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特許7013394かみそりブレード刃先上のフルオロカーボンポリマーのパルスレーザ蒸着
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】かみそりブレード刃先上のフルオロカーボンポリマーのパルスレーザ蒸着
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/28 20060101AFI20220207BHJP
   C23C 14/12 20060101ALI20220207BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20220207BHJP
   B26B 21/60 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C23C14/28
C23C14/12
C23C14/58 A
B26B21/60
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018563064
(86)(22)【出願日】2017-05-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 US2017035209
(87)【国際公開番号】W WO2017210290
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-05-29
(31)【優先権主張番号】62/343,333
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】315017030
【氏名又は名称】エッジウェル パーソナル ケア ブランズ リミテッド ライアビリティ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Edgewell Personal Care Brands, LLC
【住所又は居所原語表記】1350 Timberlake Manor Parkway, Chesterfield, MO 63017 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】カンプハウゼン スコット
(72)【発明者】
【氏名】ノール ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ニコロージ ランディ
【審査官】松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/068503(WO,A1)
【文献】特表2012-514503(JP,A)
【文献】特開2005-126785(JP,A)
【文献】特表2009-527644(JP,A)
【文献】特開2001-288561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
B26B 21/00-21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋭い先端と隣接する小面とによって定められる1又は2以上の刃先を有するかみそりブレード上にフルオロカーボンポリマー膜を形成する方法であって、
反応チャンバ内にフルオロカーボンポリマーを含むターゲットを与える段階と、
被覆されるかみそりブレードを前記反応チャンバ内の前記ターゲットの近くに位置決めする段階と、
前記チャンバの内側に1.333×10-1パスカルから1.333×10-7パスカルの真空圧力を確立する段階と、
1フェムト秒から500ピコ秒のパルス長のための200nmから1100nmの波長で、パルス長当たり1マイクロジュールから250ミリジュールの強度で、100kHzから1GHzの反復速度で、フルオロカーボンポリマー膜を前記かみそりブレード上に堆積させるのに十分な時間にわたって前記フルオロカーボンポリマーターゲットを照射する段階と、
前記かみそりブレードの少なくとも1つの刃先の少なくとも1つの小面の少なくとも前記鋭い先端及び該鋭い先端の近くの一部分上に実質的に均一なフルオロカーボンポリマー薄膜を形成する段階と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
被覆される前記かみそりブレードを反応チャンバ内でフルオロカーボンポリマーを含むターゲットの近くに位置決めする前記段階では、該フルオロカーボンポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被覆される前記かみそりブレードを反応チャンバ内でフルオロカーボンポリマーを含むターゲットの近くに位置決めする前記段階では、該反応チャンバは、1.333×10-2パスカルから1.333×10-4パスカルの圧力にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記かみそりブレードを170℃の温度まで加熱する段階を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記フルオロカーボンポリマーターゲットを照射する前記段階では、前記パルス長は、100フェムト秒から10ナノ秒であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記実質的に均一なフルオロカーボンポリマー薄膜を形成する前