(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】新規な筋骨格系幹細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20220207BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20220207BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220207BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220207BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20220207BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220207BHJP
A61P 5/18 20060101ALI20220207BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20220207BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20220207BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20220207BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61P19/00
A61P35/00
A61P19/02
A61P19/08
A61P1/02
A61P5/18
A61P19/04
A61K35/32
A61K35/34
(21)【出願番号】P 2020176686
(22)【出願日】2020-10-21
(62)【分割の表示】P 2020513478の分割
【原出願日】2018-10-24
【審査請求日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】10-2017-0139143
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCLRF KCLRF-BP-00460
(73)【特許権者】
【識別番号】519403978
【氏名又は名称】セラトズ セラピュティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ミュン-クァン
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/026878(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/055519(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/083281(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ESC(embryonic stem cell)又はiPSC(induced pluripotent stem cell)から分化された筋骨格系幹細胞(MSSC,musculoskeletal stem cell)であって、前記筋骨格系幹細胞は、下記の特徴を有することを特徴とし:
a)外胚葉マーカーであるネスチン(Nestin,NES)に対して陽性;
b)筋原性衛星マーカー(myogenic satellite marker)であるPax7に対して陽性;
c)中胚葉マーカーであるα-SMAに対して陽性;
d)全分化能マーカーであるLIN28に対して陰性;及び
f)中間葉幹細胞マーカーであるCD90に対して陰性、
前記筋骨格系幹細胞は、骨、軟骨、腱、靭帯、筋肉および脂肪に分化し得ることを特徴とする、筋骨格系幹細胞。
【請求項2】
前記筋骨格系幹細胞は中胚葉に分化されるが、外胚葉又は内胚葉には分化されないことを特徴とする、請求項1に記載の筋骨格系幹細胞。
【請求項3】
前記筋骨格系幹細胞は、筋肉、骨、軟骨、腱又は靭帯に分化される特性を有することを特徴とする、請求項1に記載の筋骨格系幹細胞。
【請求項4】
前記筋骨格系幹細胞は神経には分化されない特性を有することを特徴とする、請求項1に記載の筋骨格系幹細胞。
【請求項5】
前記筋骨格系幹細胞は内皮細胞には分化されない特性を有することを特徴とする、請求項1に記載の筋骨格系幹細胞。
【請求項6】
前記筋骨格系幹細胞は、韓国細胞株銀行に寄託番号第KCLRF-BP-00460号で寄託されたことを特徴とする、請求項1に記載の筋骨格系幹細胞。
【請求項7】
請求項1の筋骨格系幹細胞を含む筋骨格系疾患の予防又は治療用薬剤学的組成物。
【請求項8】
前記筋骨格系疾患は、骨多孔症、骨軟化症、骨形成不全症(osteogenesis
imperfecta)、骨化石症(osteopetrosis)、骨硬化症(osteosclerosis)、パジェット病(Paget’s disease)、骨癌、関節炎、くる病、骨折、歯周疾患、骨部分欠損、骨溶解性骨疾患、原発性及び続発性副甲状腺機能亢進症、過骨症、退行性関節炎、変形性膝関節症、変形性股関節症、変形性足関節症、変形性手関節症、変形性肩関節症、変形性肘関節症、膝蓋軟骨軟化症、単純性膝関節炎、離断性骨軟骨炎、上腕骨外側上顆炎、上腕骨内側上顆炎、ヘバーデン結節、ブシャール結節、変形性母指CM関節症、半月板損傷、椎間板変性、十字靭帯損傷、上腕二頭筋起始腱損傷、靭帯損傷、腱損傷、五十肩、回旋筋蓋裂傷、石灰化腱炎、肩インピンジメント症候群、再発性脱臼、習慣性脱臼、老化性筋消耗症及び筋異栄養症からなる群から選ばれる1つ又はそれ以上の疾患であることを特徴とする、請求項7に記載の薬剤学的組成物。
【請求項9】
請求項1の筋骨格系幹細胞を含む細胞治療剤。
【請求項10】
次の特徴を有する細胞を選別する段階を含む筋骨格系幹細胞のスクリーニング方法:
a)外胚葉マーカーであるネスチン(Nestin,NES)に対して陽性;
b)筋原性衛星マーカー(myogenic satellite marker)であるPax7に対して陽性;
c)中胚葉マーカーであるα-SMAに対して陽性;
d)全分化能マーカーであるLIN28に対して陰性;及び
f)中間葉幹細胞マーカーであるCD90に対して陰性。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋骨格組織に分化能を有する新規な筋骨格系幹細胞及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉、骨、関節などで構成される筋骨格系の疾患は、大きな活動の制約及び身体の痛みなどを引き起こす。筋肉、骨、関節機能の退化は、老化の進行に伴う避けられない結果である。筋骨格系機能の退化によってしばしば発生する疾患には退行性関節炎、腱炎、骨折、捻挫及び筋減少症などがある。最近、健康管理の改善によって寿命が延びており、それだけに筋骨格系疾患に病んでいる患者数も増えているが、健康な筋骨格が担保された健康な老化が成就されず、生活の質を悪化させている。
【0003】
骨化(ossification)は骨の形成過程であり、膜内骨化又は軟骨内骨化の2つの方法によると知られている。膜内骨化は、間葉組織が骨に転換される直接的な過程であり、頭蓋骨の骨内で起きる。一方、軟骨内骨化は、凝集した間葉細胞から軟骨組織が形成される過程後に軟骨組織が骨に転換される過程によって起きる。このような骨化過程は、脊椎動物において大部分の骨形成に必須である。
【0004】
一方、ヒト胚性幹細胞(human embryonic stem cells;hESCs)は全分化能細胞であり、制限なく生長が可能であり、全ての細胞種類に分化され得る。hESCは、細胞段階における胚芽発生研究に非常に有用な道具である上に、細胞代替治療に対する有用な道具でもある。hESCsは、例えば、骨及び軟骨を含む骨格組織を含む特異的組織に分化され、このため、骨格組織の修復に用いることができる。
【0005】
ヒト誘導万能幹細胞(human induces pluripotent stem cells;hiPSCs)は、いかなる細胞類型にも分化可能な能力を有する万能幹細胞と知られている。hiPSCは細胞レベルで胚芽発生を研究するのに有用であり、細胞治療剤として注目される細胞である。これらの細胞を移植することによって骨格組織、例えば骨及び軟骨に分化させることができ、損傷した骨格組織の回復及び治療に有用に用いることができる。
【0006】
中間葉幹細胞(Mesenchymal stem cells;MSCs)は自己再生し、造骨細胞、脂肪細胞及び軟骨細胞のような中間葉-類型の細胞に分化可能な細胞である。MSCは様々な条件で臨床試験に適用されており、これは、外傷、骨格系疾患、骨髄移植副作用である移植片対宿主病(graft versus host disease)、心血管疾患、自己免疫疾患、肝疾患などに対して行われている。しかし、治療的適用に必要なMSCの十分な量を得ることは非常に難しいという限界がある。また、実験管内で成長因子やビタミンなどであらかじめ骨、軟骨、脂肪に分化させる前分化過程(predifferentiation process)がないと、体内で中間葉幹細胞そのものが上記の組織に直接分化しない。中間葉幹細胞は、筋骨格を含む中間葉組織への直接分化に関与するよりは、いろいろなバイオファクターを分泌して内在的幹細胞を刺激し、損傷組織再生を促進する間接的促進機能があることが明らかになっている(Stem
Cells Transl Med.6(6):1445-1451,2017)。
【0007】
したがって、中間葉幹細胞の限界点を克服しながらも、軟骨内骨化を含む骨、軟骨、靭帯、筋肉へと体内で直接分化し得る細胞に関する研究の必要性が増している。
【0008】
