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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】広帯域調整可能合成器システム
(51)【国際特許分類】
   H03H 7/46 20060101AFI20220124BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20220124BHJP
   H03H 7/48 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
H03H7/46 A
H04B1/04 B
H03H7/48 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018506990
(86)(22)【出願日】2016-08-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-01
(86)【国際出願番号】 US2016046024
(87)【国際公開番号】W WO2017027467
(87)【国際公開日】2017-02-16
【審査請求日】2019-07-19
(31)【優先権主張番号】14/824,619
(32)【優先日】2015-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504189151
【氏名又は名称】シュアー アクイジッション ホールディングス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SHURE ACQUISITION HOLDINGS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ショプコ ロバート
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-139208(JP,A)
【文献】特表2011-530254(JP,A)
【文献】特表2013-545400(JP,A)
【文献】特開2015-029238(JP,A)
【文献】特開平05-102899(JP,A)
【文献】特開平11-041118(JP,A)
【文献】国際公開第2015/022839(WO,A1)
【文献】特開平09-069799(JP,A)
【文献】特表2014-518026(JP,A)
【文献】実開昭62-129822(JP,U)
【文献】実開昭56-116738(JP,U)
【文献】特開2008-193286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H7/30-H03H7/54
H04B1/02-H04B1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調整可能合成器システムであって、
第1、第2及び第3のポートを有し、前記第1のポートにおいて受け取られた、第1の周波数で変調されたオーディオ信号を含む第1の無線周波数(RF)信号と、前記第2のポートにおいて受け取られた、前記第1の周波数とは異なる周波数である第2の周波数で変調されたオーディオ信号を含む第2のRF信号とを合成して、前記第3のポートにおける合成RF信号にするように構成された合成器と、
前記合成器の第3のポートに結合された調整可能静電容量ネットワークと、
前記調整可能静電容量ネットワークに結合された入力部と、送信アンテナに結合する出力部とを有するバンドパスフィルタと、
を備えることを特徴とする調整可能合成器システム。
【請求項2】
前記調整可能静電容量ネットワークは、
前記合成器の第3のポート及び接地に結合された第1の調整可能コンデンサと、
前記バンドパスフィルタの入力部及び接地に結合された第2の調整可能コンデンサと、を含む、請求項1に記載の調整可能合成器システム。
【請求項3】
前記合成器は、ウィルキンソン合成器を含む、
請求項2に記載の調整可能合成器システム。
【請求項4】
前記ウィルキンソン合成器は、出力トランス脚部を有する二段ウィルキンソン合成器を含む、
請求項3に記載の調整可能合成器システム。
【請求項5】
前記出力トランス脚部は、
接地に対して前記第1の調整可能コンデンサと並列である第1のコンデンサと、
接地に対して前記第2の調整可能コンデンサと並列である第2のコンデンサと、
前記第1のコンデンサ、前記第2のコンデンサ、前記第1の調整可能コンデンサ及び前記第2の調整可能コンデンサに結合されたインダクタと、
