(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】環境試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20220124BHJP
【FI】
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2018218108
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000108797
【氏名又は名称】エスペック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】阿部 孔一
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-229905(JP,A)
【文献】特開2014-139586(JP,A)
【文献】特開2000-131361(JP,A)
【文献】特開2017-151021(JP,A)
【文献】特開2008-232680(JP,A)
【文献】特開平11-014255(JP,A)
【文献】特開昭59-211845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物を配置する試験室を有し、当該試験室の内部に所定の環境を人工的に創出することができる環境試験装置において、
前記試験室の内外を実質的に繋ぐレールを有し、
前記レールは一部に着脱可能部があり、前記着脱可能部は、前記試験室内と前記試験室外との境界部分及び/又はその近傍部分を含む位置にあ
り、
前記着脱可能部を取り外した後に装着する詰め物を有することを特徴とする環境試験装置。
【請求項2】
前記試験室の床部には溝があり、前記レールは前記溝内にあり、前記詰め物はブロック状であって、前記レールを取り外した後の前記溝にそのまま、又は変形して合致する形状であることを特徴とする請求項
1に記載の環境試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境試験装置に関するものであり、特に、重量物を被試験物とする環境試験装置として好適なものである。
【背景技術】
【0002】
製品や部品等の性能や耐久性を調べる方策として、環境試験が知られている。環境試験は、環境試験装置と称される設備を使用して実施される。環境試験装置は、例えば高温環境や、低温環境、高湿度環境等を人工的に作り出すものである。
【0003】
環境試験の試験対象は、ICチップの様な小さな物から、自動車や航空機の部品の様な大きなものまである。また数百キログラム以上に及ぶ様な重量物を被試験物とする場合もある。重量物を被試験物とする環境試験装置には、試験室内への被試験物の出し入れを円滑にすることを目的として、試験室の内外に跨がるレールを有するものがある。
即ち試験室の底面から試験室が設置された部屋の床面にかけて、一連のレールが敷設された環境試験装置がある。
【0004】
そしてレールの上に台車(貨車)を設置し、当該台車に被試験物が搭載される。作業者は、被試験物を台車に載せたままの状態で、人力又は動力によって台車を移動させ、試験室の中に設置する。
多くの場合、被試験物を台車に載せたままの状態で、試験室内の環境にさらし、環境試験を行う。
試験を終えると、レールに沿って台車を試験室から引き出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-108712号公報
【文献】特開2014-66593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したレールが敷設された環境試験装置によると、重たい被試験物であっても、試験室内に容易に出し入れすることができる。
しかしながら、従来技術の環境試験装置では、レールは、所謂一本もののレールであり、レールの一端側が試験室内にあり、同じレールの中間部が試験室の内外を跨ぎ、同じレールの他端側が試験室の外にある。
そのためレールによって、試験室の内外の間で熱移動が生じてしまう場合があった。
即ち環境試験は、外気温度とは異なる温度で実施される場合が多く、試験室内の温度は、外気温度とは違う場合が多い。そのためレールを通じて熱伝導が起こり、試験室内の温度環境を乱したり、試験室内の温度環境を維持するために、より多くの電力を消費してしまう場合があった。
【0007】
また試験室が低温環境である場合、レールの試験室内に敷設された部位が冷やされ、熱伝導によってレールの試験室外の部分の温度が低下する傾向となる場合がある。その結果、レールの表面に結露が生じたり、霜付きが発生する場合があった。
試験室が高温環境である場合、レールの試験室外にある部分が高温になりうることを考慮し、作業時に注意する必要が生じる場合があった。
結露等を防止するために、レールに断熱材を取り付けることも考えられるが、レールの形状は複雑であり、これに合致する断熱材を製作し、これを装着するには相当の手間を要する。
【0008】
本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、レールを介した試験室内外の熱移動を抑制することができる環境試験装置を開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するための態様は、被試験物を配置する試験室を有し、当該試験室の内部に所定の環境を人工的に創出することができる環境試験装置において、前記試験室の内外を実質的に繋ぐレールを有し、前記レールは一部に着脱可能部があり、前記着脱可能部は、前記試験室内と前記試験室外との境界部分及び/又はその近傍部分を含む位置にあり、前記着脱可能部を取り外した後に装着する詰め物を有することを特徴とする環境試験装置である。
