(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】化学的撮像用の原子間力顕微鏡赤外線分光法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/32 20100101AFI20220124BHJP
【FI】
G01Q60/32
(21)【出願番号】P 2020070130
(22)【出願日】2020-04-09
(62)【分割の表示】P 2019522947の分割
【原出願日】2017-10-18
【審査請求日】2020-10-19
(32)【優先日】2016-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512038610
【氏名又は名称】ブルカー ナノ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BRUKER NANO,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ショレル、ケビン
(72)【発明者】
【氏名】プラーター、クレイグ
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0204296(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0036521(US,A1)
【文献】特開2005-140782(JP,A)
【文献】特開2014-202677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00~90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡のプローブを使用して、異種サンプルの表面をマッピングする方法であって、
a.第1の周波数f
1で、プローブを振動させるステップと、
b.前記プローブを、サンプルの領域と相互に作用させるステップと、
c.前記プローブが、前記サンプルの領域と相互に作用している間に、前記プローブの振動位相を測定するステップと、
d.前記位相測定値に基づいて、1つ以上のプローブ相互作用パラメータを調整するステップと、
e.前記サンプルに、周波数f
mで変調される赤外線ビームを照射するステップと、
f.前記プローブが、前記サンプルの領域と相互に作用している間に、f
1とf
mの間の側波帯周波数が、プローブの共振周波数と実質的に同一になるように、前記変調周波数f
mを調整するステップと、
g.前記サンプルの領域に入射する赤外線に対するプローブ応答を測定するステップと、
を
備え、
前記プローブ相互作用を調整する調整ステップが、前記サンプル中の2つ以上の材料成分間の位相差を実質的に最大化する、方法。
【請求項2】
第2の材料成分を含むサンプルの第2の領域に対して、ステップa~gを繰り返すステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定された位相が、周波数f
1で、測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プローブ顕微鏡が、振幅変調モードで作動し、フィードバックループが、プローブ振動の振幅を周波数f
1で、所与の振幅設定値に保持しようと試みる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記プローブ相互作用調整ステップは、前記側波帯周波数で、前記測定されたプローブの応答を実質的に最大化する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記位相測定は、f
1とf
mの間の側波帯周波数で行われ、前記位相測定値に基づいて、前記放射線変調周波数f
mを調整するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
プローブ相互作用パラメータの変化によるプローブの共振周波数の偏移を補償するために、ステップd及びfが、実質的に同時に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプル中の少なくとも1つの材料成分の吸収帯と実質的に重なるように
、前記赤外線ビームを生成する放射線源の放射波長を調整するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記サンプル中の少なくとも1つの材料成分の分布のマップを作成するステップをさらに含み、前記マップが、10nm未満の空間分解能を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
異種サンプルの表面をマッピングする方法であって、
プローブ顕微鏡のプローブを、サンプルの領域と相互作用させるステップと、
前記サンプルに、周波数f
mで変調される赤外線ビームを照射するステップと、
前記プローブが、前記サンプルの領域と相互に作用している間に、前記プローブの振動位相を測定するステップと、
前記振動位相の測定に基づいて1つ以上のプローブ相互作用パラメータを調整するステップと、
前記位相測定値に基づいて、前記変調周波数f
mを調整するステップと、
前記サンプルの領域に入射する赤外線に対するプローブ応答を測定するステップと、
を
備え、前記プローブ相互作用を調整する調整ステップが、前記サンプル中の2つ以上の材料成分間の位相差を実質的に最大化する、方法。
【請求項11】
前記プローブが、周波数f
1で、振動され、f
mとf
1の間の側波帯周波数で、前記プローブの応答が測定される、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記周波数f
mが、前記プローブの共振周波数に実質的に対応する、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
位相ロックループを使用して、前記位相測定値に基づいて、前記変調周波数f
mを調整する、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記プローブは第1の周波数f
1
で振動し、前記位相測定が、
周波数f
m
及び周波数f
1
に基づく側波帯周波数で行われる、請求項
11に記載の方法。
【請求項15】
前記側波帯周波数が、プローブの共振周波数に実質的に対応することを確実にするように、前記位相測定を使用して、前記変調周波数f
mを調整する、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記サンプル中の少なくとも1つの材料成分の分布のマップを作成するステップをさらに含み、前記マップが、10nm未満の空間分解能を有する、請求項
10に記載の方法。
【請求項17】
走査型プローブ顕微鏡を使用して、サンプルの表面をマッピングするための装置であって、
前記サンプルの表面と相互作用し、及び、周波数f
1
で振動する鋭い先端を有するプローブと、
前記プローブの前記鋭い先端の近傍にある前記サンプルの領域に光源からのビームを向ける放射線源と、
前記ビームを少なくとも1つの周波数f
m
に変調する放射線源変調器と、
前記サンプルに入射する放射線に対する前記プローブの応答を測定するプローブ応答検出器と、
周波数f
1
及び周波数f
m
に基づく少なくとも1つの側波帯周波数での前記プローブの応答の少なくとも1つのパラメータを決定するロックイン増幅器と、
プローブ相互作用パラメータと変調周波数f
m
を自動的に調整する
位相ロックループとを備え、
前記プローブ相互作用パラメータには、カンチレバー自由振動振幅、カンチレバー振動周波数、カンチレバー振幅設定値、及び走査速度パラメータのうちの少なくとも1つが含まれ、前記プローブ相互作用パラメータは前記サンプル中の2つ以上の材料成分間の位相差を実質的に最大化すべく調整される、装置。
【請求項18】
周波数f
1で、前記プローブを振動させるように構成されているプローブアクチュエータをさらに含み、前記ロックイン増幅器は、f
1とf
mの間の側波帯周波数で、前記プローブの応答のパラメータを決定するように構成される、請求項
17に記載の装置。
【請求項19】
前記位相ロックループは、f
1とf
mとの間の側波帯周波数が、プローブの共振周波数に実質的に対応するように、f
mを調整するように構成されてい
る、請求項18に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、散乱型原子間力顕微鏡に基づく赤外線分光法(AFM-IR)に関し、特に、異種系における化学成分の分布を示す情報を取得することに関する。
AFM-IRは、ナノメートル水準に近い分解能で、いくつかの表面の光学特性/材料組成を測定しかつマッピングするための有用な技術である。この技術の様々な態様は、本出願と共通の発明者によって共通に所有されている米国特許第8869602号、同第8680457号、同第8402819号、同第8001830号、同第9134341号、同第8646319号、同第8242448号、米国特許第13135956号に記載されている。これらの出願は、その全体が参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡に基づく赤外線分光法(AFM-IR)は、原子間力顕微鏡の先端を使用して、赤外線吸収を局所に検出することによって、ナノメートル水準の化学的特徴付け及び組成マッピングを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第RE36,488号明細書
【文献】米国特許第8680457号明細書
【文献】米国特許第9,229,028号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】ガルシア、Phys.Rev.B、60巻、7号、1999年
【文献】Minary-Jolandan他、Nanotechnology、23巻、2012年、235704
【文献】Yu他、Lab Chip、2016年、16巻、902~910頁、
【文献】Tao他、「液体中でのリアルタイム検出のための高Q面内共振モードカンチレバーバイオ/ケミカルセンサ」、2011年、第16回国際固体センサ、アクチュエータ&マイクロシステムズカンファレンス(TRANSDUCERS)、DOI 10.1109/TRANSDUCERS.5969319)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
いくつかの実施形態では、数nm以下の空間分解能で、極めて高感度の化学組成マップを得るための方法及び装置が提供される。いくつかの実施形態では、これらの化学組成マップは、次の3つのステップの組み合わせを使用して、作成してもよい。(1)サンプルの吸収帯に合わせて調整されたものよりもサンプルにIR放射線を照射するステップ、(2)特定のターゲット材料に合わせて調整された機械的結合効率を最適化するステップ、(3)特定のターゲット材料に合わせて調整された共振周波数の検出を最適化するステップ。これらのステップの組み合わせにより、(1)固有のIR吸収に基づく化学組成マップ、(2)非常に短距離の先端-サンプルの相互作用によって高められる空間分解能、及び(3)特定のターゲット材料に合わせて調整された共振周波数の増幅を得ることが可能である。他の実施形態では、これらのステップのうちの任意の2つを使用しても、なお空間分解能及び/又は感度において実質的な改善を達成することが可能である。
