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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】超音波プローブ
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20220124BHJP
   A61B 8/12 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
H04R17/00 330G
A61B8/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018005197
(22)【出願日】2018-01-16
(65)【公開番号】P2019125913
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-027695(JP,A)
【文献】特開2014-146885(JP,A)
【文献】特開2004-327908(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190101(WO,A1)
【文献】特開平08-079892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
A61B 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する超音波送受部と、
前記超音波送受部から出射された超音波を外部に放射するとともに、外部から入射した超音波を当該超音波送受部に伝達する音響レンズとを備え、
前記超音波送受部及び前記音響レンズは、
主剤硬化剤とを有して構成された接着剤により互いに接合される接合面と、
前記接合面の外縁側に設けられ、撥水性を有する撥水部と、
を各々設けられている
ことを特徴とする超音波プローブ。
【請求項2】
前記超音波送受部は、
入力した電気信号に応じて超音波をそれぞれ出射するとともに外部から入射した超音波を電気信号にそれぞれ変換する複数の圧電素子を含む振動部と、
前記振動部に積層され、当該振動部と観測対象との音響インピーダンスをマッチングさせる音響整合層とで構成され、
前記音響整合層及び前記音響レンズは、
前記接着剤により互いに接合され、
前記撥水部は、
前記音響整合層及び前記音響レンズにおける前記接着剤で接合される前記各接合面の外縁側にそれぞれ設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記撥水部は、
前記接合面の外縁に沿って延在する枠状に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項4】
前記撥水部は、
前記超音波送受部及び前記音響レンズの積層断面において、当該超音波送受部が超音波を送受信する超音波送受領域の外側に設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項5】
前記撥水部は、
前記接合面に設けられた撥水コーティング膜で構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項6】
前記撥水コーティング膜は、
フッ素コーティング膜または疎水性シリカ粒子コーティング膜である
ことを特徴とする請求項5に記載の超音波プローブ。
【請求項7】
前記撥水部は、
ナノメートルサイズの突起を含むマイクロメートルサイズの複数の突起を有する二重粗さ構造である
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柔軟で細長い挿入部を人等の被検体内に挿入し、当該挿入部の先端に設けられた超音波プローブを用いて当該被検体内を観察する超音波内視鏡が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の超音波プローブは、超音波を送受信する超音波送受部と、当該超音波送受部から出射された超音波を外部に放射する音響レンズとを備える。そして、これら超音波送受部及び音響レンズは、接着剤により互いに接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5984525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の超音波プローブにおいて、超音波送受部と音響レンズとを互いに接合する接着剤として、主剤及び硬化剤により構成された接着剤(2液混合型接着剤)を用いた場合には、以下に示す問題が生じる虞がある。
