(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】パティキュレートフィルタ
(51)【国際特許分類】
B01J 23/63 20060101AFI20220207BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20220207BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20220207BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220207BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20220207BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
B01J23/63 A ZAB
B01J35/04 301L
B01J35/04 301E
B01D46/00 302
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/035 A
F01N3/28 301Q
B01D53/94 241
(21)【出願番号】P 2018215005
(22)【出願日】2018-11-15
【審査請求日】2021-11-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】尾上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 凌
(72)【発明者】
【氏名】岩井 桃子
(72)【発明者】
【氏名】松下 大和
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-72033(JP,A)
【文献】特開2010-184183(JP,A)
【文献】特許第6546366(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/163984(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/119101(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 46/00,53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/035
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置されて該内燃機関から排出される排ガスから粒子状物質を捕集するために用いられるパティキュレートフィルタであって、
排ガス流入側の端部が開口した入側セルと、該入側セルと隣り合い排ガス流出側の端部が開口した出側セルと、を仕切る多孔質の隔壁を有するウォールフロー構造の基材と、
前記隔壁の内部に形成されたウォッシュコート層と、
を備え、
前記ウォッシュコート層は、前記隔壁の内部細孔の表面に保持されており、
前記内部細孔のうち、
細孔径5μm以上10μm未満の第1細孔群に保持された前記ウォッシュコート層の平均充填率Aと、
細孔径10μm以上20μm未満の第2細孔群に保持された前記ウォッシュコート層の平均充填率Bと、
細孔径20μm以上の第3細孔群に保持された前記ウォッシュコート層の平均充填率Cと、が以下の関係:
A<B<C;
B≦40%;
を満足し、
前記平均充填率Aは、10%≦A≦35%を満たし、
前記平均充填率Bは、15%≦B≦40%を満たし、
前記平均充填率Cは、20%≦C≦45%を満たし、かつ、
前記第1細孔群および前記第2細孔群の細孔のうち、前記ウォッシュコート層の充填率が75%以上である細孔の割合が35個数%以下であって、
前記ウォッシュコート層は、前記入側セルおよび前記出側セルの少なくとも一方のセルに面する前記隔壁の表面の少なくとも一部から該隔壁の厚さの50%以上を占める領域に形成され、
前記ウォッシュコート層が含む貴金属触媒の担持量は、0g/L以上0.2g/L以下である、パティキュレートフィルタ。
【請求項2】
前記ウォッシュコート層は、貴金属触媒を含まない、請求項1に記載のパティキュレートフィルタ。
【請求項3】
前記排ガス流入側から前記排ガス流出側に向かう方向を流れ方向とするとき、
前記ウォッシュコート層は、
前記入側セルに面する前記隔壁の表面を含み、かつ、前記排ガス流入側の端部から前記流れ方向に沿う領域に設けられている上流側ウォッシュコート層と、
前記出側セルに面する前記隔壁の表面を含み、かつ、前記排ガス流出側の端部から前記流れ方向に沿う領域に設けられている下流側ウォッシュコート層と、
を含む、請求項1または2に記載のパティキュレートフィルタ。
【請求項4】
前記上流側ウォッシュコート層は、前記流れ方向における前記排ガス流入側の端部からの長さLAが、前記基材の全長Lの1/2以上である、請求項3に記載のパティキュレートフィルタ。
【請求項5】
前記下流側ウォッシュコート層は、前記流れ方向における前記排ガス流出側の端部からの長さLBが、前記基材の全長Lの1/2以上である、請求項3または4に記載のパティキュレートフィルタ。
【請求項6】
前記内燃機関は、ガソリンエンジンである、請求項1~
5のいずれか1項に記載のパティキュレートフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パティキュレートフィルタに関する。詳しくは、ガソリンエンジン等の内燃機関から排出される排ガスに含まれるパティキュレート(粒子状物質)を捕集するパティキュレートフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンやディーゼル油等を燃料とする内燃機関からの排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の気体成分とともに、炭素を主成分とする粒子状物質(Particulate Matter:PM)等が含まれ、大気汚染の原因となることが知られている。この粒子状物質(PM;以下、単に「PM」という場合がある。)については、HC、CO、NOxなどの気体成分とともに排出量の規制が年々強化されており、PMを排ガスから捕集して除去するための技術について研究が重ねられている。
【0003】
従来より、PMを排ガスから捕集して除去するためのパティキュレートフィルタを、例えば、気体成分を浄化するための貴触媒金属を含む排ガス浄化触媒体と組み合わせて、内燃機関の排気通路内に並べて配置することが行われている。このようなパティキュレートフィルタとしては、ハニカム構造を有する多孔質の基材からなり、その中空部である多数のセルの入口と出口を交互に閉塞した、いわゆるウォールフロー型と呼ばれる構造のものが知られている(特許文献1、2)。ウォールフロー型のパティキュレートフィルタでは、セル入口から流入した排ガスは、セル内を移動しながら多孔質のセル隔壁を通過し、セル出口へと排出される。そして、排ガスが多孔質のセル隔壁を通過する間に、PMが隔壁内部の細孔内に捕集される。かかるパティキュレートフィルタでは、高温でも安定した捕集表面を提供するために、基材の表面にウォッシュコートを備える場合がある。そして近年では、パティキュレートフィルタのウォッシュコートに貴触媒金属を担持させることで、パティキュレートフィルタと排ガス浄化触媒体とを一体化させたフィルタ触媒が提供されてもいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-82915号公報
【文献】特開2007-185571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなフィルタ触媒は、走行を重ねるにつれてPM捕集率は徐々に上昇することが知られている。例えば、公道における自動車の実走行時の排ガスを測定するRDE(Real Driving Emissions)試験を繰り返し行うと、下記の表1に示すように、PM捕集率は95%以上にまで到達し得る。これは、フィルタ触媒にPMが蓄積していくほどPMの捕集効果が高くなることに基づく。しかしながら、ガソリン直噴車に対するPMの排出規制の強化等が行われる昨今の事情を考慮すると、PM捕集技術の改善が強く求められている。
【0006】
【0007】
本発明は、かかる事象に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、例えば初回の走行からPM捕集率が高められているパティキュレートフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ウォールフロー構造のパティキュレートフィルタにおいては、PMは隔壁の細孔内で散乱し、比較的小さな小細孔にトラップされやすいことを知見した。また、パティキュレートフィルタにおいては、連続走行によって捕捉されたPMがフィルタ上に蓄積してゆくことで、PM捕集率が上昇する。ここで、パティキュレートフィルタに担持された貴金属触媒が高活性である場合、走行モードであってもPMを燃焼して消失させ得る。そしてこの事象によってPMの堆積量が減少することにより、PM捕集率が低下してしまうことに思い至った。そこで、本発明者らは、PMを捕捉するための小細孔を特定の割合で残しつつ、大細孔に優先的にウォッシュコートを配置した上で、貴金属触媒の量を大幅に低減させることにより、PMの捕集性能を安定して高く維持できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明に係るパティキュレートフィルタは、内燃機関の排気通路に配置されて該内燃機関から排出される排ガスから粒子状物質を捕集するために用いられるパティキュレートフィルタである。このパティキュレートフィルタは、排ガス流入側の端部が開口した入側セルと、該入側セルと隣り合い排ガス流出側の端部が開口した出側セルと、を仕切る多孔質の隔壁を有するウォールフロー構造の基材と、隔壁の内部に形成されたウォッシュコート層とを備える。前記ウォッシュコート層は、前記隔壁の内部細孔の表面に保持されている。前記隔壁の内部細孔のうち、細孔径5μm以上10μm未満の第1細孔群に保持された前記ウォッシュコート層の平均充填率Aと、細孔径10μm以上20μm未満の第2細孔群に保持された前記ウォッシュコート層の平均充填率Bと、細孔径20μm以上の第3細孔群に保持された前記ウォッシュコート層の平均充填率Cと、が以下の関係:A<B<C;B≦40%;を満足し、かつ、前記第1細孔群および前記第2細孔群の細孔のうち、ウォッシュコート層の充填率が75%以上である細孔の割合が35個数%以下である。また、ウォッシュコート層は、前記入側セルおよび前記出側セルの少なくとも一方のセルに面する前記隔壁の表面の少なくとも一部から該隔壁の厚さの50%以上を占める領域に形成され、このウォッシュコート層が含む貴金属触媒の担持量は、0g/L以上0.2g/L以下である。かかる構成のパティキュレートフィルタによれば、PMの捕集性能を効果的に向上させることができる。その結果、フィルタ内にPMが蓄積するのを待つことなく、高いPM捕集率を実現することができる。また、貴金属触媒を含む構成では、貴金属触媒の担持量を抑制しつつ、効果的にフィルタを再生することができる。
