(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】飲料用缶の製造方法、印刷システム、装置、プログラム、および、飲料用缶
(51)【国際特許分類】
B65D 25/20 20060101AFI20220124BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20220124BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220124BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20220124BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20220124BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20220124BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
B65D25/20 Q
B05D1/26 Z
B05D7/24 301M
B05D7/14 K
B05D1/36 Z
B05D5/06 101D
B41J2/01 109
B41J2/01 123
(21)【出願番号】P 2017015457
(22)【出願日】2017-01-31
【審査請求日】2019-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】521469760
【氏名又は名称】昭和アルミニウム缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100113310
【氏名又は名称】水戸 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】小島 真一
(72)【発明者】
【氏名】池田 和紀
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 明日美
(72)【発明者】
【氏名】増田 和久
【審査官】種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/021403(WO,A1)
【文献】特開2012-086870(JP,A)
【文献】特開2008-179136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 25/20
B05D 1/26
B05D 7/24
B05D 7/14
B05D 1/36
B05D 5/06
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷データを基に飲料用缶へのインクの付着を行って、飲料用缶を製造する飲料用缶の製造方法であり、
インクジェットヘッドを用い、周方向に回転する飲料用缶の外面に対して、複数のドット像により構成される像を形成する像形成工程であって、像形成用印刷データに基づき当該像を形成する像形成工程と、
前記外面のうちの前記ドット像が形成されない箇所である非形成箇所に、当該ドット像を構成するインクの当該非形成箇所への滲みを抑制するための抑制用インクを付着させるインク付着工程であって、抑制用印刷データに基づき当該抑制用インクの付着を行うインク付着工程と、
前記像形成用印刷データおよび前記抑制用印刷データを生成する印刷データ生成工程と、
を備え、
前記印刷データ生成工程では、
前記像形成用印刷データを生成し、
生成した前記像形成用印刷データの白黒反転を行って反転後データを生成するとともに、当該反転後データに基づき、前記ドット像が形成されない前記非形成箇所を特定し、特定した当該非形成箇所に前記抑制用インクが付着されるようにする前記抑制用印刷データを生成し、
前記抑制用インクの付着を行う前記インク付着工程では、前記抑制用印刷データに基づき前記抑制用インクの付着を行うことで、前記像を構成する前記ドット像により囲まれた前記非形成箇所に対しても前記抑制用インクが付着するようにする
飲料用缶の製造方法。
【請求項2】
前記印刷データ生成工程における前記像形成用印刷データの生成では、
原画像データから、複数色の各々の色に対応した前記像形成用印刷データを生成し、
前記印刷データ生成工程における前記抑制用印刷データの生成では、
前記複数色の各々の色に対応した前記像形成用印刷データの重ね合わせを行い、複数色の各々の色の像を重ね合わせた状態の像を示す像形成用印刷データを生成し、生成した当該像形成用印刷データの白黒反転を行って前記非形成箇所を特定し、特定した当該非形成箇所に前記抑制用インクが付着されるようにする前記抑制用印刷データを生成する、請求項1に記載の飲料用缶の製造方法。
【請求項3】
