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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】低塩条件下での等温増幅
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20220124BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220124BHJP
【FI】
C12N15/10 Z
C12Q1/686 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2016559274
(86)(22)【出願日】2015-03-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2017-03-30
(86)【国際出願番号】 US2015021272
(87)【国際公開番号】W WO2015148218
(87)【国際公開日】2015-10-01
【審査請求日】2018-03-09
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-29
(31)【優先権主張番号】14/225,887
(32)【優先日】2014-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520481714
【氏名又は名称】グローバル・ライフ・サイエンシズ・ソリューションズ・オペレーションズ・ユーケー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ヘラー,ライアン・チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン,ジョン・リチャード
(72)【発明者】
【氏名】パテル,パレシュ・ラクバーイー
(72)【発明者】
【氏名】ウェイクフィールド,アリソン・マヴァニュイ
(72)【発明者】
【氏名】カッパー,スティーヴン・ジェームズ
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】中島 庸子
【審判官】松野 広一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/248105号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/130720号明細書
【文献】Analytical biochemistry,2006年,Vol.355,p.298-303
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N 15/00-15/90
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)標的核酸鋳型を用意するステップと;
b)前記標的核酸鋳型を、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼと、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)混合物と、3’末端および5’末端を有するプライマーと、分子クラウディング試薬と、緩衝液とを含む反応混合物と接触させるステップであって、前記緩衝液は20mMの前記反応混合物の塩濃度を維持するステップと;
c)前記標的核酸鋳型を30℃における等温増幅条件下一定反応温度で増幅するステップと
を含む、多置換増幅(multiple displacement amplification)(MDA)によって核酸を増幅する方法であって、
前記標的核酸鋳型の投入量が少なくとも5フェムトグラムであ
前記プライマーがランダムプライマーであり、および、
前記分子クラウディング試薬が、ポリエチレングリコールからなる群から選択される、方法。
【請求項2】
前記プライマーが5ヌクレオチド~9ヌクレオチドの間の長さである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細菌由来の前記標的核酸鋳型の前記投入量が少なくとも5フェムトグラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ヒト由来の前記標的核酸の前記投入量が少なくとも5ピコグラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記分子クラウディング試薬が、PEG400、PEG2000、PEG6000、PEG8000またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸鋳型を増幅するステップが高ストリンジェンシー条件下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記DNAポリメラーゼがphi29 DNAポリメラーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記プライマーがチオ化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記プライマーがヌクレオチド類似体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記プライマーが3’末端ヌクレオチドと、前記3’末端ヌクレオチドに隣接するヌクレオチドとの間のホスホロチオエート結合を含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記プライマーがヌクレオチド塩基の前にあるロックド核酸(LNA)を含む、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記プライマーの前記ヌクレオチド類似体が2-アミノ-デオキシアデノシン(2-アミノ-dA)である、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記プライマーが、プライマーダイマー形成を防ぐためのヌクレオチド類似体2-チオ-デオキシチミジン(2-チオ-dT)をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記プライマーがヘキサマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記プライマーがNNNN**Nの配列を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ヘキサマーが(atN)(atN)(atN)(atN)(atN)*N(式中、(atN)は前記ヘキサマーの5’末端ヌクレオチドであり、*Nは前記ヘキサマーの3’末端ヌクレオチドであり、「N」はデオキシアデノシン(dA)、デオキシシチジン(dC)、デオキシグアノシン(dG)またはデオキシチミジン(dT)を表し、(atN)は2-アミノ-dA、dC、dGおよび2-チオ-dTのランダム混合物を表し、「*」はホスホロチオエート結合を表す)の一般構造を有する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、低塩条件下で分子クラウディング試薬を使用して等温増幅反応を行うための方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
DNA増幅は、標的二本鎖DNA(dsDNA)を複製して複数のコピーを作製する方法である。dsDNAの個々の鎖は逆平行で、相補的であるので、各鎖がその相補鎖を産生するための鋳型鎖として働き得る。鋳型鎖は全体としてまたは切り詰められた部分として保存され、相補鎖はDNAポリメラーゼによってデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)から組み立てられる。相補鎖合成は、鋳型鎖とハイブリダイズしたプライマー配列の3’末端から始まって5’→3’方向に進行する。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、自家持続配列複製法(3SR)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、鎖置換増幅(SDA)、多置換増幅(multiple displacement amplification)(MDA)またはローリングサークル増幅(RCA)などの種々の効率的な核酸増幅技術が現在利用可能である。これらの技術の多くは、短期間に多数の増幅産物を産生する。
