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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】体外での二酸化炭素除去のための方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20220124BHJP
【FI】
A61M1/16 160
A61M1/16 107
A61M1/16 190
A61M1/16 105
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2018545682
(86)(22)【出願日】2016-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2016078197
(87)【国際公開番号】W WO2017085291
(87)【国際公開日】2017-05-26
【審査請求日】2019-11-13
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2015/002330
(32)【優先日】2015-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518175588
【氏名又は名称】アドビトス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ADVITOS GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】クレイマン、ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ヒュースディーゲ、クリストフ
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/113740(WO,A1)
【文献】特表2011-505209(JP,A)
【文献】米国特許第03953329(US,A)
【文献】特表平07-506765(JP,A)
【文献】特開2001-226288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
A61M 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液から少なくとも一つの望ましくない物質を除去する装置であって、
当該装置が、第1のチャンバと、第2のチャンバと、半透膜とを備え、
前記血液が前記第1のチャンバ中に存在し、透析液が前記第2のチャンバ中に存在し、これらのチャンバが前記半透膜によって分離されており、前記半透膜を介し、前記血液が前記透析液に接触し、
前記透析液が、
(i)pHがpH8.0~pH11.0の範囲であり、
(ii)少なくとも1種類の緩衝剤を含み、当該緩衝剤は、アルブミン、THAMおよびTrisから選択される、COを生成しない緩衝剤であり、かつ、当該緩衝剤の少なくとも1つのpKa値が7.0~11.0の範囲であり、そして
(iii)Hイオンに対する緩衝能が12mmol/l以上であり、さらに
前記透析液が、0~40mmol/lの炭酸イオン/重炭酸イオンを含むものであること
を特徴とする、装置。
【請求項2】
前記透析液がアルブミンを含むものである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記アルブミンが、ヒト血清アルブミンおよび/またはウシ血清アルブミンから選択されるものである、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記透析液が炭酸イオン/重炭酸イオンを含まないものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記透析液が、COを生成する緩衝剤を含まないものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記透析液が前記第2のチャンバを通って流れ、これにより、前記透析液が第2のチャンバに入り、これを通り、これを出るものとされ、前記透析液は、第2のチャンバに入るとき、pHがpH8.0~pH9.0の範囲にある、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記透析液は、第2のチャンバに入るとき、(i)10~40mmol/lの炭酸イオン/重炭酸イオンと、(ii)10~60g/lのアルブミンとを含むものである、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記透析液が、
(i)10~40mmol/lの炭酸イオン/重炭酸イオンと、10~60g/lのアルブミンとを含んでなり、また前記透析液のpHがpH8.0~pH11.0の範囲にあるか、または
(ii)5~20mmol/lのTrisと、10~60g/lのアルブミンとを含んでなり、また前記透析液のpHがpH8.0~pH11.0の範囲にある、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記透析液が、第2のチャンバから出て、少なくとも1つの処理工程に供され、その後に前記第2のチャンバに再び入る、請求項6~8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記の透析液の少なくとも1つの処理工程が、(i)吸着体にさらすこと、および/または(ii)半透膜と接触させること、および/または(iii)酸性pHおよび/または塩基性pHにさらすことからなる群から選択されるものである、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記処理工程が、前記透析液を、二酸化炭素を生成させるために酸性pHへと酸性化させ、およびその後二酸化炭素を除去することを含む、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記血液および/または前記透析液の少なくとも1つのパラメータを測定する手段をさらに含んでなり、当該パラメータが、pH、二酸化炭素の分圧、重炭酸イオン(HCO )の濃度、緩衝能およびデオキシヘモグロビン(HHb)の濃度または飽和度からなる群から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記透析液が、1.7mmol/lより多いカルシウム(Ca2+)イオンを含んでなる、請求項1~12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
ヒトまたは動物被験体の医学的治療における使用のための透析液であって、
(i)pHがpH8.0~pH11.0の範囲にあり、
(ii)少なくとも1種類の緩衝剤を含み、当該緩衝剤は、アルブミン、THAMおよびTrisから選択される、COを生成しない緩衝剤であり、かつ、当該緩衝剤の少なくとも1つのpKa値が7.0~11.0の範囲にあり、
(iii)Hイオンに対する緩衝能が12mmol/l以上であり、さらに
0~40mmol/lの炭酸イオン/重炭酸イオンを含む、透析液。
【請求項15】
呼吸性アシドーシス、代謝性アシドーシス、肺不全、肝不全および腎不全から選択される1つ以上の疾患を予防および/または治療するための、請求項14に記載の透析液。
【請求項16】
アルブミンを含むものである、請求項14または15に記載の透析液。
【請求項17】
前記アルブミンが、ヒト血清アルブミンおよび/またはウシ血清アルブミンから選択されるものである、請求項16に記載の透析液。
【請求項18】
炭酸イオン/重炭酸イオンを含まないものである、請求項14~17のいずれか一項に記載の透析液。
【請求項19】
COを生成する緩衝剤を含まないものである、請求項14~18のいずれか一項に記載の透析液。
【請求項20】
(i)10~40mmol/lの炭酸イオン/重炭酸イオンと、10~60g/lのアルブミンとを含んでなり、またpHがpH8.0~pH11.0の範囲にあるか、または
(ii)5~20mmol/lのTrisと、10~60g/lのアルブミンとを含んでなり、またpHがpH8.0~pH11.0の範囲にある、請求項14~19のいずれか一項に記載の透析液。
【請求項21】
1.7mmol/lより多いカルシウム(Ca2+)イオンを含むものである、請求項14~20のいずれか一項に記載の透析液。
【請求項22】
前記被験体が、呼吸性アシドーシスを患う被験体、代謝性アシドーシスを患う被験体、肺不全を患う被験体、肝不全を患う被験体および腎不全を患う被験体、またはこれらいずれかの組み合わせを患う被験体から選択される、請求項14~21のいずれか一項に記載の透析液。
【請求項23】
吸性アシドーシスを患っている前記被験体の医学的治療における使用のための、
(a)緩衝剤としてTrisおよびアルブミンを含み、
(b)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が0~10mmol/lの範囲にある、請求項14~22のいずれか一項に記載の透析液。
【請求項24】
謝性アシドーシスを患っている前記被験体の医学的治療における使用のための、前記緩衝剤として炭酸イオン/重炭酸イオンおよびアルブミンの存在を特徴とし、炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が20~40mmol/lの範囲にある、請求項14~22のいずれか一項に記載の透析液。
【請求項25】
不全を患っている前記被験体の医学的治療における使用のための、
(i)緩衝剤としてのTrisおよびアルブミンの存在、
(ii)炭酸イオン/重炭酸イオンの不存在、または炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度0~10mmol/lの範囲にあることを特徴とする、請求項14~22のいずれか一項に記載の透析液。
【請求項26】
請求項14~25のいずれかに記載の透析液を再生するための方法であって、この方法が、
(a)前記透析液の流れを、第1の流れと第2の流れに分離する工程と、
(b)前記の透析液の第1の流れに酸性流体を添加する工程と、
(c)前記の透析液の酸性化された第1の流れを濾過し、透析し、沈殿させるか、または透析濾過することによって毒素を除去する工程と、
(d)前記の透析液の第2の流れにアルカリ性流体を添加する工程と、
(e)前記の透析液のアルカリ性化された第2の流れを濾過し、透析し、沈殿させるか、または透析濾過することによって毒素を除去する工程と、
(f)前記の透析液の第1の流れと第2の流れを合わせる工程とを含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、体外肺補助に適した方法に関する。当該方法では、透析液が用いられ、二酸化炭素、重炭酸イオンおよび水素カチオンを、半透膜を通して、血液から透析液に効果的に運ぶことができる。本発明は、血液中の望ましくない物質の存在および/または望ましくない血液pHに関連する種々の状態、例えば、肺、腎臓および/または肝臓の機能障害を治療または予防に適する。
【背景技術】
【0002】
血液中の代謝物輸送
脊椎動物(ヒトまたは動物)の体における、主に内呼吸から生じる代謝物の1つは、二酸化炭素(CO)である。一般的に、脊椎動物(ヒトまたは動物)の体内で、代謝活性の結果として、二酸化炭素が末梢組織で作られる。末梢組織の毛細血管において、組織で作られた二酸化炭素が、その分圧勾配の低い方へと拡散し、血液、主に赤血球の中へと拡散する。脊椎動物の体内において、二酸化炭素が血液中に運ばれる3つの主な様式がある。(a)溶解したCO(二酸化炭素は、血液中に酸素よりもかなり可溶性である)、(b)血液タンパク質(例えば、ヘモグロビン)および血漿タンパク質へ結合したもの、(c)重炭酸イオンとHイオンのイオン対の形態。休息時に、成人は、1分あたり約10mmolのCOを生成する。さらに、1分ごとに約8mmolのHイオンが赤血球で作られる(約15000mmol/日)。腎臓は、典型的には、約100mmolのHイオン/日の除去を担う。
【0003】
成人の血液量(5L)に基づいて計算すると、1分あたり、血液5Lに10mmolのCO、すなわち、血液1Lあたり2mmolのHイオンが保持される。
【0004】
分子レベルで、タンパク質に結合した二酸化炭素(b)は、血液タンパク質(例えば、ヘモグロビン)のアミノ基と会合することによって血液タンパク質(例えば、ヘモグロビンおよび血漿タンパク質)に可逆的に結合し、カルバミノタンパク質、例えば、カルバミノヘモグロビンを生成する。二酸化炭素は、典型的には、酸素のように鉄には結合しないが、ヘモグロビンタンパク質のアミノ基および他の血液タンパク質(特に、血漿タンパク質)のポリペプチド鎖上のアミノ基に結合する。重炭酸イオン(c)は、二酸化炭素に由来するが、赤血球細胞(赤血球)に入った後、水と合わさって炭酸(HCO)を生成する。この反応は、主に炭酸脱水酵素によって触媒され、この酵素は、特に、赤血球細胞中に見出される。この酵素は、体内の肺内皮および他の部位にも見出される。次いで、炭酸が解離し、重炭酸イオン(HCO )と水素カチオンを生成する。
【化1】
【0005】
この反応の反応物(遊離体および生成物)は、上の式中、矢印によって定性的に示されている通り、動的平衡状態で存在する。1つ以上の反応物を(in vivoまたはin vitroで)添加または除去すると、ルシャトリエの原理によって、平衡に従って反応がシフトする。炭酸脱水酵素は、厳格に言うと、この反応自体を行うには必要ではない。しかし、効率的な変換にとって重要である。
【0006】
代謝活性の結果として、ヒトまたは動物の体は、二酸化炭素だけではなく、酸性有機分子も生成する。酸性有機分子は、さらなるHイオン源である。Hイオンが存在すると、血液pHに影響を与える。しかし、ヒトまたは動物の体内で、血液などの流体は、狭いpH範囲に維持されなければならず、例えば、ヒトの体内では、pH7.35~7.45の範囲、すなわち、わずかにアルカリ性に維持されなければならない。したがって、血液を緩衝化することが重要である。被験体が、過剰量のHイオンに関連する状態を患っている場合、血液の緩衝能は、通常は、血液をこのpH範囲に維持するには不十分である。
【0007】
一般的に、水素カチオンは、炭酸が水素カチオンと重炭酸イオンに解離するときに生成し、血中のタンパク質、特に赤血球中のタンパク質に結合する能力を有する。主な細胞内水素カチオン受容体、または水素カチオンに結合するための緩衝物は、ヘモグロビンタンパク質である。水素カチオンは、主に、ヘモグロビンのヒスチジン側鎖に結合する。
【0008】
重炭酸イオンは、生理学的なpH緩衝系にとって重要な生化学的役割を果たす。健康な脊椎動物(ヒトまたは動物)の体内で、(a)約5%の二酸化炭素が、そのまま運ばれ、血漿に溶解され、(b)約10%の二酸化炭素が、血液のタンパク質、特にヘモグロビンおよび血漿のタンパク質に結合して運ばれ、(c)二酸化炭素の大部分が、重炭酸イオンおよび水素カチオンの形態で運ばれる。水素カチオンは、大部分がタンパク質に結合する。
【0009】
健康なヒトまたは動物の体の呼吸系臓器である肺において二酸化炭素が放出され、それによりCOの分圧(pCO)が下がる。(ヒト)被験体の動脈血中のpCOの正常値は、35~45mmHgの範囲である。45mmHgを超えるpCOは、本明細書で「高pCO」または「増加したpCO」と呼ぶ。低換気は、高pCOの考えられる原因の1つである。被験体の動脈血中のpCOが45mmHgより高い場合、被験体は、pCOを下げるために治療を必要とする場合がある。
【0010】
アシドーシス
アシドーシスという用語は、哺乳動物の体内の酸性度の増加を指す。アシドーシスは、被験体の体液、特定的には血漿、さらに特定的には動脈血の血漿のpHを測定することによって決定することができる。哺乳動物、特にヒトにおいて、アシドーシスは、動脈血の血漿のpHが7.35未満であることを特徴とする。6.8を下回る血液pH値に、通常、ヒトまたは動物の体は耐えられない。この範囲を外れるpHは、通常、不可逆的な細胞損傷を引き起こすからである。したがって、アシドーシスは、動脈血の血漿のpHが6.8から7.35未満であることを特徴とする。ヘモグロビンと、これと比較すると程度は低いが血漿タンパク質は、血液のpH(例えば、過剰な水素カチオン)を緩衝化することができる。水素カチオンの緩衝化は、血液が組織の毛細血管を通り抜けるときの血液のpH変化を最小限にする。しかし、緩衝能は、制限がないわけではないため、アシドーシスが起こる可能性がある。
【0011】
一般的に、アシドーシスを患う被験体は、血漿中の酸性度の分子原因に基づき、呼吸性アシドーシスと代謝性アシドーシスの2つの主なサブグループに分けることができる。実際に、両条件の特徴を示す患者。所与の被験体は、(i)代謝性アシドーシス、または(ii)呼吸性アシドーシス、または(iii)代謝性アシドーシスと呼吸性アシドーシスの組み合わせのいずれか1つを患っていてもよい。
【0012】
いずれかの場合に、アシドーシスの症状としては、頭痛、混乱、疲労感、眠気、振戦、中枢神経系の機能不全が挙げられ、なんら介入をしなければ、昏睡状態へと進行する。したがって、アシドーシスを患う被験体を治療する必要がある。
【0013】
代謝性アシドーシスは、分子レベルで、酸性有機分子の量の増加によって引き起こされ、代謝活性が増加した結果として有機酸(例えば、乳酸)の生成が増えることによって引き起こされるか、および/または腎臓による酸を排泄する能力の撹乱によって引き起こされる。慢性腎不全(CRF)における代謝性アシドーシスは、不揮発性酸を排泄する能力が低下し、重炭酸イオンの腎臓での合成が減り、それによって体内の水素カチオンが増加した結果である。これに限定されないが、有機酸は、例えば、タンパク質異化のアミノ酸残基に由来している場合があり、または飢餓状態の間または糖尿病性アシドーシスにおけるケト酸の蓄積(ケトーシス)に由来している場合がある。多くの場合に、体は、呼吸によって代謝性アシドーシスを補おうとする(呼吸性代償)。しかし、不揮発性代謝物は、この経路によって排泄されず、罹患した被験体は、呼吸器不全を引き起こす極度疲労のリスクがある。代謝性アシドーシスが重度であり、もはや肺によって十分に補うことができない場合、緩衝化合物(例えば、重炭酸イオン)の体内への注入による治療が必要な場合がある。慢性腎不全(CRF)における代謝性アシドーシスの症状も、腎臓透析によって治療することができる。特定の形態の腎臓透析は、血液透析と呼ばれ、体液から廃棄物、塩類および流体を濾過する装置に基づく。血液透析は、進行した腎不全を治療する最も一般的な様式である。しかし、維持透析治療は、代謝性アシドーシスにおける塩基不足を完全に修正することはできないことが多い(例えば、Koppleら、Kidney International、Vol.67、Supplement 95(2005)、pp.S21-S27によってまとめられている)。
【0014】
呼吸性アシドーシスは、分子レベルで、換気が減ったこと(低換気)に起因する血液中の二酸化炭素の蓄積から生じる。呼吸性アシドーシスは、最も多くは、肺の機能障害によって引き起こされる。しかし、頭部損傷、薬物(特に、麻酔薬および鎮静薬)および中枢神経系の異常、例えば脳腫瘍も、同様にこの状態の原因となり得る。慢性代謝性アルカローシスに対する代償性反応として起こる場合もある。呼吸性アシドーシスが続く場合、例えば、末期肺気腫および筋ジストロフィーなどの肺機能を損なう疾病の場合には、このような代償性機構(すなわち、体外での重炭酸イオンの注入)は、代償されない呼吸性アシドーシスに関連する二酸化炭素の蓄積を効率的にくい止めることができない。これらの場合に、肺補助の使用に適応があるとされる場合がある。
【0015】
一般的肺補助のための、特に呼吸性アシドーシスを治療するための従来技術のシステム
医学における主要な躍進の1つは、呼吸不全を患う被験体のための機械換気の発明および後の使用であった。ドイツでは、毎年24万人を超える被験体が、機械換気されており、平均治療期間は10日間である。これらの被験体の平均死亡率は、35%である。別の臓器機能不全が呼吸不全と共に起こる場合、死亡率は、75%まで上がる可能性がある。
【0016】
