(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/185 20060101AFI20220124BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220124BHJP
【FI】
B41J2/185 101
B41J2/01 301
(21)【出願番号】P 2019525112
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013557
(87)【国際公開番号】W WO2018235378
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2020-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2017120424
(32)【優先日】2017-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】有馬 崇博
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 光雄
(72)【発明者】
【氏名】岡野 守
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 明
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-153145(JP,A)
【文献】実開昭64-016332(JP,U)
【文献】特表昭63-500508(JP,A)
【文献】米国特許第04268836(US,A)
【文献】特開平11-348254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク粒子を形成するノズルと、前記インク粒子を帯電させる帯電電極と、帯電した前記インク粒子を偏向させる偏向電極と、偏向した前記インク粒子を吐出させて印字対象物に印字する印字ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、
浮遊するインクを捕集する捕集部材を、前記印字ヘッドと前記印字対象物の間に配置するとともに、
前記捕集部材は、前記印字ヘッドから吐出した前記インク粒子を通過させる開口部を有
し、
前記捕集部材を支持する捕集部材支持部を前記印字ヘッドから取り外し、前記捕集部材支持部と前記印字対象物との距離を調整可能であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
インク粒子を形成するノズルと、前記インク粒子を帯電させる帯電電極と、帯電した前記インク粒子を偏向させる偏向電極と、偏向した前記インク粒子を吐出させて印字対象物に印字する印字ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、
浮遊するインクを捕集する捕集部材を、前記印字ヘッドと前記印字対象物の間に配置するとともに、
前記捕集部材は、前記印字ヘッドから吐出した前記インク粒子を通過させる開口部を有
し、
前記捕集部材はシール紙であり、前記捕集部材を支持する捕集部材支持部から貼り替えることで取り換えられることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
インク粒子を形成するノズルと、前記インク粒子を帯電させる帯電電極と、帯電した前記インク粒子を偏向させる偏向電極と、偏向した前記インク粒子を吐出させて印字対象物に印字する印字ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、
浮遊するインクを捕集する捕集部材を、前記印字ヘッドと前記印字対象物の間に配置するとともに、
前記捕集部材は、前記印字ヘッドから吐出した前記インク粒子を通過させる開口部を有
し、
前記捕集部材ならびに前記捕集部材を支持する捕集部材支持部は、テーパを有し、前記印字ヘッドには前記浮遊するインクを吸引するインク吸引部を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項4】