【0003】
全ゲノム増幅(WGA)は、標的DNAの非特異的増幅を伴う。WGAは通常、鎖置換活性を有するハイフィデリティーDNAポリメラーゼ(high fidelity DNA polymerase)(例えば、Phi29ポリメラーゼ)と一緒に標的DNAの複数の位置でDNA合成を始動するためのランダムオリゴヌクレオチドプライマー(例えば、NNNNNN)を使用するMDAによって達成される。GenomiPhi(GE Healthcare、米国)およびRepliG(Qiagen)キットなどの現在利用可能な商業的なWGAシステムは1ナノグラム以上の投入DNAで最適な結果をもたらすが、これらのシステムの性能は、標的DNAが少量しか入手可能でない場合または数個のもしくは単一の細胞からのDNAの増幅を行う場合には不十分である。
【0004】
これらの進歩にもかかわらず、配列包括度に関して偏りが小さく、低レベルの非特異的な背景増幅をもたらすより効率的な全ゲノム核酸増幅法を開発することが依然として必要とされている。従来の方法を用いた微量の標的DNAの増幅は通常、配列包括度の「ドロップアウト」およびDNA配列が不均一に増幅される増幅偏りを残すDNA配列の不完全な増幅をもたらす。さらに、増幅反応の産物(アンプリコン)は通常、自身の間でアニーリングし、望ましくないキメラ産物の産生をもたらし得る。そのため、微量の標的DNAを非特異的に増幅するための効率的な方法が大いに望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2013/0210078号明細書
【発明の概要】
【0006】
いくつかの実施形態では、標的核酸を増幅してアンプリコンを産生するための低塩条件下で分子クラウディング試薬および融解温度が低いプライマーを利用する核酸増幅法が提供される。
【0007】
いくつかの実施形態では、標的DNAに基づいて少なくとも1個のアンプリコンを産生する等温増幅法が提供される。この方法は、標的核酸鋳型を用意するステップと、標的核酸鋳型を、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼと、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)混合物と、3’末端および5’末端を有するプライマーと、分子クラウディング試薬と、緩衝液とを含む反応混合物と接触させるステップとを含み、緩衝液は10~30mMの間の反応混合物の塩濃度を維持する。増幅は一定反応温度の等温条件下で行われ、塩濃度は反応温度より少なくとも10℃低いプライマーの融解温度(T)を最適化する。
【0008】
いくつかの実施形態では、標的DNAに基づいて少なくとも1個のアンプリコンを産生する等温増幅法が提供される。この方法は、標的核酸鋳型を用意するステップと;標的核酸鋳型を、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼと、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)混合物と、3’末端および5’末端を有するプライマーと、分子クラウディング試薬としてのポリエチレングリコールと、緩衝液とを含む反応混合物と接触させるステップとを含み、緩衝液は15mMの反応混合物の塩濃度を維持する。増幅は30℃の一定反応温度の等温条件下で行われ、塩濃度は反応温度より少なくとも10℃低いプライマーの融解温度(T)を最適化する。
【0009】
いくつかの実施形態では、等温DNA増幅用のキットが提供される。このキットは、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼと、分子クラウディング試薬と;増幅中に10mM~20mMの間の最終塩濃度を提供する緩衝液とを含む。
【0010】
本発明のこれらのおよび他の特徴、態様ならびに利点は、付随する図面を参照して以下の詳細な説明を読めばより良く理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】低塩および分子クラウディング試薬の非存在下でのMDA反応の速度論を示す図である。
図1B】低塩の存在下で、分子クラウディング試薬を用いないMDA反応の速度論を示す図である。
図1C】分子クラウディング試薬および低塩条件が単一細胞からのMDA反応の速度論および感度を増加させる有効性を示す図である。
図2】背景の非特異的増幅を減少させて、全読みのより大きな割合が標的ゲノムにマッピングされることを可能にすることにおける分子クラウディング試薬および低塩条件の有効性を示す図である。
図3】分子クラウディング試薬および低塩条件が、深度の異なる全ゲノム配列包括度と単一細胞から開始されるDNA増幅反応の増幅バランスを増加させる有効性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
請求される発明の主題をより明確かつ簡潔に記載および指摘するために、以下の説明および添付の特許請求の範囲で使用される具体的な用語について以下の定義を提供する。
【0013】
本明細書で使用する場合、「標的DNA」という用語は、DNA増幅反応で増幅することが望まれる天然または合成起源のDNA配列を指す。標的DNAは、DNA増幅反応で鋳型として作用する。標的DNAの一部または標的DNAの全体領域のいずれもDNA増幅反応でDNAポリメラーゼによって増幅されて増幅産物またはアンプリコンを産生し得る。アンプリコンは、標的DNAの複数のコピーまたは標的DNAと相補的な配列の複数のコピーを含み得る。標的DNAはインビボまたはインビトロで生物試料から得ることができる。例えば、標的DNAは、体液(例えば、血液、血漿、血清もしくは尿)、臓器、組織、細胞、臓器もしくは組織の断面部分、生物学的対象から単離した細胞(例えば、疾患細胞を含有する領域もしくは循環腫瘍細胞)、法医学的試料または古代試料から得ることができる。標的DNAを含有する、または含有することが疑われる生物試料は、真核生物起源、原核生物起源、ウイルス起源またはバクテリオファージ起源のものであり得る。例えば、標的DNAを昆虫、原虫、鳥、魚、爬虫類、哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウシ、イヌ、モルモットもしくはウサギ)、または霊長類(例えば、チンパンジーもしくはヒト)から得ることができる。標的DNAが、逆転写酵素を用いてRNA鋳型(例えば、mRNA、リボゾームRNA)から産生される相補DNA(cDNA)であってもよい。ライゲーション反応、PCR反応または合成DNAなどの別の反応によって産生されるDNA産物も適当な標的DNAとして働き得る。標的DNAを溶液に分散してもよいし、または固体支持体、例えば、ブロット、アレイ、スライドガラス、マイクロタイタープレート、ビーズもしくはELISAプレートに固定してもよい。
【0014】
本明細書で使用する場合、「オリゴヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドのオリゴマーを指す。ヌクレオチドは、そのヌクレオシドに対応するアルファベット文字を用いて文字指定によって表され得る。例えば、Aはアデノシンを表し、Cはシチジンを表し、Gはグアノシンを表し、Uはウリジンを表し、Tはチミジン(5-メチルウリジン)を表す。WはAまたはT/Uのいずれかを表し、SはGまたはCのいずれかを表す。Nはランダムヌクレオシドを表し、A、C、GまたはT/Uのいずれかであり得る。文字指定の前の星()記号は、文字によって示されるヌクレオチドがホスホロチオエート修飾されたヌクレオチドであることを表す。例えば、Nはホスホロチオエート修飾されたランダムヌクレオチドを表す。文字指定の前のプラス(+)記号は、文字によって示されるヌクレオチドがロックド核酸(LNA)ヌクレオチドであることを表す。例えば、+AはアデノシンLNAヌクレオチドを表し、+Nはロックドランダムヌクレオチドを表す。オリゴヌクレオチドはDNAオリゴヌクレオチド、RNAオリゴヌクレオチドまたはDNA-RNAキメラ配列であり得る。オリゴヌクレオチドを文字の配列によって表す場合はいつでも、ヌクレオチドは左から右に5’→3’順序である。例えば、文字配列(W)(N)(S)(式中、x=2、y=3およびz=1である)によって表されるオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド配列WWNNNS(式中、Wは5’末端ヌクレオチドであり、Sは3’末端ヌクレオチドである)を表す(「末端ヌクレオチド」はオリゴヌクレオチド配列の末端位に位置するヌクレオチドを指す。3’末端位に位置する末端ヌクレオチドは3’末端ヌクレオチドと呼ばれ、5’末端位に位置する末端ヌクレオチドは5’末端ヌクレオチドと呼ばれる)。