【0010】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、ウォッシュコート層は、貴金属触媒を含まない。このような構成により、PM捕集性能に優れたパティキュレートフィルタを低コストに提供することができる。
【0011】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、排ガス流入側から排ガス流出側に向かう方向を流れ方向とするとき、ウォッシュコート層は、入側セルに面する隔壁の表面を含み、かつ、排ガス流入側の端部から流れ方向に沿う領域に設けられている上流側ウォッシュコート層と、出側セルに面する隔壁の表面を含み、かつ、排ガス流出側の端部から流れ方向に沿う領域に設けられている下流側ウォッシュコート層と、を含む。上流側ウォッシュコート層は、流れ方向における排ガス流入側の端部からの長さLAが、基材の全長Lの1/2以上であることが好ましい。また、下流側ウォッシュコート層は、流れ方向における排ガス流出側の端部からの長さLBが、基材の全長Lの1/2以上であることが好ましい。これにより、隔壁のうち排ガスがより多量に通過する領域に、ウォッシュコート層を効率よく配置することができる。その結果、例えば、ウォッシュコート層が触媒を含む場合により低コストで効率よく、上記の効果を得ることができる。
【0012】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、前記平均充填率Aが、10%≦A≦35%であり、前記平均充填率Bが、15%≦B≦40%であり、前記平均充填率Cが、20%≦C≦45%である。このように各細孔径範囲に応じて上記範囲内の平均充填率の差を設けることにより、PMの捕集性能をより高いレベルに向上させることができる。
【0013】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、前記内燃機関は、ガソリンエンジンである。ガソリンエンジンでは、排ガスの温度が比較的高温であり、隔壁内にPMが堆積しにくい。そのため、内燃機関がガソリンエンジンである場合、上述した効果がより有効に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るパティキュレートフィルタの排気経路における配置を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るパティキュレートフィルタを模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係るパティキュレートフィルタの断面を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5(a)~(d)は、それぞれ例1、例3、例11、例15の隔壁の断面SEM像である。
【
図6】
図6は、各例のパティキュレートフィルタの細孔径分布を示すグラフである。
【
図7】
図7は、各例のパティキュレートフィルタのPd量とPM捕集率との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、各例のパティキュレートフィルタのコート量とPM捕集率との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、各例のパティキュレートフィルタのコート量と圧損増加率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばパティキュレートフィルタの自動車における配置に関するような一般的事項)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、「A以上B以下」を意味する。
【0016】
先ず、本発明の一実施形態に係るパティキュレートフィルタの概略について説明する。
図1は、内燃機関(エンジン)2と、該内燃機関2の排気系に設けられた排ガス浄化装置1とを模式的に示す図である。ここに開示されるパティキュレートフィルタは、この排ガス浄化装置1の一構成要素として内燃機関2の排気系に設けられている。
【0017】
内燃機関2には、酸素と燃料ガスとを含む混合気が供給される。内燃機関2は、この混合気を燃焼させることで発生した熱エネルギーを運動エネルギーに変換する。このときに燃焼された混合気は排ガスとなって排気経路に排出される。
図1に示す構成の内燃機関2は、これに制限されるものではないが、自動車のガソリンエンジンを主体として構成されている。
【0018】
上記内燃機関2の排気系について説明する。内燃機関2は、排気ポート(図示せず)において排気経路と接続される。
図1における排気経路は、エキゾーストマニホールド3と排気管4とにより構成されている。内燃機関2は、エキゾーストマニホールド3を介して、排気管4に接続されている。そしてこの排気管4の内部を、排ガスが流通する。図中の矢印は排ガスの流れ方向を示している。なお、本明細書において、排ガスの流れに沿ってエンジン2に近い側を上流側、エンジン2から遠い側を下流側という場合がある。
【0019】
排ガス浄化装置1は、典型的には、触媒部5とフィルタ部6とエンジンコントロールユニット(Engine Control Unit:ECU)7とセンサ8とを備えている。排ガス浄化装置1は、上記排ガスに含まれる有害成分(例えば、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx))を浄化するとともに、排ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集する。
【0020】
触媒部5とフィルタ部6とは、上記エンジン2に連通する排気管4の内部に設けられている。触媒部5は、排気ガス中に含まれる三元成分(NOx、HC、CO)を浄化可能なものとして構成されている。触媒部5に含まれる触媒の種類は特に限定されない。触媒部5は、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)等の貴金属が担持された触媒を含んでいてもよい。なお、触媒部5は、フィルタ部6よりも下流側の排気管4内に、図示しない下流側触媒部をさらに備えていてもよい。かかる触媒部5の具体的な構成は本発明を特徴付けるものではないため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0021】
フィルタ部6は、触媒部5よりも下流側に設けられている。フィルタ部6は、
図2に示すように、ここに開示されるパティキュレートフィルタ100を備えている。本例のパティキュレートフィルタ100は、排ガス中に含まれるPMを捕集して除去可能なガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)に、ウォッシュコート処理を施したものである。以下、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100について詳細に説明する。
【0022】
図2は、一実施形態に係るパティキュレートフィルタ100の斜視図である。
図2中のXは、パティキュレートフィルタ100の第1方向である。パティキュレートフィルタ100は、その第1方向Xが排ガスの流れ方向に沿うように排気管4に設置される。便宜上、第1方向Xのうちの、一の方向X1を排ガス流入側(上流側)といい、他の方向X2を排ガス流出側(下流側)という場合がある。
図3は、パティキュレートフィルタ100を、第1方向Xに沿って切断した断面の一部を拡大した模式図である。
図4は、
図3のIV領域を拡大した拡大模式図である。
図2~
図4に示すように、ここに開示されるパティキュレートフィルタ100は、ウォールフロー構造の基材10と、ウォッシュコート層20とを備えている。以下、基材10、ウォッシュコート層20の順に説明する。
【0023】
<基材10>
基材10としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材及び形態のフィルタが使用可能である。例えば、コージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたは合金(ステンレス等)から形成された基材10を好適に採用することができる。一例として外形が円柱形状(本実施形態)である基材が例示される。ただし、基材全体の外形については、円柱形に代えて、楕円柱形、多角柱形等を採用してもよい。かかる基材10は、典型的には、いわゆるハニカム構造を有している。ハニカム構造における空洞(セル)は、第1方向Xに沿って延びている。セルは、入側セル12と、該入側セル12に隣りあう出側セル14とを含む。基材10は、入側セル12と出側セル14とを仕切る多孔質の隔壁16を備えている。本明細書において、基材10等の構成要素についての第1方向Xに沿う寸法を長さという。
【0024】
<入側セル12および出側セル14>
入側セル12は、基材に備えられるセルのうち、排ガス流入側の端部が開口し、流出側が閉じられたセルである。出側セル14は、入側セル12の隣りに位置し、排ガス流出側の端部が開口し、流入側が閉じられたセルである。この実施形態では、入側セル12は、排ガス流出側の端部が封止部12aで目封じされている。出側セル14は、排ガス流入側の端部が封止部14aで目封じされている。封止部12a、14aは、後述する隔壁16に気密に固定されている。入側セル12および出側セル14は、パティキュレートフィルタ100に供給される排ガスの流量や成分を考慮して適当な形状および大きさに設定するとよい。例えば入側セル12および出側セル14の第1方向Xに直交する断面(以下、単に「断面」という。)における形状は、正方形、平行四辺形、長方形、台形などの矩形、三角形、その他の多角形(例えば、六角形、八角形)、円形など種々の幾何学形状であってよい。また、上記断面における入側セル12の断面積と出側セル14の断面積とは同じであってもよく、異ならせた構造(High Ash Capacity:HAC)であってもよい。本実施形態において入側セル12と出側セル14は、市松模様に配置されている(
図2参照)。
【0025】
<隔壁16>
入側セル12と出側セル14との間には、隔壁16が配置されている。隔壁16は、断面において、セル12、14を取り囲むように構成されている。隔壁16は、第1方向Xに沿って延設されている。この隔壁16によって入側セル12と出側セル14とが形造られると共に区切られている。隔壁16は、排ガスが通過可能な多孔質構造を有している。隔壁16の気孔率は特に限定されないが、概ね40%~70%にすることが適当であり、好ましくは55%~65%である。隔壁16の気孔率が小さすぎると、圧力損失が増大してしまうことがあるため好ましくない。一方、隔壁16の気孔率が大きすぎると、パティキュレートフィルタ100の機械的強度が低下する傾向にあるため好ましくない。かかる隔壁16の気孔率は、後述するスラリーを隔壁16の大細孔に優先的に配置する観点からも好適である。隔壁16の平均細孔径は特に限定されないが、PMの捕集効率および圧損上昇抑制等の観点から、概ね5μm~50μm、例えば10μm~30μm、好ましくは10μm~25μmである。かかる隔壁16の平均細孔径は、後述するウォッシュコート層20を隔壁16の大細孔に優先的に配置する観点からも好適である。隔壁16の厚みとしては特に限定されないが、概ね0.2mm~1.6mm程度であるとよい。このような隔壁の厚みの範囲内であると、PMの捕集効率を損なうことなく圧損の上昇を抑制する効果が得られる。かかる隔壁16の厚みは、後述するスラリーを隔壁16の大細孔に優先的に配置する観点からも好適である。