【0006】
第1の態様の一実施形態では、走査型プローブ顕微鏡のプローブを使用して、異種サンプルの表面をマッピングする方法が提供され、該方法は、第1の周波数f1で、プローブを振動させるステップと、プローブを、サンプルの第1の領域と相互に作用させるステップと、サンプルに赤外線ビームを照射するステップと、プローブが、第1の領域におけるサンプル材料と相互に作用している間に、得られる側波帯周波数fsbが、プローブの共振周波数と実質的に同一になるように、変調周波数fmで、赤外線ビームを変調するステップと、側波帯周波数で、サンプルの第1の領域におけるサンプルに入射する赤外線によるプローブの応答を測定するステップ、サンプルの第2の領域と相互に作用して、プローブの共振周波数が、偏移されるように、プローブを移動させるステップと、偏移されたプローブの共振周波数と偏移された側波帯周波数が、実質的に同一になるように、変調周波数fmを再調整するステップと、第2の領域上の偏移された側波帯周波数で、サンプルに入射する赤外線によるプローブの応答を測定するステップと、を含む。第1の態様の他の実施形態では、サンプルの領域は液体に浸されている。
【0007】
第1の態様の一実施形態では、方法は、測定されたプローブの応答に基づいて、サンプルの組成マップを作成するステップをさらに含んでもよい。第1の態様の他の実施形態では、方法は、測定されたプローブの応答に基づいて、サンプルの組成マップを作成するステップをさらに含んでもよい。第1の態様の他の実施形態では、方法は、第1及び第2の材料に対するプローブの応答間の差を実質的に最大化するために、プローブ相互作用パラメータを調整するステップをさらに含んでもよい。第1の態様の一実施形態では、変調周波数を再調整するステップが、自動的に行われてもよい。第1の態様の一実施形態では、組成マップは10nm未満の空間分解能を有してもよい。第1の態様の他の実施形態では、方法は、プローブが、サンプルの領域と相互に作用している間に、プローブ振動の位相を測定するステップをさらに含んでもよい。第1の態様の他の実施形態では、方法は、位相測定値を使用して、放射線の変調周波数fmを調整するステップをさらに含んでもよい。第1の態様の一実施形態では、周波数f1が、プローブの共振周波数に実質的に対応してもよい。第1の態様の他の実施形態では、方法は、サンプル中の2つ以上の材料成分間の位相測定値の差を実質的に最大化するために、プローブ相互作用のパラメータを調整するステップをさらに含んでもよい。
【0008】
第2の態様の一実施形態では、走査型プローブ顕微鏡のプローブを使用して、異種サンプルの表面をマッピングする方法が提供され、該方法は、第1の周波数f1で、プローブを振動させるステップと、プローブを、サンプルの領域と相互に作用させるステップと、プローブが、サンプルの領域と相互に作用している間に、プローブの振動位相を測定するステップと、位相測定値に基づいて、1つ以上のプローブ相互作用パラメータを調整するステップと、サンプルに、周波数fmで変調される赤外線ビームを照射するステップと、プローブが、サンプルの領域と相互に作用している間に、f1とfmの間の側波帯周波数が、プローブの共振周波数と実質的に同一になるように、変調周波数fmを調整するステップと、サンプルの領域に入射する赤外線に対するプローブの応答を測定するステップと、を含む。
【0009】
第2の態様の他の実施形態では、方法は、第2の材料成分を含むサンプルの第2の領域に対して、上記記載されているステップを繰り返すステップをさらに含んでもよい。第2の態様の一実施形態では、測定された位相が、周波数f1で、測定してもよい。第2の態様の一実施形態では、プローブ顕微鏡は、振幅変調モードで作動し、フィードバックループが、周波数f1で、プローブ振動の振幅を、所与の振幅設定値に保持しようと試みる。第2の態様の一実施形態では、プローブ相互作用調整ステップは、側波帯周波数で測定されたプローブの応答を、実質的に最大化してもよい。第2の態様の一実施形態では、プローブ相互作用調整ステップは、サンプル中の2つ以上の材料成分間の位相差を実質的に最大化してもよい。第2の態様の一実施形態では、測定された位相が、f1とfmの間の側波帯周波数で、測定されてもよい。第2の態様の一実施形態では、位相測定ステップが、f1とfmの間の側波帯周波数で、行われ、位相測定値に基づいて、放射線変調周波数fmを調整するステップをさらに含んでもよい。第2の態様の一実施形態では、プローブ相互作用パラメータの変化によるプローブの共振周波数の偏移を補償するために、プローブ相互作用パラメータ調整ステップ及び変調周波数調整ステップが、実質的に同時に行わってもよい。第2の態様の他の実施形態では、方法は、サンプル中の少なくとも1つの材料成分の吸収帯と実質的に重なるように、放射線源の放射波長を調整するステップをさらに含んでもよい。第2の態様の他の実施形態では、方法は、サンプル中の少なくとも1つの材料成分の分布のマップを作成するステップをさらに含んでもよい。第2の態様の一実施形態では、マップが10nm未満の空間分解能を有してもよい。
【0010】
第3の態様の一実施形態では、異種サンプルの表面をマッピングする方法が提供され、該方法は、プローブ顕微鏡のプローブを、サンプルの領域と相互に作用させるステップと、サンプルに、周波数fmで変調される赤外線ビームを照射するステップと、プローブが、サンプルの領域と相互に作用している間に、プローブの振動位相を測定するステップと、位相測定値に基づいて、変調周波数fmを調整するステップと、サンプルの領域に入射する赤外線に対するプローブの応答を測定するステップと、を含む。
【0011】
第3の態様の一実施形態では、プローブが、周波数f1で、振動させてもよく、fmとf1の間の側波帯周波数で、プローブの応答が測定してもよい。第3の態様の一実施形態では、周波数fmが、プローブの共振周波数に実質的に対応してもよい。第3の態様の一実施形態では、位相ロックループを使用して、位相測定値に基づいて、変調周波数fmを調整してもよく、位相測定ステップが、側波帯周波数で、行わってもよい。第3の態様の一実施形態では、位相測定ステップは、プローブの共振周波数に実質的に対応することを確実にするように、側波帯周波数を使用して、変調周波数fmを調整してもよい。第3の態様の他の実施形態では、方法は、サンプル中の少なくとも1つの材料成分の分布のマップを作成するステップをさらに含んでもよい。第3の態様の一実施形態では、マップが、10nm未満の空間分解能を有してもよい。
【0012】
第4の態様の一実施形態では、異種サンプルの表面をマッピングする方法が提供され、該方法は、第1の周波数f1で、プローブを振動させるステップと、プローブ顕微鏡のプローブを、サンプルの第1の領域と相互に作用させるステップと、サンプルに赤外線ビームを照射するステップと、プローブが、第1の領域におけるサンプル材料と相互に作用している間に、得られる側波帯周波数fsbが、プローブの共振周波数と実質的に同一になるように、周波数fmで赤外線ビームを変調するステップと、側波帯周波数で、サンプルの第1の領域に入射する赤外線に対するプローブの応答を測定すると、プローブを、サンプルの第2の領域と相互に作用するように、移動させるステップと、プローブが、サンプルの第2の領域におけるサンプル材料と相互に作用している間に、プローブの共振周波数と偏移された側波帯周波数が、実質的に同一になるように、変調周波数fmを再調整するステップと、偏移された側波帯周波数で、サンプルの第2の領域に入射する赤外線に対するプローブの応答を測定するステップと、を含む。
【0013】
第5の態様の一実施形態では、異種サンプルの表面をマッピングする方法が提供され、該方法は、第1の周波数f1で、プローブを振動させるステップと、プローブ顕微鏡のプローブを、サンプルの第1の領域と相互に作用させるステップと、サンプルに、変調された放射線ビームを照射するステップと、選択された材料成分について、サンプルに入射する放射線に対するプローブの応答を実質的に最大化するための一連の材料選択的作動パラメータを選択するステップであって、材料選択的作動パラメータは、放射線波長、放射線変調周波数、及びプローブ相互作用パラメータを含むステップと、材料選択的作動パラメータの最適化された値で、複数の位置でサンプルに入射する放射線に対するプローブの応答を測定するステップと、選択した材料成分の分布のマップを作成するステップと、を含む。
【0014】
第5の態様の他の実施形態では、プローブ相互作用パラメータが、カンチレバー自由振動振幅、カンチレバー振動周波数、及びカンチレバー振幅設定値のうちの少なくとも1つを含んでもよい。第5の態様の一実施形態では、材料成分の分布のマップが、30nm未満の空間分解能を有してもよい。第5の態様の他の実施形態では、材料成分の分布のマップが、10nm未満の空間分解能を有してもよい。第5の態様の一実施形態では、サンプルの領域が、液体に浸してもよい。第5の態様の一実施形態では、プローブが、100以上の品質係数を有してもよい。第5の態様の一実施形態では、サンプルの領域は、横方向の寸法が、100nm未満の材料ドメインを含む。第5の態様の他の実施形態では、方法は、サンプルの領域に対する光応答のスペクトルを構築するために、変調された放射線の複数の波長でプローブの応答を測定するステップをさらに含んでもよい。
【0015】
第6の態様の一実施形態では、走査型プローブ顕微鏡を使用して、サンプルの表面をマッピングするための装置が提供され、該装置は、鋭い先端を有するプローブと、放射線源と、放射線源変調器と、プローブ応答検出器と、ロックイン増幅器と、処理素子と、を含み、装置は、サンプル表面と鋭い先端を相互に作用させ、プローブ先端の近傍のサンプルの領域に光源からのビームを向け、光ビームを少なくとも1つの周波数fmで変調し、サンプルに入射する放射線に対するプローブの応答を測定し、少なくとも1つの側波帯周波数で、プローブの応答の少なくとも1つのパラメータを決定し、プローブ相互作用パラメータと変調周波数fmの少なくとも一方を自動的に調整するように構成されている。第6の態様の他の実施形態では、装置は、周波数f1で、プローブを振動させるように構成されているプローブアクチュエータをさらに含み、ロックイン増幅器は、f1とfmの間の側波帯周波数で、プローブの応答のパラメータを決定するように構成されてもよい。第6の態様の一実施形態では、装置は、f1とfmとの間の側波帯周波数が、プローブの共振周波数に実質的に対応するように、fmを調整するように構成されている位相ロックループをさらに含んでもよい。
【0016】
第7の態様の一実施形態では、走査型プローブ顕微鏡を使用して、サンプルの表面をマッピングするための装置が提供され、該装置は、鋭い先端を有するプローブと、放射線源と、放射線源変調器と、プローブ応答検出器と、位相検出器と、処理素子と、を含み、該装置は、鋭い先端をサンプル表面と相互に作用させ、プローブ先端の近傍のサンプルの領域に光源からのビームを向け、光ビームを少なくとも1つの周波数fmで変調し、サンプルに入射する放射線に対するプローブの応答を測定し、プローブ動きの位相を測定し、プローブ動きの位相に基づいて、プローブ相互作用パラメータ及び変調周波数fmの少なくとも一方を自動的に調整するように構成されている。第7の態様の他の実施形態では、装置は、fmが、プローブの共振周波数に実質的に対応するように、位相検出器を使用して、fmを調整するように構成されている位相ロックループをさらに含んでもよい。第7の態様の一実施形態では、装置は、f1とfmの間の側波帯周波数が、プローブの共振周波数に実質的に対応するように、位相検出器を使用して、fmを調整するように構成されている位相ロックループをさらに含んでもよい。第7の態様の一実施形態では、位相検出器が、ロックイン増幅器を含んでもよい。第7の態様の一実施形態では、放射線源が、広帯域源を含んでもよい。第7の態様の他の実施形態では、装置は、プローブの応答を波長の関数として、復調するように構成されている干渉計をさらに含んでもよい。
