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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】シーラント剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/47 20060101AFI20220207BHJP
   A61L 24/04 20060101ALI20220207BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20220207BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20220207BHJP
   C08L 67/06 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C08G63/47
A61L24/04 200
A61L31/06
C08K5/00
C08L67/06
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018517482
(86)(22)【出願日】2016-06-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-07-19
(86)【国際出願番号】 EP2016064015
(87)【国際公開番号】W WO2016202984
(87)【国際公開日】2016-12-22
【審査請求日】2019-04-25
(31)【優先権主張番号】15172795.5
(32)【優先日】2015-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】62/181,270
(32)【優先日】2015-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517442557
【氏名又は名称】ティシウム ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100170944
【弁理士】
【氏名又は名称】岩澤 朋之
(72)【発明者】
【氏名】ペレイラ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ブリヨー エルザ
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-523864(JP,A)
【文献】国際公開第2014/190302(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0231412(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/47
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
A61L 24/04
A61L 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)のポリマー単位を含むプレポリマーを含む組成物であって、
【化1】
[式中、
pおよびnは、それぞれ独立に、1以上の整数を表し、
OR6およびOR6’は、
【化2】
であり、
7は、アルキル、アリール、置換されたアルキル、置換されたアリール、アミン、ウレタン、チオールまたはチオエステルからなる群から選択される]
前記組成物中の前記プレポリマーが、グラフトされた無水物を含まない、組成物。
【請求項2】
無水物を含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
pが、4~10である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
p=8である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
プレポリマーが、0.25から0.8mol/mol(ポリ酸)の間の、反応してまたは反応させて架橋を形成することができる官能基の量(活性化度)を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
光重合開始剤をさらに含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
光重合開始剤の存在下、光で硬化されたときに
i)0.3N/cm2より大きい90°牽引力、および
ii)80mmHgより大きい破裂性能
の特性のうちの1つまたは複数を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
7が-CH2CH3である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物を製造する方法であって、
i)一般式-OR(式中、各基のRは、独立に、水素またはアルキルである)の2つ以上の官能基を含む第1の成分と、2つ以上の酸エステル官能基を含む第2の成分とを重縮合するステップと、
ii)ステップi)によって作製したプレポリマーに、反応してまたは反応させて架橋を形成することができる官能基を導入するステップと、
iii)アルコール、アミンまたはスルフヒドリル化合物から選ばれる求核試薬を用いた反応を介して前記プレポリマーのカルボキシル末端をキャッピングすることで無水物の含有量を低減させるステップと
を含み、
iv)遊離ヒドロキシル基をブロッキングするステップ
を含んでもよく、
ならびに/または、
v)ステップii)および/もしくはiii)および/もしくはiv)によって作製した、活性化したプレポリマーを精製するステップ
を含んでもよい、方法。
【請求項10】
第1の成分が、グリセロールを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第2の成分が、セバシン酸を含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
官能基が、アクリル化剤によって導入される、請求項9から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
求核試薬が、エタノールを含む、請求項9から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
精製が、ろ過および/または食塩水洗浄を含む、請求項9から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ステップiv)が、アシル化を含む、請求項9から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物を、光重合開始剤の存在下、光で硬化すること、または請求項9から15までのいずれか1項によって作製された組成物を光重合開始剤の存在下、光で硬化すること
を含む、硬化された組成物の製造方法。
【請求項17】
組織を接着するまたは封着する際に使用するための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
組織を医療装置の表面へ接着する際に使用するための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、組成物を製造する方法、組成物を硬化する方法、それから得られうる硬化された組成物、組成物の使用、および組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓切開手術は、典型的に、縫合ベースの閉鎖、または心血管構造物の取付けに依存する。しかしながらこれは、小児の組織および罹患したまたは損傷した成人の組織がもろいため、技術的に困難でありうることから、手術時間が長くなり、出血または裂開の合併症のリスクが高まり、したがって転帰が不良となる。さらに、心肺バイパス(CPB)が心臓切開手術に必要とされ、これは、炎症反応および潜在的な神経の合併症を含む重大な有害作用を有する。
心房中隔欠損(ASD)および心中隔欠損(VSD)などの心臓欠損の閉鎖のためのカテーテルベースの介入が、処置の侵襲を軽減するために最近現れたが、鼓動を打つ心臓内に装置を固定することについて大きな課題が残っている。具体的には、心中隔欠損のカテーテルベースの閉鎖のための装置の固定は、組織を把持するという機械式手段に現在依存している。これは、重要な構造体、例えば心臓弁または特殊な伝導組織の損傷を引き起こすおそれがある。さらには、欠損の周辺に存在する組織のリムが不十分であると、補綴物が外れ、隣接した構造体に損傷を与え、さらには残存欠損を残して装置の適用を制限することがある。したがって、こうした方法は、解剖学的局在、および欠損の幾何学的形状に応じて、選ばれた患者においてのみ適用されうる。
【0003】
迅速に硬化し、重要なシーラント特性を有し、生体適合性であり、血液の存在下で作用する、柔軟で弾性のある組織シーラント剤が、潜在的な解決策を提供する。それらは、機械的な捕捉または固定を必要とせずに、一緒に組織面に接着し、または補綴装置を組織へ接着させ、それにより組織の圧縮および侵食を回避するために使用され得、かつ、低侵襲の外科処置においてもまた利用されうる。こうした材料は、低侵襲の心臓修復においてのみならず、潜在的に最小限の瘢痕および損傷を伴う軟部組織の修復においても、広範な適用を見出すことができた。例えば、血管手術において、縫合ベースの吻合術は、即座にうっ血を封着するとは限らず、血栓症の素因になる内皮中に不規則性を創るおそれがある。さらには、永続的な縫合が存在すると、修復部位にてさらなる炎症および瘢痕を伴う異物反応を引き起こすおそれがあり、これは、晩発性血管閉塞のリスクを高めることがある。組織のシーラント剤は、即座の封着、および瘢痕または組織損傷を最小限にする修復を達成することができるであろう。
【0004】