記段階では、該膜は、10nmから100nmの厚みを有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記実質的に均一なフルオロカーボンポリマー薄膜を形成する前記段階では、該膜は、10nmから50nmの厚みを有することを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記実質的に均一なフルオロカーボンポリマー薄膜を形成する前記段階の後に該被覆かみそりブレードを熱処理する段階を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記被覆かみそりブレードを熱処理する前記段階は、数分にわたって250から350℃の温度で該かみそりブレードを加熱する段階を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
フルオロカーボンポリマーを含む追加のターゲットを与える段階を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
複数の小面を有するかみそりブレード上にポリテトラフルオロエチレンの薄膜を形成する方法であって、
グラファイトでドープされたポリテトラフルオロエチレンターゲットを与える段階と、
1.333×10-2パスカルから1.333×10-4パスカルの圧力での真空チャンバ内で前記かみそりブレードを前記ポリテトラフルオロエチレンターゲットの近くに位置決めする段階と、
100フェムト秒から500ピコ秒のパルス長のための240nmから360nmの波長で、パルス長当たり1マイクロジュールから100マイクロジュールの強度で、1kHzから10Hzの反復速度で、ポリテトラフルオロエチレン膜を前記かみそりブレード上に堆積させるのに十分な時間にわたって前記ポリテトラフルオロエチレンターゲットを照射する段階と、
前記かみそりブレードの1又は2以上の小面上に100nm未満の厚みを有する実質的に均一なポリテトラフルオロエチレン薄膜を形成する段階と、
前記ポリテトラフルオロエチレン膜を前記かみそりブレードの面に結合させるような時間にわたってかつその温度で該かみそりブレードを加熱する段階と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記真空チャンバ内で前記かみそりブレードを加熱する段階を更に含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
実質的に均一なポリテトラフルオロエチレン薄膜を形成する前記段階では、該膜は、50nm未満の厚みを有することを特徴とする請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年5月31日出願で引用により本明細書にその全体が組み込まれている米国仮特許出願第62/343,333号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、多面基板上に薄く実質的に均一なPTFEコーティングを堆積させる方法を提供する。300nm未満、100nm未満、及び50nm未満の薄膜は、鋭い刃先のような多面を有する基板上に190nmから1075nmの波長でのレーザを使用するパルスレーザ蒸着(PLD)を用いて堆積させることができる。そのようなコーティングは、剃毛体験を改善するために摩擦を低減して切断力を低下させるのにかみそりブレード刃先に対して特に有用である。
【背景技術】
【0003】
非被覆かみそりブレードは、典型的に、不快感及び痛みに起因して乾燥した皮膚面、例えば、乾燥した髭及び身体の他の部分を剃るのに使用されず、切られる髭又は毛髪を水、シェービングクリーム、及び/又は石鹸を使用して剃る前に柔らかくすることが一般的である。それでも、非被覆ブレードを使用する剃毛による刺激は、ブレードが毛髪を通過する時のけん引及び引きに起因して依然として遭遇する。従って、ブレードが毛髪を通過するのに必要な切断力を低減し、かつ過度のけん引によって引き起こされる不快感を低減するために、ブレードコーティングが開発されている。
【0004】
長年にわたって、かみそりブレードエッジは、剃毛の快適性を改善するためにフルオロカーボンポリマー、典型的に何らかの形態のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で被覆されてきた。PTFEは、一般的に、水又は他の適切な担体中の界面活性剤と共にPTFE粒子の分散剤として噴霧される。得られるコーティングは、不活性環境内で加熱されてポリマーを溶融して層を平滑化し、それをブレード面に結合する。しかし、得られるコーティングは、特に最初の剃毛中に最適な快適さに対しては厚すぎる傾向がある。剃毛の行為は、余分なPTFEを剥ぎ落とし、より最適な剃毛性能を生成する。従って、最初の剃毛は、その後の剃毛よりも快適性に劣る可能性がある。
【0005】
余分なPTFE層を除去する溶剤を使用してPTFE層を部分的に除去し、より薄いコーティングを生成して最初の剃毛の快適性を改善する試みが行われてきた。しかし、PTFEに対する適切な溶媒が非常に高価であり、使用寿命が限られており、かつ適正に廃棄することが困難であるのでこれらの方法には欠点がある。これに代えて、いずれの余分なPTFEの除去も必要とせずにこの最初の剃毛の快適性を提供するためにかみそりブレード上により薄いPTFEコーティングを形成することが試みられてきた。
【0006】