【0017】
本明細書で提供される実施形態の態様及び利点は、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明を参照して説明される。図面全体を介して、参照番号は、参照された素子間の対応を示すために、再使用されてもよい。図面は、本明細書に記載の例示的な実施形態を例示するために、提供されており、本開示の範囲を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図4】プローブの共振周波数における材料依存偏移及びそのような偏移を説明するための変調周波数における偏移を示す。
【
図5】プローブの共振周波数における材料依存偏移を示す。
【
図6】サンプル表面の組成マップを作成するための放射線変調周波数の自動追跡を含む側波帯プローブの応答の自動設定及び動的最適化のための方法を示す。
【
図7】サンプル表面の組成マップを作成するためのプローブ相互作用パラメータ及び放射線変調周波数の自動最適化のための方法を示す。
【
図8A】光源変調周波数に応じてカンチレバー振動振幅と位相のプロットを示す。
【
図8B】プローブの共振周波数を自動追跡しかつプローブの位相測定値を使用して、放射線変調周波数を調整するための方法を示す。
【
図9】
図8に示した実施形態を用いたAFM-IR測定結果を示す。
【
図10】材料選択的作動パラメータを使用して、異種サンプル中の1つ以上のターゲット材料の分布のマップを作成する方法を示す。
【
図11】
図10に記載された方法における分解能と感度を高めたAFM-IRの測定データを示す。
【
図12A】
図11のPS/PMMA共重合体サンプルについて、本明細書に記載の方法を使用して、得られた従来のAFM-IRスペクトル(1200及び1202)及び分解能を高めたAFM-IRスペクトル(1204及び1206)を示す。
【
図12B】これら2つの材料のスペクトル識別が著しく改善される、PMMA上の分解能向上したスペクトル1204及びPS上の分解能向上したスペクトル1206を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[定義]
「プローブをサンプルと相互に作用させる」とは、1つ以上の近接場相互作用が生じるように、プローブ先端をサンプルの表面に十分近づけることを指し、例えば、先端-サンプル間の引力及び/又は反発力、及び/又はプローブ頂点に近接したサンプルの領域から散乱した放射線の発生及び/又は増幅である。相互作用は、接触モード、間欠的接触/タッピングモード、非接触モード、パルス力モード、及び/又は任意の横方向変調モードであってもよい。相互作用は、一定、又は好ましい実施形態のように、周期的でもよい。周期的相互作用は、正弦波又は任意の周期的波形であってもよい。パルス力及び/又は高速力曲線技術もまた、プローブをサンプルと所望のレベルまで相互に作用させ、続いて保持期間、その後に続くプローブ後退の行うために、使用されてもよい。
【0020】
「照射する」とは、物体、例えば、サンプル表面、プローブ先端、及び/又はプローブ-サンプルの相互作用の領域に放射線を向けることを意味する。照射は、好ましくは赤外線波長範囲の放射線を含んでもよいが、他の波長もまた使用されてもよい。照射は、放射線源、パルス発生器、変調器、反射素子、集束素子、及び他の任意のビーム操作又は調整素子の任意の構成を含んでもよい。放射線源は、熱源又はグローバー源(Globar sources)、スーパーコンティニュームレーザー源(supercontinuum laser sources)、周波数コム(comb)、差周波発生器、和周波発生器、高調波発生器、光パラメトリック発振器(OPO)、光パラメトリック発生器(OPG)、量子カスケードレーザー(QCL)、ナノ秒、ピコ秒、及びフェムト秒レーザーシステム、CO2レーザー、加熱カンチレバープローブ又は他の顕微鏡加熱器、及び/又は放射線ビームを生成する他の任意の光源を含む複数の光源のうちの1つとしてもよい。好ましい実施形態では、光源は、赤外線を放射するが、代わりに又はそれ以外の波長範囲、例えば、紫外線からテラヘルツ(THz)までの範囲で放射してもよい。
【0021】
「スペクトル」とは、波長に応じて、又は同様に(そしてより一般には)波数に応じてサンプルの1つ以上の特性の測定値を指す。
「光学特性」は、屈折率、吸収係数、反射率、吸収率、屈折率の実数成分及び/又は虚数成分、サンプル誘電関数の実数成分及び/又は虚数成分、及び/又はこれらの光学特性のうちの1つ以上から数学的に導出可能な任意の特性を含むサンプルの光学特性を指すが、これらに限定されない。
【0022】
「光応答」は、放射線とサンプルとの相互作用の結果を指す。光応答は、上で定義された1つ以上の光学特性に関連している。光応答は、放射線の吸収、温度上昇、熱膨張、光誘起力、光の反射及び/又は散乱、或いは放射線との相互作用による材料の他の応答であってもよい。
【0023】
「側波帯周波数」は、2つの励起周波数の線型和又は差である周波数を指す。例えば、システムが、周波数f1とf2で励起されている場合、側波帯周波数は、fsb=|±f1±f2|を満たす任意の周波数fsbになる。より一般には、一部の例では、側波帯周波数はまた、励起周波数の1つ以上の高調波の線型和又は差、即ちfsb=|±mf1±nf2|(ここで、m及びnは整数である)であることがある。
【0024】
「を示す信号」は、関心のある特性に数学的に関連している信号を指す。信号は、アナログ信号、デジタル信号、及び/又はコンピュータ若しくは他のデジタル電子機器に記憶されている1つ以上の数字としてもよい。信号は、電圧、電流、又は容易に変換し記録することができる任意の他の信号としてもよい。信号は、測定されている特性と数学的に同一であってもよく、例えば、明示的に絶対位相信号又は吸収係数であることがある。それはまた、例えば、線型又は他のスケーリング、オフセット、反転、或いは複雑な数学的操作さえも含む、1つ以上の関心のある特性に数学的に関連する信号であってもよい。
【0025】
「走査型プローブ顕微鏡(SPM)」は、鋭いプローブがサンプル表面と相互に作用し、次いでサンプル表面の1つ以上の特性を測定しながら表面を走査する顕微鏡を指す。走査型プローブ顕微鏡は、鋭い先端を有するカンチレバープローブを含み得る原子間力顕微鏡(AFM)であってもよい。SPMは、一般に、プローブ先端及び/又はプローブ先端が取り付けられている対象物の動き、位置及び/又は他の応答を測定するための機能を含み、例えば、カンチレバーや音叉、MEMS装置などである。最も一般的な方法は、レーザービームがカンチレバープローブから反射して、カンチレバーの偏向を測定する光てこシステムを使用することを含む。代替案には、ピエゾ抵抗カンチレバー、音叉、静電容量式検出及び他の方式のような自己検出方式が含まれる。他の検出システムは、力、力勾配、共振周波数、温度、及び/又は表面との他の相互作用、或いは表面相互作用に対する応答などの他の特性を測定してもよい。
【0026】
「カンチレバープローブ」は、一般に、シリコン、窒化シリコン、又は他の半導体系材料から作製された微細加工カンチレバーである。プローブも金属及び高分子材料から製造されてきた。一般に、プローブは、サンプルと相互に作用することができる鋭い先端を有し、カンチレバープローブの曲げ、又は抵抗、共振周波数、又はプローブ時間とサンプルとの間の相互作用を示す、他の特性の変化によって相互作用を検出するための何らかの機構を支持するだけでよい。
【0027】
「スキャナ」は、プローブが、サンプル上の複数の位置と相互に作用して、その上の複数の位置の特性を測定することができるように、プローブとサンプルとの間の相対的な並進を生成するために、使用される1つ以上の走査機構である。走査機構は、プローブ、サンプル又はそれらの組み合わせのいずれかを移動させることができる。走査機構は、通常、圧電装置であるが、所与の制御信号又は指令に応答して、所望の動きを誘発する電磁機構、静電機構、電気偏向機構及び他の駆動機構のような他の機構を使用してもよい。スキャナは、圧電管、圧電積層体、圧電駆動フレクシャーステージ(piezoelectric driven flexure stages)、ボイスコイル(voice coils)、及び精密移動を提供するための他の機構を含むが、これらに限定されない。
【0028】
「SPMコントローラ」は、AFM-IRシステムのデータ取得及び制御を容易にするためのシステムを指す。該コントローラは、単一の一体型電子筐体でもよく、又は複数の分散型素子を含んでもよい。制御素子は、プローブ先端及び/又はサンプルを位置決めかつ/又は走査するための制御を提供してもよい。それらはまた、プローブの偏向、動き又は他の応答に関するデータを収集し、放射線源の電力、偏光、操作、集束及び/又は他の機能に対する制御を提供してもよい。制御素子などは、コンピュータプログラム方法又はデジタル論理方法を含んでもよく、様々なコンピューティング装置(コンピュータ、パーソナル電子装置)、アナログ及び/又はデジタルディスクリート回路部品(トランジスタ、抵抗器、コンデンサ、インダクタ、ダイオードなど)、プログラマブルロジック、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、特定用途向け集積回路、又は他の回路素子の任意の組み合わせを使用して、実施できる。メモリは、コンピュータプログラムを記憶するように構成され、本明細書に記載の1つ以上のプロセスを実行するために、ディスクリート回路部品と共に実装してもよい。
【0029】
「ロックイン増幅器」は、1つ以上の基準周波数で、システムの応答を復調する装置及び/又はアルゴリズムである。ロックイン増幅器は、アナログ電子機器、デジタル電子機器、及びこれら2つの組み合わせを含む電子アセンブリであってもよい。それらはまた、マイクロプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、デジタル信号プロセッサ、及びパーソナルコンピュータのようなデジタル電子機器上に実行される算出アルゴリズムであってもよい。ロックイン増幅器は、振幅、位相、同相(X)及び直交(Y)成分、或いはこれらの任意の組み合わせを含む、振動システムの様々な測定基準を示す信号を生成してもよい。これに関連して、ロックイン増幅器はまた、基準周波数、基準周波数のより高い高調波、及び/又は基準周波数の側波帯周波数の両方でそのような測定値を生成してもよい。
[分解能と感度を高めたAFM-IR]