【0015】
本明細書で使用する場合、「ヌクレオチド類似体」という用語は、天然ヌクレオチドと構造的に類似している化合物を指す。ヌクレオチド類似体は、変化したリン酸骨格、糖部分、核酸塩基、またはこれらの組み合わせを有し得る。ヌクレオチド類似体は、合成ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド、または代替置換部分(例えば、イノシン)であり得る。一般的に、中でも、核酸塩基が変化したヌクレオチド類似体は、異なる塩基対形成および塩基スタッキング特性を与える。
【0016】
本明細書で使用する場合、「プライマー」または「プライマー配列」という用語は、標的DNA鋳型とハイブリダイズして標的DNA:プライマーハイブリッドを産生し、DNA合成反応を刺激する直鎖オリゴヌクレオチドを指す。プライマーの長さの上限と下限の両方は経験的に決定される。プライマー長の下限は、核酸増幅反応条件下で標的核酸とハイブリダイゼーションして安定な二本鎖を形成するために要求される最小の長さである。極めて短いプライマー(通常、3ヌクレオチド長未満)は、このようなハイブリダイゼーション条件下で標的核酸と熱力学的に安定な二本鎖を形成しない。上限は通常、標的核酸の所定の核酸配列以外の領域で二本鎖形成を有する可能性によって決定される。一般的に、適当なプライマー長は約3ヌクレオチド長~約40ヌクレオチド長の範囲にある。プライマーはRNAオリゴヌクレオチド、DNAオリゴヌクレオチドまたはキメラ配列であり得る。
【0017】
本明細書で使用する場合、「ランダムオリゴヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドを、オリゴヌクレオチド配列の任意の所与の位置で、所与の位置が考えられるヌクレオチドまたはその類似体のいずれかからなり得るようにランダム化する(完全ランダム化)ことによって産生されるオリゴヌクレオチド配列の混合物を指す。ランダムプライマーとして使用される場合のランダムオリゴヌクレオチドは、配列中のヌクレオチドの全ての可能な組み合わせからなる、オリゴヌクレオチド配列のランダム混合物を表す。例えば、ヘキサマーランダムプライマーは、配列NNNNNNまたは(N)によって表され得る。ヘキサマーランダムDNAプライマーは4つのDNAヌクレオチド、A、C、GおよびTの全ての可能なヘキサマー組み合わせからなり、4(4096)種の特有のDNAオリゴヌクレオチド配列を含むランダム混合物をもたらす。ランダムプライマーは、標的核酸の配列が未知である場合、または全ゲノム増幅反応のために核酸合成反応を刺激するために有効に使用され得る。
【0018】
本明細書で記載する場合、「部分的に限定されたオリゴヌクレオチド」は、オリゴヌクレオチド配列のヌクレオチドのいくつかを完全にランダム化する(例えば、ヌクレオチドはA、T/U、C、Gまたはこれらの類似体のいずれかであり得る)が、他のいくつかのヌクレオチドの完全なランダム化を制限する(例えば、一定の位置のヌクレオチドのランダム化は、可能な組み合わせA、T/U、C、Gまたはこれらの類似体より少ない)ことによって産生されるオリゴヌクレオチド配列の混合物を指す。部分的に限定されたオリゴヌクレオチドはプライマー配列として使用され得る。例えば、WNNNNNによって表される部分的に限定されたDNAヘキサマープライマーは、混合物中の全ての配列の5’末端ヌクレオチドがAまたはTのいずれかであるプライマー配列の混合物を表す。ここでは、5’末端ヌクレオチドが、完全ランダムDNAプライマー(NNNNNN)の最大4つの可能な組み合わせ(A、T、GまたはC)と対照的に、2つの可能な組み合わせ(AまたはT)に限定される。部分的に限定されたプライマーの適当なプライマー長は約3ヌクレオチド長~約15ヌクレオチド長の範囲にあり得る。
【0019】
本明細書で使用する場合、dNTP混合物は混合デオキシリボヌクレオシド三リン酸(NはA、C、GまたはT/Uのいずれかを含むランダムヌクレオチドである)を指す。
【0020】
本明細書で使用する場合、「鎖置換核酸ポリメラーゼ」または「鎖置換活性を有するポリメラーゼ」という用語は、その核酸合成活性とは別に鎖置換活性を有する核酸ポリメラーゼを指す。鎖置換核酸ポリメラーゼは、鋳型鎖を解読しながら、鋳型鎖とアニーリングする相補鎖に置換することによって、核酸鋳型鎖の配列に基づいて核酸合成を続けることができる。
【0021】
本明細書で使用する場合、多置換増幅(MDA)は、増幅が、プライマーを変性核酸にアニーリングし、引き続いて、継続する合成を遮断する下流二本鎖DNA領域がこれらの領域を通した鎖置換核酸合成によって破壊されるDNA合成のステップを含む、核酸増幅法を指す。核酸が鎖置換によって合成されるにつれて、一本鎖DNAが鎖置換によって産生され、結果として、徐々に増加する数のプライミングイベントが起こり、高度に分岐した核酸構造のネットワークを形成する。MDAは、配列偏りが限定された、少量のゲノムDNA試料から高分子量DNAを産生するための全ゲノム増幅に極めて有用である。その核酸合成活性とは別に鎖置換活性を有する任意の鎖置換核酸ポリメラーゼ(例えば、Phi29 DNAポリメラーゼまたはBst DNAポリメラーゼの大きなフラグメント)がMDAに使用され得る。MDAは通常、配列偏りが限定された増幅を達成するために、ランダムプライマーを用いて、等温反応条件で行われる。
【0022】
本明細書で使用する場合、「ローリングサークル増幅(RCA)」という用語は、ローリングサークル機構を介して環状核酸鋳型(例えば、一本鎖DNAサークル)を増幅する核酸増幅反応を指す。RCAは、プライマーと、環状の、通常は一本鎖の核酸鋳型のハイブリダイゼーションによって開始される。次いで、核酸ポリメラーゼが、環状核酸鋳型の周りで連続的に進行することによって何度も何度も核酸鋳型の配列を複製する(ローリングサークル機構)ことによって、環状核酸鋳型とハイブリダイズしたプライマーを伸長する。RCAは、典型的には環状核酸鋳型配列相補体のタンデム反復単位を含むコンカテマーを産生する。
【0023】
本明細書で使用する場合、「分子クラウディング試薬」という用語は、溶液中の他の分子の特性を変化させる試薬または分子を指す。分子クラウディング試薬の例としては、それだけに限らないが、デキストランまたはポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。一般的に、分子クラウディング試薬は高分子量、または他の分子を含む溶液中で混雑した環境を作り出すかさ高い構造を有する。分子クラウディング試薬は、溶液中の他の分子が利用可能な溶媒の体積を減少させ、分子の混雑をもたらす。いくつかの実施形態では、高濃度の分子量が6000Daのポリエチレングリコール(PEG6000)が、他の分子を含む溶液の体積の大部分を占める。例えば、PEG6000が他の反応物質を含む反応混合物中に存在し、PEG分子が反応混合物の溶媒の大部分を占める。分子の混雑は、反応の速度または平衡定数を変化させ得る。プライマー-鋳型DNA二本鎖の融解温度(T)が低塩濃度の存在下で低下するいくつかの実施形態では、その融解温度が、分子クラウディング試薬を増幅反応混合物に添加すると上昇する。
【0024】
本明細書で使用する場合、「反応温度」という用語は、増幅反応中に維持する温度を指す。本発明の実施形態は、反応温度が一定である等温増幅反応を含む。等温増幅反応全体が、GenomiPhiを用いた等温増幅反応のための反応温度が約30℃となるような反応温度下で行われる。反応温度は、それだけに限らないが、異なるポリメラーゼの使用、プライマーまたは鋳型の大きさ、追加の塩または安定化剤の使用を含む種々の条件で変化する。
