(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】電極層の検査方法及び電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20220207BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20220207BHJP
G01N 21/65 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 Z
G01N21/65
(21)【出願番号】P 2018090843
(22)【出願日】2018-05-09
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100175743
【氏名又は名称】田渕 周作
(72)【発明者】
【氏名】吉田 力矢
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-209074(JP,A)
【文献】特開2016-156813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/04
G01N 21/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の電極層の検査方法であって、
電極箔のロール体を巻き出して搬送し、前記電極箔上に電極材料の膜を積層し、得られた電極層のシートを巻き取ってロール体を形成する製造ラインにおいて、前記電極層のシートの搬送中に前記電極層中の水分を検出するステップ(S4)を含み、
前記水分を検出するステップ(S4)では、前記電極層に対してレーザー光を発光し、前記電極層からコヒーレント反ストークスラマン散乱光を受光して、受光した前記コヒーレント反ストークスラマン散乱光のスペクトルから水分子の振動ピークを検出する、
電極層の検査方法。
【請求項2】
前記水分を検出するステップ(S4)では、前記電極層のシートの搬送方向又は幅方向において、異なる複数の位置でそれぞれ水分の検出を行う、
請求項1に記載の電極層の検査方法。
【請求項3】
前記水分を検出するステップ(S4)では、前記スペクトル中の水分子の振動ピークの強度を解析して、前記電極層中の水分量を検出する、
請求項1又は2に記載の電極層の検査方法。
【請求項4】
前記水分を検出するステップ(S4)では、前記電極層のシートの幅方向において、異なる複数の位置でそれぞれ水分量の検出を行い、各位置で検出された水分量の平均値を出力する、
請求項3に記載の電極層の検査方法。
【請求項5】
電極層を有する電池の製造方法であって、
電極箔のロール体を巻き出して搬送するステップ(S1)と、
前記電極箔上に電極材料インクを塗布し、電極材料の膜を形成するステップ(S2)と、
前記電極材料の膜を乾燥し、前記電極層のシートを得るステップ(S3)と、
前記電極層のシートの搬送中に、前記電極層中の水分を検出するステップ(S4)と、
前記水分の検出後に前記電極層のシートを巻き取って、ロール体を形成するステップと、
前記電極層中の水分が検出された場合、前記電極材料の膜の乾燥条件を調整するステップ(S6)と、を含み、
前記水分を検出するステップ(S4)では、前記電極層に対してレーザー光を発光し、前記電極層からコヒーレント反ストークスラマン散乱光を受光して、受光した前記コヒーレント反ストークスラマン散乱光のスペクトルから水分子の振動ピークを検出する、
電池の製造方法。
【請求項6】
前記電極材料の膜の乾燥条件を調整するステップ(S6)では、前記電極材料の膜の乾燥温度を上昇させる調整と、前記電極材料の膜の乾燥時間を長くする調整の少なくとも1つを実行する、
請求項5に記載の電池の製造方法。
【請求項7】
前記水分を検出するステップ(S4)では、前記水分子の振動ピークの強度を解析して、前記電極層中の水分量を検出し、
前記電極材料の膜の乾燥条件を調整するステップ(S6)では、前記電極層中で検出された水分量に応じて、上昇させる前記乾燥温度及び長くする前記乾燥時間の少なくとも1つを決定する、
請求項6に記載の電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極層の検査方法及び電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等は、正極の電極層と負極の電極層とが、セパレータを介して交互に積層された構造を有する。電極層は、ロール・トゥ・ロール(roll to roll)で製造可能である。例えば、搬送される電極箔のシート上に電極材料インクを塗布して、電極材料の膜を積層することにより、電極層のシートが連続的に製造される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電極層は、水分を含むと劣化しやすいため、電極層の製造時には電極層中の水分を検出する検査が行われている。通常、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気下で、電極層のシートの一部を切り取って試料が作成され、カールフィッシャー法等によって試料中の水分の検出が行われる。