インク粒子を形成するノズルと、前記インク粒子を帯電させる帯電電極と、帯電した前記インク粒子を偏向させる偏向電極と、偏向した前記インク粒子を吐出させて印字対象物に印字する印字ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、
浮遊するインクを捕集する捕集部材を、前記印字ヘッドと前記印字対象物の間に配置するとともに、
前記捕集部材は、前記印字ヘッドから吐出した前記インク粒子を通過させる開口部を有
し、
前記印字ヘッド内に、前記偏向電極と接続した前記浮遊するインクを吸引するインク吸引部を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項5】
請求項
4に記載のインクジェット記録装置であって、
前記インク吸引部は開口部を有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
請求項
4に記載のインクジェット記録装置であって、
前記インク吸引部は、前記印字ヘッドと近接する先端部分を、絶縁カバーで覆うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項7】
請求項6に記載のインクジェット記録装置であって、
前記インク吸引部は、前記絶縁カバーと非接触であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
請求項6に記載のインクジェット記録装置であって、
前記絶縁カバーは、撥水性を高めるために表面をフッ素系樹脂で覆われていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから連続的にインクを噴出し、印字対象物上に印字を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、印字ヘッドのインク吐出口からインクを飛翔させて印字を行うため、被印字媒体に対して非接触に印字を行うことができる。しかし、印字ヘッドと被印字媒体との距離が近接する場合には、インクが被印字媒体に衝突した際に印字ヘッド側に跳ね返り、印字ヘッドの表面が汚れるという場合がある。
【0003】
また、跳ね返ったインクは帯電しているため、印字ヘッド内部の偏向電極に引き付けられ、電極を汚す恐れがあり、印字品質が低下する可能性がある。
【0004】
これを解決するための背景技術として、特開2017-1275号公報(特許文献1)がある。この公報には、「インクを吐出して被印字媒体に印字を行うためのノズルを収容するインクジェット記録装置であって、浮遊するインクを静電力で回収するインク回収装置を、前記印字ヘッドの側面に設けることを特徴とするインクジェット記録装置」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、印字ヘッドの側面にインク回収装置を設置するため、印字ヘッド側面にインク回収装置の設置スペースが必要になるという課題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、浮遊するインクによる印字ヘッドの汚染を、小さいスペースで抑制することができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の好ましい例としては、インク粒子を形成するノズルと、前記インク粒子を帯電させる帯電電極と、帯電した前記インク粒子を偏向させる偏向電極と、偏向した前記インク粒子を吐出させて印字対象物に印字する印字ヘッドとを備えたインクジェット記録装置において、浮遊するインクを捕集する捕集部材を、前記印字ヘッドと前記印字対象物の間に配置するとともに、前記捕集部材は、前記印字ヘッドから吐出した前記インク粒子を通過させる開口部を有するインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、浮遊するインクによる印字ヘッドの汚染を、小さいスペースで抑制することができるインクジェット記録装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1における印字ヘッドの外観を示す斜視図である。
【
図2】実施例1における印字ヘッドの内部構成を示す部分断面図である。
【
図3】実施例1における印字ヘッドにおいて、印字ヘッドカバーを外した状態を示す斜視図である。
【
図4】実施例1における印字ヘッドカバーを示す斜視図である。