【0025】
本明細書で使用する場合、「融解温度」(T)という用語は、プライマー-鋳型核酸二本鎖の半分が解離して一本鎖オリゴマーまたは核酸、例えば、DNAを産生する温度を指す。プライマー-鋳型DNA二本鎖の安定性は、そのTによって測定することができる。プライマー長および配列は、効果的な増幅のパラメータを設計するのに重要である。核酸二本鎖の融解温度は、その長さおよびGC含量増加と共に上昇する。Mg2+、Kおよび溶媒の濃度がプライマーのTに影響を及ぼす。一例では、Tが、85mM K/NaおよびGenomiPhi V2(商標)の存在下で15.8~27.8℃の範囲にある(プライマー配列はNNNNNNである)。別の例では、Tが19mM K/Naの存在下で単一細胞GenomiPhi(商標)について5~17℃の範囲にある(プライマー配列はNNNNNNである)。
【0026】
本明細書で記載される方法およびキットは、他の核酸増幅法で観察される非標的核酸の非特異的増幅(例えば、プライマーダイマー、キメラ核酸産物等)を減少させるという追加の利点を有しながら、標的核酸を効率的に増幅することを意図している。特定の作用機序に限定されることを意図していないが、開示される方法は、分子クラウディング試薬、低塩条件を使用し、等温条件下で核酸を増幅することによって、これらの目的を達成している。
【0027】
方法の1つまたは複数の実施形態は、標的核酸鋳型を用意するステップと、標的核酸鋳型を反応混合物と接触させるステップと、等温増幅条件下、一定反応温度で標的核酸鋳型を増幅するステップとを含む。これらの実施形態では、反応混合物が鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼと、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)混合物と、3’末端および5’末端を有するプライマーと、分子クラウディング試薬と、緩衝液とを含み、緩衝液が10~30mMの間の反応混合物の塩濃度を維持し、反応混合物の塩濃度が反応温度より少なくとも10℃低いプライマーの融解温度(T)をもたらす。注記したように、反応温度は、等温反応中に一定に維持される単一温度を指す。
【0028】
注記したように、反応混合物の塩濃度は、プライマー-標的核酸二本鎖の融解温度(T)に影響を及ぼし、得られる融解温度は反応温度より低くなる。1つまたは複数の実施形態では、プライマー-標的核酸二本鎖の融解温度が、増幅反応の低塩条件の存在下で低下する。1つまたは複数の実施形態では、核酸-プライマーハイブリッドのワトソン-クリック塩基対形成の安定性が低塩条件下で減少し得るので、オリゴヌクレオチドプライマーの二本鎖融解温度(T)がその条件下で8~10℃低くなる。1つまたは複数の例では、反応速度が、PEGの非存在下の同じ反応の反応速度と比べて、低塩濃度下、増幅反応混合物中のPEGの存在下で増加する。実験観察によって、増幅反応が塩濃度低下、例えば、10~15mMの間で極めて遅い反応速度論を有するという事実が確立された。増幅反応の反応速度は、同じ低塩条件下で、分子クラウディング試薬、例えば、PEGを添加すると改善する。プライマー(オリゴマー)の融解温度は低塩濃度で低下し、これにより反応速度論も低下し、増幅反応の速度論は分子クラウディング試薬を添加することによってさらに増加する。プライマーの融解温度はこの低塩条件下で低いので、二本鎖のTより高い反応温度は、プライマー-鋳型二本鎖の不安定化を引き起こし、二本鎖を融解し得る。しかしながら、予想外に、分子クラウディング試薬、例えば、PEGを添加すると、反応速度の増加が観察され、増幅反応が他の従来の増幅反応のように進行し、そのため、プライマー-鋳型二本鎖が比較的高温で安定化する。例えば、プライマー-鋳型二本鎖の融解温度が15℃である場合でさえ、二本鎖は、低塩条件下、分子クラウディング試薬の存在下、30℃で安定化する。同じプライマー-鋳型二本鎖の融解温度は低塩条件下で低下し、これは8~10℃低下し得る。いくつかの実施形態では、二本鎖のT低下が、増幅反応を伝統的な増幅反応で使用される温度より低い温度で行うことを要求する。
【0029】
注記したように、方法は、標的核酸鋳型を、分子クラウディング試薬を含む反応混合物と接触させるステップを含む。分子クラウディング試薬は、ストリンジェントな条件下で増幅反応の速度および効率を増加させるのに役立つ。分子クラウディング試薬は反応の速度を増加させ得る。いくつかの実施形態では、低塩濃度がTを、Tが反応温度より少なくとも10℃低くなるよう最適化し、分子クラウディング試薬の存在によって反応速度が増加した所望の偏りのない増幅産物が得られる。
【0030】
プライマー-鋳型二本鎖の融解温度は、種々の標準的な方法を用いて計算することができる。本方法の融解温度は下記の方法を用いて計算される。計算は融解温度の単なる推定であり、洗剤、塩濃度、対イオンまたは溶媒を含む異なる因子が融解温度に影響を及ぼし得る。Tは低塩条件を用いることによって修正されるので、いくつかの実施形態では、Tが本明細書において塩調整融解温度(T)を指し得る。Tを決定するための2つの標準的な近似計算への変形が使用される。14ヌクレオチド未満の配列については、塩濃度調整をして、基本的な計算と同じ式が使用される:
=(wA+xT)2+(yG+zC)4-16.6log10(0.050)+16.6log10([Na])
(式中、w、x、yおよびzはそれぞれオリゴヌクレオチド配列中の塩基A、T、G、Cの数である)。16.6log10([Na])という用語は、塩濃度の変化のためにTを調整し、log10(0.050)という用語は50m Naで塩調整をするために調整する。反応混合物が、オリゴヌクレオチドのTに影響を及ぼし得る1種または複数の一価および二価塩を含有してもよい。ナトリウムイオンはDNA鎖との間で塩架橋を形成するのにはるかに有効であるので、二本鎖DNAを安定化するのに有意な効果を有する。融解温度(Tm)計算は、アニーリングが、0.01~1.0Mの間の濃度の一価カチオン(Na+またはK+のいずれか)の存在下、pH7.0で、50mMプライマーの標準条件下で起こり、非対称配列が少なくとも8塩基長であり、少なくとも1個のGまたはCを含有すると仮定する。(Nakano et al,(1999)Proc.Nucleic Acids Res.27:2957-65およびhttp://www.basic.northwestern.edu/biotools/oligocalc.html参照)。
【0031】
MDAを用いた増幅の速度論は、分子クラウディング試薬を反応混合物に組み込むことによって増加する。分子の混雑は、核酸の構造、安定性および機能を決定する因子である。いくつかの実施形態では、DNA二本鎖の構造および安定性が分子クラウディング試薬によって影響される。分子クラウディング試薬は、核酸構造中の塩基対形成または水素結合のパターンに依存し得る核酸構造に影響を及ぼし得る。分子クラウディング試薬の異なる大きさはDNA二本鎖の安定化に異なる効果を有し、DNA二本鎖の長さも安定性に寄与する。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)は種々の分子量を有し、DNA二本鎖の安定性に異なる効果を有する分子クラウディング試薬である。いくつかの実施形態では、増幅反応速度が、低塩条件の存在下でPEGを添加すると増加する。
【0032】
1つまたは複数の実施形態では、増幅反応で使用される分子クラウディング試薬が、ポリエチレングリコール、Ficoll(商標)、トレハロースおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。一実施形態では、分子クラウディング試薬がポリエチレングリコールを含む。分子クラウディング試薬は、PEG2000、PEG6000、PEG8000およびこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。いくつかの実施形態では、増幅反応が、標準的な増幅条件、例えば、GenomiPhi(商標)条件と比べて増幅速度を増加させる2.5%のPEG-8000を使用する。
【0033】
