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特許7013009セルロース含有材料の製造方法およびバイオエタノールの製造方法、ならびに、リグニン含有グリセリンの製造方法
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  • 特許-セルロース含有材料の製造方法およびバイオエタノールの製造方法、ならびに、リグニン含有グリセリンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】セルロース含有材料の製造方法およびバイオエタノールの製造方法、ならびに、リグニン含有グリセリンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/10 20060101AFI20220207BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20220207BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20220207BHJP
   D21C 3/20 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C12P7/10 ZAB
B09B3/00 304Z
C08L97/00
D21C3/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018015612
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019129771
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】戸▲高▼ 昌俊
(72)【発明者】
【氏名】重松 幹二
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-045223(JP,A)
【文献】特開2008-274247(JP,A)
【文献】特開2010-051308(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/191845(JP,A1)
【文献】特開2007-119934(JP,A)
【文献】特開2009-185413(JP,A)
【文献】特開2015-006999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00-7/66
D21C 3/00-3/28
B09B 3/00
C08L 97/00
C13K 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸類と溶媒と木質原料とを含む混合液を加熱して、前記木質原料に含まれるリグニンを前記溶媒中に抽出する脱リグニン工程(A)と、
前記脱リグニン工程(A)後に、前記木質原料から抽出されたリグニンと前記脂肪酸類と前記溶媒とを含む溶液と、セルロース含有材料とに分離する固液分離工程(B)とを有し、
前記混合液が、前記溶媒100質量部に対して、前記脂肪酸類を10質量部以上100質量部以下含み、
前記脂肪酸類が、炭素数5以上25以下の一価の飽和炭化水素基を有する脂肪酸、炭素数5以上25以下の一価の不飽和炭化水素基を有する脂肪酸、及びそれらの塩からなる群から選択される1種以上であり、
前記溶媒が、グリセリン、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上を含むセルロース含有材料の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪酸類が、ラウリン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、エルカ酸、リシノール酸、ヒドロキシステアリン酸、及びそれらの塩からなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合液が、副生グリセリンと前記木質材料とを混合したものである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記脱リグニン工程(A)を常圧で行う請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記脱リグニン工程(A)において、230℃以上300℃以下で加熱を行う請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記脂肪酸類が、下記式(M1)で表される脂肪酸塩である請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
R-COO-M 式(M1)
(前記式(M1)中、Rは、炭素数5以上25以下の一価の飽和炭化水素基または炭素数5以上25以下の一価の不飽和炭化水素基を示し、Mは、金属原子を示す。)
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の製造方法により得られたセルロース含有材料を用いてバイオエタノールを製造するバイオエタノールの製造方法。
【請求項8】
脂肪酸類とグリセリンと木質原料とを含む混合液を加熱して、前記木質原料に含まれるリグニンを前記グリセリン中に抽出する脱リグニン工程(a)と、
前記脱リグニン工程(a)後に、前記木質原料から抽出されたリグニンと前記脂肪酸類と前記グリセリンとを含むリグニン含有グリセリンと、セルロース含有材料とに分離する固液分離工程(b)とを有し、
前記混合液が、前記溶媒100質量部に対して、前記脂肪酸類を10質量部以上100質量部以下含み、
