(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】回転変動吸収ダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/126 20060101AFI20220124BHJP
F16F 15/129 20060101ALI20220124BHJP
F16H 55/36 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
F16F15/126 B
F16F15/126 C
F16F15/126 D
F16F15/129 D
F16H55/36 H
(21)【出願番号】P 2018081139
(22)【出願日】2018-04-20
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】成田 信彦
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-107637(JP,A)
【文献】特開2007-100852(JP,A)
【文献】特開2004-176880(JP,A)
【文献】特開2013-36530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/126
F16F 15/129
F16H 55/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブに円筒状のカップリングゴムを介してプーリを連結した回転変動吸収ダンパであって、
前記カップリングゴムの内周側に位置して前記ハブ側に固定された環状の摺動部材を備え、
前記カップリングゴムは、軸方向両端部を固定され、回転時捩り変形したときに軸方向中央部が縮径することにより前記摺動部材に接触することを特徴とする回転変動吸収ダンパ。
【請求項2】
請求項1記載の回転変動吸収ダンパにおいて、
前記摺動部材は、樹脂リング、金属リングまたは外周面に樹脂コーティングを施した金属リングよりなることを特徴とする回転変動吸収ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転変動吸収ダンパに関する。本発明の回転変動吸収ダンパは例えば、自動車補機や制御装置、電子装置等を防振支持するために用いられる。また、本発明の回転変動吸収ダンパは例えば、家電や電子機器等の分野で用いられる。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は先に、
図5に示す回転変動吸収ダンパ51を提案しており、この回転変動吸収ダンパ51は、回転軸に取り付けられるハブ52にダンパゴム54を介してダンパマス55を連結したダンパ部53を備えることから、回転軸の捩り共振による振動を低減することが可能とされ、また、ハブ52にカップリングゴム57を介してプーリ58を連結したカップリング部56を備えることから、回転軸の回転変動による振動伝達を低減することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記回転変動吸収ダンパ51を車両用エンジンのクランクシャフトに装着する場合、カップリング部56は、エンジンのアイドリング以上の常用回転域で回転変動吸収作用を発揮するように防振特性が設定される。したがってアイドリングより低い回転数域にカップリング共振系の共振点が設定されることから、エンジン起動時、共振点を通過する際に大きく振動し、カップリングゴム57に大きな歪みが発生する。
【0005】
このカップリングゴム57に発生する歪みは、カップリングゴム57の耐久性に大きく影響する。したがってエンジン起動時にカップリングゴム57に大きな歪みが発生するのを抑制する目的で、歪みに対する減衰(ブレーキ)を付与する必要がある。
【0006】
このため、上記先行技術に係る回転変動吸収ダンパ51では、軸方向に予圧縮したカップリングゴム57の反力でスラストベアリング59を圧縮し摺動時にフリクションを発生させることで減衰を付与している。
【0007】
しかしながらこのような構造では、減衰が不要な常用回転域でもフリクションによる減衰が発生することから、この不要な減衰がダンパ本来の防振性能に影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
以上より、車両用エンジンのクランクシャフトに装着される回転変動吸収ダンパ51では、アイドリング未満の共振点通過時に大きな減衰を発揮しカップリングゴム57の歪みを小さく抑え、その一方で、常用回転域では極力小さい減衰として防振性能に影響を及ぼすことのない特性とすることが望ましい。
【0009】
本発明は、上記特性を実現することを課題とし、すなわちアイドリング未満の共振点通過時に大きな減衰を発揮しカップリングゴムの歪みを小さく抑えることができ、常用回転域では極力小さい減衰として防振性能に影響を及ぼすことのない特性を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の回転変動吸収ダンパは、ハブに円筒状のカップリングゴムを介してプーリを連結した回転変動吸収ダンパであって、前記カップリングゴムの内周側に位置して前記ハブ側に固定された環状の摺動部材を備え、前記カップリングゴムは、軸方向両端部を固定され、回転時捩り変形したときに軸方向中央部が縮径することにより前記摺動部材に接触することを特徴とする。
