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特許7013395冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20220124BHJP
   A61B 5/0215 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
A61B5/02 310V
A61B5/0215 F
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018563501
(86)(22)【出願日】2017-05-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2017063020
(87)【国際公開番号】W WO2017207559
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-05-26
(31)【優先権主張番号】16305641.9
(32)【優先日】2016-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511171866
【氏名又は名称】オスピス シヴィル ドゥ リヨン
(73)【特許権者】
【識別番号】596096180
【氏名又は名称】ユニベルシテ・クロード・ベルナール・リヨン・プルミエ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ランテルム ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ハルバウイ ブラヒム
(72)【発明者】
【氏名】シヴィッドジアン アンドレイ
【審査官】田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/034724(WO,A2)
【文献】特表2014-529442(JP,A)
【文献】特表2003-501194(JP,A)
【文献】特表2012-531944(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0065525(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0276123(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/02-5/0295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冠状動脈の脈波伝播速度(4)を決定するためのシステムであって、
- 冠状動脈(10)から近位血圧信号を受信し、さらに前記冠状動脈から遠位血圧信号を受信するためのインターフェース(41)と、
- 処理装置(42)とを備え、前記処理装置は以下の通り構成されている:
- 受信した近位血圧信号に基づいて、立ち上がりの開始時間Tfmp及び立ち下がり(descendant)の開始時間Tfdpを特定し、
- 特定された時間Tfdpと Tfmpとの間の継続時間Tを計算し、
- 受信した遠位血圧信号から立ち下がりの開始時間Tfddを特定し、
- 前記遠位血圧信号の立ち下がりの開始時間Tfddから前記計算された継続時間Tを減算した後に、前記遠位血圧信号の立ち上がりの開始時間Tfmdを特定し、
- 近位血圧測定位置と遠位血圧測定位置との間の距離の値を取得し、
- 近位血圧信号及び遠位血圧信号の、それぞれの特定された立ち上がりの開始を隔てている継続時間を計算し、
- 前記開始を隔てている継続時間及び前記取得された距離の値に応じて冠状動脈の脈波伝播速度を計算する、
冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項2】
前記処理装置(42)が遠位血圧信号の導関数を計算するように構成され、さらにTfmdを、Tfdd-Tによって定義される時間に最も近い、計算された導関数のピークの時間に対応するものとして特定するように構成されている、
請求項1に記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項3】
前記処理装置(42)が、以下の通り構成されている:
- 受信した遠位血圧信号から遠位拡張期圧を引くことによって遠位血圧信号PSCDを導き出し、
- 受信した近位血圧信号から近位拡張期圧を引くことによって近位血圧信号PSCPを導き出し、
- 信号PSCD及びPSCPをそれぞれの立ち下がりの開始で同期させ、
- 継続時間Tにわたる信号PSCDとPSCPとの間の類似度を計算する、
請求項1又は2に記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項4】
前記処理装置が、以下の不等式によって定義される範囲内でTfmdを決定するように構成されている、
請求項1~3のいずれかに記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム:
Tfdd-1.1T<Tfmd<Tfdd-0.9T 。
【請求項5】
前記処理装置(42)が、遠位拡張期圧と遠位血圧信号の立ち上がりに対する接線との交点における時間Tfmdを決定する、
請求項1に記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項6】
前記受信用のインターフェース(41)が心電図信号を受信するように構成され、
前記処理装置(42)が心電図信号のQRS群を時間Tfmpと時間Tfmdのそれぞれから隔てている継続時間を計算するように構成されている、
請求項1~5のいずれかに記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項7】
前記処理装置(42)が、
- QRS群の開始時間の前の遠位血圧信号に対して調整され、QRS群の開始時間後に外挿される多項式関数又は対数関数と、
- 遠位圧力の立ち上がりに対する接線との
交点を計算することによって遠位拡張期圧を決定する、
請求項5及び6のいずれかに記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項8】
前記処理装置(42)が近位血圧信号の立ち上がりに対する接線と近位拡張期圧との交点の時間Tfmpを決定し、
前記処理装置(42)が近位血圧信号の立ち下がりの接線と近位収縮期圧との交点の時間Tfdpを決定する、
請求項1~7のいずれかに記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項9】
