(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】同じ波形を有するECG信号の識別
(51)【国際特許分類】
A61B 5/367 20210101AFI20220124BHJP
A61B 5/35 20210101ALI20220124BHJP
【FI】
A61B5/367
A61B5/35
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017153926
(22)【出願日】2017-08-09
【審査請求日】2020-06-11
(32)【優先日】2016-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】エラド・ナカル
(72)【発明者】
【氏名】アミール・ベン-ドール
(72)【発明者】
【氏名】ノーム・セケル・ガフニ
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-503319(JP,A)
【文献】特開2008-237882(JP,A)
【文献】特表2010-516430(JP,A)
【文献】米国特許第05000189(US,A)
【文献】米国特許第6236883(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサを備える装置の作動方法であって、
前記プロセッサが、
ヒト被験者の1つの心拍に対して取られた心電図(ECG)信号の初期セットを選択することであって、前記
初期セットが、前記
ヒト被験者の不整脈のテンプレートとして使用されるそれぞれの波形を有する、ことと、
前記ヒト被験者の後続心拍に対して取られたECG信号の後続セットを受け取ることと、
前記初期セットと前記後続セットとの間の相互相関解析を行うことにより、前記初期セットの幾何学的形状と前記後続セットの幾何学的形状との間の適合度の尺度である相関係数を生成することと、
前記相互相関解析を実施する前に、前記初期セットと前記後続セットとの間に位相シフトを適用し、前記位相シフトを繰り返し変化させて最大相関係数を決定することと、
前記
最大相関係数がある閾値係数を超えている場合、前記後続心拍が前記不整脈により生じたものであると
判定することと、
を
実行し、
前記相関係数を生成することが、前記後続セットの信号と当該信号と対応する前記初期セットの信号との間の適合度の尺度である単一チャネル相関係数の加重和を生成することを含み、
前記加重和が、前記後続セットの信号の絶対最大振幅と当該信号と対応する前記初期セットの信号の絶対最大振幅との和によって重みづけされる、方法。
【請求項2】
前記プロセッサが、
前記初期セットの発生の初期セット推定時間周辺の初期セット時間関心領域(初期セットWOI)
を規定し、前記後続セットの発生の後続セット推定時間周辺の後続セット時間関心領域(後続セットWOI)
を規定し、前記初期セットWOI内の前記初期セットの信号と、前記後続セットWOI内の前記後続セットの信号と、を使用して、前記相互相関解析を実施することと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記初期セットWOI及び前記後続セットWOIが、共通の時間幅を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記後続心拍が前記不整脈により生じたものであるとして受け入れることが、前記不整脈の位置の指標を、前記ヒト被験者の心臓マップ内に取り込むことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ECG信号が体表(BS)ECG信号である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ECG信号が心内(IC)ECG信号である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
装置であって、
ヒト被験者の1つの心拍に対して取られた、前記
ヒト被験者の不整脈のテンプレートとして使用されるそれぞれの波形を有する心電図(ECG)信号の初期セットを受け取り、かつ、前記ヒト被験者の後続心拍に対して取られたECG信号の後続セットを受け取るよう構成されている、一組の電極と、
前記初期セットと前記後続セットとの間の相互相関解析を行うことにより、前記初期セットの幾何学的形状と前記後続セットの幾何学的形状との間の適合度の尺度である相関係数を生成するよう構成され、
