(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】リノベーションモデルハウスとその製造方法およびその運用方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/70 20060101AFI20220124BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20220124BHJP
G09B 25/04 20060101ALI20220124BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
E04B1/70 D
E04B1/76 500F
E04B1/70 C
E04B1/76 500Z
G09B25/04
G09B9/00 K
(21)【出願番号】P 2021130179
(22)【出願日】2021-08-06
【審査請求日】2021-09-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505320218
【氏名又は名称】株式会社天然樹ホーム
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】照井 修二
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-060704(JP,A)
【文献】特開2004-109847(JP,A)
【文献】特開2001-020353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 - 1/99
G09B 9/00
G09B 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の中古住宅を改築した建築物からなり、
外気が導入されて外気同等の環境下に置かれる共有空間を備えており、
該共有空間に対して壁部によって仕切られた複数の体感ルームが互いに独立して設けられており、
該複数の体感ルームは、床材と壁材と断熱材と気密構造との少なくとも一つの施工条件が互いに異ならされており、
該複数の体感ルームはそれぞれ空調装置を備えている
リノベーションモデルハウス。
【請求項2】
前記中古住宅が、平成12年3月以前の建築物である請求項1に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項3】
前記複数の体感ルームのうちで隣り合う該体感ルーム間の仕切壁には、外気が導入される壁内共有スペースが設けられている請求項1又は2に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項4】
前記複数の体感ルームのうちで隣り合う該体感ルーム間の仕切壁には、断熱層が設けられている請求項1~3の何れか一項に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項5】
前記複数の体感ルームの天井上と床下には、外気が導入される上下共有スペースが設けられている請求項1~4の何れか一項に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項6】
前記複数の体感ルームの天井上と床下には、断熱層が設けられている請求項1~5の何れか一項に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項7】
前記体感ルームの少なくとも二つが、それぞれ窓を有する外壁を備えていると共に、各該体感ルームにおける各該窓の性能が異ならされている請求項1~6の何れか一項に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項8】
前記体感ルームの一つが、前記中古住宅の施工条件のままとされたベースルームである請求項1~7の何れか一項に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項9】
前記ベースルームを除く各体感ルームの出入り口用の開閉部分が、断熱構造と気密構造を備えている請求項8に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項10】
二階建て又は三階建てであり、且つ、複数の階層領域においてそれぞれ複数の前記体感ルームが設けられている請求項1~9の何れか一項に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項11】
前記複数の階層領域にそれぞれ設けられた前記複数の体感ルームのうちの各一つが、
前記中古住宅の施工条件のままとされたベースルームとされている請求項10に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項12】
前記複数の体感ルームには、それぞれ温度計が設けられていると共に、複数の該体感ルームにおける温度の経時的変化を示す温度変化表示が設けられている請求項1~11の何れか一項に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項13】
前記複数の体感ルームには、前記空調装置が各別に設けられていると共に、該各体感ルームの目標温度設定を同じにした条件下で該各体感ルームに設置された該各空調装置の稼働状況を示す空調稼働状況表示が設けられている請求項1~12の何れか一項に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項14】
前記複数の体感ルームについて、住宅性能値と施工費用を相互に比較できるように表示した施工例表示部を有している請求項1~13の何れか一項に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項15】
換気用ファンが設けられて前記共有空間に対して外気が積極的に導入されるようになっていると共に、
前記複数の体感ルームのうちで隣り合う該体感ルーム間の仕切壁に設けられて外気が導入される壁内共有スペースと
、前記複数の体感ルームの天井上と床下に設けられて外気が導入される上下共有スペースとが
、設けられており、
該壁内共有スペースと該上下共有スペースとが該共有空間に対してそれぞれ連通接続されている請求項1~14の何れか一項に記載のリノベーションモデルハウス。
【請求項16】
既存の中古住宅に対して、
外気が導入されて外気同等の環境下に置かれる共有空間の他に、
該共有空間に対して壁部によって仕切られた複数の体感ルームを互いに独立して設けて、
該複数の体感ルームについて、床材と壁材と断熱材と気密構造との少なくとも一つの施工条件を互いに異ならせると共に、
該複数の体感ルームにはそれぞれ空調装置を設けることによって
請求項1~15の何れか一項に記載された体感型のリノベーションモデルハウスを構築するモデルハウスの製造方法。
【請求項17】
前記共有空間および該共有空間への連通領域では、外壁部分の少なくとも一部において、前記既存の中古住宅に施されていた断熱材を撤去又は削減する請求項16に記載のモデルハウスの製造方法。
【請求項18】
請求項1~15の何れか一項に記載された体感型のリノベーションモデルハウスを用いて、施工条件の異なる前記複数の体感ルームに訪問者を順次に案内して施工条件毎の居住空間の環境差を体感させるに際して、
かかる訪問者を該複数の体感ルームに案内するよりも同じ時間だけ前もって各該複数の体感ルームに対して前記空調装置によって同一条件で空調を実行しておいて、当該空調の終了から同じ時間が経過した状況で該訪問者を各該体感ルームに案内することにより各該体感ルーム間における居住空間の環境差を体感させるリノベーションモデルハウスの運用方法。
【請求項19】
請求項1~15の何れか一項に記載された体感型のリノベーションモデルハウスを用いて、施工条件の異なる前記複数の体感ルームに訪問者を順次に案内して該各体感ルーム間の差を提示するに際して、
かかる訪問者を該複数の体感ルームに案内するよりも同じ時間だけ前もって各該複数の体感ルームに対して前記空調装置によって同等の温度環境を実現するように空調を継続的に実行しておいて、各該複数の体感ルームに該訪問者を案内して体感させると共に、該各体感ルーム毎に該各空調装置の経時的な稼働状況を示すことにより各該体感ルーム間における省エネ性能の差を客観的に提示するリノベーションモデルハウスの運用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現在の住宅環境において大きな問題となっている、(1)中古住宅の有効な利用用途の開拓と、(2)既存住宅の省エネ化に寄与するリノベーションの促進とを、両立して達成することのできる、従来にない着眼点にたった画期的なモデルハウスに関連する技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
