(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート部材の製造方法及びプレキャストコンクリート部材
(51)【国際特許分類】
E04C 3/20 20060101AFI20220124BHJP
【FI】
E04C3/20
(21)【出願番号】P 2017030636
(22)【出願日】2017-02-22
【審査請求日】2019-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】木村 仁治
(72)【発明者】
【氏名】高井 茂光
(72)【発明者】
【氏名】金川 基
【審査官】立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-088832(JP,A)
【文献】特開2012-035524(JP,A)
【文献】特開2005-139730(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0104498(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/20
B28B 7/00-7/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合対象である他の構造部材から延びた主筋を挿通可能な貫通孔が形成されたプレキャストコンクリート部材の製造方法であって、
棒状の芯材の表面に弾性材料からなる被覆層を形成し、かつ、前記被覆層が前記芯材の周囲への
無負荷状態で円形断面をなす中実の弾性索状体の巻き付けにより径方向への凸部を形成した状態にある治具を用意する第1工程と、
型枠内の前記貫通孔を形成する予定の位置に前記治具を固定してコンクリートを打設する第2工程と、
脱型に際して所定の強度を発現したコンクリートから前記芯材及び前記弾性索状体を含む前記被覆層を順に除去することにより、
巻き付け時の張力及びコンクリートからの圧縮力により断面が偏平した円形に変形した状態の前記弾性索状体の凸部を型とし
て、断面が部分楕円形状をなす凹部を内面に有する前記貫通孔が前記芯材の軸方向に形成されたプレキャストコンクリート部材を得る第3工程と
を有するプレキャストコンクリート部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法において、
前記第1工程では、
前記芯材に弾性体チューブを被せ、その周囲に前記弾性索状体を少なくとも1条の螺旋状に巻き付けて凸部を形成したものを前記被覆層とすることを特徴とするプレキャストコンクリート部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法において、
前記第1工程では、
前記芯材に弾性体チューブを被せ、その周囲に前記弾性索状体が予め格子状に組まれた弾性体ネットを巻き付けて凸部を形成したものを前記被覆層とすることを特徴とするプレキャストコンクリート部材の製造方法。
【請求項4】
接合対象である他の構造部材から延びた主筋を挿通可能な貫通孔が形成されたプレキャストコンクリート部材の製造方法
であって、
棒状の芯材の表面に弾性材料からなる被覆層を形成し、かつ、前記被覆層が前記芯材の周囲への弾性索状体の巻き付けにより径方向への凸部を形成した状態にある治具を用意する第1工程と、
型枠内の前記貫通孔を形成する予定の位置に前記治具を固定してコンクリートを打設する第2工程と、
脱型に際して所定の強度を発現したコンクリートから前記芯材及び前記弾性索状体を含む前記被覆層を順に除去することにより、前記弾性索状体の凸部を型とした凹部を内面に有する前記貫通孔が前記芯材の軸方向に形成されたプレキャストコンクリート部材を得る第3工程とを有し、
前記第1工程では、
前記弾性索状体が格子状に組まれた状態で全体としてシート状をなす
とともに、網目部分の開口面積が型枠内に打設したコンクリートを不透過とする大きさとなるように格子の密集度合が設定された弾性体ネットを前記芯材に直に巻き付けて凸部を形成したものを前記被覆層とすることを特徴とするプレキャストコンクリート部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法において、
前記第1工程では、
