(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】EZH2阻害剤により卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)/高カルシウム血症型の卵巣の小細胞癌(SCCOHT)を処置するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5377 20060101AFI20220207BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220207BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220207BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220207BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220207BHJP
A61K 31/4436 20060101ALN20220207BHJP
A61K 31/497 20060101ALN20220207BHJP
A61K 31/501 20060101ALN20220207BHJP
A61K 31/445 20060101ALN20220207BHJP
G01N 33/53 20060101ALN20220207BHJP
G01N 33/50 20060101ALN20220207BHJP
G01N 33/574 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K9/20
A61K45/00
A61K31/4436
A61K31/497
A61K31/501
A61K31/445
G01N33/53 D
G01N33/50 P
G01N33/574
(21)【出願番号】P 2018515673
(86)(22)【出願日】2016-09-26
(86)【国際出願番号】 US2016053673
(87)【国際公開番号】W WO2017053930
(87)【国際公開日】2017-03-30
【審査請求日】2019-09-25
(32)【優先日】2015-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513137330
【氏名又は名称】エピザイム,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100117422
【氏名又は名称】堀川 かおり
(72)【発明者】
【氏名】ハイク キールハック
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/062720(WO,A1)
【文献】J Pathol,2014年,Vol.233, No.3,p.209-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化合物又はその薬学的に許容される塩であるEZH2阻害剤を含み、卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)又は高カルシウム血症型の卵巣の小細胞癌(SCCOHT)の治療用の医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
前記EZH2阻害剤が、ヒストン3のリシン27(H3K27)のトリメチル化を阻害する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記EZH2阻害剤が、経口投与用の形態及び/又は経口錠剤として製剤化されてなる請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記EZH2阻害剤が、10mg/kg/日~1600mg/kg/日の用量を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記EZH2阻害剤が、100mg、200mg、400mg、800mgまたは1600mgの用量を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記EZH2阻害剤が、1日につき二回(BID)の投与用である請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記SCCOHTが、SMARCA4陰性である請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
SMARCA4陰性の患者に対する投与するためのものである請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記SCCOHT又は前記患者が、SMARCA4陰性であるかどうかは、
(a)生物学的サンプルを得ること、
(b)前記生物学的サンプルまたはその一部分をSMARCA4に特異的に結合する抗体と接触させることおよび
(c)SMARCA4に結合している前記抗体の量を検出することを含む方法によって評価されることを含む請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記SCCOHT又は前記患者が、SMARCA4陰性であるかどうかは、
(a)生物学的サンプルを得ること、
(b)前記生物学的サンプルまたはその一部分由来のSMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列をシーケンシングすること及び
(c)SMARCA4タンパク質をコードする前記少なくとも1つのDNA配列が、前記SMARCA4タンパク質の発現および/または機能に影響を与える突然変異を含有するかどうかを決定することを含む方法によって評価されることを含む請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
40歳未満であるか、30歳未満であるか、20歳未満の患者に対して投与するためのものである請求項1~
10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
20歳以上30歳以下の患者に対して投与するためのものである請求項1~
11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
治療が、SCCOHT細胞の増殖を予防するおよび/または阻害することを含む請求項1~
12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
タゼメトスタット又はその薬学的に許容される塩を含み、前記タゼメトスタットが、経口錠剤として製剤化され、前記タゼメトスタットが200mgで含有され、前記タゼメトスタットが、1日につき二回投与される、SCCOHTの治療用の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年9月25日に出願された米国仮特許出願第62/233,146号明細書および2015年11月6日に出願された米国仮特許出願第62/252,188号明細書に対する優先権および利益を主張し、それぞれの内容は、全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、小分子療法、癌、およびまれな癌型を処置するための方法の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
EZH2依存性の腫瘍形成をもたらす、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体のサブユニットの遺伝子変化または機能喪失によって引き起こされるような特定の癌に有効な処置について、長年の切実な必要性があるが、未だ対処されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、悪性ラブドイド腫瘍(MRT)および類上皮肉腫などのようなINI1陰性およびSMARCA4陰性腫瘍の有効な処置を提供する。INI1およびSMARCA4は、EZH2の活性を妨害するSWItch/Sucrose NonFermentable(SWI/SNF)クロマチンリモデリング複合体の重要なタンパク質である。どちらかの遺伝子変化または機能喪失は、ある癌の背後にある、EZH2依存性の腫瘍形成をもたらすことがあり、したがって、これらの腫瘍はEZH2阻害に対して感受性となる。ある実施形態では、MRTは、INI1陰性、INI1欠失、SMARCA4陰性、SMARCA4欠失、SMARCA2陰性、SMARCA2欠失とすることができるまたはSWI/SNF複合体の1つ以上の他の構成成分に突然変異を含む。
【0005】
本開示のある実施形態では、MRTは、高カルシウム血症型の卵巣の小細胞癌(SCCOHT)とも呼ばれる、卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)である。本開示は、その必要がある被検体においてSCCOHTを処置するための方法であって、治療有効量のEZH2阻害剤、たとえばタゼメトスタット(tazemetostat)(EPZ-6438)を被検体に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、EZH2阻害剤、たとえばタゼメトスタットは、経口錠剤として製剤化される。いくつかの実施形態では、EZH2阻害剤、たとえばタゼメトスタットの治療有効量は、約800mg/kgである。いくつかの実施形態では、EZH2阻害剤、たとえばタゼメトスタットは、1日につき二回投与される。
【0006】
本開示のある実施形態では、MRTは、類上皮肉腫である。本開示は、その必要がある被検体において類上皮肉腫を処置するための方法であって、治療有効量のEZH2阻害剤、たとえばタゼメトスタット(EPZ-6438)を被検体に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、EZH2阻害剤、たとえばタゼメトスタットは、経口錠剤として製剤化される。いくつかの実施形態では、EZH2阻害剤、たとえばタゼメトスタットの治療有効量は、約800mg/kgである。いくつかの実施形態では、EZH2阻害剤、たとえばタゼメトスタットは、1日につき二回投与される。
【0007】
本開示の方法によれば、EZH2阻害剤は、ヒストン3のリシン27(H3K27)のトリメチル化を阻害する。ある実施形態では、本開示のEZH2阻害剤は、
【化1】
またはその薬学的に許容される塩を含んでいてもよい、から本質的になってもよい、またはからなってもよい。
【0008】
本開示のEZH2阻害剤は、経口投与されてもよい。ある実施形態では、EZH2阻害剤は、経口錠剤として製剤化されてもよい。
【0009】
その必要がある被検体において癌を処置するための本開示の方法は、治療有効量のEZH2阻害剤を被検体に投与することを含む。ある実施形態では、EZH2阻害剤の治療有効量は、10mg/kg/日および1600mg/kg/日を含む、10mg/kg/日~1600mg/kg/日の用量である。そのため、これらの方法のある実施形態では、EZH2阻害剤は、10mg/kg/日および1600mg/kg/日を含む、10mg/kg/日~1600mg/kg/日の用量で投与される。ある実施形態では、EZH2阻害剤の治療有効量は、約100、200、400、800、または1600mgの用量である。そのため、これらの方法のある実施形態では、EZH2阻害剤は、約100、200、400、800、または1600mgの用量で投与される。ある実施形態では、EZH2阻害剤の治療有効量は、約800mgの用量である。そのため、これらの方法のある実施形態では、EZH2阻害剤は、約800mgの用量で投与される。ある実施形態では、治療有効量のEZH2阻害剤は、1日につき二回(BID)、被検体に投与されてもよい。
【0010】