環境問題について省エネが世界的に議論されている近年では、一般住宅についても省エネの観点からの性能評価が重要視されている。即ち、一般住宅では、快適な住環境を実現するために室内の温度や湿度を維持するに際して多くのエネルギーが費やされることから、断熱性などの住宅性能の重要性について社会的に認識されている。
【0003】
ところが、室内温度に大きな影響を与える住宅性能について基準等が設定されて、実質的に制度運用されはじめたのは平成の中後期になってからである。そのために、既存の古くなった一般住宅については、断熱性能や気密性能が大幅に劣っているのが実情である。特に平成12年(2000年)4月1日に施行された住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づいて省エネルギー性も対象とする評価基準が与えられて、第三者機関による住宅性能表示制度が開始される以前では、一般住宅における断熱性能はおざなりになっており、現在の新築住宅に比して断熱性能などが大幅に劣っている。
【0004】
そのために、一般住宅の流通(中古住宅の売買)を促進する政府方針下でも、平成12年3月末以前に建築された中古住宅は、価値が極めて低く、客観的な評価結果も与えられていないことから、需要が乏しくて流通させることが難しく、有効な利用価値を見出すことさえ難しいという問題があった。要するに、特に古い中古住宅については、その有効な利用用途が開拓されていないという問題があったのである(問題A)。
【0005】
一方、省エネなどの国民意識の変化や、技術改良などによって、断熱性能などの住宅性能は年々向上しており、特に平成28年(2016年)4月1日に施行された建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律に基づく省エネ計画届出義務の強化の実施後には、大幅な住宅性能の向上が図られている。そこで、たとえ平成12年4月以降に建築された住宅であっても、断熱性などの性能が充分でない中古住宅について、改築によって断熱性などの性能を向上させることで住環境の向上と省エネ化を図るリノベーションが、政府方針としても勧められている。
【0006】
ところが、断熱性などの性能向上を目的とする既存住宅のリノベーションは、単なる模様替えと違って壁や床などの材質変更やサッシなどの建具交換まで含む大幅な改築が必要となり、必要とされる費用も嵩む。また、近年では壁や床、サッシなどについて材質などの異なる多種類が提供されており、その選択も難しくなってきている。特に、高度な省エネの実現はその分だけ費用の増大を伴うことから、施主はいたずらに省エネ性能の向上を希望しないのが現実であり、断熱性能などの住み心地とリノベーション費用との兼ね合いに頭を痛める結果となる。新築住宅であれば大手メーカーのモデルハウスを訪れることで体感することも可能であろうが、既存の中古住宅について例えば特定の部屋など、一部だけを変更するリノベーションでは、どの程度の住環境の改善効果が得られるのかを実際に体験することが難しく、それが一層、選択の判断を困難にしているという問題があったのである(問題B)。
【0007】
ところで、上述の如き既存の中古住宅に関して指摘される「問題A」と「問題B」は、互いに関連しない別観点且つ別事象の問題として認識されている。
【0008】
なお、新たに建築するモデルハウス内に仕様の異なる体感ルームを設置することは、特開2020-60704号公報等に提案されているが、その課題において、本発明とは次元が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
かくの如き事情を背景とした本発明の解決課題とするところは、上述の如き既存の中古住宅に関して指摘される「問題A」と「問題B」を、従来にない特徴的な着眼点により、相互に関連付けて解決乃至は改善して、画期的で且つ社会的利益をもたらし得る発明を提供することにある。
【0011】
特に本発明は、かくの如き環境に関する社会的な問題改善に臨むものであって、経済産業省(中小企業庁)が新規事業促進の趣旨で起案した「事業再構築促進事業」への応募を経て、本出願人が実施する予定の事業に関連するものである。経済産業省による国家的なプロジェクトの目的にも叶う、新たな視点をもった、社会的意義のある発明となっている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0013】
第1の態様は、既存の中古住宅を改築した建築物からなり、外気が導入されて外気同等の環境下に置かれる共有空間を備えており、該共有空間に対して壁部によって仕切られた複数の体感ルームが互いに独立して設けられており、該複数の体感ルームは、床材と壁材と断熱材と気密構造との少なくとも一つの施工条件が互いに異ならされており、該複数の体感ルームはそれぞれ空調装置を備えているリノベーションモデルハウスである。
【0014】
本態様に係るリノベーションモデルハウスによれば、例えばリノベーションを考えている訪問者が、夏季や冬季に訪れることで、厳しい外気に晒された玄関等の共有空間から、体感ルームに入室することができて、外気との温度や湿度の違いをより肌で感じ取ることができる。ここで、例えば空調装置の稼働条件を同一とすることで、各体感ルームの施工条件に応じて各体感ルームの温度や湿度などが互いに異なることとなる。これにより、訪問者は、施工条件の違いから生じる温度や湿度などの差を肌で感じ取ることができて、例えば施工に伴う費用と併せて考慮することで、訪問者が、自分がリノベーションを行う場合にはどの程度の改修が適切かを判断することができる。
【0015】
特に、本態様に係るリノベーションモデルハウスは既存の中古住宅を改築した建築物からなることから、このような体感ルームを備えるモデルハウスを一から建築する場合に比べて、建設地の確保や新築設計,建築許可申請などの面倒な手続きが不要乃至は簡略化され得ると共に、一般に中古住宅の各部屋のみを改修することで体感ルームを備えたモデルハウスを格段に効率的且つ低コストで設けることが可能となる。また、モデルハウスの製造に当たって建築資材を抑えコストを削減できるだけでなく、有効な利用価値を見出すことができなかった中古住宅を有効利用することができて、中古住宅の解体に伴う大量の産業廃棄物の発生を抑えることも可能になって地球環境にも優れる。また、例えば中古住宅において、あえて玄関等の共有空間を改修しないことで、共有空間を安定して、且つ容易に外気同等の環境下とすることができて、リノベーションによる効果を一層効率的に体感することも可能である。
【0016】
第2の態様は、前記第1の態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、前記中古住宅が、平成12年3月以前の建築物であるものである。
【0017】
本態様によれば、従来では有効価値が殆ど見出せていなかった平成12年3月以前の建築物について、そのような中古住宅を有効に利用することができる。また、断熱性や気密性が重要視されていない中古住宅であるが故に、外気同等の環境下に置かれる共有空間と、リノベーション後の体感ルームとの温度や湿度の違いを、一層顕著に肌で感じ取ることができる。
【0018】
第3の態様は、前記第1又は第2の態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、前記複数の体感ルームのうちで隣り合う該体感ルーム間の仕切壁には、外気が導入される壁内共有スペースが設けられているものである。
【0019】
本態様によれば、隣り合う体感ルーム間の仕切壁などを通じた伝熱等が抑制されて、各体感ルームにおける違いを、施工条件の違いによる効果としてより効率的に把握することができる。なお、本態様のように壁内共有スペースが設けられる場合にも、後述する第4の態様のような断熱層が組み合わされて採用されることが好ましい。
【0020】
第4の態様は、前記第1~第3の何れかの態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、前記複数の体感ルームのうちで隣り合う該体感ルーム間の仕切壁には、断熱層が設けられているものである。
【0021】
第5の態様は、前記第1~第4の何れかの態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、前記複数の体感ルームの天井上と床下には、外気が導入される上下共有スペースが設けられているものである。
【0022】
本態様によれば、階層の異なる体感ルーム間での影響を受けることが抑制されて、各体感ルームにおける違いを、施工条件による効果としてより正確に把握することができる。なお、本態様における上下共有スペースは、後述する第6の態様における断熱層と組み合わせて採用してもよい。
【0023】
第6の態様は、前記第1~第5の何れかの態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、前記複数の体感ルームの天井上と床下には、断熱層が設けられているものである。