本開示は、数nm以下の空間分解能で、極めて高感度の化学組成マップを得るための方法及び装置を記載する。これらの化学組成マップは、次の3つの重要なステップの組み合わせを使用して、作成される。(1)サンプルの吸収帯に合わせて調整されたものよりも、サンプルにIR放射線を照射するステップ、(2)特定のターゲット材料に合わせて調整された機械的結合効率を最適化するステップ、(3)特定のターゲット材料に合わせて調整された共振周波数の検出を最適化するステップ。これらのステップの組み合わせにより、(1)固有のIR吸収に基づく化学組成マップ、(2)非常に短距離の先端-サンプルの相互作用によって高められる空間分解能、及び(3)特定のターゲット材料に合わせて調整された共振周波数の増幅を得ることが可能である。本明細書に記載の1つ以上の実施形態は、空間分解能及び/又は感度の好ましい結果を達成するために、これらのステップのうちの2つの全て又は一部場合には任意の組み合わせを使用してもよい。
【0030】
図1は、分解能と感度を高めたAFM-IRの一実施形態の概略図を示す。走査型プローブ顕微鏡のプローブ先端102は、サンプル104の領域106と周期的に相互に作用する。一実施形態では、プローブは、信号発生器112によって駆動される少なくとも1つの周波数f
1で、アクチュエータ110によって振動されるカンチレバー100を含む。アクチュエータは、最も一般には、圧電素子であるが、磁気力、静電気力、熱力、光学力、又はカンチレバーに振動力を加えて振動させる他の方式を含む代替の駆動機構を含んでもよい。一実施形態では、周波数f
1は、カンチレバー100の共振周波数に対応するように、選択されてもよいが、他の実施形態では、これは必要ではない。赤外線光源114からの赤外線ビーム118を使用して、先端102の近傍にあるサンプル104及びサンプル106の関心領域に照射する。一実施形態では、プローブの応答は、偏向検出システム120、例えば、カンチレバープローブの位置、偏向、曲げ、及び/又は動きを測定するために使用される光てこシステムを介して、測定される。
【0031】
照射システムは、先端-サンプルの領域に到達する前にビームを方向付けかつ調整するための任意の数のレンズ、反射鏡、減衰器、偏光子、ビーム操作素子を含んでもよい。一般に、光は、スポットに集束されるが、一般に集束された光スポットは、先端-サンプルの相互作用領域よりもはるかに大きい。集束光学系は、レンズ及び/又は反射集束素子、例えば、軸外放物面鏡を含む放物面鏡を含んでもよい。しかし、光は、入射放射線によってサンプルに感知される電界を強化する表面コーティング及び/又はプローブ先端の幾何学的形状によってさらに「ナノ集束され」かつ/又は強化されることが多い。
【0032】
サンプルに入射する放射線は、サンプルと相互に作用して、検出可能な応答を生じる可能性がある。例えば、IR放射線波長が、サンプル材料の吸収帯に合わせて同調されている場合、入射放射線の一部が吸収される。吸収された放射線は、サンプルの領域を、加熱させ、さらに吸収領域における温度上昇及び熱膨張を引き起こす可能性がある。入射放射線はまた、熱膨張を介して、及び/又はプローブの電場とサンプルの電場との相互作用を介して、プローブ先端に力を誘導することがある。いずれにせよ、プローブの応答は、走査型プローブ顕微鏡内の1つ以上の検出システムによって、サンプルに入射する放射線に応答して、測定してもよい。プローブの応答は、例えば、プローブの温度上昇、プローブへの偏向、振動、又は力を測定することによって誘導することができる。放射線源から放出される波長を、他の材料成分によって吸収される波長に変えることによって、その成分の分布をマッピングすることが可能である。複数の波長でプローブの応答を測定することによって、サンプルの光応答を表すスペクトル、又は特定の場合にはIR吸収スペクトルが得られる。
【0033】
一実施形態では、放射線ビーム118は、少なくとも1つの周波数fmで変調される。この変調は、強度変調、角度変調、又はプローブ先端付近のサンプルに入射する放射線の強度に周期的な変動を生じさせる他の変調を含んでもよい。変調は、一連のパルスを含んでもよく、又は本質的に正弦波又は周波数fmの周期成分を有する他の任意の波形状であってもよい。パルス源の場合、変調周波数fmは、パルス源のパルス補充率を指すことがある。一実施形態では、変調は、例えば、変調信号、ゲートパルス、外部トリガ又は同期パルスを光源114に供給して、放射線ビームの強度を電子的に変調することによって達成してもよい。或いは、この変調は、外部変調器、例えば、チョッパー、電気光学変調器、電気音響変調器、光弾性変調器、電子シャッタ、MEMS鏡、高速ガルボ、ピエゾ駆動鏡、又は変調器を通過する光ビームの強度及び/又は角度を周期的に調整することができる他の任意の装置を介して、達成されてもよい。光源は、例えば、量子カスケードレーザーなどの光源に供給される電圧及び/又は電流を変調するために、アナログ変調信号を供給することによって変調されてもよい。
【0034】
特定の実施形態では、ロックイン増幅器122は、プローブ100の振動応答、例えば、変調周波数及び/又は1つ以上の側波帯周波数を含む1つ以上の周波数におけるプローブの振幅及び/又は位相を測定してもよい。コントローラ124は、偏向検出器120、ロックイン増幅器122、及び必要に応じて他の補助信号からデータを読み込むことができる。コントローラ124はまた、パルスを出力して、光源114の変調を制御してもよく、又は外部変調器を制御してもよい。或いは、それは、単に光源の変調速度を変えるために、アナログ又はデジタルコマンドを送ることができる。コントローラ124はまた、相対的な先端/サンプル位置を制御するために、スキャナ126の位置を制御してもよい。それはまた、プローブの振動周波数及び振幅、振幅設定値、走査速度パラメータ、フィードバックパラメータなどを含むプローブ相互作用パラメータのいずれかを調整するためにも使用してもよい。このようなシステムは、コントローラ124として示される1つ以上の処理素子を含むが、実際には、様々なアクチュエータ、センサ、及びユーザインターフェース素子、ディスプレイ、出力装置及びネットワーク、有線及び/又は無線のうちのいくつか又は全てに接続されるデジタル論理及び/又は算出装置の任意の組み合わせを含む様々な処理素子の間に、配置され得ることが分かる。本開示に記載されているシステム作動、データ取得、及びデータ処理は、多くの場合、処理素子上で実行されている論理シーケンス及び/又はコンピュータプログラム/アプリケーションの結果である。
【0035】
コントローラ124はまた、測定されたプローブの応答に基づいて、組成マップ128を生成するために、任意の入力信号について算出及び分析を提供してもよい。組成マップは、異種サンプル中の1つ以上の材料成分の分布のマップである。サンプル上の任意の位置において、分光測定値(即ち、波長又は波数に応じてプローブの応答の測定値)を得ることも可能である。分光分析は、所与の位置における材料を化学的に特徴付ける及び/又は同定するために、使用されてもよい。分光測定値(「スペクトル」)と組成マップの組み合わせは、ユーザが、次の2つの重要な質問に答えるのに役立つ。「それは何であるか」と「それはどこであるか」。スペクトルは、「それは何であるか」という質問(即ち、サンプルの領域の化学組成)に答えるために、使用でき、組成マップは、「それはどこにあるか」という質問(即ち、サンプル中の1つ以上の材料成分の分布)に答えることができる。
【0036】
一実施形態では、プローブの応答は、「側波帯周波数」で検出され、該側波帯周波数は、先端及びサンプル励起の周波数の和及び差周波数で、力成分を生成する、先端-サンプルの相互作用の領域における力の非線型混合から生じる。より詳しくは、カンチレバーが、周波数f1で、振動し、サンプルに入射する放射線が、非線型混合力の存在下で、周波数fmで、変調される場合、「側波帯周波数」fsbにおける周波数成分、即ち和及び差周波数、ここで、fsb=|±f1±fm|である(又は、より一般には、これらの周波数の任意の整数周波数を線型結合したものである)。
【0037】
側波帯周波数におけるプローブの応答は、以下のプロセスによって誘導されてもよい。先端-サンプル間力は、相対先端-サンプル間距離に基づいて、線型項と非線型項の両方を有する状況を考える。例えば、2次項にすると、先端-サンプル間力は次のようになる。
【0038】
式(1):
【0039】
【0040】
ここで、ksは、サンプルの線型接触剛性、zsとztは、各々、サンプル位置と先端位置である。サンプル動きの項zsは、波長に依存し、サンプルの光学特性やIR吸収に関する情報を含む。ガンマ項は、先端-サンプル間距離に対する先端-サンプル間力の任意の2次依存性に対する比例定数であり、それ自体、非線型の先端-サンプルの相互作用を示す項である(それはまた、距離による先端-サンプル間力の2次微分にも比例する)。
【0041】
先端とサンプルの動きが周期的であれば、zsとztの項はフーリエ成分を有する。
式(2):
【0042】
【0043】
式(3):
【0044】
【0045】
ここで、asとatは、各々、変調周波数fmと先端振動周波数f1における先端とサンプルの動きのフーリエ成分であり、φtsは、先端とサンプルの動きの間の相対位相である。(先端とサンプルの動きが正弦波ではない場合、より高い高調波周波数で、他のフーリエ成分もあるが、ここでは、容易にするために、それらを省略する)。
【0046】
式(1)のzsとztに、zs1とzt1の値を代入すると、2次項は次のようになる。
式(4):
【0047】
【0048】
乗算すると、式(4)の先端-サンプル間力は、交差項Fts_sbを含む。
式(5):
【0049】
【0050】
2つのコサインを乗算すると、先端とサンプルの動きの和周波数と差周波数(即ち側波帯周波数fsb)で交差項(即ちビート応答)が生成される。
式(6):
【0051】
【0052】
式(5)の側波帯力は、所与の周波数で、力とカンチレバーの応答関数に比例する先端による応答を引き起こす。具体的には、所与の側波帯周波数fsbにおけるヘテロダインプローブの応答r(fsb)は、以下式によって近似され得る。
【0053】
式(7):
【0054】
【0055】
ここで、as(λ)は、fmにおけるサンプルの動きの振幅であり、atは、周波数f1におけるプローブ先端の動きの振幅であり、γは、非線型結合係数であり、例えば、先端-サンプル間力の2次係数であり、H(fsb)は、周波数fsbにおけるカンチレバープローブの応答関数の値である(上式は、基本周波数f1とfmの線型結合からなる側波帯周波数に対して、書かれていることに注意すべである。f1又はfmの高調波の使用に対応する側波帯周波数を使用する場合、as(λ)及びatの値は、高調波周波数(即ち(mxf1)及び(nxfm))におけるフーリエ振幅に対応する(ここで、m及びnは、整数である)。振幅の代わりに力の観点から書かれた側波帯応答についても同様の公式があることにも注意すべきである)。
【0056】
式(7)のas(λ)項は、先端の下の材料に関する波長依存の化学的/光学的/分光的情報を含む。これを念頭に置いて、化学的/光学的/分光的情報に対する感度を最大にするために、最適化することを希望している他の比例定数の項を考慮することができる。
【0057】
式(7)から得られる3つの重要な点は、次のようになる。
(1)プローブの応答は、サンプルの動きas(λ)と先端の動きatの両方に比例する。
【0058】
(2)プローブの応答は、非線型結合係数γを介した先端-サンプル間力の非線型性に依存する。
(3)プローブの応答は、所与の側波帯周波数fhにおけるカンチレバーの応答関数H(fsb)に依存する。
【0059】
