(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂発泡シート及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/06 20060101AFI20220124BHJP
【FI】
C08J9/06 CET
(21)【出願番号】P 2018182228
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2020-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2018069021
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】大西 俊行
(72)【発明者】
【氏名】青木 健一郎
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-067705(JP,A)
【文献】特開2020-037641(JP,A)
【文献】特開平11-335414(JP,A)
【文献】特開2007-106620(JP,A)
【文献】特開2004-161868(JP,A)
【文献】特開2001-205552(JP,A)
【文献】国際公開第2014/188848(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60;67/20
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡層を有し、
前記発泡層は、熱可塑性樹脂と無機粒子の群とを含有し、
前記無機粒子の群は、第一の無機粒子の群を含有し、
前記第一の無機粒子の群の平均比表面積は、1.0m
2/g以上200m
2/g未満で
あり、
前記第一の無機粒子の群
100質量部のうちの50~100質量部は、一次粒子のモード径/メディアン径で表される比が0.1以上1.0未満であり、
前記熱可塑性樹脂100質量部に対する前記第一の無機粒子の群の含有量は、0.1~0.5質量部であり、
前記無機粒子の群100質量部に対する前記第一の無機粒子の群の含有量は、50~100質量部である、
熱可塑性樹脂発泡シート。
【請求項2】
前記第一の無機粒子の群の嵩密度は、0.02~1.0g/cm
3である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
【請求項3】
前記第一の無機粒子の群の一次粒子のメディアン径の標準偏差は、0.3μm以上である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂を含むか、又は、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有し、
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、10~50質量部である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
【請求項6】
前記無機粒子の群は、気泡調整剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤及び消臭剤から選ばれる少なくとも1種以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
【請求項7】
前記第一の無機粒子の群の含有量は、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.05~20質量部である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂発泡シートが成形されてなる、成形体。
【請求項9】
食品用の容器である、請求項8に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂発泡シート及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂が発泡されてなる発泡シート(熱可塑性樹脂発泡シート)は、食品等を収容する容器等の原反として汎用されている。熱可塑性樹脂発泡シートの成形体は、軽量で、断熱性が高く、強度が高く割れにくいという特徴を有する。
熱可塑性樹脂発泡シートの成形品には、さらに耐熱性の向上、耐候性の向上、色合いの多様化、臭気の低減等の様々な要望がある。熱可塑性樹脂発泡シートにおいては、前述の要望に応えつつ、成形性等の向上を図る必要がある。これらの要望を満足すべく、熱可塑性樹脂発泡シートに無機粒子を配合する技術がある。しかし、無機粒子を配合した熱可塑性樹脂発泡シートを製造すると、生産性を損ないやすいという問題があった。
【0003】
例えば、ポリスチレン系樹脂製の発泡シートから成形された容器は、耐熱性が十分に高いものではない。このため、汎用のポリスチレン系樹脂製の発泡シートから成形された容器は、電子レンジ等によって加熱されると変形しやすい。この問題に対し、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する熱可塑性樹脂発泡シートがある。
熱可塑性樹脂発泡シートは、樹脂の種類によっては、独特の臭気を発する。この臭気を抑制するために、シリカの粒子等の消臭剤を含有する熱可塑性樹脂発泡シートが提案されている。しかし、熱可塑性樹脂発泡シートに消臭剤の無機粒子を配合すると、熱可塑性樹脂発泡シートの製造機器が目詰まりして、生産性を損ないやすい。加えて、製造機器の目詰まりに至らなくても、無機粒子の凝集塊がダイの開孔部に付着すると、得られる発泡シートの表面に凹条等の傷を生じることがある。こうした問題に対し、特許文献1には、ハイドロタルサイト焼成物と、シリカ系消臭剤と、脂肪酸金属塩と、グリセリン脂肪酸エステルと、ポリスチレン系樹脂とを特定の割合で含有するポリスチレン系樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、無機粒子による製造機器の目詰まりを充分に防止できなかった。加えて、従来の技術では、熱可塑性樹脂発泡シートの外観不良を充分に防止できなかった。
そこで、本発明は、生産性を高め、外観不良を生じにくい熱可塑性樹脂発泡シートを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]発泡層を有し、
