(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】金属との優れた接着性を有するポリアリーレンスルフィド組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20220124BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L63/00 A
(21)【出願番号】P 2017560454
(86)(22)【出願日】2016-01-28
(86)【国際出願番号】 KR2016000926
(87)【国際公開番号】W WO2016129833
(87)【国際公開日】2016-08-18
【審査請求日】2018-12-04
(31)【優先権主張番号】10-2015-0019748
(32)【優先日】2015-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513193923
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK Chemicals Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】310,Pangyo-ro,Bundang-gu,Seongnam-si,Gyeonggi-do 13494,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】アン、ビュン-ウォ
(72)【発明者】
【氏名】シン、ジョン-ウォク
(72)【発明者】
【氏名】オ、ヒョウン-グン
(72)【発明者】
【氏名】キム、へ・リ
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-522387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド;および式1のシラン変性エポキシ樹脂を含む樹脂組成物であって、
前
記ポリアリーレンスルフィドは、組成物総量の42重量%以上であり、
前記シラン変性エポキシ樹脂は、組成物総量の0.5~10重量%の量で含まれ、
ガス放出の量が300ppm以下である樹脂組成物:
ここで、前記ガス放出の量は、2gの射出成形試験片を密閉された20mLの瓶中に置き、瓶をヘッドスペース装置中で260℃で30分加熱し、発生したガスをガスクロマトグラフィー-マススペクトロメーターに移送し、各成分を定性的分析用のキャピラリーカラムにより分離して、試験片中の各成分の量を標準材料としてのベンゾチアゾールにより定量的に分析することによって測定される:
【化1】
ここで、
R
1は、水素またはC
1-6アルキルであり;
R
2は、エポキシ、アミノ、メルカプト、ビニル、およびそれらの組合せからなる群から選択され;および
nは1~100の整数である。
【請求項2】
エラストマー、フィラー、緩衝材、接着性増強剤、安定剤、顔料、およびそれらの組合せからなる群から選択される成分をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記エラストマーが、ポリ塩化ビニルエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリブタジエンエラストマー、
エチレン-メチル アクリレート-グリシジルメタクリレートのターポリマー、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される熱可塑性エラストマーである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記フィラーが、ガラス繊維、炭素繊維、硼素繊維、ガラスビーズ、ガラス片、タルク、および炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種
のフィラーである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記ガラス繊維が、ウレタン/エポキシシラン処理されたガラス繊維、ウレタン/アミノシラン処理されたガラス繊維、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記顔料が、二酸化チタン(TiO
2)、カーボンブラック、およびそれらの組合せからなる群から選択され
る顔料である、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記顔料が、組成物総量の0.1~10重量%の量で含まれている、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