図9A及び図9Bは、従来の超音波プローブ10Aでの課題を説明する図である。なお、図9A及び図9Bでは、超音波送受部11Aと音響レンズ12Aとを接合する2液混合型接着剤である接着剤15については、説明の便宜上、実際には混合されている主剤151及び硬化剤152を互いに分離して図示している。
音響レンズ12Aの接合面121Aに接着剤15を塗布するとともに、当該音響レンズ12Aを超音波送受部11Aの接合面114Aにあてがった直後の状態では、図9Aに示すように、主剤151と硬化剤152との配合比のバランスは保たれている。
【0005】
ここで、音響レンズ12Aは、一般的に、比較的に柔軟な材料であるシリコーン樹脂等で構成されている。すなわち、音響レンズ12Aが変形し易いため、図9Aの状態から時間が経過すると、毛細管現象により、主剤151及び硬化剤152のうち粘度の低い方(図9Bでは硬化剤152)が各接合面121A,114Aの隙間に引き込まれる。その結果、図9Bに示すように、各接合面121A,114Aの外縁側において、主剤151と硬化剤152との配合比のバランスが崩れ(図9Bでは硬化剤152の割合が小さくなり)、接着剤15が硬化しない現象が生じてしまう。
そして、外縁側で接着剤15が硬化していない場合には、各接合面121A,114A間の内部の接着剤15が硬化しているか否かを確認することが難しい。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、内部の接着剤が硬化しているか否かを適切に確認することが可能となる超音波プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る超音波プローブは、超音波を送受信する超音波送受部と、前記超音波送受部から出射された超音波を外部に放射するとともに、外部から入射した超音波を当該超音波送受部に伝達する音響レンズとを備え、前記超音波送受部及び前記音響レンズは、主剤硬化剤とを有して構成された接着剤により互いに接合される接合面と、前記接合面の外縁側に設けられ、撥水性を有する撥水部と、を各々設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る超音波プローブでは、上記発明において、前記超音波送受部は、入力した電気信号に応じて超音波をそれぞれ出射するとともに外部から入射した超音波を電気信号にそれぞれ変換する複数の圧電素子を含む振動部と、前記振動部に積層され、当該振動部と観測対象との音響インピーダンスをマッチングさせる音響整合層とで構成され、前記音響整合層及び前記音響レンズは、前記接着剤により互いに接合され、前記撥水部は、前記音響整合層及び前記音響レンズにおける前記接着剤で接合される前記各接合面の外縁側にそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る超音波プローブでは、上記発明において、前記撥水部は、前記接合面の外縁に沿って延在する枠状に形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る超音波プローブでは、上記発明において、前記撥水部は、前記超音波送受部及び前記音響レンズの積層断面において、当該超音波送受部が超音波を送受信する超音波送受領域の外側に設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る超音波プローブでは、上記発明において、前記撥水部は、前記接合面に設けられた撥水コーティング膜で構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る超音波プローブでは、上記発明において、前記撥水コーティング膜は、フッ素コーティング膜または疎水性シリカ粒子コーティング膜であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る超音波プローブでは、上記発明において、前記撥水部は、ナノメートルサイズの突起を含むマイクロメートルサイズの複数の突起を有する二重粗さ構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る超音波プローブによれば、内部の接着剤が硬化しているか否かを適切に確認することが可能となる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施の形態1に係る内視鏡システムを示す図である。
図2図2は、挿入部の先端を示す斜視図である。
