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特許7012960カッタ盤およびそれを備えるシールド掘進機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】カッタ盤およびそれを備えるシールド掘進機
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/087 20060101AFI20220124BHJP
【FI】
E21D9/087 A
E21D9/087 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018063589
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019173428
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】502138304
【氏名又は名称】株式会社スターロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【弁理士】
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英典
(72)【発明者】
【氏名】森 竜生
(72)【発明者】
【氏名】青山 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】永原 忠之
【審査官】皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-143797(JP,U)
【文献】実開平4-105195(JP,U)
【文献】特開2015-137460(JP,A)
【文献】実開昭62-185789(JP,U)
【文献】特開2001-295585(JP,A)
【文献】特開2017-31752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進機用のカッタビットが前面に設置されたカッタ盤であって、
前記カッタビットは、
前記カッタ盤に取り付けられた土砂掘削用の第1のビット、および前記第1のビットの先端に設けられた硬質壁掘削用の第2のビットで構成され、最も設置高さの高い複数の複合型カッタビットと、
前記複合型カッタビットの設置高さよりも低く前記第1のビットの設置高さよりも高い設置高さを有する複数の土砂掘削用カッタビットと、
を含むことを特徴とするカッタ盤。
【請求項2】
前記複合型カッタビットは、
前記第1のビットが、
切羽に対向する対向面を掘削部側に有する第1のビット本体と、
前記第1のビット本体の掘削部側において、前記第1のビット本体の掘削工程時における移動方向の前方および後方の角部に、前記第1のビット本体の一部を介してそれぞれ設置された第1のチップとを備え、
前記第2のビットが、
前記第1のビット本体の前記対向面に設けられた第2のビット本体と、
前記第2のビット本体の掘削部側において、前記移動方向の前方および後方の角部に前記第2のビット本体の一部を介してそれぞれ設置され、切削部が前記移動方向の前端および後端にそれぞれ位置するとともにすくい面および逃げ面が形成された第2のチップとを備える、
ことを特徴とする請求項1記載のカッタ盤。
【請求項3】
前記複合型カッタビットは、
前記第2のビット本体が、溶接により前記第1のビット本体に固定され、または前記第1のビット本体と一体形成されている、
ことを特徴とする請求項2記載のカッタ盤。
【請求項4】
前記複合型カッタビットは、
前記移動方向の前方および後方の角部に設置された前記第1のチップの間に、当該移動方向に沿って前記第1のビット本体の一部を介して隣接した状態で第1のチップがさらに設置されている、
ことを特徴とする請求項2または3記載のカッタ盤。
【請求項5】
前記複合型カッタビットは、前記カッタ盤の外周側から径方向途中位置までの相互に異なる回転軌跡上に設置されている、
ことを特徴とする請求項4記載のカッタ盤。
【請求項6】
前記複合型カッタビットは、
前記第1のビット本体が、前記対向面に対して傾斜した状態で交差する傾斜面を前記掘削部側にさらに有し、
前記第2のビット本体には、前記傾斜面と連続した面が形成されている、
ことを特徴とする請求項2または3記載のカッタ盤。
【請求項7】
前記複合型カッタビットは、前記傾斜面が前記カッタ盤の中心を向いた状態で当該カッタ盤の外周に設置されている、