を含む、請求項4に記載の調整可能合成器システム。
【請求項6】
前記バンドパスフィルタは、個別部品で構成される、
請求項1に記載の調整可能合成器システム。
【請求項7】
前記第1及び第2の調整可能コンデンサの各々は、デジタル調整可能コンデンサを含む、
請求項2に記載の調整可能合成器システム。
【請求項8】
前記デジタル調整可能コンデンサは、微小電気機械コンデンサを含む、
請求項7に記載の調整可能合成器システム。
【請求項9】
前記デジタル調整可能コンデンサは、少なくとも1つのダイオードを含む切替ディスクリートコンデンサを含む、
請求項7に記載の調整可能合成器システム。
【請求項10】
前記第1及び第2の調整可能コンデンサの容量値は、前記第1のRF信号の前記第1の周波数と前記第2のRF信号の前記第2の周波数とに基づいて決定される、
請求項2に記載の調整可能合成器システム。
【請求項11】
前記第1及び第2の調整可能コンデンサと通信するプロセッサをさらに備え、該プロセッサは、
前記第1のRF信号の前記第1の周波数と前記第2のRF信号の前記第2の周波数とを受け取り、
前記第1のRF信号の前記第1の周波数と前記第2のRF信号の前記第2の周波数とに基づいて前記第1及び第2の調整可能コンデンサの容量値をそれぞれ決定し、
前記第1及び第2の調整可能コンデンサの前記容量値を設定する、
ように構成される、請求項10に記載の調整可能合成器システム。
【請求項12】
前記第1及び第2の調整可能コンデンサと通信するプロセッサをさらに備え、該プロセッサは、
前記送信アンテナに関連するアンテナ負荷データを受け取り、
前記アンテナ負荷データに基づいて前記第1及び第2の調整可能コンデンサの容量値を決定し、
前記第1及び第2の調整可能コンデンサの前記容量値を設定する、
ように構成される、請求項2に記載の調整可能合成器システム。
【請求項13】
第1の周波数で変調されたオーディオ信号を含む第1の無線周波数(RF)信号と、前記第1の周波数とは異なる周波数である第2の周波数で変調されたオーディオ信号を含む第2のRF信号とを合成する方法であって、
合成器の第1のポートにおいて前記第1のRF信号を受け取り、前記合成器の第2のポートにおいて前記第2のRF信号を受け取るステップと、
前記合成器の出力ポートに結合された調整可能静電容量ネットワークの容量値を決定するステップと、
前記調整可能静電容量ネットワークの前記決定された容量値を設定するステップと、
前記合成器を用いて前記第1のRF信号と前記第2のRF信号とを合成して、前記合成器の前記出力ポートにおける合成RF信号にするステップと、
前記調整可能静電容量ネットワークに結合された入力部と、送信アンテナに結合する出力部とを有するバンドパスフィルタを用いて、前記合成RF信号をバンドパスフィルタ処理してフィルタ処理済み合成RF信号にするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記調整可能静電容量ネットワークの前記容量値を決定するステップは、プロセッサを用いて、前記第1のRF信号の前記第1の周波数と前記第2のRF信号の前記第2の周波数とに基づいて前記調整可能静電容量ネットワークの前記容量値をそれぞれ決定するステップを含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記調整可能静電容量ネットワークの前記容量値を決定するステップは、前記プロセッサを用いて、前記プロセッサと通信するメモリに記憶されたルックアップテーブルに前記第1及び第2の周波数について問い合わせを行うステップを含む、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記調整可能静電容量ネットワークは、
前記合成器の前記出力ポート及び接地に結合された第1の調整可能コンデンサと、
前記バンドパスフィルタの前記入力部及び接地に結合された第2の調整可能コンデンサと、
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記調整可能静電容量ネットワークの前記容量値を決定するステップは、プロセッサを用いて、前記第1のRF信号の前記第1の周波数と前記第2のRF信号の前記第2の周波数とに基づいて前記第1及び第2の調整可能コンデンサの容量値をそれぞれ決定するステップを含み、