〔特許文献1〕は、ポリフルオロカーボン被覆かみそりブレード刃先を溶媒で処理してPTFEの層を薄くし、それによって被覆ブレードの初期切断力を低下させる段階を含む方法を開示している。同様に、〔特許文献2〕は、初期溶媒処理の後にブレードに第2のポリフルオロカーボンコーティングを塗布し、任意的に第2の溶媒処理が続くことを更に開示している。両方の場合に、被覆ブレードは、ポリフルオロカーボンをブレードに接着するために加熱される。〔特許文献3〕は、少なくとも2つの被覆ブレードを含有するかみそりを開示しており、第1のブレードは、一方のブレードが他方のブレードとは異なる構成のポリマーコーティングを有することに起因して第2のブレードとは異なる摩擦抵抗を有する。被覆ブレードをプラズマ、電流、又は電子ビームのうちの少なくとも1つに露出する段階を含む被覆かみそりブレードのコーティングを改質する方法が提供されている。ブレードをCF2含有プラズマに露出することによってそれを被覆する方法も開示されている。
【0007】
〔非特許文献1〕、〔非特許文献2〕は、市販のPTFEロッド及びプレス加工PTFE粉末ペレットから切り出されたTEFLONディスクの切除を通じたNaClプレート、シリコンウェーハ、及び水晶マイクロバランスセンサ上へのPTFE膜のパルスレーザ蒸着における中赤外レーザ、すなわち、2~10ミクロンの波長で発光するレーザの使用を開示している。同じく、微細構造上に高品質TEFLON薄膜を堆積させようとする時に遭遇する様々な課題が議論されており、その1つは、適切な市販の中赤外レーザを得る際の困難であると言われている。他の困難は、フルオロカーボンモノマのプラズマ重合、イオンビーム、及び高周波スパッタリングからもたらされるフッ素の不足である均一PTFE膜の形成と、ポリマーを再形成するために高温での加熱を必要とするモノマをもたらすTEFLONのUV又は近赤外パルスレーザ蒸着中に観察されるポリマー分解とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第5,985,459号明細書
【文献】米国特許出願第20160001456号明細書
【文献】米国特許第9,027,443号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】M.R.Papantonakis及びR.F.Haglund,Jr.著「微細構造上へのTEFLON(登録商標)コーティングの赤外線レーザ蒸着」
【文献】Daneiie M.Tanner、Rajeshuni Ramesham編「MEMS/MOEMS Vの信頼性、パッケージング、試験、及び特性評価」、Proc.of SPIE、第6111巻、611104(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
多面的かつプレート又は半導体ウェーハよりも2次元性の少ないかみそりブレードなどのような基板上にフルオロカーボンポリマーの高品質、低摩擦、及び均一な薄膜を一貫して効率的に形成するための改良された方法の必要性が残っている。ポリマー劣化、すなわち、炭素結合切断は、典型的にPTFEのUV又は近赤外パルスレーザ蒸着中に生じるが、強度、パルス長、及びパルス反復速度を制御することにより、実質的に均一な厚み及び優れた摩擦低減、及び他の高性能特性を有する薄いPTFE膜は、190から1100nmの範囲の波長、すなわち、UVから近赤外でのレーザを使用するパルスレーザ蒸着を通じて形成することができることが見出されている。得られる膜の非常に薄くて均一な性質及び優れた接着性に起因して、かみそりブレード上の刃先のような多面的な面は、例えば100nm未満の厚みを有する均一な膜で被覆することができる。
【0011】
本発明の方法は、従って、非常に薄くて均一なフルオロカーボンポリマーコーティング、例えば、PTFEコーティングを基板に、特に少なくとも1つの鋭い刃先を有するものに塗布するのに非常に適しており、このコーティングは、かみそりブレードの刃先に塗布された時に、最初の剃毛からブレードの寿命にわたって最適な性能及び快適性を示すブレードを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、第1の態様では、(i)フルオロカーボンポリマーを含むターゲットを反応チャンバ内に与える段階と、(ii)被覆される基板を反応チャンバ内のターゲットの近くに位置決めする段階と、(iii)チャンバの内側に1.333×10-1パスカルから1.333×10-7パスカルの真空圧力を確立する段階と、(iv)100フェムト秒から10ナノ秒のパルス長のための200nmから1100nmの波長で、パルス長当たり1マイクロジュールから1ミリジュールの強度で、100kHzから1GHzの反復速度で、フルオロカーボンポリマー膜を基板上に堆積させるのに十分な時間にわたってフルオロカーボンポリマーターゲットを照射する段階と、(v)基板の少なくとも1つの刃先の少なくとも1つの小面の少なくとも鋭い先端及びその鋭い先端の近くの一部分上に実質的に均一なフルオロカーボンポリマー薄膜を形成する段階とを含む鋭い先端と隣接する小面とによって定められた1又は2以上の刃先を有する基板上にフルオロカーボンポリマー膜を形成する方法に関する。
【0013】