【
図5】実施例1におけるインクミスト捕集部材を示す斜視図である。
【
図6】インクジェット記録装置の外観斜視図を示す。
【
図7】インクジェット記録装置の使用状態を示す斜視図である。
【
図8】インクジェット記録装置の動作原理を示す概念図である。
【
図9】インクジェット記録装置で印字する際のインクミスト発生状態を説明する図である。
【
図10】実施例1におけるプラス偏向電極を示す斜視図である。
【
図11】実施例1におけるプラス偏向電極の変形例を示す斜視図である。
【
図12】実施例2における印字ヘッドの外観を示す図である。
【
図13】実施例3における印字ヘッドの構成及び使用形態を示す部分断面図である。
【
図14】実施例4における印字ヘッドの構成を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
<装置外観の構成>
図6は、実施例1に係るインクジェット記録装置400の外観斜視図を示す。
図6において、1はインクジェット記録装置本体、2は印字ヘッド、3は操作表示部、4は導管である。インクジェット記録装置400は、インクジェット記録装置本体1に操作表示部3を備え、外部に印字ヘッド2を備え、インクジェット記録装置本体1と印字ヘッド2は導管4にて接続されている。
【0013】
<装置の使用形態>
次に、このインクジェット記録装置400の使用状態について
図7を用いて説明する。
図7において、1はインクジェット記録装置本体、2は印字ヘッド、4は導管、13は数字や文字を印字される印字対象物、15は印字対象物13を搬送するベルトコンベア、16はベルトコンベア15の搬送距離を計測するロータリエンコーダ、17は印字センサである。
【0014】
インクジェット記録装置400は、例えば、食品や飲料などが生産される工場内の生産ラインに据え付けられ、本体1は使用者が操作できる位置に設置され、印字ヘッド2はベルトコンベア15などの生産ライン上を給送される印字対象物13に近接できる位置に設置される。
【0015】
ベルトコンベア15などの生産ライン上には給送速度に係わらず同じ幅で印字するために、給送速度に応じた信号をインクジェット記録装置に出力するロータリエンコーダ16や、印字対象物13を検出してインクジェット記録装置に印字を指示する信号を出力する印字センサ17が設置されていて、それぞれは本体1内の図示しない制御部に接続されている。
【0016】
ロータリエンコーダ16や印字センサ17からの信号に応じて制御部がノズル8から吐出されるインク粒子7Cへの帯電量や帯電タイミングを制御し、印字対象物13が印字ヘッド2近傍を通過する間に帯電、偏向されたインク粒子7Cを印字対象物13へ付着させて印字を行うようになっている。
【0017】
<装置の動作原理>
次に、インクジェット記録装置の動作原理について
図8を用いて説明する。
図8において、18は主インク容器、7Aはインク、24はインクを加圧し、送り出すポンプ(供給用)、9は電圧を印加すると所定の周波数で振動する電歪素子、8はインクを吐出するノズル、7Bはインク柱である。10はインク粒子に帯電させる帯電電極、7Cはインク粒子で、11はグランド偏向電極、12はプラス偏向電極、13は印字される印字対象物、14は印字しないインク粒子を回収するガターである。
【0018】
主インク容器18内のインク7Aはポンプ(供給用)24に吸引、加圧されてインク柱7Bとなってノズル8から吐出される。ノズル8には、電歪素子9が備えられており、インクに所定の周波数で振動を加えてノズル8から吐出されるインク柱7Bを粒子化するようになっている。これにより生成されるインク粒子7Cの数は,電歪素子9に印加する励振電圧の周波数により決定され、その周波数と同数となる。インク粒子7Cは、印字情報に対応した大きさの電圧を帯電電極10にて印加することで電荷を与えられるようになっている。
【0019】
帯電電極10で帯電させられたインク粒子7Cは、グランド偏向電極11とプラス偏向電極12間の電界中を飛翔する。偏向電界は、1~7kVの高電圧が印加されたプラス偏向電極12と設置されたグランド偏向電極11との間に形成されており、帯電したインク粒子7Cは、その帯電量に比例した力を受けて偏向し、印字対象物13へ向かって飛翔して着弾する。
【0020】
