(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】クランクシャフト、クランクシャフトの組み立て方法、ロータリコンプレッサおよび冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
F16C 3/10 20060101AFI20220124BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20220124BHJP
F04B 39/14 20060101ALI20220124BHJP
F04C 23/00 20060101ALI20220124BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
F16C3/10
F04B39/00 103H
F04B39/14
F04C23/00 F
F04C29/00 B
F04C29/00 D
(21)【出願番号】P 2018104964
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安達 浩祐
(72)【発明者】
【氏名】山本 晋聡
(72)【発明者】
【氏名】益永 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】志田 勝吾
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-190175(JP,A)
【文献】特開2006-151158(JP,A)
【文献】特開昭62-210273(JP,A)
【文献】実開昭59-114484(JP,U)
【文献】特開2009-78691(JP,A)
【文献】実開平2-9331(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/10
F04B 39/00,39/14
F04C 23/00,29/00
F16B 4/00, 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真っ直ぐな軸線を有するシャフト部と、
前記シャフト部に設けられ、前記シャフト部の前記軸線に対し偏心した少なくとも一つのクランク部と、を備えたクランクシャフトであって、
少なくとも一つの前記クランク部は、前記シャフト部とは別の要素であるクランクピースで構成され、当該クランクピースは、前記シャフト部が所定の「締めしろ」で嵌め合わされる嵌合孔と、一端が前記嵌合孔の内周面に開口され、他端が前記クランクピースの内部で閉じられるように前記嵌合孔の径方向に延びるとともに、前記クランクピースの両端面に開口されたスリット状のすり割りと、を有し、
前記すり割りの幅を広げることで前記嵌合孔の径が拡張するように前記嵌合孔が変形されるとともに、変形された前記嵌合孔に前記シャフト部が挿入され、前記シャフト部が前記嵌合孔に挿入された状態で前記嵌合孔を当初の形状に復帰させることで、前記シャフト部が所定の「締めしろ」で前記クランクピースの前記嵌合孔に嵌め合わされるクランクシャフト。
【請求項2】
前記クランクピースは、一端が前記クランクピースの外周面に開口するとともに、他端が前記すり割りに達するように前記すり割りと交差する方向に延びたねじ孔をさらに備え、
前記ねじ孔にねじ込まれた拡張用冶具の先端が前記すり割りの内面に突き当たることで、前記すり割りの幅が広がる請求項1に記載のクランクシャフト。
【請求項3】
前記シャフト部が所定の「締めしろ」で前記クランクピースの前記嵌合孔に嵌め合わされた状態では、前記拡張用冶具が前記ねじ孔から取り外されている請求項2に記載のクランクシャフト。
【請求項4】
前記クランクピースの前記嵌合孔と前記シャフト部との間に介在され、前記シャフト部の軸方向に延びるキーをさらに備えた請求項1に記載のクランクシャフト。
【請求項5】
前記クランクピースの前記嵌合孔の内周面の一部に、前記シャフト部の外周面から遠ざかる逃げ部が形成された請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のクランクシャフト。
【請求項6】
前記シャフト部の外周面の一部に、前記クランクピースの前記嵌合孔の内周面から遠ざかる逃げ部が形成された請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のクランクシャフト。
【請求項7】
真っ直ぐな軸線を有するシャフト部と、
前記シャフト部に設けられ、前記シャフト部の前記軸線に対し偏心した少なくとも一つのクランク部と、を備えたクランクシャフトであって、
少なくとも一つの前記クランク部は、前記シャフト部とは別の要素であるクランクピースで構成され、当該クランクピースは、
前記シャフト部が挿入される嵌合孔と、
一端が前記嵌合孔の内周面に開口され、他端が前記クランクピースの内部で閉じられるように前記嵌合孔の径方向に延びるとともに、前記クランクピースの両端面に開口されたスリット状のすり割りと、
前記すり割りの幅を狭める締結具と、を有するクランクシャフト。
【請求項8】
前記シャフト部は、「すきま嵌め」の状態で前記クランクピースの前記嵌合孔に挿入される請求項7に記載のクランクシャフト。
【請求項9】
前記クランクピースの前記嵌合孔と前記シャフト部との間に介在され、前記シャフト部の軸方向に延びるキーをさらに備えた請求項7に記載のクランクシャフト。
【請求項10】
真っ直ぐな軸線を有するシャフト部と、
前記シャフト部とは別の要素で構成され、前記シャフト部が挿入される嵌合孔と、一端が前記嵌合孔の内周面に開口するように前記嵌合孔の径方向に延びるスリット状のすり割りと、を有するクランクピースと、を備え、
前記クランクピースが前記軸線に対し偏心した状態で前記シャフト部に取り付けられるクランクシャフトであって、
前記クランクピースの前記嵌合孔に前記シャフト部を「すきま嵌め」の状態で挿入し、
前記クランクピースに前記すり割りの幅を狭める締結具をねじ込むことで、前記シャフト部が挿入された前記嵌合孔の径が縮まるように前記嵌合孔を変形させ、前記シャフト部を所定の「締めしろ」で前記嵌合孔に締め付け固定するようにしたクランクシャフトの組み立て方法。
【請求項11】
前記クランクピースから前記締結具を取り外すことで、前記締結具による前記嵌合孔の変形が解除され、前記クランクピースが前記シャフト部から取り外し可能な状態に移行する請求項10に記載のクランクシャフトの組み立て方法。
【請求項12】
筒状の密閉容器と、
前記密閉容器の内部で冷媒を圧縮する圧縮機構部と、
前記密閉容器の内周面に固定された固定子と、前記固定子で囲まれた回転子と、を有し、前記密閉容器の内部で前記圧縮機構部を駆動する電動機と、を具備し、
前記圧縮機構部は、
前記電動機の前記回転子に連結され、前記回転子に追従して回転する請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載のクランクシャフトと、
前記密閉容器の軸方向に間隔を存して配置され、前記クランクシャフトの前記クランク部が収容されたシリンダ室を有する複数の冷媒圧縮部と、
前記密閉容器の軸方向に隣り合う前記冷媒圧縮部の間に介在された中間仕切り板と、を備えたロータリコンプレッサ。
【請求項13】
前記クランクシャフトは、前記シャフト部の軸方向に隣り合う複数のクランク部を有し、
前記中間仕切り板は、複数の前記クランク部の間で前記クランクシャフトを回転自在に支持する軸受孔を有し、前記クランク部の少なくとも一方が前記クランクピースで構成された請求項12に記載のロータリコンプレッサ。
【請求項14】
冷媒が循環すると共に、放熱器、膨張装置および吸熱器が接続された循環回路と、
前記放熱器と前記吸熱器との間で前記循環回路に接続された請求項12に記載のロータリコンプレッサと、
を備えた冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、クランク部を有するクランクシャフトおよびその組み立て方法に関する。さらに、本発明の実施形態は、前記クランクシャフトを有するロータリコンプレッサおよび当該ロータリコンプレッサを備えた冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷媒の圧縮能力を高めるため、三組の冷媒圧縮部を有する3シリンダ形ロータリコンプレッサが開発されている。この種のロータリコンプレッサに用いられるクランクシャフトは、真っ直ぐなシャフト部と、シャフト部の軸方向に間隔を存して設けられ、冷媒圧縮部のシリンダ室内で偏心回転する三つのクランク部と、を備えている。