前記像形成工程による前記像の形成後、および、前記インク付着工程による前記抑制用インクの付着後、前記外面に塗料を塗布する塗料塗布工程をさらに備える請求項1又は2に記載の飲料用缶の製造方法。
【請求項4】
前記抑制用インクは、透明である請求項1乃至3の何れかに記載の飲料用缶の製造方法。
【請求項5】
前記像形成工程による前記像の形成が行われる前に、前記抑制用インクの前記外面への付着が行われる請求項1乃至4の何れかに記載の飲料用缶の製造方法。
【請求項6】
複数のドット像により構成される前記像を形成する際に用いる前記像形成用印刷データは、誤差拡散法により生成される請求項1乃至5の何れかに記載の飲料用缶の製造方法。
【請求項7】
前記像形成工程による前記像の形成前、および、前記インク付着工程による前記抑制用インクの付着前に、前記外面に下地層を形成する下地層形成工程をさらに備える請求項1乃至6の何れかに記載の飲料用缶の製造方法。
【請求項8】
前記外面への前記抑制用インクの付着は、インクジェットヘッドにより行われる請求項1乃至7の何れかに記載の飲料用缶の製造方法。
【請求項9】
インクジェットヘッドを用い、周方向に回転する飲料用缶の外面に対して、複数のドット像により構成される像を形成する像形成手段であって、像形成用印刷データに基づき当該像を形成する像形成手段と、
前記外面のうちの前記ドット像が形成されない箇所である非形成箇所に、当該ドット像を構成するインクの当該非形成箇所への滲みを抑制するための抑制用インクを付着させるインク付着手段であって、抑制用印刷データに基づき当該抑制用インクの付着を行うインク付着手段と、
前記像形成用印刷データおよび前記抑制用印刷データを生成する印刷データ生成手段と、
を備え、
前記印刷データ生成手段は、
前記像形成用印刷データを生成し、
生成した前記像形成用印刷データの白黒反転を行って反転後データを生成するとともに、反転後データに基づき、前記ドット像が形成されない前記非形成箇所を特定し、特定した当該非形成箇所に前記抑制用インクが付着されるようにする前記抑制用印刷データを生成し、
前記抑制用インクの付着を行う前記インク付着手段は、前記抑制用印刷データに基づき前記抑制用インクの付着を行い、前記像形成手段が形成する前記像を構成するドット像により囲まれた前記非形成箇所に対しても前記抑制用インクを付着させる
印刷システム。
【請求項10】
周方向に回転する飲料用缶の外面に対して複数のドット像により構成される像を形成する際に用いられる像形成用印刷データを生成する手段と、
前記外面のうちの前記ドット像が形成されない箇所である非形成箇所に、当該ドット像を構成するインクの当該非形成箇所への滲みを抑制するための抑制用インクを付着させる際に用いられる抑制用印刷データを生成する手段であって、生成された前記像形成用印刷データの白黒反転を行って反転後データを生成し、生成した当該反転後データに基づき、当該ドット像が形成されない当該非形成箇所を特定し、特定した当該非形成箇所に当該抑制用インクが付着されるようにする抑制用印刷データを生成する手段と、
を備える装置。
【請求項11】
周方向に回転する飲料用缶の外面に対して複数のドット像により構成される像を形成する際に用いられる像形成用印刷データを生成する機能と、
前記外面のうちの前記ドット像が形成されない箇所である非形成箇所に、当該ドット像を構成するインクの当該非形成箇所への滲みを抑制するための抑制用インクを付着させる際に用いられる抑制用印刷データを生成する機能であって、生成された前記像形成用印刷データの白黒反転を行って反転後データを生成し、生成した当該反転後データに基づき、当該ドット像が形成されない当該非形成箇所を特定し、特定した当該非形成箇所に当該抑制用インクが付着されるようにする抑制用印刷データを生成する機能と、
をコンピュータに実現させるためのプログラム。
【請求項12】
外面と、
前記外面に設けられ、複数のドット像により構成された像と、
前記外面に設けられるとともに、当該外面のうちの前記ドット像が形成されない箇所である非形成箇所に設けられ、当該ドット像を構成するインクの当該非形成箇所への滲みを抑制するための抑制用インク層と、
を備え、
前記像を構成するドット像により囲まれた箇所に前記抑制用インク層が設けられている飲料用缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用缶の製造方法、印刷システム、および、飲料用缶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクジェット印刷が少なくとも一つのインクジェット印刷ステーションで行われ、インクジェット印刷ステーションには複数個のインクジェットヘッドが配置されている印刷装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
飲料が充填される飲料用缶では、その外面に、文字や図柄などの画像が形成されることが多い。ここで、この画像を、ドット像を並べることにより形成する場合、各ドット像においてインクの滲みが生じると、画像が不鮮明になるおそれがある。
