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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】掘削・撹拌具
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20220124BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021152512
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2021-09-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516021382
【氏名又は名称】有限会社 櫂設計事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 篤哉
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-017650(JP,A)
【文献】実開昭60-100440(JP,U)
【文献】登録実用新案第3148363(JP,U)
【文献】特開2009-127337(JP,A)
【文献】特開平08-269939(JP,A)
【文献】特開2020-084695(JP,A)
【文献】特開平09-296439(JP,A)
【文献】実開昭58-033539(JP,U)
【文献】特開2019-073914(JP,A)
【文献】特開平07-018662(JP,A)
【文献】特開平11-077018(JP,A)
【文献】特開2002-256544(JP,A)
【文献】特許第6508692(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を掘削・撹拌しながら掘削土とスラリー状の改良材を混練することにより地盤改良を行うための掘削・撹拌具において、
上下方向に伸延する掘削・撹拌軸と、
上記掘削・撹拌軸の下端に設けられ、側面視で上記掘削・撹拌軸に対し、下端を掘削回転方向前方側に配置するとともに上端を掘削回転方向後方側に配置し、翼板面を上記掘削・撹拌軸の軸線に直交する水平方向に対して所定角度傾斜する傾斜面をなし、上記地盤を掘削する掘削翼と、
上記掘削翼の外周端又はその近傍から後方に向けて突設された整流体と、
上記掘削翼の掘削回転方向後方側の、上記掘削翼の背面及び上記整流体の内面を含む複数の面によって区画される後方開放の後方空間に臨んで開口し、上記掘削・撹拌軸内に設けられた改良材供給路により供給される上記改良材を上記後方空間に向けて吐出する吐出口と、
を備え、
上記掘削翼は、上記掘削・撹拌軸の径方向外方に向かって伸延する板状の掘削翼本体部と、上記掘削翼本体部の下端から前方に向けて突出した複数の掘削ビットと、を備え、
上記整流体は、その下端の位置を上記掘削翼本体部の下端の位置と同一レベルの高さ、又は上記掘削ビットの下端の位置よりも高い位置とするように設けられており、
上記吐出口から吐出された上記改良材を、回転する上記掘削翼を越えて後方へ流れ込む掘削土の後流を利用して上記後方空間の上記整流体までの全域へ誘導可能とするように構成したことを特徴とする掘削・撹拌具。
【請求項2】
上記掘削翼の前面に設けられた前方整流体をさらに備えた、
ことを特徴とする請求項1に記載の掘削・攪拌具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削・撹拌具及び地盤改良の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤改良施工に用いる改良材としては、一般的に、水と比重の大きいセメント系固化材とを主成分とするスラリー状の混合物が多用されている。
【0003】
このスラリー状の改良材を、地盤改良装置により、地中へ搬送・拡散させる改良材拡散方法を用いた地盤改良工法には、例えば低圧(~2Mpa)で吐出する機械撹拌工法や、高圧(20~50Mpa)噴射で掘削・撹拌する高圧噴射工法が知られている。
【0004】
一般的な機械撹拌工法による地盤改良装置は、改良材を吐出する吐出口が、掘削・撹拌軸の下端近傍に設置され、この改良材を掘削翼の外周方向へ放出する、といったものが基本的な構成であった。
【0005】
地盤改良施工では、深々度の高圧状態の地盤を掘削・撹拌するものであるので、地中からの圧力の影響を受けやすい。すなわち、一般的な機械撹拌工法による地中への改良材の吐出圧は、その深度における注入量と地中内圧に応じた搬送圧となり、周辺地盤の地中内圧力よりも少し高い程度となっている。
【0006】
この地中内圧力より少し高い程度の吐出圧で改良材を拡散できる掘削土中での有効拡散範囲としての改良径は、φ500~φ600mmであり、掘削翼によるせん断撹拌を利用した場合であってもφ1000mm程度が限界とされていた。
【0007】
かかる有効拡散範囲の限界を克服すべく、例えば弧状の撹拌翼や掘削翼に対して、平面視で略ハ字形に配置した一対の拡散翼を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
かかる技術によれば、一対の拡散翼を掘削・撹拌軸の回転方向の下流側から上流側に向け漸次広幅として配置形成しているために、その間を掘削土が通過した場合に改良材と掘削土とが拡散誘導されて効果的に撹拌・混練できるとしている。ところが、さらに改良径を広げようとすると吐出圧不足による改良材の散布・拡散域が拡張できない虞があった。
【0009】
この吐出圧不足を補うべく、高圧噴射工法が提案されている。この高圧噴射工法では、一般に、機械撹拌工法の10~20倍の高圧で、スラリー状の改良材を吐出させる構成としている。
【0010】
ところが、同高圧噴射工法によれば、改良地盤が軟弱な土質である場合には、吐出圧が過度になりすぎて掘削孔の周壁を不用意に削ったりすると、改良径が確定できない虞がある。換言すれば、高圧噴射工法による改良径は、土質の軟弱度合いに依存するため、改良地盤に対する改良径が不安定となる問題があった。
【0011】
このため、掘削翼の外周端で吐出口に対向する反射板を形成して、改良径を安定して確定させつつ、改良体全域に均一な改良材の拡散を行えるものが提案されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照。)。
【0012】
また、上述の特許文献1~3の他にも、例えば、掘削翼の背面側で、同掘削翼に沿って伸延する拡散翼を付設することにより、これから掘削させようとする地盤面に対面する底面部分のみを開放(以下、これを「下方開放」とよぶ。)させた改良材の改良材流路空間を形成すると共に、拡散翼の最下端位置より上方で改良材流路空間を掘削翼の後方側に開口させる開口部を有したものが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2009-127337号公報
【文献】特開2000-17650号公報
【文献】特開平9-296439号公報
【文献】特許第6508692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記従来の技術によれば、土中への改良材の拡散・散布において、いずれも次のような問題が生じ得る。
【0015】
すなわち、特許文献1に係る技術によれば、一対の拡散翼の間の間隙部分を掘削土が通過する際に同拡散翼に掘削土が不用意に付着してしまい、同間隙部分を閉塞する虞がある。この理は、土質が高粘着力を有する粘性土である場合には顕著であり、改良材の拡散効果はほとんど見られなかった。
【0016】
また、この特許文献1に係る技術のものには、整流板についての開示や示唆もない。つまり、この特許文献1に係る技術は、物理的、強制的に掘削土を押し出させようとするものである。そのため、本願に係る技術のような、回転する掘削翼を越えて後方へ流れ込む掘削土の後流を利用して、拡散翼の後方に内部が負圧の後方空間を形成する、といった構成のものではない。
【0017】
特許文献2及び特許文献3に係る技術によれば、所望とする大口径の改良径に対して改良材を均一に拡散できるものの、噴射口から改良材を噴出・吐出させる際の吐出圧を高圧状態に維持するためには膨大な改良材を必要とするばかりか、これに伴う大量の泥土状の排土が発生し、結果、改良施工費が高額となる虞があった。
【0018】
しかも、特許文献2に係る技術では、拡散防止板が掘削翼の先端に設けられているが、噴射口は、掘削翼より下方となる位置で主に噴射圧で地山の掘削を行える位置、又は掘削翼の上方で掘削土を噴射圧で細分化できる位置に配置されており、掘削翼の後方空間に噴射するものでは無い。従って、本願に係る技術のような、掘削翼の後方空間内に吐出口から吐出される改良材が負圧で吸引されて空間内の周辺部分まで誘導・拡散される、といった作用及び効果は得られなかった。
【0019】