【0026】
なお、本明細書における多孔質な隔壁16についての「平均細孔径」とは、後述する、電子顕微鏡観察による基材の断面画像解析に基づき仮想分離されたN個の細孔の面積円相当径の粒度分布に基づくメディアン径(D50)である。また、隔壁16の厚み/厚み方向とは、上記断面における入側セル12と出側セル14との距離に相当する寸法/当該距離が測定される方向である。また、後述するウォッシュコート層20の厚みについても、当該隔壁16の厚み方向に沿って測定される寸法とする。
【0027】
<ウォッシュコート層20>
ウォッシュコート層20は、基材10の表面の少なくとも一部に設けられる被覆層である。ウォッシュコート層20は、例えば、基材10の表面積を拡大したり、高温安定性を高めたり、吸着性などの特性を高めたり、基材10の素地を固めたりする機能を備え得る。したがって、ウォッシュコート層20は、後述する貴金属触媒の含有の有無や、形成方法等には制限されない。ここに開示されるウォッシュコート層20は、
図3に示すように、多孔質な隔壁16の内部に設けられている。より詳細には、ウォッシュコート層20は、
図4に示すように、隔壁16の内部細孔18の表面に保持されている。
【0028】
ウォッシュコート層20は、耐熱性材料を主体とする多孔質な層として構成するとよい。ここで主体とするとは、当該成分を50質量%以上(典型的には85質量%以上)含むことを意味する。耐熱性材料としては、例えば、JIS R2001に規定される耐火物であってよく、典型的には、例えば、アルミナ等の中性耐火物、シリカ、ジルコニア等の酸性耐火物、マグネシア、カルシア等の塩基性耐火物が挙げられる。また、耐熱性材料は、各種の希土類金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物等を含んでもよい。これらはいずれか1種を単独で含んでもよいし、2種以上を混合物または複合体として含んでもよい。複合体の例としては、例えば、セリア-ジルコニア複合酸化物等が挙げられる。中でも好ましい一態様では、ウォッシュコート層20は、アルミナ(好ましくは、活性アルミナ)を主体とする。さらに、これらの材料は、副成分として他の材料(典型的には無機酸化物)を含んでいてもよい。副成分は、例えば上記主体となる成分に対し、元素の形態で添加されていてもよい。このような副成分の一例としては、ランタン(La)、イットリウム(Y)等の希土類元素、カルシウムなどのアルカリ土類元素、アルカリ金属元素、その他遷移金属元素などが挙げられる。
【0029】
この実施形態では、ウォッシュコート層20は、入側セル12に面する隔壁16の表面を含む領域に形成される上流側ウォッシュコート層20Aと、出側セル14に面する隔壁16の表面を含む領域に形成される下流側ウォッシュコート層20Bと、を備える。
【0030】
上流側ウォッシュコート層20Aは、基材10の排ガス流入側の端部を含む上流側部分に配置されるとよい。下流側ウォッシュコート層20Bは、基材10の排ガス流出側の端部を含む下流側部分に配置されるとよい。これに制限されるものではないが、上流側ウォッシュコート層20Aは、隔壁16の厚み方向において、入側セル12に面する隔壁16の表面から出側セル14側に向かって隔壁16の厚さTの50%以上を占める領域に形成されているとよい。このことにより、隔壁16を通過する排ガスとウォッシュコート層20との接触の機会を確保することができる。上流側ウォッシュコート層20Aは、隔壁16の厚さTの60%以上の領域に形成されることが好ましく、さらには70%~100%までの領域に形成されているとよい。つまり、上流側ウォッシュコート層20Aの入側セル12に面する隔壁16表面からの厚みをTAとするとき、このTAは、TA=0.5T~1Tであってよく、好ましくは0.6T~1T、より好ましくは、TA=0.7T~1Tを満たすように設けられている。
【0031】
また、下流側ウォッシュコート層20Bは、隔壁16の厚さ方向において、出側セル14に面する隔壁16の表面から入側セル12側に向かって隔壁16の厚さTの50%以上を占める領域に形成されているとよい。このことにより、隔壁16を通過する排ガスとウォッシュコート層20との接触の機会を確保することができる。下流側ウォッシュコート層20Bは、隔壁16の厚さTの60%以上の領域に形成されることが好ましく、さらには70%~100%までの領域に形成されているとよい。つまり、下流側ウォッシュコート層20Bの出側セル14に面する隔壁16表面からの厚みをTBとしたとき、このTBが、TB=0.5T~1Tであってよく、好ましくは0.6T~1T、より好ましくは、TB=0.7T~1Tを満たすように設けられている。なかでも、上流側ウォッシュコート層20Aおよび下流側ウォッシュコート層20Bは、以下の関係:TA+TB≧T;を満たすことが好ましく、例えば、上流側ウォッシュコート層20Aおよび下流側ウォッシュコート層20Bはいずれも、入側セル12または出側セル14に面する隔壁16の表面から該隔壁16の厚さTの50%以上にわたる領域に形成されていることが好ましい(0.5T≦TA、0.5T≦TB)。このように、ウォッシュコート層20を隔壁16の厚さTの少なくとも50%までの領域に形成することにより、0.5T≦TA、0.5T≦TBの関係を満たさない従来のフィルタに比べて、PMの捕集性能を良好に維持しつつ、排ガスの浄化性能を効果的に向上することができる。
【0032】
本実施形態において、上流側ウォッシュコート層20Aは、基材10の排ガス流入側X1の端部を含み、当該端部から第1方向Xの下流側X2に向かって延設されている。上流側ウォッシュコート層20Aは、基材10の全長Lの端部から少なくとも30%までの部分に形成されていることが好ましい。上流側ウォッシュコート層20Aは、好ましくは端部から少なくとも50%までの部分、より好ましくは端部から80%までの部分、例えば端部から100%までに当たる部分に形成されているとよい。つまり、上流側ウォッシュコート層20Aの基材10の排ガス流入側の端部からの長さをLAとするとき、このLAは、LA=0.3L~1Lが好ましく、より好ましくは0.3L~0.8Lである。また、下流側ウォッシュコート層20Bは、基材10の排ガス流出側の端部を含み、当該端部から第1方向Xの上流側X1に向かって延設されている。下流側ウォッシュコート層20Bは、例えば基材10の全長Lの端部から多くとも80%までの部分、典型的には端部から50%までに当たる部分、例えば端部から10%までに当たる部分に形成されている。つまり、下流側ウォッシュコート層20Bの基材10の排ガス流出側の端部からの長さをLBとしたとき、このLBは、LB=0L~0.8Lであってよく、好ましくはLB=0.1L~0.8L、より好ましくは0.3L~0.8Lである。上流側ウォッシュコート層20Aと下流側ウォッシュコート層20Bとが備えられている場合、基材10の第1方向Xにおいて、上流側ウォッシュコート層20Aと下流側ウォッシュコート層20Bとは重ならないように形成されていてもよい(例えば、LA+LB≦L)が、重なるように形成されていることがより好ましい(例えば、L<LA+LB)。このとき、上流側ウォッシュコート層20Aと下流側ウォッシュコート層20Bとの重なり幅は、0L~0.3L程度であってよく、例えば0.05L~0.15L程度であるとよい。
【0033】
なお、上流側ウォッシュコート層20Aおよび下流側ウォッシュコート層20Bは、少なくとも一方が設けられていればよく、例えば、少なくとも上流側ウォッシュコート層20Aが設けられているとよい。いずれか一方が設けられている場合は、当該ウォッシュコート層20の形成領域は基材10の第1方向Xの全域にわたるとよい。このことにより、隔壁16を通過する排ガスがウォッシュコート層20と必ず接触できるために好ましい。上流側ウォッシュコート層20Aおよび下流側ウォッシュコート層20Bは、隔壁16における分布領域が異なる点以外は類似の構成をとり得るため、以下、ウォッシュコート層20として纏めて説明する。
【0034】
なお、隔壁16は、様々な大きさの内部細孔を含み得る。隔壁16の内部細孔は、例えば、細孔径が5μm以上10μm未満の第1細孔群と、細孔径10μm以上20μm未満の第2細孔群と、細孔径が20μm以上の第3細孔群とに区分することができる。例えば第1細孔群は、より粒子径の微細なPMの捕集に好適に寄与する。第2細孔群は、微細なPMよりは若干多きめのPMの捕集に好適に寄与する。第3細孔群は、PMを捕集することもできるが、主として、排ガスの低損失な移動に寄与する。そして、ここに開示されるパティキュレートフィルタ100は、内部細孔へのウォッシュコート層20の配置が、以下の条件を満たすように調整されている。
すなわち、隔壁16の内部細孔のうち、第1細孔群に保持されたウォッシュコート層20の平均充填率Aと、第2細孔群に保持されたウォッシュコート層20の平均充填率Bと、第3細孔群に保持されたウォッシュコート層20の平均充填率Cとが、以下の関係:
A<B<C;
B≦40%;
を満足し、かつ、第1細孔群および第2細孔群のうちウォッシュコート層20の充填率が75%以上である細孔の割合Pは35個数%以下である。
【0035】
換言すれば、ウォッシュコート層20は、内部細孔のうち、細孔径のより大きな第3細孔群に優先的に保持されている。そして、第2細孔群に配置されるウォッシュコート層20の平均充填率Bは、40%以下である。また、第1細孔群に配置されるウォッシュコート層20の平均充填率Aは、平均充填率Bよりも小さく、40%以下未満である。ただし、ウォッシュコート層20は、一部の細孔を埋めて排ガスの流動性を低下させることが抑制されている。かかる構成の排ガス浄化装置によれば、PMの捕集性能を良好に維持しつつ、例えば、ウォッシュコート層20と排ガスの接触効率を高めることができる。このような効果が得られる理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば以下のように考えられる。
【0036】
すなわち、排ガスに含まれるPMは隔壁内を通過する際に細孔内で拡散し、主として小細孔(典型的には細孔径20μm未満の細孔)にトラップされやすい。そのため、予め小細孔がウォッシュコート層で埋められてしまうと、PMの捕集可能量が減ってPMの捕集率が低下する傾向となり得る。これに対して、ここに開示されるパティキュレートフィルタ100は、細孔径が相対的に小さい第1および第2細孔群(小細孔)にウォッシュコート層があまり充填されておらず、PMの捕集性能の低下がムラなく効果的に抑制される。また、細孔径が相対的に大きい第3細孔群(大細孔)は、小細孔よりも排ガスの流路が大きく、排ガスの流量が多い。そのため、排ガス流量が多い大細孔にウォッシュコート層を優先的に配置することで、ウォッシュコート層と排ガスとの接触機会が増え、排ガスが効率良く浄化される。また、ウォッシュコート層を設けたことによる圧損の増大を効果的に抑制することができる。