ASTM D 638により測定したときに50~150MPaの抗張力を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ASTM D 3163により測定したときに25MPa以上の金属への接着強度を有する、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ガス放出の量が少ない、改善された金属との接着性を有するポリアリーレンスルフィド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、代表的なエンジニアプラスチックであるポリアリーレンスルフィドの、高温および腐食性の環境において使用される種々の電子物品および製品における用途に対する需要が、その高耐熱性、耐薬品性、耐炎性、および電気絶縁性のために、増大しつつある。
【0003】
ポリフェニレンスルフィド(以降、「PPS」と略する)は、唯一の商業的に利用可能なポリアリーレンスルフィドである。PPSは、その優れた機械的、電気的、および熱的特性、および耐薬品性のため、建築もしくは自動車用品の主要部品および電気もしくは電子デバイスに広く用いられている。
【0004】
商業的にPPSを生産する主なプロセスは、N-メチルピロリドンのような極性有機溶媒中でのp-ジクロロベンゼン(以降、「pDCB」と略する)および硫化ナトリウムの溶液重合である。これは、マッカラム(Macallum)法として知られている。
【0005】
しかし、ポリアリーレンスルフィドがマッカラム法により製造される場合、硫化ナトリウム等を用いた溶液重合は、塩形態の副産物を生成し得、これは、そのような塩形態の副産物を除去するための洗浄または乾燥等の工程、および余計な有機溶媒を必要とする。さらに、マッカラム法により製造されたポリアリーレンスルフィドは粉末形態であり、これは以降の工程を不便なものとし、その作業性を損なう(米国特許第2,513,188号および2,583,941号を参照)。
【0006】
上記の課題を解決するため、PPS等のポリアリーレンスルフィドを、ジヨード芳香族化合物および硫黄元素を含む反応物質の溶融重合により製造することが提案された。この方法は、ポリアリーレンスルフィドの製造において、塩形態の副産物を生ぜず、有機溶媒も使用しないため、それらの副産物や有機溶媒の除去のための別個の工程を必要としない。さらに、最終的に得られるポリアリーレンスルフィドはペレット形態であり、これは、以降の工程を簡便なものとし、その作業性を改善する。
【0007】
一方、従来のPPSは、射出成型におけるフローフロントにおいて多くのガス(すなわち、低分子量のオリゴマー)の放出が生じ、これがPPSが金属に接着した場合に金属表面の微小孔が埋められることを妨げるため、金属への接着が不十分であるという課題を有していた。PPSの金属への接着を改善するための代替案として、PPSを、極性基を含むポリオレフィンおよび相溶化剤と混合することにより製造された樹脂組成物が提案された。しかし、そのような混合物またはオリゴマーの使用は、PPSの機械的特性を損ないPPSの熱的特性を弱めることが見い出された。
【0008】
したがって、フローフロントでのガス放出量が減少した、従来の金属接着プラスチックにおける基本的課題である優れた金属への接着特性を有するPPS組成物の開発が求められていた。
【発明の開示】
【技術的課題】
【0009】
本願発明の目的は、フローフロントでのガス放出量が少ない、金属への優れた接着特性を有するポリアリーレンスルフィド組成物を提供することである。
【課題解決手段】
【0010】
本願発明は、ポリアリーレンスルフィド;および式1のシラン変性エポキシ樹脂を含み、ガス放出の量が300ppm以下である樹脂組成物を提供する:
【0011】
【0012】
ここで
R1は、水素またはC1-6アルキルであり;
R2は、エポキシ、アミノ、メルカプト、ビニル、およびそれらの組合せからなる群から選択され;および
nは0~100の整数である。
【本願発明の有利な効果】
【0013】
本願発明によるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、PPS特有の優れた機械的および熱的特性を損なうことなく、ガス放出量か少なく、金属への優れた接着特性を有し;したがって、射出インサート成形により一体的に形成される電子部品および自動車部品を含む種々の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、金属への接着強度を試験するための、本願発明の樹脂組成物を用いた試験片の製造プロセスを示す部分的概略図である。