前記相互相関解析を実施する前に、前記初期セットと前記後続セットとの間に位相シフトを適用し、前記位相シフトを繰り返し変化させて最大相関係数を決定するように構成され、
前記
最大相関係数がある閾値係数を超えている場合、前記後続心拍が前記不整脈により生じたものであるとして受け入れるよう構成されている、プロセッサ
を含み、
前記相関係数を生成することが、前記後続セットの信号と当該信号と対応する前記初期セットの信号との間の適合度の尺度である単一チャネル相関係数の加重和を生成することを含み、
前記加重和が、前記後続セットの信号の絶対最大振幅と当該信号と対応する前記初期セットの信号の絶対最大振幅との和によって重みづけされる、
装置。
【請求項8】
前記初期セットの発生の初期セット推定時間周辺の初期セット時間関心領域(初期セットWOI)を
規定し、前記後続セットの発生の後続セット推定時間周辺の後続セット時間関心領域(後続セットWOI)を
規定し、前記初期セットWOI内の前記該初期セットの信号と、前記後続セットWOI内の前記後続セットの信号と、を使用して、前記相互相関解析を実施することと、を含む、請求項
7に記載の装置。
【請求項9】
前記初期セットWOI及び前記後続セットWOIが、共通の時間幅を有する、請求項
8に記載の装置。
【請求項10】
前記後続心拍が前記不整脈により生じたものであるとして受け入れることが、前記不整脈の位置の指標を、前記ヒト被験者の心臓マップ内に取り込むことを含む、請求項
7に記載の装置。
【請求項11】
前記ECG信号が体表(BS)ECG信号である、請求項
7に記載の装置。
【請求項12】
前記ECG信号が心内(IC)ECG信号である、請求項
7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2016年8月10日に出願された米国仮出願第62/372,969号の利益を主張し、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概ね心電図(ECG)信号に関するものであり、より詳細には類似の波形を有するECG信号の検出に関するものである。
【背景技術】
【0003】
不整脈を生じている心内腔の領域を正確にマッピングするためには、その特定の不整脈を表している信号(すなわち心拍)のみを捕えることが重要となる。異所性心拍、組織の機械的刺激、及び同じ周期長さの代替活性化パターンによる波形の不整脈変化などの影響による信号は、無視されるべきである。そのような信号からの結果をマップに組み込むと、局所活性化マップに不正確さが生じ、不整脈の視覚化の変形により、不整脈メカニズムを明確に識別することが困難になる。
【0004】
本特許出願に参照により組み込まれる文献は、いずれかの用語がこれらの組み込まれた文献において、本明細書で明確に又は暗示的になされる定義と矛盾する形で定義されている場合には、本明細書中の定義のみが考慮されるべきである点を除いて、本出願の一部とみなされるものとする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態は、1つの方法を提供するものであり、その方法は、
ヒト被験者の1つの心拍に対して取られた心電図(ECG)信号の初期セットを選択することであって、このセットは、被験者の不整脈のテンプレートとして使用されるそれぞれの波形を有する、ことと、
ヒト被験者の後続心拍に対して取られたECG信号の後続セットを受け取ることと、
初期セットと後続セットとの間の相互相関解析を行うことにより、初期セットの幾何学的形状と後続セットの幾何学的形状との間の適合度の尺度である相関係数を生成することと、
相関係数がある閾値係数を超えている場合、後続心拍が不整脈により生じたものであるとして受け入れることと、を含む。
【0006】
開示されている一実施形態は、初期セットの発生の初期セット推定時間周辺の初期セット時間関心領域(初期セットWOI)を線で描くことと、後続セットの発生の後続セット推定時間周辺の後続セット時間関心領域(後続セットWOI)を線で描くことと、この初期セットWOI内の初期セットの信号と、この後続セットWOI内の後続セットの信号と、を使用して、相互相関解析を実施することと、を含む。典型的に、初期セットWOI及び後続セットWOIは、共通の時間幅を有する。
【0007】
更に開示されている一実施形態は、相互相関解析を実施する前に、初期セットと後続セットとの間に位相シフトを適用することを含む。更に開示されている実施形態は、更に、位相シフトを繰り返し変化させて最大相関係数を決定することと、この最大相関係数がある閾値係数を超えている場合、後続心拍が不整脈により生じたものであるとして受け入れることと、を含む。
