して補強する工法であるため、挿入孔の寸法を小さくすることが可能で、容易かつ安全に施工することができる。
既設鋼構造物の支柱の一部を切断分離せずに、ボルト留めすることなく、溶接量を少なくすることができ、支柱の内部の補強を必要とする所定の位置に容易に充填材が充填された袋体を固定することが可能である。
【0017】
請求項2記載の脚部耐震補強の施工方法は、前記袋体を、通気性を有する網袋で形成し、該袋体の先端部に袋体支持板を取付け、前記支持部材上に載置し、かつ前記充填材が、前記袋体の内部に充填する際に流体状で充填され、前記袋体の内部充填後に該袋体内部で硬化するので、
充填材の充填時の内圧で袋体を膨張させ、袋体を支柱の中空部の内壁面に密着させ、内部の充填材を自然に硬化させることにより、耐圧縮強度を発現させることが可能であり、大きな圧縮力が作用する部分を確実に補強できる。また、硬化性を有す充填材を使用するため、充填する際はホースで袋体内に充填し易く、袋体内充填後に自然硬化するため、確実に圧縮力に対抗させることが可能である。
【0018】
請求項3記載の脚部耐震補強の施工方法は、前記支柱の挿入孔に閉止部材を取付ける復旧ステップにおいて、前記支柱内部が高圧となった際に前記支柱内部の空気を放出する機構を有する閉止部材を取付けるので、支柱内部の充填材が充填された袋体によって遮断された上部の空間部の空気の温度が火災等で上昇し、高圧となった際に、その空気を逃がすことができるため、支柱が内圧によって破損することを防止することが可能となり、安全性が向上する。
【0019】
請求項4記載の脚部耐震補強の施工方法は、前記閉止部材が、前記支柱内部の空気を放出する機構として、100℃以上に達すると溶断する温度ヒューズを有するので、
別途支柱に孔開け加工を施すことなく、容易に温度ヒューズを設置することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明に係る脚部耐震補強の施工方法によって構築される球形タンク1の構造を説明するための正面図である。
図2】既設の球形タンク1の支柱3のブレース接合部3b1近傍に挿入孔8を開口する開口ステップを示す正面図である。
図3】支持部材9を支柱3の中空内部に挿入する挿入ステップを示す斜視図である。
図4】支持部材9上に袋体6を載置する固定ステップを示す断面図である。
図5】袋体6内部に充填材12を充填する充填ステップを示す断面図である。
図6】袋体6に充填材12を充填した後、該袋体6からホース15を抜き取り、袋体6上部の充填材注入口を固定材11で閉止した状態を示す断面図である。
図7】支柱3の挿入孔8に閉止部材14を取付ける復旧ステップを示す断面図である。
図8】従来一般のブレース5を備えた球形タンク1を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る脚部耐震補強の施工方法の実施形態例について、図1から図8を参照しながら説明する。なお、本発明は下記の実施形態にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で下記の構成要素の省略または付加、構成要素の形状等の実施形態の変更を加えることが出来るのはもちろんである。また、図は概略を示すもので、一部のみを描き詳細構造は省略した。
【0022】
図1は、本発明に係る脚部耐震補強の施工方法によって構築される球形タンク1の構造の事例を示す正面説明図で、球殻体2を複数本の支柱3で基礎4上に支持し、この支柱3の相互間に傾斜させX字状に交差させて設けたブレース5で連結した構造である。
図1のブレース5は、円筒状鋼管のパイプブレース5aの場合を示している。
支柱3は、球殻体2に接続する上部支柱3aと、ブレース5を固着した下部支柱3bとからなる構造である。
6は支柱3の上部及び下部夫々の円筒状中空内部に設ける袋体6である。この袋体6は、内部に充填材12を充填して剛性を高め、円筒部の圧縮による破損を防止するために、下部支柱3bのブレース5の接合部上部3b1及び下部3b2の内部に設ける補強部材である。