【本願発明を実施するための最良の態様】
【0015】
本願発明は、ポリアリーレンスルフィド;および式1のシラン変性エポキシ樹脂を含み、ガス放出の量が300ppm以下である樹脂組成物を提供する。
【0016】
【0017】
ここで、
R1は、水素またはC1-6アルキルであり;
R2は、エポキシ、アミノ、メルカプト、ビニル、およびそれらの組合せからなる群から選択され;および
nは0~100の整数である。
【0018】
本願発明の樹脂組成物は、ガス放出の量が300ppm以下、好ましくは150~300ppmであるという特徴を有する。
【0019】
以降、本願発明の組成物の成分について詳細に述べる。
【0020】
本願発明の樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィドを含む。
【0021】
ポリアリーレンスルフィドは、組成物総量の20~85重量%、好ましくは30~80重量%含まれていてよい。ポリアリーレンスルフィドの量が20重量%以上である場合、抗張力等の機械的強度は減少しない。さらに、前記量が85重量%以下である場合、金属への接着効果は優れたものとなる。
【0022】
ポリアリーレンスルフィドは、アリーレンスルフィド繰り返し単位およびアリーレンジスルフィド繰り返し単位を含み、アリーレンスルフィド繰り返し単位のアリーレンジスルフィド繰り返し単位に対する重量比は、1:0.0001~1:0.5の範囲にある。
【0023】
アリーレンスルフィド繰り返し単位は、ポリアリーレンスルフィド総重量の95~99.99重量%含まれていてよく、アリーレンジスルフィド繰り返し単位は、ポリアリーレンスルフィド総重量の0.01~5重量%含まれていてよい。
【0024】
ポリアリーレンスルフィドは、3,000~1,000,000の数平均分子量および2.0~4.0の多分散性(これは重量平均分子量の数平均分子量に対する比と定義される)を有していてよく、これは比較的狭い分散性を示す。
【0025】
ポリアリーレンスルフィドは、270~290℃、好ましくは275~285℃、例えば約280℃の融点を有していてよい。さらに、回転円盤式粘度計で融点+20℃の温度で計測された溶融粘度は、100~5,000ポアズ、好ましくは500~3,000ポアズ、例えば約2,000ポアズである。
【0026】
本願発明において用いられるポリアリーレンスルフィドは、所定量のアリーレンジスルフィド繰り返し単位を含んでいるため、同一の分子量を有するがアリーレンスルフィド繰り返し単位のみからなるポリアリーレンスルフィドの融点よりも低い融点を有することができ、これは、処理温度を低下させ、成形工程において副産物として発生するガス放出の量を減少させる。さらに、最終的に生産されたポリアリーレンスルフィドは、優れた物理的特性を有する。
【0027】
ポリアリーレンスルフィドは、上述の特性を満たす限り特に限定されない。例えば、ポリアリーレンスルフィドは溶液重合により製造してもよい。さらに、上述の特性を満たすポリアリーレンスルフィドは、金属への樹脂組成物の接着を改善する。
【0028】
特に、ポリアリーレンスルフィドは、韓国公開特許第2011-0102226号公報により開示された方法により製造してもよい。この方法は、例えば、(a)ジヨード芳香族化合物および硫黄化合物を含む反応物質の重合反応を実施し;および(b)前記重合反応の間に、さらに、反応物質に含まれる硫黄化合物100重量部に対して、硫黄化合物を0.1~20重量部の量添加する工程を含んでよい。
【0029】
上記の方法では、重合反応の間に小量の硫黄化合物がさらに添加されるため、ジスルフィド型結合がポリマーにおいて形成され得る。ジスルフィド型結合は、硫黄交換反応において継続的に関与し、この反応は、ポリアリーレンスルフィドに含まれるポリマー鎖との平衡反応であり、それにより、ポリアリーレンスルフィドに含まれるポリマー鎖の分子量を均一化する。特に、反応物質の重合の程度は、硫黄交換反応の平衡反応により一般的に均一化される;したがって、過度に大きなまたは小さな分子量のポリアリーレンスルフィドポリマー鎖の形成は抑制される。
【0030】
ジヨード芳香族化合物および硫黄化合物を含む反応物質は、重合工程の前に溶融ブレンドされてよい。ジヨード芳香族化合物は、重合前に供給される硫黄化合物の100重量部に対して、1,000~1,400重量部の量で用いてよい。
【0031】