図3図3は、超音波プローブを示す断面図である。
図4図4は、接着剤による音響レンズと超音波送受部との固定構造を示す図である。
図5図5は、接着剤による音響レンズと超音波送受部との固定構造を示す図である。
図6A図6Aは、接着剤による音響レンズと超音波送受部との固定方法を説明する図である。
図6B図6Bは、接着剤による音響レンズと超音波送受部との固定方法を説明する図である。
図7図7は、本実施の形態2に係る接着剤による音響レンズと超音波送受部との固定構造を示す図である。
図8図8は、本実施の形態2に係る接着剤による音響レンズと超音波送受部との固定構造を示す図である。
図9A図9Aは、従来の超音波プローブでの課題を説明する図である。
図9B図9Bは、従来の超音波プローブでの課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態)について説明する。なお、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。
【0017】
(実施の形態1)
〔内視鏡システムの概略構成〕
図1は、本実施の形態1に係る内視鏡システム1を示す図である。
内視鏡システム1は、超音波内視鏡を用いて人等の被検体内の超音波診断を行うシステムである。この内視鏡システム1は、図1に示すように、超音波内視鏡2と、超音波観測装置3と、内視鏡観察装置4と、表示装置5とを備える。
超音波内視鏡2は、一部を被検体内に挿入可能とし、被検体内の体壁に向けて超音波パルス(音響パルス)を送信するとともに被検体にて反射された超音波エコーを受信してエコー信号を出力する機能、及び被検体内を撮像して画像信号を出力する機能を有する。
なお、超音波内視鏡2の詳細な構成については、後述する。
【0018】
超音波観測装置3は、超音波ケーブル31(図1)を介して超音波内視鏡2に電気的に接続し、超音波ケーブル31を介して超音波内視鏡2にパルス信号を出力するとともに超音波内視鏡2からエコー信号を入力する。そして、超音波観測装置3では、当該エコー信号に所定の処理を施して超音波画像を生成する。
内視鏡観察装置4には、超音波内視鏡2の後述する内視鏡用コネクタ9(図1)が着脱自在に接続される。この内視鏡観察装置4は、図1に示すように、ビデオプロセッサ41と、光源装置42とを備える。
ビデオプロセッサ41は、内視鏡用コネクタ9を介して超音波内視鏡2からの画像信号を入力する。そして、ビデオプロセッサ41は、当該画像信号に所定の処理を施して内視鏡画像を生成する。
光源装置42は、内視鏡用コネクタ9を介して被検体内を照明する照明光を超音波内視鏡2に供給する。
表示装置5は、液晶または有機EL(Electro Luminescence)を用いて構成され、超音波観測装置3にて生成された超音波画像や、内視鏡観察装置4にて生成された内視鏡画像等を表示する。
【0019】
〔超音波内視鏡の構成〕
次に、超音波内視鏡2の構成について説明する。
超音波内視鏡2は、図1に示すように、挿入部6と、操作部7と、ユニバーサルコード8と、内視鏡用コネクタ9とを備える。
図2は、挿入部6の先端を示す斜視図である。
なお、以下では、挿入部6の構成を説明するにあたって、挿入部6の先端側(被検体内への挿入方向の先端側)を「先端側」とのみ記載し、挿入部6の基端側(挿入部6の先端から離間する側)を「基端側」とのみ記載する。
挿入部6は、被検体内に挿入される部分である。この挿入部6は、図1または図2に示すように、先端側に設けられた超音波プローブ10と、超音波プローブ10の基端側に連結された硬性部材61と、硬性部材61の基端側に連結され湾曲可能とする湾曲部62と、湾曲部62の基端側に連結され可撓性を有する可撓管63とを備える。
なお、挿入部6、操作部7、ユニバーサルコード8、及び内視鏡用コネクタ9の内部には、光源装置42から供給された照明光を伝送するライトガイド(図示略)、上述したパルス信号やエコー信号を伝送する振動子ケーブル(図示略)、及び画像信号を伝送する信号ケーブル(図示略)が引き回されているとともに、流体を流通させるための管路(図示略)が設けられている。
【0020】
ここで、硬性部材61は、樹脂材料等から構成された硬質部材であり、挿入軸Ax(図2)に沿って延在する略円柱形状を有する。なお、挿入軸Axは、挿入部6の延在方向に沿う軸である。
この硬性部材61において、先端側の外周面には、先端に向かうにしたがって当該硬性部材61を先細形状とする傾斜面611が形成されている。
そして、硬性部材61には、図2に示すように、基端から先端まで貫通した取付用孔(図示略)、基端から傾斜面611までそれぞれ貫通した照明用孔612、撮像用孔613、送気送水用孔614、及び処置具チャンネル615等が形成されている。