前記脂肪酸類が、炭素数5以上25以下の一価の飽和炭化水素基を有する脂肪酸、炭素数5以上25以下の一価の不飽和炭化水素基を有する脂肪酸、及びそれらの塩からなる群から選択される1種以上であるリグニン含有グリセリンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース含有材料の製造方法および当該セルロース含有材料を用いたバイオエタノールの製造方法に関する。また、本発明は、リグニン含有グリセリンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木粉や木チップなどの木質の材料に含まれるセルロースは、バイオエタノールやパルプを製造する原料として用いることができる。一方で、これらの木質の材料は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンの3成分を主成分として含み、セルロースはリグニンやヘミセルロースと複雑に絡み合った構造をしている。バイオエタノールやパルプの製造では、通常、木粉や木チップなどからセルロースとリグニンとを分離する前処理が行われている。
【0003】
従来、セルロースとリグニンとを分離する方法としては、アルカリ水溶液や酸水溶液を用いた処理方法が知られている。
例えば、パルプ製造の前処理として、木質チップ等の木質材料を硫酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとを主成分とする水溶液に加えて170℃程度で加圧・加熱処理し、リグニンを溶出・分離するクラフトパルプ法が知られている。
特許文献1には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化カルシウムのうちいずれか一つの水酸化物を含み濃度を0.2重量%以上1重量%未満とする水酸化物水溶液によりアルカリ処理するアルカリ処理工程を有する草本系バイオマスの酵素加水分解の前処理方法が開示されている。
また、特許文献2には、リグノセルロース原料を酸処理する酸処理工程と、前記酸処理工程の反応物を固液分離する固液分離工程と、前記固液分離工程の残渣を湿式粉砕処理する粉砕処理工程とを含むリグノセルロースの前処理方法が開示されている。
【0004】
一方、有機溶媒を用いる方法として、特許文献3には、木質材料および農産物廃棄物等を含む植物バイオマス原料と、アルコール類に可溶であってかつ常圧での沸点が150~290℃の高沸点有機溶剤を50~80%含むアルコール性溶媒とを、液比4~10で耐圧容器に充填し、180~230℃に加熱処理するパルプ化工程と、パルプ化工程後の蒸解液からパルプ(粗パルプ)と廃液とを分離する工程と、分離されたパルプ(粗パルプ)を高沸点有機溶剤を含むアルコール性溶媒で洗浄して、パルプを取得するパルプ洗浄工程と、前記パルプ化工程からの廃液と、パルプ洗浄工程からの洗浄排出液とに水を加えてリグニンを沈殿させ、濾過してリグニンを取得する工程と、リグニン分離後の濾液から所定のアルコールおよび水を除去して、高沸点有機溶剤を含む溶剤を回収し、回収した高沸点有機溶剤を、パルプ化工程および/またはパルプ洗浄工程において再利用する工程とを含むパルプの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-125050号公報
【文献】特開2006-246711号公報
【文献】特開2008-45223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、クラフトパルプ法や、特許文献1や特許文献2の方法は、触媒として水酸化ナトリウム(NaOH)や硫化ナトリウム(Na2S)のような強アルカリや強酸を用いており、これらは毒性も高いため、環境負荷が大きく、耐酸性反応容器が必要であったり、排出される廃液の処理が複雑であった。
また、特許文献3の方法においても、リグニンの分解効率が十分とは言えず、更なる改善の余地があった。
かかる状況下、環境負荷が少ないセルロース含有材料やバイオエタノールの新たな製造方法が求められていた。
本発明は、このような実情に鑑みなされたものであって、本発明の目的は、環境負荷が少ないセルロース含有材料の製造方法およびバイオエタノールの製造方法を提供することである。
【0007】
一方、バイオディーゼル生産や石ケン生産においては、副生グリセリンが大量に排出されるが、この副生グリセリンは、石ケン等の不純物が存在する。そのため、セルロースとリグニンとの分離等の溶媒として用いるためには、副生グリセリン中の不純物を除去する必要があると考えられており、副生グリセリンは、廃棄またはサーマルリサイクルに利用される程度であった。しかしながら、グリセリンは発熱量が低いため、ボイラーの助燃剤としても効率は低いという問題があった。かかる状況下、本発明の目的は、グリセリンに比べて発熱量の高いリグニン含有グリセリンおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0009】
<1> 脂肪酸類と溶媒と木質原料とを含む混合液を加熱して、前記木質原料に含まれるリグニンを前記溶媒中に抽出する脱リグニン工程(A)と、前記脱リグニン工程(A)後に、前記木質原料から抽出されたリグニンと前記脂肪酸類と前記溶媒とを含む溶液と、セルロース含有材料とに分離する固液分離工程(B)とを有し、前記混合液が、前記溶媒100質量部に対して、前記脂肪酸類を10質量部以上100質量部以下含むものであるセルロース含有材料の製造方法。
<2> 前記溶媒が、グリセリン、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上を含む<1>に記載の製造方法。
<3> 前記混合液が、副生グリセリンと前記木質材料とを混合したものである<1>または<2>に記載の製造方法。
<4> 前記脱リグニン工程(A)を常圧で行う<1>から<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5> 前記脱リグニン工程(A)において、230℃以上300℃以下で加熱を行う<1>から<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6> 前記脂肪酸類が、下記式(M1)で表される脂肪酸塩である<1>から<5>のいずれかに記載の製造方法。