前記処理装置(42)が、前記心電図信号のQRS群を時間Tfmp及び時間Tfmdのそれぞれから隔てている継続時間を計算するように以下の通り構成されている:
- 10~20msの幅を有する期間を除いて常にゼロに等しい第1再構成信号であって、前記期間が血圧Tfmpの立ち上がりに対応する時間に中心を有し、前記期間中に前記第1再構成信号が一定値、三角関数、又は心電図信号のQRS群の振幅に等しい、前記第1再構成信号を生成し、
- 10~20msの幅を有する期間を除いて常にゼロに等しい第2再構成信号であって、前記期間が血圧Tfmdの立ち上がりに対応する時間に中心を有し、前記期間中に前記第2再構成信号が一定値、三角関数、又は心電図信号のQRS群の振幅に等しい、前記第2再構成信号を生成し、
- 心周期の継続時間又は呼吸周期の継続時間にわたって、心電図信号と第1再構成信号との間の相互相関関数を計算し、
- 心周期の継続時間又は呼吸周期の継続時間にわたって、心電図信号と第2再構成信号との間の相互相関関数を計算し、
- 前記相互相関関数が最大値をとる、前記心電図と前記再構成信号との間のオフセットに基づいて、前記最大値が好ましくは0.4~0.6である閾値を上回る場合にのみ、前記心電図信号のQRS群を前記時間Tfmpと前記時間Tfmdからそれぞれ隔てている前記継続時間の平均を前記心周期又は呼吸周期にわたって計算する、
請求項5に記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項10】
前記継続時間Tにわたる前記信号PSCDと前記信号PSCPとの間の前記類似度が不十分である場合、前記処理装置(42)が様々な時間オフセット値とともに、信号PSCDとPSCPとの間の類似度を、同期された信号の0.2T~0.8Tの区間にわたって計算し、どの時間オフセットTajustに対して、信号PSCDとPSCPとの間の前記類似度が前記区間にわたって最大になるかを決定し、Tfmd=Tfdd-T+Tajustを決定する、
ここで前記類似度が不十分である場合とは、前記信号PSCP とPSCD との間の平均自乗偏差が閾値よりも高い場合、又はこれらの信号間の自己相関関数の最大値が閾値よりも低い場合をいう
請求項3に記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項11】
前記継続時間Tにわたる前記信号PSCDと前記信号PSCPとの間の類似度が不十分である場合、前記処理装置(42)が以下を実行する、ここで前記類似度が不十分である場合とは、信号PSCP とPSCD との間の平均自乗偏差が閾値よりも高い場合、又はこれらの信号間の自己相関関数の最大値が閾値よりも低い場合をいう
- 時間TfmpとTfdpとの間の近位血圧信号を取得し、
- 取得された信号を遠位血圧信号の尺度に適合させ、
- 時間Tfdd-TとTfddとの間の遠位血圧信号を、取得されるとともに適合された血圧信号で置き換え、
- Tfmdを、取得されるとともに適合された信号に対する接線と遠位拡張期圧との交点として決定する、
請求項3に記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項12】
前記処理装置(42)が、
- 時間Tpfm=Tfmd-Tana(Tanaは5~10ms)における遠位血圧信号の値を決定し、
- 時間Tpfmにおいて決定された前記血圧の値の遠位拡張期血圧に対する比を計算し、
- 計算された比が0.95~1.05の閾値より高い場合、警告信号を発生する、
請求項1~11のいずれかに記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項13】
細長いFFRガイドワイヤであって、前記ガイドワイヤに沿って所定の距離だけ離れた2つの圧力センサを含む前記FFRガイドワイヤをさらに備え、前記2つの圧力センサが前記受信用のインターフェースに接続され、前記受信用のインターフェースが前記圧力センサのそれぞれから信号をサンプリングするための回路を備える、
請求項1~12のいずれかに記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【請求項14】
前記2つの圧力センサ間の前記所定の前記距離が70~150mmである、
請求項13に記載の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心疾患の研究を支援するためのシステムに関し、特に、患者の管理方法を改善する観点に基づき、冠状動脈内のプラーク破裂の危険性を予測することを可能にするシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
動脈の石灰化は、該動脈を硬化させることが知られている。血管の硬化は、血管に関連する事故において重要な要因となることが知られている。医学研究によると、分節動脈(d’un segment arte´riel)における脈波伝播速度が上述の硬化を適度に示すことが示されている。研究によると、さらに、大動脈の脈波伝播速度によって測定される該大動脈の硬化が、冠状動脈の病状の予測を可能にする指標でもあることも確認されている。
【0003】
大動脈脈波伝播速度の測定が可能なシステムが存在し、それに対応する研究が行われているが、冠状動脈の脈波伝播速度を正確に決定することが可能なシステムは存在しない。したがって、現場の医師は、冠状動脈の脈波伝播速度を測定し、冠状動脈の病変の進行に対する冠状動脈の硬化の影響(例えば、急性血栓症の危険性)を決定することができるシステムを利用することができない。さらに、冠状動脈の病状を正確に決定するには、大動脈の脈波伝播速度を測定するだけでは十分ではないことが判っている。特に、大動脈の脈波伝播速度を測定しても、冠状動脈内のプラーク破裂の危険性を予測することはできない。
【0004】
現状では、冠状動脈の脈波伝播速度は、実験目的のために、手作業による計算に基づいてのみ計算されている。特に、そのような方法はTaewoo Namらによって発表された"A Coronary Pulse Wave Velocity Measurement System"に記載されている(2007年8月23~26日にフランスのリヨンで開催されたCite’ Internationale会議における、IEEE EMBSの第29回国際会議の会報、975-977頁参照)。
【0005】
この方法によれば、少なくとも1心拍にわたり冠状動脈の近位部の血圧を測定するために、圧力センサがその位置に配置される。そして、少なくとも1心拍にわたって冠状動脈の遠位部の血圧を測定するために、圧力センサはその位置まで所定の距離だけ移動される。これらの血圧信号と同時に心電図信号が測定される。
【0006】