核酸増幅反応の1つまたは複数の実施形態では、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件を使用して不要な増幅産物および人工物を減らすことができる。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、核酸増幅反応に一般的に使用される条件によって提供されるストリンジェンシーよりも高いストリンジェンシーをオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションイベントに与える反応条件を指す。典型的には、オリゴヌクレオチドプライマーのTが増幅に使用される反応温度の10℃以内となる核酸増幅反応を行う。これにより、オリゴヌクレオチドプライマーが鋳型に安定に結合することが可能になる。高ストリンジェンシー条件下では、使用されるオリゴヌクレオチドプライマーのTが、反応温度より10℃低い温度よりも高い。これにより、プライマーと鋳型の安定な結合が妨げられ得るので、典型的には増幅反応に使用されない。例えば、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、反応温度を上昇させることによって、または塩濃度を低下させることによって、核酸増幅反応で達成され得る。図1A図1B図1C図2および図3に示されるように、低塩(約15mM)と分子クラウディング試薬(例えば、2.5%のPEG-8000)の使用の組み合わせによって、反応速度論増加およびより均一な増幅配列の包括度が得られた。
【0034】
注記したように、方法は、標的核酸鋳型を、緩衝液を含む反応混合物と接触させるステップを含む。増幅反応に使用される緩衝液は、1~75mMの塩濃度を有し得る。いくつかの実施形態では、塩濃度が1~35mMの間である。いくつかの実施形態では、緩衝液が10~30mMの間の反応混合物の塩濃度を維持する。一実施形態では、反応混合物の塩濃度が約20mMで維持される。いくつかの他の実施形態では、増幅反応が、従来の増幅法と比べて低い塩濃度下で行われる。例えば、伝統的な増幅反応で使用される75mM KClと対照的に、15mM KClが増幅に使用される。ランダムヘキサマーを利用する核酸増幅反応は通常、約75mM塩濃度および30℃で行われ、この方法の実施形態は、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件である約15mM塩濃度および30℃での核酸増幅反応のステップを含む。分子クラウディング剤の存在下、低塩濃度下での増幅反応は、微量の核酸試料から増幅する場合に反応の速度および感度を改善する。
【0035】
いくつかの実施形態では、二本鎖融解温度(T)が低塩濃度下で約5~10℃低下するが、よりストリンジェントな条件、例えば、高温で増幅反応を行うことを可能にする分子クラウディング剤が添加される。塩濃度を、プライマーの長さならびにプライマーのヌクレオチドの構成成分に応じて変化させて融解温度低下を得ることができる。本方法に使用される塩は一価塩、例えば、ナトリウムまたはカリウムであり得る。
【0036】
本方法の実施形態では、75mM塩濃度で得られるプライマー-鋳型二本鎖の融解温度が15~27℃の範囲にあり、反応がランダムヘキサマープライマーの存在下および分子クラウディング剤の非存在下、30℃で行われる。反応条件をランダムヘキサマープライマーの存在下および分子クラウディング剤の非存在下、30℃反応温度で15mM塩濃度に修正すると、得られるプライマー-鋳型二本鎖の融解温度は3~15℃の範囲になり、これは反応温度よりも15℃超低い。この15mM塩濃度条件下で、反応速度論はかなり遅いと予想される。しかしながら、予想外に、反応速度は、同じ条件下でPEGの非存在下の反応速度と比べて、ランダムヘキサマープライマーの存在下、15mM塩濃度、30℃反応温度下、PEGの存在下で増加し、これはより優れたプライマー-鋳型ハイブリダイゼーションがPEGの存在下で起こるという事実によって引き起こされ得る。より優れた反応速度論に加えて、分子クラウディング試薬(PEG)はまた、より優れた代表的な増幅産物の産生ももたらす。
【0037】
注記したように、いくつかの実施形態では、等温増幅法が標的DNAを用意するステップを含む。標的核酸の十分な品質が、増幅反応が配列の正確な均一に増幅した核酸を産生するための主要な要件の1つである。標準的なGenomiPhi(商標)反応条件下では、約1~10ng超の量の標的核酸が偏りのない増幅産物を産生する一方で、投入標的核酸量が少ないとより偏った増幅がゲノム全体を通して起こる。少量の標的核酸を用いると、ゲノムの一定の領域が低下した効率で増幅され、ゲノムの領域のいくつかが増加した効率で増幅され、不均一な増幅産物をもたらす。ドロップアウトおよび高レベルの増幅偏りまたは増幅産物中の欠損配列は、本方法の本実施形態で少量の投入標的核酸、例えば、フェムトグラムレベルの投入標的核酸を用いるにもかかわらず、減少する。本方法の1つまたは複数の実施形態は、特に増幅反応を開始するための限られた量の核酸を含有する単一細胞からDNAを増幅しようとする場合に、欠陥のあるアンプリコンを形成する可能性を低下させる。例えば、ヒト細胞は約6.6pgのDNAを含有し、細菌細胞は約5fgのDNAを含有している。単一微生物細胞から入手可能であり得る約5fgの標的核酸を用いた後でさえ、核酸を増幅させる本方法は、不正確な配列も増幅偏りも低レベルであるアンプリコンをもたらす。1つまたは複数の実施形態では、少なくとも約5fgの標的核酸鋳型または本質的に1つの微生物ゲノムが用意される。いくつかの例では、少なくとも約5fgの細菌標的核酸が入手可能である単一細菌細胞からの増幅が、標準的な増幅法と比べて、低塩の条件および分子クラウディング試薬の存在下でより高レベルの標的配列およびより代表的な増幅産物をもたらす。いくつかの他の実施形態では、少なくとも約6.6pgのヒト標的核酸が入手可能である単一ヒト細胞からの増幅が、同じ低塩および分子クラウディング試薬条件下でより完全で代表的な増幅産物をもたらす。これらの実施形態では、増幅速度も標準的な増幅条件と比べて増加する。
【0038】
標的DNAは直鎖鋳型、ニックの入った鋳型または環状鋳型であり得る。これは天然DNAであっても合成DNAであってもよい。標的DNAはcDNAであってもゲノムDNAであってもよい。DNA鋳型は合成鋳型(例えば、直鎖もしくは酵素/化学反応によって環状化されたニックDNA)であっても、またはプラスミドDNAであってもよい。
【0039】
注記したように、増幅法に使用されるプライマーは低い融解温度を有する。DNA合成を刺激するために、増幅反応は通常、配列5’-NNNNN(「N」はデオキシアデノシン(dA)、デオキシシチジン(dC)、デオキシグアノシン(dG)またはデオキシチミジン(dT)を表し、「」はホスホロチオエート結合を表す)を有するランダムヘキサマーを利用する。
【0040】
1つまたは複数の実施形態では、プライマーが特異的プライマー配列、ランダムプライマー配列または部分的に限定されたランダムプライマー配列であり得る。特異的プライマー配列は、ワトソン-クリック塩基対で、標的DNA鋳型中に存在する特定の配列と相補的である。特異的オリゴヌクレオチド配列は、例えば、混合物中のミトコンドリアDNA、混合物中の一定のプラスミドまたは一定のゲノム領域を特異的に増幅するために、プライマーに使用され得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、プライマーのオリゴヌクレオチド配列がランダムプライマー配列である。いくつかの実施形態では、プライマーの長さが5~9ヌクレオチド長の間である。一実施形態では、プライマー長が6ヌクレオチド(ヘキサマー)である。例えば、プライマーがランダムヘキサマー配列であってもよい。15mM塩、30℃反応温度の条件下でランダムヘキサマープライマーを使用する増幅反応の実施形態では、プライマー-鋳型二本鎖の融解温度が反応温度より少なくとも10℃低く低下する。
【0042】