【0003】
クランクシャフトのクランク部は、シャフト部の回転中心から偏心しているために、シャフト部および三つのクランク部を一体に鋳造成型した場合には、例えば旋盤を用いてシャフト部およびクランク部に切削加工を施す度に、クランクシャフトの回転中心の位置をずらす必要がある。このため、作業工数が多くなり、クランクシャフトの製造コストが高くなるのを否めない。
【0004】
一方、少なくとも一つのクランク部をシャフト部とは別のクランクピースで構成し、所定の寸法に仕上げたクランクピースをシャフト部に組み込むようにした分割形のクランクシャフトが知られている。シャフト部に組み込まれるクランクピースは、シャフト部が嵌合される嵌合孔を有するとともに、キーを用いてシャフト部に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-190175号公報
【文献】実開昭59-114484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シャフト部とクランクピースとがキーで固定された分割形のクランクシャフトは、一体形のクランクシャフトに比べて加工工数を少なくでき、コスト的な面で有利となる。
しかしながら、キー、シャフト部およびクランクピースの精度によっては、キーとシャフト部との間、又はキーとクランクピースとの間に隙間が生じることがあり、シャフト部に対するクランクピースの固定強度を十分に確保することが困難となる。
【0007】
この結果、ロータリコンプレッサの運転中にクランクピースにがたつきが生じるのを否めない。クランクピースにがたつきが生じたクランクシャフトは、冷媒の圧縮性能に悪影響を及ぼすのは勿論のこと、ロータリコンプレッサの騒音・振動を助長させる一つの要因となる。
【0008】
本発明の目的は、シャフト部にクランクピースを固定する作業を容易に行うことができ、しかも、シャフト部に対するクランクピースの固定強度を十分に確保できるとともに、クランクピースの取り外しが可能なクランクシャフトを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、クランクシャフトは、真っ直ぐな軸線を有するシャフト部と、前記シャフト部に設けられ、前記シャフト部の前記軸線に対し偏心した少なくとも一つのクランク部と、を備えている。
少なくとも一つの前記クランク部は、前記シャフト部とは別の要素であるクランクピースで構成されている。クランクピースは、前記シャフト部が所定の「締めしろ」で嵌め合わされる嵌合孔と、一端が前記嵌合孔の内周面に開口され、他端が前記クランクピースの内部で閉じられるように前記嵌合孔の径方向に延びるとともに、前記クランクピースの両端面に開口されたスリット状のすり割りと、を有する。
【0010】
前記すり割りの幅を広げることで、前記嵌合孔の径が拡張するように前記嵌合孔が変形されるとともに、変形された前記嵌合孔に前記シャフト部が挿入され、前記シャフト部が前記嵌合孔に挿入された状態で前記嵌合孔を当初の形状に復帰させることで、前記シャフト部が所定の「締めしろ」で前記クランクピースの前記嵌合孔に嵌め合わされることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る冷凍サイクル装置の構成を概略的に示す回路図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る3シリンダ形ロータリコンプレッサの断面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態において、第1のシリンダ室内で偏心回転するローラとベーンとの位置関係を概略的に示す第1の冷媒圧縮部の断面図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態で用いる第2の中間仕切り板の平面図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係るクランクシャフトの斜視図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態において、クランクシャフトを軸方向から見た時の第1のクランク部、第2のクランク部および第3のクランク部の相対的な位置関係を示す正面図である。
【
図7】
図7は、第1の実施形態において、クランク取り付け部からクランクピースを取り外した状態を示すクランクシャフトの斜視図である。
【
図8】
図8は、
図5の矢印A方向から見たクランクシャフトの正面図である。
【
図9】
図9は、第1の実施形態において、クランクピースの一部を断面で示す正面図である。
【
図10】
図10は、第1の実施形態において、締め付けボルトですり割りの幅を広げた状態を一部断面で示すクランクピースの正面図である。
【
図11】
図11は、第2の実施形態で用いるクランクピースの斜視図である。
【
図12】
図12は、第2の実施形態で用いるクランクピースの正面図である。
【
図13】
図13は、第2の実施形態に係るクランクシャフトを軸方向から見た正面図である。
【
図14】
図14は、第3の実施形態で用いるクランクピースの一部を断面で示す正面図である。
【
図15】
図15は、第3の実施形態において、締め付けボルトですり割りの幅を狭めた状態を一部断面で示すクランクピースの正面図である。
【
図16】
図16は、第4の実施形態において、クランク取り付け部からクランクピースを取り外した状態を示すクランクシャフトの斜視図である。
【
図17】
図17は、第4の実施形態に係るクランクシャフトを軸方向から見た正面図である。
【
図18】
図18は、第5の実施形態において、クランク取り付け部からクランクピースを取り外した状態を示すクランクシャフトの斜視図である。
【
図19】
図19は、第5の実施形態に係るクランクシャフトを軸方向から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について、
図1ないし
図10を参照して説明する。
図1は、例えば冷凍サイクル装置の一例である空気調和機1の冷凍サイクル回路図である。空気調和機1は、ロータリコンプレッサ2、四方弁3、室外熱交換器4、膨張装置5および室内熱交換器6を主要な要素として備えている。空気調和機1を構成する前記複数の要素は、冷媒が循環する循環回路7を介して接続されている。
【0013】
具体的に述べると、
図1に示すように、ロータリコンプレッサ2の吐出側は、四方弁3の第1ポート3aに接続されている。四方弁3の第2ポート3bは、室外熱交換器4に接続されている。室外熱交換器4は、膨張装置5を介して室内熱交換器6に接続されている。室内熱交換器6は、四方弁3の第3ポート3cに接続されている。四方弁3の第4ポート3dは、アキュームレータ8を介してロータリコンプレッサ2の吸入側に接続されている。
【0014】
空気調和機1が冷房モードで運転を行う場合、四方弁3は、第1ポート3aが第2ポート3bに連通し、第3ポート3cが第4ポート3dに連通するように切り替わる。冷房モードで空気調和機1の運転が開始されると、ロータリコンプレッサ2で圧縮された高温・高圧の気相冷媒が四方弁3を経由して放熱器(凝縮器)として機能する室外熱交換器4に導かれる。
【0015】
室外熱交換器4に導かれた気相冷媒は、空気との熱交換により凝縮し、高圧の液相冷媒に変化する。高圧の液相冷媒は、膨張装置5を通過する過程で減圧されて低圧の気液二相冷媒に変化する。気液二相冷媒は、吸熱器(蒸発器)として機能する室内熱交換器6に導かれるとともに、当該室内熱交換器6を通過する過程で空気と熱交換する。
【0016】
この結果、気液二相冷媒は、空気から熱を奪って蒸発し、低温・低圧の気相冷媒に変化する。室内熱交換器6を通過する空気は、液相冷媒の蒸発潜熱により冷やされ、冷風となって空調(冷房)すべき場所に送られる。
室内熱交換器6を通過した低温・低圧の気相冷媒は、四方弁3を経由してアキュームレータ8に導かれる。冷媒中に蒸発しきれなかった液相冷媒が混入している場合は、アキュームレータ8で液相冷媒と気相冷媒とに分離される。液相冷媒が分離された低温・低圧の気相冷媒は、ロータリコンプレッサ2に吸い込まれるとともに、当該ロータリコンプレッサ2で再び高温・高圧の気相冷媒に圧縮されて循環回路7に吐出される。