重合反応の工程において、1~20重量部の重合停止剤が、反応物質に供給される硫黄化合物100重量部に対して添加されてよい。重合停止剤は、製造されるポリマー中に含まれるヨード基を除去することにより重合を停止させる限り、特に限定はされない。重合停止剤としては、ジフェニルスルフィド、ジフェニルエーテル、ビフェニル(またはジフェニル)ベンゾフェノン、ジベンゾチアジルジスルフィド、モノヨウ化アリール化合物、ベンゾチアゾール、ベンゾチアゾールスルフェンアミド、チウラム、チジチオカルバメート、およびジフェニルジスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種を使用してよい。
【0032】
ポリアリーレンスルフィドの重合反応において使用し得るジヨード芳香族化合物は、ジヨードベンゼン(DIB)、ジヨードナフタレン、ジヨードビフェニル、ジヨードビスフェノール、およびジヨードベンゾフェノンからなる群から選択される少なくとも1種であるが、それに限定されない。
【0033】
重合反応のための条件は、ジヨード芳香族化合物の硫黄化合物との反応が開始され得る限り特に限定されない。好ましくは、重合は、昇温および減圧という反応条件において実施され得る。特に、当初の反応条件の温度180~250℃および圧力50~450Torrから、最終反応条件の温度270~350℃および圧力0.001~20Torrへと、温度は昇温され圧力は減圧される。反応は、1~30時間実施してよい。
【0034】
一方、本願発明の樹脂組成物は、シラン変性エポキシ樹脂を含む。
【0035】
シラン変性エポキシ樹脂は、ビスフェノール、好ましくはビスフェノールAまたはビスフェノールF等を含んでよく、例えば、以下の式1により代表されることができる。
【0036】
【0037】
ここで、
R1は、水素またはC1-6アルキルであり;
R2は、エポキシ、アミノ、メルカプト、ビニル、およびそれらの組合せからなる群から選択され;および
nは0~100の整数である。
【0038】
好ましくは、R1は、水素またはメチルであり;R2は、エポキシまたはアミノであり;およびnは1~100の整数である。
【0039】
シラン変性エポキシ樹脂は、組成物の総量に対して、0.5~10重量%、好ましくは1~8重量%含まれてよい。シラン変性エポキシ樹脂の量が0.5重量%以上の場合、金属への接着強度は良好となる。さらに、その量が10重量%以下の場合、機械的強度は損なわれない。
【0040】
本願発明によれば、シラン変性エポキシ樹脂の添加は、樹脂組成物に、従来のPPS樹脂組成物が有していなかった優れた金属への接着特性を付与することができる。
【0041】
本願発明の樹脂組成物は、さらに、エラストマー、フィラー、緩衝材、接着性増強剤、安定剤、顔料、およびそれらの組合せからなる群から選択される成分を含んでよい。
【0042】
エラストマーとして、ポリ塩化ビニルエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリブタジエンエラストマー、グリシジルメタクリレートおよびメチルアクリルエステル(methyl acryl ester)のターポリマー、並びにそれらの組合せからなる群から選択される熱可塑性エラストマーが使用できる。好ましいエラストマーは、グリシジルメタクリレートおよびメチルアクリルエステルのターポリマーである。
【0043】
エラストマーは、樹脂組成物の総量に基づき1~15重量%、好ましくは3~10重量%含まれていてよい。前記エラストマーの本願発明の樹脂組成物への添加は、PPSに強度を与えることができ、そうでない場合には金属への接着後の温度変化により生じ得る、樹脂と金属との間の界面の分離を防ぐ。
【0044】
フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、硼素繊維、ガラスビーズ、ガラス片、タルク、および炭酸カルシウムからなる群から選択される、少なくとも1種の有機または無機フィラーを用いることができる。好ましいフィラーは、ガラス繊維である。前記フィラーは、粉末または薄片の形態であり得るが、それに限定されない。
【0045】
フィラーとして用いられるガラス繊維は、ウレタン/エポキシシラン処理されたガラス繊維、ウレタン/アミノシラン処理されたガラス繊維、およびそれらの組合せからなる群から選択され得る。好ましいガラス繊維は、ウレタン/エポキシシラン処理されたガラス繊維またはウレタン/アミノシラン処理されたガラス繊維であってよい。
【0046】
フィラーは、樹脂組成物の総量に基づいて、5~50重量%、好ましくは10~40重量%含まれていてよい。
【0047】