また、特許文献3に係る技術では、反射板が掘削翼の先端に設けられているが、特許文献2と同様、噴射口は、掘削翼の上方で掘削土を噴射圧で細分化できる位置に配置されており、掘削翼の後方空間に噴射するものでは無い。従って、本願に係る技術のような、掘削翼の後方空間内に吐出口から吐出される改良材が負圧で吸引されて空間内の周辺部分まで誘導・拡散される、といった作用及び効果は得られなかった。
【0020】
この点、特許文献4に係る技術によれば、改良材流路空間に充満した改良材が同空間内圧を高めて土中圧力より高圧となって開口部より順次吐出される構成としているため、同空間内の周辺部分まで改良材が誘導・拡散されるという点では特に問題がなく、良好な改良材の散布が行えるとも思える。
【0021】
しかしながら、特許文献4に係る技術によれば、掘削翼と同掘削翼に付設される拡散翼とが縦断面視で略ヘ字状であるために、掘削対象とする地盤面との接地面積が拡散翼を付設した分拡大してしまい、その結果、掘進時の掘削抵抗が増大して、掘削速度が著しく低下する虞があった。
【0022】
さらに、特許文献4に係る技術によれば、掘削翼と拡散翼とによりなす下方開放の改良材流路空間は、掘削地盤面との間及び閉塞壁部との間でも閉ざされているので閉塞性が高く、改良材が改良材流路空間の上流側で停滞したりするなど、空間内で掘削土の詰まりが発生し易い。
【0023】
このため掘削土の詰まりが生じた場合には、改良材流路空間の内圧が不用意に一気に上昇してしまい、改良材が改良材流路空間の中途部や改良材を送る配管の接続部分などから漏洩吐出するなどの虞があった。
【0024】
このように、特許文献4に係る技術によれば、掘削翼と拡散翼とによりなす下方開放の改良材流路空間は、掘削地盤面及び閉塞壁部との間でも閉ざされているので閉塞性が高く、加圧押出によって改良材の拡散・散布を行うものであり、掘削翼の回転有無に関係なく機能するものである。従って、本願に係る技術のような、掘削翼の回転による後流を利用して、吐出口から吐出される改良材が負圧で吸引されて空間内の周辺部分まで誘導・拡散される、といった作用及び効果は得られなかった。
【0025】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、簡素な構造且つ安価であるにも関わらず、改良径の大きさや地盤性質に左右されることなく改良径全域に改良材を均一に散布・拡散することができ、改良材と掘削・撹拌土を均一に撹拌混錬してなる良質な改良体を造成できる掘削・撹拌具及び地盤改良の施工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る掘削・撹拌具は、(1)地盤を掘削・撹拌しながら掘削土とスラリー状の改良材を混練することにより地盤改良を行うための掘削・撹拌具において、上下方向に伸延する掘削・撹拌軸と、上記掘削・撹拌軸の下端に設けられ、上記地盤を掘削する掘削翼と、上記掘削翼の外周端又はその近傍に設けた整流体と、上記掘削翼の掘削回転方向後方側の、少なくとも、上記掘削翼の背面及び上記整流体の内面を含む複数の面によって区画される後方空間に向けて上記改良材を吐出する吐出口と、を備え、上記吐出口から吐出された上記改良材を、回転する上記掘削翼を越えて後方へ流れ込む掘削土の後流を利用して上記整流体までの全域へ誘導可能とするように構成したことに特徴を有する。
【0027】
また、本発明に係る掘削・撹拌具は、(2)上記掘削翼の前面に前方整流体をさらに備えたことにも特徴を有する。
【0028】
また、本発明に係る地盤改良の施工方法では、(3)地盤を掘削・撹拌しながら掘削土とスラリー状の改良材を混練することにより地盤改良を行う地盤改良の施工方法であって、上下方向に伸延する掘削・撹拌軸と、上記掘削・撹拌軸の下端に設けられ、地盤を掘削する掘削翼と、上記掘削翼の外周端又はその近傍に設けた整流体と、上記掘削翼の掘削回転方向後方側の、少なくとも、上記掘削翼の背面及び上記整流体の内面を含む複数の面によって区画される後方空間に向けて上記改良材を吐出する吐出口と、を備えた掘削・撹拌具により、上記吐出口から吐出された上記改良材を、回転する上記掘削翼を越えて後方へ流れ込む掘削土の後流を利用して上記整流体までの全域へ誘導散布しながら掘削・撹拌することに特徴を有する。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、地中内圧力差を利用して撹拌翼全域に固化材を拡散させるもので、その技術として流体(泥土)中を掘削翼が回転運動する時、その後方にまわりこむようにできる流れの遅い渦流域である「後流(伴流)」を用いることを特徴としている。
【0030】
特にこの「後流」は負圧となる低圧領域を、掘削翼の掘削回転方向後方側の後方空間内に形成し、掘削翼の回転移動速度(周速度)に応じて内周側と外周側との間で負圧力に差が生じることを利用するものであり、この特性を掘削翼の掘削回転運動に於いて利用すると、後方空間内では外周程後流の移動速度が速くなり、負圧力が顕著化される。よって、負圧力に差が生じている後方空間内に固化材を強制吐出することで、外周端までの後方空間内全域に、固化材を瞬時に拡散させるものである。
【0031】
請求項1に係る発明によれば、整流体を掘削翼の外周端またはその近傍に設置することで、掘削回転時には、後方空間が、掘削翼の回転半径方向については、改良体の外周端側の整流体と吐出口がある掘削・撹拌軸側との間で閉塞されると共に、上下方向については、掘削翼後方面と掘削地盤面によって閉塞される。これにより、掘削回転する上記掘削翼を越えて後方へ流れ込む掘削土の後流を利用して、掘削翼の後方空間を、常に、負圧空間として形成し、維持できる。
【0032】
また、整流体を設置する掘削翼の外周端又はその近傍は、掘削回転移動速度(周速度)が最も速くなり、後方空間内で最大の負圧状態を維持できる。その結果、後方空間内での圧力差により、後方空間内に吐出された改良材を外周端側へ吸引・誘導でき、改良体全域への拡散・散布を可能になる。特に負圧が最大となる掘削翼の外周端まで、改良材を効果的に拡散させることができるようになる。
【0033】
さらに、整流体を掘削翼の外周端又はその近傍に設けることで、整流体の外面部分が、この外側の未掘削状態にある外周面地盤に対して鏝のように押し当たる状態となるので、改良体の外側の未掘削地盤から後方空間内への土砂の巻き込みを防止することができる。
【0034】
また、請求項2の発明によれば、前方整流体を掘削翼の前面に設置することで、前方整流体が掘削土の流れを阻害するように作用し、後方空間内はより負圧状態となる。したがって、整流体による後方空間の負圧域に、前方整流体による後流負圧がさらに加わり、より効果的に改良材を吸引・誘導することができる。
【0035】
また、前方整流体と整流体とを合成させてあたかもバーチカル翼として機能させ、改良体の外周部に存在する改良土と掘削翼の外周端部との接触面積を可及的拡大させて、同改良土の改良体内での移動を大とすることができ、改良体外周部の撹拌品質を向上させることができる。
【0036】
また、発明によれば、地盤改良の施工方法の際に、掘削翼の外周端又はその近傍に設けた整流体を備える掘削・撹拌具を用いるので、掘削回転時は、回転する掘削翼の後流を利用して、掘削翼の回転後方の後方空間が負圧空間を構成することができ、この負圧空間内に吐出された改良材を、改良体全域へ誘導することで、改良体には全域に亘り改良材が常に散布された状態を実現できる。
【0037】
また、未掘削地盤面に対する掘削抵抗が特に増大することがないので、掘削翼の毎分当たりの回転数を容易に高めることができ、より細かい密度での改良材散布が可能となり、撹拌性能を高めることができる。さらに、未掘削地盤に対する貫入速度を増大させることで、施工速度を大幅に向上させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】実施例1に係る掘削・撹拌具を示す模式的側面図及びIb線矢視断面図である。
図2図1(a)におけるIIa線矢視断面図及びIIb線矢視断面図である。
図3】実施例1に係る掘削・撹拌具による後流の作用を示す説明図、負圧空間での改良材の流れを示す説明図、及び吐出口の近傍に逆流防止壁を設けた場合とそうでない場合の改良材の流れを示す説明図である。
図4】実施例1に係る掘削・撹拌軸の回転速度の大小により変化する負圧空間の形成領域及びこれに伴う吐出口の各種設置態様を示す説明図である。
図5】実施例1に係る掘削・撹拌具の変形例であって、各種掘削翼についての形状態様を示す説明図である。
図6】実施例1に係る掘削・撹拌具の変形例であって、それぞれ、掘削翼での整流体の取付け態様を示す要部説明図である。
図7】実施例1に係る掘削・撹拌具の変形例であって、それぞれ、掘削翼に取付ける整流体の各種形状の態様を示す模式的側面図である。
図8】実施例2に係る掘削・撹拌具を示す模式的側面図及び底面図である。
図9】実施例2に係る掘削・撹拌具が形成する掘削翼の内周側寄り及び外周端での負圧空間の生成状態を示す説明図である。