上述した取付用孔(図示略)は、超音波プローブ10が取り付けられる孔である。そして、当該取付用孔の内部には、上述した振動子ケーブル(図示略)が挿通されている。
【0021】
照明用孔612の内部には、上述したライトガイド(図示略)の出射端側と、当該ライトガイドの出射端から出射された照明光を被検体内に照射する照明レンズ616(図2)とが配設されている。
撮像用孔613の内部には、被検体内に照射され、当該被検体内で反射された光(被写体像)を集光する対物光学系617(図2)、及び当該対物光学系617にて集光された被写体像を撮像する撮像素子(図示略)が配設されている。そして、当該撮像素子にて撮像された画像信号は、上述した信号ケーブル(図示略)を介して内視鏡観察装置4(ビデオプロセッサ41)に伝送される。
本実施の形態1では、上述したように照明用孔612及び撮像用孔613は、傾斜面611に形成されている。このため、本実施の形態1に係る超音波内視鏡2は、挿入軸Axに対して鋭角で交差する方向を観察する斜視タイプの内視鏡として構成されている。
【0022】
送気送水用孔614は、上述した管路(図示略)の一部を構成し、撮像用孔613に向けて送気または送水し、対物光学系617の外面を洗浄するための孔である。
処置具チャンネル615は、挿入部6の内部に挿通された穿刺針等の処置具(図示略)を外部に突出させる通路である。
【0023】
操作部7は、挿入部6の基端側に連結され、医師等から各種操作を受け付ける部分である。この操作部7は、図1に示すように、湾曲部62を湾曲操作するための湾曲ノブ71と、各種操作を行うための複数の操作部材72とを備える。
また、操作部7には、湾曲部62及び可撓管63の内部に設けられたチューブ(図示略)を介して処置具チャンネル615に連通し、当該チューブに処置具(図示略)を挿通するための処置具挿入口73が設けられている。
【0024】
ユニバーサルコード8は、操作部7から延在し、上述したライトガイド(図示略)、上述した振動子ケーブル(図示略)、上述した信号ケーブル(図示略)、及び上述した管路(図示略)の一部を構成するチューブ(図示略)が配設されたコードである。
内視鏡用コネクタ9は、ユニバーサルコード8の端部に設けられている。そして、内視鏡用コネクタ9は、超音波ケーブル31が接続されるとともに、内視鏡観察装置4に挿し込まれることでビデオプロセッサ41及び光源装置42に接続する。
【0025】
〔超音波プローブの構成〕
次に、超音波プローブ10の構成について説明する。
図3は、超音波プローブ10を示す断面図である。具体的に、図3は、挿入軸Axを含み、走査面SSに直交する平面にて超音波プローブ10を切断した断面図である。
超音波プローブ10は、コンベックス型の超音波プローブであり、外部(図3中、上方側)に向けて凸となる円筒面状の走査面SSを有する。
なお、以下では、超音波プローブ10の構成を説明するにあたって、円筒面状の走査面SSの周方向を「周方向」とのみ記載し、円筒面状の走査面SSにおける円筒軸に沿う方向(図3中、紙面に直交する方向)を「幅方向」と記載する。
そして、超音波プローブ10は、走査面SSの法線で構成される断面視扇状の超音波送受領域Ar(図3)内で周方向に沿って超音波を走査(送受信)する。
この超音波プローブ10は、図3に示すように、超音波送受部11と、音響レンズ12と、バッキング材13と、保持部材14とを備える。
【0026】
超音波送受部11は、超音波を送受信する部分であり、図3に示すように、複数の圧電素子112で構成された振動部111と、音響整合層113とを備える。
複数の圧電素子112は、幅方向に沿って直線状に延在する長尺状の直方体でそれぞれ構成され、図3に示すように、周方向に沿って規則的に配列されている。また、圧電素子112の外面には、具体的な図示は省略したが、一対の電極が形成されている。そして、圧電素子112は、上述した振動子ケーブル(図示略)及び一対の電極(図示略)を介して入力したパルス信号(本発明に係る電気信号に相当)を超音波パルスに変換して被検体に送信する。また、圧電素子112は、被検体で反射された超音波エコーを電圧変化で表現する電気的なエコー信号(本発明に係る電気信号に相当)に変換し、上述した一対の電極(図示略)を介して上述した振動子ケーブル(図示略)に出力する。
すなわち、超音波送受領域Arにおいて、周方向の一端の位置は、複数の圧電素子112のうち周方向の一端に位置する圧電素子1121(図3)の位置に相当する。また、周方向の他端の位置は、複数の圧電素子112のうち周方向の他端に位置する圧電素子1122(図3)の位置に相当する。