【0008】
また更に開示されている一実施形態において、その後続心拍が不整脈により生じたものであるとして受け入れることは、不整脈の位置の指標を、ヒト被験者の心臓マップ内に取り込むことを含む。
【0009】
ECG信号は、体表(BS)ECG信号であり得る。
【0010】
代替的に又は付加的に、ECG信号は心内(IC)ECG信号であり得る。
【0011】
本発明の一実施形態により、更に装置が提供され、この装置は、
ヒト被験者の1つの心拍に対して取られた、被験者の不整脈のテンプレートとして使用されるそれぞれの波形を有する心電図(ECG)信号の初期セットを受け取り、かつ、このヒト被験者の後続心拍に対して取られたECG信号の後続セットを受け取るよう構成されている、一組の電極と、
その初期セットと後続セットとの間の相互相関解析を行うことにより、初期セットの幾何学的形状と後続セットの幾何学的形状との間の適合度の尺度である相関係数を生成するよう構成され、かつ、この相関係数がある閾値係数を超えている場合に、この後続心拍が不整脈により生じたものであるとして受け入れるよう構成されている、プロセッサと、を含む。
【0012】
以下の本開示の実施形態の詳細な説明を図面と併せ読むことで、本開示のより完全な理解が得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による侵襲性医療処置の概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるECG波形合致アルゴリズムの入力及び出力を示す概略ブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるECG波形合致アルゴリズムを示す概略ブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるアルゴリズムのブロック動作を示す概略図である。
【
図5】本発明の一実施形態によるアルゴリズムのブロック動作を示す概略図である。
【
図6】本発明の一実施形態によるアルゴリズムのブロック動作を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
概説
本発明の実施形態は、ECG信号において同じ波形を表すすべての心拍を識別することを目的とした、ECG波形合致アルゴリズムを提供する。このアルゴリズムは、体表(BS)(典型的に12誘導)信号及び/又は心内(IC)信号に適合する。このアルゴリズムは、ECG信号の波形パターンを入力として受け取り、連続ECG信号中で同じ波形を探す。
【0015】
本発明のユーザーは、特定の注釈周囲で関心領域(WOI)を規定することにより、入力波形パターンを選択する。このアルゴリズムは、選択されたパターンの波形を、入ってくるECG信号の波形と比較する。所定の重み付き相関閾値範囲内にある心拍は、同じ波形を表すとみなされる。このアルゴリズムは、心拍信号が心臓内のプローブにより取得される際に、リアルタイムで作動する。
【0016】
このアルゴリズムの結果を使用することにより、合致した心拍の発生源である心臓領域を、心臓マップ上に自動的に示すことができる。
【0017】
本発明の一実施形態は、ヒト被験者の1つの心拍に対して取られた心電図(ECG)信号の初期セットを選択することであって、このセットが、被験者の不整脈のテンプレートとして使用されるそれぞれの波形を有する、ことと、このヒト被験者の後続心拍に対して取られたECG信号の後続セットを受け取ることと、を含む方法を提供する。この方法は更に、初期セットと後続セットとの間の相互相関解析を行うことにより、初期セットの幾何学的形状と後続セットの幾何学的形状との間の適合度の尺度である相関係数を生成することを含む。この相関係数がある閾値係数を超えている場合、後続心拍が不整脈により生じたものであるとして受け入れられる。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態による、装置20を使用する侵襲性医療処置の概略図である。本処置は、医療専門家22により行われ、一例として、本明細書の以下の説明における処置は、ヒトの患者26の心臓24からの心内心電図(IC ECG)信号の取得を含むと想定される。本発明の実施形態は、IC ECG又はBS(体表)ECG信号のいずれかを解析するが、以下の説明を簡潔かつ明快にするために、別途記載のない限り、IC ECG信号が解析されるものとして想定される。