図10】実施例2に係る掘削・撹拌具の変形例であって、前方整流体及び整流体の各種態様を示す模式的側面図である。
図11】実施例2に係る掘削・撹拌具の他の変形例を示す模式的側面図である。
図12】実施例2に係る掘削・撹拌具のさらに他の変形例であって、それぞれ前方整流体の変形態様を示す模式的側面図である。
図13】本発明に係る掘削・撹拌具を具備した地盤改良装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
この発明の要旨は、地盤を掘削・撹拌しながら掘削土とスラリー状の改良材を混練することにより地盤改良を行うための掘削・撹拌具において、上下方向に伸延する掘削・撹拌軸と、上記掘削・撹拌軸の下端に設けられ、上記地盤を掘削する掘削翼と、上記掘削翼の外周端又はその近傍に設けた整流体と、上記掘削翼の掘削回転方向後方側の、少なくとも、上記掘削翼の背面及び上記整流体の内面を含む複数の面によって区画される後方空間に向けて上記改良材を吐出する吐出口と、を備え、上記吐出口から吐出された上記改良材を、回転する上記掘削翼を越えて後方へ流れ込む掘削土の後流を利用して上記整流体までの全域へ誘導可能とするように構成したことにある。
【0040】
本発明に特筆すべき点としては、整流体を取付けてある掘削翼が回転運動(円周運動)をするに伴い、その掘削翼の径方向の最外周部分の背面側での土中との境界部分を形成する整流体によって、これよりも径方向の中心側には後方側が開放状態で平面視略扇状の空間が連続的に形成されていく。しかも、この平面視略扇状の空間内では負圧を発生するので負圧空間となる。一方、この負圧空間には、ここへ臨んで設けた吐出口からスラリー状の改良材が吐出される。従って、この空間内に発生する負圧力の作用で、吐出口から吐出されるスラリー状の改良材の吐出流れを、負圧空間内の圧力の高い領域から低い領域に向けて強制的に形成し、改良材を導出させて送り出すことができる。
【0041】
しかも、回転運動中の掘削翼は回転中心側よりも周辺側の方が、回転移動速度(周速度)が速いので、掘削翼の背面側である後方に形成される流速(掘削土の流れる速度、即ち後流速)についても、掘削翼の回転中心側よりも周辺側の方が速くなる。換言すれば、その負圧空間内での圧力の大きさについても、掘削翼の径方向の各部位での速度、即ち、内周側と外周側での周速度に応じた大きさの圧力(負圧)を生じる。
【0042】
これにより、掘削翼の掘削・撹拌軸に近い中心側での負圧空間内の圧力(負圧)より、掘削・撹拌軸から離れた外側での負圧空間内の圧力の(負圧)方が、負圧が大きくなる。つまり、圧力絶対値としては大きくなるが、圧力としては小さくなる。
【0043】
ところで、スラリー状の改良材についても、例えば外力が付加的に何ら作用しない限りは、高圧から低圧へ向かって移動する(流れる)傾向がある。従って、流動体(スラリー状の改良材)は、圧力の低い(負圧の大きな)外側へ向けてスラリー状の改良材の移動作用が誘因・誘導される。換言すれば、この改良材は、負圧空間内において改良径の径方向に沿って形成された圧力差に応じて外側に向けて誘因・誘導され、円柱状に掘削・混錬される空間内に対して、中心側から円周外部側まで改良材を散布させていくことができる。
ところで、円柱状の改良体は、掘削翼の径方向の単位長さ当たりについて、外周側にいくほど改良体が2次関数的に拡大していくが、その改良体への改良材の散布量は、掘削翼の径方向全体に亘りほぼ均一となる。これについてさらに詳細に説明する。
改良材が散布される負圧空間は、真円形を有する掘削地盤面上に対して上からなぞるようにしながら、扇形状の状態で連続的に負圧空間を形成しながら周回運動を行っていく。ここで、単位時間当たり(例えば毎秒当たり)、掘削地盤面に対する負圧空間領域は、掘削翼の回転中心から離れるほど拡大し、掘削翼の径方向の距離の2乗に比例して増大する。
一方、改良材を散布しながら円柱状の改良体を形成していく際に、掘削地盤面への改良材の(単位時間当たり)散布量は、負圧の大きさが大きいほど改良材の吸込力が大きい。
このような改良材の散布領域と改良材の吸込量との関係から、掘削翼の径方向中心から離れるほど、扇形の負圧空間の面積が増大するのと同時に、改良材の散布量を左右する負圧の大きさも増大するので、掘削翼の半径方向における改良材の散布密度は、掘削翼の中心近くでも外周側でも、ほぼ同じような散布密度を実現することが可能となる。これにより、掘削翼の回転中心から径方向のいずれの地点の掘削地盤面であっても、改良材の均一散布が可能になる。
【0044】
また、本発明の掘削・撹拌具では、掘削翼の前面に設けられた前方整流体をさらに備えていてもよい。
【0045】
また、本発明の地盤改良の施工方法は、地盤を掘削・撹拌しながら掘削土とスラリー状の改良材を混練することにより地盤改良を行う地盤改良の施工方法であって、上下方向に伸延する掘削・撹拌軸と、上記掘削・撹拌軸の下端に設けられ、地盤を掘削する掘削翼と、上記掘削翼の外周端又はその近傍に設けた整流体と、上記掘削翼の掘削回転方向後方側の、少なくとも、上記掘削翼の背面及び上記整流体の内面を含む複数の面によって区画される後方空間に向けて上記改良材を吐出する吐出口と、を備えた掘削・撹拌具により、上記吐出口から吐出された上記改良材を、回転する上記掘削翼を越えて後方へ流れ込む掘削土の後流を利用して上記整流体までの全域へ誘導散布しながら掘削・撹拌することにある。
【0046】
ここで、以下の説明において、「整流体」とは、掘削翼の背面側から後に突出するものであればよく、具体的な形状に関する詳細については後述するが、各実施例のものに限定されることはない。即ち、本発明の整流体の形状としては板状や塊状であって、かつ、掘削・撹拌されていく掘削土に対する回転抵抗手段又は掘削土の流れの方向を上向きに変える機能を有していればよく、半円形、馬蹄形、三角形、台形、多角形等のように、同様の作用・効果をもたらすものであれば、その形状には左右されない。さらに、本発明の整流体は、例えば、円柱、円錐、角柱、角錐や、形が不規則な金属塊などであってもよい。また、さらには掘削ビットでの代用機能をあわせもったものであっても可能である。そして、本発明の整流体は、いずれの製造方法で製造してもよいし、その製造の際の加工方法についても、例えば溶接加工、削り加工、曲げ加工等のように、何れであっても問わない。
また、「前方整流体」についても同様であり、掘削翼の前面に設置されて少なくとも前方に突出するものであればよい。即ち、その形状には左右されることはなく、同様の作用・効果を有するものであればよく、また、その製造方法、加工方法などについても、何れであっても問わない。
【0047】
〔1.地盤改良装置〕
以下、本発明にかかる掘削・撹拌具を備える地盤改良装置の構成について説明する。図13は、本発明にかかる掘削・撹拌具Aを具備した地盤改良装置Kを示す。図13に示すように、地盤改良装置Kは、主要な装置部分が地盤Gの改良部分の地上面に設置される。
【0048】
地盤改良装置Kは、自走可能なベースマシン本体200に設けられ、上下方向に伸延するリーダ210と、リーダ210に昇降自在に取り付けられる回転駆動部220と、上下方向に伸延して形成され、回転駆動部220の下端に取り付けられる掘削・撹拌軸1と、改良材を供給する改良材供給部230と、を備えることを基本構成としている。
【0049】
ベースマシン本体200の後方に配置された改良材供給部230は、スラリー系の改良材を掘削孔内へ供給する。改良材供給部230は、改良材供給管231を介して回転駆動部220に接続した掘削・撹拌軸1内部の改良材供給路と連通連設している。
【0050】
改良材は、地盤を改良するために掘削土と混練される材料であって、水とセメント系固化材を主成分としたスラリー状の混合物であり、地盤改良の目的に合わせて他に、セメント系以外の固化材、混和材、添加剤、中和剤、薬剤、化学剤等を添加することができる。
【0051】
改良材供給部230から供給される改良材は、掘削・撹拌軸1内の改良材供給路を経由し、掘削・撹拌具Aに形成した吐出口から後述する負圧空間内へ向けて吐出され、負圧空間内から未掘削地盤や土中へ散布・拡散されて掘削・撹拌具Aにより掘削土と撹拌される。
【0052】
回転駆動部220は、ベースマシン本体200に内蔵した駆動回転ドラムにより吊下げワイヤ221を介してリーダ210の伸延方向に沿った上下動を可能としている。
【0053】
吊下げワイヤ221は、一端を駆動回転ドラムに連結し、中途部をリーダ210の最頂部を経由して回転駆動部220上部に設けたプーリ222に巻き掛けて、他端をリーダ210の上端部に固定している。
【0054】
すなわち、吊下げワイヤ221は、駆動回転ドラムの回転駆動力を回転駆動部220のリーダ210に沿った上下昇降力に変換し、地盤改良における貫入・引抜き時の堀削・撹拌具Aの上下動を可能にしている。
【0055】
回転駆動部220内部には図示しない駆動機が搭載されており、掘削・撹拌軸1はその基端で駆動機に連結して回転駆動する。
【0056】