前記発泡層は、熱可塑性樹脂と無機粒子の群とを含有し、
前記無機粒子の群は、第一の無機粒子の群を含有し、
前記第一の無機粒子の群の平均比表面積は、1.0m2/g以上200m2/g未満である、熱可塑性樹脂発泡シート。
[2]前記第一の無機粒子の含有量は、前記無機粒子の群100質量部に対して、10~100質量部である、[1]に記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[3]前記第一の無機粒子の群の嵩密度は、0.02~1.0g/cm3である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[4]前記第一の無機粒子の群の一次粒子は、モード径/メディアン径で表される比が0.1以上1.0未満である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[5]前記第一の無機粒子の群の一次粒子のメディアン径の標準偏差は、0.3μm以上である[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[6]前記熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂を含むか、又は、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[7]前記熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有し、
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、10~50質量部である、[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[8]前記無機粒子の群は、気泡調整剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤及び消臭剤から選ばれる少なくとも1種以上を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[9]前記第一の無機粒子の群の含有量は、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.05~20質量部である、[1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
【0007】
[10][1]~[9]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡シートが成形されてなる、成形体。
[11]食品用の容器である、[10]に記載の成形体。
【0008】
また、本発明は以下の態様を有する。
[12]前記第一の無機粒子の群は、ハイドロタルサイト焼成物の粒子群を含有し、
前記ハイドロタルサイト焼成物の粒子群の含有量は、前記第一の無機粒子の群の総量100質量部に対して40~100質量部である、[1]に記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[13]前記第一の無機粒子の群は、前記ハイドロタルサイト焼成物の粒子群とシリカの粒子群とを含有し、
[ハイドロタルサイト焼成物の粒子群]/[シリカの粒子群]で表される質量比は、4/6~9/1である、[12]に記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[14]前記第一の無機粒子の群の含有量は、前記無機粒子の群100質量部に対して、10~100質量部である、[12]又は[13]に記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[15]前記ハイドロタルサイト焼成物の粒子群の嵩密度は、0.02~1.0g/cm3である、[12]~[14]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[16]前記ハイドロタルサイト焼成物の粒子群の一次粒子は、モード径/メディアン径で表される比が0.1以上1.0未満である、[12]~[15]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[17]前記ハイドロタルサイト焼成物の粒子群の一次粒子のメディアン径は、0.05~30μmである、[12]~[16]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
[18]前記ハイドロタルサイト焼成物の粒子群の一次粒子のメディアン径の標準偏差は、0.3μm以上である、[12]~[17]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂発泡シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂発泡シートによれば、生産性を高め、外観不良を生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】熱可塑性樹脂発泡シートの製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(熱可塑性樹脂発泡シート)
本発明の熱可塑性樹脂発泡シート(以下、単に「発泡シート」ということがある)は、熱可塑性樹脂と無機粒子の群とを含有する発泡層を有する。
発泡シートは、発泡層のみからなる単層構造でもよいし、発泡層の片面又は両面に非発泡層を備える多層構造でもよい。
【0012】
発泡シートの厚さは、用途を勘案して決定でき、例えば、500~4000μmが好ましく、1000~2500μmがより好ましい。
【0013】
[発泡層]
発泡層は、樹脂と無機粒子の群とを含有する樹脂組成物を発泡してなる層である。樹脂は、熱可塑性樹脂を含有する。発泡シートは、発泡層を有することで、断熱性を発揮する。
【0014】
熱可塑性樹脂は、例えば、ポリスチレン系樹脂(以下、(A)成分ということがある)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(以下、(B)成分ということがある)、ポリオレフィン系樹脂等である。
【0015】