特に心血管および/または胃腸への適用のための理想的な組織のシーラント剤は、以下の特性:(1)適用部位にて保持されている間に、所望の領域への容易な適用を可能にするために、硬化する前の、最適な粘性または液様の特性、(2)体液による最小限のウォッシュアウト、ならびに低侵襲の処置の間の、その送達、およびインプラントされた装置の再配置を容易にすることが所望されたときのみの活性化、(3)特に血液および/または他の体液の存在下での著しい接着力、(4)きわめて移動性である組織、例えば心臓の収縮または大血管の脈動への接着からの機械的負荷に抵抗する能力、(5)止血性および/または密封性の封着を形成する能力、(6)最小限の炎症応答、および(7)生分解性(これは、治癒プロセスにとって決定的であり、児童への適用では特に重要であり、その理由は、発育中の体内での異質材料の長期の結果が不確かであるためである)のうちの大半を有していなければならない。
【0005】
残念なことに、臨床的に利用できる現在のシーラント剤、例えば医療グレードのシアノアクリレート(CA)またはフィブリンシーラント剤は、動的な湿潤条件下で、容易にウォッシュアウトまたは硬化され、毒性であり、したがって内部では使用され得ず、および/または、それらが心室および主要な血管の内部の力に耐えられない、弱いシーラント特性および/または接着特性を呈する。さらに、これらのシーラント剤の多くは、装置の微調整または再配置を非常に難しくする活性化特性を呈する。その上、開発中の多くのシーラント剤は、組織の表面で、官能基との化学反応を介してのみ組織の封着を達成し、そのため、血液の存在下では効果がなくなる。
【0006】
シアノアクリレートの代替物が探究されてきた。米国特許第8143042 B2号は、アクリレート基などの架橋性官能基を含有するプレポリマーを架橋して調製される生分解性エラストマーを記載している。生分解性エラストマーはまた、ポリマーの粘着性を高めるために、ポリマーにおける遊離ヒドロキシル基の数を増やすことが望ましいことも開示している。主鎖中のヒドロキシル基の数を増やすとまた、生理的溶液中の疎水性溶解性が高まる。これは、ポリマーの接着の主な機構が、官能基、例えばポリマーにおける遊離ヒドロキシル基、およびそれが適用される組織の間の化学的相互作用であることを示唆している。しかしながら、このタイプの化学相互作用は、体液、特に血液の存在下では効果がなくなり、それは、Artzi et al., Adv. Mater. 21, 3399-3403 (2009)に示されている。
同様に、Mahdavi, et al., 2008, PNAS, 2307-2312は、ナノパターンのエラストマーのポリマーを記載しており、アルデヒド官能基を有する酸化デキストラン(DXTA)の薄層を適用して、DXTA中の末端アルデヒド基と組織のタンパク質中のアミン基との共有結合による架橋を促進することによって、接着剤の接着強度を上げることを提案している。
【0007】
この接着の機構は、本質的に、硬化プロセス中に発生したラジカル間の共有結合に基づいており、組織の官能基は、いくつかの制限を有する。反応性化学を伴う接着剤の使用は、組織の表面が、プレポリマーの適用前に乾燥している必要があり、このことが、緊急処置の間などの、心臓への適用における使用を非常に難しくしている。加えて、反応性化学は、タンパク質または組織を変性させて、接着が阻まれることにつながりうる局所的炎症などの望ましくない免疫反応を促進するおそれがある。その上、組織の表面にのみ結合する反応性化学は、境界面が離れているほど接着性が低くなりやすく、そのため、接着剤と組織との間の境界面で機械的特性におけるミスマッチが存在しうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
架橋されたエラストマーのポリエステルは、米国特許出願公開第20130231412号で開示されている。生分解性ポリマーは、米国特許出願公開第7722894号で開示されている。接着性の物品は、WO2009067482 A1およびWO2014190302 A1で開示されている。抗血液性外科用接着剤は、“A Blood-Resistant Surgical Glue for Minimally Invasive Repair of Vessels and Heart Defects” Sci Transl Med 8 January 2014: Vol. 6, Issue 218, p. 218ra6, Nora Lang, Maria Pereira et al.およびWO2014190302に記載されている。しかしながら、所望の部位へすぐに適用することができて、所望の部位にて硬化前に適所に留まり、体液でウォッシュアウトされず、生分解性(非毒性)であり、強力なシーラント力/接着力を呈する、改善された、市販の実現可能な組織のシーラント剤/接着剤、例えば血液などの体液の存在下であっても心室および主な血管の内部で遭遇されるものへの必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般式(-A-B-)n(式中、Aは、置換されたまたは非置換のエステルを表し、Bは、少なくとも2つの酸エステル官能基を含む、置換されたまたは非置換の酸エステルを表し、nは、1超の整数を表す)のポリマー単位を含むプレポリマーを含む組成物であって;該組成物中のグラフトされた無水物の含有量が0.05mol/mol(ポリ酸)未満である組成物を提供する。
本発明はまた、本発明による組成物を製造する方法も提供する。
【0010】
本発明はさらに、本発明による組成物を硬化する方法であって、該組成物を、刺激、例えば光で、光重合開始剤の存在下で硬化することを含む、方法を提供する。
本発明はまた、本発明による組成物を硬化して得られる、硬化された組成物も提供する。好ましい実施形態によれば、前記硬化された組成物は、シーラント剤であり、すなわち封着をもたらして流体または気体の漏出を防ぐことができる。
本発明はさらに、組織を接着もしくは封着するための、または医療装置の表面へ組織を接着するための、本発明による組成物の使用の方法および使用も提供する。
本発明はまた、組織を封着するための方法であって、本発明による組成物を、組織の表面へ適用し、該組成物を硬化することを含む、方法も提供する。
本発明はさらに、組織を医療装置の表面へ接着するための方法であって、本発明による組成物を組織および/または医療装置の表面へ適用し、該組成物を硬化することを含む、方法も提供する。好ましい実施形態では、医療装置は、別の医療装置へ接着されてもよく、または医療装置の部分が、医療装置のアセンブリ中で一緒に接着されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による組成物の破裂性能を示すグラフである。
図2】本発明による組成物の破裂性能を示すグラフである。
図3】本発明による組成物の破裂性能を示すグラフである。
図4】本発明による組成物を使用して封着されている大腿動脈移植片の写真である。
図5】本発明による組成物の破裂性能を示すグラフである。
図6】フィブリン単独(FN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で被覆されているフィブリン、またはセバシン酸アクリル酸ポリグリセロール(PGSA)で被覆されているフィブリンの存在下での、頭蓋冠骨欠損における骨成長を表す。これは、ラット頭部の3D表示、0週および4週での頭蓋冠欠損の3D断層濃度測定の再建、ならびに頭蓋冠欠損における異なる膜での新しい骨形成の容積を示す。
図7】厚さの異なるPGSAディスクからのモデル薬剤の放出を示すグラフである。
図8】アクリル化度の異なるPGSAディスクからのモデル薬剤の放出を示すグラフである。
図9】3DプリンティングしたPGSAの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
プレポリマー
本発明によるプレポリマーは、一般式(-A-B-)n(式中、Aは、置換されたまたは非置換のエステルを表し、Bは、少なくとも2つの酸官能基または酸エステル官能基を含む、置換されたまたは非置換の酸または酸エステルを表し、nは、1超の整数を表す)のポリマー単位を含む。
成分Aは、ポリオール、例えばジオール、トリオール、テトラオールまたはそれ以上のものから誘導されうる。好適なポリオールには、ジオール、例えばアルカンジオール;トリオール、例えばグリセロール、トリメチロールプロパン、トリエタノールアミン;テトラオール、例えばエリスリトール、ペンタエリスリトール;および高級ポリオール、例えばソルビトールが挙げられる。不飽和ジオール、例えばテトラデカ-2,12-ジエン-1,14-ジオール、または例えばポリエチレンオキシドなどのマクロモノマージオールを含む他のジオール、およびN-メチルジエタノアミン(MDEA)もまた使用することができる。好ましくは、ポリオールは、置換されたまたは非置換のグリセロールである。
【0013】
成分Bは、ポリ酸、例えば二酸または高次酸から誘導されうる。多様な二酸または高次酸を使用することができる。例示的な酸には、グルタル酸(5個の炭素)、アジピン酸(6個の炭素)、ピメリン酸(7個の炭素)、セバシン酸(8個の炭素)、およびアゼライン酸(9個の炭素)が挙げられるがこれらに限定されない。例示的な長鎖の二酸には、10個超、15個超、20個超、および25個超の炭素を有する二酸が挙げられる。非脂肪族の二酸もまた使用することができる。例えば、1つまたは複数の二重結合を有する上記の二酸の変形体を、ポリオール-二酸コポリマーを生成するために使用することができる。好ましくは、二酸は、置換されたまたは非置換のセバシン酸である。
【0014】
その内容が参照により本明細書に組み込まれている、米国特許出願公開第2011-0008277号、米国特許第7722894号、および米国特許第8143042号に記載されているポリオールベースのポリマーもまた、エラストマーのポリマー材料を形成するためのプレポリマーとして使用することができる。
いくつかの置換基、例えばアミン、アルデヒド、ヒドラジド、アクリレートおよび芳香族の各基を、炭素鎖中に組み込むことができる。例示的な芳香族の二酸には、テレフタル酸およびカルボキシフェノキシ-プロパンが挙げられる。二酸はまた、置換基も含んでもよい。例えば、アミンおよびヒドロキシルのような反応性基を、架橋のために利用可能な部位の数を増やすために使用することができる。アミノ酸および他の生体分子を、生物学的特性を修正するために使用することができる。芳香族基、脂肪族基、およびハロゲン原子を、ポリマー内の鎖間の相互作用を修正するために使用することができる。
【0015】