前記芯材に前記弾性索状体同士を軸線方向に隙間なく螺旋状に巻き付け、互いに密集した凸部を形成したものを前記被覆層とすることを特徴とするプレキャストコンクリート部材の製造方法。
【請求項6】
構造部材を構成する鉄筋コンクリートの本体と、
前記本体を柱状に貫通して延び、接合対象となる他の構造部材から延びる主筋を挿通可能で内面にコンクリート地肌が露出した貫通孔と、
前記貫通孔の内面に沿って軸線方向に少なくとも一続きの螺旋状に延び、コンクリート地肌が径方向外側へ部分楕円形断面の溝状に凹んだ状態にある凹部と
を備えたプレキャストコンクリート部材。
【請求項7】
請求項6に記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記凹部は、
前記貫通孔の内面に沿って互いに交差した複数本の螺旋状に延びていることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項8】
請求項6に記載のプレキャストコンクリート部材において、
前記凹部は、
前記貫通孔の軸線方向に隙間なく螺旋状に延びており、前記溝状の凹みが軸線方向で互いに密集した状態にあることを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主筋の貫通孔にシース管を用いないプレキャストコンクリート部材の製造方法、及び、完成品としてのプレキャストコンクリート部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、高層RC建物の建設においては、柱梁接合部をプレキャスト(以下、「PCa」と称する。)化して組み立てる工法が多く用いられている。この公知の工法は、柱PCa部材に梁端部と柱の仕口部を一体としたPCa部材(以下、「パネルゾーンPCa部材」と称する。)を現場で接合するものである。このため、柱PCa部材には柱頭部から突出した柱主筋が延びており、また、パネルゾーンPCa部材には柱主筋に対応した位置に予め貫通孔が設けられている。そして、柱主筋を貫通孔に挿通させてパネルゾーンPCa部材を落とし込み、柱頭部目地と貫通孔に充填したモルタルによって両部材を一体化させる。
【0003】
従来、パネルゾーンPCa部材の貫通孔にはシース管を埋め込むことが一般的であった。これは、PCa成型時にシース管自身がコンクリート型枠となって貫通孔を良好に形成できること、シース管内面のリブがモルタル充填後に柱主筋の引き抜き強度を充分に発揮できること、等の事情によるものであるが、シース管の使用を省略することができれば、さらなる施工の合理化を図ることができることも事実である。
【0004】
このため近年の研究テーマの多くは、シース管レスで貫通孔をPCa部材に製作する方法に注目が集まっており、既にいくつかの研究論文が発表されている。例えば、(1)塩化ビニールホース及び鋼管により挿入孔を形成する方法(非特許文献1を参照。)や、(2)ワイヤーブラシを用いて貫通孔表面を粗面化する方法(非特許文献2を参照。)、(3)リブ付きのエア加圧式ゴムバッグによりコンクリート素地に凹凸を形成する方法(非特許文献3を参照。)等が知られている。これらの研究は、詳細な検証内容こそ異なるものの、大要「シース管レスとしたPCa部材の貫通孔が柱主筋の引き抜き強度をどこまで確保できるか」の点で共通している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「プレキャスト化したRC造柱梁接合部の静的載荷実験(その1 実験計画と結果概要)」、2013年建築学会大会論文
【文献】鈴木 英之、西原 寛、「プレキャスト化された柱梁接合部内における柱主筋貫通孔の使用が部分架構の構造性能に及ぼす影響」、コンクリート工学年次論文集、vol.30 No.3、2008年
【文献】「貫通孔内に後挿入された鉄筋の付着性状に関する実験的研究」、三井住友建設論文、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(1)非特許文献1に記載のものは、パネルゾーンPCa部材の柱梁主筋貫通孔をシース管レスで製作する方法として有用である。この方法で製作された主筋貫通孔は、シース管を用いた在来方法のものと同等以上の引き抜き強度があることが実験により確認されているが、貫通孔内面は平滑であり、シース管のような凹凸が設けられていない点には依然として改良の余地があると考えられる。
【0007】