その際、インク粒子7Cは帯電量に応じて偏向方向の着弾位置は変化し、さらに偏向方向と直交する方向に生産ラインが印字対象物13を移動させることで、偏向方向と直交した方向にも粒子を着弾させることが可能となり、複数の着弾インク粒子7Dによって文字を構成し印字を行う。印字に使用されなかったインク粒子7Cはプラス偏向電極12間を直線的に飛翔して、ガター14により捕捉された後に、ポンプ(回収用)25で吸引されて主インク容器18に回収される。
【0021】
<実施例1の印字ヘッド構成>
実施例1に係るインクジェット記録装置400の印字ヘッド2の構成について、
図1~
図5を用いて説明する。図において、
図1(a)は本実施例の印字ヘッド2の外観斜視図を示し、
図1(b)は捕集部材ホルダ41を外した状態の印字ヘッド2の外観斜視図を示し、
図2(a)は本実施例の印字ヘッド2の部分断面図を示し、
図2(b)は
図2(a)のD部拡大図を示し、
図3は本実施例のヘッドカバー60を外した状態の印字ヘッド2の斜視図を示す。
【0022】
また、
図4(a)は本実施例のヘッドカバー60の斜視図を示し、
図4(b)はヘッドカバー60の内側が見えるように角度を変えた斜視図を示し、
図5(a)は本実施例の捕集部材ホルダ41の斜視図を示し、
図5(b)は捕集部材ホルダ41と捕集部材42を分離した状態の斜視図を示す。
【0023】
図1~
図3において、印字ヘッド2には、インクを吐出するためのノズル8と、ノズル8から吐出されたインク粒子7Cを中心として並行かつ対称に配置された帯電電極10と、インク粒子7Cの飛行方向に配置されたグランド偏向電極11とプラス偏向電極12と、インク粒子7Cと同軸上に印字に使用しないインク粒子7Cを捕捉するための穴を形成したガター14が備え付けられている。
【0024】
これらのノズル8、帯電電極10、グランド偏向電極11とプラス偏向電極12、ガター14については、ヘッドベース50に設置されている。また、ヘッドベース50には、磁石61が近くにあると反応する近接センサ71を組み付けている。そして、ヘッドベース50には、インクミスト吸引部51が組み付けられている。
【0025】
インクミスト吸引部51は、接続部51Aを介してプラス偏向電極12に接続されており、本実施例では同一部品となっている。その為、インクミスト吸引部51にはプラス偏向電極12と同様に1~7kVの高電圧が印加されるようになっている。本実施例ではプラス偏向電極12とインクミスト吸引部51を同一部品で同一電源を用いる構成で記載したが、それぞれ別部品で別電源を用いる構成としても良い。
【0026】
次に、
図1~
図4において、印字ヘッド2は、図示しない印字ヘッド2の内部部品を保護する目的で保護カバー70が組み付けられている。保護カバー70が組み付けられた状態であれば、ヘッドベース50と保護カバー70で囲われた空間は、メンテナンス時の衝撃等から保護されるようになっている。この保護カバー70で囲われた部品については、いわゆるサービス員がメンテナンスするエリアとなっている。また、保護カバー70には、ヘッドカバー60を固定するためのヘッドカバー固定ネジ72が組み付けられている。
【0027】
また、印字ヘッド2は、ノズル8と、帯電電極10と、グランド偏向電極11とプラス偏向電極12と、ガター14とを保護する目的でヘッドカバー60が組み付けられている。ヘッドカバー60は、ステンレス製であり、印字ヘッド2に組み付けた状態では電気的に接地された状態になっている。このようなヘッドカバー60には、保護カバー70のヘッドカバー固定ネジ72と嵌合するように切り抜き部と、印字に使用するインク粒子7Cが通過するためのスリット60Aを形成している。このヘッドカバー60は、ヘッドカバー固定ネジ72を用いてヘッドベース50に固定されており、ヘッドカバー60は、ヘッドカバー固定ネジ72を緩めることで印字ヘッド2から着脱することが出来る。
【0028】
また、ヘッドカバー60には、磁石61が組み付けられて、近接センサ71は、磁石61が近づいた時に反応し、ヘッドカバー60が正規の位置に組み付けられているかを判別することが可能となっている。ヘッドカバー60を印字ヘッド2から取り外す場合は、安全のためにプラス偏向電極12及びインクミスト吸引部51にかけられた高電圧(1~7kV)をOFFとするように制御している。
【0029】