【0024】
一般住宅では、一階の天井上や二階の床下などには断熱層の施工は必要とされず、施工されていないことも多いが、本態様では、断熱層を一階の天井上や二階の床下などに設けることが好ましい。
【0025】
第7の態様は、前記第1~第6の何れかの態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、前記体感ルームの少なくとも二つが、それぞれ窓を有する外壁を備えていると共に、各該体感ルームにおける各該窓の性能が異ならされているものである。
【0026】
第8の態様は、前記第1~第7の何れかの態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、前記体感ルームの一つが、前記中古住宅の施工条件のままとされたベースルームであるものである。
【0027】
本態様によれば、ベースルームをコントロールとして用いることで、既存住宅を一層巧く利用して、訪問者に対して一層判り易く体感してもらうことが可能になる。また、リノベーションによる効果を共有空間だけでなく、ベースルームと比較することによっても体感することができる。
【0028】
第9の態様は、前記第8の態様に係るリノベーションモデルハウスであって、前記ベースルームを除く各体感ルームの出入り口用の開閉部分が、断熱構造と気密構造を備えているものである。
【0029】
本態様によれば、各体感ルームの出入り口用の開閉部分を通じての伝熱等が抑制されて、施工条件の違いによる温度変化等をより正確に感じ取ることができる。
【0030】
第10の態様は、前記第1~第9の何れかの態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、二階建て又は三階建てであり、且つ、複数の階層領域においてそれぞれ複数の前記体感ルームが設けられているものである。
【0031】
本態様によれば、複数の階層領域のそれぞれに体感ルームが設けられていることから、例えば上階と下階での温度や湿度の違いを感じ取ることができて、階層領域の違いによる温度や湿度の変化を考慮して、訪問者が、自分のリノベーションにおける施工条件を判断することも可能となる。
【0032】
第11の態様は、前記第10の態様に係るリノベーションモデルハウスであって、前記複数の階層領域にそれぞれ設けられた前記複数の体感ルームのうちの各一つが、前記中古住宅の施工条件のままとされたベースルームとされているものである。
【0033】
例えば、一階と二階では、地熱や太陽熱、更に気温分布などの影響により、住宅内の基本的な環境条件が大きく異なる。そこで、本態様によれば、各階別に基準コントロールを設けることで、訪問者がより判り易く体感可能にできて、階層領域の違いによる影響を考慮することなく、体感ルームの違いを施工条件の違いとして、より正確に把握することができる。
【0034】
第12の態様は、前記第1~第11の何れかの態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、前記複数の体感ルームには、それぞれ温度計が設けられていると共に、複数の該体感ルームにおける温度の経時的変化を示す温度変化表示が設けられているものである。
【0035】
本態様によれば、例えば、相互に同等条件で経過した場合の各体感ルームの温度変化の相違を、好適には比較可能に見せるように表示させることで、性能差を客観的に提示することが可能になる。具体的には、例えば冬場の朝の一定時間だけ各体感ルームに暖房を入れた場合、暖房による室温の上がり方や、暖房停止後の室温の下がり方などを、複数の体感ルーム間で比較提示させることも可能である。また、例えば夏場の日中の日差しを外壁に受けた場合における各体感ルームの温度の上がり方なども同様に比較提示させることも考えられる。更に、例えば日中や夜間、晴天時や雨天時、空調装置の作動前後等における温度変化を、訪問者が体感ルームにいなくても、把握することができる。なお、湿度などの他の環境要素も併せて表示させることができる。
【0036】
第13の態様は、前記第1~第12の何れかの態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、前記複数の体感ルームには、前記空調装置が各別に設けられていると共に、該各体感ルームの目標温度設定を同じにした条件下で該各体感ルームに設置された該各空調装置の稼働状況を示す空調稼働状況表示が設けられているものである。
【0037】
本態様によれば、空調装置における稼働条件を同一にするのではなく、目標温度設定を同一とした結果として、空調装置毎の稼働状況の相違を見ることでリノベーションによる効果を把握することができる。例えば、空調の稼働状況は、消費電力や消費エネルギー、自動風量設定した場合の風量変化態様などで示すことが可能である。本態様では、同等の住宅内環境を実現するに際して、例えば断熱性能が低い体感ルームに比して、高断熱性能の体感ルームでは、空調装置の稼働率が抑えられて、光熱費の出費なども抑えることができることを、客観的に示すことも可能になる。
【0038】
第14の態様は、前記第1~第13の何れかの態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、前記複数の体感ルームについて、住宅性能値と施工費用を相互に比較できるように表示した施工例表示部を有しているものである。
【0039】
本態様によれば、リノベーションモデルハウスの訪問時に施工例表示部を確認することによって、訪問者がリノベーションにおける費用対効果を容易に把握することができる。特に、訪問者は、主観的に温度や湿度を肌で感じ取るだけでなく、住宅性能値と施工費用も把握することができることから、自分のリノベーションにおける大きな参考とすることができる。
【0040】
第15の態様は、前記第1~第14の何れかの態様に係るリノベーションモデルハウスにおいて、換気用ファンが設けられて前記共有空間に対して外気が積極的に導入されるようになっていると共に、前記複数の体感ルームのうちで隣り合う該体感ルーム間の仕切壁に設けられて外気が導入される壁内共有スペースと、前記複数の体感ルームの天井上と床下に設けられて外気が導入される上下共有スペースとが、設けられており、該壁内共有スペースと該上下共有スペースとが該共有空間に対してそれぞれ連通接続されているものである。
【0041】
本態様によれば、換気用ファンにより共有空間と当該共有空間に連通する壁内共有スペースおよび上下共有スペースに積極的に外気が導入されることから、共有空間をより容易に外気同等の環境下に置くことが出来ると共に、壁内共有スペース又は上下共有スペースを挟んだ両側の体感ルーム間における伝熱等による影響をより効果的に防止することができる。
【0042】
第16の態様は、既存の中古住宅に対して、外気が導入されて外気同等の環境下に置かれる共有空間の他に、該共有空間に対して壁部によって仕切られた複数の体感ルームを互いに独立して設けて、該複数の体感ルームについて、床材と壁材と断熱材との少なくとも一つの施工条件を互いに異ならせると共に、該複数の体感ルームにはそれぞれ空調装置を設けることによって前記第1~第15の態様の何れか1つに記載された体感型のリノベーションモデルハウスを構築するモデルハウスの製造方法である。
【0043】
本態様によれば、第1~第15の態様の何れか1つに記載の効果を発揮することのできるリノベーションモデルハウスを構築することができる。
【0044】
第17の態様は、前記第16の態様に係るモデルハウスの製造方法において、前記共有空間および該共有空間への連通領域では、外壁部分の少なくとも一部において、前記既存の中古住宅に施されていた断熱材を撤去又は削減するものである。
【0045】
本態様によれば、共有空間などの外壁部分に断熱材として予め施工されていた例えばグラスウールや発泡パネルなどを削減又は撤去することで、当該共有空間などを外気の環境に一層近づけることができる。その結果、例えば各体感ルームの空調による共有空間環境への影響軽減を容易に図ることが可能になるし、或いは、真冬や真夏の厳しい共有空間内の環境下での各体感ルームの環境を一層判り易く体感してもらうことも可能になる。
【0046】
第18の態様は、前記第1~第15の態様の何れか一つに記載された体感型のリノベーションモデルハウスを用いて、施工条件の異なる前記複数の体感ルームに訪問者を順次に案内して施工条件毎の居住空間の環境差を体感させるに際して、かかる訪問者を該複数の体感ルームに案内するよりも同じ時間だけ前もって各該複数の体感ルームに対して前記空調装置によって同一条件で空調を実行しておいて、当該空調の終了から同じ時間が経過した状況で該訪問者を各該体感ルームに案内することにより各該体感ルーム間における居住空間の環境差を体感させるリノベーションモデルハウスの運用方法である。
【0047】