これらの項のうちの3つに対するプローブの応答の依存性は、材料依存性であることに留意すべきである。照射波長、振動周波数及び振幅、プローブ特性などのシステム作動値を選択して、これらの材料依存項を適切に変更することによって、異なる材料を識別及びマッピングするための非常に高感度で選択性の高い測定方法を作成できる。具体的には、特定の材料に対して、実質的に最大のプローブの応答を提供する一連のパラメータ値を選択してもよい。次に、この選択された一連のパラメータ値を、「材料選択的作動パラメータ」、即ちターゲット材料の分布を非常に高い感度及び空間分解能でマッピングするのに使用できる一連のパラメータ値と見なすことができる。これを達成するための様々な技術を以下に説明する。
【0060】
ここで、3つの異なる材料に依存する因子と、それが所与の材料に対して、どのように最大化されるのかについて説明する。第一に、as(λ)項は、サンプルの動きである。赤外線源の波長がAFM先端の下のサンプル領域の吸収波長に合わせて調整される場合、吸収された放射線は、サンプルを、加熱させかつ熱膨張させ、従って、サンプルの表面の動きasを引き起こす。サンプル動きの項は、AFM先端の下のサンプル領域の強い吸収に対応する波長を選択することによって最大化される。或いは、サンプル中の2つ以上の成分材料間の吸収特性の差を最大にする波長が、選択されてもよい(式(7)の力に基づく式では、所与の波長におけるサンプルの光応答に関連するas(λ)項と同様の力に基づく項がある)。いずれにせよ、強いIR吸収及び/又は光応答を生じさせる適切な波長の選択は、材料選択的プローブの応答を生成するための第1の方法である。
【0061】
材料に依存する2番目の項は、非線型結合係数γである。非線型結合係数は、先端-サンプル間力の相互作用における非線型性の程度の尺度である。非線型結合係数は、ハマー定数、粘弾性、摩擦、散逸、接着、表面電位、疎水性などを含む一連の特性を介して、先端の下の材料に敏感である可能性があり、それらは全て材料組成及び材料特性に依存する可能性がある。この因子はまた、表面-先端の相互作用の詳細によって大きく影響される。例えば、それは、振動カンチレバーの自由空気振幅と、先端がサンプルと相互に作用しているときの振動の振幅との両方によって影響を受ける可能性がある(フィードバックループは、所望のレベルの相互作用を保持するために使用されることが多いため、これは頻繁に「振幅設定値」と呼ばれる)。例えば、タッピングモードAFMは、例えば、非特許文献1に記載されているように、自由振幅及び振幅設定値に依存して、引力性又は反発性の領域で、作動してもよい。どちらの方式を採用するかによって、材料に依存する非線型結合係数に強く依存する。一般に、小さい自由振幅(約10nm以下)及び自由空気振幅に近い振幅設定値を特徴とする、いわゆる引力性領域では、非線型結合係数が、小さく、材料特性に大きく依存しない。一般に、より高い自由振幅(典型的には10nm超過)及び/又は自由空気振幅のより大きな減少率に対応する振幅設定値を特徴とする、いわゆる反発性領域では、非線型結合係数は、はるかに大きくなり、材料によって異なることがある。(例えば、特許文献1に記載されているように)AFMタッピングモード位相撮像において観察される位相差の量と、入射するIR放射線に対するプローブの応答の振幅との間に、強い相関があることが決定された。結合の明白な原因としては、非線型の先端-サンプル間力の発生によって、非線型結合係数を劇的に増加させる。従って、非線型結合係数の程度を最大にするために、サンプル中の異なる成分材料間で、強い位相差を示すタッピングモード作動条件を選択することが好ましいことがある。所与の材料について、この作動点はまた、振幅/位相対距離曲線を作ることによって経験的に見出すことができる。振動するAFM先端がサンプル表面に近づくにつれて、十分に大きい自由空気振幅に対して、作動条件が、いわゆる引力から、いわゆる反発に切り替わる位相不連続がある振幅がある。位相不連続性、及び位相不連続性の低い側に振幅設定値が存在することを確実にするのに十分に大きい自由空気振幅を選択することによって、非線型結合係数が引力性領域よりもはるかに大きい作動点を見つけることが可能である。
【0062】
この作動領域で得られるAFM-IR画像は、空間分解能が大幅に向上する可能性がある。
図2は、サンプルに、この生物学的膜のアミドI吸収帯に対応する、1660cm
-1の放射線ビームを照射して取られたサンプルの紫色膜についてのタッピングモードAFM-IR測定中の例示的な測定を示す。上の画像は、紫色膜と隣接する金基板との間の位相差を実質的に最大にする条件下で撮られた、タッピング位相画像200及びAFM-IR画像202である。下の画像は、位相差を最小にする条件下で撮られたタッピングモード位相画像204及びIR画像206である。画像202は、画像の位相差が、画像206と比較して、実質的に最大化される条件下で、実質的に改善された空間分解能を示す。
図3は、AFM-IR画像の断面を示す。
図3の断面300は、
図2のA-A線に対応し、
図3の断面302は、
図2のB-B線に対応する。これらの断面は、両方の作動条件下で達成された空間分解能の比較を可能にする。紫色膜の経路の同一端で、AFM-IR信号が、金の基線から紫色膜の信号に遷移する横方向の距離を比較できる。80%/20%の垂直しきい値を使用すると、断面A-A(実線、300)は、約9nmの空間分解能を示すが、断面B-B(破線、302)上の空間分解能は、約30nmである。これは、位相最大化分解能向上方式を介して、空間分解能の大幅な向上を示し、空間分解能は、具体的に30nm未満、好ましくは10nm未満である。
【0063】
図4に示されるように、検出されたタッピングモードAFM-IR信号に寄与する第3の材料依存因子は、カンチレバー伝達関数H(f
sb)(400,402)である。伝達関数は、所与の機械的周波数における励起に対する予想されるカンチレバーの応答を示し、それ自体、各カンチレバーモードの共振周波数における応答のピークを示す。2つのモードの共振周波数が、
図4の例示的な伝達関数(400,402)の各々に示されている。一実施形態では、周波数f
mは、f
m=f
mAとなるように選択され、その結果、カンチレバー振動周波数f
1と変調周波数f
mAとの和又は差によって生成される側波帯周波数f
sbは、プローブ100が、第1の材料成分Aと相互に作用するときに、プローブ100の共振周波数に実質的に対応する。
【0064】
【0065】
ここで、f2Aは、材料A上のプローブ100の共振周波数に対応する(他の箇所で述べたように、側波帯周波数はまた、f1とfmの高調波周波数の線型結合となるように選択してもよい。これは、周期的励起の一つが、非正弦波であり、より高い高調波における多くのフーリエ成分を有する可能性がある場合に特に有利であり得る)。
【0066】
側波帯周波数がプローブの共振周波数に対応する場合、プローブ伝達関数H(fsb)の値は、周波数f2Aで極大値406にある。このような共振周波数では、H(fsb)は、極大ピーク406の高さと同一であり、次にf2Aにおけるプローブの品質係数Qに比例する。タッピングにおけるカンチレバーの共振モードのQ値は、数百から数千まで、非常に高くなり得る。音叉型共振器、カンチレバー、又は真空中の他のMEMSセンサに基づくプローブは、10,000以上の範囲でさらに高くなり得る。これにより、検出された信号強度が劇的に向上する。
【0067】
カンチレバーモードの共振周波数f
2は、典型的には一定値ではない。実際、サンプルの特性がカンチレバーの振動特性に影響を与えるため、材料依存性が高い場合がある。
図4は、タッピングモードで作動しているAFMカンチレバーの第2モードの共振周波数における材料依存偏移の例を示す。第2伝達関数402(破線)は、材料A406上の周波数f
2Aから材料B408上の新たな周波数f
2Bへの高次モード共振周波数の偏移を示す。プローブの応答関数のこの偏移は、材料の感度、選択性、及び空間分解能を高めるための追加の調整可能なパラメータを提供する。2つ以上の材料間の明暗差が極めて高い画像を得るためには、光源の変調周波数f
mを調整して、カンチレバー共振周波数f
2における材料誘発偏移を特に調整することが好ましい場合がある。一部の例では、周波数f
mを調整して、1つの材料に対して、最大の応答と、他の材料に対して、最小の応答とを提供してもよい。例えば、f
1とf
mの合計に対応する側波帯周波数f
sbで、サンプルに入射する放射線に対するプローブの応答を測定する場合を考える。レーザー変調周波数f
mは、和周波数(f
sb=f
1+f
m=f
2A)に合わせて調整してもよい、ここで、周波数f
2Aは、材料A上のカンチレバー共振周波数である。AFM先端が材料B上にあるとき、共振周波数はf
2Bに偏移する。f
2Aとf
2Bの間に、十分な材料依存性の差がある場合、合計f
1+f
m≠f
2Bとなる。この場合、カンチレバー伝達関数H(f
sb)の値は、はるかに小さい、又は無視できるほどの応答が得られると、材料Bについてはるかに小さくなる。これは、所与の材料に対する感度を最も大きくし、材料成分の分布をマッピングするために使用される、プローブの応答の画像の空間分解能を向上させるための第3の方法を提供する。その理由は、AFM先端が、カンチレバーモードの共振周波数を偏移させるサンプル上に移動すると、すぐにプローブの応答信号が大幅に減少し、側波帯周波数で測定される応答が、減少するためである。
【0068】
従って、サンプルの光吸収特性以外に、入射するIR放射線に対するプローブの応答に影響を与えるいくつかの材料に依存する因子がある。この争点は問題と機会の両方を提供する。問題は、これらの非光学特性が測定データの誤釈の可能性を提供することがある。例えば、異なる材料に対するプローブの応答の差を示す、2つ以上の材料にわたって入射するIR放射線の所与の波長におけるプローブの応答の測定を想像する。所与の波長におけるIR吸収の差によるプローブの応答の違いによるものである可能性があるが、上記の説明から、他にもいくつかの因子があることが分かる。例えば、
図4に示すように、f
mが、材料Aに対して、最適化されている場合、同一周波数で、材料Bに対して、略又は全く応答がないように、より高いモードのカンチレバー共振周波数において、十分に大きな材料依存偏移が存在することがある。従って、 明暗差の実際の原因が、略機械的なものである場合、IR吸収に対する明暗差の違いに起因して、AFM-IR画像を誤って解釈することがある。
【0069】
図5は、この問題をより詳細に説明している。
図5は、タッピングモードで作動しているカンチレバーの第2モードの共振周波数のピークに対する、異なる材料と振動プローブ先端との相互作用の影響を示す。プロット500は、サンプルと相互に作用していない間に、カンチレバーを直接振動させることによって測定された第2モードの共振周波数を示している。即ち、それはこのカンチレバーの第2モードの自由共振周波数のプロットである。プロット502及び504は、プローブが高分子ブレンド中の2つの異なる材料成分と相互に作用している間に、光源の変調周波数が掃引されるAFM-IR側波帯測定値を示す(プロット500のY軸は、自由相互作用振幅がタッピング相互作用中の振幅よりはるかに大きいため、右側にあることに留意すべきである)。プロット502及び504では、測定されたプローブの応答は、タッピングモードで振動しているカンチレバーの第2モードの共振周波数における側波帯振幅であった。即ち、測定された応答は、側波帯差周波数f
sb=f
m-f
1で、振幅応答を測定しながら、f
1における先端振動と、f