なお、回転駆動部220内部の駆動機は、駆動力を掘削・撹拌軸の回転力として付与するものであればよく、また、上述した通り相対駆動する二重軸構造を有した掘削・撹拌軸1に対応する二重駆動機であってもよい。
【0057】
このように構成した地盤改良装置Kは、地盤を掘削・撹拌しながら掘削土と改良材とを混練して地盤改良を行う主要部である掘削・撹拌具Aを備えている。
【0058】
〔2.実施例1〕
以下、本発明の実施例1にかかる掘削・撹拌具の構成について図面を参照しながら説明する。図1(a)及び図1(b)はそれぞれ本実施例にかかる掘削・撹拌具A1の構成を示す側面図及びIb線矢視断面図、図2(a)及び図2(b)はそれぞれ図1(a)における堀削・撹拌具A1の堀削翼及び整流体のIIa線矢視断面模式図及びIIb線矢視断面模式図、図3(a)~図3(c)はそれぞれ掘削・撹拌具A1、A1、A1´´における後流の作用を示す模式的断面図、負圧空間の作用を示す模式的説明図、及び逆流防止壁を付設した掘削撹拌具における負圧空間の作用を示す模式的説明図、図4(a)~図4(c)はそれぞれ掘削・撹拌具A1の後方側に形成される負圧空間部分の大きさ・広さが掘削翼の回転速度(以下、「角速度」とよぶ)の速さに応じて変化する様子及びそのときの吐出口の設置位置を示す模式的な説明図、図5(a)~図5(c)はそれぞれ本実施例の掘削翼の変形態様を示す説明図、図6(a)及び図6(b)はそれぞれ本実施例の整流体の配置の変形態様を示す要部説明図、図7(a)~図7(h)はそれぞれ本実施例の掘削翼及び整流体の形状の変形態様を示す側面図である。なお、これらの図面の中で、図4は、整流体を最外周端側から掘削・撹拌軸に向けて視認する側面図であるが、詳細には、この状態で手前側から掘削・撹拌軸へ向けて光を投射した際に得られる側面投射図であり、ドットで模式的に図示している領域が後述する負圧空間となる後方空間である。
【0059】
本実施例にかかる掘削・撹拌具A1は、地盤を掘削・撹拌しながら掘削土とスラリー状の改良材を混練することにより地盤改良を行うためのものであって、図1(a)及び図1(b)に示すように、概括的には、上下方向に伸延する掘削・撹拌軸1と、掘削・撹拌軸1の下端に設けられ、地盤を掘削する掘削翼2と、掘削翼2の外周端(又はその近傍)に設けた整流体(以下、「後方整流体」とよぶ)3と、掘削翼2の掘削回転方向後方側の、少なくとも、掘削翼2の背面及び後方整流体3の内面を含む複数の面によって区画される負圧空間Rに向けて改良材を吐出する吐出口4と、を備えており、吐出口4から吐出された改良材を、回転する掘削翼2を越えて後方へ流れ込む掘削土の後流を利用して後方整流体3までの全域へ誘導可能としている。なお、掘削・撹拌軸1において、掘削翼2上方の所定位置には共回り防止翼100や撹拌翼101が支持されている。
【0060】
掘削翼2は、図1(a)及び図1(b)に示すように、掘削・撹拌軸1の径方向外方に向かって伸延する帯板状の掘削翼本体部20と、掘削翼本体部20の下端21で翼長方向に沿って所定間隔を隔てて設けられ、同下端21から前方に向けて突出した地盤掘削用の複数のビット23と、を備えている。
【0061】
掘削翼2は、図2に示すように、側面視で掘削・撹拌軸1に対し、下端21を掘削回転方向前方側に配置するとともに上端22を掘削回転方向後方側に配置し、翼板面を掘削・撹拌軸1の軸線AXに直交する水平方向(地盤面)に対して所定角度θ傾斜する傾斜面をなして支持されている。
【0062】
具体的には、掘削翼2は、掘削翼本体部20の下端21(複数の掘削ビット23の先端)を掘削回転方向前方側に向けて、つまり下方側を前側へ向けて傾斜している。換言すれば、掘削翼本体部20の上端22を掘削回転方向後方側に向けて、つまり上方側を後側に向けて傾斜するように配置しており、翼板正面を掘削回転方向前方側で略上方に向けるように掘削・撹拌軸1に支持している。
【0063】
掘削翼2の下端21の先端部は、図2に示すように略水平の水平面21aと水平面21aに直交する鉛直面21bとにより先端尖鋭状に形成しており、掘削・撹拌具A1の貫入・掘削に伴って掘削ビット23により掘削された掘削土を、鉛直面21bを経て掘削翼本体部20の翼板正面に導くことを可能としている。なお、掘削翼2の翼長、翼幅、翼厚は、所望とする改良径や改良対象とする地盤の種類に合わせて適宜選択することができる。
【0064】
なお、本実施例の掘削翼2は、掘削・撹拌軸1に対して、平面視でその外周の左右両側に互いに180度の位相差を設けた配置状態で2つ設置(平面視で掘削・撹拌軸1を中心に点対称に2つ配置)されている。掘削・撹拌軸1に設けられる掘削翼2の数は、外周端又はその近傍に後方整流体を備えて同様の効果が得られるのであれば特に限定されることはなく、例えば掘削・撹拌軸1の外周面から放射状に複数本あってもよいし、単一であってもよい。
【0065】
後方整流体3は、図1(b)に示すように横断面視楔形状のものであって、さらに、本実施例では図2(b)に示すように側面視略三角形状に形成されており、掘削翼2の端面(又はその近傍の掘削翼背面)から後方に向けて突設している。即ち、この後方整流体3は、図1(b)に示すように、掘削・撹拌軸1の中心側から径方向の最遠端部分である外端面、つまり掘削翼2の最外周部分において、図2(b)に示すように、その掘削翼2の背面側に固設されている。
【0066】
本実施例の後方整流体3は、より詳細には、回転方向の先端側は横方向(水平方向)に切断したときの厚さが先端側を薄く鋭利にした、尖状となっており、回転方向の後部にいくほどその厚さが次第に増大していくような略楔形状を有している。なお、この後方整流体3については、例えば平面視で断面略三日月形状、かつ、前後両端側の尖端部分をそぎ落とした形状、若しくは平面視で断面略凸レンズ形状或いは薄肉形状の蒲鉾型を有していてもよい。
【0067】
なお、この後方整流体3の掘削翼2に対する設置態様としては、例えば図6(a)又は図6(b)に夫々示すように、掘削翼2の外端面中央での接線δに対して、掘削回転方向の中心側に向かう方向に角度α傾斜させた後方整流体でもよいし、接線δに対して掘削回転方向の中心側から離れる方向に角度α´傾斜させた後方整流体などであってもよい。
【0068】
負圧空間Rは、掘削・撹拌具A1側の4面及び掘削土側の2面との都合6面、即ち、図1(b)、図2、及び図4に示すように、掘削翼2の背面B1と、地盤の掘削・撹拌によって円柱状に形成されていく掘削土の円柱状の改良体I(図3(b)参照)の円形底面である最先端面B2の一部(即ち、図1(b)にドットで示す扇形状領域の部分)と、掘削・撹拌軸1の下端部側の外周面B3と、後方整流体3の内面B4及び背面B5と、改良体Iとなる円柱状の改良径の外周面に対接する未掘削土側の内周面B6と、に囲設された後方空間であって、図2に示すように、掘削翼2に連れ回されながら、掘削翼2の背面側での生成領域が時間的な変化とともに連続的に移動していく。即ち、後方空間である負圧空間Rは、図1(b)に示すように、未掘削地盤面に対して平面視略扇形状に形成されていくが、掘削回転方向の後方のみが開放されそれ以外の領域は全て閉鎖された空間となる。
【0069】
この負圧空間Rについて、図3を参照しながら、さらに具体的に説明する。但し、例えば図3(b)及び図3(c)に示す後方整流体については、図1(b)に示す後方整流体3と同じ形状を有するものである。しかしながら、この後方整流体については、必ずしも図1(b)に示すような楔形形状を有するものに限定されるものではない
【0070】
図3(a)に示すような構成の掘削・撹拌具A1´では、掘削翼2の周回運動に伴い掘削翼2の上部を乗り越えてその背面側後方へ向かう掘削土の流れBFが形成されることによって、掘削翼2の背面側である後方には、後流BLが発生する。このため、この掘削土の流れBFよりも下側には、固有の空間(即ち、後方空間)が生成される。
【0071】
しかも、掘削土の流れBFを境界にして、その上側(外側)よりも下側(内側)の方が低圧状態、つまり後方空間内では負圧状態となり、このとき生成される負圧の大きさは、掘削翼2の半径方向の外側に向かうほど圧力が低くなる。換言すれば、一定角速度で周回運動中の掘削翼2では、径方向の外側に向かうほど周速度が増大するので、掘削翼2の上部を通過する掘削土の流れBFは、掘削翼2に対する相対速度も外側に行くほど増大する。その結果、後流BLの発生が顕著化され、負圧空間Rとなる後方空間内では、掘削翼2の半径方向の中心側から外側に向けて漸次低圧となる状態が生成される。このため、負圧空間R内では、掘削・撹拌軸1について半径方向の中心側である高圧側から半径方向の外側である低圧側に向け、差圧に伴う流れを発生する。
【0072】
これにより、高圧から低圧へ向かう傾向のある流状の連続体、即ち、スラリー状の改良材についても、掘削翼2の半径方向の中心側から圧力のより低い(負圧のより大きな)外側へ向けて移動するような動きの流れSFが誘導される。その結果、改良材が負圧空間R内の外側に向けて誘導され、円柱状に掘削・混錬される改良体Iに対して、中心側から円周外部側まで改良材を散布して均一に敷きつめることが可能となる。