R-COO-M 式(M1)
(前記式(M1)中、Rは、炭素数2以上の一価の飽和炭化水素基または炭素数2以上の一価の不飽和炭化水素基を示し、Mは、金属原子を示す。)
<7> <1>から<6>のいずれかに記載の製造方法により得られたセルロース含有材料を用いてバイオエタノールを製造するバイオエタノールの製造方法。
【0010】
<8> 脂肪酸類と、リグニンと、グリセリンとを含むリグニン含有グリセリン。
<9> 脂肪酸類とグリセリンと木質原料とを含む混合液を加熱して、前記木質原料に含まれるリグニンを前記グリセリン中に抽出する脱リグニン工程(a)と、前記脱リグニン工程(a)後に、前記木質原料から抽出されたリグニンと前記脂肪酸類と前記グリセリンとを含むリグニン含有グリセリンと、セルロース含有材料とに分離する固液分離工程(b)とを有し、前記混合液が、前記溶媒100質量部に対して、前記脂肪酸類を10質量部以上100質量部以下含むものであるリグニン含有グリセリンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境負荷が少ないセルロース含有材料の製造方法および当該セルロース含有材料を用いたバイオエタノールの製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、グリセリンに比べて発熱量の高いリグニン含有グリセリンおよびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例で製造したセルロース含有材料中に残存するリグニンの含有量と反応時間との関係を示した図である。
図2】実施例で製造したリグニン含有グリセリンの高位発熱量と脱リグニン工程を行った回数の関係を示した図である。
図3】実施例で製造したセルロース含有材料および原料スギ木粉の糖化時間に対するグルコース濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0015】
<セルロース含有材料の製造方法>
本発明は、脂肪酸類と溶媒と木質原料とを含む混合液を加熱して、前記木質原料に含まれるリグニンを前記溶媒中に抽出する脱リグニン工程(A)と、前記脱リグニン工程(A)後に、木質原料から抽出されたリグニンと脂肪酸類と溶媒とを含む溶液と、セルロース含有材料とに分離する固液分離工程(B)とを有し、前記混合液が、溶媒100質量部に対して、脂肪酸類を10質量部以上100質量部以下含む混合液であるセルロース含有材料の製造方法(以下、「本発明のセルロース含有材料の製造方法」と称する場合がある。)に関する。
【0016】
本発明において、「セルロース含有材料」とは、脱リグニン処理された木質原料であり、未処理の木質原料よりリグリン含有量が少ないものを意味する。木質原料の主成分は、セルロースとヘミセルロースとリグニンである。この木質原料を脂肪酸類と溶媒とともに混合液中で加熱することにより、木質原料中に含まれるリグニンが溶媒に抽出されるため、脱リグニン処理された木質原料であるセルロース含有材料は、セルロースとヘミセルロースが主成分となり、リグニンの含有量を少ないものとすることができる。
また、加熱後、混合溶液中の液体成分は、抽出されたリグニンと脂肪酸類と溶媒とを含み、セルロース含有材料(脱リグニンされた木質原料)は固体成分となるため、固液分離することで、セルロース含有材料を得ることができる。
【0017】
本発明の特徴の一つは、脱リグニンを行うための触媒として脂肪酸類を用いることである。上述のように、従来、脱リグニンのための触媒としては、強酸や強アルカリが必要であると考えられていた。しかしながら、本発明者らは、オレイン酸ナトリウムを含むグリセリン溶液と木質原料とを混合した溶液を加熱処理することにより、木質原料中のリグニンを効率的にグリセリン溶液に溶出(脱リグニン)できるということを見出した。
脂肪酸類を触媒とすることにより、水酸化ナトリウム(NaOH)や硫化ナトリウム(Na2S)のような毒性の高い触媒を用いる従来法に比べて、環境負荷の少ない製造方法とすることができる。また、強酸や強塩基を使用しないため、耐酸性や耐アルカリ性の容器を使用する必要がなく、特別な設備が必要ないという利点も有する。
【0018】
[脱リグニン工程(A)]
本発明のセルロース含有材料の製造方法において、脱リグニン工程(A)は、脂肪酸類と溶媒と木質原料とを含む混合液を加熱して、前記木質原料に含まれるリグニンを前記溶媒中に抽出する工程である。また、脱リグニン工程(A)において加熱される混合液は、溶媒100質量部に対して、脂肪酸類を10質量部以上100質量部以下含むものである。
混合液中で木質原料を加熱することで木質原料に含まれるリグニンは抽出される。このとき、リグニンは高分子量を維持した状態で抽出されても、リグニン分解物として抽出されてもよい。
【0019】
(混合液)
用いられる混合液は、上述の通り、脂肪酸類と溶媒と木質原料とを含む溶液であり、溶媒100質量部に対して、脂肪酸類を10質量部以上100質量部以下含むものである。
脂肪酸類の量は少なすぎると、木質原料からリグニンが抽出されず、多すぎると溶液の粘性が高くなり、木質原料と混合しにくく取り扱いも困難となる。溶媒100質量部に対する脂肪酸類の量の下限は、10質量部以上であり、15質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。また、その上限は、100質量部以下であり、粘性がより低い混合液とするためには、45質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。
【0020】
(木質原料)