上述の背景技術として説明された事項は本発明の背景に対する理解増進のためのものに過ぎず、この技術分野における通常の知識を有する者にとって、既に知らされた従来技術に該当することを認めるものとして受け取られてはならないだろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、ヒト胚性幹細胞(hESC)又はヒト誘導万能幹細胞(hiPSC)から筋骨格系幹細胞(hMSSC)を誘導でき、前記筋骨格系幹細胞が軟骨内骨化によって骨に分化可能であり、骨の他に、軟骨、腱、筋肉などの筋骨格組織にも分化可能であることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、本発明の目的は、筋骨格系幹細胞への分化誘導用培地組成物を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、前記培地でESC又はiPSCを培養する段階を含む筋骨格系幹細胞の製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、ESC又はiPSCから分化された筋骨格系幹細胞を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、前記筋骨格系幹細胞を含む筋骨格系疾患の予防又は治療用薬剤学的組成物を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、前記筋骨格系幹細胞のスクリーニング方法を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的及び利点は、後述する発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面によってさらに明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様によれば、本発明は、ノギン(noggin)、LIF(leukemia inhibitory factor)、bFGF(basic Fibroblast growth factor)、Wnt信号活性化剤、ERK(extracellular signal-regulated kinase)信号抑制剤、及びTGF-β/アクチビン/ノーダル(TGF-β/activin/nodal)信号伝達抑制剤を含む筋骨格系幹細胞(MSSC,musculoskeletal stem cell)への分化誘導用培地組成物を提供する。
【0017】
本発明者らは、ヒト胚性幹細胞又はヒト誘導万能幹細胞から筋骨格系幹細胞を誘導し得る最適の培地組成を見出し、また、前記筋骨格系幹細胞が軟骨内骨化によって骨に分化可能であり、骨の他に軟骨、腱、筋肉にも分化可能であることを確認することによって、本発明を完成した。
【0018】
本発明でいう「幹細胞」とは、様々な身体組織に分化可能な能力を有する未分化細胞であり、これは万能幹細胞(totipotent stem cell)、全分化能幹細胞(pluripotent stem cell)、多分化能幹細胞(multipotent stem cell)などに分類できる。前記幹細胞は、幹体細胞(precursor cell)、前駆細胞(progenitor cells)などの用語に言い換えてもよい。本発明において幹細胞は、胚性幹細胞(embryonic stem cell,ESC)、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell,iPSC)又は中間葉幹細胞(Mesenchymal stem
cells,MSC)であり得る。したがって、本発明の培地組成物を用いれば、胚性幹細胞、誘導万能幹細胞などを用いて筋骨格系幹細胞の分化を誘導することができる。
【0019】
前記胚性幹細胞は、全分化性を有する細胞を意味し、形質転換のない増殖、無限増殖、自己-再生産、及び3種類の全ての胚芽層から由来したある細胞に発達可能な能力を有する胚性幹細胞の特性を意味するが、これに制限されない。
【0020】
本発明でいう「筋骨格系幹細胞」とは、骨、軟骨、腱、靭帯及び筋肉に分化可能な細胞を制限なく意味する。
【0021】
前記「分化」は、細胞が分裂増殖して成長する間に互いに構造や機能が特殊化する現象、すなわち、生物の細胞、組織などがそれぞれに与えられた役目を果たすために形態や機能が変わって行くことを指す。一般的に、比較的単純な系が、2つ以上の質的に異なる部分系に分離される現象である。例えば、個体発生において初めには同質的だった卵部分の間に頭や胴などの区別ができるか、細胞においても、筋細胞又は神経細胞などの区別ができかのように、初めにはほぼ同質だったある生物系の部分間に質的な差異が発生すること、或いはその結果として質的に区別可能な部分又は部分系に分けられている状態を分化という。
【0022】
本発明で用いられる胚性幹細胞又は誘導万能幹細胞は、ヒト、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット又はトリ類などから由来したものであり、好ましくはヒト由来である。
【0023】
本発明のWnt信号活性化剤は制限されないが、好ましくは、SB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、SB415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、ケンパウロン(Kenpaullone;9-ブロモ-7,12-ジヒドロ-インドール[3,2-d]-[1]ベンズジアゼピン-6(5H)-オン)、CHIR99021(9-ブロモ-7,12-ジヒドロ-ピリド[3’,2’:2,3]アゼピノ[4,5-b]インドール-6(5H)-オン)、CP21R7(3-(3-アミノ-フェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-ピロール-2,5-ジオン)、SB203580(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルフィニルフェニル)-5-(4-ピリジル)-1H-イミダゾール)、H-89(5-イソキノリンスルホンアミド)、パーモルファミン(Purmorphamine;2-(1-ナフトキシ)-6-(4-モルホリノアニリノ)-9-シクロヘキシルプリン)又はIQ-1(2-(4-アセチル-フェニルアゾ)-2-[3,3-ジメチル-3,4-ジヒドロ-2H-イソキノリン-(1E)-イリデン]-アセトアミド)である。
【0024】
本発明のERK信号抑制剤は、制限されないが、好ましくはAS703026(N-[(2S)-2,3-ジヒドロキシプロピル]-3-[(2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ]-イソニコチンアミド)、AZD6244(6-(4-ブロモ-2-クロロアニリノ)-7-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルベンズイミダゾール-5-カルボキサミド)、PD0325901(N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロポキシ]-3,4-ジフルオロ-2-[(2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ]-ベンズアミド)、ARRY-438162(5-[(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)アミノ]-4-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-6-カルボキサミド)、RDEA119((S)-N-(3,4-ジフルオロ-2-((2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ)-6-メトキシフェニル)-1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)シクロプロパン-1-スルホンアミド)、GDC0973([3,4-ジフルオロ-2-(2-フルオロ-4-ヨードアニリノ)フェニル]3-ヒドロキシ-3-[(2S)-ピぺリジン-2-イル]-アゼチジン-1-イル-メタノン)、TAK-733((R)-3-(2,3-ジヒドロキシプロピル)-6-フルオロ-5-(2-フルオロ-4-ヨードフェニルアミノ)-8-メチルピリド[2,3-d]ピリミジン-4,7(3H,8H)-ジオン)、RO5126766(3-[[3-フルオロ-2-(メチルスルファモイルアミノ)-4-ピリジル]メチル]-4-メチル-7-ピリミジン-2-イルオキシクロメン-2-オン)又はXL-518([3,4-ジフルオロ-2-[(2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ]フェニル][3-ヒドロキシ-3-[(2S)-2-ピペリジニル]-1-アゼチジニル]メタノン)である。
【0025】
本発明のTGF-β/アクチビン/ノーダル(TGF-β/activin/nodal)信号伝達抑制剤は、制限されないが、好ましくは、E-616452(2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジン)、A-83-01(3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド)又はSB431542(4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド)である。
【0026】
本発明の一実施例によれば、前記培地の構成要素であるノギン(noggin)、LIF(leukemia inhibitory factor)、bFGF(basic
Fibroblast growth factor)、Wnt信号活性化剤、ERK(extracellular signal-regulated kinase)信号抑制剤、及びTGF-β/アクチビン/ノーダル(TGF-β/activin/nodal)信号伝達抑制剤のうち1つずつを含まない場合の分化能を、全て含む場合と比較した結果、前記成分のいずれか一つの構成要素が欠乏する場合、軟骨(アルシアンブルー)や骨(ALP及びアリザリンレッドS)への分化が正しくなされないことを確認した(
図7、表3)。
【0027】
また、前記ノギン(noggin)に代えて馴化培地(Conditioned Media)(完全培地においてDMEM/F12をKnockout DMEMに置換した培地(20% Knockout Serum Replacement(KSR)(Invitrogen,USA)、1mMグルタミン、1%非必須アミノ酸(Invitrogen,USA)、0.1mM β-メルカプトエタノール、0.1%ペニシリン-ストレプトマイシン、5mg/mlウシ血清アルブミン(bovine serum albumin)で補充されたKnockout DMEM)を用いてCF1マウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblasts)を24時間培養して得た培養上清液)を追加した培地に代替して分化能を比較した結果、ノギン(noggin)を用いた本発明の培地組成物が、前記馴化培地を用いた場合に比べて骨分化の傾向性を10倍以上増加させており、また、分化速度が1~2週以上早まることを確認した(表1及び表2)。
【0028】
本発明の他の態様によれば、本発明は、前記筋骨格系幹細胞への分化誘導用培地組成物においてESC(embryonic stem cell)又はiPS(induced pluripotent stem cell)を培養する段階を含む筋骨格系幹細胞の製造方法を提供する。
【0029】
前記培養は、培地組成の変化無しで5継代以上培養し、好ましくは5継代~25継代、より好ましくは7継代~18継代を培養する。
【0030】