【0010】
ここで「試験室の内外を実質的に繋ぐレール」とは、例え一部に切れ目があったとしても、車輪が当該切れ目を乗り越えて走行することができるものであることを意味する。
本態様の環境試験装置で採用するレールは、所謂一本もののレールではなく、分割された部材が繋がれたレールである。本態様で採用するレールは、試験室内と試験室外との境界部分に該当する領域や、境界の近傍部分に該当する領域を取り外すことができる。
本態様の環境試験装置を使用して試験を行う場合、試験室内に被試験物を搬入した後に、着脱可能部を取り外す。
その結果、試験室内が試験室外の温度環境とは異なる温度環境となっても、レールが分断されているので、レールによる試験室内外の熱移動が生じにくい。
【0011】
上記した態様においては、着脱可能部を取り外した後に装着する詰め物を有している。
【0012】
前記した詰め物は、断熱材であることが望ましい。
着脱可能部を取り外すと、レールの一部に欠損部ができる。欠損部によって熱伝導は遮断されるが、当該欠損部を介して試験室内外が連通し、通気して試験室内の環境を乱してしまう場合がある。
本態様は、この問題に対処するものであり、欠損部に詰め物を設けることにより、試験室内外の通気を防ぐことができる。
【0013】
上記した態様において、前記試験室の床部には溝があり、前記レールは前記溝内にあり、前記詰め物はブロック状であって、前記レールを取り外した後の前記溝にそのまま、又は変形して合致する形状であることが望ましい。
【0014】
本態様によると、溝を経由した空気の移動を、ブロック状の詰め物で阻止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の環境試験装置では、レールを介した試験室内外の熱移動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態の環境試験装置及び台車(貨車)の斜視図であり、環境試験装置の扉を閉じた状態を示す。
【
図2】
図1の環境試験装置の斜視図であり、環境試験装置の扉を開いた状態を示す。
【
図3】
図1の環境試験装置のレールの平面図であって、(a)は着脱可能部が装着されていてレールが一連に繋がっている状態を示し、(b)は着脱可能部が外されてレールが分断された状態を示し、(c)はレールの欠損部に断熱ブロックが装着された状態を示す。
【
図4】
図1の環境試験装置の扉近傍の断面斜視図であって、着脱可能部が装着されていてレールが一連に繋がっている状態を示す。
【
図5】
図1の環境試験装置の扉近傍の断面斜視図であって、着脱可能部が外されてレールが分断された状態を示す。
【
図6】
図1の環境試験装置の扉近傍の断面斜視図であって、レールの欠損部に断熱ブロックが装着された状態を示す。
【
図7】試験室内に被試験物を搬入する際における環境試験装置の扉部近傍の断面図であり、(a)は扉を開いてその扉の近傍を台車が通過する際の様子を示し、(b)は扉を開いた扉部近傍を台車が通過した後にレールの着脱可能部を外した状態を示し、(c)はレールの欠損部に断熱ブロックを装着した状態を示し、(d)は扉を閉じた状態を示す。
【
図8】本発明の他の実施形態の環境試験装置の扉近傍の断面斜視図であって、着脱可能部が装着されていてレールが一連に繋がっている状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
本実施形態の環境試験装置1は、大型の重量物を試験する用途に設計されたものである。
環境試験装置1は、公知のそれと同様に、断熱壁2によって覆われた試験室5(
図2)を有している。試験室5は、被試験物102を設置する空間である。
環境試験装置1は、図示しない空調手段を有しており、試験室5内に所望の環境を人工的に創出することができる。
【0018】
空調手段は、公知のそれと同様、加湿装置、冷却装置及び加熱ヒータ(加熱装置)等を有している(いずれも図示せず)。また試験室5と空調手段との間で空気を循環させるための送風機(図示せず)を備えている。
試験室5内には図示しない温度センサーと湿度センサーが設けられており、温度センサーと湿度センサーの検出値が、空調手段を構成する機器にフィードバックされ、試験室5内の温度や湿度が所望の値に調節される。
空調手段は試験室5と一体であってもよく、また個別の装置であってもよい。
【0019】
試験室5の前面には、扉6が設けられている。本実施形態では、2枚の扉片7によって構成される観音開き形式の扉6である。扉の形式は、任意であり、一枚扉でもよく、引き戸や昇降扉であってもよい。
【0020】
本実施形態の環境試験装置1では、試験室5内に被試験物102を出し入れするために一対のレール10が敷設されている。
レール10は、試験室5の内外に跨がって敷設されている。
即ち試験室5の底面11から環境試験装置1が設置された部屋の床(以下 単に「部屋の床」と称する)12に掛けて、溝13が平行に2本形成されている。溝13は、試験室5の底面11から部屋の床12に掛けて連続している。
【0021】
そして当該溝13内にそれぞれレール10が敷設されている。
本実施形態のレール10は、
図2、
図3、
図4の様に、3分割されたレール片15、16、17によって構成されている。
レール片15、16、17の断面形状はいずれも同じであり、
図4の様に、頭部20、腹部21、底部22によって構成されている。本実施形態では、
図4の拡大図の様に、レール片15、16、17の底部22に貫通孔18が設けられている。また溝13の底面には、ネジ(雌ねじ)が埋設されたネジ孔25がある。
各レール片15、16、17は、
図4の拡大図の様に、溝13のネジ孔25にレール片の貫通孔18を合致させ、ボルト26が挿通されて溝13に固定されている。
【0022】