【0005】
しかしながら、電極層をロール・トゥ・ロールにより連続して製造する場合、検査のために製造を中断しなければならず、生産効率が低下する。また、試料の作成のために、電極層のシートを切断する必要があり、電極層の長尺なシートを得ることが難しくなる。
【0006】
本発明は、電極層の製造を中断することなく、電極層中の水分を高精度に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電池の電極層の検査方法は、電極箔のロール体を巻き出して搬送し、前記電極箔上に電極材料の膜を積層し、得られた電極層のシートを巻き取ってロール体を形成する製造ラインにおいて、前記電極層のシートの搬送中に前記電極層中の水分を検出するステップを含み、前記水分を検出するステップでは、前記電極層に対してレーザー光を発光し、前記電極層からコヒーレント反ストークスラマン散乱光を受光して、受光した前記コヒーレント反ストークスラマン散乱光のスペクトルから水分子の振動ピークを検出する。
【0008】
本発明に係る電池の製造方法は、電極層を有する電池の製造方法であって、電極箔のロール体を巻き出して搬送するステップと、前記電極箔上に電極材料インクを塗布し、電極材料の膜を形成するステップと、前記電極材料の膜を乾燥し、前記電極層を得るステップと、前記電極層中の水分を検出するステップと、前記水分を検出した後の電極層を巻き取って、ロール体を形成するステップと、前記水分の検出結果によって、前記電極材料の膜の乾燥条件を調整するステップと、を含み、前記水分を検出するステップでは、前記電極層に対してレーザー光を発光し、前記電極層からコヒーレント反ストークスラマン散乱光を受光して、受光した前記コヒーレント反ストークスラマン散乱光のスペクトルから水分子の振動ピークを検出する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電極層の製造を中断することなく、電極層中の水分を高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態で使用される製造装置の構成を示す正面図である。
【
図2】本実施形態の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図3】水分が検出された電極層のスペクトルの一例を示すグラフである。
【
図4】水分が検出されなかった電極層のスペクトルの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の電極層の検査方法及び電池の製造方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の製造方法の一実施形態において使用される製造装置1の構成を示している。製造装置1は、電池の電極層3をロール・トゥ・ロールで製造する。すなわち、製造装置1は、ロール体の電極箔2を巻き出して搬送し、搬送中の電極箔2上に電極材料の膜を積層し、得られた電極層3のシートを巻き取ってロール体を形成する製造ラインを有する。製造装置1は、電極層3のシートの搬送中に、電極層3中の水分を検出する検査を行う。
【0013】
図1に示すように、製造装置1は、電極箔2の搬送機構10、塗布装置20、乾燥装置30、検査装置40及び制御装置50を備える。
本実施形態においては、製造装置1によりリチウムイオン電池の電極層3を製造する例を説明する。
【0014】
(リチウムイオン電池)
リチウムイオン電池は、正極の電極層3と負極の電極層3が交互に積層され、電解液とともにケース内に封入された二次電池である。正極と負極の各電極層3間には、正極と負極の短絡を防ぐため、セパレータが設けられる。
【0015】
(電極層)
電極層3は、電極箔2と、電極箔2に積層された正極又は負極の電極材料の膜と、を有する。リチウムイオン電池の正極及び負極の電極材料は、それぞれ電極活物質を含む。正極及び負極の電極活物質としては、従来公知の物質を使用できる。
【0016】