上記(2)非特許文献2に記載の方法は、平滑にできた貫通孔内面を後加工によって粗面化するものであるが、PCa施工後に全ての貫通孔にワイヤーブラシを用いた後加工を施す必要があり、工数の増大がシース管レスの利点を打ち消してしまうため好ましくない。また、貫通孔内のコンクリート表面を粗面化しているとはいっても、やはり引き抜き強度の面では凹凸を設けた貫通孔の形状に及ばない。
【0008】
上記(3)非特許文献3に記載の方法は、リブ付きゴムバッグを型枠に用いて貫通孔内に凹凸を形成することができる点である程度の評価はできると考えられる。しかしながら、硬化後のコンクリートからゴムバッグを引き抜く際に外周のリブが全長にわたって抵抗となるため引き抜きが容易でなく、作業効率が極端に悪化するという問題がある。また、この方法ではゴムバッグのリブ部分を型枠として内面に凹凸を形成したものであるが、施工時に型枠となるリブの断面が多角形状であり、リブが抜けた後の貫通孔内にできた凹部断面が角形(台形)状となるため、隅角部(角頂点)までモルタルが充填されにくく、PCa部材の接合後に空洞(巣穴)が残るおそれがある。
【0009】
そこで本発明は、PCa部材にシース管レスで容易に貫通孔内に凹凸を設けることができる技術の提供を課題とする。
【0010】
また本発明は、PCa部材の貫通孔をシース管レスとしても充分な強度を得ることができる技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を提供する。
【0012】
〔製造方法の発明〕
第1工程:棒状の芯材の表面に弾性材料からなる被覆層を形成し、かつ、被覆層が芯材の周囲への弾性索状体の巻き付けにより径方向への凸部を形成した状態にある治具を用意する。
第2工程:型枠内の貫通孔を形成する予定の位置に治具を固定してコンクリートを打設する。
第3工程:脱型に際して所定の強度を発現したコンクリートから芯材及び弾性索状体を含む被覆層を順に除去する。これにより、弾性索状体の凸部を型とした凹部を内面に有する貫通孔が芯材の軸方向に形成されたプレキャストコンクリート部材を得る。
【0013】
本発明の方法によれば、以下の点で優位性が得られる。
(1)プレキャスト施工時に型枠内に設置する治具は、「芯材」と弾性索状体を含む「被覆層」で構成されているため、コンクリート硬化後にこれらを「芯材」と「被覆層」に分けて順番に除去することができる。すなわち、硬化後のコンクリートから先ず芯材を除去する際は、芯材自身が単純な棒状であるため特段の抵抗を受けることがなく、容易にこれを除去可能である。次に、芯材を除去した後のコンクリート内部には被覆層が残された状態となるが、弾性索状体を含む被覆層は弾性材料であるため、縦方向への引き抜き力を加えるだけで横方向へは自ら縮み、コンクリート境界面から容易に剥離することができる。これにより、「芯材」及び「被覆層」のいずれも大きな抵抗を受けることなく、硬化後のコンクリートから容易に除去することができる。
【0014】
(2)「芯材」及び「被覆層」が除去された跡には、内部にコンクリート地肌が露出した貫通孔が現れることとなるが、その内面には弾性索状体の凸部を型とした凹部が設けられた状態となる。これにより、主筋の貫通孔内に凹凸を有したプレキャストコンクリート部材の完成品を得ることができる。
【0015】
〔治具のバリエーション〕
本発明の製造方法で用いる治具には、以下のバリエーションが含まれる。
(i)芯材に弾性体チューブを被せ、その周囲に弾性索状体を少なくとも1条の螺旋状に巻き付けて凸部を形成したものを被覆層とするもの。
(ii)芯材に弾性体チューブを被せ、その周囲に弾性索状体が予め格子状に組まれた弾性体ネットを巻き付けて凸部を形成したものを被覆層とするもの。又は、弾性索状体が格子状に組まれた状態で全体としてシート状をなす弾性体ネットを芯材に直に巻き付けて凸部を形成したものを被覆層とするもの。なお、シート状をなす弾性体の表面に凸部となる弾性索状体が格子状をなして一体成型されたものを芯材に直に巻き付けてもよい。
(iii)芯材に弾性索状体同士を軸線方向に隙間なく螺旋状に巻き付け、互いに密集した凸部を形成したものを被覆層とするもの。
【0016】
上記(i)の治具を用いた場合、プレキャストコンクリート部材の完成時に貫通孔の内面に形成される凹部は少なくとも一続きの螺旋状に延びた態様となる。
