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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】内燃機関のクランク軸用主軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 9/02 20060101AFI20220124BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
F16C9/02
F16C17/02 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017207241
(22)【出願日】2017-10-26
(65)【公開番号】P2019078377
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 征治
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 真一
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-002247(JP,A)
【文献】特表2013-536921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 9/02- 9/06
F16C 17/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸のジャーナル部を回転自在に支持するための主軸受であって、前記ジャーナル部は、円筒胴部と、前記円筒胴部を貫通して延びる潤滑油路と、前記円筒胴部の外周面上に形成された前記潤滑油路の少なくとも1つの入口開口とを有している、主軸受において、
前記主軸受は、互いに組み合わされて円筒形状を構成する一対の上側半割軸受および下側半割軸受を有し、前記各半割軸受は、前記半割軸受の周方向中央部を含む主円筒部を有し、前記主円筒部は、その径方向内側に摺動面を有し、また前記各半割軸受は、前記摺動面の周方向両側に、前記主円筒部よりも壁厚が薄くなるように形成されたクラッシュリリーフを有し、
前記一対の半割軸受のうち前記上側半割軸受のみが、その内周面に形成された周方向に延びる油溝と、前記油溝から前記上側半割軸受の外周面まで前記上側半割軸受を貫通して延びる少なくとも1つの油穴とを有し、
前記下側半割軸受が、前記周方向中央部と、前記ジャーナル部の回転方向前方側の前記クラッシュリリーフとの間の前記摺動面に、軸線方向に延びる軸線方向溝を有し、前記軸線方向溝は、前記周方向中央部から前記回転方向前方側に向かって円周角度10°以上離間し、且つ前記ジャーナル部の回転方向前方側の前記クラッシュリリーフから円周角度10°以上離間し、前記摺動面から径方向に測定した前記軸線方向溝の深さ(D1)が0.5~30μmである、主軸受。
【請求項2】
前記軸線方向溝は、円周角度(θ3)で1~35°の周方向長さを有している、請求項1に記載の主軸受。
【請求項3】
前記軸線方向溝は、前記下側半割軸受の軸線方向両端部で開口している、請求項1または2に記載の主軸受。
【請求項4】
前記軸線方向溝は、前記下側半割軸受の軸線方向両端部で開口していない、請求項1または2に記載の主軸受。
【請求項5】
前記下側半割軸受は複数の前記軸線方向溝を有し、前記複数の軸線方向溝は、円周角度(θ4)で5~35°の周方向範囲内に形成される、請求項1からまでのいずれか一項に記載の主軸受。
【請求項6】
前記下側半割軸受は、前記軸線方向溝と前記周方向中央部に関して対称な軸線方向溝を、前記周方向中央部と、前記ジャーナル部の回転方向後方側の前記クラッシュリリーフとの間の前記摺動面に有している、請求項1からまでのいずれか一項に記載の主軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸受に関し、特に、クランク軸のジャーナル部を支承する主軸受であって、主軸受の内周面に供給された潤滑油が、クランク軸の内部潤滑油路を経て、クランクピンを支承するコンロッド軸受の内周面に供給されるように構成された内燃機関のクランク軸用主軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受からなる主軸受を介して内燃機関のシリンダブロック下部に支承される。