前記調整可能静電容量ネットワークの前記決定された容量値を設定するステップは、前記プロセッサを用いて、前記第1及び第2の調整可能コンデンサの前記決定された容量値を設定するステップを含む、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記調整可能静電容量ネットワークの前記容量値を決定するステップは、RFスペクトルにおける相互変調の測定値に基づいて前記調整可能静電容量ネットワークの容量値を決定するステップを含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記調整可能静電容量ネットワークの前記容量値を決定するステップは、前記送信アンテナに関連するアンテナ負荷データに基づいて前記調整可能静電容量ネットワークの容量値を決定するステップを含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記合成器は、ウィルキンソン合成器を含む、
請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2015年8月12日に出願された米国特許出願第14/824,619号の利益を主張するものであり、この文献の内容は全体が引用により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本出願は、一般に広帯域調整可能合成器システム(wideband tunable combiner system)に関する。具体的には、本出願は、二重周波数ダイバーシティ送信機における分離を改善して相互変調を低減する調整可能静電容量ネットワーク(tunable capacitance network)を含む広帯域調整可能合成器システムに関する。
【背景技術】
【0003】
オーディオ制作では、テレビ番組、ニュース放送、映画、ライブイベント及びその他のタイプの製作物などの製作物の音を取り込み、録音して提供するために、マイク、無線オーディオ送信機、無線オーディオ受信機、録音機及び/又ミキサを含む多くの構成要素の使用が必要となり得る。通常は、製作物の音をマイクが取り込み、この音がマイク及び/又は無線オーディオ送信機から無線オーディオ受信機に無線で送信される。無線オーディオ受信機は、クルーメンバが録音及び/又はミキシングを行うための、プロダクションサウンドミキサなどの録音機及び/又はミキサに接続することができる。これらの録音機及び/又はミキサには、クルーメンバがオーディオレベル及びタイムコードをモニタできるように、コンピュータ及びスマートフォンなどの電子装置を接続することができる。
【0004】
無線オーディオ送信機、無線オーディオ受信機、無線マイク及びその他のポータブル無線通信装置は、変調オーディオ信号、データ信号及び/又は制御信号などのデジタル又はアナログ信号を含む無線周波数(RF)信号を送信するためのアンテナを含む。ポータブル無線通信装置のユーザとしては、舞台出演者、歌手、俳優及びニュースレポータなどが挙げられる。1つの一般的なタイプのポータブル無線通信装置に、通常はベルトクリップ、ストラップ、テープなどでユーザの身体に固定される無線ボディパック送信機がある。別の一般的なタイプのポータブル無線通信装置には、ユーザの手に握られる、一体型送信機及びアンテナを含む無線ハンドヘルドマイクがある。
【0005】
無線送信機は、周波数ダイバーシティを利用して、いずれも同じオーディオ信号を含む2つの別個の周波数の2つのRF信号を1つのアンテナ上で合成RF信号の形で同時に送信することができる。これにより、合成RF信号を受け取る無線受信機が、内在する一方又は両方のRF信号を用いて確実に途切れなくオーディオ信号を処理できるようにすることができる。例えば、一方の周波数における一方のRF信号に干渉が働く場合、無線受信機は、他方の周波数における他方のRF信号を利用することができる。従って、周波数ダイバーシティを利用する無線送信機は、オーディオ信号を2つの異なる周波数の非干渉性RF信号に変調した後に、これらの2つのRF信号を合成RF信号に合成して単一のアンテナ上で送信することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2015/0162897号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
