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特許7013052エンヒドロバクター細菌由来のナノ小胞及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】エンヒドロバクター細菌由来のナノ小胞及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20220124BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220124BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20220124BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220124BHJP
   A61K 35/741 20150101ALI20220124BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220124BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220124BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20220124BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220124BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220124BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6886 Z
A23L33/135
A61K35/741
A61P1/16
A61P9/00
A61P9/04
A61P35/00
A61K9/14
A61P3/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020546473
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 KR2019002503
(87)【国際公開番号】W WO2019172600
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-10-19
(31)【優先権主張番号】10-2018-0026037
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0024890
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516348577
【氏名又は名称】エムディー ヘルスケア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MD HEALTHCARE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ユン-クン
【審査官】中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第1833348(KR,B1)
【文献】特表2009-536313(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008895(WO,A1)
【文献】Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria,2012年,Vol.23, No.1,p.24-33
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/00
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のステップを含む、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変及び糖尿病よりなる群から選ばれる1つ以上の疾患の診断のための情報提供方法:
(a)正常ヒト及び被検者のサンプルから分離した細胞外小胞からDNAを抽出するステップ;
(b)前記抽出したDNAに対して、細菌の16S rDNAを増幅するためのプライマーペアを用いてPCRを行った後、それぞれのPCR産物を収得するステップ;
(c)16S rDNAの前記PCR産物のシーケンシングを行うステップ;
(d)16S rDNAのシーケンシングによる前記PCR産物全体におけるエンヒドロバクター(Enhydrobacter)細菌由来の小胞の含量を分析するステップ;及び
(e)前記PCR産物の定量分析を通して正常ヒトに比べてエンヒドロバクター(Enhydrobacter)細菌由来の細胞外小胞の含量が低い場合、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変及び糖尿病よりなる群から選ばれる1つ以上の疾患に分類するステップ。
【請求項2】
前記(a)ステップでのサンプルは、血液であることを特徴とする、請求項1に記載の情報提供方法。
【請求項3】
エンヒドロバクター・アエロサックス(Enhydrobacter aerosaccus)由来の小胞を有効成分として含む、炎症性疾患の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項4】
前記小胞は、平均直径が10~200nmであることを特徴とする、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記小胞は、エンヒドロバクター・アエロサックス(Enhydrobacter aerosaccus)から自然的又は人工的に分泌されることを特徴とする、請求項3又は4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
エンヒドロバクター・アエロサックス(Enhydrobacter aerosaccus)由来の小胞を有効成分として含む、炎症性疾患の予防又は改善用食品組成物。
【請求項7】
前記小胞は、平均直径が10~200nmであることを特徴とする、請求項6に記載の食品組成物。