(A)成分は、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等のスチレン系モノマーの単独重合体又はこれらの共重合体;スチレン系モノマーを主成分(50質量%以上)とし、スチレン系モノマーとこれに重合可能なビニルモノマーとの共重合体:スチレン系モノマーとブタジエン等のゴム分との共重合体や、スチレン系モノマーの単独重合体もしくはこれらの共重合体もしくはスチレン系モノマーとビニルモノマーとの共重合体とジエン系のゴム状重合体との混合物又は重合体である、いわゆるハイインパクトポリスチレン;等である。
スチレン系モノマーと重合可能なビニルモノマーは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート等の二官能性モノマー等である。これらのビニルモノマーは、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
ジエン系のゴム状重合体は、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン三次元共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等である。
これらの(A)成分は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0016】
(A)成分は、市販されているポリスチレン系樹脂、懸濁重合法等の方法で新たに調製されたポリスチレン系樹脂等、リサイクル原料でないポリスチレン系樹脂でもよいし、リサイクル原料のポリスチレン系樹脂でもよい。
リサイクル原料は、使用済みのポリスチレン系樹脂発泡成形体である。リサイクル原料は、魚箱、家電緩衝材、食品包装用トレー等を回収し、リモネン溶解方式や加熱減容方式によって再生したもの等である。また、使用できるリサイクル原料は、家電製品(例えば、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン等)や事務用機器(例えば、複写機、ファクシミリ、プリンター等)から分別回収された非発泡のポリスチレン系樹脂成形体を粉砕し、溶融混練してリペレット化したものでもよい。
【0017】
発泡シート中の(A)成分の含有量は、熱可塑性樹脂(発泡層を構成する樹脂)100質量部に対し、50~90質量部が好ましく、60~90質量部がより好ましく、70~90質量部がさらに好ましい。(A)成分の含有量が上記下限値以上であれば、発泡シートが堅くなり、成形体の取り扱いがより容易になる。(A)成分の含有量が上記上限値以下であれば、他の樹脂を配合した場合に、他の樹脂の特性を発揮しやすい。
【0018】
発泡層は、ポリフェニレンエーテル系樹脂((B)成分)を含有することで、優れた耐熱性を発揮する。
【0019】
(B)成分としては、下記(I)式で表される化合物が挙げられる。
【0020】
【0021】
(I)式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基又はハロゲン原子を示す。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素等が挙げられる。
(I)式中、nは重合度を表す正の整数である。nは、例えば、通常10~5000である。
【0022】
(I)式で表される(B)成分としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチルフェニレン-1,4-エーテル)、ポリ(2,6-ジエチルフェニレン-1,4-エーテル)、ポリ(2,6-ジクロルフェニレン-1,4-エーテル)等が挙げられる。
【0023】
発泡層中の(B)成分の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、10~50質量部が好ましく、10~40質量部がより好ましく、10~30質量部がさらに好ましい。(B)成分の含有量が上記下限値以上であれば、発泡シートの耐熱性がより高まる。(B)成分の含有量が上記上限値以下であれば、発泡シートが堅くなり、成形体の取り扱いがより容易になる。
【0024】
ポリオレフィン系樹脂(以下、(C)成分ということがある)は、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマーの単独重合体又はこれらの共重合体、オレフィン系モノマーを主成分とし、オレフィン系モノマーとこれに重合可能なビニルモノマーとの共重合体等である。
【0025】
発泡層中の(C)成分の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、0質量部でもよい。(C)成分の含有量が上記上限値以下であれば、発泡シートが堅くなり、成形体の取り扱いがより容易になる。
【0026】
これらの熱可塑性樹脂は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
中でも、熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂又はポリフェニレンエーテル系樹脂を含むか、又は、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレン系樹脂とを含むことが好ましい。中でも、熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂を含むか、又は、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含むことが好ましく、ポリスチレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂とを含むことがさらに好ましい。
【0027】
熱可塑性樹脂はゴム分を含有してもよい。発泡層は、ゴム分を含有することで、耐衝撃性に優れる。加えて、発泡層又は発泡シートの製造時や成形体の製造時に、破断するのを防止しやすい。
【0028】
発泡層中のゴム分は、例えば、(A)成分として用いられるハイインパクトポリスチレン由来のゴム分でもよいし、(A)成分とは別に配合されたジエン系のゴム状重合体に由来するゴム分でもよい。
(A)成分とは別に配合されるジエン系のゴム状重合体としては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン三次元共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等が挙げられる。
