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特許7012986内方傾斜形状を有した船首形状、内方傾斜形状を有した船首形状を備えた船舶、及び内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法
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  • 特許-内方傾斜形状を有した船首形状、内方傾斜形状を有した船首形状を備えた船舶、及び内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】内方傾斜形状を有した船首形状、内方傾斜形状を有した船首形状を備えた船舶、及び内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/06 20060101AFI20220124BHJP
   B63B 71/00 20200101ALI20220124BHJP
【FI】
B63B1/06 Z
B63B71/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017071193
(22)【出願日】2017-03-31
(65)【公開番号】P2018172022
(43)【公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝
(72)【発明者】
【氏名】赤松 顕子
(72)【発明者】
【氏名】穴井 麻利子
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/079710(WO,A1)
【文献】特開昭53-064392(JP,A)
【文献】特開昭61-291286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/06
B63B 1/32
B63B 1/40
B63B 71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船体の船首形状であって、前記船体の船首部のステムラインの一部が後退して前記船体の一部が内方に傾斜した内方傾斜形状を有し、前記ステムラインの前記内方傾斜形状が下方の起点と上方の終点の間に形成される上面部を有した2段を成す形状であり、前記船舶の航行時に前記船首部に生じる前記船舶毎の代表的な速度として設計時に設定されている航海速力によって波のない状態である平水中を走行する時に生じる水面の盛り上がり位置である静的水位上昇位置が、後退した前記ステムラインの前記上面部の前記起点と前記終点の範囲内にあるように前記ステムラインの形状を設定したことを特徴とする内方傾斜形状を有した船首形状。
【請求項2】
前記船体を正面視したときの前記ステムラインの前記上面部の下方の前記起点が、前記静的水位上昇位置と略一致していることを特徴とする請求項1に記載の内方傾斜形状を有した船首形状。
【請求項3】
前記船体を側面視したときの前記内方傾斜形状の前記起点を含む包絡線が、前記静的水位上昇位置に沿ったものであることを特徴とする請求項2に記載の内方傾斜形状を有した船首形状。
【請求項4】
前記船体を正面視したときの前記ステムラインの前記上面部の上方の前記終点が、前記上面部に乗り上げた前記静的水位上昇位置と略一致していることを特徴とする請求項1に記載の内方傾斜形状を有した船首形状。
【請求項5】
前記船体を側面視したときの前記内方傾斜形状の前記終点を含む包絡線が、前記静的水位上昇位置に沿ったものであることを特徴とする請求項4に記載の内方傾斜形状を有した船首形状。
【請求項6】
前記船体を側面視したときの前記ステムラインの前記上面部を水平に形成したことを特徴とする請求項1から請求項5のうちの1項に記載の内方傾斜形状を有した船首形状。
【請求項7】
前記静的水位上昇位置の最高点が前記船首部の水切り位置よりも後方にある場合は、前記ステムラインが後退した形状の範囲を、前記静的水位上昇位置の前記最高点までの間としたことを特徴とする請求項1から請求項6のうちの1項に記載の内方傾斜形状を有した船首形状。
【請求項8】
前記ステムラインは一旦後退した後、上方に向かって再度前方に傾斜する形状又は直立する形状であることを特徴とする請求項1から請求項7のうちの1項に記載の内方傾斜形状を有した船首形状。
【請求項9】
前記再度前方に傾斜する形状は、フレア形状であることを特徴とする請求項8に記載の内方傾斜形状を有した船首形状。
【請求項10】