プレポリマーは、ポリアミドまたはポリウレタン主鎖をさらに含んでもよい。例えば、ポリアミン(2つ以上のアミノ基を含む)が、ポリオールと一緒にまたはポリオールと反応した後にポリ酸と反応するのに用いられうる。典型的なポリ(エステルアミド)には、その内容が参照により本明細書に組み込まれているCheng, et al., Adv. Mater. 2011, 23, 1195-11100に記載されているものが挙げられる。他の例では、ポリイソシアネート(2つ以上のイソシアネート基を含む)が、ポリオールと一緒にまたはポリオールと反応した後にポリ酸と反応するのに用いられうる。例示的なポリエステルウレタンには、米国特許第201323412号に記載されているものが挙げられる。
【0016】
プレポリマーの質量平均分子量は、屈折率を備えたゲル浸透クロマトグラフィーで測定して、約1,000ダルトン~約1,000,000ダルトン、約1,000ダルトン~約1,000,000ダルトン、好ましくは約2,000ダルトン~約500,000ダルトン、より好ましくは約2,000ダルトン~約250,000ダルトン、最も好ましくは約2,000ダルトン~約100,000ダルトンであってもよい。質量平均分子量は、約100,000ダルトン未満、約75,000ダルトン未満、約50,000ダルトン未満、約40,000ダルトン未満、約30,000ダルトン未満、または約20,000ダルトン未満であってもよい。質量平均分子量は、約1,000ダルトン~約10,000ダルトン、約2,000ダルトン~約10,000ダルトン、約3,000ダルトン~約10,000ダルトン、約5,000ダルトン~約10,000ダルトンであってもよい。好ましくは、それは、約3000ダルトンである。
【0017】
用語「約」は、本明細書で使用されるとき、示された値または範囲の10%以内、好ましくは8%以内、より好ましくは5%以内を意味する。特定の実施形態によれば、「約X」は、Xを意味する。
プレポリマーは、屈折率を備えたゲル浸透クロマトグラフィーで測定される多分散度が、20.0未満、より好ましくは10.0未満、より好ましくは5.0未満、さらにより好ましくは2.5未満であってもよい。好ましくは、それは、約2.5である。
プレポリマーは、80℃での溶融粘度が、100から2000cPの間、より好ましくは200から1000cPの間、さらにより好ましくは300から500cPの間であってもよい。
プレポリマーは、酸価が、1から200mgKOH/g(ポリマー)の間、より好ましくは10から100mgKOH/g(ポリマー)の間、さらにより好ましくは50から100mgKOH/g(ポリマー)の間であってもよい。好ましくは、それは、約80mgKOH/g(ポリマー)である。
【0018】
プレポリマー中の、ポリオールの、ポリ酸に対するモル比は、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9および1:10、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1;1であってもよい。ポリオールの、ポリ酸に対するモル比はまた、2:3、3:2、3:4または4:3であってもよい。ポリマーはまた、2つ以上の異なる比の混合の結果であってもよい。好ましくは、該モル比は、約1:1である。
活性化されたプレポリマー
本発明のプレポリマーは、好ましくは活性化される。それは、反応してまたは反応させて架橋を形成することができる官能基を導入することによって活性化させることができる。プレポリマーは、プレポリマー主鎖における1つまたは複数の官能基を、反応してまたは反応させて架橋を形成して硬化されたポリマーをもたらすことができる1つまたは複数の官能基と反応させることによって、活性化される。
【0019】
プレポリマー主鎖において活性化されることになる好適な官能基には、ヒドロキシル基、カルボン酸基、アミン、およびこれらの組合せ、好ましくはヒドロキシおよび/またはカルボン酸が挙げられる。プレポリマーにおける遊離ヒドロキシル基またはカルボン酸基は、ヒドロキシル基を、ポリマー鎖の間に架橋を生成することができる部分で官能化することによって活性化されうる。活性化される基は、プレポリマー中のA部分および/またはB部分における遊離ヒドロキシル基またはカルボン酸基でありうる。
遊離ヒドロキシル基またはカルボン酸基は、多様な官能基、例えばビニル基で官能化されうる。ビニル基は、当技術分野で既知の多様な技術、例えばビニル化またはアクリル化によって導入されうる。本発明によれば、ビニル基は、以下の構造式:-CR1=CR23(式中、R1、R2、R3は、互いに独立に、H、メチル、エチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換されたアルキル、置換されたアリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテルおよびカルボニルからなる群から選択される)を含有する。
【0020】
好ましくは、官能基は、アクリレート基であるか、またはアクリレート基を含有する。本発明によれば、アクリレート基は、置換されたまたは非置換のアクリロイル基を含有する部分である。アクリレートは、以下の基:-C(=O)-CR1=CR23(式中、R1、R2、R3は、互いに独立に、H、メチル、エチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換されたアルキル、置換されたアリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテルおよびカルボニルからなる群から選択される)を含有してもよい。
好ましくは、R1、R2およびR3は、Hであり;またはR1はCH3で、R2およびR3はHであり;またはR1およびR2はHで、R3はCH3であり;またはR1およびR2はHで、R3はフェニルである。
【0021】
ビニル基はまた、プレポリマーにおいて遊離カルボキシル基を使用してプレポリマーの主鎖中に組み込むことができる。例えば、メタクリル酸ヒドロキシエチルは、カルボニルジイミダゾール活性化化学を使用して、プレポリマーのCOOH基を介して組み込むことができる。
活性化度は、多様であってよく、40℃までの、好ましくは37℃までの室温または昇温にて最適な破裂性能特性を達成するために、0.2~0.9mol/mol(ポリ酸またはポリオール)、好ましくは0.3~0.8mol/mol(ポリ酸またはポリオール)、最も好ましくは0.4~0.6mol/mol(ポリ酸またはポリオール)、例えば0.5mol/mol(ポリ酸またはポリオール)でありうる。活性化度が上に記載した通りであって、かつ反応性官能基がアクリレートである、すなわちアクリル化度が上記の通りであるときに、最も好ましい。
【0022】
活性化されたプレポリマーは、好ましくは、一般式(I)を有する。
【化1】
[式中、
nおよびpは、それぞれ独立に、1以上の整数を表し、
それぞれの個々の単位におけるR2は、水素またはポリマー鎖または-C(=O)-CR3=CR45(式中、R3、R4、R5は、互いに独立に、H、メチルまたはエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換されたアルキル、置換されたアリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテルおよびカルボニルからなる群から選択される)を表す]
【0023】
好ましくは、R3、R4およびR5は、Hであり;またはR3はCH3で、R4およびR5はHであり;またはR3およびR4はHで、R5はCH3であり;またはR3およびR4はHで、R5はフェニルである。
好ましくは、pは、1~20、より好ましくは2~10、さらにより好ましくは4~10の整数である。p=8であるとき、最も好ましい。
【0024】
好ましいプレポリマーは、以下の構造式を有する。
【化2】
(式中、
nは、1以上の整数を表す)
【0025】
アクリレートまたは他のビニル基に加えて、他の薬剤も、プレポリマーを活性化させるために使用することができる。こうした薬剤の例には、グリシジル、エピクロルヒドリン、トリフェニルホスフィン、ジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)、ジアジリン、ジビニルアジペートおよびジビニルセバケートが挙げられるがこれらに限定されず、触媒、ホスゲンタイプの試薬、二酸塩化物、ビス無水物、ビスハロゲン化物、金属表面、およびその組合せとして酵素の使用を伴う。薬剤にはさらに、イソシアネート、アルデヒド、エポキシ、ビニルエーテル、チオール、DOPA残基、またはN-ヒドロキシスクシンイミド官能基が挙げられる。
活性化されたプレポリマーは、さらに、ポリマー鎖の間の架橋を修正するために、1種または複数の材料と反応させることができる。例えば、硬化する/架橋する前にまたは間に、1種または複数のヒドロゲルまたは他のオリゴマーの、またはモノマーもしくはポリマーの、前駆体(例えばアクリレート基を含有するように修正されうる前駆体)、例えばポリ(エチレングリコール)、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギネート、他のアクリレートベースの前駆体、例えばアクリル酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリロニトリル、n-ブタノール、メタクリル酸メチル、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物、およびTMPTA、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、トリメタクリル酸ペンタエリスリトール、テトラメタクリル酸ペンタエリスリトール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ペンタアクリル酸ジペンタエリスリトール、Bis-GMA(ビスフェノールグリシダルメタクリレート)およびTEGDMA(トリエチレン、ジメタクリル酸グリコール)、アクリル酸スクロース;他のチオールベースの前駆体(モノマーのまたはポリマーの);他のエポキシベースの前駆体;ならびにこれらの組合せを、アクリル化されたプレポリマー(例えばPGSA)と反応させることができる。
【0026】