【0011】
また、実施の態様として、上記記載の回転変動吸収ダンパにおいて、前記摺動部材は、樹脂リング、金属リングまたは外周面に樹脂コーティングを施した金属リングよりなるよりなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、カップリングゴムの内周側に環状の摺動部材が設けられ、カップリングゴムが回転時捩り変形したときに摺動部材に接触するものとされているため、カップリングゴムが摺動部材に接触したとき、摺動によるフリクションが発生し、減衰効果が発揮される。カップリングゴムは大きく捩られるほど摺動部材との接触圧が高まるため、フリクションが増大し、減衰効果も増大する。したがってエンジン起動時、カップリングゴムの歪みを摺動部材で抑制し、カップリングゴムの耐久性を向上させることができる。また、微小回転変動である常用回転域では、カップリングゴムが摺動部材に接触しないため、フリクションが発生せず、減衰力が発生しない。したがって減衰力が発生して防振性能に影響を及ぼすと云う事態が発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る回転変動吸収ダンパの断面斜視図
【
図2】(A)は同回転変動吸収ダンパの要部断面図、(B)は同回転変動吸収ダンパの作動状態を示す要部断面図
【
図3】(A)は同回転変動吸収ダンパに備えられる摺動部材の断面図、(B)は摺動部材の他の例を示す断面図
【
図4】カップリングゴムの変形原理を示す説明図で、(A)は変形前の状態を示す説明図、(B)は変形中・変形後の状態を示す説明図
【
図5】先行技術に係る回転変動吸収ダンパの断面斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、実施の形態に係る回転変動吸収ダンパ1は、車両用エンジンのクランクシャフト等の回転軸(図示せず)に取り付けられるハブ2を備え、このハブ2にダンパゴム13を介してダンパマス14が連結されることによりダンパ部(トーショナルダンパ部)11が設けられるとともに、ハブ2にカップリングゴム(アイソレーションゴム)23を介してプーリ24が連結されることによりカップリング部(アイソレーション部)21が設けられている。
【0015】
また、回転変動吸収ダンパ1は、車両用エンジンのクランクシャフト等の回転軸に取り付けられるハブ2を備え、このハブ2にダンパステー12およびダンパゴム13を介してダンパマス14が連結されることによりダンパ部11が設けられるとともに、ハブ2にダンパステー12およびカップリングアングル22ならびにカップリングゴム23を介してプーリ24が連結されることによりカップリング部21が設けられている。
【0016】
各部品は、以下のように構成されている。
【0017】
ハブ2は、回転軸に固定される内周筒部2aを備え、この内周筒部2aの軸方向一方(図では左方、車両前方側)の端部から径方向外方へ向けて端面部2bが一体成形され、端面部2bの外周端部から軸方向一方へ向けて外周筒部2cが一体成形され、外周筒部2cの軸方向一方の端部から径方向外方であってかつ斜めの向きにフランジ部2dが一体成形されている。
【0018】
ダンパステー12は、ハブ2の外周筒部2cの外周側に嵌合される内周筒部12aを備え、内周筒部12aの軸方向他方(図では右方、車両後方側))の端部から径方向外方へ向けて端面部12bが一体成形され、端面部12bの外周端部から軸方向一方へ向けて外周筒部12cが一体成形されている。
【0019】
ダンパゴム13は、円筒状に成形され、ダンパステー12の外周筒部12cの外周側であってダンパステー12の外周筒部12cとダンパマス14との間に圧入嵌合されている。
【0020】
ダンパマス14は、ダンパゴム13の外周側に嵌合される内周筒部14aを備え、内周筒部14aの軸方向他方の端部から軸方向他方へ向けて外周筒部14bが段違い状に一体成形され、外周筒部14bの外周面に無端ベルトを巻架するためのプーリ溝14cが設けられている。
【0021】
カップリングアングル22は、ダンパステー12の内周筒部12aの外周側に嵌合される筒状部22aを備え、筒状部22aの軸方向他方の端部から径方向外方へ向けてフランジ部22bが一体成形されている。
【0022】
カップリングゴム23は、円筒状に成形され、その軸方向一方の端部23aをもってプーリ24に接着(加硫接着)されるとともにその軸方向他方の端部23bをもってカップリングアングル22のフランジ部22bに接着(加硫接着)されている。またカップリングゴム23は、その一部のゴム材料がカップリングアングル22の筒状部22aの外周面およびフランジ部22bの軸方向他方の端面に回り込んで成形されることによりそれぞれこれらに被着した被膜部23d,23eとされている。
【0023】