本発明の一実施例によれば、前記方法で培養して分化された筋骨格系幹細胞は、ヒト胚性幹細胞又はヒト誘導万能幹細胞から始めて7継代以上筋骨格幹細胞誘導培地で継代培養して得られる、安定的に同じ形質を有する細胞であることを確認し、また、7継代から17継代までの10継代以上を類似の模様で成長したが、19継代以降には老化マーカーβ-ガラクトシダーゼを染色した結果、陽性反応が現れ、老化が進行されたことを確認した(
図1A)。
【0031】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は前記筋骨格系幹細胞への分化誘導用培地組成物を用いて製造された筋骨格系幹細胞を提供する。
【0032】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、ESC(embryonic stem
cell)又はiPSC(induced pluripotent stem cell)から分化された筋骨格系幹細胞(MSSC,musculoskeletal stem cell)を提供する。
【0033】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の筋骨格系幹細胞は、下記の特徴を有する:
a)外胚葉マーカーであるネスチン(Nestin,NES)に対して陽性;
b)筋原性衛星マーカー(myogenic satellite marker)であるPax7に対して陽性;
c)中胚葉マーカーであるα-SMAに対して陽性;
d)全分化能マーカーであるLIN28に対して陰性;及び
f)中間葉幹細胞マーカーであるCD90に対して陰性。
【0034】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の筋骨格系幹細胞は、下記の特徴をさらに有する:
中間葉幹細胞マーカーであるCD271に対して陰性。
【0035】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の筋骨格系幹細胞は、下記の特徴をさらに有する:
全分化能マーカーであるDPPA4に対して陽性。
【0036】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の筋骨格系幹細胞は、下記の特徴をさらに有する:
中胚葉マーカーであるT及びノーダル(Nodal)に対して陰性。
【0037】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の筋骨格系幹細胞は、下記の特徴をさらに有する:
神経外胚葉(neuroectoderm)マーカーであるPax6に対して陽性。
【0038】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の筋骨格系幹細胞は、下記の特徴をさらに有する:
腸幹細胞(intestinal stem cell)マーカーであるLGR5に対して陽性。
【0039】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の筋骨格系幹細胞は、下記の特徴をさらに有する:
軟骨細胞(chondrocyte)マーカーであるSOX9に対して陰性。
【0040】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の筋骨格系幹細胞は、下記の特徴をさらに有する:
筋原細胞(myoblast)マーカーであるMyoDに対して陰性。
【0041】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明の筋骨格系幹細胞は、CD10、CD44、CD105、CD146及び/又はCD166に対して陽性を示す。
【0042】
本発明の一実施例によれば、本発明の筋骨格系幹細胞は、大部分の全分化能マーカーの発現は観察されなかったが、DPPA4発現は観察され、また、外胚葉マーカーであるNESが陽性を示した。また、DES及び初期中胚葉マーカーであるT及びノーダル(Nodal)を除く大部分の中胚葉マーカーに陽性を示し、大部分の内胚葉マーカーに対して陰性を示すことを確認した(
図1C)。また、hMSSCの特性を調べるために、中間葉幹細胞特異細胞表面抗原の発現を調べた結果、中間葉幹細胞マーカーのうち、CD44、CD51、CD73、CD105、CD146、CD166はhMSSCで発現するのに対し、中間葉幹細胞マーカーのうち、CD90及びCD271はhMSSCでは発現しないことを確認した。また、血液系統細胞表面標識子のCD2、CD3、CD7、CD8、CD11b、CD14、CD19、CD20、CD31、CD34、CD56は発現しないのに対し、pre-B細胞マーカーであるCD10が発現していた(
図1D)。さらに、様々な系統の組織特異マーカー発現を分析した結果、中胚葉マーカーであるα-SMA(alpha smooth muscle actin)、神経外胚葉マーカー(neuroectoderm marker)であるPax6、筋原性衛星マーカー(myogenic satellite marker)であるPax7、及び腸幹細胞マーカー(intestinal stem cell marker)であるLGR5などが発現しており、軟骨細胞マーカー(chondrocyte marker)であるSOX9及び筋芽細胞マーカー(myoblast marker)であるMyoDなどは発現していなかった(
図1E)。
【0043】
本発明の好ましい具現例によれば、前記筋骨格系幹細胞は、中胚葉に分化されるが、外胚葉又は内胚葉には分化されない。
【0044】
本発明の好ましい具現例によれば、前記筋骨格系幹細胞は、筋肉、骨、軟骨、腱又は靭帯に分化される特性を有する。
【0045】
本発明の一実施例によれば、本発明の筋骨格系幹細胞を中間葉幹細胞培養培地(例えば、MSCGM、MSCGM-CDなど)で培養し、腎臓内(kidney capsule)又は皮下に移植した場合、腎臓内又は皮下で典型的な筋肉、脂肪、腱、骨、軟骨が形成されたことを確認した(
図3)。前記分化された筋肉組織を確認した結果、いずれも骨格筋に分化され、平滑筋には分化されなかったことを確認し、また、試験管内(in-vitro)試験で脂肪に分化されなかった結果とは違い、生体内(in-vivo)試験では脂肪にも分化され得ることを確認した。
【0046】
本発明の好ましい具現例によれば、前記筋骨格系幹細胞は、神経には分化されない特性を有する。
【0047】
本発明の一実施例によれば、前記筋骨格系幹細胞を神経分化培地で神経細胞に分化させ、神経細胞マーカーを用いて確認した結果、前記筋骨格系幹細胞は神経細胞に分化する潜在力がないことを確認した(
図2E)。
【0048】
本発明の好ましい具現例によれば、前記筋骨格系幹細胞は、内皮細胞には分化されない特性を有する。
【0049】
本発明の一実施例によれば、前記筋骨格系幹細胞をEC分化培地(endothelial growth medium)で内皮細胞に分化させ、内皮細胞マーカーを用いて確認した結果、前記筋骨格系幹細胞は内皮細胞に分化する潜在力がないことを確認した(
図2C及び
図2D)。
【0050】
前記筋骨格系幹細胞は、2018年10月10日韓国細胞株銀行に寄託番号第KCLRF-BP-00460号で寄託された。
【0051】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記筋骨格系幹細胞を含む筋骨格系疾患の予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0052】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記筋骨格系幹細胞を含む細胞治療剤を提供する。
【0053】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記筋骨格系幹細胞を含む筋骨格系疾患の予防又は治療用薬剤学的組成物の用途を提供する。
【0054】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、前記筋骨格系幹細胞を患者に投与する段階を含む筋骨格系疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0055】
本発明の筋骨格系疾患は、制限されないが、好ましくは骨多孔症、骨軟化症、骨形成不全症(osteogenesis imperfecta)、骨化石症(osteopetrosis)、骨硬化症(osteosclerosis)、パジェット病(Paget’s disease)、骨癌、関節炎、くる病、骨折、歯周疾患、骨部分欠損、骨溶解性骨疾患、原発性及び続発性副甲状腺機能亢進症、過骨症、退行性関節炎、変形性膝関節症、変形性股関節症、変形性足関節症、変形性手関節症、変形性肩関節症、変形性肘関節症、膝蓋軟骨軟化症、単純性膝関節炎、離断性骨軟骨炎、上腕骨外側上顆炎、上腕骨内側上顆炎、ヘバーデン結節、ブシャール結節、変形性母指CM関節症、半月板損傷、椎間板変性、十字靭帯損傷、上腕二頭筋起始腱損傷、靭帯損傷、腱損傷、五十肩、回旋筋蓋裂傷、石灰化腱炎、肩インピンジメント症候群、再発性脱臼、習慣性脱臼、老化性筋消耗症及び筋異栄養症からなる群から選ばれる1つ又はそれ以上の疾患である。
【0056】
本発明の薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容される担体を含むことができる。前記組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルジネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。前記薬剤学的組成物は、これらの成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。
【0057】
本発明の薬剤学的組成物は、経口又は非経口で投与することができる。非経口投与の場合は、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、関節腔内注入、骨内注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与及び直腸内投与などで投与できる。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動可能な任意の装置によって投与することができる。
【0058】
本発明の薬剤学的組成物の適度な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食餌、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因に基づいて様々に処方可能である。前記組成物の好ましい投与量は、成人基準で102~1010細胞/kg範囲内である。薬剤学的有効量とは、筋骨格系疾患を予防又は治療するのに十分な量を意味する。
【0059】