【0017】
一方、空気調和機1が暖房モードで運転を行う場合、四方弁3は、第1ポート3aが第3ポート3cに連通し、第2ポート3bが第4ポート3dに連通するように切り替わる。そのため、ロータリコンプレッサ2から吐出された高温・高圧の気相冷媒は、四方弁3を経由して室内熱交換器6に導かれ、当該室内熱交換器6を通過する空気と熱交換される。すなわち、室内熱交換器6が凝縮器として機能する。
【0018】
この結果、室内熱交換器6を通過する気相冷媒は、空気との熱交換により凝縮し、高圧の液相冷媒に変化する。室内熱交換器6を通過する空気は、気相冷媒との熱交換により加熱され、温風となって空調(暖房)すべき場所に送られる。
室内熱交換器6を通過した高圧の液相冷媒は、膨張装置5に導かれるとともに、当該膨張装置5を通過する過程で減圧されて低圧の気液二相冷媒に変化する。気液二相冷媒は、蒸発器として機能する室外熱交換器4に導かれるとともに、ここで空気と熱交換することにより蒸発し、低温・低圧の気相冷媒に変化する。室外熱交換器4を通過した低温・低圧の気相冷媒は、四方弁3およびアキュームレータ8を経由してロータリコンプレッサ2に吸い込まれる。
【0019】
次に、空気調和機1に用いられるロータリコンプレッサ2の具体的な構成について、
図2ないし
図6を参照して説明する。
図2は、縦形の3シリンダ形ロータリコンプレッサ2の断面図である。
図2に示すように、3シリンダ形ロータリコンプレッサ2は、密閉容器10、電動機11および圧縮機構部12を主要な要素として備えている。
【0020】
密閉容器10は、円筒状の周壁10aを有するとともに、鉛直方向に沿うように起立されている。吐出管10bが密閉容器10の上端部に設けられている。吐出管10bは、循環回路7を介して四方弁3の第1ポート3aに接続されている。さらに、密閉容器10の下部には、圧縮機構部12を潤滑する潤滑油が蓄えられている。
【0021】
電動機11は、密閉容器10の軸方向に沿う中間部に収容されている。電動機11は、いわゆるインナーロータ形のモータであって、固定子13および回転子14を備えている。固定子13は、密閉容器10の周壁10aの内面に固定されている。回転子14は、固定子13で取り囲まれている。
【0022】
圧縮機構部12は、潤滑油に浸かるように密閉容器10の下部に収容されている。圧縮機構部12は、第1の冷媒圧縮部15A、第2の冷媒圧縮部15B、第3の冷媒圧縮部15C、第1の中間仕切り板16、第2の中間仕切り板17、第1の軸受18、第2の軸受19およびクランクシャフト20を主要な要素として備えている。
【0023】
第1ないし第3の冷媒圧縮部15A,15B,15Cは、密閉容器10の軸方向に間隔を存して一列に並んでいる。第1ないし第3の冷媒圧縮部15A,15B,15Cは、夫々第1のシリンダボディ21a、第2のシリンダボディ21bおよび第3のシリンダボディ21cを有している。第1ないし第3のシリンダボディ21a,21b,21cは、密閉容器10の軸方向に沿う厚さ寸法が同等に設定されている。
【0024】
第1の中間仕切り板16は、第1のシリンダボディ21aと第2のシリンダボディ21bとの間に介在されている。第1の中間仕切り板16の上面は、第1のシリンダボディ21aの内径部を下方から覆うように第1のシリンダボディ21aの下面に重ねられている。第1の中間仕切り板16の下面は、第2のシリンダボディ21bの内径部を上方から覆うように第2のシリンダボディ21bの上面に重ねられている。
【0025】
さらに、貫通孔16aが第1の中間仕切り板16の中央部に形成されている。貫通孔16aは、第1のシリンダボディ21aの内径部と第2のシリンダボディ21bの内径部との間に位置されている。
第2の中間仕切り板17は、第2のシリンダボディ21bと第3のシリンダボディ21cとの間に介在されている。第2の中間仕切り板17の上面は、第2のシリンダボディ21bの内径部を下方から覆うように第2のシリンダボディ21bの下面に重ねられている。第2の中間仕切り板17の下面は、第3のシリンダボディ21cの内径部を上方から覆うように第3のシリンダボディ21cの上面に重ねられている。
【0026】
軸受孔22が第2の中間仕切り板17の中央部に形成されている。
図4に示すように、軸受孔22は、円形の開口形状を有するとともに、第2のシリンダボディ21bの内径部と第3のシリンダボディ21cの内径部との間に位置されている。
第1の軸受18は、第1のシリンダボディ21aの上に配置されている。第1の軸受18は、密閉容器10の周壁10aに向けて張り出すフランジ部23を有している。フランジ部23は、第1のシリンダボディ21aの内径部を上方から覆うように第1のシリンダボディ21aの上面に重ねられている。
【0027】
第1の軸受18のフランジ部23、第1のシリンダボディ21a、第1の中間仕切り板16、第2のシリンダボディ21bおよび第2の中間仕切り板17は、密閉容器10の軸方向に積層されているとともに、複数の第1の締結ボルト24(一つのみを図示)を介して一体的に結合されている。
【0028】
本実施形態によると、第1の軸受18のフランジ部23は、リング状の支持部材25で取り囲まれている。支持部材25は、密閉容器10の周壁10aの内面に溶接等の手段で固定されている。支持部材25の下面には、複数の第2の締結ボルト26(一つのみを図示)により、第1のシリンダボディ21aの外周部が結合されている。
【0029】
図2に示すように、第1のシリンダボディ21aの内径部、第1の中間仕切り板16および第1の軸受18のフランジ部23で囲まれた領域は、第1のシリンダ室27を規定している。同様に、第2のシリンダボディ21bの内径部、第1の中間仕切り板16および第2の中間仕切り板17で囲まれた領域は、第2のシリンダ室28を規定している。
【0030】
第2の軸受19は、第3のシリンダボディ21cと密閉容器10の底との間に配置されている。第2の軸受19は、密閉容器10の周壁10aに向けて張り出すフランジ部29を有している。フランジ部29は、第3のシリンダボディ21cの内径部を下方から覆うように第3のシリンダボディ21cの下面に重ねられている。
【0031】
第2の軸受19のフランジ部29、第3のシリンダボディ21cおよび第2の中間仕切り板17は、密閉容器10の軸方向に積層されているとともに、複数の第3の締結ボルト30(一つのみを図示)を介して一体的に結合されている。
第3のシリンダボディ21cの内径部、第2の中間仕切り板17および第2の軸受19のフランジ部29で囲まれた領域は、第3のシリンダ室31を規定している。そのため、第1のシリンダ室27、第2のシリンダ室28および第3のシリンダ室31は、密閉容器10の軸方向に間隔を存して並んでいる。
【0032】
図2に示すように、第1の吐出マフラ33が第1の軸受18に取り付けられている。第1の吐出マフラ33と第1の軸受18との間には、第1の消音室34が形成されている。第1の消音室34は、第1の吐出マフラ33が有する排気孔(図示せず)を通じて密閉容器10の内部に開口されている。
【0033】
第2の吐出マフラ35が第2の軸受19に取り付けられている。第2の吐出マフラ35と第2の軸受19との間には、第2の消音室36が形成されている。
図2および
図5に示すように、回転軸としてのクランクシャフト20は、シャフト部40および第1ないし第3のクランク部41a,41b,41cを主要な要素として備えている。シャフト部40は、密閉容器10の軸方向に一直線状に延びている。シャフト部40は、シャフト部40の上部に位置された第1のジャーナル部42と、シャフト部40の下端部に位置された第2のジャーナル部43と、第1のジャーナル部42と第2のジャーナル部43との間に位置された第1の中間軸部44および第2の中間軸部45と、を有する。第1のジャーナル部42、第2のジャーナル部43、第1の中間軸部44および第2の中間軸部45は、互いに同軸状に配列されている。
【0034】
第1のジャーナル部42は、第1の軸受18で回転自在に支持されている。第1の軸受18から突出されたシャフト部40の上端部には、電動機11の回転子14が同軸状に連結されている。第2のジャーナル部43は、第2の軸受19で回転自在に支持されている。
【0035】
