(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】防振マウント
(51)【国際特許分類】
F16F 9/54 20060101AFI20220124BHJP
F16F 1/373 20060101ALI20220124BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
F16F9/54
F16F1/373
F16F15/08 E
(21)【出願番号】P 2016083537
(22)【出願日】2016-04-19
【審査請求日】2019-03-20
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】田中 一輝
【合議体】
【審判長】平田 信勝
【審判官】尾崎 和寛
【審判官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-159897(JP,A)
【文献】特開平9-177883(JP,A)
【文献】特開平6-73920(JP,A)
【文献】特開2010-90996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00-9/58
F16F 15/00-15/36
F16F 1/00-6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディ側に保持された発泡ウレタンよりなる
環状の弾性体と、ロッド側に設けられた
環状のインナープレートとの組み合わせを有し、前記弾性体の
内周側からその厚み内に前記インナープレートの外周部が埋設されている防振マウントにおいて、
前記インナープレートは、前記外周部に、
平面扇形である複数の穴部を等配状に有し、
前記弾性体は、一部の前記弾性体が前記穴部内に充填され、
前記インナープレートの厚み方向両面においてそれぞれ前記穴部の開口周縁部に断面円弧状の面取り部が設けられ、
前記面取り部の曲率半径をR、前記インナープレートの厚みをtとして
R<t/2
の関係を充足することにより、前記穴部の内面の厚み方向中央部に前記穴部内の前記弾性体との接触面が厚み方向に直線状にのびるように構築された断面直線状のストレート部が設けられていることを特徴とする防振マウント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振技術に係る防振マウントに関する。本発明の防振マウントは例えば、自動車等車両用サスペンションの分野においてダンパーマウントまたはストラットマウント等として用いられる。
【背景技術】
【0002】
ダンパーマウンドは車両のボディとアブソーバーの間に据え付けられ、例えば
図5に示すように、ボディ1側に保持された発泡ウレタンよりなる弾性体3と、ロッド4側に設けられたインナープレート5との組み合わせを有し、弾性体3の厚み内にインナープレート5の外周部5aが埋設されている。したがって振動が入力してボディ1に対しインナープレート5が相対変位すると弾性体3が変形し、緩衝作用が発揮される。
【0003】
車両が走行時に路面から受ける振動の周波数領域は広く、そのためダンパーマウントの機能としては、防振領域を広く設定する(動的バネ定数を低くする)必要がある。
【0004】
動的バネ定数を低くする従来の設計手法の一つとして、インナープレート5に対する弾性体3の受圧面積を小さくする方法がある。
【0005】
しかしながら、インナープレート5の外径寸法を縮小するとともに弾性体3の内径寸法を拡大することにより受圧面積を小さくすると、インナープレート5および弾性体3のラップ量Lが小さくなる。ダンパーマウントには実車での使用時に、こじり振動の入力もあるため、ラップ量Lが小さくなると、インナープレート5が弾性体3から抜け落ちる懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-100889号公報
【文献】特開2010-236574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて、動的バネ定数を低くすべく受圧面積を小さくすることができ、しかもインナープレートが弾性体から抜け落ちることがない防振マウントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ボディ側に保持された発泡ウレタンよりなる環状の弾性体と、ロッド側に設けられた環状のインナープレートとの組み合わせを有し、前記弾性体の内周側からその厚み内に前記インナープレートの外周部が埋設されている防振マウントにおいて、前記インナープレートは、前記外周部に、平面扇形である複数の穴部を等配状に有し、前記弾性体は、一部の前記弾性体が前記穴部内に充填され、前記インナープレートの厚み方向両面においてそれぞれ前記穴部の開口周縁部に断面円弧状の面取り部が設けられ、前記面取り部の曲率半径をR、前記インナープレートの厚みをtとしてR<t/2の関係を充足することにより、前記穴部の内面の厚み方向中央部に前記穴部内の前記弾性体との接触面が厚み方向に直線状にのびるように構築された断面直線状のストレート部が設けられている。
【発明の効果】
【0011】
したがって本発明によれば、マウントの動的バネ定数を低くすべく受圧面積を小さくすることができ、しかもインナープレートが弾性体から抜け落ちることがない防振マウントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】同防振マウントに備えられるインナープレートを示す図であって、(A)はその平面図、(B)はその断面図であって(A)におけるB-B線断面図
【
図3】インナープレートの他の例を示す図であって、(A)はその平面図、(B)はその断面図であって(A)におけるC-C線断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示には、以下の実施形態が含まれる。
【実施例】
【0014】
実施例を図面にしたがって説明する。
【0015】
図1に示すように、当該実施例に係る防振マウントは、自動車等車両用のダンパーマウントとして用いられるものであって、ボディ1側のブラケット2に保持された発泡ウレタンよりなる環状の弾性体3と、作動ロッド4の外周に取り付けられた金属等の剛材よりなる環状のインナープレート5との組み合わせよりなり、弾性体3の内径部であってその厚み内にインナープレート5の外周部5aが埋設されている。
【0016】
また、インナープレート5の外周部5aに、複数の穴部6が等配状に設けられ、これによりインナープレート5に対する弾性体3の受圧面積が縮小されている。穴部6の内部には一部の弾性体3が充填され、穴部6内には弾性体3が充満している。
【0017】
また、インナープレート5の厚み方向両面においてそれぞれ、穴部6の開口周縁部にR形状(断面円弧状)の面取り部7が設けられており、上記(イ)式の関係が設定されることにより、穴部6の内面の一部(厚み方向中央部)は断面直線状のストレート部8とされている。
【0018】
穴部6の平面形状ないし開口形状は、
図2に示すように円形の小孔とされているが、特に限定されるものではなく、例えば
図3に示すような平面扇形(円弧形)の穴部であっても良い。
図2では平面円形の穴部6が8等配で設けられている。
図3では平面扇形の穴部6が2等配で設けられている。
【0019】
上記構成を備える防振マウントにおいては、弾性体3の厚み内に埋設されるインナープレート5の外周部5aに穴部6が設けられているために、弾性体3の受圧面積を小さくすることができ、しかもこの構造によればインナープレート5および弾性体3のラップ量(オーバーラップ量)Lが縮小されず一定量確保されるため、インナープレート5が弾性体3から抜け落ちるのを防止することができる。
【0020】
また、穴部6の開口周縁部にそれぞれ面取り部7が設けられているために、荷重入力時に弾性体3に発生するせん断応力(応力集中)を緩和することができ、よって弾性体3が破損するのを防止することができる。
【0021】
また、上記(イ)式の関係が設定されることにより穴部6の内面の一部に断面直線状のストレート部8が設けられているために、荷重入力時に穴部6内部の弾性体3に発生するせん断応力(応力集中)を緩和することができ、これによっても弾性体3が破損するのを防止することができる。
【0022】
更にまた、
図4に示すように、金型9を用いて発泡ウレタンよりなる弾性体3を成形するとき、インナープレート5と弾性体3のラップ量Lが大きいと、材料3aを流し込む(矢印D)際にインナープレート5の下方にエアー(図示せず)が残留する虞があるが、これに対し、インナープレート5に穴部6を設けるとともに穴部6の開口周縁部に面取り部7を設けると、これらを流路としてインナープレート5下方のエアーを上方へ抜くことができる(矢印E)。したがって、発泡ウレタンよりなる弾性体3を成形するに際して、エアーの残留による成形不良が発生するのを未然に防止することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 ボディ
2 ブラケット
3 弾性体
3a 弾性体材料
4 作動ロッド
5 インナープレート
5a 外周部
6 穴部
7 面取り部
8 ストレート部
9 金型