【0027】
ここで、圧電素子112は、PMN-PT単結晶、PMN-PZT単結晶、PZN-PT単結晶、PIN-PZN-PT単結晶またはリラクサー系材料を用いて形成される。
なお、PMN-PT単結晶は、マグネシウム・ニオブ酸鉛及びチタン酸鉛の固溶体の略称である。PMN-PZT単結晶は、マグネシウム・ニオブ酸鉛及びチタン酸ジルコン酸鉛の固溶体の略称である。PZN-PT単結晶は、亜鉛・ニオブ酸鉛及びチタン酸鉛の固溶体の略称である。PIN-PZN-PT単結晶は、インジウム・ニオブ酸鉛、亜鉛・ニオブ酸鉛及びチタン酸鉛の固溶体の略称である。リラクサー系材料は、圧電定数や誘電率を増加させる目的でリラクサー材料である鉛系複合ペロブスカイトをチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に添加した三成分系圧電材料の総称である。鉛系複合ペロブスカイトは、Pb(B1、B2)Oで表され、B1はマグネシウム、亜鉛、インジウムまたはスカンジウムのいずれかであり、B2はニオブ、タンタルまたはタングステンのいずれかである。これらの材料は、優れた圧電効果を有している。このため、小型化しても電気的なインピーダンスの値を低くすることができ、上述した一対の電極(図示略)との間のインピーダンスマッチングの観点から好ましい。
【0028】
音響整合層113は、図3に示すように、周方向に沿って延在し、振動部111に対して超音波プローブ10の外表面側(図3中、上方側)に積層されている。そして、音響整合層113は、振動部111(圧電素子112)と被検体との間で音(超音波)を効率よく透過させるために、当該振動部111と被検体との間の音響インピーダンスをマッチングさせる。
本実施の形態1では、音響整合層113における周方向の長さ寸法は、図3に示すように、振動部111における周方向の長さ寸法よりも大きく設定されている。
【0029】
音響レンズ12は、例えば、シリコーン樹脂等を用いて構成され、図3に示すように、周方向に沿って延在した断面視円弧状の板体である。また、音響レンズ12は、接着剤15(図4図5参照)にて超音波送受部11(音響整合層113)に対して超音波プローブ10の外表面側に固定される。すなわち、音響レンズ12において、一方の板面(図3中、上方側の板面)は、走査面SSとなる。そして、音響レンズ12は、振動部111から送信され、音響整合層113を介した超音波パルスを収束させる。また、音響レンズ12は、被検体で反射された超音波エコーを音響整合層113に伝達する。
本実施の形態1では、音響レンズ12における周方向の長さ寸法は、図3に示すように、音響整合層113における周方向の長さ寸法よりも小さく、振動部111における周方向の長さ寸法よりも大きく設定されている。
なお、接着剤15による音響レンズ12と超音波送受部11との固定構造については、後述する。
【0030】
バッキング材13は、図3に示すように、音響整合層113との間で振動部111を挟むように設けられ、圧電素子112の動作によって生じる不要な超音波振動を減衰させる部材である。このバッキング材13は、減衰率の大きい材料、例えば、アルミナやジルコニア等のフィラーを分散させたエポキシ樹脂や、上述したフィラーを分散したゴムを用いて形成される。
【0031】
保持部材14は、図3に示すように、保持部141と、取付部142とを備える。
保持部141は、超音波送受部11、音響レンズ12、及びバッキング材13が一体化されたユニットを保持する部分である。この保持部141には、図3に示すように、当該ユニットを保持しつつ、音響レンズ12の走査面SSを外部に露出させる凹部1411が形成されている。そして、凹部1411と当該ユニットとの隙間には、接着剤16(図3)が充填される。
取付部142は、保持部141の基端に一体形成され、硬性部材61における上述した取付用孔(図示略)に挿入され、当該硬性部材61に取り付けられる部分である。この取付部142には、図3に示すように、基端から凹部1411まで貫通し、上述した振動子ケーブル(図示略)が挿通される挿通孔1421が形成されている。
【0032】
〔接着剤による音響レンズと超音波送受部との固定構造〕
次に、接着剤15による音響レンズ12と超音波送受部11との固定構造について説明する。
図4及び図5は、接着剤15による音響レンズ12と超音波送受部11との固定構造を示す図である。具体的に、図4は、挿入軸Axを含み、走査面SSに直交する平面にて音響レンズ12及び超音波送受部11を切断した断面図である。図5は、走査面SSに直交し、幅方向に延在する平面にて音響レンズ12及び超音波送受部11を切断した断面図である。