活性化されたプレポリマーは、着色剤の存在下でおよび/または着色剤と混合させて、製造されてもよい。着色剤の好ましい例は、医療装置、医薬製品または化粧料における使用のために、FDAにより推奨されているものである。http://www.fda.gov/ForIndustry/ColorAdditives/ColorAdditiveInventories/を参照されたい。より好ましくは、この作用剤は、FD&C1である。
【0027】
無水物
本発明の発明者らは、無水化合物が、プレポリマーの活性化から、例えば塩化アクリロイル(AcCl)と遊離カルボン酸との反応を介して、生成しうることを認めた。こうした無水物の例は、一般式(II):
【化3】
[式中、
pおよびnは、それぞれ独立に、1以上の整数を表し、
それぞれの個々の単位中のR6およびR6’は、独立して、ポリマー鎖であってよく、
またはそれぞれの個々の単位中のR6およびR6’は、独立して、-C(=O)-CR3=CR45(式中、R3、R4、R5は、互いに独立に、H、メチルまたはエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換されたアルキル、置換されたアリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテルおよびカルボニルからなる群から選択される)であってよく;
またはそれぞれの個々の単位中のR6およびR6’は、独立して、アルキル、アリール、複素環、シクロアルキル、芳香族複素環、マルチシクロアルキル、エステル、エーテル、ハロゲン化物、カルボン酸、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、トリアルキルアミノ、アミド、カルバモイル、チオエーテル、チオール、アルコキシまたはウレイドの各基であってよい]
を有する。
【0028】
pは、1~20、2~10、さらには4~10の整数であり、例えばp=8である。
無水物は、以下の構造式:
【化4】
(式中、
6および6’は、独立に、ポリマー鎖、または
【化5】
または、
【化6】
を表す)
を有することができる。
【0029】
プレポリマーの活性化の間、非対称無水物と対称無水物との双方が生成しうる。
非対称無水物(混合無水物とも称される)は、以下の一般構造式:
【化7】
(式中、
1およびR2は、異なっており、R1およびR2は、水素原子、アルキル基、アリール基からなる群から選択される)
を有するカルボン酸無水物である。
【0030】
対称無水物は、以下の一般構造式:
【化8】
(式中、
1は、水素原子、アルキル基、アリール基の群から選択される)
を有するカルボン酸無水物である。
【0031】
本発明の発明者らは、この無水物の存在がプレポリマーの不安定性と相関しており、不純物(例えば低分子量のアクリレート)のレベルが経時的に増すこと、および組成物の適用がきわめて難しいことに至ることを、今や示した。そのため、不純物の経時的なレベル変化が制限されて、分子量の進化が制限され、したがって粘度の変化が制限されている、シーラント剤および/または接着剤として使用されうるプレポリマーを含む安定な組成物を得ることが必要であった。
本発明によれば、組成物中のグラフトされた無水物の総含有量のモル比は、核磁気共鳴(NMR)で測定して、0.05mol/mol(ポリ酸)未満である。好ましくは、組成物中に、グラフトされた無水物はない。より好ましくは、組成物中に存在するグラフトされたまたはグラフトされていない無水物はない。
【0032】
組成物中のグラフトされた無水物の含有量は、エタノールキャッピングによる合成中に、または任意の他の求核性置換反応を用いた合成中に、制御することができる。これらの化学反応は、当技術分野で周知である。この反応のための好適な試薬には、アルコール、アミンまたはスルフヒドリル化合物が挙げられる。エタノールの追加は、好ましくは、30~50℃、好ましくは35~45℃の範囲にある温度にて、例えば40℃にて行われる。エタノールキャッピングのステップの期間は、好ましくは10~40時間の間、より好ましくは24時間の間に行われる。ポリマー溶液(約10%w/v)の、エタノールに対する容積比は、20:1の範囲内、より好ましくは10:1の範囲内、さらにより好ましくは5:1の範囲内にある。
【0033】
キャッピングのステップ時に、活性化されたプレポリマー鎖中の遊離カルボン酸の端部の構造式は、
【化9】
[式中、
pおよびnは、それぞれ独立に、1以上の整数を表し、
それぞれの個々の単位中のR6およびR6’は、独立して、ポリマー鎖であってよく、
またはそれぞれの個々の単位中のR6およびR6’は、独立して、-C(=O)-CR3=CR45(式中、R3、R4、R5は、互いに独立に、H、メチルまたはエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換されたアルキル、置換されたアリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテルおよびカルボニルからなる群から選択される)であってよく;
またはそれぞれの個々の単位中のR6およびR6’は、独立して、-H、アルキル、アリール、複素環、シクロアルキル、芳香族複素環、マルチシクロアルキル、エステル、エーテル、ハロゲン化物、カルボン酸、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、トリアルキルアミノ、アミド、カルバモイル、チオエーテル、チオール、アルコキシまたはウレイドの各基であってよく;
7は、-H、メチルまたはエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換されたアルキル、置換されたアリール、アミン、ウレタン、チオールまたはチオエステルからなる群から選択される]
になる。
【0034】
エタノールでのキャッピングの事例では、R7は、-CH2CH3である。
未反応の求核性基は、プレポリマー活性化の後、部分的にまたは全体的に、ブロッキングまたは保護されうる。ブロッキング反応または保護反応の例は、当技術分野で周知である。ヒドロキシル保護基またはブロッキング基には、アシル;環式もしくは非環式の、分枝状もしくは非分枝状の、置換されたもしくは非置換のアルキル;環式もしくは非環式の、分枝状もしくは非分枝状の、置換されたもしくは非置換のアルケニル;環式もしくは非環式の、分枝状もしくは非分枝状の、置換されたもしくは非置換のアルキニル;環式もしくは非環式の、分枝状もしくは非分枝状の、置換されたもしくは非置換のヘテロアルキル;環式もしくは非環式の、分枝状もしくは非分枝状の、置換されたもしくは非置換のヘテロアルケニル;または環式もしくは非環式の、分枝状もしくは非分枝状の、置換されたもしくは非置換のヘテロアルキニル;置換されたもしくは非置換のアリール;または置換されたもしくは非置換のヘテロアリールが挙げられる。
【0035】
硬化
本発明による組成物は、外科用組成物であってよく、組織のシーラント剤および/または接着剤として使用することができる。該組成物は、注射器またはカテーテルを介して所望の領域へ適用されうるような流動性の特徴を有するが、体液、例えば水および/または血液によって洗い流されることなく、適用部位にて適所に留まるのに十分に粘性である。
好ましくは、組成物の粘度は、500cP~100000cP、より好ましくは1000~50000cP、さらにより好ましくは2000~40000cP、最も好ましくは2500~25000cPである。粘度の分析は、2.2mLのチャンバおよびSC4-14スピンドルを備えたBrookfield DV-II+Pro粘度計を用いて実施され、分析の間の速度は5~80rpmで多様である。上に挙げた粘度は、医療上の適用にとって妥当な温度範囲、すなわち40℃まで、好ましくは37℃までの室温にて存在する。
【0036】
組成物はまた、体液、例えば血液によるウォッシュアウトに抵抗するのに十分に疎水性である。このことは、低侵襲の手術の間、本発明の組成物を用いてインプラントした装置の、所望の部位への送達、ならびに再配置を容易にする。疎水性度は、ポリマー主鎖の疎水性の性質(例えばより長いアルキル鎖はより短い鎖よりも疎水性である)および活性化度を含む、プレポリマーの化学的組成に依存する。本発明のプレポリマーは、硬化前にすでに架橋を含有することがあるが、ジクロロメタンまたは酢酸エチルなどの有機溶媒に可溶性であるため、典型的には完全には架橋されていない。本発明の組成物は、投与および硬化の前に、硬化されるときのシーラント力の著しい低下なしに、体液、例えば血液中でインキュベートされてもよい。
【0037】
本発明の組成物は、体液、例えば血液中で安定である。より詳細には、本発明の組成物は、意図的に適用させる刺激、例えば光、例えばUV光、熱、または架橋を開始するための化学的開始剤の存在なしでは、体液中で自発的に架橋しない。
組成物は、フリーラジカル開始反応を用いて、例えば光開始重合、熱開始重合、および酸化還元開始重合によって硬化されうる。
【0038】
好ましくは、組成物は、反応を促進するための光重合開始剤の存在下で、光、例えば紫外線(UV)光で照射される。好適な光重合開始剤の例には、以下:2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノン、2-ヒドロキシ-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(Irgacure 2959)、1-ヒドロキシシクロヘキシル-1-フェニルケトン(Irgacure 184)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(Darocur 1173)、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[4-モルホリニル]フェニル]-1-ブタノン(Irgacure 369)、メチルベンゾイルフォルメート(Darocur MBF)、オキシ-フェニル酢酸-2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル(Irgacure 754)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルホリニル)-1-プロパノン(Irgacure 907)、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(Darocur TPO)、ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)(Irgacure 819)、およびこれらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない。