本発明の組成物は、当該分野における当業者が容易に実施できる方法によって、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化し、単位容量の形態で製造するか、又は多用量容器内に内入させて製造することができる。このとき、剤形は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤又は乳化液の形態であるか、エキス剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態であり得、分散剤又は安定化剤をさらに含んでもよい。また、前記組成物は、個別治療剤として投与するか、他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次に又は同時に投与することができる。また、単回投与又は必要時には追加投与できる。
【0060】
本発明でいう「細胞治療剤」とは、ヒトから分離、培養及び特殊な操作を経て製造された細胞及び組織であって、治療、診断及び予防の目的で用いられる医薬品(米国FDA規定)であり、細胞或いは組織の機能を復元させるために、生きている自己、同種又は異種細胞を体外で増殖、選別するか、或いは他の方法で細胞の生物学的特性を変化させる等の一連の行為によって、治療、診断及び予防の目的で使用する医薬品のことをいう。
【0061】
本発明でいう「予防」とは、本発明の組成物又は細胞治療剤の投与によって筋骨格系疾患を抑制したり進行を遅延させる全ての行為を意味する。
【0062】
本発明でいう「治療」とは、本発明の組成物又は細胞治療剤の投与によって筋骨格系疾患が好転するか良くなる全ての行為を意味する。
【0063】
本発明の薬剤学的組成物又は細胞治療剤は、ヒト用又は動物用に用いることができる。
【0064】
本発明の薬剤学的組成物又は細胞治療剤は、筋骨格疾患の予防及び治療のために単独で、又は手術、放射線治療、ホルモン治療、化学治療、生物学的反応調節剤、インプラント、人工関節又は人工軟骨などの挿入、その他再生治療などの方法等と併せて使用することができる。
【0065】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、筋骨格系幹細胞のスクリーニング方法を提供する。
【0066】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明は、下記の特徴を有する細胞を選別する段階を含む:
a)外胚葉マーカーであるネスチン(Nestin,NES)に対して陽性;
b)筋原性衛星マーカー(myogenic satellite marker)であるPax7に対して陽性;
c)中胚葉マーカーであるα-SMAに対して陽性;
d)全分化能マーカーであるLIN28に対して陰性;及び
f)中間葉幹細胞マーカーであるCD90に対して陰性。
【0067】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明は、下記の特徴を有する細胞を選別する段階をさらに含む:
中間葉幹細胞マーカーであるCD271に対して陰性。
【0068】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明は、下記の特徴を有する細胞を選別する段階をさらに含む:
全分化能マーカーであるDPPA4に対して陽性。
【0069】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明は、下記の特徴を有する細胞を選別する段階をさらに含む:
中胚葉マーカーであるT及びノーダル(Nodal)に対して陰性。
【0070】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明は、下記の特徴を有する細胞を選別する段階をさらに含む:
神経外胚葉(neuroectoderm)マーカーであるPax6に対して陽性。
【0071】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明は、下記の特徴を有する細胞を選別する段階をさらに含む:
腸幹細胞(intestinal stem cell)マーカーであるLGR5に対して陽性。
【0072】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明は、下記の特徴を有する細胞を選別する段階をさらに含む:
軟骨細胞(chondrocyte)マーカーであるSOX9に対して陰性。
【0073】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明は、下記の特徴を有する細胞を選別する段階をさらに含む:
筋原細胞マーカーであるMyoDに対して陰性。
【0074】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明は、CD10、CD44、CD105、CD146及び/又はCD166に対して陽性を示す細胞を選別する段階をさらに含む。
【0075】
本発明のスクリーニング方法を用いると、骨、軟骨、腱、靭帯、筋肉などに効果的に分化可能な筋骨格系幹細胞を容易に選別することができる。
【発明の効果】
【0076】
本発明の特徴及び利点を要約すれば次の通りである:
(i)本発明は、ESC又はiPSCから由来した筋骨格系幹細胞を提供する。
【0077】
(ii)また、本発明は、ESC又はiPSをノギン、LIF及びbFGFなどを含む培地で培養する段階を含む筋骨格系幹細胞の製造方法を提供する。
【0078】
(iii)本発明の筋骨格系幹細胞は、ヒト胚性幹細胞又はヒト誘導万能幹細胞から容易に誘導され、骨だけでなく、軟骨、腱、筋肉に効果的に分化され、様々な筋骨格系疾患の予防又は治療に有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1A】
図1は、hESCから分化されたhMSSCの特徴に関する。
図1Aは、hESCを筋骨格幹細胞誘導培地で継代培養して7継代から19継代まで細胞形状の変化を示す写真である。
【
図1B】
図1Bは、hMSSCにおいて全分化能マーカーOCT4、NANOG、SOX2、LIN28の発現を細胞免疫蛍光法によって観察した結果を示す。
【
図1C】
図1Cは、hESC、hMSC及び7継代、17継代におけるhMSSCにおいて全分化能、外胚葉、中胚葉及び内胚葉マーカーの発現をRNA-シーケンシングによってそれぞれ2回ずつ確認した結果である。
【
図1D】
図1Dは、hMSSCの特性を調べるために、細胞表面抗原の発現を流式細胞分析器で測定した結果を示す。
【
図1E】
図1Eは、hMSSCの特性を調べるために、様々な系統の細胞特異マーカー発現を細胞免疫蛍光法で分析した結果を示す。
図1中、DAPIは核を染色したものである。
図1中、青色の三角形表示はβ-ガラクトシダーゼ陽性細胞を意味する。
【
図2A】
図2は、hMSSCの実験管内分化能を他の種類の細胞と比較したデータを示す。
図2Aは、hMSC及びhMSSCの実験管内の骨、軟骨、脂肪分化能を比較した結果を示す。
【
図2B】
図2Bは、hMSSCが骨格筋に分化する潜在力があることを、骨格筋細胞特異マーカーであるMYH9に対する細胞免疫蛍光法で確認した結果を示す。C2C12は骨格筋細胞陽性対照群として用いられた。
【
図2C】
図2Cは、hMSSCが内皮細胞に分化する潜在力がないことを、内皮細胞特異マーカーCD31とVE-cadherinに対する細胞免疫蛍光法で確認した結果を示す。
【
図2D】
図2Dは、hMSSCが内皮細胞に分化する潜在力がないことを、内皮細胞特異マーカーCD31とVE-cadherinに対する細胞免疫蛍光法で確認した結果を示す。
【
図2E】
図2Eは、hMSSCが神経細胞に分化する潜在力がないことを、神経細胞特異マーカーMAP2に対する細胞免疫蛍光法で確認した結果を示す。陽性対照群としてH9hESCから分化された神経幹細胞を用いた。
【
図3A】
図3は、hMSSCの分化可能性をin vivoで測定した結果を示す。
図3Aのaは、hMSSCを腎臓内に移植した場合、H&E染色上で典型的な筋肉、脂肪、腱が形成されたことを確認した結果を示す。
図3Aのbは、hMSSCを腎臓内に移植する場合、筋肉、脂肪、腱細胞に分化されることを、筋肉特異マーカーであるpMLC、脂肪特異マーカーであるPPARgamma(PPAr)、靭帯特異マーカーであるScxに対する組織免疫蛍光法で確認した結果を示す。hLAはヒト細胞特異マーカーであって、ヒト由来細胞であることを示すために染色した結果である。
【
図3B】
図3Bのaは、hMSSCの腎臓内移植部位で骨が形成されたことをMicro CTでスキャンした結果を示す。
図3Bのb及び
図3Bのcは、H&E及びペンタクローム組織化学染色によって、骨が形成されたことを確認した結果を示す。
図3Bのdは、骨形成組織内部の細胞においてヒト細胞マーカーであるhLA(human leukocyte antigen)、骨マーカーであるOsx(osterix)、Runx2、DMP1、OCN(osteocalin)、血管マーカーであるvWFの発現様相を、組織免疫蛍光法で確認した結果である。
【
図3C】
図3Cは、hMSSCを皮下に移植した場合、軟骨細胞に分化された結果であり、H&E及びトルイジンブルー組織化学染色によって、軟骨が形成されたことを確認した結果を示す。また、軟骨マーカーであるColII(collagen II)の発現も組織免疫蛍光法で確認した。
【
図4A】
図4は、hMSSCの骨折回復に対する効果を確認した結果である。
図4Aは、骨折部位にhMSCを移植した場合、hMSCではなくマウス自体内の細胞が骨を形成したことを示す結果である。
図4Aのaは、骨折部位にhMSCを移植した後、2週、4週、6週後に撮ったMicroCT結果である。
図4Aのbは、hMSCが移植された骨折部位を含む大腿骨のH&E組織化学染色結果である。
図4Aのcは、
図4Aのbの赤色の四角部位を拡大した結果である。
図4Aのdは、移植されたhMSCが骨細胞に分化されなかったことを、骨細胞マーカーであるRunx2及びヒト細胞マーカーであるhLAに対する組織免疫蛍光法で確認した結果である。
【
図4B】
図4Bは、前記hMSC場合とは違い、hMSSCを移植した場合、hMSSCの分化によって骨が形成されたことを示す結果である。
図4Bのaは、骨折部位にhMSSCを移植した後、2週、4週、6週後に撮ったMicroCT結果である。
図4Bのbは、hMSSCが移植された骨折部位を含む大腿骨のH&E組織化学染色結果である。
図4Bのcは、4b-bの赤色の四角部位を拡大した結果である。
図4Bのdは、移植されたhMSSCが骨細胞に分化されたことを、骨細胞マーカーであるRunx2及びヒト細胞マーカーであるhLAに対する組織免疫蛍光法で確認した結果である。
【
図5A】
図5は、hESCと同様にhiPSCも前記hMSSCに分化するかどうか確認した結果である。
図5Aは、hiPSから分化されたhMSSCにおいて全分化能マーカーであるOct4、Nanog、Sox2、及びLin28の発現レベルを、細胞免疫蛍光法で確認した結果である。
【
図5B】
図5Bは、hiPSから分化されたhMSSCにおいて特異細胞表面抗原の発現を流式細胞分析器で調べた結果である。