木質原料は、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを主成分として含む、本発明のセルロース含有材料の原料となる木質の材料のことである。木質原料としては、木片や木チップ、おがくず、鉋屑、木粉等が挙げられる。また、木の種類は特に限定されず、針葉樹であっても、広葉樹であってもよく、例えば、スギ、ヒノキ等が挙げられる。
また、木質原料は、目的に応じてその形状等を適宜決定すればよく、例えば、得られるセルロース含有材料をパイプ原料として利用する場合は、木チップのように繊維長の長いセルロースが含まれる木質原料を選択すればよい。また、得られるセルロース含有材料をバイオエタノールの原料として利用する場合は、木粉等の含まれるセルロースの繊維長が短い木質原料を用いてもよい。
これらの木質原料は、木材を粉砕処理等することにより得ることができる。粉砕方法は従来公知の方法を使用できる。
【0021】
(脂肪酸類)
脂肪酸類は、脂肪酸やその誘導体、脂肪酸塩のことである。なお、脂肪酸は、炭素数2以上の炭化水素基を有する一価のカルボン酸である。脂肪酸類は、加熱温度や溶媒種に応じて適宜選択される。例えば、本発明において用いられる脂肪酸類は、下記式(X1)で表される化合物である。
【0022】
R-COO-X 式(X1)
(前記式(X1)中、Rは、炭素数2以上の一価の飽和炭化水素基または炭素数2以上の一価の不飽和炭化水素基を示し、Xは、水素原子、金属原子、アンモニウムのいずれかを示す。)
【0023】
式(X1)において、Rは、炭素数2以上の一価の飽和炭化水素基または炭素数2以上の一価の不飽和炭化水素基である。なお、「一価の飽和炭化水素基」とは、単結合からなる炭化水素基のことである。また、「一価の不飽和炭化水素基」とは、二重結合を1以上有する炭化水素基のことである。一価の飽和炭化水素基または一価の不飽和炭化水素基としては、アルキル基やアルケニル基が挙げられる。
一価の飽和炭化水素基または一価の不飽和炭化水素基は、直鎖であっても分岐していてもよい。また、一価の飽和炭化水素基または一価の不飽和炭化水素基は、無置換でも、一部の水素が水酸基によって置換されていてもよい。
【0024】
式(X1)のRにおいて、一価の飽和炭化水素基または一価の不飽和炭化水素基の炭素数は2以上であるが、5以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましい。また、一価の飽和炭化水素基または一価の不飽和炭化水素基の炭素数は、25以下であることが好ましく、22以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
【0025】
式(X1)のXは、水素原子、金属原子、アンモニウムのいずれかであり、金属原子であることが好ましい。金属原子としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属原子、マグネシウムやカルシウム等のアルカリ土類金属原子、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。すなわち、脂肪酸類が、下記式(M1)で表される脂肪酸塩であることが好ましい。
【0026】
R-COO-M 式(M1)
(前記式(M1)中、Rは、炭素数2以上の一価の飽和炭化水素基または炭素数2以上の一価の不飽和炭化水素基を示し、Mは、金属原子を示す。)
【0027】
式(M1)のRは、式(X1)と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0028】
また、式(M1)のMで表される金属原子としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属原子、マグネシウムやカルシウム等のアルカリ土類金属原子、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。Mはアルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子であることが好ましく、Mはアルカリ金属原子であることがよりに好ましい。
【0029】
脂肪酸類(式(X1)または式(M1)で表される化合物)として具体的には、カプロン酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、カプリン酸、ラウリン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、エルカ酸、リシノール酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組合せて用いることができる。
これらの中でも、好適な脂肪酸類のひとつとしては、オレイン酸ナトリウムが挙げられる。
【0030】
(溶媒)
溶媒は、リグニンを抽出することができれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の2価の脂肪族多価アルコール、グリセリン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ヘプタトリオール、1,2,4-ヘプタトリオール、1,2,5-ヘプタトリオール、2,3,4-ヘプタトリオール等の3価の脂肪族多価アルコール、ペンタエリスリトール、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
溶媒は、常圧で脱リグニンを進行させるために、高沸点溶媒であることが好ましい。高沸点溶媒としては、沸点が180℃以上のものが好ましく、200℃以上のものがより好ましく、250℃以上のものがさらに好ましい。
【0032】
具体的には、溶媒は、グリセリン、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、グリセリンを含むことがより好ましい。
【0033】