第1ないし第3のクランク部41a,41b,41cは、第1のジャーナル部42と第2のジャーナル部43との間に位置するとともに、シャフト部40の軸方向に間隔を存して並んでいる。
図6および
図8に示すように、第1ないし第3のクランク部41a,41b,41cは、夫々円形の断面形状を有する円盤状の要素であって、本実施形態では、シャフト部40の軸方向に沿う厚さ寸法および直径が同一に設定されている。
【0036】
図6に示すように、第1ないし第3のクランク部41a,41b,41cは、第1のジャーナル部42および第2のジャーナル部43の回転中心を通る真っ直ぐな軸線O1に対し偏心している。すなわち、シャフト部40の軸線O1に対する第1ないし第3のクランク部41a,41b,41cの偏心方向は、シャフト部40の周方向に120°ずつずれている。シャフト部40の軸線O1に対する第1ないし第3のクランク部41a,41b,41cの偏心量eは、同一となっている。
【0037】
さらに、シャフト部40の第1の中間軸部44は、軸線O1の上で第1のクランク部41aと第2のクランク部41bとの間に位置するとともに、第1の中間仕切り板16の貫通孔16aを貫通している。
シャフト部40の第2の中間軸部45は、軸線O1の上で第2のクランク部41bと第3のクランク部41cとの間に位置するとともに、第2の中間仕切り板17の軸受孔22に軸回り方向に摺動可能に嵌合されている。この嵌合により、第2の中間仕切り板17が第1の軸受18と第2の軸受19との間でシャフト部40の中間部を支持する第3の軸受としての機能を兼ねている。
【0038】
図2に示すように、クランクシャフト20の第1のクランク部41aは、第1のシリンダ室27に収容されている。第2のクランク部41bは、第2のシリンダ室28に収容されている。さらに、第3のクランク部41cは、第3のシリンダ室31に収容されている。
【0039】
リング状のローラ47が第1のクランク部41aの外周面に嵌合されている。ローラ47は、クランクシャフト20に追従して第1のシリンダ室27内で偏心回転するようになっている。
ローラ47の上端面は、第1の軸受18のフランジ部23の下面に摺動可能に接している。ローラ47の下端面は、第1の中間仕切り板16の上面に摺動可能に接している。これにより、第1のシリンダ室27の気密性が確保されている。
【0040】
リング状のローラ48が第2のクランク部41bの外周面に嵌合されている。ローラ48は、クランクシャフト20に追従して第2のシリンダ室28内で偏心回転するようになっている。
ローラ48の上端面は、第1の中間仕切り板16の下面に摺動可能に接している。ローラ48の下端面は、第2の中間仕切り板17の上面に摺動可能に接している。これにより、第2のシリンダ室28の気密性が確保されている。
【0041】
リング状のローラ49が第3のクランク部41cの外周面に嵌合されている。ローラ49は、クランクシャフト20に追従して第3のシリンダ室31内で偏心回転するようになっている。
ローラ49の上端面は、第2の中間仕切り板17の下面に摺動可能に接している。ローラ49の下端面は、第2の軸受19のフランジ部29の上面に摺動可能に接している。これにより、第3のシリンダ室31の気密性が確保されている。
【0042】
図3に第1の冷媒圧縮部15Aを代表して示すように、ベーン50が第1のシリンダボディ21aに支持されている。ベーン50は、第1のシリンダ室27の径方向に移動可能であるとともに、ベーン50の先端部がローラ47の外周面に摺動可能に押し付けられている。
【0043】
ベーン50は、ローラ47と協働して第1のシリンダ室27を吸入領域R1と圧縮領域R2とに区画している。そのため、ローラ47が第1のシリンダ室27内で偏心回転すると、第1のシリンダ室27の吸入領域R1および圧縮領域R2の容積が連続的に変化する。図示を省略するが、第2のシリンダ室28および第3のシリンダ室31も同様のベーンで吸入領域R1と圧縮領域R2とに区画されている。
【0044】
図2に示すように、圧縮機構部12の第1のシリンダ室27は、第1の吸込管51を介してアキュームレータ8に接続されている。圧縮機構部12の第2のシリンダ室28および第3のシリンダ室31は、第2の中間仕切り板17および第2の吸込管52を介してアキュームレータ8に接続されている。
【0045】
具体的に述べると、
図2および
図3に示すように、第1のシリンダボディ21aの内部に第1のシリンダ室27に連なる第1の吸込口53が形成されている。第1の接続管54が第1の吸込口53に圧入等の手段で接続されている。第1の接続管54は、密閉容器10の周壁10aを貫通して密閉容器10の外に突出されており、当該第1の接続管54の突出端に第1の吸込管51の下流端が気密に接続されている。
【0046】
図4に示すように、第2の中間仕切り板17の外周部の一部に継手部56が形成されている。継手部56は、第2の中間仕切り板17の外周部から密閉容器10の周壁10aに向けて張り出している。継手部56の内部に第2の吸込口57と、第2の吸込口57の下流端から二又状に分岐された分岐通路58a,58bと、が形成されている。
【0047】
第2の接続管59が第2の吸込口57に圧入等の手段で接続されている。第2の接続管59は、密閉容器10の周壁10aを貫通して密閉容器10の外に突出されており、当該第2の接続管59の突出端に第2の吸込管52の下流端が気密に接続されている。
【0048】
一方の分岐通路58aは、第2のシリンダ室28に連通するように第2の中間仕切り板17の上面に開口されている。他方の分岐通路58bは、第3のシリンダ室31に連通するように第2の中間仕切り板17の下面に開口されている。
図2に示すように、第1の吐出弁60が第1の軸受18のフランジ部23に設けられている。第1の吐出弁60は、第1のシリンダ室27の圧縮領域R2の圧力が所定の値に達した時に開くとともに、第1の吐出弁60の吐出側が第1の消音室34に通じている。
【0049】
第2の吐出弁61が第1の中間仕切り板16に設けられている。第2の吐出弁61は、第2のシリンダ室28の圧縮領域R2の圧力が所定の値に達した時に開くとともに、第2の吐出弁61の吐出側が第1の中間仕切り板16の内部および第1のシリンダボディ21aの内部に設けた図示しない第1の吐出通路を介して第1の消音室34に通じている。
【0050】
第3の吐出弁62が第2の軸受19のフランジ部29に設けられている。第3の吐出弁62は、第3のシリンダ室31の圧縮領域R2の圧力が所定の値に達した時に開くとともに、第3の吐出弁62の吐出側が第2の消音室36に通じている。第2の消音室36は、図示しない第2の吐出通路を通じて第1の消音室34に連通されている。
【0051】
このような構成の3シリンダ形ロータリコンプレッサ2において、電動機11によりクランクシャフト20が回転されると、ローラ47,48,49が第1ないし第3のシリンダ室27,28,31内で偏心回転する。これにより、第1ないし第3のシリンダ室27,28,31の吸入領域R1および圧縮領域R2の容積が変化し、アキュームレータ8内の気相冷媒が第1の吸込管51および第2の吸込管52から第1ないし第3のシリンダ室27,28,31の吸入領域R1に導かれる。
【0052】
第1の吸込管51から第1の吸込口53に導かれた気相冷媒は、第1のシリンダ室27の吸入領域R1に吸い込まれる。第1のシリンダ室27の吸入領域R1に吸い込まれた気相冷媒は、吸入領域R1が圧縮領域R2に移行する過程で次第に圧縮される。気相冷媒の圧力が予め決められた値に達した時点で第1の吐出弁60が開き、第1のシリンダ室27で圧縮された気相冷媒が第1の消音室34に吐出される。
【0053】
第2の吸込管52から第2の中間仕切り板17の第2の吸込口57に導かれた気相冷媒の一部は、一方の分岐通路58aを経て第2のシリンダ室28の吸入領域R1に吸い込まれる。第2のシリンダ室28の吸入領域R1に吸い込まれた気相冷媒は、吸入領域R1が圧縮領域R2に移行する過程で次第に圧縮される。気相冷媒の圧力が予め決められた値に達した時点で第2の吐出弁61が開き、第2のシリンダ室28で圧縮された気相冷媒が第1の吐出通路を介して第1の消音室34に導かれる。
【0054】
第2の吸込管52から第2の吸込口57に導かれた残りの気相冷媒は、他方の分岐通路58bを経て第3のシリンダ室31の吸入領域R1に吸い込まれる。第3のシリンダ室31の吸入領域R1に吸い込まれた気相冷媒は、吸入領域R1が圧縮領域R2に移行する過程で次第に圧縮される。気相冷媒の圧力が予め決められた値に達した時点で第3の吐出弁62が開き、第3のシリンダ室31で圧縮された気相冷媒が第2の消音室36に吐出される。第2の消音室36に吐出された気相冷媒は、第2の吐出通路を通じて第1の消音室34に導かれる。