【請求項8】
前記小胞は、エンヒドロバクター・アエロサックス(Enhydrobacter aerosaccus)から自然的又は人工的に分泌されることを特徴とする、請求項6又は7に記載の食品組成物。
【請求項9】
エンヒドロバクター・アエロサックス(Enhydrobacter aerosaccus)由来の小胞の、炎症性疾患の予防又は治療用薬剤の製造のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンヒドロバクター細菌由来のナノ小胞及びその用途に関し、より具体的に、エンヒドロバクター細菌に由来するナノ小胞を用いたすい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、又は糖尿病などの診断方法、及び前記小胞を含む前記疾患などの予防、改善又は治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
21世紀に入ってから過去には伝染病と認識された急性感染性疾患の重要性が低下する一方で、ヒトとマイクロバイオームとの不調和によって発生する免疫機能の異常を伴った慢性疾患が生活の質とヒトの寿命を決定する主な疾患となり疾病パターンが変わった。21世紀の難治性慢性疾患として、癌、心血管疾患、慢性肺疾患、代謝疾患、及び神経精神疾患がヒトの寿命と生活の質を決定する主な疾患として国民保健に大きい問題になっている。
【0003】
人体に共生する微生物は100兆に至り、ヒト細胞より10倍多く、微生物の遺伝子数は、ヒトの遺伝子数の100倍を超えることが知られている。微生物叢(microbiotaあるいはmicrobiome)は、与えられた生息地に存在する真正細菌(bacteria)、古細菌(archaea)、真核生物(eukarya)を含む微生物群集団(microbial community)を言う。
【0004】
人体に共生する細菌及び周辺環境に存在する細菌は、他の細胞への遺伝子、低分子化合物、タンパク質などの情報を交換するために、ナノメートルサイズの小胞(vesicle)を分泌する。粘膜は、200ナノメートル(nm)サイズ以上の粒子は通過できない物理的な防御膜を形成して、粘膜に共生する細菌である場合には、粘膜を通過しないが、細菌由来の小胞は、サイズが100ナノメートルサイズ以下であるので、比較的自由に粘膜を通じて上皮細胞を通過して人体に吸収される。局所的に分泌された細菌由来の小胞は、粘膜の上皮細胞を通じて吸収されて局所炎症反応を誘導すると共に、上皮細胞を通過した小胞は、リンパ管を通じて全身的に吸収されて各臓器に分布し、分布した臓器で免疫及び炎症反応を調節する。例えば、大腸菌(Eshcherichia coli)のような病原性グラム陰性細菌に由来する小胞は、局所的に炎症反応及び癌を起こし、血管に吸収された場合に、血管内皮細胞の炎症反応を通じて全身的な炎症反応及び血液凝固を促進させ、また、インスリンが作用する筋肉細胞などに吸収されて、インスリン抵抗性と糖尿病を誘発する。反面、有益な細菌に由来する小胞は、病原性小胞による免疫機能及び代謝機能の異常を調節して疾病を調節することができる。
【0005】
細菌に由来する小胞などの因子に対する免疫反応は、インターロイキン(Interleukin、以下、ILという)-17サイトカインの分泌を特徴とするTh17免疫反応が発生するが、これは、細菌由来の小胞に露出時にIL-6が分泌され、これは、Th17免疫反応を誘導する。Th17免疫反応による炎症は、好中球の浸潤を特徴とし、炎症が発生する過程でマクロファージなどの炎症細胞から分泌される腫瘍壊死因子-アルファ(tumor necrosis factor-alpha、以下、TNF-αという)が重要な役割を担当する。
【0006】
エンヒドロバクター細菌は、ガンマプロテオバクテリアに属するグラム陰性細菌である。エンヒドロバクター・アエロサックス(Enhydrobacter aerosaccus)がエンヒドロバクター属(genus)に属する唯一の種(species)であって、カタラーゼ(catalase)とオキシダーゼ(oxidase)陽性である菌であると知られている。しかしながら、まだエンヒドロバクター細菌から細胞外に小胞が分泌されるという事実は報告されたことがなく、エンヒドロバクター由来の小胞を応用して、癌、心血管疾患、糖尿病などのような難治性疾患の診断及び治療に応用した事例は報告されたことがない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、前述のような従来の問題点を解決するために、鋭意研究した結果、メタゲノム分析を通して正常ヒトに比べてすい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、及び糖尿病患者由来のサンプルでエンヒドロバクター細菌由来の小胞の含量が有意に減少していることを確認した。また、エンヒドロバクター細菌に属するエンヒドロバクター・アエロサックス菌から小胞を分離してマクロファージに処理したとき、病原性小胞によるIL-6及びTNF-αの分泌を顕著に抑制することを確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0008】
これより、本発明は、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、又は糖尿病の診断のための情報提供方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、エンヒドロバクター細菌由来の小胞を有効成分として含むすい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、又は糖尿病の予防、改善又は治療用組成物を提供することを他の目的とする。
【0010】
しかしながら、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、下記のステップを含む、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、又は糖尿病の診断のための情報提供方法を提供する:
(a)正常ヒト及び被検者のサンプルから分離した細胞外小胞からDNAを抽出するステップ;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAに存在する遺伝子配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)を行った後、それぞれのPCR産物を収得するステップ;及び
(c)前記PCR産物の定量分析を通して正常ヒトに比べてエンヒドロバクター(Enhydrobacter)細菌由来の細胞外小胞の含量が低い場合、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、又は糖尿病に分類するステップ。
【0012】
また、本発明は、下記のステップを含む、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、又は糖尿病の診断方法を提供する:
(a)正常ヒト及び被検者のサンプルから分離した細胞外小胞からDNAを抽出するステップ;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAに存在する遺伝子配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)を行った後、それぞれのPCR産物を収得するステップ;及び
(c)前記PCR産物の定量分析を通して正常ヒトに比べてエンヒドロバクター(Enhydrobacter)細菌由来の細胞外小胞の含量が低い場合、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、又は糖尿病と判定するステップ。
【0013】
本発明の一具現例において、前記(a)ステップでのサンプルは、血液でありうる。
【0014】
本発明の他の具現例において、前記(b)ステップでのプライマーペアは、配列番号1及び配列番号2のプライマーでありうる。
【0015】
また、本発明は、エンヒドロバクター細菌由来の小胞を有効成分として含む、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、慢性肝疾患又は糖尿病の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0016】
また、本発明は、エンヒドロバクター細菌由来の小胞を有効成分として含む、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、慢性肝疾患又は糖尿病の予防又は改善用食品組成物を提供する。
【0017】
また、本発明は、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、慢性肝疾患又は糖尿病の予防又は治療用途を提供する。
【0018】
また、本発明は、エンヒドロバクター細菌由来の小胞を有効成分として含む薬学的組成物を個体に投与するステップを含む、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、慢性肝疾患又は糖尿病の予防又は治療方法を提供する。
【0019】
本発明の一具現例において、前記小胞は、平均直径が10~200nmのものでありうる。
【0020】
本発明の他の具現例において、前記小胞は、エンヒドロバクター細菌から自然的又は人工的に分泌されるものでありうる。
【0021】
本発明のさらに他の具現例において、前記エンヒドロバクター細菌由来の小胞は、エンヒドロバクター・アエロサックス由来の小胞でありうる。
【発明の効果】
【0022】
本発明者らは、細菌である場合には、体内に吸収されないが、細菌由来の小胞である場合には、上皮細胞を通じて体内に吸収されて、全身的に分布し、腎臓、肝臓、肺を通じて体外に排泄されることを確認し、患者の血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を通してすい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、及び糖尿病患者の血液に存在するエンヒドロバクター細菌由来の小胞が、正常ヒトに比べて有意に減少していることを確認した。また、エンヒドロバクター細菌に属する種であるエンヒドロバクター・アエロサックスを体外で培養して小胞を分離して、体外で炎症細胞に投与したとき、病原性小胞による炎症メディエーターの分泌を有意に抑制することを観察したところ、本発明によるエンヒドロバクター細菌由来の小胞は、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、又は糖尿病に対する診断方法、及び前記疾患に対する予防、改善又は治療用組成物に有用に用いられるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1aは、マウスに細菌と細菌由来の小胞(EV)を口腔で投与した後、時間別に細菌と小胞の分布様相を撮影した写真であり、図1bは、口腔で投与した後12時間目に、血液、腎臓、肝臓、及び様々な臓器を摘出して、細菌と小胞の体内分布様相を評価した図である。
図2図2は、すい臓癌患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を実施した後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を比較した結果である。
図3図3は、胆管癌患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を実施した後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を比較した結果である。
図4図4は、乳癌患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を実施した後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を比較した結果である。
図5図5は、卵巣癌患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を実施した後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を比較した結果である。