主軸受に対しては、オイルポンプによって吐出された潤滑油が、シリンダブロック壁内に形成されたオイルギャラリーから主軸受の壁に形成された貫通口(油穴)を通じて、主軸受の内周面に沿って形成された潤滑油溝内に送り込まれる。また、ジャーナル部の直径方向には第1潤滑油路が貫通形成され、この第1潤滑油路の両端開口が主軸受の潤滑油溝と連通するようになっている。さらに、ジャーナル部の第1潤滑油路から、クランクアーム部を通る第2潤滑油路が分岐して形成され、この第2潤滑油路が、クランクピンの直径方向に貫通形成された第3潤滑油路に連通している。このようにして、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから貫通口を通じて主軸受の内周面に形成された潤滑油溝内に送り込まれた潤滑油は、第1潤滑油路、第2潤滑油路および第3潤滑油路を経て、第3潤滑油路の末端に開口した吐出口から、クランクピンとコンロッド軸受の摺動面間に供給される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来から、主軸受およびコンロッド軸受として、一対の半割軸受から構成されるすべり軸受が採用されている。すべり軸受には、半割軸受どうしの当接面に隣接して、いわゆるクラッシュリリーフが形成されている。
【0004】
クラッシュリリーフとは、半割軸受の周方向端面に隣接する領域の壁厚が、円周方向端面に向かって薄くなるように形成された壁厚減少領域である。クラッシュリリーフは、一対の半割軸受を組み付けた状態における、半割軸受の突合せ面の位置ずれや変形を吸収することを企画して形成される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-277831号公報
【文献】特開平4-219521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、内燃機関には、出力を高めるためにクランク軸の高速回転化が求められている。しかし、内燃機関のクランク軸の高速回転での運転時、ジャーナル部の円筒胴部内の潤滑油路のジャーナル部の外周面における油の入口開口が、主軸受の半割軸受の摺動面に閉塞された状態からクラッシュリリーフとの連通を開始する瞬間、ジャーナル部の内部潤滑油路内の高圧の油が入口開口から半割軸受のクラッシュリリーフとジャーナル部の表面との間の隙間へ噴射されてしまい、それにより乱流が発生して、摩擦損失を生じる。
【0007】
詳しくは、主軸受は、その摺動面とジャーナル部の表面との間の油に圧力が発生することで、クランク軸のジャーナル部からの動荷重負荷を支承する。
内燃機関の運転時、主軸受の摺動面に加わる負荷の大きさおよび負荷の方向は常に変動し、その負荷と釣り合う油膜圧力を発生するように、ジャーナル部の中心軸線が主軸受の軸受中心軸に対して偏心しながら移動する。このため主軸受は、摺動面のいずれの位置においても軸受隙間(ジャーナル部の表面と摺動面との間の隙間)が常に変化する。
4サイクル内燃機関では、燃焼行程において主軸受に加わる負荷が最大となるが、この時、図15に示すように、半割軸受141、142からなる主軸受14では、ジャーナル部6が紙面下側の半割軸受142の周方向中央部C付近の摺動面7に向かう方向(矢印M)に移動し、下側の半割軸受142の周方向中央部C付近の摺動面7とジャーナル部6の表面が最も近接し、それにより半割軸受142の周方向中央部C付近の摺動面7とジャーナル部6の表面との間の隙間(軸受隙間)の油は負荷を受けて圧力が極めて高くなる。
なお、図15に示す紙面下側の半割軸受142は、図1に示すシリンダブロック下部の軸受キャップ82に組まれる半割軸受である。
【0008】
図16に示すように、ジャーナル部6のX方向への回転中、外周面上の油の入口開口6cが紙面下側の半割軸受142の主円筒部72の摺動面7上に位置している間は、ジャーナル部6の表面と半割軸受142の主円筒部72の摺動面7との間の隙間が狭いので、入口開口6cから流出する油量が少なく、潤滑油路6a内の油の圧力は高い状態にある。特に、内燃機関のクランク軸の高速回転での運転時には、潤滑油路6a内の油への遠心力の作用が大きくなり、潤滑油路6a内の入口開口6c近くの油の圧力が高くなる。
【0009】