【0055】
クランクシャフト20の第1ないし第3のクランク部41a,41b,41cは、シャフト部40の軸線O1に対する偏心方向がシャフト部40の周方向に120°ずつずれている。そのため、第1ないし第3のシリンダ室27,28,31で圧縮された気相冷媒が吐出されるタイミングに同等の位相差が存在する。
【0056】
第1ないし第3のシリンダ室27,28,31で圧縮された気相冷媒は、第1の消音室34で合流するとともに、第1の吐出マフラ33の排気孔から密閉容器10の内部に連続的に吐出される。密閉容器10の内部に吐出された気相冷媒は、電動機11を通過した後、吐出管10bから四方弁3に導かれる。
【0057】
一方、本実施形態のクランクシャフト20は、第1のクランク部41aおよび第2のクランク部41bがシャフト部40に一体に形成されている。これに対し、第3のクランク部41cは、
図7に示すようにシャフト部40とは別の要素であるクランクピース65で構成され、当該クランクピース65がシャフト部40に組み込まれている。
【0058】
具体的に述べると、シャフト部40、第1のクランク部41aおよび第2のクランク部41bは、鋳造により成型された一体構造物であり、鋳鉄あるいは鋳鋼のような鋳物用金属材料で構成されている。
シャフト部40、第1のクランク部41aおよび第2のクランク部41bは、金型から取り出された鋳造成型品に旋盤のような工作機械を用いて切削加工を施すことで、所定の形状・寸法に仕上げられている。
【0059】
図7に最もよく示されるように、本実施形態のシャフト部40は、第2の中間軸部45と第2のジャーナル部43との間にクランク取り付け部66を有している。クランク取り付け部66は、円形の断面形状を有する軸状の要素であって、第2の中間軸部45および第2のジャーナル部43に対し同軸状に位置されている。クランク取り付け部66は、第2のジャーナル部43よりも径が大きく、第2の中間軸部45よりも径が小さい。
【0060】
さらに、第1のキー溝67がクランク取り付け部66の外周面に形成されている。第1のキー溝67は、シャフト部40の軸方向に延びているとともに、クランク取り付け部66と第2のジャーナル部43との境界に開口されている。キー68が第1のキー溝67に嵌め込まれている。キー68は、クランク取り付け部66の外周面から突出されている。
【0061】
図8ないし
図10に示すように、クランクピース65は、第1のクランク部41aおよび第2のクランク部41bと同一の外径および厚みを有する円盤状の要素であって、例えば鋳鉄、鋳鋼のような鋳物用金属材料で形成されている。
クランクピース65は、ローラ49が嵌合される外周面70と、第2のジャーナル部43と隣り合う第1の端面71aと、第2の中間軸部45と隣り合う第2の端面71bと、を有している。外周面70、第1の端面71aおよび第2の端面71bは、切削加工を施すことで平滑な面に仕上げられている。
【0062】
円形の嵌合孔72およびスリット状のすり割り73がクランクピース65に形成されている。嵌合孔72は、クランクピース65の中心から偏心した位置に形成されているとともに、クランクピース65の第1の端面71aおよび第2の端面71bに開口されている。嵌合孔72の内径は、クランク取り付け部66の外径よりも僅かに小さく設定されており、当該嵌合孔72の内側にクランク取り付け部66が所定の「締めしろ」で嵌め合わされるようになっている。
【0063】
すり割り73は、嵌合孔72の内径よりも遥かに小さな幅寸法Wを有するとともに、シャフト部40に対する第3のクランク部41cの偏心方向に沿うように、嵌合孔72の内周面から嵌合孔72の径方向外側に向けて直線状に延びている。すり割り73は、クランクピース65の第1の端面71aおよび第2の端面71bに開口されている。さらに、すり割り73の一端は、嵌合孔72の内周面に開口されている。すり割り73の他端は、クランクピース65の内部で閉じられている。
【0064】
したがって、すり割り73は、互いに間隔を存して向かい合う一対の内面73a,73bを有し、当該内面73a,73bがクランクピース65の第1の端面71a、第2の端面71bおよび嵌合孔72の内周面に連なっている。
図10に示すように、嵌合孔72の内周面に開口されたすり割り73の一端は、第2のキー溝74を構成するように幅が拡張されている。第2のキー溝74は、クランク取り付け部66の第1のキー溝67と対向するとともに、当該第2のキー溝74にクランク取り付け部66の外周面から突出されたキー68が嵌合するようになっている。
【0065】
図8ないし
図10に示すように、ガイド孔76がクランクピース65に形成されている。ガイド孔76は、クランクピース65の内部ですり割り73と直交する方向に延びている。本実施形態によると、ガイド孔76は、すり割り73の一方の内面73aに開口されたねじ孔77と、クランクピース65の外周面に開口された挿入口78とで構成され、挿入口78は、ねじ孔77よりも径が大きい。
【0066】
本実施形態によると、シャフト部40のクランク取り付け部66とクランクピース65の嵌合孔72との間には、例えば28μm程度の「締めしろ」が存在するので、そのままでは嵌合孔72にクランク取り付け部66を嵌め合わすことができない。
そのため、本実施形態では、嵌合孔72にクランク取り付け部66を嵌め合わす前に、拡張用治具の一例である六角孔付きボルト80がガイド孔76に挿入される。
図9および
図10に示すように、六角孔付きボルト80は、挿入口78からねじ孔77にねじ込まれる。
【0067】
このねじ込みにより、六角孔付きボルト80の先端部がすり割り73を幅方向に横断するようにすり割り73に進出するとともに、六角孔付きボルト80の先端面80aがすり割り73の他方の内面73bに突き当たる。六角孔付きボルト80の先端面80aが他方の内面73bに突き当った時点では、六角孔付きボルト80のソケット部80bは、クランクピース65の外周面70に突出することなく挿入口78内に収まっている。
【0068】
次に、3シリンダ形ロータリコンプレッサ2を組み立てるに際して、クランクピース65をシャフト部40のクランク取り付け部66に嵌め合わす際の具体的な手順について説明する。
まず、
図9に示すように、単品の状態にあるクランクピース65のガイド孔76に挿入口78の側から六角孔付きボルト80を挿入する。引き続き、六角孔付きボルト80のソケット部80bに
図10に示す棒レンチ81を嵌合させ、棒レンチ81を用いて六角孔付きボルト80をねじ孔77にねじ込んでいく。これにより、六角孔付きボルト80の先端面80aがすり割り73の他方の内面73bに突き当たり、他方の内面73bを一方の内面73aから遠ざかる方向に強制的に押圧する。
【0069】
この結果、
図10に矢印で示すように、すり割り73の幅寸法Wが例えば30μm程度広がる。すり割り73の一端は、嵌合孔72に開口されているので、すり割り73が広がることで嵌合孔72の内径がミクロ的に拡張するように嵌合孔72が変形する。
よって、クランク取り付け部66と嵌合孔72との間の「締めしろ」が消失するように、クランク取り付け部66の外周面と嵌合孔72との間に部分的に
図10に示すような隙間Gが生じ、嵌合孔72にクランク取り付け部66を挿入可能な状態に移行する。
【0070】
この後、シャフト部40を第2のジャーナル部43の側からクランクピース65の嵌合孔72に挿入するとともに、クランクピース65の第2のキー溝74がクランク取り付け部66のキー68と合致するように、クランクピース65とシャフト部40との相対的な位置を調整する。
【0071】
第2のキー溝74がキー68と合致したら、クランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に押し込み、クランク取り付け部66の上にクランクピース65を位置させる。これにより、シャフト部40とクランクピース65との周方向に沿う位置決めがなされ、シャフト部40に対するクランクピース65(第3のクランク部41c)の偏心方向が定まる。
【0072】