【0037】
平均充填率Cは、平均充填率Bよりも大きければよく、特に限定されない。例えば、平均充填率Cは、平均充填率Bよりも、0.3%以上大きいことが好ましく(例えば、C≧B+0.3)、0.5%以上大きいことがより好ましい(例えば、C≧B+0.5)。ここに開示されるパティキュレートフィルタ100は、例えば、平均充填率Cが平均充填率Bよりも1%以上大きい態様で好ましく実施され得る(例えば、C≧B+1)。いくつかの態様において、平均充填率Cは、平均充填率Bよりも、例えば4%以上大きくてもよく、典型的には8%以上大きくてもよい。このことによって、より良好な排ガス浄化性能が実現され得る。また、平均充填率Cから平均充填率Bを減じた値(すなわち、C-B)は、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。例えば、(C-B)が16%以下であってもよく、14%以下であってもよく、10%以下であってもよい。平均充填率Cの具体例としては、平均充填率Cを平均充填率A、Bよりも大きくしたことによる効果(例えば排ガス浄化性能向上効果)をより良く発揮させる等の観点から、好ましくは20%≦C、より好ましくは25%≦Cである。平均充填率Cの上限は特に限定されないが、PM捕集性能および圧損上昇抑制等の観点から、概ねC≦60%、典型的にはC≦50%、好ましくはC≦45%である。ここに開示される技術は、パティキュレートフィルタ100におけるウォッシュコート層の上記平均充填率Cが20%≦C≦45%である(好ましくは25%≦C≦45%)である態様で好ましく実施され得る。
【0038】
平均充填率Bは、平均充填率Cよりも小さく、かつ、平均充填率Aよりも大きければよい。例えば、平均充填率Bは、平均充填率Aよりも、1%以上大きいことが好ましく(例えば、B≧A+1)、3%以上大きいことがより好ましい(例えば、B≧A+3)。このことによって、より良好な排ガス浄化性能が実現され得る。いくつかの態様において、例えば、平均充填率Bは、平均充填率Aよりも3.5%以上大きくてもよく、典型的には4%以上大きくてもよい。また、平均充填率Bから平均充填率Aを減じた値(すなわち、B-A)は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。いくつかの態様において、例えば、B-Aが8%以下、典型的には5%以下であってもよい。平均充填率Bの具体例としては、よりPM捕集性能に優れたフィルタを実現する等の観点から、概ねB≦40%であり、好ましくはB≦38%、典型的にはB≦35%である。いくつかの態様において、例えば平均充填率Bが、B≦30%であってもよく、典型的にはB≦25%であってもよい。平均充填率Bの下限は特に限定されないが、より浄化性能に優れたフィルタ触媒を実現する等の観点から、好ましくは10%≦B、より好ましくは15%≦B、例えば18%≦B、典型的には20%≦Bである。ここに開示される技術は、パティキュレートフィルタにおけるウォッシュコート層の上記平均充填率Cが15%≦B≦40%である(好ましくは20%≦B≦35%)である態様で好ましく実施され得る。
【0039】
平均充填率Aは、平均充填率B、Cとの間でA<B<Cの関係を満たし、かつ、A≦40%である限りにおいて特に制限はない。上記平均充填率Aは、よりPM捕集性能に優れたフィルタを実現する等の観点から、好ましくはA≦35%、より好ましくはA≦32%である。いくつかの態様において、例えば平均充填率Aが、A≦25%であってもよく、典型的にはA≦20%(例えばA≦18%)であってもよい。平均充填率Aの下限は特に限定されないが、良好な排ガス浄化性能を得る等の観点から、好ましくは5%≦A、より好ましくは8%≦A、例えば10%≦A、典型的には12%≦Aである。ここに開示される技術は、パティキュレートフィルタにおけるウォッシュコート層の上記平均充填率Aが10%≦A≦35%である(好ましくは15%≦A≦32%)である態様で好ましく実施され得る。
【0040】
第1および第2細孔群のうち、ウォッシュコート層の充填率が75%以上である細孔の割合Pは、概ね35個数%以下である。このことによって、PM捕集率の低下を抑制することができる。第1および第2細孔群のうち充填率75%以上の細孔が占める割合Pは、好ましくは30個数%以下、より好ましくは28個数%以下、さらに好ましくは25個数%以下である。いくつかの態様において、上記割合Pは、例えば20個数%以下であってもよく、典型的には15個数%以下(例えば10個数%以下)であってもよい。上記割合Pの下限は特に限定されないが、概ね1個数%以上にすることが適当である。製造容易性および排ガス浄化性能等の観点から、上記割合Pは、好ましくは3個数%以上、より好ましくは5個数%以上である。いくつかの態様において、細孔径5μm以上20μm未満の細孔のうち充填率75%以上の細孔の割合Pが、実質的に0個数%であってもよい。
【0041】
なお、この明細書において、隔壁内部に設けられた細孔の細孔径および該細孔に保持されたウォッシュコート層の充填率は、次のようにして算出するものとする。すなわち、
(1)走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、隔壁の断面SEM画像または断面TEM画像に含まれる内部細孔を観察し、画像内で最も大きい細孔径を取れる部位から細孔の分離を始める。
(2)細孔が繋がっている場合は、最大孔径の50%まで径が狭くなったところで細孔を仕切り、一つの細孔として分離する(その際、ウォッシュコート層は細孔(空隙)として処理する)。
(3)そして、分離した細孔画像から算出された細孔の面積Xと同一の面積を有する理想円(真円)の直径を細孔の細孔径として算出する。
(4)また、分離した細孔画像から該細孔内に保持されたウォッシュコート層の面積Yを算出し、該ウォッシュコート層の面積Yを細孔の面積Xで除した値の百分率(すなわち100×Y/X)を当該細孔におけるウォッシュコート層の充填率(%)として算出する。
(5)上記(1)で分離した細孔に次いで大きな細孔径の細孔を分離する。
その後、分離した細孔の細孔径が5μm以下になるまで(2)~(5)の処理を繰り返すことで、隔壁内部に設けられた細孔の細孔径および該細孔に保持されたウォッシュコート層の充填率を求めることができる。そして、各細孔径範囲ごとのウォッシュコート層の充填率を算術平均することにより、各細孔径範囲ごとのウォッシュコート層の平均充填率を導出することができる。また、細孔径5μm以上20μm未満の細孔数S1と、細孔径5μm以上20μm未満の細孔であってかつ充填率が75%以上である細孔数S2とをカウントして、[(S2/S1)×100]により、前記割合Pを算出することができる。各細孔の細孔径およびウォッシュコート層の充填率は、所定のプログラムに沿って所定の処理を行うコンピュータによる画像解析ソフトウェアを用いて求めることができる。
【0042】
なお、細孔画像において画像処理された細孔およびウォッシュコート層は、多数のドット(画素)からなり、かかるドット数から細孔およびウォッシュコート層の面積X、Yを把握することができる。また、上記平均充填率A、B、Cおよび割合Pは、測定精度や再現性を高める観点から、通常、代表的な3視野(異なる3つの断面)で算出することが好ましい。具体的には、(A)3視野における各細孔径範囲の平均充填率A、B、Cおよび割合Pのバラつき(標準偏差:σ)を計算し、(B)平均充填率A、B、Cおよび割合Pのバラつきが3σ以内であれば測定を終了する。(C)平均充填率A、B、Cおよび割合Pのバラつきが3σから外れた場合、更に別の視野について平均充填率A、B、Cおよび割合Pを測定し、(D)全視野のデータから各細孔径の平均充填率A、B、Cおよび割合Pのバラつきを計算する。(E)平均充填率A、B、Cおよび割合Pのバラつきが3σ以内となるまで、(C)、(D)の手順を繰り返す。これにより、測定精度や再現性を高めることができる。
【0043】
<ウォッシュコート層のコート量>
ウォッシュコート層のコート量とは、ウォッシュコート層を備えている部分の基材の単位体積あたりのウォッシュコート層の質量を意味する。コート量は、ウォッシュコート層の質量を、基材の体積で割った値をいう。ここで「体積」とは、基材(内部細孔を含む)およびセル等の体積を含めた基材の嵩体積を意味する。本明細書では、特にことわりのないかぎり、基材についての嵩体積を単に「体積」という場合がある。また、コート量は、パティキュレートフィルタのうち、第1方向Xでウォッシュコート層が形成されている領域と形成されていない領域とがあるとき、ウォッシュコート層が形成されている領域についての、基材の単位体積あたりのウォッシュコート層の質量を意味する。例えば、ウォッシュコート層20が上流側ウォッシュコート層20Aと下流側ウォッシュコート層20Bとを備える場合、上流側ウォッシュコート層20Aのコート量(密度)は、上流側ウォッシュコート層20Aの質量を基材の当該コート長さLA分の嵩体積で割った値とする。下流側ウォッシュコート層20Bのコート量(密度)は、下流側ウォッシュコート層20Bの質量を基材の当該コート長さLB部分の嵩体積で割った値とする。
【0044】
ウォッシュコート層のコート量は、各細孔径範囲における平均充填率A、B、Cおよび割合Pが前記関係を満たす限りにおいて特に制限はないが、基材の体積1L当たりについて、概ね100g/L以下、好ましくは95g/L以下、例えば90g/L以下、例えば85g/L以下、典型的には80g/L以下である。いくつかの態様において、例えばウォッシュコート層のコート量が75g/L以下、典型的には70g/L以下であってもよい。本構成によると、細孔径が大きい大細孔に保持されたウォッシュコート層の平均充填率を、細孔径が小さい小細孔に保持されたウォッシュコート層の平均充填率よりも大きくすることで、フィルタ全体でのウォッシュコート層のコート量を減らしつつ(延いては圧損の低減や低コスト化を図りつつ)、排ガスの浄化性能を効果的に向上させることができる。したがって、例えば基材の体積1L当たりのコート量が100g/L以下という少量のウォッシュコート層であるにもかかわらず、浄化性能に優れた、高性能な(例えば基材を排ガスが通過する際の圧力損失の上昇を招くことがない)パティキュレートフィルタ100を実現することができる。ウォッシュコート層のコート量の下限は特に限定されないが、浄化性能向上等の観点から、好ましくは25g/L以上、より好ましくは30g/L以上、さらに好ましくは35g/L以上である。基材のセル容積、隔壁の厚み、気孔率、細孔径分布等にもよるために一概には言えないが、いくつかの態様において、例えばウォッシュコート層のコート量は、25g/L以上100g/L以下であってもよく、25g/L以上40g/L以下であってもよく、40g/L以上80g/L以下であってもよく、60g/L以上80g/L以下であってもよく、80g/L以上100g/L以下であってもよい。
【0045】