2つの非干渉性RF信号を合成する際には、スペクトル効率が高くなり、すなわちスペクトルの使用が最適になるという理由で、これらの2つのRF信号をできるだけ互いに分離して相互変調を低減することが望ましい。従って、生成物の相互変調が大きいと、他の用途に利用できるスペクトルが減少するとともに干渉が生じ、及び/又は同じスペクトルを共有する他の無線送信機のオーディオ明瞭性が低下する可能性がある。例えば、ウィルキンソン合成器を用いた2つのRF信号の合成は、RF信号間の抵抗を利用して分離を高め、相互変調を低減する。通常、ウィルキンソン合成器は、特定の用途のニーズに応じて単一段又は複数段で実装される。しかしながら、ウィルキンソン合成器は、高い分離をもたらすことはできるが帯域幅に制限があり、特定の用途及び環境での使用に適さない場合もある。具体的に言えば、典型的なウィルキンソン合成器の制限された帯域幅は、無線送信機による利用可能なスペクトルの活用を妨げ、従ってスペクトル効率が低くなり得る。また、多段ウィルキンソン合成器の出力部におけるフィルタは、RF信号間の十分な分離と、合成器の段間のインピーダンスバランスとを維持できる一方で、所望の送信機帯域幅を達成する能力に影響を及ぼすこともある。
【0008】
従って、これらの課題に対処する合成器システムに可能性がある。具体的には、二重周波数ダイバーシティ送信機における分離を改善して相互変調を低減する調整可能静電容量ネットワークを含む広帯域調整可能合成器システムに可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、とりわけ(1)周波数ダイバーシティ送信機において分離を最適化して相互変調を低減した状態で非干渉性RF信号を合成し、(2)広い動作帯域幅を維持し、(3)送信機のスペクトル効率及び性能を改善し、(4)システム内の合成器の段間のインピーダンスのバランスを取る、ように設計された調整可能合成器システム及び方法を提供することによって上述の問題を解決することを目的とする。
【0010】
ある実施形態では、調整可能合成器システムが、第1、第2及び第3のポートを有し、第1のポートにおいて受け取られた第1のRF信号と第2のポートにおいて受け取られた第2のRF信号とを合成して第3のポートにおける合成RF信号にするように構成できる合成器を含むことができる。第1のRF信号及び第2のRF信号の各々は、第1の周波数及び第2の周波数で変調されたオーディオ信号をそれぞれ含むことができる。調整可能合成器システムは、合成器の第3のポートに結合された調整可能静電容量ネットワークと、調整可能静電容量ネットワークに結合された入力部と送信アンテナに結合する出力部とを有するバンドパスフィルタとを含むこともできる。
【0011】
別の実施形態では、第1のRF信号と第2のRF信号とを合成する方法が、合成器の第1のポートにおいて受け取られた第1のRF信号と合成器の第2のポートにおいて受け取られた第2のRF信号とを合成して、合成器の第3のポートにおける合成RF信号にするステップを含むことができる。第1のRF信号及び第2のRF信号の各々は、第1の周波数及び第2の周波数で変調されたオーディオ信号をそれぞれ含むことができる。この方法は、合成器の第3のポートに結合された調整可能静電容量ネットワークの容量値(capacitance value)を決定するステップと、調整可能静電容量ネットワークの決定された容量値を設定するステップと、バンドパスフィルタを用いて合成RF信号をバンドパスフィルタ処理してフィルタ処理済み合成RF信号にするステップとを含むこともできる。バンドパスフィルタは、調整可能静電容量ネットワークに結合された入力部と送信アンテナに結合する出力部とを有することができる。
【0012】
本発明の原理を使用できる様々な方法を示す例示的な実施形態を記載する以下の詳細な説明及び添付図面からは、これらの及びその他の実施形態、並びに様々な置換及び態様が明らかになり、さらに十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】いくつかの実施形態による、調整可能合成器システムを含むRF送信機の例図である。
図2】いくつかの実施形態による調整可能合成器システムの例図である。
図3】いくつかの実施形態による、出力トランス脚部を有する二段ウィルキンソン合成器の例図である。
図4】いくつかの実施形態による調整可能合成器システムの詳細な例図である。
図5】いくつかの実施形態による、調整可能合成器システムを用いてRF信号を合成する動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明は、本発明の原理に従う本発明の1又は2以上の特定の実施形態を説明し、図示し、例示するものである。この説明は、本明細書で説明する実施形態に本発明を限定するためではなく、むしろ当業者が本発明の原理を理解した上でこれらの原理を応用し、本明細書で説明する実施形態のみならず、これらの原理に基づいて想起される他の実施形態も実施できるように、本発明の原理の説明及び教示のために行うものである。本発明の範囲は、文言上、又は均等論の下で添付の特許請求の範囲に含まれる可能性のある全ての実施形態を対象とすることが意図されている。