手作業による分析により、分析者は近位部の血圧の立ち上がりを特定し、次に、遠位部の血圧の立ち上がりを特定する。各立ち上がりは、圧力の該立ち上がりに対する接線と、拡張期圧の水平直線交差レベルとの間の交点を探索することによって特定される。分析者は、心電図信号のQRS群に対する遠位および近位の位置における血圧信号の相対的な遅延に基づいて、これら2つの立ち上がりを隔てている継続時間を決定する。分析者は次に、上記の所定の距離を、計算された立ち上がり間の継続時間にて除算することによって冠状動脈の脈波の速度を計算する。
【0007】
遠位圧力測定サンプルの約50%において、心拍の実際の波面が到着する前に、圧力上昇アーティファクトが起こることが観測される。このような場合、上述の既知の冠状動脈の脈波伝播速度の計算方法を適用すると、異常な結果が生じてしまう。さらに、Vavuranakisらによって発表された論文"Alterations of pressure waveforms along the coronary arteries and the effect of microcirculatory vasodilation"(International Journal of Cardiology 117、2007年、254-259頁)に記載されているように、血液微小循環効果のために、拡張期血圧の値が変化してしまい、前収縮期波の発生を引き起こしてしまう可能性がある。その結果、圧力増加と拡張期値との接線の間の交点に基づいて計算される、遠位圧の立ち上がりが不正確に決められてしまう。したがって、この種の分析は日常的な医療用途に適用することができない。
【0008】
また、現在、冠状動脈狭窄の虚血特性は、以下の手順に従ってFFR法と呼ばれる技術を用いて推定されている。端部に動脈圧センサを備えたガイドワイヤを冠状動脈の近位部に挿入し、次に遠位部に挿入する。そして、ベースライン状態及びアデノシンの注入後に、このガイドワイヤを介して各位置で動脈圧測定を行う。アデノシンは、最大限の充血をもたらすために、静脈内又は冠状動脈内に投与される血管拡張剤であり、肉体的運動によって引き起こされるものと同様の血液の流入を生じる。
【0009】
近位動脈圧に対する遠位動脈圧の比を計算する。この比は冠状動脈狭窄の虚血特性を示す。この比が0.8未満の場合、処置を必要とする著しい虚血の存在を示す。比が0.8より大きい場合、狭窄は虚血性であるとはみなされず、侵襲的な治療は行われない。理論的には、この閾値0.8は動脈の生体力学的特性に応じて変化する。
【0010】
FFR法は冠状動脈狭窄の虚血特性に関する情報を与えることができるが、プラーク破裂への潜在的な進行に関する情報を与えることはできない。いうなれば、冠状動脈の病変が非虚血性であったとしても、それが心筋梗塞をもたらす急性の事故、すなわち、FFR法では予測不可能なプラーク破裂に至らないことを意味するわけではない。これらの危険性のあるプラークは検出することが難しい。さらに、それらは特定の生体力学的特性を示し、より弾力性を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
冠状動脈の生体力学的特性は臨床的診療では決定されないが、そうすることは大きな意味を持つだろう。冠状動脈の脈波伝搬速度を測定することは、冠状動脈の生体力学的特性の直接的に反映する。
【0012】
しかし、アデノシンの注射は心拍数を遅くし、心停止を引き起こす可能性があるため、患者にとって危険である。さらに、これは時間がかかり、処置を遅くする。したがって、アデノシンなどの血管拡張物質に頼ることなく、冠状動脈狭窄の虚血特性を推定する方法が望まれる。
【0013】
本発明はまた、これらの問題の1つ以上を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明は冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステムであって、
-冠状動脈から近位血圧信号を受信し、さらに前記冠状動脈から遠位血圧信号を受信するためのインターフェースと、
-処理装置と、を備え、前記処理装置は以下の通り構成されている:
-受信した近位血圧信号に基づいて、立ち上がりの開始時間Tfmp及び立ち下がり(descendant)の開始時間Tfdpを特定し、
-特定された時間Tfdpと Tfmpとの間の継続時間Tを計算し、
-受信した遠位血圧信号から立ち下がりの開始時間Tfddを特定し、
-前記遠位血圧信号の立ち下がりの開始時間Tfddから前記計算された継続時間Tを減算した後に、前記遠位血圧信号の立ち上がりの開始時間Tfmdを特定し、
-近位血圧測定位置と遠位血圧測定位置との間の距離の値を取得し、
-近位血圧信号及び遠位血圧信号の、それぞれの特定された立ち上がりの開始を隔てている継続時間を計算し、
-前記開始を隔てている継続時間及び前記取得された距離の値に応じて冠状動脈の脈波伝播速度を計算する、
システムである。
【0015】
本発明は、以下の変形例にも関する。以下の変形例の特徴の各々が、中間の一般化を構成することなく、上記の他の特徴と独立して組み合わせることができることは、当業者にとって明白であるだろう。
【0016】
1つの変形例によれば、前記処理装置は遠位血圧信号の導関数を計算するように構成され、さらにTfmdを、Tfdd-Tによって定義される時間に最も近い、計算された導関数のピークの時間に対応するものとして特定するように構成される。
【0017】
1つの変形例によれば、前記処理装置は、
-受信した遠位血圧信号から遠位拡張期圧を引くことによって遠位血圧信号PSCDを導き出し、
-受信した近位血圧信号から近位拡張期圧を引くことによって近位血圧信号PSCPを導き出し、
-信号PSCD及びPSCPをそれぞれの立ち下がりの開始で同期させ、
-継続時間Tにわたる信号PSCDとPSCPとの間の類似度を計算するように構成される。
【0018】
他の変形例によれば、前記処理装置は、以下の不等式
Tfdd-1,1T<Tfmd<Tfdd-0,9
によって定義される区間内でTfmdを決定するように構成される。
【0019】
さらに他の変形例によれば、処理装置は、遠位拡張期圧と遠位血圧信号の立ち上がりに対する接線との交点における時間Tfmdを決定する。
【0020】
1つの変形例によれば、受信インターフェースは心電図信号を受信するように構成され、処理装置は心電図信号のQRS群を時間Tfmpと時間Tfmdのそれぞれから隔てている継続時間を計算するように構成される。
【0021】
他の変形例によれば、処理装置は、
-QRS群の開始時間の前の遠位血圧信号に対して調整され、QRS群の開始時間後に外挿される多項式関数又は対数関数と、
-遠位圧力の立ち上がりに対する接線との交点を計算することによって遠位拡張期圧を決定する。
【0022】