前記ステムラインの前記上面部は下方に行くに従い前記船体の船幅が増加する形状であることを特徴とする請求項1から請求項9のうちの1項に記載の内方傾斜形状を有した船首形状。
【請求項11】
請求項1から請求項10のうちの1項に記載の前記内方傾斜形状を有した船首形状を前記船体に備えたことを特徴とする内方傾斜形状を有した船首形状を備えた船舶。
【請求項12】
請求項1から請求項10のうちの1項に記載の内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法であって、前記船体の平水中抵抗を最適化した後に、前記船体の波浪中抵抗増加を低減するために前記静的水位上昇位置が前記ステムラインの前記上面部の前記起点と前記終点の範囲内にあるように前記ステムラインの形状を最適化したことを特徴とする内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法。
【請求項13】
前記ステムラインの形状の最適化に当ってはブラントネス係数を用いたことを特徴とする請求項12に記載の内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内方傾斜形状を有した船首形状、内方傾斜形状を有した船首形状を備えた船舶、及び内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、内方傾斜船首形状を有しない従来の肥大船200の船首部を示す要部平面図である。
図7では、船体中心線210、上甲板220、静止水線230、錨240を示している。肥大船200は、静止水線230での形状が船体の外側に凸形状であるため、波浪中抵抗増加を効果的に減少させる三角形形状250への変更が難しい。
ここで、特許文献1では、波浪中での船体抵抗を減少させるために、船首部の肋骨線を船体の内側に凹ます形状が提案されている(特に図1及び段落番号(0010))。
また、特許文献2では、軽荷状態での波浪による抵抗を減少させるために、船底部を略V字状とし、船首部の側面部に凸部を形成することが提案されている。
また、特許文献3では、波浪中抵抗増加を減少させるために、最大喫水よりも上方に船体中心線側にくびれた凹部を形成し、凹部の中心の高さを、水頭の0.5倍以上3.0倍以下の範囲内の高さとすることが提案されている。
また、特許文献4では、航行時の抵抗を低減するために、船首の載荷水線よりも上の部分が従来と比較して内側に凹んだ船舶が提案されている。 また、特許文献5では、波浪抵抗及び風圧抵抗の影響を同時に低減させるために、喫水線より下方の領域で最先端部を有する下部船首プロファイルと、船尾部の方向に後傾する上部船首プロファイルとを備え、喫水線より上方又は下方の領域で内側に傾斜した負のフレア角を有する船首形状が提案されている。
また、特許文献6では、平水中走行性能を損なうことなく波浪中抵抗増加を減少させるために、船首部のフレームライン形状が、静的上昇位置から上方の位置で内方に傾斜した内方傾斜形状を有する内方傾斜船首形状が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-33071号公報
【文献】特開2011-178334号公報
【文献】特開2007-237895号公報
【文献】米国特許第3443544号明細書
【文献】特開2012-17089号公報
【文献】国際公開第2015/079710号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、満載喫水線の近傍から上を凹ましており、静的水位上昇位置を考慮していないばかりか、この凹みの上面部よりも上方が静的水位上昇位置よりも下方に位置することもあるため、平水中走行性能を損なうことがある。また、凹みを大きくして設計の自由度を増加させようとする思想はない。
また、特許文献2では、凸部の形成によって、凸部の上方に若干の凹みが生じているが、この凹みは静的上昇位置(図中のDWL’のライン)より下方に位置しているため、静的上昇位置より上方は、外方へ傾斜している。従って、この凹みによっては、波浪中抵抗増加を減少させることはできない。
また、特許文献3では、凹部の中心の高さは静的水位上昇位置を考慮したものではないため、平水中走行性能が変化するとともに、波浪中抵抗増加の減少効果も限られたものである。また、凹部を大きくして設計の自由度を増加させようとする思想はない。
また、特許文献4では、載荷水線よりも上の部分が内側に凹んでおり、静的水位上昇位置を考慮していない。また、凹みを大きくして設計の自由度を増加させようとする思想はない。