また、グリセリン、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上は、溶媒の主成分として含まれることが好ましい。例えば、グリセリン、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上(好ましくは、グリセリン)を70質量%以上や75質量%以上、80質量%以上、90質量%以上含む溶媒を用いることができる。
なお、溶媒は、グリセリン、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコールからなる群から選択される1種以上のみからなってもよい。
【0034】
また、混合溶液中の溶媒の含有量は、45質量%以上や60質量%以上、70質量%以上とすることができる。また、混合溶液中の溶媒の含有量は、90質量%以下や85質量%以下とすることができる。
【0035】
混合液の調整方法は特に限定されず、脂肪酸類と溶媒とを混合した後に木質原料を加えても、脂肪酸類と木質原料とを混合した後に溶媒を加えても、溶媒と木質原料とを混合した後に脂肪酸類を加えてもよい。
【0036】
混合液を調製しやすく、また、混合液中の脂肪酸類と溶媒とをより均一に混合しやすくするため、混合液は、脂肪酸類と溶媒とを含む溶液と、木質原料とを混合することが好ましい。
混合液として、脂肪酸類と溶媒とを含む溶液と、木質原料とを混合したものを用いる場合、脂肪酸類と溶媒とを含む溶液中の脂肪酸類の含有量は、例えば、10質量%~50質量%や15~25質量%とすることができる。
【0037】
また、副生グリセリンは、溶媒となるグリセリンに脂肪酸ナトリウム等の脂肪酸類が不純物として含まれるため、副生グリセリンと木質原料とを混合して脱リグニン工程(A)に用いるための混合液を簡単に調製することができる。そのため、脱リグニン工程(A)で用いられる好適な混合液のひとつとしては、脂肪酸類およびグリセリンが含まれる副生グリセリンと、木質原料とを混合した溶液が挙げられる。
なお、「副生グリセリン(廃グリセリン)」とは、バイオディーゼルの生産や石ケンの生産において副生物として得られるグリセリンのことである。従来、脂肪酸類等の不純物が含まれる副生グリセリンは、廃棄またはサーマルリサイクルに利用される程度であった。このように、副生グリセリンを脱リグニンのために用いることは、副生グリセリンの新たな用途としても捉えることができる。
【0038】
混合液における液比(混合液に対する木質原料の質量比(木質原料の質量/混合液の質量×100))は、溶媒種や加熱条件等を考量して適宜決定すればよいが、液比が少なすぎるとセルロース含有材料の製造の効率が低下する。また、液比が多すぎると効率的にリグニンを抽出することが困難であり、さらに、木質原料と溶媒とを混合しにくくなり、加熱により木質原料が炭化してしまうおそれがある。液比の下限は、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、液比の上限は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
また、脱リグニン工程に用いられる混合液は、木質原料中のリグニンの抽出を阻害しない限り、脂肪酸類、溶媒、木質原料以外の成分を含んでもよい。例えば、一般的に、副生グリセリン中は、脂肪酸類や溶媒以外の他の不純物を含むものであるが、このような他の不純物を含む副生グリセリンと木質原料とを混合した混合液を用いて脱リグニン工程を行うことができる。
【0040】
(加熱処理)
脱リグニン工程(A)において、木質原料から溶媒中へリグニンを抽出するためには、加熱処理を行う必要がある。木質原料からリグニンを完全に抽出することは困難であるので、通常、セルロース含有材料にはリグニンが残存するものであるが、リグニンの残存量は少ない方が好ましい。加熱温度や加熱時間は、セルロース含有材料中に残存するリグリンの量が少なくなるように、溶媒や木質原料の種類、セルロース含有材料の用途等に応じて適宜調整される。
【0041】
加熱処理の条件は、脱リグニン率((木質原料に含まれるリグニン量-セルロース含有材料に含まれるリグニン量)/(木質原料に含まれるリグニン量)×100)が、20質量%以上となるように調整することができ、30質量%以上となるようにすることが好ましく、40質量%以上となるようにすることがより好ましく、50質量%以上となるようにすることがさらに好ましい。
【0042】
また、加熱温度や加熱時間は、セルロース含有材料中にリグニン量が20質量%以下となるように調整することが好ましく、10質量%以下となるように調整することがより好ましく、5質量%以下となるように調整することがさらに好ましい。
なお、セルロース含有材料に含まれるリグニン量は、クラーソン法にて求めることができる。クラーソン法は、例えば、木材学会編「木質科学実験マニュアル」(文永堂出版株式会社)に記載された方法に基づき行うことができる。
【0043】
セルロース含有材料に残存するリグニンの量を少なくするためには、加熱時間は、0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがさらに好ましい。加熱時間の上限は特に限定されないが、一定時間で反応が平衡となりそれ以上反応時間を長くしてもリグニンの抽出量は減少しにくい。加熱時間の上限としては、5時間以下とすることができ、3時間以下とすることが好ましい。
【0044】
加熱温度は、溶媒の種類等に応じて適宜決定される。加熱温度が低すぎると、木質原料に含まれるリグニンが溶媒中に抽出されにくく、加熱温度が高すぎると、木質原料が炭化する。そのため、加熱温度は、200℃以上が好ましく、210℃以上がより好ましい。また、その下限は、300℃以下であることが好ましい。
【0045】
特に、溶媒としてグリセリンを用いる場合、加熱温度の下限は、230℃以上が好ましく、240℃以上がより好ましい。また、その上限は、280℃以下が好ましく、260℃以下がさらに好ましい。