機械換気は、自発呼吸を機械的に補助するか、または自発呼吸を置き換える方法である。機械換気は、機械(人工呼吸器)を含んでいてもよく、または看護師または医師などの医療従事者によって呼吸が補助されてもよい。いずれの場合でも、機械換気は、被験体の体を貫通する装置(「侵襲性の機械換気」)を含む場合があり、すなわち、口を通って貫通する(例えば、気管内チューブ)または皮膚を通って貫通する(例えば、気管切開チューブ)のいずれかを含む場合がある。機械換気には、気体(例えば、空気)が気管に押し出される陽圧換気と、例えば、患者の胸部を低圧チャンバに入れることによって、胸部を膨らませ、これにより空気を患者の肺に吸い込ませる陰圧換気の2つの主な態様がある。機械換気の良い影響もあるが、望ましくない欠点もある。望ましくない結果としては、限定されないが、内部臓器(例えば、肝臓)の血液灌流が30%まで減少すること、血圧の低下、腹腔内圧力の上昇、腎臓の排泄機能の低下、人工呼吸器関連肺傷害(VILI)、気圧外傷、量外傷、無気肺および炎症性肺傷害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、肺炎、集中治療室(ICU)で治療された鎮静状態の被験体の呼吸困難、約48時間の換気後の離脱が挙げられるだろう(例えば、Larsen and Ziegenfuβ、Beatmung、Springer、Berlin Heidelberg、2013;およびSchmidtら、Intensive Care Med.、vol.40、pp.1-10、2014を参照)。
【0017】
機械換気の望ましくない結果の一部は、体外での肺補助システムによって対処することができる。これらのシステムは、体外での血液の酸素化、または体外の血液の二酸化炭素除去を目的とする。今日、体外の膜酸素化(ECMO)は、体外の肺補助の最も一般的な治療の1つであり、肺を補助するか、または肺の機能に置き換わるために用いられる。血液は、体から除去され、気相(酸素、または酸素を含む気体混合物、例えば、空気、または酸素を加えた気体混合物)から血液を分離する膜(短期間処理の場合には多孔性膜、または長期間処理の場合には非多孔性膜)を有する装置に導入され、血液の酸素化が可能になる。ECMO中の体外の血液の流量は、約7l/分までの心拍出量と同様であり、このシステムにポンプを含ませることによって、ECMOを心臓補助と組み合わせることも可能である(ECLS、体外の生命維持)。膜の酸素化に代わる例として、US 6,344,489 B1号(Wayne State University)およびUS 6,607,698 B1号(Therox/Wayne State University)に記載されるように、例えば、酸素で(過)飽和した液体を用いることによって、体外の血液に酸素を直接的に導入することができる。しかし、体外の液体導入は、典型的には、血液の体積を増やす。したがって、気体を豊富に含む血液をヒトまたは動物の体に再び導入する前に、体積を減らすことが必要である。気体が飽和した液体または気体が超飽和した液体の導入は、気泡生成のリスクを高める。しかし、一般的に、気泡、特に酸素の気泡の存在は、血液タンパク質の望ましくない変性を引き起こすことがあり、したがって、これらの方法およびシステムの適用は、気泡生成を最小限にするために、最大限の注意が必要とされる。または、血液は、直接的に酸素化されてもよく、すなわち、気体交換膜を用いずに、例えば、気泡型酸素化装置によって酸素を血液に注入することによって酸素化されてもよい。この方法は、望ましくない泡の生成およびガス塞栓のリスクと関係がある。この方法は、アシドーシスを治療するには適していない。
【0018】
当該技術分野の体外での肺補助の別の注目は、体外でのCO除去(ECCOR)に向けられている。このような処理は、例えば、呼吸性アシドーシスの場合に適応があるとされる場合がある。Bakerら、J.Intens.Care Soc.13:232-236(2012)にまとめられているように、ECCORシステムは、典型的には、気体交換膜の使用に依存し、この膜を通り、二酸化炭素が体外の血液から出て、気体チャンバに拡散する。この文献によれば、AV-ECCORシステム(Novalung、ドイツ)は、今日までに最も広く使用されているECCOR技術である。このシステムは、気体透過性膜を有し、膜の片側に「スイープガス」として気体(酸素、または酸素を含む気体混合物)を含む体外の回路に血液を接触させることに依存し、これによって、二酸化炭素の気体が膜を通過し、スイープガスの流れによって、この気体を気体チャンバから除去することができる。例えば、WO2010/091867 A1号(Novalung)は、3つのチャンバを有するシステムにおいて生体液を処理するための装置を記載する。第1のチャンバは、血液などの生体液を受け入れるのに適しており、第2のチャンバは、気体を透過するが、液体を透過しない膜によって、第1のチャンバから分離され、場合により、酸素などの気体を受け入れることができる。膜の気体透過性に起因して、二酸化炭素の気体は、第1のチャンバから第2のチャンバへと拡散することができ(したがって、ECCORを与え)、場合により、酸素の気体は、第2のチャンバから第1のチャンバへと拡散することができ、したがって、体外の肺補助が提供される。低分子(例えば水)は、液体透過性膜を通り、第1のチャンバから第3のチャンバへと除去することができる。まとめると、体外での二酸化炭素除去のために設計された従来の方法および装置は、透析液としての気体に依存する。この3つのチャンバを有するシステムは、比較的複雑であり、不都合なほどに高い流れ抵抗と伴う場合がある。代替例として、Respiratory Dialysis(登録商標)(ALung Technologies)が市販されている。この方法は、透析液の代わりに、スイープガスに依存する。この方法は、血液の酸-塩基バランスおよび/または電解質ホメオスタシスを調節するのには適しておらず、従来の透析装置には適していない(Coveら、Critical Care 2012、16:232)。
【0019】
炭酸イオン/重炭酸イオンを含有する透析液は、既に記載されている(Aucellaら、Contrib.Nephrol.Basel、Karger、2007、vol.156、pp.287-296;Viganoら、Ronco/Cruz(編集):hemodialysis-From Basic Research to Clinical Practice)。しかし、記載されている液体は、35~48mmolの範囲の比較的高い重炭酸イオン濃度を特徴とする。このような透析液は、血液からの過剰な重炭酸イオンの除去には適しておらず、適合させられない。このような透析液は、さらなる成分として酢酸を使用する(本発明との比較のために、以下の実施例1も参照)。
【0020】
技術常識のECCORの場合、ECMOより低い血液の流量(すなわち、約2l/分以下)が適している。このような血液の流量は、例えば、一般的に使用されるpECLA(ポンプを用いない体外の肺補助)で実現される。一般的に、血液の酸素化と血液の二酸化炭素除去の効率は、両方とも血液の流量に依存し、以下のことが成り立つ。血液の流量が大きいほど、被験体(例えば、患者)の酸素化が良くなり、血液の流量が小さいほど、血液からの二酸化炭素の除去(ECCOR)が良くなる。典型的には、高速(ECMOに適している)は、2400ml/分を超えるものを指し、中速(ECMOおよびECCORの両方に適している)は、800~2400ml/分を指し、低速(ECCORに適している)は、800ml/分より低いものを指す。
【0021】
液体呼吸は、通常は空気呼吸の有機体が、TLV(全液体換気)またはPLV(部分液体換気)の方法において呼気ではなく酸素を豊富に含む液体(例えば、ペルフルオロカーボン)を吸い込む肺補助の代替的な形態であり、ここで、PFC(ペルフルオロカーボン)を含有する液体が、酸素および二酸化炭素などの呼気を運ぶために機械的な人工呼吸器によって肺に満たされる(Lachmannら、Intensivmed.und Notfallmed.、vol.34、pp.513-526(1997)。液体呼吸のための応用の標準的な態様は、まだ確立されていない。
【0022】
従来技術の常識において、被験体の血液を体外の回路に抜き取るか、または除去することは、肺補助(酸素化および/またはCO除去)の目的のためだけではなく、または他の臓器(例えば、肝臓または腎臓)を補助する目的のためにも実施される。多くの場合に、多臓器不全を患う患者、したがって、肺補助(例えば、人工呼吸器)および/または肝臓補助および/または腎臓補助(特に、透析、例えば、血液透析)を組み合わせた治療が適応があるとされる場合がある。関与する多くの装置の観点で、このような組み合わせた治療は、比較的複雑であり、したがって、臨床での実施に日常的に使用するのは困難である。
【発明の概要】
【0023】
本発明の目的は、アシドーシスを治療するのに適した新規な方法を提供することである。呼吸性アシドーシス、代謝性アシドーシス、または呼吸性アシドーシスと代謝性アシドーシスの任意の混合した形態を患う被験体の治療に適合させるのに適した汎用性の高い方法を提供することも望ましい。さらなる目的は、一般的には血液などの生体液から、特に、ヒトまたは動物の体からの代謝物除去、特に、二酸化炭素除去の改良された方法を提供することである。さらに、目的は、従来のECCORにおける血液と空気の接触に関連する欠点を克服することを目的とする、二酸化炭素除去のための改良された方法を提供することである。
【0024】
また、本発明の目的は、優れた定量的な能力を有する肺補助を提供することである。肺補助のために、COの除去(またはこれに代えて、またはこれに加えて、H/重炭酸イオン対の除去)は、mmol範囲でなければならない。したがって、目的は、優れた定量性で、すなわち、mmol範囲で、Hと重炭酸イオンの組み合わせの除去を達成することである。なおさらなる目的は、理想的には単一の装置を用い、肺不全、肝不全および/または腎不全の任意の組み合わせを含む多臓器不全の治療に適した方法を提供することである。本願発明者らは、本明細書に提供されるように、これらの目的およびさらなる目的を、生体液、特に血液から二酸化炭素を除去するための方法によって達成することができることを発見した。
【0025】
これらの目的および従来技術と関連する課題に対する解決策として、本発明は、アシドーシスを修正するか、治療するか、または予防し、呼吸の負担を減らし、急性の代償不全から患者が回復するための時間を可能にする。本発明のさらなる利点は、以下の詳細な記載に示す本発明の要素と関係がある。
【0026】
用語および定義
「~を含む(comprising)」という用語が本明細書で使用されるときは常に、実際に列挙されている項目よりも多い数の項目が存在してもよい。しかし、いくつかの実施形態では、「~を含む(comprising)」は、本明細書で使用される場合、限定的に読まれ、そのため、「~から本質的になる」または「~からなる」という用語と同義語のことがある。
【0027】
アシドーシスは、血液および他の体組織中の酸性度の増加(すなわち、水素カチオン濃度の増加)を指す。さらに特定されない場合には、典型的には、血漿の酸性度の増加を指す。酸性度の増加は、典型的には、動脈血漿のpHが7.35より低く、典型的には6.8から7.35未満であることを意味する。
【0028】
重炭酸イオンの平衡は、炭酸と重炭酸イオン/水素カチオンとの平衡を指す。
【化2】
【0029】
この平衡は動的であり、自然に(すなわち、炭酸脱水酵素などの酵素による触媒作用に依存することなく)解離が起こる。
【0030】
緩衝剤は、本明細書では、酸性化合物または塩基性化合物が添加された場合であっても、溶液の酸性度(pH)を特定の値付近(例えば、弱酸または弱塩基のpKa値付近、例えば、pH=pKa±1)に維持するのに適した弱酸または弱塩基を指すために用いられる。緩衝剤という用語は、固体または溶解した化合物にも同様に使用することができる。緩衝剤は、典型的には、溶液、好ましくは水溶液に可溶性である。緩衝剤の機能は、酸性化合物または塩基性化合物が前記溶液に添加されたときに、望ましくないpH変化を防ぐことである。溶液の酸性度(pH)を特定の値付近に維持するのに適した弱酸または弱塩基の塩も、緩衝剤と呼ぶことができる。
【0031】
炭酸脱水酵素は、溶解した二酸化炭素を炭酸にする可逆的な変換を触媒する酵素を指す。
【化3】
【0032】
炭酸脱水酵素は、天然では赤血球細胞(赤血球)中と、ヒトまたは動物の体の他の部位に存在する。
【0033】
透析液(dialysis liquid)と透析液(dialysis liquid)とは、本明細書では相互に置き換え可能に用いられる。
【0034】
赤血球または赤血球細胞またはRBCは、細胞質中にヘモグロビンが存在することを特徴とする、脊椎動物の血液細胞を同義的に指す。RBCは、肺の中で酸素を取り込み、末梢組織に放出し、望ましくない物質(例えば、水素カチオンおよび二酸化炭素)を末梢組織で取り込み、肺に放出する。末梢組織での放出/取り込みは、主に、赤血球がこれらの組織の毛細血管の中を通っている間に起こる。
【0035】
体外とは、ヒトまたは動物の体の外に存在するか、または外で行われる任意の方法、活性、物質または装置を指す。部分的にヒトまたは動物の体の外に存在するか、または外で行われる方法、活性、物質または装置の場合、この用語は、体の外側の部分を指す。
【0036】
流体は、一般的に、物質の固体ではない状態を指す。典型的には、流体は、液体または気体のいずれかである。
【0037】
ヘモグロビン、または短Hbは、典型的には脊椎動物の赤血球細胞に存在するタンパク質である。ヘモグロビンのペプチド鎖は、多くのアミノ基とカルボキシル基を含む。典型的には、ヘモグロビン分子は、4つの球状のタンパク質サブユニットで構成される。それぞれのサブユニットは、タンパク質ではないヘム基と会合するタンパク質鎖(グロビン)で構成される。ヘモグロビンは、低分子、例えば、代謝物、最も顕著なのは、酸素(O)、水素カチオン(H)および二酸化炭素(CO)、またはこれらの任意の溶媒和物などに可逆的に結合することができる。典型的には、酸素は、ヘム基に可逆的に結合することができる。対照的に、二酸化炭素は、典型的には、(典型的には、N末端で、およびヘモグロビンのアルギニン残基およびリシン残基の側鎖で)アミノ基に可逆的に結合することができ、カルバミノ基を生成する。1つ以上のカルバミノ基を有するヘモグロビンは、カルバミノヘモグロビンと呼ばれる。カルバミノヘモグロビンは、ホールデイン効果の主な寄与因子である。典型的には、カルバミノヘモグロビンは、哺乳動物における二酸化炭素の輸送の約10%を担うと考えられている。最後に、ヘモグロビンのカルボキシル基は、水素カチオンに結合し、それによって水素カチオンを緩衝化することができる(このような水素カチオンは、典型的には、COの解離および重炭酸イオンの平衡の結果として生成する)。通常の生理学的pH範囲では、ヘモグロビンによる水素カチオンの結合の多くは、グロビン鎖中に存在するヒスチジンアミノ酸のイミダゾール基で起こる。脱酸素化されたヘモグロビンは、酸素化されたヘモグロビンよりも、水素カチオンの良好な受容体である。
【0038】
炭酸水素イオンまたは重炭酸イオンは、化学式HCO -を有するアニオンを指すために相互に置き換え可能に用いられる。炭酸水素イオンは、炭酸の脱プロトン化の中間体形態である。炭酸水素イオンは、多原子アニオンである。その内容が他の意味を示さない限り、この用語は、本明細書では、水素アニオン(HCO -)および重炭酸イオンの任意の塩、例えば、重炭酸ナトリウムに用いられる。
【0039】
水素カチオン、または水素イオン、またはHは、原子状水素のカチオン形態を指すために本明細書で相互に置き換え可能に用いられる。これら全ての用語は、まとめて、水素原子の全ての同位体、特に、プロトン、重水素および三重水素のカチオンを含む。水溶液中、水素カチオンは、典型的には、1つ以上の水分子の付加によって溶媒和物を形成する。このような溶媒和物は、ヒドロキソニウムイオンと呼ばれ、一般式H(HO)によって記載することができ、nは、0、1、2、3、4、または4より大きい整数であり、最も典型的には1または4である。水素カチオンという用語は、水素カチオンの溶液または溶媒和した状態での水素カチオンを指すために本明細書で使用することができる。
【0040】
代謝物は、本明細書で使用される場合、ヒトまたは動物の代謝の任意の中間体または生成物を指す。特に、本発明の重要な代謝物は、二酸化炭素、炭酸水素イオンおよび水素カチオンである。
【0041】
酸素は、内容が他の意味を示さない限り、本明細書では分子状酸素(O)を指す。酸素は、哺乳動物を含めた全ての好気性生物の内呼吸に必須である。
【0042】
酸素化/脱酸素化されたヘモグロビンは、ヘモグロビンの酸素化状態を指す。ヘモグロビンは、典型的には、4つのヘモグロビンタンパク質サブユニットで構成されるため、それぞれが可逆的に酸素化/脱酸素化されてもよく、酸素化の5つの段階が可能である。完全に脱酸素化された形態(4つ全てのサブユニットが脱酸素化されている)は、常に「脱酸素化された」と呼ばれ、完全に酸素化された形態(4つ全てのサブユニットが酸素化されている)は、常に「酸素化された」と呼ばれる。「酸素化された」および「脱酸素化された」という用語も、本明細書では相対的な用語として使用される。例えば、1つのサブユニットが酸素化されたヘモグロビンの形態と比較して、2つまたは3つまたは4つのサブユニットが酸素化された形態は、全て「酸素化された」ヘモグロビンと呼ぶことができる。その逆に、1つのサブユニットが酸素化されたヘモグロビンの形態は、サブユニットが酸素化されていない(すなわち、全てのサブユニットが脱酸素化されている)形態と比較して、「酸素化された」ヘモグロビンと呼ぶことができる。脱酸素化されたヘモグロビンは、デオキシヘモグロビンとも呼ばれる。酸素化されたヘモグロビンは、オキシヘモグロビンとも呼ばれる。ここで、ヘモグロビンという用語は、その内容が他の意味を示さない限り、オキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンに同時に使用される。オキシヘモグロビン/デオキシヘモグロビンという用語は、本明細書で使用される場合、特に、オキシヘモグロビン/デオキシヘモグロビンタンパク質に特定の量の水素カチオンが結合していることを必要としない。
【0043】
pCO は、流体、例えば、血漿または透析液中の二酸化炭素(CO)の分圧を指す。
【0044】
末梢組織は、本明細書では脊椎動物の任意の肺以外の組織(非えら組織)、特に、哺乳動物の肺以外の組織を指す。
【0045】
血漿は、本明細書では血液血漿を指し、すなわち、血液の細胞外の血管内液体部分を指す。
【0046】
pHまたはpH値は、水素イオンの活性を底が10の対数で表した負の値を指す。pHが7未満の溶液は酸性であり、pHが7より大きい溶液はアルカリ性または塩基性である。
【0047】
pKaは、弱酸の酸性度を表すための指数であり、pKaは、以下に定義される。一般的に、弱酸は、以下の平衡に従って、水溶液中で部分的に解離した状態で存在する。
【数1】
この平衡は、以下のようにpKa値を定義する。
【数2】
一般的に、pKa値が小さいほど、酸は強酸である。
【0048】
重炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムは、相互に置き換え可能に、任意の形態、例えば、結晶(例えば、無水物または任意の水和物)の、または溶液(例えば水溶液)に溶解した、式NaHCOを有する(水溶性)化学化合物を指す(重曹、またはソーダ、またはソーダの重炭酸塩としても知られる)。
【0049】
炭酸ナトリウムは、例えば、任意の形態、結晶(例えば、無水物または六水和物または十水和物などの任意の水和物)の、または溶液(例えば水溶液)に溶解した、(水溶性)炭酸二ナトリウム塩を指す(NaCO、洗浄ソーダまたはソーダ灰としても知られる)。
【0050】
溶媒和物は、溶媒分子によって囲まれているか、または錯体化された溶質を指す。溶媒和は、溶質(例えば、水素カチオン(H)、炭酸水素イオン(HCO -)などのイオン)と溶媒(例えば、水)との相互作用である。溶媒和した状態で、溶媒和物は、典型的には安定化される(溶媒和されていない状態とは対照的に)。内容が他の意味を示さない限り、溶媒和物は、好ましくは、本明細書では水で溶媒和された溶質を指す。
【0051】
被験体または患者は、個々のヒトまたは動物、好ましくはヒトを指す。被験体は、健康であってもよく、または少なくとも1つの医学的状態、疾患または疾病を患っていてもよい。患者は、少なくとも1つの医学的状態、疾患または疾病を患っている被験体である。本明細書の内容において、患者という用語は、本明細書に開示する特定の状態のうち任意の1つ以上を患う個人を称していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】重炭酸イオンおよび/またはアルブミンを含む溶液の緩衝能の結果(詳細は、実施例1)