【0015】
なお、説明及び図面では、類似する又は実質的に同様の要素には同じ参照数字を付すことができる。しかしながら、例えば異なる数字を付した方が説明が明確になるような場合には、これらの要素に異なる数字を付すこともある。また、本明細書に示す図面は必ずしも縮尺通りではなく、場合によっては特定の特徴をより明確に示すために比率を誇張していることもある。このような表示及び作図手法は、必ずしも根底にある本質的な目的に関与するものではない。上述したように、本明細書は、本明細書で教示され当業者に理解される本発明の原理に従って全体として受け取られ解釈されるように意図されている。
【0016】
本明細書で説明する調整可能合成器システムは、周波数ダイバーシティRF送信機においてRF信号を最適に分離し、広い動作帯域幅を維持して相互変調を低減しながら、非干渉性RF信号を合成RF信号に合成して単一のアンテナ上で送信するために利用することができる。この調整可能合成器システムは、システムに含まれる合成器の段間のインピーダンスのバランスを取るのに役立つこともできる。調整可能合成器システム内の調整可能静電容量ネットワークが、合成器の段間反射を操作することによってRF信号間の分離の能動的な調整を可能にする。従って、この調整可能合成器システムは、RF送信機が利用可能なスペクトルを生かせるように送信機のスペクトル効率及び性能を改善して送信機の帯域幅を増やすことができる。
【0017】
図1は、調整可能合成器システム112を含むRF送信機100の実施形態の例図である。RF送信機100は、アンテナ114上で合成RF信号を送信する周波数ダイバーシティ送信機とすることができる。合成RF信号は、各々が同じオーディオ信号を含む2つのRF信号で構成することができる。オーディオ信号は、マイク又は再生装置などの音源102によって検出及び/又は生成することができる。例えば、音源がマイクである場合には、音を検出してオーディオ信号に変換することができる。音源102は、RF送信機100によって変調され送信されるオーディオ信号を生成することができる。当業で周知のように、周波数ダイバーシティを利用するRF送信機100では、音源102によって生成されたオーディオ信号を送信機モデム103が受け取り、処理し、変換して同相(I)信号と直交位相(Q)信号とを生成することができる。その後、別個のRF変調器104、108が、I信号及びQ信号を受け取ることができる。RF変調器104、108は、2つの異なる周波数におけるアナログ又はデジタル変調スキームに従ってオーディオ信号を変調することができる。例えば、オーディオ信号は、473MHz及び479MHzでRF信号に変調することができるが、他の好適な周波数で変調することもできる。いくつかの実施形態では、RF送信機100が、UHF帯域における25%比帯域よりも大きな比帯域で動作することができる。
【0018】
RF変調器104、108によって生成された2つのRF信号は、対応する増幅器106、110によってそれぞれ増幅することができる。これらの2つの増幅RF信号を調整可能合成器システム112によって合成することにより、2つの増幅RF信号を含む合成RF信号をアンテナ114上で送信できるようになる。このようにすると、合成RF信号を受け取るRF受信機は、内在する増幅RF信号の複数の周波数に起因してオーディオ信号を途切れなく処理する可能性が高くなると考えられる。なお、図1に示すRF送信機100は単純化されており、本開示に直接関連しないスイッチ、発振器、シンセサイザなどの他の構成要素(図示せず)を含むこともできる。
【0019】
図2は、合成器206と、インダクタ208と、調整可能静電容量ネットワーク210と、バンドパスフィルタ216とを含む調整可能合成器システム112の実施形態の例図である。調整可能合成器システム112は、合成RF信号を送信するアンテナ114に結合することができる。2つのポート202、204は、調整可能合成器システム112によって合成すべきRF信号を受け取る図2に示していない構成要素(例えば、図1に示す増幅器106、110)に結合することができる。上述したように、各RF信号は同じオーディオ信号を含むが、異なる周波数で変調される。ポート202、204において受け取られたRF信号は、合成器206が受け取ることができる。合成器206は、いくつかの実施形態では二段ウィルキンソン合成器とすることができ、2つのRF信号を合成RF信号に合成して出力することができる。他の実施形態では、合成器206を、ディスクリートブランチライン合成器又はディスクリートハイブリッド合成器とすることもできる。