接着剤15は、2液混合型接着剤であり、図4または図5に示すように、主剤151及び硬化剤152により構成されている。なお、図4及び図5では、説明の便宜上、実際には混合されている主剤151及び硬化剤152を互いに分離して図示している。
【0033】
ここで、音響整合層113において、接着剤15により音響レンズ12に対して接合される接合面114の外縁側には、図4または図5に示すように、撥水性を有する第1撥水部115が設けられている。
一方、音響レンズ12において、接着剤15により音響整合層113に対して接合される接合面121(走査面SSとは反対側の板面)の外縁側には、図4または図5に示すように、第1撥水部115に対向する位置に、撥水性を有する第2撥水部122が設けられている。
【0034】
以上説明した第1,第2撥水部115,122は、本発明に係る撥水部に相当する。本実施の形態1では、第1,第2撥水部115,122は、各接合面114,121の外縁に沿って延在した枠形状をそれぞれ有する。また、第1,第2撥水部115,122は、音響レンズ12及び超音波送受部11の積層断面において、図4または図5に示すように、超音波送受領域Arの外側に設けられている。さらに、第1,第2撥水部115,122は、撥水コーティング膜(フッ素コーティング膜)でそれぞれ構成されている。
【0035】
なお、第1,第2撥水部115,122としては、フッ素コーティング膜に限らず、疎水性シリカコーティング膜で構成してもよく、あるいは、二重粗さ構造で構成しても構わない。ここで、二重粗さ構造とは、ナノメートルサイズの突起を含むマイクロメートルサイズの複数の突起(凹凸形状)を有する構造(ハスの葉の構造)である。
第1,第2撥水部115,122をフッ素コーティング膜や疎水性シリカコーティング膜等の撥水コーティング膜で構成した場合には、二重粗さ構造で構成した場合と比較して、製造が容易で比較的低コストである。一方、第1,第2撥水部115,122を二重粗さ構造で構成した場合には、撥水コーティング膜で構成した場合と比較して、撥水性を高めることができる。
ここで、本実施の形態1で記載の「撥水性」とは、例えば、水滴を保持する面に対して90°を超える接触角で水滴が接する特性を意味する。なお、水滴を保持する面に対して150°を超える接触角で水滴が接する「超撥水性」であればさらに望ましい。
【0036】
図6A及び図6Bは、接着剤15による音響レンズ12と超音波送受部11との固定方法を説明する図である。具体的に、図6A及び図6Bは、図4に対応した図である。また、図6A及び図6Bでは、図4と同様に、説明の便宜上、実際には混合されている主剤151及び硬化剤152を互いに分離して図示している。
先ず、作業者は、図6Aに示すように、音響レンズ12の接合面121全面に接着剤15を塗布する。
ここで、接合面121には、上述したように、第2撥水部122が設けられている。このため、接合面121全面に塗布された接着剤15のうち、第2撥水部122に塗布された接着剤15は、図6Bに示すように、当該第2撥水部122の撥水性により、当該第2撥水部122で囲まれる領域内、または、当該領域外に移動する。
【0037】
次に、作業者は、図6Bに示した音響レンズ12を音響整合層113の接合面114にあてがい、接着剤15を硬化させることにより、音響レンズ12及び超音波送受部11を互いに固定する。
なお、音響レンズ12を音響整合層113の接合面114にあてがった際に、接着剤15が当該接合面114の第1撥水部115に付着した場合であっても、当該第1撥水部115に付着した接着剤15は、当該第1撥水部115の撥水性により、当該第1撥水部115で囲まれる領域内、または、当該領域外に移動する。すなわち、音響レンズ12及び超音波送受部11を互いに固定した状態では、図4または図5に示すように、第1,第2撥水部115,122間には接着剤15が存在しない状態となる。
【0038】
以上説明した本実施の形態1によれば、以下の効果を奏する。
本実施の形態1に係る超音波プローブ10では、超音波送受部11及び音響レンズ12における各接合面114,121の外縁側には、撥水性を有する第1,第2撥水部115,122がそれぞれ設けられている。
このため、接着剤15を塗布した直後において、第1,第2撥水部115,122に付着した接着剤15は、当該第1,第2撥水部115,122で囲まれる領域内、または、当該領域外に移動する。すなわち、毛細管現象により、主剤151及び硬化剤152のうち粘性の低い方が各接合面114,121の隙間に引き込まれる現象を回避することができる。その結果、第1,第2撥水部115,122で囲まれる領域内、及び領域外の双方において、接着剤15の配合比のバランスを保つことができ、当該接着剤15を良好に硬化させることができる。