他の変形例によれば、処理装置は近位血圧信号の立ち上がりに対する接線と近位拡張期圧との交点の時間Tfmpを決定し、処理装置は近位血圧信号の立ち下がりの接線と近位収縮期圧との交点の時間Tfdpを決定する。
【0023】
他の変形例によれば、処理装置は、
- 10~20msの幅を有する期間を除いて常にゼロに等しい第1再構成信号であって、前記期間が血圧Tfmpの立ち上がりに対応する時間に中心を有し、前記期間中に前記第1再構成信号が一定値、三角関数、又は心電図信号のQRS群の振幅に等しい、前記第1再構成信号を生成し、
- 10~20msの幅を有する期間を除いて常にゼロに等しい第2再構成信号であって、前記期間が血圧Tfmdの立ち上がりに対応する時間に中心を有し、前記期間中に前記第2再構成信号が一定値、三角関数、又は心電図信号のQRS群の振幅に等しい、前記第2再構成信号を生成し、
- 心周期の継続時間又は呼吸周期の継続時間にわたって、心電図信号と第1再構成信号との間の相互相関関数を計算し、
- 心周期の継続時間又は呼吸周期の継続時間にわたって、心電図信号と第2再構成信号との間の相互相関関数を計算し、
- 前記相互相関関数が最大となる、前記心電図と前記再構成信号との間のオフセットに基づいて、前記最大値が好ましくは0.4~0.6である閾値を上回る場合にのみ、前記心電図信号のQRS群を前記時間Tfmpと前記時間Tfmdからそれぞれ隔てている前記継続時間の平均を前記心周期又は呼吸周期にわたって計算することによって、前記心電図信号のQRS群を時間Tfmp及び時間Tfmdのそれぞれから隔てている継続時間を計算するように構成される。
【0024】
さらに他の変形例によれば、継続時間Tにわたる信号PSCDとPSCPとの間の類似度の計算が不十分である場合、処理装置は様々な時間オフセット値とともに、信号PSCDとPSCPとの間の類似度を、同期された信号の0.2T~0.8Tの区間にわたって計算し、どの時間オフセットTajustに対して、信号PSCDとPSCPとの間の前記類似度が前記区間にわたって最大になるかを決定し、Tfmd=Tfdd-T+Tajustを決定する。
【0025】
1つの変形例によれば、継続時間Tにわたる信号PSCDとPSCPとの間の類似度の計算が不十分である場合、処理装置は、
-時間TfmpとTfdpとの間の近位血圧信号を取得し、
-取得された信号を遠位血圧信号の尺度に適合させ、
-時間Tfdd-TとTfddとの間の遠位血圧信号を取得され、適合された血圧信号で置き換え、
-Tfmdを、取得され、適合された信号に対する接線と遠位拡張期圧との交点として決定する。
【0026】
他の変形例によれば、処理装置は、
-時間Tpfm=Tfmd-Tana(Tanaは5~10ms)における遠位血圧信号の値を決定し、
-時間Tpfmにおいて決定された前記血圧値の遠位拡張期血圧に対する比を計算し、
-計算された比が0.95~1.05の閾値より高い場合、警告信号を発生する。
【0027】
他の変形例によれば、システムは、細長いFFRガイドワイヤであって、前記ガイドワイヤに沿って所定の距離だけ離れた2つの圧力センサを含む前記FFRガイドワイヤをさらに備え、前記2つの圧力センサは前記受信インターフェースに接続され、前記受信インターフェースは前記圧力センサのそれぞれから信号をサンプリングするための回路を備える。
【0028】
1つの変形例によれば、前記2つの圧力センサ間の前記所定の前記距離は70~150mmである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明の他の特徴及び長所は付随する図面への参照とともに、以下の説明から明らかになるだろう。なお、以下の説明は説明の目的のためのものであり、本発明は以下の説明に限定されない。
図1図1は心臓及びその冠状動脈の概略図である。
図2図2は狭窄を含む冠状動脈に挿入された、本発明の一態様によるガイドワイヤの断面図である。
図3図3は本発明の一態様によるFFRガイドワイヤ装置の概略断面である。
図4図4は本発明の一態様による、脈波伝播速度及び冠状動脈の狭窄の虚血特性を決定するための信号処理システムの概略図である。
図5図5は、近位の冠状動脈血圧PSCPの一例を、以下で詳細に説明される、対応する心電図信号、該圧力PSCPの導関数、及び心電図信号(SPR)に基づいて再構成された信号とともに示す図である。
図6図6は、遠位の冠状動脈血圧PSCDの一例を、以下で詳細に説明される、対応する心電図信号、該圧力PSCDの導関数、及び心電図信号(SDR)に基づいて再構成された信号とともに示す図である。
図7図7は血圧信号PSCPに対して実行される処理の一例を示す。
図8図8は血圧信号PSCDに対して実行される処理の一例を示す。
図9図9及び10は信号PSCPの一部の選択を示す。
図10図9及び10は信号PSCPの一部の選択を示す。
図11図11及び12は信号PSCDの立ち上がりを決定するための、信号PSCPの一部の使用を示す。
図12図11及び12は信号PSCDの立ち上がりを決定するための、信号PSCPの一部の使用を示す。
図13図13は外挿された拡張期圧(PDE)の決定の特定のケースを示す、遠位冠状動脈血圧PSCD図の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は冠状動脈の脈波伝播速度を正確かつ再現可能に決定する(さらに、潜在的に冠状動脈の病変の狭窄の程度を正確かつ再現可能に決定する)ことを可能にし、患者の治療の決定に関連する、現場の医師の意思決定プロセスを容易にする。また、本発明は既に臨床的に承認されているFFRガイドワイヤ挿入手順と同時に実施されてもよい。
【0031】
図1は人間の心臓1の概略図である。心臓につながっている大動脈11、及び冠状動脈12から15が描かれている。冠状動脈は酸素化された血液を心筋に供給するためのものである。詳細には、図1は右冠状動脈12、後下行冠状動脈13、左回旋冠状動脈14、及び左前下行冠状動脈15を示す。
【0032】
図2は患者の冠状動脈の脈波伝播速度を計算するために信号を取得する方法の一例を示す。FFRガイドワイヤ3は、その自由端を冠状動脈10内に配置するように挿入される。ここで、ガイドワイヤ3は、その自由端に2つの圧力センサ31及び32を備える。圧力センサ31は、動脈10と心臓との接合部の近傍の血圧を測定するために遠位の位置にある。圧力センサ32は、動脈10の大動脈との接合部の近傍の血圧を測定するために近位の位置にある。圧力センサ32はガイドワイヤ3に沿って所定の距離Dmdだけ圧力センサ31から離れている。ここで、図に示された冠状動脈10は狭窄20を含み、圧力センサ31及び32はこの狭窄20の両側に配置されている。
【0033】