好ましくは、被覆される基板を反応チャンバ内でフルオロカーボンポリマーを含むターゲットの近くに位置決めする段階では、フルオロカーボンポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンを含む。好ましくは、被覆される基板を反応チャンバ内でフルオロカーボンポリマーを含むターゲットの近くに位置決めする段階では、反応チャンバは、1.333×10-2パスカルから1.333×10-4パスカルの圧力にある。当業者は、170℃の温度まで基板を加熱することもできる。好ましくは、フルオロカーボンポリマーターゲットを照射する段階では、パルス長は、1フェムト秒から500ピコ秒である。本方法は、10nmから100nmの厚みを有する実質的に均一なフルオロカーボンポリマー薄膜を形成することができる。最も好ましくは、形成される膜は、10nmから50nmの厚みを有する。
【0014】
本方法は、実質的に均一なフルオロカーボンポリマー薄膜を形成する段階の後に被覆基板を熱処理する段階を更に含むことができる。好ましくは、被覆基板を熱処理する段階は、250から350℃の温度で数分にわたって基板を加熱する段階を含む。本方法は、フルオロカーボンポリマーを含む追加のターゲットを与える段階を更に含むことができる。
【0015】
更に別の態様では、本発明は、(i)グラファイトでドープされたポリテトラフルオロエチレンターゲットを与える段階と、(ii)1.333×10-2パスカルから1.333×10-4パスカルの圧力での真空チャンバ内のポリテトラフルオロエチレンターゲットの近くに基板を位置決めする段階と、(iii)100フェムト秒から500ピコ秒のパルス長のための240nmから360nmの波長で、パルス長当たり1マイクロジュールから250ミリジュールの強度で、1kHzから10Hzの反復速度で、ポリテトラフルオロエチレン膜を基板上に堆積させるのに十分な時間にわたってポリテトラフルオロエチレンターゲットを照射する段階と、(vi)基板の1又は2以上の小面上に100nm未満の厚みを有する実質的に均一なポリテトラフルオロエチレン薄膜を形成する段階と、(v)ポリテトラフルオロエチレン膜を基板面に結合させるような時間にわたってかつその温度で基板を加熱する段階とを含む複数の小面を有する基板上にポリテトラフルオロエチレンの薄膜を形成する方法に関する。本方法は、堆積中に真空チャンバ内で基板を加熱する段階を更に含むことができる。
【0016】
好ましくは、ポリテトラフルオロエチレンターゲットを照射する段階は、100フェムト秒から300フェムト秒に対する244nmから343nmの波長で、10マイクロジュールから250ミリジュールの強度で、1kHzから500kHzの反復で行われる。好ましくは、実質的に均一なポリテトラフルオロエチレン薄膜を形成する段階では、膜は、50nm未満の厚みを有する。
【0017】
更に別の態様では、本発明は、更に、本明細書に開示するいずれかの方法によって形成されたコーティングを有する少なくとも1つのかみそりブレードを含むかみそりに関する。
【0018】
新規であると考えられる本発明の開示の特徴及び本発明に特徴的である要素は、添付の特許請求の範囲で具体的に列挙される。図は単に例示目的であり、縮尺通りに描かれていない。しかし、開示自体は、編成及び作動方法の両方に関して、添付の図面と併せて以下の好ましい実施形態の説明を参照することによって最も良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】単一フルオロカーボンポリマーターゲット源から生成されたフルオロカーボン切除プルームに対して角度αでかみそりのスタックが固定された真空チャンバの内側の本発明の方法の概略図である。
図2】1よりも多いフルオロカーボンポリマーターゲット源から生成されたフルオロカーボンポリマー切除プルームに対してかみそりのスタックが固定された本発明の方法の概略図である。
図3】実施例1に従って堆積された約30%CF2を含むフルオロカーボン膜のXPSスペクトルの図である。
図4】ChemoursのLW 2120 PTFEの分散剤を使用して基板の上に噴霧された約99%CF2を含む対照市販PTFE膜のXPSスペクトルの図である。
図5】実施例2に従って基板の上に堆積された約99%CF2を含む膜のXPSスペクトルの図である。
図6】本発明の方法を使用して堆積されたポリテトラフルオロエチレンコーティングを有するかみそりブレードエッジの光学画像である。
図7】ChemoursのLW 2120 PTFEの分散剤の従来型噴霧方法を使用して堆積されたポリテトラフルオロエチレンコーティングを有するかみそりブレードエッジの光学画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の開示の実施形態は、本明細書に説明する特徴及び/又は段階、及び本明細書に説明するか又は当業者ならば理解する付加的又は任意的な成分、構成要素、段階、又は制限のいずれかを含み、それらから本質的に成り、及びそれらから実質的に成るものとすることができる。本明細書に開示する全ての濃度は、特に断りがない限り、組成物の総重量に基づく重量パーセント(重量%)であることは理解されるものとする。本明細書に列挙するいずれの数値範囲も、その中に包含される全ての部分的範囲を含むものとし、そのような範囲は、説明する範囲の下限値と上限値の間の数及び/又は分数のいずれも含むように意図している。
【0021】
本発明の広範な実施形態は、鋭い刃先を有するかみそりブレードのような多面基板上に薄いフルオロカーボンコーティングを堆積又は形成する方法、より具体的には、薄いフルオロカーボンコーティングがそのような基板の刃先の少なくとも一部に形成される方法を提供し、本方法は、200から1100nmの波長でパルス当たり10マイクロジュールから1ジュールでのレーザ放射のパルスを用いてPTFEのようなフルオロカーボンポリマーを照射する段階を含み、パルス長は、1kHzから1GHzの反復速度で1フェムト秒から10ナノ秒、例えば、1フェムト秒から1ナノ秒又は1フェムト秒から500ピコ秒である。