mにおける光源変調との非線型混合によるものである。自由空気と、2つの高分子成分との相互作用との間には、第2モードの共振周波数の位置にかなりの偏移があることに留意すべきである。プロット500の自由空気ピークは、350.4kHzであり、一方、プロット502の第1の高分子成分の側波帯ピーク振幅は、351.2kHzであり、プロット504の第2の材料成分の側波帯ピーク振幅は352.4kHzである。自由空気振動に対して、両方の材料の周波数偏移があることに留意すべきである。プローブがサンプルと相互に作用していないときに(即ちプロット500のピーク)、共振周波数に同一の側波帯周波数を生成する変調周波数を選択すると、プロット502及び504では、異なるピーク位置を有するいずれかの材料成分に対する応答を必ずしも最適化するとは限らない。即ち、自由カンチレバー共振周波数において側波帯を生成する変調周波数を選択することにより、材料選択性の高い一連の作動条件を生み出す。
【0070】
プロット502及び504はまた、先端が、高分子ブレンドサンプル中の2つの異なる材料成分と相互に作用する間に、プローブの共振周波数に有意な材料依存偏移があることを示す。これらの材料に依存する周波数偏移は、測定アーチファクト又は測定データの重大な誤釈を引き起こす可能性がある。例えば、ユーザが、最初にサンプルを第2の材料と相互に作用させ、変調周波数をプロット504のピークに設定し、次に異なる材料にわたってプローブの応答を測定した場合、プロット502及び504の振幅が、プロット504のピーク付近で交差するという事実のために、ユーザは、プローブの応答に差がないことが分かる。ユーザが、プローブの応答の類似性のために、材料組成に差がないと結論した場合、これはプロット502の第1の材料がはるかに高い振幅ピークを有するため、明らかに不正確であろう。
【0071】
同様に、光学的/吸収特性に変化がない場合には、周波数が偏移する可能性がある。この場合、ユーザは光吸収に変化があると仮定することがあるが、その代わりに機械的特性の違いだけから明暗差が生ずる可能性がある。また、振幅の変化が、減衰の変化からも生じ、その結果、共振周波数におけるピークの品質係数Qが変化する可能性があることも注目に値する。
【0072】
これらの問題は、(1)側波帯AFM-IR測定を自動的に設定し最適化する技術、及び(2)明暗差の低下又はアーチファクトを引き起こす可能性がある材料依存偏移を動的に追跡及び/又は補償する技術によって回避することができる。
【0073】
図6は、側波帯周波数における材料依存偏移を設定し、最適化し、そして動的に追跡するために使用される方法の実施形態を示す。ステップ600において、カンチレバープローブは、プローブの振幅応答を測定しながら、直接励起(例えば、アクチュエータ)によって振動するように、駆動される。この測定から、プローブの共振周波数、例えば、f
r1とf
r2が決定される。ステップ604において、例えば、f
1とf
mとの間の側波帯周波数f
sbを生み出して、実質的にf
r2と同一にするように、プローブの第1の振動周波数f
1をf
r1及び放射線変調周波数f
mの近くに設定して、初期設定が行われる。(f
r2がf
r1よりも高い必要はないことに留意すべきである。カンチレバーは、必要に応じてより高いモード周波数で、タッピングモードで作動させることができ、側波帯応答はより低いモード周波数で、発生させることができる)。ステップ606において、先端が第1の領域におけるサンプル表面と相互に作用し、プローブ-サンプルの相互作用が最適化される(この最適化のための方式は、以下及び
図7の説明においてより詳細に説明される。)。ステップ608において、変調光が、プローブの近くのサンプルに向けられる。このプローブと表面の相互作用と、表面との光の相互作用との組み合わせは、光源の選択された波長で、サンプル中に十分な光応答がある場合、側波帯応答を生じさせることができる。プローブが表面と相互に作用している間に、プローブの共振周波数の前述の偏移のために、システムの初期設定が最適ではない可能性がある。そのため、ステップ610において、光源変調周波数f
mは、所与の側波帯で、プローブの応答を最適化するように、調整される。次にステップ612において、プローブの応答は、最適化ステップ612と同時に又はそれに続いて、側波帯周波数で、測定される。サンプルの組成マップを作成するために、複数の位置でプローブの応答を測定してもよい。ステップ614において、プローブは、サンプル表面上の次の位置に移動され、変調周波数は、プローブの共振周波数における材料依存偏移を補償するために、再最適化され得る(610)。本明細書で後述するように、変調周波数を、特定の材料成分に対して、非常に選択的かつ敏感になるように、固定することも可能である。このプロセスを光源の複数の波長で繰り返して、サンプルの複数の領域にわたってサンプルの分光応答を作り出すことができる。或いは、プローブの応答を測定しながら先端を単一の位置に位置決めして光源の波長を迅速に掃引して、サンプルの領域の化学組成及び/又は光応答を示す点スペクトルを生成することが可能である。
【0074】
一実施形態では、光源変調周波数fmは、より高いモードの共振周波数における任意の材料依存偏移を追跡するように、動的に調整してもよい。これは、いくつかの方法で達成できる。一実施形態では、光源変調周波数は、所与の材料に対する実質的に最大のプローブの応答を決定するために、ある範囲の周波数にわたって、急速に掃引され得る。これは、画像画素毎に頻度に行うことができる。或いは、それはサンプルの選択された代表的な領域に対して、行われ得、そして次に、先端が特定の材料上にあることが検出されたときに変調周波数fmが動的に調整され得る。これは、例えば、タッピング位相測定、又は任意の他の弾性、粘弾性、摩擦、散逸、又は異なる材料を識別するために使用してもよい他の同様の測定を使用して、行わってもよい。アルゴリズムは、測定された信号が特定の材料を示していることを示すこの補助測定値の範囲を設定できる。例えば、AFM位相撮像測定によると、材料Aの35度と材料Bの45度の平均位相値が示された。最初のステップで、材料AとBの最大応答に対応するfmの値を記録する。タッピング位相測定とAFM-IR測定を同時に行う。fm値を変更するためのしきい値として、40度の位相(材料Aの35度と材料Bの45度の中間点)に遷移点を設定できる。従って、fmの値は、40度未満の位相測定では、材料Aについて実質的に最大の応答に設定され、40度を超える位相測定では、材料Bについて最大の応答に設定できる。
【0075】
前記の手法は、個々の成分にわたって略一様な応答を有する材料成分の限られた設定についての材料の分布をマッピングするのに十分であり得る。しかし、未知の成分、又は実質的に不均一性を有する成分の場合、上記のアプローチは十分ではない可能性がある。代替の実施形態では、代替の手段を使用して、材料から独立して、実質的に最大のプローブの応答を保持するように、周波数fmを自動的に調整してもよい。例えば、カンチレバープローブの1つ以上の応答を測定して変調周波数を調整し、機械的結合係数を変化させる異なるサンプル構成材料の存在下でも、入射放射線に対するプローブの応答を実質的に最大化することが可能である。例えば、カンチレバーモード周波数の偏移の指標として、側波帯周波数fsbにおけるプローブの応答の位相測定値を使用することが可能である。実際、この信号は、側波帯周波数が、常に選択されたカンチレバーモードの共振周波数に対応するように、光源変調周波数fmを動的に調整するために、位相ロックループに使用してもよい。他の信号もモード共振周波数の指標として使用されてもよい。例えば、いくつかの状況下では、カンチレバー振動器のタッピング周波数における位相は、他のモード共振周波数における材料依存偏移の指標を提供してもよい。AFMカンチレバープローブの追加の高次モード共振を機械的に励起し、これらの共振の振幅及び/又は位相を使用して、側波帯周波数が励起される所望のモードの共振周波数の偏移を推定することも可能である。例えば、周波数f1におけるカンチレバー振動と、変調周波数fmにおけるレーザーサンプル照射との組み合わせによる側波帯変調のために、2次モード共振周波数が選択された場合、3次カンチレバーモードは、圧電アクチュエータで励起され、このモードの位相がモニターされる。先端-サンプルの相互作用における材料に依存した変化は、第3モードで位相応答に変化を引き起こし、位相変化の量は、レーザー変調周波数fmにおける変化を推論するために、使用されてもよい。より高いモード共振周波数における位相変化と、側波帯励起用に選択されたモード共振周波数の変化との間の相関関係を決定するために、ある程度の較正が必要である可能性がある。一端較正が確立されると、システムが、測定された変化を高次位相で、補償するのに必要とされる変調周波数fmの変化量を知るように、それを制御ループにプログラムしてもよい。
【0076】
図7は、高分解能、高感度、及び高度に選択的な材料組成マップを得る方法を示す。
ステップ700:第1の周波数f
1で、カンチレバーを振動させる。
ステップ702:プローブ先端をサンプルの第1の領域と相互に作用させる。
【0077】
ステップ704:光源を周波数fmで変調する。
任意選択のステップ706、708:位相制御が有効にされている場合、カンチレバー動きの位相が、周波数f1で、測定され(706)、プローブ相互作用パラメータがその測定に応じて調整され得る(708)。例えば、自由空気振動振幅、駆動周波数f1及び/又は振幅設定値のようなパラメータは、所望の位相応答を引き起こすように、調整してもよい。一実施形態では、プローブ対相互作用パラメータは、位相対距離プロットにおける位相不連続性の識別を介して、プローブが反発的なタッピングをしていることを確実にするように、調整してもよい。或いは、プローブ相互作用パラメータは、サンプル中の複数の材料成分間の実質的に最大の位相差を確実にするように、調整してもよい。或いは、プローブ相互作用パラメータは、プローブ先端が表面と相互に作用しているときと、プローブ先端が表面と相互作用していないときとの間のf1におけるカンチレバー振動の位相において実質的に最大の差を達成するように、調整してもよい。
【0078】
任意選択のステップ710:必要に応じて、変調周波数fmを動的に調整又は再調整して、材料選択性を最大にしてもよい。具体的には、変調周波数fmは、所与の側波帯周波数で、測定されたプローブの応答を実質的に最大にするような周波数に設定してもよい。実際には、これは、得られる側波帯周波数がプローブの共振周波数に対応するように、変調周波数fmを調整することを含む。この場合、プローブの応答は、共振周波数で励起されたときのプローブの応答の増加によって増強される。一実施形態では、プローブ相互作用パラメータは、変調周波数の調整と実質的に同時に調整される。この場合、変調周波数は、プローブ-サンプルの相互作用の変化から生じるプローブの共振周波数の変化を追跡するように、調整してもよい。
【0079】
ステップ712:次に、プローブの応答が、第1の側波帯周波数fsb1で測定される。
ステップ714:測定すべきサンプル上の位置がさらにある場合、プローブ先端をサンプル上の新しい位置に移動して、前述のステップのいくつか又は全てを繰り返す。ステップ706~708が反復する場合、1つ以上のプローブ相互作用パラメータは、サンプルの新しい領域に対する非線型結合係数を最大にするように、調整される。ステップ710が反復する場合、放射線源変調周波数fmが調整され、得られる側波帯周波数の偏移を引き起こす。fmの値は、プローブがサンプルの新しい領域と相互に作用している間に、プローブの共振周波数と側波帯周波数が実質的に同一になるように、調整されてもよい。再調整プロセスは、さまざまな間隔で発生する可能性がある。これは、組成マップの各画素で(又は画素ごとに複数回)発生することも、再調整の特定の目的に応じて、全ての走査線の後又は画像全体の後に発生することもある。