ヘッドカバー60には、インクミスト吸引部51が印字ヘッド2外部に露出することを防ぐために絶縁カバー62を組み付けている。絶縁カバー62はヘッドカバー60より突き出るようになっており、絶縁カバー62の内側の凹部にインクミスト吸引部51が入り込むようになっている。これにより、インクミスト吸引部51の先端がヘッドカバー60の外壁近く、若しくは外壁より外側に突き出るようになり、インクミスト吸引部51の作る電界が印字ヘッド2外部まで影響を及ぼすようになる。
【0030】
インクミスト吸引部51と絶縁カバー62の内側の凹部は非接触となっており、一定の空間を介して絶縁性を高めるように構成している。この絶縁カバー62の材料は、フッ素系樹脂(例えばPTFE)を用いており、撥水性を高めるようにしている。
【0031】
これにより、高湿環境で使用する場合にも絶縁カバー62表面が結露液で繋がり難くなり、絶縁性を保つことが出来るようになる。絶縁カバー62の材料は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)やポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)等の樹脂を材料として使用して、表面をフッ素系樹脂でコーティングする等の表面処理を施した場合でも、フッ素系樹脂を材料に使用した場合と同様の効果を得ることが可能となる。
【0032】
図1~5において、ヘッドカバー60には、捕集部材ホルダ固定ネジ73を用いて捕集部材ホルダ41が固定されている。捕集部材ホルダ41は、捕集部材ホルダ固定ネジ73と嵌合するように切り抜かれた固定部41Bと、印字に使用するインク粒子7Cが通過するためのスリット41Aと、絶縁カバー62の凸部と嵌合するように切りかかれた凹部41Cを形成している。スリット41Aは、ヘッドカバー60のスリット60Aと同じ位置にくるように組み付けられるようになっている。
【0033】
そして、捕集部材ホルダ41は、インク粒子7Cの進行方向の外側に捕集部材42を固定できる。捕集部材42は、ヘッドカバー60や捕集部材ホルダ41と同様に、印字に使用するインク粒子7Cが通過するためのスリット42Aを形成している。捕集部材42のスリット42Aが、捕集部材ホルダ41のスリット41Aと同じ位置にくるように、捕集部材42が捕集部材ホルダ41に組み付けられるようになっている。
【0034】
捕集部材42の片面が糊付けされているシール紙となっており、糊面を捕集部材ホルダ41に貼り付けることで、固定するようになっている。また、捕集部材42はシール紙にこだわる必要は無く、挟み込みやネジ止めなどで、捕集部材42を捕集部材ホルダ41に固定するようにしても良い。捕集部材42の材料は、紙、樹脂板、金属など、インクが付着する材料であれば、特に問わない。
【0035】
<実施例1のインクミスト吸引部の構成>
実施例1のインクミスト吸引部51及びプラス偏向電極12の構成について、
図10を用いて説明する。
図10において、プラス偏向電極12は、印字ヘッド2への組み付け状態でグランド偏向電極11と共に形成するインク粒子7Cの偏向するための偏向電界に影響を与えない部分に接続部51Aを備えている。そして、接続部51Aは、インクミスト吸引部51と接続されている。このインクミスト吸引部51は、印字ヘッド2への組み付け状態でプラス偏向電極12の先端よりもガター14側に突き出た状態になっている。これにより、より印字ヘッド2の外部にインクミスト31を捕集するための電界を形成することが可能となる。
【0036】
このようなインクミスト吸引部51は、
図10の点線の楕円で示したEの範囲について、表面を絶縁体で覆うようにしても良い。例えば、インクミスト吸引部51にはその表面に絶縁体の被覆されている。例えばフッ素樹脂をインクミスト吸引部51の表面に塗布し乾燥固着させたり、インサート成形によりインクミスト吸引部51の周りに熱可塑性の絶縁体を射出充填し冷却固化させたりして形成される。
【0037】
この構成により、インクミスト吸引部51の先端付近の一部とヘッドカバー60との接近によりその間の電界が大きくなり、特に電界が最も高まるインクミスト吸引部51の表面近傍で空気の絶縁耐圧を超えるような大きい電界が発生する場合に、表面近傍の空気を絶縁体に置換することでコロナ放電の発生を抑制することができる。これにより、例えば、絶縁カバー62を廃止したとしても、印字ヘッド2の外部に高電圧部が露出して感電する心配が無くなる。