癌を処置するための本開示の方法は、悪性ラブドイド腫瘍(MRT)を処置することを含む。好ましい実施形態では、本開示の方法は、卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)を有する被検体を処置するために使用される。MRTOはまた、高カルシウム血症型の卵巣の小細胞癌(SCCOHT)と呼ばれてもよい。ある実施形態では、MRTOもしくはSCCOHTおよび/または被検体は、SMARCA4陰性、SMARCA4欠失、SMARCA2陰性、SMARCA2欠失としてまたはSWI/SNF複合体の1つ以上の他の構成成分中に突然変異もしくは欠失を有するとして特徴付けられる。ある実施形態では、MRTOもしくはSCCOHTおよび/または被検体は、SMARCA4陰性として特徴付けられる。ある実施形態では、MRTOもしくはSCCOHTおよび/または被検体は、SMARCA4陰性またはSMARCA4欠失およびSMARCA2陰性またはSMARCA2欠失として特徴付けられる。本明細書において使用されるように、SMARCA4陰性および/またはSMARCA4欠失細胞は、SMARCA4遺伝子の転写、SMARCA4転写物の翻訳を妨げる、および/またはSMARCA4タンパク質の活性を低下させる/阻害する、SMARCA4遺伝子、対応するSMARCA4転写物(もしくはそのcDNAコピー)、またはSMARCA4タンパク質中の突然変異を含有してもよい。本明細書において使用されるように、SMARCA4陰性細胞は、SMARCA4遺伝子の転写、SMARCA4転写物の翻訳を妨げる、および/またはSMARCA4タンパク質の活性を低下させる/阻害する、SMARCA4遺伝子、対応するSMARCA4転写物(もしくはそのcDNAコピー)、またはSMARCA4タンパク質中の突然変異を含有してもよい。
【0011】
癌を処置するための本開示の方法は、悪性ラブドイド腫瘍(MRT)を処置することを含む。いくつかの好ましい実施形態では、本開示の方法は、類上皮肉腫を有する被検体を処置するために使用される。ある実施形態では、類上皮肉腫は、SMARCA4陰性、SMARCA4欠失、SMARCA2陰性、SMARCA2欠失としてまたはSWI/SNF複合体の1つ以上の他の構成成分中に突然変異もしくは欠失を有するとして特徴付けられる。ある実施形態では、類上皮肉腫および/または被検体は、SMARCA4陰性として特徴付けられる。ある実施形態では、類上皮肉腫および/または被検体は、SMARCA4陰性またはSMARCA4欠失およびSMARCA2陰性またはSMARCA2欠失として特徴付けられる。
【0012】
本開示の方法は、SMARCA4陰性であるまたはSMARCA4陰性であってもよい1つ以上の細胞を有する被検体を処置するために使用されてもよい。SMARCA4発現および/またはSMARCA4機能は、当業者によく知られているものを含む蛍光および非蛍光免疫組織化学的検査(IHC)方法によって評価されてもよい。ある実施形態では、方法は、(a)被検体から生物学的サンプルを得ること;(b)生物学的サンプルまたはその一部分をSMARCA4に特異的に結合する抗体と接触させること;および(c)SMARCA4に結合している抗体の量を検出することを含む。その代わりにまたはさらに、SMARCA4発現および/またはSMARCA4機能は、(a)被検体から生物学的サンプルを得ること;(b)生物学的サンプルまたはその一部分由来のSMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列をシーケンシングすること;ならびに(c)SMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列が、SMARCA4タンパク質の発現および/または機能に影響を与える突然変異を含有するかどうかを決定することを含む方法によって評価されてもよい。SMARCA4発現またはSMARCA4の機能は、被検体由来の同じ生物学的サンプルを任意選択で使用し、SMARCA4に結合している抗体の量を検出することによっておよびSMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列をシーケンシングすることによって評価されてもよい。
【0013】
本開示の被検体は、女性であってもよい。本開示の被検体は、40、30、または20歳未満であってもよい。ある実施形態では、本開示の被検体は、20歳および30歳を含めて、20~30歳であってもよい。
【0014】
本明細書において使用されるように、用語「処置すること」は、MRTO/SCCOHT細胞を含むが、これらに限定されない癌細胞の増殖を予防するおよび/または阻害することを含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、遺伝子転写を抑制するエピジェネティックな修飾である、H3K27me3のEZH2媒介性のメチル化の概要を示す図である。
【
図2】
図2は、多能性を調節する、PRC2およびSWI-SNFに依存性のクロマチンリモデリングのアンタゴニズムの概要を示す図である。
【
図3】
図3は、前駆細胞の分化に伴う、EZH2の正常なダウンレギュレーションの概要を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、腫瘍細胞におけるEZH2に対する、INI1(SMARCB2)媒介性の腫瘍形成の依存性の概要を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、EZH2ノックアウトが、INI1損失によって誘導される腫瘍形成を逆転させることを示すグラフである。例示的なINI1欠失腫瘍は、悪性ラブドイド腫瘍および上皮性肉腫を含むが、これらに限定されない。
【
図5A】
図5Aは、MRTO/SCCOHTにおけるINI1の発現を示す免疫組織化学法の写真である。
【
図5B】
図5Bは、MRTO/SCCOHTにおけるSMARCA4の発現の損失を示す免疫組織化学法の写真である。
【
図6A】
図6Aは、ベースライン(左)での、1600mgの投薬量での毎日二回のEPIZ-6438(タゼメトスタット)による8週間の処置後のSMARCA4陰性MRTO/SCCOHTを有する27歳の女性の一連のX線フィルムである。
【
図7A】
図7Aは、幼児の悪性ラブドイド腫瘍(MRT)のX線フィルムである。MRTは、小児性であるが、成人の症例が報告されている。MRTは、腎臓、CNS、および軟部組織で生じることが多い。重要なことには、MRTは、化学療法抵抗性であることが多く、予後不良に至り、生存率は25%未満である。
【
図7B】
図7Bは、INI1陰性ラブドイド腫瘍の診断後の時間(月)の関数としての、生きている被検体の比率を示すグラフである。
【
図7C】
図7Cは、INI1陰性ラブドイド腫瘍の診断後の時間(月)の関数としての、生きている被検体のパーセンテージを示すグラフである。
【
図8A】
図8Aは、タゼメトスタットの化学構造を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、EZH2に対するタゼメトスタットの相対的な選択性を示す一対の略図である。
【
図8C】
図8Cは、INI1陰性MRTの異種移植片モデル(G401)におけるタゼメトスタット処置の抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、タゼメトスタット投与前後の腫瘍組織におけるEZH2標的阻害を示すIHCの一連の写真である。
【
図10】
図10は、固形腫瘍を有する患者における最良の奏功を示すグラフである。
【
図11】
図11は、800mg BIDの用量のタゼメトスタットによる処置を受けている55歳の男性におけるINI1陰性悪性ラブドイド腫瘍の完全寛解(CR)を示す一連の写真である。
【
図12】
図12は、800mg BIDの用量のタゼメトスタットによる処置を受けている44歳の男性におけるINI1陰性類上皮肉腫の部分寛解(PR)を示す一連の写真である。
【
図13B】
図13Bは、SMARCA4およびARID1A卵巣細胞株における化合物Dについての長期2D増殖アッセイの結果を示す1対のグラフである。14日目のIC
50値を示す。SMARCA4陰性細胞株は、EZH2阻害剤化合物Dによる抗増殖効果を示すが、ARID1A突然変異卵巣細胞株は示さない。
【
図13C】
図13Cは、SMARCA4かつSMARCA2陰性高カルシウム血症型卵巣小細胞癌(SCCOHT)細胞株Bin-67における化合物Dによる14日間の増殖研究の結果を示すグラフである。0.01~10μMの範囲にわたる8つの異なる処置条件についての増殖曲線を示す。14日目のIC
50値は、10nMである。
【
図13D】
図13Dは、14日目の化合物D処置Bin-67細胞におけるH3K27me3レベルの低下を示すウェスタンブロットである。H3K27me3レベルは、化合物Dの全濃度で14日目に完全に下がった。
【
図13E】
図13Eは、化合物Dにより処置したARID1A突然変異卵巣細胞株の3D増殖効果を示す一連のグラフである。14日後、化合物Dによる効果は観察されなかった。3Dアッセイは、マイクロパターンの足場がECMを模倣するScivax Nanoculture technologyを使用して実行した。
【
図14】
図14は、卵巣細胞株パネルにおけるSMARCA2およびSMARCA4の損失の特徴付けについてのウェスタンブロット分析である。SMARCA2、SMARCB1、およびSMARCA4のタンパク質レベルを30の卵巣細胞株において評価した。2つの誤診されたSCCOHT細胞株(TOV112D、COV434)は、SMARCA2およびSMARCA4の発現の二重の損失に基づいて同定した。突然変異は、CCLEおよびCOSMICデータベースから得た。
【
図15】
図15は、SCCOHTにおけるSMARCA4/BRG1およびSMARCA2/BRMの二重の損失を示す、SCCOHTにおけるコアSWI/SNFタンパク質の免疫組織化学的分析である。内皮およびリンパ球を、両方のタンパク質についての内部ポジティブコントロールとする。矢印は、SMARCA2を発現する、まれな腫瘍細胞を示す。SMARCB1/INI1タンパク質発現は、腫瘍細胞免疫活性についてのポジティブコントロールとして役立つ(たとえばKarnezis et al.J Pathol 2016;238:389-400を参照されたい。
【
図16】
図16は、4つの卵巣細胞株を含む約100の細胞株由来のCRISPRプールスクリーニングデータを示すグラフである。縦軸は、EZH2のノックアウトの感受性を特徴付けるRSA(リダンダントsiRNA活性(Redundant siRNA activity))スコアを示す。COV434は、SMARCA2およびSMARCA4の二重の損失に基づいてSCCOHT起源のものであることが同定され、EZH2ノックアウトに感受性の唯一の卵巣細胞株であった。
【
図17A】
図17Aは、タゼメトスタットにより処置した卵巣細胞株の長期増殖アッセイの結果を示すグラフである。
【
図17B】
図17Bは、タゼメトスタットによる処置に際してのSMARCA2欠失かつSMARCA4欠失細胞株における細胞増殖の用量依存的な阻害を示すグラフである。
【
図18A】
図18Aは、タゼメトスタットによる18日間の処置後のインビボSCCOHT異種移植片モデル(Bin-76)における腫瘍成長阻害および最終的な腫瘍容積を示すグラフである。
【
図18B】
図18Bは、タゼメトスタットによる18日間の処置後のBin-67異種移植片腫瘍のH3K27me3の低下を示すグラフである。
【
図19A】
図19Aは、タゼメトスタットによる28日間の処置後のインビボSCCOHT異種移植片モデル(COV434)における腫瘍成長阻害および最終的な腫瘍容積を示すグラフである。
【
図19B】
図19Bは、タゼメトスタットによる28日間の処置後のCOV434異種移植片腫瘍のH3K27me3の低下を示すグラフである。
【
図20A】
図20Aは、タゼメトスタットによる14日間の処置後のインビボSCCOHT異種移植片モデル(TOV112D)における腫瘍成長阻害および最終的な腫瘍容積を示すグラフである。
【
図20B】
図20Bは、タゼメトスタットによる14日間の処置後のTOV112D異種移植片腫瘍のH3K27me3の低下を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