【0029】
発泡層中のゴム分の含有量は、(B)成分の含有量を勘案して決定され、熱可塑性樹脂100質量部に対し、例えば、0.2~2.0質量部が好ましく、0.3~1.8質量部がより好ましい。ゴム分の含有量が上記下限値以上であれば、耐衝撃性がより高まる。ゴム分の含有量が上記上限値以下であれば、発泡層が適度な硬さとなり、成形して得られる成形体の強度がより高まる。
【0030】
熱可塑性樹脂中、(B)成分100質量部に対するゴム分の含有量は、1.0~10.0質量部が好ましく、1.5~8.0質量部がより好ましく、2.0~6.0質量部がさらに好ましい。ゴム分の含有量が上記下限値以上であれば、発泡シートの耐衝撃性をより高められ、製造中により破断しにくくなる。ゴム分の含有量が上記上限値以下であれば、発泡シートの耐熱性がより高まる。
【0031】
発泡層は、無機粒子の群を含有する。発泡層は、無機粒子の群を含有することで、無機粒子に由来する効果を発揮する。
【0032】
無機粒子の群は、例えば、気泡調整剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤及び消臭剤から選ばれる少なくとも1種以上である。無機粒子の群は、気泡調整剤、消臭剤が好ましい。
【0033】
気泡調整剤は、例えば、タルク、シリカ等の無機粉末等の混合物等である。これらの気泡調整剤は、発泡層の独立気泡率を高め、発泡層を形成しやすい。
【0034】
安定剤は、例えば、カルシウム亜鉛系熱安定剤、スズ系熱安定剤、鉛系熱安定剤等である。
【0035】
紫外線吸収剤は、例えば、酸化セシウム系紫外線吸収剤、酸化チタン系紫外線吸収剤等である。
【0036】
酸化防止剤は、例えば、酸化セリウム、酸化セリウム/ジルコニア固溶体、水酸化セリウム、カーボン、カーボンナノチューブ、酸化チタン、及びフラーレン等である。
【0037】
着色剤は、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、酸化鉄、群青、コバルトブルー、焼成顔料、メタリック顔料、マイカ、パール顔料、亜鉛華、沈降性シリカ、カドミウム赤等である。
これらの着色剤は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。本発明の発泡シートを食品用の容器に用いる場合には、上記の着色剤の中からポリオレフィン等衛生協議会登録品を選択することが好ましい。
【0038】
消臭剤は、例えば、シリカ、ゼオライト、リン酸ジルコニウム、ハイドロタルサイト焼成物等である。
【0039】
無機粒子の群は、第一の無機粒子の群を含む。
第一の無機粒子の群は、平均比表面積が1.0m2/g以上200m2/g未満の無機粒子の群である。
発泡層は、後述する製造方法のように、押出成形法により製造される。この押出製造法において、無機粒子が凝集して大きな二次粒子となると、二次粒子が押出成形機のダイ等で目詰まりを生じやすい。加えて、大きな二次粒子が流路内(例えば、ダイの開孔部)等に付着すると、付着した二次粒子が発泡層の表面に筋を形成する。
第一の無機粒子の群は、樹脂組成物中で凝集しにくいため、発泡層を製造する際に、製造機器の目詰まりを生じにくい。加えて、第一の無機粒子の群は、凝集しにくいため、ダイ等に付着しても、発泡シートの外観を損なうような筋を形成しにくい。
さらに、第一の無機粒子の群を樹脂組成物に配合することで、後述する第二の無機粒子の群を樹脂組成物に配合した場合でも、第二の無機粒子同士を凝集しにくくできる。
【0040】
第一の無機粒子の群の平均比表面積は、10~150m2/gが好ましく、30~150m2/gがより好ましく、40~150m2/gがさらに好ましく、100~150m2/gが特に好ましく、100~130m2/gが最も好ましい。平均比表面積が上記範囲内であれば、粒子同士が凝集することをより良好に防止できる。加えて、平均比表面積が上記範囲内であれば、無機粒子の二次粒子の粒子径の肥大をより良好に抑制できる。
平均比表面積は、BET法で測定された100個の試料のBET比表面積の平均値である。
【0041】
第一の無機粒子の嵩密度は、0.02~1.0g/cm3が好ましく、0.05~0.8g/cm3がより好ましく、0.1~0.7g/cm3がさらに好ましい。嵩密度が上記下限値以上であれば、樹脂組成物との混合効率が高まり、取扱がより容易になる。嵩密度が上記上限値以下であれば、樹脂組成物との密度差が小さくなり、より分散しやすくなる。嵩密度は、以下の測定方法で測定される。
<測定方法>
上端に開口部を有する容積25cm3の金属容器に、試料を充填する。この際、定量フィーダー等を用いて、2~3分間で試料を金属容器に充填する。金属容器の開口部から盛り上がっている試料を擦り切る。金属容器内の試料の質量を測定し、これを容積(25cm3)で除して、嵩密度を求める。
【0042】
第一の無機粒子の群の一次粒子のメディアン径(以下、「一次メディアン径」ということがある)は、0.05~30μmが好ましく、0.1~20μmがより好ましく、0.15~10μmがさらに好ましく、2~6μmが特に好ましく、3~5μmが最も好ましい。一次メディアン径が上記下限値以上であれば、二次粒子の発生をより良好に抑制し、生じた二次粒子の粒子径の肥大をより良好に抑制できる。一次メディアン径が上記上限値以下であれば、ダイ等の目詰まりをさらに生じにくい。
一次メディアン径は、レーザー回折法で求められる体積平均粒子径(50質量%粒子径)である。
【0043】
一次メディアン径の分布は、ブロードであることが好ましい。理由は定かではないが、一次メディアン径の分布がブロードであると、無機粒子がさらに凝集しにくくなる。
従って、一次メディアン径の標準偏差は、0.3μm以上が好ましく、0.3~0.7μmがより好ましく、0.4~0.6μmがさらに好ましく、0.45~0.55μmが特に好ましい。
【0044】
第一の無機粒子の群の一次粒子のモード径(以下、「一次モード径」ということがある)は、0.5~10μmが好ましく、0.8~7μmがより好ましく、0.9~4がさらに好ましく、1~2μmが特に好ましい。
一次モード径は、レーザー回折法で求められる再頻出値(体積分布)である。
一次メディアン径及び一次モード径は、以下の方法で測定される。測定対象物を0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム溶媒に分散する。この分散液をレーザー回折式分布測定装置(島津製作所社製、SALD-2200)で一次粒子径を測定して、一次メディアン径及び一次モード径を得る。