好ましくは、組成物は、反応を促進するための光重合開始剤の存在下で、可視光(典型的には青色の光または緑色の光)で照射される。可視光のための光重合開始剤の例には、以下:ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド、エオシンY二ナトリウム塩、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)およびトリエタノールアミン、ならびにカンファーキノンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
インビボの光重合および他の医療上の適用を含む組成物の適用において、細胞互換性光重合開始剤の使用が好ましく、規制機関に求められることがある。光重合開始剤Irgacure 2959が使用されてもよく、これは、広範な哺乳類の細胞型および種にわたって最小限の細胞毒性(細胞死)を引き起こすが、しかしながら、非毒性量を用いることによってこのリスクを減らすことが可能である。
光重合が起きるためには、組成物(および、適用可能な場合、それが適用される基質)は、たとえ着色されている場合であっても、光に対して十分に透明であることが好ましい。
組成物がインビボで硬化されるときの適用において、硬化が起きる温度は、好ましくは、組成物が適用される組織を損傷しないように制御される。この制御は、硬化する光の曝露時間を減らす(例えば60秒未満、好ましくは30秒未満)ことによって管理することができる。好ましくは、組成物は、照射の間に、45℃超で加熱されず、より好ましくは37℃超で加熱されず、さらにより好ましくは25℃超で加熱されない。
【0040】
光化学的架橋に加えて、組成物は、光延型反応によって、酸化還元対開始重合、例えば過酸化ベンゾイル、N,N-ジメチル-p-トルイジン、過硫酸アンモニウムまたはテトラメチレンジアミン(TEMED)によって、および二官能基スルフヒドリル化合物を用いるマイケル型付加反応によって、熱的に硬化することができる。
重合時に、プレポリマーは、改善されたシーラント特性を有する架橋ネットワークを形成して、血液および他の体液の存在下であってさえ、著しいシーラント力を呈する。硬化後に得られた本発明のシーラント剤は、好ましくは、下にある組織の動き、例えば心臓および血管の収縮に抵抗するのに十分に伸縮自在である。シーラント剤は、封着をもたらし、流体または気体の漏出を防ぐことができる。シーラント剤は、好ましくは生分解性および生体適合性であり、炎症反応を最小限しか引き起こさない。シーラント剤は、好ましくはエラストマーである。
【0041】
生分解性は、インビトロで、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)中で、または酸性もしくはアルカリ性条件下で評価することができる。生分解性はまた、インビボで、例えば動物、例えばマウス、ラット、イヌ、ブタまたはヒトにおいても評価することができる。分解率は、インビトロでまたはインビボでの、ポリマーの質量および/または厚さの経時的な損失を測定することによって評価することができる。
硬化された組成物は、80mmHg超、好ましくは100mmHg~200mmHg以上、例えば400mmHgまたは500mmHgの範囲内の破裂圧力を呈することができる。破裂圧力または破裂力は、組成物で被覆された切開部を有する、ブタの、外植した頸動脈血管を破裂させるのに得られる圧力値を指す。
【0042】
単独の、またはパッチもしくは組織を被覆している、硬化された組成物はまた、好ましくは、少なくとも0.3N/cm2、より好ましくは少なくとも0.5N/cm2、さらにより好ましくは少なくとも2N/cm2、例えば1.5N/cm2~2N/cm2以上の90°牽引接着力を呈する。牽引接着力は、接着剤物品または検体を、濡れた組織、例えば平坦な基質、例えば金属的突出部において動かなくさせた、心臓組織の心外膜表面、血管、ブタの腸組織の漿膜側へ付着させることによって得られる接着値を指す。90°牽引接着試験は、接着剤が離れる前に表面領域が耐えられる最大垂直力(引張における)を求める。
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、光重合開始剤の存在下、光で硬化され、硬化された組成物は、少なくとも0.5N/cm2、好ましくは少なくとも1N/cm2、さらにより好ましくは少なくとも2N/cm2、例えば1.5N/cm2~2N/cm2であるが、好ましくは5N/cm2超、例えば6N/cm2まで、または7N/cm2以上の、90°牽引接着力を呈する。
【0043】
本発明の組成物は、光重合開始剤の存在下、光で硬化されたとき、以下の特性:
i)0.3N/cm2超、好ましくは0.5N/cm2以上の90°牽引力、および
ii)80mmHg超、好ましくは100~200mmHg以上の破裂性能
のうちの1つまたは複数を好ましくは有する。
本発明の組成物は、シーラント剤として使用され、すなわち硬化後に、バリアを形成することによってまたは空隙容積を充填することによって、漏出(例えば流体、気体)を防ぐことができる。
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物はまた、接着剤としても使用され、すなわち硬化後に、表面に強力に結合することができ、または1つの表面を別の表面に結合させることができる。
濡れた生物組織の接着および封着以外に、組成物は、ポリエチレンテレフタレート、発泡ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリプロピレン、シリコーン、ポリウレタン、アクリル、固定された組織(例えば心膜)、セラミクス、またはこれらの任意の組合せを含む、多様な、天然のまたは合成の、親水性または疎水性の基質に接着および封着することができる。
【0044】
製造方法
本発明の組成物を製造する方法は、
i)一般式-OR(式中、各基のRは、独立に、水素またはアルキルである)の2つ以上の官能基を含む第1の成分と、2つ以上の酸ステル官能基を含む第2の成分とを重縮合することと、
ii)ステップi)によって作製したプレポリマーを活性化させることと、
iii)無水物の含有量を制御することと
を含み、任意選択で
iv)遊離ドロキシル基をブロッキングすること
を含んでもよく、
ならびに/または、
v)ステップii)および/またはiii)および/またはiv)によって作製した、活性化したプレポリマーを精製すること
を含んでもよい。
【0045】
前記第1の成分は、ポリオール、例えばジオール、トリオール、テトラオール、またはそれを超えるものであってもよい。好適なポリオールには、ジオール、例えばアルカンジオール;トリオール、例えばグリセロール、トリメチロールプロパン、トリエタノールアミン;テトラオール、例えばエリスリトール、ペンタエリスリトール;および高級ポリオール、例えばソルビトールが挙げられる。不飽和ジオール、例えばテトラデカ-2,12-ジエン-1,14-ジオール、またはポリエチレンオキシドなどのマクロモノマージオールを含む他のジオール、およびN-メチルジエタノアミン(MDEA)もまた使用することができる。好ましくは、ポリオールは、置換されたまたは非置換のグリセロールである。
【0046】
前記第2の成分は、ポリ酸、例えば二酸または高次酸であってもよい。多様な二酸または高次酸を使用することができる。例示的な酸には、グルタル酸(5個の炭素)、アジピン酸(6個の炭素)、ピメリン酸(7個の炭素)、セバシン酸(8個の炭素)、およびアゼライン酸(9個の炭素)が挙げられるがこれらに限定されない。例示的な長鎖の二酸には、10個超、15個超、20個超、および25個超の炭素を有する二酸が挙げられる。非脂肪族の二酸もまた使用することができる。例えば、1つまたは複数の二重結合を有する上記の二酸の変形体を、ポリオール-二酸コポリマーを生成するために使用することができる。
【0047】
例示的な芳香族の二酸には、テレフタル酸およびカルボキシフェノキシ-プロパンが挙げられる。二酸はまた、置換基、例えばアミン置換基およびヒドロキシ置換基も含んでいてもよい。
好ましくは、二酸は、置換されたまたは非置換のセバシン酸である。
前記第1の成分と第2の成分とは、一緒に、第1の成分:第2の成分のモル比0.5:1~1.5:1、好ましくは0.9:1.1の範囲、最も好ましくは1:1で加えられる。第1の成分がグリコールで第2の成分がセバシン酸であり、モル比1:1で加えられる際、セバシン酸における2つのカルボキシル基のためにグリセロールにおける3つのヒドロキシル基がある。したがって、グリセロールにおける余分なヒドロキシル基が、活性化のステップの間に使用される。
【0048】
ステップi)のための条件は特に限定されないが、温度100~140℃、好ましくは120~130℃の範囲、好ましくは窒素を含む不活性雰囲気、および真空下が挙げられる。
ステップii)の活性化剤は、好ましくは、置換されたまたは非置換のアクリロイル基を含有する部分であるアクリレート基を含むアクリル化剤である。アクリレートは、以下の基:-C(=O)-CR1=CR23(式中、R1、R2、R3は、互いに独立に、H、メチルまたはエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換されたアルキル、置換されたアリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテルおよびカルボニルからなる群から選択される)を含有してもよい。
【0049】
好ましくは、R1、R2およびR3は、Hであり;またはR1はCH3で、R2およびR3はHであり;またはR1およびR2はHで、R3はCH3であり;またはR1およびR2はHで、R3はフェニルである。
最も好ましくは、活性化剤は、塩化アクリロイルである。
活性化の工程の間、無水物は、アクリル化モノマーの、任意のカルボン酸基との反応の結果、形成しうる。好ましい実施形態によれば、無水物の含有量は、ステップiii)において、エタノールキャッピングによって、または他の求核置換反応を用いて制御される。このステップiii)のための好適な試薬には、アルコール、アミンまたはスルフヒドリル化合物が挙げられる。エタノールの添加は、好ましくは、温度30~50℃、好ましくは35~45℃の範囲内、例えば40℃にて行われる、エタノールキャッピングのステップの期間は、好ましくは10~40時間の間、より好ましくは24時間の間、行われる。ポリマー溶液の、エタノールに対する容積比は、20:1の範囲内、より好ましくは10:1の範囲内、さらにより好ましくは5:1の範囲内である。