悪性ラブドイド腫瘍(MRT)および類上皮肉腫などのようなINI1陰性およびSMARCA4陰性腫瘍は、重篤で消耗性の癌である。主要な世界市場で毎年およそ1,400人の患者が、これらの腫瘍を発症しているが、確立された標準的なケアはない。INI1およびSMARCA4は、SWI/SNF複合体の重要なタンパク質であり、EZH2の活性を妨害する。どちらかの遺伝子変化または機能喪失は、ある癌の背後にある、EZH2依存性の腫瘍形成をもたらすことがあり、したがって、これらの腫瘍はEZH2阻害に対して感受性となる。
【0017】
例示的な癌は、高カルシウム血症型の卵巣の小細胞癌(SCCOHT)とも呼ばれる、卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)を含む。
【0018】
その必要がある被検体においてMRTO(SCCOHT)を処置するための好ましい方法は、治療有効量のタゼメトスタット(EPZ-6438)を被検体に投与することを含み、タゼメトスタットは、経口錠剤として製剤化され、治療有効量は、約800mg/kgであり、タゼメトスタットは、1日につき二回投与される。
【0019】
本開示のEZH2阻害剤は、たとえば、SMARCA4の存在量および/または機能の低下を含むSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の構成成分の存在量および/または機能の低下によって引き起こされる癌の処置に有効である。腫瘍形成マーカーまたはドライバーになってもよいSWI/SNF複合体の他の構成成分は、ARID1A、ARID2、ARID1B、SMARCB1、SMARCC1、SMARCA2、またはSMARCD1である。全体を見ると、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体は、遺伝子の転写に入るために、クロマチンを開くためのエネルギー源としてATPを使用する。多タンパク質PRC2(ポリコーム抑制複合体2)の活性は、クロマチンが開くのを阻害し、したがって、遺伝子転写を阻害する。SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体および多タンパク質PRC2はまた、互いに直接、相互作用し合う。しかしながら、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の機能が破壊されると、多タンパク質PRC2の活性が優位を占め、クロマチンは閉じた形状で維持される。EZH2は、PRC2の触媒サブミットである。EZH2における機能獲得型突然変異は、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体が破壊された細胞においてPRC2優位をさらに悪化させる。SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の機能が破壊されると、細胞は、EZH2によって駆動される腫瘍形成に対して感受性になることがある。PRC2は、PRC2の唯一の重要な基質であるヒストンタンパク質H3内の27位のリシン(K)(H3K27)をメチル化することができる、唯一のヒトタンパク質メチルトランスフェラーゼである。PRC2は、H3K37のモノ、ジ、およびトリメチル化を触媒する(それぞれH3K27me1、H3K27me2、およびH3K27me3)。H3K27me3は、遺伝子転写抑制についてのエピジェネティックなマークとなる。H3K27の過剰なトリメチル化は、MRTおよびMRTO/SCCOHTを含むが、これらに限定されない広範囲のヒト癌において腫瘍形成性である。
【0020】
本開示の方法によれば、「正常な」細胞は、SMARCA4の発現および/または機能を含む、癌細胞の1つ以上の特徴について、比較の基準として使用されてもよい。本明細書において使用されるように、「正常な細胞」は、「細胞増殖障害」の一部として分類することのできない細胞である。正常な細胞には、望まれない状態または疾患の発症に至ることがある無秩序なもしくは異常な増殖またはその両方がない。好ましくは、正常な細胞は、癌細胞と同等の量のEZH2を発現する。好ましくは、正常な細胞は、SMARCA4遺伝子について野生型配列を含有する、突然変異のないSMARCA4転写物を発現する、および正常な活性レベルですべての機能を保持する、突然変異のないSMARCA4タンパク質を発現する。
【0021】
本明細書において使用されるように、「細胞を接触させること」は、主題の化合物または他の組成物が、細胞と直接接触しているまたは細胞の所望の生物学的効果を誘導するのに十分に近くにある状態を指す。
【0022】
本明細書において使用されるように、「処置すること」または「処置する」は、疾患、状態、または障害の対処を目的とした被検体の管理およびケアを示し、癌の症状もしくは合併症を緩和するためのまたは癌を除去するための、本開示のEZH2阻害剤またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝物質、多形体、もしくは溶媒和物の投与を含む。
【0023】
本明細書において使用されるように、「緩和する」という用語は、癌の徴候または症状の重症度を低下させるプロセスを示すことが意図される。重要なことには、徴候または症状は、除去されずに緩和することができる。好ましい実施形態では、本開示の医薬組成物の投与は、徴候または症状の除去に至るが、除去は必須ではない。有効な投薬量は、徴候または症状の重症度を低下させることが期待される。たとえば、複数の部位で生じ得る癌などの障害の徴候または症状は、複数の部位の少なくとも1つで癌の重症度が低下すれば緩和されている。
【0024】
本明細書において使用されるように、「重症度」という用語は、癌が前癌性または良性状態から悪性状態に変化する可能性を示すことが意図される。その代わりにまたはさらに、重症度は、たとえば、TNM方式(International Union Against Cancer(UICC)およびAmerican Joint Committee on Cancer(AJCC)により認められた)によりまたは他の当技術分野において承認されている方法により癌の病期を示すことが意図される。癌の病期は、原発腫瘍の位置、腫瘍の大きさ、腫瘍数、およびリンパ節転移(癌のリンパ節への広がり)などの因子に基づく癌の程度または重症度を指す。その代わりにまたはさらに、重症度は、当技術分野において承認されている方法により腫瘍グレードを示すことが意図される(National Cancer Instituteを参照されたい)。腫瘍グレードは、癌細胞が顕微鏡下でどのように異常に見えるか、そして腫瘍がいかに急速に増殖し広がる傾向があるかという観点から癌細胞を分類するのに使用するシステムである。腫瘍グレードを決定する際は、細胞の構造および増殖パターンなど多くの因子が考慮される。腫瘍グレードの決定に使用される特定の因子は、各癌型によって異なる。重症度はまた、腫瘍細胞が同じ組織型の正常な細胞にどの程度類似しているかを示す、分化とも呼ばれる組織学的グレードをも示す(National Cancer Instituteを参照されたい)。さらに、重症度は、腫瘍細胞の核の大きさおよび形状ならびに分裂している腫瘍細胞の割合を指す核グレードを示す(National Cancer Instituteを参照されたい)。
【0025】
本開示の別の態様では、重症度は、腫瘍が増殖因子をどの程度分泌したか、細胞外マトリックスをどの程度分解したか、どの程度血管新生化したか、隣接した組織への接着をどの程度失ったか、またはどの程度転移したかを示す。さらに、重症度は、原発腫瘍が転移した部位の数を示す。最後に、重症度は、様々な型および部位の腫瘍の処置のしにくさを含む。たとえば、手術不能な腫瘍、複数の器官に到達しやすい癌(血液系および免疫系の腫瘍)、および伝統的な処置に最も抵抗性があるものが、最も重度と見なされる。これらの状況において、被検体の平均余命の延長および/または疼痛の低下、癌性細胞の比率の低下または細胞が1つの系に限定されること、ならびに癌の病期/腫瘍グレード/組織学的グレード/核グレードの改善は、癌の徴候または症状の緩和と見なされる。
【0026】
本明細書において使用されるように、「症状」という用語は、疾患、疾病、障害または体内に適切でないものがあることの兆しと定義される。症状は、症状を経験している個体は感じるまたは気付くものであるが、他人は容易に気付かないこともある。他人は、非医療専門家と定義される。
【0027】
本明細書において使用されるように、「徴候」という用語もまた、体内に適切でないものがあることの兆しと定義される。ただし、徴候は、医師、看護師、または他の医療専門家により確認することができるものと定義される。
【0028】
癌は、ほとんどすべての徴候または症状を引き起こし得る疾患群である。徴候および症状は、癌がどこにあるか、癌の大きさ、および癌が近くの器官または構造にどの程度影響を与えるかによって異なる。癌が広がる(転移する)場合、症状は体の様々な部分で現れ得る。
【0029】
癌が増殖するにつれて、癌は、近くの器官、血管、および神経を圧迫し始める。この圧迫は、癌の徴候および症状のいくつかを生み出す。癌は、癌が増殖してかなり大きくなるまで、癌がいかなる症状をも引き起こさない場所で形成されることがある。卵巣癌は、腫瘍が大きくなるまたは転移するまで、医学的介入を引き起こすのに十分に重度な徴候または症状をもたらさないので、サイレントキラーと見なされている。
【0030】
癌はまた、発熱、疲労、または体重減少などのような症状を引き起こし得る。これは、癌細胞が体のエネルギー供給の大部分を使い果たし、体の代謝を変化させる物質を放出するためであり得る。または癌によって、免疫系が、これらの症状をもたらすように反応し得る。上記に列挙される徴候および症状は、癌で確認される、より一般的な徴候であるが、それほど一般的ではなく、本明細書で列挙していない多くの他の徴候がある。しかしながら、癌の当技術分野において承認されている徴候および症状はすべて、本開示によって企図され、包含される。
【0031】
癌を処置すると、腫瘍の大きさが小さくなり得る。腫瘍の大きさが小さくなることは、「腫瘍退縮」という場合もある。好ましくは、本開示の方法による処置の後、腫瘍の大きさは、処置前のその大きさと比較して5%以上縮小し;一層好ましくは、腫瘍の大きさは10%以上縮小し;一層好ましくは20%以上縮小し;一層好ましくは30%以上縮小し;一層好ましくは40%以上縮小し;なお一層好ましくは、50%以上縮小し;最も好ましくは、75%以上縮小する。腫瘍の大きさは、任意の再現可能な測定手段により測定することができる。腫瘍の大きさは、腫瘍の直径として測定してもよい。
【0032】
癌を処置すると、腫瘍容積が縮小し得る。好ましくは、本開示の方法による処置の後、腫瘍容積は、処置前のその大きさと比較して5%以上縮小し;一層好ましくは、腫瘍容積は10%以上縮小し;一層好ましくは20%以上縮小し;一層好ましくは30%以上縮小し;一層好ましくは40%以上縮小し;なお一層好ましくは、50%以上縮小し;最も好ましくは、75%以上縮小する。腫瘍容積は、任意の再現可能な測定手段により測定することができる。
【0033】
癌を処置すると、腫瘍の数が減少し得る。好ましくは、処置後、腫瘍数は、処置前の数と比較して5%以上減少し;一層好ましくは、腫瘍数は10%以上減少し;一層好ましくは20%以上減少し;一層好ましくは30%以上減少し;一層好ましくは40%以上減少し;なお一層好ましくは50%以上減少し;最も好ましくは75%超減少する。腫瘍の数は、任意の再現可能な測定手段により測定することができる。腫瘍の数は、肉眼または特定の倍率で観察できる腫瘍をカウントすることにより測定することができる。好ましくは、特定の倍率は2倍、3倍、4倍、5倍、10倍または50倍である。
【0034】