ことを特徴とする請求項6記載のカッタ盤。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載のカッタ盤を機器本体の前面に回転自在の状態で備えることを特徴とするシールド掘進機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カッタ盤およびそれを備えるシールド掘進機に関し、特に、硬質壁の切削に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤中にトンネルを構築するシールド工法では、発進立坑と到達立坑を形成する。発進立坑内でシールド掘進機を組み立てて発進させ、地中を掘進させて到達立坑に到達した後に、到達立坑内でシールド掘進機を分解して地上に搬出している。
【0003】
ここで、シールド工法における発進立坑および到達立坑の土留め壁は、立坑深さでの土圧や水圧に耐える必要があり、一般的にはシートパイル(鋼製の矢板)等が用いられ、鋼材の支保工で補強している。また、シールド掘進機の発進口部分は、シールド掘進機のカッタビットで切削可能となっている必要があることから、当該部分はシートパイル以外で形成されている。
【0004】
発進口部分は、例えば鉄を含まないコンクリートで形成する工法が知られている。この場合、コンクリート壁の耐力の不足を補うために、シールド掘進機の準備中は鋼製の支保工で補強し、シールド掘進機を設置した後は外側の土砂に固化剤を注入して土砂を固化して支保工を取り出すといったことが行われている。この工法では、固化剤の注入や支保工の組み立ておよび解体などの手間がかかる。そこで、発進口部分を高強度な繊維補強コンクリートからなる硬質壁で構築することで支保工を不要とし、シールド掘進機で当該硬質壁を直接切削する工法(以下、「硬質壁切削工法」という。)が実用化されている。
【0005】
この工法では、硬質壁を切削するための専用のビットをカッタ盤に設置する必要がある。これは、硬質壁切削工法で切削するコンクリートは、地盤を構成する土砂とは明らかに異なる物性(コンクリートと粘土や土砂)を有しているからであり、土砂掘削用のビットは、硬質壁を切削するのには適さないからである。一方、硬質壁切削用のビットは土砂を掘削することも可能であるが、形状が土砂掘削に適していない。
【0006】
さて、シールド掘進機により長距離を掘削する場合、相互に高さが異なる複数のビットをカッタ盤に設けて(段差ビット)、カッタ盤における取り付け高さが高い方のビットから順番に土砂を削孔することが行われている。この場合、カッタ盤の同じ円周上に複数のビットが配置されることになるので、カッタ盤上のビット配置が非常に密になっている。
【0007】
したがって、前述した硬質壁切削工法で発進口部分を切削して地中を掘進するために、さらに硬質壁切削用の専用のビットを段差ビットの設けられたカッタ盤に配置しようとしても、配置スペースを確保することが困難になる。
【0008】
ここで、例えば特開平10-169375号公報や特開2001-295585号公報に記載の技術を適用して、土砂掘削用のカッタビットの先端に硬質壁切削用のカッタビットが固定すれば、配置スペースの問題を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-169375号公報
【文献】特開2001-295585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
土砂掘削用のビットの先端に硬質壁切削用のビットを設けた場合、確実に硬質壁を切削するためには、硬質壁切削用のビットは、切削中における摩耗を考慮して十分な長さでなければならない。これは、硬質壁の切削中にビットが折損すると、それ以上硬質壁を切削することができなくなるからである。
【0011】
すると、硬質壁を切削した後も硬質壁切削用のビットが残ってしまい、しばらくの間は硬質壁切削用のビットで土砂を掘削することなる。
【0012】
前述のように、硬質壁切削用のビットは土砂を掘削することも可能であるが、形状が土砂掘削に適していない。したがって、硬質壁切削用のビットで土砂を掘削している間は、掘削効率が悪化してしまう。