図6図6は、リンパ腫患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を実施した後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を比較した結果である。
図7図7は、心筋梗塞患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を実施した後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を比較した結果である。
図8図8は、心筋症患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を実施した後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を比較した結果である。
図9図9は、心房細動患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を実施した後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を比較した結果である。
図10図10は、異型狭心症患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を実施した後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を比較した結果である。
図11図11は、肝硬変患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を実施した後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を比較した結果である。
図12図12は、糖尿病患者及び正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞メタゲノム分析を実施した後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を比較した結果である。
図13図13は、エンヒドロバクター・アエロサックス由来の小胞の抗炎症及び免疫調節効果を評価するために、病原性小胞である大腸菌小胞(E.coli EV)の処理前にエンヒドロバクター菌由来の小胞を前処理して、大腸菌小胞による炎症メディエーターであるIL-6及びTNF-αの分泌に及ぼす影響を評価した結果である(PC:positive control;LP:Lactobacillus plantarum EVs;EA:Enhydrobacter aerosaccus EVs)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、エンヒドロバクター細菌由来の小胞及びその用途に関する。
【0025】
本発明者らは、メタゲノム分析を通してエンヒドロバクター細菌由来の小胞が、正常ヒトに比べてすい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変及び糖尿病患者の臨床サンプルで有意に減少していることを確認し、疾患を診断することができることを確認した。また、エンヒドロバクター細菌に属する唯一の種であるエンヒドロバクター・アエロサックスから小胞を分離し、特性を分析した結果、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、慢性肝疾患、及び糖尿病などの疾患に対する予防、改善又は治療用組成物として用いることができることを確認した。
【0026】
これより、本発明は、下記のステップを含む、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、又は糖尿病の診断のための情報提供方法を提供する:
(a)正常ヒト及び被検者のサンプルから分離した細胞外小胞からDNAを抽出するステップ;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAに存在する遺伝子配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)を行った後、それぞれのPCR産物を収得するステップ;及び
(c)前記PCR産物の定量分析を通して正常ヒトに比べてエンヒドロバクター(Enhydrobacter)細菌由来の細胞外小胞の含量が低い場合、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、又は糖尿病に分類するステップ。
【0027】
本発明において使用される用語「診断」とは、広い意味では、患者の病の実態をすべての面にわたって判断することを意味する。判断の内容は、病名、病因、病型、軽重、病状の詳細な様子、合併症の有無、及び予後などである。本発明において診断は、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、及び/又は糖尿病などの発病の有無及び疾患のレベルなどを判断することである。
【0028】
本発明において使用される用語「ナノ小胞(Nanovesicle)」あるいは「小胞(Vesicle)」とは、多様な細菌から分泌されるナノサイズの膜からなる構造物を意味する。グラム陰性菌(gram-negative bacteria)由来の小胞、又は外膜小胞(outer membrane vesicles,OMVs)は、内毒素(lipopolysaccharide)だけでなく、毒性タンパク質及び細菌DNAとRNAも有しており、グラム陽性菌(gram-positive bacteria)由来の小胞は、タンパク質と核酸の他にも、細菌の細胞壁の構成成分であるペプチドグリカン(peptidoglycan)とリポタイコ酸(lipoteichoic acid)も有している。本発明において、ナノ小胞あるいは小胞は、エンヒドロバクター細菌から自然的に分泌されたり、又は人工的に生産するものであって、球形の形態であり、10~200nmの平均直径を有している。
【0029】