図3は本発明の一態様によるガイドワイヤ3の2つの端部の概略断面図である。ガイドワイヤ3は、格納用外装30内を公知の方法で摺動するワイヤ39を含む。ワイヤ39は、その構造を示すために概略的に図示されている。ワイヤ39は正確な縮尺で図示されていない。ワイヤ39は、それが挿入される冠状動脈の形態に適合するために可撓性である。ワイヤ39は中空の金属スリーブ33を備える。金属スリーブ33は合成材料製の外装34で覆われている。ワイヤ39は、好ましくは、その自由端に先端35を含む。先端35は、好ましくは、可撓性で放射線不透過性であってもよい。ここで、先端35は金属スリーブ33に取り付けられている。
【0034】
ここで、圧力センサ31はスリーブ33の周囲に取り付けられ、先端35と外装34との間に配置されている。圧力センサ31は遠位血圧を測定するためのものである。(その構造自体は公知である)圧力センサ31は血圧信号を伝達するためにケーブル311に接続されている。ケーブル311はセンサ31に接続するために、スリーブ33に形成された開口を通過する。ワイヤ311はスリーブ33の内側孔330を通って拡張する。
【0035】
ここで、圧力センサ32はスリーブ33の周囲に取り付けられ、外装34の2つの区間の間に配置される。圧力センサ32は近位の血圧を測定するためのものである。圧力センサ32は血圧信号を伝達するためにケーブル321に接続されている。ケーブル321はセンサ32に接続するために、スリーブ33に形成された開口を通過する。ワイヤ321はスリーブ33の内側孔330を通って拡張する。
【0036】
ワイヤ39は可撓性であるが、実質的に非圧縮性又は非伸長性である。したがって、ワイヤ39はセンサ31と32との間に一定の距離Dmdを維持する。センサ31と32との間の距離は、実際にはワイヤ39に沿ったこれらのセンサ間の曲線距離に対応する。センサ31と32との間の距離は、好ましくは、これらのセンサ31と32との間の距離が脈波伝播速度の計算が高レベルの精度を有するために十分に大きく、少なくとも70mm以上である。さらに、センサ31と32との間の距離は、好ましくは、ガイドワイヤ3が大多数の冠状動脈の標準的な長さにおいて使用することができるように、最大でも150mm以下である。さらに、所定の距離に保持されたセンサ31及び32を含むガイドワイヤ3を使用することにより、同一の冠状動脈内の2つの圧力測定間の距離による不正確さを排除することが可能になる。
【0037】
ワイヤ39は、それの反対側の自由端において柄36に取り付けられている。ここで、スリーブ33及び外装34は柄36に埋め込まれている。したがって、柄36はワイヤ39の移動を可能にする。この例では、ガイドワイヤ3は、測定された血圧信号を無線インターフェースを介して処理システムに送るように構成されている。しかしながら、ガイドワイヤ3は有線インターフェースを介して処理システムと通信してもよい。ここで、デジタル化/駆動回路38は柄36の内部に収容されている。ワイヤ39のケーブル311及び321は回路38に接続されている。回路38は送信アンテナ37に接続されている。回路38は、センサ31及び32によって測定され、ケーブル311及び321によって送信された信号をデジタル化するように構成されている。回路38はまた、適当な通信プロトコルを使用してアンテナ37を介してデジタル化された信号を遠隔に送信するように構成されている。回路38には公知の方法で電力が供給されるが、ここでの説明は省略する。
【0038】
外装34はワイヤ39の自由端に疎水性材料で形成されてもよいし、自由端と柄36との間にPTFE等の他の材料で形成されてもよい。
【0039】
ガイドワイヤ3は信号処理システム4と通信する。ここで、システム4は、ガイドワイヤ3と通信するための無線通信インターフェース41を備える。したがって、システム4は、アンテナ37によって通信された情報を受信するように構成された受信アンテナ41を備える。受信アンテナ41は処理回路42に接続されている。システム4は有線通信インターフェース43を備える。インターフェース43は、例えば、処理回路42によって計算された結果を表示画面5に表示することができる。処理回路42がデジタルの近位及び遠位の冠状動脈血圧信号を処理することを可能にするために、例えば、アナログ/デジタル変換器が処理回路42内に、すなわちガイドワイヤ3内に組み込まれてもよい。
【0040】
処理回路42は以下の処理動作を行うように構成されている。
・インターフェース41を介して受信した近位の冠状動脈血圧信号(以下、PSCPと呼ぶ)の立ち上がりの開始時間Tfmpを特定し、
・インターフェース41を介して受信した血圧信号PSCPの立ち下がりの開始時間Tfdpを特定し、
・特定された時間TfdpとTfmpとの間の継続時間Tを計算し、
・インターフェース41を介して受信した遠位の冠状動脈血圧信号(PSCDと称する)の立ち下がりの開始時間Tfddを特定し、
・時間Tfddから継続時間Tを減算することによって、インターフェース41を介して受信した血圧信号PSCDの立ち上がりの開始時間を特定する。時間Tfmdは、例えば、Tfdd-1.1T<Tfmd<Tfdd-0.9Tとなるように選択されてもよい。
・近位血圧測定位置と遠位血圧測定位置との間の距離Dmdの値を取得する。この距離Dmdは、例えば、ガイドワイヤ3が所定の距離だけ離れている2つの圧力センサ31及び32を備える場合、ガイドワイヤ3又はシステム4に格納される。
・立ち上がりTfmpとTfmdの開始を隔てている継続時間Tmdを計算し、
・この継続時間Tmd及び距離Dmdに基づいて冠状動脈の脈波伝播速度を計算する。
【0041】
好ましくは、信号PSCDは信号PSCDから遠位拡張期圧(遠位拡張期圧は以下に詳細に説明される)を引くことによって導き出され、信号PSCPは信号PSCPから近位拡張期圧(近位拡張期圧は以下に詳細に説明される)を引くことによって導き出され、信号PSCP及びPSCDは立ち下がりの開始で同期化され、そして、Tに等しい継続時間の間の信号PSCPとPSCDとの間の類似度が計算される。類似度は信号PSCPとPSCDとの間の平均二乗偏差を用いて、又はこれらの信号間の自己相関関数を用いて計算されてもよい。Tに等しい継続時間の間の、PSCPとPSCDとの間の複数のオフセットに対する、PSCPとPSCDとの間の類似度の計算は、例えば、+/-20msの範囲にわたって、0.1ms~0.5ms(サンプリング周期に相当)の時間増分とともに、時間区間
[-0.1T;0.1T]
で繰り返される。PSCPとPSCDとの最大の類似性に対する最適オフセット(Tajust)が計算される。
【0042】
次に、時間TFMDを特定するステップは、時間Tfddから継続時間Tを減算し、Tajustを加算することによって実施され、継続時間TMDが計算され、距離DMDの値が取得され、そして冠状動脈の脈波伝播速度がDmdをTmdで除算することにより、以下に詳細に説明されるように計算される。