引き続いて、六角孔付きボルト80を棒レンチ81で緩めて、当該六角孔付きボルト80をクランクピース65のガイド孔76から取り外す。六角孔付きボルト80を取り外すことで、すり割り73の他方の内面73bに対する押圧が解除され、嵌合孔72が当初の形状に復帰するようにクランクピース65が弾性変形する。
【0073】
この結果、シャフト部40のクランク取り付け部66が所定の「締めしろ」でクランクピース65の嵌合孔72に嵌め合わされる。これにより、シャフト部40とクランクピース65とが「しまり嵌め」の状態で一体的に固定され、クランクシャフト20の組み立てが完了する。
【0074】
第1の実施形態によると、シャフト部40とは別の要素であるクランクピース65は、嵌合孔72に開口されたスリット状のすり割り73を有し、すり割り73の幅寸法Wを六角孔付きボルト80で強制的に広げることで、嵌合孔72の内径が拡張するように嵌合孔72を変形させている。このため、シャフト部40のクランク取り付け部66とクランクピース65の嵌合孔72との間に所定の「締めしろ」が存在するにも拘らず、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に容易に挿入することができる。
【0075】
加えて、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に挿入した後、クランクピース65のガイド孔76から六角孔付きボルト80を取り外すことで、シャフト部40とクランクピース65とが「しまり嵌め」の状態で強固に固定される。
【0076】
したがって、シャフト部40にクランクピース65を固定する作業を容易に行うことができ、クランクシャフト20の組み立て時の作業性が向上する。
さらに、第1の実施形態によれば、シャフト部40とクランクピース65とが「しまり嵌め」の状態で強固に固定されるので、シャフト部40に対するクランクピース65の固定強度を十分に確保できる。この結果、3シリンダ形ロータリコンプレッサ2の運転中にクランクピース65にがたつきが生じるのを回避できる。
【0077】
しかも、シャフト部40にクランクピース65が固定された状態において、六角孔付きボルト80をクランクピース65のねじ孔77にねじ込んで、すり割り73の幅寸法Wを拡張すれば、再び嵌合孔72を変形させて当該嵌合孔72からシャフト部40を引き抜くことができる。このため、シャフト部40とクランクピース65とが「しまり嵌め」の状態で固定されているにも拘らず、クランクピース65の取り外しが可能となり、例えばクランクピース65の交換が必要となった場合でも容易に対処できる。
【0078】
それとともに、シャフト部40とクランクピース65の間にキー68が介在されているので、当該キー68を基準にシャフト部40とクランクピース65との周方向に沿う位置合わせを実行できる。よって、シャフト部40に対するクランクピース65の偏心方向を精度よく設定できる。
【0079】
第1の実施形態によると、第3の軸受としての機能を兼用する第2の中間仕切り板17は、クランクシャフト20の第2のクランク部41bと第3のクランク部41cとの間に位置されている。第3のクランク部41cは、シャフト部40とは別の要素であるクランクピース65で構成され、当該クランクピース65は、既に述べたようにシャフト部40のクランク取り付け部66に「しまり嵌め」の状態で固定されている。
【0080】
したがって、第2の中間仕切り板17の軸受孔22にシャフト部40の第2の中間軸部45を挿入する場合は、クランクピース65をシャフト部40のクランク取り付け部66に嵌め合わせる以前に、シャフト部40の第2の中間軸部45を第2のジャーナル部43の側から第2の中間仕切り板17の軸受孔22に挿入すればよい。
【0081】
これにより、第2の中間仕切り板17を軸受孔22の位置で二分割する必要がなくなり、第2のシリンダ室28あるいは第3のシリンダ室31で圧縮された冷媒の漏洩等を未然に防止することができる。
第1の実施形態において、キー68は、シャフト部40とクランクピース65との周方向に沿う位置合わせを行うための要素であり、クランクピース65をシャフト部40に固定する機能を有していない。そのため、シャフト部40とクランクピース65との固定が完了したら、キー68をシャフト部40とクランクピース65との間から取り外すようにしてもよい。
【0082】
さらに、キー68を用いずにシャフト部40とクランクピース65との周方向に沿う位置合わせを行う場合は、例えばシャフト部40およびクランクピース65の双方にマーキングを施し、当該マーキングを互いに合致させるようにしてもよい。
[第2の実施形態]
図11ないし
図13は、第2の実施形態を開示している。第2の実施形態は、クランクピース65の嵌合孔72の形状に関する事項が第1の実施形態と相違している。それ以外のクランクシャフト20の構成は、第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0083】
第1の実施形態の
図10に示すように、六角孔付きボルト80を用いてすり割り73の幅寸法Wを広げた場合、嵌合孔72は、内径を拡張するように変形するものの、全周に亘って均等に変形することができず、ミクロ的に見て歪な形状となるのを否めない。そのため、円形のクランク取り付け部66を変形された嵌合孔72に挿入しようとしても、クランク取り付け部66の外周面が嵌合孔72の内周面と干渉し合うことがあり得る。
【0084】
この対策として、第2の実施形態では、嵌合孔72の内周面のうちの二箇所に、第1の逃げ部91aおよび第2の逃げ部91bが形成されている。第1の逃げ部91aおよび第2の逃げ部91bは、例えば嵌合孔72の内周面に除去加工を施すことにより形成され、嵌合孔72の内径を増すように円弧状にカットされた形状を有している。言い換えると、第1の逃げ部91aおよび第2の逃げ部91bは、クランク取り付け部66の外周面から遠ざかる方向に円弧状にカットされている。
【0085】
さらに、第1の逃げ部91aおよび第2の逃げ部91bは、嵌合孔72の中心Cを間に挟んで向かい合うとともに、嵌合孔72の周方向に例えば135°の範囲に亘って形成されている。本実施形態では、第1の逃げ部91aの周方向に沿う中間部にすり割り73の一端が開口されている。
【0086】
第2の実施形態によると、嵌合孔72の内周面に内径を増す方向に円弧状にカットされた第1の逃げ部91aおよび第2の逃げ部91bが形成されている。このため、嵌合孔72が歪に変形したとしても、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に挿入する際に、クランク取り付け部66の外周面が嵌合孔72の内周面と干渉し合うのを回避できる。
【0087】
これにより、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に例えば手作業で簡単に挿入することができ、シャフト部40のクランク取り付け部66にクランクピース65を固定する際の作業性が向上する。
さらに、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に挿入した後、クランクピース65から六角孔付きボルト80を取り外せば、
図13に示すように、シャフト部40のクランク取り付け部66が第1の逃げ部91aおよび第2の逃げ部91bから外れた嵌合孔72の内周面に所定の「締めしろ」で嵌め合わされた状態に移行する。
【0088】
したがって、シャフト部40とクランクピース65とが「しまり嵌め」の状態で一体的に固定される。
第2の実施形態では、嵌合孔72の中心Cを間に挟んだ二箇所に第1の逃げ部91a,91bを設けたが、これに限定されるものではない。例えば、第2の逃げ部91bを省略するとともに、嵌合孔72の周方向に沿う第1の逃げ部91aの範囲を拡張してもよい。
[第3の実施形態]
図14および
図15は、第3の実施形態を開示している。第3の実施形態は、シャフト部40に対するクランクピース65の固定の仕方が第1の実施形態と相違している。それ以外のクランクシャフト20の構成は、第1の実施形態と同様である。そのため、第3の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0089】
図14に示すように、クランクピース65のガイド孔76は、挿入孔78、ねじ山のない馬鹿孔92およびねじ孔93を有している。馬鹿孔92は、すり割り73と交差する方向に沿って形成されているとともに、すり割り73の一方の内面73aに開口されている。ねじ孔93は、すり割り73の他方の内面73bに開口するように、馬鹿孔92と同軸状に位置されている。