本発明において使用される用語「メタゲノム」とは、「群遺伝子」とも言い、土壌、動物の腸など孤立した地域内のすべてのウイルス、細菌、かびなどを含む遺伝子の総和を意味するものであって、主に培養にならない微生物を分析するために、シーケンサーを使用して一度に多くの微生物を同定することを説明する遺伝子の概念に使用される。特に、メタゲノムは、1種のゲノム、遺伝子を言うものではなく、一つの環境単位のすべての種の遺伝子であって、一種の混合遺伝子を言う。これは、オミックス的に生物学が発展する過程で1種を定義するとき、機能的に既存の1種だけでなく、多様な種が互いに相互作用して完全な種を作るという観点から出た用語である。技術的には、高速配列分析法を用いて、種に関係なく、すべてのDNA、RNAを分析して、一つの環境内でのすべての種を同定し、相互作用、代謝作用を解明する技法の対象である。
【0030】
本発明において、前記サンプルは、血液でありうるが、これに制限されるものではない。
【0031】
本発明の他の様態として、本発明は、エンヒドロバクター細菌由来の小胞を有効成分として含む、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、慢性肝疾患、又は糖尿病の予防、治療又は改善用組成物を提供する。前記組成物は、食品組成物及び薬学的組成物を含み、本発明において食品組成物は、健康機能食品組成物を含む。本発明の組成物は、口腔噴霧剤又は吸入剤の剤形でありうる。
【0032】
本発明において使用される用語「予防」とは、本発明による組成物の投与によりすい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、慢性肝疾患、及び/又は糖尿病などを抑制させたり発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0033】
本発明において使用される用語「治療」とは、本発明による組成物の投与によりすい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、慢性肝疾患、及び/又は糖尿病などに対する症状が好転したり有利に変更されるすべての行為を意味する。
【0034】
本発明において使用される用語「改善」とは、治療される状態と関連したパラメーター、例えば症状の程度を少なくとも減少させるすべての行為を意味する。
【0035】
前記小胞は、エンヒドロバクター細菌を含む培養液を遠心分離、超高速遠心分離、高圧処理、押出、超音波分解、細胞溶解、均質化、冷凍-解凍、電気穿孔、機械的分解、化学物質処理、フィルタによる濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、フリーフロー電気泳動、及びキャピラリー電気泳動からなる群より選ばれる1種以上の方法を用いて分離することができる。また、不純物の除去のための洗浄、収得された小胞の濃縮などの過程をさらに含むことができる。
【0036】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。前記薬学的に許容可能な担体は、製剤時に通常用いられるものであって、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、シクロデキストリン、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、リポソームなどを含むが、これに限定されず、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液など他の通常の添加剤をさらに含むことができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤などを付加的に添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒、又は錠剤に製剤化することができる。適合した薬学的に許容される担体及び製剤化に関しては、レミントンの文献に開示されている方法を用いて各成分によって好適に製剤化することができる。本発明の薬学的組成物は、剤形に特別な制限はないが、注射剤、吸入剤、皮膚外用剤、又は経口摂取剤などに製剤化することができる。
【0037】
本発明の薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与したり、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、皮膚、鼻腔、気道に適用)することができ、投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路及び時間によって異なるが、当業者により適宜選択され得る。
【0038】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、薬学的に有効な量は、医学的治療に適用可能な合理的なベネフィット/リスクの割合で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量のレベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時使用される薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られた要素によって決定され得る。本発明による組成物は、個別治療剤として投与したり他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次又は同時に投与され得、単一又は多重投与され得る。上記した要素を全部考慮して副作用なしに最小の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは、当業者によって容易に決定され得る。
【0039】
具体的に、本発明による薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、体重によって変わり得、一般的には、体重1kg当たり0.001~150mg、好ましくは0.01~100mgを毎日又は隔日投与したり、1日に1~3回に分けて投与することができる。しかしながら、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などによって増減され得るので、前記投与量がいかなる方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