したがって、例えば、第1,第2撥水部115,122で囲まれる領域外に存在する接着剤15a(図4図5)が硬化していることを確認すれば、内部(第1,第2撥水部115,122で囲まれる領域内)の接着剤15b(図4図5)が硬化していることを確認することができる。
【0039】
また、本実施の形態1に係る超音波プローブ10では、第1,第2撥水部115,122は、各接合面114,121の外縁に沿って延在する枠形状をそれぞれ有する。
このため、外縁全体において接着剤15aを良好に硬化させることができる。したがって、外縁における硬化していない接着剤15aを拭き取る等の作業が不要となり、製造作業を簡素化することができる。
【0040】
また、本実施の形態1に係る超音波プローブ10では、第1,第2撥水部115,122は、音響レンズ12及び超音波送受部11の積層断面において、超音波送受領域Arの外側にそれぞれ設けられている。
このため、第1,第2撥水部115,122が超音波に影響を及ぼすことがなく、良好に超音波画像を生成することができる。
【0041】
(実施の形態2)
次に、本実施の形態2について説明する。
以下の説明では、上述した実施の形態1と同様の構成には同一符号を付し、その詳細な説明は省略または簡略化する。
図7及び図8は、本実施の形態2に係る接着剤15による音響レンズ12と超音波送受部11との固定構造を示す図である。具体的に、図7及び図8は、図4及び図5にそれぞれ対応した図である。
本実施の形態2では、図7または図8に示すように、上述した実施の形態1に対して、音響レンズ12に設けていた第2撥水部122を省略するとともに、第1撥水部115の代わりに接着剤15の熱を吸収する熱吸収構造体116を音響整合層113に設けた点が異なるのみである。
熱吸収構造体116は、図7または図8に示すように、接合面114において、当該接合面114の外縁に沿って延在した枠形状を有する。本実施の形態2では、熱吸収構造体116は、音響レンズ12及び超音波送受部11の積層断面において、超音波送受領域Arの外側に設けられている。また、熱吸収構造体116は、例えば、金属膜、導電性接着剤、またはカーボン等で構成されている。
【0042】
以上説明した本実施の形態2によれば、以下の効果を奏する。
ところで、常温において主剤151と硬化剤152との間で粘度に差がない場合であっても、硬化時の自己発熱による温度上昇によって、主剤151と硬化剤152との間に粘度に差が出る場合がある。この場合には、図9Bで説明したように、外縁側において、主剤151と硬化剤152との配合比のバランスが崩れ、接着剤15が硬化しない現象が生じてしまう。
本実施の形態2に係る超音波プローブ10では、超音波送受部11の接合面114の外縁側には、熱吸収構造体116が設けられている。
すなわち、接着剤15の熱が熱吸収構造体116で吸収されるため、硬化時の自己発熱による温度上昇を抑制し、主剤151と硬化剤152との間に粘度に差が出ることを回避することができる。このため、毛細管現象により、主剤151及び硬化剤152のうち粘性の低い方が各接合面114,121の隙間に引き込まれる現象を回避することができる。その結果、接着剤15全体で配合比のバランスを保つことができ、当該接着剤15を良好に硬化させることができる。
したがって、外縁側に存在する接着剤15が硬化していることを確認すれば、内部の接着剤15が硬化していることを確認することができる。
【0043】
また、本実施の形態2に係る超音波プローブ10では、熱吸収構造体116は、接合面114の外縁に沿って延在する枠形状を有する。
このため、外縁全体において接着剤15を良好に硬化させることができる。したがって、外縁における硬化していない接着剤15を拭き取る等の作業が不要となり、製造作業を簡素化することができる。
【0044】
また、本実施の形態2に係る超音波プローブ10では、熱吸収構造体116は、音響レンズ12及び超音波送受部11の積層断面において、超音波送受領域Arの外側に設けられている。
このため、熱吸収構造体116が超音波に影響を及ぼすことがなく、良好に超音波画像を生成することができる。
【0045】
(その他の実施形態)
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態1,2によってのみ限定されるべきものではない。