上記(ii)の治具を用いた場合、プレキャストコンクリート部材の完成時に貫通孔の内面に形成される凹部は、内面に沿って互いに交差した複数本の螺旋状に延びた態様となる。
上記(iii)の治具を用いた場合、プレキャストコンクリート部材の完成時に貫通孔の内面に形成される凹部は、貫通孔の軸線方向に隙間なく螺旋状に延びており、かつ、軸線方向で互いに密集した態様となる。
【0017】
いずれにしても、上記(i)~(iii)の治具を用いた方法により得られた完成品のプレキャストコンクリート部材は、シース管レスで形成した貫通孔内に凹凸を有したものとなり、接合後に充分な引き抜き強度を得ることができる。
【0018】
〔特徴的な凹部の形態〕
ここで、本発明の製造方法により得られる完成品としてのプレキャストコンクリート部材は、貫通孔内面の凹部が特徴的な形態を有している。すなわち、凹部は貫通孔の内面に沿って軸線方向に少なくとも一続きの螺旋状に延びており、コンクリート地肌が径方向外側へ部分楕円形断面の溝状に凹んだ状態にある。ここで、凹部を螺旋状に延びた溝状とすること自体は従来のものに近いが、凹部縦断面の形状を部分楕円形とした構成は従来にない。
【0019】
例えば、従来公知である多角形状断面の凹部は、上述のように充填時に隅角部までモルタルが行きわたらず、空洞(巣穴)を残すおそれがあったが、本発明のものは凹部断面が角形状ではなく、部分楕円形状であるため内部全体に充填されやすく、施工後に空洞が残るおそれがないという優位性を発揮する。
【0020】
〔完成品に至る過程〕
上記の優位性には、本発明の製造方法による寄与が多大である。先ず、「シース管レスとした貫通孔内に凹凸を形成する」という観点だけからすれば、既に従来公知(非特許文献3)のものが存在するが、そのための製造方法は、「多角形状リブ付きゴムバッグを用いる」というものであった。しかし、この方法には上記のように「作業効率の悪化」という問題があり、さらに、得られた完成品の凹部形状にも「モルタル充填時の不良」という問題が懸念された。
【0021】
そこで本発明の発明者等は鋭意研究を重ねた結果、製造方法における「作業効率の向上」に加えて、完成品としての「モルタル充填時の良好化」を同時に解決する技術を創案するに至ったのである。その結果、本発明の製造方法では、「弾性索状体の巻き付けにより形成された凸部」を型としてコンクリート表面に凹部を形成する。「弾性索状体」であれば、上述のとおり縦方向への引き抜き力で容易に縮径するため、自身が型となっていた空間からも容易に離脱することができる。これにより、「作業効率の飛躍的な向上」が達成されたことになるが、本発明の製造方法では、治具の製作において弾性索状体は巻き付けに伴う変形を生じることが分かっている。発明者等はこの点に着目し、「自由(無負荷)状態で円形断面の弾性索状体を用いれば、巻き付け時の張力及び圧縮力による変形で断面が偏平した円形となり、これを型とした凹部の断面形状は従来に見られない特徴的な部分楕円形状となる」との知見に至った。これにより、完成品としてのプレキャストコンクリート部材が提供され、シース管レスとした貫通孔内面に形成された凹部の断面に上記の特徴が付与されたのである。
【0022】
また、完成品としてのプレキャストコンクリート部材が有する凹部の様々な形態は、本発明の製造方法に至る過程から創出されたものであるが、完成状態としての性能はいずれも高いものであり、特徴的な断面形状と相俟って、組立後の引き抜き強度を大きく向上するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、PCa部材にシース管レスで容易に貫通孔内に凹凸を設けることができる。
【0024】
また、本発明によれば、PCa部材の貫通孔をシース管レスとしても充分な強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施形態のプレキャストコンクリート部材を用いた柱梁接合部の組み立て作業を概略的に示す図である。
【
図2】
図1中のII-II線に沿う縦断面図である。
【
図3】比較例となるパネルゾーンPCa部材の貫通孔を示す縦断面図である。
【
図4】パネルゾーンPCa部材の製造方法に用いる治具の例を示した斜視図である。
【
図6】治具を用いてパネルゾーンPCa部材を製作する過程を示した図である。
【
図7】治具を除去する手順について説明した図である。
【