本発明の食品組成物は、健康機能食品組成物を含む。本発明による食品組成物は、有効成分を食品にそのまま添加したり、他の食品又は食品成分と共に使用され得、通常の方法によって適切に使用され得る。有効成分の混合量は、その使用目的(予防又は改善用)によって適宜決定され得る。一般的に、食品又は飲料の製造時に、本発明の組成物は、原料に対して15重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で添加される。しかしながら、健康及び衛生を目的としたり又は健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記量は、前記範囲以下でありうる。
【0041】
本発明の食品組成物は、指示された割合で必須成分として前記有効成分を含有すること他に、他の成分には特別な制限がなく、通常の飲料のように様々な香味剤又は天然炭水化物などをさらなる成分として含有することができる。上述した天然炭水化物の例は、モノサッカライド、例えば、ブドウ糖、果糖など;ジサッカライド、例えばマルトース、スクロースなど;及びポリサッカライド、例えばデキストリン、シクロデキストリンなどのような通常の糖、及びキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールである。上述したもの以外の香味剤として天然香味剤(ソーマチン、ステビア抽出物(例えばレバウディオサイドA、グリチルリチンなど))及び合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を好適に使用することができる。前記天然炭水化物の比率は、当業者の選択によって適切に決定され得る。
【0042】
前記の他に本発明の食品組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、ミネラル(電解質)、合成風味剤及び天然風味剤などの風味剤、着色剤及び増進剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含有することができる。このような成分は、独立して、又は組み合わせて使用することができる。このような添加剤の比率も、当業者によって適宜選択され得る。
【0043】
本発明の一実施例では、細菌及び細菌由来の小胞をマウスの経口で投与して、細菌及び小胞の体内吸収、分布、及び排泄様相を観察したところ、細菌である場合には、腸粘膜を通じて吸収されないのに対し、小胞は、投与5分以内に吸収されて全身的に分布し、腎臓、肝臓などを通じて排泄されることを確認した(実施例1参照)。
【0044】
本発明の他の実施例では、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、及び糖尿病患者と、年齢と性別をマッチングした正常ヒトの血液から分離した小胞を用いて細菌メタゲノム分析を実施した。その結果、正常ヒトのサンプルに比べて、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、及び糖尿病患者の臨床サンプルでエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(実施例3~13参照)。
【0045】
本発明のさらに他の実施例では、エンヒドロバクター・アエロサックス菌株を培養し、これから分泌された小胞が免疫調節及び抗炎症効果を示すかを評価したが、多様な濃度のエンヒドロバクター・アエロサックス由来の小胞をマクロファージに処理した後、炎症疾患の原因因子である大腸菌由来の小胞を処理して炎症メディエーターの分泌を評価した結果、大腸菌由来の小胞によるIL-6及びTNF-αの分泌をエンヒドロバクター・アエロサックス由来の小胞が効率的に抑制することを確認した(実施例14参照)。
【0046】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をさらに容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例によって本発明の内容が制限されるものではない。
【実施例
【0047】
[実施例1.腸内細菌及び細菌由来の小胞の体内吸収、分布、及び排泄様相の分析]
腸内細菌と細菌由来の小胞が胃腸管を通じて全身的に吸収されるかを評価するために、次のような方法で実験を行った。マウスの胃腸に蛍光で標識した前記細菌と前記細菌由来の小胞をそれぞれ50μgの用量で胃腸管に投与し、0分、5分、3時間、6時間、12時間後に蛍光を測定した。マウス全体イメージを観察した結果、図1aに示されたように、細菌である場合には、全身的に吸収されなかったが、細菌由来の小胞である場合には、投与5分後に全身的に吸収され、投与3時間後には、膀胱に蛍光が濃く観察されて、小胞が泌尿器系に排泄されることが分かった。また、小胞は、投与12時間まで体内に存在することが分かった。
【0048】
また、前記腸内細菌と細菌由来の小胞が全身的に吸収された後、様々な臓器に浸潤された様相を評価するために、蛍光で標識した50μgの細菌と細菌由来の小胞を前記の方法のように投与した後、投与12時間後に、血液、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、脂肪、筋肉を採取した。採取した組織で蛍光を観察した結果、図1bに示されたように、細菌由来の小胞が、血液、心臓、肺、肝臓、脾臓、脂肪、筋肉、腎臓に分布したが、細菌は、吸収されないことが分かった。
【0049】
[実施例2.臨床サンプルで細菌由来の小胞メタゲノム分析]
血液をまず10mlのチューブに入れ、遠心分離法(3,500×g、10min、4℃)で浮遊物を沈め、上澄み液のみを新しい10mlのチューブに移した。0.22μmのフィルタを用いて細菌及び異物を除去した後、セントリプレップチューブ(centrifugal filters 50kD)に移し、1,500×g、4℃で15分間遠心分離して、50kDより小さい物質は捨てて、10mlまで濃縮させた。さらに0.22μmのフィルタを用いて細菌及び異物を除去した後、Type 90tiローターで150,000×g、4℃で3時間超高速遠心分離方法を用いて上澄み液を捨て、固まったペレットを生理食塩水(PBS)で溶かした。
【0050】