正極の電極活物質としては、例えばコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム化合物、ニッケル、コバルト、マンガン等を含むリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄等のオリビン型リチウム含有化合物等が挙げられる。負極の電極活物質としては、例えば黒鉛、ピッチを焼成して得られるコークス、フルフリルアルコール樹脂、フェノール樹脂等を低温焼成して得られる非晶質炭素等の黒鉛化性炭素質材料、チタン酸リチウム等のリチウム化合物、カーボン等の導電材で被覆された多孔質シリコン粒子、シリコンオキシカーバイド(SiOC)複合材料等のシリコン系材料等が挙げられる。
【0017】
電極箔2としては、例えばアルミニウム、銅、ステンレス鋼、チタン等の金属又は合金の金属箔等が挙げられる。正極と負極の電極箔2の種類は同じであってもよいし、異なってもよい。電極箔2の厚さとしては、通常5~30μmであり、搬送性、巻き取りの容易性等の観点からは、8~16μmが好ましい。
【0018】
(搬送機構)
搬送機構10は、巻き出しローラー11、巻き取りローラー12及び複数の搬送ローラー13を有する。搬送機構10は、巻き出しローラー11により電極箔2のロール体を巻き出して、巻き出した電極箔2のシートを各搬送ローラー13により搬送する。また、搬送機構10は、電極箔2上に電極材料の膜が積層されて得られた電極層3のシートを、搬送ローラー13により搬送し、搬送中に水分の検出が行われた電極層3のシートを、巻き取りローラー12により巻き取ってロール体を形成する。
【0019】
(塗布装置)
塗布装置20は、搬送機構10により巻き出された電極箔2上に、電極材料インクを塗布し、電極材料の膜を形成する。塗布方法としては、特に限定されず、例えばスリットから押し出すダイコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、ディップコート法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
【0020】
電極材料インクは、上述した電極活物質の他、バインダー、溶媒、導電補助剤等を含有し得る。バインダーとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が挙げられる。溶媒としては、例えば水、イソプロパノール等のアルコール類等のプロトン性極性溶媒、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等のアミド類、γ-ブチロラクトン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。導電補助剤としては、例えばカーボンブラック等の炭素材料等が挙げられる。
【0021】
(乾燥装置)
乾燥装置30は、電極箔2の搬送方向において塗布装置20より下流に配置される。乾燥装置30は、塗布装置20によって形成された電極材料の膜を乾燥する。乾燥により、電極箔2に電極材料の膜が積層された電極層3のシートが得られる。本実施形態において、乾燥装置30は、
図1に示すように、搬送方向に並ぶ複数のヒーター31を有して、各ヒーター31からの輻射熱によって乾燥する。乾燥装置30の乾燥方法としては、これに限定されず、例えばドライヤーによって熱風を送風する等の公知の乾燥方法を使用できる。
【0022】
(検査装置)
検査装置40は、電極層3のシートの搬送方向において乾燥装置30より下流に配置される。検査装置40は、乾燥後の電極層3のシートの搬送中に、電極層3中の水分を検出する。検査装置40は、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)分光法により、水分の検出を行う。
検査装置40は、
図1に示すように、光源41、プローブ42、43、分光部44、変換部45及びデータ処理部46を備える。
【0023】
光源41は、角振動数が異なる2つのレーザー光を発生させる。光源41としては、パルスレーザー光源等を使用できる。2つのレーザー光のうち、高い角振動数(ω1)を有するレーザー光はポンプ光と呼ばれ、低い角振動数(ω2)を有するレーザー光はストークス光と呼ばれる。プローブ42は、2つのレーザー光を測定対象の電極層3上に導いて集光させる。ポンプ光とストークス光の角振動数差(ω1、ω2)が、電極層3中の各分子に固有の振動数に一致すると、一致した分子の双極子モーメントが誘起され、散乱光が生じる。この散乱光のうち、(2ω1-ω2)の角振動数を有する光(ω3)がCARS光である。
【0024】