図2】本発明の方法と、対照方法との比較(詳細は、実施例2)。
図3】時間経過に伴う透析液および血液の中のCa2+レベル(詳細は、実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本願発明者らは、上述の本発明の目的と、従来技術の方法またはプロセスの問題点に対処する方法またはプロセスを発明した。特に、本願発明者らは、透析液としての気体に依存する、体外で二酸化炭素を除去するための従来の方法またはプロセスを上回る利点が、体外での二酸化炭素除去のための方法において液体透析液(透析液)を使用することによって達成することができることを発見した。この方法によって、血液から二酸化炭素を効率的に除去し、および/または血液pHを所望な値または正常値に調節し、および/または血液中の重炭酸イオンの濃度を調節する(上げるか、または下げる)ことができる。したがって、この方法は、個々の被験体の必要性に基づき、汎用性のある臓器補助を可能にする。例えば、腎機能に応じて、肺補助および/または腎臓補助を与え、呼吸性アシドーシスを患う被験体の場合には、例えば、重炭酸イオンの体内での産生量を増やすことによって、血液pHを安定化させる。典型的には、血液pHの所望な値または正常値は、pH7.35~7.45、好ましくは7.36~7.44、より好ましくは7.37~7.43、より好ましくは7.38~7.42、より好ましくは7.39~7.41の範囲、最も好ましくは約7.40である。より一般的に、pH6.8~pH8.0の範囲の血液pHが許容されるだろう。
【0054】
本発明によれば、適切な透析液は、以下を特徴とする:
(i)pHがpH8.0~pH11.0の範囲であり、
(ii)少なくとも1種類の緩衝剤を含み、緩衝剤は、少なくとも1つのpKa値が7.0~11.0の範囲であることを特徴とし、
(iii)Hイオンに対する緩衝能が12mmol/l Hイオン以上である。
【0055】
緩衝能およびpHの詳細および他の詳細は、以下に与えられる。本発明の緩衝能を決定するためのアッセイは、以下に与えられる。
【0056】
透析液に含まれる適切な緩衝剤としては、特に、以下のいずれか1つ以上が挙げられる。トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris、THAM);炭酸イオン/重炭酸イオン;水溶性タンパク質、好ましくはアルブミンである。
【0057】
したがって、その最も広い意味で、本発明は、(a)血液を透析液にさらす工程を含み、ここで、血液と透析液が半透膜によって分離されており、透析液が、本明細書で定義される特性または好ましい特性を有する、血液から少なくとも1つの望ましくない物質を除去するための方法、および(b)(i)装置の第1のチャンバに血液を導入し、前記装置が、第1のチャンバと第2のチャンバとを備えており、第1のチャンバと第2のチャンバが、半透膜によって分離されている工程と、(ii)前記装置の第2のチャンバに透析液を導入する工程とを含み、第2のチャンバに導入される透析液が、本明細書で定義される特性を特徴とする、血液から少なくとも1つの望ましくない物質を除去するための方法を提供する。
【0058】
したがって、本発明は、体外での二酸化炭素除去および/またはpHの調節および/または血液の緩衝能の調節に適した改良法を提供する。特に、本発明の好ましく有利な実施形態は、本記載および添付の特許請求の範囲で与えられる。
【0059】
本記載において、第1のチャンバという用語は、一般的に、血液を受け入れるように構成されているか、または血液を受け入れるのに適したチャンバを指すために用いられ、第2のチャンバという用語は、一般的に、透析液を受け入れるように構成されているか、または透析液を受け入れるのに適したチャンバを指すために用いられる。典型的には、第1のチャンバと第2のチャンバは、本明細書で定義される半透膜によって互いに分離される。典型的には、第1のチャンバと第2のチャンバに直接的な接続(配管など)は存在しない。したがって、半透膜を通り抜けることが可能な物質のみが、第1のチャンバから第2のチャンバへと、および/または第2のチャンバから第1のチャンバへと移動することができる。
【0060】
血液および透析液は、水性流体である。水性との用語は、一般的に、水または水を含有する流体を指すために本明細書で用いられ、特に、限定されないが、その液体状態を指す。水性との用語は、水を含む流体、特に、液体または液相を指すために本明細書で用いられる。典型的には、水性液は、50%(体積/体積)を超える水を含み、親水性である。血液および透析液は、このような水性流体である。したがって、本発明と、従来技術の体外での二酸化炭素除去方法(ECCOR)の基本的な違いは、本発明が、透析流体を液体状態で使用することである。
【0061】
離れた技術領域において、または離れた(すなわち、体外での二酸化炭素除去(ECCOR)の目的とは別個の)目的のために、液体の透析流体の使用が、従来技術で記載されている。これらの従来技術のシステムにおいて、透析液は、体外の血液に近接し、血液とは半透膜によって分離されるため、透析液内の濃度勾配に沿って、血液からの望ましくない物質の移動と、場合により、反対方向への望ましい物質の移動が可能になる。これらの従来技術のシステムは、他の目的(すなわち、腎臓の補助および/または肝臓の補助)に関するものである。例えば、腎臓の補助のための透析は、慢性腎不全(CRF)から生じ得るアシドーシスの場合に適応があるとされる場合がある。しかし、このような腎臓補助透析治療は、一般的に、肝機能を補助するか、または肝機能を置き換えるために、すなわち、血液から特定の物質(特に毒素)、例えば、タンパク質に結合した物質(特に毒素)を除去するのには適していない。WO 03/094998 A1号(HepaWash)は、血液からタンパク質に結合した物質(特に毒素)を除去するための装置および方法を記載し、これは肝臓透析のための透析液に適した吸収剤液に依存し、透析液はアルブミンを含み、場合により、カフェインを含んでいてもよい。これにより、タンパク質に結合した毒素が、アルブミン担体に結合することができる。しかし、これらの従来技術のシステムは、肺の補助を与えることには向けられておらず、まして、二酸化炭素(CO)、水素カチオン(H)および炭酸水素(HCO -)の効率的な除去には向けられていない。本願発明者らは、一般的には透析液、特に、本発明の特許請求の範囲に定義される特殊な透析液が、体外での二酸化炭素除去の目的および重炭酸イオンレベルの調節に特に適しているという驚くべき知見に到達した。これらの目標は、個別の医薬で、すなわち、個々の患者の必要性に応じて達成することができる。
【0062】
一般的に、アルブミンは、水性液体を緩衝化する能力を有し、アルブミンの特定のアミノ酸残基(例えば、ヒスチジンのイミダゾール基、システインのチオール基)が重要であると考えられ(Caironiら、Blood Transfus.、2009;7(4):259-267)、さらに高いpH値では、リシン側鎖およびN末端のアミノ基が、緩衝化に寄与し得る。しかし、アルブミンの緩衝能は、従来から血液中で探求されている(ヒトまたは動物の体内で天然に起こる)が、体外での肺補助、または特に体外での二酸化炭素除去のためのアルブミンを含有する液体の適合性は、当該技術分野では認識されておらず、探求されていない。重炭酸イオンは、例えば、生理学的なpH緩衝化系を与えることが知られている。重炭酸イオンを含有し、アルブミンを含まない透析液は、当該技術分野で既に記載されてきた。このような従来の透析液中の典型的な重炭酸イオン濃度は、32~40mmol/lの範囲である。本発明は、特に、pKaが上の特定の範囲にある緩衝剤(例えば、アルブミン、炭酸イオン/重炭酸イオンまたはTris)の緩衝能をそれぞれ使用可能なため、このような従来の使用と比較して有利である。場合により、他の無機または有機の緩衝剤が存在する。好ましくは、このような緩衝剤は、少なくとも1つのpKa値が7.0~9.0の範囲である。より好ましくは、それぞれのpKa値が7.0~9.0の範囲である2種類または3種類のこのような緩衝剤が使用されてもよい。適切な追加の有機緩衝剤としては、タンパク質、特に水溶性タンパク質、またはアミノ酸、またはTrisが挙げられ、適切な追加の有機緩衝化分子としては、HPO 2-/HPO -が挙げられる。
【0063】
本発明のプロセスのさらなる利点は、その汎用性である。血液の流量(600ml/分まで、または2つの並列の装置の場合には1200ml/分まで)、透析液の流量(2000ml/分まで)、実際の透析液の組成に依存して、血液から0~10mmol/分の二酸化炭素を除去することができる。
【0064】
血液
脊椎動物(ヒトまたは動物)の体において、血液は、血液細胞と血液血漿(「血漿」とも呼ばれる)で構成され、その結果、血液細胞は血漿に懸濁している。脊椎動物の体内では、血漿の主要な構成要素は水であり、血液細胞の主要な種類は、赤血球である。本発明の方法は、ヒトまたは動物、好ましくは脊椎動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトからの全ての種類の血液に適用されるのに適しており、本明細書に定義される通り、少なくとも1つの望ましくない物質が含まれる限り、本明細書の目的に適している。
【0065】
血液についての言及が、第1のチャンバ、または透析ユニット、または透析器の観点で、または任意の他の体外という観点でなされるときはいつでも、必ずしもヒトまたは動物の体から採取される純粋な血液を意味する必要はない。いくつかの実施形態では、血液という用語は、ヒトまたは動物の体から採取された血液と、許容範囲の量の許容される添加剤の混合物を指していてもよい。血液の機能が顕著に悪い影響を受けないのであれば、添加剤は許容される。添加剤の量は、添加剤の添加によって、ヒトまたは動物の体から採取される血液の顕著な体積増加が生じない場合には許容範囲であり、そのため、血液の体積増加は、50%を超えず、好ましくは40%を超えず、30%を超えず、20%を超えず、10%を超えず、5%を超えない。
【0066】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、in vitroでの活性だけを含む。代替的な実施形態では、この方法は、以下に詳細に記載される通り、生きている被験体の医学的な必要性に対処するように探求される。これらの代替的な実施形態では、半透膜を介する血液と透析液との接触もin vitroで(すなわち、ヒトまたは動物の体の外側で)起こるか、または体外で起こる。さらに、ヒトまたは動物の体との相互作用は、以下に記載されるように起こる。
【0067】
適切な血液の流量は、600ml/分まで、または2つの並列の装置の場合には1200ml/分までであるが、通常は、かなり小さい。
【0068】
血液に含まれる望ましくない物質;望ましくない物質の除去
最も広い意味で、除去される少なくとも1つの望ましくない物質は、代謝活性から得られる物質である。好ましくは、少なくとも1つの望ましくない物質は、二酸化炭素(CO)、水素カチオン(H)、炭酸水素イオン(HCO -)、炭酸(HCO)、およびこれらのいずれかの溶媒和物、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。水生環境(例えば、水溶液または水性懸濁物、例えば、血液または透析液)では、これらの望ましくない物質は、以下の平衡式によって表される通り、互いに関連していることが知られている。
【化4】
【0069】
この反応の反応物(遊離体および生成物)は、上の式中、矢印によって定性的に示されている通り、動的平衡状態で存在する。炭酸の解離(HCO ⇔ CO + HO)は、典型的には、赤血球に存在する炭酸脱水酵素によって触媒されるか、または補助される。動的平衡の一般的な原理に従って、ある反応物を除去すると、ルシャトリエの原理によって、反応がシフトする。従来技術のECCORシステムは、気体交換膜の使用に依存し、この膜を通り、反応物である二酸化炭素が体外の血液から気体チャンバへと拡散する。対照的に、本発明によって、少なくとも1つの望ましくない物質を、ある液体(血液)から別の液体(透析液)へと直接的に除去することができる。したがって、本発明は、気体状の望ましくない物質(例えばCO)の除去に限定されず、望ましくない物質を気相に移動させる必要はない。したがって、二酸化炭素が、本発明の方法で気相に運ばれないことが想定される。
【0070】
一般的に、COが血液に運ばれる形態の1つは、カルバミノ基の形態であり、二酸化炭素は、血液中のタンパク質、主にヘモグロビンの末端アミノ基に接続する(このとき、カルバミノヘモグロビンと呼ばれる)。一般的に、カルバミノ基の生成は迅速であり、可逆的であり、酵素による触媒作用を必要としないことを理解されたい。したがって、透析液への拡散の結果、その周囲で二酸化炭素の濃度が下がると、カルバミノ形態での二酸化炭素も、血液タンパク質(例えば、ヘモグロビン)のアミノ基から迅速に放出され、その結果、ルシャトリエの原理に従って、新しい平衡が確立される。上述のように、カルバミノヘモグロビンと、溶解した二酸化炭素は、重炭酸イオン(HCO )/Hイオン対とも平衡状態にあるが、HCOを介する迅速な変換は、炭酸脱水酵素を必要とする。炭酸脱水酵素は、天然で赤血球に存在する。
【0071】
したがって、本発明では、(i)カルバミノヘモグロビンの形態でのタンパク質(ヘモグロビン)に結合したCO、(ii)遊離COおよび(iii)重炭酸イオン(HCO )/Hといった血液中に存在する炭酸イオンの3種類全ての主要な形態を、半透膜を通って直接的または間接的に除去することができる。遊離COと重炭酸イオンが、濃度勾配に沿って半透膜を通過して透析液に入りこむことができるが、例えば、透析液への拡散の結果として遊離COの濃度が下がると、ヘモグロビンに結合したCOが優先的にヘモグロビンから放出されるようになり、その結果、ルシャトリエの原理に従って、血液中に存在する3種類の主な形態(輸送形態)の炭酸イオンの方に向かって新しい平衡が確立される。重要なことに、本発明では、二酸化炭素輸送の異なる分子部分は、除去されるために気相に運ばれる必要はない。したがって、血液と気体の接触は必要ではなく、好ましくは予期されない。本発明によって、完全に液体の形態で血液から全ての主要な輸送形態の二酸化炭素を除去することができる。透析液および血液の重炭酸イオン(HCO )の濃度に依存して、重炭酸イオンは、半透膜の片側で透析液の濃度勾配に沿って、半透膜の他方の側で血液の濃度勾配に沿って、血液から除去することができる。
【0072】
本発明の観点では、これらの望ましくない物質は、濃度勾配によって透析液に移動することによって直接的に除去することができる(直接的な除去)。これに代えて、またはこれに加えて、望ましくない物質は、透析液から血液に運ばれる物質との反応によって間接的に除去することができ、これも、血液から望ましくない物質の正味の除去が得られる(間接的な除去)。例えば、水素カチオンは、透析液から血液へとOHイオンを運ぶことによって、血液から間接的に除去することができ、本発明で使用される透析液のpHが、典型的には、治療される血液のpHよりもアルカリ性であるため、これが達成される。他の望ましくない物質、例えば、炭酸、炭酸イオン、炭酸水素イオンも、透析液から血液へと物質を運ぶことと、重炭酸イオンの平衡に対する影響によって、間接的に除去することができる。
【0073】
二酸化炭素を気相で除去する従来技術のシステムとは対象的に、本発明は、液体に可溶性の物質を除去することができる。これらの物質には、水に可溶性である限り、任意の種類のイオンが含まれ、特に、水素カチオンおよび重炭酸イオンが挙げられる。したがって、本発明は、従来技術のECCOR方法よりも血液からのさらに完全な、したがって、さらに効率的な代謝物の除去を可能にする。本発明の二酸化炭素除去の機構によって、溶解した気体をある液相から別の液相へと拡散することができる。
【0074】
2つのチャンバを備える透析ユニットは、以下に詳細に記載されるとおり、適切に本発明の方法で使用することができる。第1のチャンバは、血液を受け入れるのに適している。第1のチャンバは、適切には、入口(血液が入るためのもの)と出口(血液が出るためのもの)を有する。
【0075】
血液は、透析ユニットが本発明の方法に使用される場合、pHがpH7.35~7.45、好ましくは7.36~7.44、より好ましくは7.37~7.43、より好ましくは7.38~7.42、より好ましくは7.39~7.41の範囲、最も好ましくは約7.40になったときに第1のチャンバ(出口)を出ることが望ましい。
【0076】
好ましくは、血液は、第1のチャンバ(出口)を出た後、ヒトまたは動物の体に戻される。適切な配管および接続は、当該技術分野で知られており、本発明の観点で使用することができる。
【0077】
場合により、血液から気泡(もしあれば)を、すなわち、第1のチャンバ(出口)から出た後、ヒトまたは動物の体に血液を再び導入する前の段階で、除去することが予期される。この目的のために、1つまたは少なくとも1つの気泡捕捉部を第1のチャンバの背後に配置してもよい。これは、この方法の少なくとも一部の間に、血液も気体または気体が飽和した液体または気体が超飽和した液体にさらされるときに、特に適している。
【0078】
透析液
本発明の透析液は、水性液体、すなわち、水を含む液体である。本発明に適した透析液は、以下を特徴とする:
(i)pHがpH8.0~pH11.0の範囲であり、
(ii)少なくとも1種類の緩衝剤を含み、緩衝剤は、少なくとも1つのpKa値が7.0~11.0の範囲であることを特徴とし、
(iii)Hイオンに対する緩衝能が12mmol/l以上である。
【0079】
緩衝剤、緩衝能およびpHに関するこれらの条件は、本明細書では「フレームワーク条件」とも呼ばれる。このフレームワークの中で、以下に記載する通り、特定の条件を適切に選択してもよい。
【0080】
12mmol/l以上のHイオンに対する緩衝能は、典型的には、血漿の緩衝化(pH7.45;実施例1を参照)を超える緩衝能である。したがって、本発明では、透析液の緩衝能は、典型的には、血漿の緩衝化(pH7.45)を超える。言い換えると、透析液の緩衝能は、典型的には、Hイオンに対する緩衝能が12mmol/l以上である。
【0081】
一般的に、本発明によれば、透析液は、少なくとも1種類の緩衝剤、典型的には少なくとも2種類の緩衝剤を含む。一般的に緩衝化された透析液の使用、またはより好ましくは本発明によって具体的に定義される透析液の使用によって、血液にとって有害ではないpH範囲で二酸化炭素の除去を行うことができる。このことは、透析液の実際のイオンに対する緩衝能が、緩衝剤が含まれていない場合よりもかなり高いときに成り立つ。前記少なくとも1種類の緩衝剤は、透析液の緩衝能を与えるか、またはこれに寄与する。本願発明者らは、透析液の使用(従来のCO除去システムのスイープガスとは対照的に)が、透析液のpHを許容されるpH範囲内に維持するのに適していることを発見した。
【0082】
イオンに対する緩衝能
本発明の観点で、「Hイオンに対する緩衝能」または「緩衝能」は、所与の液体がHイオンの添加を緩衝化する能力を表す抽象的な値である。「Hイオンに対する緩衝能」との用語は、それぞれの液体(水溶液)の固有の特性である。血漿は、例えば、このような液体である。血漿の緩衝能の決定は、遠心分離工程を必要とする。遠心分離によって、血小板を含む血液細胞がペレット化し、上澄みが血漿と呼ばれる。このような遠心分離を実施例1に記載する。血液を遠心分離するのに適した条件、したがって、血漿を調製するのに適した条件は、当該技術分野で知られている。
【0083】