【
図5C】
図5Cは、hiPSから分化されたhMSSCの実験管内の骨、軟骨、脂肪への分化能を確認した結果である。
【
図5D】
図5Dは、hiPSから分化されたhMSSCを骨格筋分化培地で培養して骨格筋に分化させた後、骨格筋のマーカーであるMYH9に対して細胞免疫蛍光法を行った結果である。
【
図6】CM培地とhMSSC誘導培地で誘導されたhMSSCにおいてCD44の発現量を流式細胞分析器で比較した結果である。
【
図7】hMSSC培地成分の一部成分が欠乏する場合、軟骨や骨分化の傾向性変化結果によって軟骨分化の有無を確認できるアルシアンブルー(Alcian blue)染色及び骨分化の有無を確認できるALP及びアリザリンレッドS(Alizarin red S)の染色結果である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0081】
<実施例>
[実験材料及び実験方法]
〔実施例1.実験動物〕
Balb/c-nudeバックグラウンドの7~10週齢のマウス(20~24g)を全てOrient bio(seongnam,Korea)から購買した。動物関連実験の全てを全北大学校動物管理及び使用委員会のガイドラインにしたがって実施した。動物は、調整された温度(21~24℃)及び12:12時間の明暗サイクル環境で保持され、水と食べ物に自由に接近するようにした。
【0082】
〔実施例2.1.hESCからhMSSCへの分化誘導〕
H9hESC(human embryonic stem cells)をWiCell(Madison,MI,USA)から購入した。hESCは、マイトマイシンC処理により細胞分裂が停止したCF1マウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast,MEF)の栄養供給細胞上で培養した。hESC培養培地は、20% KnockOut Serum Replacement(以下、KSRと表記、Invitrogen,USA)、1mMグルタミン(Invitrogen,USA)、1%非必須アミノ酸(Invitrogen,USA)、0.1mM β-メルカプトエタノール(Invitrogen,USA)、及び0.1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen,USA)、及び15ng/ml bFGF(R&D Systems,USA)が添加されたDMEM/F12(Invitrogen,USA)で製造した。
【0083】
hESCのhMSSC(human muscloskeletal stem cells)への分化を誘導するための培地としては次の組成を含む培地(以下、「MSSC培地」という。)を用いて分化を誘導した:
1)250ng/mlヒトノギン(KOMA Biotech,Korea)、
2)20ng/mlヒトLIF(KOMA Biotech,Korea)、
3)15ng/ml線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast growth factor,FGF)(R&D Systems,USA)(FGF2信号伝達活性化剤)、
4)3μM CHIR99021(Cayman,USA)(Wnt信号活性化剤)、
5)1μM PD0325901(Cayman,USA)(ERK(extracellular signal-regulated kinase)信号抑制剤)、
6)10μM SB431542(Tocris,United Kingdom)(TGF-β/アクチビン/ノーダル(TGF-β/activin/nodal)信号抑制剤)、
7)その他:10%KSR(Invitrogen,USA)、1%N2サプリメント(supplement)(Gibco,USA)、2%B27サプリメント(Gibco,USA)、1%非必須アミノ酸(Gibco,USA)、43%DMEM/F12(Gibco,USA)、43%Neurobasal(Gibco,USA)、1mMグルタミン、0.1mM β-メルカプトエタノール、0.1%ペニシリン-ストレプトマイシン、及び5mg/mlウシ血清アルブミン(Gibco,USA)などで構成。
【0084】
前記hESCの生存力を高めるために、ROCK(Rho-associated coiled-coil kinase)抑制剤(Y-27632、10μM、Calbiochem,Germany)及びPKC(protein kinase C)抑制剤(Go6983、2.5μM、Sigma,USA)を24時間処理した後、TrypLE(Life technology,USA)で処理しトリプシン化(trypsinized)したhESCを、ビトロネクチン+ゼラチン(1ng/ml、Sigma,USA)の塗布された培養皿で前記MSSC培地を用いて7継代まで培養することによって、hMSSCへの細胞分化を誘導した。前記分化されたMSSC細胞株は5継代以上から安定的に同一の形質を有していることを確認し、10継代培養したものを2018年10月10日付で韓国細胞株銀行に寄託し、寄託番号第KCLRF-BP-00460号を受けた。
【0085】
〔実施例2.2.hiPSCからhMSSCへの分化誘導〕
hiPSC(human induced pluripotent stem cells)は、Hasegawa等が開発した方式によって、sendaiウイルスを媒介にしたOCT4、KLF4、SOX2及びcMYC遺伝子をBJ線維芽細胞(fibroblast)(ATCC(登録商標)CRL2522(登録商標))に導入させて生成した(Fusaki et al.,2009,PNAS85,348-362)。hiPSCはマイトマイシンC処理で細胞分裂が停止したCF1マウス胚性線維芽細胞(MEF)の栄養供給細胞上で培養した。hiPSC培養培地は、20%KSR(Invitrogen,USA)、1mMグルタミン(Invitrogen,USA)、1%非必須アミノ酸(Invitrogen,USA)、0.1mM β-メルカプトエタノール(Invitrogen,USA)、0.1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen,USA)、及び15ng/ml bFGF(R&D Systems,USA)が添加されたDMEM/F12(Invitrogen,USA)で製造した。
【0086】
hiPSCのhMSSC(human muscloskeletal stem cells)への分化を誘導するための培地は、次の組成を含む培地(以下、「MSSC培地」という。)を用いて分化を誘導した:
1)250ng/mlヒトノギン(KOMA Biotech,Korea)、
2)20ng/mlヒトLIF(KOMA Biotech,Korea)、
3)15ng/ml FGF(R&D Systems,USA)(FGF2信号伝達活性化剤)、
4)3μM CHIR99021(Cayman,USA)(Wnt信号活性化剤)、
5)1μM PD0325901(Cayman,USA)(ERK(extracellular signal-regulated kinase)信号抑制剤)、
6)10μM SB431542(Tocris,United Kingdom)(TGF-β/アクチビン/ノーダル(TGF-β/activin/nodal)信号抑制剤)、
7)その他:10%KSR(Invitrogen,USA)、1%N2サプリメント(Gibco,USA)、2%B27サプリメント(Gibco,USA)、1%非必須アミノ酸(Gibco,USA)、43%DMEM/F12(Gibco,USA)、43%Neurobasal(Gibco,USA)、1mMグルタミン、0.1mM β-メルカプトエタノール、0.1%ペニシリン-ストレプトマイシン及び5mg/mlウシ血清アルブミン(Gibco,USA)などで構成。
【0087】
前記hiPSCの生存力を高めるために、ROCK(Rho-associated coiled-coil kinase)抑制剤(Y-27632、10μM、Calbiochem,Germany)及びPKC(protein kinase C)抑制剤(Go6983、2.5μM、Sigma,USA)を24時間処理した後、TrypLE(Life technology,USA)で処理してトリプシン化(trypsinized)したhiPSCを、ビトロネクチン+ゼラチン(1ng/ml,Sigma,USA)の塗布された培養皿で前記MSSC培地を用いて7継代まで培養することによって、hMSSCへの細胞分化を誘導した。前記分化されたMSSC細胞株は5継代以上から安定的に同一形質を有していることを確認した。
【0088】
〔実施例3.組織化学染色〕
実施例2.1で分化されたhMSSCを、実施例10.1及び実施例10.2のように、Balb/c-nudeに皮下及び腎臓内注入して分化させた試料を、2%パラホルムアルデヒド(PFA)(Wako,Japan)に4℃で一晩固定した。骨への分化の有無を調べるための試料は、4℃で2週間、PBS(pH7.2)中の0.4M EDTAで石灰を除去した。その後、試料を、エタノールとキシレンを順次に用いて脱水させた後、パラフィンに埋め込み、5μm厚に切断した。切断面をH&E及びModified Movat’s pentachrom(Cosmobio,Japan)で染色した。
【0089】
〔実施例4.RNAシーケンシング〕
Trizol試薬(Invitrogen,USA)を用いて、H9hESC、ヒト中間葉細胞(Human Mesenchymal Stem Cells;hMSCs,Lonza,Switzerland)及び実施例2.1のhMSSCなどからRNAを抽出した。RNA品質(RNA quality)は、Agilent 2100 bioanalyser及びRNA 6000 Nano Chip(Agilent Technologies,USA)で評価し、定量は、ND-2000 spectrophotometer(Thermo Inc.,USA)で行った。RNAシーケンシングのためのRNAライブラリー構築は、SENSE 3’mRNA-Seq Library Prep Kit(Lexogen Inc.,Australia)を用いて実施した。RNAシーケンシングは、NextSeq 500(Illumina Inc.,USA)で実施した。SENSE3’ mRNA-Seq readsをBowtie2 version 2.1.0でアラインメントを実施した。遺伝子発現の差異は、R version 3.2.2.内のEdgeRを用いてBIOCONDUCTOR versionで定めた。Read countsデータは、Genowiz version 4.0.5.6(Ocium Biosolutions,USA)で処理した。
【0090】
〔実施例5.免疫蛍光染色〕
本明細書で説明している「細胞免疫蛍光染色」は、次のような方法によって行った。
【0091】