癌を処置すると、原発腫瘍部位から離れた他の組織または器官における転移病変の数が減少し得る。好ましくは、本開示の方法による処置後、転移病変の数は、処置前の数と比較して5%以上減少し;一層好ましくは、転移病変の数は10%以上減少し;一層好ましくは20%以上減少し;一層好ましくは30%以上減少し;一層好ましくは40%以上減少し;なお一層好ましくは50%以上減少し;最も好ましくは75%超減少する。転移病変の数は、任意の再現可能な測定手段により測定することができる。転移病変の数は、肉眼または特定の倍率で観察できる転移病変をカウントすることにより測定することができる。好ましくは、特定の倍率は2倍、3倍、4倍、5倍、10倍または50倍である。
【0035】
本開示のEZH2阻害剤またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝物質、多形体、もしくは溶媒和物の有効量は、正常な細胞に対してあまり細胞毒性を示さない。治療有効量の本開示のEZH2阻害剤の投与により細胞死が正常な細胞の10%より多く誘導されない場合、治療有効量の本開示のEZH2阻害剤は、正常な細胞に対してあまり細胞毒性を示さない。治療有効量の化合物の投与により細胞死が正常な細胞の10%より多く誘導されない場合、治療有効量の本開示のEZH2阻害剤は、正常な細胞の生存率にあまり影響を与えない。
【0036】
本開示のEZH2阻害剤またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝物質、多形体、もしくは溶媒和物と細胞を接触させることにより、癌細胞においてEZH2活性を選択的に阻害することができる。本開示のEZH2阻害剤またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝物質、多形体、もしくは溶媒和物をその必要がある被検体に投与することにより、癌細胞においてEZH2活性を選択的に阻害することができる。
【0037】
悪性ラブドイド腫瘍
悪性ラブドイド腫瘍(MRT)は、軟部組織において生じるまれな小児腫瘍であり、腎臓および脳においても最もよく発生する。ある悪性ラブドイド腫瘍の特徴は、SMARCB1(INI1としても知られている)の機能喪失である。INI1は、EZH2に反対して作用するクロマチンリモデラーであるSWI/SNF調節複合体の重要な構成成分である。INI1陰性腫瘍は、SWI/SNF機能が変化しており、異常で腫瘍形成性のEZH2活性をもたらす。この活性は、タゼメトスタットなどのようなEZH2の小分子阻害剤によって標的にすることができる。INI1陰性腫瘍は、一般に侵襲性であり、現在の処置はあまり役立っていない。たとえば、十分に研究されているINI1陰性腫瘍であるMRTの現在の処置は、外科手術、化学療法、および放射線療法からなり、これらは、限られた効力および有意な処置関連死亡率に結びつけられる。米国、欧州、および日本を含む主要な市場のINI1陰性腫瘍および滑膜肉腫による患者の毎年の発病は、およそ2,400件である。SMARCB1/INI1の機能喪失はまた、別のまれな侵襲性の小児腫瘍、中枢神経系の非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍(AT/RT)においても生じる。
【0038】
卵巣の悪性ラブドイド腫瘍MRTO(高カルシウム血症型の卵巣の小細胞癌(SCCOHT))
MRTO/SCCOHTは、子供および若い女性(診断時の平均年齢は23歳である)に影響を与える非常にまれな侵襲性の癌である。患者の65%超は、診断の2年以内に疾患により死亡する。MRTのように、これらの腫瘍は、SWI/SNF複合体サブユニット、SMARCA4の遺伝子損失によって特徴付けられる。SMARCA4陰性卵巣癌細胞は、EZH2阻害に選択的に感受性であり、IC50値は、MRT細胞において観察されるものと同様である。たとえば、SCCOHTの現在の処置は、減量外科手術およびプラチナベースの化学療法薬からなり、高い再発率を示す。鑑別診断は大まかで、3つの卵巣癌亜型を含む:顆粒膜細胞(性索間質)腫瘍、未分化胚細胞腫、および高悪性度漿液性腫瘍。標準的なヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色により、SCCOHTが、横紋筋肉腫様であり、小さく、ぎっしり詰まった、単一形の、高度に増殖性で、分化が不十分な細胞がシート状に配置されていることが示されたのに対して、IHCは、SCCOHTが、タンパク質損失に至るSMARCA4遺伝子の不活性化およびSMARCA2タンパク質の非突然変異性サイレンシングによって特徴付けられることを示唆する。(たとえばKarnezis et al.,J.Pathol.2016;238:389-400、Jelinic et al.Nat Genet 2014、Witkowski et al.,Nat.Genet.2014;46:424-426、Ramos et al.Nat.Genet.2014;46:427-429、Kupryjanczyk et al.Pol.J.Pathol.2013;64:238-246を参照されたい、それぞれの内容は、全体が参照によって本明細書に組み込まれる)。本開示のいくつかの態様は、腫瘍細胞および腫瘍、たとえば、SMARCA4損失(たとえば突然変異の結果として)およびSMARCA2損失(たとえばタンパク質損失の結果として)を示すSCCOHT腫瘍が、EZH2阻害に対して感受性であり、したがって、EZH2阻害剤により有効に処置することができることを提供する。
【0039】
類上皮肉腫
類上皮肉腫は、すべての軟部組織肉腫の1%未満に相当する、まれな軟部組織肉腫である。類上皮肉腫は、最初、1970年にはっきりと特徴付けられた。類上皮肉腫において見つけられる最も一般的な遺伝子突然変異は、INI-1の損失である(約80~90%において)。類上皮肉腫の2つの変種が報告された:遠位型類上皮肉腫には、より良好な予後が伴い、上部および下部遠位四肢(指、手、前腕、または足)を冒すが、近位型類上皮肉腫には、より悪い予後が伴い、近位四肢(上腕、大腿)および体幹を冒す。類上皮肉腫は、すべての年齢層で生じるが、若年成人(診断時の年齢中央値は27歳である)が最も一般的である。類上皮肉腫は、初期処置後の高い再発率に結びつけられ、生存期間の中央値は、転移性類上皮肉腫が診断された時には2年未満となる。局所再発および転移は、患者の約30~50%において生じ、転移は、典型的に、リンパ節、肺、骨、および脳である。類上皮肉腫の処置は、処置の好ましい方法として外科的切除を含む。手術不能な腫瘍または再発後については、従来の化学療法および放射線療法が、単独でまたは組み合わせて使用されるが、成功率は比較的低い。腫瘍学者の約50%は、類上皮肉腫が化学療法非感受性であると考えている。
【0040】
EZH2阻害剤
本開示のEZH2阻害剤は、たとえばタゼメトスタット(EPZ-6438):
【化2】
またはその薬学的に許容される塩を含む。
【0041】
タゼメトスタットはまた、米国特許第8,410,088号明細書、米国特許第8,765,732号明細書、および米国特許第9,090,562号明細書においても記載されている(内容は、それぞれ、全体が本明細書に組み込まれる)。
【0042】
本明細書に記載のタゼメトスタットまたはその薬学的に許容される塩は、野生型および突然変異型EZH2の両方を標的にする能力がある。タゼメトスタットは、経口で生物利用可能であり、他のヒストンメチルトランスフェラーゼと比較して高いEZH2選択性を有する(すなわち、Kiに基づく20,000倍超の選択性)。重要なことには、タゼメトスタットは、in vitroにおいて、遺伝学的に定義された癌細胞を死滅させる標的メチルマーク阻害を有する。また動物モデルでは、標的メチルマークの阻害に続く持続的なin vivo効力が示された。さらに本明細書に記載の臨床試験結果から、タゼメトスタットの安全性および効力が示された。
【0043】
一実施形態では、タゼメトスタットまたはその薬学的に許容される塩は、NHLを処置するために、1日約100mg~約3200mgの用量、たとえば、約100mg BID~約1600mg BID(たとえば、100mg BID、200mg BID、400mg BID、800mg BID、または1600mg BID)の用量で被検体に投与される。一実施形態では、用量は800mg BIDである。
【0044】
本開示のEZH2阻害剤は、
【化3】
もしくはその立体異性体またはその薬学的に許容される塩および溶媒和物を含んでいてもよい、から本質的になってもよい、またはからなってもよい。
【0045】
本開示のEZH2阻害剤は、化合物E
【化4】
またはその薬学的に許容される塩を含んでいてもよい、から本質的になってもよい、またはからなってもよい。
【0046】
本開示のEZH2阻害剤は、以下の式を有するGSK-126:
【化5】
、その立体異性体、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含んでいてもよい、から本質的になってもよい、またはからなってもよい。
【0047】
本開示のEZH2阻害剤は、化合物F
【化6】
もしくはその立体異性体またはその薬学的に許容される塩および溶媒和物を含んでいてもよい、から本質的になってもよい、またはからなってもよい。
【0048】
本開示のEZH2阻害剤は、化合物Ga~Gcのいずれか1つ:
【化7】
またはその立体異性体、薬学的に許容される塩、もしくは溶媒和物を含んでいてもよい、から本質的になってもよい、またはからなってもよい。
【0049】
本開示のEZH2阻害剤は、CPI-1205またはGSK343を含んでいてもよい、から本質的になってもよい、またはからなってもよい。
【0050】
さらなる適したEZH2阻害剤は、当業者らに明らかであろう。本明細書において提供される戦略、処置法、方法、組み合わせ、および組成物についてのいくつかの実施形態では、EZH2阻害剤は、米国特許第8,536,179号明細書において記載されるEZH2阻害剤であり(他の化合物の中でもGSK-126について記載しており、国際公開第2011/140324号パンフレットに対応する)、それぞれの全内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0051】
本明細書において提供される戦略、処置法、方法、組み合わせ、および組成物のいくつかの実施形態では、EZH2阻害剤は、国際公開第2014/124418号パンフレットとして公開されるPCT/US2014/015706号明細書において、国際公開第2013/120104号パンフレットとして公開されるPCT/US2013/025639号明細書において、および米国特許出願公開第2015/0368229号明細書として公開される米国特許出願第14/839,273号明細書において記載されるEZH2阻害剤であり、それぞれの全内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0052】
一実施形態では、本明細書に開示の化合物は、化合物それ自体、すなわち遊離塩基または「裸の」分子である。別の実施形態では、化合物は、その塩、たとえば、裸の分子のモノHCl塩またはトリHCl塩、モノHBr塩またはトリHBr塩である。
【0053】
窒素を含有する本明細書に開示の化合物は、酸化剤(たとえば、3-クロロペルオキシ安息香酸(mCPBA)および/または過酸化水素)による処理によりN-オキシドに変換して、本明細書に開示の任意の方法に適した他の化合物にすることができる。したがって、提示し特許請求の範囲に記載する窒素含有化合物はすべて、原子価および構造により許容される場合、提示の化合物とそのN-オキシド誘導体(N→OまたはN+-O-として示され得る)の両方を含むものと見なされる。さらに、他の例では、本明細書に開示の化合物中の窒素は、N-ヒドロキシ化合物またはN-アルコキシ化合物に変換することができる。たとえば、N-ヒドロキシ化合物は、酸化剤、たとえばm-CPBAによる親アミンの酸化により調製することができる。さらに、提示し特許請求の範囲に記載する窒素含有化合物はすべて、原子価および構造により許容される場合、提示の化合物と、そのN-ヒドロキシ(すなわち、N-OH)誘導体およびN-アルコキシ(すなわち、N-OR(式中、Rは置換もしくは非置換C1~C6アルキル、C1~C6アルケニル、C1~C6アルキニル、3~14員炭素環または3~14員複素環である))誘導体との両方を包含すると見なされる。
【0054】