【0020】
調整可能静電容量ネットワーク210は、2つの調整可能コンデンサ212、214を含むことができる。一方の調整可能コンデンサ212は、合成器206の出力部及び接地に結合することができ、他方の調整可能コンデンサ214は、バンドパスフィルタ216の入力部及び接地に結合することができる。従って、調整可能コンデンサ212、214は、可変シャントコンデンサとすることができる。調整可能コンデンサ212、214間には、インダクタ208が結合される。以下でさらに詳細に説明するように、インダクタ208は、合成器206の出力トランス脚部の一部である。バンドパスフィルタ216は、RF送信機100によって送信される周波数帯の範囲外の不要な信号を除去して減衰させることにより、合成器206からの合成RF信号をフィルタ処理してフィルタ処理済み合成RF信号にすることができる。例えば、バンドパスフィルタ216によって除去され減衰される信号は、増幅器によって生成された第2高調波などのスプリアス発射を含むことができる。フィルタ処理済み合成RF信号は、バンドパスフィルタ216によって出力され、アンテナ114上で送信することができる。
【0021】
調整可能静電容量ネットワーク210及びインダクタ208は、合成器206におけるRF信号間の分離をより広い動作帯域幅にわたって効果的に調整できるようにする。具体的には、調整可能コンデンサ212、214の容量値を適切に選択することによって、合成器206におけるRF信号間の分離を改善することができる。さらに、調整可能コンデンサ212、214の容量値を適切に選択することによって、合成器206のソースインピーダンスZSとバンドパスフィルタ216の負荷インピーダンスZLとの間の段間整合を改善することもできる。
【0022】
調整可能コンデンサ212、214は、プロセッサがシリアルインターフェイス又はその他の制御ポートなどを通じて制御できるデジタル調整可能コンデンサとすることができる。デジタル調整可能コンデンサは、例えば微小電気機械コンデンサ、及び/又は少なくとも1つのダイオードを用いた切替ディスクリートコンデンサを含むことができる。調整可能コンデンサ212、214は、例えばPeregrine Semiconductor社から市販されているPE64101デジタル調整可能コンデンサとすることができる。
【0023】
1つの実施形態では、調整可能コンデンサ212、214の容量値をRF信号の周波数に基づいて決定することができる。例えば、プロセッサは、RF信号の周波数を最大限に分離する好適な調整可能コンデンサ212、214の容量値が決定されるように、これらの周波数についてルックアップテーブルに問い合わせを行うことができる。考えられる調整可能コンデンサ212、214の容量値は予め決定し、考えられるRF信号の周波数に関連するものとしてルックアップテーブルに記憶しておくことができる。このルックアップテーブルは、例えばプロセッサと通信するメモリに記憶することができる。
【0024】
別の実施形態では、調整可能コンデンサ212、214の容量値を、RFスペクトルの測定値に基づいて能動的に制御して決定することができる。例えば、RFスペクトルを連続的にスキャンし、モニタし、分析して、相互変調値を測定することができる。この測定された相互変調値に基づいて、調整可能コンデンサ212、214の好適な容量値を相互変調積が最小になるように決定することができる。
【0025】
さらなる実施形態では、調整可能コンデンサ212、214の容量値を、アンテナ114に関連するアンテナ負荷データに基づいて能動的に制御して決定することができる。例えば、使用するRF信号の周波数を最大限に分離する好適な調整可能コンデンサ212、214の容量値が決定されるように近接場RF信号を検知することができる。同一出願人による米国特許出願公開第2015/0162897号には、アンテナ負荷を検知するための適応的自己同調型(adaptive self-tunable)アンテナシステムの実施形態が記載されており、この文献は全体が引用により本明細書に組み入れられる。
【0026】
図4は、合成器206及びバンドパスフィルタ216を構成する個別部品のさらなる詳細を含む調整可能合成器システム112の実施形態の例図である。上述したように、2つのポート202、204は、図1に示す増幅器106、110などの、調整可能合成器システム112の外部からのRF信号を受け取ることができる。このRF信号は、調整可能合成器システム112によって、具体的には合成器206によって合成RF信号に合成することができる。合成器206は、図3及び図4に示すような出力トランス脚部306を有する個別の二段ウィルキンソン合成器とすることができる。二段ウィルキンソン合成器は、RF信号を合成RF信号に合成する(図3にλ/4で示す)1/4波長伝送線を含むことができる。1/4波長伝送線の各区分は、個別のインダクタ-コンデンサ(LC)πトポロジにおいて実装することができる。