細胞を免疫蛍光で染色するために、細胞を4%パラホルムアルデヒドに固定し、0.5% Triton X-100で透過化した後、リン酸緩衝液(PBS)中の10%正常ヤギ、正常ウサギ又はウシ胎児の血清で遮断した。試料をTuj1(Covance,USA)、α-smooth muscle(α-SMA,Sigma,USA)、Nanog(Santa Cruz,USA)、Oct3/4(Santa Cruz,USA)、Sox2(Santa Cruz,USA)、CD31(DAKO,Japan)、vascular endothelial-cadherin(R&D,USA)、MYH9(Santa Cruz,USA)、HNK-1(Santa Cruz,USA)及びMAP-2(Santa Cruz,USA)に対する一次抗体で4℃で一晩染色した。その後、細胞を二次抗体Alexa Fluor 488-goat anti-mouse IgG、Alexa Fluor 594-donkey anti-rabbit IgG、Alexa Fluor 488-donkey anti-rabbit IgG及びAlexa Fluor 594-donkey anti-mouse IgG(Invitrogen,USA)で染色した。核をDAPI(4,6-diamidino-2-phenylインドール)で染色した。Olympus IX71蛍光顕微鏡とMetaMorphソフトウェア(Molecular Devices,USA)を用いてイメージを得た。
【0092】
本明細書で説明している「組織免疫蛍光染色」は、次のような方法で行った。
【0093】
組織をPBS中の4%PFA(Wako,Janpan)で4℃で一晩固定した。Morse’溶液で全ての試料から石灰を除去した。その後、試料をエタノールとキシレンを順次に用いて脱水させ、パラフィンに埋め込み(Leica Biosystems,Germany)した後、試料を5μm厚に切断した。組織切断面を3%過酸化水素で15分間遮断した後、一次抗体と共に4℃で一晩培養した。切断面に処理された一次抗体は、次の通りである:HLA class Iに対するマウスモノクローナル抗体(Abcam,United Kingdom)、Collagen Type IIに対するヤギポリクローナル抗体(Santacruz,USA)、Osteocalcinに対するウサギポリクローナル抗体(Santacruz,USA)、Osterix(Abcam,USA)、phospho-myosin light chain(pMLC)(Abcam,USA)、Scleraxis(antibodies-online,USA)、PPARgamma(PPAr)(Santacruz,USA)、Runx2(Novus,USA)、DMP1(Santacruz,USA)、vWF(Santacruz,USA)及びSclerostin(Santacruz,USA)。用いられた二次抗体は、Alexa 555(Invitrogen,USA)及びAlexa 488(Invitrogen,USA)IgGである。核を強調するために、免疫染色された切断面をTO-PRO3(Invitrogen,USA)で対照染色した。Leica DM 5000顕微鏡(Leica Microsystems,Germany)又は共焦点顕微鏡(LSM510;Carl Zeiss,Germany)を用いて、蛍光で標識された組織切断面を捕捉し、Zenソフトウェアで確認した。
【0094】
〔実施例6.流細胞分析〕
実施例2.1及び実施例2.2のhMSSCにトリプシン/EDTAを処理し、単一細胞懸濁液で分離させた後、PBS中の2%BSAによって非特異的結合を遮断した後、緩衝溶液[1XPBS、1%BSA、及び0.01%アジ化ナトリウム]内で、Sca、CD2、CD3、CD4、CD7、CD8、CD10、CD11b、CD14、CD19、CD20、CD31、CD34、CD44、CD45、CD51、CD56、CD73、CD90、CD105、CD146、CD166、CD235a、CD271に対するモノクローナル抗体(BD Biosciences,USA)と反応させ、洗浄した後、細胞をAlexa Fluor 488 secondary mouse-IgGs(Invitrogen、米国)で反応させ、洗浄した後、流細胞分析器(FACStar
Plus Flowcytometer,BD Biosciences,USA)を用いて分析した。正常マウスIgGs(BD Biosciences,USA)を陰性対照群とした。
【0095】
〔実施例7.1.in vitroでヒト中間葉幹細胞(Human Mesenchymal Stem Cells;hMSCs)及びhMSSCの骨芽細胞への分化〕
実施例2.1及び実施例2.2のhMSSCを骨芽細胞に分化させるために、細胞を骨形成分化培地(StemPro Osteogenesis Differentiation Kit,Life technology,USA)内37℃、5% CO2の条件で14日間培養した。骨生成の観察のためにアルカリホスファターゼ染色(alkaline phosphatase staining)(Roche,Switzerland)及びアリザリンレッドS(alizarin red S)(Sigma,USA)染色を行った。hMSC(Lonza,Switzerland)も上記の方式で同様に骨芽細胞に分化させ、比較した。
【0096】
〔実施例7.2.in vitroでヒト中間葉幹細胞(Human Mesenchymal Stem Cells;hMSCs)及びhMSSCの脂肪細胞への分化〕
実施例2.1及び実施例2.2のhMSSCを脂肪細胞に分化させるために、細胞を脂肪形成分化培地(StemPro adipogenesis Differentiation Kit,Life technology,USA)内37℃、5% CO2の条件で14日間培養した。脂肪生成の観察のためにオイルレッドO(oil red O)(Sigma,USA)染色をした。hMSC(Lonza,Switzerland)も上記の方式で同様に脂肪細胞に分化させ、比較した。
【0097】
〔実施例7.3.in vitroでヒト中間葉幹細胞(Human Mesenchymal Stem Cells;hMSCs)及びhMSSCの軟骨細胞への分化〕
実施例2.1及び実施例2.2のhMSSCを軟骨細胞に分化させるために、細胞を軟骨形成培地(StemPro chondrogenesis Differentiation Kit,Life technology,USA)で再懸濁した後、さらに遠心分離した。マイクロマス(micromass)の形成のために、ペレットを分化培地に1×105生菌/μlで再懸濁し、非付着された96-ウェルプレートの中央に細胞溶液5μlを点滴して接種した。高湿の条件下で2時間マイクロマスを培養した後、培養容器に、暖まった軟骨形成培地を添加し、5% CO2、37℃条件の培養器内で培養した。培養物は3~4日ごとに再供給(re-feeded)された。培養して14日後、軟骨生成ペレットをアルシアンブルー(Alcian blue)で染色した。hMSC(Lonza,Switzerland)も上記の方式で同様に軟骨細胞に分化させ、比較した。
【0098】
〔実施例8.1.in vitroでhMSSCの内皮細胞への分化能〕
実施例2.1のhMSSCが内皮細胞(endothelial cells,ECs)に分化することを確認した。hMSSCをEC分化培地(endothelial growth medium(EGM)-2(Lonza,Walkersville,MD,USA)内の50ng/ml VEGF(vascular endothelial growth factor:ProSpec,Rehovot,Israel)及び10ng/ml bFGF(basic fibroblast growth factor;ProSpec,Rehovot,Israel)で6日間培養して分化させた。細胞免疫蛍光染色を実施して分化の有無を確認した。
【0099】
〔実施例8.2.in vitroでhMSSCの骨格筋細胞への分化能〕
実施例2.1及び実施例2.2のhMSSCが骨格筋細胞(skeletal muscle cells)に分化するかどうか確認した。hMSSCをマトリゲルでコートされたカバースリップ上で、骨格筋分化培地(2% B27が含まれたDMEM)で2週間培養することによって分化した。細胞免疫蛍光染色を実施して分化の有無を確認した。
【0100】
〔実施例9.in vitroでhMSSCの神経細胞への分化誘導〕
神経細胞に分化させるために、実施例2.1のhMSSCをポリオルニチン及びラミニン-コートされた培養皿にプレートした。2日後、培地を神経分化培地(2% B27、2mM GlutaMAX及び抗生剤を含むNeurobasal medium)に交換した。分化7日目に、0.5mMジブチルcAMP(Sigma,USA)を3日間毎日添加した。対照群として用いるために、H9hESCから分化したヒト神経幹細胞(Gibco,USA)を、上記と同じ方式によって神経細胞に分化させた。細胞免疫蛍光染色を施して分化の有無を確認した。
【0101】
〔実施例10.1.マウス腎臓内でhMSSCの分化能〕
実施例2.1のhMSSCのマウス腎臓内分化能を測定するために、hMSSCをMSCGM-CD(Lonza,Switzerland)培地で2~5継代培養して単一細胞として収集した後、hMSSC(2x105cells)をアガロースゲルウェルにおいてDMEM+20%FBSで2日間培養して細胞凝集体を作り、Balb/cヌードマウスの腎臓内(kidney capsule)に移植した。移植4週後に組織化学染色と組織免疫蛍光染色を行った。
【0102】
〔実施例10.2.マウス皮下でhMSSCの分化能〕
実施例2.1のhMSSCのマウス皮下における分化能を測定するために、hMSSCをMSCGM-CD(Lonza,Switzerland)培地で2~5継代培養して単一細胞として収集した後、hMSSC(2x105cells)を1μg/mlのヒアルロン酸(Sigma,USA)の添加されたフィブリングルー(greenplast、緑十字、韓国)に搭載してBalb/cヌードマウスの皮下に移植した。移植4週後に組織化学染色及び組織免疫蛍光染色を行った。
【0103】
〔実施例11.1.hMSCを用いた骨形成試験〕
大腿骨骨折モデルにおいてhMSCの骨形成を分析するために、hMSC(Lonza,Switzerland)をMSCGM-CD(Lonza,Switzerland)培地で7継代培養して単一細胞として収集した後、1mm×1mmで切断したコラーゲンメンブレイン(SK bioland,Korea)に細胞を吸収させた。6週齢のBalb/c-ヌードマウスにおいて片方の脛骨を1mm程度ドリル(Bosch professional,Germany)で穿孔した後、コラーゲンメンブレインが含有しているhMSCをマウスの骨折部位に挿入した。毎2週ごとにマウスを麻酔した後、骨折部位に対してMicro-CT(Skyscan1076,Antwerp,Belgium)を用いてイメージを得た。6週後に組織化学染色と組織免疫蛍光染色を行った。
【0104】
〔実施例11.2.hMSSCを用いた骨形成試験〕