【0022】
基板上に形成されるポリマー膜は、実質的に均一な厚みを有して薄く、例えば、300nm又はそれ未満のような500nm又はそれ未満であり、典型的に非常に薄く、200nm又はそれ未満、例えば、150nm又はそれ未満であり、特定の実施形態では、100nm又はそれ未満の厚みを有する膜、例えば、75nm、50nm、又は30nm又はそれ未満の厚みを有する膜が調製される。膜のCF2含有量は、典型的に少なくとも90%、多くの場合に95%を超え、一部の実施形態では、99%を超えるCF2が達成される。この膜は、典型的に高度の結晶化度を有して非常に均一で滑らかであり、かみそり産業で現在使用されている従来製法のPTFEコーティングと比較して一般的に優れた摩擦係数を示している。
【0023】
従って、本発明の一実施形態は、鋭い先端及び隣接する小面によって定められる1又は2以上の刃先を有する基板上にフルオロカーボンコーティングを形成する方法を提供し、本方法は、1.333×10-1パスカルから1.333×10-7、例えば、1.333×10-2から1.333×10-4パスカルの圧力下で真空チャンバ内のフルオロカーボンポリマーターゲットの近くに被覆される基板を位置決めする段階と、300nmから700nm、例えば、343nmの波長でパルス当たり10マイクロジュールから1ジュールのパワーのレーザ放射のパルスを使用してフルオロカーボンポリマーターゲットを照射する段階とを含み、そのパルスは、1kHzから10Hzの反復速度で、ポリテトラフルオロエチレン膜を基板の全て又は一部に堆積させるのに十分な時間にわたって、1フェムト秒から10ナノ秒、例えば、1フェムト秒から1ナノ秒のパルス長を有し、少なくとも1つの刃先の少なくとも1つの小面の鋭い先端とその鋭い先端の近くの一部分とは、フルオロカーボンポリマーで被覆される。
【0024】
フルオロカーボンポリマーターゲットは、一般的に、幅広く商業的に入手可能でいくつかの商品名で販売されているポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含み、その一部は、いくつかを挙げると、ChemoursカンパニーのTEFLON及びZONYL、Enpro IndustriesインコーポレーテッドのTEXOLON THP、旭硝子カンパニーのFLUON、Solvay SAのAGOFLON、3MのDYNNEON、及びSaint Gobain SAのNORTON T-100及びT-200を含む。
【0025】
本方法は、室温又は高温を使用して実施することができる。例えば、一部の実施形態では、フルオロカーボンのターゲットは、20℃から350℃、好ましくは、20℃から170℃、より好ましくは、150℃から170℃の温度で照射される。
【0026】
波長、パルス長、強度、及び反復速度、及び形成される薄膜の望ましい特性に応じて、1フェムト秒から500ピコ秒のパルス長を使用し、非常に薄くかつ非常に滑らかな薄膜を生成することができる。望ましい薄膜は、好ましくは、1フェムト秒から500ピコ秒のパルス長を使用して、より好ましくは、1フェムト秒から約1ピコ秒のパルス長を使用して形成することができる。1Hzから約1500Hzの反復速度を使用することができ、ある一定の実施形態では、5から100Hz、10から500Hz、500から1MHz、及び750から1200Hzの反復速度を使用する。レーザの反復速度は、1kHzから1GHzの範囲に及ぶ場合がある。
【0027】
更に別の熱処理をすることなく、優れた接着性及び滑らかさを有する均一な膜が得られることが多い。しかし、接着性を更に改善し、フルオロカーボンポリマー膜を平滑化し、及び/又はフルオロカーボンポリマーの結晶化を高めるために、被覆基板は、追加の熱処理段階を受けなければならない場合がある。例えば、一部の実施形態では、フルオロカーボンポリマー膜を堆積させた基板は、例えば、約200℃から約400℃の温度、又は約150℃から約450℃、例えば、約250℃から約350℃の温度で数分から数時間にわたって加熱を更に受ける。
【0028】
本発明の特定の実施形態では、被覆される基板は、かみそりブレード、又は何らかの方法で基板を切断又は再成形することによってかみそりのブレードに容易に成形される基板である。当業技術で公知のように、多くの場合に、ブレードの刃先だけをフルオロカーボンコーティングで被覆し、かみそりブレード刃先の切断力を低減する。本発明は、基板の選択された部分を容易に被覆することを可能にする。例えば、本発明の様々な実施形態では、刃先の先端だけを被覆することができ、先端とその隣接する小面の一方又は両方とを被覆することができ、一部の実施形態では、先端とその先端に近接する隣接小面の一方又は両方とを被覆することができる。
【0029】
従って、本発明は、かみそりブレードの1又は2以上の刃先上に薄く均一なPTFE膜を形成する方法、又は基板が1よりも多い小面を有する場合に容易にかみそりブレードに成形される基板上に薄く均一なPTFE膜を形成する方法、かみそりブレードを形成する方法、かみそりブレードのような基板の切断力を低減する方法、及び得られる被覆基板、例えば、かみそりブレード提供する。同じく提供するのは、1又は2以上のかみそりブレードを含むかみそりであり、少なくとも1つのかみそりブレードは、本発明によって調製される。
【0030】