【0043】
実際には、血圧信号PSCPは大動脈圧に対して非常に忠実であることが分かる。したがって、血圧信号PSCPは、それに対して行われるデジタル処理操作の結果を変えてしまう可能性があるアーティファクトをあまり含まない。一方、血圧信号PSCDは、特に、血液微小循環効果のために、それに対して行われるデジタル処理操作の結果を変えてしまう可能性があるアーティファクトを多数含む可能性がある。特に、血圧信号PSCDの立ち上がりはこのようなアーティファクトに特に敏感であることが判っており、この立ち上がりのみを分析することによってこの立ち上がりの開始を直接的に決定することは、著しく不正確であることが判っている。一方、本発明者は、血圧信号PSCDの立ち下りへのアーティファクトによる影響が比較的少ないことを確認した。従って、本発明は、血圧信号PSCDの立ち下がりの開始を決定し、次に、正確に決定された血圧信号PSCP(又はPSCP)の立ち上がりと立ち下がりとを隔てている継続時間に基づいて、そこから血圧信号PSCDの立ち上がりの開始まで遡ることによって、血圧信号PSCD(又はPSCD)の立ち上がりの開始を決定することを提案している。
【0044】
図7は血圧信号PSCPに対して実行される処理の一例を示す。この例では、処理回路42は、
-(破線で示されている)圧力PSCPの立ち上がりに対する接線61;
-(点線で示されている)直線62によって示されている拡張期圧;
-(実線で示されている)圧力PSCPの立ち下がりに対する接線63;
-(点線で示されている)直線64によって示されている収縮期圧を決定する。
【0045】
ここで、処理回路42は、接線61と拡張期圧直線62との交点の横座標を介して圧力PSCPの立ち上がりの開始時間Tfmpを決定する。ここで、処理回路42は、接線63と収縮期圧直線64との交点の横座標を介して圧力PSCPの立ち上りの開始時間Tfdpを決定する。
【0046】
時間Tfmp及び/又はTfdpを決定するために、処理回路42によって他の方法が実施されてもよい。例えば、圧力PSCPの一次又は二次の導関数を計算し、次いで、(正のピーク及び負のピークをそれぞれ特定するために)この一次又は二次導関数が正の閾値及び負の閾値をそれぞれ交差する時間を決定することができる。これらの時間は、それぞれ、値Tfmp及びTfdpに対して使用されてもよい。
【0047】
収縮期圧及び拡張期圧は、例えば、血圧PSCPの極値を取ることによって、少なくとも1つの心拍全体にわたる血圧PSCPを分析することによって、既知の方法で計算されてもよい。
【0048】
好ましくは、回路42は、信号PSCP(又はPSCP)又はPSCD(又はPSCD)を処理する前に、心拍間の急激な血圧変動を除去するために、(例えば、10~20Hzのカットオフ周波数で)ローパスフィルタリングを実施してもよい。
【0049】
好ましくは、(近位血圧にも適用可能であるが)遠位血圧について図13に示されているように、上記の計算に使用される拡張期圧は外挿により決定されてもよい。
-心臓の収縮の直前の時間Tqrs(QRS群)が決定され、
-Tqrs前の血圧サンプルに対して調整された多項式関数又は対数関数が決定され(太線)、
-遠位拡張期圧の値が、時間Tfmp又はTfdd-T+Tajust(正方形の点)以前の、調整された多項式関数又は対数関数を外挿することによって決定される。この値は外挿された拡張期圧値(PDE)として定義される。
【0050】
図8は血圧信号PSCDに対して実行される処理の一例を示す。この例では、処理回路42は、
-(破線で示されている)血圧PSCDの立ち下がりに対する接線65;
-(点線で示されている)直線66によって示されている収縮期圧を決定する。ここで、処理回路42は時間Tfddから時間Tを引くことによって圧力PSCD(又はPSCD)の立ち上がりの開始時間Tfmdを決定する。また、様々な基準を使用して値Tfdd-Tに近い区間で値Tfmdを探索してもよい。Tfmdは、例えば、不等式:Tfdd-1.1T<Tfmd<Tfdd-0.9T、好ましくは、Tfdd-1.05T<Tfmd<Tfdd-0.95Tを満たしてもよい。例えば:
【0051】
-信号PSCPとPSCDとの間の類似度が十分に高い場合(平均二乗偏差が閾値よりも低い場合、又は自己相関関数の最大値が閾値を超える場合)、時間Tfmdは、Tfdd-Tによって定義される時間に最も近いPSCDの導関数のピークに基づいて計算される。時間Tfmdは、PSCDの導関数のこのピークにおける信号PSCDに対する接線を決定し、次いで、この正接と外挿された遠位拡張期圧との交点を決定することによって計算されてもよい。
【0052】
-信号PSCPとPSCDとの間の類似度が不十分である場合(平均自乗偏差が閾値よりも高い場合、又は自己相関関数の最大値が閾値よりも低い場合)、血圧PSCP及びPSCD、又はそれらの導関数の信号の、周期Tの中間の一部分のみにわたって、好ましくは区間Tの20%~80%の部分のみにわたって十分な類似性が新たに探索される。類似度は、信号PSCDと信号PSCPとの間で、(例えば、+/-20msの範囲にわたって、0.1ms~0.5ms(サンプリング周期に相当)の時間増分とともに)多様な時間オフセット対して計算される。最大類似度は値Tajust対して得られる。上記の時間オフセットTajustとともに、信号の上記の部分に対して十分な類似度が得られた場合、時間TfmdはTfmd=Tfdd-T+Tajustによって正確に定義される。
【0053】
-他の計算方法によれば、信号PSCPと信号PSCDとの間の類似度が不十分である場合、図9及び図10に示されるように、時間TfmpとTfdpとの間の信号PSCPが取得される。取得された信号は、図11に示されるように、信号PSCDの尺度に適合される。取得された信号PSCPの横座標の尺度(時間軸)は変更されない。取得された信号PSCPの縦座標の尺度は、その極値が直線66によって規定される遠位収縮期圧に対応し、さらにその最小値が直線68によって規定される外挿された遠位拡張期圧に対応するように適合される。取得された信号PSCPは、時間Tfdd-TとTfddとの間の信号PSCDを置き換えることによって適合され、挿入される。図12に示されるように、時間Tfmdは、外挿された遠位拡張期圧68と、上記挿入された信号PSCDの立ち上がりに対する接線67との交点として決定されてもよい。この代替的な方法は、時間Tfmdを決定するために信号PSCPの精度の恩恵を得ることを可能にする。時間Tfmdを定義する目的で、信号PSCPの立ち上がりを信号PSCDに適合させるための他の方法が用いられてもよい。
【0054】