袋体6は、可撓性及び通気性を有す素材で形成する。袋体6としては例えば、空気の微小な漏出口を有す、ナイロン、テトロン、ビニロン等の樹脂製の網袋を使用することが可能である。また、炭素繊維シートやアラミド繊維シート等の高強度繊維シートを用いることも可能である。
また、袋体6の先端部に袋体支持板6aを取付け、支持部材9上に載置し、下方に落下しないようにする。
充填材12は、前記袋体6の内部に充填する際に流体状で充填され、前記袋体6の内部充填後に該袋体6内部で硬化する硬化材とする。例えば、モルタル、コンクリート、強化繊維を混入した繊維強化コンクリート等とする。
【0023】
充填材12に硬化材を使用することにより、前記充填材12の充填時の内圧で前記袋体6を膨張させ、該袋体6を支柱3の中空部の内壁面に密着させ、内部の充填材12を自然に硬化させることにより、大きな圧縮力が作用する部分を確実に補強できる。
また、硬化性を有す充填材12を使用することにより、充填する際はホース15で袋体6内に充填し易く、該袋体6内充填後に自然硬化し、確実に圧縮力に対抗させることが可能である。
【0024】
図2から図7は、既設の球形タンク1の支柱3のブレース接合部3b1近傍の中空内部に袋体6と充填材12を挿入し、支柱3を復旧するまでのステップの事例を示す図である。なお、図2から図7は、下部支柱3b上部のブレース接合部3b1の施工方法を示すが、下部支柱3b下部のブレース接合部3b2についても同様の手順で施工を実施する。図2は上部支柱3a及び下部支柱3b上部の正面図、図3は下部支柱3b上部を部分的に切り出して示した斜視図、図4から図7は、図2をA-A矢視から見た断面図である。
図2は、支柱3のブレース接合部3b1近傍に挿入孔8を開口するステップを示す。図2から図7の挿入孔8は、図2の丸穴に限定せず、収縮した状態の袋体6の挿入が容易な形状に開口する。この挿入孔8は、ドリルやガス切断等で開口する。
この支柱3に開口する挿入孔8は、収縮した状態の袋体6を挿入することが可能な寸法とする。
また、この挿入孔8開口時に、袋体6を支柱3内部に固定するための支持部材9を挿入するための開口部10をドリル等で支柱3に設ける。
【0025】
図3は、支持部材9を支柱3の中空内部に挿入する挿入ステップを示す斜視図である。
図3に示す通り、開口部10は、平板状の支持部材9を挿通できるように、支柱3の手前側と奥側に2箇所設ける。
支持部材9や開口部10については、種々の形状を採用可能である。
【0026】
図4は、支持部材9上に袋体6を載置する固定ステップを示す断面図である。
ホース15をその先端が袋体6の底面に到達するまで差し込み、該袋体6を支柱3に開口した挿入孔8に挿入する。
【0027】
図5は、袋体6内部に充填材12を充填する充填ステップを示す断面図である。
ポンプ(図示せず)を使用してホース15により前記袋体6の内部に流体状の充填材12を注入し、該袋体6を膨らませ、充填材12の内圧により袋体6を支柱3の中空部の内壁面に密着させる。
【0028】
図6は、袋体6に充填材12を充填した後、該袋体6からホース15を抜き取り、袋体6上部の充填材注入口を固定材11で閉止した状態を示す断面図である。
充填材12の注入に合わせてホース15を引き上げ、ホース15を抜き取った後、袋体6の充填材注入口を固定材11で閉止する。
この場合の固定材11は、ホースバンドのようなネジの開閉により、締め込みが調節可能なものが良く、袋体6の充填材注入口を閉止することができるものとする。
【0029】
このように、既設鋼構造物の支柱3の一部を切断分離せずに、ボルト留めすることなく、溶接量を少なくすることができ、支柱3の内部の補強を必要とする所定の位置に容易に充填材12が充填された袋体6を固定することが可能である。
【0030】
図7は、支柱3の挿入孔8に閉止部材14を取付ける復旧ステップを示す断面図である。(a)は袋体6内部に充填材12を充填する事例、(b)は袋体6内部に充填材12を充填する代わりに空気13を充填した後、該袋体6上部に充填材12を充填する他の補強方法の事例を示す。