正確には、「Hイオンに対する緩衝能」という用語は、6.5より低いpHに達することなく、特定の量のHイオンを緩衝化する能力を指す。「6.5より低いpHに達することなく」は、適切に混合した液体のpHがpH6.5より小さな値に達しないことを意味する。したがって、緩衝能の実際の評価には、十分に混合することが重要である。したがって、本明細書で使用される場合、本発明の透析液の観点では、「Hイオンに対する緩衝能」という用語は、単にpHが6.5以上の液体に使用することができる。本明細書で定義される場合、pHが6.5の溶液は、Hイオンに対する緩衝能がゼロmmol/l(0mmol/l)であろう。本発明の透析液は全て、すなわち、本明細書で定義される場合、6.5より大きなpHを有し、したがって、Hイオンに対する緩衝能を有する。緩衝能が12mmol/l Hイオン以上である場合、それぞれの液体(透析液)は、本発明のHイオンに対する緩衝能を有する。より好ましいのは、これより大きな緩衝能であり、すなわち、Hイオンに対する緩衝能が、12mmol/l以上、14mmol/l以上、16mmol/l以上、18mmol/l以上、20mmol/l以上、22mmol/l以上、24mmol/l以上、26mmol/l以上、28mmol/l以上、30mmol/l以上、32mmol/l以上、34mmol/l以上、36mmol/l以上、38mmol/l以上、40mmol/l以上、42mmol/l以上、44mmol/l以上、46mmol/l以上、48mmol/l以上、50mmol/l以上である。したがって、本発明の透析液は、典型的には、Hイオンに対する緩衝能が12mmol/l以上、例えば、12mmol/lより大きい。好ましい緩衝能は、12~50mmol/l、12mmol/lより大きく40mmol/lまで、13~30mmol/l、14~25mmol/l、15~24mmol/l、16~23mmol/l、17~22mmol/l、18~21mmol/l、19~20mmol/lの範囲にある。
【0084】
少なくとも12mmol/lの緩衝能があれば、多量のH(プロトン)を除去することができるという利点を有する。緩衝能が12mmol/l未満である場合、このような多量のH(プロトン)を除去するには、極端に高いpH値が必要であった。このような高いpH値は、血液にとって不都合なものであった。したがって、少なくとも12mmol/lの緩衝能があれば、血液にとって有害ではないpH値で、多量のH(プロトン)を除去することができる。
【0085】
緩衝能は、単にそれぞれの液体のpHに依存するのではなく、液体の組成(前記液体中の緩衝剤化合物の存在および濃度)によって影響を受ける。
【0086】
イオンに対する緩衝能は、「mmol/l」単位での数値として示される。本発明によれば、Hイオンに対する緩衝能(mmol/l単位での緩衝能)は、以下の4工程のアッセイによって決定される。
【0087】
1.導入部分の注釈として、このアッセイは、pHが本発明の透析液のpH範囲である、すなわち、pH8.0~pH11.0、またはその部分範囲にある所与の液体(透析液または透析液候補物質)のHイオンに対する緩衝能を決定するのに適している。したがって、第1の工程では、所与の液体が、この範囲内のpHを有するかどうかを試験する。そうなっていない場合には、所与の液体は、本発明の透析液ではない(さらなる試験の必要はない)。しかし、そうなっている場合には、所与の液体の緩衝能は、以下の工程2および3によって決定される。
【0088】
2.この液体に対し、HClを用いた滴定を行う。特に、0.1M HClを添加し、溶液を撹拌して確実に混合し、pHを連続して監視し、滴定を行った液体のpHが実際に最終値のpH6.5に達したら、滴定を止める。言い換えると、pHが6.5に達したら滴定を止める。pH6.5に達するまでに添加したHClの量に基づき、緩衝能(mmol/l単位でのHイオン)を計算する。HClが強酸であり、共通の一般的な知識によれば、水溶液中で完全に溶解するため、このことが可能である。したがって、0.1M HCl(0.1mol/l)は、0.1mol/lの溶解したClイオンと、0.1mol/lの溶解したHイオンを含む。所与の液体が滴定によってpH6.5に達するのに必要なHClの体積に基づき、この体積の透析液によって緩衝化されるHイオンの量を計算することができる。このアッセイに使用される所与の液体の量が1リットルである場合、1リットルの透析液によって緩衝化されるHイオンの量(mmol/l単位での緩衝能)が直接得られる。このアッセイに使用される所与の液体の定義される量が1リットルより多いか、または1リットルより少ない場合、1リットルの透析液によって緩衝化可能なHイオンの量(mmol/l単位での緩衝能)は、単純な算数計算によって得ることができる。
【0089】
3.工程2で決定される緩衝能(mmol/l)を対照値と比較する。適切な対照値は、10mmol/l、11mmol/l、12mmol/l、13mmol/l、14mmol/lであり、ここで、12mmmol/lがきわめて好ましい。または、対照値は、ヒトまたは動物(ブタ、マウス)の血液の緩衝能によって表される。この場合には、血漿の緩衝能は、上の工程2に記載される通りに決定される。
【0090】
4.所与の溶液の緩衝能(mmol/l)が対照値(mmol/l)を超える場合、所与の溶液は、本発明の緩衝能を有すると判定される。
【0091】
緩衝能を決定するためのアッセイでは、全てのpH測定および滴定は、室温で行われる(全ての溶液および装置の温度、周囲温度)。上のアッセイは、直接的であり、本明細書の助言および共通の一般的な知識に基づいて最小限の努力をすれば当業者が行うことができる。これにより、所与の溶液の緩衝能は、過度な負荷なく、容易に、信頼性高く決定することができる。
【0092】
緩衝能決定の一例は、本発明で定義される通り、以下の実施例1に与えられる。この実施例に示されるように、pHが7.45の血漿は、典型的には、緩衝能が12mmol/lである。しかし、他の供給源(他の種および他の個人)由来の血漿が異なる緩衝能を有することは考えられる。他の想定可能な血漿の緩衝能は、3~30mmol/l、好ましくは4~25mmol/l、好ましくは5~20mmol/l、好ましくは6~19mmol/l、好ましくは7~18mmol/l、好ましくは8~17mmol/l、好ましくは9~16mmol/l、好ましくは10~15mmol/l、好ましくは11~14mmol/l、好ましくは12~13mmol/lの範囲である。
【0093】
本発明の透析液が、典型的には、血漿の緩衝能を超える緩衝能を有することが好ましい。個人(例えば、患者)の血液が本発明のプロセスまたは方法で処理される場合、Hイオンに対する緩衝能は、好ましくは、この個人(例えば、患者)の血液の緩衝能を超えるように選択される。
【0094】
透析液のpH
透析液の好ましいpH範囲としては、pH8.0~pH10.5、pH8.0~pH10.0、pH8.0~pH9.5、好ましくはpH8.0~pH9.0が挙げられる。したがって、透析液中に存在する少なくとも1種類の緩衝剤の少なくとも1つのpKa値は、pH7.0~pH11.0、pH8.0~10.5、8.0~10.0、8.0~9.5、好ましくは8.0~9.0の範囲である。1種類より多い緩衝剤が存在する場合、それぞれのpKa値が上の範囲または部分範囲にあることが好ましい。少なくとも1種類の緩衝剤が、1つより多いpKa値を有する場合、少なくとも1つのpKa値、好ましくは、1つより多いpKa値は、上の範囲または部分範囲にある。少なくとも1つのpKa値が7.0~11.0の範囲にある任意の緩衝剤は、所望なpH範囲で緩衝化するのに理論的に適している。しかし、本発明の観点で、緩衝剤は、透析を受けるヒトまたは動物に非毒性であるか、または望ましくない副作用を生じないように選択されなければならない。特に適切な緩衝剤は、炭酸イオン/重炭酸イオン系、Trisおよび水溶性タンパク質(好ましくはアルブミン)であり、全て本明細書で上に定義した通りである。透析液の別の適切なpH値は、pH7.75~pH9.0の範囲である。一般的に、好ましいpH値は、pH7.75~pH9.0、好ましくはpH8.0~pH9.0、好ましくはpH8.1~pH8.9、好ましくはpH8.2~pH8.8、好ましくはpH8.3~pH8.7、より好ましくはpH8.4~pH8.6の範囲であり、最も好ましくはpH8.5またはpH8.5付近である。これらは一般的な好ましい範囲および部分範囲であることを注記することが重要である。具体的な目的のために、例えば、具体的な患者サブグループ由来の血液を処理するために、以下に記載する通り、代替的な異なる範囲または部分的に外れた範囲が好ましい場合がある。pHは、本明細書で想定される範囲内の緩衝物質、例えば、重炭酸イオンおよびヘモグロビンの量または濃度によって調節することができ、および/または酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムの添加によって調節することができる。
【0095】
重炭酸イオンおよび水素カチオン、および水性液体のpHに影響を与え得るイオンまたは物質を含む他の低分子は、本発明の方法の間に半透膜を通り抜けることができる。したがって、透析液のpHは、血液を透析液と接触させる処理工程の間ずっと一定のままであるとは限らない。したがって、正確な意味では、本記載で定義される透析液のpHは、好ましくは、血液を接触させる直前の段階、例えば、本明細書に記載する透析ユニットの第2のチャンバに透析液が入る段階の透析液について定義される。
【0096】
透析液に含まれる緩衝剤
透析液に含まれる適切な緩衝剤としては、特に、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris、THAM)、炭酸イオン/重炭酸イオン、水溶性タンパク質、好ましくはアルブミンのいずれか1つ以上が挙げられる。
【0097】
-重炭酸イオンは、酸性度(pKa)が10.3であることを特徴とする(共役塩基は炭酸イオン)。したがって、重炭酸イオンを含有する水溶液中、溶液のpHに依存して、炭酸イオンも同様に存在してもよい。便宜上、「炭酸イオン/重炭酸イオン」という表現は、本明細書では、重炭酸イオンと、その対応する塩基である炭酸イオンの両方を指すために使用される。「炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度」または「(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度」などは、本明細書では、炭酸イオンと重炭酸イオンの合計濃度を指す。例えば、「20mMの炭酸イオン/重炭酸イオン」は、重炭酸イオンとその対応する塩基である炭酸イオンの合計濃度が20mMの組成物を指す。重炭酸イオンと炭酸イオンの比率は、典型的には、組成物のpHによって示されるだろう。
【0098】
重炭酸イオンおよび水素カチオンと、水性液体のpHに影響を与え得るイオンまたは物質を含む他の低分子は、本発明の方法の間に半透膜を通り抜けることができる。したがって、正確な意味では、本記載で定義される透析液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、好ましくは、血液を接触させる直前の段階、例えば、本明細書に記載する透析ユニットの第2のチャンバに透析液が入る段階の透析液について定義される。
【0099】
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンは、通常は、「Tris」と呼ばれる。トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンは、「THAM」としても知られる。Trisは、式(HOCHCNHを有する有機化合物である。Trisの酸性度(pKa)は、8.07である。Trisは、非毒性であり、アシドーシスをin vivoで治療するために以前から使用されている(例えば、Kalletら、Am.J.of Resp.and Crit.Care Med.161:1149-1153;Hosteら、J.Nephrol.18:303-7)。Trisを含む水溶液中、溶液のpHに依存して、対応する塩基が同様に存在してもよい。便宜上、「Tris」という表現は、本明細書では、その内容が他の意味を示さない限り、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと、その対応する塩基の両方を指すために使用される。例えば、「20mMのTris」は、Trisとその対応する塩基の合計濃度が20mMの組成物を指す。トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと、その対応する塩基の比率は、組成物のpHによって示されるだろう。Trisおよびその共役塩基と、水性液体のpHに影響を与え得るイオンまたは物質を含む他の低分子は、本発明の方法の間に半透膜を通り抜けることができる。したがって、正確な意味では、本記載で定義される透析液のTrisの濃度は、好ましくは、血液を接触させる直前の段階、例えば、本明細書に記載する透析ユニットの第2のチャンバに透析液が入る段階の透析液について定義される。
【0100】
水溶性タンパク質は、少なくとも1つのイミダゾール(ヒスチジン側)鎖および/または少なくとも1つのアミノ基(リシン)側鎖または少なくとも1つのスルフヒドリル(システイン)側鎖を有する場合、本発明の目的に適している。これらの側鎖は、典型的には、pKa値が7.0~11.0の範囲である。少なくとも10g/lのタンパク質が、本発明の透析液の範囲内のpH(例えば、pH8.0)を有する水溶液に可溶性である場合、タンパク質は、水溶性の定義に入る。本発明の観点できわめて好ましい水溶性タンパク質は、以下に定義されるアルブミンである。
【0101】
-アルブミンは、本発明の観点で好ましい水溶性タンパク質である。一般的に、アルブミンは、典型的にはそれぞれのpKa値を有するいくつかのアミノ酸側鎖に起因して、所望なpH範囲で良好な緩衝能を有する。本発明では、アルブミンは、好ましくは、ヒトまたは動物の血清アルブミン、例えば、ヒト血清アルブミン、動物アルブミン(例えば、ウシ血清アルブミン)、または遺伝子操作されたアルブミン、またはこれら任意の1つ以上の混合物である。アルブミンと、少なくとも1つのさらなる担体物質とを含む混合物も可能である。いかなる場合でも、本明細書で明記されるアルブミン濃度は、1種類のアルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)が使用されるか、またはさまざまな種類のアルブミンの混合物が使用されるかによらず、アルブミンの合計濃度を指す。本発明で使用される透析液は、10~60g/lのアルブミン、好ましくは15~30g/lのアルブミン、好ましくは20~25g/lのアルブミン、最も好ましくは30g/lまたは約30g/lのアルブミンを含む。アルブミン濃度は、%値として示すことができる。すなわち、20g/lのアルブミンは、約2%のアルブミン(重量/体積)に対応する。アルブミンは、本発明の透析液中の第2の緩衝剤である。透析液中のアルブミンは、その緩衝能に寄与し、カルバミノ基の形態で炭酸イオンに結合する。アルブミンが液体(例えば、血液)を適切に緩衝化することができるpH範囲は、例えば、生化学の教科書から当該技術分野でよく知られている。透析液中にアルブミンが存在すると、タンパク質に結合した物質の血液からの除去が容易になる。水素カチオン、二酸化炭素および毒素などの化合物に吸着し、または結合する特性という観点で、アルブミンは、さらに一般的に、吸着体または吸着体分子とも呼ぶことができる。
【0102】
上述の種類の望ましくない物質に結合するためのアルブミンの適合性、したがって、体外の二酸化炭素除去および血液pHの調節のための方法への適合性に加え、本発明のように、透析液中にアルブミンが存在すると、タンパク質に結合した毒素の除去がさらに可能になるか、または改良される。この目的のために、透析液中に存在するアルブミンの能力を探求することができる。一般的に、アルブミンは、結合していない毒素に結合することが知られており、この特性は、アルブミンが透析液中に存在するときに利用することができ、したがって、半透膜を通り抜け、血液から透析液へと移動する毒素の結合を可能にする。この方法は、「アルブミン透析」と呼ばれる(例えば、その全体が本明細書に参考として組み込まれるWO 2009/071103 A1号を参照)。
【0103】
好ましくは、緩衝剤は、COを生成しない緩衝剤である。一般的に、緩衝剤は、COを生成する緩衝剤、例えば、炭酸イオン/重炭酸イオンと、COを生成しない緩衝剤、例えば、アルブミン、THAM、Tris、リン酸塩緩衝液などに分類することができる。COを生成する緩衝剤は、例えば、血液中でCOを生成することができる緩衝剤である。H(プロトン)が、COを生成する緩衝剤、例えば炭酸イオン/重炭酸イオンの使用によって除去される場合、血液中でCOが生成するリスクがある。このリスクは、COを生成しない緩衝剤を使用してH(プロトン)を除去することによって避けることができる。したがって、COを生成しない緩衝剤の利点は、この緩衝剤がCOに変換され得ないこと(またはCOを生成しない緩衝剤に由来してCOが生成され得ないこと)である。
【0104】
好ましくは、COを生成しない緩衝剤は、アルブミン、THAM、Trisおよびリン酸塩緩衝液から選択される。これらのCOが生成しない緩衝剤を組み合わせ、例えば(i)アルブミンとTris;(ii)アルブミンとTHAM;(iii)アルブミンとリン酸塩緩衝液;(iv)アルブミン、TrisおよびTHAM;(v)アルブミン、Trisとリン酸塩緩衝液;(vi)アルブミン、TrisおよびTHAM;(vii)アルブミン、THAM、Trisおよびリン酸塩緩衝液;(viii)THAMとTris;(ix)THAMとリン酸塩緩衝液;(x)Trisとリン酸塩緩衝液;または(xi)THAM、Trisおよびリン酸塩緩衝液を含む透析液を得ることもできる。より好ましくは、COを生成しない緩衝剤は、アルブミンである。
【0105】
したがって、本明細書に記載するように、透析液がアルブミンを含むことが好ましい。
【0106】
透析液が、30mmol/l未満の炭酸イオン/重炭酸イオンを含むことも好ましい。より好ましくは、透析液は、25mmol/l未満の炭酸イオン/重炭酸イオンを含む。さらにより好ましくは、透析液は、20mmol/l未満の炭酸イオン/重炭酸イオンを含む。最も好ましくは、透析液は、10mmol/l未満の炭酸イオン/重炭酸イオンを含む。
【0107】
上述のように、高濃度の炭酸イオン/重炭酸イオンは、血液中でCOを生成するリスクを高め、したがって、COの「除去」を妨害する。従来、従来技術で記載される方法を用い、多量の重炭酸イオンを除去していたが、H(プロトン)は、例え除去されたとしても、非常に少量だけが除去された。しかし、COの構成要素として重炭酸イオンのみが除去される場合、H(プロトン)が血液中に残り、血液のpH値は低いままである(すなわち、アシドーシスが継続する)か、または血液のpH値がさらに低下する(すなわち、アシドーシスがさらに強められる)。
【0108】
本発明では、対照的に、透析流体(i)は、高いpH値を有し、(ii)H(プロトン)のための緩衝液を含む。それによって、H(プロトン)を血液から除去(「中和」)することができ、透析液の低い重炭酸イオン濃度(好ましくは、血液中の重炭酸イオン濃度より低いこと)に起因して、重炭酸イオンを血液から除去することができる。
【0109】
したがって、透析液が炭酸イオン/重炭酸イオンを含まないことがさらに好ましいだろう。さらにより好ましくは、透析液は、COを生成する緩衝剤を含まない。これは、特に、単回通過の透析液(透析器を一回だけ通過し、すなわち、このような透析液は、典型的には、リサイクル/再生されない)に適用され、透析器に最初に入ったときに、複数回通過の透析液(透析器を1回より多く通過し、すなわち、このような透析液は、典型的には、リサイクル/再生される)に適用される。複数回通過の透析液では、血液から除去される重炭酸イオンは、重炭酸イオンが透析流体に添加されない場合でも、透析液中に蓄積することがある。したがって、血液から除去され、複数回通過の透析液中に蓄積した重炭酸イオンの濃度は、30mmol/lを超えないことが好ましく、より好ましくは、複数回通過の透析液中の重炭酸イオンの濃度は、25mmol/lを超えず、さらにより好ましくは、複数回通過の透析液中の重炭酸イオンの濃度は、20mmol/lを超えず、最も好ましくは、複数回通過の透析液中の重炭酸イオンの濃度は、10mmol/lを超えない。
【0110】