【0013】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、土砂の掘削効率を低下させることなく発進口部分を形成する硬質壁を確実に切削することのできるカッタ盤およびそれを備えるシールド掘進機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明のカッタ盤は、シールド掘進機用のカッタビットが前面に設置されたカッタ盤であって、前記カッタビットは、前記カッタ盤に取り付けられた土砂掘削用の第1のビット、および前記第1のビットの先端に設けられた硬質壁掘削用の第2のビットで構成され、最も設置高さの高い複数の複合型カッタビットと、前記複合型カッタビットの設置高さよりも低く前記第1のビットの設置高さよりも高い設置高さを有する複数の土砂掘削用カッタビットと、を含むことを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の本発明のカッタ盤は、上記請求項1記載の発明において、前記複合型カッタビットは、前記第1のビットが、切羽に対向する対向面を掘削部側に有する第1のビット本体と、前記第1のビット本体の掘削部側において、前記第1のビット本体の掘削工程時における移動方向の前方および後方の角部に、前記第1のビット本体の一部を介してそれぞれ設置された第1のチップとを備え、前記第2のビットが、前記第1のビット本体の前記対向面に設けられた第2のビット本体と、前記第2のビット本体の掘削部側において、前記移動方向の前方および後方の角部に前記第2のビット本体の一部を介してそれぞれ設置され、切削部が前記移動方向の前端および後端にそれぞれ位置するとともにすくい面および逃げ面が形成された第2のチップとを備える、ことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の本発明のカッタ盤は、上記請求項2記載の発明において、前記複合型カッタビットは、前記第2のビット本体が、溶接により前記第1のビット本体に固定され、または前記第1のビット本体と一体形成されている、ことを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の本発明のカッタ盤は、上記請求項2または3記載の発明において、前記複合型カッタビットは、前記移動方向の前方および後方の角部に設置された前記第1のチップの間に、当該移動方向に沿って前記第1のビット本体の一部を介して隣接した状態で第1のチップがさらに設置されている、ことを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の本発明のカッタ盤は、上記請求項4記載の発明において、前記複合型カッタビットは、前記カッタ盤の外周側から径方向途中位置までの相互に異なる回転軌跡上に設置されている、ことを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の本発明のカッタ盤は、上記請求項2または3記載の発明において、前記複合型カッタビットは、前記第1のビット本体が、前記対向面に対して傾斜した状態で交差する傾斜面を前記掘削部側にさらに有し、前記第2のビット本体には、前記傾斜面と連続した面が形成されている、ことを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の本発明のカッタ盤は、上記請求項6記載の発明において、前記複合型カッタビットは、前記傾斜面が前記カッタ盤の中心を向いた状態で当該カッタ盤の外周に設置されている、ことを特徴とする。
【0021】
また、請求項8に記載の本発明のシールド掘進機は、上記請求項1~7の何れか一項に記載のカッタ盤を機器本体の前面に回転自在の状態で備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第2のビットにより発進立坑の硬質壁が切削され、地盤中に進入した後は、土砂掘削用カッタビットや第2のビットが摩耗消滅した後の第1のビットによって土砂の掘削が行われるので、土砂の掘削効率を低下させることなく発進口部分を形成する硬質壁を確実に切削することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施の形態のシールド掘進機の内部を側面から透かして見た構成図である。
図2図1のシールド掘進機のカッタヘッドの正面図である。
図3図2のカッタヘッドの一部を外周に沿って見た側面図である。
図4図2のカッタヘッドの面板部の一部を示す側面図である。
図5】面板部に設置された複合型カッタビットの正面図である。
図6図5の複合型カッタビットの側面図である。
図7図5の複合型カッタビットの平面図である。
図8図5の複合型カッタビットのA-A線に沿った断面図である。
図9】外周リング部に設置された複合型カッタビットの正面図である。
図10図9の複合型カッタビットの側面図である。
図11図9の複合型カッタビットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0025】