【0027】
具体的に言えば、合成器206は、ポート202上で受け取ったRF信号のための(インダクタL4及びコンデンサC6を使用する)1/4波長伝送線の第1の区分と、ポート204上で受け取ったRF信号のための(インダクタL5及びコンデンサC8を使用する)1/4波長伝送線の第1の区分とを含む第1の段302を含むことができる。合成器206は、ポート202上で受け取ったRF信号のための(インダクタL2及びコンデンサC3を使用する)1/4波長伝送線の第2の区分と、ポート204上で受け取ったRF信号のための(インダクタL3及びコンデンサC5を使用する)1/4波長伝送線の第2の区分とを含む第2の段304をさらに含むことができる。ポート202、204において受け取られた2つのRF信号間の分離は、これらの区分間の抵抗器-コンデンサ(RC)バンク(すなわち、Z1:第1の段302における抵抗器R2-コンデンサC7、及びZ2:第2の段304における抵抗器R1-コンデンサC4)によって決定される抵抗によって定めることができる。第1の段302及び第2の段304における構成要素の値は、合成器206にとって最適な挿入損失及び反射損失をもたらすように選択することができる。
【0028】
合成器206は、インダクタ208とコンデンサC1及びC2とを含む出力トランス脚部306も含む。図4に示すように、出力トランス脚部306は、調整可能静電容量ネットワーク210に結合される。具体的に言えば、コンデンサC2は、接地に対して調整可能コンデンサ212と並列であり、コンデンサC1は、接地に対して調整可能コンデンサ214と並列である。上述したように、調整可能コンデンサ212、214の容量値の好適な値を選択すると、調整可能合成器システム112は、合成器206の第1及び第2の段302、304におけるRF信号を最適に分離しながら広い帯域を有することができる。図4に示すように、バンドパスフィルタ216は、合成器206と調整可能静電容量ネットワーク210とに結合され、インダクタLp、Ls、Ltと、ディスクリートコンデンサCs、Ctとで構成される。コンデンサCpは、バンドパスフィルタ216とアンテナ114との間、及びバンドパスフィルタ216と合成器112の他の構成要素との間の阻止コンデンサとしての役割を果たす。
【0029】
調整可能合成器システム112の個別部品の好適な値は、ポート202、204からアンテナ114への挿入損失が最小になるようにシミュレーション及び評価に基づいて決定することができる。これらのシミュレーション及び評価は、ポート202とポート204との間の分離の共振周波数の決定に利用することもできる。調整可能静電容量ネットワーク210(すなわち、調整可能コンデンサ212、214)を使用すると、ポート202、204からアンテナ114までの挿入損失に対する影響を最小限に抑えながら、ポート202とポート404との間の分離に対して共振周波数を変化させることができる。
【0030】
図5に、調整可能合成器システム112を用いてRF信号を合成する処理500の実施形態を示す。処理500では、フィルタ処理済み合成RF信号をアンテナ上で送信することができる。フィルタ処理済み合成RF信号は、それぞれが1つのオーディオ信号を含む異なる周波数の2つのRF信号を含むことができる。処理500のステップのいずれか、一部又は全部は、1又は2以上のプロセッサ及び/又はその他の処理要素(例えば、アナログ-デジタルコンバータ、暗号化チップなど)によって実行することができる。処理500のステップのいずれか、一部又は全部は、1又は2以上の他のタイプの構成要素(例えば、メモリ、入力及び/又は出力装置、送信機、受信機、バッファ、ドライバ、個別部品など)をプロセッサ及び/又はその他の処理要素と共に利用して実行することもできる。プロセッサ及び/又はその他の処理要素は、調整可能合成器システム112及び/又はRF送信機100内の他の機能を実行することもできる。
【0031】