炭酸イオン/重炭酸イオンの適切な合計濃度(両物質を合わせた濃度)は、0~40mmol/lである。透析液中に炭酸イオン/重炭酸イオンが存在することは、透析液の緩衝能に寄与する。しかし、炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が低いほど、血液からのCOの除去が良好になる。したがって、炭酸イオン/重炭酸イオンを含まない透析液、または炭酸イオン/重炭酸イオンを添加しない透析液を使用することが望ましい場合がある。重炭酸イオンが液体(例えば、血液)を適切に緩衝化することができるpH範囲は、例えば、生化学の教科書から当該技術分野でよく知られている。本発明の透析液が調製されるとき、重炭酸イオンは、任意の塩(例えば、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウムなど)の形態で添加されてもよく、または場合により炭酸脱水酵素存在下、二酸化炭素を導入し、所望な場合、適切な塩基(例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム)の添加によってpHを調節することによって間接的に添加されてもよく、水酸化ナトリウムがきわめて好ましい。塩の形態で添加する場合には、重炭酸ナトリウムまたは炭酸ナトリウムがきわめて好ましい。または、カリウム塩、またはカリウム塩とナトリウム塩の混合物を使用してもよい。高いpH(例えば、pH11まで)で透析液に添加するのに特に有用な塩は、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムである。一般的に、透析液中の好ましい(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、本発明の方法において第2のチャンバに入る段階について言及すると、10~40mmol/l、好ましくは15~35mmol/l、より好ましくは20~30mmol/lの範囲、最も好ましくは30mmol/lまたは約30mmol/lである。これらが一般的な好ましい範囲および部分範囲であることを注記することが重要である。具体的な目的のために、例えば、具体的な患者サブグループ由来の血液を処理するために、以下に記載する通り、代替的な異なる範囲または部分的に外れた範囲が好ましい場合がある。代替的な適切な(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、0~40mmol/l、または0mmol/lより多く40mmol/lまで、好ましくは5~35mmol/l、好ましくは10~30mmol/l、より好ましくは15~25mmol/lの範囲、最も好ましくは25mmol/lまたは約25mmol/lである。透析液がリサイクルされる場合、第2チャンバに透析液が入る前に、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が決定され、所望な場合には調節される。一般的に、40mmol/lを超える(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、あり得る副作用の観点から望ましくない。
【0111】
適切なTris濃度は、0~40mmol/l、または0mmol/lより大きく、30mmol/lまで、好ましくは5~25mmol/l、好ましくは10~20mmol/lの範囲、より好ましくは約15mmol/lである。代替的な適切なTris濃度は、0~38mmol/l、または0~20mmol/lの範囲である。
【0112】
アルブミンの適切な濃度は、10~60g/l(すなわち、1~6g/100ml)である。本記載では、g/lおよびg/100mlは、体積(アルブミンを含有する液体の最終的な体積)あたりのグラム数を指す。
【0113】
好ましくは、アルブミンは、透析液中に存在する唯一の緩衝剤ではない。したがって、好ましくは、アルブミンに加え、炭酸イオン/重炭酸イオンまたはTrisのいずれかが存在する。本発明の好ましい透析液は、(i)炭酸イオン/重炭酸イオンと(ii)アルブミンの両方、または(i)Trisと(ii)アルブミンの両方を含む。特に、透析液に炭酸イオン/重炭酸イオンが添加されない(すなわち、透析液中の炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が0mmol/lまたはほぼ0mmol/lである)場合、透析液中にTrisとアルブミンの両方が存在することが好ましい。または、Trisは、透析液中に含まれる唯一の緩衝剤である。
【0114】
上の範囲および濃度のTris、炭酸イオン/重炭酸イオンとアルブミンは、全て本発明で組み合わせることができる。
【0115】
透析液の実施形態に関連するさらなる特性
透析液は、典型的には、水を含む。典型的には、透析液の50%(体積/体積)より多く、60%(体積/体積)より多く、70%(体積/体積)より多く、80%(体積/体積)より多く、または90%(体積/体積)より多くが水である。他の水混和性液体も、透析液に含まれていてもよい。
【0116】
本発明は、望ましくない物質を除去するための方法だけではなく、上述の目的に適した透析液自体を除去するための方法を提供する。本明細書に記載される任意および全ての特定の透析液が、本発明の発明特定事項である。
【0117】
好ましくは、アルブミンは、透析液中に存在する唯一の緩衝剤ではない。したがって、好ましくは、アルブミンに加え、炭酸イオン/重炭酸イオンまたはTrisのいずれかが存在する。本発明の好ましい透析液は、(i)炭酸イオン/重炭酸イオンと(ii)アルブミンの両方、または(i)Trisと(ii)アルブミンの両方を含む。代替的な好ましい透析液は、唯一の緩衝液としてTrisを含み、すなわち、添加された炭酸イオン/重炭酸イオンまたはアルブミンを含有しない。
【0118】
一般的に、炭酸イオン/重炭酸イオン、アルブミンおよびTrisは、緩衝剤であり、したがって、全て、pHを所望の範囲内に維持するのに貢献する。これらの緩衝剤は、少なくとも1つのpKa値が上に定義したpH範囲にある。
【0119】
血液をさらし始める(第2のチャンバに入る)ときに、常に透析液を所望のpHに維持することは必要ではない。特に、透析液がリサイクルされる場合には、以下に記載される通り、pHおよび(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、時間経過に伴って変動してもよい。しかし、第2のチャンバに入る段階で、透析液は、特定のpHおよび重炭酸イオン/アルブミン濃度と一致するように調節される。例えば、透析液が第2のチャンバに入る前に、少なくとも1つのpH測定装置によってpHを測定することができる。場合により、pHは、少なくとも1つのpH測定装置によってさらに測定することができる。
【0120】
本発明に有用な第1の特定の透析液は、0~40mmol/lの炭酸イオン/重炭酸イオン(好ましくは10~40mmol/lの炭酸イオン/重炭酸イオン)と、10~60g/lのアルブミン(すなわち、1~6g/100mlのアルブミン)とを含み、pHがpH7.75~pH11.0、好ましくはpH8.0~pH10.0、より好ましくはpH8.0~pH9.0の範囲である。好ましい炭酸イオン/重炭酸イオン濃度は、上に明記した通りである。
【0121】
本発明に有用な第2の特定の透析液は、0~40mmol/lのTris(好ましくは1~20mmol/lのTris)と、10~60g/lのアルブミン(すなわち、1~6g/100mlのアルブミン)とを含み、pHがpH7.75~pH11.0、好ましくはpH8.0~pH10.0、より好ましくはpH8.0~pH9.0の範囲である。好ましいTris濃度は、上に明記した通りである。
【0122】
本発明に有用な第3の特定の透析液は、0~40mmol/lのTris(好ましくは1~20mmol/lのTris)を含む。好ましいTris濃度は、上に明記した通りである。適切な緩衝能は、一般的に、pHが比較的高いときは、Tris緩衝化透析液について与えられる。したがって、追加の緩衝剤、例えば、炭酸イオン/重炭酸イオンおよびアルブミンが存在しない場合は、透析液のpHは、適切には、特に高く、例えば、8.5~11.0、または9.0~10.5、好ましくは9.0~10.0である。
【0123】
透析液は、血液に移動するための他の膜透過性低分子、所望な場合、例えば、グルコースも含んでいてもよい。
【0124】
好ましくは、透析液は、カルシウム(Ca2+)イオンを含む。遊離カルシウムイオンのみを含む従来技術の透析液とは対照的に、カルシウムイオンは、本発明の透析液では、アルブミンに少なくとも部分的に結合している。一般的に、さらに高いpH値では、さらに多くのカルシウムがアルブミンに結合し、血液との交換に利用可能な量が少なくなる。したがって、本発明のアルブミンを含有する透析液は、技術常識の透析液から知られているカルシウム濃度よりも高濃度のカルシウムを含む。特に、アルブミンを含有する透析液のカルシウムイオン濃度は、1.7mmol/l以上である。利用可能な十分な遊離カルシウムを与えるために、すなわち、血液中の遊離カルシウムイオン濃度を下げないために、このことが望ましい(実施例3を参照)。
【0125】
好ましくは、透析液は、2~4mmol/lのカルシウム(Ca2+)イオン、より好ましくは2.4~2.6mmol/lのカルシウムイオンを含む。カルシウムイオンは、任意の適切な塩の形態で、例えば、塩化カルシウムの形態で添加することができる。透析液にカルシウムを添加することは、血液もカルシウムを含むため、有益である。透析液中にカルシウムが存在することで、血液から透析液へのカルシウムイオンの望ましくない正味の流れ(漏れ)を防ぐ。カルシウムイオンは、(非常に)塩基性のpHで沈殿し得ることが知られている。しかし、カルシウムの存在は、半透膜によって透析液から分離された血液と接触しているとき、透析液の最大pH値が9.0であるという点で、本発明に適合しない。透析液のpHが10を超える場合、カルシウムイオン(およびその他)などの一部のイオンは不溶性になる。したがって、透析液のpHが9を超える場合、カルシウムイオン(および/または他の不溶性イオン)が存在しないことが好ましい。患者が、このようなイオンの欠乏状態にならないために、透析液のpHがこの範囲にある場合には、患者の血液に直接的に注入すべきである。
【0126】
好ましくは、透析液は、透析される血液のモル浸透圧濃度と実質的に同じモル浸透圧濃度であることを特徴とする。
【0127】
上述のことに加え、炭酸脱水酵素を透析液に加えてもよく、または炭酸脱水酵素が透析液中に存在していてもよい。炭酸脱水酵素は、二酸化炭素から重炭酸イオン(HCO )とHイオンへの可逆的な反応を促進する酵素である。炭酸脱水酵素を体外の血液回路に添加してもよい。第1または第2のチャンバの内側表面を炭酸脱水酵素でコーティングすることも可能である。一般的に、上述の態様に加え、本発明の生理学的な目的に適した透析液は、好ましくは、所望な電解質、栄養分および緩衝物を十分な濃度で含み、その結果、患者の血液中のレベルを、例えば、正常な生理学的な値になるように調節することができるか、または任意の他の望ましい値または所定の値に調節することができる。本発明の透析液の任意構成要素としては、電解質が挙げられ、好ましくは、糖類および/または塩類(アニオン/カチオン/双性イオン)から選択される。典型的なカチオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオンおよびナトリウムイオンが挙げられる。典型的なアニオンとしては、塩素アニオン、HCO 、HCO、HPO 2-、HPO が挙げられる。典型的な双性イオンとしては、アミノ酸(例えば、ヒスチジン)およびペプチド、または果実酸の塩が挙げられる。
【0128】
好ましくは、透析液は、酢酸が添加されておらず、酢酸イオンが添加されていない。好ましくは、透析液中の酢酸を合わせた濃度は、4mmol/l未満、3mmol/l未満、2mmol/l未満、1mmol/l未満、最も好ましくは0mmol/lである。
【0129】
透析液を目的に適合させる
本発明で使用される透析液の一般的な汎用性という観点で、すなわち、血液pHを調節するための適合性および二酸化炭素を血液から直接的または間接的に除去するための適合性、およびこれらの組み合わせという観点で、透析液は、具体的に、または主に特定の目的に対処するように設計することができる。例えば、透析液は、血液pHを調節するという目的、または二酸化炭素を直接的または間接的に除去するという目的のために設計されてもよい。この観点で、透析液の設計および適合という用語は、相互に置き換え可能に用いられ、半透膜を介して血液にさらす直前の(すなわち、第2のチャンバに入る段階の)透析液を指す。
【0130】
例えば、代謝性アシドーシスを患う被験体由来の血液が本発明の方法に供されるとき、典型的には、二酸化炭素の除去は望ましくないか、または適応がなくてもよいが、pHを調節することが望ましいだろう。好ましくはHイオンを除去することによって、COは、重炭酸イオンの製造源として機能する。別の例では、呼吸性アシドーシスを患う被験体由来の血液が本発明の方法に供されるとき、典型的には、pHを調節し、二酸化炭素を除去することが望ましいだろう。本発明で使用される透析液は、本明細書に記載する透析液の一般的なフレームワークの範囲内で、このような目的に適合させることができる。
【0131】
透析液および血液の重炭酸イオン(HCO )の濃度に依存して、重炭酸イオンは、半透膜の片側で透析液の濃度勾配に沿って、半透膜の他方の側で血液の濃度勾配に沿って、血液から除去することができる。言い換えると、透析液中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が、血液中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度より低ければ、重炭酸イオンは、濃度勾配に沿って血液から透析液へと除去されるだろう。血液からの重炭酸イオンの除去が望ましくないか、または適応ではない場合、透析液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、血液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度より低くないように選択される。「低くない」は、この観点では、等しいか、または高いこと、例えば、わずかに高いことを意味するが、典型的には、ほぼ等しいか、または等しいことを意味する。
【0132】
一般的に言えば、代謝性アシドーシスを患う被験体由来の血液を処理するために調節された透析液は、重炭酸イオンを好ましくは16~40mmol/lの範囲の濃度で含む。好ましくは、この濃度は、細胞のアシドーシスを避けるために、一連の処理中にはわずかに高い。このような目的のための(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度の好ましい実施形態としては、25~35mmol/l、または(約)30 mmol/lが挙げられる。
【0133】
一方、一般的に言えば、呼吸性アシドーシスを患う被験体由来の血液を処理するために調節された透析液は、重炭酸イオンを好ましくは0~40mmol/l、または5~40mmol/l、または10~40mmol/lの範囲の濃度で含む。このような目的のための(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度の好ましい実施形態としては、15~35mmol/l、20~30mmol/l、または(約)25mmol/lが挙げられる。
【0134】
pH調節のための適合
代謝物(例えば、血液からのCOおよび重炭酸イオン)の効率的な除去以外に、本発明の方法によって、血液のpHを所望なレベルに調節することもできる。これは、例えば、酸性血液、例えば、アシドーシス患者由来の血液の治療に適している。血液pHを、pH6.8~pH8.5内の所定の値または所定の範囲に調節することが望ましい。この範囲からはずれた血液pH値は、望ましくない副作用、例えば、血液タンパク質の変性および/または血液構成要素の沈殿という観点で望ましくない。一般的に、血液pH値または範囲を調節するとは、第1のチャンバから出る段階で、血液が上述の調節された値または範囲であることを特徴とすることを意味する。
【0135】
健康なヒト被験体の生理学的な血液は、典型的には、pHが7.35~7.45の範囲、すなわち、7.40付近であるため、いくつかの実施形態では、血液pHを、この範囲を包含する範囲または値、すなわち、7~8.5、7.0~7.8、7.2~7.6または7.3~7.5に調節することが望ましい。好ましい実施形態では、血液pHを、健康なヒト被験体の生理学的な血液の値に近い値にすることを意図する場合、血液pHを、pH7.35~7.45、好ましくは7.36~7.44、より好ましくは7.37~7.43、より好ましくは7.38~7.42、より好ましくは7.39~7.41の範囲ないの値または範囲、最も好ましくは7.40付近に調節することが望ましい。
【0136】
以下に詳細に記載される通り、本発明は、アシドーシスを患う被験体(アシドーシス患者)、すなわち、代謝性アシドーシスおよび/または呼吸性アシドーシスを患う被験体を治療するのに特に適している。アシドーシス患者由来の血液を治療することに向けられるか、またはこの治療することに適した本発明の実施形態では、血液pHを、7.40より高いアルカリ性の値または範囲、7.40より高く8.0まで、7.5~7.9または7.6~7.8、好ましくはpH7.65~7.75の範囲の値または範囲、例えば、7.7に調節することが望ましいだろう。
【0137】
本発明の方法における血液pHの調節は、使用される透析液の緩衝能のため、また、HイオンおよびOHイオンの半透膜透過性のために、技術的に実行可能である。したがって、緩衝化された透析液を用いることによって、血液のpH調節を達成することができる。HイオンおよびOHイオンは、半透膜を通り抜けることができ、それぞれの濃度勾配に沿って通り抜けるだろう。
【0138】
任意の特定の理論に束縛されることを望まないが、主に本発明の透析液の優れた緩衝能という観点で、Hイオンが血液から除去されることが理解される。これに加えて、半透膜の片側または両側で、透析液によって与えられるOHイオンと反応させることによって少量のHイオンが除去されると考えられる。血液から二酸化炭素だけではなく、Hイオンも(OHイオンとの反応によって)除去することで、血液の酸-塩基バランスを調節することができる。以下に詳細に記載する通り、本発明で使用される透析液は、必要性(例えば、透析の治療を受ける患者の必要性)に基づいて調節することができる。したがって、本発明は、二酸化炭素の優先的な除去、または血液pHの優先的な調節、またはその両方が可能である。この汎用性は、それぞれ互いに独立して、本明細書に定義される一般的な範囲内で透析液のpHを調節し、透析液中の緩衝物質(特にアルブミンおよび重炭酸イオン)の濃度を調節することが可能であることによって与えられる。
【0139】
毒素除去のための適合
いくつかの実施形態では、さらなる望ましくない物質または追加の望ましくない物質を血液から除去することができる。それぞれの実施形態では、このようなさらなる望ましくない物質は、毒素、例えば、タンパク質に結合した毒素である。このような実施形態では、少なくとも2種類の望ましくない物質、例えば、上に明記した少なくとも1つの望ましくない物質と、さらに毒素とを血液から除去することを意図している。毒素との用語は、本明細書で使用される場合、特に限定されず、代謝物、例えば、ビリルビン、胆汁酸;銅、肝不全で蓄積するホルモンまたは薬物などの他の物質を含め、ヒトまたは動物の体にとって毒性の任意の物質を指す。典型的には、前記毒素は、ヒトまたは動物の体の血液中のタンパク質に結合したものである。一般的に、タンパク質に結合した毒素は、血液透析によってほとんど除去されない。本発明のように、透析液中のアルブミンの存在によって、タンパク質に結合した毒素の除去を可能にするか、または改良する。血液中、タンパク質に結合する毒素のうち、少ない割合が溶液中に遊離形態で存在し、この割合が、透析器中の半透膜を通って拡散し、透析液中の吸着体(アルブミン)の遊離結合部位に結合することができる。
【0140】
半透膜および半透膜を含む装置
本発明に適した装置は、血液を受け入れるのに適した第1のチャンバと、透析液を受け入れるのに適した第2のチャンバとを備えている。第1のチャンバと第2のチャンバは、少なくとも1つの半透膜によって分離されている。
【0141】
適切には、第1のチャンバは、複数の第1のチャンバに分割される。複数とは、1より多い任意の整数を指す。したがって、典型的には、複数の第1のチャンバが装置に存在する。好ましくは、それぞれの第1のチャンバが、半透膜によって分離された第2のチャンバと接触している。前記第1のチャンバは、好ましくは、キャピラリーの形態で存在する。これにより、半透膜によって透析液と接触しつつ、血液がキャピラリーを通って流れることができる。
【0142】