顔料としては、本技術分野において知られている従来の有機または無機顔料、例えば、二酸化チタン(TiO2)、カーボンブラック、およびそれらの組合せからなる群から選択される有機または無機顔料を用いることができる。好ましくは、二酸化チタンが使用できる。
【0048】
顔料は、樹脂組成物の総量に基づいて、0.1~10重量%、好ましくは0.3~7重量%含まれていてよい。
【0049】
さらに、本願発明の樹脂組成物は、上記の成分に加えて、種々の本技術分野において知られている従来の添加剤、例えば、抗酸化剤、光安定剤、UV安定剤、可塑剤、造核剤、等を含んでよい。
【0050】
抗酸化剤の例は、フェノール系抗酸化剤、アミン系抗酸化剤、硫黄抗酸化剤、およびリン系抗酸化剤であってよい。抗酸化剤は、本願発明の樹脂組成物に、高温抵抗性および熱的安定性を与える。
【0051】
フェノール系抗酸化剤としては、ヒンダードフェノール化合物が好ましく用いられる。具体例は、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド]、等である。
【0052】
リン系抗酸化剤の例は、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)フォスフェート、O,O’-ジオクタデシルペンタエリスリトールビス(ホスファイト)、ビス(2.4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、3,9-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキシ-3,9-ジホスファスピロ(diphospaspiro)[5.5]ウンデカン等である。
【0053】
さらに、本願発明の樹脂組成物は、成形性を向上させるための種々の潤滑剤を含んでよい。特に、炭化水素潤滑剤が、樹脂と金型との間の摩擦を防止し、型からの分離性を与える等のために用いられ得る。
【0054】
本願発明の樹脂組成物は、ASTM D 638に従って測定したときに、50~150MPa、好ましくは70~150MPaの抗張力を有し得、特定のパターンにエッチングされたアルミニウム板状へのインサート射出により得られた金属接着試験用の試験片に対して、ASTM D 3163の試験方法により測定したときに、金属への接着強度は25MPa以上、好ましくは30MPa以上、さらに好ましくは30~70MPaである。
【0055】
このように、本願発明の樹脂組成物は、上述のように、ポリアリーレンスルフィドおよびシラン変性エポキシ樹脂を含むため、PPS特有の優れた機械的および熱的特性を損なうことなく、少量のガス放出により、金属への優れた接着特性を有することができる。
【0056】
さらに、本願発明は、本願の樹脂組成物から製造される成形品を提供する。
【0057】
本願発明の樹脂組成物は、本技術分野において知られている方法、例えば二軸押出しによる優れた耐衝撃性を有する成形品の製造において用いることができ、種々の用途において用いることができる。
【0058】
成形品は、本願発明に従い、フィルム、シート、または繊維を含む種々の形態であることができる。成形品は、射出成形品、押出し成形品、またはブロー成形品であってよい。射出成形の場合、型の温度は、結晶化の観点から、約130℃以上であってよい。
【0059】
成形品が、フィルムまたはシートの形態である場合、多種のフィルムまたはシート、たとえば非配向、一軸配向、または二軸配向フィルムまたはシート、として製造されてよい。成形品は、非配向繊維、延伸繊維、または超延伸繊維等であってよく、また、布、不織布(スパンボンド、メルトブロー、またはステープル)、ロープ、またはネットとして用いられてもよい。
【0060】
上記成形品は、化学薬品と接触する領域の被覆、または耐薬品性を有する工業繊維としてはもちろん、電気/電子部品、建築材料、自動車部品、機械部品、または基本的物資として、用いることができる。
【発明の態様】
【0061】
以降、本願発明を例により詳細に説明する。以下の例は、本願発明を、その範囲を限定することなく、さらに説明することを意図したものである。
【0062】
調製例1:PPSの調製
40kgのp-ジヨードベンゼン、3.4kgの硫黄、および、触媒として150gの1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼンを、180℃の反応器内で溶融ブレンドした。混合された反応物質は重合反応の対象とされ、温度は180℃から340℃に上昇され、圧力は350torrから10torrに減圧された。重合の開始から5時間の時点で、150gの硫黄および重合低剤として100gのジフェニルスルフィドが反応混合物に添加され、ポリマーを得るために、重合反応がさらに3時間実施された。