膜からの散乱光はプローブ43によって受光され、分光部44へ導かれる。分光部44は、プローブ43によって受光した散乱光からCARS光を抽出し、波長ごとに分光する。変換部45は、分光部44により得られた各波長の光の強度を示す電気信号を出力する。変換部45としては、例えばCCD(Charge Coupled Device)、ICCD(Intensified CCD)等の光電変換素子を使用することができる。データ処理部46は、変換部45から出力された電気信号に基づいて、CARS光のスペクトルを作成する。また、データ処理部46は、作成したスペクトルから水分子の振動ピークを検出する。データ処理部46としては、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、ハードディスク等のメモリを備えたコンピュータを使用できる。
【0025】
(制御装置)
制御装置50は、搬送機構10、塗布装置20及び乾燥装置30の動作を制御する。例えば、制御装置50は、搬送機構10による搬送速度、搬送開始タイミング、塗布装置20による塗布量、塗布タイミング、乾燥装置30による乾燥温度、乾燥時間等を制御できる。制御装置50としては、例えばプロセッサ、メモリ等を備えたコンピュータを使用できる。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態として、上記製造装置1において実施される、リチウムイオン電池の電極層3の検査方法及びリチウムイオン電池の製造方法を説明するフローチャートである。
製造装置1では、事前に、巻き出しローラー11に電極箔2のロール体がセットされ、巻き出しローラー11から巻き取りローラー12へと電極箔2のシートが巻き架けられる。
【0027】
製造装置1において電極層3の製造が開始されると、
図2に示すように、搬送機構10によりロール体の電極箔2が順次巻き出されて搬送される(ステップS1)。搬送される電極箔2の一方の面上に、塗布装置20において電極材料インクが塗布されて、電極材料の膜が形成される(ステップS2)。電極材料インクの塗布量は、電極箔2の搬送速度及び乾燥条件によって、乾燥後に目的の厚さの膜が得られるように調整される。次いで、乾燥装置30において電極箔2上の膜の乾燥が行われる(ステップS3)。乾燥により、膜中の水分及び溶媒が蒸発して、電極箔2上に電極材料の膜が積層された電極層3のシートが得られる。
【0028】
乾燥後、検査装置40において電極層3中の水分を検出する検査が行われる(ステップS4)。具体的には、光源41において発光したパルスレーザー光が、プローブ42により電極層3へ照射される。電極層3において生じた散乱光は、プローブ42により受光され、分光部44に導かれる。分光部44では散乱光からCARS光が抽出されて、さらに波長ごとに分光される。各波長の光は、変換部45によって光強度を示す電気信号に変換され、データ処理部46によって当該電気信号からスペクトルが作成される。データ処理部46において、スペクトルが解析され、閾値以上の強度を有する水分子の振動ピークの検出が行われる。検査後は、巻き取りローラー12により電極層3のシートが巻き取られて、電極層3のロール体が形成される。
【0029】
図3は、水分が検出された電極層3のスペクトルの一例を示す。
図4は、水分が検出されなかった電極層3のスペクトルの一例を示す。
電極層3が水分を含む場合、
図3に示すように、CARS分光法で得られるスペクトルにおいて、O-Hの対称伸縮運動と反対称伸縮運動によるブロードなバンドとして、3400cm
-1付近に水分子の振動ピークP
OHが観測される。CARS光は、一般的なラマン分光法で測定される散乱光よりも強度が大きいため、電極層3中の水分量が微量であっても、水分子の振動ピークP
OHを高精度に検出することができる。十分に乾燥して電極層3の水分が除去されると、
図4に示すように、
図3に示す水分子の振動ピークP
OHが観測されないスペクトルが得られる。
【0030】
よって、データ処理部46は、例えば3400cm-1を中心とする一定範囲内(例えば、3000~3600cm-1)において、一定強度以上の振動ピークが検出された場合は、当該振動ピークが水分子の振動ピークPOHであると判断して、水分を検出することができる。
【0031】
上記水分を検出するステップS4では、検査装置40において、電極層3のシートの搬送方向又は幅方向において、異なる複数の位置でそれぞれ水分の検出を行うことができる。幅方向は、シート上において搬送方向と直交する方向である。これにより、電極層3のシートの長さ方向又は幅方向の品質保証が可能である。検査装置40は、搬送方向及び幅方向の両方において複数の位置で水分の検出を行ってもよい。
【0032】