図8】パネルゾーンPCa部材の製造方法を工程順に示したフローチャートである。
【
図9】第2実施形態のパネルゾーンPCa部材の貫通孔の形状を示す縦断面図である。
【
図10】第2実施形態のパネルゾーンPCa部材の製造方法に用いることができる2つの治具示す斜視図である。
【
図11】第3実施形態のパネルゾーンPCa部材の貫通孔の形状を示す縦断面図である。
【
図12】第3実施形態のパネルゾーンPCa部材の製造方法に用いることができる治具の製作手順を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、一実施形態のプレキャストコンクリート部材を用いた柱梁接合部の組み立て作業を概略的に示す図である。プレキャストコンクリート部材であるパネルゾーンPCa部材100は、梁部102と柱の仕口部104、及び鉄筋108を一体とした構造部材である。パネルゾーンPCa部材100は、他の構造部材である柱PCa部材200を接合対象として組み立てられる。柱PCa部材200には、柱頭部202から必要な本数の柱主筋204が突出して設けられている。
【0028】
パネルゾーンPCa部材100には、柱主筋204の位置に対応して予め複数本の貫通孔106が形成されている。この例では、貫通孔106は仕口部104を上下に貫通して延びている。
図1では単に円柱状の線(破線)で示されているが、実際には貫通孔106の内面には凹凸がある。柱梁接合部の組み立て作業では、個々の貫通孔106に柱主筋204を挿通させて(又は挿入して)柱PCa部材200にパネルゾーンPCa部材100を落とし込み、貫通孔106内にモルタル(グラウト)を充填することで両者を一体化させる。
【0029】
〔貫通孔形状〕
図2は、
図1中のII-II線に沿う縦断面図である。このうち
図2中(A)は組み立て前の状態を示し、
図2中(B)は組立後(グラウト充填後)の状態を示している。
【0030】
図2中(A):貫通孔106の内部形状が詳しく示されている。貫通孔106の内面には、その全体にコンクリート地肌(素地)が剥き出している。さらに、貫通孔106の内面は平滑部106a及び凹部106bの2つの領域を有している。このうち平滑部106aは円筒の内壁面に沿った形状をなしているが、凹部106bは平滑部106aに対し、そのコンクリート地肌を径方向の外側へ溝状に凹ませた状態にある。また、凹部106bは、図示の縦断面が部分楕円形状(又は部分長円形状)をなしており、全体としては貫通孔106の軸線方向に一続きの螺旋状をなして延びている。なお、図示の例では貫通孔106の上から下まで1条の螺旋状を描いているものとする。
【0031】
図2中(B):柱梁接合部の組立後は、柱主筋204が貫通孔106内に挿通された状態で、その内部はグラウト300により充填されている。このとき、貫通孔106内では柱主筋204と平滑部106aとの間からグラウト300が充填されていくが、凹部106bの断面形状が部分楕円形状であるため、凹部106b内の隅々までグラウト300が容易に行きわたり、良好な充填を行うことができる。
【0032】
〔比較例〕
図3は、比較例となるパネルゾーンPCa部材500の貫通孔506を示す縦断面図である。このうち
図3中(A)は組み立て前の状態を示し、
図3中(B)は組立後(グラウト充填後)の状態を示している。
【0033】
図3中(A):比較例においても、貫通孔506には凹部506bが設けられており、一実施形態の凹部106bと同様に比較例における凹部506bも螺旋状をなしている。しかし、比較例では凹部506bの断面が多角形状(台形状)である点が大きく異なっている。このような形状の凹部506bは、例えばプレキャスト施工時にリブ付きゴムバッグを型枠に用いた場合に得られるものである。
【0034】
図3中(B):比較例のパネルゾーンPCa部材500で組み立てを行うと、貫通孔506に充填したグラウト300が凹部506bの全体にまで行きわたらない。これは、凹部506bの断面が多角形状であるため、充填の過程でグラウト300が隅々まで流れ込みにくく、隅角部(頂点部)を中心として空間(巣穴)が残ってしまうからである。このような状況にあっては、せっかく貫通孔506内に設けた凹凸を充分に生かし切れず、柱主筋204の引き抜き強度を所望に確保することができない。
【0035】