【0080】
ステップ716:一実施形態では、先端相互作用パラメータ及び変調周波数f
mは、サンプル上の複数の位置で調整されない。この場合、システムは、先端相互作用パラメータ及び側波帯プローブの応答が最適化された第1の材料の存在を検出するために、システムが高度に最適化されている側波帯周波数で、プローブの応答の空間分解プロットを作成する。即ち、この測定によると、ターゲット材料が検出された場合には、常に強い信号を生成し、材料が検出されなかった場合には、より小さい又は無視できるほどの応答を生成する。得られる画像又はマップは、例えば、
図2の画像202に示されるように、特定のターゲット材料の存在場所を、非常に高い選択性及び空間分解能で示している。このプロセスは、その後、第2の材料成分に対して、反復することがある。
【0081】
代替実施形態では、先端相互作用パラメータ及び光源変調周波数のうちの1つ以上は、最適パラメータにおける任意の材料依存偏移を補償するために、動的に調整してもよい。具体的には、システムは、所望の位相応答を達成するために、f1における駆動振幅又は周波数、f1における振幅設定値を動的に調整してもよい。レーザー変調周波数はまた、プローブの共振周波数の材料依存偏移を補償するように、即ち選択されたカンチレバーモード共振周波数における任意の偏移に対応する更新側波帯周波数を確実に生成するように、fmを再調整するように、調整してもよい。この場合、複数の画像を同時に作成してもよい。第一に、サンプル上の位置に応じてプローブの応答の画像を以前のように、作成してもよい。次に、サンプル内の位置に応じて周波数偏移をfm単位でプロットする画像を作成できる。このプロセスには2つの利点がある。第一に、レーザー変調周波数fmの偏移は、単に機械的特性の変動によるものである側波帯プローブの応答画像内のアーチファクトを低減する。次に、これらの機械的効果を測定して、視覚化するための補足的なデータチャネルを提供する。従って、サンプル上の複数の位置にわたるfmの変動をプロットすることにより、サンプルの赤外線吸収特性とは無関係に、機械的特性に基づいて、材料成分の分布を視覚化することが可能になる。
【0082】
材料A又は材料Bのいずれかが、共振周波数についてもfmを最大にするように、調整する必要はないことに留意すべきである。或いは、2つの材料の間に、実質的に最大の明暗差がある周波数に対応する変調周波数fmを選択することが可能である。この場合、所与の周波数で、カンチレバー応答関数の絶対差を最大化すること、即ち|HA(f)-HB(f)|項を実質的に最大化する、周波数f=f1+fm(又は他の側波帯)を見つけることが望まれる。これは、カンチレバー品質係数が異なる材料で異なり、その結果、2つの材料の間でH(f)の最大値が異なる場合に特に有用であり得る。
【0083】
前述の説明では、第1の振動周波数f1は、カンチレバー共振周波数に対応する必要はないことに言及したことに留意すべきである。一実施形態では、第1の振動周波数f1は、カンチレバーの自由共振周波数に対応し、走査型プローブ顕微鏡は、一般にタッピングモード又は間欠接触モードと呼ばれる振幅変調モードで作動する。他の実施形態では、周波数f1は、共振周波数から離れた代替周波数にあり得る。この場合、プローブ顕微鏡は、カンチレバーが、追加の変調周波数で振動する振幅変調モードで、作動してもよい。プローブ顕微鏡はまた、他のモード、例えば、接触モード、又は先端が表面に向かって所望のレベルの相互作用まで繰り返しもたらされる高速力曲線モードで作動させることもできる。この場合、相互作用のレベルは、側波帯周波数におけるプローブの応答を最大にするために、非線型結合係数を最大にするように、選択してもよい。
【0084】
サンプルの機械的特性及び先端-サンプルの相互作用パラメータからの寄与を本質的に排除する測定を行うことも可能である。プローブの応答の減衰に依存する変化を補償するために、異なる材料成分上のカンチレバーQ係数を個別に測定する。変調周波数fmの動的偏移と結合されたQの測定は、プローブの応答が実質的に光応答の測定値であることを可能にし、機械的特性変動からの明暗差を最小にする。
【0085】
代替の実施形態では、側波帯検出なしで作動することが可能である。例えば、特許文献2に記載されているように、カンチレバープローブの共振周波数に対応する周波数で、放射線源を直接変調することが可能である。この場合、サンプルに入射する放射線は、非線型混合を必要とせずに、カンチレバー動きの直接励起を引き起こす可能性がある。しかし、この場合、測定感度は、位相測定又はより詳しくは位相ロックループを介して、カンチレバー共振周波数を能動的に追跡することによって改善することができる。入射放射線によるプローブの応答の位相は、変調周波数fmで直接測定することができ、この位相は、fmを調整するために使用されるフィードバックループへの入力として作用してもよい。このようにして、カンチレバー共振周波数におけるサンプル依存の変動を追跡するために、レーザー変調周波数を動的に調整することが可能である。これは、AFM先端の下の材料とは無関係に、入射放射線に対するプローブの応答を最大化するという影響がある。位相ロックループはまた、リアルタイムで画素毎に作動することができ、(接触モードで作動する市販のAFM-IRシステムにおいて現在行われているように)ある範囲の周波数にわたって変調を掃引する必要性を排除する。従って、放射線変調周波数の位相に基づく追跡は、測定速度における実質的な改善を提供してもよい。例えば、ピーク振幅を決定するために、複数の周波数にわたって掃引するためには、通常、ピークを見いだしそしてその中心周波数を十分な精度で測定することができるように、10~50以上の異なる周波数で、測定を行う必要がある。位相追跡方式では、測定は迅速に行うことができ、単一の画素にわたる十分な信号対雑音に必要な積分時間によってのみ制限される。位相追跡は、広い波長掃引を必要とせずに、連続的に変調周波数を更新しながら、走査処理と並行して進行してもよい。適切な位相追跡システムは、20μsec毎に光源変調周波数を調整してもよい。この方式の下では、200x200画素の画像に対して、わずか数分(例えば、5分未満)で、光吸収画像及び共振周波数画像を得ることができる。
【0086】
この方法は
図8に示されている。この方式は、プローブの共振周波数の近傍におけるプローブの応答の位相と振幅との間の関係のために、機能する。
図8Aは、光源変調周波数に応じてカンチレバー振動の振幅800と位相802のプロットを示す。この測定は、カンチレバーが約183kHzで接触共振周波数を有する接触モードのAFMカンチレバーを使用して行われた。このプロットでは、位相信号802は、振幅曲線800が共振周波数におけるピークを有する比較的急勾配の領域803を有する。次に、変調周波数を調整して所望の位相を保持するフィードバックループを使用して、振幅共振周波数のピークで光源変調周波数を保持することが可能である。
【0087】
図8Bは、この位相に基づく変調周波数の制御を達成する方法を示す。ステップ804において、プローブをサンプル表面と相互に作用させる。ステップ806において、サンプルには、初期変調周波数f
mで変調された放射線ビームを照射する。次に、ステップ808において、プローブの応答の位相が測定される。一実施形態では、これは、変調周波数における位相であるが、側波帯周波数における位相であってもよい。次に、測定された位相が位相設定値と比較され、ステップ810において変調周波数f
mが調整される。これは、位相を目標値又はその近くに保持しようと試みるためのPIDループ又は他の手段によって行わってもよい。ステップ812において、プローブの応答の振幅もまた測定される。この振幅測定は、位相測定と同時に、又は変調周波数が調整された後に行わってもよい。ステップ814において、サンプル上の複数の位置に移動することによってこのプロセスを繰り返す。プローブの応答に基づいて、サンプルの組成マップを作成してもよい(ステップ816)。この組成マップは、振幅測定値、位相測定値、変調周波数、又はそれらの任意の組み合わせ、或いはプローブの応答の任意の他の測定値からの情報を含んでもよい。振幅測定は、放射線源の所与の波長におけるサンプル表面の光吸収に関連している。プローブの共振周波数に対応する周波数信号は、サンプルの剛性に関係している。そのため、マルチモーダル測定を行うって、化学的及び機械的特性の測定値を同時に取得してもよい。このプロセスは、プローブの共振周波数が、接触共振周波数に対応する接触モードに使用してもよく、又はプローブの共振周波数が、本質的に自由振動共振周波数であるが、材料依存の先端-サンプルの相互作用によって修正される振幅変調に使用してもよい。そして上述のように、この方法は、変調周波数、その高調波、又は他のプローブ/サンプル振動との非線型相互作用による側波帯周波数で測定されたプローブの応答に直接適用してもよい。
【0088】
図9は、
図8に示した実施形態に従って行われた測定の例を示している。これらの測定では、フィードバックループを使用して光源変調周波数f
mを調整し、カンチレバー振動の位相を目標設定値に保持しようと試みた。画像900は、これらの条件下で得られた接触共振画像であり、一方、画像902は、所与の変調周波数における入射放射線に対するプローブの応答の振幅を示す。実際には、上の画像900はサンプルの相対剛性のプロットであり、下の画像902は光吸収のプロットである。サンプルは、エポキシマトリックス中のポリスチレンビーズとPMMAビーズの混合物である。
【0089】
図10は、異種サンプル中の特定の材料成分に対して、高度に選択的である組成画像を得るための方法を示す。この方法は、特定の材料成分に対して、選択的であるように、特に調整されていることを除いて、多くの点で前述の方法と類似している。ステップ1000において、振動プローブ先端は、第1の材料成分上のサンプルの表面と相互に作用する。検査走査を最初に完了して、関心のある特定の材料を有する領域を選択してもよい。選択された材料成分の化学分析を行うために、AFM-IRスペクトルも得られる。ステップ1002において、サンプルは周波数f
mで変調された放射線ビームを照射する。次の3つのステップ1004、1006、及び1008は、選択された材料成分に対して、実質的に最大のプローブの応答を生じる一連のシステム作動値の決定を含む。次いで、これらのいわゆる「材料選択的作動パラメータ」を使用して、ターゲット材料に対して、非常に敏感であり、他の材料成分に対して、実質的に敏感でないために、プローブの応答を有するように、システムを調整する。ステップ1004において、放射線源の波長は、それがサンプル中で最大の光応答を促すように、調整される。例えば、波長は、ターゲット材料の強い吸収帯に合わせて調整されることができる。或いは、それは、選択された材料成分とサンプル中の他の材料成分との間を最大に区別する波長に合わせて調整してもよい。ステップ1006において、1つ以上のプローブ相互作用パラメータは、非線型結合係数、即ち式(7)におけるγ項を最大化するように、調整される。これは、側波帯応答を最大にしながら、選択された材料成分に対するプローブの応答を測定することによって最大にすることができ、或いはプロキシ信号、例えば、前述のタッピング位相信号を使用することによって調整してもよい。次に、ステップ1008において、放射線源の変調周波数が、最大側波帯応答を達成するように、調整される。実際には、このステップは、プローブがターゲット材料と相互に作用する間に、プローブの共振周波数と実質的に重なり合うように、プローブの振動と光源の変調との間の側波帯周波数を調整することにある。前述したように、