【0046】
脱リグニン工程(A)は、用いられる溶媒に応じて、加圧して行っても、常圧でおこなってもよい。例えば、圧力は0.1~0.5MPaや0.1~0.2MPaに設定できる。一方、加圧して行う場合、耐圧容器が必要となるため、設備やコストの観点から、脱リグニン工程(A)を常圧で行うことが好ましい。なお、「常圧」とは、特別に加圧も減圧もしていない大気圧程度の圧力のことであり、通常、0.1MPa付近の圧力であり、例えば、0.08~0.12MPa程度である。
【0047】
[固液分離工程(B)]
本発明のセルロース含有材料の製造方法において、固液分離工程(B)は、前記脱リグニン工程(A)後に行われる工程であり、木質原料から抽出されたリグニンと脂肪酸類と溶媒を含む溶液とセルロース含有材料とに分離する工程である。
【0048】
固液分離方法としては、遠心分離やろ過等の公知の固液分離する方法が挙げられる。
【0049】
得られるセルロール含有材料は、リグニンの含有量が20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。このようにリグニンの含有量が少ないセルロール含有材料は、例えば、バイオエタノールの製造原料に好適に使用できる。
【0050】
また、本発明のセルロース含有材料の製造方法では、脱リグニン工程(A)及び固液分離工程(B)以外の工程を有してもよい。例えば、上述のように、脱リグニン工程(A)の前に、木材を粉砕し木質原料を得る粉砕工程や混合液を調製する工程を設けてもよいし、固液分離工程(B)の後に、セルロース含有材料を洗浄する洗浄工程を設けてもよい。
【0051】
得られたセルロース含有材料は、バイオエタノールの原料やパルプの原料、セルロース誘導体の原料等に用いることができる。
【0052】
また、セルロース含有材料と分離された液体成分(木質原料から抽出されたリグニンと脂肪酸類と溶媒とを含む溶液)は、前記脱リグニン工程(A)に再利用することができる。具体的には、木質原料から抽出されたリグニンと脂肪酸類と溶媒とを含む溶液と木質原料とを混合することで、混合液を簡単に調整できる。
【0053】
<バイオエタノールの製造方法>
本発明のバイオエタノールの製造方法は、本発明のセルロース含有材料の製造方法により得られたセルロース含有材料を用いてバイオエタノールを製造する方法である。
上述のように、本発明のセルロース含有材料の製造方法により得られたセルロース含有材料は、バイオエタノールを製造するための原料として使用できる。バイオエタノールの製造方法は、特に限定されず従来公知の方法を用いることができる。
【0054】
特に、木質原料はリグニンが酵素反応を阻害するのでそのままでは酵素反応が進行しにくいが、本発明のセルロース含有材料は、リグニン量が少なく、容易に酵素糖化することができるため、酵素を利用したバイオエタノールの製造方法に好適に用いることができる。例えば、セルロースとリグニンとの接着が強固で脱リグニンされにくいスギを木質原料として用いて得られたセルロース含有材料であっても、酵素糖化が可能であり、バイオエタノールを製造できる。
【0055】
例えば、本発明のバイオエタノールの製造方法は、セルロース含有材料を酵素糖化し、糖化液を得る酵素糖化工程と、糖化液を発酵させ、エタノールを得る発酵工程とを有する製造方法とすることができる。
【0056】
酵素糖化は、通常は、糖化酵素を用いて行われる。より具体的には、酸性水溶液中で、セルロース含有材料と糖化酵素と水とを反応させることで、セルロース含有材料が分解され、グルコールやガラクトース、マントース等のC6糖類やキシロースやアルビノール等のC5糖類を含む糖化液が得られる。
【0057】
糖化酵素(酵素糖化に用いられる酵素)は、セルロースおよび/またはヘミセルロースを分解する酵素であれば特に限定されないが、セルラーゼ等が挙げられる。また、糖化酵素は1種の酵素を用いても、2種以上の酵素を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
また、酸性水溶液のpHは、3.0~7.0や3.0~6.0、4.0~5.0とすることができ、用いる糖化酵素の種類に応じた至適pHとなるように、クエン酸や酢酸等の酸を用いて適宜調整される。
【0059】
糖化酵素量は、セルロース含有材料100質量部に対して0.1~50質量部程度の範囲で、用いる糖化酵素のFPU活性に応じて適宜調整される。反応時間は、糖化酵素量によっても変化するものであるが、例えば、0.5~10日や1~7日とすることができる。また、反応温度は、用いる糖化酵素の至適温度の範囲であれば特に限定されないが、通常35~60℃程度であり、40~55℃であることがより好ましい。
【0060】
発酵は、通常は酵母を用いて行われる。糖化液を酵母で発酵させることにより、糖化液中のC6糖類やC5糖類が分解されエタノールに変換される。通常、糖化液中にサッカロマイシスセレビシエ等の酵母を一定量加え、30~35℃で嫌気発酵される。
【0061】
発酵工程は、酵素糖化工程の後に行ってもよいし、酵素糖化工程と同時に行ってもよい。得られたエタノールは、発酵液を蒸留することで回収することができる。
【0062】
<リグニン含有グリセリン>
また、本発明は、脂肪酸類とリグニンとグリセリンとを含むリグニン含有グリセリン(以下、「本発明のリグニン含有グリセリン」と称する場合がある。)に関する。
【0063】
リグニンの発熱量は20~30MJ/kgであり、グリセリンの発熱量(17~18MJ/kg)に比べて高発熱量であるため、本発明のリグニン含有グリセリンは、高発熱量グリセリン燃料として使用できる。
本発明のリグニン含有グリセリンは、リグニン含有量を、2質量%以上や4質量%以上、6質量%以上とすることができる。
また、本発明のリグニン含有グリセリンは、発熱量が20MJ/kg以上や23MJ/kg以上、25MJ/kg以上とすることができる。また、その上限は、33MJ/kg以下や30MJ/kg以下、28MJ/kg以下とすることができる。