【0073】
本実施例の吐出口4は、図1(a)及び図3(b)に示すように、掘削・撹拌軸1内の改良材供給路10の下部において、それぞれ、掘削翼2の本体20の径方向外方に向けて分岐し、掘削・撹拌軸1の軸周壁から負圧空間R内へ向けて突出する短尺の吐出管40の開口である。すなわち、吐出口4の吐出管40は、改良材供給路10の最下頂部近傍、つまり掘削翼2の最下方位置に配置している。なお、図3(b)の掘削・撹拌具A1´では、図1(a)に示す掘削・撹拌具A1と異なり、掘削・撹拌軸1の外周の一部と一体化させた状態で逆流防止壁5が周設されており、この逆流防止壁5の内部を貫通する状態で、吐出管40が埋設されている。なお、この逆流防止壁5については、その側面視形状が例えば図9(a)に示すような略直角三角形状を有しているが、特にこの形状や下端31の高さにこだわるものではない。即ち、この逆流防止壁では、側面視が例えば図7(a)~図7(h)に示す後方整流体3a~3hに示すものと同様の側面形状を有するものであってもよい。
【0074】
なお、図3(c)は、図3(b)の吐出管40を掘削翼2の半径方向の外周側に若干延伸させるとともに、この吐出管40の吐出口4寄りにおいて、逆流防止壁5の替りに、この逆流防止壁5よりも掘削翼2の半径方向に向けて移動させて掘削・撹拌軸1の外周面から離した逆流防止壁50が付加された構成のものを示す模式的な説明図である。この逆流防止壁50を設けるようにすれば、例えば吐出口4からのスラリー状の改良材の一部が掘削翼2の中心側に向けて符号SF´で示すように逆流して押し出されていき掘削・撹拌軸1の外周面などに付着・堆積する、といった逆流現象の発生を未然に回避することが可能となる。
【0075】
また、この吐出口4を設ける位置は、負圧空間R内に臨んだ位置であれば、負圧空間R内の負圧力の作用で負圧空間内へ強制的に吸引・誘導されていくので、いずれでの位置であってもよく、複数の吐出口4を配置してもよい。
なお、改良材供給路10内での改良材は、重力の作用で押し出されて下方へ移動することが可能であるが、改良材供給路10の管内圧を掘削中の土圧よりも高圧に設定すれば、負圧空間Rへ送り込む改良材の管内での途中詰まりを回避するだけでなく、負圧空間R内へより一層スムースに吐出させ、掘削土との混錬をスムースに行うことが可能である。
【0076】
吐出口4は、掘削・撹拌軸1外周面から掘削翼2の延伸方向に沿い、ドット領域で示す負圧空間R内の何れかの位置で開口されていてもよいが、本実施例では、図4(a)に示すように、吐出口4の中心が掘削・撹拌軸1の回転の軸線AXに一致するように配置されている。
【0077】
しかしながら、本発明は、これに限定されるものではない。掘削・撹拌軸1の角速度が大きくなる場合、例えば図4(b)のように負圧空間Rを後方に大きく拡大させることが可能となるが、この場合でも、吐出口4´は、図4(a)の場合と同様の配置であってもよい。
【0078】
また、図4(c)に示すように負圧空間Rが掘削・撹拌軸1外周面よりも後方に拡大した状態で生成された場合、この吐出口4´´は、負圧空間R内であれば、ドットで示す領域(側面投射図での陰影領域)内において、掘削・撹拌軸1外周面からはみだす状態で後方へ後退配置するように突設させてもよい。その場合、吐出口4´´が、掘削・撹拌軸1の外周面を超えるので、吐出管40をその方向まで延在させればよい。
【0079】
即ち、この場合には、図4(a)と同様、吐出口4´´は、水平面方向に平行な状態で斜め後方に吐出管40を延在させ、かつ、掘削・撹拌軸1の回転軸線AXに吐出口4´の中心が一致するように配置してもよい。また、図示しないが、この吐出口は、負圧空間R内から一部後方へはみ出す状態で設置してもよい。
【0080】
さらに、負圧空間Rが後方に拡大生成されているか否かに関わらず、図4(c)のように掘削中での地盤面において、掘削済みの最先底面(以下、これを「最先底面EG」とよぶ)内であれば、吐出口4´´´の最下部をこの最先底面EGの近傍まで設置位置を下げて設けてもよい。ただし、この場合でも、少なくとも吐出口4´´´の最上部は、掘削土の最先端面B2となるレベルよりも上に位置させるのが必要である。
【0081】
なお、図2(b)や図4(a)において、掘削翼本体部20と掘削土の最先端面B2(又は最先底面EG)とのなす角度θは、任意であるが、例えば5°~80°程度であってもよい。角度θの大きさは、改良材が流動可能な有効深さを確保できれば、特に限定されるものではない。
【0082】
ここで、負圧空間Rにおける改良材が流動可能な有効深さとは、負圧空間Rとして掘削翼の掘削回転に伴い未掘削地盤面へ敷設散布される改良材の貯溜体積を確保するために必要な空間高さのことである。
【0083】
また、後方整流体3は、図2(b)に示すようにその下端31の位置を掘削翼2の下端21の位置と同一レベルの高さとするような状態で、掘削翼2に設けられている。なお、掘削翼2の下端21の高さ位置は後方整流体3の下端31の高さ位置と略同じ位置とし、各下端21、31における水平面21a、31aを最先底面EG、つまり、未掘削地盤面に面対向するようにしてもよい。
【0084】
なお、本実施例では、図2(b)及び図3(a)に示すように、後方整流体3は、その下端31の高さ位置を掘削翼2の下端21の水平面21aの高さ位置と同じレベルとしているが、特にこれには限らない。この後方整流体3は、例えばその下端31の高さ位置を、掘削翼2の下端21の水平面21aの高さ位置よりもやや高い位置にするような状態で掘削翼2に設けてもよい。また、この後方整流体は、その下端31の高さ位置を、後述する図7(d)のようにそれより少し低い位置に設けてもよいし、最先底面EGと同じまたはそれよりは高くさせてもよい。
【0085】
[掘削・撹拌具A1の作用]
本実施例では、前述したように、掘削・撹拌軸1に支持された掘削翼2に後方整流体3を固設することにより、図1及び図2(a)に示すように、掘削翼2の掘削回転方向の後方側で掘削翼2の背面B1、掘削土の最先端面B2、掘削翼2の翼長方向基端側の掘削・撹拌軸1の外周面B3、及び掘削翼2の翼長方向の外端側の後方整流体3の内周面B4などによりなす横断面視略三角形状の負圧空間Rを生成している。また、この負圧空間Rは、後方開放した状態で生成している。なお、詳細については後述するが、例えば図4(a)~図4(c)に示すように、負圧空間Rは、特に周速度の影響を受けて、その形状や広がりが側面視断面形状において一定大きさに限定されることはない。
【0086】
負圧空間Rは、図3(a)及び図3(b)に示すように、掘削翼2の伸延方向に沿う全幅において、後方整流体3の背面である後方に、後方開口βを有する。
【0087】
このように、本実施例では、掘削翼2が周回運動することで、図3(a)に示すように、開放された後方開口βに向けて掘削土が滑らかな流線の後流BFを描きながら掘削翼2の上部を通過するため、掘削翼2及び後方整流体3の各面、即ち4面(未掘削地盤などを含めると、6面)で区画された負圧空間Rには負圧が形成される。しかも、この負圧空間Rでは、周速度の影響を受けて掘削翼2の径方向外側ほど低圧になる。別言すれば、負圧が高くなる。
【0088】
そのため、この負圧空間Rに臨んで、掘削翼2の中心寄りである径方向の内周側に設けた吐出口4から吐出するスラリー状の改良材は、負圧空間R内での負圧力で吸引されるように注ぎ込まれて行き、この負圧空間R内で圧力の低い掘削翼2の径方向の外周側に向けて誘導される。その結果、吐出口4から吐出する改良材は、この負圧空間R内で径方向の外側まで満遍なく流動されて敷設されるので、負圧空間Rは、掘削翼2の翼長方向全域に亘って改良材を散布する散布空間として機能する。
【0089】
その結果、図3(b)に示すように掘削回転する掘削翼2の回転軌跡に沿って未掘削地盤表面をなぞるように散布される。具体的には、掘削翼2の掘削回転方向後方側の負圧空間Rの全域、すなわち改良体Iの全域に対して、吐出口4から流動・吐出する改良材を差圧、つまり圧力差ΔP(=P(内)-P(外);ただし、P(外)<P(内)<0))により、掘削翼2周縁側である低圧領域に向け滞りなく均一に敷設散布することが可能となる。なお、負圧空間Rにおいて、掘削翼2の径方向内側寄りでの内圧をP(内)、径方向外側寄りでの内圧をP(外)とする。
【0090】
換言すれば、負圧空間R内における圧力差ΔPによって、負圧の最も低圧となる領域である(改良体Iの外周側となる)領域に向け、改良材の散布を行うことにより、負圧の最も高圧力域となる掘削・撹拌軸1近くの吐出口4では改良材が滞留することを阻止でき、掘削土と改良材との確実な混練撹拌が実現できる。
【0091】
従って、土壌改良で形成される略円柱状の改良体Iについては、負圧空間Rでの中心側と外周側との差圧を利用することで、形成される改良体Iの外周側まで確実な改良材散布を実現できる。特に大口径の改良体Iの地盤であれば、中心側と外周側とに亘る径の増大に伴い、前述の圧力差ΔPが増大する。このため、小口径の地盤に比して一層差圧が増大する。その結果、大口径の地盤では、差圧がより一層増大する分、改良材の確実な均一散布・拡散を実現できる。