図1は本実施の形態のシールド掘進機の内部を側面から透かして見た構成図、図2図1のシールド掘進機のカッタヘッドの正面図、図3図2のカッタヘッドの一部を外周に沿って見た側面図、図4図2のカッタヘッドの面板部の一部を示す側面図である。
【0026】
まず、本実施の形態のシールド掘進機の構成について図1を参照して説明する。
【0027】
本実施の形態のシールド掘進機1は、カッタヘッド2を切羽に押し当て回転させることにより地山を掘削する際に、カッタヘッド2の後方の機器本体3内に設けられた泥水室4に送泥管5を通じて泥水を圧送し、泥水室4内の泥水圧力を切羽の土圧および地下水圧に見合う圧力にして切羽の安定を図るとともに、泥水室4内に溜められた泥水を排泥管6によってトンネルの外部に排出しながら地山にトンネルを形成する泥水式シールド掘進機である。
【0028】
また、シールド掘進機1が発進する発進立坑の発進口部分が高強度な繊維補強コンクリートからなる平坦な硬質壁で構築されており、シールド掘進機1は当該硬質壁を切削した後に地盤中に進入して土砂を掘削する。
【0029】
シールド掘進機1を構成するカッタヘッド(カッタ盤)2は、地山の切羽を掘削する正面円形状の掘削部材であり、機器本体3の前面に機器本体3の周方向に沿って正逆方向に回転自在の状態で設置されている。このカッタヘッド2は、例えば、面板タイプが採用されており、その前面(切羽に対向する面)には、複数種のカッタビット20などが多数箇所に設置されている他、カッタヘッド2の回転により掘削された土砂を泥水室4内に取り込む穴4aが形成されている。なお、カッタヘッド2の詳細については後述する。
【0030】
シールド掘進機1の機器本体3を構成する前胴プレート3aおよび後胴プレート3bは、例えば円筒状の鋼製板により形成されている。この前胴プレート3aと後胴プレート3bとは、後胴プレート3bの先端側の球面軸受部が前胴プレート3aの後端側の内周面に接した状態で入り込むことで係合されている。この後胴プレート3bの後方には、掘進作業中に機器本体3の後部から機器本体3内に地下水等が入り込むのを防止するテールシール3cが後胴プレート3bの内周に沿って枠状に設けられている。
【0031】
前胴プレート3aの前面側において、その前面から機器本体3の内方に後退した位置には、機器本体3内を切羽側と機内側とに分ける隔壁7が設置されている。この機器本体3の切羽側、すなわち、上記カッタヘッド2と隔壁7との間に、上記泥水室4が設けられている。泥水室4は、カッタヘッド2の回転により掘削された土砂を取り込み、送泥管5を通じて供給された泥水と混合する空間(チャンバ)である。
【0032】
一方、機器本体3の機内には、カッタ駆動体10と、複数本の中折れジャッキ11aと、複数本のシールドジャッキ11bと、エレクタ12と、送泥管5と、排泥管6とが設置されている。
【0033】
カッタ駆動体10は、カッタヘッド2を正逆方向に回転させる駆動源である。中折れジャッキ11aは、前胴プレート3aと後胴プレート3bとを連結するとともに、シールド掘進機1の推進方向を修正する機器である。シールドジャッキ11bは、機器本体3の後方のトンネルの内周に敷設されたセグメントSGに反力をとってシールド掘進機1を前進させるための推進力を発生させる機器である。エレクタ12は、掘削されたトンネルの内周にセグメントSGを組み付ける装置である。セグメントSGは、例えば、平板状のコンクリート製セグメントまたは合成セグメント(コンクリートと鋼材との合成構造)からなり、トンネルの周方向および軸方向に沿って複数個並べられた状態で設置されている。
【0034】
送泥管5は、泥水室4内に泥水を供給する配管であり、例えば、鋼材により形成されている。送泥管5の先端部(放泥口)は、隔壁7の正面内上部を貫通して泥水室4に達している。これにより、送泥管5を通じて圧送された泥水は、シールド掘進機1の正面内上部から泥水室4内に供給される。一方、送泥管5の後端部は、トンネルの抗口に向かって延び、途中で所定の間隔毎に配置された複数の送泥ポンプ(図示せず)を介してトンネルの外部の泥水層(図示せず)に接続されている。なお、泥水槽は、トンネルの外部の泥水処理装置(図示せず)に接続されている。
【0035】
排泥管6は、泥水室4内の排泥水(掘削土砂と泥水との混合泥水)をトンネルの外部に排出する配管であり、例えば、鋼材により形成されている。排泥管6の先端部(吸泥口)は、隔壁7の正面内下部を貫通して泥水室4に達している。これにより、泥水室4内の排泥水は、シールド掘進機1の正面内下部から排出される。一方、排泥管6の後端部は、トンネルの抗口に向かって延び、途中で所定の間隔毎に配置された複数の排泥ポンプ(図1には図示せず)を介してトンネルの外部の上記泥水処理装置に接続されている。すなわち、泥水室4内の排泥水は、排泥管6を通じてトンネルの外部の泥水処理装置に送られ、そこで土砂と泥水とに分離され比重や粘性等が調整された後、泥水槽に送られて再び送泥管5を通じて泥水室4(切羽)へ送られる。