また、特許文献5では、喫水線より上方又は下方の領域に負のフレア角をもたせるものであり、静的水位上昇位置を考慮していない。
また、特許文献6では、静的水位上昇位置を考慮して内方傾斜形状を設けることが開示されているが、内方傾斜形状を大きくして設計の自由度を増加させようとする思想はない。
また、特許文献1から6のいずれにも、内方傾斜形状を形成するに当たり、静的水位上昇位置を考慮してステムラインを後退させる思想は開示されていない。
【0005】
そこで本発明は、平水中走行性能を損なうことなく波浪中抵抗増加を減少させることができ、また、大きな内方傾斜形状を容易に得ることができる内方傾斜形状を有した船首形状、内方傾斜形状を有した船首形状を備えた船舶、及び内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した内方傾斜形状を有した船首形状においては、船舶の船体の船首形状であって、船体の船首部のステムラインの一部が後退して船体の一部が内方に傾斜した内方傾斜形状を有し、ステムラインの内方傾斜形状が下方の起点と上方の終点の間に形成される上面部を有した2段を成す形状であり、船舶の航行時に船首部に生じる船舶毎の代表的な速度として設計時に設定されている航海速力によって波のない状態である平水中を走行する時に生じる水面の盛り上がり位置である静的水位上昇位置が、後退したステムラインの上面部の起点と終点の範囲内にあるようにステムラインの形状を設定したことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、ステムラインの一部を後退させることによって大きな内方傾斜形状を容易に得ることができるため、設計の自由度が増加する。また、静的水位上昇位置がステムラインの上面部の起点と終点の範囲内にあるようにステムラインの形状を設定することで、平水中走行性能を損なうことなく、波浪中抵抗増加を効果的に減少させることができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、船体を正面視したときのステムラインの上面部の下方の起点が、静的水位上昇位置と略一致していることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、起点を静的水位上昇位置と略一致させてステムラインの一部を後退させることができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、船体を側面視したときの内方傾斜形状の起点を含む包絡線が、静的水位上昇位置に沿ったものであることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、後退したステムラインの上面部の後方において静的水位上昇位置に沿って内方傾斜形状を形成できる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、船体を正面視したときのステムラインの上面部の上方の終点が、上面部に乗り上げた静的水位上昇位置と略一致していることを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、終点を静的水位上昇位置と略一致させてステムラインの一部を後退させることができる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、船体を側面視したときの内方傾斜形状の終点を含む包絡線が、静的水位上昇位置に沿ったものであることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、後退したステムラインの上面部の後方において静的水位上昇位置に沿って内方傾斜形状を形成できる。
【0011】
請求項6記載の本発明は、船体を側面視したときのステムラインの上面部を水平に形成したことを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、ステムラインが後退した形状を単純化でき、製作が容易となる。
【0012】
請求項7記載の本発明は、静的水位上昇位置の最高点が船首部の水切り位置よりも後方にある場合は、ステムラインが後退した形状の範囲を、静的水位上昇位置の最高点までの間としたことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、平水中走行性能を損なうことなく、波浪中抵抗増加を効果的に減少させることができる。
【0013】