「異性」とは、化合物が同一の分子式を有するものの、その原子の結合順序またはその原子の空間配置が異なることを意味する。原子の空間配置が異なる異性体は「立体異性体」と呼ばれる。互いに鏡像でない立体異性体は「ジアステレオ異性体」と呼ばれ、互いに重ね合わせることができない鏡像である立体異性体は「エナンチオマー」と呼ばれ、光学異性体と呼ばれることもある。逆のキラリティーの各エナンチオマー形を等量含む混合物は「ラセミ混合物」と呼ばれる。
【0055】
同一でない4つの置換基に結合した炭素原子は「キラル中心」と呼ばれる。
【0056】
「キラル異性体」は、少なくとも1つのキラル中心を有する化合物を意味する。2つ以上のキラル中心を有する化合物は、個々のジアステレオマーとして存在することも、あるいは「ジアステレオマー混合物」と呼ばれるジアステレオマーの混合物として存在することも可能である。1つのキラル中心が存在する場合、立体異性体は、そのキラル中心の絶対配置(RまたはS)により特徴付けることができる。絶対配置とは、キラル中心に結合した置換基の空間配置を指す。検討対象のキラル中心に結合した置換基は、Sequence Rule of Cahn,Ingold and Prelogに従いランク付けされる。(Cahn et al.,Angew.Chem.Inter.Edit.1966,5,385;errata 511;Cahn et al.,Angew.Chem.1966,78,413;Cahn and Ingold,J.Chem.Soc.1951(London),612;Cahn et al.,Experientia 1956,12,81;Cahn,J.Chem.Educ.1964,41,116)。
【0057】
「幾何異性体」は、存在する原因が二重結合またはシクロアルキルリンカー(たとえば、1,3-シルコブチル)の周りの回転障壁であるジアステレオマーを意味する。これらの配置は、接頭辞シスおよびトランス、またはカーン-インゴルド-プレローグ順位則に従い各基が分子の二重結合に関して同じ側または反対側にあることを示すZおよびEにより、その名称で区別される。
【0058】
本明細書に開示の化合物は、異なるキラル異性体または幾何異性体として図示し得ることが理解されよう。さらに、化合物がキラル異性体形または幾何異性体形を有する場合、すべての異性体形が本開示の範囲に含まれることを意図しており、化合物の名称は任意の異性体形を除外するものではないことも理解されるべきである。
【0059】
さらに、こうした構造および本開示で考察された他の化合物は、そのすべてのアトロピック(atropic)異性体を含む。「アトロピック(atropic)異性体」は、2つの異性体の原子が空間で異なって配置されている立体異性体の1種である。アトロピック(atropic)異性体が存在する原因は、中心結合の周りの大きな基の回転障壁により引き起こされる回転の束縛である。こうしたアトロピック(atropic)異性体は典型的には混合物として存在するが、クロマトグラフィー技術の最近の進歩の結果、特定の場合、2つのアトロピック(atropic)異性体の混合物を分離することが可能になっている。
【0060】
「互変異性体」は、2つ以上の構造異性体が平衡状態で存在し、ある異性体形から別の異性体形に容易に変換される、それらの構造異性体の1つである。この変換の結果、水素原子が、隣接する共役二重結合の変化を伴って形式的に移動する。互変異性体は、溶液中で互変異性体のセットの混合物として存在する。互変異性が可能である溶液においては、互変異性体の化学平衡に達する。互変異性体の正確な比率は、温度、溶媒およびpHを含むいくつかの要因によって異なる。互変異性化により相互変換可能な互変異性体の概念は、互変異性と呼ばれる。
【0061】
考えられる様々なタイプの互変異性のうち、2つが一般に観察される。ケト-エノール互変異性では、電子および水素原子の同時移動が起こる。環鎖互変異性は、糖鎖分子のアルデヒド基(-CHO)が同じ分子のヒドロキシ基(-OH)の1つと反応して、分子にグルコースに見られるような環式(環状)形態が生じた結果として起こる。
【0062】
一般的な互変異性のペアとして、ケトン-エノール、アミド-ニトリル、ラクタム-ラクチム、複素環式環における(たとえば、核酸塩基、たとえばグアニン、チミンおよびシトシンにおける)アミド-イミド酸互変異性、イミン-エナミンおよびエナミン-エナミンがある。ケト-エノール平衡の一例として、下記に示すようなピリジン-2(1H)-オンと対応するピリジン-2-オールとの間がある。
【化8】
【0063】
本明細書に開示の化合物は、様々な互変異性体として図示し得ることが理解されよう。さらに、化合物が互変異性形を有する場合、すべての互変異性形が本開示の範囲に含まれることを意図しており、化合物の名称は任意の互変異性体形を除外するものではないことも理解されるべきである。
【0064】
本明細書に開示の化合物は、それ自体だけでなく、該当する場合には、その塩およびその溶媒和物も含む。塩は、たとえば、アニオンとアリールまたはヘテロアリール置換ベンゼン化合物の正電荷を帯びた基(たとえば、アミノ)との間で形成することができる。好適なアニオンとして、クロリド、ブロミド、ヨージド、スルフェート、ビスルフェート、スルファメート、ニトレート、ホスフェート、シトレート、メタンスルホネート、トリフルオロアセテート、グルタメート、グルクロネート、グルタレート、マレート、マレエート、スクシネート、フマレート、タルトレート、トシレート、サリチレート、ラクテート、ナフタレンスルホネート、およびアセテート(たとえば、トリフルオロアセテート)が挙げられる。「薬学的に許容されるアニオン」という用語は、薬学的に許容される塩の形成に好適なアニオンをいう。同様に、塩は、カチオンとアリールまたはヘテロアリール置換ベンゼン化合物の負電荷を帯びた基(たとえば、カルボキシレート)との間でも形成することができる。好適なカチオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびアンモニウムカチオン、たとえばテトラメチルアンモニウムイオンが挙げられる。アリールまたはヘテロアリール置換ベンゼン化合物は、第四級窒素原子を含む塩をさらに含む。塩形態では、化合物と塩のカチオンまたはアニオンとの比は、1:1であることも、1:1以外の任意の比、たとえば、3:1、2:1、1:2もしくは1:3であることもある。
【0065】
加えて、本明細書に開示の化合物、たとえば、化合物の塩は、水和もしくは非水和(無水)形態で存在しても、あるいは他の溶媒分子との溶媒和物として存在してもよい。水和物の非限定的な例として、一水和物、二水和物等が挙げられる。溶媒和物の非限定的な例として、エタノール溶媒和物、アセトン溶媒和物等が挙げられる。
【0066】
「溶媒和物」は、化学量論量あるいは非化学量論量の溶媒を含む溶媒付加形態を意味する。一部の化合物は、結晶性固体状態で一定のモル比の溶媒分子を捕捉する傾向があり、したがって溶媒和物を形成する。溶媒が水の場合、形成される溶媒和物は水和物であり、溶媒がアルコールの場合、形成される溶媒和物はアルコラートである。水和物は1つの物質分子と1つまたは複数の水分子の組み合わせにより形成され、水はその分子状態をH2Oとして維持する。
【0067】
本明細書で使用する場合、「アナログ」という用語は、別の化学化合物と構造的に類似しているが、組成がやや異なる(異なる元素の原子による1つの原子の置き換え、または特定の官能基の存在、または別の官能基による1つの官能基の置き換えのように)化学化合物をいう。したがって、アナログは、参照化合物と機能および外観が類似または同様であるが、構造または起源が類似または同様でない化合物である。
【0068】
本明細書で定義した、「誘導体」という用語は、共通のコア構造を有するが、本明細書に記載するような様々な基で置換されている化合物をいう。たとえば、式(I)で表される化合物はすべて、アリールまたはヘテロアリール置換ベンゼン化合物であり、共通のコアとして式(I)を有する。
【0069】
「生物学的等価体」という用語は、ある原子または原子団と、別の概ね類似した原子または原子団との交換により生じる化合物をいう。生物学的等価性置換の目的は、親化合物に類似した生物学的特性を有する新しい化合物を作ることにある。生物学的等価性置換は、物理化学をベースにしても、あるいは位相幾何学をベースにしてもよい。カルボン酸の生物学的等価体の例として、アシルスルホンイミド、テトラゾール、スルホネートおよびホスホネートがあるが、これに限定されるものではない。たとえば、Patani and LaVoie,Chem.Rev.96,3147-3176,1996を参照されたい。
【0070】
本開示は、本化合物に存在する原子の同位体をすべて含むことを意図している。同位体は、同じ原子番号を有するが、異なる質量数を有する原子を含む。一般的な例として、限定するものではないが、水素の同位体としてトリチウムおよびジュウテリウムがあり、炭素の同位体としてC-13およびC-14がある。
【0071】
医薬製剤
本開示はまた、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤またはキャリアと組み合わせて、本明細書において記載される少なくとも1つのEZH2阻害剤を含む医薬組成物をも提供する。
【0072】
「医薬組成物」は、被検体への投与に好適な形態で本開示のEZH2阻害剤を含有する製剤である。一実施形態では、医薬組成物はバルクまたは単位剤形である。単位剤形は、たとえば、カプセル、IVバッグ、錠剤、エアロゾル吸入器の単一ポンプまたはバイアルなど種々の形態のいずれかである。単位用量の組成物における活性成分(たとえば、開示された化合物またはその塩、水和物、溶媒和物または異性体の製剤)の量は有効量であり、関連する個々の処置に応じて変化する。当業者であれば、患者の年齢および状態によって投薬量を日常的に変える必要があることもあることを理解するであろう。投薬量はまた投与経路によって異なる。経口、経肺、直腸、非経口、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、吸入、口腔内、舌下、胸膜内、髄腔内、鼻腔内および同種のものなど種々の経路を意図している。本開示の化合物の局所投与または経皮投与用の剤形として、散剤、スプレー剤、軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、溶液剤、パッチ剤および吸入薬が挙げられる。一実施形態では、活性化合物は、滅菌条件下で薬学的に許容されるキャリアと、必要とされる任意の防腐剤、バッファーまたは噴霧剤と混合される。
【0073】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される」という語句とは、化合物、材料、組成物、キャリアおよび/または剤形が、適切な医学的判断の範囲内において、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を回避しつつ、合理的なベネフィット/リスク比に見合ってヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに好適であることをいう。
【0074】
「薬学的に許容される賦形剤」は、医薬組成物の調製に有用であり、かつ一般に安全で無毒性であり、生物学的にもあるいは他の点でも望ましい賦形剤を意味し、動物用途のほか、ヒトの医薬用途に許容可能な賦形剤を含む。本開示で使用される「薬学的に許容される賦形剤」は、そうした賦形剤の1種および2種以上の両方を含む。
【0075】