【0092】
以上のように、本実施例に係る地盤改良の施工方法は、地盤を掘削・撹拌しながら掘削土とスラリー状の改良材を混練することにより地盤改良を行うものであり、掘削・撹拌具Aにより、吐出口4から吐出された改良材を、回転する掘削翼2を越えて後方へ流れ込む掘削土の後流を利用して後方整流体3までの全域へ誘導散布しながら掘削・撹拌するものである。掘削地盤面に対して回転駆動する掘削・撹拌軸1の下端に設けた掘削翼2により掘削しながら掘削土と改良材とを混練撹拌することにより地盤改良を行う施工方法により、後方整流体3を付設した掘削翼2の掘削回転方向後方側に、掘削翼2の回転とともに掘削翼2の後方が開放された負圧空間Rが、掘削翼2の翼長方向に亘って形成される。このため、吐出口4から負圧空間に向けてスラリー状の改良材を吐出し、掘削翼2の径方向の内外で差圧が形成されている負圧空間Rに送り込まれた改良材を、負圧空間R内の掘削翼2外周に向けて差圧を利用して敷設散布しながら掘削・撹拌するといった、これまでにない全く新しい画期的な地盤改良の施工方法を実現することができる。
【0093】
〔3.実施例1における掘削翼の変形例〕
次に、本発明の実施例1の変形例について、図5を参照しながら説明する。
図5(a)~図5(c)に示す掘削・撹拌具A2~A4は、図1(b)に示す横方向に真直ぐ翼を伸ばして延伸した形状の掘削翼2を有する掘削・撹拌具A1とは異なり、いずれも、掘削翼の途中から所要の方向に折れ曲ったり、カーブしたりする固有の形状を有している。
【0094】
1)変形例1
図5(a)に示す形状の掘削・撹拌具A2については、掘削翼2aが、翼長中途において、掘削翼2aの外周寄りの方が掘削・撹拌軸1の外周面寄りに比べ、角度γ1だけ後方へ向けて折曲した形状を有している。このような構成の掘削翼2aによれば、即ち、掘削・撹拌軸1の軸芯と掘削翼2a外周端の中心点Sを結ぶ直線に対して、掘削翼2aの中間部の中心線が掘削時回転方向の前面側に偏心されることで、掘削時には掘削翼2aを越える掘削土は、常に掘削翼2aの外周方向へ移動する。また、引き抜き時の逆回転時には、掘削土が逆に改良体中心部へ強制移動させられることで、改良体の外周部と中心部の改良体が混在化されて品質を均一化させる事を可能にしている。これは、固化材を強制的に外周域まで拡散させる補助機能としても効果がある。なお、また、掘削翼2aが周回運動を行う際に、掘削翼2aの外周側ほど周速度が増大するが、これに伴い掘削翼2aの外周側ほど掘削土の周辺側からの掘削抵抗力も増大するため、掘削翼2aの外周端では掘削土から大きな反力を受けることとなる。しかしながら、本変形例1では、掘削翼2aの外周寄りでは、掘削翼2aの翼長の伸長方向が後方へ角度γ1だけ折曲しているので、その分、外周側の掘削土からの反力を減殺することが可能である。
【0095】
2)変形例2
また、図5(b)に示すような形状の掘削・撹拌具A3については、掘削翼2bが、この中心が掘削・撹拌具1の軸線AXに対して水平方向に長さΔtだけ回転方向の前側にシフトした状態で、掘削・撹拌軸1の外周面に取付けられている。このような構成の掘削翼2bによれば、実質的に、実施例1の掘削翼2に比べて角度γ2だけ後方へ後退した構成となっているので、変形例1と同じように、その分、外周側の掘削土からの反力を減殺することが可能となる。即ち、変形例1の場合と同様の作用効果が得られる。
【0096】
3)変形例3
また、図5(c)に示すような形状の掘削・撹拌具A4については、左右一対の掘削翼2cが、全体として略S字形にカーブした形状を有している。このような構成の各掘削翼2cについて、変形例1及び変形例2と同様、実施例1の掘削翼2に比べて角度γ2だけ後方へ後退した構成となっているので、変形例1と同じように、その分、外周側の掘削土からの反力を減殺することを可能としている。即ち、この変形例3についても、変形例1の場合と同様の作用効果が得られる。
【0097】
〔4.実施例1における後方整流体の配置態様の変形例〕
本発明の後方整流体としては、図1及び図3に示す前述した実施例1の構成以外に、例えば次に説明するような構成のものであってもよい。
1)変形配置例1
図6(a)に示す掘削・撹拌具A5では、掘削翼2外端面における後方整流体3´の設置向きが、掘削翼2の本体20の最外部となる外端面の中央位置における接点Sでの接線δの方向に対して、前方側が掘削翼2の回転方向について内側に角度αだけシフトするような配置状態で取り付けられている。しかも、この後方整流体3´は、この厚さ分だけ掘削翼2の外端面を一部抉るような形状を有しており、掘削翼2の先端面が、掘削翼2の外端面から突出しないように構成されている。
【0098】
従って、このような構成の後方整流体3´によれば、後方整流体3´は、掘削翼2´の周回運動とともに掘削翼2の外端面において周回運動を行いながら、外周側の土壌のうち掘削ビット23で掘削されない掘削ビット23より上側部分の土壌を、周回半径差h分だけ掻き出していくスクレーパ機能を有する。特にこの後方整流体3´は、後端部分で外周側の土壌を押出しながら掘削するような機能を発揮させることができるが、この掻き出し動作の際には外周側の土壌からの反力で、後方整流体3´は掘削翼2´の外端面に押し付けられるような押圧力を受ける。また、これと同時に、実施例1と同様、掘削・撹拌軸1、掘削翼2などとともに後方整流体3´がこれらと協動して後方空間に負圧空間Rを生成するため、その負圧空間生成機能の一部も担っている。
【0099】
2)変形配置例2
さらに、図6(b)に示すように、図6(a)の向きとは反対に、後方整流体3の設置向きが、掘削翼2の本体20の最外部の中央位置における接点Sでの接線δの方向に対して、前方側が掘削翼2の回転方向について内側に角度α´だけシフトするような配置状態で取り付けられていてもよい。
【0100】
このような構成の後方整流体3によれば、変形配置例1の後方整流体3とは異なり、掘削ビット23との間では周回半径差hがないが、この後方整流体3についても、周回運動の際に、掘削ビット23の最外側のものと同様の周回軌道で、掘削ビット23よりも上方部分の外周土壌を機械的に掻き出すスクレーパ機能を有している。
【0101】
但し、この後方整流体3については、変形配置例1での後方整流体3とは逆に、この掻き出し動作の際には、外周側の土壌からの反力で後方整流体3は掘削翼2の外端面剥離されるような離反力を受ける。また、この後方整流体3でも、後方整流体3と同様、掘削・撹拌軸1、掘削翼2などとともに後方整流体3がこれらと協動して後方空間に負圧空間Rを生成するため、その負圧空間生成機能の一部も担う。
【0102】
〔5.実施例1における掘削翼及び後方整流体の変形例〕
本発明の実施例1では、後方整流体3を備えた掘削・撹拌具A1について説明してきたが、この後方整流体3については、特にこの実施例のものに限定されるものではない。
【0103】
即ち、図7(a)~図7(h)に示す本変形例の掘削・撹拌具A2~A8のような構成のものであってもよい。以下、これら7種類の掘削・撹拌具A2~A8について、個別に説明する。
【0104】
図7(a)~図7(h)は、本実施例に係る掘削・撹拌具A1~A8の模式的な側面図である。
掘削・撹拌具A1は、実施例1で示したように、基本的には、図7(a)に示すように、掘削翼2の前面側の下端部分に掘削ビット23を取り付けるとともに、掘削翼2の背面側に、側面視略三角形状の後方整流体3aを取付けてあるものが一般的である。
【0105】
また、図7(b)に示す後方整流体3bは、図7(a)と同様に掘削翼2の背面における下端側から上端側に亘って形成する点で類似しているが、図7(a)と異なり、掘削翼2の最上端よりも若干下寄りに高さを抑えた形状としてあってもよい。
【0106】
また、図7(c)に示す後方整流体3cのように、後下角を鈍角に形成することで、掘削・撹拌軸1の外周面へ向け光を投射して得られる側面投射図において、この外周面内からはみ出すことなく同図(a)に示す基本的な後方整流体3よりも後方への突出量を少なくした形状であってもよい。
【0107】
さらに、このような後方整流体3の変形例としては、例えば図7(d)に示す後方整流体3dのように、掘削翼2の背面に対して掘削回転向きに対してより後方へ突出した形状であって、かつ、後下角及び前下角が面取りされた側面視略5角形状を有していてもよく、さらに下端位置は、掘削土の最先端面B2より低い位置(最先底面EGよりは高い位置)であってもよい。
【0108】
さらに、後方へさらに突出する側面視略略三角形であって、図7(e)に示す後方整流体3eのようにその突出した後下角が面取りされた形状であってもよいし、図7(f)の後方整流体3fように後角がR取りされた形状であってもよい。
【0109】
以上のような後方整流体3a~後方整流体3fは、これを取付ける掘削翼2が平板形状であるが、例えば図7(g)に示す後方整流体3gのように、縦断面視略ヘ字形の掘削翼2´の背面に取付けた略台形形状であって、後下角がR取りされている形状であってもよい。