本発明の目的は、インクを用いて飲料用缶の外面に形成する画像の高画質化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明が適用される飲料用缶の製造方法は、インクジェットヘッドを用い、周方向に回転する飲料用缶の外面に対して、複数のドット像により構成される像を形成する像形成工程と、前記外面のうちの前記ドット像が形成されない箇所である非形成箇所に、当該ドット像を構成するインクの当該非形成箇所への滲みを抑制するための抑制用インクを付着させるインク付着工程と、を備える飲料用缶の製造方法である。
ここで、前記像形成工程による前記像の形成後、および、前記インク付着工程による前記抑制用インクの付着後、前記外面に塗料を塗布する塗料塗布工程をさらに備えることを特徴とすることができる。
また、前記抑制用インクは、透明であることを特徴とすることができる。
また、前記像形成工程による前記像の形成が行われる前に、前記抑制用インクの前記外面への付着が行われることを特徴とすることができる。
また、複数のドット像により構成される前記像を形成する際に用いる画像データは、誤差拡散法により生成されることを特徴とすることができる。
また、前記像形成工程による前記像の形成前、および、前記インク付着工程による前記抑制用インクの付着前に、前記外面に下地層を形成する下地層形成工程をさらに備えることを特徴とすることができる。
また、前記外面への前記抑制用インクの付着は、インクジェットヘッドにより行われることを特徴とすることができる。
【0006】
また、本発明を印刷システムと捉えた場合、本発明が適用される印刷システムは、インクジェットヘッドを用い、周方向に回転する飲料用缶の外面に対して、複数のドット像により構成される像を形成する像形成手段と、前記外面のうちの前記ドット像が形成されない箇所である非形成箇所に、当該ドット像を構成するインクの当該非形成箇所への滲みを抑制するための抑制用インクを付着させるインク付着手段と、を備える印刷システムである。
【0007】
また、本発明を飲料用缶と捉えた場合、本発明が適用される飲料用缶は、外面と、前記外面に設けられ、複数のドット像により構成された像と、前記外面に設けられるとともに、当該外面のうちの前記ドット像が形成されない箇所である非形成箇所に設けられ、当該ドット像を構成するインクの当該非形成箇所への滲みを抑制するための抑制用インク層と、を備える飲料用缶である。
他の観点から捉えると、本発明が適用される飲料用缶は、外面と、前記外面に設けられ、複数のドット像により構成された像と、前記外面のうちの前記ドット像が形成されない箇所である非形成箇所に設けられた透明層と、を備える飲料用缶である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクを用いて飲料用缶の外面に形成する画像の高画質化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】飲料用缶の製造工程の一部を示した図である。
【
図4】画像形成用印刷データおよびクリアインク部用印刷データの生成手順を示したフローチャートである。
【
図5】実施例、比較例のそれぞれにおける飲料用缶の表面の拡大写真を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る飲料用缶100の斜視図である。
飲料用缶100には、円筒状に形成された缶本体200が設けられている。缶本体200の上部には、円形の開口210が形成されている。また、缶本体200の下部には、底部220が設けられている。また、缶本体200は、外周面(外面)230を備える。
外周面230には、インクジェットヘッド(後述)による印刷が施され、外周面230には印刷画像が形成されている。
【0011】
本実施形態では、飲料用缶100の上部に位置する開口210を通じて、飲料用缶100の内部に、内容物である飲料が充填される。その後、この開口210は、不図示の缶蓋により塞がれる。これにより、飲料が充填された飲料缶が完成する。
なお、
図1では、飲料用缶100の詳細な形状の図示は省略し、飲料用缶100を有底円筒で表現した。より具体的には、飲料用缶100には、フランジを有するネックが設けられたり、飲料用缶100のボトムには、飲料用缶100の内部方向に凹む円形の凹部が設けられたりするが、
図1では、これらの図示を省略している。
【0012】
飲料用缶100は、金属材料により形成される。具体的には、飲料用缶100は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等により形成される。また、飲料用缶100は、例えば、ティンフリースチールなどの鉄合金等により形成される。また、飲料用缶100は、例えば、平板状の板材を、ドロー&アイアニング(DI)成形や、ストレッチドロー成形することにより形成される。