本実施形態では、3分割されたレール片15、16、17の内、レール片15は、試験室5の底面11に形成された溝13に敷設されており、レール片17は、部屋の床12に形成された溝13に敷設されている。レール片16は、
図4の様に、試験室5と部屋との境界部分にある。即ちレール片16の位置は、
図4の様に、レール片15とレール片17とに挟まれた中間位置であり、且つ環境試験装置1の扉6の真下に相当する位置にある。
【0023】
3本のレール片15、16、17が総て固定された状態においては、レール片15、16、17は直線的に配置され、実質的に一本のレール10として機能する。
本実施形態では、レール片15は、試験室5の底面11に形成された溝13に敷設されており、レール片16は扉6の真下であって試験室5の底面11と部屋の床12との境界部分にあり、レール片17は部屋の床12に形成された溝13にある。
そのため3本のレール片15、16、17が総て固定された状態においては、レール10は、実質的に試験室5の内外を繋ぎ、台車100の車輪101は、レール10上に乗ってレール片15、16、17の上を走行することができる。
【0024】
本実施形態では、前記した様にレール10が3分割されたレール片15、16、17によって構成されているので、中間のレール片16だけを取り外すことができる。
この様に、本実施形態の環境試験装置1では、中間のレール片16が着脱可能部となっている。即ち中間のレール片16は、両端側のレール片15、レール片17から独立したものであり、ボルト26によって溝13に固定されているから、レール片16を固定しているボルト26を外すことによって、
図3(b)、
図5の様に中間のレール片16だけを取り除くことができる。
本実施形態の環境試験装置1では、中間のレール片16が着脱可能部を構成するレール片である。
【0025】
次に、環境試験装置1の試験室5に被試験物102を搬入する方法について説明する。 試験室5内に被試験物102を搬入する際には、
図2、
図3(a)、
図4の様に、中間部のレール片(着脱可能部を構成するレール片)16を所定の位置に設置し、3本のレール片15、16、17によって構成されるレール10によって、試験室5の内外を実質的に繋いだ状態としておく。
【0026】
被試験物102は、台車100に載置する。台車100は、
図1の様に試験室5の外にあり、レール10の一部であって、部屋の床12に敷設された領域に載置されている。
そして
図2の様に扉6を開き、台車100をレール10に沿って試験室5内に押し入れる。台車100の車輪101は、
図7(a)の様にレール片17から着脱可能部を構成する中間のレール片16に乗り移り、さらに中間のレール片16から試験室5内のレール片15に乗り移る。
【0027】
台車100が試験室5内に搬入されると、
図3(b)、
図5、
図7(b)の様に、中間部のレール片16を外す。そして
図3(c)、
図6、
図7(c)の様に、レールの欠損部23を含む溝13に詰め物30を入れ、溝13の試験室5側を部屋の床12側から遮蔽する。
【0028】
この状態で、
図1、
図7(d)の様に扉6を閉じる。扉6が閉じられると、
図6、
図7(d)の様に、扉6の下部の位置で溝13が遮蔽され、扉6と詰め物30によって、試験室5の内外が遮蔽され、試験室5内が気密状態となる。
この状態で、図示しない空調手段を起動し、試験室5内の環境を人工的に所望の環境に調節して環境試験を実施する。
【0029】
本実施形態の環境試験装置1では、環境試験中においては、レール10が、試験室5と部屋との境界部分で分断されており、試験室5内の熱や冷熱が熱伝導によって試験室5外のレール片17に伝導されることが抑制される。
即ち試験中においては、着脱可能部を構成する中間のレール片16が取り外されており、レール10には欠損部23がある。そのためレール10の試験室5内側と試験室5の外部側は、繋がっておらず、レール10を介しての熱伝導は起こらない。
例えば試験室5内が高温であっても、試験室5外のレール10(レール片17)が高温状態となることが防止される。同様に、試験室5内が低温であっても、試験室5外のレール10(レール片17)の温度が低下することが防止され、結露が防止される。
【0030】
次に、詰め物30について説明する。本実施形態では、詰め物は断熱性を有する素材で作られたものであり、ブロック状である。詰め物30は、着脱可能部を構成する中間のレール片16を取り外した後、溝13に詰め込まれて溝13の前後を遮蔽するものである。詰め物30は、例えばその断面形状が、溝13と同一であってもよく、多少異なる形状であってもよい。例えば、詰め物30の一部又は全部が変形可能であり、溝13に押し込むことよって変形して溝13と合致する形状であってもよい。
【0031】
以上説明した実施形態では、環境試験装置1の扉6の真下に相当する位置に、着脱可能部を構成するレール片16が配置されている。この様に、着脱可能部を構成するレール片16は、試験室5の内外の境界部を含む
位置にあることが望ましいが、着脱可能部は、
図8の様に、試験室5内であって、境界部の近傍にあってもよい。
着脱可能部が試験室5の外にあることは推奨されないが、これを排除するものではない。
着脱可能部は、試験室5の内外の境界部を跨ぐものであってもよく、境界部の一部にあってもよく、境界部の一部又は全部を含む試験室5側にあってもよく、境界部の一部又は全部を含む部屋の床12側にあってもよい。
また着脱可能部は、境界部に位置せず、境界部の近傍にあってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 環境試験装置
5 試験室
6 扉
7 扉片
10 レール
13 溝
16 レール片(着脱可能部を構成するレール片)
30 詰め物
100 台車
102 被試験物