図17に示すように、ジャーナル部6の表面の潤滑油路6aの入口開口6cとクラッシュリリーフ70とが連通を開始する瞬間には、潤滑油路6a内部の油の圧力と、クラッシュリリーフ70とジャーナル部6の表面との間の隙間(リリーフ隙間)内の油の圧力との差によって、潤滑油路6aからリリーフ隙間へ瞬間的に油の噴射流(F11)が形成され、乱流が発生する。このような乱流の発生が、上述した摩擦損失を生じる。
【0010】
したがって本発明の目的は、内燃機関の運転時に、上記噴射流による摩擦損失を低減できる内燃機関のクランク軸用主軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、内燃機関のクランク軸のジャーナル部を回転自在に支持するための主軸受であって、ジャーナル部が、円筒胴部と、円筒胴部を貫通して延びる潤滑油路と、円筒胴部の外周面上に形成された潤滑油路の少なくとも1つの入口開口とを有している、主軸受において、
主軸受が、互いに組み合わされて円筒形状を構成する一対の上側半割軸受および下側半割軸受を有し、
一対の半割軸受のうち上側半割軸受のみが、その内周面に形成された周方向に延びる油溝と、油溝から上側半割軸受の外周面まで上側半割軸受を貫通して延びる少なくとも1つの油穴とを有し、
各半割軸受は、半割軸受の周方向中央部(周方向中央断面)を含む主円筒部を有し、主円筒部は、その径方向内側に摺動面を有し、また各半割軸受は、摺動面の周方向両側に、主円筒部よりも壁厚が薄くなるように形成されたクラッシュリリーフを有し、
下側半割軸受は、半割軸受の周方向中央部と、ジャーナル部の回転方向前方側のクラッシュリリーフとの間の摺動面に、軸線方向に延びる軸線方向溝を有し、
軸線方向溝は、半割軸受の周方向中央部から、回転方向前方側に向かって円周角度10°以上離間し、且つジャーナル部の回転方向前方側のクラッシュリリーフから円周角度10°以上離間している、主軸受が提供される。
【0012】
本発明によれば、摺動面から径方向に測定した軸線方向溝の深さ(D1)が0.5~30μmであってもよい。
【0013】
また上記軸線方向溝は、円周角度で1~35°の周方向長さを有していてもよい。
【0014】
さらに、上記軸線方向溝は、下側半割軸受の軸線方向両端部で開口することができる。
【0015】
あるいは上記軸線方向溝は、下側半割軸受の軸線方向両端部で開口していなくてもよい。
【0016】
また本発明によれば、下側半割軸受は、複数の上記軸線方向溝を有していてもよく、このとき複数の軸線方向溝は、円周角度で5~35°の周方向範囲に形成されることができる。
【0017】
さらに、上述した下側半割軸受は、上記軸線方向溝と周方向中央部に関して対称な軸線方向溝を、周方向中央部と、ジャーナル部の回転方向後方側のクラッシュリリーフとの間の摺動面に有することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】内燃機関のクランク軸を、ジャーナル部およびクランクピン部で裁断した断面図である。
図2】本発明の第1実施例による主軸受の上側半割軸受を軸線方向から見た図である。
図3図2に示す半割軸受を摺動面側から見た平面図である。
図4】本発明の第1実施例による主軸受の下側半割軸受を軸線方向から見た図である。
図5図4に示す半割軸受を摺動面側から見た平面図である。
図6】本発明の第1実施例による主軸受およびジャーナル部を軸線方向から見た図である。
図7】半割軸受の摺動面に形成された軸線方向溝の断面図である。
図8】本発明の第1実施例による主軸受の作用を説明するための、図6と同様の図である。
図9】本発明の第1実施例による主軸受の作用を説明するための部分拡大図である。
図10】本発明の第1実施例による主軸受の作用を説明するための部分拡大図である。
図11】本発明の第2実施例による主軸受の下側半割軸受を軸線方向から見た図である。
図12図11に示す半割軸受を摺動面側から見た平面図である。
図13】本発明の第3実施例による主軸受の下側半割軸受を軸線方向から見た図である。
図14図13に示す半割軸受を摺動面側から見た平面図である。
図15】従来技術による主軸受の作用を説明するための図である。
図16】従来技術による主軸受の作用を説明するための図である。
図17】従来技術による主軸受の作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。なお、理解を容易にするために、図面において軸線方向溝およびクラッシュリリーフは誇張して描かれている。