飲料用缶100の内部に充填される飲料としては、例えば、ビール等のアルコール系飲料や、清涼飲料などの非アルコール系飲料が挙げられる。
【0013】
図2は、飲料用缶100の製造工程の一部を示した図である。具体的には、
図2では、飲料用缶100の製造工程に含まれる複数の工程のうちの印刷工程を示している。付言すると、
図2では、飲料用缶100の外面への印刷を行う印刷システムにて実施される各工程を示している。
飲料用缶100の印刷工程には、
図2に示すように、ベースコート層形成工程10、第1乾燥工程20、クリア印刷工程30、画像形成工程40、第2乾燥工程50、オーバーコート層形成工程60、第3乾燥工程70が設けられている。
なお、クリア印刷工程30と画像形成工程40との間に、乾燥工程をさらに設けて、クリア印刷工程30にて形成されたクリアインク部(後述)の乾燥(硬化)を行ってもよい。
【0014】
飲料用缶100への印刷にあたっては、飲料用缶100がこれらの工程を順に通過するように飲料用缶100の搬送を行う。そして、この搬送の過程で、飲料用缶100に対する各種の処理が行われる。
なお、飲料用缶100の搬送にあたっては、円筒状の支持部材(マンドレル)(後述)を飲料用缶100の内部に挿入したうえで、飲料用缶100の搬送を行う。
【0015】
下地層形成工程の一例としてのベースコート層形成工程10では、飲料用缶100の外周面230(
図1参照)に対する、ベースコート層(下地層)の形成が行われる。
ベースコート層を形成することにより、飲料用缶100の地色を隠蔽することができ、飲料用缶100の外周面230に形成される画像をより鮮明にすることができる。
ベースコート層の形成は、ロールコートにより行う。即ち、飲料用缶100の軸方向に沿うように配置され且つ表面に塗料が付着したロール状部材を、飲料用缶100の外周面230に接触させて、飲料用缶100にベースコート層を形成する。
【0016】
ベースコート層は、主として樹脂により形成される。
樹脂としては、ポリエステル/エポキシ/アミノ系樹脂及びポリエステル/アクリル/アミノ系樹脂等を使用することができる。また、紫外線硬化型塗料によりベースコート層を形成してもよく、この場合は、光重合開始剤を含有させたエポキシ/ポリエチレン系樹脂等が使用できる。
【0017】
また、飲料用缶100の金属色を打ち消すために、ベースコート層に、添加剤として白色顔料を添加してもよい。また、ベースコート層の厚さは、例えば、2μm~15μmとすることができる。
また、本実施形態では、ベースコート層の形成を行う前に、飲料用缶100の表面の脱脂、洗浄を行い、また、ノンクロム系の化成処理(より具体的には、ジルコニウム系の化成処理)を行っている。
【0018】
次いで、本実施形態では、第1乾燥工程20にて、ベースコート層の乾燥が行われる。
第1乾燥工程20では、飲料用缶100の加熱あるいは飲料用缶100への紫外線の照射が行われ、ベースコート層の乾燥(硬化)が行われる。
その後、本実施形態では、インク付着工程の一例としてのクリア印刷工程30にて、ベースコート層の上に、クリアインク(無色透明なインク)の付着が行われ(クリアインクを用いたクリア印刷が行われ)、ベースコート層の上に、クリアインク部(詳細は後述)が形成される。
【0019】
本実施形態では、クリアインクとして、紫外線硬化型のインクを用いる。
ベースコート層の上にクリアインク部を形成すると、ベースコート層の上に、土手の役割を果たす機能部が設けられ、形成画像を構成するインクの滲みが生じにくくなる(詳細は後述)。
【0020】
次いで、本実施形態では、像形成工程の一例としての画像形成工程40にて、飲料用缶100の外周面230に対して、カラーのインクを吐出して(複数のドット像(点状の像)を形成して)、飲料用缶100の外周面230に、文字、図柄などから構成される画像(以下、「形成画像」と称する)を形成する。
より具体的には、外周面230のうちの、クリアインク部が形成されていない箇所に対して、カラーのインクを吐出して、形成画像を形成する。ここで、形成画像の厚さ(カラーインクの厚さ)は、例えば、2~5μmとなる。
【0021】
次いで、本実施形態では、第2乾燥工程50にて、飲料用缶100の外周面に紫外線が照射され、クリアインク部、形成画像の硬化が行われる。
上記のとおり、クリア印刷工程30と画像形成工程40との間に、乾燥工程をさらに設けてもよく、この場合は、この乾燥工程でも、クリアインク部の硬化が行われる。
【0022】
ここで、形成画像の形成に用いるインク(画像形成工程40にて用いられるインク)は、40℃における粘度が、5mPa・s以上30mPa・s以下の範囲であることが好ましく、5mPa・s以上20mPa・s以下の範囲であることがより好ましい。