【0063】
溶融粘度(MV)、融点(Tm)、および得られたPPSポリマーの繰り返し単位の重量比が、以下の方法に従って測定された。結果として、このPPSポリマーは、2,000ポアズのMV、280℃のTm、16,400の数平均分子量、および1:0.003のアリーレンスルフィド単位のアリーレンジスルフィド単位に対する重量比を有していた。
【0064】
溶融粘度
溶融粘度は、Tm+20℃で回転円盤式粘度計により測定された。周波数掃引法において、角周波数は0.6~500rad/sで測定され、1.0rad/sでの粘度が溶融粘度として定義された。
【0065】
融点
示差走査熱量計を用いて、温度が30から320℃に10℃/分の速度で上昇し、30℃に冷却され、およびその後30℃から320℃に10℃/分の速度で上昇する間、融点が測定された。
【0066】
繰り返し単位の重量解析
製造されたPPSポリマー2mgは、自動迅速加熱炉において1,000℃で燃焼させられた。硫黄ガスが吸収液(例えば、過酸化水素)に捕捉され、イオン化された。硫黄イオンは、イオンクロマトグラフィーカラムにおいて分離され、その量が、硫黄に対する標準材料(K2SO4)により測定された。測定された硫黄量と理論的硫黄量との差異は、アリーレンジスルフィドの量として計算された。
【0067】
例1:PPS樹脂組成物の調製
調製例1において得られたPPS樹脂67重量%、ウレタン/エポキシシランで処理されたガラス繊維(TF-523、Owens Corning)15重量%、エラストマー(Lotader AX-8900、Arkema)8重量%、シラン変性エポキシ樹脂(KSR-900、Kukdo Chemical Co.,Ltd.)5重量%、および白色顔料TiO2(2233 grade,Kronoss)5重量%が、組成物製造のために二軸スクリューエクストルーダーに供給された。
【0068】
前記エクストルーダーは、40mmの直径および44のL/Dを有する(SM Platek)。押出し条件は、スクリュー速度250rpm、供給速度60kg/hour、バレル温度280~300℃、およびトルク60%であった。上記の材料は、全部で3つのフィーダーを介して供給され、第1のフィーダーは、PPS樹脂、エラストマー、およびシラン変性エポキシ樹脂を供給するために用いられ;第2のフィーダーは白色顔料を供給するために;および第3のフィーダーはガラス繊維を供給するために用いられた。
【0069】
例2~6
成分及びその量が以下の表2に示されたものであることを除いて、例1におけると同一の手順を、PPS樹脂組成物の製造のために繰り返した。
【0070】
比較例1
シラン変性エポキシ樹脂の代わりにBPA型エポキシ樹脂(YD-017、Kukdo Chemical Co.,Ltd.)が用いられたことを除いて、例1におけると同一の手順を、PPS樹脂組成物の製造のために繰り返した。
【0071】
比較例2
成分及びその量が以下の表2に示されたものであることを除いて、例1におけると同一の手順を、PPS樹脂組成物の製造のために繰り返した。
【0072】
比較例3
成分及びその量が以下の表2に示されたものであり、エポキシ樹脂が使用されないことを除いて、例1におけると同一の手順を、PPS樹脂組成物の製造のために繰り返した。
【0073】
比較例4
溶液重合法により得られたPPS1(0205P4、Ticona、リニアー型PPS)が、調製例1において得られたものの代わりに使用されたことを除いて、例1におけると同一の手順を、PPS樹脂組成物の製造のために繰り返した。
【0074】
比較例5
成分及びその量が以下の表2に示されたものであり、溶液重合法により得られたPPS1(0205P4、Ticona、リニアー型PPS)が、調製例1において得られたものの代わりに使用され、エポキシ樹脂が使用されないことを除いて、例1におけると同一の手順を、PPS樹脂組成物の製造のために繰り返した。
【0075】
比較例6
溶液重合法により得られたPPS2(P6、Chevron Philips、架橋型PPS)が、調製例1において得られたものの代わりに使用されたことを除いて、例1におけると同一の手順を、PPS樹脂組成物の製造のために繰り返した。
【0076】
以下の表1は、例1~6および比較例1~6において使用された成分の製造元を示す。
【0077】
【0078】
試験例
例および比較例において製造されたPPS樹脂組成物の物理的特性は、以下に記載のように試験された。結果を表2に示す。