これに対し、本実施形態によれば、凹部106bの断面形状が部分楕円形状であるため、充填したグラウト300が隅々まで容易に流れ込み、確実な充填により所望の引き抜き強度を発現することができる。
【0036】
〔製造方法の説明〕
次に、パネルゾーンPCa部材100の製造方法に好適な実施形態について説明する。
【0037】
図4は、パネルゾーンPCa部材100の製造方法に用いる治具の例を示した斜視図である。
図4でみて左から順に、単管パイプ400、ビニールホース(ゴムチューブ)402及びゴムひも404であり、これらの材料が治具として好適に用いられる。
【0038】
〔材料仕様〕
単管パイプ400には、各種の鋼管(例えばSGP、STPG、STK等)を用いることができる。単管パイプ400の長さLpは、製作するパネルゾーンPCa部材100の仕口部104の高さを基準として、これよりある程度(例えば200mm以上)長く設定することができる。また、外径(呼び径)Dpについては、製作する貫通孔106の基準内径(平滑部104aにおける内径)を基準として、これより小さく設定することができる。
【0039】
ビニールホース402には、各種の弾性材料(例えば、塩化ビニール系ゴム、天然ゴム、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴム、スチレン系ゴム、ウレタン系ゴム等)を用いることができる。弾性材料の特性としては、縦ひずみに対して横ひずみがある程度追従するものが好ましい。ビニールホース402の長さLhは、製作するパネルゾーンPCa部材100の仕口部104の高さを基準として、これより僅かに長く設定することができる。また、内径Idについては、単管パイプ400の外径Dpより僅かに大きく設定することができる。
【0040】
ゴムひも404には、各種の弾性材料(例えば、塩化ビニール系ゴム、天然ゴム、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴム、スチレン系ゴム、ウレタン系ゴム等)を用いることができる。ここでも同様に、弾性材料の特性としては、縦ひずみに対して横ひずみがある程度追従するものが好ましい。また、ゴムひも404は一例として円形断面の弾性索状体とし、その外径は、製作する貫通孔106の基準内径を基準として、これとの比率により設定することができる。また、ゴムひも404の長さは、ビニールホース402の外側から螺旋状に巻き付けて下から上まで到達できる長さとする。
【0041】
〔治具の製作(調製)〕
図5は、治具の製作手順を示した図である。
図5中(A):先ず、芯材としての単管パイプ400にビニールホース402を被せる。このとき、単管パイプ400の一端にビニールホース402の一端を合わせる。これらを合わせた一端は、治具となった場合の下端とする。
【0042】
図5中(B):次に、ゴムひも404の一端を上記の下端部に適宜固定し、単管パイプ400及びビニールホース402の周囲にゴムひも404を螺旋状に巻き付けていく。このとき、ゴムひも404には適度な張力を付加していき、ビニールホース402に対して適度に密着させることとする。これにより、ゴムひも404は断面がある程度偏平した状態で巻かれることになる。なお、巻き方向は任意としてよい。
【0043】
図5中(C):ゴムひも404を上端まで巻き終わったら、上端部を適宜固定して治具600とする。これにより、単管パイプ400の表面にビニールホース402及びゴムひも404からなる被覆層が形成された状態となる。このような被覆層は、ゴムひも404の巻き付けにより径方向(外径方向)への凸部を形成した状態となる。なお、ゴムひも404の巻き間隔Wpは、例えばビニールホース402の長さLpを基準として、これの1/10~1/20程度(巻き数10~20回程度)とすることができる。また、巻き間隔Wpは常に一定でなくてもよい。
【0044】
〔プレキャスト施工〕
図6は、治具600を用いてパネルゾーンPCa部材100を製作する過程を示した図である。
【0045】
図6中(A):所望の型枠700に治具600を必要な本数だけ設置(固定)する。治具600を設置する位置は、型枠700内で貫通孔106を形成するべき予定位置とする。また別途、鉄筋108についての配筋も行う。
【0046】
図6中(B):適宜、ホッパ702等を用いて型枠700内にコンクリートCを打ち込む。
図6中(C):補助的な型枠702を設置してパネルゾーンPCa部材100の外形を仕上げ、時間を置いてコンクリートCを硬化させる。