プーリ24は、ダンパマス14の内周筒部14aの外周側に配置される筒状部24aを備え、筒状部24aの外周面に無端ベルトを巻架するためのプーリ溝24bが設けられている。また、筒状部24aの軸方向一方の端部から径方向内方へ向けて端面部24cが一体成形されるとともに端面部24cの内周端部から径方向内方であってかつ斜めの向きに内向きフランジ部24dが一体成形され、内向きフランジ部24dの軸方向他方の端面に上記カップリングゴム23が接着されている。
【0024】
また、プーリ24の内向きフランジ部24dとハブ2のフランジ部2dとの間にスラストベアリング31が介装され、ダンパマス14の内周筒部14aとプーリ24の筒状部24aとの間にラジアルベアリング32が介装されている。
【0025】
更にまた、カップリングゴム23の内周側に位置してハブ2の外周側に環状の摺動部材(フリクションリングまたはフリクションダンパとも称する)33が固定されており、一層詳細には
図2(A)に示すように、ハブ2の筒状部2cの外周側にダンパステー12の内周筒部12a、カップリングアングル22の筒状部22aおよびカップリングゴム23の被膜部23dを介して環状の摺動部材33が固定(嵌合)されている。
【0026】
摺動部材33は、樹脂リング、金属リングまたは、テフロン(登録商標)コーティング等の、外周面に樹脂コーティングを施した金属リングよりなり、円筒形に成形されている。樹脂は例えばPTFEやPOMなどとされる。摺動部材33とその外周側に位置するカップリングゴム23との間には径方向クリアランスcが設定されている。そして、カップリングゴム23が回転時に捩り変形してその軸方向中央部23cが縮径すると
図2(B)に示すように、カップリングゴム23の軸方向中央部23cが摺動部材33に接触し、摺動に伴ってフリクションを発生する。摺動部材33はその外周面を
図3(A)に示すように断面円弧状の湾曲面として形成されているが、
図3(B)に示すように円筒面(軸方向端部は面取りされている)として形成されても良い。摺動部材33の外周面を断面円弧状の湾曲面とする場合には湾曲の度合い如何によって、接触開始のタイミング(フリクション発生のタイミング)や接触圧の大きさ(フリクションの大きさ)を微妙に調整することが可能とされる。
【0027】
尚、カップリングゴム23は
図4(A)に示すように、当初、円筒形であるところ、その軸方向端部23a,23bがそれぞれプーリ24およびカップリングアングル22に固定されるとともに軸方向中央部23cが径方向にフリーとされるため、回転時、捩り変形すると
図4(B)に示すように、軸方向中央部23cが縮径し(矢印x)、その内径が縮小する。したがってカップリングゴム23が摺動部材33に接触することになる。
図4(A)(B)はカップリングゴム23の変形を分かりやすくするため、カップリングゴム23の構造を模式的に描いている。
【0028】
上記構成の回転変動吸収ダンパ1においては、回転軸に取り付けられるハブ2にダンパゴム13を介してダンパマス14が連結されることによりダンパ部11が構成されているため、回転軸の捩り共振による振動を低減することができる。また、ハブ2にカップリングゴム23を介してプーリ24が連結されることによりカップリング部21が構成されているため、回転軸の回転変動(トルク変動)による振動伝達を低減することができる。したがって、捩り振動および回転変動の双方を有効に低減することが可能とされている。
【0029】
また、上記構成の回転変動吸収ダンパ1においては特に、カップリングゴム23の内周側に環状の摺動部材33が設けられ、カップリングゴム23が回転時捩り変形したときに摺動部材33に接触するものとされているため、カップリングゴム23が摺動部材33に接触したとき、摺動によるフリクションが発生し、フリクションによる減衰効果(ブレーキ効果)が発揮される。カップリングゴム23は大きく捩られるほど摺動部材33との接触圧が高まるため、フリクションが増大し、減衰効果も増大する。したがってエンジン起動時、カップリングゴム23に生じる歪みを摺動部材33によって抑制することができ、カップリングゴム23の耐久性を向上させることができる。
【0030】
また、微小な回転変動である常用回転域では、カップリングゴム23が摺動部材33に接触しないため、フリクションが発生せず、減衰力も発生しない。したがって減衰力が発生してダンパ1の防振性能に影響を及ぼすと云う事態が発生するのを未然に防止することができる。
【0031】
尚、上記先行技術(
図4)で減衰付与の機能を担ってきたスラストベアリング31についてはその機能負担が低減されるため、発生する減衰力を小さく設定することが可能とされる。
【符号の説明】
【0032】
1 回転変動吸収ダンパ
2 ハブ
2a,12a,14a 内周筒部
2b,12b,24c 端面部
2c, 12c,14b 外周筒部
2d,22b,24d フランジ部
11 ダンパ部
12 ダンパステー
13 ダンパゴム
14 ダンパマス
14c,24b プーリ溝
21 カップリング部
22 カップリングアングル
22a,24a 筒状部
23 カップリングゴム
23a,23b 端部
23c 中央部
23d,23e 被膜部
24 プーリ
31 スラストベアリング
32 ラジアルベアリング
33 摺動部材
c 径方向クリアランス