本開示の医薬組成物は、その目的の投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例として、非経口投与、たとえば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与(たとえば、吸入)、経皮投与(局所)、および経粘膜投与が挙げられる。非経口用途、皮内用途または皮下用途に使用される溶液または懸濁液として、以下の成分:無菌希釈液、たとえば食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;抗菌薬、たとえばベンジルアルコールまたはメチルパラベン;酸化防止剤、たとえばアスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム;キレート化剤、たとえばエチレンジアミン四酢酸;バッファー、たとえばアセテート、シトレートまたはホスフェート、および張度調整剤、たとえば塩化ナトリウムまたはブドウ糖を挙げることができる。pHは、酸または塩基、たとえば塩酸または水酸化ナトリウムで調整することができる。非経口調製物は、ガラスもしくはプラスチック製のアンプル、ディスポーザブルシリンジまたはマルチドーズバイアルに封入してもよい。
【0076】
本開示の化合物または医薬組成物は、化学療法処置に現在使用されるよく知られた方法の多くで被検体に投与することができる。たとえば、癌の処置では、本開示の化合物を腫瘍に直接注射しても、血流中もしくは体腔に注射しても、あるいは経口投与しても、あるいはパッチを用いて経皮適用してもよい。選択される用量は効果的な処置となるのに十分であるが、許容できない副作用を引き起こすほど高くないようにすべきである。病状の状況(たとえば、癌、前癌および同種のもの)および患者の健康については好ましくは、処置中および処置後相当期間、詳細にモニターすべきである。
【0077】
「治療有効量」という用語は、本明細書で使用する場合、特定された疾患または状態を処置、軽減または予防するために有効な、あるいは検出可能な治療効果または阻害効果を示すEZH2阻害剤、組成物、またはその医薬組成物の量をいう。効果は、当該技術分野において公知の任意のアッセイ方法により検出することができる。被検体の正確な有効量は、被検体の体重、大きさおよび健康;その状態の性質および程度;ならびに投与のために選択した治療法または治療法の併用によって異なる。ある状況に対する治療有効量は、臨床医の技能および判断の範囲内にある通常の実験により決定することができる。好ましい態様では、処置される疾患または状態は、悪性ラブドイド腫瘍(MRT)、卵巣のMRT(MRTO)、および高カルシウム血症型の卵巣の小細胞癌(SCCOHT)を含むが、これらに限定されない癌である。
【0078】
いずれの本開示のEZH2阻害剤でも、治療有効量は、たとえば、腫瘍性細胞の細胞培養アッセイ、または動物モデル、通常ラット、マウス、ウサギ、イヌもしくはブタを用いて最初に推定することができる。動物モデルはさらに、適切な濃度範囲および投与経路を判定するのに使用してもよい。次いでこうした情報を使用して、ヒトの投与に有用な用量および経路を判定することができる。治療/予防有効性および毒性は、細胞培養または実験動物を対象とした標準的な薬学的手順、たとえば、ED50(集団の50%で治療効果のある用量)およびLD50(集団の50%致死用量)により判定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比は治療係数であり、LD50/ED50比で表すことができる。好ましいのは、大きな治療係数を示す医薬組成物である。投薬量は、利用する剤形、患者の感受性および投与経路によってこの範囲内で変わってもよい。
【0079】
投薬量および投与は、十分なレベルの活性剤を与えるか、または所望の効果を維持するように調整される。考慮に入れてもよい因子として、病状の重症度、被検体の一般的な健康状態、被検体の年齢、体重および性別、食事、投与の時間および頻度、薬剤併用、反応感受性、ならびに治療に対する忍容性/反応が挙げられる。長時間作用性医薬組成物は、特定の製剤の半減期およびクリアランス速度によって3~4日毎、毎週あるいは2週に1回投与してもよい。
【0080】
本開示のEZH2阻害剤を含む医薬組成物は、一般に知られた方法で、たとえば、従来の混合プロセス、溶解プロセス、造粒プロセス、糖衣錠製造プロセス、研和プロセス、乳化プロセス、カプセル化プロセス、封入プロセスまたは凍結乾燥プロセスによって製造することができる。医薬組成物は、活性化合物を薬学的に使用することができる調製物に加工しやすくする賦形剤および/または助剤を含む、1種もしくは複数種の薬学的に許容されるキャリアを用いて従来の方法で製剤化してもよい。言うまでもなく、適切な製剤は選択された投与経路によって異なる。
【0081】
注射用途に好適な医薬組成物は、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、および必要に応じて調製される無菌注射用溶液または分散液用の無菌粉末を含む。静脈内投与では、好適なキャリアとして、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF,Parsippany,N.J.)またはリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。すべての場合において、組成物は無菌でなければならず、シリンジ操作が容易である程度の流動性があるべきである。組成物は、製造および保存条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの混入微生物の作用を防止しなければならない。キャリアは、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールならびに同種のもの)およびこれらの好適な混合物を含む溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、たとえば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には、必要とされる粒度の維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールおよび同種のものの使用により達成することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、たとえば、糖、多価アルコール、たとえばマンニトール、ソルビトール、ならびに塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の吸収の持続化は、組成物に吸収を遅らせる薬、たとえば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含ませることにより行うことができる。
【0082】
無菌注射溶液は、必要量の活性化合物を、必要に応じて上記に列挙した1つの成分または成分の組み合わせと共に適切な溶媒に加え、続いて濾過滅菌を行うことにより調製することができる。一般に、分散液は、基本的な分散媒および上記に列挙したものから必要とされる他の成分を含む無菌ビヒクルに活性化合物を加えることにより調製される。無菌注射溶液の調製用の無菌粉末の場合、調製方法は真空乾燥およびフリーズドライであり、これにより活性成分と任意の所望の追加成分との、前もって滅菌濾過した溶液から、活性成分と任意の所望の追加成分との粉末が得られる。
【0083】
経口組成物は一般に、不活性希釈剤または食用の薬学的に許容されるキャリアを含む。経口組成物はゼラチンカプセルに封入しても、あるいは錠剤に圧縮してもよい。経口治療投与の目的上、活性化合物を賦形剤と混合し、錠剤、トローチ剤またはカプセル剤の形態で使用してもよい。経口組成物はさらに、洗口剤として使用される液体キャリアを用いて調製してもよく、液体キャリア中の化合物は経口適用し、すすいで吐き出すかまたは飲み込む。薬学的に適合する結合剤および/または補助剤を組成物の一部として含めてもよい。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤および同種のものは、性質の類似した以下の成分または化合物:バインダー、たとえば微結晶性セルロース、トラガントゴムまたはゼラチン;賦形剤、たとえばデンプンまたはラクトース、崩壊剤、たとえばアルギン酸、Primogelまたはコーンスターチ;滑沢剤、たとえばステアリン酸マグネシウムまたはSterotes;流動促進剤、たとえばコロイド状二酸化ケイ素;甘味剤、たとえばスクロースまたはサッカリン;または着香剤、たとえばペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香味料のいずれかを含んでもよい。
【0084】
吸入による投与では、化合物は、好適な噴射剤、たとえば、二酸化炭素などのガスを含む加圧容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーからエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0085】
全身投与はまた、経粘膜または経皮手段によるものでもよい。経粘膜または経皮投与では、透過対象のバリアに適した浸透剤を製剤に使用する。こうした浸透剤は一般に当該技術分野において公知であり、たとえば、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻スプレーまたは坐剤の使用により達成することができる。経皮投与では、活性化合物を一般に当該技術分野において公知の軟膏、膏薬、ゲルまたはクリームに製剤する。
【0086】
活性化合物(すなわち、本開示のEZH2阻害剤)は、化合物の身体からの急速な排除を防ぐ薬学的に許容されるキャリア、たとえばインプラントおよびマイクロカプセル化送達系などの放出制御製剤と共に調製してもよい。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸などの生分解性生体適合性ポリマーを使用してもよい。こうした製剤を調製するための方法は、当業者に明らかであろう。こうした材料はさらに、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から市販品として入手することができる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて感染細胞を標的としたリポソームを含む)も、薬学的に許容されるキャリアとして使用することができる。これらは、たとえば米国特許第4,522,811号明細書に記載されているような当業者に公知の方法に従い調製することができる。
【0087】
投与のしやすさおよび投薬量の均一性のため、経口または非経口組成物を投薬単位剤形で製剤化すると特に有利である。投薬単位剤形とは、本明細書で使用する場合、単位投薬量として処置対象の被検体に適した物理的に分離した単位をいい、各単位は、必要とされる薬学的キャリアと共に、所望の治療効果を発揮するように計算された所定量の活性化合物を含む。本開示の投薬単位剤形の規格は、活性化合物の特有の特徴および達成されるべき個々の治療効果により決定され、それらに直接左右される。
【0088】
治療用途では、本開示で使用される医薬組成物の投薬量は、選択した投薬量に影響を与える数ある要因の中でも、薬剤、レシピエント患者の年齢、体重および臨床状態、ならびに治療を行う臨床医または開業医の経験および判断によって異なる。一般に、用量は、腫瘍の増殖を遅延させる、そして好ましくは退縮させる、さらに好ましくは癌を完全に退縮させるのに十分であるべきである。医薬剤の有効量は、臨床医または他の適格な観察者により認められる改善が客観的に特定できる量である。たとえば、患者の腫瘍の退縮は、腫瘍の直径を基準に測定してもよい。腫瘍の直径の減少は退縮を示す。退縮はさらに、処置を中止した後に再発する腫瘍がないことによっても示される。本明細書で使用する場合、「投薬量効果的方法」という用語は、活性化合物の量が被検体または細胞で所望の生物学的作用を発揮することをいう。
【0089】
医薬組成物は、投与説明書と共に容器、パックまたはディスペンサーに含めてもよい。
【0090】
本開示の化合物は、塩をさらに形成することができる。こうした形態もすべて、特許請求の範囲に記載されている発明の範囲内にあることを意図している。