【0110】
さらに、同図(h)に示す後方整流体3hのように、頂部が円弧状を有する縦断面視逆斜J字形の掘削翼2´´の背面及び後端面に密着状態となるように形成させた異形形状であって、後下角がR取りされている形状であってもよい。
【0111】
〔6.実施例2〕
次に、本発明の実施例2に係る掘削・撹拌具A9について説明する。図8(a)及び図8(b)は、本実施例に係る掘削・撹拌具A9を示すものであり、図8(a)は側面図、図8(b)は底面図、図9(a)は図8(a)におけるIXa線矢視断面図、図9(b)は図8(a)におけるIXb線矢視断面図である。なお、図9は、図4と同様、後方整流体及び前方整流体を最外周端側から掘削・撹拌軸に向けて視認する側面図であるが、詳細にはこの状態で手前側から掘削・撹拌軸へ向けて光を投射した際に得られる側面投射図であり、ドットで模式的に図示している領域(ドット領域))が負圧空間Rとなる後方空間である。
【0112】
(掘削・撹拌具A9の構成)
本実施例の掘削・撹拌具A9は、実施例1の掘削・撹拌具A1と同様の後方整流体3を備えているが、さらに、掘削・撹拌軸1の外周の掘削翼2の取付部分に図3(b)に記載のものと同様の逆流防止壁5を備えている点と、掘削回転方向前面側に前方整流体6を備えている点で構成を異にする。
【0113】
なお、本実施蹴例1の後方整流体については、図1(b)及び図2(b)に示す構造の後方整流体3に必ずしも限定されない。即ち、この後方整流体としては、実施例1のような断面楔形のもの以外に、例えば横断面視略蒲鉾型、横断面視略弓型、或いは略三日月型(クレッセント型)に近い形状であってもよい。
【0114】
一方、前方整流体6は、図9(b)に示すように、掘削翼2の前面から前方に向けて突設されており、詳細は後述するが、掘削直後の掘削土の流れを変えることができるようになっている。
【0115】
即ち、本実施例の前方整流体6は、図8(b)に示すように、平面視或いは横断面視では後方整流体3と同様の形状を呈しており、即ち、横断面視略略楔形に形成されているが、これ以外に、例えば横断面視で略蒲鉾型又は略矩形状など、即ち薄板状などに形成されていてもよい。また、この前方整流体6は、掘削翼2に対して、後方整流体3aと同じく径方向については掘削・撹拌軸1から同一距離離間した、外周端位置に設置されている。また、この前方整流体6の外形形状は、図9(b)に示すように、側面視で略凸型の放物線形状を有している。正確には、前方整流体6は、頂角部分がR取りされてカーブした曲面形状であるとともに、残りの両底角の部分は掘削翼2の前面の下端21及び上端22に丁度合致するような形状を有している。なお、本実施例の前方整流体6は、外径形状が幾何学的、関数的には対称軸が前方向に傾斜した異形放物線(異形の二次関数曲線)ということもできるが、特にこの外形形状に限らない。
【0116】
(掘削・撹拌具A9の作用)
従って、本実施例によれば、このような配置及び向きを有する前方整流体6は、掘削土の最先端面に対して掘削回転中心から外周端の地点において、掘削土の最先端面に対して真正面に正対した状態で衝突していく。従って、この前方整流体6は、掘削土を強制的に後方向に向けて押し出させることができる。
【0117】
一方、後方整流体3aについては、掘削翼2において、この径方向について前方整流体6と同一位置である外周端に配置させてあるが、図9(b)に示すように、掘削土の流れは、実施例1のものに比してやや高い位置から後方整流体3aへ流れ落ちてくるようになっている。
【0118】
つまり、図9(a)に示す前方整流体6の設置されていない内周側領域(高さH1、後方への広がりL1)での負圧空間Rに対し、前方整流体6の設置されている領域での負圧空間Rの空間域の大きさが、高さ(H2)も後方への広がり(L2)についても、拡大している。
【0119】
換言すれば、掘削翼2の径方向の外周端での負圧空間Rが他部位での負圧空間Rよりも大きく拡大している分、その負圧空間Rでの内圧も希釈化されて内圧(負圧)もより低くなる(絶対値としては大きな値となる)ので、掘削翼2の径方向の内周側での内圧とでの差圧がより一層拡大する。
即ち、前方整流体6は、図9(b)に示すように、この頂部である最高部の位置(高さH2)が、掘削翼2の高さ(H1)を越えており、その分、この前方整流体6を越える掘削土の流れは、掘削翼2を越える掘削土の流れの掘削面B2への到着位置(L1)を大きく上回る到着位置(L2)となるので、掘削土の流れによる後流が顕著化され負圧空間の広がりもその分拡大する。一方、負圧空間が拡大すると、その分、負圧空間内の気圧もさらに低くなる。従って、負圧空間内のうち前方整流体6の設置部分に対応する掘削翼2の外周側での後方では、負圧空間内の他の領域の部分より、負圧の大きさが大きくなるので、掘削翼2の中心寄りとの圧力差も大きくなる。
【0120】
このため、前方整流体6を設けた場合に形成される負圧空間Rの方が、径方向の内周側との差圧も拡大し、吐出口4からの改良材を外周側まで強力に吸引・拡散させることができるようになる。
【0121】
従って、本実施例の掘削・撹拌具A9を使用すれば、従来の掘削・撹拌具により形成した改良体においては改良材の混入が少なくなる傾向にあった改良体の外周側でも、改良材の混入不足をもたらすことなく、外周側まで均一に改良材で混練された品質の良好な改良体Iの形成が実現できるようになる。
【0122】
このような前方整流体6を追加した構成の掘削・撹拌具A9によれば、後方整流体3などが生成する後方空間Rの負圧域に、前方整流体6による後流負圧が加わり、より効果的なスラリー状の改良材の吸引・誘導を可能とすることができる。
【0123】
即ち、前方整流体6が掘削土の流れを阻害するように作用し、後方空間内はより負圧状態となる。したがって、後方整流体3による後方空間の負圧域に、前方整流体6による後流負圧がさらに加わり、より効果的に改良材を吸引・誘導することができる。
【0124】
しかも、後方整流体3の他に前方整流体6を追加したことにより、これら2種の整流体、即ち、後方整流体3及び前方整流体6の作用が合成されることで、バーチカル翼として機能し、改良体I外周部の改良土を大きく動かすことが可能となり、改良体I外周部分での撹拌品質が大きく向上する。
【0125】
このように、後方整流体3と共に前方整流体6を備えた構成の本実施例のものでは、後方整流体3の機能を阻害させる虞もなく、有効に後方整流体3の機能を発揮できる。
【0126】
なお、本実施例では、前方整流体6及び後方整流体3のいずれもが、掘削翼2において、径方向の外周端に設けたが、これら双方の後方整流体3及び前方整流体6は、径方向の異なる位置に配置させてもよく、さらに前方整流体6は複数の配置でもよい。
【0127】
[7.実施例2の変形例1]
次に、本発明の実施例2の変形例について、図10(a)及び図10(b)を参照しながら説明する。
本発明の実施例2では、後方整流体3及び前方整流体6を共に備えた掘削・撹拌具A9について説明してきたが、この後方整流体3及び前方整流体6については、特にこの実施例2のものに限定されるものではない。
【0128】
即ち、本実施例の後方整流体3については、例えば図10(a)に示す掘削・撹拌具A9´のように、前方整流体6´及び後方整流体3が、掘削翼2の前面及び背面にそれぞれ分離して設置されているが、図10(b)に示すように、前方整流体及び後方整流体を一体化させた一体型整流体8で構成してもよい。但し、この一体型整流体8では、掘削翼2の径方向の最外周端面に取付けることとなる。
【0129】
この一体型整流体8は、最もシンプルな形状として、背面側が大きく後方へ突出した三角形状或いは四角形状を有するものであってもよい。本実施例では、図10(b)に示すように、掘削翼2の断面に倣った外径形状とするため、5箇所の角と1箇所のR取りされた角とを有する変則的な多角形に形成している。
【0130】
即ち、本実施例の一体型整流体8は、前側の前方整流体部8aと背面側の後方整流体部8bとを備えており、これら前方整流体部8aと後方整流体部8bの中間部分の領域が掘削翼2と固着される翼取付部8cとなっている。
【0131】
〔8.実施例2の変形例2〕
次に、本発明の実施例2の変形例2に係る掘削・撹拌具A11について、図11を参照しながら詳細に説明する。
【0132】
実施例2の本変形例2では、上下一対の掘削ビット23及び掘削ビット24を備えている。換言すれば、実施例1で用いている掘削ビット23の他に、掘削翼2の外周端である径方向の同一位置に同様の掘削ビット24を上下逆転させて設置し、後方整流体3´と一体化している。
また、本変形例2では、図11には図示していないが、実施例1の変形例である図3(b)に示す掘削・撹拌具A1´に示す掘削・撹拌具A1´のものと同様の逆流防止壁5も併せて備えていてもよい。また、同じく実施例1の変形例である図3(c)に示す掘削・撹拌具A1´´のものと同様の逆流防止壁50を併せて備えていてもよい。