閉止部材14は、その長さ、幅、厚さ寸法を挿入孔8の長手方向、幅方向、奥行きの寸法と同等のサイズとした板材等とする。挿入孔8及び閉止部材14に溶接用の開先加工を施した後、該閉止部材14を挿入孔8の開口部に嵌め込んで、該閉止部材14の外周縁部を溶接し、縦挿入孔8の開口部を閉止して該支柱3を元通りに復旧することが好ましい。
或いは、閉止部材14を当て板等とし、挿入孔8の長さ、幅よりも大きい寸法として、挿入孔8を完全に閉止するように、支柱3外面に溶接で固定しても良い。
また、挿入孔8を閉止する際に、開口部10も閉止する。
なお、図7では支持部材9を支柱3内部に残した状態で開口部10を閉止しているが、支持部材9を支柱3から取り外して開口部10を閉止しても良い。
【0031】
例えば、球形タンク1の下部支柱3bの下部には、支柱3又は支柱3内部の空気の温度が火災等で上昇し、当該空気の膨張により支柱3内部が高圧となった際に、その内圧で支柱3が損傷しないように、所定の温度以上に達すると溶断して空気を放出する温度ヒューズを備えているが、支柱3内部に設置した充填材12を充填した袋体6によって、上部の空間部が遮断されることになり、支柱3上部の火災時の損傷の危険が増す。
そこで、前記支柱3内部の空気を放出する機構を有する閉止部材14を取付けることにより、支柱3内部の充填材12が充填された袋体6によって遮断された上部の空間部の空気の温度が火災等で上昇し、高圧となった際に、その空気を逃がすことができるため、該支柱3が内圧によって破損することを防止することが可能となり、安全性が向上する。
支柱3内部の空気を放出する機構として、所定の温度(例えば、100℃)以上に達すると溶断する温度ヒューズ14a等を取付ける場合は、前記挿入孔8を利用して取付けることができ、別途支柱3に孔開け加工を施すことなく、容易に設置することが可能である。
また、閉止部材14に空気放出用の孔を設けるか、或いは閉止部材14を設けずに、挿入孔8自体を支柱3内部の空気を放出する機構としても良い。
【0032】
本発明に示す脚部耐震補強の施工方法は、以下の効果を有す。
既設鋼構造物の支柱3の一部を切断分離し、新規の支柱3を取付けることなく、既設支柱3に挿入孔8を開けて袋体6を挿入し、該袋体6に充填材12を充填する簡単な施工で、支柱3を部分的に補強することが可能である。
支柱3に部分的に挿入孔8を開口する脚部耐震補強の方法であるため、タンク本体等の上部構造物の荷重で開口部が押し潰されることがなく、袋体6の内部に充填材12を充填し、該袋体6を膨張させて支柱3の中空内部に嵌合させることにより、安全に補強することが可能である。
支柱3の上下に位置する上部ブレース接合部3b1及び下部ブレース接合部3b2の夫々の中空内部に嵌合するように充填材12が充填された袋体6を設置し、地震動により大きな圧縮力が作用する部分のみを効率的に補強することができる。すなわち、地震によって球形タンク1等の既設鋼構造物が水平振動して支柱3のブレース接合部3b1、3b2近傍に大きな圧縮力が掛かった場合の下部支柱3bの損傷を防止することが可能である。
また、袋体6を萎ませた状態で支柱3内部に挿入した後、充填材12を充填して補強する工法であるため、挿入孔8の寸法を小さくすることが可能で、容易かつ安全に施工することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明に係る脚部耐震補強の施工方法は既設の球形タンクのみならず、新規球形タンクの耐震性を向上するためにも適用することができる。また、支柱相互間にブレースを有す種々構造物の支保工や足場等において幅広く適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 球形タンク
2 球殻体
3 支柱
3a 上部支柱
3b 下部支柱
3b1 上部ブレース接合部
3b2 下部ブレース接合部
4 基礎
5 ブレース
5a パイプブレース
6 袋体
6a 袋体支持板
7 ガセット板
8 (袋体6を挿入する)挿入孔
9 支持部材
10 (支持部材9を挿入する)開口部
11 固定材
12 充填材
13 空気
14 閉止装置
14a 温度ヒューズ
15 (充填材12注入用の)ホース

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8