【0038】
なお、プラス偏向電極12の先端をノズル8のインク吐出方向に絶縁カバー62の凹部まで延長し、その部分でインクミスト吸引部51を形成するようにしても良い。
【0039】
また、インクミスト吸引部51の変形例について、
図11を用いて説明する。
図11において、プラス偏向電極12は、接続部52Aを介してインクミスト吸引部52と接続されている。インクミスト吸引部52は、切り抜かれた開口部52Bを備えている。もし仮に浮遊するインクミスト31の一部が印字ヘッド2の内部に侵入してしまった場合、インクミスト31が電界の影響でインクミスト吸引部52に付着する可能性があるが、開口部52Bを設けることにより、インクミスト31が1カ所に集中して堆積することを防止して、インク粒子7Cの偏向電界に影響することを防ぐことが可能となる。
【0040】
<実施例1の動作>
実施例1に係るインクジェット記録装置400の使用形態について、
図9を用いて説明する。
図9はインクジェット記録装置400で印字する際のインクミスト発生状態を示す図であり、インクジェット記録装置で印字対象物13の表面に印字している状態を示している。固定された印字ヘッド2と対向する位置で印字対象物13がB方向に搬送されることによって、印字対象物13の上側に文字や記号などが印字される。
【0041】
この時、印字ヘッド2のスリット60Aから吐出するインク粒子の速度や印字ヘッド2と印字対象物13の表面との距離によって、印字対象物13に着弾した着弾インク粒子7Dの一部が跳ね返ることがある。また、跳ね返るインクはミスト状になり、浮遊するインクであるインクミスト31が発生する。このインクミスト31の量は着弾インク粒子7D同士の間隔が狭いほど、着弾インク粒子7D同士が乾燥する前に重なるように着弾してしまい、インクが跳ね返る量が多くなるために、インクミスト31の発生量も多くなる。
【0042】
印字ヘッド2と印字対象物13との距離が短い場合、印字ヘッド2内で帯電されたインクミスト31は、インク跳ね返り時の気流の影響やインクミスト吸引部51による電界の影響により、印字ヘッド2に保持された捕集部材42に付着しやすくなっている。捕集部材42の表面に着弾インク粒子7Dから跳ね返ったインクミスト31により汚れが付着するが、その汚れは印字対象物13の搬送方向側に偏って存在する。このような構成とすることで、浮遊するインクミスト31により印字ヘッド2が汚れることを防止、または汚れることを低減することが可能となる。
【0043】
本実施例で用いる捕集部材42は、インクミスト31を捕捉することにより、徐々にインクで汚れていくため、定期的に交換または洗浄することが必要となる。インクミスト31の付着した捕集部材42は、捕集部材ホルダ固定ネジ73を緩めて捕集部材ホルダ41を印字ヘッド2から取り外し、その状態でシール紙である捕集部材42を捕集部材ホルダ41から取り外し、新しい捕集部材42と交換することが出来る。その後、新しい捕集部材42を取り付けた捕集部材ホルダ41を印字ヘッド2に固定することで、また、インクミスト31により印字ヘッド2が汚れることを低減することが可能となる。
【0044】
<実施例1の効果>
以上のように、本実施例によれば、浮遊するインクミスト31を捕集部材42に付着させることにより、印字ヘッド2の内外部がインクで汚れることを抑制することができる。また、インクミスト31を捕集するための構成を印字ヘッド2と一体で設置させることが可能な構成としたことで、小型でより少ない設置スペースで実現することができる。また更に、定期交換が必要な捕集部材42を簡単に交換することが可能な、インクジェット記録装置400を提供することができる。
【実施例2】
【0045】
以下において、実施例2に係る発明につき図面を用いて説明する。なお、実施例1と共通する部分についての説明は省略し、主に実施例1と異なる部分について説明を行う。
【0046】
<実施例2の印字ヘッド構成>
本発明の実施例2に係るインクジェット記録装置400の実施の形態について、
図12を用いて説明する。図において、
図12(a)は本実施例の印字ヘッド2Aの外観斜視図を示し、
図12(b)は本実施例の印字ヘッド2Aの正面図を示し、
図12(c)は本実施例の印字ヘッド2Aの側面図を示す。
【0047】