上述した実施の形態1,2では、超音波プローブ10は、コンベックス型の超音波プローブで構成されていたが、これに限らず、ラジアル型の超音波プローブで構成しても構わない。
上述した実施の形態1,2では、内視鏡システム1は、超音波画像を生成する機能、及び内視鏡画像を生成する機能の双方を有していたが、これに限らず、超音波画像を生成する機能のみを有する構成としても構わない。
上述した実施の形態1,2において、内視鏡システム1は、医療分野に限らず、工業分野において、機械構造物等の被検体の内部を観察する内視鏡システムとしても構わない。
上述した実施の形態1,2では、超音波内視鏡2は、挿入軸Axに対して鋭角で交差する方向を観察する斜視タイプの内視鏡で構成されていたが、これに限らず、挿入軸Axに対して直角に交差する方向を観察する側視タイプの内視鏡、または、挿入軸Axと平行な方向を観察する直視タイプの内視鏡として構成しても構わない。
【0046】
上述した実施の形態1,2において、音響整合層113を省略した構成(音響レンズ12を振動部111に直接、接着固定する構成)を採用しても構わない。この場合には、振動部111に第1撥水部115や熱吸収構造体116を設ければよい。
上述した実施の形態1,2では、第1,第2撥水部115,122及び熱吸収構造体116は、接合面114,121の外縁に沿って延在する枠形状を有していたが、これに限らず、当該外縁の一部にのみ設けた構成としても構わない。
上述した実施の形態2では、熱吸収構造体116を超音波送受部11に設けていたが、これに限らず、音響レンズ12に設けてもよく、あるいは、上述した実施の形態1で説明した第1,第2撥水部115,122と同様に、超音波送受部11と音響レンズ12との双方に設けても構わない。
【0047】
なお、実施の形態2には、以下に示す付記項1~4の発明が含まれるものである。
1.超音波を送受信する超音波送受部と、
前記超音波送受部から出射された超音波を外部に放射する音響レンズとを備え、
前記超音波送受部及び前記音響レンズは、
主剤及び硬化剤により構成された接着剤により互いに接合され、
前記超音波送受部及び前記音響レンズにおける前記接着剤で接合される各接合面の少なくとも一方には、
外縁側に前記接着剤の熱を吸収する熱吸収構造体が設けられている
ことを特徴とする超音波プローブ。
【0048】
2.前記超音波送受部は、
入力した電気信号に応じて超音波をそれぞれ出射するとともに外部から入射した超音波を電気信号にそれぞれ変換する複数の圧電素子を含む振動部と、
前記振動部に積層され、当該振動部と観測対象との音響インピーダンスをマッチングさせる音響整合層とで構成され、
前記音響整合層及び前記音響レンズは、
前記接着剤により互いに接合され、
前記熱吸収構造体は、
前記音響整合層及び前記音響レンズにおける前記接着剤で接合される前記各接合面の少なくとも一方の外縁側に設けられている
ことを特徴とする付記項1に記載の超音波プローブ。
【0049】
3.前記熱吸収構造体は、
前記接合面の外縁に沿って延在する枠状に形成されている
ことを特徴とする付記項1または2に記載の超音波プローブ。
【0050】
4.前記熱吸収構造体は、
前記超音波送受部及び前記音響レンズの積層断面において、当該超音波送受部が超音波を送受信する超音波送受領域の外側に設けられている
ことを特徴とする付記項1~3のいずれか一つに記載の超音波プローブ。
【符号の説明】
【0051】
1 内視鏡システム
2 超音波内視鏡
3 超音波観測装置
4 内視鏡観察装置
5 表示装置
6 挿入部
7 操作部
8 ユニバーサルコード
9 内視鏡用コネクタ
10,10A 超音波プローブ
11,11A 超音波送受部
12,12A 音響レンズ
13 バッキング材
14 保持部材
15,15a,15b,16 接着剤
31 超音波ケーブル
41 ビデオプロセッサ
42 光源装置
61 硬性部材
62 湾曲部
63 可撓管
71 湾曲ノブ
72 操作部材
73 処置具挿入口
111 振動部
112,1121,1122 圧電素子
113 音響整合層
114,114A 接合面
115 第1撥水部
116 熱吸収構造体
121,121A 接合面
122 第2撥水部
141 保持部
142 取付部
151 主剤
152 硬化剤
611 傾斜面
612 照明用孔
613 撮像用孔
614 送気送水用孔
615 処置具チャンネル
616 照明レンズ
617 対物光学系
1411 凹部
1421 挿通孔
Ar 超音波送受領域
Ax 挿入軸
SS 走査面
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B