【0079】
まず、例および比較例において製造されたPPS樹脂組成物は、射出成形試験片を製造するために310℃で射出注入された。
【0080】
(1)ガス放出量
2gの射出成形試験片は、密閉された20mLの瓶中に置かれた。瓶がヘッドスペース装置中で260℃で30分加熱された後、発生したガスは、自動的にガスクロマトグラフィー-マススペクトロメーターに移送された。その後、各成分は、定性的分析用のキャピラリーカラムにより分離され、試験片中の各成分の量は、標準材料としてのベンゾチアゾールにより定量的に分析された。
【0081】
(2)抗張力
射出成形試験片の抗張力は、ASTM D 638法に従って測定された。
【0082】
(3)金属への接着強度
特にエッチングされたアルミニウム試験片(長さ:70mm、幅:18mm、および高さ:2mm)は、2-プレート射出成形機械における固定型および移動型の間に置かれた。例および比較例において製造されたPPS樹脂組成物は、それぞれ、2-プレートの型の間で、射出速度40mm/sおよび圧力70barsで射出成型された。成形部品は、金属への接着強度を測定するための試験用の試験片(長さ:70mm、幅:
10mm、および高さ:
3mm)(
図1を参照)を製造するために、型から離された。試験用試験片の金属への接着強度は、ASTM D 3163法に従って測定された。
【0083】
【0084】
表2に示されるように、本願発明の樹脂組成物は、溶液重合により製造されたPPS1またはPPS2を含む比較例4~6と比較して、ガス放出量を3~5倍減少させるという効果を奏する。さらに、本願のシラン変性エポキシ樹脂を含む樹脂組成物は、金属に対して47~63MPaの接着強度を有し、これは、BPAエポキシ樹脂を含む比較例1のそれと比較して、顕著に改善されている。過剰な量のシラン変性エポキシを含む比較例2の組成物は抗張力を減少させ、シラン変性エポキシを含まない比較例3のそれは金属に対する接着強度を大幅に減少させたことにも留意すべきである。
【0085】
結果的に、本願発明の樹脂組成物は、ガス放出の量を減少させることにより、優れた金属への接着性を有し得る。したがって、これは、射出インサート成形により一体的に形成される、電子部品から自動車部品に至るまでの多くの異なる分野において用いることができる。
以下、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1] ポリアリーレンスルフィド;および式1のシラン変性エポキシ樹脂を含み、ガス放出の量が300ppm以下である樹脂組成物:
【化4】
ここで、
R
1
は、水素またはC
1-6
アルキルであり;
R
2
は、エポキシ、アミノ、メルカプト、ビニル、およびそれらの組合せからなる群から選択され;および
nは0~100の整数である。
[2] 前記シラン変性エポキシ樹脂は、組成物総量の0.5~10重量%の量で含まれている、[1]に記載の組成物。
[3] エラストマー、フィラー、緩衝材、接着性増強剤、安定剤、顔料、およびそれらの組合せからなる群から選択される成分をさらに含む、[1]に記載の組成物。
[4] 前記エラストマーが、ポリ塩化ビニルエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリブタジエンエラストマー、グリシジルメタクリレートおよびメチルアクリルエステルのターポリマー、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される熱可塑性エラストマーである、[3]に記載の組成物。
[5] 前記フィラーが、ガラス繊維、炭素繊維、硼素繊維、ガラスビーズ、ガラス片、タルク、および炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の有機または無機フィラーである、[3]に記載の組成物。
[6] 前記ガラス繊維が、ウレタン/エポキシシラン処理されたガラス繊維、ウレタン/アミノシラン処理されたガラス繊維、およびそれらの組合せからなる群から選択される、[5]に記載の組成物。
[7] 前記顔料が、二酸化チタン(TiO
2
)、カーボンブラック、およびそれらの組合せからなる群から選択される有機または無機顔料である、[3]に記載の組成物。
[8] 前記顔料が、組成物総量の0.1~10重量%の量で含まれている、[3]に記載の組成物。
[9] ASTM D 638により測定したときに50~150MPaの抗張力を有する、[1]に記載の組成物。
[10] ASTM D 3163により測定したときに25MPa以上の金属への接着強度を有する、[1]に記載の組成物。