図12において、ヘッドカバー60には、捕集部材ホルダ固定ネジ73を用いて延長捕集部材ホルダ44が固定されている。延長捕集部材ホルダ44は、捕集部材ホルダ固定ネジ73と嵌合するように切り抜かれた複数の固定部44Bと、印字に使用するインク粒子7Cが通過するためのスリット44Aと、絶縁カバー62の凸部と嵌合するように切りかかれた凹部44Cを形成している。スリット44Aは、ヘッドカバー60のスリット60Aと同じ位置にくるように組み付けられるようになっている。また、延長捕集部材ホルダ44は、固定位置を安定させるために、ヘッドカバー60の側面と押し当てて角度を固定させるための位置合わせ部44Dを備えて構成されている。
【0048】
<実施例2の動作>
本実施例で用いる延長捕集部材ホルダ44は、捕集部材ホルダ固定ネジ73を緩めて延長捕集部材ホルダ44を印字ヘッド2から取り外し、他の位置合わせ部44Dに変更することで、印字対象物13と延長捕集部材ホルダ44との距離を複数に渡って調整することが可能となる。印字対象物13と延長捕集部材ホルダ44の距離が近いほど、より多くのインクミスト31が延長捕集部材ホルダ44に付着させることが出来るため、印字ヘッド2Aの周辺をインクミスト31で汚すことを低減することが可能となる。
【0049】
延長捕集部材ホルダ44に付着したインクミスト31による汚れは、メチルエチルケトン(MEK)やエタノールなどの溶剤で簡単に洗浄することが出来るため、何度でも同じものを使用することが出来る。
【0050】
また、延長捕集部材ホルダ44は、実施例1と同じように延長捕集部材ホルダ44に捕集部材42を取り付けることで、捕集部材42でインクミスト31を吸着させて、インクミスト31で汚れた捕集部材42を定期的に交換することで、印字ヘッド2A及び周辺のインクミスト31による汚れを低減させる方法をとることも出来る。
【0051】
<実施例2の効果>
本実施例によれば、実施例1の効果に加えて、印字ヘッド2Aに取り付けた延長捕集部材ホルダ44及び捕集部材42と、印字対象物13との距離を複数に渡って調整することにより、よりインクミスト31による印字ヘッド2Aの汚れ、及び周辺設備への汚れを低減することが可能なインクジェット記録装置400を提供することができる。
【実施例3】
【0052】
以下において、実施例3に係る発明につき図面を用いて説明する。なお、実施例1及び2と共通する部分についての説明は省略し、主に実施例1及び2と異なる部分について説明を行う。
【0053】
<実施例3の印字ヘッド構成>
本発明の実施例3に係るインクジェット記録装置400の実施の形態について、
図13を用いて説明する。
図13は、実施例3における印字ヘッドの構成及び使用形態を示す部分断面図を示す。
【0054】
図13において、印字ヘッド2Bは、ヘッドカバー64と、ヘッドカバー64にヘッドカバー固定ネジ72を用いて固定されたテーパ捕集部材ホルダA46と、テーパ捕集部材ホルダA46に固定された捕集部材47を備えている。ヘッドカバー64は、印字に使用するインク粒子7Cが通過するスリット64Aと、印字に用いるインク粒子7Cの偏向方向と直角に交わる面で印字ヘッド2B内部の空間を少なくする方向に斜めに接続されて、ヘッドベース50方向に接続されたテーパB部64Cと、ヘッドベース50とは逆方向に接続されたテーパA部64Bとを形成している。
【0055】
そして、テーパ捕集部材ホルダA46は、印字に使用するインク粒子7Cが通過するスリット46Aと、印字に用いるインク粒子7Cの偏向方向と直角に交わる面でヘッドカバー64のテーパB部64Cと嵌合するテーパD部46Cと、ヘッドカバー64のテーパA部64Bと嵌合するテーパC部46Bとを形成している。
【0056】
捕集部材47は、シール紙等の材料で作成されておりテーパ捕集部材ホルダA46のスリット46A、テーパC部46B及びテーパD部46Cの形状に合わせて組み付くようになっている。そのため、本実施例では、印字ヘッド2Bの印字に用いるインク粒子7Cの通過位置が、印字対象物13に最も近い位置になるようになっている。
【0057】
<実施例3の動作>
次に印字ヘッド2Bの使用形態及び動作について説明する。
図13において、印字対象物13を乗せたベルトコンベア15がコンベア流れ101の矢印の方向に流れている。それにより、印字対象物13は、印字対象物移動方向102の方向に向かって流れている。その為、印字ヘッド2Bの周囲には、ベルトコンベア15及び印字対象物13の移動により気流103が発生するようになっている。