請求項8記載の本発明は、ステムラインは一旦後退した後、上方に向かって再度前方に傾斜する形状又は直立する形状であることを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、ホエールバック船型以外の肥大船に適用できる。
【0014】
請求項9記載の本発明は、再度前方に傾斜する形状は、フレア形状であることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、ステムラインを後退させない場合と同じ上甲板面積を確保することができる。
【0015】
請求項10記載の本発明は、ステムラインの上面部は下方に行くに従い船体の船幅が増加する形状であることを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、船幅を大きくすることができる。
【0016】
請求項11記載の本発明に対応した内方傾斜形状を有した船首形状を備えた船舶は、内方傾斜形状を有した船首形状を船体に備えたことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、平水中走行性能を損なうことなく波浪中抵抗増加を効果的に減少させる内方傾斜形状を有した船首形状を備えた船舶を提供できる。
【0017】
請求項12記載の本発明に対応した内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法は、船体の平水中抵抗を最適化した後に、船体の波浪中抵抗増加を低減するために静的水位上昇位置がステムラインの上面部の起点と終点の範囲内にあるようにステムラインの形状を最適化したことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、平水中走行性能を損なうことなく波浪中抵抗増加を効果的に減少させる内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法を提供できる。
【0018】
請求項13記載の本発明は、ステムラインの形状の最適化に当ってはブラントネス係数を用いたことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、水切り角による船首部の端部形状だけでなく、水線面形状全体で船首形状を評価するため、内方傾斜形状を有した船首形状を備えた船舶に対して最適設計を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の内方傾斜形状を有した船首形状によれば、ステムラインの一部を後退させることによって大きな内方傾斜形状を容易に得ることができるため、設計の自由度が増加する。また、静的水位上昇位置がステムラインの上面部の起点と終点の範囲内にあるようにステムラインの形状を設定することで、平水中走行性能を損なうことなく、波浪中抵抗増加を効果的に減少させることができる。
【0020】
また、船体を正面視したときのステムラインの上面部の下方の起点が、静的水位上昇位置と略一致している場合には、起点を静的水位上昇位置と略一致させてステムラインの一部を後退させることができる。
【0021】
また、船体を側面視したときの内方傾斜形状の起点を含む包絡線が、静的水位上昇位置に沿ったものである場合には、後退したステムラインの上面部の後方において静的水位上昇位置に沿って内方傾斜形状を形成できる。
【0022】
また、船体を正面視したときのステムラインの上面部の上方の終点が、上面部に乗り上げた静的水位上昇位置と略一致している場合には、終点を静的水位上昇位置と略一致させてステムラインの一部を後退させることができる。
【0023】
また、船体を側面視したときの内方傾斜形状の終点を含む包絡線が、静的水位上昇位置に沿ったものである場合には、後退したステムラインの上面部の後方において静的水位上昇位置に沿って内方傾斜形状を形成できる。
【0024】
また、船体を側面視したときのステムラインの上面部を水平に形成した場合には、ステムラインが後退した形状を単純化でき、製作が容易となる。
【0025】
また、静的水位上昇位置の最高点が船首部の水切り位置よりも後方にあり、ステムラインが後退した形状の範囲を、静的水位上昇位置の最高点までの間とした場合には、平水中走行性能を損なうことなく、波浪中抵抗増加を効果的に減少させることができる。
【0026】
また、ステムラインは一旦後退した後、上方に向かって再度前方に傾斜する形状又は直立する形状である場合には、ホエールバック船型以外の肥大船に適用できる。
【0027】
また、再度前方に傾斜する形状がフレア形状である場合には、ステムラインを後退させない場合と同じ上甲板面積を確保することができる。