前記方法で分離した小胞100μlを100℃でボイルして内部のDNAを脂質外に出るようにし、その後、氷に5分間冷ました。そして、残った浮遊物を除去するために、10,000×g、4℃で30分間遠心分離し、上澄み液のみを集めた。そして、Nanodropを用いてDNA量を定量した。以後、前記抽出されたDNAに細菌由来のDNAが存在するかを確認するために、下記表1に示した16S rDNAプライマーでPCRを行って、前記抽出された遺伝子に細菌由来の遺伝子が存在することを確認した。
【0051】
【表1】
【0052】
前記方法で抽出したDNAを前記の16S rDNAプライマーを用いて増幅した後、シーケンシングを行い(Illumina MiSeq sequencer)、その結果をStandard Flowgram Format(SFF)ファイルに出力し、GS FLX software(v2.9)を用いてSFFファイルをsequenceファイル(.fasta)とnucleotide quality scoreファイルに変換した後、リードの信用度評価を確認し、window(20bps)平均base call accuracyが99%未満(Phred score<20)である部分を除去した。Operational Taxonomy Unit(OTU)分析のためには、UCLUSTとUSEARCHを用いてシーケンス類似度によってクラスタリングを行い、 属(genus)は94%、科(family)は90%、目(order)は85%、綱(class)は80%、門(phylum)は75%シーケンス類似度を基準としてクラスタリングを行い、各OTUの門(phylum)、綱(class)、目(order)、科(family)、属(genus)レベルの分類を行い、BLASTNとGreenGenesの16S RNAシーケンスデータベース(108,453シーケンス)を用いて属レベルで97%以上のシーケンス類似度を有する細菌をプロファイリングした(QIIME)。
【0053】
[実施例3.すい臓癌患者の血液細菌由来の小胞メタゲノム分析]
前記実施例2の方法ですい臓癌患者176人の血液と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト271人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べてすい臓癌患者の血液でエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表2及び図2参照)。
【0054】
【表2】
【0055】
[実施例4.胆管癌患者の血液細菌由来の小胞メタゲノム分析]
前記実施例2の方法で胆管癌患者79人の血液と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト259人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて胆管癌患者の血液でエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表3及び図3参照)。
【0056】
【表3】
【0057】
[実施例5.乳癌患者の血液細菌由来の小胞メタゲノム分析]
前記実施例2の方法で乳癌患者96人の血液と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト192人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて乳癌患者の血液でエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表4及び図4参照)。
【0058】
【表4】
【0059】
[実施例6.卵巣癌患者の血液細菌由来の小胞メタゲノム分析]
前記実施例2の方法で卵巣癌患者137人の血液と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト139人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて卵巣癌患者の血液でエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表5及び図5参照)。
【0060】
【表5】
【0061】
[実施例7.リンパ腫患者の血液細菌由来の小胞メタゲノム分析]
前記実施例2の方法でリンパ腫患者63人の血液と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト53人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べてリンパ腫患者の血液でエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表6及び図6参照)。
【0062】
【表6】
【0063】
[実施例8.心筋梗塞患者の血液細菌由来の小胞メタゲノム分析]
前記実施例2の方法で心筋梗塞患者57人の血液と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト163人の血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて心筋梗塞患者の血液でエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表7及び図7参照)。
【0064】
【表7】
【0065】
[実施例9.心筋症患者の血液細菌由来の小胞メタゲノム分析]
前記実施例2の方法で心筋症患者72人の血液と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト163人の血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて心筋症患者の血液でエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表8及び図8参照)。
【0066】
【表8】
【0067】
[実施例10.心房細動患者の血液細菌由来の小胞メタゲノム分析]