なお、本明細書において、「隔壁の内部細孔にウォッシュコート層が保持されている」とは、ウォッシュコート層が隔壁の表面(すなわちセル内)ではなく、隔壁の内部(内部細孔の壁表面)に主として存在することをいう。より具体的には、例えば基材の断面を電子顕微鏡で観察し、ウォッシュコート層のコート量(面積)全体を100%とする。このとき、隔壁の内部細孔の壁表面に存在するコート量分が、典型的には80%以上(例えば90%以上)、例えば95%以上、好ましくは98%以上、さらには99%以上、特には実質的に100%である、すなわち隔壁の表面にはウォッシュコート層が実質的に存在しないことをいう。したがって、例えば隔壁の表面にウォッシュコート層を配置しようとした際にウォッシュコート層の一部が意図せずに隔壁の内部細孔へ浸透するような場合とは明確に区別されるものである。
【0046】
<触媒>
ウォッシュコート層20は、触媒を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。ウォッシュコート層20が触媒を含む場合、当該触媒は特に制限されない。例えば、この種のパティキュレートフィルタに含まれ得る各種の触媒であってよい。そのような触媒とは、いわゆる三元触媒、SCR触媒、NSR触媒またはこれらを組み合わせた触媒であり得る。
【0047】
<貴金属触媒>
好適な一態様として、ウォッシュコート層20は、三元触媒を含み得る。例えば、具体的には、ウォッシュコート層20は、貴金属と、該貴金属を担持する担体とを含んでいてもよい。上記ウォッシュコート層20に含まれる貴金属は、排ガスに含まれる有害成分の浄化について触媒機能を有する物質であればよい。貴金属としては、例えば、金(Au)銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)等を含む金属を挙げることができる。より好ましくは、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等の白金族元素を含む金属である。これらは、いずれか1種を含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。なかでも、例えば、Rh、Pd、およびPtの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0048】
ウォッシュコート層20に配置された貴金属の含有量(質量)は、基材の単位体積(ここでは1リットル)当たり、概ね0g/L以上0.2g/L以下にすることが適当である。よりPM捕集性能に優れた触媒を実現する等の観点から、好ましくは0.15g/L以下、より好ましくは0.1g/L以下、さらに好ましくは0.08g/L以下、例えば0.05g/L以下であり得る。貴金属の含有量の下限は特に制限されず、例えば、パティキュレートフィルタ100の再生工程における燃焼温度を低下させるとの観点からは、0.001g/L以上とすることができる。しかしながら、貴金属の含有量は0.001g/L未満であってよく、例えば0g/L(実質的に含まない)であってよい。
【0049】
ウォッシュコート層20が上流側ウォッシュコート層20Aと下流側ウォッシュコート層20Bを含む場合、これらの上流側ウォッシュコート層20Aおよび下流側ウォッシュコート層20Bは、独立して、触媒を含んでもよいし含まなくてもよい。また、上流側ウォッシュコート層20Aおよび下流側ウォッシュコート層20Bの両方が触媒を含む場合、それぞれに含まれる触媒は、同じであってもよいし、異なってもよい。好ましい一態様では、上流側ウォッシュコート層20Aおよび下流側ウォッシュコート層20Bの両方が貴金属を含み、上流側ウォッシュコート層20Aに含まれる貴金属と、下流側ウォッシュコート層20Bに含まれる貴金属とが異なる。例えば、上流側ウォッシュコート層20Aは、Rhを含むことが好ましい。下流側ウォッシュコート層20Bは、Pdを含むことが好ましい。下流側ウォッシュコート層20Bに配置されたPdに対する上流側ウォッシュコート層20Aに配置されたRhの質量比(Pd/Rh)は、0.1≦(Pd/Rh)を満足することが好ましく、0.5≦(Pd/Rh)が好ましく、1≦(Pd/Rh)がさらに好ましく、1.5≦(Pd/Rh)が特に好ましい。質量比(Pd/Rh)は、(Pd/Rh)≦20を満足することが好ましく、(Pd/Rh)≦15が好ましく、(Pd/Rh)≦10がさらに好ましく、(Pd/Rh)≦5が特に好ましい。また、好ましい他の一態様では、上流側ウォッシュコート層20Aおよび下流側ウォッシュコート層20Bの両方が触媒を含まない。これによって、パティキュレートフィルタ100のPM捕集性能を良好に高めることができる。
【0050】
<担体>
上記貴金属は、担体(典型的には粉体状)に担持されている。上記貴金属を担持する担体は、これに限定されるものではないが、例えば、アルミナ(Al2O3)、希土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ジルコニア(ZrO2)、セリア(CeO2)、シリカ(SiO2)、マグネシア(MgO)、酸化チタン(チタニア:TiO2)等の金属酸化物、若しくはこれらの固溶体(例えばセリア-ジルコニア(CeO2-ZrO2)複合酸化物)等が挙げられる。中でもアルミナおよび/またはセリア-ジルコニア複合酸化物の使用が好ましい。これらの二種以上を併用してもよい。なお、上記担体には、副成分として他の材料(典型的には無機酸化物)が添加されていてもよい。これらは例えば元素の形態で添加されていてもよく、担体に添加し得る成分としては、ランタン(La)、イットリウム(Y)等の希土類元素、カルシウムなどのアルカリ土類元素、アルカリ金属元素、その他遷移金属元素などが挙げられる。上記の中でも、ランタン、イットリウム等の希土類元素は、触媒機能を阻害せずに高温における比表面積を向上できるため、安定化剤として好適に用いられる。かかる担体は、多結晶体または単結晶体であり得る。
【0051】
上記担体における貴金属の担持量は特に制限されない。例えば、担体の全質量に対して0.01質量%~2質量%の範囲(例えば0.05質量%~1質量%)とすることが適当である。また、担体に貴金属を担持させる方法としては特に制限されない。例えば、Al2O3および/またはCeO2-ZrO2複合酸化物を含む担体粉末を、貴金属塩(例えば硝酸塩)や貴金属錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有する水溶液に含浸させた後、乾燥させ、焼成することにより調製することができる。
【0052】
<ウォッシュコート層20の形成方法>
ウォッシュコート層20を形成するに際しては、上述の耐火性材料からなる粉末と、適当な溶媒(例えばイオン交換水)とを含むウォッシュコート層形成用スラリーを用意するとよい。ウォッシュコート層20が触媒を含む構成では、このスラリーに、触媒(例えば貴金属を担持した担体からなる粉末)を所定の割合で添加すればよい。
【0053】
ここで、上記スラリーの粘度は、上述したウォッシュコート層の平均充填率の大小関係(A<B<C)を実現するという観点から一つの重要なファクターである。すなわち、上記スラリーは、隔壁16の内部細孔のうち大細孔(例えば細孔径20μm以上の細孔)に流入しやすく、かつ、小細孔(例えば細孔径5μm以上20μm未満の細孔)には流入しにくいように、粘度が適宜調整されているとよい。好ましい一態様では、上記スラリーは、せん断速度:400s-1のときの粘度η400が50mPa・s超150mPa・s以下、好ましくは60mPa・s以上110mPa・s以下である。このような特定の粘度を有するスラリーを用いることにより、隔壁16の内部細孔のうち大細孔に優先的にスラリーが配置され、上述した平均充填率の大小関係(A<B<C)を満たすウォッシュコート層100を安定して形成することができる。かかる粘度は、隔壁内のウォッシュコート層の形成領域(0.7T≦TA、0.7T≦TB)を実現する観点からも好適である。かかるスラリー粘度を実現するため、スラリーには増粘剤や分散剤を含有させてもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)等のセルロース系のポリマーが例示される。スラリー中の全固形分に占める増粘剤の含有量としては、スラリーの粘度が上記範囲を満たす限りにおいて特に限定されないが、概ね0.1質量%~5質量%、好ましくは0.3質量%~4質量%、より好ましくは0.5質量%~3質量%である。分散剤としては、例えばポリカルボン酸を好ましく用いることができる。ポリカルボン酸を添加することにより、小細孔を残しつつ大細孔に優先的にスラリーをコートすることができる。ここに開示される製造方法は、このようなポリカルボン酸を用いる態様で特に好ましく実施され得る。ポリカルボン酸のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC、水系、ポリエチレンオキサイド換算)に基づく重量平均分子量(Mw)としては、例えば、100万~200万であり得る。ポリカルボン酸は、該塩の形態で用いられてもよい。塩の例としては、金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩)、アンモニウム塩等が挙げられる。なお、上記スラリー粘度は、常温において市販のせん断粘度計により測定され得る粘度である。例えば、当該分野で標準的な動的粘弾性測定装置(レオメータ)を使用することにより、上記のようなせん断速度域の条件で容易に粘度を測定することができる。ここで「常温」とは15~35℃の温度範囲をいい、典型的には20~30℃の温度範囲(例えば25℃)をいう。
【0054】
上記スラリー中の粒子(典型的には、ウォッシュコート層の構成材料粉末、貴金属を担持した担体粉末)の平均粒子径は特に限定されないが、隔壁16の平均細孔径(メジアン径:D50)の1/50~1/3程度にすることが好ましい。スラリー中の粒子の平均粒子径は、隔壁16の平均細孔径の1/40程度以上がより好ましく、1/30程度以上がさらに好ましい。スラリー中の粒子の平均粒子径は、隔壁16の平均細孔径の1/5以下程度がより好ましく、1/10以下程度がさらに好ましい。例えば、隔壁16の平均細孔径が15μm~20μm程度の場合、スラリー中の粒子の平均粒子径は凡そ0.3μm以上、好ましくは0.4μm以上、より好ましくは0.5μm以上とすることができ、凡そ3μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.7μm以下とすることができる。このようなスラリー中の粒子の平均粒子径の範囲内であると、隔壁16の内部細孔のうち大細孔に優先的にスラリーが配置されやすい。そのため、前記平均充填率の大小関係(A<B<C)を満たすウォッシュコート層をより安定して形成することができる。なお、スラリー中の粒子の平均粒子径(メジアン径:D50)はレーザ回折・散乱法に基づいて把握することができる。
【0055】