【0028】
また、ステムラインの上面部は下方に行くに従い船体の船幅が増加する形状である場合には、船幅を大きくすることができる。
【0029】
本発明の内方傾斜形状を有した船首形状を備えた船舶によれば、平水中走行性能を損なうことなく波浪中抵抗増加を効果的に減少させる内方傾斜形状を備えた船舶を提供できる。
【0030】
本発明の内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法によれば、平水中走行性能を損なうことなく波浪中抵抗増加を効果的に減少させる内方傾斜形状を有した船首形状の設計方法を提供できる。
【0031】
また、ステムラインの形状の最適化に当ってはブラントネス係数を用いた場合には、水切り角による船首部の端部形状だけでなく、水線面形状全体で船首形状を評価するため、内方傾斜形状を有した船首形状を備えた船舶に対して最適設計を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態による内方傾斜船首形状を有した船舶の概略図
図2】同内方傾斜形状の例を示す図
図3】同ステムラインの後退例を示す図
図4】本発明の実施形態に対応した内方傾斜船首形状の設計方法の説明図
図5】他の実施形態による内方傾斜船首形状を有した船舶の概略図
図6】同ステムラインの後退例を示す図
図7】内方傾斜船首形状を有しない従来の肥大船の概略図
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の一実施形態による内方傾斜船首形状、及び内方傾斜船首形状を備えた船舶について図1から図3を用いて説明する。
図1は本発明の一実施形態による内方傾斜船首形状を有した船舶の概略図であり、図2は同内方傾斜形状の例を示す図であり、図3は同ステムラインの後退例を示す図である。
【0034】
図1(a)は本実施形態による船舶の船首部を示す要部側面図、図1(b)は同船舶の船首部船体正面図、図1(c)は図1(a)のB-B線断面における正面図である。図1では、船体中心線30、船体の静止水線31、及び静的水位上昇線32を示している。本実施形態による船舶は肥大船であり、船首部の水線面形状が凸形状である。なお、図1(b)及び(c)は船体の半分を示している。また、図1(b)及び(c)の静的水位上昇線32は幅方向の水的水位上昇位置を示している。
図1(a)において、本実施形態における船舶の船体10の船首部のステムライン11を実線で示し、従来の船首部のステムライン111を点線で示している。ステムライン11は、船首バルブ12の上面後端から上方へ立ち上がり、一旦後方に傾斜した後、再度前方に傾斜して上甲板13に接続している。このように、ステムライン11の一部は、従来のステムライン111よりも後退している。
ステムライン11のうち再度前方に傾斜した部分の形状は、上方に向かって広がるフレア形状としている。これにより、ステムラインを後退させていない従来のステムライン111の場合と同じ上甲板面積を確保することができる。
また、ステムライン11の上面11Aは、下方に行くに従い船体10の船幅が増加する形状とし、これにより船幅を大きくしている。
また、図1(b)に示すように、船体10の船首部のフレームライン形状は、内方に傾斜した内方傾斜形状20を有する。内方傾斜形状20は、内方傾斜開始位置となる起点21から内方傾斜終了位置となる内方傾斜形状20の終点22に至る形状であり、起点21から終点22まで内方に傾斜している。内方傾斜形状20を有することで、船首部の水線面形状は船体中心線30側に近づき細くなるため、波浪中抵抗増加を生じる船首部での船体10の前方へ反射する波を減少させることができるとともに、波浪中抵抗増加を効果的に減少させることができる。なお、図1(b)においては、従来のステムライン111の内方傾斜形状120を点線で示している。
内方傾斜形状20は、静的水位上昇位置の最高点Pに近い部分での傾斜度をそれ以外の部分での傾斜度よりも大きく設定し、外側に向かって傾斜度が徐々に小さくなるように形成されている。この形状により、波浪に対し効果的に抵抗低減を図るとともに抵抗増加を極力抑えることができる。
【0035】
ステムライン11の一部を後退させることにより、ホエールバック船型以外の肥大船において、大きな内方傾斜形状20を容易に得ることができ、設計の自由度が増加する。例えば図2に示すように、内方傾斜形状20の高さを増加させたり、内方傾斜形状20の内方傾斜の入れ込み量を増加させたりすることができる。