【0050】
ヒドロキシルのブロッキングまたは保護が実施されてもよい(ステップiv)。当技術分野で既知の技術を適用することができる。好ましくは、ヒドロキシルは、塩化エタノイルなどの化合物を用いたアシル化反応を介してブロッキングされる。
グラフトされた無水物の残留レベルもまた、好ましくは0.05mol/mol(ポリ酸)未満のレベルで存在してもよい。
グラフトされた無水物の形成もまた、活性化の前に、任意の遊離カルボン酸基のブロッキングを介して妨げられてもよく、すなわちステップii)の前にステップiv)が行われる。
ステップi)からiv)は、1種または複数の溶媒または触媒の存在下で実施することができ、例には、ジクロロメタン(DCM)、酢酸エチル(EtOAc)、ジメチルアミノピリジリン(DMAP)、およびトリエチルアミン(TEA)、またはこれらの任意の組合せが挙げられる。
精製のステップv)は、任意の溶媒および未反応の生成物が、ステップiii)およびiv)によって作製されたプレポリマーから除去されることを確実にするために実施される。このステップは、ろ過および/または水洗浄ステップを含むことができる。このステップv)が水洗浄のステップを含むとき、有機相と水性相との間の迅速な相分離を可能にする条件が好まれる。例えば、水洗浄のステップの間の相分離は、水性相中で可溶化された塩を使用して改善することができる。塩の例には、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウムが挙げられるがこれらに限定されない。別法では、反応の間に生成された塩は、酢酸エチル、n-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を用いるろ過を介して除去することができる。
【0051】
精製のステップの後にはまた、以下のステップのうちの1つまたは複数、より好ましくはすべてが行われることが好ましく、該ステップには、遊離ラジカル阻害剤、例えばブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、モノメチルエーテル-ヒドロキノン(MEHQ)、フェニルブチル-ニトロン(PBN)、および/または光重合開始剤、例えばIrgacure 2595もしくはジフェニル-トリメチル-ホスフィンオキシド(TPO)の添加、溶媒留去および/または抽出、好ましくは、プレポリマーの活性化に干渉せずに溶媒および不純物の効率的な除去を確実にするために超臨界CO2を介する溶媒留去および/または抽出が含まれる。
【0052】
使用方法
組成物は、例えば注射器またはカテーテルによる適用によって、スプレディングチップを介して、または噴霧してもしくはブラシを用いて、所望の部位へ直接適用することができる。組成物は、ゲージが14~20、好ましくは14~18である注射針を通って注射可能であるように十分に非粘性であることが好ましいが、最小限のウォッシュアウトで投与部位にて適所に留まるのに十分に粘性であることが好ましい。組成物は、投与前にまたは投与の間に、光重合開始剤、安定剤、治療薬、予防薬および/もしくは診断用薬剤、ならびに/または1種または複数の賦形剤と混合することができる。
【0053】
材料は、直接使用することができ、すなわち封着または接着されることになる部位へ直接適用することができる。別法では、材料は、装置、例えばパッチまたはテープへ適用してパッチを所望の部位へ接着させることができる。当技術分野で既知の、天然または合成の、従来のパッチ、パッチ材料または移植材料を使用することができる。主要血管、心臓組織、および/または治療困難な傷(例えば糖尿病性潰瘍)に使用するためのパッチが、当技術分野で既知である。生体適用性、生分解性のサージカルテープを、例えば手術中の出血を止めるために使用することができる。テープは生分解性であるので、外科医が、閉じられた傷を縫合する前に、それが除去される必要はない。他の好適な材料の例には、ポリエチレンテレフタレート、発泡ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリプロピレン、シリコーン、ポリウレタン、アクリル、固定された組織(例えば心膜)、セラミクス、またはこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0054】
組成物または接着層の厚さは、適用法および投与部位に応じて多様であってよい。コーティングの厚さは、少なくとも約50μm、60μm、70μm、74μm、75μm、80μm、100μm、125μm、150μm、175μm、200μm、225μm、250μm、275μm、300μm、325μm、350μm、375μm、400μm、425μm、450μm、475μm、500μm、525μm、550μm、575μm、600μm、625μm、650μm、675μm、700μmまたは725μmであってよい。
活性化されたプレポリマーの封着特性および接着特性は、異なるアプローチを介して誘発することができる。好ましいアプローチは、光重合開始剤の存在下での光刺激を介することである。他の潜在的な刺激には、当技術分野で既知の好適な光重合開始剤の存在下での熱、または上で開示したネットワーク重合を誘発することができる反応性化学物質の使用が挙げられる。
【0055】
シーラント力/接着力は、硬化の間に組成物を前負荷に供することによって改善させることができる。これは、パッチを含む実施形態にとってとりわけ有用であり、ここで、プレポリマーはパッチ上に被覆され、次いで組織へ適用される。硬化の間に、被覆されたパッチ中に適用される前負荷は、それが接着力の改善をもたらすのであれば、多様なものであってよい。パッチへ適用される前負荷力は、約0.5N~約10N、好ましくは約1N~約8N、より好ましくは約2N~約8N、最も好ましくは約3N~約7Nであってもよい。前負荷の適用は、接着剤が組織中へ貫通するのを助けることができる。
【0056】
使用
A.組織の封着および接着
本発明による組成物は、組織、PTFEベースの移植片などの移植材料、またはこれらの任意の組合せを含む、目標の表面を接着するまたは封着するために使用されてもよい。目標の表面を接着するまたは封着するための方法は、組成物を表面へ適用し、該組成物を硬化することを含む。
【0057】
特別な実施形態によれば、本発明の組成物は、バリアを形成するために、または特に、例えば流体、気体などの、漏出を防ぐように空隙を充填するために、使用される。例えば、本発明の組成物は、外科用シーラント剤として使用することができる。適用の例には、例えば、傷または外傷に起因する、または血管に移植片を縫合した後などの手術の間の、または血管内治療における血管へのアクセス後の、出血を止めることが挙げられる。投与の例には、血管吻合術における縫合への補助剤としての使用、およびePTFE移植、例えばeTPFE血管移植における縫合への補助剤としての使用が挙げられる。シーラント剤は、外科医が、閉じられた傷を縫合する前または後に除去される必要がなく、それは、シーラント剤が経時的に分解することになるからである。他の適用によれば、本発明の組成物は、さらに、縫合なしの条件下で、例えば血管切開部の縫合なしの閉鎖のために、使用することができる。治療されうる他のタイプの傷には、漏出する傷、閉鎖困難な傷、または通常の生理的機序を介しては適切に治癒できなかった傷が挙げられるがこれらに限定されない。適用は、ヒトまたは獣医学での使用のために、体内と体外との双方で実施することができる。
適用の間にまたは水の存在下で自発的に活性化する従来の組織接着剤、または親水性でありそのため硬化前にウォッシュアウトしがちな接着剤とは違って、本発明による組成物は、活性化または転置なしに濡れた基質へ適用することができる。組成物はまた、乾いた基質へも適用することができる。
【0058】
組成物はまた、組織を、医療装置の表面へ接着させるためにも使用することができる。組成物は、医療装置において、装置の部分としてまたはすべてとしてのいずれかで、使用することができ、または装置を組織へ接着させるために使用することができる。組織を医療装置の表面へ接着するための方法は、組成物を、組織および/または医療装置の表面へ適用し、該組成物を硬化することを含む。組成物は、組織を接合するため、例えばインビボで1種または複数の組織を接合するためにも使用することができる。
本発明による組成物はまた、生分解性ステントへも製造することができる。ステントは、血管を通る流れを増加させるために血管の直径を大きくすることができるが、ステントが生分解性であるために、血管は、血栓症のリスクを減らしてまたはステントを瘢痕組織で被覆して直径を大きくすることができ、このことが血管を再び狭くするおそれがある。該組成物は、組織に対して、覆いのないステントに比べダメージを与えない方法で、ステントが血管壁に接着するのを助けるためにステントの外面を被覆することができ、または体内でのその転置を回避することができる。同様に、組成物は、組織と接触している任意の装置の表面を被覆して、組織へ接着されうる好適な境界面をもたらすことができる。
【0059】
本発明による組成物は、接着剤またはシーラント剤を要する他の多様な適用において使用することができる。これらには、以下:肺切除に続く空気の漏出;外科治療のための時間を減らすこと;硬膜を封着すること;腹腔鏡処置を容易にすること;分解性の皮膚接着剤として;ステーブルまたはタックの必要性を防止するまたは減らすためのヘルニアマトリックスとして;失血を防止すること;外科治療の間に器官または組織を操作すること;適所に角膜移植片を確保すること;心筋梗塞後に薬剤を送達するためにおよび/または心臓の拡張を減少させるために心臓を修復すること;別の材料を組織に付着させること;縫合またはステープルを増大させること;組織全体にわたって力を分配すること;漏出を防止すること;火傷した皮膚からの水の蒸発を防止する皮膚のバリア膜として;抗瘢痕または抗菌薬物の送達のためのパッチとして;装置を組織へ取り付けること;口腔内で装置を固定するテープとして装置を粘膜へ付着させること、例えば義歯および口用器具を保持すること;軟組織を骨へ定着させるテープとして;骨再生誘導法における変形可能なバリアとして、および組織における孔の形成を防止すること、組織の機械的性質を強化する/増大させることが挙げられるがこれらに限定されない。