【0036】
次に、シールド掘進機1のカッタヘッド2の構成について、図2図4を参照して説明する。
【0037】
前述のように、本実施の形態において、カッタヘッド2には面板タイプが採用されており、図2に示すように、中央のハブ部2-1と、ハブ部2-1から外周に向かって放射状に延びる4本のメインスポーク2-2と、各メインスポーク2-2の間に位置して前後方向にスライド可能になった格納式スポーク2-3と、メインスポーク2-2および格納式スポーク2-3の隙間を塞ぐ板状の鋼材である面板部2-4と、メインスポーク2-2および格納式スポーク2-3の先端部同士を結ぶ外周リング部2-5とを備えている。なお、ハブ部2-1、メインスポーク2-2および面板部2-4は、相互に一体となって形成されている。
【0038】
カッタヘッド2の中央のハブ部2-1には、土砂掘削用としてのセンタビット21(カッタビット20の一種)が設置されている。
【0039】
図2および図3において、メインスポーク2-2には、土砂掘削用としてのリッパ型ビット22a(カッタビット20の一種)が長手方向に一列になって複数設置されている。また、メインスポーク2-2の幅方向の両側には、掘削ずりの取り込みのためのスクレーパツース30(カッタビット20の一種)が長手方向に沿って並んで複数設置されている。これらのスクレーパツース30の内、メインスポーク2-2の先端でカッタヘッド2の外周に位置する場所には、掘削外径の維持を目的とした外周スクレーパツース30a(カッタビット20の一種)が設置されている。本実施の形態において、リッパ型ビット22aの設置高さ(カッタヘッド2の前面からの高さ)は150mm、スクレーパツース30の設置高さは70mmとなっている。
【0040】
格納式スポーク2-3には、メインスポーク2-2と同様にして、リッパ型ビット22b(カッタビット20の一種)およびスクレーパツース30(カッタビット20の一種)が複数設置されている。なお、前述のように、格納式スポーク2-3は前後方向にスライド可能になっており、格納された状態になる後退位置では、リッパ型ビット22bおよびスクレーパツース30の先端がほぼカッタヘッド2の前面(つまり、メインスポーク2-2や面板部2-4の表面)よりも低い位置になる。なお、前進位置では、格納式スポーク2-3の表面がメインスポーク2-2や面板部2-4の表面と同一の位置になる。このときのスクレーパツース30の設置高さはメインスポーク2-2のスクレーパツース30の設置高さと同じであるが、リッパ型ビット22bの設置高さは、メインスポーク2-2のリッパ型ビット22aの設置高さよりも低い100mmとなっている。
【0041】
図2および図4に示すように、面板部2-4には、前述した発進立坑の発進口部分に構築された硬質壁切削用および土砂掘削用の2種の機能を有する複合型カッタビット23(カッタビット20の一種)、および土砂掘削用の先行ビット(土砂掘削用カッタビット)24(カッタビット20の一種)が複数設置されている。図4に示すように、複合型カッタビット23は、カッタヘッド2(の面板部2-4)に取り付けられた土砂掘削用の第1のビット23aと、第1のビット23aの先端に設けられたリッパ型で硬質壁切削用の第2のビット23bで構成されている。本実施の形態において、複合型カッタビット23の設置高さは220mmで、第1のビット23aの設置高さは170mm、第2のビットの高さは50mmとなっている。また、先行ビット24の設置高さは200mmとなっている。つまり、先行ビット24の設置高さは、複合型カッタビット23の設置高さよりも低く、第1のビット23aの設置高さよりも高くなっている。
【0042】
なお、図2に示すように、複合型カッタビット23は、カッタヘッド2の外周側から径方向途中位置までの相互に異なる回転軌跡上に設置されている。但し、設置位置はこれに限定されるものではなく、1または複数組が共通の回転軌跡上に設置されていてもよい。
【0043】