【実施例1】
【0020】
(軸受装置の全体構成)
図1に示すように、本実施例の軸受装置1は、シリンダブロック8の下部に支承されるジャーナル部6と、ジャーナル部6と一体に形成されてジャーナル部6を中心として回転するクランクピン5と、クランクピン5に内燃機関から往復運動を伝達するコンロッド2とを備えている。そして、軸受装置1は、クランク軸を支承するすべり軸受として、ジャーナル部6を回転自在に支承する主軸受4と、クランクピン5を回転自在に支承するコンロッド軸受3とをさらに備えている。
【0021】
なお、クランク軸は複数のジャーナル部6と複数のクランクピン5とを有するが、ここでは説明の便宜上、1つのジャーナル部6および1つのクランクピン5を図示して説明する。図1において、紙面奥行き方向の位置関係は、ジャーナル部6が紙面の奥側で、クランクピン5が手前側となっている。
【0022】
ジャーナル部6は、一対の半割軸受41、42によって構成される主軸受4を介して、内燃機関のシリンダブロック下部81に軸支されている。図1で上側にある半割軸受41には、外周面と内周面との間の壁を貫通する油穴41bおよび内周面全長に亘って潤滑油溝41aが形成されている。また、ジャーナル部6は、直径方向に貫通する潤滑油路6aを有し、ジャーナル部6が矢印X方向に回転すると、潤滑油路6aの両端開口(入口開口)6cが交互に主軸受4の潤滑油溝41aに連通する。
【0023】
クランクピン5は、一対の半割軸受31、32によって構成されるコンロッド軸受3を介して、コンロッド2の大端部ハウジング21(ロッド側大端部ハウジング22およびキャップ側大端部ハウジング23)に軸支されている。
【0024】
上述したように、主軸受4に対して、オイルポンプによって吐出された潤滑油が、シリンダブロック壁内に形成されたオイルギャラリーから主軸受4の上側半割軸受41の壁に形成された油穴41bを通じて、上側半割軸受41の内周面に沿って形成された潤滑油溝41a内に送り込まれる。
【0025】
さらに、ジャーナル部6の直径方向に第1の潤滑油路6aが貫通形成され、第1の潤滑油路6aの入口開口6cが潤滑油溝41aと連通している。そして、ジャーナル部6の第1の潤滑油路6aから分岐してクランクアーム部(不図示)を通る第2の潤滑油路5aが形成され、第2の潤滑油路5aが、クランクピン5の直径方向に貫通形成された第3の潤滑油路5bに連通している。
【0026】
このようにして、潤滑油は、第1の潤滑油路6a、第2の潤滑油路5aおよび第3の潤滑油路5bを経て、第3の潤滑油路5bの端部の吐出口5cから、クランクピン5とコンロッド軸受3の間に形成される隙間に供給される。
【0027】
(主軸受の構成)
そして、本実施例の主軸受4は、一対の半割軸受41、42の周方向端面76どうしを突き合わせて、全体として円筒形状に組み合わせることによって形成される(図6参照)。半割軸受41、42は、Cu軸受合金またはAl軸受合金である摺動層を有し、あるいはFe合金製の裏金層と、Cu軸受合金またはAl軸受合金である摺動層とを有する。また、摺動層は、摺動面7となる表面側(後述する軸線方向溝71の内面を含む)に、軸受合金よりも軟質なBi、Sn、Pbのいずれか1種からなる表面部、あるいはこれら金属を主体とする合金からなる表面部や、合成樹脂を主体とする樹脂組成物からなる表面部を有していてもよい。但し、軸線方向溝71の内面は、これら表面部を有さない方が好ましい。油中に多くの異物が含まれる場合、異物が軸線方向溝71の内面となる軟質な表面部に埋収、堆積しやすくなるからである。軸線方向溝71の内面に異物が埋収、堆積すると、軸線方向溝71を流れる油に乱流が発生しやすくなる。
半割軸受41、42は、周方向中央部Cを含む主円筒部72を有し、主円筒部72の径方向内側に摺動面7が形成されている。また摺動面7の周方向両側には、クラッシュリリーフ70、70が形成されている。したがって本発明において、半割軸受41、42の内周面は、摺動面7およびクラッシュリリーフ70、70を含む。
【0028】
図2は、図1に示すジャーナル部6を支承する上側半割軸受41を軸線方向から見た図を示し、図3は、上側半割軸受41を摺動面側から見た平面図を示す。図4は、図1に示すジャーナル部6を支承する下側半割軸受42を軸線方向から見た図を示し、図5は、下側半割軸受42を摺動面側から見た平面図を示す。図6は、図1に示すジャーナル部6を支承する主軸受4を軸線方向から見た図を示す。