【0133】
このように、本実施例の掘削・撹拌具A11では、実施例2と同様の形状を有する後方整流体や前方整流体は備えておらず、掘削ビット23及び掘削ビット24と後方整流体3´を一体化した形状とすることで、整流体の機能のみならず、掘進力の強化を図っている。
【0134】
従って、これら上下一対の掘削ビット23及び掘削ビット24が地盤を掘削することで、地盤の改良部分の円柱状の改良体の外周面と対峙する、地盤の未改良部分の内周壁面を形成するようになっている。換言すれば、上下一対の掘削ビット23,24が、実質的にこの掘削ビット23及び掘削ビット24の高さ分だけ地盤を円柱状に掘削し、これにより、地盤の円柱状の改良体との境界面となる、未改良土壌部分の内周面である壁面(内周壁面)を形成していく。
【0135】
それによって、実施例1の場合と同様、この内周壁面、掘削・撹拌軸1の下端部側の外周面、回転する掘削翼2の背面(一部、掘削翼2から突出した掘削ビット24の高さ面まで)、地盤の掘削・撹拌によって円柱状に形成されていく掘削土の最先端面B2との各面で、平面視扇形の空間が形成されるとともに、その空間の後方側が開放される。
【0136】
また、この空間は、掘削翼2の上方を乗り越える掘削土の流れに伴い後流が形成されるので、連続的な掘削翼2の回転動作に伴って、上記空間が扇形を有する負圧領域、即ち負圧空間を連続的に形成することとなる。しかも、実施例1において説明したように、扇形の負圧空間内の径方向の中心側より外周側の方が圧力が低くなる圧力分布となる。
【0137】
従って、負圧空間の径方向の中心に臨んで設けた吐出口4からの改良材は、圧力差に従い負圧空間の外周側に向けてその流れが形成されて誘導される。これにより、改良体を構成する改良土には、周辺側に至るまで斑の無い改良材散布が実現できる。さらに、この掘削ビット24は、引き抜き回転時(逆回転)には上部改良土を強制的に掘削する機能を兼用しており、引き抜き時の施工速度の向上に大いに寄与することができる。
【0138】
〔9.実施例2の変形例3〕
次に、本発明の実施例2の変形例3に係る掘削・撹拌具A12~掘削・撹拌具A15について、図12(a)~図12(d)を参照しながら詳細に説明する。なお、本変形例において、後方整流体と前方整流体とは、掘削翼2の径方向の同一地点に設置してあるが、説明を分かりやすくするため、後方整流体を省略してある。なお、この後方整流体と前方整流体とは、掘削翼2の径方向の異なる地点に設置してあってもよく、さらに前方整流体6は複数の配置でもよい。
【0139】
図12(a)に示す掘削・撹拌具A12の前方整流体6aは、図10(a)に示す前方整流体6´と類似した形状を有しているが、R状に面取りしてある頂点部分が、本変形例の方が前方寄りに偏倚し、横臥した状態を呈している。即ち、本変形例の前方整流体6aは、上辺面がほぼ水平に配置されており、掘削翼2の上方を乗り越える掘削土への抵抗が少ない。
【0140】
図12(b)に示す掘削・撹拌具A13の前方整流体6bは、異形な略台形形状を有しており、横断面略へ字形の掘削翼2´の前面の一部に亘る上面部分に設けられている。
【0141】
図12(c)に示す掘削・撹拌具A14の前方整流体6cは、掘削・撹拌軸1の外周面よりも後方にやや突出した略台形形状を有しており、図12(b)のものと同一形状を有する掘削翼2´の上面に設けられている。
【0142】
図12(d)に示す掘削・撹拌具A15の前方整流体6dは、先端部がエッジ状を有する流線形状を有しており、図12(b)及び図12(c)に示す掘削翼2´の鈍角に折曲した中間折曲部に比べ、角部を滑らかな曲面とした形状の掘削翼2´´の前面及び上面を覆うように設けられている。
【0143】
以上説明してきたように、本発明によれば、掘削翼の外周端またはその近傍に整流体を付設することで、水平方向については掘削翼の回転半径方向の外周端側と吐出口がある掘削・撹拌軸側との間で前側が閉塞されると共に、上下方向については掘削土の流れと掘削地盤面とによって閉塞されることにより、後方のみが開放された負圧状態の固有空間(後方空間)が生成される。
【0144】
換言すれば、回転する掘削翼を越えて後方へ流れ込む掘削土の後流を利用して、掘削翼の後方空間を、常に、負圧空間として形成し、維持できる。
【0145】
そして、整流体を設置する掘削翼の外周端又はその近傍は、回転移動速度(周速度)が最も速くなり、後方空間内での最大の負圧を生成・維持できる。
【0146】
その結果、後方空間内での圧力差により、後方空間内に吐出されてくる改良材を、掘削翼の外周端側へ吸引・誘導でき、改良体全域への拡散・散布が実現可能になる。特に負圧が最大となる外周端まで、改良材を満遍なく効果的に拡散させることができるようになる。
【0147】
さらに、整流体を掘削翼の外周端又はその近傍に設けることで、整流体の外面部分が、この外側の未掘削状態にある外周面地盤に対して鏝のように押し当たる状態となるので、改良体の外側の未掘削地盤から後方空間内への土砂の巻き込みを防止することができる。
【0148】
また、前方整流体を掘削翼の前面に設置する掘削・撹拌具の場合には、前方整流体が掘削土の流れを強制的に変更して阻害するように作用し、後方空間内はより負圧状態となる。したがって、整流体による後方空間の負圧域に、前方整流体による後流負圧がさらに加わり、より効果的に改良材を吸引・誘導することができる。
【0149】
また、本発明に係る掘削・撹拌具にあっては、即ち、前方整流体と整流体である後方整流体とを有する掘削・撹拌具の場合には、前方整流体と整流体である後方整流体とによって機能が合成されてあたかもバーチカル翼として機能され、改良体の外周部に存在する改良土と掘削翼の外周端部との接触面積を可及的拡大させて、同改良土の改良体内での移動を大とすることができ、改良体外周部の撹拌品質を向上させることができる。
【0150】
また、本発明に係る地盤改良の施工方法では、地盤改良の施工方法の際に、掘削翼の外周端又はその近傍に設けた整流体を備える掘削・撹拌具を用いるので、掘削回転時は、回転する掘削翼の後流を利用して、掘削翼の回転後方の後方空間が負圧空間を構成することができ、この負圧空間内に吐出された改良材を、改良体全域へ誘導することで、改良体には全域に亘り改良材が常に散布された状態を実現できる。
【0151】
また、未掘削地盤面に対する掘削抵抗が特に増大することがないので、掘削翼の毎分当たりの回転数を容易に高めることができ、より細かい密度での改良材散布が可能となり、撹拌性能を高めることができる。さらに、未掘削地盤に対する貫入速度を増大させることで、施工速度を大幅に向上させることもできる。
【0152】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、上述した実施例に限られず、上述した実施例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。また、本発明は上述の実施の形態に限定されることはなく、本発明にかかる技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。そして、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【符号の説明】
【0153】
A、A1~A15 掘削・撹拌具
B1 後方整流体(整流体)の背面
B2 掘削土の最先端面
B3 掘削・撹拌軸の下端部側の外周面
B4 後方整流体の内面
B5 背面
B6 改良体の外周面
BF 掘削土の流れ
BL 後流(伴流)
EG 最先底面
h 周回半径差
I 改良体
R 負圧空間(後方空間)
SF 改良材の流れ
1 掘削・撹拌軸
10 改良材供給路
2、2´、2´´、2a、2b、2c 掘削翼
20 (掘削翼の)本体
21 (掘削翼本体部の)下端
21a (掘削翼下端の)水平面
21b (掘削翼下端の)鉛直面
22 (掘削翼本体部の)上端
23、24 掘削ビット
3、3´、3a~3h 後方整流体(整流体)
4 吐出口
40 吐出管
5 逆流防止壁
50 逆流防止壁
6、6´、6a~6d 前方整流体
8 一体型整流体
8a 前方整流体部
8b 後方整流体部
【要約】
【課題】簡素な構造且つ安価であるにも関わらず、改良径の大きさや地盤性質に左右されることなく改良径全域に改良材を均一に散布・拡散することができ、改良材と掘削・撹拌土を均一に撹拌混錬してなる良質な改良体を造成できる掘削・撹拌具を提供する。
【解決手段】上下方向に伸延する掘削・撹拌軸と、地盤を掘削する掘削翼と、掘削翼の外周端に設けた整流体と、掘削翼の掘削回転方向後方側の、少なくとも、掘削翼の背面及び整流体の内面を含む複数の面によって区画される後方空間に向けて改良材を吐出する吐出口とを備え、吐出口から吐出された改良材を、回転する掘削翼を越えて後方へ流れ込む掘削土の後流を利用し、掘削翼の径方向全域へ誘導可能にした。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13