図2および図3に示すように、カッタヘッド2の外周である外周リング部2-5には、硬質壁切削用および土砂掘削用の2種の機能を有する複合型カッタビット25(カッタビット20の一種)および土砂掘削用の外周ビット26(土砂掘削用カッタビット)(カッタビット20の一種)が複数設置されている。図3に示すように、複合型カッタビット25は、カッタヘッド2(の外周リング部2-5)に取り付けられた土砂掘削用の第1のビット25aと、第1のビット25aの先端に設けられたリッパ型で硬質壁切削用の第2のビット25bで構成されている。本実施の形態において、複合型カッタビット25の設置高さは220mmで、第1のビット25aの設置高さは170mm、第2のビット25bの高さは50mmとなっている。また、外周ビット26の設置高さは200mmとなっている。つまり、外周ビット26の設置高さは、複合型カッタビット25の設置高さよりも低く、第1のビット25aの設置高さよりも高くなっている。
【0044】
このように、カッタヘッド2に設置された複数種のカッタビット20の内で、複合型カッタビット23および複合型カッタビット25の設置高さ(220mm)が最も高くなっており、その先端は、硬質壁切削用の第2のビット23b,25bとなっている。そして、本実施の形態では、発進立坑の発進口部分が平坦な硬質壁で構築されていることから、硬質壁切削用の第2のビット23b,25bにより当該硬質壁が切削される。
【0045】
硬質壁が切削された後は、シールド掘進機1が地盤中に進入して土砂の掘削が行われる。ここでは、第2のビット23b,25b以外のカッタビット20が主体となって土砂の掘削が行われる。第2のビット23b,25bは硬質壁の切削により摩耗し、続く土砂の掘削により最終的に摩耗消滅し、消滅後は、第1のビット23a,25aにより土砂の掘削が行われる。
【0046】
なお、複合型カッタビット23,25の構造の詳細については後述する。
【0047】
外周リング部2-5の外周面には、例えば2個のコピービット31(カッタビット20の一種)が対極する位置に設けられている。このコピービット31は、急曲線施工時の余堀りやシールド掘進機1の姿勢制御などを行う役割を備えている。
【0048】
ここで、カッタビット20(センタビット21、リッパ型ビット22a,22b、複合型カッタビット23、先行ビット24、複合型カッタビット25、外周ビット26、スクレーパツース30,30a)は、土台となるビット本体(母材)に刃体である複数のチップが部分的に埋め込まれることで構成されている。ビット本体は、例えば、鋼鉄により構成されている。また、チップは、例えば、炭化タングステン(WC)、炭化チタン(TiC)または炭化タンタル(TaC)等のような金属炭化物粒子を、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)または鉄(Fe)等のようなバインダ金属で結合した超硬質合金により構成されている。
【0049】
また、本実施の形態において、リッパ型ビット22a,22b、先行ビット24および外周ビット26では、土砂を掘削するチップの間のビット本体に小さなチップが埋め込まれており、ビット本体の摩耗を出来るだけ抑制することで土砂掘削のチップが外れにくくしている。
【0050】
次に、複合型カッタビットについて説明する。ここで、図5は面板部に設置された複合型カッタビットの正面図、図6図5の複合型カッタビットの側面図、図7図5の複合型カッタビットの平面図、図8図5の複合型カッタビットのA-A線に沿った断面図である。また、図9は外周リング部に設置された複合型カッタビットの正面図、図10図9の複合型カッタビットの側面図、図11図9の複合型カッタビットの平面図である。
【0051】
図5図8に示す複合型カッタビット23は、前述のように、土砂掘削用の第1のビット23aと、第1のビット23aの先端に設けられた硬質壁切削用の第2のビット23bで構成されている。
【0052】
第1のビット23aは、切羽に対向する対向面F1を掘削部側に有する土台としての第1のビット本体23aaと、第1のビット本体23aaの掘削部側において、第1のビット本体23aaの掘削工程時における移動方向(図5の矢印で示す方向)の前方および後方の角部に、第1のビット本体23aaの一部を介してそれぞれ設置された第1のチップ23abとを備えている。
【0053】
また、これらの第1のチップ23abの間には、移動方向に沿って第1のビット本体23aaの一部を介して隣接した状態の第1のチップ23abが設置されている、但し、第1のビット本体23aaの幅が狭くスペース的な余裕がない場合などには、第1のチップ23abは2箇所の角部だけに設置されていてもよい。
【0054】