インクの40℃における粘度をこのような範囲とすることで、インクジェットヘッド(後述)からインクを吐出する際に、良好な吐出安定性を実現することができる。なお、インクの粘度は、コーンプレート型粘度計を用いて測定することができる。
【0023】
また、形成画像の形成に用いるインクは、25℃における表面張力が、22mN/m以上36mN/m以下の範囲であることが好ましい。インクの25℃における表面張力をこのような範囲とすることで、インクジェットヘッドからインクを吐出する際に、良好な吐出安定性を実現することができる。
【0024】
次いで、本実施形態では、塗料塗布工程の一例としてのオーバーコート層形成工程60にて、飲料用缶100の外周面の全体に亘って一様に塗料が塗布され、飲料用缶100の最外層に、オーバーコート層(保護層)が形成される。
言い換えると、本実施形態では、クリア印刷工程30によるクリアインク部の形成後、および、画像形成工程40による形成画像の形成後、飲料用缶100の外周面(外面)に塗料が塗布され、飲料用缶100の最外層に、オーバーコート層が形成される。ここで、オーバーコート層の形成は、ベースコート層の形成と同様に、ロールコートにより行う。
【0025】
オーバーコート層の形成に用いる塗料としては、アルキッド樹脂系、アクリル樹脂系、ビニル樹脂系、ポリエステル樹脂系、アミノ樹脂系、ポリウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系の塗料が挙げられる。
これらの中でも、塗膜硬度および耐水性の観点から、アミノ樹脂系の塗料を用いることが最も好ましい。また、オーバーコート層は、例えば、3~4μmの厚さで形成する。
【0026】
図3は、印刷装置500の斜視図である。
本実施形態では、クリア印刷工程30および画像形成工程40の各々に、
図3に示す印刷装置500が設けられている。
具体的には、クリア印刷工程30には、1台の印刷装置500が設けられ、画像形成工程40には、4台の印刷装置500が設けられている。
画像形成工程40では、YMCK(イエロー、マゼンタ、シアン、黒)の4色のインクを用いて画像の形成を行うが、画像形成工程40では、この4色のインクを吐出可能なように、
図3に示す印刷装置500が4台設けられている。
【0027】
画像形成工程40に設けられた4台の印刷装置500は、像形成手段として機能し、飲料用缶100の外周面230にインクを付着させて、カラーの形成画像を形成する。
また、画像形成工程40では、飲料用缶100を順次搬送するとともに、飲料用缶100の搬送方向に、4台の印刷装置500が並べられ、飲料用缶100が搬送されていく過程で、YMCKの4色のインクを用いての画像形成が行われる。
【0028】
より具体的には、本実施形態では、飲料用缶100の搬送方向上流側から搬送方向下流側に向かって、例えば、イエローの印刷装置500、マゼンタの印刷装置500、シアンの印刷装置500、黒の印刷装置500が順に並んでいる。
そして、本実施形態では、各印刷装置500に飲料用缶100が達する度に、飲料用缶100が停止し、停止している飲料用缶100へのインクの吐出が行われる。なお、飲料用缶100へインクの吐出が行われる際、飲料用缶100は、周方向に回転している。
【0029】
また、クリア印刷工程30に設けられた印刷装置500は、インク付着手段として機能し、飲料用缶100の外周面230にクリアインクを付着させて、クリアインク部(透明層)を形成する。
クリア印刷工程30に設けられた印刷装置500でも、印刷装置500に飲料用缶100が達すると、飲料用缶100は停止する。そして、停止し且つ周方向に回転している飲料用缶100へのクリアインクの吐出が行われて、クリアインク部が形成される。
【0030】
図3に示すように、印刷装置500には、インクジェットヘッド400が設けられている。このインクジェットヘッド400は、順次搬送されてくる飲料用缶100の上方に位置する。また、インクジェットヘッド400は、飲料用缶100の軸方向に沿うように配置されている。なお、上記のとおり、飲料用缶100は、円筒状の支持部材(マンドレル)600により支持されている。
また、インクジェットヘッド400の底部には、飲料用缶100の軸方向に沿って並ぶ複数のインク吐出口610が設けられ、このインク吐出口610から飲料用缶100へインクの吐出が行われる。
【0031】
クリア印刷工程30および画像形成工程40の各々では、不図示の駆動機構によって、支持部材600が周方向に回転し、これに伴い、飲料用缶100が周方向に回転する。
そして、周方向に回転しているこの飲料用缶100の外周面230に対して、インク(クリアインク、カラーのインク)の吐出が行われる。
【0032】
さらに、本実施形態の印刷装置500には、インクジェットヘッド400におけるインクの吐出を制御する印刷制御部510が設けられている。印刷制御部510は、プログラム制御されたCPU(Central Processing Unit)により構成されている。