ここに開示される製造方法では、上記スラリーを用いて隔壁16の細孔内にウォッシュコート層20を形成する。ウォッシュコート層20は、吸引コート法によって形成され得る。ところで、ウォッシュコート層の形成は一般に浸漬法を用いて行われる。かかる方法では、上述したようなスラリーに基材を浸漬し、スラリーを基材に浸透させて隔壁の細孔内に流入させた後、基材を取り出してエアブローでスラリーの量を調整し、溶媒を揮発させることによって隔壁の細孔内にウォッシュコート層を形成する。かかる方法では、隔壁の細孔のうち排ガスが通過しない閉塞孔にもスラリーが流入するため、排ガスの浄化に寄与しないウォッシュコート層が形成されがちであり、浄化性能が低下する場合があり得る。
【0056】
これに対して、ここに開示される吸引コート法では、スラリーの全部または一部を基材の排ガス流入側もしくは排ガス流出側の端部となる部分(以下、「端部F」とする。)に塗工し、他方の端部(すなわち、基材の排ガス流出側もしくは排ガス流入側の端部となる部分、以下、「端部R」とする。)から吸引する(1回目スラリー投入)。具体的には、スラリーの粘度と隔壁内の細孔の濡れ具合とを勘案しながら、基材の端部Fから端部R側に向かって基材の長さの少なくとも50%(例えば50%~100%、好ましくは70%~95%)までに当たる部分にスラリーがコートされ、かつ、隔壁の表面から該隔壁の厚さの少なくとも50%(例えば50%~100%、好ましくは70%~100%)までの領域にスラリーがコートされるようにスラリーを吸引する。また、必要に応じて、基材の他方の端部Rにスラリーを塗工し、スラリーの粘度と隔壁内の細孔の濡れ具合とを勘案しながら、端部Rから端部F側に向かって基材の長さの多くとも70%(例えば5%~70%、より好ましくは5%~50%)までに当たる部分にスラリーがコートされ、かつ、隔壁の表面から該隔壁の厚さの少なくとも50%(例えば50%~100%、好ましくは70%~100%)までの領域にスラリーがコートされるようにスラリーを吸引する(2回目スラリー投入)。このように、吸引によって隔壁の細孔内にスラリーを流入させると、隔壁の細孔のうち排ガスが通過しやすい大細孔(典型的には貫通孔)にスラリーが優先的に流入しやすく、かつ、排ガスが通過しにくい小細孔(典型的には閉塞孔)にはスラリーが流入しにくくなる。そのため、浸漬法を用いたときのような排ガスの浄化に寄与しないウォッシュコート層が形成される不都合が解消または緩和され、浄化性能を向上させることができる。
【0057】
スラリーの吸引速度(風速)は特に限定されないが、概ね10m/s~80m/s(好ましくは10m/s~50m/s、より好ましくは15m/s~25m/s)にすることが適当である。また、スラリーの吸引時間は特に限定されないが、概ね0.1秒~10秒(好ましくは0.5秒~5秒、より好ましくは1秒~2秒)にすることが適当である。ここに開示される技術の好適例として、スラリーの吸引速度が10m/s~30m/sであり、かつ、スラリーの吸引時間が0.5秒~5秒であるもの;スラリーの吸引速度が15m/s~25m/sであり、かつ、スラリーの吸引時間が1秒~2秒であるもの;が挙げられる。このようなスラリーの吸引速度および吸引時間の範囲内であると、隔壁16の内部細孔のうち大細孔に優先的にスラリーが配置されやすくなり、前記平均充填率の大小関係(A<B<C)を満たすウォッシュコート層をより安定して形成することができる。
【0058】
ここに開示される製造方法では、スラリーを隔壁16の細孔内に流入したら、次いで所定の温度で乾燥・焼成する。これにより、隔壁16の細孔の壁表面にウォッシュコート層20が保持される。以上のようにして、隔壁16の細孔の壁表面にウォッシュコート層が形成されたパティキュレートフィルタ100を得ることができる。なお、入側セル12および出側セル14内にスラリーが残留している場合は、乾燥工程の前に、エアブローするなどして除去するとよい。
【0059】
このようにして得られたパティキュレートフィルタ100は、特定の粘度を有するスラリーを吸引コート法により隔壁の大細孔に優先的に流入させて形成されたものである。また、ここに開示される製造方法によれば、例えば、スラリーを基材の端部Fに塗工し、他方の端部Rから吸引する。その際、隔壁の表面から該隔壁の厚さの少なくとも50%までの領域にスラリーがコートされるようにスラリーを吸引する。また、必要に応じて、残りのスラリーを基材の端部Rに塗工し、他方の端部Fから吸引する。その際、隔壁の表面から該隔壁の厚さの少なくとも50%までの領域にスラリーがコートされるようにスラリーを吸引する。このように、隔壁の表面から該隔壁の厚さの少なくとも50%までの領域にスラリーがコートされるようにスラリーを吸引することで、前記平均充填率の大小関係(A<B<C)および前記割合Pを満たすウォッシュコート層が安定的に形成され、PM捕集性能および浄化性能に優れたフィルタが得られうる。したがって、ここに開示される製造方法によれば、従来に比してPM捕集率が高く、なおかつ浄化性能に優れたパティキュレートフィルタ100が作製され得る。
【0060】
ここに開示される技術によると、隔壁の内部細孔のうち、細孔径5μm以上10μm未満の細孔に保持されたウォッシュコート層の平均充填率Aと、細孔径10μm以上20μm未満の細孔に保持されたウォッシュコート層の平均充填率Bと、細孔径20μm以上の細孔に保持されたウォッシュコート層の平均充填率Cとが、以下の関係:A<B<C;A≦40%;B≦40%;を満足し、かつ、細孔径5μm以上20μm未満の細孔のうちウォッシュコート層の充填率が75%以上である細孔の割合が35個数%以下である、排ガス浄化用フィルタを製造する方法が提供され得る。
【0061】
その製造方法は、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セルと、該入側セルに隣り合い排ガス流出側の端部のみが開口した出側セルと、前記入側セルと前記出側セルとを仕切る多孔質の隔壁とを有するウォールフロー構造の基材を用意(購入、製造等)すること;
前記基材の端部F(すなわち排ガス流入側もしくは排ガス流出側の端部となる部分)にウォッシュコート層形成用スラリーを塗工し、他方の端部R(すなわち基材の排ガス流出側もしくは排ガス流入側の端部となる部分)から吸引すること;および、
前記スラリーを吸引した前記基材を乾燥・焼成すること;
を包含する。
ここで、上記スラリーの吸引工程では、好ましくは、隔壁の表面から該隔壁の厚さの50%以上を占める領域にスラリーがコートされるようにスラリーを吸引する。また好ましい一態様では、上記ウォッシュコート層形成用スラリーは、せん断速度:400s-1のときの粘度η400が50mPa・s超150mPa・s以下(好ましくは80mPa・s以上120mPa・s以下)となるように設定され得る。
かかる方法により製造されたフィルタは、パティキュレートフィルタのパティキュレートフィルタとして好適に使用され得る。
【0062】
このパティキュレートフィルタ100は、
図3に示すように、基材10の入側セル12から排ガスが流入する。入側セル12から流入した排ガスは、多孔質の隔壁16を通過して出側セル14に到達する。
図3においては、入側セル12から流入した排ガスが隔壁16を通過して出側セル14に到達するルートを矢印で示している。このとき、隔壁16は多孔質構造を有し、かつ、小細孔がウォッシュコート層20で埋められていないので、排ガスがこの隔壁16を通過する間に、粒子状物質(PM)が隔壁16の表面や隔壁16の内部の細孔内(典型的には、小細孔内)に適切に捕集される。また、
図4に示すように、隔壁16の細孔内には、ウォッシュコート層20が設けられているので、排ガスが隔壁16の細孔内を通過する間に、排ガス中の有害成分が浄化され得る。その際、排ガス流量の多い大細孔に優先的に保持されたウォッシュコート層20において排ガスが効率よく浄化される。隔壁16を通過して出側セル14に到達した排ガスは、排ガス流出側の開口からパティキュレートフィルタ100の外部へと排出される。
【0063】
なお、パティキュレートフィルタ100は、本願発明の本質を損なわない範囲において、上述した貴金属および担体のほか、貴金属を担持していない金属酸化物、NOx吸収材、SCR(Selective Catalytic Reduction:選択的接触還元)触媒等をウォッシュコート層20は、含んでいてもよい。貴金属を担持していない金属酸化物としては、担体について説明した金属酸化物と同様のものを用いることができる。NOx吸収材は、排ガスの空燃比が酸素過剰のリーン状態にある状態では排ガス中のNOxを吸収し、空燃比がリッチ側に切り替えられると、吸収されていたNOxを放出するNOx吸蔵能を有するものであればよい。かかるNOx吸収材としては、NOxに電子を供与し得る金属の一種または二種以上を含む塩基性材料を好ましく用いることができる。例えば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類金属、ランタノイドのような希土類および銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、イリジウム(Ir)等の金属が挙げられる。中でもバリウム化合物(例えば硫酸バリウム)は高いNOx吸蔵能を有しており、ここに開示されるパティキュレートフィルタ100に用いられるNOx吸収材として好適である。SCR触媒は、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を浄化するものであればよい。SCR触媒としては特に限定されないが、例えば、β型ゼオライト、SAPO(シリコアルミノホスフェート)系ゼオライトが挙げられる。SAPOとしては、SAPO-5、SAPO-11、SAPO-14、SAPO-17、SAPO-18、SAPO-34、SAPO-39、SAPO-42、SAPO-47等が例示される。SCR触媒は、任意の金属成分を含んでいてもよい。そのような金属成分として、銅(Cu)、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、鉛(Pb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、タングステン(W)、インジウム(In)、イリジウム(Ir)等が例示される。SAPOに上記金属を含有させることで、NOxをより効率良く浄化できるようになる。ウォッシュコート層20がSCR触媒を含む場合、アンモニアを生成するための還元剤溶液(例えば尿素水)を供給する還元剤溶液供給手段をパティキュレートフィルタ100よりも排気管の上流側に配置するとよい。
【0064】
<試験例1>
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。まず、本試験例では、基材の隔壁内の所定の寸法の細孔群に選択的にウォッシュコート層を形成する技術について説明する。
【0065】
(例1)