【0064】
このような本発明のリグニン含有グリセリンは、脂肪酸類とグリセリンと木質原料とを含む混合液を加熱して、前記木質原料に含まれるリグニンを前記グリセリン中に抽出する脱リグニン工程(a)と、前記脱リグニン工程(a)後に、木質原料から抽出されたリグニンと脂肪酸類とグリセリンとを含むリグニン含有グリセリンと、セルロース含有材料とに分離する固液分離工程(b)とを有し、前記混合液が、溶媒100質量部に対して、脂肪酸類を10質量部以上100質量部以下含む混合液であるリグニン含有グリセリンの製造方法(以下、「本発明のリグニン含有グリセリンの製造方法」と称する場合がある。)を用いて好適に製造できる。
これは、上述した本発明のセルロース含有材料の製造方法において、溶媒をグリセリンとする製造方法であり、共通する構成を有し、本発明のリグニン含有グリセリンの製造方法における脱リグニン工程(a)は、本発明のセルロース含有材料の製造方法における脱リグニン工程(A)に対応し、本発明のリグニン含有グリセリンの製造方法における固液分離工程(b)は、本発明のセルロース含有材料の製造方法における固液分離工程(B)に対応するため、これらと同様に実施できる。
【0065】
このように脂肪酸類とグリセリンとを用いて木質原料に含まれるリグニンを可溶化し、グリセリンに溶出することで、リグニン含有グリセリンと、脱リグニンされたセルロース含有材料とが得られる。得られるリグニン含有グリセリンは、高発熱量グリセリン燃料として利用できると同時に、セルロース含有材料は、上述のようなバイオエタノールを製造するための原料やパルプを製造するための原料として利用できる。
【0066】
特に、上述のように、脂肪酸類とグリセリンと木質原料とを含む混合液は、バイオディーゼル製造で排出されるような石ケン等の脂肪酸類を多く含む副生グリセリンと木質原料との混合液とすることで、得られるリグニン含有グリセリンおよびセルロース含有材料を有効利用できるだけでなく、原料である副生グリセリンも有効に利用することができる。
【0067】
本発明のリグニン含有グリセリンの製造方法において、用いられる脂肪酸類や木質原料、加熱条件(加熱温度、加熱時間等)等は、本発明のセルロース含有材料の製造方法と同様である。好ましい態様も、本発明のセルロース含有材料の製造方法と同様である。
【0068】
また、本発明のリグニン含有グリセリンの製造方法において、さらに好ましい態様は、更に、脂肪酸類と溶媒とを含む溶液として、固液分離工程(b)にて得られたリグニン含有グリセリンを用いて、前記脱リグニン工程(a)と前記固液分離工程(b)とを繰り返し行う製造方法である。すなわち、前記脱リグニン工程(a)と、前記固液分離工程(b)とを有し、更に、固液分離工程(b)にて得られたリグニン含有グリセリンと木質原料とを混合した混合液を加熱して、木質原料に含まれるリグニンを前記リグニン含有グリセリン中に抽出する脱リグニン工程(a’)と、前記(a’)の後に、木質原料から抽出されたリグニンを含むリグニン含有グリセリンと、セルロース含有材料とに分離する固液分離工程(b’)とを有するリグニン含有グリセリンの製造方法である。
このようにすることで、リグニン含有グリセリン中のリグニン含有量が高くなり、より発熱量の高いリグニン含有グリセリンが得られる。
【実施例
【0069】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[原料]
・脂肪酸ナトリウム:オレイン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、#194-02635)
・酢酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、#190-01071)
・溶媒:グリセリン(和光純薬工業株式会社製、#075-00611)
・木質原料:スギ木粉(粒子径、177~350μm)(九州産スギ)
なお、針葉樹であるスギは日本で最も生産量の多い樹種である。スギのリグニンは広葉樹のリグニンと比較して強固な結合を持つため、容易にリグニンを取り除くことは出来ない。このような、スギ材でのグリセリン処理に成功すれば、広葉樹などその他の木材にも容易に応用が可能となると考え、スギを試験対象として選定した。
【0071】
[脂肪酸類と溶媒とを含む溶液の調製]
以下のようにオレイン酸ナトリウムとグリセリンを混合したグリセリン溶液(1)~グリセリン溶液(3)を、バイオディーゼルの副生グリセリンモデルとして用いて実験を行った。
・グリセリン100質量部に対してオレイン酸ナトリウムが25質量部となるように、オレイン酸ナトリウムとグリセリンを混合し、グリセリン溶液(1)を調整した。
・グリセリン100質量部に対してオレイン酸ナトリウムが11.1質量部となるように、オレイン酸ナトリウムとグリセリンを混合し、グリセリン溶液(2)を調整した。
・グリセリン100質量部に対してオレイン酸ナトリウムが5.3質量部となるように、オレイン酸ナトリウムとグリセリンを混合し、グリセリン溶液(3)を調整した。
【0072】
また、比較のために、グリセリン100質量部に対して酢酸ナトリウムが25質量部となるように、酢酸ナトリウムとグリセリンを混合し、グリセリン溶液(4)を調整した。
【0073】
表1に調整したグリセリン溶液(1)~グリセリン溶液(4)を示す。
【0074】
【表1】
【0075】
[実施例1-1]
(混合液の調整)
グリセリン溶液(1)100gにスギ木粉10gを投入し、混合液(1)(スギ木粉:グリセリン溶液(1)=1:10(wt/wt)の混合液)を調整した。
【0076】
(脱リグニン工程)
前記混合液(1)を250℃で、加熱時間0.5時間で加熱処理を行った。
【0077】
(固液分離工程)
反応後の混合液(1)を目開きが106μmの篩に投入し、遠心分離により固相(セルロース含有材料)と液相(リグニン含有グリセリン)とを分離した。
【0078】
(洗浄工程)