本態様によれば、例えば、複数の体感ルームに対して同時に、冬場において朝の所定時間だけ暖房の空調をかけてから空調を停止しておく。停止から所定時間を経過したお昼や午後などに、体感希望の訪問者を各体感ルームに案内することとなる。また、例えば夏場でも同様に、複数の体感ルームに対して同時に所定時間だけ冷房の空調をかけてから空調を停止し、停止から所定時間を経過した後に、訪問者を各体感ルームに案内することとなる。これにより、同じ空調用のエネルギー(冷暖房費用)をかけても、施工条件に応じて、どの程度の住環境の差が発生することになるかなどを、直接的に比較して体感することが可能になる。
【0048】
第19の態様は、前記第1~第15の態様の何れか一つに記載された体感型のリノベーションモデルハウスを用いて、施工条件の異なる前記複数の体感ルームに訪問者を順次に案内して該各体感ルーム間の差を提示するに際して、かかる訪問者を該複数の体感ルームに案内するよりも同じ時間だけ前もって各該複数の体感ルームに対して前記空調装置によって同等の温度環境を実現するように空調を継続的に実行しておいて、各該複数の体感ルームに該訪問者を案内して体感させると共に、該各体感ルーム毎に該各空調装置の経時的な稼働状況を示すことにより各該体感ルーム間における省エネ性能の差を客観的に提示するリノベーションモデルハウスの運用方法である。
【0049】
本態様によれば、例えば空調装置における目標温度設定を同一とすることで、各体感ルームの施工条件に応じて各体感ルームにおける空調装置の稼働状況が互いに異なることとなる。かかる体感ルームに訪問者を順次案内して各体感ルームにおける空調装置の稼働状況を示すことにより、訪問者は、各体感ルームにおける空調装置の稼働状況の違いを施工条件の違いとして把握することができて、自分のリノベーションにおける参考とすることができる。
【発明の効果】
【0050】
従来有効価値を見出せなかった中古住宅を有効に利用することができて(「問題A」の解消)、これから住宅のリノベーションを行おうとする人に対して、施工条件を異ならせた複数の体感ルームを体験してもらうことで、費用対効果等の観点から、どの程度のリノベーションが適切であるかを判断する材料の一つを提供することができる(「問題B」の解消)リノベーションモデルハウスを、効率的に提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1A】本発明の一実施形態としてのリノベーションモデルハウスの平面概略図であり、間取りを説明するための間取図でもあって、(a)が一階の間取図で、(b)が二階の間取図
【
図1B】
図1Aに示されたリノベーションモデルハウスの断面概略図
【
図2】
図1Aに示されたリノベーションモデルハウスの基となる中古住宅を示す図
【
図3】
図1Aに示されたリノベーションモデルハウスにおける仕切壁の構造例を説明する説明図であって、(a)は仕切壁に壁内共有スペースと断熱層が組み合わされて設けられている状態、(b)は仕切壁に断熱層のみが設けられている状態を示す図
【
図4】
図1Aに示されたリノベーションモデルハウスにおいて複数の体感ルームの天井上と床下に設けられる上下共有スペース及び断熱層を説明する説明図であって、(a)は上下共有スペースと断熱層が組み合わされて設けられている状態を示すと共に、(b)は断熱層のみが設けられている状態を示す図
【
図5】
図1Aに示されたリノベーションモデルハウスに設けられる施工例表示部の具体的な一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0053】
図1A,1Bには、本発明の一実施形態としてのリノベーションモデルハウス10の平面図(間取図)と断面図が示されている。このリノベーションモデルハウス10は、
図2に示される既存の中古住宅10’を改築した建築物からなり、多くの場合に一階建てや二階建てや三階建て(本実施形態は二階建て)である。従って、本実施形態ではリノベーションモデルハウス10も二階建てである。そして、一階11において
図1A(a)中の右上に、共有空間としての玄関12が設けられていると共に、一階11と二階13(複数の階層領域)のそれぞれにおいて、中古住宅10’の部屋から構成される体感ルーム14が設けられている。
【0054】
より詳細には、
図1A(a)にも示されるように、リノベーションモデルハウス10の一階11には、図中右上に玄関12が設けられていると共に、玄関12から連続して共有空間である一階廊下16が延びている。一階廊下16を挟んで図中の下方には、3つの体感ルーム14がそれぞれ独立して設けられている。これら3つの体感ルーム14は、
図1A(a)中左から、第1体感ルーム14a、第2体感ルーム14b、第3体感ルーム14cとされている。一階廊下16と第1~第3体感ルーム14a~14cとは、ドアを含む壁部によって仕切られていると共に、破線で示すドア(引戸等を含む)を介して出入可能とされている。なお、一階11において、一階廊下16を挟んで図中の上方には、浴室や洗面所、階段18やトイレが設けられている。階段18は、一階11と二階13との間に設けられており、一階廊下16から連続する共有空間である。
【0055】
そして、
図1A(b)に示されるように、階段18を上ったリノベーションモデルハウス10の二階13には、共有空間である二階廊下20から連続した階段空間に対して(即ち、間仕切りや壁、扉などによって隔てられないで連続して空気対流が許容される空間領域である一階と二階のつながった一つの共有空間に対して)、2つの体感ルーム14がそれぞれ独立して設けられている。これら2つの体感ルーム14は、
図1A(b)中左から、第4体感ルーム14d、第5体感ルーム14eとされている。二階廊下20と第4及び第5体感ルーム14d,14eとは、ドアを含む壁部によって仕切られていると共に、破線で示すドア(引戸等を含む)を介して出入可能とされている。それ故、本実施形態では、リノベーションモデルハウス10における複数の階層領域(一階11及び二階13)において、合計で5つの体感ルーム14(第1~第5体感ルーム14a~14e)が設けられている。
【0056】
ここで、リノベーションモデルハウス10の一階11において、相互に隣り合う第1体感ルーム14aと第2体感ルーム14b、および第2体感ルーム14bと第3体感ルーム14cとは、それぞれ仕切壁22で区切られている。例示として、
図3(a)において、第1体感ルーム14aと第2体感ルーム14bとを仕切る仕切壁22を拡大して示す。この仕切壁22は、内部における第1体感ルーム14a側(図中左側)に、第1体感ルーム14aに採用される断熱材からなる断熱層24aが設けられていると共に、第2体感ルーム14b側(図中右側)に、第2体感ルーム14bに採用される断熱材からなる断熱層24bが設けられている。そして、仕切壁22の内部において、両断熱層24a,24bの間には、共有空間である一階廊下16に連通して、外気を導入することのできる連通領域としての壁内共有スペース26が設けられている。
【0057】
あるいは、
図3(b)に示されるように、仕切壁22の両側の体感ルーム14,14において同一の断熱材が採用される場合、仕切壁22の内部には、壁内共有スペース26が設けられることなく、共通の断熱層24が設けられるだけでもよい。なお、仕切壁22や断熱層24を構成する断熱材の具体的な材質や資材等は、後述するが、仕切壁22の両側に位置する各体感ルーム14(
図3(a)中では第1及び第2体感ルーム14a,14b)の断熱性等に合わせて、各体感ルーム14の壁構造をそれぞれ異ならせてもよい。また、隣接する体感ルーム14a,14b間での仕切壁22を通じての伝熱による相互影響を一層抑えるために、仕切壁の断熱性能を、共有空間との仕切壁の断熱性能に比して、性能向上させることも好ましい。
【0058】
なお、仕切壁22の内部に壁内共有スペース26が設けられて一階廊下16と連通する場合には、壁内共有スペース26と一階廊下16との間(例えば
図3(a)中、二点鎖線で示すAの部分)には、空気の移動が可能な、例えば通気性に優れるスリット状や多孔構造の壁部等が設けられてもよく、リノベーションモデルハウス10の訪問者が、見学中に壁内共有スペース26を直接視認することができないようになっていてもよいし、このような壁部等は設けられないで壁内共有スペース26が直接に共有空間(廊下など)に対して開放連通されていてもよい。さらに、仕切壁22の内部に壁内共有スペース26が設けられる場合、壁内共有スペース26の外壁部分(壁内共有スペース26とリノベーションモデルハウス10の外部空間とを隔てる壁部であって、例えば
図1A(a)中のBの部分)から、中古住宅10’に用いられていた断熱材を撤去又は削減してもよい。これにより、壁内共有スペース26の外壁部分を通じて、外部空間の熱が伝達し易く、壁内共有スペース26を外気同等の環境下に置き易くなっている。
【0059】
同様に、リノベーションモデルハウス10の二階13において、相互に隣り合う第4体感ルーム14dと第5体感ルーム14eとは、それぞれ仕切壁22で区切られている。この仕切壁22にも、