一方、第2のビット23bはリッパ型であり、第1のビット本体23aaの対向面F1に設けられた第2のビット本体23baと、第2のビット本体23baの掘削部側において、移動方向の前方および後方の角部に第2のビット本体23baの一部を介してそれぞれ設置された第2のチップ23bbとを備えている。また、第2のチップ23bbは、切削部Pが移動方向の前端および後端にそれぞれ位置しており、すくい面S1(切削屑をすくい取る役割をする面)および逃げ面S2(切削対象である硬質壁と第2のチップ23bbとの摩擦を回避する面)が形成されている。
【0055】
図9図11に示す複合型カッタビット25も、前述のように、土砂掘削用の第1のビット25aと、第1のビット25aの先端に設けられた硬質壁切削用の第2のビット25bで構成されている。
【0056】
第1のビット25aは、切羽に対向する対向面F1を掘削部側に有する土台としての第1のビット本体25aaと、第1のビット本体25aaの掘削部側において、第1のビット本体25aaの掘削工程時における移動方向(図9の矢印で示す方向)の前方および後方の角部に、第1のビット本体25aaの一部を介してそれぞれ設置された第1のチップ25abとを備えている。また、第1のビット本体25aaには、対向面F1に対して傾斜した状態で交差する傾斜面F2が掘削部側に形成されている。
【0057】
一方、複合型カッタビット25の第2のビット25bもリッパ型であり、第1のビット本体25aの対向面F1に設けられた第2のビット本体25baと、第2のビット本体25baの掘削部側において、移動方向の前方および後方の角部に第2のビット本体25baの一部を介してそれぞれ設置された第2のチップ25bbとを備えている。第2のチップ25bbは、切削部Pが移動方向の前端および後端にそれぞれ位置しており、すくい面S1および逃げ面S2が形成されている。
【0058】
また、図10に示すように、第2のビット本体25baには、第1のビット本体25aaに形成された傾斜面F2と連続した面(傾斜面F2)が形成されている。そして、複合型カッタビット25は、傾斜面F2がカッタヘッド2の中心を向いた状態でカッタヘッド2の外周(つまり、外周リング部2-5)に設置されている、
【0059】
なお、本実施の形態の複合型カッタビット23,25では、第1のビット本体23aa,25aaに第2のビット本体23ba,25baの下部が嵌まり込む穴(図示せず)が形成されており、第2のビット本体23ba,25baは、折損することがないように当該穴に嵌め込まれて溶接により第1のビット本体23aa,25aaに固定されている。但し、穴を形成することなく、溶接で固定してもよい。また、第2のビット本体23ba,25baを第1のビット本体23aa,25aaと一体形成してもよい。
【0060】
また、複合型カッタビット23の第1のチップ23abおよび第2のチップ23bb、ならびに複合型カッタビット25の第1のチップ25abおよび第2のチップ25bbは、それぞれ第1のビット本体23aaおよび第2のビット本体23ba、ならびに第1のビット本体25aaおよび第2のビット本体25baの所定の位置に嵌め込まれた後、溶接またはロウ付けにより固定されている。
【0061】
なお、第1のチップ23abと第2のビット本体23ba、第1のチップ25abと第2のビット本体25baとの溶接などによる接合は行わない。これは、第1のチップ23ab,25abの物性が溶接などにより変わってしまわないようにするためである。
【0062】
次に、以上のカッタビット20が設置されたカッタヘッド2を備えたシールド掘進機1による動作について説明する。
【0063】
なお、本実施の形態では、発進立坑の発進口部分は高強度な繊維補強コンクリートからなる平坦な硬質壁で構築されていることから、シールド掘進機1はこの硬質壁を切削した後に地盤中に進入して土砂の掘削を行うことになる。
【0064】
さて、前述のように、カッタヘッド2に設置された複数種のカッタビット20の内で、複合型カッタビット23および複合型カッタビット25の設置高さが220mmで、最も高くなっている。そして、複合型カッタビット23,25は、土砂掘削用の第1のビット23a,25aの先端に硬質壁切削用の第2のビット23b,25bが設けられた構造になっている。また、次に設置高さが高いのは土砂掘削用の外周ビット26および外周ビット26の200mmであり、その次に設置高さが高いのは複合型カッタビット23,25の第1のビット23a,25aの170mmである。
【0065】
したがって、シールド掘進機1が発進した場合、複合型カッタビット23,25(より詳しくは、複合型カッタビット23,25の先端に設けられた硬質壁切削用の第2のビット23b,25b)が他のカッタビット20(センタビット21、リッパ型ビット22a,22b、先行ビット24、外周ビット26、スクレーパツース30,30a)より先行する。