ウォールフロー型の基材として、一般的なハニカム構造の多孔質円筒形フィルタ基材(コージェライト製、長さ114.3mm、体積1.3L)を用意した。また、硝酸パラジウム溶液とアルミナ粉末とCZ(セリア-ジルコニア複合酸化物)粉末とイオン交換水とポリカルボン酸とを混合してウォッシュコート用のスラリーを調製した。本例において、CZ粉末は、後述するSEM像においてスラリーの浸透領域(すなわち、ウォッシュコート層の形成領域)を視認するためのマーカー(白色)としての機能を有する。次いで、吸引コート装置を用いて、このスラリーを、基材の排ガス入口側(入側:X1)の端部に塗工し、排ガス流出側(出側:X2)の端部から吸引することで隔壁の細孔内にスラリーを流入させ、その後、過剰なスラリーをエアブローで除去することによりコートした。その後、基材ごと乾燥・焼成することにより、隔壁の細孔内にウォッシュコート層を形成した。スラリーのせん断速度:400s-1のときの粘度η400は90mPa・s、基材の単位体積あたりのウォッシュコート層のコート量は15g/Lとした。スラリーの粘度η400は、ポリカルボン酸の量により調整した。これにより、ウォッシュコート層を備えた例1のパティキュレートフィルタを得た。
【0066】
(例2~8)
基材の単位体積あたりのウォッシュコート層のコート量を、下記の表2に示すように、30~150g/Lの間で変化させたこと以外は、例1と同様にして、例2~8のパティキュレートフィルタを作製した。
【0067】
(例9~12)
スラリーの粘度η400を200mPa・sに変更し、基材の単位体積あたりのウォッシュコート層のコート量を、下記の表2に示すように、40~100g/Lの間で変化させたこと以外は、例1と同様にして、例9~12のパティキュレートフィルタを作製した。
【0068】
(例13~16)
スラリーの粘度η400を10mPa・sに変更し、基材の単位体積あたりのウォッシュコート層のコート量を、下記の表2に示すように、40~150g/Lの間で変化させたこと以外は、例1と同様にして、例13~16のパティキュレートフィルタを作製した。
【0069】
<ウォッシュコート層の形成領域>
各例のパティキュレートフィルタをX方向に沿って切断し、基材の隔壁の断面をSEMによって観察し、観察像を得た。そしてこの観察像を基に、隔壁の内部細孔に形成されたウォッシュコート層の形成領域と、ウォッシュコート層が形成されている細孔の細孔径とについて観察した。なお、隔壁の内部細孔の細孔径は、上述の手法で測定したものである。その観察結果を、下記の表2の「ウォッシュコートの形成領域」の欄に簡単に示した。また、参考のために、例1、例3、例11、例15のパティキュレートフィルタについての断面SEM像を、
図5の(a)~(d)にそれぞれ示した。なお、断面SEM像において、ウォッシュコート層はコントラストが明るい(白い)領域として表示され、細孔は(隔壁内の)黒色の領域、隔壁は中間のグレーの領域として表わされている。
【0070】
<パティキュレートフィルタの細孔径分布>
例4、例11、例15のパティキュレートフィルタ(コート量60g/L)と、このパティキュレートフィルタを作製するために用意した基材とについて、水銀圧入法に基づき、細孔径分布を測定し、その結果を
図6に示した。細孔径分布は、マイクロメリティックス社製の細孔分布測定装置AutoPoreIVを用いて測定した。また、
図6では、細孔径(μm)に対して、当該細孔直径に相当する細孔容積率を、log微分細孔容積分布(dV/d(logD)、ここでVは細孔容積、Dは細孔径)としてプロットしている。
【0071】
【0072】
本試験例では、ウォッシュコート層の形成の様子を確認しやすいように、入側セルのみからスラリーを供給した。その結果、
図5に示すように、ウォッシュコート用のスラリーの粘度およびコート量を変化させることで、基材に形成されるウォッシュコート層の形成領域が異なってくることがわかった。ウォッシュコート層の形成領域は、表1に示すように、概ねコート量が増えるにつれて、隔壁の入側セルに面する表面から出側セルに面する表面に向けて隔壁の厚み方向に拡大する傾向があることがわかった。
【0073】
例1~8のパティキュレートフィルタの作製に用いたスラリーは、粘度が適度に調整されており、隔壁内の細孔の表面と比較的濡れ易いが、毛細管現象によって小細孔に自然に浸透するまでには至らない。そのため、例えばウォッシュコート層は、基材の隔壁の入側セルに面する表面から出側セルに面する表面に向けて、コート量の増大とともに形成領域が広がる(深くなる)様子が確認された。例えば
図5(a)に示すように、コート量を15g/Lとした例1のパティキュレートフィルタでは、ウォッシュコート層は比較的入側セルの近傍(例えば隔壁の厚み方向で約30%の領域)にしか形成されていない。そして
図5(b)に示すように、コート量を50g/Lと増やした例3のパティキュレートフィルタでは、ウォッシュコート層は出側セルの側の表面に達する領域(すなわち隔壁の厚み方向で100%の領域)にまで形成された。また、例1および例3のいずれのパティキュレートフィルタでも、ウォッシュコート層は、小細孔よりも大細孔に優先的に形成され、かつ、大細孔を閉塞することがないこともわかった。
図6に示されるように、例3のパティキュレートフィルタの細孔径分布を基材の細孔径分布と比較すると、細孔径の分布は総じて小細孔径側に圧縮されて頻度も減少していることがわかった。詳細には、例3のパティキュレートフィルタの細孔径分布、細孔径5μm以上10μm未満の第1細孔群の領域において基材の細孔径分布とほぼ重なっているか、基材の細孔径分布を上回っているが、その他の領域での頻度が著しく低く、ウォッシュコート層は小細孔にほぼ充填されずに、その多くが大細孔側から優先的に形成されていることがわかった。
【0074】
これに対し、例9~12のパティキュレートフィルタの作製に用いたスラリーは、粘度が高く、隔壁内の細孔の表面と濡れ難く、かつ、流動性に乏しい。そのため、スラリーは吸引によって、先ずは隔壁の入側表面から相対的に径の大きな大細孔に導入されてこの大細孔をほぼ埋めたのち、連続する次の細孔に導入されてゆく。ここで、大細孔の表面と流動するスラリーとの間には大きな摩擦力が作用するため、スラリーの細孔導入部から次の細孔との連結部とを繋ぐエリアに存在するスラリーは流動しやすいが、その他のエリアのスラリーは滞留しやすい。すると、表層部(入側セルに面する側の表面近傍)の大細孔内に滞留しているスラリーは、コート量が増えるにつれて押し込まれる形で中細孔および小細孔に侵入し、中細孔および小細孔までも埋めてしまう様子が観察された。その結果、
図5(c)に示すように、例えば、例11のパティキュレートフィルタでは、コート量が60g/Lと相対的に多めであるものの、ウォッシュコート層は比較的入側セルの近傍(例えば隔壁の厚み方向で約30~40%の領域)にしか形成されないことがわかった。
図6の細孔径分布では、例11のパティキュレートフィルタの細孔径分布は、例4の細孔径分布と比較すると全体として大細孔側にシフトし、基材の細孔径分布と頻度は異なるが形状が類似している。このことから、例11では、隔壁の入側セルに面する表面側の大細孔、中細孔および小細孔の全てをほぼ埋めるように局所的にウォッシュコート層が形成されたことがわかった。
【0075】
また、例13~16のパティキュレートフィルタの作製に用いたスラリーは、粘度が低いために隔壁内の細孔の表面と濡れ易く、吸引によって大細孔に留まることなく容易に移動し、毛細管現象によって小細孔にも浸透し易い。その結果、
図5(d)に示すように、例えば、例15のパティキュレートフィルタでは、ウォッシュコート層は、基材の入側表面から出側表面に渡って広く分布するとともに、大細孔よりも小細孔内に優先的に形成されていることがわかった。
図6の細孔径分布では、例15のパティキュレートフィルタの細孔径分布は、例11の細孔径分布と比較して大細孔側にシフトし、かつ頻度が低い。このことからも、例15では、ウォッシュコート層の多くが小細孔から優先的に形成されていることがわかった。
【0076】
<充填率>
次に、下記の表3に示すパティキュレートフィルタの隔壁の断面SEM像に基づき、隔壁の内部細孔の細孔径と、該細孔に保持されたウォッシュコート層の充填率とを前述の方法により測定した。そして、下記の表3に示す細孔径範囲ごとにウォッシュコート層の充填率を算術平均することにより、細孔径5μm以上10μm未満の第1細孔群に保持されたウォッシュコート層の平均充填率Aと、細孔径10μm以上20μm未満の第2細孔群に保持されたウォッシュコート層の平均充填率Bと、細孔径20μm以上の第3細孔群に保持されたウォッシュコート層の平均充填率Cとを算出した。また、第1および第2細孔群(細孔径5μm以上20μm未満)の細孔のうち充填率75%以上の細孔が占める割合Pを算出した。これらの結果を下記の表3の該当欄に示した。
【0077】
【0078】
表3に示すように、粘度η400が200mPa・sのスラリーを用いた例10~12のパティキュレートフィルタは、スラリーが隔壁の内部深くまで流入せず、表層部に留まった。その結果、例えば例10、11のように、コート量を少量に調整することにより、第1および第2細孔群のうち充填率75%以上の細孔が占める割合Pを35個数%以下とすることができることがわかった。しかしながら、高粘度のスラリーを用いる場合、コート量を少量にすると、ウォッシュコート層を隔壁の広い領域に形成することができないという背反が生じる。また、粘度η400が10mPa・sのスラリーを用いた例14~16の触媒体は、スラリーが隔壁の深くにまで流入して裏面側にまで到達したものの、第1細孔群に保持されたウォッシュコート層の平均充填率Aと、第2細孔群に保持されたウォッシュコート層の平均充填率Bと、第3細孔群に保持されたウォッシュコート層の平均充填率Cとの関係がA>B>Cとなり、隔壁の内部細孔のうち細孔径の小さい細孔にウォッシュコート層が優先的に形成されていることが確認された。その結果、全ての例において第1および第2細孔群のうち充填率75%以上の細孔が占める割合Pが35個数%を超えてしまうことがわかった。これに対して、粘度η400が90mPa・sのスラリーを用いた例3、4、6のパティキュレートフィルタは、平均充填率A、B、Cの関係がA<B<Cで、かつ、平均充填率A、Bがいずれも40%以下となり、隔壁の内部細孔のうち細孔径の大きい細孔にウォッシュコート層が優先的に形成されていることが確認された。さらに、例3、4、6のパティキュレートフィルタは、隔壁の裏面側にまでウォッシュコート層を広く形成したうえで、第1および第2細孔群のうちウォッシュコート層の充填率が75%以上の細孔が占める割合Pを35個数%以下に抑えられることがわかった。
【0079】
以上のことから、使用するウォールフロー型基材の細孔径分布に応じて、ウォッシュコート用のスラリーの粘度を適切に微調整することにより、所定の大きさの小細孔群を避けて、所定の大きさの大細孔群に優先的にウォッシュコート層を形成できること、かつ、大細孔を埋めることなく、ウォッシュコート層を形成できることが確認できた。なお、具体的には示していないが、このようなウォッシュコート層を備えるパティキュレートフィルタは、PMの捕集性能と排ガスの浄化性能向上とが高いレベルで両立され得る。
【0080】
<試験例2>
本試験例では、パティキュレートフィルタのウォッシュコート層における貴金属触媒の担持量がPM捕集率に与える影響を確認した。
【0081】
(例2-1)