固相であるスギ木粉由来のセルロース含有材料をイオン交換水で3回洗浄し、105°Cで、恒量になるまで乾燥し、約5gのセルロース含有材料(1)を得た。
【0079】
[実施例1-2~実施例1-4]
脱リグニン工程の加熱時間を表2のように変更した以外は実施例1-1と同様にして、実施例1-2~実施例1-4を行った。
【0080】
[実施例2-1~実施例2-3]
脱リグニン工程の加熱温度および加熱時間を表2のように変更した以外は実施例1-1と同様にして、実施例2-1~実施例2-3を行った。
【0081】
[実施例3-1~実施例3-3、実施例4-1、実施例4-2]
脱リグニン工程において用いる混合液および加熱時間を表2のように変更した以外は実施例1-1と同様にして、実施例3-1~実施例3-3、実施例4-1および実施例4-2を行った。
【0082】
[比較例1~比較例3]
脱リグニン工程において用いる混合液および加熱時間を表2のように変更した以外は実施例1-1と同様にして、比較例1~比較例3を行った。
【0083】
【表2】
【0084】
[評価]
[脱リグニン挙動]
クラーソン法を用い、セルロース含有材料中に残留するリグニン量を測定した。クラーソン法は以下の手順でおこなった。
(手順1)得られたセルロース含有材料1gに72%硫酸を15ml加えた溶液(1)を、適宜撹拌しながら4時間放置した。
(手順2)4時間放置後の溶液(1)に560mlの蒸留水を加え硫酸濃度を約3%にした溶液(2)を、4時間還流させた。これによりセルロース分が加水分解されリグニンが残存する。
(手順3)4時間還流後の溶液(2)を、あらかじめ恒量としたガラスろ過器(1GP16)を用いて吸引ろ過する。
(手順4)ろ物を105℃で恒量になるまで乾燥し、ガラスろ過器ごと精秤することで、セルロース含有材料1gあたりのリグニン量((ろ物の質量(g)+ガラスろ過器の重さ(g))-(ガラスろ過器の重さ(g)))を算出した。
【0085】
図1に、原料のスギ木粉に含まれるリグニン量と、250°Cにて加熱処理後のセルロース含有材料中に含まれるリグニン量を示す。
原料のスギ木粉には、リグニンは約35質量%含まれていた。実施例1-1~実施例1-4の結果からわかるように、スギ木粉とグリセリン溶液(1)との混合液(1)を加熱処理した結果、30分ほどでリグニン含有量は急激に低下し、3時間でリグニン含有量が10質量%まで低下した。このことから、大部分のリグニンはグリセリンに可溶化していることになる。
一方で、比較例1、比較例2の結果からわかるように、スギ木粉とオレイン酸ナトリウムを含有していないグリセリン(試薬)との混合液(g)あるいはスギ木粉とグリセリン溶液(3)との混合液(3)を加熱処理した場合は、3時間加熱処理後に得られるセルロース含有材料でも35質量%ほどリグニンが残留しており、脱リグニンの効果は見られなかった。
また、比較例3のスギ木粉とグリセリン溶液(4)との混合液(4)を加熱処理した場合も、3時間加熱処理後に得られるセルロース含有材料には30質量%超のリグニンが残留していた。
【0086】
[リグニン含有グリセリン(グリセリン燃料)の高位発熱量の測定]
脱リグニンに用いたグリセリンと得られたリグニン含有グリセリンの高位発熱量を、ボンベ式熱量計(IKA社製、C5000)を用いて測定した。
図2にリグニン含有グリセリンの高位発熱量(単に、「発熱量」と称する場合もある)を示す。
反応時間0hのサンプルは試薬のグリセリンで、発熱量は17.8MJ/kgであった。
比較例1のグリセリン(脂肪酸ナトリウムを混合せずにスギ木粉を加熱処理して得られたグリセリン)の発熱量は処理前より、1MJ/kgほど低下した。
一方で、グリセリン溶液(1)で3時間処理して得られたリグニン含有グリセリン(実施例1-4)の発熱量は3MJ上昇した。この段階では、オレイン酸ナトリウムが混合されたことと、リグニンが可溶してグリセリンに溶出されたことの両方の作用によるものだと考えられる。
次に、実施例1-3、実施例4-1、実施例4-2で得られたリグニン含有グリセリンそれぞれの発熱量を測定したところ、脱リグニン工程を行った回数に応じて発熱量が上昇することが確認された。これは、グリセリンに溶出したリグニンの蓄積量が増加したことに起因していると考えられる。
【0087】
[酵素糖化]
バイオエタノールの製造の前処理法である酵素糖化への脱リグニンの効果を検討した。実施例1-1~実施例1-4により得られたセルロース含有材料1gに0.2gの酵素(セルロシンAC40)を用いて糖化した。pH4.5のクエン酸/クエン酸三ナトリウム緩衝液100mL中、50°C、1000rpmの攪拌速度の条件下で行った。グルコース濃度は酸素電極法を測定原理としたアントセンスIIIで定量した。
【0088】
図3は、250°C、グリセリン溶液(1)で処理し得られたセルロース含有材料(実施例1-1~実施例1-4)、未処理のスギ粉末(木質原料)および粉末濾紙(Cellulose powder)の糖化時間に対するグルコース濃度を示す。未処理のスギは10日経過後もほとんど糖化されていないが、グリセリン溶液(1)で処理し得られたセルロース含有材料(実施例1-1~実施例1-4)は、粉末濾紙に匹敵する糖化が達成できた。これより、脱リグニンの効果が表れたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
新たなセルロース含有材料の製造方法が提供される。特に、溶媒にグリセリンを用いることで、セルロース含有材料をバイオエタノール生産の原料とすることができることに加えて、高発熱グリセリン燃料の製造ができる。また、副生グリセリン(廃グリセリン)と未利用木材の利用も可能で、バイオディーゼルの製造コストが下がることとなり、「バイオディーゼル」、「グリセリン燃料」、「バイオエタノール燃料」全てのバイオ燃料普及拡大に寄与できることが期待される。また、近年多発している地震や水害などで発生する建築廃材や倒壊樹木などの有効利用法のひとつとして期待できる。
図1
図2
図3