さらに、ランダム配列が1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含んでもよく、1つまたは複数のホスホロチオエート結合を含んでもよい。例えば、プライマーはNN(N)NN(mの整数値は0~36に及ぶ)であり得る。いくつかの実施形態では、mの整数値が0~20に及び得る。いくつかの他の実施形態では、mの整数値が0~10に及び得る。いくつかの例実施形態では、オリゴヌクレオチド配列がランダムテトラマー、ランダムペンタマー、ランダムヘキサマー、ランダムヘプタマーまたはランダムオクタマーであり得る。プライマーが天然、合成もしくは修飾ヌクレオチド、またはヌクレオチド類似体を含んでもよい。DNA合成を刺激するために、増幅反応はしばしば、配列5’-NNNNNN(「N」はデオキシアデノシン(dA)、デオキシシチジン(dC)、デオキシグアノシン(dG)またはデオキシチミジン(dT)を表し、「」はホスホロチオエート結合を表す)を有するランダムヘキサマーを利用する。いくつかの実施形態では、プライマーが、非標的核酸(すなわち、鋳型DNA)増幅との競合を最小化して、互いにアニーリングする能力を妨げるようにオリゴヌクレオチドプライマーを修飾するように修飾される。
【0043】
分子内または分子間ハイブリダイゼーションを介してクロスハイブリダイズすることができない限定されたランダム化ヘキサマープライマー(例えば、R6、ここでR=A/G)が、核酸増幅中にプライマーダイマー構造形成を抑制するために使用されてきた。しかしながら、これらの限定されたランダム化プライマーは、核酸増幅反応でかなりの偏りを与える。このようなプライマーはまた、配列非特異的または配列非偏り核酸増幅反応(例えば、全ゲノムまたは未知の核酸配列増幅)に使用が限られる。
【0044】
いくつかの実施形態では、プライマーが、プライマー(例えば、ペプチド核酸もしくはPNA)、ロックド核酸(LNA)に安定性および/または他の利点(例えば、二次構造形成)を与える合成骨格またはヌクレオチド類似体を含んでもよいし、または修飾糖部分(例えば、キシロース核酸もしくはその類似体)を含んでもよい。
【0045】
いくつかの実施形態では、プライマーが1つまたは複数のLNAヌクレオチドを含む。増幅反応、例えば、MDAの速度および感度は、LNAを用いて微量の核酸試料からオリゴヌクレオチドプライマーに増幅する場合に改善され得る。LNAは、塩基対形成の速度、効率および安定性を増加させるのに役立ち、それによって、修飾オリゴヌクレオチドと対象となる核酸中の標的配列のハイブリダイゼーションを促進するクラスの立体配座的に制限されたヌクレオチド類似体である。LNAヌクレオチドは、リボ核酸模倣糖立体配座に閉じ込められたニ環式フラノース糖を含有する。デオキシリボヌクレオチド(またはリボヌクレオチド)からLNAヌクレオチドへの構造変化は、化学的観点、例えば、2’位の炭素原子と4’位の炭素原子との間の追加の結合(例えば、2’-C,4’-C-オキシメチレン結合)の導入から限定され得る。LNAヌクレオチドのフラノース単位の2’位と4’位は、O-メチレン(例えば、オキシ-LNA:2’-O,4’-C-メチレン-β-D-リボフラノシルヌクレオチド)、S-メチレン(チオ-LNA)またはNH-メチレン部分(アミノ-LNA)などによって連結され得る。このような結合がフラノース環の立体配座の自由を制限する。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のLNAオリゴヌクレオチドを含むプライマーが、相補的一本鎖RNA、一本鎖DNAまたは二本鎖DNAに対する増加したハイブリダイゼーション親和性を示す。さらに、LNAのオリゴヌクレオチドへの包含は、A型(RNA様)二本鎖立体配座を誘導し得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、核酸増幅が一般的構造5’-+W+WNNNS-3’(「+」はロックド核酸塩基の前にあり(すなわち、「LNA塩基」;例えば、+A=アデノシンLNA分子)、「W」はdAとdTのみの混合物を表し、「S」はdCとdGのみの混合物を表す)のランダムヘキサマープライマーを使用する。「」は2つのヌクレオチドの間のホスホロチオエート結合を表す。「W」塩基は「S」塩基と安定に対形成することができないので、オリゴヌクレオチド二本鎖の形成が阻害され、非鋳型核酸の増幅減少につながる。
【0047】
いくつかの実施形態では、DNA増幅反応に使用されるプライマーが、ヌクレアーゼ、例えば、エキソヌクレアーゼに耐性であり得る。例えば、プライマーは、プライマーをエキソヌクレアーゼ耐性にする1つまたは複数の修飾リン酸結合(例えば、ホスホロチオエート結合)を含み得る。いくつかの実施形態では、プライマーがエキソヌクレアーゼ耐性ランダムオリゴヌクレオチド配列を含む。例えば、プライマーは、NNNNNNまたはNNNNNなどのランダム配列を有し得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、プライマーが部分的に限定されたプライマー配列である。末端ヌクレオチドでのみランダム化が制限された部分的に限定されたプライマー配列の非限定的な例としては、それだけに限らないが、W(N)S、S(N)W、D(N)G、G(N)D、C(N)AまたはA(N)Cが挙げられる。yの整数値は2~13の範囲にあり得る。いくつかの実施形態では、yの値が2、3、4または5であり得る。いくつかの実施形態では、部分的に限定されたプライマー配列、(W)(N)(S)(式中、x、yおよびzは互いに独立した整数値であり、xの値は2または3であり、yの値は2、3、4または5であり、zの値は1または2である)。部分的に限定されたプライマー配列は1つまたは複数のヌクレオチド類似体を含み得る。いくつかの実施形態では、部分的に限定されたプライマー配列が末端ミスマッチプライマーダイマー構造を有し得る。例えば、WはSと塩基対形成することができないので、いかなる凹んだ末端も有さないプライマーダイマー構造が分子間ハイブリダイゼーションによって形成される場合、両方の3’末端ヌクレオチドで末端ミスマッチが存在する。いくつかの実施形態では、プライマー配列が、修飾ヌクレオチドを含み、末端ミスマッチプライマーダイマー構造を有するヌクレアーゼ耐性の部分的に限定された配列である。
【0049】
いくつかの実施形態では、標的DNAに基づいて少なくとも1つのアンプリコンを産生する方法が、標的DNAを用意するステップと、少なくともプライマーを標的DNAとアニーリングして標的DNA:プライマーハイブリッドを産生するステップと、等温核酸増幅反応を介してプライマーを伸長して、標的DNAの少なくとも一部分と相補的な少なくとも1つのアンプリコンを産生するステップとを含む。
【0050】
等温増幅法に使用される核酸ポリメラーゼは、プルーフリーティング核酸ポリメラーゼであっても非プルーフリーディング核酸ポリメラーゼであってもよい。核酸ポリメラーゼは好熱性核酸ポリメラーゼであっても中温性核酸ポリメラーゼであってもよい。本方法に使用するのに適したDNAポリメラーゼの例としては、それだけに限らないが、Phi29 DNAポリメラーゼ、ハイフィデリティー融合DNAポリメラーゼ(例えば、処理能力強化ドメインを有するパイロコッカス(Pyrococcus)様酵素、New England Biolabs、MA)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)からのPfu DNAポリメラーゼ(Strategene、Lajolla、CA)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)からのBst DNAポリメラーゼ(New England Biolabs、MA)、T7 DNAポリメラーゼのSequenase(商標)変異形、エキソ(-)Vent(商標)DNAポリメラーゼ(New England Biolabs、MA)、大腸菌のDNAポリメラーゼIからのKlenowフラグメント、T7 DNAポリメラーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、パイロコッカス種GB-DからのDNAポリメラーゼ(New England Biolabs、MA)またはサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralisからのDNAポリメラーゼ(New England Biolabs、MA)が挙げられる。
【0051】