図3(a)に示されるような、両体感ルーム14d,14eに採用される断熱材からなる断熱層24及び共有空間である二階廊下20に連通して、外気を導入することのできる連通領域としての壁内共有スペース26が設けられていることが好ましい。
【0060】
かかる二階13の仕切壁22における壁内共有スペース26にも、壁内共有スペース26と二階廊下20との間には、
図3(a)中に二点鎖線Aで示すように、通気性に優れる壁部等が設けられてもよく、リノベーションモデルハウス10の訪問者が、見学中に壁内共有スペース26を直接視認できないようになっていてもよいし、かかる壁部等は設けられなくてもよい。また、リノベーションモデルハウス10の二階13においても、壁内共有スペース26の外壁部分から、中古住宅10’に用いられていた断熱材を撤去又は削減してもよい。要するに、一階11と同様な構造が採用され得る。
【0061】
また、一階11の体感ルーム14(第1~第3体感ルーム14a~14c)の床下や天井上、および二階13の体感ルーム14(第4及び第5体感ルーム14d,14e)の床下や天井上にも、外気が導入される連通領域としての上下共有スペース27が設けられてもよい。例示として、
図4(a)には、一階11の第2体感ルーム14bの天井兼二階13の第5体感ルーム14eの床を構成する壁部22’が示されており、壁部22’における第2体感ルーム14b側(図中下側)に、第2体感ルーム14bに採用される断熱材からなる断熱層24bが設けられていると共に、第5体感ルーム14e側(図中上側)に、第5体感ルーム14eに採用される断熱材からなる断熱層24eが設けられている。そして、壁部22’の内部において両断熱層24b,24eの間には、
図4(a)に示されるように、共有空間である二階廊下20に連通して外気を導入することのできる連通領域としての上下共有スペース27が設けられている。或いは、
図4(b)に示されるように、壁部22’の上下両側の体感ルーム14,14において同一の断熱材が採用される場合、壁部22’の内部には上下共有スペース27が設けられることなく、共通の断熱層24が設けられるだけでもよい。また、上下で隣接する体感ルーム14,14間での階層壁(一階天井面と二階床面との間の壁)を通じての伝熱による相互影響を一層抑えるために、階層壁の断熱性能を、共有空間との仕切壁の断熱性能に比して、性能向上させることも好ましい。尤も、前述のように、これら上下共有スペース27や断熱層24は、第2体感ルーム14bの床下に設けられてもよいし、第5体感ルーム14eの天井上に設けられてもよいし、他の体感ルーム14の天井上や床下に設けられてもよい。
【0062】
上下共有スペース27が設けられる場合、一階や二階の共有空間である一階廊下16や二階廊下20と連通していてもよいし、リノベーションモデルハウス10の外部の空間と連通して(例えばガラリなどを通じて)いてもよい。かかる上下共有スペース27が設けられる場合には、上下共有スペース27の外壁部分から、中古住宅10’に用いられていた断熱材を撤去又は削減してもよい。また、一階11の各体感ルーム14a~14cの床下や天井上、二階13の各体感ルーム14d,14eの床下や天井上に設けられる上下共有スペース27や断熱層24は、各体感ルーム14で別個に設けられてもよいし、複数の体感ルーム14に跨って1つの上下共有スペース27や断熱層24が設けられてもよい。
【0063】
すなわち、リノベーションモデルハウス10では、玄関12、一階廊下16、階段18、二階廊下20が共有空間として連通しており、壁内共有スペース26や上下共有スペース27が設けられる場合には、両スペース26,27も共有空間と連通している。そして、例えば一階廊下16の天井や二階廊下20の天井には、必要に応じて、例えば屋外空間へダクト等を通じて連通された空気通路などを伴って、換気用ファン28が設けられており、共有空間(玄関12、一階廊下16、階段18、二階廊下20)及び共有空間と連通する領域(壁内共有スペース26及び上下共有スペース27)に効率的に外気を導入できるようになっている。尤も、かかる換気用ファン28は必須なものではなく、設けられなくてもよい。このような換気用ファン28に加えて、又は代えて、共有空間の一階部分や二階部分には、それぞれの階層の空気を循環させる扇風機等が設けられてもよい。また、空間内の空気を循環させる扇風機等は各体感ルーム14a~14eに各別に設けられてもよく、共有空間や各体感ルーム14a~14eにおいて各空間(ルーム)内における温度のばらつきを抑制することができる。
【0064】
また、各体感ルーム14は、外部空間と隔てられる外壁29を備えており、当該外壁29には、窓30が設けられている。なお、かかる窓30は、性能の異なる窓を比較するために、各体感ルーム14(第1~第5体感ルーム14a~14e)の少なくとも2つに設けられることが好適であるが、本実施形態では、各体感ルーム14(第1~第5体感ルーム14a~14e)において、それぞれ少なくとも1つの窓30(第1~第5窓30a~30e)が設けられている。
【0065】
そして、これら各体感ルーム14(第1~第5体感ルーム14a~14e)のうちのいくつかは、中古住宅10’の状態からリノベーション(改修)が施されており、具体的には、床材と壁材と断熱材と気密構造との少なくとも一つの施工条件が異ならされている。これら床材や壁材、断熱材、気密構造は限定されるものではなく、従来公知の材質や資材,施工構造等が採用可能であるが、以下に、床材や壁材、断熱材,気密構造として採用可能な材質や資材等を具体的に例示する。
【0066】
床材としては、例えば木材を用いた合板フローリングや無垢フローリング、タイル、レンガ、コルク、タイルカーペット、畳等が挙げられる。合板フローリングや無垢フローリングに用いられる木材も限定されるものではなく、桜、杉、桧、楢(オーク)、松、赤松、ウォルナット、ブラックチェリー、楓(メープル)、栗(チェスナット)、チーク、タモ(アッシュ)、バーチ(カバザクラ)、ローズウッド、竹など、従来公知の木材が、板厚などの差別も考慮して採用され得る。また、木材の貼り方も限定されるものではなく、定尺貼り、乱貼り(乱尺貼り)、斜め貼り、ヘリンボーン貼りなど、従来公知の貼り方が採用され得る。なお、同じ合板フローリングや無垢フローリングであっても、使用される木材や板厚などが異なる場合、断熱性等に影響を及ぼしたり、見た目や触感、施工費用等も異なることから、施工条件が異なるものと把握される。同様に、同じ木材を使用する場合であっても、貼り方が異なる場合、見た目や施工費用等が異なることから、施工条件が異なると把握することもできる。また、これらの床材には、適宜、防音材やクッション材、断熱パネル等が組み合わされて採用されてもよい。
【0067】
壁材は、各体感ルーム14間を仕切る仕切壁22や、各体感ルーム14と共有空間である一階及び二階廊下16,20とを仕切る壁部、一階11と二階13とを仕切る壁部22’(例えば天井)に用いられて、各体感ルーム14の周囲壁を構成するものである。これら壁部の構造は限定されるものではないが、例えば石膏ボードの内面(部屋の内部側)に仕上げが施される。仕上げの例としては、例えばクロス(ビニルクロス、布クロス、紙クロスなど)、塗壁(珪藻土、漆喰、土壁など)、タイル、木材(無垢材、合板など)、パネルなど、従来公知の材質や資材等が採用可能である。これらの壁材には、適宜、防音材やクッション材等が組み合わされて採用されてもよい。また、各体感ルーム14における壁材は、各体感ルーム14の内壁を構成するだけでなく、内壁に加えて、外壁を構成するものであってもよい。即ち、各体感ルーム14の内壁に仕上げとして用いられる材質や資材等が異ならされることで、施工条件が異なると把握されるし、例えば石膏ボードの厚さや重ね合わせ枚数、石膏ボードの外面側に設けられる外壁の構造や材質、資材等が異ならされることで、施工条件が異なると把握することができる。
【0068】
断熱材は、例えば柱などの間にボード状又はシート状の断熱材を入れたり、液状の断熱材を吹き込み充填して適宜に発泡させることなどによって設けられて、各体感ルーム14の壁、床、天井等に設けられる他、前述の仕切壁22内に設けられる断熱層24としても採用され得る。断熱材としては、グラスウール、ロックウール、セルロースファイバー、羊毛(ウールブレス)、炭化コルク、ポリスチレンフォーム(ビーズ法ポリスチレンフォーム、押出法ポリスチレンフォーム)、硬質ウレタンフォーム、フェノールフォームなどが挙げられる。また、硬質ウレタンフォームや独立気泡式の各種発泡フォーム材は、現場で発泡後硬化させる現場発泡ウレタンであってもよいし、工場にて発泡後硬化させて出荷する工場発泡ウレタンであってもよい。なお、かかる断熱材は、前述のように、例えば壁部の内部に充填されるが、壁部の内部に加えて、屋根上や外壁の外面に設けられてもよい。
【0069】