図2(a)は、内方傾斜形状20の高さを増加させたものであり、本実施形態の内方傾斜形状20を実線で示し、従来の内方傾斜形状120を点線で示している。本実施形態の内方傾斜形状20は、従来の内方傾斜形状120に比べて高さが増加していることが分かる。
図2(b)は、内方傾斜形状20の高さを増加させた状態と、内方傾斜形状20の内方傾斜の入れ込み量を増加させた状態とを比較している。高さを増加させた内方傾斜形状20を実線で示し、入れ込み量を増加させた内方傾斜形状20を破線で示している。入れ込み量を増加させた本実施形態の内方傾斜形状20は、図2(a)に示す従来の内方傾斜形状120に比べて内方傾斜の入れ込み量が増加していることが分かる。
【0036】
図1に示すように、ステムライン11の形状は、静的水位上昇位置が、ステムライン11の上面部11Aの範囲X内にあるように設定している。ここで「静的水位上昇位置」とは、船舶の航行時に船首部に生じる船舶毎の代表的な速度として設計時に設定されている航海速力によって波のない状態である平水中を走行する時に生じる水面の盛り上がり位置である。ステムライン11の上面部11Aの範囲X内、すなわち上面部11Aの下方の起点から上面部11Aの上方の終点までの間に静的水位上昇位置があるようにステムライン11の形状を設定することで、平水中走行性能を損なうことなく、波浪中抵抗増加を効果的に減少させることができる。
【0037】
ここで、図1(a)に示すように静的水位上昇線32が水切り位置14から後方に向かって一旦上がって下がる場合、すなわち静的水位上昇位置の最高点Pが船首部の水切り位置14よりも後方にある場合において、ステムライン11の後退量(ステムライン11のうち一旦後方に傾斜した部分の後端)は、内方傾斜開始位置である内方傾斜形状20の起点21を静的水位上昇位置よりも下方にすることのできる範囲内(図1(a)に示す二点鎖線Y)で、静的水位上昇位置の最高点Pに対応する位置か、それよりも前方とすることが好ましい。これにより、平水中走行性能を損なうことなく、波浪中抵抗増加を効果的に減少させることができる。
【0038】
なお、船体10を正面視したときのステムライン11の上面部11Aの下方の起点を、静的水位上昇位置と略一致させてもよい。これにより、上面部11Aの起点を静的水位上昇位置と略一致させてステムライン11の一部を後退させることができる。
この場合さらに、船体10を側面視したときの内方傾斜形状20の起点21を含む包絡線が、静的水位上昇位置に沿うように設定することで、後退したステムライン11の上面部11Aの後方において静的水位上昇位置に沿って内方傾斜形状20を形成できる。これにより、平水中走行性能を損なうことなく波浪中抵抗増加を効果的に減少させることができる。
【0039】
また、船体10を正面視したときのステムライン11の上面部11Aの上方の終点を、上面部11Aに乗り上げた静的水位上昇位置と略一致させてもよい。これにより、上面部11Aの終点を静的水位上昇位置と略一致させてステムライン11の一部を後退させることができる。
この場合さらに、船体10を側面視したときの内方傾斜形状20の終点22を含む包絡線が、静的水位上昇位置に沿うように設定することで、後退したステムライン11の上面部11Aの後方において静的水位上昇位置に沿って内方傾斜形状20を形成できる。これにより、平水中走行性能を損なうことなく波浪中抵抗増加を効果的に減少させることができる。
【0040】
また本実施形態では、ステムライン11は、再度前方に傾斜する形状としたが、上甲板13の面積をさほど必要としない場合は、一旦後方に傾斜した後、上方に向かって直立した形状としてもよい。これにより、想定を越えて波浪が大きいときに抵抗増加を低減することができる。
【0041】
また、ステムライン11の上面部11Aは、図3(a)に示すように、水平に形成することができる。これによりステムライン11が後退した形状を単純化でき、製作が容易となる。
また、図3(b)のように、静的水位上昇線32が水切り位置14から後方に向かって上がらない場合、すなわち静的水位上昇位置の最高点Pが船首部の水切り位置14よりも後方にない場合は、ステムライン11の上面部11Aを後下方に傾斜させてもよい。これによりステムライン11を2段に形成することができる。
なお、図3(c)は、図3(b)のB-B線断面における正面図であり、船体の半分を示している。図3(c)においては、内方傾斜船首形状を有しない従来の肥大船200の断面形状260を破線で示している。
【0042】
次に、図4を用いて上記実施形態に対応した内方傾斜船首形状の設計方法について説明する。