-信号PSCPとPSCDとの間の類似度が十分である場合、圧力PSCDの導関数の第2のピークが検出され、圧力PSCDの導関数のこの第2のピークが、時間の経過の順で検出された該導関数の第1のピークよりも、(Tfdd-T)によって定義される時間に近い場合、このことは冠状動脈の狭窄に関連付けられてもよいので、処理回路42は現場の医師の注意を引き付けるために適当な警告信号を発生してもよい。このような場合、考慮すべきもう1つのパラメータは、時間の経過の順で検出された血圧の導関数の第1のピークに対応する圧力の振幅、この振幅のPSCDの値に対する比、QRS群の直前の時間Tqrs(図13参照)であってもよい。この比が閾値を上回るとき、このことは冠状動脈の狭窄に関連付けられてもよいので、処理回路42は現場の医師の注意を引き付けるために適当な警告信号を発生してもよい。
【0055】
信号PSCPとPSCDとの間の類似度が不十分である場合、このことは非常に重大な冠状動脈の狭窄に関連付けられてもよいので、処理回路42は現場の医師の注意を引き付けるために適当な警告信号を発生してもよい。
【0056】
図5は、複数の心拍に重ねられた、(左前下行冠状動脈に対する)近位の冠状動脈血圧PSCPの一例を、対応する心電図信号ECG、該血圧PSCPの導関数、及び心電図信号に基づいて再構成された近位信号SPRとともに示す図である。近位部における底部の曲線に対応する再構成された近位信号SPRは以下の関係に従って定義されてもよい。
SPR=定数、三角関数、又は、好ましくは10~20msの幅を有し、時間Tfmpを中心とする心電図信号のQRS群の振幅。
SPR=0 それ以外の場合。
【0057】
図6は、複数の心拍に重ねられた、PSCDの一例を、対応する心電図信号ECG、該圧力PSCDの導関数、及び心電図信号に基づいて再構成された遠位信号SDRとともに示す図である。遠位部における底部の曲線に対応する再構成された遠位信号SDRは以下の関係に従って定義されてもよい。
SDR=定数、三角関数、又は、好ましくは10~20msの幅を有し、時間Tfmdを中心とする心電図信号のQRS群の振幅。
SDR=0 それ以外の場合。
【0058】
血圧波が近位と遠位の測定位置の間を冠状動脈を通って伝播するためにかかる時間Tmdは以下の関係式で決められる:Tmd=(Tfmd-Tfmp)(モジュロTc)、すなわち、TmdのTcによる除算の余りの部分。
Tcは、計算に使用される信号PSCP(又はPSCP)及び信号PSCD(又はPSCD)が同時でない場合における、血液脈動の平均期間である。
冠状動脈の脈波伝播速度CPWVは次の関係式によって計算される。
CPWV=Dmd/Tmd
計算された伝搬速度CPWVは、類似の動脈や類似の患者に対する参照閾値と比較されてもよい。速度CPWVがそのような参照閾値(適宜、下限閾値又は上限閾値)を交差するとき、処理回路42は現場の医師の注意を引き付けるために適当な警告信号を発生してもよい。特に、高血圧、糖尿病、異常脂肪血症、喫煙、冠状動脈等の心血管疾患の家族歴、又は以前の冠状動脈等の心血管の事象等の様々な危険因子に応じて、様々な閾値が使用されてもよい。
【0059】
PSCP信号及びPSCD信号が同時に有効でない場合、時間Tfmd及びTfmpは、心電図のQRS群に対するそれぞれのオフセットOffsprox及びOffsdisによって決定されてもよい。例えば、心電図信号と再構成信号SPRとの間の自己相関をPSCP(又はPSCP)に基づいて計算し、心電図信号と再構成信号SDRとの間の自己相関をPSCD(又はPSCD)に基づいて計算する。2つの関数S1とS2との間のパラメータkの自己相関関数は、通常、以下の計算を含む。
【数1】
【0060】
自己相関関数は正規化されてもよい。自己相関関数はまた、1サイクルのみにわたる実質的な誤差を生ずる、呼吸に起因する潜在的なばらつきの効果を制限するために、複数の心周期にわたって平均化されてもよい。
上記の数式において、iは関数S1又はS2のサンプルの時間指標であり、Nは調査したサンプルの数である。上記計算をパラメータkの多様な値に対して実行することにより、関数S1とS2との間の時間オフセットに対応する値Kに対して、自己相関関数の最大値が得られる。そして、関数S1とS2のサンプリング期間をΔTとすると、関数S1とS2との間の時間オフセットの値はKΔTとなる。
【0061】
したがって、自己相関関数は、心電図のQRS群とPSCP(又はPSCP)の立ち上がりとの間のオフセットOffsproxの計算、及び心電図のQRS群とPSCD(PSCD)の立ち上がりとの間の時間オフセットOffsdisの計算を可能にする。継続時間TmdはTmd=Offsdis-Offsproxによって導き出される。
【0062】
心電図と複数の連続する分析期間にわたって再構成された信号SPR及びSDRとの間の自己相関関数を計算することができれば、オフセットOffsprox及びOffsdisのそれぞれの時系列を得ることができる。自己相関関数のピークの値が1つの分析期間にわたって低すぎる場合(好ましくは0.4~0.6の閾値を下回る場合)、このピークはノイズの多い心電図信号に対応するか、又は時間Tfmp及びTfmdの誤検出に対応する可能性があるので、この分析期間は値Offsdis又はOffsproxの時系列から除外されてもよい。
【0063】
連続する分析期間の場合、オフセットOffsprox及びOffsdisのそれぞれに対して時系列が生成されてもよい。MOffsprox及びMOffsdisに対するこれらの時系列の平均は、継続時間Tmd=MOffsdis-MOffsproxを計算するために使用されてもよい。オフセットOffsprox及びOffsdisの時系列と、これらのオフセットと同じ期間にわたって平均された、対応する拡張期動脈圧(PAD)の時系列との間に線形関係がある可能性がある場合、これらのオフセットOffsprox及びOffsdisは、一定の拡張期動脈圧に対するオフセットを得るために以下のように補正されてもよい。
・近位PADと遠位PADとの間で共通PAD及びPADcが計算される。好ましくは、近位及び遠位のPADの平均である。そうでない場合、2つの近位又は遠位の拡張期動脈圧の一方又は他方が使用される。
・ルール:Offsprox=Kprox×PADprox+Cproxに従って、近位部(PADprox)におけるPADに対する点群Offsproxから線形回帰が探索される。さらに、相関係数Rprox及び回帰の確率Pproxが計算されてもよい。
・ルール:Offsdis=Kdis×PADdis+Cdisに従って、近位部(PADdis)におけるPADに対する点群Offsdisから線形回帰が探索される。さらに、相関係数Rdis及び回帰の確率Pdisが計算されてもよい。
・オフセットOffsproxとOffsdisは、上記の共通の値PADcに対してそれらの値を外挿するために補正されてもよい。