【0045】
第一の無機粒子の群における[一次モード径]/[一次メディアン径]で表される比(以下、「Mo/Me比」ということがある)は、0.1以上1.0未満が好ましく、0.1~0.6がより好ましく、0.2~0.5がさらに好ましい。Mo/Me比が上記下限値以上であれば、ダイ等の目詰まりをさらに生じにくい。Mo/Me比が上記上限値以下であれば、二次粒子の発生をより抑制して、ダイ等の目詰まりをさらに生じにくい。
【0046】
第一の無機粒子の群は、気泡調整剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤及び消臭剤から選ばれる1種以上が好ましい。
第一の無機粒子の群の素材は、ハイドロタルサイト焼成物、シリカ等が挙げられる。中でも、第一の無機粒子の群の素材は、ハイドロタルサイト焼成物、シリカが好ましく、ハイドロタルサイト焼成物がより好ましい。ハイドロタルサイト焼成物であれば、第一の無機粒子の群であっても、充分な消臭効果を発揮できる。
第一の無機粒子の群は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。異なる機能を補完する観点から、第一の無機粒子の群は、2種以上の組み合わせが好ましく、ハイドロタルサイト焼成物とシリカとの組み合わせがより好ましい。
【0047】
ハイドロタルサイトは、天然に産出する粘土鉱物の一種である。一般に、ハイドロタルサイトは、下記(11)式で表される複水酸化物である。
M1
8-xM2
x(OH)16CO2・nH2O …(11)
(11)式中、M1は、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Li2+、Ni2+、Co2+、Cu2+のいずれかである。M2は、Al3+、Fe3+、Mn2+のいずれかである。xは、2~5が好ましい。nは、0以上の整数である。
【0048】
ハイドロタルサイトは、合成品でもよい。ハイドロタルサイトの合成品は、例えば、以下の製造方法で得られたものである。
塩基性炭酸マグネシウム粒子の水懸濁液と、水酸化アルミニウムの水懸濁液とを混合して、混合懸濁液とする。この際、マグネシウム原子とアルミニウム原子との比(Mg/Al)を所定の割合(例えば2.6~3.2)とする。混合懸濁液に苛性アルカリを加えてpH8.5~11.5の反応液を得る。苛性アルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム等である。得られた反応液を、例えば、50~100℃で0.5~20時間加熱して、熟成する。次いで、混合懸濁液からハイドロタルサイト粒子を固液分離する。分離したハイドロタルサイト粒子を洗浄し、脱水した後に乾燥して、ハイドロタルサイトの合成品を得る。
合成品の焼成物も天然産の焼成物と同様に使用できる。
ハイドロタルサイトは、加熱すると吸着水や結晶水等を放出する。ハイドロタルサイトは、200℃以上に焼成されると吸着水が放出され、400℃以上(例えば550℃)に焼成されると炭酸根や水酸基が脱離する。
【0049】
ハイドロタルサイト焼成物は、上記のような温度でハイドロタルサイトを焼成して得られる。ハイドロタルサイト焼成物としては、例えば、下記(12)式で表される化合物が好ましい。
Mg0.7Al0.3O1.15 …(12)
【0050】
発泡層中の第一の無機粒子の群の含有量は、無機粒子の群の総量100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、20~100質量部がより好ましく、40~100質量部がさらに好ましく、50~100質量部が特に好ましく、60~100質量部が最も好ましい。第一の無機粒子の群の含有量が上記下限値以上であれば、ダイ等の目詰まりをより良好に防止し、発泡シートの外観をより良好にできる。
【0051】
発泡層中の第一の無機粒子の群の総量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.05~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.3~5.0質量部がさらに好ましい。第一の無機粒子の群の総量が上記下限値以上であれば、無機粒子の群の凝集をより良好に抑制できる。第一の無機粒子の群の総量が上記上限値以下であれば、ダイ等への目詰まりをより良好に防止し、発泡シートの外観をより良好にできる。
【0052】
第一の無機粒子の群が気泡調整剤を含有する場合、発泡層中の気泡調整剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01~5.0質量部が好ましく、0.02~3.0質量部がより好ましく、0.03~2.0質量部がさらに好ましい。
【0053】
第一の無機粒子の群が気泡調整剤及び消臭剤を含有する場合には、第一の無機粒子の群の含有量の総量は、無機粒子の群の総量100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、20~200質量部がより好ましく、30~100質量部がさらに好ましく、40~100質量部がさらに好ましく、50~100質量部が特に好ましく、60~100質量部が最も好ましい。
【0054】
第一の無機粒子の群がハイドロタルサイト焼成物の粒子群を含有する場合、ハイドロタルサイト焼成物の粒子群の含有量は、第一の無機粒子の群の総量100質量部に対して、40~100質量部が好ましく、50~100質量部がより好ましく、60~100質量部がさらに好ましい。上記下限値以上であれば、熱可塑性樹脂発泡シートの臭気をより抑制できる。
また、第一の無機粒子の群が、ハイドロタルサイト焼成物と、他の第一の無機粒子の群とを併有する場合、第一の無機粒子の群の総量100質量部に対して、40~90質量部が好ましく、40~80質量部が好ましく、40~70質量部が好ましく、50~70質量部が特に好ましい。
【0055】
第一の無機粒子の群がハイドロタルサイト焼成物とシリカとを含有する場合、第一の無機粒子の含有量は、無機粒子の群の総量100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、20~200質量部がより好ましく、30~100質量部がさらに好ましく、40~100質量部がさらに好ましく、50~100質量部が特に好ましく、60~100質量部が最も好ましい。