電極層3のシートは搬送されているため、検査装置40は、任意の間隔で検出を行うことにより、電極層3のシートの搬送方向において異なる複数の位置で検出を行うことができる。また、検査装置40は、プローブ42及び43を幅方向に走査することで、任意の複数の位置において水分の検出が可能である。検査装置40は、幅方向の複数の位置に配置された、プローブ42及び43の複数のセットを有して、各位置における水分の検出を行うこともできる。
【0033】
上記水分を検出するステップS4では、検査装置40において、水分子の振動ピークの強度を解析して、電極層3中の水分量を検出することができる。例えば、データ処理部46において、電極層3中の水分量が既知のスペクトルを作成し、スペクトル中の水分子の振動ピークの強度と水分量の関係を表す関数を求めておく。この関数から、検査対象の電極層3のスペクトルにおいて観測された水分子の振動ピークの強度に対応する水分量を、データ処理部46により求める。
【0034】
上記水分を検出するステップS4において水分量を検出する場合、検査装置40において、電極層3のシートの幅方向において異なる複数の位置でそれぞれ水分量の検出を行い、各位置で検出された水分量の平均値を出力することができる。これにより、幅方向における平均的な水分量を把握できる。
【0035】
検査装置40において水分が検出されると(ステップS5:YES)、制御装置50により乾燥条件の調整が行われる(ステップS6)。乾燥条件を調整するステップS6では、制御装置50は、乾燥装置30における乾燥温度を上昇させる調整と、乾燥時間を長くする調整の少なくとも1つを実行することができる。調整により、製造される電極層3中の水分を十分に除去することができる。
【0036】
例えば、制御装置50は、ヒーター31の温度を1℃上昇させることにより、乾燥温度を上昇させる調整が可能である。また、制御装置50は、搬送方向に並ぶ複数のヒーター31のうち、電源をONにして乾燥に使用するヒーター31の数を増やすことにより、乾燥時間を長くする調整が可能である。具体的には、最初は乾燥に使用するヒーター31を2つとし、水分が検出された場合はヒーター31の数を3つに増やす。また、制御装置50は、搬送機構10による電極箔2の搬送速度を低速化することにより乾燥時間を長くする調整が可能である。この場合、制御装置50は、電極材料の膜の厚さが変化しないように、塗布装置20の塗布量を減らす調整も合わせて行う。乾燥温度の調整と乾燥速度の調整は、いずれか一方のみが実行されてもよいし、両方が行われてもよい。
【0037】
電極層3の乾燥条件を調整するステップS6では、検査装置40において検出された電極層3中の水分量に応じて、上昇させる乾燥温度及び長くする乾燥時間の少なくとも1つを制御装置50において決定することができる。これにより、乾燥による電極材料の膜の損傷を抑えつつ、電極層3中の水分を十分に除去することができる。
【0038】
例えば、制御装置50は、水分量が閾値以下である場合は、乾燥温度の上昇分を1℃に決定する、又は乾燥時間の延長時間を1秒に決定することができる。一方、制御装置50は、水分量が閾値を超える場合は、乾燥温度の上昇分を2℃に決定する、又は乾燥時間の延長時間を2秒に決定することができる。複数の閾値を使用すれば、乾燥温度及び乾燥時間の調整を複数段階で行うことが可能である。
【0039】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、CARS分光法により電極層3中の水分を検出するので、非接触で検査が可能である。また、CARS分光法は、一般のラマン分光法に比べて信号強度が強いため、電極層3中の微量の水分も高精度に検出することができる。したがって、電極層3の製造を中断することなく、電極層3中の水分を高精度に検出することができ、高品質の電極層3を高い生産効率で製造することができる。高品質の電極層3を用いることにより、電池の品質も向上し、電池の全体的な生産効率も向上する。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、本発明の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
例えば、正極と負極の電極層が交互に積層される電池であり、水分によって電極層が劣化しやすい電池であれば、リチウムイオン電池だけでなく、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等の他の電池においても、本発明を実施できる。
【符号の説明】
【0041】
1・・・製造装置、2・・・電極箔、3・・・電極層、10・・・搬送機構、20・・・塗布装置、30・・・乾燥装置、40・・・検査装置、41・・・光源、42、43・・・プローブ、44・・・分光部、45・・・変換部、46・・・データ処理部、50・・・制御装置