【0090】
さらに、本実施形態では、嵌合孔72の内径がシャフト部40のクランク取り付け部66の外径よりも大きく設定されており、嵌合孔72とシャフト部40との間に隙間Gが生じている。そのため、嵌合孔72とシャフト部40とは、「すきま嵌め」の状態で嵌め合わされている。
【0091】
図15に示すように、六角孔付きボルト95がクランクピース65のガイド孔76に挿入されている。六角孔付きボルト95は、締結具の一例であって、挿入口78から馬鹿孔92を貫通してねじ孔93にねじ込まれている。したがって、六角孔付きボルト95は、すり割り73を横断するような形態でガイド孔76内に収容されている。
【0092】
さらに、六角孔付きボルト95の先端部95aがねじ孔93にねじ込まれた状態では、六角孔付きボルト95のソケット部95bの端面が挿入口78と馬鹿孔92との境界に位置する段差96に突き当たる。それとともに、ソケット部95bがクランクピース65の外周面70に突出することなく挿入口78内に収まっている。
【0093】
次に、クランクシャフト20を組み立てるに際して、クランクピース65をシャフト部40のクランク取り付け部66に嵌め合わす際の具体的な手順について説明する。
まず、
図14に示すように、クランクピース65の第2のキー溝74とクランク取り付け部66のキー68とが合致するように、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に「すきま嵌め」の状態で嵌め合わす。引き続いて、クランクピース65のガイド孔76に挿入口78の側から六角孔付きボルト95を挿入する。
【0094】
次に、
図15に示すように、棒レンチ81を用いて六角孔付きボルト95をねじ孔93にねじ込んでいく。このねじ込みにより、六角孔付きボルト95がすり割り73を横切るとともに、六角孔付きボルト95のソケット部95bの端面が挿入口78の底の段差96に突き当たる。
【0095】
この状態で、六角孔付きボルト95をさらに強固に締め付けると、
図15に矢印で示すように、すり割り73の幅寸法Wが狭まるようにクランクピース65が弾性変形する。すり割り73の一端は、嵌合孔72の内周面に開口されているので、すり割り73の幅寸法Wが狭まるにつれて、嵌合孔72の内径が縮まるように嵌合孔72が変形する。
【0096】
この結果、クランク取り付け部66と嵌合孔72との間の隙間Gが部分的に消失し、クランク取り付け部66が所定の「締めしろ」でクランクピース65の嵌合孔72に嵌め合わされる。これにより、シャフト部40とクランクピース65とが一体的に締め付け固定され、クランクシャフト20の組み立て作業が完了する。
【0097】
第3の実施形態によると、シャフト部40とは別の要素であるクランクピース65は、嵌合孔72に開口されたスリット状のすり割り73を有し、すり割り73の幅寸法Wを六角孔付きボルト95で強制的に狭めることで、嵌合孔72の内径が縮まるように嵌合孔72を変形させている。
【0098】
このため、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に挿入する時点では、クランク取り付け部66と嵌合孔72との間に隙間Gが存在し、クランク取り付け部66を嵌合孔72に容易に挿入することができる。
加えて、クランク取り付け部66を嵌合孔72に挿入した後、六角孔付きボルト95を締め込むだけの作業で、シャフト部40とクランクピース65とが一体的に締め付け固定される。
【0099】
したがって、第1の実施形態と同様に、シャフト部40にクランクピース65を固定する作業を容易に行うことができ、クランクシャフト20の組み立て時の作業性が向上する。
さらに、第3の実施形態によれば、シャフト部40とクランクピース65とが一体的に締め付け固定されるので、シャフト部40に対するクランクピース65の固定強度を十分に確保できる。この結果、3シリンダ形ロータリコンプレッサ2の運転中にクランクピース65にがたつきが生じるのを回避できる。
【0100】
しかも、クランクピース65がシャフト部40に固定された状態では、六角孔付きボルト95がクランクピース65のガイド孔76内に残っている。そのため、六角孔付きボルト95を緩めてすり割り73の幅寸法Wを拡張すれば、嵌合孔72とクランクピース65との間に当初の隙間Gが生じるようにクランクピース65が弾性変形する。よって、クランクピース65の取り外しが可能となり、例えばクランクピース65の交換が必要となった場合でも容易に対処できる。
【0101】
第3の実施形態において、キー68は、前記第1の実施形態と同様にクランクピース65をシャフト部40に固定する機能を有していない。そのため、シャフト部40とクランクピース65との固定が完了した後、キー68をシャフト部40とクランクピース65との間から取り外すようにしてよい。
[第4の実施形態]
図16および
図17は、第4の実施形態を開示している。第4の実施形態は、シャフト部40のクランク取り付け部66の形状に関する事項が第1の実施形態と相違している。それ以外のクランクシャフト20の構成は第1の実施形態と同様である。そのため、第4の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成要素については同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0102】
図16および
図17に示すように、第4の実施形態では、シャフト部40のクランク取り付け部66の外周面の二箇所に第1の逃げ部100aおよび第2の逃げ部100bが形成されている。第1の逃げ部100aおよび第2の逃げ部100bは、例えばクランク取り付け部66の外周面のうち、シャフト部40の軸線O1を間に挟んだ二箇所に切削加工を施すことにより形成されており、シャフト部40よりも大きな曲率で円弧状に湾曲されている。言い換えると、第1の逃げ部100aおよび第2の逃げ部100bは、クランクピース65の嵌合孔72の内周面から遠ざかる方向に円弧状にカットされた形状を有している。
【0103】
本実施形態によると、第1の逃げ部100aおよび第2の逃げ部100bは、クランク取り付け部66の周方向に例えば135°の範囲に亘って形成されている。そのため、クランク取り付け部66の外周面は、第1の逃げ部100aと第2の逃げ部100bとの間に位置する二つの領域101a,101bを有している。領域101a,101bの外径は、クランクピース65の嵌合孔72の内径よりも僅かに大きく設定されており、当該二つの領域101a,101bが嵌合孔72の内側に所定の「締めしろ」で嵌め合わされるようになっている。
【0104】
さらに、六角孔付きボルト80で幅寸法が広げられるすり割り73は、その一端がクランク取り付け部66の第1の逃げ部100aの周方向に沿う中間部と向かい合っている。
第4の実施形態において、六角孔付きボルト80ですり割り73の幅寸法Wを広げると、前記第1の実施形態と同様に、嵌合孔72の内径がミクロ的に拡張するように嵌合孔72が変形する。よって、クランク取り付け部66の二つの領域101a,101bと嵌合孔72との間の「締めしろ」が消失し、嵌合孔72にクランク取り付け部66を挿入可能な状態に移行する。
【0105】
しかしながら、嵌合孔72は、全周に亘って均等に変形することができず、ミクロ的に見て歪な形状となるのを否めない。そのため、変形された嵌合孔72にクランク取り付け部66を挿入しようとしても、クランク取り付け部66の外周面が嵌合孔72の内周面と干渉し合うことがあり得る。
【0106】
第4の実施形態では、嵌合孔72に嵌合されるクランク取り付け部66の外周面の二箇所に、曲率を増すように円弧状にカットされた第1の逃げ部100aおよび第2の逃げ部100bが形成されている。このため、第1の逃げ部100aおよび第2の逃げ部100bと嵌合孔72の内周面との間には、隙間Gが確保されている。
【0107】
第1の逃げ部100aおよび第2の逃げ部100bの存在により、たとえ嵌合孔72が歪に変形したとしても、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に挿入する際に、クランク取り付け部66の外周面が嵌合孔72の内周面と干渉し合うのを回避できる。
【0108】