大腿骨骨折モデルにおいてhMSSCの骨形成を分析するために、実施例2.1のhMSSCをMSCGM-CD(Lonza,Switzerland)培地で2~5継代培養して単一細胞として収集した後、1mm×1mmで切断したコラーゲンメンブレイン(SK bioland,Korea)に細胞を吸収させた。6週齢のBalb/c-ヌードマウスにおいて片方の脛骨を1mm程度ドリル(Bosch professional,Germany)で穿孔した後、コラーゲンメンブレインが含有しているhMSSCをマウスの骨折部位に挿入した。毎2週ごとにマウスを麻酔した後、骨折部位に対してMicro-CT(Skyscan1076,Antwerp,Belgium)を用いてイメージを得た。6週後に組織化学染色と組織免疫蛍光染色を行った。
【0105】
〔実施例12.マイクロCT(micro CT)〕
Micro-CT(Skyscan1076,Antwerp,Belgium)を用いて、実施例10.1で実施したhMSSCの腎臓内移植部位に生成された骨部位をスキャンすることによって、3次元の再構造化されたCT(computed tomography)イメージを得た。その後、フレームグラバを用いてデータをデジタル化し、その結果として得たイメージを、Comprehensive TeX Archive Network(CTAN)topographic reconstruction softwareを用いてコンピュータに移した。
【0106】
〔実施例13.scx、Runx2、MYH9に対するmRNA発現量測定〕
実施例2.1のhMSSCの腎臓内移植物を500μL Trizol(Life Technologies,USA)を用いて、製造者のプロトコルにしたがってRNAを抽出した。hMSSCの腎臓内移植物にDNAse(RQ1DNase,Promega,USA)を処理した後、500ng RNAをSuperscript III RT(Life Technologies,USA)第1鎖cDNA合成プロトコルにしたがってオリゴ-d(T)及びランダムヘキサを用いてcDNAに逆転写した。qRT-PCRは、StepOne Plus PCRサイクラー(Applied Biosystems)上でSybrグリーン(Applied Biosystems,Foster City,CA)を用いて行った。mRNA発現データは△△CT方法を用いて分析し、遺伝子検出のためにグリセルアルデヒド-3-フォスフェート脱水素酵素(GAPDH)で正規化した。qRT-PCRに必要な検証されたプライマーはQuagen(USA)から購入した。対照群として用いるために、hMSSCも、同じ方法でRNAを抽出し、qRT-PCRを実施した。
【0107】
[実験の結果]
〔試験例1.hESCから由来したhMSSCの分化誘導の確認〕
老化マーカー
[210]
前記実施例2に示したように、hESCからhMSSCの分化を誘導し、誘導されたhMSSCの形態的変化を観察した結果を、
図1Aに示した。
図1Aに示すように、単一細胞化した未分化されたH9hESCが7継代以内に線維芽細胞の形状に単一の集団に分化したことを確認した。7継代から17継代までの10継代以上を類似の形状で成長するが、19継代以降には、老化マーカーβ-ガラクトシダーゼを染色した結果、陽性反応を示し、老化が進行されたことを観察した。
【0108】
免疫蛍光法を用いた全分化能マーカーの確認
hESCから誘導されてから7継代以上が過ぎたhMSSCにおいて、全分化能マーカーの発現を免疫蛍光法で観察し、観察の結果を
図1Bに示した。比較可能なように、H9hESCの全分化能マーカーの発現を免疫蛍光法で確認した結果を共に示した。
【0109】
図1Bに示すように、H9hESCは、OCT4、NANOG、SOX2、LIN28の全てに対して陽性を示し、全分化能があることを確認した。一方、H9hESCから誘導されたhMSSCは、OCT4、NANOG、SOX2及びLIN28に対しては陰性を示すことを確認した。
【0110】
RNA-シーケンシングを用いた全分化能マーカー、外胚葉、中胚葉、内胚葉マーカー確認
hESC、hMSC及び7継代、17継代のhMSSCにおいて全分化能、外胚葉、中胚葉及び内胚葉マーカーの発現をRNA-シーケンシングを用いて確認した結果を、
図1Cに示した。H9hESC(hESC-1、hESC-2)では、TDGF、NANOG、POU5F1、SOX2、DPPA4、LEFTY1及びGDF3などの全分化能マーカーのmRNA発現が確認された。一方、H9hESCから誘導されたhMSSCでは全分化能マーカーであるDPPA4発現は観察されたが、全分化能マーカーTDGF、NANOG、POU5F1、LEFTY1及びGDF3の発現は観察されなかった。DPPA4発現は、H9hESCと類似のレベルであることを確認した。
【0111】
DPPA4はヒト中間葉幹細胞では発現しないことが分かる。また、hMSSCで外胚葉マーカーであるNESが陽性を示したが、DESと初期中胚葉マーカーであるT及びNodalを除く大部分の中胚葉マーカーに陽性を示し、また大部分の内胚葉マーカーに対して陰性を示すことを確認した。特に、NESは中間葉幹細胞では発現しなかった。
【0112】
細胞表面抗原発現を用いた中間葉幹細胞マーカーの確認
図1Dに示すように、hMSSCの表面抗原発現を測定した。中間葉幹細胞特異細胞表面抗原の発現を調べた結果、中間葉幹細胞マーカーのうち、CD44、CD51、CD73、CD105、CD146、CD166はhMSSCで発現するが、中間葉幹細胞マーカーのうち、CD90及びCD271はhMSSCでは発現しないことを確認した。また、血液系統細胞表面標識子のCD2、CD3、CD7、CD8、CD11b、CD14、CD19、CD20、CD31、CD34、CD56は発現しなかったが、pre-B細胞マーカーであるCD10が発現していた。
【0113】
他系統細胞特異マーカーの確認
図1Eに示すように、hMSSCの特性を調べるために、様々な系統の組織特異マーカー発現を分析した結果、中胚葉マーカーであるa-SMA(alpha smooth muscle actin)、神経外胚葉マーカーであるPax6、筋原性衛星マーカーであるPax7、及び腸幹細胞マーカーであるLGR5などが発現しており、軟骨細胞マーカーであるSOX9及び筋芽細胞マーカーであるMyoDなどは発現していなかった。これは、hMSSCが軟骨細胞及び筋肉細胞まで分化される前の前駆細胞であることを意味する。
【0114】
〔試験例2.in vitroでhMSSCの分化能〕
hMSCと実施例2.1のhMSSCに対して試験管内骨形成、軟骨形成、脂肪形成を実験し(実施例7)、その結果を
図2Aに示した。
図2Aでは、hMSCが試験管内で骨、軟骨、脂肪に分化されることを確認できる。しかし、hMSCに適用した同一条件の試験管内誘導環境でhMSSCは骨、軟骨には分化されるが、脂肪にはほとんど分化されていないことを確認した。すなわち、中間葉幹細胞とは機能的に差異が存在することを確認した。
【0115】
骨格筋への分化能
前記試験例1のhMSSCが骨格筋に分化し得る能力があるかどうかを評価した。
【0116】
hMSSCをマトリゲルのコートされたカバースリップ上で骨格筋分化培地(2% B27が含有されたDMEM)で2週間培養した後、骨格筋のマーカーであるMYH9に対して免疫蛍光法を行った。その結果を
図2Bに示した。C2C12を陽性対照群として用いた。
図2Bに示すように、hMSSCを骨格筋分化培地に培養する場合、骨格筋特異マーカーであるMYH9が発現することを確認したことから、hMSSCが骨格筋に分化する潜在力があることを確認した。
【0117】
内皮細胞への分化能
前記試験例1のhMSSCが内皮細胞に分化し得る能力があるかどうか評価した。
【0118】
hMSSCをEC分化培地(endothelial growth medium(EGM)-2(Lonza,Walkersville,MD)内の50ng/ml VEGF(vascular endothelial growth factor:ProSpec,Rehovot,Israel)及び10ng/ml bFGF(basic fibroblast growth factor;ProSpec)で6日間培養した後、内皮細胞マーカーであるCD31、VE-cadherinに対して免疫蛍光法を行った。その結果を
図2C及び
図2Dに示した。HUVECを内皮細胞分化の陽性対照群として用いた。
図2C及び
図2Dに示すように、hMSSCでCD31、VE-cadherinの発現が観察されなかったが、これは、hMSSCが内皮細胞に分化する潜在力がないことを意味する。一方、対照群であるHUVECは前記マーカーを発現することを確認した。
【0119】
神経細胞への分化能
hMSSCを神経分化培地(2% B27、2mM GlutaMAX及び抗生剤を含むNeurobasal medium)で7日間インキュベーションした後、0.5mMジブチルcAMP(Sigma)を3日間毎日添加しながら培養した。その後、神経細胞への分化マーカーであるMAP2に対して細胞免疫蛍光法を行い、その結果を
図2Eに示した。NSC(neuronal stem cells)を神経細胞分化の陽性対照群として用いた。
図2Eに示すように、NSCは細胞形状が神経細胞形状に変わっており、神経細胞特異マーカーであるMAP2が発現したことから、神経細胞に分化することを確認し、一方、hMSSCの場合、細胞形状に変化がなく、MAP2も発現しないことから、神経細胞に分化する潜在力がないことが分かった。
【0120】
前記試験例1で確認したように、hMSSCが外胚葉マーカーであるNESに陽性を示したにもかかわらず、神経細胞には分化されないことを確認した。hMSSCは中胚葉、より具体的には、骨、軟骨、筋肉に分化し得ることが分かる。
【0121】
〔試験例3.in vivoでhMSSCの骨、軟骨、筋肉、脂肪及び腱への分化確認〕
実施例2と同一にして誘導されたhMSSCの分化可能性をin vivoで測定するために、hMSSCを免疫欠乏マウスの腎臓内(実施例10.1)及び皮下(実施例10.2)に移植した。マウス腎臓内にhMSSCを移植して3~4週後に、組織をH&Eで染色し、また骨、筋肉、脂肪、腱の特異マーカーに対する免疫蛍光染色結果及びTO-PRO3で核を対照染色した結果を、
図3A及び
図3Bに示した。
【0122】
図3Aは、hMSSCをMSCGM-CD(Lonza,Switzerland)培地で2~5継代間培養し腎臓内に移植してから4週後の結果を示すが、H&E染色上で腎臓内で典型的な筋肉、脂肪、腱が形成されたことが確認できた(
図3Aのa)。前記分化された筋肉組織を確認した結果、いずれも骨格筋に分化され、平滑筋には分化されなかったことを確認した。一方、同一の条件でヒトMSCを移植した場合、筋肉、脂肪、腱などが全く形成されなかった(data not shown)。移植部位の免疫組織化学分析の結果、各分化組織において、筋肉マーカーであるphospho-myosin light chain(pMLC)、脂肪マーカーであるPPARgamma(PPAr)、腱マーカーであるsleraxis(Scx)などが陽性であり、これらはいずれもヒト細胞マーカーであるhLA(human leukocyte antigen)に対しても陽性であることを確認した。このことから、移植したhMSSCが筋肉、脂肪、腱細胞に分化したことが分かる(これは、試験管内試験で脂肪に分化されなかった結果とは相反している。)(