第一の無機粒子の群がハイドロタルサイト焼成物の粒子群とシリカの粒子群とを含有する場合、[ハイドロタルサイト焼成物の粒子群]/[シリカの粒子群]で表される質量比(以下、「H/S比」ということがある)は、4/6~9/1が好ましく、5/5~9/1がより好ましく、5/5~7/3がさらに好ましい。H/S比が上記範囲内であれば、生産性をさらに高め、外観不良を発生のさらに抑制できる。
【0056】
第一の無機粒子の群がハイドロタルサイト焼成物の粒子群を含有する場合、ハイドロタルサイト焼成物の粒子群が、一次メディアン径、一次モード径、上述のMo/Me比及びメディアン径の標準偏差の少なくとも1つを満たすことが好ましい。
【0057】
無機粒子の群は、第二の無機粒子の群を含有してもよい。第二の無機粒子の群は、平均比表面積200m2/g以上の無機粒子の群である。
【0058】
第二の無機粒子の群の平均比表面積が大きいほど、第二の無機粒子の群に求められる機能をより良好に発揮できる。
第二の無機粒子の群の平均比表面積は、200~1000m2/gが好ましく、250~900m2/gがより好ましく、300~850m2/gがさらに好ましい。
【0059】
第二の無機粒子の群の平均粒子径は、0.1~50μmが好ましく、0.3~40μmがより好ましく、0.5~30μmがさらに好ましい。第二の無機粒子の群の平均粒子径が上記下限値以上であれば、第二の無機粒子の群の機能をより発揮しやすい。第二の無機粒子の群の平均粒子径が上記上限値以下であれば、ダイ等への目詰まりをより良好に防止し、発泡シートの外観をより良好にできる。
【0060】
無機粒子の群が第二の無機粒子の群を含有する場合、発泡層中の第二の無機粒子の群の含有量は、無機粒子の群の総量100質量部に対して、10~80質量部が好ましく、20~70質量部がより好ましく、30~60質量部がさらに好ましく、30~50質量部が特に好ましい。第二の無機粒子の含有量が上記下限値以上であれば、第二の無機粒子の群の機能をより発揮しやすい。第二の無機粒子の群の含有量が上記上限値以下であれば、ダイ等への目詰まりをより良好に防止し、発泡シートの外観をより良好にできる。
【0061】
無機粒子の群は、平均比表面積が10m2/g未満の第三の無機粒子の群を含有してもよい。
【0062】
発泡層中の無機粒子の群の総量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.05~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.3~5.0質量部がさらに好ましい。無機粒子の群の総量が上記下限値以上であれば、無機粒子の群の機能をより良好に発揮できる。無機粒子の群の総量が上記上限値以下であれば、ダイ等への目詰まりをより良好に防止し、発泡シートの外観をより良好にできる。
【0063】
発泡層は、発泡核剤、造核剤、消臭剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤等の任意成分を含有できる。
【0064】
任意添加剤の種類は、発泡シートに求める物性等を勘案して決定される。上述の添加剤は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0065】
発泡層の厚みは、発泡シートの用途等を勘案して決定できる。例えば、発泡シートを食品用の容器に用いる場合には、発泡シートの厚みは500~4000μmが好ましく、1000~2500μmがより好ましい。
なお、厚みは、以下の方法で求められる値である。発泡層のTD方向の任意の10点の厚みをマイクロゲージで測定する。10点の測定値を平均して、発泡層の厚みとする。
【0066】
発泡層全体の密度(全体密度)は、例えば、0.05~0.25g/cm3が好ましく、0.06~0.22g/cm3がより好ましい。全体密度が上記下限値以上であれば、発泡層の強度のさらなる向上を図れる。全体密度が上記上限値以下であれば、発泡シートの断熱性をより高められる。
【0067】
発泡層の平均気泡径は、例えば、80~450μmが好ましい。発泡層の平均気泡径は、ASTM D2842-69に記載の方法に準拠して測定された値である。
【0068】
発泡層の独立気泡率は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、100%でもよい。発泡層の独立気泡率は、JIS K7138:2006「硬質発泡プラスチック‐連続気泡率及び独立気泡率の求め方」に記載の方法により測定される値である。
【0069】
発泡シートは、発泡層の片面又は両面に非発泡層を有してもよい。
非発泡層を構成する樹脂は、特に限定されず、発泡層を構成する樹脂と同様の樹脂が挙げられる。
非発泡層を構成する樹脂は、発泡層を構成する樹脂と同じでもよいし、異なってもよい。
【0070】
非発泡層の厚みは、発泡シートの用途等を勘案して決定され、例えば、50~300μmが好ましく、70~200μmがより好ましい。発泡層の厚みが上記下限値以上であれば、発泡シートの強度をさらなる向上を図れる。非発泡層の厚みが上記上限値以下であれば、発泡シートの軽量化を図れる。
【0071】
(製造方法)
発泡シートは、従来公知の製造方法により製造される。
発泡シートの製造方法について、単層の発泡シートの製造方法を例にして説明する。
図1の発泡シートの製造装置1は、押出成形により発泡シートを得る装置である。製造装置1は、押出機10と、発泡剤供給源18と、サーキュラーダイ20と、マンドレル30と、2つの巻取機40とを備える。
押出機10は、いわゆるタンデム型押出機である。押出機10は、第一の押出部11と、第一の押出部11に配管16で接続された第二の押出部12とを備える。第一の押出部11はホッパー14を備える。第一の押出部11には、発泡剤供給源18が接続されている。
第二の押出部12には、サーキュラーダイ20が接続されている。サーキュラーダイ20の下流には、カッター32を備えるマンドレル30が設けられている。サーキュラーダイ20とマンドレル30との間には、冷却用送風機(不図示)が設けられている。
【0072】
発泡層を構成する原料をホッパー14から第一の押出部11に投入する。ホッパー14から投入される原料は、発泡層を構成する樹脂、無機粒子の群、及び必要に応じて配合される任意成分である。