【0019】
IC ECG信号を取得するために、医療専門家22は、患者の内腔内に事前に位置付けられているシース30の中へプローブ28を挿入する。シース30は、シースの遠位端34から出たプローブの遠位端32が患者の心臓内に入り心臓の組織に接触できるように位置付けられている。
【0020】
プローブ28は、患者の心臓内に挿入でき、かつ典型的には磁気追跡システム及び/又はインピーダンス測定システムを用いて追跡可能であるような、任意のタイプのカテーテルを含み得る。例えば、プローブ28は、ラッソーカテーテル、シャフト状カテーテル、又はpentaRayカテーテル(Biosense Webster(Diamond Bar,CA)製造)、あるいはこれらのカテーテルに概ね類似のカテーテルを含み得る。Biosense Websterは、本発明の実施形態に使用可能な磁気追跡システム及びインピーダンス測定システムも製造している。
【0021】
プローブ28は1つ以上の電極36を含み、これらは、本明細書に記述されるアルゴリズムの実施において、装置20に含まれるプロセッサ40が使用するECG信号を取得するのに使用される。プロセッサ40は、中央処理装置としての働きに加えて、リアルタイムノイズ低減回路44(典型的には、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、次いでアナログデジタル(A/D)信号変換集積回路46として構成される)を含み得る。このプロセッサはA/D回路46からの信号を別のプロセッサへと伝達することができ、かつ、本明細書に記述されるアルゴリズムを実施するようプログラムすることができる。
【0022】
プロセッサ40は、装置の操作コンソール60内に位置する。コンソール60は、医療専門家22がプロセッサと通信するために使用するコントロール62を備える。処置中に、プロセッサ40は、ECG信号を取得し、また本明細書に記述されるアルゴリズムを実施するために、モジュールバンク70内のECGモジュール66と通信を行う。
【0023】
ECGモジュール66は電極36からECG信号を受け取る。一実施形態において、この信号は、モジュール66内で、低ノイズ前置増幅器68を通り、ローパス及びハイパスフィルタ71A、71Bを通って、主増幅器72に伝達される。モジュール436は更にアナログデジタル変換器(ADC)74を含み、これは、ECG信号のデジタル化された値をプロセッサ40に伝達し、これによって、本明細書に記述されるアルゴリズムをプロセッサが実施する。典型的に、プロセッサ40は前置増幅器68、フィルタ71A、71B、増幅器72、及びADC 74の動作を制御する。
【0024】
簡潔化のために、
図1は、電極36からの信号を受信するためのチャネルを1つを有するものとして、ECGモジュール66を示す。しかしながら、このモジュールは典型的に、図示されるものと実質的に同様のチャネルを複数含むことが理解されよう。例えば、モジュール66はそのようなチャネルを12個含んでよく、これは12個の体表電極からの信号を受け取るのに使用され得る。
【0025】
ECGモジュール66により、プロセッサ40は、電極36が受け取ったEP(電気生理学的)信号(本明細書で参照されるECG信号を含む)を取得及び解析することができるようになる。この信号は典型的に電圧-時間グラフとして専門家22に示され、これはディスプレイ画面80上にリアルタイムで更新される。
【0026】
プロセッサ40及びモジュールバンク70のソフトウェアは、例えば、ネットワークで、電子的形態でプロセッサにダウンロードすることができる。あるいは又は更には、ソフトウェアは、例えば、光学的、磁気的、又は電子的記憶媒体のような非一時的有形媒体上で提供され得る。
【0027】
装置20を操作するために、モジュールバンク70は典型的に、上述のECGモジュール以外のモジュール(例えば、プローブ28の遠位端をプロセッサが追跡できるようにする1つ以上の追跡モジュール)を含む。簡潔化のために、かかる他のモジュールは、
図1に図示されていない。すべてのモジュールは、ハードウェア要素並びにソフトウェア要素を含み得る。
【0028】
電極411が取得するECG信号をディスプレイ画面80に表示することに加えて、本明細書に記載されるアルゴリズムの結果も、アルゴリズムのユーザーに対してディスプレイ画面上に示され得る。例えば、結果は心臓24のマップ82に組み込むことができる。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態によるECG波形合致アルゴリズムの入力及び出力を示す概略ブロック図である。アルゴリズムはプロセッサ40により実施され、入力として受け入れる波形合致フィルタ100として機能する:
・ECGモジュール66の複数のチャネルにより上述のように処理された、ECG信号のセット102。
・プロセッサ40により計算された、信号の参照注釈104。信号の注釈は、信号の発生の想定時間である。一実施形態において、この注釈は、選択された1つのECG信号に対する最大の正の値の発生時間に対応する。参照注釈(正の値、負の値、最大の負の傾き、最大の正の傾き)及びIC ECG信号(発生時間は典型的に、この信号を生成する心筋の部分の活性化時間に対応する)について、いくつかの基準オプションが存在する。上述又は他の基準に対応する注釈のためのECG信号を選択するための基準は、医療専門家22により規定され得る。医療専門家は更に、解析する信号を取得するのに使用されるECGチャネルも選択する。BS ECG信号については、典型的に12個のチャネルがある。IC ECG信号については、チャネルの数は、使用される電極36の数に対応する。
・波形パターン106。これは、医療専門家22が選択するECG信号のセットであり、医療専門家が規定した信号の注釈周辺の関心領域(WOI)で、特定の時点で捕捉される。WOIは波形合致アルゴリズムの期間を画定する。波形パターン106は、他のECG信号を比較するテンプレートとして機能し、このパターンは、本明細書ではテンプレートとも呼ばれることもある。
・医療専門家22が設定する相関閾値108;これは、ある心拍がその波形パターンに合致するかどうかをアルゴリズムが判定するのに使用される。
【0030】
アルゴリズムの出力は以下の通りである。
・心拍状況110。すなわち、波形パターン106と同じ波形を有するとして受け入れられた心拍、又は入力パターンとは異なる波形を有するとして却下された心拍。一実施形態において、受け入れられた心拍の位置が、ECG信号を生成する心臓のマップに組み込まれる。
・信号セット102の各チャネルに対する相関スコア112(いくつかの実施形態においては、スコアは医療専門家22に提示されなくともよい)。
・各心拍について、すべてのチャネルに対して計算された、重み付き相関スコア114。
【0031】
図3は、ECG波形合致アルゴリズムを示す概略ブロック図であり、
図4、5、及び6は、本発明の一実施形態によるアルゴリズムのブロック動作を示す概略図である。例として、プロセッサ40はアルゴリズムを実施すると想定される。他の実施形態において、プロセッサはスタンドアロンプロセッサであってよく、及び/又は、典型的にコンピュータを作動させている汎用プロセッサであってもよい。
【0032】
アルゴリズムの第1の工程(これは「単一チャネル相関」ブロック120に対応する)において、プロセッサは、入ってくる心拍の各チャネルについて、医療専門家22が規定するWOI期間内で、格納されている波形パターン106との相関解析を実施する。
図4は、この相関解析がどのように実施されるかを示している。
図4に示すように、プロセッサは入力として以下を使用する:
・
図2を参照して上述された波形パターン106(パターンi)。
・試験されるECG信号(ECG i,j)。試験される信号は、医療専門家22により規定された波形パターンのWOI幅に対応するWOI時間幅を有する。WOIの時間的位置は、信号のリアルタイム注釈(プロセッサにより計算される)を含むよう選択される。
【0033】
iは、パターンのチャネルを規定する数値的指数であり(典型的に、BS ECGの場合はi=1、2、...12)、jは、ECG信号の注釈の位置を規定する数値的指数である。
【0034】
プロセッサは各チャネルについて、以下の式に従って相関係数を計算する:
【0035】
【数1】
式中、
xはテンプレート参照ECGデータのサンプル値であり、
【数2】
はテンプレート参照ECGデータの平均値であり、
yは試験される現在の心拍ECGデータのサンプル値であり、
【数3】
は試験される現在の心拍ECGデータの平均値であり、
kは、ECG信号のどのデータサンプルが解析されているかを規定する数値的指数である。例えば、WOIが-50msec(参照注釈の前)から+70msec(参照注釈の後)までの120msecであり、毎msecごとにサンプリングを行うとき、kは120個のサンプルに対して120個の値のセットとなる。
【0036】