本発明の1つの特定の実施形態は、刃先を有する基板を含むかみそりブレードを調製する方法に関し、その刃先の少なくとも一部は、本発明の方法により、PTFEのようなフルオロカーボンポリマーの多くの場合に100nm未満の薄くかつ均一な膜で被覆される。現在、多くのかみそりが1つだけの露出した刃先を有するブレードを使用するが、1よりも多い刃先を有するかみそりブレードが公知であり、本発明に使用することができる。本発明により、1よりも多い刃先を有するかみそりブレードは、刃先のうちの1又は2以上にフルオロカーボンポリマーを堆積させることができる。本明細書の一部の特定の実施例は、被覆かみそりブレードの形成に関するが、当業者は、少なくとも1つの刃先を有する他の基板に対して以下の説明を容易に拡張することができる。
【0031】
本発明の基板は、かみそりブレード、又は鋭い先端及び隣接する小面によって定められた刃先を有するかみそりブレードに容易に成形される基板である。かみそりブレードの製造には様々な材料が使用されており、そのような材料のいずれかを含むブレード(又は他の基板)を本発明に使用することができる。かみそりブレードは、ステンレス鋼のような鋼を使用して作られることが多い。かみそりブレードはまた、その上に堆積させた別の硬質材料の層を含むことができ、例えば、非晶質ダイヤモンド、クロム、窒化クロムのような単一又は多層の硬質コーティングを刃先に塗布することができる。
【0032】
様々な厚み、例えば、約10nmから約200nmの層を本発明の方法によって形成することができるが、非常に薄い、例えば、150nm又は100nm未満のPTFE膜を有するかみそりからより良好な快適性と切断性能とが得られる。本発明の多くの実施形態では、PTFE膜は、100nm又はそれ未満、最も好ましくは、100nm未満、例えば、75nm、50nm、45nm、又は30nm又はそれ未満のような厚みを有するかみそりブレード刃先の少なくとも一部上に堆積される。
【0033】
本発明のパルスレーザ蒸着方法は、90%又はそれよりも高いCF2含有量を有するPTFE膜を提供し、多くの場合に95%又はそれよりも高く、更に99%さえも達成され、この特性は、プラズマ強化化学気相成長法(PECVD)、高周波マグネトロンスパッタリングのような他の真空技術では達成されていない。特に、本発明のかみそりブレード上に堆積された膜のCF2含有量は、例えば、一般的に噴霧により分散剤として塗布されてその後に高温での加熱を伴うChemoursカンパニーから入手可能なDRYFILM LW2120 PTFEを使用して調製されたかみそり産業に使用される既存のPTFEコーティングと同等か又はそれよりも良好である。
【0034】
PTFEのパルスレーザ蒸着は、近赤外から深紫外、すなわち、193nmから1064nmの波長での十分なパワーで達成することができる。しかし、高ピークパワーの赤外線フェムト秒パルスは、炭素鎖を破壊し、ターゲットのポリマーを分解することが示されている。より低いピークパワーの紫外ナノ秒パルスは、炭素鎖及び元の材料特性を維持するが、ナノ秒パルスレーザ蒸着は、余分なマクロ粒子を有する膜を生成することが多く、これは、一般的に望ましい膜特性には有害であり、約30nm厚のような非常に薄いPTFE膜は、マクロ粒子の凝集のために容易には形成されない。本発明は、ピコ秒パルスの紫外レーザが堆積膜の品質とかみそりブレードの低摩擦コーティングに必要とされる材料特性との間に均衡を提供することができることを見出している。
【0035】
本発明の方法では、レーザは、真空下でPTFEプラーク、ブロック、ディスク、シリンダ、細粒などとしてフルオロカーボンポリマーを含むターゲットを切除する。切除中に1又は2以上のターゲットを使用することができる。PTFEターゲットの切除によって切除プルームが生成され、切除されたPTFEの膜が、近くに位置決めされた基板上に形成される。基板をターゲットに対して位置決めする方法により、基板上のどこに膜が堆積されるかが決定される。1又は2以上のターゲットを有することにより、基板の1又は2以上の小面上に望ましい膜を首尾よく形成することができる。好ましくは、ターゲットは、基板の近くに、例えば、50mmから100mmに配置されるが、当業者は、望ましい膜形成を生成するためにターゲットと基板の間の最適な距離を決定することができる。フルオロカーボンのターゲットは、一般的に、3,000から4,000,000のモル平均分子量を有するPTFEを含む。例えば、多くの実施形態では、例えば、4,000から400,000又は4,000から100,000、例えば、100,000から400,000又は10,000から50,000のような3,000から2,000,000のモル平均分子量を有するPTFEを含むターゲットを使用する。他の実施形態では、ターゲットは、400,000から4,000,000、例えば、500,000又は1,000,000から4,000,000、2,000,000から4,000,000のモル平均分子量を有するPTFEを含む。
【0036】
フルオロカーボンポリマーターゲットは、単一成分又はPTFEの別物質との混合物とすることができ、又はターゲットのフルオロカーボンポリマーの外側層を支持する非フルオロカーボンシリンダのような別の物質によって支持されたフルオロポリマーを含むことができる。フルオロカーボンポリマーターゲットは、所望波長での吸収を高める材料でドープすることができる。例えば、フルオロカーボンポリマーは、グラファイト、有機染料、又はスズのような他の金属でドープすることができる。好ましいドーパントは、2重量%グラファイトまで、1.5重量%グラファイトまで、0.5重量%グラファイトまで、0.2重量%グラファイトまで、又は0.05重量%グラファイトまでの量のグラファイトである。