場合により、複数の第2のチャンバが装置に存在する。好ましくは、それぞれの第2のチャンバが、半透膜によって分離された第1のチャンバと接触している。
【0143】
装置において、(複数の)第2のチャンバの合計体積と(複数の)第1のチャンバの合計体積との比率は、10:1~1:10の範囲であってもよい。好ましくは、(複数の)第2のチャンバの合計体積は、(複数の)第1のチャンバの合計体積より大きい。好ましい比率は、約2:1である。
【0144】
したがって、本発明では、血液から透析液への少なくとも1つの望ましくない物質の移動は、半透膜を通って起こる。この膜は、理想的には、酸素、二酸化炭素、重炭酸イオン、Hイオンおよび液体を透過可能である。血液を受け入れるための第1のチャンバと、透析液を受け入れるための第2のチャンバとを備える装置では、半透膜は、第1のチャンバと第2のチャンバを分離する。このことにより、第1のチャンバから第2のチャンバへ、または第2のチャンバから第1のチャンバへの膜透過性物質の移動が可能になる。典型的には、膜透過性であるこのような物質は、濃度勾配に沿って優先的に移動するだろう。
【0145】
半透膜は、アルブミンの大きさまたは特性を有するたんぱく質を透過しない。しかし、重炭酸イオンおよび水素カチオンと、水性液体のpHに影響を与え得るイオンまたは物質を含む他の低分子は、本発明の方法の間に半透膜を通り抜けることができる。したがって、透析液のpHは、血液を透析液と接触させる処理工程の間ずっと一定のままであるとは限らない。したがって、正確な意味では、本明細書で定義される透析液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンのpHおよび濃度は、好ましくは、血液を接触させる直前の段階、例えば、第2のチャンバに透析液が入る段階の透析液について定義される。言い換えると、透析液は、第2のチャンバに入るとき、pHがpH8.0~pH11.0の範囲(または本明細書で定義される通り、その任意の好ましい値または部分範囲)である。
【0146】
半透膜を通る物質の移動は、受動的である(すなわち、濃度勾配に沿う)が、例えば、これらの液体の一定の流れがそれぞれのチャンバを通ること、また、場合により、撹拌し、振り混ぜ、圧力勾配(対流を引き起こす)または他の適切な機械的な運動によって、血液/および/または透析液は、優先的に移動する。このような機械的な運動は、半透膜表面に物質が効率的にさらされることに寄与し、そのため、半透膜を通る移動効率に寄与すると考えられる。
【0147】
典型的には、本発明に適した装置では、半透膜の露出した表面積は、0.01m~6mの範囲であってもよい。2つの透析ユニットが並列で使用される場合、6mまでの(合わせた)表面積が、典型的には存在する。2つの透析ユニットのこのような並列の使用は、本発明の一実施形態で想定される。典型的には、任意の1つの透析ユニットの露出した表面積は、0.01m~3m、例えば、0.1m~2.2mの範囲である。一般的に、これらの範囲の下側部分の表面積は、子供の治療に特に適している。露出した表面積とは、片側で第1のチャンバにさらされ、同時に他方の側で第2のチャンバにさらされる半透膜の面積を指す。両チャンバに同時にさらされないが、例えば、固定手段で固定されているか、または他のさらされない手段で固定されている膜の任意の追加の領域は、露出した表面積の一部とは考えない。本発明の方法は、同じ透析ユニットで、または1つより多い透析ユニットで、1つより多いこのような膜を使用することも可能である。1つより多い透析ユニットが使用される場合、このような1つより多い透析ユニットは、それぞれの体外の血液の流れから、直列で、または並列で存在していてもよい。好ましくは、透析のための2つの装置が存在し、それぞれ、上に開示した露出した表面積を有する。
【0148】
したがって、本発明の方法は、二酸化炭素および他の化合物、例えば、水素カチオンおよび重炭酸イオンを移動させ、(透析膜を通って)透析液へと流すことができる。したがって、本発明の方法は、CO除去に適した液/液透析方法と呼ぶことができる。これにより、従来の方法よりも、血液からの代謝物(例えばCO)のさらに効率的な除去が可能になる。
【0149】
カルバミノヘモグロビンと、溶解した二酸化炭素は、重炭酸イオン(HCO )/Hイオン対とも平衡状態にあるが、迅速な変換は、炭酸脱水酵素を必要とする。場合により、半透膜は、炭酸脱水酵素活性を含む。このことは、血液に面する側および/または透析液に面する側で、膜を炭酸脱水酵素でコーティングすることによって達成することができる。
【0150】
適切には、あるチャンバが、半透膜の片側に提供され、すなわち、第1のチャンバが半透膜の片側に提供され、第2のチャンバが、半透膜の他の側に提供される。言い換えると、適切には、2つの区画を含み、半透膜によって分割された装置が使用される。好ましくは、第1のチャンバ、半透膜および第2のチャンバは、1つの装置に含まれる。したがって、血液は、第1のチャンバ中に存在し、透析液は、第2のチャンバ中に存在し、これらチャンバは、前記半透膜によって分離される。半透膜が炭酸脱水酵素でコーティングされていることも可能である。
【0151】
適切には、複数の第1のチャンバが存在し、それぞれが半透膜を介して、または半透膜を横切って第2にチャンバと接触している。このような複数の第1のチャンバが、キャピラリーの形態を有していてもよい。したがって、この実施形態の方法では、血液は、キャピラリーを通って流れる。
【0152】
静置システム(すなわち、血液が第1のチャンバ中に常に存在し、すなわち、このチャンバを流れる(入る、中を流れる、出ていく)ことがなく、透析液が、第2のチャンバ中の常に存在し、このチャンバを流れる(入る、中を流れる、出ていく)ことがない)に本発明の方法を使用することは不可能ではない。しかし、半静置状態または非静置状態の実施形態が好ましい。非静置状態の実施形態では、血液は、第1のチャンバを通って流れ、その結果、第1のチャンバに入り、第1のチャンバを通り、第1のチャンバを出て、透析液は、第2のチャンバを通って流れ、その結果、第2のチャンバに入り、第2のチャンバを通り、第2のチャンバを出る。これらの液体の1つのみがそれぞれのチャンバを通って流れ、他方の液体は、それぞれの他のチャンバ中に常に存在し、すなわち、それぞれの他のチャンバを通って、このそれぞれの他のチャンバを流れる(入る、中を流れる、出ていく)ことがない実施形態は、半静置状態と呼ばれる。したがって、好ましくは、本発明の方法において、血液は、第1のチャンバを通って流れ、透析液は、同時に、第2のチャンバを通って流れる。したがって、血液が血液コンパートメント(第1のチャンバ)を通って流れ、透析液が透析液コンパートメント(第2のチャンバ)を通って流れることが好ましい。
【0153】
本発明の方法によって、従来技術のような気体の流れ(スイープガス)を必要とすることなく、COを含む上に定義した1つ以上の望ましくない物質を効率的に除去することができる。特に、望ましくないCOを気相に移動させることが望ましくはなく、必要でもない。典型的には、本発明で使用される透析ユニットは、膜(例えば、気体交換膜)によって分離された血液と接触する気体(スイープガス)を有するチャンバを備えていない。
【0154】
適切には、第1のチャンバと、第2のチャンバと、半透膜とを備える装置が、透析ユニットであり、場合により、透析器に含まれる。透析ユニットは、本明細書に定義する第1のチャンバと、本明細書に定義する第2のチャンバと、半透膜と、流体(例えば、血液)が第1のチャンバ(入口および出口)に入り、また、第1のチャンバから除去するための手段と、流体(例えば、透析液)が第2のチャンバ(入口および出口)に入り、また、第2のチャンバから除去するための手段とを備えるユニットである。したがって、第1のチャンバは、入口と出口を有し、第2のチャンバは、入口と出口を有する。したがって、本発明では、透析ユニットは、生物学的流体回路の一部である生物学的流体コンパートメント(第1のチャンバ)と、透析液回路の一部である透析液コンパートメント(第2のチャンバ)と、生物学的流体コンパートメントと透析液コンパートメントを分離する半透膜とを備えている。透析ユニットが使用される場合、血液は第1のチャンバを通って流れ、透析液は第2のチャンバを通って流れる。
【0155】
または、装置は、限外濾過のための装置(限外濾過装置)である。
【0156】
好ましくは、本発明の方法の間、第2のチャンバは、気相を実質的に含まず、すなわち、液相において、実質的に透析液のみで満たされている。したがって、血液の気体接触は完全に除外されてもよく、または最小限に限定され、例えば、気泡捕捉部または同様の装置の環境下で必要であってもよい。
【0157】
本発明で使用される半透膜は、水および水に溶解した無機分子が透過可能である限り、特に限定されない。本発明の適切な半透膜は、半透膜を通って少なくとも1つの望ましくない物質を運ぶことができる。例えば、膜は、例えば血液透析のために現在使用されている従来の半透膜の中から選択することができる。しかし、現時点で透析のために使用されるものよりも大きな孔を有する膜を考慮することも考えることができる。膜を通る拡散は、場合により、濾過による対流輸送によって補助されてもよい。
【0158】
透析器は、上述の透析ユニットと、さらに、上述の第1および第2のチャンバに流体が入るため、また、上述の第1および第2のチャンバから流体を除去するためのそれぞれの手段とそれぞれ接続する配管(入口および出口)とを備えている。第1のチャンバ(入口および出口)に接続する配管は、ヒトまたは動物の血液系と接続するのに適している。透析器は、本質的に、透析膜によって分離される2つのチャンバを備えており、それぞれに、使用される流体のための配管システムが接続されている。場合により、第2のチャンバ(入口および出口)に接続する配管は、再生ユニットに接続するのに適している。後者の設定により、本明細書で以下に記載する通り、また、両方ともその全体が本明細書に参考として組み込まれるWO 03/094998 A1号およびWO 2009/071103 A1号において、透析液の再生(再循環、リサイクル)が可能になる。本発明で使用される透析器は、特に限定されず、例えば、血液透析に現在使用されている従来の透析器であってもよい。特定の実施形態では、HepaWash(登録商標)システム(実施例2)を本発明で使用する。
【0159】
さらなる方法の特徴およびパラメータ
以下のさらなる特徴およびパラメータは、透析ユニット(すなわち、第1のチャンバと、第2のチャンバと、半透膜とを備える装置)と接続して使用するのに適している。
【0160】
透析器の従来の構成要素、例えば、マノメーター、空気検出器、ヘパリンポンプなどの圧送装置、血液ポンプなどは、本発明の手段または装置の一部を形成する。
【0161】
単回使用
第2のチャンバ(出口)から出た後に、透析液を捨ててもよい。このような実施形態は、「単回使用」または「単回通過」方法と呼ばれる。単回使用の実施形態は、本質的に本方法の全持続時間の間、(第2のチャンバの入口への)新しい透析液の添加を必要とする。
【0162】
単回使用は、本発明の観点で可能である。以下に記載するリサイクルを使用する実施形態ほど簡便ではない。したがって、単回使用は、本発明の観点であまり好ましくはない。
【0163】
リサイクル
単回使用とは対照的に、透析液をリサイクルすることもできる(「リサイクル」または「複数回使用」または「複数回通過」)。この目的のために、第2のチャンバ(出口)から出た透析液(「使用された透析液」)が集められ、第2のチャンバ(入口)に戻される。アルブミンは、比較的高価である。したがって、一般的に、アルブミンを含有する透析液をリサイクルすることが望ましい。言い換えると、リサイクルによって、大きなコスト削減を得ることができる。
【0164】
リサイクルによって、4000ml/分までの高い透析液の流量も可能になる。
【0165】
典型的には、透析液のリサイクルは、透析液の洗浄または再生を必要とする。このような洗浄または再生は、第2のチャンバに再び入る前に、透析液(すなわち、使用された透析液)から望ましくない物質を除去するために、少なくとも1種類の処理工程によって達成される。前記工程は、第2のチャンバの外側で、すなわち、血液接触の部位とは異なる部位で起こる。前記少なくとも1つの処理工程は、(i)吸着体および/または(ii)透析濾過および/または(iii)酸性pHおよび/または塩基性pHにさらすこと、(iv)および/または透過性膜または半透膜(すなわち、第1のチャンバと第2のチャンバを分離する透析ユニット内に配置されるものとは異なる膜)にさらすことから選択される。前記吸着体は、通常、アルブミンとは異なる物体である。すなわち、アルブミンを含有する透析物の場合、前記吸着体は、さらなる吸着体または追加の吸着体である。特に適切な実施形態では、前記吸着体は、ナトリウムイオン(Na)および/または塩素イオン(Cl)に結合することができる。
【0166】
このような任意の1つ以上の処理工程は、直列または並列で(すなわち、透析液を分けて)行われてもよい。半透膜を通る分子の交換によって血液をさらした後、すなわち、第2のチャンバから出た後、透析液を処理または精製することを予期することができる。透析液を処理または精製するのに適した手段は、1つ以上の吸着体ユニット、1つ以上のpH変更ユニットおよび/または1つ以上の透析濾過ユニットを含む。このようなユニットは、相互に排他的ではなく、直列または並列で存在していてもよい。特に、本発明の透析液のリサイクルは、透析液のpHが、第1のチャンバに(再び)導入するときに、本明細書に定義する本発明の観点で望ましい特性と一致するように、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度および/またはpHの調節も必要とする場合があり、したがって、これらを伴う場合がある。(再び)導入するとは、リサイクルの後の導入を指す。
【0167】
流量
血液は、第1のチャンバを通って流れ、透析液は、第2のチャンバを通って流れる。血液および透析液の流量または速度は、一定であるか、または時間経過に伴って変動(変化)するように選択されてもよい。
【0168】
一般的に、体外の血液回路中の血液の流量は、50ml/分~7000ml/分の範囲内で調節可能である。しかし、典型的には、本発明の方法において、血液の流量は、約2l/分以下、例えば、約1l/分以下、約0.5l/分以下であり、いずれにせよ、少なくとも50ml/分である。血液の流量は、典型的には、制御され、調整され、処理条件および透析液の流量になるように調節されてもよい。したがって、本発明によって、別の換気装置を用いることなく、最大の中程度の血液流量の100%まで肺を補助することができる。一方、中程度の流れの処理である従来の体外の肺補助装置は、肺を等しく十分に補助することができない。このことは、本発明の肺補助機能が、中程度の流れ条件で十分に良好であることを意味し、操作者にとって取り扱いが容易であり、患者にとって危険が少ないことを意味する。さらに、追加の肺保護換気(LPV)は、他の中程度の流れの装置に一般的なものであるが、なくてもよい。
【0169】
本発明の方法において、透析液の流量は、10ml/分~11000ml/分(すなわち、0.1667ml/h~183.333ml/h)の範囲であってもよい。より典型的には、透析液の流量は、遅い透析液の流量(1~2l/h)および通常の透析液の流量(25~60l/h)/透析器、および中間の流量(2l/hより大きく、25l/h未満)から選択される。したがって、所望なように流量を適合させることができる。
【0170】
一般的に、血液の流量が透析液の流量より遅いことが好ましい。それによって、効率的な血液の処理を達成することができる。
【0171】
透析ユニットでは、すなわち、第1のチャンバと、第2のチャンバと、半透膜とを備える装置では、血液および透析液は、従来は対向流で運ばれているが、並流で運ばれてもよい。しかし、一般的に、血液および透析液を、同じ方向または対向流で装置を通って流してもよいことを想定可能である。
【0172】
透析液からのCO の除去
本発明の方法の好ましい実施形態では、二酸化炭素および/または炭酸および/またはその解離生成物(H/HCO )を透析液から除去する可能性が予期される(「除去」)。これは、理想的には、別個の工程で予期され、すなわち、透析液が第2のチャンバ(出口)を出た後の工程で予期される。これらの目的のための手段は、適切なものであれば、特に限定されない。この処理のために、二酸化炭素および/または炭酸および/またはその解離生成物(H/HCO )は、脱気(減圧、加熱または冷却、超音波、膜脱気、不活性気体による置換、還元剤の添加、凍結-ポンプ-解凍サイクル、pH低下、遠心分離力、または脱気添加剤の添加)、濾過、吸着または化学結合によって透析液から適切に除去される。例えば、上述の除去は、脱気(減圧、加熱または冷却、超音波、膜脱気、不活性気体による置換、還元剤の添加、凍結-ポンプ-解凍サイクル、pH低下、遠心分離力、または脱気添加剤の添加)、濾過、吸着または化学結合および/またはこれらの測定の組み合わせによって達成することができる。理想的には、第2のチャンバから透析液が出た後に、二酸化炭素および/または炭酸および/または炭酸水素イオンの濃度を測定し、および/または透析液中のpHを測定することが可能である。上述の二酸化炭素および/または炭酸および/またはその解離生成物の除去は、以下に記載する通り、透析液がリサイクルされる実施形態に特に適している。
【0173】
特に適切な実施形態では、本発明の方法は、二酸化炭素を生成し、二酸化炭素透過性膜を通り、透析液から二酸化炭素を除去するために、リサイクルが透析液を酸性pHへと酸性化することを含むように行われる。適切には、膜は、気体透過性であり、二酸化炭素は、気相で除去される。
【0174】
酸/塩基処理
アルブミンは市販されているが、比較的高価である。したがって、アルブミン系の透析液は、高い処理コストが発生することがある。従来技術では、アルブミン含有透析液のリサイクルは、肝臓透析の場合について、例えば、WO 03/094998 A1号に記載されており、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。この特許出願に記載される通り、アルブミンを、結合した物質(例えば毒素)に対する担体タンパク質(例えばアルブミン)の結合親和性が、特定の測定値(例えば、pHの変化)によって影響を受け得るという原理に基づき、リサイクルすることができる。アルブミンを含む透析液のpHを選択的に下げ、その後に上げる(またはその逆)ことによって、透析(拡散)または濾過(対流)によって、または両方法の組み合わせ(本明細書で以下、透析濾過と呼ばれる)によって、結合した物質を効率的に除去することができる。一般的に、透析濾過は、構成要素(塩、小さなタンパク質、溶媒などの透過性分子)が透過可能なフィルターを用いることによって、分子の大きさに基づく溶液の上述の構成要素の除去または分離を伴う希釈方法である。このような構成要素の透析濾過による除去によって、その後のアルブミンのリサイクルが可能になる。従来技術に記載される通り、2つの並列する透析液の流れ(すなわち、並列する酸性流路とアルカリ性流路)を有する透析再生ユニットで、アルブミンを効率的に再生することができる(WO 09/071103 A1号)。WO 09/071103 A1号に記載される方法および装置(例えば、透析液再生ユニット、透析ユニット)も、本発明の方法でアルブミンを含有する透析液をリサイクルするのに適している。したがって、WO 09/071103 A1号は、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。
【0175】