式(1)により実施される相関解析は、テンプレート参照ECGデータの幾何学的形状又は形を現在の心拍ECGデータと比較するものであることが理解されよう。相関(x,y)が高い値、すなわち、合致に近い場合は、テンプレートと現在の心拍の2つの幾何学的形状が類似していることを意味する。
【0037】
アルゴリズムの第2の工程(これは
図3の「全体重み付き相関」ブロック124に対応する)において、プロセッサは、第1の工程で計算された(すなわち式(1)に従って計算された)相関係数の値を用いて、特定の心拍の全体相関を計算する。
【0038】
図5は、この相関解析がどのように実施されるかを示している。
図5に示すように、プロセッサは入力として以下を使用する:
・相関スコア、すなわち、試験される心拍の各チャネルについての、式(1)の出力。試験される心拍は、現在の注釈周辺のWOI内にあるECG信号(その特定のチャネルのECG信号)である。
・試験されるECG信号(心拍)。
・
図1を参照して上述された波形パターン106(パターンi)。
【0039】
更に
図5に示すように、プロセッサは、試験されるECG信号の絶対最大振幅Ai,j、及び波形パターンの絶対最大振幅Biを計算する。
【0040】
プロセッサはAi,jとBiとの合計を重み付けとして使用して、式(2)に従い全体相関を計算する:
【0041】
【数4】
式中、Corri,jは式(1)で計算された相関係数であり、Nは解析されるECGチャネルの数である。BS信号の場合、Nは典型的には12である。
【0042】
式(2)により計算される全体相関係数は、波形パターンの位相に対する、試験されるECG信号の位相に依存する。
【0043】
アルゴリズムの第3の工程(これは
図3の「位相シフト」ブロック128に対応する)において、プロセッサは、波形パターンの位相に対して、試験されるECG信号の位相を繰り返し変更する。プロセッサは入力として以下を使用する:
・式(2)から得た全体相関の値。
・医療専門家22により設定される相関閾値108(
図2)。この閾値は0~1であり得、典型的な値は0.9である。
【0044】
図6は、ブロックの繰り返しセットにおいて、単一チャネル相関ブロック120、全体重み付き相関ブロック124、及び位相シフトブロック128により実施される繰り返しプロセスを説明している。
図6に示すように、各繰り返しにおいて、「シフトされた単一チャネル相関」ブロック120’及び「シフトされた全体相関」ブロック124’において、プロセッサは上述の最初の2つの工程を繰り返す。この繰り返し中に、プロセッサは、式(2)の結果としての全体相関の最大値を決定する。
【0045】
図6は、解析される心拍の注釈から測定して±40msecの時間枠で、位相シフトの繰り返しが1msecごとに実施されているのを示す。指数kは、評価されている位相シフトを規定し、k={-40,...0,...+40}である。繰り返しのたびに、比較ブロック130で、シフトされた全体相関の値が、それまでの最大相関と比較され、もし比較130が「はい」を返す場合、全体相関は、更新ブロック134で更新される。
【0046】
「いいえ」が返された場合は、コントロールは引き続き比較ブロック138に進み、繰り返すべき指数kの値がまだあるかどうかをチェックする。まだある場合、kは増分ブロック142で増加され、kの新たな値が信号ブロック146でECG信号に適用され、フローチャートはブロック120’に戻る。
【0047】
繰り返しが完了すると、コントロールは引き続き最終比較ブロック152に進み、ここで、ブロックの繰り返しセットの出力である、ブロック134内の全体相関の最大値を、入力閾値と比較する。この比較結果が「はい」を返す場合、その心拍は、波形パターンと同じ不整脈を表すと想定される。この場合、プロセッサ40はこの心拍情報を、心臓のマップ82の集合的情報に加えることができる(
図1)。この比較結果が「いいえ」を返す場合、この心拍は波形パターンとは異なる不整脈を表すと想定され、よって、この情報はマップの集合的情報には追加されない。
【0048】
上に述べた実施形態は例として挙げたものであり、本発明は上記に具体的に示し説明したものに限定されない点が理解されよう。むしろ、本発明の範囲は、上記されている種々の特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせ、並びに前述の説明を読むことで当業者が想起するであろう、先行技術に開示されていない変形及び変更の両方を含む。
【0049】
〔実施の態様〕
(1) 方法であって、