【0037】
一般的に、本発明のパルスレーザ蒸着方法は、真空チャンバ内で行われる。切除プルームへの質量及びエネルギの移送がない限り、真空中でのプルームの膨張は断熱的であると見なされ、従って、プルームの膨張は、ほぼ無衝突と呼ばれる。図1では、反応チャンバ(図示せず)の内側では、1又は2以上のかみそりブレード(スタックが示されているが)を含む基板10は、典型的にPTFEのようなフルオロカーボンポリマーを含むターゲット20に対して25°から90°までの角度αで真空中に位置決めされる。ターゲット20は、放射加熱器30で加熱することができる。レーザ源は示されていないが、200nmから1000nmの波長の光50を投射する。レーザ50がターゲット10に当たると、ターゲット材料の切除プルーム40が形成され、これが基板10の面と接触した状態で、基板10又はその一部にターゲット材料の膜を堆積させる。
【0038】
図2では、反応チャンバの内側では、1又は2以上のかみそりブレードを含む基板15は、反応チャンバ内の第1のフルオロカーボンポリマーターゲット25及び第2のフルオロカーボンポリマーターゲット26の近くに位置決めされる。ターゲット25/26は、1又は2以上の放射加熱器35で加熱することができる。第1のレーザ源55及び第2のレーザ源56は示されていないが、上記に開示した波長で光55/56を投射し、各ターゲット材料の切除プルーム45/46を形成し、これが基板15の面と接触した状態で、その面上にターゲット材料40の膜を堆積させる。追加のターゲット及びそこから生成される切除プルームは、、複数の角度での堆積を可能にし、かみそりブレードのような基板の複数小面を被覆する。
【0039】
レーザのタイプは、Nd:YAG、Yb:YAG、又はNd:YLFタイプレーザのあらゆる第3又は第4高調波、XeCl、ArF、KrF、及びF2などのエキシマレーザ族内のあらゆるピコ秒パルスレーザを含むことができるがそれらに限定されない。パルス長は、典型的に1フェムト秒から約200ピコ秒である。膜は、例えば、10ナノ秒のようなより長いパルス長を使用して形成することができるが、厚みが100nm又は50nm未満の高品質膜は、典型的にこれらのより長いパルスでは得られない。反復速度は、1kHzから1GHzであり、レーザの強度は、パルス当たり20マイクロジュールから1ジュールである。ターゲットは、一般的にPTFEを含み、その例はTEXOLON THP 8764であるが、他のPTFE源を使用することができる。薄く連続した均一なPTFE膜の成長を助けるために、加熱器を使用して堆積中に基板の選択された温度を維持することができる。しかし、加熱器は必ずしも必要ではなく、0℃、10℃、又は20℃から200℃、250℃、又は350℃の温度を使用することができる。
【0040】
後熱処理は、膜を平滑化すると共に結晶化を高めるのに必要とされる場合がある。これは、フルオロカーボンポリマーの融点よりも高温又は低温のいずれかで達成することができる。フルオロカーボンポリマーの融点を超える加熱は、ポリマーの基板に対する良好な接着性を保証するのに必要とされる場合がある。典型的な温度は、数分から数時間にわたる250℃から350℃の範囲を含むが、これに限定されない。一部の実施形態では、この熱処理段階は必要とされず又は任意的である。
【0041】
一般的に、本発明によって被覆される基板は、あらゆる全体形状のものとすることができ、鋭いエッジを保持するのに足りるだけ硬く、使用される処理条件に対して安定であるあらゆる材料で製造することができる。そのような基板材料は、金属、ステンレス鋼のような金属合金、金属の炭化物及び窒化物のような金属化合物、セラミック又は固くした粘土、硬質炭素基板、及び何らかの有機ポリマーでさえも含まれる。基板は、単一材料又は複数の材料から製造することができ、単一の一体化された塊として形成されるか又は様々な層を含むことができる。
【0042】
本発明の方法は、基板の刃先にPTFE膜を形成するのに理想的に適しており、基板全体を本発明によって被覆することができるが、典型的に、そのコーティングを刃先自体又はその一部に限定することがより費用効果が高い。上述のように、本発明の基板は、1又は2以上の刃先を含み、本発明による膜は、これらの刃先のうちの1又は2以上に堆積させることができる。
【0043】
当業技術で認識されているように、刃先は、鋭い先端及び隣接する小面によって定められることが多い。かみそりブレードは、多くの場合に、半径が1000オングストローム未満、好ましくは、200から500オングストロームの鋭い先端を有する刃先を有する。鋭い先端に隣接する小面は、典型的に、鋭い先端から40ミクロンで測定した場合に30度未満、例えば、約15~20度の刃先角を有する。小面は、刃先の異なる面を提供するものとして見ることができるが、本発明の一部の実施形態では、これらの面のうちの1つに膜が形成され、他の実施形態では、膜が両方の面に形成される。堆積された膜は、先端から小面が基板の残った部分と接触する点まで小面全体を覆うことができるが、一部の実施形態では、先端に近接する小面の一部のみが被覆される。
【0044】
波長、パルス長、及び周波数、パルス当たりのパワーのようなレーザパルスのパラメータは、全てが基板上に形成される膜の特性において重要な役割を果たすことができる。様々な特定の実施形態では、レーザ波長は、190~500nm、例えば、300nmから450nmであり、323nmから400nmを含む場合もある。これに代えて、レーザ波長は、300nmから約750nm、例えば、約500nmから約700nmを含むことができ、一部の特定の実施形態では、波長は、約700nmから約1075nm、例えば、約750nmから約1064nmである。