変更したpHで透析流体を処理する(洗浄する、再生する)工程では、例えばアルブミンに結合した毒素を除去することができる。前記毒素を効率的に除去するために、本発明の実施形態の透析液再生ユニットは、並列に流体接続する2つの流路を備えている。再生される透析液は、2つの流路に分けられ、この2つの流路を通って運ばれる。第1の流路では、酸性流体が(酸性流体供給ユニットから)透析液に添加される。酸性溶液に可溶性の毒素の場合、溶液中の遊離毒素の濃度は高くなる。酸性流体供給ユニットの下流に配置される解毒ユニットでは、遊離毒素は、第1の流路に流れる酸性化された透析液から除去される。透析液に酸性流体を添加することによって、酸可溶性の毒素の除去が容易になる。さらに、pHを下げることによって、アルカリ可溶性の毒素は、例えば、沈殿し、それによって、透析液の流体から除去されてもよい。第1の流路に平行に延びる第2の流路では、アルカリ性流体が(アルカリ性流体供給ユニットから)第2の流路に流れる透析液に添加される。pHの上昇に起因して、遊離アルカリ可溶性の毒素の濃度が上がり、したがって、アルカリ可溶性の毒素の除去が容易になる。これらの毒素は、さらなる解毒ユニットによって除去され、さらなる解毒ユニットは、アルカリ性流体供給ユニットの下流に配置される。さらなる解毒ユニットは、第2の流路に流れるアルカリ性化された透析液から毒素を除去するように適合されている。さらに、pHを上げることによって、酸可溶性の毒素は、例えば、沈殿し、それによって透析液の流体から除去されてもよい。酸性流路とアルカリ性流路を並列して与えることによって、酸可溶性の毒素とアルカリ可溶性の毒素が、両方とも効率的に透析液から除去されるだろう。したがって、本発明の実施形態の透析液再生ユニットは、タンパク質に結合する毒素を効率的に除去することができる。「毒素」との用語は、本明細書で非常に広く理解され、通常は直接的には毒素と呼ばれないもの(例えば、薬物、電解質、H、ホルモン、脂肪、ビタミン、気体、ビリルビンなどの代謝変性生成物)であっても、全てのタンパク質に結合した物質を包含する。酸処理ユニットと塩基処理ユニット(合わせて「pH処理ユニット」(または解毒ユニット))の下流で、第1の流路から再生された酸性化された透析液が、第2の流路から再生されたアルカリ性化された透析液と合わせられてもよく、ここで、第1の流路からの酸性化された透析流体と、第2の流路からのアルカリ性化された透析流体は、互いに少なくとも部分的に中和されてもよい。したがって、第1の流路からの酸性化された透析液の流れと、第2の流路からのアルカリ性化された透析液の流れとを合わせることによって、生理学的なpH値での再生された透析液の流れが得られるだろう。
【0176】
好ましい実施形態によれば、第1の供給ユニットによって添加される酸性流体は、塩酸、硫酸、酢酸のうち少なくとも1つを含む。好ましい実施形態では、第1の供給ユニットは、第1の流路中の透析液のpHを1~7、好ましくは2.5~5.5のpHに調節するように適合される。
【0177】
好ましくは、第2の供給ユニットによって添加されるアルカリ性流体は、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液のうち少なくとも1つを含む。好ましい実施形態では、第2の供給ユニットは、第2の流路中の透析液のpHを7~13、好ましくは8~13、より好ましくは8~11の範囲のpHに調節するように適合される。
【0178】
さらに好ましくは、酸性流体とアルカリ性流体は、中和中に「生理学的な」中和生成物が作られるように選択される。例えば、特定の濃度の生成した中和生成物は、それぞれの生物学的流体に何らかの形ですでに存在し得る。例えば、塩酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、酸性化された流れとアルカリ性化された流れとを中和する間に、特定の濃度のNaClが生成する。NaClは、典型的には、例えば、血液または血清などの生物学的流体中にも存在する。
【0179】
好ましい実施形態によれば、第1の流路中の透析液のpHを下げることによって、遊離毒素および遊離担体物質に対する毒素-担体複合体の濃度比が、透析液中の毒素の少なくとも一部について、遊離毒素が増える方にシフトし、それによって、透析液中の遊離毒素の濃度が高くなる。第1の流路中の透析液のpHを下げることによって、酸可溶性の毒素(例えば、マグネシウムまたは銅)の溶解性が上がり、一方、担体物質に対する酸可溶性の毒素の結合親和性が低下する。したがって、溶液中の遊離毒素の濃度が上がる。
【0180】
さらに好ましくは、解毒ユニットは、前記遊離毒素を少なくとも部分的に除去するために適合される。遊離毒素の濃度が大きくなることに起因して、前記毒素は、速い速度で除去されるだろう。
【0181】
さらに、第1の流路中の透析液のpH値を下げることによって、アルカリ可溶性の毒素の一部が例えば沈殿し、それによって透析液の流体から除去されてもよい。
【0182】
好ましい実施形態では、第2の流路中の透析液のpHを上げることによって、遊離毒素および遊離担体物質に対する毒素-担体複合体の濃度比が、透析液中の毒素の少なくとも一部について、遊離毒素が増える方にシフトし、それによって、透析液中の遊離毒素の濃度が高くなる。第2の流路中の透析液のpHを上げることによって、アルカリ可溶性の物質(例えば、ビリルビンなど)の溶解性が上がり、一方、担体物質に対するアルカリ可溶性の毒素の結合親和性が低下する。したがって、溶液中の遊離毒素の濃度が上がる。
【0183】
好ましくは、さらなる解毒ユニットは、前記遊離毒素を少なくとも部分的に除去するために適合される。遊離毒素の濃度が大きくなることに起因して、前記毒素は、速い速度で除去されるだろう。
【0184】
さらに、第2の流路中の透析液のpH値を上げることによって、酸可溶性の毒素の一部が例えば沈殿し、それによって透析液の流体から除去されてもよい。
【0185】
さらに好ましい実施形態によれば、透析液の温度を上げることによって、遊離毒素および遊離担体物質に対する毒素-担体複合体の濃度比が、透析液中の毒素の少なくとも一部について、遊離毒素が増える方にシフトし、それによって、透析液中の遊離毒素の濃度が高くなる。したがって、遊離毒素は、解毒ユニットによって、速い速度で除去されるだろう。
【0186】
上の観点で、さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載する透析液を再生する(本明細書では「リサイクルする」とも呼ぶ)ための方法も提供し、この方法は、
(a)透析液の流れを第1の流れと第2の流れに分離する工程と、
(b)透析液の第1の流れに酸性流体を添加する工程と、
(c)透析液の酸性化された第1の流れを濾過し、透析し、沈殿させるか、または透析濾過することによって毒素を除去する工程と、
(d)透析液の第2の流れにアルカリ性流体を添加する工程と、
(e)透析液のアルカリ性化された第2の流れを濾過し、透析し、沈殿させるか、または透析濾過することによって毒素を除去する工程と、
(f)透析液の第1の流れと第2の流れを合わせる工程とを含む。
【0187】
これらのさらなる工程は、上にさらに詳細に記載され、特に、「リサイクル」および「酸/塩基処理」と称する段落でさらに詳細に記載されている。したがって、その好ましい実施形態は、上に記載され、特に、「リサイクル」および「酸/塩基処理」と称する段落で記載されている。これに加え、上述の工程(a)~(f)およびその好ましい実施形態は、WO 2009/071103 A1号にも記載されている。
【0188】
さらに、酸性化された透析液の流れが、第1の解毒ユニットおよび第2の解毒ユニットに交互に供給され、一方、アルカリ性化された透析液の流れが、第2の解毒ユニットおよび第1の解毒ユニットに交互に供給されるように、本発明の方法が、さらに、複数の切替弁を周期的に切り替えることを含むことも好ましい。詳細な記載およびその好ましい実施形態は、WO 2009/071103 A1号に与えられている。
【0189】
この方法が、さらに、例えば、上に記載したように、および/またはWO 2009/071103 A1号において、
-酸性化された透析物の温度を制御することと、
-酸性化に起因した沈殿によって毒素を除去することと、
-アルカリ性化された透析物の温度を制御することと、
-アルカリ性化に起因した沈殿によって毒素を除去することのうち、1つ以上を含むことも好ましい。
【0190】
好ましくは、本発明の方法は、血液および/または透析液の少なくとも1つのパラメータを測定する工程をさらに含み、このパラメータは、本明細書に記載する通り、pH、二酸化炭素の分圧、重炭酸イオン(HCO )の濃度、緩衝能およびデオキシヘモグロビン(HHb)の濃度または飽和度からなる群から選択される。
【0191】
本発明の方法は、さらに、前記液体のpHをpH8.0~pH11.0、好ましくはpH8.0~pH9.0の範囲のpHに調節する工程を含むことも好ましく、好ましくは、工程(f)の後に行われる。
【0192】
アルブミンを含有する透析液をリサイクルするさらなる態様は、WO 2009/071103 A1号に記載され、図面の説明を含め、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。WO 2009/071103 A1号に記載される知見に加え、アルブミンは、本発明の透析液の優れた緩衝能にも寄与する。
【0193】
吸着体の処理/吸着
電解質(例えば、カチオン、例えば、カリウムカチオン、ナトリウムカチオンおよびカルシウムカチオン、またはアニオン、例えば、塩素アニオン、炭酸アニオンまたは重炭酸アニオン)などの過剰な物質または望ましくない物質を抽出または除去するために、吸着体を透析液と接触させてもよい。一般的に、吸着体は、患者の血液中に存在する少なくとも1つの望ましくない物質(例えば、尿素、尿酸、電解質、ナトリウムカチオン、カルシウムカチオンまたはカリウムカチオン、塩素アニオン)を吸着することができる。典型的には、吸着体は、吸着体ユニット中に、すなわち、透析液がその中を通過する静置ユニット中に存在する。透析液から除去されるべき物質の少なくとも1つに結合する能力を有する限り、吸着体の種類または組成または材料は特に限定されない。異なる種類の吸着体が、当該技術分野で知られている。吸着体の適切な選択によって、本方法は、実際の必要性、例えば、個々の患者の必要性に合うように調節することができる。吸着体は、特に、リサイクルする実施形態、すなわち、透析液をリサイクルすることを意図しているときに有用である。
【0194】
透析液の再生の態様
過剰な物質または望ましくない物質は、膜(すなわち、透過性膜または半透膜)を通り、透析液(使用された透析液)から除去することができる。例えば、透析液に溶解した気体および/または溶質/イオンは、このような膜処理または膜との接触によって除去することができる。好ましい実施形態では、二酸化炭素は、気体として、または液体に溶解している状態で除去される。二酸化炭素を除去する特に適切な1つの様式は、透析液を、二酸化炭素を透過可能な膜と接触させることからなる。透析液は、特定の圧力pを有し、前記膜の他の側での流体(液体または気体)の圧力pはこれより低く、すなわち、p<pである。使用された透析液からCOを除去する目的は、COの分圧が、前記膜の他の側での流体中で低い場合に、達成することもでき、またはこれに代えて達成することもできる。同様に、この膜の他の側での流体(液体)中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度が、使用された透析液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度より低ければ、使用された透析液を、重炭酸イオンを透過可能な膜と接触させることによって、濃度勾配に沿って、炭酸水素イオンを除去することができる。いずれにせよ、使用される膜は、アルブミンを透過可能ではない。このことは、適切な孔径を有する膜を選択することによって実現することができる。このような膜処理は、特に、リサイクルする実施形態で有用である。
【0195】
透析ユニット
好ましくは、透析のための2つの装置、または2つの透析ユニットが並列で使用される。これにより、露出した膜の表面積を大きくすることができ、したがって、半透膜を通る移動によって1つ以上の望ましくない物質のさらに効率的な交換が可能になる。
【0196】
医学用途
上述の通り、医学的な目的のために本発明の方法を探求することが可能であり、望ましい。手術または治療によるヒトまたは動物の体の処理に向けられた活動、特に、生きている被験体の状態を予防または改善することを目的とする活動、すなわち、医学的な目的に役立つ活動は、医学的な方法または医学的な使用と呼ばれてもよい。一般的に、方法およびプロセスという用語は、本明細書で相互に置き換え可能に用いられる。しかし、時に、方法という用語は、特に、医学的な方法を指すために使用される。本発明の医学的な方法は、血液から望ましくない物質を除去するための上述の方法の任意の態様および全ての態様を含んでいてもよい。特に、本発明は、このような治療を必要とする患者由来の血液を体外で処理する方法を提供する。体外の血液は、本明細書に記載する透析方法に供され、すなわち、一般的に言えば、半透膜によって透析液にさらされる。この目的のために、血液が被験体から除去され、本発明の方法に供され、適切には、被験体に戻される。一般的に、このような方法では、患者から静脈血が除去され、本発明の方法の第1のチャンバに入る。これにより、本発明に記載する任意の態様および全ての態様において、本発明の方法で血液を処理することができる。その後、血液(「処理された血液」)は、第1のチャンバを出て、患者に戻すことができる。処理された血液は、最も典型的には、患者の静脈に入るが、これに代えて、動脈に戻すこともできる。しかし、動脈に戻すのは、適切には、血液に酸素化も行われる方法に限定される。処理した患者の血液を体内に戻すまでに、体から患者の血液を抜くことの方法から拡張されるこれら全ての態様は、本明細書に記載する全ての適応症のための医学的な方法に共通する。
【0197】
本発明における知見によって、治療によるヒトまたは動物の体の処理における探求が可能になる(一般的に、医学的な使用と呼ばれる)。具体的には、それぞれの患者の実際の必要性に合うように、本発明の医学的な使用をカスタマイズすることが可能である。実際に、気体交換は、肺を有する有機体に限定されない。気体交換は、えらを有する有機体(例えば、魚)でも起こる。本発明の医学的な使用は、肺の機能の補助に、すなわち、肺を有する有機体(例えば、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト)における特定の状態を治療または予防することに集中している。したがって、えら、および/またはえらを有する有機体は、本明細書で詳細には記載されない。
【0198】
好ましくは、この医学的な方法では、透析液は、血液、すなわち、透析ユニットで透析される種(例えば、ヒト)の血液のモル浸透圧濃度と実質的に同じモル浸透圧濃度であることを特徴とする。
【0199】
場合により、本発明の方法は、典型的には、体外での血液処理に適しており、侵襲性の工程を含まず(または少なくとも必ずしも含まず)、および/または体に対する実質的な物理的介入を表す工程を含まず、および/または専門的な医学的専門技術を実行することを必要とする工程を含まず、および/または専門的な注意および技術を用いて実行してもかなりの健康上のリスクを伴う工程を含まない。好ましくは、本発明の方法は、体に対する実質的な物理的介入を表し、専門的な医学的専門技術を実行することを必要とし、必要な専門的な注意および技術を用いて実行してもかなりの健康上のリスクを伴う侵襲性の工程を含まない。例えば、本発明の方法は、場合により、透析システムと、ヒトまたは動物の体とを接続および/または切断する侵襲性の工程を含まない。別の例では、体外の装置を、生きている被験体の静脈血に接触させること、したがって、それぞれの医学的な方法は、かなりの健康上のリスクを伴わない。
【0200】
本発明の医学的な方法は、呼吸性アシドーシス、代謝性アシドーシス、肺不全、腎不全、多臓器不全、およびこれら任意の1つ以上の組み合わせから選択される少なくとも1つの状態を治療するのに有用であるか、または適切である。この方法は、治療される状態、または特に治療される個人(個別の医薬)に合うように構成されてもよい。以下の章は、これらの状態の治療について記載するが、それぞれの予防方法も、本発明に等しく包含される。
【0201】
これら全ての治療方法は、被験体から血液(好ましくは静脈血)を除去することによって、体外の血液を得ることと、本発明の方法の観点で記載する通り、体外の血液をさらし、半透膜によって、本明細書に記載する透析液に接触させることによって、処理された血液を得ることと、処理された血液を同じ被験体に、好ましくは、被験体の静脈に、それほど好ましくない実施形態では、被験体の動脈に戻すこととを含む。特定の構成を以下に記載する。
【0202】
呼吸性アシドーシスの治療
本発明の方法は、急性または慢性の呼吸性アシドーシスを患う患者を治療するのに適している。患者群としては、低換気、肺腫瘍、喘息、筋ジストロフィーまたは肺気腫、特に末期肺気腫を患う被験体が挙げられる。呼吸性アシドーシスを患う被験体を治療するために、透析液は、第2のチャンバに入る段階で、適切には、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度を0~40mmol/lの範囲で含有する。実際に、呼吸性アシドーシスのために、好ましい(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度は、可能な限り低く、すなわち、0mmol/l、または0mmol/lより大きい。部分範囲は、1~35mmol/l、2~30mmol/l、3~25mmol/l、4~20mmol/l、5~15mmol/l、例えば、10mmol/lを含む。
【0203】
一般的に、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度は、上の範囲または部分範囲の下限だと、望ましくない物質、例えば重炭酸イオン、COおよび炭酸イオンを血液から効率的に除去し、または抜き取ることができる。
【0204】
透析液中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度が低い(例えば、0mmol/lまたは0~10mmol/l)場合、十分な量の透析液中の他の緩衝剤、典型的には、アルブミンおよび/またはTrisによって、緩衝化が適切に達成される。特に、透析液に炭酸イオン/重炭酸イオンが添加されない(すなわち、透析液中の炭酸イオン/重炭酸イオン濃度が0mmol/lまたはほぼ0mmol/lである)場合、透析液中にTrisとアルブミンの両方が存在することが好ましい。これらの緩衝剤の濃度は、その緩衝能が血漿の緩衝能を超えるように選択される。これにより、血液pHの効率的な調節が可能になる。
【0205】
一連の治療にわたって、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度を上げることも可能である。これにより、個々の必要性(個別の医薬)に治療を適合させることができる。
【0206】
半透膜を介してこのような透析液にさらされた後、血液は、典型的には、pHが7.40以上の範囲、例えば、7.40より高いが8.0より低く、例えば、pH7.5~7.9、またはpH7.6~7.8、またはpH7.65~7.75、例えば、7.7である。このような血液が、被験体に再び導入される。
【0207】
透析液は、捨てられるか、または好ましくは、リサイクルされる。後者のリサイクルされる場合には、透析液を膜処理に供することが好ましい。膜処理によって、二酸化炭素および/または重炭酸イオンおよび/または炭酸イオンおよび/または炭酸が除去されてもよく、または部分的に除去されてもよい。これにより、透析液のリサイクルが可能になる。二酸化炭素を除去するために、膜処理は、好ましくは、低いpHで、すなわち、透析物を酸性化した後に行われる。
【0208】
呼吸性アシドーシスを患う被験体(すなわち、肺での非効率的な除去に起因して、体液中に過剰な溶解したCO)では、腎臓は、多量の重炭酸イオンの生成によって、ある程度(例えば3週間)遅れて反応することが多いことが知られている。本発明によって、疾患の全経過の間、すなわち、主に体液から過剰なCOの除去が必要な初期段階から、体液から過剰な重炭酸イオンの(さらなる)除去が必要な末期段階まで、呼吸性アシドーシスを患う被験体を治療することができる。さらに、体液からの過剰なHイオンの除去は、この疾患の全ての段階で可能である。一連の治療の間、医師は、本明細書に与えられる助言に基づき、透析液の組成およびpHを変えることができる。
【0209】
代謝性アシドーシスの治療
正常な肺機能を有し、急性または慢性の代謝性アシドーシスを患う被験体を治療するために、透析液は、第2のチャンバに入る段階で、適切には、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンを20~40mmol/l、好ましくは25~35mmol/lの範囲、より好ましくは、実際には、または約30mmol/lの濃度で含有する。
【0210】