第一の押出部11では、原料を任意の温度に加熱しながら混合して樹脂溶融物とし、発泡剤供給源18から発泡剤を第一の押出部11に供給し、樹脂溶融物に発泡剤を混合して樹脂組成物とする。
加熱温度は、樹脂の種類等を勘案して、樹脂が溶融しかつ任意成分が変性しない範囲で適宜決定される。
【0073】
発泡剤は、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン等の炭化水素;テトラフルオロエタン、クロロジフルオロエタン、ジフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素等である。中でも、発泡剤としては、ブタンが好適である。ブタンは、ノルマルブタン又はイソブタンの単独でもよいし、ノルマルブタンとイソブタンとの組み合わせでもよい。
これらの発泡剤は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
発泡剤の配合量は、発泡剤の種類や、発泡シートに求める全体密度等を勘案して決定される。発泡剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して1.0~7.0質量部が好ましい。
【0074】
樹脂組成物は、第一の押出部11から配管16を経て第二の押出部12に供給され、さらに混合される。その後、樹脂組成物は、任意の温度に冷却された後、サーキュラーダイ20内の樹脂流路に導かれる。
樹脂流路に導かれた樹脂組成物は、サーキュラーダイ20から押し出され、発泡剤が発泡して円筒状の発泡シート2aとなる。
円筒状の発泡シート2aは、冷却用送風機から送風された冷却用のエアーが吹き付けられつつ、マンドレル30に案内される。円筒状の発泡シート2aは、マンドレル30の外面を通過し、任意の温度に冷却され、カッター32によって2枚に切り裂かれて発泡シート2となる。発泡シート2は、各々ガイドロール42とガイドロール44とに掛け回され、巻取機40に巻き取られて発泡シートロール4となる。
こうして、単層構造である発泡シートが得られる。
【0075】
なお、非発泡層を形成する方法としては、例えば、上述の製造方法によって発泡層を得、この表面にTダイ法によって非発泡層を形成する方法が挙げられる。
【0076】
(成形体)
本発明の成形体は、上述した本発明の発泡シートを成形してなるものである。
成形体としては、例えば、平面視形状が真円形、楕円形、半円形、多角形、扇形等のトレー、丼形状の容器、有底円筒状又は有底角筒状等の容器、納豆用容器等の蓋付容器等の種々の容器;容器本体に装着される蓋体等が挙げられる。
これらの容器の用途としては、例えば、食品用が好ましい。
【0077】
成形体の厚みは、用途等を勘案して決定され、例えば、500~4000μmが好ましく、1000~2500μmがより好ましい。
成形体における発泡層の全体密度は、用途等を勘案して決定され、発泡シートにおける発泡層の全体密度と同様である。
成形体は、従来公知の製造方法により製造され、例えば、発泡シートを任意の温度を加熱しつつ、雌型と雄型とで挟み込んで成形する加熱成形法等が挙げられる。
【0078】
以上説明した通り、本発明の発泡シートによれば、無機粒子の群を含有するため、無機粒子の群の機能を発揮する。加えて、本発明の発泡シートによれば、第一の無機粒子の群を含む無機粒子の群を含有するため、無機粒子の群が凝集しにくくなる。このため、本発明の発泡シートは、生産性を高め、外観不良を生じにくい。
【実施例】
【0079】
(使用原料)
・PS:ポリスチレン系樹脂、MW=323×103、DIC社製、製品名「XC-515」。
・PPE:ポリフェニレンエーテル系樹脂、SABIC社製、製品名:「ノリルEFN4230」。
・気泡調整剤:タルク含有樹脂組成物(タルク(平均比表面積10~40m2/g)を40質量%含有。東洋スチレン社製、製品名「DSM1401A」)。
【0080】
・粒子群I-1:ハイドロタイルサイト焼成物。表1に記載の平均比表面積、一次メディアン径、一次モード径、粒子径の標準偏差に調製したもの。
・粒子群I-2:シリカ、表1に記載の平均比表面積、一次メディアン径、一次モード径、粒子径の標準偏差に調製したもの。
・粒子群II-1:ゼオライト、表1に記載の平均比表面積、一次メディアン径に調製したもの。
・粒子群II-2:合成シリカ、表1に記載の平均比表面積、一次メディアン径に調製したもの。
・粒子群II-3:ハイドロタルサイト焼成物。表2に記載の平均比表面積、一次メディアン径、一次モード径、粒子径の標準偏差に調製したもの。
【0081】
(実施例1~16、比較例1~4)
図1の発泡シートの製造装置と同様の製造装置を用い、下記のようにして発泡シートを得た。
表1~5の組成に従い、PSと、PPEと、気泡調整剤と、無機粒子の群を混合した。
原料の混合物をホッパーから第一の混合部(スクリュー径:115mm)に供給し、最高到達温度300℃で加熱し、溶融混練して樹脂溶融物とした。
第一の押出部に発泡剤(イソブタン:ノルマルブタン=70:30(質量比)の混合物)を供給し、樹脂溶融物と発泡剤を混合して樹脂組成物とした。発泡剤の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部対して、表1に示す質量部であった。
樹脂組成物を第一の混合部から第二の混合部(スクリュー径:180mm)に供給し、190℃に冷却し、サーキュラーダイ(口径200mm)で押し出し、発泡させて円筒状の発泡シートを得た。この際、サーキュラーダイから押し出された直後に、円筒状の発泡シートの内面及び外面に冷却用のエアー(30℃)を吹き付けて冷却した。
冷却後の円筒状の発泡シートを押出方向に沿って切り裂いて、発泡倍率8.4倍(密度0.12g/cm
3)、厚み2000μmの発泡シートを得た。
得られた発泡シートについて、臭気の評価、凝集の評価を行い、その結果を表中に示す。
但し、実施例3は参考例である。
【0082】
(評価方法)
<臭気の評価>
ポリフェニレンエーテル系樹脂に由来する異臭成分であるノルマル酪酸及びN-ブチルホルムアミドの残存量について、以下の方法で測定した。
パージアンドトラップ(P&T)法によるガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS測定)を実施して、発泡シートを250℃の温度で加熱した際に発生する揮発性有機化合物を測定した。