図3Aのb)。
【0123】
図3Bのaは、腎臓内hMSSCの移植部位をMicro CTでスキャンした結果であるが、堅い組織、すなわち骨が形成されたことが分かる。
【0124】
図3Bのb及びcは、H&E染色及びペンタクローム染色を用いて骨が形成されたことを示す。したがって、移植したhMSSCが腎臓カプセル下で全て骨に分化したことが分かる。
【0125】
図3Bのdは、移植部位の免疫組織化学分析結果を示す。組織内部の細胞においてヒト細胞マーカーであるhLA(human leukocyte antigen)、骨マーカーであるOsx(osterix)、Runx2、DMP1、OCN(osteocalin)などが陽性であることを確認し、また血管マーカーであるvWFも骨組織内に侵入しており、全身循環系と連結されている骨が形成されていることを確認し、移植したhMSSCが骨に分化したことが分かる。
【0126】
図3Cは、hMSSCをヒアルロン酸の添加されたフィブリングルーに搭載してマウスの皮下に移植した場合、軟骨細胞に分化された結果を示す。H&E染色及びトルイジンブルー染色によって軟骨が形成されたことを確認した。
【0127】
上記の結果をまとめると、本発明のhMSSCは、移植部位に依存して軟骨、筋肉、腱及び骨に分化でき、分化能に優れることを確認した。
【0128】
〔試験例5.hMSSCの骨折回復に対する効果確認〕
実施例2と同一に誘導されたhMSSCの骨折回復に対する効果を確認するために、前記実施例11と共に骨折研究を行い、その結果を
図4A及び
図4Bに示した。
【0129】
大腿骨骨折モデルにおいて骨折部位にhMSCを移植した場合、約6週後に骨折部位に骨が形成されたことを確認した。しかし、骨形成部位が骨マーカーであるRunx2に対して陽性であるが、ヒト細胞マーカーであるhLAに対して陰性であったことから、骨形成がhMSCによるものではなく、マウス自体内の細胞が骨を形成したものと評価された(
図4A)。これに対し、同条件でhMSSCを移植した場合、約6週後に骨折部位に骨が形成され、骨形成部位がRunx2に陽性であり、ヒト細胞マーカーであるhLAに対して陽性であることが確認された。これは、hMSSCの分化によって骨が形成されたものと評価された(
図4B)。
【0130】
〔試験例6.hiPSCからhMSSCの分化誘導及び誘導されたhiPSCの特性確認〕
hiPSC(human induced pluripotent stem cells)は、Hasegawa等(Fusaki et al.,2009)によって開発されたプロトコルにしたがってsendaiウイルス-媒介されたOCT4、KLF4、SOX2、及びMYCの過発現によってIMR90胎児線維芽細胞をリプログラミングすることによって製造した。
【0131】
実施例2と同様にhiPSCからhMSSCを誘導してhMSSC(以下、iPS-hMSSC)を得た。iPS-hMSSCにおいて全分化能マーカーであるOct4、Nanog、Sox2、及びLin28の発現レベルを免疫蛍光法及びRT-PCRによって確認した結果を、それぞれ
図5Aに示した。
【0132】
図5Aにおいて、iPS細胞は、OCT4、NANOG、SOX2、LIN28の全てに対して陽性を示し、全分化能があることを確認した。一方、iPS-hMSSCは全分化能マーカーであるOCT4、NANOG、SOX2及びLIN28に対してはいずれも陰性を示すことを確認した。
【0133】
図5Bは、iPS-hMSSCに対して表面抗原の発現を測定した結果である。中間葉幹細胞特異細胞表面抗原の発現を調べた結果、中間葉幹細胞マーカーのうち、CD44、CD51、CD73、CD105、CD146、CD166はiPS-hMSSCで発現するが、中間葉幹細胞マーカーのうち、CD90及びCD271はiPS-hMSSCでは発現しないことを確認した。また、血液系統細胞表面標識子のCD2、CD3、CD7、CD8、CD14、CD20、CD56は発現しなかったが、pre-B細胞マーカーであるCD10が発現していた。
【0134】
また、試験例2と同じ方法でiPS-hMSSCの骨形成、軟骨形成、脂肪形成を評価し、その結果を
図5Cに示した。
図5Cに示すように、hiPSCから誘導されたhMSSCは試験管内で骨、軟骨には分化されるが、脂肪にはほとんど分化されないことを確認した。
【0135】
また、iPS-hMSSCをマトリゲルのコートされたカバースリップ上で骨格筋分化培地(2% B27が含有されたDMEM)で2週間培養した後、骨格筋のマーカーであるMYH9に対して免疫蛍光法を行った結果を、
図5Dに示した。C2C12を陽性対照群として用いた。
図5Dに示すように、hiPSCから誘導されたhMSSCが骨格筋に分化する潜在力があることを確認した。
【0136】
上記の結果をまとめると、hiPSCから誘導されたhMSSCがhECSから誘導されたhMSSCと同じ特性を有することが確認でき、hECSの代案としてhiPSCを用いてhMSSCが得られることを確認した。
【0137】
〔試験例7.in vivoでhiPSCから誘導されたhMSSCの分化能〕
腎臓内移植
マウス腎臓内に前記試験例6のhMSSCを移植して3~4週後、組織をH&E染色時に、腎臓内で典型的な筋肉、脂肪、腱が形成されることが確認できた。移植部位の免疫組織化学分析を行うと、筋肉マーカーであるphospho-myosin light chain(pMLC)、脂肪マーカーであるPPARgamma(PPAr)、腱マーカーであるsleraxis(Scx)などが陽性であり、これらはいずれもヒト細胞マーカーであるhLA(human leukocyte antigen)に対しても陽性であることが確認できた。また、骨マーカーであるOsx(osterix)、Runx2、DMP1、OCN(osteocalin)などが陽性であることが確認できる。上記の方法により、iPSCから誘導されたhMSSCが筋肉、脂肪、腱及び骨に分化され得ることが確認できた
皮下移植
前記試験例6のhMSSCをヒアルロン酸の添加されたフィブリングルーに搭載してマウスの皮下に移植した後、H&E染色及びトルイジンブルー染色によって、前記hMSSCが軟骨に分化され得ることが確認できた。
【0138】
〔比較例1.ノギンが入っているMSSC培地と馴化培地が入っているCM培地の分化能比較〕
前記実施例2のMSSC培地の7つの構成要素のうち構成要素1)のヒトノギン(Life technology)に代えて馴化培地(完全培地においてDMEM/F12をKnockout DMEMに置換した培地(20% Knockout Serum Replacement(Invitrogen,USA)、1mMグルタミン、1%非必須アミノ酸(Invitrogen,USA)、0.1mM β-メルカプトエタノール、0.1%ペニシリン-ストレプトマイシン、5mg/mlウシ血清アルブミンで補充されたKnockout DMEM)を用いてCF1細胞を24時間培養して得た培養上清液)を追加した培地(残りの構成要素2)~7)は同様)(以下、「CM培地」という。)を用いて、MSSC培地とCM培地の分化能を比較した。
【0139】
この場合、ノギンは、通常、hESC培養時にその特性を維持する用途で用いられる(Chaturvedi G,Simone PD,Ain R,Soares MJ,Wolfe MW.Noggin maintains pluripotency of
human embryonic stem cells grown on Matrigel.Cell Prolif.2009 Aug;42(4):425-33)が、既存に知らされた機転とは違い、中胚葉への傾向性を大きく増加させており、下記表1にみられるように、CM培地を用いた場合に比べて、ノギンを用いた場合に骨分化の傾向性を10倍以上増加させた。
【0140】
【0141】
また、それぞれの培地を使用した場合のCD44発現量を比較した。CM含有培地(CM培地)とノギン含有培地(MSSC培地)で分化誘導後、CD44の発現量を実施例6と同じ方式で測定した。実験の結果、CM培地を使用した場合に比べてノギンを含有したMSSC培地を使用する場合にCD44の発現量が大幅に増加することを確認した(
図6)。
【0142】
骨分化の際、必ず軟骨形成(chondrogenesis)が起きた後に軟骨性骨(endochondral bone)の形態で骨形成が進行されるが、CD44は軟骨形成に必須の役割を担うものと知られている(Wu SC,Chen CH,Chang
JK,Fu YC,Wang CK,Eswaramoorthy R,Lin YS,Wang YH,Lin SY,Wang GJ,Ho ML:Hyaluronan
initiates chondrogenesis mainly via cd44in human adipose-derived stem cells.J Appl Physiol(1985)2013;114:1610-1618)。上記の結果をまとめると、CM培地を使用するよりはMSSC培地を使用する方が、骨分化と関連して適合することが分かる。
【0143】
hMSSCを腎臓内移植した場合、hMMSC培地によって分化された細胞は、CM培地によって分化された細胞と比較して分化速度が1~2週早まることを確認した。CM培地を用いた場合とhMMSC培地を用いた場合の分化速度の差は、下記表2の通りである。
【0144】
【0145】
〔比較例2.MSSC培地の構成要素間組合せによる相乗効果比較〕
今回は前記実施例2のMSSC培地の構成要素のうち、1)~6)の成分のいずれか1のずつを含まない場合の分化能を、全部を含む場合と比較した。実験の結果、前記1)~6)の成分のいずれか一つの構成要素を欠乏する場合、軟骨(アルシアンブルー)や骨(ALP及びアリザリンレッドS)へと正しく分化されないことを確認した(
図7、表3)。
【0146】
【0147】
以上、本発明の特定の部分を詳しく記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単に好ましい具現例であり、それらに本発明の範囲が制限されないことは明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は添付の請求項とその等価物によって定義されるといえよう。
【0148】
(受託番号)
寄託機関名:韓国細胞株研究財団
受託番号:KCLRFBP00460
受託日:20181010
【0149】
【0150】
(課題固有番号)2017M3A9B4065302
(部署名)情報通信科学技術部
(研究管理専門機関)韓国研究財団
(研究事業名)幹細胞研究事業
(研究課題名)筋骨格幹細胞を用いた筋骨格系疾患治療技術開発
(寄与率)1/1
(主管機関)ジョンブク大学校
(研究期間)2017.06.30~2019.01.29