【0058】
この気流103は、インクミスト31による印字ヘッド2Bの内部に侵入することを低減するような流れになっているため、印字ヘッド2Bのインク汚れを低減することができる。
【0059】
<実施例3の効果>
本実施例によれば、実施例1の効果に加えて、印字ヘッド2Bに取り付けたヘッドカバー64、テーパ捕集部材ホルダA46、及び捕集部材47の形状にテーパ部を設けることで、印字対象物13の流れによる気流103により、インクミスト31による印字ヘッド2Bのインク汚れを低減することが可能なインクジェット記録装置400を提供することができる。
【実施例4】
【0060】
以下において、実施例4に係る発明につき図面を用いて説明する。なお、実施例1~3と共通する部分についての説明は省略し、主に実施例1~3と異なる部分について説明を行う。
【0061】
<実施例4の印字ヘッド構成>
本発明の実施例4に係るインクジェット記録装置400の実施の形態について、
図14を用いて説明する。
図14は、実施例4における印字ヘッドの構成を示す部分断面図を示す。
【0062】
図14において、印字ヘッド2Cは、ヘッドカバー66と、ヘッドカバー66に固定されたテーパ捕集部材ホルダB48と、テーパ捕集部材ホルダB48に固定された捕集部材49を備えている。ヘッドカバー66は、印字に使用するインク粒子7Cが通過するスリット66Aと、印字ヘッド2B内部の空間を少なくなるようにグランド偏向電極11側に斜めに接続されたテーパF部66Cと、印字ヘッド2B内部の空間を少なくなるようにプラス偏向電極12側に斜めに接続されたテーパE部66Bとを形成している。
【0063】
そして、テーパ捕集部材ホルダB48は、印字に使用するインク粒子7Cが通過するスリット48Aと、グランド偏向電極11側でヘッドカバー66のテーパF部66Cと嵌合するテーパH部48Cと、プラス偏向電極12側でヘッドカバー66のテーパE部66Bと嵌合するテーパG部48Bとを形成している。捕集部材49は、スリット49Aを形成しており、シール紙等の材料で作成されていてテーパ捕集部材ホルダB48のスリット48A、テーパG部48B及びテーパH部48Cの形状に合わせて組み付くようになっている。そのため、本実施例では、印字ヘッド2Cの印字に用いるインク粒子7Cの通過位置が、印字対象物13に最も近い位置になるようになっている。
【0064】
また、印字ヘッド2Cはインクミスト吸引部54を備えている。インクミスト吸引部54は、ヘッドカバー66内に収まった先端部54Bと、プラス偏向電極12と接続するための接続部54Aとを形成している。このようなインクミスト吸引部54の先端部54Bは、プラス偏向電極12の先端よりガター14方向に突き出るようになっている。
【0065】
<実施例4の動作>
印字ヘッド2Cでは、インクミスト31がスリット66Aを通ってヘッドカバー66内に侵入する場合がある。ヘッドカバー66内にはグランド偏向電極11、プラス偏向電極12、及びインクミスト吸引部54があり、これらによって形成される静電界が存在する。帯電したインクミスト31はインクミスト吸引部54に吸い寄せられるために、プラス偏向電極12の先端部などに付着・堆積して印字に用いるインク粒子7Cの飛翔を妨げることを防止することができる。
【0066】
また、印字ヘッド2Cのガター14側をテーパ形状にして細くすることにより、印字対象物13により近づけることが可能になり、印字品質を向上したり、小さな文字を印字したりすることが可能となる。
【0067】
<実施例4の効果>
本実施例によれば、実施例1~3の効果に加えて、インクミスト吸引部54を印字ヘッド2Cの内部に取り付けたことにより印字ヘッド2Cの先端を小型化することができるようになり、より印字対象物13に印字ヘッド2Cを近づけることを可能としたインクジェット記録装置400を提供することができる。
【0068】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0069】
1…本体、2…印字ヘッド、41…捕集部材ホルダ、42…捕集部材、44…延長捕集部材ホルダ、46…テーパ捕集部材ホルダA、48…テーパ捕集部材ホルダB、51…インクミスト吸引部、51A…接続部、400…インクジェット記録装置