いくつかの実施形態では、等温増幅に使用される核酸ポリメラーゼが鎖置換核酸ポリメラーゼである。本方法は、高度に加工性の鎖置換ポリメラーゼを使用してハイフィデリティー塩基取り込みのための条件下で標的DNAを増幅することができる。ハイフィデリティーDNAポリメラーゼは、適当な条件下で、一般的に使用される耐熱性PCRポリメラーゼ、例えば、Vent DNAポリメラーゼまたはT7 DNAポリメラーゼに関連するもの(約1.5×10-5~約5.7×10-5)に等しいまたはこれにより低いエラー取り込み率を有するDNAポリメラーゼを指す。いくつかの実施形態では、Phi29 DNAポリメラーゼまたはPhi29様ポリメラーゼがDNA鋳型を増幅するために使用され得る。いくつかの実施形態では、Phi29 DNAポリメラーゼとTaq DNAポリメラーゼの組み合わせが環状DNA増幅に使用され得る。
【0052】
追加の酵素を等温増幅反応混合物に含めて誤取り込みイベントを最小化することができる。例えば、DNAポリメラーゼ反応中または後に、タンパク質によって媒介されるエラー修正酵素、例えば、MutSを添加してDNAポリメラーゼフィデリティーを改善することができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数のアンプリコンが、ローリングサークル増幅(RCA)によって環状標的DNA鋳型から産生される。DNAポリメラーゼ、プライマー、dNTPおよび分子クラウディング試薬および低塩濃度を維持するための緩衝液を含む増幅試薬を標的DNAに添加して、RCA反応を開始するための増幅反応混合物を産生することができる。増幅反応混合物は、一本鎖DNA結合タンパク質および/または適当な増幅反応緩衝剤などの試薬をさらに含んでもよい。増幅反応後または中、アンプリコンはDNA検出のための現在知られている方法のいずれかによって検出され得る。RCAは線形増幅速度論を示す線形RCA(LRCA)(例えば、単一の特異的プライマーを用いるRCA)であってもよいし、または指数増幅速度論を示す指数RCA(ERCA)であってもよい。RCAはまた、高度に分岐したコンカテマーをもたらす複数のプライマー(多プライムローリングサークル増幅またはMPRCA)を用いて行うこともできる。例えば、ダブルプライムRCAでは、一方のプライマーは線形RCAのように環状核酸鋳型と相補的であり得るが、他方はRCA産物のタンデム反復単位核酸配列と相補的であり得る。結果として、ダブルプライムRCAは、両プライマーに関するマルチハイブリダイゼーション、プライマー伸長および鎖置換イベントの分岐カスケードを特徴とする指数(幾何的)増幅速度論を有する連鎖反応として進行し得る。これは通常、コンカテマーの二本鎖核酸増幅産物の離散したセットを産生する。いくつかの例実施形態では、RCAが、Phi29 DNAポリメラーゼなどの適当な核酸ポリメラーゼを用いて等温条件下インビトロで行われる。
【0054】
いくつかの他の実施形態では、直鎖DNA鋳型がMDAを用いて増幅され得る。30℃でランダムプライマーおよび75mM塩を用いる従来のMDAの方法は、配列の偏った増幅およびキメラ産物の形成をもたらし得る。キメラ配列の産生を減少させようとして塩濃度をこれらの反応で15mMまで低下させると、反応速度論はかなり遅くなった。対照的に、MDA反応への分子クラウディング試薬および低塩条件の使用によって、より速いDNA増幅速度論ならびに改善したDNA配列包括度およびバランスが促進された。さらに、標的DNA:プライマーハイブリッドのTの低下によって、MDA反応をよりストリンジェントな条件下、例えば、より低い塩濃度(例えば、その他の点では標準条件下で、75mMと対照的に15mMのKCl)で行うことが可能になる、または高ストリンジェントハイブリダイゼーション条件のためによりストリンジェントな緩衝液を使用することが可能になる。このようなストリンジェントな反応は、望ましくない反応中間体および産物、例えば、自己ハイブリダイゼーションによるキメラ産物の形成をさらに減少させる。
【0055】
さらに、増幅反応への分子クラウディング試薬および低塩濃度の使用によって、それだけに限らないが、循環血漿DNA、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)試料から単離したDNA、環境条件にさらされた法医学的DNA試料または古代DNA試料を含む、多種多様な条件下の微量DNA試料の堅牢な増幅が可能になる。アンプリコンを含む増幅ライブラリーをさらに、qPCRまたは配列決定を介して増幅配列の標的化検出に使用することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、等温DNA増幅用のキットが提供される。キットは鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼと、プライマーと、分子クラウディング試薬と、緩衝液とを含み、緩衝液は10~30mMの塩濃度を維持する。
【0057】
いくつかの実施形態では、キットがPhi29 DNAポリメラーゼを含む。キットが低融解温度を有する1つまたは複数のランダムプライマーをさらに含んでもよい。
【0058】
本明細書に記載される方法およびキットは、法医学的分析、生物学的脅威同定または医学的分析のためなど、DNA試料を増幅および分析するために使用することができる。本方法の感度によって、下流試験および分析用の全ゲノム増幅のための単一細菌および真核細胞の全ゲノム増幅が可能になる。さらに、分子クラウディング試薬および低塩条件の使用によって、少量の投入DNAのための速いDNA増幅速度論、高感度が促進され、偏りの少ないよりバランスのとれた増幅が得られる。
【0059】
以下の実施例を例示のためにのみ本明細書で開示するが、これらは本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。実施例説で使用されるいくつかの略語は以下の通り広げられる:「mg」:ミリグラム;「ng」:ナノグラム;「pg」:ピコグラム;「fg」:フェムトグラム;「mL」:ミリリットル;「mg/mL」:ミリグラム/ミリリットル;「mM」:ミリモル濃度;「mmol」:ミリモル;「pM」:ピコモル濃度;「pmol」:ピコモル;「μL」:マイクロリットル;「min.」:分および「h」:時間。
【実施例
【0060】
[実施例1]
PEGおよび低塩条件の存在下での単一細胞からのDNAのMDA反応の反応速度論および感度。
【0061】
大腸菌MG1655の培養物をLB培地で対数期まで培養し、遠心分離によって回収し、TEN緩衝液(10mM Tris、pH7.5、100mM NaClおよび0.1mM EDTA)を用いて3回洗浄した。洗浄後、細胞を緩衝液TEN+30%グリセロールに再懸濁し、段階希釈を行った。次いで、細胞を10μM FM1-43FX染料(F-35355、Invitrogen,Life Technologies製)を用いて室温で10分間染色し、染色した細胞を透明底384ウェルプレートのウェルの各々に添加し、倒立蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse TE2000-U)を用いてカウントした。単一細胞を含有するウェルを同定した後、0.2M KOH、50mM DTT、0.015%Tween-20 2μlを添加して溶解を開始し、-80℃で一晩凍結した。翌朝、プレートを解凍し、溶解液を65℃で10分間さらにインキュベートし、冷却し、0.4M HCl、0.6M Tris、pH7.5 1μlを添加して中和した。
【0062】
増幅(GenomiPhi(商標))反応を、PEG8000および低塩条件の存在および非存在下でランダムヘキサマープライマーを用いて行って、MDA反応に対する分子クラウディング試薬および低塩条件の効果を決定した。50mM HEPES、pH8.0、20mM MgCl、0.01%Tween-20、1mM TCEP、40μMランダムヘキサマー、1:20000希釈のSYBR Green I(Invitrogen)、20μg/ml Phi29ポリメラーゼならびに指示される濃度のPEG8000およびKCl(表1)を含有するGenomiPhi(商標)増幅反応混合物を、30℃で1時間インキュベートして少量の混入DNAを除去することによって調製した。400μM dNTPを細胞溶解液に添加することによって増幅反応を開始した。反応物をプレートリーダー(Tecan)中30℃で8時間インキュベートしながら、5分間隔で蛍光測定値をとって増幅速度論を測定した。Tecanプレートリーダー(Tecan SNiPer、Amersham-Pharmacia Biotech)で経時的に蛍光増加を測定することによって増幅反応をリアルタイムで監視した。次いで、65℃で20分間加熱することによって反応物を不活性化し、増幅DNAをエタノール沈殿によって精製した。Pico Green(Invitrogen)による定量によって測定される平均DNA収量を表1に示す(ここでは、dN6はNNNNNのオリゴヌクレオチド配列を有するヘキサマープライマーを表す)。これらの反応物中の塩濃度は、塩20mMが細胞溶解および中和手順に由来すると仮定して列挙する。残りの塩は、反応混合物に添加した追加のKClから来るものである。平均収量は、2つの反応物しか増幅産物をもたらさなかった清潔なGenomiPhi(商標)配合物を除く3つの20μl反応物からのものである。