ウォッシュコート用スラリーを入側セルと出側セルの両方から供給することで、上流側ウォッシュコート層と下流側ウォッシュコート層とを備えるパティキュレートフィルタを作製した。具体的には、基材としては、上記試験例1と同様のウォールフロー型基材を用い、ウォッシュコート用スラリーとしては、試験例1の例1と同様のスラリーであるが、CZ粉末と硝酸パラジウム溶液とを含まないスラリーを用いた。そして、基材の入側の端部から出側に向かって長さLの60%に当たる部分をスラリーに浸漬してから吸引コートを施し、過剰なスラリーをエアブローで除去し、乾燥および焼成することにより、基材の隔壁の内部に上流側ウォッシュコート層を形成した。スラリーの粘度η400は90mPa・s、上流側ウォッシュコート層のコート量は50g/Lとした。上流側ウォッシュコート層の充填率A、B、Cおよび割合Pは試験例1の例3と同等であった。
【0082】
次に、上流側と同じスラリーを用いて、基材の出側の端部から上流側に向かって基材の長さLの60%に当たる部分をスラリーに浸漬してから吸引コートを施し、過剰なスラリーをエアブローで除去し、乾燥および焼成することにより、隔壁の内部に下流側ウォッシュコート層を形成した。下流側ウォッシュコート層のコート量は50g/Lとした。下流側ウォッシュコート層の充填率A、B、Cおよび割合Pは試験例1の例3と同等であった。このような上流側ウォッシュコート層と下流側ウォッシュコート層とは、基材の長さ方向の中心で、基材の長さLの20%に当たる部分が重なるように形成されている。これにより、例2-1のパティキュレートフィルタを得た。パティキュレートフィルタの1個当たりの貴金属触媒量は0gである。
【0083】
(例2-2~2-5)
ウォッシュコート用スラリーとして、試験例1の例1と同様に、硝酸パラジウム溶液を含むスラリーを用いたこと以外は、上記例2-1と同様にして、例2-2~2-5のパティキュレートフィルタを作製した。ただし、スラリー中の硝酸パラジウム溶液の濃度は、基材の単位体積あたりのパラジウム量が、下記表4に示すように、0.2~1.5g/Lとなるように調整した。上流側および下流側のウォッシュコート層の充填率A、B、Cおよび割合Pは例2-1と同等であった。
【0084】
<PM捕集性能>
各例のパティキュレートフィルタのPM捕集性能を評価した。具体的には、各例のパティキュレートフィルタを、それぞれ車両(2Lガソリンエンジン)の排気経路に設置して、当該車両をWLTPによるPhase4のモードで運転した。そして、パティキュレートフィルタを通して排出されたPMの量Xおよび当該パティキュレートフィルタを外した状態で排出されたPMの量Yを測定し、次式:PM捕集率(%)=[(Y-X)/Y]×100;によりPM捕集率を算出した。その結果を下記表4と
図7とに示した。
【0085】
【0086】
表4および
図7に示すように、各例のパティキュレートフィルタは、ウォッシュコート層の平均充填率Aと、平均充填率Bと、平均充填率Cとの関係が、A<B<C、B≦40%であり、かつ、割合Pが35個数%以下という条件を満足している。また、ウォッシュコート層は、上流側も下流側も隔壁の厚さの50%以上を占める領域に形成されていることが確認された。しかしながら、パティキュレートフィルタのPM捕集率は、貴金属触媒の担持量によって大きく異なることがわかった。すなわち、これまでは、ウォッシュコート層が所定の充填率A,B,Cや割合Pを満たすように形成されていれば、パティキュレートフィルタのPMの捕集性能と排ガスの浄化性能向上とは高いレベルで両立できると考えられていた。しかしながら、PM捕集率に着目すると、貴金属触媒の担持量が増えるにしたがい、PM捕集率は低下するという関係が見られる。これは、以下の理由によると推察される。すなわち、PM捕集が進行するにつれてパティキュレートフィルタの細孔にはPMが蓄積されてゆき、PM捕集率は徐々に高まっていく。ここで、細孔内に捕捉されたPMは貴金属触媒と共存することで、通常の運転モードにおいてもPMの燃焼が促進され、PMの蓄積量は減少して増大し難い環境にあると考えられる。その結果、初回の試験におけるPM捕集率についても、貴金属触媒に応じてPM捕集率が低減してしまうと考えられる。以上のことから、PM捕集率を確実に高めるとの観点からは、貴金属触媒は0.2g/L以下と少量に抑えることが、再生までPMを好適に蓄積でき、PM捕集率を高めるために好ましいといえる。なお、貴金属触媒は、例えば0g/Lであってもよいことがわかる。
【0087】
<試験例3>
本試験例では、パティキュレートフィルタにおけるウォッシュコート層のコート量がPM捕集率に与える影響を確認した。
【0088】
(例3-1~3-6)
基材およびウォッシュコート用スラリーとしては、試験例2の例2-1と同様のウォールフロー型基材とスラリー(すなわち、貴金属触媒なし)とを用意した。そして、吸引コート装置を用いて、このスラリーを、基材の排ガス入口側(入側:X1)の端部に供給し、排ガス流出側(出側:X2)の端部から吸引することにより、隔壁の細孔内にスラリーを流入させ、過剰なスラリーをエアブローで除去することで、隔壁の内部にコートした。その後、基材ごと乾燥・焼成することにより、隔壁の細孔内にウォッシュコート層を形成した。スラリーの粘度η400は90mPa・sであり、基材の単位体積あたりのウォッシュコート層のコート量は、下記の表5に示すように、0~130g/Lの間で変化させた。これにより、ウォッシュコート層のない例3-1のパティキュレートフィルタ(すなわち、ベア基材)と、ウォッシュコート層を備えた例3-2~3-6のパティキュレートフィルタとを得た。なお、各例のパティキュレートフィルタは貴金属触媒を含んでいない。
【0089】
例3-2~3-6のパティキュレートフィルタは、ウォッシュコート層についての平均充填率A、B、Cの関係がA<B<Cで、かつ、平均充填率A、Bがいずれも40%以下となり、隔壁の内部細孔のうち細孔径の大きい細孔にウォッシュコート層が優先的に形成されていることが確認された。さらに、第1および第2細孔群のうちウォッシュコート層の充填率が75%以上の細孔が占める割合Pが35個数%以下に抑えられている。また、例3-3~3-6のパティキュレートフィルタについては、ウォッシュコート層が隔壁の入側の表面から反対側の表面にまで達していたのに対し、例3-2のパティキュレートフィルタについては、コート量が25g/Lと少ないことから、ウォッシュコート層の形成領域が隔壁の入側の表面から厚みが50%程度にわたる領域であった。
【0090】
<PM捕集性能>
各例のパティキュレートフィルタのPM捕集性能を評価した。具体的には、各例のパティキュレートフィルタを、それぞれ車両(2Lガソリンエンジン)の排気経路に設置して、当該車両をWLTPによるPhase4のモードで運転した。そして、パティキュレートフィルタを通して排出されたPMの量Xおよび当該パティキュレートフィルタを外した状態で排出されたPMの量Yを測定し、次式:PM捕集率(%)=[(Y-X)/Y]×100;によりPM捕集率を算出した。その結果を下記表5と
図8とに示した。
【0091】
<圧損増加特性>
各例のパティキュレートフィルタの圧損増加特性を評価した。パティキュレートフィルタの圧損とは、当該パティキュレートフィルタに気体を通過させるときの、単位時間・単位流量あたりのエネルギー損失(所要力)に相当する。そこで、各例のパティキュレートフィルタについて、7m
3/minの風量で空気を流通させるときに要する圧力Pxを測定した。そして、例3-1のパティキュレートフィルタ(ベア基材)についての圧力P1に対する、各パティキュレートフィルタについての圧力Pnの割合を、圧損増加率として次式:圧損上昇率(%)=Pn/P1×100;に基づき算出した。その結果を下記表5と
図9とに示した。この値が小さいほど、ウォッシュコート層を形成したことによる圧損の増加が低く抑えられていることを表す。
【0092】
【0093】
表5および
図8に示すように、ウォッシュコート層のコート量が増えるにつれて、パティキュレートフィルタのPM捕集率が高くなる傾向があることが確認できた。コート量は、0g/Lを超えれば、わずかでもウォッシュコート層が形成されることで、PM捕集率が増大する。本例では、ベア基材に対するウォッシュコート層の配置等が適切に制御されていたため、例えば、コート量が25g/L程度と比較的少量であっても、PM捕集率が増大したことを明瞭に確認することができた。また、本例で用いた基材とウォッシュコート層の組み合わせについては、コート量が100g/L程度に達するとPM捕集率の上昇もほぼ上げ止まり、コート量は100g/L程度あれば十分であることがわかった。
【0094】
これに対し、圧損増加率については、ウォッシュコート層のコート量が増えるにつれて概ね線形的に増大する傾向があることが確認できた。圧損増加率を低く抑えるとの観点からは、コート量は少ないほうがよい。これらのことから、コート量は、概ね25g/L以上であって、例えば100g/L以下程度であることで、PM捕集率の増大と圧損増加率の抑制とを両立できるといえる。
【0095】
以上、パティキュレートフィルタ100ならびに該フィルタ100を備えた排ガス浄化装置1について種々の改変例を例示したが、パティキュレートフィルタ100ならびに排ガス浄化装置1の構造は、上述した何れの実施形態にも限定されない。
【0096】
例えば、上述した試験例2では、基材の長さ方向において、上流側ウォッシュコート層20Aが形成されている部分の長さLAと、下流側ウォッシュコート層20Bが形成されている部分の長さLBとが同じであったが、ウォッシュコート層20の構成はこれに限定されるものではない。例えば、下流側ウォッシュコート層20Bが形成されている部分の長さLBは、上流側ウォッシュコート層20Aが形成されている部分の長さLAよりも、長くてもよいし、短くてもよい。また、上流側ウォッシュコート層20Aと下流側ウォッシュコート層20Bとに分けずに、1回のスラリー投入でウォッシュコート層20を形成してもよい。この場合でも、各細孔径範囲ごとの細孔に保持されたウォッシュコート層の平均充填率A、B、Cが前記関係を満たし、かつ、細孔径5μm以上20μm未満の細孔のうち充填率が75%以上である細孔の割合を35個数%以下とすることにより、PMの捕集性能を高度に向上させることができる。
【0097】
また、ウォッシュコート層20に含まれる貴金属触媒として、Rhを用いた例のみを示したが、貴金属触媒は、このパティキュレートフィルタ100が備えられる車両の主用途や主運転状況などと、貴金属触媒の活性特性とを考慮して、適宜変更することができる。
【0098】
また、排ガス浄化装置1の各部材、部位の形状や構造は変更してもよい。
図1に示した例では、フィルタ部6の上流側に触媒部5を設けているが、触媒部5は省略しても構わない。この排ガス浄化装置1は、例えば、ガソリンエンジンなど、排気温度が比較的高い排ガス中の有害成分を浄化する装置として特に好適である。ただし、本発明に係る排ガス浄化装置1は、ガソリンエンジンの排ガス中の有害成分を浄化する用途に限らず、他のエンジン(例えばディーゼルエンジン)から排出された排ガス中の有害成分を浄化する種々の用途にて用いることができる。
【符号の説明】
【0099】
1 排ガス浄化装置
10 基材
12 入側セル
14 出側セル
16 隔壁
18 内部細孔
20 ウォッシュコート層
20A 上流側ウォッシュコート層
20B 下流側ウォッシュコート層
100 パティキュレートフィルタ