【0047】
〔治具の除去手順〕
図7は、治具600を除去する手順について説明した図である。
治具600の除去は、コンクリートの硬化により所定の強度を発現した後に行う。ここでは、以下の順番で治具600を除去することとする。
【0048】
(1)先ず、全ての単管パイプ400を抜き取る。このとき、単管パイプ400の外径Dpはビニールホース402の内径Idより小さいため、単管パイプ400の抜き取りはスムーズに行うことができる。単管パイプ400を除去した後には、コンクリート(仕口部104)内部にビニールホース402及びゴムひも404からなる被覆層が残された状態となる。
【0049】
(2)次に、全てのビニールホース402を抜き取る。このとき、ビニールホース402を上方へ引っ張れば、その縦ひずみ(伸び)に追従してビニールホース402が横ひずみ(縮径)を生じるので、ビニールホース402の引き抜きも容易に行うことができる。ビニールホース402を除去した後には、コンクリート(仕口部104)内部にはゴムひも404が残された状態となる。また、この段階までくると、貫通孔106の平滑部106aまでがほとんど露出した状態となる。
【0050】
(3)最後に、全てのゴムひも404を抜き取る。このとき、ゴムひも404はコンクリート(仕口部104)内部で螺旋状に埋まった状態にあるが、ゴムひも404を上端部から引っ張れば、その縦ひずみ(伸び)に追従してゴムひも404が横ひずみ(縮径)を生じるので、ゴムひも404は自身が型となって埋まっていた空間から用意に離脱することができる。ゴムひも404を除去した跡は、これを型とした凹部106bが貫通孔106の内面に沿って螺旋状に形成された状態となる。
【0051】
〔製造方法の手順例〕
図8は、パネルゾーンPCa部材100の製造方法を工程順に示したフローチャートである。
【0052】
〔第1工程〕
ステップS100:上記の要領により、貫通孔106を施工するための治具600を調製(製作)する。
【0053】
〔第2工程〕
ステップS102:型枠700内で貫通孔106を形成する予定の位置に全ての治具600を固定する。また、適宜配筋も行う。
ステップS104:型枠700内にコンクリートを打ち込む。
【0054】
〔第3工程〕
ステップS106:全ての単管パイプ400を除去する。
ステップS108:全てのビニールホース402を除去する。
ステップS110:全てのゴムひも404を除去する。
また、適宜型枠700を脱型してパネルゾーンPCa部材100を得る。
【0055】
〔その他の実施形態〕
以上がプレキャストコンクリート部材の製造方法及びプレキャストコンクリート部材の一実施形態であるが、その他の実施形態についても以下に説明する。
【0056】
〔第2実施形態〕
図9は、第2実施形態のパネルゾーンPCa部材100の貫通孔106の形状を示す縦断面図である。
第2実施形態では、凹部106bが交差した螺旋状をなして軸線方向(上下方向)に延びている点が異なっている。このような凹部106bは、互いに交差した複数本の螺旋状(又は斜め格子状)に延びた形態である。また、凹部106bの断面は部分楕円形状である。
【0057】
〔第2実施形態の製造方法〕
図10は、第2実施形態のパネルゾーンPCa部材100の製造方法に用いることができる2つの治具602,604を示す斜視図である。
【0058】
図10中(A):1つ目の治具602は、先に示した治具600のゴムひも404を交差した螺旋状(斜めの格子状)に巻き付けたものである。この場合、ゴムひも404の交差する部分が他に比べて外側に少し盛り上がった状態となるが、凹部106bの成型やコンクリート内部からの抜き取りに際して特段の問題にはならない。また、ゴムひも404は、巻き付け順でみて先になる方から抜き取ればよい。
【0059】
図10中(B):2つ目の治具604は、先に示した治具600のゴムひも404に代えて、ゴムネット406を巻き付けたものである。
図10中(B)の右がゴムネット406を広げた状態(展開図)、中央がゴムネット406を円筒状に巻いた状態を示す。ゴムネット406は、予め弾性索状体としてのゴムひも406aが格子状に組まれたもの、あるいは、格子状(網目状)に一体成型されたゴム製のネットである。ゴムネット406は、ビニールホース402の長さLhに等しい長さ、ビニールホース402の外周長に等しい幅を有していればよい。また、ゴムネット406は長手方向でみて斜めの格子状とした状態で用いるものとする。抜き取りに際しては、ゴムネット406を引き抜くことで個々の索状部分が縮径し、これまでと同様に用意に除去することが可能である。