本実施形態では、印刷制御部510によりインクジェットヘッド400が制御され、インク吐出口610から、下方に位置し周方向に回転している飲料用缶100に対してインクが吐出される。これにより、飲料用缶100の外周面230に、クリアインク部や形成画像が形成される。
【0033】
本実施形態では、クリアインク部、形成画像の形成にあたり、まず、印刷に用いる印刷データを生成する。
具体的には、原画の画像データ(以下、「原画像データ」と称する)に対する処理を施して、形成画像の形成に用いる印刷データ(「画像形成用印刷データ」と称する)と、クリアインク部の形成に用いる印刷データ(以下、「クリアインク部用印刷データ」と称する)とを生成する。
【0034】
そして、生成した画像形成用印刷データを、形成画像を形成する上記印刷装置500の各々に送信し、また、生成したクリアインク部用印刷データを、クリアインク部を形成する印刷装置500に送信する。
形成画像を形成する印刷装置500の各々では、送信されてきた画像形成用印刷データに基づき、飲料用缶100の外周面230への形成画像の形成を行う。また、クリアインク部を形成する印刷装置500では、送信されてきたクリアインク部用印刷データに基づき、飲料用缶100の外周面230へのクリアインク部の形成を行う。
【0035】
ここで、本実施形態では、画像形成用印刷データは、誤差拡散法による網点処理(ハーフトーン処理)を行うことにより生成する。また、クリアインク部用印刷データは、生成されたこの画像形成用印刷データに基づき生成する。
より具体的には、クリアインク部用印刷データは、誤差拡散法による網点処理により生成された画像形成用印刷データを白黒反転することにより生成する。
付言すると、本実施形態では、原画像データに対して網点処理を行って、画像形成用印刷データを生成する。そして、この画像形成用印刷データを用いて、クリアインク部用印刷データを生成する。
【0036】
クリアインク部用印刷データに基づき生成されるクリアインク部は、画像形成用印刷データに基づき形成される網点(ドット像)以外の箇所に形成される。
言い換えると、クリアインク部は、カラーのインクでの印刷を行わない部分(画素)に形成される。付言すると、クリアインク部は、飲料用缶100の外周面230のうちの、カラーのドット像が形成されない箇所である非形成箇所に形成される。
【0037】
さらに説明すると、クリアインク部を形成するクリアインクは、カラーのドット像を構成するインクの上記非形成箇所への滲みを抑制するための抑制用インクとして機能し、このクリアインクは、カラーのドット像が形成されない箇所である非形成箇所に付着する。
これにより、非形成箇所には、形成画像を構成するインクの移動(滲み)を抑制する抑制用インク層が形成されるようになり、形成画像における滲みが低減し、形成画像がより鮮明になる。なお、抑制用インク層は、無色透明であることが望ましいが、有色であることを排除するものではなく、白などの色を有していてもよい。
【0038】
図4は、画像形成用印刷データおよびクリアインク部用印刷データの生成手順を示したフローチャートである。なお、
図4に示すこの処理のうちの、印刷処理(ステップ112にて示す印刷処理)を除く処理(画像処理)は、CPUを備えたコンピュータ装置にて所定のプログラムを実行することで実行される。
【0039】
図4にて示す一連の処理では、まず、コンピュータ装置に対して原画像データを入力する(ステップ101)。なお、コンピュータ装置に入力されるこの原画像データは、例えば、写真やデザインなどの原画をスキャナーで読み取ることにより生成される。また、例えば、原画をデジタルカメラで撮影することにより生成される。また、その他に、原画自体をデジタルデータで生成してもよい。
【0040】
その後、解像度の変換を行う(ステップ102)。具体的には、原画像データの解像度を、予め定められた解像度に変換する処理を行う。
なお、インクジェットによる印刷では、600dpi(dot per inch)を使用することが多いため、変換後の解像度は、600ppi(pixel per inch)とすることが好ましい。
【0041】
次いで、原画像データの色調情報を取得する(ステップ103)。
その後、色変換(色分解)を行う(ステップ104)。具体的には、原画像データの色空間が、YMCK以外の色空間である場合には、原画像データを、YMCKの色空間の原画像データに変換する。デジタルカメラなどにより得られた原画像データは、RGBの色空間の画像データであることが多く、この場合、ステップ104の色変換処理では、RGBの色空間の原画像データを、YMCKの色空間の原画像データに変換する。
【0042】
ステップ104の処理により、イエロー、マゼンタ、シアン、黒の4色のそれぞれに対応した、4色分の原画像データが生成される。