なお、各体感ルーム14において床材と壁材と断熱材の少なくとも2つを組み合わせて、各体感ルーム14の構造を異ならせてもよい。例えば、内壁の構造の違いとして、断熱材であるグラスウールの有無とその量(密度)の相違、断熱パネルの有無とその厚さの相違、発泡系断熱材の有無、石膏ボードの有無と重ね合わせ枚数の違い、鉄骨や木材等の構造材の違い等が挙げられる。そして、内壁における表面材として、クロス、板、塗壁、パネル、窯業系のタイル、レンガ、石などが組み合わせられる。同様に、各体感ルーム14の床構造の違いとして、上述の断熱材や石膏ボードの違いと、上述の各種床材とが組み合わされて採用され得るし、天井構造の違いとして、上述の断熱材や石膏ボードの違いと、天井を構成する上述の各種壁材とが組み合わされて採用され得る。
【0070】
また、性能の異なる窓は、例えば窓の種類や、サッシの種類、窓ガラスの種類などが異ならされた窓である。これら窓の種類、サッシの種類、窓ガラスの種類などは、従来公知のものが採用されるが、窓の種類としては、例えば引き違い窓、縦すべり出し窓、横すべり出し窓、FIX窓、上げ下げ窓、ルーバー窓などが挙げられる。また、サッシの種類としては、アルミサッシ、アルミ樹脂複合サッシ、樹脂サッシ、木製サッシなどが挙げられると共に、窓ガラスの種類としては、一般ガラス、複層ガラス(遮熱複層ガラス、高断熱複層ガラス)、合わせガラス、真空ガラスなどが挙げられる。
【0071】
上記のように第1~第5体感ルーム14a~14eにおけるリノベーションの施工条件が異ならされることで、第1~第5体感ルーム14a~14eにおける施工費用が異なるようになっている。なお、本実施形態では、二階13における第4体感ルーム14dが、中古住宅10’の施工条件とされたベースルームとされている。従って、第4体感ルーム14d(ベースルーム)の施工費用は実質的に殆ど0円である(後述する
図5の施工例表示部32参照)。
【0072】
なお、各体感ルーム14は、何れも共有空間に対して出入り口用の開閉部分αを備えている。かかる開閉部分αは、少なくとも共有空間との空気の自然対流を防止するものであって、人の出入り時の他は閉じておくことができる扉やドアなどによって構成される。かかる開閉部分αは、各体感ルーム14の仕様(施工条件)に対応するように、体感ルーム14毎に異なる仕様のものを採用しても良いが、開閉部分αはモデルルームとして必須であるから、共通の仕様としても差し支えなく、それによって、体感ルーム14毎の違いを体感可能である。その際、かかる開閉部分αを構成する扉(引き戸又はドア)は、気密性と断熱性を併せて備えていることが望ましい。特に、ベースルームを除いた各体感ルーム14には、気密性と断熱性を併せ備えた開閉部分αを設けることが好ましい。具体的には、例えば、現在の高気密性住宅の要件を満足するものとして玄関用や掃きだし窓用に市場提供されている断熱性と気密性を併せ備えたサッシやドアを採用することができる。また、必要に応じて隙間シールや扉内断熱材などを追加して開閉部分αとして施工することも可能である。
【0073】
そして、本実施形態では、各体感ルーム14a~14eにおいて、住宅性能値と施工費用を相互に比較できるように表示した施工例表示部32が設けられている。ここで、施工例表示部32に表示される住宅性能値としては、例えばUa値(外皮平均熱貫流率)、Q値(熱損失係数)、C値(相当すき間面積)等が挙げられる。その他、施工例表示部32には、例えば、床、壁、断熱材、窓等の施工条件、耐震力評点(上部構造評点)、夏季や冬季における所定時刻の室温、施工費用などが表示されてもよい。施工例表示部32の具体的な一例を
図5に示す。リノベーションモデルハウス10の訪問者は、各体感ルーム14a~14eにおける施工例表示部32を確認することで、リノベーションにおける費用対効果を把握することができる。このような施工例表示部32は、例えば各体感ルーム14a~14eの入口付近や内部の壁など、訪問者の見学ルート上において目に留まりやすい箇所に配置され得る。なお、施工例表示部32は、
図5に示すように各体感ルーム14a~14eについての情報を一度に比較できるようなものを、例えば共有空間や各体感ルーム14a~14eのそれぞれに配置してもよいし、配置される体感ルーム14a~14eについての情報のみを表示するようになっていてもよい。なお、施工例表示部32には、上記情報の他に、例えば各体感ルーム14a~14eの広さや向き、夏季や冬季における室内の最高気温や最低気温、平均気温などが表示されてもよい。
【0074】
また、体感ルーム14毎に、サーモグラフィを取得する装置を設置し、取得したサーモグラフを表示することも可能である。施工例表示部32やサーモグラフは、現時点のものだけでなく、過去のものや、例えば1日又は一年間を通じて経時的に取得した情報などを表示することも可能である。
【0075】
なお、体感ルーム14毎の気密性は、例えば市販されている住宅気密性試験装置によって測定することができる。具体的には、コーナー札幌株式会社製の気密測定器「KNS-5000C」などを用いて計測されたC値を採用することが可能である。
【0076】
さらに、各体感ルーム14a~14eは、それぞれ空調装置としてのエアコン34を備えており、各体感ルーム14a~14eの温度調節が可能とされている。各エアコンは個別に稼働可能とされてもよいし、各体感ルーム14a~14eの室温を一括で調節するような集中式の冷房装置や暖房装置であってもよい。なお、空調装置は、冷房と暖房の両方の機能を有する必要はなく、何れか一方の機能を有しているだけでもよい。また、空調装置は、エアコン34に代えて、又は加えて、ヒーターやストーブであってもよいし、温度調節機能に代えて、又は加えて、加湿又は除湿を行う湿度調節機能を有していてもよい。なお、各体感ルーム14a~14eに設置されるエアコン34は、何れも同じ型式のエアコンとされてもよいし、各体感ルーム14a~14eの大きさ等に応じて性能が異なっていてもよい。
【0077】
そして、本実施形態では、各体感ルーム14a~14eに、温度計36が設けられている。また、各体感ルーム14a~14eには、温度計36による温度の経時的変化を示す温度変化表示38が設けられている。かかる温度計36や温度変化表示38は、例えば各体感ルーム14a~14eの壁部等、訪問者から見え易い位置に設けられる。なお、温度変化表示38は、例えば温度計36により測定された各体感ルーム14a~14eの室温を、一定時間(例えば、30分や1時間)毎に記録するようにされて、室温の変化をグラフや表にして表示するようになっていてもよい。これら温度計36や温度変化表示38は、例えば常時作動しており、温度変化表示38は、例えば24時間毎にリセットされるようになっていてもよいし、リノベーションモデルハウス10の案内者(例えばリノベーション業者の営業担当者等)が、訪問者の見学に先立って、直接、又は遠隔で作動させるようになっていてもよいし、タイマー設定等により自動的にオンオフされるようになっていてもよい。
【0078】
あるいは、各体感ルーム14a~14eには、エアコン34の目標温度設定を同じにした条件下で、各エアコン34の稼働状況を示す空調稼働状況表示40が設けられてもよい。この空調稼働状況表示40は、例えば一定時間(例えば30分や1時間)毎にエアコン34が何分稼働したかを記録するようにされて、稼働状況の変化をグラフや表にして表示するようになっていてもよい。これらエアコン34や空調稼働状況表示40も、例えば常時作動していてもよいし、リノベーションモデルハウス10の案内者が、訪問者の見学に先立って作動させるようになっていてもよいし、タイマー設定等により自動的にオンオフされるようになっていてもよい。また、空調稼働状況表示40は、エアコン34の稼働時間だけでなく、エアコン34の稼働に伴って発生する電気代等も表示されるようになっていてもよい。これら温度変化表示38と空調稼働状況表示40は、第1~第5体感ルーム14a~14eにおいて択一的に設けられてもよいが、例えばリノベーションモデルハウス10の一階11の各体感ルーム14(第1~第3体感ルーム14a~14c)に温度変化表示38を設けると共に、二階13の各体感ルーム14(第4及び第5体感ルーム14d,14e)に空調稼働状況表示40を設けてもよい。或いは、各体感ルーム14a~14eにおいて、温度変化表示38と空調稼働状況表示40の両方を設けておいて、案内者が訪問者に対して何れか一方を示して説明するようになっていてもよい。
【0079】
以下、本実施形態のリノベーションモデルハウス10を構築するモデルハウスの製造方法について、具体的な一例を説明するが、リノベーションモデルハウス10を製造(建築)する方法は限定されるものではない。
【0080】
先ず、既存の中古住宅10’を準備する。この中古住宅10’は、例えば平成12年3月以前の建築物であることが好ましい。平成12年3月以前の建築物は、断熱性や気密性がそれ程重要視されておらず、有効な利用方法を見出すことが困難であると共に、リノベーションの効果をより実感し易いからである。そして、玄関12、一階廊下16、階段18、二階廊下20については、リノベーションを行わず、外気が導入されて外気同等の環境下に置かれる共有空間とする。