【0029】
クラッシュリリーフ70は、図2~6に示すように、上側半割軸受41、下側半割軸受42の円周方向端部領域において半割軸受の壁厚を本来の摺動面7から半径方向に減じることによって形成される面のことであり、これは、例えば一対の半割軸受41、42をシリンダブロック下部8の軸受保持穴に組み付けた時に生じ得る半割軸受の周方向端面76の位置ずれや変形を吸収するために形成される。したがってクラッシュリリーフ70の表面の曲率中心位置は、その他の領域(摺動面7)の曲率中心位置と異なる(SAE J506(項目3.26および項目6.4)、DIN1497、セクション3.2、JIS D3102参照)。一般に、乗用車用の小型の内燃機関用軸受の場合、半割軸受の周方向端面76におけるクラッシュリリーフ70の深さ(本来の摺動面7からの周方向端面76におけるクラッシュリリーフ70までの距離)は0.01~0.05mm程度である。
なお上側半割軸受41、下側半割軸受42の軸受壁厚(クラッシュリリーフ70の形成された領域を除く軸受壁厚、すなわち主円筒部72の壁厚)は、周方向で一定であるが、これに限定されないで、半割軸受41、42の軸受壁厚は、周方向中央部Cで最大で、周方向両端面76側へ向かって連続して減少していてもよい。
【0030】
実施例1では、上側半割軸受41は、内周面に油溝41aが周方向の全長に亘って形成されている。実施例1では、油溝41aの溝深さ、油溝41aの軸線方向の長さ(油溝41aの幅)は、上側半割軸受41の周方向に亘って概ね同じ寸法になされている。小型内燃機関のクランク軸のジャーナル部6の直径が40~100mmの場合、油溝41aの深さは、1mm~2.5mm程度である。ジャーナル部6の直径が大きいほど油溝41aの溝深さは大きくなされる。
【0031】
なお、本実施例とは異なり、油溝41aは、油溝41aの周方向両端部がクラッシュリリーフ70に位置するように変更してもよい。あるいは、油溝41aの一方の周方向端部がクラッシュリリーフ70に位置し、他方の周方向端部が上側の半割軸受41の周方向端面76に位置するようにしてもよい。また、油溝41aの軸線方向の長さが油溝41aの周方向中央部付近で最大となり、油溝41aの周方向両端部側へ向かって小さくなるようにしてもよい。また、油溝41aの溝深さは、油溝41aの周方向中央部付近で最大となり、油溝41aの周方向両端部側へ向かって小さくなるようにしてもよい。
【0032】
また、油溝41a部には、上側半割軸受41の壁を貫通した油穴41bが形成される。本実施例では、一つの油穴41bが、上側半割軸受41の周方向中央部かつ軸線方向中央部Cの位置に形成される。ジャーナル部6の表面における潤滑油路6aの入口開口6cの直径は、一般的に3~8mm程度であり、油溝41aの軸線方向の長さは、潤滑油路6aの入口開口6cの直径よりも若干大きい寸法にされる。また、実施例1のように油穴41bの開口が円形の場合、開口の直径は、油溝41Gの軸線方向の長さと同じ寸法になされている。なお、油穴41bの開口の寸法、開口の形状、油穴41bの形成位置、形成数は、本実施例に限定されない。
【0033】
下側半割軸受42は、以下で詳細に説明するように、軸線方向溝71の構成を有している点、並びに油溝41aおよび油穴41bの構成を有していない点以外は、上側半割軸受41と同じ寸法、形状となっている。
【0034】
下側半割軸受42は、半割軸受の周方向中央部Cとジャーナル部6の回転方向Xの前方側のクラッシュリリーフ70との間の主円筒部72の摺動面7に、軸線方向溝71を有する。
【0035】
本実施例では、軸線方向溝71は、下側半割軸受42の周方向中央部Cから円周角度(θ1)で10°以上離間し、且つジャーナル部の回転方向Xの前方側のクラッシュリリーフ70から周方向中央部側へ向かって円周角度(θ2)で10°以上離間した範囲内の摺動面7上にのみ形成されている。さらに、軸線方向溝71は、下側半割軸受42の周方向中央部Cから円周角度(θ1)で15°以上離間することが好ましい。また、軸線方向溝71は、下側半割軸受42のジャーナル部の回転方向Xの前方側のクラッシュリリーフ70から周方向中央部側へ向かって円周角度(θ2)で15°以上離間することが好ましい。