【0063】
【表1】
【0064】
図1A図1Cに示されるように、精製した大腸菌DNA5fg(ほぼ単一細胞からのDNAの量)、溶解単一細胞を含有する反応物、およびDNAを添加しなかった反応物(NTC)からの増幅反応物の蛍光測定値を5分間隔でとった(ここで、RFU、相対蛍光単位;は時間に関して測定した)。NTCは、標的DNA鋳型を添加することなく増幅反応を行った「鋳型無し対照」を表す。dN6-PEG配合物中の塩の減少によって、全3つの単一細胞を増幅することが可能になり、高い平均収量の増幅DNA産物が得られた。図1A図1Bおよび図1Cは、それぞれ、高塩条件下PEGの非存在下、低塩条件下PEGの非存在下および低塩条件下PEGの存在下での標準的なランダムヘキサマープライマーを用いた標的核酸の増幅速度論を示している。鋳型無し対照(NTC)、5fg DNAおよび単一細胞試料の各々についての増幅速度を、試料の各々の中の検出可能なレベルのアンプリコン産物の産生のためにかかった時間を監視することによって推定した。
【0065】
図1Cは、低塩条件下PEGの存在下でのMDA反応の反応速度論および感度の増加を示している。低塩条件下PEGの存在下での増幅反応は、増幅速度増加(約2.5倍)をもたらし、フェムトグラム(fg)量のDNAおよび単一細胞からのDNAを効率的に増幅させることを可能にした。反応速度論の分析(図1A図1C)は、清潔なGenomiphi(商標)配合物およびdN6-PEG配合物についての増幅速度がほぼ同じであることを示した。しかしながら、dN6+PEG配合物のように2.5% PEG-8000を添加すると、増幅速度論が劇的に改善し、約2.5倍の増加を示した。さらに、鋳型無し対照と比べて単一細胞間の増幅時間の明らかな区別があり、高品質な増幅産物を示唆した。
【0066】
速度論および収量は、予想外に、低塩および分子クラウディング試薬の存在の反応条件を提供したにもかかわらず、PEGおよび低塩を含有する増幅反応が急速かつ効率的に進行したことを示唆している。低塩の条件が効率的なプライマーハイブリダイゼーションを妨げることを開示している現在知られている方法とは異なって、本方法は、低塩と分子クラウディング試薬の両方の存在下で、反応速度が、分子クラウディング試薬を用いない同じ低塩条件と比べて増加することを示した。一般的にプライマー-鋳型の効率的なハイブリダイゼーションを妨げる反応条件としては、それだけに限らないが、低塩濃度、高温および反応温度より8~10℃低いTを有するプライマーの使用が挙げられる。さらに、増幅産物の分析は、鋳型ゲノムDNAの全ての領域が、プライマー結合条件がストリンジェントでG/Cリッチプライマーのみがハイブリダイズすることを許される条件下で典型的に予想されるような、A/Tリッチ領域の過小増幅も、G/Cリッチ領域の過剰増幅もなく、代表的に増幅されたことを示している。さらに、分子クラウディング剤としてのPEGおよび低塩条件の存在は、プライマーと鋳型DNAの結合、およびDNAポリメラーゼによる伸長、および等温増幅中のDNAポリメラーゼによるプライマーの鎖置換を阻害しなかった。もしPEGまたは低塩条件がプライマー-鋳型のハイブリダイゼーション、引き続いてDNAポリメラーゼによる伸長の開始を阻害していたら、速度論は遅くなり、収量は低くなっただろう。
【0067】
単一細胞からの増幅DNAをライブラリーへと処理し、対末端読みおよび100塩基対読み長でIllumina HiSeq(商標)2000を用いる全ゲノム配列決定に供した。約800万~1600万の読みが各試料で得られ、次いで、これらを図2に示されるように大腸菌MG1655参照ゲノムにマッピングした。生の読みを、DNA分析計算処理サービスを提供するDNANexus(www.dnanexus.com)にアップロードし、読みを大腸菌MG1655参照ゲノムにマッピングした。反復してマッピングした読みを含む、正確にマッピングした読みのみを分析に含めた。単一細胞複製間の標準偏差を図2に示されるようにエラーバーによって示す。
【0068】
図2から、うまくマッピングしたDNA読みをもたらすことにおける3つの異なるGenomiPhi(商標)増幅配合物についての明確な差。低塩濃度およびPEG-8000の存在が合わせて、より多くの標的大腸菌DNAおよび対応してより少ないマッピング不可能な(unmappable)配列の産生を可能にした。
【0069】
読みを大腸菌MG1655参照ゲノムにマッピングした後、少なくとも示された数の読み(1倍~100倍)によって網羅される合計4.6Mbのゲノム中の塩基の割合を図3に示されるように計算した(ここでは、単一細胞複製間の標準偏差をエラーバーによって示す)。さらに、低塩とPEG-8000の添加の組み合わせによって、1倍~100倍の包括深度(coverage depth)の範囲で明らかである配列読みによる大腸菌ゲノムのより大きな塩基包括度の程度が可能になった(図3)。これによって、未知の配列のゲノム配列を構築する改善した能力および配列決定用途でのより堅牢な分析が可能になるだろう。
【0070】
上記の詳細な説明は例示的であり、本出願の本発明および本発明の使用を限定することを意図していない。明細書の全体にわたって、具体的な用語の例証は、非限定的な例としてみなされるべきである。単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「この(the)」は、文脈上別段の意味を有することが明らかな場合を除き、複数指示対象を含む。明細書および特許請求の範囲の全体にわたって本明細書で使用される近似言語は、これが関連する基本的な機能の変化をもたらすことなく許される程度に変化し得る定量的表現を修飾するために適用され得る。したがって、「約」などの用語によって修飾された値は、指定される正確な値に限定されないものとする。特に指示しない限り、明細書および特許請求の範囲で使用される成分、特性の量、例えば、分子量、反応条件などを表す全ての数は、「約」という用語によって全ての例で修飾されていると理解されるべきである。
【0071】
したがって、特に反対の指示がない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲で示される数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲と等価物の教義の適用に限定しようとする試みとしてではなく、各数値パラメータは少なくとも、報告される有効数字の数に照らしておよび通常の切り上げ技術を適用することによって解釈されるべきである。必要に応じて、範囲を提供し、これらの範囲はその間の全ての部分範囲を含める。
【0072】
本発明は、その精神または本質的な特性から逸脱することなく、他の具体的な形態で具体化され得る。前記実施形態は、多種多様な全ての可能な実施形態または実施例から選択された実施形態または実施例である。そのため、前記実施形態は、あらゆる点で本発明に対する限定ではなくむしろ例示として解釈されるべきである。本発明の一定の特徴のみを本明細書で例示および記載してきたが、当業者であれば、本開示の利点があれば、これらのおよび他の種類の用途に適した、本発明の原理による方法を使用するための適当な条件/パラメータを同定、選択、最適化または修正することができることが理解されるべきである。試薬の正確な使用、試薬の選択、濃度、体積、インキュベーション時間、インキュベーション温度などの変数の選択などは大部分が意図した具体的な用途に依存し得る。そのため、添付の特許請求の範囲が、本発明の精神に入る全ての修正および変更を網羅することを意図していることが理解されるべきである。さらに、特許請求の範囲の同等性の意味および範囲に入る全ての変化がその中に包含されることを意図している。
図1A
図1B
図1C
図2
図3