その後、各色の原画像データの各々を、256階調のグレースケールに変換してから(ステップ105)、各色の原画像データの各々に対して、誤差拡散法による網点処理(ハーフトーン処理(2階調処理))を行う(ステップ106)。以上、ステップ101~106の処理により、各色に対応した画像形成用印刷データが生成される。
その後、生成された、各色の画像形成用印刷データの各々について、色調補正を行う(ステップ107)。具体的には、明るさ、コントラスト、カラーバランスなどの調整を行う。
【0043】
また、本実施形態では、誤差拡散法による網点処理により生成された上記各色の画像形成用印刷データに基づき、クリアインク部用印刷データを生成する。
具体的には、まず、ステップ108に示すように、各色の画像形成用画像データの重ね合わせを行い、4色分の形成画像が重ね合わせた状態の形成画像を示す画像形成用画像データ(クリアインク部形成用データ)を生成する。次いで、この画像形成用画像データの白黒反転を行う(ステップ109)。
【0044】
そして、白黒反転により黒となった画素を特定し、この黒となった画素の位置を示す情報を含んだ情報を、クリアインク部用印刷データとする(ステップ110)。
このクリアインク部用印刷データを用いてクリアインク部の形成を行えば、形成画像が形成されない箇所に、クリアインク部が形成されるようになる。本実施形態では、カラーのインクが載る画素により囲まれた1ドットの画素であっても、クリアインクが載る。
【0045】
その後、ステップ111に示すように、生成された画像形成用印刷データ(4色分の画像形成用印刷データ)と、生成されたクリアインク部用印刷データとを合成して、合成後印刷データを生成する(ステップ111)。
その後、本実施形態では、この合成後印刷データを印刷装置500の各々に供給し、印刷装置500の各々にて、この合成後印刷データに基づく印刷処理が行われる(ステップ112)。
【0046】
ここで、クリアインク部を形成する印刷装置500では、合成後印刷データに含まれるクリアインク部用印刷データに基づき、飲料用缶100へのクリアインクの吐出を行う。これにより、飲料用缶100の外周面230に、クリアインク部が形成される。
また、YMCKの各色の印刷を行う印刷装置500の各々では、合成後印刷データに含まれる画像形成用印刷データであって、自身の色に対応した画像形成用印刷データに基づき、飲料用缶100の外周面230へのインクの吐出を行う。これにより、飲料用缶100の外周面230に、カラーの形成画像が形成される。
【0047】
なお、本実施形態では、飲料用缶100の搬送方向において、クリアインク部を形成する印刷装置500の方が、形成画像を形成する印刷装置500よりも上流側に位置している。このため、本実施形態では、クリアインク部の形成が先に行われ、次いで、形成画像の形成が行われる。その後、飲料用缶100への紫外線照射が行われ、クリアインク部、形成画像の硬化が行われる。
【0048】
なお、本実施形態では、クリアインク部および形成画像の形成後に、紫外線を照射する場合を一例に説明したが、上記のとおり、クリアインク部の形成後、形成画像の形成後のそれぞれにおいて、紫外線の照射を行ってもよい。
また、本実施形態では、クリアインク部を形成画像よりも先に形成したが、形成画像をクリアインク部よりも先に形成してもよい。特に、抑制用インクとして下地と同色のインクを用いる場合は、形成画像をクリアインク部より先に形成してもよい。
【0049】
また、本実施形態では、クリアインク部を形成する際のインクの吐出量(インク吐出口610(
図3参照)の各々からのインクの吐出量(インク1滴あたりのインク量))が、各色の形成画像を形成する際のインクの吐出量と同じとなっている。
なお、クリアインク部を形成する際のインクの吐出量(インク1滴あたりのインク量)と、各色の形成画像を形成する際のインクの吐出量とを異ならせてもよい。
【0050】
具体的には、クリアインク部を形成する際のインクの吐出量を、各色の形成画像を形成する際のインクの吐出量よりも大きくしてもよい。
また、クリアインク部を形成する際のインクの吐出量を、各色の形成画像を形成する際のインクの吐出量の50%とするなど、クリアインク部を形成する際のインクの吐出量を、各色の形成画像を形成する際のインクの吐出量よりも小さくしてもよい。
【0051】
また、
図4の破線4Aで示すように、印刷処理を行った後の画像(飲料用缶100の外周面230上に形成された画像)の出来上がりに応じて、画像形成用印刷データの色調補正を再び行ってもよい。
なお、
図4では、図示を省略しているが、ステップ112の印刷処理が終了すると、上記のとおり、飲料用缶100の表面にオーバーコート層が形成される。
【0052】
(実施例および比較例)
発明者は、誤差拡散法による上記網点処理を行った画像形成用印刷データを用い、白色の下地塗装を行ったアルミニウム製の飲料用缶100(ベースコート層を形成したアルミニウム製の飲料用缶100)に対して、複数の網点(ドット像)を形成して、形成画像を形成した。そして、この形成画像の観察を行った。