急性または慢性の代謝性アシドーシスを患っているが、肺機能も不完全である被験体を治療するために、透析液は、好ましくは、添加された炭酸イオン/重炭酸イオンを含有しない。この種の患者に適した透析液は、適切には、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度が0~5mmol/lの範囲(好ましくは0mmol/l)であり、アルブミンおよびTrisが緩衝能に寄与し、両方の濃度範囲は上に定義される。例えば、透析液中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度が、患者の血液中の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度と同じである場合、正味の重炭酸イオンの移動は予想されないだろう。
【0211】
高いpH、例えば、pH8.0~11.0、好ましくはpH9.0~10.0の透析液が望ましい。透析液の緩衝能は、血漿の緩衝能よりも高い。透析液の高いpHと、透析液の高い緩衝能を組み合わせると、血液pHを効率的に調節し、血液から重炭酸イオン、COおよび炭酸イオンといった物質の正味の流れ(添加または除去)を最小限にすることできる。特に、この流れを、標準的な透析方法と比較して増やすことができる。
【0212】
このような透析液を、半透膜を通してさらした後、血液は、典型的には、血液pHをこの範囲を包含する範囲または値、すなわち、7.0~7.8、7.2~7.6または7.3~7.5、7.35~7.45、最も好ましくは正確に7.40または約7.40に調節するために望ましい範囲のpHを有する。
【0213】
本発明は、呼吸性アシドーシスと代謝性アシドーシスの組み合わせを特徴とする状態の治療も可能にする。これにより、透析液、特に、透析液中のpHおよび(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオン濃度を、個々の必要性に合わせて調節することができるため、このことが可能である。
【0214】
肺不全の治療
本発明の方法は、急性または慢性の呼吸不全(肺不全)を患う患者を治療するのに適している。肺不全を患っているが、典型的には、他の臓器不全(例えば腎不全または肝不全)を患っていない被験体は、呼吸性アシドーシスが進行するか、または呼吸性アシドーシスが進行するリスクを有する。これは、二酸化炭素の除去が、健康な被験体ほど効率的には起こらないか、または全く起こらないためである。この患者群としては、喘息、低換気、肺疾患、例えば、肺癌、喫煙および他の空気中の毒素または粒子の曝露と関連する合併症、または筋ジストロフィー、または肺気腫、特に末期肺気腫を患う患者が挙げられる。このような肺疾患を患う多くの患者は、完全に機能する腎臓(全腎機能)を有している。本発明は、肺補助を提供する。このような状態を患う被験体は、呼吸性アシドーシスの治療について記載された本発明の方法によって、適切に治療される。
【0215】
臓器不全の組み合わせの治療:肺および肝臓および/または腎臓の組み合わせの補助
多くの場合、肺不全を患う被験体は、肝機能不全および/または腎機能不全も患っている。本発明の方法は、このような被験体を治療するのにも適しており、したがって、これらの臓器を補助する。
【0216】
肺不全/腎不全の組み合わせの治療
本発明は、特に、急性または慢性の腎臓(腎)機能不全、または慢性腎不全(CRF)を患う被験体を治療することもできる。一般的に、腎臓は、血漿のpHを制御することによって、健康な個人の酸-塩基ホメオスタシスを維持するのに重要な役割をはたす。主な機能としては、尿からの重炭酸イオンの再吸収、水素カチオンの尿への排泄が挙げられる。これらの腎臓の機能は、酸-塩基バランスを維持するのに重要であり、血液pHの制御にも寄与する。腎臓の適切な機能は、腎不全を患う患者では損なわれる。この患者群としては、腎臓癌などの腎疾患を患う患者、および中毒および特定の医薬への曝露に関連する合併症を患う患者が挙げられる。
【0217】
腎代替療法(RRT)は、このような被験体を治療するための現在の集中治療環境/集中治療室(ICU)で広く用いられている。集中治療室にいる被験体(ICU被験体)では、既に感染しやすい個人において、術後状態で、また、介入研究の後に、多臓器機能不全症候群(MODS、特に「多臓器不全」とも呼ばれる)として急性腎不全(ARF)が頻繁に起こる。一般的に、ICU被験体は、連続的な腎代替療法(CRRT)、肝臓透析および機械換気などの異なる臓器補助を必要とする。このような被験体において、従来から腎不全、肝不全および肺不全を治療するための少なくとも3つの異なる装置を必要とする当該技術分野の技術常識(または、肝不全を治療するための装置に加え、腎不全/肺不全を治療するための3つのチャンバを有する装置PrismaLungTM、DE 10 2009 008601 A1号;WO 2010/091867 A1号;NovaLung)とは対照的に、本発明は、顕著な向上を与える。
【0218】
条件(第2のチャンバに入る透析液の(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度、第1のチャンバから出る血液のpHなど)は、呼吸性アシドーシスまたは代謝性アシドーシスのいずれかについて上に記載した条件の中から、好ましくは、代謝性アシドーシスについて上に記載した条件の中から適切に選択される。さらに、一般的に上に記載される吸着体を含むことが好ましい。吸着体は、患者の血液中に存在する少なくとも1つの望ましくない物質に結合するか、またはこれを吸着するのに適している。液体または溶解した物質(尿素、尿酸、電解質、ナトリウムカチオン、カルシウムカチオンまたはカリウムカチオン、塩素アニオン)を抽出するために。例えば、腎不全を患う患者では、典型的には、腎臓が、血液中のナトリウムカチオン、カルシウムカチオンまたはカリウムカチオンおよび/または塩素アニオンの生理学的な濃度を維持することができない。これらの不足は、本発明によって対処される。
【0219】
腎不全/肝不全/肺不全の組み合わせの治療
本発明は、肺不全および/または腎不全に加え、急性または慢性の肝不全を患う被験体を治療することもできる。本発明の典型的な治療は、体外での毒素除去を伴う。このような被験体を治療するために、WO 2009/071103 A1号および/またはWO 03/094998 A1号に記載される方法、またはHepa Wash社(ミュンヘン、ドイツ)から利用可能な方法を、透析液が本発明またはその任意の実施形態のフレームワークの透析液に適合するように改変することができる。このような方法では、アルブミンは、二重の機能または相乗的な機能を有する。アルブミンは、毒素に結合する(肝不全に対処する)だけではなく、炭酸イオンと共に透析液も緩衝化する(肺不全に対処する)。このことは、WO 2009/071103 A1号および/またはWO 03/094998 A1号に記載される機能性に加え、肺補助を行い、および/または血液pHを生理学的なレベルまたは他の望ましいレベルに修正することができることを意味する。この治療は、単一の装置において、二酸化炭素の除去と血液の酸素化を含め、腎臓透析、肝臓透析および肺補助を組み合わせることができる。
【0220】
腎不全を治療するために上に記載した改変または構成(例えば、吸着体の存在)も、この実施形態で適切に使用される。
【0221】
一連の治療にわたって、本発明の範囲内(0~40mmol/l)で、(合わせた)炭酸イオン/重炭酸イオンの濃度を徐々に上げることも可能である。
【0222】
上の観点で、本発明は、さらなる態様では、例えば、上述の通り、ヒトまたは動物被験体の医学的な治療に使用するための、
-pHがpH8.0~pH11.0の範囲であり、
-少なくとも1種類の緩衝剤を含み、緩衝剤は、少なくとも1つのpKa値が7.0~11.0の範囲であり、
-Hイオンに対する緩衝能が12mmol/l以上であることを特徴とする透析液も提供する。一般的に、本発明の使用のための透析液の好ましい実施形態は、本明細書に記載する透析液の好ましい実施形態および/または上述の医学的な使用の好ましい実施形態に対応する。
【0223】
例えば、本明細書に記載する本発明の方法を含む使用のための透析液が好ましい。さらに、使用のための透析液であって、この使用が、
-ヒトまたは動物被験体の静脈または動脈から血液を抜く工程と、
-工程(i)の血液を本明細書に記載する本発明の方法に供する工程と、
-前記被験体の動脈または静脈に、好ましくは静脈に、工程(ii)の血液を再び導入する工程とを含む、透析液が好ましい。
【0224】
本発明の使用のための透析液が、上述の呼吸性アシドーシス、代謝性アシドーシス、肺不全、肝不全および腎不全から選択される1つ以上の疾患を予防および/または治療するために使用されることも好ましい。
【0225】
さらに、本発明の使用のための透析液に含まれる緩衝剤は、好ましくは、上述のCOを生成しない緩衝剤である。より好ましくは、COを生成しない緩衝剤は、アルブミン、THAM、Trisおよび上述のリン酸塩緩衝液から選択される。
【0226】
最も好ましくは、本発明の使用のための透析液は、アルブミンを含み、好ましくは、上に記載される通り、ヒト血清アルブミンおよび/またはウシ血清アルブミンから選択される。
【0227】
本発明の使用のための透析液は、10mmol未満の炭酸イオン/重炭酸イオンを含むことも好ましく、より好ましくは、本発明の使用のための透析液は、上に記載される通り、炭酸イオン/重炭酸イオンを含まない。さらにより好ましくは、上に記載される通り、本発明の使用のための透析液は、COを生成する緩衝剤を含まない。
【0228】
本発明の使用のための透析液は、上に記載される通り、pHがpH8.0~pH11.0、好ましくはpH8.0~pH9.0の範囲であり、(i)10~40mmol/lの炭酸イオン/重炭酸イオンと、(ii)10~60g/lのアルブミンとを含むことも好ましい。これに代えて、またはこれに加えて、本発明の使用のための透析液は、上に記載される通り、5~20mmol/lのTrisと、10~60g/lのアルブミンとを含み、透析液のpHが、pH8.0~pH11.0であることも好ましい。
【0229】
好ましくは、本発明の使用のための透析液は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris、THAM)、炭酸イオン/重炭酸イオン、および水溶性タンパク質、好ましくはアルブミンからなる群から選択される1種類以上の緩衝剤を含む。
【0230】
好ましくは、本発明の使用のための透析液は、上述の通り、1.7mmol/lより多いカルシウム(Ca2+)イオン、好ましくは2~4mmol/lのカルシウム(Ca2+)イオン、より好ましくは2.4~2.6mmol/lのカルシウムイオンを含む。
【実施例
【0231】
以下の実施例は、例示の目的のために与えられる。これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
【0232】
実施例1:1種類以上の緩衝剤を含む溶液の緩衝能
1種類以上の緩衝剤を含む種々の水溶液の緩衝能を実験的に試験した。これらの水溶液は、例示的な液体である。例示的な液体1および2は、透析液(緩衝剤を含まない透析物)を指す。第1表の例示的な液体3~8は、透析液(種々の緩衝剤の例示的な液体を含む透析物)を指す。第1表の透析液9および10は、従来技術に記載される透析液(透析物)を指す。例示的な液体11~14は、Tris溶液のみを指す。例示的な透析液(透析物5~8)の緩衝能は、本発明の透析液(透析物)に対応する。
【0233】
1A:液体の調製
これらの例示的な液体を、一般的に、以下のように調製した。
【0234】
本発明の例示的な液体と、第1表に概説した例示的な液体を調製するために、純水(浸透品質)を基剤として使用し、本発明の1種類以上の緩衝剤(アルブミンおよび/または重炭酸ナトリウム(「ソーダ」)および/またはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris/THAM)を添加した。特に、アルブミン(以下に示す濃度で)および/または重炭酸イオン(以下に示す濃度で)および/またはTris(以下に示す濃度で)を水に溶解した。その後に、または同時に、pHを以下に示す値に調節した。必要な場合、アルブミンの添加とpH調節は、同時に行うことができる。ある場合に、アルブミンは、以下の表に示される所望なpH値またはその値付近でさらに迅速に溶解する。全ての緩衝剤が溶解した後に、任意の速度でpHをチェックし、必要な場合には、調節する。pH調節は、典型的には、酸性濃縮物(HCl水溶液)を添加することによって、および/または塩基性濃縮物(NaOH水溶液)を添加することによって行われる。
【0235】
比較のために、緩衝剤(アルブミン、炭酸イオン/重炭酸イオン、Tris)を添加しない溶液を調製した。これらの溶液のpHは、以下の表に示されるように、それぞれ7.45および9に調節された。
【0236】
比較のために、従来技術に記載される範囲内で、2種類の酢酸イオンを含有し、さらに重炭酸ナトリウムを含有する例示的な液体(9および10)を調製した。詳細については、以下の表を参照。
【0237】
さらに、4種類のTrisを含有する例示的な液体を調製した。この目的のために、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン)の2種類の溶液を調製した。
-Tris 38mmol/l:溶解後の初期pH:pH10.45。
-Tris 20mmol/l:溶解後の初期pH:pH10.14。
【0238】
以下の表に示す通り、以下の表に示されるpH値(それぞれpH7.45またはpH9.0)に達するまで、HCl(0.1Mまたは0.2M)を添加した。それによって、Trisを含有する例示的な液体を調製した。
【0239】
一般的に、例示的な液体を調製したとき、炭酸イオン(例えば、炭酸ナトリウム)を添加しなかった。しかし、pHの関数として、炭酸イオンと重炭酸イオンが動的平衡状態で存在することを理解されたい。したがって、特定の量の重炭酸イオン(例えば、20mmol/l)を添加し、特定のpH(例えば、pH9)に調節することによって作られた例示的な液体は、特定の合計濃度の重炭酸イオンおよび炭酸イオンを含むだろう(例えば、この場合には20mmol/l)。
【0240】
詳細には、以下の例示的な液体を調製した。
【表1】
【0241】
図1において、これら全ての液体を「透析物」と呼ぶ。それぞれの緩衝剤およびpHを示している。
【0242】
対照(内部標準)として、血液血漿(「血漿」)の緩衝能を決定した。この目的のために、ブタ血液を以下のように試験した。第1に、重炭酸イオン濃度およびpHを決定し、平均重炭酸イオン濃度が24.2mmol/lであり、pHが7.45であることがわかった。第2に、細胞を含まない上澄みを得るために、前記血液を遠心分離処理した。細胞を含まない上澄みを血漿と呼んだ。
【0243】
図1において、これを「血液血漿」と呼ぶ。
【0244】
1B:緩衝能の決定
セクション1Aに記載した全ての液体(セクション1Aの表の例示的な液体、セクション1Aに記載される血漿)のHイオンに対する緩衝能を実験的に試験した。この目的のために、全ての液体(比較例の液体と、本発明の例示的な液体と、血漿)を、HClを用いた滴定に供した。特に、0.1M HClを加え、pHを連続的に監視し、確実に混合するために溶液を撹拌し、pHが最終値であるpH6.5に達したら滴定を終了した。言い換えると、pHが6.5の値に達したら滴定を止めた。pH6.5に達するまでに添加されたHClの量に基づき、緩衝能(mmol/l単位でのHイオン)を計算した。
【0245】
このアッセイによって決定された緩衝能を図1に示す。
【0246】
血漿の緩衝能は、12.00mmol/l Hイオンであると決定された。
【0247】
このアッセイで決定される場合、本発明の例示的な液体は、血漿の緩衝能よりも優れた緩衝能(単位mmol/l)を特徴とすることが好ましい。
【0248】
したがって、本発明の例示的な液体は、特に、例示的な液体が正常なヒト血液のpHより高いpHを有する実施形態では、優れた緩衝能を与える。
【0249】
実施例2:本発明の方法と対照方法との比較
本発明の透析液を、HepaWash(登録商標)(ミュンヘン、ドイツ)透析装置(Hepa Wash LK2001透析装置)を用いて試験した。対照装置として、日機装株式会社(日本)から市販されている透析装置(日機装株式会社DBB-03透析装置)を使用した。
【0250】
HepaWash(登録商標)透析装置は既に記載されていたが、本発明の方法と組み合わせられておらず、血液から二酸化炭素を除去する目的とも組み合わせられていない。
【0251】
日機装株式会社によって市販される対照装置は、従来の血液透析システムである。この装置は、対向流を使用するため、具体的には、腎臓補助(血液透析)を与え、血液から望ましくない物質である尿素を除去するように設計されている。この装置は、浸透水を供給するために、浸透装置に直接的に接続する。透析液は、単回通過方法で使用される。すなわち、透析器を一回通過した後、透析液は捨てられる。
【0252】
この実施例では、2種類の異なる透析液を両装置に使用した(HepaWash(登録商標)および日機装株式会社)。
【0253】
日機装株式会社の血液透析システムの場合、pH7.45の透析液を使用し、この透析液は、以下のような特徴がある。
【表2】
【0254】
HepaWash(登録商標)装置の場合、pH9の透析液が使用され、この透析液は、以下のような特徴がある。
【表3】
【0255】
この実験の目標は、これら2種類の透析装置を比較することである。特に、目標は、どちらの装置が、添加された二酸化炭素を血液から効率的に除去することができるかを決定することであった。
【0256】
この目的のために、ブタの血液に対し、1分あたり110sccmのCOを連続的に添加した(すなわち、110sccm CO/分)。このことは、特に、1分あたり110標準立法センチメートルのCOをブタの血液に連続的に添加したことを意味する。
【0257】
COを含有する血液は、以下の条件で透析された。
HepaWash(登録商標):
-血液の流量:400ml/分
-透析液の流量:800ml/分
日機装株式会社:
-血液の流量:350ml/分
-透析液の流量:500ml/分
【0258】
両方の場合に、血液はリサイクルされた。
【0259】
結果を図2に示す。この図は、これらの異なる装置(日機装株式会社およびHepa Wash(登録商標))を用いた処理の間の血液pH値を比較している。この図からわかるように、Hepa Wash(登録商標)システムだけが、血液pHを7.3~7.4に維持することができ、日機装株式会社のシステム(血液透析システム)は血液pHを維持することができず、日機装株式会社の機械(血液透析システム)を用いて処理された血液のpH値は、迅速に6.65まで落ちた。
【0260】
図2からわかるように、腎臓透析(血液透析)機械、例えば、日機装株式会社から得られる機械は、血液の過剰な酸性化の問題を防ぐことができない。特定の理論に束縛されることを望まないが、このシステムは、Hイオンだけではなく、緩衝剤である重炭酸イオンも血液から除去すると考えられる。Hおよび重炭酸イオンを除去することは、肺の中でCOを除去することと似ている。
【0261】
Hepa Wash(登録商標)システムによって、(炭酸が重炭酸イオンとHイオンに解離することに起因して存在する)過剰なHイオンを除去することができる。したがって、このシステムは、血液の過剰な酸性化を効率的に防ぐことができる。上に示したように、また、当業者には知られているように、6.8未満の血液pH値(血液の過剰な酸性化)は避けられる。この目的は、Hepa Wash(登録商標)システムを用いて達成することができる。一方、この実施例でも示されるように、日機装株式会社製の透析装置は、血液pHを維持するときに血液からCOを除去するのに適していない。
【0262】
実施例3:カルシウム濃度
カルシウム(Ca2+イオン)を含む透析液を使用し、透析液のpHをpH7.45~pH9の範囲で変えた(図3を参照)。透析液を、半透膜を介し、血液と接触させた。血液中のカルシウム濃度を決定した。図3からわかるように、透析液中のカルシウム濃度が1.70mmol/lを超える場合であっても、血液中のカルシウムイオン濃度は、1.00~1.70mmol/lの所望な範囲に維持される。このことは、本発明の透析液中のカルシウムイオン濃度が、適切に1.70mmol/lを超える範囲であることを示す。
図1
図2
図3