【0060】
〔直巻きの形態〕
また、通常はゴムネット406の網目部分406bは開口しているが、格子の密集度合(いわゆるメッシュ)を可能な限り高くすることで網目部分406bの開口面積を極限まで小さくすることもできる。このように網目部分406bの開口面積を極小とすれば、ゴムネット406が全体として1枚のシート状をなす弾性体となることから、型枠700内で打設したコンクリートを不透過とすることもできる。したがって、この場合はビニールホース402を用いることなくゴムネット406を単管パイプ400に直に巻き付けて治具604としてもよい。
【0061】
図示していないが、上記とは別の形態として弾性材料からなるシート状の弾性体シートを基材とし、その片面又は両面に格子状に配列させた弾性索状体を一体成型して凸部を形成したものを単管パイプ400に直に巻き付けて治具604としてもよい。この場合、
図10中(B)で網目部分406bは開口ではなく、弾性体シートの基材部分となる。あるいは、個々にドーム状をなす複数の突起(図示せず)をシート状の弾性体シートの基材に一体成型し、突起部分を索状に連続的に配列して全体をゴムひも406aのような弾性索状体としてもよい。
【0062】
〔第3実施形態〕
図11は、第3実施形態のパネルゾーンPCa部材100の貫通孔106の形状を示す縦断面図である。
第3実施形態では、凹部106bが貫通孔106の軸線方向(上下方向)に隙間なく螺旋状に延びており、各凹部106bが互いに密集した状態にある点が異なっている。この場合、貫通孔106の内面には平滑部106aがない(なお、一部に存在してもよい。)。また、ここでも凹部106bの断面は部分楕円形状である。
【0063】
〔第3実施形態の製造方法〕
図12は、第3実施形態のパネルゾーンPCa部材100の製造方法に用いることができる治具606の製作手順を示した図である。
【0064】
図12中(A):ここでは、芯材としての単管パイプ400に対し、ゴムひも404を直に巻き付けていく。つまり、単管パイプ400の下端部にゴムひも404の一端を固定し、張力を掛けながら螺旋状に巻き付けていくのである。そして、ここではゴムひも404を1巻きする毎に密集させ、長手方向に隙間をあけることなく巻き付けていく。
【0065】
図12中(B):貫通孔106の深さ分だけゴムひも404を巻き付けると、単管パイプ400にはゴムひも404による被覆層が形成された状態となり、このとき被覆層にはゴムひも404を密集させて巻き付けたことによる凸部が隙間なく形成されている。このような治具606の除去は、先に単管パイプ400を抜き取り、次にゴムひも404を抜き取るという順に行うことができる。
【0066】
上述した各実施形態のパネルゾーンPCa部材100によれば、柱主筋204の貫通孔106をシース管レスとすることがコストを削減し、かつ、内面に形成した凹凸(凹部106b)により確実な引き抜き強度を得ることができる。
【0067】
また、各実施形態のパネルゾーンPCa部材100を得る製造方法によれば、柱主筋204の貫通孔106をシース管レスで製作し、かつ、内面に凹凸(凹部106b)を容易に形成することができる。
【0068】
本発明は上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施可能である。一実施形態では、パネルゾーンPCa部材100を例に挙げているが、本発明のプレキャストコンクリート部材はその他の構造部材であってもよく、本発明の製造方法もこれに適用可能である。
【0069】
一実施形態では、治具600等の製作に単管パイプ400やビニールホース402、ゴムひも404を用いるとしているが、これらの材質(素材)は適宜に変更可能である。また、単管パイプ400は角筒状であってもよいし、ゴムひも404の断面は円形状のものに限らない。
【符号の説明】
【0070】
100 パネルゾーンPCa部材
102 梁部
104 仕口部(本体)
106 貫通孔
106a 平滑部
106b 凹部
108 鉄筋
400 単管パイプ(芯材)
402 ビニールホース(被覆層)
404 ゴムひも(弾性索状体、被覆層)