【0091】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される塩」は、親化合物がその酸性塩または塩基性塩を作ることにより修飾された本開示の化合物の誘導体をいう。薬学的に許容される塩の例として、アミンなどの塩基性残基の鉱酸塩または有機酸塩、カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩または有機塩、および同種のものがあるが、これに限定されるものではない。薬学的に許容される塩は、たとえば、無毒性無機酸または有機酸から形成された親化合物の従来の無毒性塩または第四級アンモニウム塩を含む。たとえば、そうした従来の無毒性塩として、2-アセトキシ安息香酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、酢酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、重炭酸、炭酸、クエン酸、エデト酸、エタンジスルホン酸、1,2-エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、グリコリアルサニル酸、ヘキシルレゾルシン酸、ヒドラバム酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、ヒドロキシマレイン酸、ヒドロキシナフトエ酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリルスルホン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ナプシル酸、硝酸、シュウ酸、パモ酸、パントテン酸、フェニル酢酸、リン酸、ポリガラクツロン酸、プロピオン酸、サリチル酸、ステアリン酸、サブ酢酸(subacetic)、コハク酸、スルファミン酸、スルファニル酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸、トルエンスルホン酸および一般に存在するアミン酸、たとえば、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、アルギニン等から選択される無機酸および有機酸から得られるものがあるが、これに限定されるものではない。
【0092】
薬学的に許容される塩の他の例として、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、ピルビン酸、マロン酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチルビシクロ-[2.2.2]-オクト-2-エン-1-カルボン酸、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、第三級ブチル酢酸、ムコン酸および同種のものが挙げられる。本開示はさらに、親化合物に存在する酸性プロトンが金属イオン、たとえば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、またはアルミニウムイオンに置き換えられている場合、あるいは有機塩基、たとえばエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンおよび同種のものと配位している場合に形成される塩を包含する。
【0093】
薬学的に許容される塩への言及にはすべて、同じ塩の本明細書に定義される溶媒付加体(溶媒和物)または結晶形態(多形体)が含まれることを理解すべきである。
【0094】
本開示のEZH2阻害剤はさらに、エステル、たとえば、薬学的に許容されるエステルとして調製することができる。たとえば、化合物のカルボン酸官能基をその対応するエステル、たとえば、メチル、エチルまたは他のエステルに変換してもよい。さらに、化合物のアルコール基をその対応するエステル、たとえば、アセテート、プロピオネートまたは他のエステルに変換してもよい。
【0095】
本開示のEZH2阻害剤はまた、プロドラッグ、たとえば薬学的に許容されるプロドラッグとして調製することができる。「プロ-ドラッグ」および「プロドラッグ」という用語は、区別なく本明細書において使用され、インビボにおいて活性な親薬剤を放出する任意の化合物を指す。プロドラッグは、医薬品の多数の望ましい特質(たとえば溶解度、生物学的利用率、製造など)を増強することが知られているので、本開示の化合物は、プロドラッグの形態で送達することができる。したがって、本開示は、本請求項に係る化合物のプロドラッグ、プロドラッグを送達するための方法、およびプロドラッグを含有する組成物を包含することが意図される。「プロドラッグ」は、そのようなプロドラッグが被検体に投与された時にインビボにおいて本開示の活性親薬剤を放出する任意の共有結合したキャリアを含むことが意図される。本開示におけるプロドラッグは、ルーチン的な操作でまたはインビボにおいて修飾が切断され、親化合物になるように、化合物中に存在する官能基を修飾することによって調製される。プロドラッグは、インビボにおいて切断され、遊離ヒドロキシル基、遊離アミノ基、遊離スルフヒドリル基、遊離カルボキシ基、または遊離カルボニル基をそれぞれ形成してもよい、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、カルボキシ基、またはカルボニル基が任意の基に結合している本開示の化合物を含む。
【0096】
プロドラッグの例は、本開示の化合物のエステル(たとえば酢酸、ジアルキルアミノアセタート、ギ酸、リン酸、硫酸、および安息香酸誘導体)ならびにヒドロキシ官能基のカルバメート(たとえばN,N-ジメチルアミノカルボニル)、カルボキシル官能基のエステル(たとえばエチルエステル、モルホリノエタノールエステル)、N-アシル誘導体(たとえばN-アセチル)、N-Mannich塩基、アミノ官能基のSchiff塩基およびエナミノン(enaminone)、ケトン官能基およびアルデヒド官能基のオキシム、アセタール、ケタール、およびエノールエステルなどを含むが、これらに限定されない。Bundegaard,H.,Design of Prodrugs,p1-92,Elesevier,New York-Oxford (1985)を参照されたい。
【0097】
EZH2阻害剤またはその薬学的に許容される塩、エステル、もしくはプロドラッグは、経口投与、経鼻投与、経皮投与、経肺投与、吸入投与、口腔内投与、舌下投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、直腸内投与、胸膜内投与、髄腔内投与、および非経口投与される。一実施形態では、化合物は経口投与される。当業者であれば、特定の投与経路の利点を認識するであろう。
【0098】
化合物を利用する投与レジメンは、患者のタイプ、種、年齢、体重、性別および医学的状態;処置対象の状態の重症度;投与経路;患者の腎機能および肝機能;ならびに利用される個々の化合物またはその塩など種々の因子に従い選択される。通常の知識を有する医師または獣医師であれば、当該状態の進行を予防、防止または停止するのに必要な薬剤の有効量を容易に判定し、処方することができる。
【0099】
投与レジメンは、本開示の化合物の毎日の投与(たとえば24時間ごと)とすることができる。投与レジメンは、連日、たとえば少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、または少なくとも7日連続の毎日の投与とすることができる。投薬は、毎日1回を超える、たとえば毎日二回、三回、または四回(24時間につき)とすることができる。投薬レジメンは、毎日の投与の後に、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、または少なくとも6日投与なしとすることができる。
【0100】
本開示の開示した化合物の製剤および投与のための技術は、Remington:the Science and Practice of Pharmacy,19th edition,Mack Publishing Co.,Easton,PA(1995)で確認することができる。一実施形態では、本明細書に記載の化合物およびその薬学的に許容される塩は、薬学的に許容されるキャリアまたは希釈薬と組み合わせて医薬調製物に使用される。好適な薬学的に許容されるキャリアとして、不活性な固体充填剤または希釈薬、および無菌水溶液または有機溶液が挙げられる。本化合物は、本明細書に記載の範囲の所望の投薬量を与えるのに十分な量でそうした医薬組成物中に存在する。
【0101】
癌を処置するための本開示の方法は、悪性ラブドイド腫瘍(MRT)を処置することを含む。好ましい実施形態では、本開示の方法は、卵巣の悪性ラブドイド腫瘍(MRTO)を有する被検体を処置するために使用される。MRTOはまた、高カルシウム血症型の卵巣の小細胞癌(SCCOHT)と呼ばれてもよい。ある実施形態では、MRTOもしくはSCCOHTおよび/または被検体は、SMARCA4陰性として特徴付けられる。本明細書において使用されるように、SMARCA4陰性細胞は、SMARCA4遺伝子の転写、SMARCA4転写物の翻訳を妨げる、および/またはSMARCA4タンパク質の活性を低下させる/阻害する、SMARCA4遺伝子、対応するSMARCA4転写物(もしくはそのcDNAコピー)、またはSMARCA4タンパク質中の突然変異を含有する。細胞のSMARCA4陰性のステータスにより、その細胞はEZH2駆動性の腫瘍形成に対して感受性となる。
【0102】
本開示の方法は、SMARCA4陰性であるまたはSMARCA4陰性であってもよい1つ以上の細胞を有する被検体を処置するために使用されてもよい。SMARCA4発現および/またはSMARCA4機能は、当業者によく知られているものを含む蛍光および非蛍光免疫組織化学的検査(IHC)方法によって評価されてもよい。ある実施形態では、方法は、(a)被検体から生物学的サンプルを得ること;(b)生物学的サンプルまたはその一部分をSMARCA4に特異的に結合する抗体と接触させること;および(c)SMARCA4に結合している抗体の量を検出することを含む。その代わりにまたはさらに、SMARCA4発現および/またはSMARCA4機能は、(a)被検体から生物学的サンプルを得ること;(b)生物学的サンプルまたはその一部分由来のSMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列をシーケンシングすること;ならびに(c)SMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列が、SMARCA4タンパク質の発現および/または機能に影響を与える突然変異を含有するかどうかを決定することを含む方法によって評価されてもよい。SMARCA4発現またはSMARCA4の機能は、被検体由来の同じ生物学的サンプルを任意選択で使用し、SMARCA4に結合している抗体の量を検出することによっておよびSMARCA4タンパク質をコードする少なくとも1つのDNA配列をシーケンシングすることによって評価されてもよい。
【0103】
本明細書に使用されるパーセンテージおよび比率はすべて、他に記載がない限り、重量による。
【0104】
本開示の他の特徴と利点は様々な例から明らかである。提示した例は、本開示を実施する際に有用な様々な要素および方法を説明するものである。こうした例は、特許請求の範囲に記載されている開示を限定するものではない。本開示に基づき、当業者であれば、本開示を実施するのに有用な他の要素および方法を特定し、利用することができる。
【実施例】
【0105】
本明細書において開示される本発明をより理解しやすくするために、実施例が下記に提供される。これらの実施例は、説明のみを目的とし、本開示を限定するとして決して解釈されないものと理解されるべきである。
【0106】
実施例1:タゼメトスタットによるSMARCA4陰性MRTO/SCCOHTの処置
SMARCA4陰性MRTO/SCCOHTと診断された27歳のヒト女性は、経口錠剤によって毎日二回(BID)投与した1600mgのEPIZ-6438(タゼメトスタット)での処置に成功した。腫瘍の大きさは、8週間の処置の後、ベースラインから低下し、16週間の処置の後、8週目の測定値からさらに低下した。
【0107】