まず、発泡シートを薄くスライスし、この3mgを精秤し、アルミホイルに包んでガラスライニングステンレスチューブ(GLT管)にセットした。
この状態でGLT管を250℃で3分間加熱し、発生ガスをクライオフォーカス部にコールドトラップした。その後、熱脱着して揮発成分をGC/MSに導入した。
なお、GC/MSでの測定条件は下記に示す通りとした。得られたクロマトグラムより、検出された各揮発成分のトータルイオンクロマトグラム(TIC)ピーク面積を求め、予め作成しておいた絶対検量線から、下記式でトルエン換算にて定量した。
【0083】
揮発成分濃度(μg/g)=(各成分の面積値/トルエン1μgの面積値)×1μg/試料重量(g)
上式中、「各成分の面積値」は、検出された各揮発成分のTICピーク面積である。
上式中、「トルエン1μgの面積値」は、下記の≪検量線の作成方法≫における検量線の「検出されたトルエンのTICピーク面積(トルエン1μg分)」である。
【0084】
≪検量線の作成方法≫
1000ppmのトルエン標準液1μLをGLT管に注入し、下記条件にて測定を行った。検出されたトルエンのTICピーク面積(トルエン1μg分)を求め、1点検量線(直線)を作成した。
【0085】
≪GC/MS測定条件≫
・測定装置:
GC 7890A(アジレントテクノロジーズ社製)。
質量分析計「JMS-Q1000GC」(日本電子データム社製)。
・カラム:ZB-1(1.0μm×0.25mmφ×60m:Phenomenex社製)。
・カラム温度:40℃で3分間保持、15℃/分で200℃まで昇温、25℃/分で250℃まで昇温、250℃で6.33分間保持。
・キャリアガス:ヘリウム(流量:1mL/分)。
・注入口温度:250℃。
・インターフェイス温度:250℃。
・検出器電圧:-960V。
・スプリット比:1/50。
・イオン源温度:250℃。
・イオン化電流:300μA。
・イオン化エネルギー:70eV。
・検出方法:スキャン法(スキャン範囲:m/z10-400)。
【0086】
≪P&T条件≫
・装置:熱脱着装置サーマルデソープション TD-4J(液クロサイエンス社製)。
・P&T条件:PurgeTime(10s),InjectTime(20s),DesorbTime(180s),DelayStartTime(10s),DesorbHeater(250℃),CryoTempHeating(200℃),CryoTempCooling(-40℃)。
【0087】
<臭気判定>
各例の熱可塑性樹脂発泡シート(10cm×10cm)を熱風式恒温槽(150℃)で150秒間加熱した後、直ちに、選任のパネリスト1名が臭気を確認し、下記評価基準に従って、評価した。
≪評価基準≫
◎:異臭をほとんど感じない。
〇:異臭をわずかに感じる。
×:異臭を明らかに感じる。
【0088】
<生産性の評価>
≪圧力上昇試験≫
200メッシュのスクリーンの両面に60メッシュのスクリーンを重ね、これらのスクリーンをブレーカープレートに取り付けた。このブレーカープレートを単軸押出機(口径:40mm、L/D:30mm)の出口に取り付けた。
次いで、表1に記載の各例の樹脂のみを単軸押出機に投入した。樹脂温度200℃にて単軸押出機中で樹脂を溶融混練し、単軸押出機の先端に取り付けたTダイ(巾:120mm、スリットクリアランス:0.8mm)から押出量5kg/hにて押出した。単軸押出機の先端部分の圧力を圧力計で連続して測定し、安定した時の圧力を基準圧力P1(MPa)とした。
表1の配合に従い、各例における樹脂と無機粒子群とを単軸押出機に投入した。基準圧力P1を測定した際と同様にして、各例の樹脂組成物1kgを押出し、単軸押出機の先端部分の圧力を測定し、これを製造圧力P2(MPa)とした。
下記式で上昇差圧ΔP(MPa)を算出した。ΔPを下記判断基準に分類し、目詰まりを評価した。
ΔP(MPa)=P2(MPa)-P1(MPa)
【0089】
[評価基準]
◎:ΔPが1.5MPa未満であり、全く目詰せず、生産性が良好である。
〇:ΔPが1.5MPa以上3未満であり、目詰まりしにくく、生産性が良好である。
△:ΔPが3~7MPaであり、若干、目詰まりの懸念がある。
×:ΔPが7MPa超であり、明らかな目詰まりがあり、生産性が低下するおそれがある。
【0090】
<シート外観の評価>
各例の発泡シートを目視で観察し、以下の判断基準に従って評価した。
〇:発泡シートの表面に、MD方向に延びる凹条が認められない。
△:発泡シートの表面に、MD方向に延びる凹条がわずかに認められる。
×:発泡シートの表面に、MD方向に延びる凹条が明らかに認められる。
【0091】
<総合評価>
下記評価基準に従い、総合評価をした。
≪評価基準≫
A:臭気判定、圧力上昇試験、シート外観の評価について、全てが「〇」又は「◎」で、かつ「◎」が二つ以上である。
B:臭気判定、圧力上昇試験、シート外観の評価について、全てが「〇」又は「◎」で、かつ「◎」が1つである。
C:臭気判定、圧力上昇試験、シート外観の評価について、全てが「〇」である。
D:臭気判定、圧力上昇試験、シート外観の評価について、「×」はないが、「△」がある。
E:臭気判定、圧力上昇試験、シート外観の評価について、1つ以上の「×」がある。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
表1~5に示す通り、本発明を適用した実施例1~16は、いずれもノルマル酪酸及びN-ブチルホルムアミドの残留量が低減されており、無機粒子の群の効果を発揮できた。加えて、実施例1~16は、官能での臭気判定の結果も良好であった。
加えて、実施例1~16は、ΔPが3MPa未満であり、目詰まりしにくく、生産性が良好であった。さらに、実施例1~16は、シート外観の評価が「〇」であった。
第一の無機粒子の群を含有せず、ゼオライトを第二の無機粒子の群として含有する比較例1は、生産性及びシート外観の評価がいずれも「×」であり、無機粒子の凝集を抑制できなかった。
第一の無機粒子の群を含有せず、合成シリカを第二の無機粒子の群として含有する比較例2は、生産性及びシート外観の評価がいずれも「△」であり、ノルマル酪酸の残存量を低減できなかった。
第一の無機粒子の群を含有せず、ハイドロタルサイト焼成物を第二の無機粒子の群として含有する比較例3は、生産性及びシート外観の評価がいずれも「×」であった。
第二の無機粒子の群であるハイドロタルサイト及びゼオライトの双方を含有する比較例4は、生産性の評価が「×」であり、シート外観の評価が「△」であった。