前記実施例2の方法で心房細動患者34人の血液と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト62人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて心房細動患者の血液でエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表9及び図9参照)。
【0068】
【表9】
【0069】
[実施例11.異型狭心症患者の血液細菌由来の小胞メタゲノム分析]
前記実施例2の方法で異型狭心症患者80人の血液と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト80人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて異型狭心症患者の血液でエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表10及び図10参照)。
【0070】
【表10】
【0071】
[実施例12.肝硬変患者の血液細菌由来の小胞メタゲノム分析]
前記実施例2の方法で肝硬変患者130人の血液と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト145人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて肝硬変患者の血液でエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表11及び図11参照)。
【0072】
【表11】
【0073】
[実施例13.糖尿病患者の血液細菌由来の小胞メタゲノム分析]
前記実施例2の方法で糖尿病患者61人の血液と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト122人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エンヒドロバクター細菌由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて糖尿病患者の血液でエンヒドロバクター細菌由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表12及び図12参照)。
【0074】
【表12】
【0075】
[実施例14.エンヒドロバクター・アエロサックス由来の小胞の抗炎症効果]
前記実施例の結果に基づいて、エンヒドロバクター細菌に属するエンヒドロバクター・アエロサックス菌株を環境サンプルから分離した後、これを培養し、その小胞を分離した。エンヒドロバクター・アエロサックス菌株を37℃好気性チャンバーで吸光度(OD600)が1.0~1.5になるまでBHI(brain heart infusion)培地で培養した後、サブカルチャーした。以後、菌株が含まれていない培地の上澄み液を回収して、10,000g、4℃で15分間遠心分離し、0.45μmのフィルタに濾過した後、濾過した上澄み液を100kDa hollowフィルタメンブレインでQuixStand benchtop system(GE Healthcare,UK)を用いて限外濾過(ultrafiltration)を通じて200mlの体積に濃縮した。以後、濃縮させた上澄み液をさらに0.22μmのフィルタでフィルタリングし、濾過された上澄み液を150,000g、4℃で3時間超遠心分離した後、ペレットをDPBSで懸濁した。次に、10%、40%、及び50%オプティプレップ溶液(Axis-Shield PoC AS,Norway)を用いて密度勾配遠心分離を行い、低密度溶液の製造のためにオプティプレップ溶液をHEPES-buffered saline(20mMのHEPES、150mMのNaCl、pH7.4)に希釈して用いた。200,000g、4℃の条件で2時間遠心分離を行った後、上層からから1mlの同じボリュームで分画された各溶液を150,000g、4℃の条件で3時間さらに超遠心分離を実施した。以後、BCAアッセイを用いてタンパク質を定量し、得られた小胞に対して実験を実施した。
【0076】
エンヒドロバクター・アエロサックス由来の小胞が、炎症細胞で炎症メディエーターの分泌に対する影響を調べてみるために、マウスマクロファージ株であるRaw 264.7細胞にエンヒドロバクター・アエロサックス由来の小胞を多様な濃度(0.1、1、10μg/ml)で処理した後、炎症疾患の病原性小胞である大腸菌由来の小胞(E.coli EV)を処理して、炎症メディエーター(IL-6、TNF-αなど)の分泌量を測定した。また、有益な対照小胞としてラクトバチルス・プランタルム由来の小胞(1μg/ml)を使用した。より具体的に、Raw 264.7細胞を1×10個ずつ24-well細胞培養プレートに分注した後、24時間DMEM完全培地で培養させた。以後、培養の上層液を1.5mlのチューブに集めて、3000gで5分間遠心分離して、上層液を集めて4℃に保管しておいた後、ELISA分析を進めた。
【0077】
その結果、図13に示されたように、エンヒドロバクター・アエロサックス由来の小胞又はラクトバチルス・プランタルム由来の小胞を前処理した場合、大腸菌由来の小胞によるIL-6及びTNF-αの分泌が顕著に抑制されることを確認した。特に、エンヒドロバクター・アエロサックス小胞は、ラクトバチルス・プランタルム小胞に比べてTNF-αの分泌を顕著に抑制した。これは、大腸菌由来の小胞のような病原性小胞により誘導される免疫機能の異常及び炎症の発生をエンヒドロバクター・アエロサックス由来の小胞が効率的に抑制することができることを意味する。
【0078】
上述した本発明の説明は、例示のためのものであって、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によるエンヒドロバクター細菌由来の小胞は、すい臓癌、胆管癌、乳癌、卵巣癌、リンパ腫、心筋梗塞、心筋症、心房細動、異型狭心症、肝硬変、又は糖尿病に対する診断方法だけでなく、前記疾患などに対する予防、改善又は治療用組成物として用いられるので、関連医療及び食品産業分野において有用に活用可能なものと期待される。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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