【0066】
ここで、前述のように、本実施の形態において、発進立坑の発進口部分は高強度な繊維補強コンクリートからなる平坦な硬質壁で構築されていることから、硬質壁切削用の第2のビット23b,25bにより硬質壁が切削される。そして、切削が行われた時点では、第2のビット23b,25bは、摩耗した状態で残存している。
【0067】
硬質壁が切削された後は、シールド掘進機1が発進立坑から地盤中に進入して土砂の掘削が行われる。ここでは、主として、残存した第2のビット23b,25b以外のカッタビット20(特に、複合型カッタビット23,25の次に設置高さが高い外周ビット26および外周ビット26)によって土砂の掘削が行われる。これは、掘削面である切羽は、平坦な硬質壁とは異なり、土砂や硬岩、玉石などによって凸凹(デコボコ)しているので、地盤中に進入した時点では摩耗した第2のビット23b,25bが幾分先行していても、他のカッタビット20が土砂を掘削することができるからである。また、硬質壁切削用の第2のビット23b,25bは土砂掘削に適した形状ではないため、土砂の掘削を行うことはできるものの、効率が悪いからである。
【0068】
そして、外周ビット26や外周ビット26などのカッタビット20により土砂の掘削が行われるとともに、第2のビット23b,25bは最終的に土砂により摩耗消滅し、その後は土砂掘削用の第1のビット23a,25aによって土砂の掘削が行われる。
【0069】
このように、本実施の形態によれば、シールド掘進機1のカッタヘッド2に、土砂掘削用の第1のビット23a,25aとその先端に設けられた硬質壁掘削用の第2のビット23b,25bで構成されて、最も設置高さの高い複合型カッタビット23,25が取り付けられ、また、複合型カッタビット23,25の設置高さよりも低く第1のビット23a,25aの設置高さよりも高い設置高さを有する土砂掘削用カッタビットである外周ビット26および外周ビット26が取り付けられている。したがって、第2のビット23b,25bにより発進立坑の硬質壁が切削され、地盤中に進入した後は、土砂掘削用の外周ビット26および外周ビット26などのカッタビット20、さらには第2のビット23b,25bが摩耗消滅した後は土砂掘削用の第1のビット23a,25aによって土砂の掘削が行われる。
【0070】
よって、土砂の掘削効率を低下させることなく発進口部分を形成する硬質壁を確実に切削することが可能になる。
【0071】
とりわけ、カッタヘッド2上のビット配置が非常に密になっているために、硬質壁掘削用のビットをさらに配置することが困難な場合に、極めて有効である。
【0072】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0073】
例えば、カッタヘッド2に設置されたカッタビット20の設置高さなどの寸法は一例に過ぎず、本発明がこれらの数値に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上の説明では、本発明を泥水圧式のシールド掘進機に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、泥土圧式のシールド掘進機等、他のシールド掘進機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 シールド掘進機
2 カッタヘッド(カッタ盤)
2-1 ハブ部
2-2 メインスポーク
2-3 格納式スポーク
2-4 面板部
2-5 外周リング部
3 機器本体
3a 前胴プレート
3b 後胴プレート
4 泥水室
4a 穴
20 カッタビット
21 センタビット(カッタビット)
22a,22b リッパ型ビット(カッタビット)
23 複合型カッタビット(カッタビット)
23a 第1のビット
23aa 第1のビット本体
23ab 第1のチップ
23b 第2のビット
23ba 第2のビット本体
23bb 第2のチップ
24 先行ビット(土砂掘削用カッタビット・カッタビット)
25 複合型カッタビット(カッタビット)
25a 第1のビット
25a 第1のビット本体
25ab 第1のチップ
25b 第2のビット
25ba 第2のビット本体
25bb 第2のチップ
26 外周ビット(土砂掘削用カッタビット・カッタビット)
30 スクレーパツース(カッタビット)
30a 外周スクレーパツース(カッタビット)
31 コピービット(カッタビット)
F1 対向面
F2 傾斜面
P 切削部
S1 すくい面
S2 逃げ面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11