ところで、内燃機関のクランク軸のジャーナル部6は、運転時には一方向に回転する。このため当業者であれば、クランク軸のジャーナル部6の回転方向を考慮し、下側半割軸受42の周方向両端面76、76に隣接する2つのクラッシュリリーフ70、70のうち、どちらが「ジャーナル部の回転方向の前方側のクラッシュリリーフ」であるか理解することができよう。また当業者であれば、本発明の開示にしたがって本発明の主軸受4を設計、製造し、これを一方向に回転するクランク軸のジャーナル部を支承するように適切にシリンダブロック下部8に組み付けることが可能である。
【0036】
図7は、軸線方向溝71の、下側半割軸受42の軸線方向に垂直な断面を示す。軸線方向溝71の断面は、円弧形状となっている。なお、軸線方向溝71の断面形状は、矩形、逆台形等の断面形状に変更することができる。
軸線方向溝71の摺動面7からの半径方向の深さD1は、0.5~30μmとすることができる。軸線方向溝71の深さD1は、20μm以下とすることが好ましく、さらに10μm以下とすることが好ましい。また、軸線方向溝71の周方向長さL1は、下側半割軸受42の摺動面7上における円周角度(θ3)で1~35°に相当する長さとすることが好ましく、さらに1~20°に相当する長さとすることが好ましい。
本実施例では、軸線方向溝71の深さD1および周方向長さL1は、下側半割軸受42の軸線方向に亘って一定であるが、軸線方向で深さD1や周方向長さL1が変化していてもよい。
【0037】
本実施例では、軸線方向溝71の周方向長さL1は、円周角度(θ3)で10°に相当する長さになっており、また軸線方向溝71は、周方向長さL1の中心が下側半割軸受42の周方向中央部Cからジャーナル部6の回転方向Xの前方側に向かって円周角度45°に位置するように形成されている。
【0038】
(作用効果)
4サイクル内燃機関では、燃焼行程において主軸受4に加わる負荷が最大となるが、この時、主軸受4では、図8に示すようにジャーナル部6が紙面下側の下側半割軸受42の周方向中央部C付近の摺動面7に向かう方向(矢印M)に移動し、下側半割軸受42の周方向中央部C付近の摺動面7とジャーナル部6の表面が最も近接し、それにより下側半割軸受42の周方向中央部C付近の摺動面7とジャーナル部6の表面との間の隙間(軸受隙間)の油は負荷を受けて圧力が極めて高くなる。
図8に示すように、ジャーナル部6の潤滑油路6aの入口開口6cが、下側半割軸受42の周方向中央部Cよりもジャーナル部6の回転方向Xの後方側に位置する間は、下側半割軸受42の摺動面7とジャーナル部6の表面との間の隙間が大きいので、ジャーナル部6の潤滑油路6a内の油は該隙間に流出し、潤滑油路6a内の油の圧力は高くならない。
【0039】
本発明によれば、その後図9に示すようにジャーナル部6の外周面上の潤滑油路6aの入口開口6cと軸線方向溝71とが連通を開始する瞬間には、潤滑油路6a内部の油の圧力と、軸線方向溝71の内面とジャーナル部6表面との間の隙間の油の圧力との差によって、潤滑油路6aから軸線方向溝内71への油流F1が形成される。この時、潤滑油路6a内部の油の圧力は減少する。
したがって本発明によれば、ジャーナル部6の潤滑油路6a内の油は、ジャーナル部6の潤滑油路6aの入口開口6cが、下側半割軸受42の周方向中央部Cを通り軸線方向溝71と連通するまでの期間しか摺動面7で閉塞されないために、遠心力の作用をうけても圧力はそれほど大きくならない。
このため、潤滑油路6a内の油の圧力と軸線方向溝71内の油の圧力との差はそれほど大きくならず、油流F1が強くなりすぎることがない。また油流F1が形成されても乱流が発生し難い。
【0040】
図10に示すように、ジャーナル部6の外周面上の潤滑油路6aの入口開口6cとクラッシュリリーフ70とが連通を開始する瞬間には、潤滑油路6a内部の油の圧力と、クラッシュリリーフ70とジャーナル部6表面との間の隙間(リリーフ隙間)内の油の圧力との差によって、潤滑油路6aからクラッシュリリーフ内への油流F2が形成される。
しかし本発明によれば、図9に示す軸線方向溝71への油流F1によりジャーナル部6の潤滑油路6a内の油の圧力を一度、低下させたのちに、ジャーナル部6の潤滑油路6aの入口開口6cとクラッシュリリーフ70(リリーフ隙間)とが連通する。また入口開口6cが、軸線方向溝71との連通を終了してからクラッシュリリーフ70と連通を開始するまでの期間、すなわち入口開口6cが摺動面7に再び閉塞される期間が短いので、遠心力の作用による圧力の増加が少ない。