ステップ502において、調整可能合成器システム内の合成器において2つのRF信号を受け取ることができる。これらの2つのRF信号の各々は、例えば異なる周波数におけるアナログ又はデジタル変調スキームに従って変調されたオーディオ信号を含むことができる。処理500では、2つのRF信号が合成器によって合成される。ステップ504において、調整可能静電容量ネットワークの容量値を決定することができる。調整可能静電容量ネットワークは、合成RF信号を出力する合成器の出力ポートに結合することができる。ステップ506において、決定された容量値を調整可能静電容量ネットワークに設定することができる。調整可能静電容量ネットワークの容量値は、広い動作帯域幅をもたらしながら合成器におけるRF信号間の分離を最大化するように決定される。
【0032】
いくつかの実施形態では、ステップ504において、第1及び第2のRF信号の周波数に基づいて容量値を決定することができる。例えば、プロセッサは、RF信号の周波数を最大限に分離する好適な調整可能コンデンサ212、214の容量値が決定されるように、これらの周波数についてルックアップテーブルに問い合わせを行うことができる。考えられる調整可能コンデンサ212、214の容量値は予め決定し、考えられるRF信号の周波数に関連するものとしてルックアップテーブルに記憶しておくことができる。他の実施形態では、ステップ504において、RFスペクトル及び/又は送信アンテナ負荷の測定値に基づいて容量値を決定することができる。いくつかの実施形態では、調整可能静電容量ネットワークが、1つ、2つ又は3つ以上のデジタル調整可能コンデンサを含み、プロセッサによって制御することができる。例えば、デジタル調整可能コンデンサは、プロセッサがシリアルインターフェイス又はその他の制御ポートを通じて制御することができる。
【0033】
ステップ508において、合成器を用いて2つのRF信号を合成RF信号に合成することができる。上述したように、実施形態では、この合成器を、出力トランス脚部を有する二段ウィルキンソン合成器とすることができる。合成器の第1のポートにおいて第1のRF信号を受け取り、合成器の第2のポートにおいて第2のRF信号を受け取り、合成器の出力ポート上に合成RF信号を出力することができる。他の実施形態では、合成器を、ディスクリートブランチライン型合成器又はディスクリートハイブリッド合成器とすることもできる。
【0034】
ステップ510において、合成RF信号をバンドパスフィルタ処理してフィルタ処理済み合成RF信号にすることができる。ステップ510において利用するバンドパスフィルタの入力部は、調整可能静電容量ネットワークと合成器の出力部とに結合することができ、バンドパスフィルタの出力部は、送信アンテナに結合することができる。ステップ510におけるバンドパスフィルタ処理は、RF送信機100によって送信される周波数帯の範囲外の不要な信号を除去して減衰させることによって、合成器からの合成RF信号をフィルタ処理することができる。これらの不要な信号は、例えば増幅器によって生成された第2高調波などのスプリアス発射を含むことができる。フィルタ処理済み合成RF信号は、アンテナ上で送信することができる。
【0035】
図中のあらゆる処理説明又は処理ブロックは、処理における特定の論理関数又は論理ステップを実行するための1又は2以上の実行可能命令を含むモジュール、セグメント又はコード部分を表すものとして理解すべきであり、当業者であれば理解するように、関連する機能に応じて実質的に同時の又は逆順での実行を含む図示又は説明したものとは異なる順序で機能を実行できる別の実装も本発明の実施形態の範囲に含まれる。
【0036】
本開示は、様々な実施形態の構築方法及び使用方法を技術に従って説明するためのものであり、その真の意図する公正な範囲及び趣旨を限定するものではない。上述の説明は、包括的であることや、又は開示した正確な形に限定されることを意図するものではない。上記の教示に照らして修正例及び変形例が可能である。(単複の)実施形態は、説明する技術の原理及びその実施可能な応用を示すとともに、様々な実施形態の技術、及び想定される特定の用途に適した様々な修正例を当業者が利用できるように選択して説明したものである。このような全ての修正例及び変形例は、これらの権利を公正に、法的に、かつ公平に認める外延に従って解釈した場合、本出願の係属中に補正される可能性もある添付の特許請求の範囲によって定められる実施形態及びその全ての同等物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
112 調整可能合成器システム
114 アンテナ
202 ポート1
204 ポート2
206 合成器
208 インダクタ
210 調整可能静電容量ネットワーク
212、214 調整可能コンデンサ
216 バンドパスフィルタ
ZL 負荷インピーダンス
ZS ソースインピーダンス
図1
図2
図3
図4
図5