・線形回帰が近位及び遠位の両方の位置で示される場合、すなわち、Rprox及びRdisが特定の閾値より大きい、かつ/又はKprox及びKdisが特定の閾値より大きい、かつ/又は確率Pprox及びPdisが特定の閾値より小さい場合、補正されたオフセットOffsprox’及びOffsdis’は
・Offsprox’=Offsprox-Kprox×(PADprox-PADc)
・Offsdis’=Offsdis-Kdis×(PADdis-PADc)となる。
・線形回帰が近位部においてのみ示される場合、すなわち、Rproxが特定の閾値より大きい、かつ/又はKproxが特定の閾値より大きい、かつ/又は確率Pproxが特定の閾値より小さい場合、補正されたオフセットOffsprox’は、
・Offsprox’=Offsprox-Kprox×(PADprox-PADc)、avec PADc=PADdisとなる。
・線形回帰が遠位の位置においてのみ示される場合、すなわちRdisが特定の閾値より大きい、かつ/又はKdisが特定の閾値より大きい、かつ/又は確率Pdisが特定の閾値より小さい場合、補正されたオフセットOffsdis’は、
Offsdis’=Offsdis-Kdis×(PADdis-PADc)、avec PADc=PADproxとなる。
【0064】
他の計算方法によれば、オフセットは、拡張期動脈圧ではなく、収縮期動脈圧又は心拍数の関数と同様な方法で補正されてもよい。
【0065】
圧力PADprox及びPADdisに対する時系列の平均が遠位圧力の減少を示し、この減少の振幅が特定の閾値より大きい場合、このことは冠状動脈の狭窄に関連付けられてもよいので、処理回路42は現場の医師の注意を引き付けるために適当な警告信号を発生してもよい。
【0066】
さらに、処理回路42は冠状動脈の狭窄に関連付けられる他の状況に対する警告信号を発生してもよい。値Tfmdを決定した後、値Tpfm=Tfmd-Tana(Tanaは5~10ms)が計算される。Tanaは立ち上がり前の遠位の冠状動脈血圧のアーティファクトの増大に対応する分析の継続時間に対応する。時間TpfmにおけるPSCDの値Ptpfmが決定される。比R=Ptpfm/PDEが計算される。ここでPDEは遠位部における外挿された拡張期圧である。Rが閾値(例えば、0.95~1.05)を超える場合、そのような比Rは、アデノシンなどの血管拡張物質に頼るこまでもなく、冠状動脈の狭窄の虚血特性を示す可能性が高いので、処理回路42は警告信号を発生してもよい。
【0067】
上述された時間Tfmp及びTfmdを決定するための方法は、拡張期圧を表す直線との交点の探索を用いてもよい。しかし、拡張期圧は時間とともに大きく変化する可能性がある。したがって、信号PSCP又はPSCD(又はPSCP及びPSCD)の急激な変動をフィルタリングするために、ローパスフィルタを使用して測定された拡張期圧値を補正することが好ましいかもしれない。
【0068】
その使用が保健機関によって承認されており、日常的な臨床診療の一部をなすFFRガイドワイヤを使用することにより、本発明によるシステムを実用的に能率化された臨床的確認処理で使用することが可能になる。
【0069】
上で詳細に説明した例では、FFRガイドワイヤ3は互いに所定の距離Dmdだけ離れた2つの圧力センサ31及び32を備える。現場の医師によって冠状動脈の遠位部と近位部との間の所定の距離にわたって移動される単一の圧力センサを備えたFFRガイドワイヤが使用されてもよい。近位部及び遠位部におけるそれぞれの測定信号の分析中、この距離Dmdは脈波伝播速度を計算するために考慮される。
【0070】
例えば、200Hz~2kHzの周波数で遠位冠状動脈圧及び/又は近位冠状動脈圧をサンプリングしてもよい。サンプリング周波数が不十分であると考えられる場合には、(例えば、三次スプラインを使用して)サンプリング値を補間し、初期のサンプリング周波数よりも高い周波数で新たに補間信号をサンプリングしてもよい(オーバーサンプリング)。例えば、サンプリング周波数が500Hzの場合、2kHz以上の周波数で補間された信号をオーバーサンプリングしてもよい。
【0071】
本発明の冠状動脈の脈波伝播速度を測定するためのシステムを用いて59人の患者のサンプルについて試験を行った。これらの試験は、冠状動脈造影処置を受け、FFR分析を勧められた患者に対して行われた。FFR解析は、特に、左下行冠状動脈(LDA)、右冠状動脈(RCA)、又は回旋冠状動脈(Cx)の狭窄部位で、目視検査により50%を超える直径の減少があると判断された場合に勧められた。
【0072】
FFR分析は、St. Jude Medicalから製品番号C12058で販売されている圧力測定ガイドワイヤを使用して行った。これらのガイドワイヤを用いて侵襲的血圧を測定し、アナログ/デジタル取得カードを用いて、500Hzの周波数でコンピュータ上でサンプリングした。同時に、心電図信号を測定し、サンプリングした。同時に、ヴァルサルヴァ洞、腕頭動脈、及び橈骨動脈において血圧及び心電図信号を測定した。遠位及び近位の圧力が測定された部位間の距離を決定するために、この距離はガイドワイヤの外側部分の移動に基づいて決定された。
【0073】
冠状動脈の脈波伝播速度を値CPWVで表すと、上記の患者に対して、CPWVの平均値10.37(+/-6.23)m/sが測定された。また、この値は良好な再現性を示した。より具体的には、左前心室冠状動脈に対してCPWVの平均値10.06(+/-4.85)m/sが測定され、右冠状動脈に対してCPWVの平均値10.07(+/-6.86)m/sが測定され、さらに、回旋状冠状動脈に対してCPWVの平均値12.4(+/-7.06)m/sが測定された。CPWV値がステント14.25(+/-5.68)m/sを含むこれらの冠状動脈についてより高いことが観測された。さらに、同一の冠状動脈に対してステントを挿入すると、CPWVが9.79(+/-5.1)m/sから17.34(+/-9.03)m/sに増大した。これは金属要素が弾性構造内に埋め込まれたときに、機械的観点から予想されることである。CPWVの決定要因は腎機能、体格指数、及びステントの存在であった。
【0074】
さらに、侵襲的及び非侵襲的に測定された大動脈の脈波伝播速度値の間に有意な相関が観測された。これらの観測から、本発明によるシステムを使用して決定されたCPWV値が信頼できるものであると結論付けることができると言える。
【0075】
一般的に、狭窄は特に、若年の患者で検出不可能であることを考えると、本発明は冠状動脈内の中度の狭窄を検出するために、特に適しているであろう。
図1
図2
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図11
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図13