このため、ジャーナル部6の潤滑油路6aの入口開口6cがクラッシュリリーフ70に連通する瞬間の潤滑油路6a内の油とリリーフ隙間内の油との圧力差が小さく、油流F2が強くなりすぎることがない。また油流F2が形成されても乱流が発生し難いので、摩擦損失が大きくならない。
【0041】
本発明によれば、軸線方向溝71は、下側半割軸受42の周方向中央部Cからジャーナル部6の回転方向Xの前方側に向かって円周角度(θ1)で10°以上離間し、且つジャーナル部6の回転方向Xの前方側のクラッシュリリーフ70から下側半割軸受42の周方向中央部C側へ向かって円周角度(θ2)で10°以上離間した範囲内の摺動面7に形成される。
このような範囲に形成する理由は、軸線方向溝71が、下側半割軸受42の周方向中央部Cから軸(ジャーナル部6)の回転方向Xの前方側に円周角度10°以上離間していると、円周角度10°未満の範囲の摺動面7に軸線方向溝71を形成した場合に比べて摩擦損失が少なくなるからである。図8に示すように、下側半割軸受42の周方向中央部Cから円周角度10°未満の範囲の摺動面7は、ジャーナル部6からの最大負荷を受けるが、この範囲に軸線方向溝71を形成すると、摺動面7とジャーナル部6表面との間の油の圧力が低下し、摺動面7とジャーナル部6の表面が接触しやすくなり、摩擦損失が大きくなる。
【0042】
また本発明によれば、軸線方向溝71が、ジャーナル部6の回転方向Xの前方側のクラッシュリリーフ70から下側半割軸受42の周方向中央部C側へ向かって円周角度10°以上離間しているので、摩擦損失が少なくなる。ジャーナル部6の回転方向Xの前方側のクラッシュリリーフ70から下側半割軸受42の周方向中央部C側へ向かって円周角度10°未満の範囲に軸線方向溝71を形成すると、ジャーナル部6の潤滑油路6aの入口開口6cが、軸線方向溝71およびクラッシュリリーフ70と同時に連通することがある。そのような連通が生じると、軸線方向溝71内の油の圧力よりもリリーフ隙間内の油の圧力が低いため、軸線方向溝71内の油は、入口開口6c付近の潤滑油路6aの内部空間を介して、さらに入口開口6cからリリーフ隙間へ流れる油流F2に引きずられて、リリーフ隙間へ流れてしまう。すると、軸線方向溝71の周囲の、摺動面7とジャーナル部6の表面との間の隙間の油が軸線方向溝71内に流れ込み、軸線方向溝71に隣接する摺動面7とジャーナル部6の表面とが直接接触し、摩擦損失が大きくなる。
【0043】
また、軸線方向溝71が、ジャーナル部6の回転方向前方側のクラッシュリリーフ70から下側半割軸受42の周方向中央部C側へ向かって円周角度10°以上離間していると、ジャーナル部6の潤滑油路6a内部の油に異物が含まれていても異物が軸線方向溝71内に排出され難く、したがって軸線方向溝71の内面への異物の埋収、堆積も起き難い。これは、図8に示すように、下側半割軸受42の周方向中央部C側ほどジャーナル部6の表面と下側半割軸受42の摺動面7との間の隙間が小さいからである。すなわち、周方向端部側ほど隙間が大きいが、クラッシュリリーフ70から下側半割軸受42の周方向中央部C側へ向かって円周角度10°以上離間させると、摺動面7および軸線方向溝71の内面と、ジャーナル部6表面との間の隙間が狭く、潤滑油路6a内の異物が軸線方向溝71内に流出し難い。ジャーナル部6の潤滑油路6a内の油に含まれる異物が軸線方向溝71により流出し難くなるように、軸線方向溝71は、ジャーナル部6の回転方向前方側のクラッシュリリーフ70から下側半割軸受42の周方向中央部C側へ向かって円周角度10°以上離間していることがより好ましい。
【0044】
なお、実施例1は、主軸受4を構成する一対の半割軸受のうち、下側半割軸受42のみが軸線方向溝71を有し、上側半割軸受41は、軸線方向溝71を有さない。前述したように上側半割軸受41は、摺動面7に油溝41aを有するが、軸線方向溝71を有するようにした場合には、油溝41aと軸線方向溝71が連通し、主軸受4の外部から油溝41a内に供給された油が、軸線方向溝71に流れてしまう。このため、油溝41aからジャーナル部6の潤滑油路6aを介しコンロッド軸受3およびクランクピン5側へ供給される油量が減少してしまう。
【実施例2】
【0045】
図11および12に示すように、実施例1の下側半割軸受42とは異なり、実施例2の軸線方向溝71aは、下側半割軸受42の軸線方向端部に開口しないように形成されている。実施例2の他の構成は実施例1の上側半割軸受41、下側半割軸受42の構成と同じである。