この被検体は、2013年にSMARCA4陰性MRTO/SCCOHTと診断された。2014年の始めから終わりまで、被検体は、1クールのシスプラチン/シトキサン/ドキソルビシン/エトポシド、続いて1クールのカルボプラチン/エトポシド/シトキサンにより処置された。どちらのクールの処置も成功しなかった。この被検体は、その後、自家造血細胞移植術を受けたが、これもまた、SMARCA4陰性MRTO/SCCOHTの処置に失敗した。
【0108】
この被検体は、現在、経口錠剤によって毎日二回(BID)投与される1600mgのタゼメトスタットによる療法を受けている。初期の結果を
図6Aに提供するが、処置は継続中であり、少なくとも24週目の終わりまで継続する予定である。
【0109】
実施例2:INI1およびSMARCA4陰性腫瘍についての寛解
タゼメトスタットによるINI1およびSMARCA4陰性腫瘍の処置は、腫瘍組織におけるHeK27me3の薬力学阻害を誘導する。
【0110】
タゼメトスタット処置後のMRTおよびMRTO/SCCOHTの臨床活性の評価は、少なくとも6か月間の安定した疾患、部分寛解、または完全寛解を示す。
【0111】
実施例3:SWI/SNFサブユニットにおける変異体を同定する全エクソーム解析
アーカイブまたはベースラインホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルを、ゲノムDNA単離にまわした(n=25)。25のうちの18のサンプルは、ライブラリー調製および全エクソーム解析に進むのに十分なDNAを有した。18のうちの16のサンプルは、シーケンシング精度管理をパスした。SWI/SNF構成成分のシーケンシングカバレッジの中央値は、300Xよりも大きい。dbSNPにおいて同定された変異体および<5%の対立遺伝子頻度を有する変異体は、フィルターにかけて除外した。
【0112】
I期固形腫瘍患者において特徴付けられたSWI/SNF複合体の遺伝子変異体(表1を参照されたい)。部分寛解(PR)に達している患者において検出されたSMARCA4ナンセンス突然変異。免疫組織化学的検査(IHC)によってINI1タンパク質損失を示す患者において同定されたSMARCB1のナンセンスおよびフレームシフト突然変異。非応答患者のみにおいて、SWI/SNF構成成分において同定されたさらなる体細胞突然変異、たとえばARID1A突然変異を有するのは3/13人の患者である。
【0113】
【0114】
表2は、1期臨床試験計画を示す(sponsor protocol no.:E7438-G000-001、ClinicalTrials.gov identifier:NCT01897571)。研究集団には、再発もしくは難治性固形腫瘍またはB細胞リンパ腫の被検体が含まれた。被検体は、3+3用量漸増を受け、拡大コホートではそれぞれ800mg BIDおよび1600mg BIDを受け、あるコホートは、400mg BIDでの投薬に対する食物の効果を確認した。主要評価項目は、推奨される第II相用量(RP2D)/最大耐量(MTD)の判定とした。副次的評価項目には、安全性、薬物動態(PK)、薬力学(PD)、および腫瘍応答が含まれ、8週間毎に評価した。
【0115】
【0116】
表3は、様々な患者腫瘍型を示す。
【0117】
【0118】
表4は、固形腫瘍患者人口統計を概説する。
【0119】
【0120】
表5は、NHL(非ホジキンリンパ腫)および固形腫瘍患者における安全性プロファイルを示す(n-51)。
【0121】
【0122】
表6は、INI1またはSMARCA4陰性腫瘍を有する患者における臨床活性を示す。
【0123】
【0124】
実施例4:高カルシウム血症型の卵巣の小細胞癌(SCCOHT)のモデルにおけるEZH2阻害剤の病状発現前および臨床評価
H3K27ヒストンメチルトランスフェラーゼEZH2は、ポリコーム抑制複合体2(PRC2)の触媒構成成分であり、複数の癌型において増幅され、過剰発現され、または突然変異し、癌遺伝子としてのその機能を裏付けている。EZH2自体の遺伝子変化に加えて、他のタンパク質の遠位遺伝子変化により、EZH2活性に対して腫瘍形成が依存するようになることがある。SWItch/Sucrose Non-Fermentable(SWI/SNF)クロマチンリモデリング複合体のコア構成成分であるINI1(SNF5/SMARCB1)が欠失した細胞株および異種移植片は、選択的EZH2阻害剤タゼメトスタットの存在下において大きな感受性および持続的な退縮を示すことが確立された(EPZ‐6438、たとえば、全体が参照によって本明細書において組み込まれるKnutson et al.PNAS 2013;110:7922-7927を参照されたい)。
【0125】
リンパ腫およびINI1陰性腫瘍における活性についての病状発現前の観察後に、タゼメトスタットの第1相用量漸増研究を開始した(ClinicalTrials.gov identifier:NCT01897571)。報告されるように、完全奏功が、INI1陰性(IHCによって確認された)再発悪性ラブドイド腫瘍を有する患者において観察された。PRC2活性調節異常だとラブドイド腫瘍になりやすいまたはラブドイド腫瘍はPRC2活性調節異常に依存性であることが示唆された。INI1欠失腫瘍において乱れている、PRC2とSWI/SNFの以前に提唱された拮抗的な関係が、確認された。INI1の損失は、不適切なSWI/SNF機能を誘導し、PRC2活性の抑制を抑止してしまう。これにより、分化および腫瘍抑圧に関与する遺伝子などのようなポリコーム標的遺伝子が異常に抑制されるようになる。INI1の欠失に加えて、他のSWI/SNF複合体メンバーにおける遺伝子変化を示す多数の報告がある。PRC2活性に対するINI1欠失腫瘍の腫瘍形成依存性を考慮して、EZH2阻害に対する他のSWI/SNF突然変異癌型の感受性についてこの研究で調査した。詳細には、SWI/SNF複合体メンバーARID1AおよびSMARCA4中に体細胞突然変異を持つ卵巣癌におけるEZH2阻害の効果について本研究で調査した。
【0126】
様々な組織像の卵巣癌細胞株のパネルを、増加性の濃度のEZH2阻害剤の存在下において、14日間、2D組織培養での増殖アッセイにかけた。選択した細胞株をさらに3D培養で試験した。SWI/SNF構成成分SMARCA2およびSMARCA4(BRG1としても知られている)が欠失した卵巣癌細胞株は、臨床的に達成可能な濃度で、増殖および/または形態変化の低下によって示されるように、EZH2阻害に対して最も感受性であることが分かった。対照的に、別のSWI/SNF構成成分であるARID1Aにおける突然変異は、2Dインビトロアッセイでも3Dインビトロアッセイでも、卵巣癌細胞株におけるEZH2阻害に対する感受性を広範囲に与えるようには観察されなかった。臨床活性は、タゼメトスタットにより処置したSCCOHT(SMARCA4陰性)を有する2人の患者において第1相治験で観察された。
【0127】
SCCOHTは、SMARCA2およびSMARCA4損失によって特徴付けられ、EZH2に対する依存性を示し、このことは、病状発現前および臨床研究において実証されている。特に、試験した3つのSCCOHT細胞株は、試験した約20の卵巣細胞株のうちで、14日間の増殖アッセイにおいて化合物Dに対して最も感受性であった(IC50:5~17nM)。臨床活性(SD≧6か月および確定PR)は、卵巣の再発SMARCA4陰性悪性ラブドイド腫瘍(SCCOHT)を有する患者において観察された。
【0128】
すべての卵巣癌細胞株にわたるSMARCA2/4タンパク質レベルの検査により、2つのさらなる、以前に誤って分類されたSCCOHT細胞株が同定された(
図14)。
【0129】
SCCOHT細胞株におけるコアSWI/SNFタンパク質の免疫組織化学的分析は、SMARCA4/BRG1およびSMARCA2/BRMの二重の損失を示した(
図15)。
【0130】
CRISPRプールスクリーニングにおいて試験したSCCOHT細胞株(COV434)は、EZH2ノックアウトに対して感受性であったが、他の3つの卵巣細胞株は、COV434ほど感受性ではなかった(
図16)。
【0131】
二重SMARCA2およびSMARCA4欠失卵巣細胞株は、長期増殖アッセイにおいてタゼメトスタットに対して最も感受性であることが分かった(
図17A)。33の卵巣細胞株を、タゼメトスタットにより長期増殖アッセイにおいて試験した。0.073μM~>10μMのIC
50が観察された。SMARCA2およびSMARCA4の両方が損失した細胞株は、タゼメトスタットに対して最も感受性であった(1μM未満のIC
50値)。
【0132】
細胞増殖の用量依存的な阻害は、4つのSMARCA2欠失かつSMARCA4欠失細胞株においてタゼメトスタット処置に際して観察された。単一欠失細胞株またはWT細胞株において観察された感受性は、より低かった(SMARCA4欠失JHOC-5およびTYKNU;SMARCA2欠失PA-1およびOAW42;またはSMARCA2およびSMARCA4 WT ES-2もしくはCOV362細胞株、
図17B)。
【0133】
EZH2阻害に対する感受性を、類似する突然変異またはSWI/SNF構成成分の損失を有する様々な癌細胞株において検査した。表7は、肺腺癌を含む、さらなる、SWI/SNFが変化した癌におけるEZH2活性を概説する。
【0134】
【0135】
【0136】
実施例5:SCCOHT異種移植片モデル(Bin-67)における腫瘍のインビボ処置
SCCOHT細胞株Bin-67由来のインビボ異種移植片腫瘍に18日間、タゼメトスタットを投薬した。腫瘍は、Bin-67モデルにおいて18日後にビヒクルと比較して容積において統計的有意差を示した(
図18A)。EZH2標的阻害は、18日目に集めた異種移植片組織におけるH3K27me3レベルによって評価した(
図18B)。それぞれのポイントは、単一の動物の腫瘍由来の総H3に対するH3K27me3の比率に相当する。
【0137】
実施例6:SCCOHT異種移植片モデル(COV434)における腫瘍のインビボ処置
SCCOHT細胞株COV434由来のインビボ異種移植片腫瘍に28日間、タゼメトスタットを投薬した。腫瘍は、COV434モデルにおいて28日後にビヒクルと比較して容積において統計的有意差を示した(
図19A)。28日目の後に、COV434異種移植片コホートの一部分を、処置なしでの腫瘍再増殖をモニターするために保存したが、再増殖はなかった。EZH2標的阻害は、28日目に集めた異種移植片組織におけるH3K27me3レベルによって評価した(
図19B)。それぞれのポイントは、単一の動物の腫瘍由来の総H3に対するH3K27me3の比率に相当する。
【0138】
実施例7:SCCOHT異種移植片モデル(TOV112D)における腫瘍のインビボ処置
SCCOHT株TOV112D由来のインビボ異種移植片腫瘍に毎日二回、14日間、タゼメトスタットを投薬した。腫瘍は、TOV112Dモデルにおいて14日後にビヒクルと比較して容積において統計的有意差を示した(
図20A)。EZH2標的阻害は、14日目に集めた異種移植片組織におけるH3K27me3レベルによって測定した(
図20B)。それぞれのポイントは、単一の動物の腫瘍由来の総H3に対するH3K27me3の比率に相当する。
【0139】
本明細書に引用する刊行物および特許文書はすべて、そうした刊行物または文書を本明細書に援用するために具体的に個々に示しているかのように本明細書に援用する。刊行物および特許文書の引用は、いずれかが適当な従来技術であること認めることを意図するものではなく、その内容または日付について何ら承認することにならない。これまで本発明を書面による記載により説明してきたが、当業者であれば、本発明を種々の実施形態で実施することができること、および前述の記載および下記の例は説明を目的としたものであり、以下の特許請求の範囲の限定を目的としたものでないことを認識するであろう。
【0140】
本発明は、その精神または本質的な特徴を逸脱することなく他の特定の形態で実施することができる。したがって、前述の実施形態は、あらゆる点で本明細書に記載の本発明に関する限定ではなく、例示と見なすべきである。このため本発明の範囲は、明細書本文ではなく添付の特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲の均等範囲に属するすべての変更をすべてその範囲内に包含することを意図している。