【0081】
一方、中古住宅10’に元からある部屋は、共有空間に対して壁部によって仕切り、必要に応じてリノベーションを行い、互いに独立する第1~第5体感ルーム14a~14eを設ける。なお、中古住宅における部屋の配置によっては、隣接する部屋の間の仕切をなくして1つの大きな部屋としてもよいし、上下階の間に位置する壁部をなくして吹抜構造としてもよい。また、隣接する体感ルーム14間の仕切壁22に断熱層24及び/又は壁内共有スペース26を設けると共に、体感ルーム14の天井上と床下に断熱層24及び/または上下共有スペース27を設ける。そして、壁内共有スペース26及び/又は上下共有スペース27が設けられる場合には、中古住宅10’において共有空間及び共有空間に連通する領域(壁内共有スペース26及び上下共有スペース27)の外壁部分の少なくとも一部に設けられていた断熱材を撤去又は削減する。
【0082】
本実施形態では、二階13における第4体感ルーム14dが、リノベーションの行わないベースルームとされている。一方、一階11における第1体感ルーム14aは、現在の一般的な新築の住宅仕様(一般住宅仕様)へとリノベーションを行うと共に、一階11における第2及び第3体感ルーム14b,14cと、二階13における第5体感ルーム14eは、高断熱及び高気密仕様へとリノベーションを行う。
【0083】
例えば、ベースルームである第4体感ルーム14dと一般住宅仕様である第1体感ルーム14aは、それぞれ床材が合板フローリングであり、壁及び天井の資材がビニルクロスであると共に、断熱材がグラスウールとされている。なお、第4体感ルーム14d(ベースルーム)と第1体感ルーム14a(一般住宅仕様)とで、合板フローリングやビニルクロスの材質を異ならせてもよいが、同じであったとしても、床材や壁及び天井の資材を貼り直し、断熱材を新たに配置し直したり、断熱材の量(密度)が多くなることで、第4体感ルーム14dに対して第1体感ルーム14aの断熱性及び気密性が向上される。
【0084】
一方、高断熱及び高気密仕様である第2、第3及び第5体感ルーム14b,14c,14eは、床材として無垢材の桧や杉、赤松を使用し、壁及び天井の資材として珪藻土の塗壁とすると共に、断熱材として現場発泡のウレタン材を採用する。これにより、第1、第4体感ルーム14a,14dよりも高断熱及び高気密な第2、第3及び第5体感ルーム14b,14c,14eを設ける。特に、本実施形態では、同じ高断熱及び高気密仕様とされた第2、第3及び第5体感ルーム14b,14c,14eにおいてもグレードが異ならされており、第5体感ルーム14e、第2体感ルーム14b、第3体感ルーム14cの順でより高断熱及び高気密となるようにされて、その分施工費用が向上している(
図5の施工例表示部32参照)。
【0085】
その後、各体感ルーム14a~14eのそれぞれに空調装置であるエアコン34を設けて、必要に応じて温度計36、温度変化表示38、空調稼働状況表示40を設ける。また、定められた手順に従い、各体感ルーム14a~14eの住宅性能値(例えばUa値やQ値、C値)を算出し、施工費用と比較できるようにした施工例表示部32を、各体感ルーム14a~14eに設ける。そして、必要に応じて、例えば一階廊下16の天井や二階廊下20の天井、共有空間を画成する外壁などに換気用ファン28を設けたり、共有空間及び/又は各体感ルーム14a~14eに扇風機等を設けることで、本実施形態のリノベーションモデルハウス10が完成する。
【0086】
以下、本実施形態のリノベーションモデルハウス10の運用方法の具体的な一例について説明するが、リノベーションモデルハウス10の運用方法は限定されるものではない。
【0087】
先ず、訪問者の見学に先立って、案内者は、エアコン34や、必要に応じて温度計36、温度変化表示38を稼働させる。なお、エアコン34、温度計36、温度変化表示38が常時作動している場合は、この作業は行われない。エアコン34を稼働させる際、各体感ルーム14a~14eのエアコン34を、設定温度、風量、風速等が略同一の条件となるように稼働させる。なお、各体感ルーム14a~14eのエアコン34を、集中式に一括して管理する場合には、これらの条件は略同一なものとみなされる。温度に加えて湿度が設定可能な場合、各体感ルーム14a~14eの設定湿度も略同一とされることが好ましい。なお、エアコン34の設定温度は限定されるものではないが、例えば22度程度に設定される。尤も、設定温度は夏季と冬季で異ならせてもよい。ちなみに、
図5の施工例表示部において真夏(8月初旬)の午後2時及び真冬(2月初旬)の午前8時における各体感ルーム14a~14eの室温が表示されているが、これはエアコン34の稼働停止後、所定時間(例えば3時間や5時間)が経過した際の室温である。
【0088】
所定時間(例えば3時間や5時間)だけエアコン34を稼働(夏季であれば冷房、冬季であれば暖房)させた後、エアコン34の稼働を停止し、その後所定時間(例えば3時間や5時間)経過後、案内者はリノベーションモデルハウス10に訪問者を案内する。換言すれば、例えば訪問者が午後からリノベーションモデルハウス10を訪問する予定の場合、例えば当日の午前8時や午前9時にエアコン34を稼働させたり、訪問者が午前からリノベーションモデルハウス10を訪問する予定の場合、例えば前日の午後9時や午後10時にエアコン34を稼働させてもよい。
【0089】
案内者は、訪問者を、玄関12から一階廊下16を経由して、第1~第3体感ルーム14a~14cに順次案内した後、階段18を通じて二階に上がり、第4及び第5体感ルーム14d,14eに順次案内する。案内者は、各体感ルーム14a~14eにおいて、温度計36及び温度変化表示38を訪問者に示して、第1、第4体感ルーム14a,14dよりも第2、第3、第5体感ルーム14b,14c,14eの方が高断熱及び高気密であることを説明する。そして、その中でも、第5体感ルーム14e、第2体感ルーム14b、第3体感ルーム14cの順で、より高断熱及び高気密であることを説明する。その場合、例えば温度変化表示38を示して、夏季の場合には室温が上昇しにくいことを説明したり、冬季の場合には室温が下がりにくいことを説明する。また、案内者は、各体感ルーム14a~14eにおいて、施工例表示部32を訪問者に示して、この程度のリノベーションであればこの程度の費用が必要であるとの費用対効果の説明をする。
【0090】
あるいは、訪問者の見学に先立って、案内者は、エアコン34や、必要に応じて温度計36、空調稼働状況表示40を稼働させる。エアコン34を稼働させる際、各体感ルーム14a~14eのエアコン34を、設定温度、風量、風速等が略同一の条件となるように稼働させる。温度に加えて湿度が設定可能な場合、各体感ルーム14a~14eの設定湿度も略同一とされることが好ましい。
【0091】
所定時間(例えば3時間や5時間)経過後、エアコン34の稼働状況下で、案内者はリノベーションモデルハウス10に訪問者を案内する。玄関12から一階廊下16を経由して、第1~第3体感ルーム14a~14cに順次案内した後、階段18を通じて二階に上がり、第4及び第5体感ルーム14d,14eに順次案内する。案内者は、各体感ルーム14a~14eにおいて、温度計36及び空調稼働状況表示40を訪問者に示して、第1、第4体感ルーム14a,14dよりも第2、第3、第5体感ルーム14b,14c,14eの方が高断熱及び高気密であることを説明する。そして、その中でも、第5体感ルーム14e、第2体感ルーム14b、第3体感ルーム14cの順で、より高断熱及び高気密であることを説明する。その場合、例えば空調稼働状況表示40を示して、高断熱及び高気密の体感ルーム14では、エアコン34の稼働時間が短く、省エネ性能の差を客観的に説明する。また、案内者は、各体感ルーム14a~14eにおいて、施工例表示部32を訪問者に示して、この程度のリノベーションであればこの程度の費用が必要であるとの費用対効果の説明をする。
【0092】
なお、前述のように、温度変化表示38と空調稼働状況表示40は、組み合わされて採用されてもよく、温度変化表示38により説明される体感ルーム14(例えば第1~第3体感ルーム14a~14c)には、エアコン34の停止後、所定時間経過後に訪問者が案内者により案内されると共に、空調稼働状況表示40により説明される体感ルーム14(例えば第4及び第5体感ルーム14d,14e)には、エアコン34の稼働状況下で訪問者が案内者により案内されてもよい。
【0093】
以上の構造とされた本実施形態のリノベーションモデルハウス10では、訪問者が、施工条件が異ならされた複数の体感ルーム14a~14eに案内されることで、施工条件の違いによる温度や湿度の変化を肌で感じ取ることができる。特に、各体感ルーム14a~14eに入室する前の共有空間は外気同等の環境下とされていることから、各体感ルーム14a~14eにおける温度や湿度の変化やリノベーションの有効性を一層強く感じ取ることができる。これにより、訪問者が、リノベーションの有効性を認識して、費用と併せて考慮することで、自分がリノベーションを行う際の参考とすることができる。