これにより、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に例えば手作業で簡単に挿入することができ、シャフト部40のクランク取り付け部66にクランクピース65を固定する際の作業性が向上する。
しかも、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に挿入した後、クランクピース65から六角孔付きボルト80を取り外せば、クランク取り付け部66の二つの領域101a,101bが嵌合孔72の内周面に所定の「締めしろ」で嵌め合わされた状態に移行する。
【0109】
この結果、シャフト部40とクランクピース65とが「しまり嵌め」の状態で強固に固定されるので、シャフト部40に対するクランクピース65の固定強度を十分に確保できる。よって、3シリンダ形ロータリコンプレッサ2の運転中にクランクピース65にがたつきが生じるのを回避できる。
[第5の実施形態]
図18および
図19は、第5の実施形態を開示している。第5の実施形態は、シャフト部40のクランク取り付け部66の形状に関する事項が第4の実施形態と相違しており、それ以外のクランクシャフト20の構成は第4の実施形態と同様である。
【0110】
図18および
図19に示すように、シャフト部40のクランク取り付け部66の外周面の二箇所に第1の逃げ部110aおよび第2の逃げ部110bが形成されている。第1の逃げ部110aおよび第2の逃げ部110bは、例えばクランク取り付け部66の外周面のうち、シャフト部40の軸線O1を間に挟んだ二つの領域に切削加工を施すことにより形成されている。
【0111】
第1の逃げ部110aおよび第2の逃げ部110bは、夫々第1ないし第3の平坦面111a,111b,111cを有している。第1ないし第3の平坦面111a,111b,111cは、クランク取り付け部66の周方向に並んでいるとともに、クランクピース65の嵌合孔72の内周面から離れている。
【0112】
図19に示すように、第1の逃げ部110aの第1の平坦面111aと第2の逃げ部110bの第3の平坦面111cとは、シャフト部40の軸線O1を間に挟んで互いに平行に配置されている。第1の逃げ部110aの第2の平坦面111bと第2の逃げ部110bの第2の平坦面111bとは、シャフト部40の軸線O1を間に挟んで互いに平行に配置されている。第1の逃げ部110aの第3の平坦面111cと第2の逃げ部110bの第1の平坦面111aとは、シャフト部40の軸線O1を間に挟んで互いに平行に配置されている。
【0113】
本実施形態によると、第1の逃げ部110aおよび第2の逃げ部110bは、クランク取り付け部66の周方向に例えば115°の範囲に亘って形成されている。そのため、クランク取り付け部66の外周面は、第1の逃げ部110aと第2の逃げ部110bとの間に位置する二つの領域112a,112bを有している。領域112a,112bの外径は、クランクピース65の嵌合孔72の外径よりも僅かに大きく設定されており、当該二つの領域112a,112bが嵌合孔72の内側に所定の「締めしろ」で嵌め合わされるようになっている。
【0114】
さらに、六角孔付きボルト80で幅寸法が広げられるすり割り73は、その一端がクランク取り付け部66の第1の逃げ部110aの第2の平坦面111bの中間部と向かい合っている。
第5の実施形態において、六角孔付きボルト80ですり割り73の幅寸法Wを広げると、前記第1の実施形態と同様に、嵌合孔72の内径がミクロ的に拡張するように嵌合孔72が変形する。よって、クランク取り付け部66の二つの領域101a,101bと嵌合孔72との間の「締めしろ」が消失し、嵌合孔72にクランク取り付け部66を挿入可能な状態に移行する。
【0115】
しかしながら、嵌合孔72は、全周に亘って均等に変形することができず、ミクロ的に見て歪な形状となるのを否めない。そのため、変形された嵌合孔72にクランク取り付け部66を挿入しようとしても、クランク取り付け部66の外周面が嵌合孔72の内周面と干渉し合うことがあり得る。
【0116】
第5の実施形態では、嵌合孔72に嵌合されるクランク取り付け部66の外周面の二箇所に、第1の逃げ部110aおよび第2の逃げ部110bが形成され、第1の逃げ部110aおよび第2の逃げ部110bは、嵌合孔72の内周面から離れるようにカットされた第1ないし第3の平坦面111a,111b,111cを有している。
【0117】
このような第1の逃げ部110aおよび第2の逃げ部110bの存在により、第1の逃げ部110aと嵌合孔72の内周面との間、および第2の逃げ部110bと嵌合孔72の内周面との間に夫々隙間Gが確保される。
したがって、たとえ嵌合孔72が歪に変形したとしても、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に挿入する際に、クランク取り付け部66の外周面が嵌合孔72の内周面と干渉し合うのを回避できる。
【0118】
これにより、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に例えば手作業で簡単に挿入することができ、シャフト部40のクランク取り付け部66にクランクピース65を固定する際の作業性が向上する。
しかも、シャフト部40のクランク取り付け部66をクランクピース65の嵌合孔72に挿入した後、クランクピース65から六角孔付きボルト80を取り外せば、クランク取り付け部66の二つの領域112a,112bが嵌合孔72の内周面に所定の「締めしろ」で嵌め合わされた状態に移行する。
【0119】
この結果、シャフト部40とクランクピース65とが「しまり嵌め」の状態で強固に固定されるので、シャフト部40に対するクランクピース65の固定強度を十分に確保できる。よって、3シリンダ形ロータリコンプレッサ2の運転中にクランクピース65にがたつきが生じるのを回避できる。
【0120】
前記実施形態では、クランクシャフト20の第3のクランク部41cをシャフト部40とは別の要素であるクランクピース65で構成したが、これに制約されるものではない。例えば、第1ないし第3のクランク部41a,41b,41cの全てをシャフト部40とは別のクランクピース65で構成し、各クランクピース65をシャフト部40の軸方向に沿う三箇所に設けた第1ないし第3のクランク取り付け部に「しまり嵌め」あるいはボルトを用いて締め付け固定するようにしてもよい。
【0121】
加えて、前記実施形態では、クランクピースのねじ孔に六角孔付きボルトをねじ込むことで、すり割りの幅寸法を広げるようにしたが、すり割りの幅寸法を広げる要素は、六角孔付きボルトに特定されるものではない。例えば、例えばクランクピースの第1の端面又は第2の端面の方向から楔状の拡張具をすり割りに取り外し可能に圧入することで、すり割りの幅寸法を広げるようにしてもよい。
【0122】
前記実施形態では、三つのシリンダ室を有する3シリンダ形ロータリコンプレッサについて説明したが、シリンダ室の数に特に制約はなく、シリンダ室の数は一つや二つでもよいし、あるいは四つ以上でもよい。
さらに、前記実施形態では、ベーンがローラの偏心回転に追従してシリンダ室の径方向に往復移動する一般的なロータリコンプレッサを例に掲げて説明したが、例えばベーンがローラの外周面から径方向外側に向けて一体的に突出された、所謂スイング形のロータリコンプレッサにおいても同様に実施可能である。
【0123】
加えて、ロータリコンプレッサは、クラクシャフトを縦置きにした縦形のロータリコンプレッサに限らず、クランクシャフトを横置きにした横形のロータリコンプレッサであってもよい。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0124】
2…ロータリコンプレッサ、4…室外熱交換器、5…膨張装置、6…室内熱交換器、7…循環回路、10…密閉容器、11…電動機、12…圧縮機構部、13…固定子、14…回転子、15A…第1の冷媒圧縮部、15B…第2の冷媒圧縮部、15C…第3の冷媒圧縮部、16…第1の中間仕切り板、17…第2の中間仕切り板、20…クランクシャフト、27…第1のシリンダ室、28…第2のシリンダ室、31…第3のシリンダ室、40…シャフト部、41a…第1のクランク部、41b…第2のクランク部、41c…第3のクランク部、65…クランクピース、71a…第1の端面、71b…第2の端面、72…嵌合孔、73…すり割り、95…六角孔付きボルト(締結具)。