【0046】
軸線方向溝71aは、軸線方向長さL2の中央が下側半割軸受42の軸線方向長さL3の中央と一致するように形成される。
軸線方向溝71aは、軸線方向長さL2が下側半割軸受42の軸線方向長さL3の70~95%になるように形成されることが好ましい。
【0047】
(作用効果)
本実施例は、実施例1と同様の効果を有し、さらに、軸線方向溝71aが下側半割軸受42の軸線方向両端部に開口しないため、実施例1よりも軸線方向溝71a内の油が軸受の外部に流出し難い。
なお、軸線方向溝71aは、下側半割軸受42の一方の軸線方向端部で開口し、他方の端部で開口しないように形成されていてもよい。
【実施例3】
【0048】
図13および14に示すように、実施例1および2の下側半割軸受とは異なり、実施例3の下側半割軸受42は、その周方向中央部Cとジャーナル部6の回転方向前方側のクラッシュリリーフ70との間の主円筒部72の摺動面7に、複数(3つ)の軸線方向溝71を有する。
これら軸線方向溝71はやはり、下側半割軸受42の周方向中央部Cから、円周角度(θ1)10°以上離間し、且つジャーナル部6の回転方向前方側のクラッシュリリーフ70から周方向中央部C側へ向かって円周角度(θ2)10°以上離間した範囲内の摺動面7に形成される。
実施例3の他の構成は実施例1の上側半割軸受41、下側半割軸受42と同じである。
【0049】
本発明を、一般的な乗用車の内燃機関のクランク軸用主軸受、すなわちジャーナル部6の直径が40mm~100mm程度であるクランク軸用主軸受に適用する場合、これら複数の軸線方向溝71どうしは、下側半割軸受42の摺動面7上で周方向に0.5~2mm離間するよう配置されることが好ましい。さらに、複数の軸線方向溝71は、同じ周方向長さL1、および同じ深さD1を有することが好ましい。
【0050】
また、複数の軸線方向溝71と、軸線方向溝71どうしの間の摺動面とからなる摺動面7上の軸線方向溝形成領域711の周方向長さは、下側半割軸受42の摺動面7での円周角度(θ4)で5~35°に相当する長さであることが好ましい。
本実施例では、下側半割軸受42は3つの軸線方向溝71を有するが、これに限定されないで、2つ、または4つ以上の軸線方向溝71を有していてもよい。
さらに、複数の軸線方向溝71は、実施例2と同様に下側半割軸受42の軸線方向両端部に開口していなくてもよい。
【0051】
(作用効果)
本実施例は、実施例1と同様の効果を有し、さらに、複数の軸線方向溝71の間に摺動面7が配されるので、複数の軸線方向溝71を形成した領域(軸線方向溝形成領域)でも、摺動面によりジャーナル部6を支承する能力を有する。
【0052】
なお、実施例1~3において、下側半割軸受42の周方向中央部Cと、ジャーナル部6の回転方向後方側のクラッシュリリーフ70との間の摺動面7にも軸線方向溝71と同様な軸線方向溝を形成して下側半割軸受42を周方向中央部Cに関して対称形状にしてもよい。
このような対称形状を採用することにより、シリンダブロック下部8の軸受キャップ82への下側半割軸受42の誤った組み付けを未然に防止することができる。
【0053】
上で説明した本発明の主軸受を構成する下側半割軸受は、内周面側に周方向端面において上側半割軸受41の油溝41aと連通する部分溝を形成することができる。但し、部分溝は、軸線方向溝71から円周角度10°以上離間するように形成されることが好ましい。
【符号の説明】
【0054】
1 軸受装置
2 コンロッド
3 コンロッド軸受
4 主軸受
5 クランクピン
5a、5b 潤滑油路
5c 吐出口
6 ジャーナル部
6a 潤滑油路
6c 入口開口
31、32 半割軸受
41 上側半割軸受
42 下側半割軸受
41a 油溝
41b 油穴
7 摺動面
70 クラッシュリリーフ
71、71a 軸線方向溝
72 主円筒部
76 周方向端面
711 軸線方向溝形成領域
C 半割軸受の周方向中央部
D1 軸線方向溝の深さ
L1 軸線方向溝の周方向長さ
L2 軸線方向溝の軸線方向長さ
L3 半割軸受の軸線方向長さ
Z クランクピンの回転方向
X ジャーナル部の回転方向
M ジャーナル部の移動方向
θ3 軸線方向溝の周方向長さに相当する円周角度
θ4 軸線方向溝形成領域の周方向長さに相当する円周角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17