ヒト被験者の1つの心拍に対して取られた心電図(ECG)信号の初期セットを選択することであって、前記セットが、前記被験者の不整脈のテンプレートとして使用されるそれぞれの波形(morphologies)を有する、ことと、
前記ヒト被験者の後続心拍に対して取られたECG信号の後続セットを受け取ることと、
前記初期セットと前記後続セットとの間の相互相関解析を行う(performing a cross-correlation)ことにより、前記初期セットの幾何学的形状と前記後続セットの幾何学的形状との間の適合度の尺度である相関係数を生成することと、
前記相関係数がある閾値係数を超えている場合、前記後続心拍が前記不整脈により生じたものであるとして受け入れることと、
を含む、方法。
(2) 前記初期セットの発生の初期セット推定時間周辺の初期セット時間関心領域(初期セットWOI)を線で描くことと、前記後続セットの発生の後続セット推定時間周辺の後続セット時間関心領域(後続セットWOI)を線で描くことと、前記初期セットWOI内の前記初期セットの信号と、前記後続セットWOI内の前記後続セットの信号と、を使用して、前記相互相関解析を実施することと、を含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記初期セットWOI及び前記後続セットWOIが、共通の時間幅を有する、実施態様2に記載の方法。
(4) 前記相互相関解析を実施する前に、前記初期セットと前記後続セットとの間に位相シフトを適用することを含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記位相シフトを繰り返し変化させて最大相関係数を決定することと、該最大相関係数が前記閾値係数を超えている場合、前記後続心拍が前記不整脈により生じたものであるとして受け入れることと、を含む、実施態様4に記載の方法。
【0050】
(6) 前記後続心拍が前記不整脈により生じたものであるとして受け入れることが、前記不整脈の位置の指標を、前記ヒト被験者の心臓マップ内に取り込むことを含む、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記ECG信号が体表(BS)ECG信号である、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記ECG信号が心内(IC)ECG信号である、実施態様1に記載の方法。
(9) 装置であって、
ヒト被験者の1つの心拍に対して取られた、前記被験者の不整脈のテンプレートとして使用されるそれぞれの波形を有する心電図(ECG)信号の初期セットを受け取り、かつ、前記ヒト被験者の後続心拍に対して取られたECG信号の後続セットを受け取るよう構成されている、一組の電極と、
前記初期セットと前記後続セットとの間の相互相関解析を行うことにより、前記初期セットの幾何学的形状と前記後続セットの幾何学的形状との間の適合度の尺度である相関係数を生成するよう構成され、前記相関係数がある閾値係数を超えている場合、前記後続心拍が前記不整脈により生じたものであるとして受け入れるよう構成されている、プロセッサと、
を含む、装置。
(10) 前記初期セットの発生の初期セット推定時間周辺の初期セット時間関心領域(初期セットWOI)を線で描くことと、前記後続セットの発生の後続セット推定時間周辺の後続セット時間関心領域(後続セットWOI)を線で描くことと、前記初期セットWOI内の前記該初期セットの信号と、前記後続セットWOI内の前記後続セットの信号と、を使用して、前記相互相関解析を実施することと、を含む、実施態様9に記載の装置。
【0051】
(11) 前記初期セットWOI及び前記後続セットWOIが、共通の時間幅を有する、実施態様10に記載の装置。
(12) 前記プロセッサが、前記相互相関解析を実施する前に、前記初期セットと前記後続セットとの間に位相シフトを適用するよう構成されている、実施態様9に記載の装置。
(13) 前記プロセッサが、前記位相シフトを繰り返し変化させて最大相関係数を決定するよう構成され、かつ、前記最大相関係数が前記閾値係数を超えている場合、前記後続心拍が前記不整脈により生じたものであるとして受け入れるよう構成されている、実施態様12に記載の装置。
(14) 前記後続心拍が前記不整脈により生じたものであるとして受け入れることが、前記不整脈の位置の指標を、前記ヒト被験者の心臓マップ内に取り込むことを含む、実施態様9に記載の装置。
(15) 前記ECG信号が体表(BS)ECG信号である、実施態様9に記載の装置。
【0052】
(16) 前記ECG信号が心内(IC)ECG信号である、実施態様9に記載の装置。