【0060】
B.生物活性分子の送達
記載されている本発明による組成物はまた、材料がシーラント剤/接着剤として機能する期間の間に放出される、1種または複数の医薬の、治療用の、予防用の、および/または診断用の薬剤も含有する。該薬剤は、例えば分子量が、2000ダルトン未満、1500ダルトン未満、1000ダルトン未満、750ダルトン未満、または500ダルトン未満である小分子薬剤であってもよく、生物分子、例えばペプチド、タンパク質、酵素、核酸、多糖、増殖因子、細胞接着配列、例えばRGD配列またはインテグリン、細胞外マトリックス成分、またはこれらの組合せであってもよい。小分子薬剤の例示的な部類には、抗炎症薬、鎮痛薬、抗菌物質、およびこれらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない。例示的な増殖因子には、TGF-β、酸性線維芽細胞増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、IGF-IおよびII、血管内皮由来の増殖因子、骨形成タンパク質、血小板由来の増殖因子、ヘパリン結合増殖因子、造血性増殖因子、ペプチド増殖因子、または核酸が挙げられるがこれらに限定されない。例示的な細胞外マトリックス成分には、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、およびこれらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない。プロテオグリカンおよびグリコサミノグリカンはまた、共有結合的にまたは非共有結合的に、本発明の組成物と会合させることができる。
【0061】
プレポリマー上の活性化されなかった官能基は、1種または複数の薬剤、例えば小分子の薬剤および/または生物分子と共有結合的に結合するために使用されうる。別法では、1種または複数の薬剤は、作用剤の存在下で組成物を硬化することによって、硬化された組成物内に物理的に捕捉されうる。
好ましい実施形態によれば、本発明に従ってアクリル化度を高めることによって、生物活性分子のより緩徐な放出プロファイルが得られることになる。
【0062】
C.組織支持体
材料は、機械的な機能に役立つために、体内に、形作られた物品を形成することによって組織支持体を創るために使用することができる。形作られた物品は、3Dプリンティングを含む、当技術分野で既知の多様な製造技術によって製造することができる。
こうした物品は、2つの組織を一緒に保持する、または組織を体内でまたは体外で特定の位置に置くなどの機能を発揮することができる。
組織は、例えば血管などの組織の内腔は、血管介入後の再狭窄、再閉鎖または血管けいれんを防止するために、材料の層で被覆されうる。
【0063】
組成物はまた、1種または複数のタイプの細胞、例えば結合組織細胞、器官細胞、筋細胞、神経細胞およびこれらの組合せも含有してもよい。任意選択で、材料は、1種または複数の、ヒト腱細胞、線維芽細胞、靭帯細胞、内皮細胞、肺細胞、上皮細胞、平滑な筋細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、膵島細胞、神経細胞、肝細胞、腎臓細胞、気泡細胞、尿路上皮性細胞、軟骨細胞および骨形成細胞で播種される。細胞の、材料との組合せを、組織の修復および再生を支持するのに使用することができる。
D.抗癒着バリア
本明細書に記載されている材料は、外科治療後の癒着の形成を低減または防止するために適用することができ、例えば脳手術後に脳組織の頭蓋骨への癒着を防止するために適用し、または腹膜の癒着を防止するために装置のインプラントに適用することができる。
【0064】
E.他の用途
組成物はまた、対象物を操作するためのツールの能力を強化するために、ツール、例えば外科用器具、例えば鉗子または鉤を被覆するためにも使用することができる。本明細書でも使用されうる材料は、それが、生体適合性である分解性の接着剤をもつことが有用である工業用途でも、例えば、分解性製品、例えば、水中での使用または船の表面への付着などの海洋用途で、潜在的な毒性を減らすために使用することができる。材料はまた、3Dプリンティングを含む当技術分野で既知の多様な技術によって、形作られた対象物を製造するためにも使用することができる。形作られた対象物は、ミクロまたはナノスケールの解像度を有していてもよい。
本発明を以下の実施例への言及によって例証するが、いかなる場合も限定されることはない。
【実施例
【0065】
以下の一般のプロトコルを最初に、セバシン酸ポリグリセロール(PGS)プレポリマーを合成するために適用した:
1.等モル量のグリセロールおよびセバシン酸を秤量した。
2.反応混合物の温度を、モノマーが完全に融解するまで、120から130℃の間にセットした。
3.試薬の溶融時に、浴槽のまたは反応の温度を、120℃の目標値まで下げて撹拌を開始した。
4.フラスコ内の空気を、真空化/パージングの3サイクルを用いて、窒素に置き換えた。
5.この反応を8時間続けた。
6.次いで窒素の供給物を除去し、圧力を、真空ポンプを用いて下げ、目標の15mバールにセットした。
【0066】
反応を、目標のMw(約3000ダルトン)まで続け、多分散度(<3)を達成した。グリセロール:セバシン酸の目標のモル比を1:1とした。得られたPGSプレポリマーを、TEAの存在下、PGSを塩化アクリロイルと反応させて活性化させ、続いてろ過または水洗浄により精製した。
得られたPGSポリマーは、アクリル化させることができたが、PGSAの合成および貯蔵の間の分子量の進化がきわめて変わりやすいことを観察した。不安定性の根拠となる原因は、無水物の不安定性に起因する可能性がある。
DCM中の活性化されたプレポリマーの50%w/w溶液の1か月期間の安定性研究は、-18℃の貯蔵条件でさえ、分子量が連続して進行することを明らかにした。1810cm-1でのFTIRにおけるA帯、ならびに2.4および2.5ppmでのNMRにおける三重線を検出し、塩化アクリロイルと遊離カルボン酸との反応によって形成された無水副生成物に帰属された。三重線の強度は、貯蔵の間に経時的に低下し、したがって、PGSA50%w/wのMwの進化に関連付けることができた。
1.PGSプレポリマーを、上に説明したように合成した。
2.PGSプレポリマーを、10%w/vのDCM中AcCl(ポリマー5グラム当たり0.8mL)で、DMAP(ポリマー1グラム当たり1mg)、TEA(ポリマー5グラム当たり1.4mL)およびBHT200ppmの存在下で一晩アクリル化させた。AcClおよびTEAの量は、異なるアシル化度を実現させるように調整することができる。
3.合成の間、40℃にてエタノールキャッピングして無水物を取り除き、合成および貯蔵の間のMw増大を防止した。エタノールの、DCMに対する容積比1:5を用いた。
4.エタノールおよびDCMを部分的に留去した。
5.水洗浄により精製した。
6.BHT400ppmを加えた。
7.部分的に溶媒を留去してDCM中50%w/w溶液へ到達させ、続いてMEHQ200ppmを加えて4℃にて貯蔵した。
8.Irgacure 2959(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、またはIrgacure 651(2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン)、またはIrgacure TPO(ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド)を組み入れ、溶媒を、超臨界CO2を介して除去した。
【0067】
無水物が合成の間に取り除かれた際、FTRおよびNMRにおいて無水物に関連した帯の減少によって確認したように、エタノールキャッピングはPGSAのアクリル化度を低下させ、これは、精製/超臨界CO2のステップの間に除去されたアクリル酸およびアクリル酸エチルの放出へと至らせる、アクリレート無水物の開裂におそらくは起因する。
安定性に関して、50%w/w溶液中-20℃にて貯蔵された生成物について、Mwにおいて観察した進化は限定的であった。乾いた生成物では、-20℃にて貯蔵したとき、12か月後に観察したMwの変化は限定的であり、生成物は安定であるように見えた。Mwは、以下の仕様で装置を用いたゲル浸透クロマトグラフィーを介して求めた。
【0068】
使用したGPC装置は、以下の仕様を有した:
カラム-LT6000L、(300×8)mm、10μmで、プレカラムCLM3008(10×4.6)mmを備える
流速-1.0mL/分
注射剤の容積-100μL
カラム温度-35℃
屈折計の温度-35℃
溶出モード-均一濃度
移動相-テトラヒドロフラン(THF)
【0069】
(例1)
破裂性能試験-例AおよびB
次いで、いくつかの、無水物を含まない安定なポリマーを、破裂モデルにおいて評価して、それらの、血管の欠損を封着する能力を求めた。すべての事例において、上で説明した方法に従って製造した、MWが約3000ダルトンである、PGSから開始したPGSAを使用した。
PGSAの破裂性能を、ブタの頸動脈に縫合された直径6mmのePTFE移植片の封着について評価した。接着剤の適用前に、縫合線は、約10mmHgにて漏出し始めた。およそ0.2mLのPGSAを、注射器を用いて縫合線の周りに適用し、製剤を、およそ1分間、光で硬化した。破裂性能は強化され、そこで縫合線が漏出し始める圧力を測定した。約150mmHg超の破裂値が得られた。
【0070】
初期のプレポリマーの粘度が、PGSA破裂性能の鍵となるパラメータであった。PGSAの粘度は、アクリル化度および適用温度に依存しており、それを下表にまとめた:
【表1】
例Aにおけるポリマーと、例Bにおけるポリマーとは、等しい質量平均分子量を有する。
【0071】
粘度の分析は、2.2mLのチャンバおよびSC4-14スピンドルを備えたBrookfield DV-II+Pro粘度計を用いて実施した。分析の間の速度は、5~80rpmで多様にした。
製剤Aと製剤Bとの双方は光重合開始剤としてIrgacure 2959を含有しており、320~390nmのフィルターを備え先端にホウケイ酸塩を有する70%強度のOmnicure S100を用いて光活性化させた。