【0094】
また、本実施形態のリノベーションモデルハウス10は、中古住宅10’を基としており、モデルハウスを一から建築するのではなく、必要な部屋のみリノベーションを行うようにしている。これにより、コストの削減が図られるだけでなく、有効な利用方法が見出せなかった中古住宅10’を有効に活用できる。
【0095】
特に、中古住宅10’が平成12年3月以前の建築物である場合には、断熱性や気密性がそこまで考慮されておらず、中古住宅としての価値もそれほど高いとは言い難かった。それ故、一層有効な利用方法が見出せなかったが、リノベーションによる断熱性や気密性の向上の有効性を認識するという点では、断熱性や気密性が考慮されていない分、一層効果的であり、古い中古住宅をより有効に活用することができる。
【0096】
本実施形態のリノベーションモデルハウス10では、隣り合う体感ルーム14,14間の仕切壁22に、外気が導入される壁内共有スペース26や断熱層24が設けられている。さらに、体感ルーム14の天井上と床下にも外気が導入される上下共有スペース27や断熱層24が設けられている。これにより、同じ階層で隣り合う体感ルーム14,14間や、上下階で隣り合う体感ルーム14,14間での伝熱が防止されて、各体感ルーム14の温度の違いを、施工条件の違いとしてより正確に認識することができる。
【0097】
かかる施工条件の違いとしては、床材と壁材と断熱材と気密構造との少なくとも一つを異ならせるに加えて、窓の性能の違いも採用される。訪問者が窓の性能の違いを認識(体感)することで、自身のリノベーションの参考とすることができる。
【0098】
また、本実施形態では、第1~第5体感ルーム14a~14eのうち、二階13の第4体感ルーム14dが中古住宅10’の施工条件のままとされたベースルームとされている。それ故、リノベーションの行われた体感ルーム14(第1、第2、第3、第5体感ルーム14a,14b,14c,14e)とベースルームを比較することで、リノベーションの有効性を一層実感することができる。
【0099】
さらに、本実施形態のリノベーションモデルハウス10は二階建てとされており、一階11と二階13の何れにも複数の体感ルーム14が設けられている。これにより、異なる階層での体感ルーム14を体感することで、施工条件だけでなく、階層の違いが温度や湿度の変化にどのように影響を与えるのかを体感することができるし、同じ階層同士の複数の体感ルーム14を体感することで、階層の違いを考慮することなく、各体感ルーム14における温度や湿度の違いを、施工条件の違いとして認識することができる。
【0100】
また、各体感ルーム14における温度の違いは、温度計36により客観的に把握することも可能である。そして、各体感ルーム14における室温の変化を、温度変化表示38として示すことも可能であり、リノベーションによる効果を一層正確に把握することも可能となる。
【0101】
あるいは、各体感ルーム14の空調装置(エアコン34)の目標温度設定を同じにした条件下でエアコン34の稼働状況を示す空調稼働状況表示40を設けて、これにより、リノベーションによる効果を客観的に把握することもできる。
【0102】
また、各体感ルーム14には、住宅性能値と施工費用を相互に比較できるように表示した施工例表示部32が設けられていることが好ましい。これにより、訪問者が、リノベーションにおける費用対効果をより正確に把握することができる。なお、住宅性能値としては、Ua値やQ値、C値だけでなく上記の温度変化表示38や空調稼働状況表示40が示されていてもよい。
【0103】
さらに、本実施形態では、共有空間、及び共有空間に連通する壁内共有スペース26及び上下共有スペース27に積極的に外気を導入する換気用ファン28が設けられている。これにより、壁内共有スペース26又は上下共有スペース27を挟んだ両側の体感ルーム14間の伝熱がより確実に制限されると共に、共有空間、及び共有空間に連通する空間をより安定して外気と同等の環境下とすることができて、体感ルーム14におけるリノベーションの効果を感じ取り易くすることができる。
【0104】
かかるリノベーションモデルハウス10の製造方法によれば、訪問者が自身のリノベーションの参考とすることができ、且つ中古住宅10’を有効に活用することのできるリノベーションモデルハウス10が製造され得る。特に、リノベーションモデルハウス10の製造の際に、共有空間、及び共有空間に連通する壁内共有スペース26及び上下共有スペース27において、既存の中古住宅10’において施されていた断熱材を撤去又は削減することで、これらの空間をより容易に、外気と同等の環境下とすることができる。
【0105】
かかるリノベーションモデルハウス10の運用方法としては、例えば各体感ルーム14において略同じ条件下でエアコン34を稼働させて、夏場であれば、エアコン34の稼働後、外空間の熱がどの程度体感ルーム14内に伝わるか、冬場であれば、エアコン34の稼働後、体感ルーム14内の熱がどの程度外空間に逃げるか等で、施工条件の違いによる断熱性や気密性の効果を把握することができる。
【0106】
あるいは、各体感ルーム14における目標温度設定を同じにした状態で、空調装置(エアコン34)の稼働状況を示すことで、夏場であればエアコン34による冷気の保ち易さ(換言すれば、外気の熱の伝わり易さ)や、冬場であればエアコン34による暖気の保ち易さ(換言すれば、外気の冷気の伝わり易さ)を把握することができて、リノベーションの効果を体感することができる。
【0107】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。
【0108】
例えば、前記実施形態では、5つの体感ルーム14(第1~第5体感ルーム14a~14e)が設けられていたが、体感ルームの数は限定されるものではなく、施工条件が異ならされた少なくとも2つの体感ルームが設けられていればよい。
【0109】
また、前記実施形態では、二階13のみにベースルーム(第4体感ルーム14d)が設けられていたが、例えばベースルームは一階に設けられてもよく、例えば第4体感ルーム14dに加えて、第2体感ルーム14bをベースルームとしてもよい。これにより、階層の違いを考慮することなく、各体感ルーム14における温度や湿度の違いを、施工条件の違いとして認識することができる。
【0110】
温度変化表示38による体感ルーム14における温度の経時的な変化の表示は、体感ルーム毎に行うものに加えて、又は代えて、相違する体感ルームや比較したい体感ルームの表示を直接比較できるように並べて表示してもよい。同様に、空調稼働状況表示40による体感ルーム14における空調装置(エアコン34)の稼働状況の表示は、体感ルーム毎に行うものに加えて、又は代えて、相違する体感ルームや比較したい体感ルームの表示を直接比較できるように並べて表示してもよい。
【0111】
比較したい少なくとも2つの体感ルームは、比較したい施工条件以外の他の条件、例えば階層や部屋の向き、窓の向きや大きさ、部屋の大きさ等の条件を可能な範囲で揃えることが望ましい。
【符号の説明】
【0112】
10 リノベーションモデルハウス
10’ 中古住宅
11 一階(階層領域)
12 玄関(共有空間)
13 二階(階層領域)
14 体感ルーム
14a 第1体感ルーム
14b 第2体感ルーム
14c 第3体感ルーム
14d 第4体感ルーム(ベースルーム)
14e 第5体感ルーム
16 一階廊下(共有空間)
18 階段(共有空間)
20 二階廊下(共有空間)
22 仕切壁
22’ 壁部
24,24a,24b,24e 断熱層
26 壁内共有スペース(連通領域)
27 上下共有スペース(連通領域)
28 換気用ファン
29 外壁
30 窓
30a 第1窓
30b 第2窓
30c 第3窓
30d 第4窓
30e 第5窓
32 施工例表示部
34 エアコン(空調装置)
36 温度計
38 温度変化表示
40 空調稼働状況表示
α 開閉部分
【要約】
【課題】従来有効な利用価値を見出せなかった古い住宅の活用や、既存住宅の性能改善により省エネ化を図る住宅リノベーションの促進といった、地球環境上の社会的問題と、リノベーションの施工態様の多さから適切なリノベーション工事内容の選択が困難であるといった、ユーザー視点的問題とを、新たな着眼点により相互に関連付けて解決乃至は改善して社会的利益をもたらし得る発明を提案する。
【解決手段】リノベーションモデルハウス10が、既存の中古住宅10’を改築した建築物からなり、外気が導入されて外気同等の環境下に置かれる共有空間12,16,18,20を備えており、該共有空間に対して壁部によって仕切られた複数の体感ルーム14が互いに独立して設けられており、該複数の体感ルーム14は、床材と壁材と断熱材と気密構造との少なくとも一つの施工条件が互いに異ならされており、該複数の体感ルーム14はそれぞれ空調装置34を備えている。
【選択図】
図1A