【0053】
より具体的には、発明者は、飲料用缶100の外周面230に対して、黒のインクで、複数のドット像(網点)により構成された形成画像を形成し、また、このドット像以外の箇所に、クリアインク部を形成した。そして、この形成画像を観察した。
その一方で、発明者は、比較例として、飲料用缶100の外周面230に、形成画像のみを形成した(クリアインク部の形成を行わずに形成画像のみを形成した)。そして、この形成画像を観察した。
【0054】
なお、実施例および比較例においては、網点面積率を90%、70%、50%、30%、10%として形成画像を形成した。言い換えると、5種類の網点面積率で形成画像を形成した。
また、実施例および比較例では、滲みの程度を分かりやすくするため、黒のインクのみを用いて形成画像(ドット像)を形成した。
【0055】
また、実施例および比較例では、クリアインク部の形成を先に行い、その後、形成画像を形成した。次いで、紫外線の照射を行い、クリアインク部および形成画像を硬化させた。
また、実施例および比較例では、ベースコート層の厚さを約8μmとした。
また、実施例および比較例では、オーバーコート層の形成は行わずに、オーバーコート層が無い状態で、形成画像の観察を行った。
【0056】
図5は、実施例、比較例のそれぞれにおける飲料用缶100の表面の拡大写真を示した図である。なお、
図5では、符号5Aで示す白い横棒の長さLが100μmとなっている。
クリアインク部の形成を行っていない比較例では、ドット像を構成するインクの拡がり(滲み)が大きく、網点面積率が50%を超えると、飲料用缶100の全面にインクが拡がった。また、網点面積率が30%の場合も、インクの拡がりが大きく、本来ならばインクが載らない部分へインクが移動した。
これに対し、実施例では、インクの移動が抑えられ、インクの滲みを抑えることができた。これにより、実施例では、比較例に比べ、形成画像がより鮮明なものとなる。
【0057】
インクジェットヘッドによる飲料用缶100への印刷では、模様や文字などにより構成される画像を、飲料用缶100に形成すると、画像を形成するインクが部分的に流れる、インクの滲みが発生するおそれがある。
インクの滲みは、インクの液滴が着弾時の衝撃で拡がるドットゲインのほか、インクが飲料用缶100の表面にて移動することにより生じる。
【0058】
特に、本実施形態のように、回転している飲料缶100に対してインクを吐出して形成画像を形成する場合は、静止している被印刷物に対してインクを吐出する場合に比べ、滲みが発生しやすくなる。滲みが生じると、画像の細部や輪郭が不明瞭になったり、文字が読みにくくなったりする。
【0059】
これに対し、本実施形態では、クリアインク部が設けられているために、形成画像を構成するインクの移動が起きにくくなる。これにより、インクの滲みが抑制され、形成画像がより鮮明になる。
ここで、例えば、文字や模様の実体部分は、ベタ印刷により形成されることが多く、特に文字の場合は、文字の輪郭の外側は薄い色にすることが多い。この場合に滲みが生じると、文字が不鮮明となる。これに対し、本実施形態では、滲みが起きにくくなり、輪郭の綺麗な文字の印刷が可能となる。
【0060】
また、本実施形態のように、誤差拡散法により生成した画像形成用印刷データに基づき形成画像を形成し、さらに、形成画像が形成されない箇所に、クリアインク部を形成する場合、画像の色調が連続的に変化するグラデーション部分における印刷をより鮮明に行える。
【0061】
グラデーション部分にて滲みが生じると、本来意図した濃淡とは異なる濃淡で、形成画像が形成されるおそれがある。
図5の比較例にて示すように、クリアインク部が無く、滲みが生じてしまうと、網点面積率を変化させているにも関わらず、形成画像の濃淡の変化が小さいものとなる。これに対し、本実施形態のように(
図5の実施例のように)、クリアインク部を形成すると、網点面積率の変化に応じて、形成画像の濃淡が変化し、本来意図したグラデーションで形成画像を形成できるようになる。
【0062】
ここで、網点による印刷では、固定閾値による2値化、ディザ処理法があり、ディザ処理法では、パターンディザ法と誤差拡散法とに大きく分けられる。誤差拡散法を用いると、安定して自然なグラデーションが得られるようになる。
なお、上記では、誤差拡散法を用いて生成した画像形成用印刷データに基づき形成画像を形成したが、固定閾値による2値化や、パターンディザ法を用いて画像形成用印刷データを生成し、さらに、この画像形成用印刷データによる画像形成が行われない箇所に、クリアインク部を形成するようにしてもよい。この場合も、クリアインク部を形成しない場合に比べ、形成画像がより鮮明になる。
【符号の説明】
【0063】
10…ベースコート層形成工程、30…クリア印刷工程、40…画像形成工程、60…オーバーコート層形成工程、100…飲料用缶、230…外周面(外面)、400…インクジェットヘッド、500…印刷装置