上記のアクリル化度を有する製剤を、異なる温度にて試験し、それらは、ブタの頸動脈に対する長手の2mmの切開部の封着において、フィブリンよりも良好な破裂性能を示した。結果を図1に示す。
【0072】
例Aは、室温では展延性が不良であったがこれは生成物を37℃へ加熱することによって改善され(粘度が下がった)、強化された破裂性能を有していた。例Bは、室温にて展延性が良好であり(アクリル度が高いと粘度が低い)、強化された破裂性能を有していた。総じて、双方の例について、使用されている市販のフィブリンと比べ、著しく改善された破裂性能を達成した。
PGSAはまた、ePTFE基質に対して、血管組織よりも良好な破裂性能を示した。例AおよびBの、ePTFEにおける長手の2mmの切開部の封着における破裂圧力を、図2に示す。このセットアップにおいて達成され得た最大の力は、約300mmHgであり、その理由は、未変化のePTFEがこの圧力で漏出し始めるためである。
PGSAはまた、ePTFE血管移植における縫合への補助剤として、良好な破裂性能を示した。PGSA破裂性能を、ブタの頸動脈に縫合された直径5mmのePTFE移植片を封着することについて評価した。接着剤の適用前に、縫合線は、約10mmHGにて漏出を開始した。PGSA適用時に、破裂性能は強化され、縫合線は図3に示す圧力にて漏出し始める。
効能を、インビボで、大腿動脈移植片を有して良好な結果を得ているヒツジの動物モデルにおいて確認し、図4に示す。
総じて、優れた安定性と共に、無水物なしのPGSAは、ePTFE血管移植片における縫合への補助剤としての使用において十分な性能を示した。
【0073】
(例2)
異なる光重合開始剤系を有する本発明によるPGSA製剤の破裂性能
破裂試験を行って、縫合によって創られたePTFE血管吻合術において、異なる光重合開始剤系を含む異なる製剤(例B、CおよびD)の封着能力を評価した。外科医によって通常利用されうる条件に対応するより少ない数の縫合(8~10の伸びる縫合)を、縫合性の漏出を確認するために使用した。製剤B、CおよびDは、等しい質量平均分子量およびアクリル化度(すなわち0.5)を有する。試験のためのシーラント剤を、縫合線に沿って適用して、下表に特定しているように光で硬化した。
【0074】
【表2】
水を、容器中へポンプで80mL/分の速度で入れた。異なる製剤についての破裂力を、試験の間に達成された最大圧力として記録した。結果を図5に報告する。総じて、等しい破裂性能が、使用した光重合開始剤/光源系のそれぞれで見出された。留意すべきことに、CQ/EDBを有する製剤が、周囲の光に強い感受性を示し、一方、他の製剤は、周囲の光の下で、視認可能なゲル化/架橋なしに少なくとも15分間、容易に扱うことができた。
【0075】
(例3)
生体適合性
アクリル化度が約45mol/mol(グリコール)であり、質量平均分子量が約5000ダルトンであるPGSAを、ISO 10993に従って、生体適合性(細胞毒性、炎症反応、遺伝毒性、血液適合性、生分解性を含む)について評価した。臨床用量にて、生体適合性の問題は認められなかった。
(例4)
骨における性能および生体適合性
広範なバリア材料が、骨再生誘導法において使用されてきた。臨床的実践において使用されているにもかかわらず、これらの材料は、限界、すなわち外科的切除(再吸収可能ではない材料)、早期の再吸収、およびバッチからバッチへの変異性(天然起源の再吸収可能な材料)の必要性を依然として被る。
【0076】
PGSAは、骨再生誘導法において成形可能なバリアとして適用されうるという興味深い特性を有し、これには、重合前のその粘度(容易に成形可能である)、疎水性(濡れた環境において容易に洗い流されない)、および迅速なオンデマンド重合(基質への固定を促進させる)が挙げられる。これらの特性は、それを、解剖上の部位にアクセスするのが困難であっても、濡れた組織を封着するのに理想的なものとする。
【0077】
PGSAの、骨への接着を、機械的試験を介して評価し、興味深い接着性を明らかにした。生体適合性の態様を調査するために、本発明のPGSAの膜を、骨膜と、フィブリンヒドロゲルで充填された小型サイズのラットの骨欠損との間のバリアとしてインプラントした(欠損内での膜陥入を防ぐため)。次いで、これらの欠陥における骨内殖を、フィブリン接着剤単独で、またはフィブリン接着剤+PTFE膜で充填された欠損のうちの1つと、マイクロコンピュータによる断層写真術によって比較した。手術後の合併症、感染、体重変化、動物の挙動、または全体的な健康問題は、インプラント4週間の間、観察されなかった。すべての群で、組織の治癒は、平穏であった。4週目で、新しい骨形成は、すべての群において同様であり(PGSA:4.7±1.18mm3、フィブリン単独:4.6±0.27mm3、およびPTFE:5.1±2.32mm3)、PGSA膜の良好な生体適合性を確立し、骨修復への適用における本発明の材料の使用を支持していた。これらの結果を図6で報告する(上部の画像は、0週での頭蓋冠欠損の3D表現であり、下の左の画像は、0週および最良の4週目における頭蓋冠欠損の3D断層濃度測定の再建であり、下の右の画像は、フィブリン単独で、フィブリンおよびePTFE膜で、またはフィブリンおよびPGSA膜で、のいずれかで充填された頭蓋冠欠損における新しい骨形成の容積を表すグラフである)。
【0078】
(例5)
着色料の組み入れ
いくつかの適用では、着色された材料を有することが望ましい。本発明のシーラント剤PGSAの製造の間に着色料を組み入れることの実行可能性を評価した。FD&C1を試験剤として使用した。FD&C1を含有するPGSAを以下のステップに従って調製した:
1.FD&C1溶液を、エタノール25mL中にFD&C1 0.2gを混合して調製した。
2.該溶液を、撹拌してろ過した(孔は0.2μm)。
3.PGSA溶液1グラム当たりこの溶液3μl(エリオグラウシン24pg)を加えた(ジクロロメタン中50%w/w)。
4.該溶液を精製して、溶媒を、超臨界二酸化炭素処理を用いて除去した。
超臨界CO2抽出時に、最終製品におけるFD&C1の最終濃度は、約50ppmである。この量は、その透明な特性を保持する青色のシーラント剤への到達を可能にし、一方、目標の基質へ一旦適用されると良好な視認性を可能にする。そのため、着色剤の組み入れは、PGSAの重合の動態、または封着特性に影響を及ぼさない。
【0079】
(例6)
酸化還元剤を用いた重合
酸化還元剤の存在下での、本発明のPGSAを重合する実行可能性を評価した。簡潔に言えば、以下の方法論に従った:
1.還元剤および酸化剤の目標の量を得て、可能な場合、それを粉砕した(または必要に応じて溶解化させた)。
2.PGSA0.5gを37℃にて15分間、温めた。
3.PGSAを、目標の量の酸化剤と混合し、その後、還元剤と混合した。
4.重合を、巨視的に評価した。
【0080】
結果を下表にまとめる。
【表3】
この表で報告した濃度は、PGSA乾燥質量に関するものである。
【0081】
(例7)
薬剤送達における使用
小分子を、光硬化した(405nmのLED、約100mW/cm2)、硬化されたPGSAから放出する実行可能性を評価した。モデル分子のヒドロクロロチアジドを、この研究で使用した。
【0082】
7.1.最初に、薬剤をポリマー中に組み入れるために、異なる技術を用いた:
1.薬剤の結晶の、37℃にて予加熱したPGSAとの、手動ミックスを介した組み入れ
2.溶媒の使用を介した組み入れ、それに続く溶媒留去。
規定した薬剤負荷およびサイズの、重合したPGSAディスクを調製した。薬剤の放出プロファイルを、37℃にて振とう下でディスクをPBSに浸した後に評価した。上澄みを、特定の時点にて除去し、放出した薬剤の濃度を、UV/Vis分光計を用いて測定した。
【0083】
薬剤をポリマー中に組み入れるために用いた技術は、観察した放出プロファイルに対して主要な影響を有するようには見えなかった。
7.2.次いで、カプセルに入れた薬剤の放出プロファイルを調整するための異なる方策について試験した。
1.ポリマーディスクの形状を変える:
本発明のPGSAの直径6mmのディスクについて、放出プロファイルは、ディスクの厚さを変えることによって調整することができ、これを図7で報告している。例Fは、厚さ200μmのディスク(n=4)を表し、例Gは、厚さ400μmのディスク(n=4)を表し、例Hは、厚さ400μmのディスク(n=6)を表す。ディスクが厚いほど、より遅い放出プロファイルへ至らせる。
2.ポリマーのアクリル化度を変える:
異なる仕様の、本発明のPGSAの使用は、薬剤の放出プロファイルを調整することを可能にする。これは、等しい条件下でヒドロクロロチアジドをカプセルに入れるために使用した、アクリル化度の異なる範囲のPGSA誘導体を調製することによって明示された。アクリル化度が高いほど、より遅い放出プロファイルをもたらす。結果を図8で報告している。アシル化度(mol/mol(グリセロール))を下表に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
(例8)
3Dプリンティング
本発明のPGSAを、直接光処理(DLP)法を用いて、市販の、405nmのLEDを備えたAutodesk Ember 3Dプリンターを用いて3Dプリンティングした。3Dプリンターを、容積の小さいPGSAの使用を可能にするようにカスタム修正し、粘性の液のPGSAを約100℃へ予加熱してその粘度を下げた。さらに、PGSAをUVブロッカー化合物(Mayzo OB+)でドープして光分散特性を制御した。
【0086】
これらの条件下で、以下のプリンティングパラメータを好ましくは評価した。
【表5】
マイクロメートルのスケールの解像度を有する構造体をプリントすることができ、図9で詳細に示す。
【0087】
(例9)
本発明のPGSAの性能を、血管の切開部の縫合なしの閉鎖について、インビボのブタのモデルで、市販のシーラント剤(グルタルアルデヒド(BSAG))と比較した。
頸動脈(CA)および頸静脈(jugular vein)の2mmの欠損を創り、本発明のPGSAまたはウシ血清アルブミン、およびグルタルアルデヒド(BSAG)で、縫合を用いずに閉鎖した。
これらの実験は、本発明のPGSAが、血管の欠損を効果的に封着することを示し、かつBSAGとは対照的に、狭窄の徴候を示さず、炎症反応は小さかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9