【0045】
パルス長は、他のパラメータに応じて変わる場合があり、1フェムト秒から100ピコ秒のパルス、好ましくは、1フェムト秒から10ピコ秒、より好ましくは、1フェムト秒から1ピコ秒のパルスが使用される。
【0046】
パルス当たりのパワーは、10キロジュールから1マイクロジュール、例えば、20キロジュールから500キロジュールの範囲であり、一部の特定の実施形態では、パルス当たりのパワーは、500キロジュールから約1ジュールまで、例えば、700キロジュージから500マイクロジュール、又は1又は50マイクロジュールから250又は500マイクロジュールの範囲である。
【実施例
【0047】
実施例1は、従来のRFマグネトロンスパッタリング技術を使用して製造された膜である。真空チャンバの内側にかみそりブレードを65mmの投射距離でPTFEターゲットの前に固定した。チャンバを6.666×10-3パスカルのベース圧力まで排気した。圧力が1.866パスカルになるようにアルゴンの背景ガスをチャンバに流し込んだ。マグネトロン電力は、213ワットに設定し、厚み100nmのPTFE膜をブレードの上に形成した。図3は、約30%CF2を含む実施例1の膜のX線光子(XPS)スペクトルを示している。複数のピークは、膜中に見出される複数の化学種を示唆している。
【0048】
図4は、Chemoursカンパニーから入手可能なDRYFILM LW2120 PTFEの分散剤を使用してブレードに噴霧された約99%CF2を含む市販のPTFE膜のXPSスペクトルを示している。RFマグネトロンスパッタ膜と比較して、噴霧された膜は、主として単一化学種、CF2を含むことを示している。しかし、噴霧されたコーティングは、厚みが300nmから700nmに及ぶ高い点及び低い点を有して滑らかではない。これは、図7の光学画像で見ることができ、画像の上部がコーティングのトポグラフィの変動を示している。
【0049】
実施例2は、波長248nmのナノ秒KrFエキシマレーザを使用するパルスレーザ蒸着の例である。真空チャンバの内側にかみそりブレードを100mmの投射距離でPTFEターゲットの前に固定した。チャンバを6.666×10-3パスカルのベース圧力まで排気した。ブレードを室温にして、パルス当たり250ミリジュールの強度、25ナノ秒のパルス長、及び50Hzの反復速度のパルスでターゲットを照射した。
【0050】
図5は、かみそりの上に堆積された膜が約99%CF2を含む実施例2のXPSスペクトルを示し、図4のChemoursのLW 2120の分散剤による市販のPTFE膜のXPSスペクトルに類似している。しかし、実施例2のPLD条件の下では、膜の厚みは1000nmと好ましくない。高い強度及び長いパルス長は、100nm未満の均一な厚みを有する膜の形成を妨げるマクロ粒子を生成した。
【0051】
本発明により、実施例3は、波長800nm、パルス当たり100マイクロジュールの強度、120フェムト秒のパルス長、1kHzの反復速度でのTi:Sapphireレーザを使用してフェムト秒パルスを使用するパルスレーザ蒸着を利用した。フルオロカーボンポリマーターゲットはPTFEであった。投射距離は75mmであった。厚み30nmの均一な薄膜が基板上に堆積された。
【0052】
本発明により、実施例4は、波長343nm、パルス当たり10マイクロジュールの強度、300フェムト秒のパルス長、500Hzの反復速度でのYb:YAGレーザを使用してフェムト秒パルスを使用するパルスレーザ蒸着を利用した。フルオロカーボンポリマーターゲットは、0.2重量%グラファイトでドープされたPTFEであった。投射距離は89mmであった。厚み33nmの均一な薄膜が基板上に堆積された。
【0053】
図6は、実施例4で形成された膜の均一性を示す光学画像であり、かみそりブレードのエッジが画像の上部に示されている。これを図7に示すDRYFILM LW2120 PTFEの分散剤を噴霧した後に加熱することによって形成された従来のPTFE膜の光学画像と対比されたい。
【0054】
本発明は、波長、強度、パルス長、及び反復速度を最適化することにより、パルスレーザ蒸着を利用して多面基板上に均一な薄膜を形成する方法を開示するものである。フルオロカーボンポリマーの均一な薄膜は、フルオロカーボンポリマーターゲットを照射して基板の1又は2以上の小面に好ましくは100nm未満、より好ましくは50nm未満、最も好ましくは40nm未満の厚みを有する膜を生成する時に形成することができる。そのような堆積方法は、ブレードの切断力を低減するためにかみそりブレード刃先に均一な薄いポリテトラフルオロエチレン膜を形成するのに特に有用である。
【0055】
具体的な好ましい実施形態と併せて本発明の開示を詳細に説明したが、以上の説明に照らせば、多くの代替物、修正物、及び変形物が当業者に明らかであろうことは明白である。従って、添付の特許請求の範囲は、あらゆるそのような代替物、修正物、及び変形物を本発明の開示の真の範囲及び精神に入るものとして包含することになるように想定している。
【符号の説明】
【0056】
10 基板
20 ターゲット
40 切除プルーム
50 レーザ
α ターゲットに対する基板の角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7