まず、平水中抵抗を最適化する設計をし、その後に、波浪中抵抗増加を減少するために静的水位上昇位置がステムライン11の上面部11Aの範囲内にあるようにステムライン11の形状を最適化する設計をする。
平水中抵抗を最適化する設計をするとき、設計速度で航走するときの平水中抵抗をCFD(Computational Fluid Dynamics)により計算する。平水中の抵抗は、例えばナビエーストークス(Navier-Stokes)ソルバーである流体解析ソフト(NEPTUNE,SURF)(海上技術安全研究所)を用いることができる。最適化手法には、遺伝的アルゴリズムを用いることができる。
波浪中抵抗増加を減少するために静的水位上昇位置がステムライン11の上面部11Aの範囲内にあるようにステムライン11の形状を最適化する設計をするとき、静的水位上昇線32より上部の形状で求まるブラントネス係数を用いる。
ブラントネス係数は、内方傾斜形状20の水線面形状に沿って取った線素dlと船体中心線からの開き角βwと、入射波の波向きαから決まる。ブラントネス係数は、以下の式により算出される。IとIIは図4に示す積分範囲である。
【0043】
【数1】
【0044】
ステムライン11の形状を最適化する設計をするに当ってブラントネス係数を用いた場合には、水切り角による船首部の端部形状だけでなく水線面形状全体で船首形状を評価するため、水線面形状を効果的に波浪中抵抗増加を減少させる三角形形状もしくはそれに近い形状とすることで、肥大船を含む内方傾斜船首形状を有した船舶に対して最適な設計を行うことができる。
【0045】
次に、他の実施形態による内方傾斜船首形状、及び内方傾斜船首形状を備えた船舶について図5及び図6を用いて説明する。なお、上記実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0046】
図5(a)は本実施形態による船舶の船首部を示す要部側面図、図5(b)は同船舶の船首部船体正面図である。また、図6(a)は同ステムラインの後退例を示す図、図6(b)は同ステムラインの他の後退例を示す図、図6(c)は図6(b)のB-B線断面における正面図である。
図5(a)に示すように、本実施形態は、後退したステムライン11の上面部11Aが静的水位上昇位置よりも上方にある点において上述した実施形態と異なる。
図5(a)において、本実施形態における船体10の船首部のステムライン11を実線で示し、従来の船首部のステムライン111を点線で示している。ステムライン11は、船首バルブ12の上面後端から上方へ立ち上がり、一旦後方に傾斜した後、再度前方に傾斜している。このようにステムライン11の一部は、従来のステムライン111よりも後退している。
ステムライン11の一部を後退させることにより、ホエールバック船型以外の肥大船において、大きな内方傾斜形状20を容易に得ることができ、設計の自由度が増加する。例えば、内方傾斜形状20の高さを増加させたり、内方傾斜形状20の内方傾斜の入れ込み量を増加させたりすることができる。
【0047】
また、ステムライン11の上面部11Aは、図6(a)に示すように、水平に形成することができる。これによりステムライン11が後退した形状を単純化でき、製作が容易となる。
また、図6(b)のように、静的水位上昇線32が水切り位置14から後方に向かって上がらない場合、すなわち静的水位上昇位置の最高点Pが船首部の水切り位置14よりも後方にない場合は、ステムライン11の上面部11Aを後下方に傾斜させてもよい。これによりステムライン11を2段に形成することができる。
また、ステムライン11の上面部11Aは、下方に行くに従い船体10の船幅が増加する形状とするが、図6(c)に示すように、静的水位上昇線32より上方でフレア形状23としてもよい。なお、図6(c)は、図6(b)のB-B線断面における正面図であり、船体の半分を示している。図6(c)においては、内方傾斜船首形状を有しない従来の肥大船200の断面形状260を破線で示している。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、平水中走行性能を損なうことなく波浪中抵抗増加を効果的に減少させる船首形状、船舶、及び設計方法に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 船体
11 ステムライン
11A 上面部
14 水切り位置
20 内方傾斜形状
21 内方傾斜形状の起点
22 内方傾斜形状の終点
P 静的水位上昇位置の最高点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7