図4及び
図5に示されるように、プローブの共振周波数は材料特性に非常に敏感である可能性があり、従って、材料選択的パラメータでもある。最後に、特定の材料成分に対して、決定され選択された一連の材料選択的作動パラメータを使用して、複数の位置でプローブの応答を測定してもよい(ステップ1010及び1012)。所望の数の位置でプローブの応答が測定されると、サンプルの組成マップを構築することができる(ステップ1014)。この場合、プローブ先端が選択された材料の上にあり、他の材料の成分に対しては、より低い又は無視できるほどの応答を示すときに、マップは高い信号強度を示す。その後、さまざまな材料成分に対して、方法全体を繰り返して、他の材料の分布のマップを作成することができる。成分マップは、重ね合わせて、異なる材料成分の相対分布を視覚化することができる。一実施形態では、材料選択的作動パラメータの値は、例えば、画像測定プロセスの交互の線上で、2つ以上の材料の値の間で急速に偏移させることができる。例えば、プローブが一方向に動いているとき、例えば、トレース方向において、材料選択的作動パラメータは、第1の材料に対して、非常に敏感になるように、調整してもよい。それから反対方向、例えば、逆に言えば、材料選択的作動パラメータは、他の材料成分に対して、非常に敏感になるように、調整してもよい。これらのインターリーブされた測定値は、それから、2つの異なる成分の分布の別々のマップ又はオーバーレイマップを構築するために、使用され得る。これは、例えば、連続する走査線上の材料選択的作動パラメータ間で交互になるように、多くの材料成分がマッピングされることが望まれるので必要に応じて拡張してもよい。或いは、1つの放射波長におけるプローブの応答の相対強度を、他の放射波長に対して、表示するレシオメトリック画像を作成することが可能である。
【0090】
図11は、
図10において上述したプロセスにより作成された画像を示している。
図11は、ポリスチレン(PS)とポリメチルメタクリレート(PMMA)成分のブロック共重合体の分解能と感度を高めたAFM-IR画像を示す。この画像では、特定のターゲット材料を強調表示する機能を実証するために、画像の中央で、材料選択的作動パラメータを切り替えた。材料選択的作動パラメータは、放射波長、変調周波数及び先端相互作用パラメータである。画像の上部には、PS成分に対する感度を選択的に高めるように、材料選択的作動パラメータが設定されている。画像の下部では、他の成分としてPMMAに対する感度を選択的に高めるように、材料選択的パラメータを設定した。特定の材料に対して、パラメータを調整するとき、明暗差が反転することを注目する。
【0091】
図12Aは、
図11のPS/PMMA共重合体サンプルについて、本明細書に記載の方法を使用して得られた従来のAFM-IRスペクトル(1200及び1202)及び分解能を高めたAFM-IRスペクトル(1204及び1206)を示す。
図12Aは、PMMA領域上で測定された1つのスペクトル1200及びPSドメイン領域上で測定された別のスペクトル1202を示す。50~100nmの範囲内のこれらのドメインの非常に小さいサイズのために、これらのスペクトル間の差は最小である。両方のスペクトルは、サンプル表面下の相補的材料のドメインによる光吸収及び/又はIR吸収からの熱の熱拡散のために、周辺の材料の吸収帯によって実質的に汚染されている。
図12Bは、これら2つの材料のスペクトル識別が著しく改善される、PMMA上の分解能向上したスペクトル1204及びPS上の分解能向上したスペクトル1206を示す。この分解能の向上により、50~100nmよりも小さいドメインでも、はるかに低いクロストークのスペクトルを得ることが可能である。
【0092】
一実施形態では、
図1のIR源114は、狭帯域光源ではなく、広帯域光源、例えば、アト秒、フェムト秒又はピコ秒光源、スーパーコンティニュームレーザー、差周波発生、又は和周波発生源、周波数コム、グロバー、及び/又は熱源を含んでもよい。この場合、光源の出力は、広範囲の波長を含み、同時にサンプル中の複数の吸収帯又は光学共振を励起することがある。この場合、IR源114からの放射線は、干渉計を通過してサンプルに入射することがある。干渉計は、波長依存プローブの応答を復調するために、使用され得る。干渉計は、一方のアームに固定鏡を備え、他方のアームに可動鏡を備える2つのアームを含んでもよい。可動鏡を掃引することによって、干渉計の相対光学位相が掃引されて、プローブの応答インターフェログラムが作成され、次に、それを波数又は等価的に波長の関数としてプローブの応答を明らかにするスペクトルにフーリエ変換してもよい。波長依存性プローブの応答は、プローブ先端の下のサンプルの領域の光応答を示し得る。
【0093】
本明細書に記載されている方法は、水溶液を含む液体に浸されたサンプルを使用して行うってもよいことに留意すべきである。プローブの品質係数は、液体の減衰や追加の質量効果のために、低下する可能性があるが、分解能と感度を高めたAFM-IRの基本的な手法は、依然として適用可能である。この場合、振動しているカンチレバーによって「運ばれる」流体質量を実質的に最小にし、かつ/又は液体を通って移動するカンチレバーの粘性減衰力を最小にするカンチレバープローブを選択することが好ましい。さらに、ねじり共振モードを励起するT型カンチレバー又は横振動モードを励起するカンチレバー形状が、運搬質量及び粘性減衰の影響の一方又は両方を低減する可能性がある。例えば、いくつかのAFMプローブは、カンチレバーの本体を空気中で振動させることができる一方で、AFM先端自体が液体に浸されている場所で作動するように、設計されている。非特許文献2は、カンチレバーが、空気中にある間に、液体に浸すことができる長い針先端を有するAFMプローブを記載している。高Q流体カンチレバーもまた、カンチレバー部分を囲む、浸漬可能な格納部を使用して作製されており、ここで、レバーは空気中に、先端は液体中に保持している(例えば、非特許文献3及び商業会社Scuba Probeによって作製されており、特許文献3に記載されている)。低減衰及び高Qを有する横方向モードカンチレバーが、非特許文献4によって実証されている。これらの技術のいずれかを使用して、高品質の分解能と感度を高めたAFM-IRに十分な、100を超える液体中の品質係数を達成することが可能である。品質係数Qが、低下する可能性がある場合であっても、信号に対する他の寄与物、即ちサンプルの熱膨張及び非線型先端/サンプル結合は依然としてかなりのものとなり得るため、材料特有の作動パラメータを選択するための本明細書に記載の技術はまだ適用できる。
【0094】
本明細書に記載の実施形態は例示的なものである。これらの実施形態に対して、修正、並べ替え、代替プロセス、代替素子などを作ることができ、それらも本明細書に記載の教示内に包含される。本明細書に記載の1つ以上のステップ、プロセス、又は方法は、適切にプログラムされた1つ以上の処理装置及び/又はデジタル装置によって行わってもよい。
【0095】
実施形態に応じて、本明細書に記載の方法ステップのうちのいずれかの特定の行為、事象、又は機能は、異なる順序で行うことができ、追加、統合、又は完全に除外してもよい(例えば、記載されたすべての行為又は事象がアルゴリズムの実行に必要であることではない)。さらに、特定の実施形態では、行為又は事象は、順番にはなく同時に行わってもよい。
【0096】
本明細書に開示されている実施形態に関連して説明されている様々な例示的な論理ブロック、光及びSPM制御素子、並びに方法ステップは、電子ハードウェア、コンピュータソフトウェア、又はその両方の組合せとして実行することができる。ハードウェアとソフトウェアのこの互換性を明確に示すために、様々な例示的な成分、ブロック、モジュール、及びステップは、概してそれらの機能に関して、上記で説明されている。そのような機能が、ハードウェア又はソフトウェアとして実行されるかは、特定のアプリケーション及びシステム全体に課される設計上の制約に依存する。説明された機能は、特定の用途ごとに様々な方法で実行することができるが、そのような実行の決定は、本開示の範囲から逸脱すると解釈されるべきではない。
【0097】
本明細書に開示された実施形態に関連して説明された様々な例示的な論理ブロック及びモジュールは、特定の命令で構成されているプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)又は他のプログラマブルロジック装置、ディスクリートのゲート又はトランジスタロジック、ディスクリートのハードウェアコンポーネント、又は本明細書に記載の機能を実行するように、設計されているそれらの任意の組み合わせなどの機械によって実施又は実行できる。プロセッサは、マイクロプロセッサとしてもよいが、代替として、プロセッサは、コントローラ、マイクロコントローラ、又は状態機械(state machine)、それらの組み合わせなどとしてもよい。プロセッサはまた、コンピューティング装置の組み合わせ、例えば、DSPとマイクロプロセッサの組み合わせ、複数のマイクロプロセッサ、DSPコアと連携した1つ以上のマイクロプロセッサ、又は任意の他のそのような構成として実装することができる。
【0098】
本明細書に開示した実施形態に関連して説明した方法、プロセス、又はアルゴリズムの素子は、ハードウェアで直接、プロセッサによって実行されるソフトウェアモジュールで、又はその2つの組み合わせで実施することができる。ソフトウェアモジュールは、RAMメモリ、フラッシュメモリ、ROMメモリ、EPROMメモリ、EEPROMメモリ、レジスタ、ハードディスク、リムーバブルディスク、CD-ROM、又は当技術分野で知られている他の任意の形態のコンピュータ可読記憶媒体に存在してもよい。例示的な記憶媒体は、プロセッサが記憶媒体から情報を読み取り、記憶媒体に情報を書き込むことができるように、プロセッサに結合してもよい。代替として、記憶媒体はプロセッサに統合されてもよい。プロセッサと記憶媒体は、ASIC内に存在してもよい。ソフトウェアモジュールは、ハードウェアプロセッサにコンピュータ実行可能命令を実行させるコンピュータ実行可能命令を含んでもよい。
【0099】
特にことわらない限り、又は使用される文脈内で他に理解されることを除いて、本明細書で使用される条件付き言語、例えば、「ことができる」、「可能性がある」、「てもよい」などは、特定の実施形態では、特定の特徴、素子及び/又は状態を含むが、他の実施形態では含まないことを伝えることを意図している。従って、そのような条件付き言語は、一般に、特徴、素子、及び/又は状態が、1つ以上の実施形態に何らかの形で必要であること、又は1つ以上の実施形態が著者入力又はプロンプトなしで、これらの特徴、素子及び/又は状態が、任意の特定の実施形態に含まれるか又は行われるか否かを判断するための論理を含むことを暗示することを意味するものではない。「備える」、「含む」、「有する」、「含有」などの用語は同義語であり、制限のない方法で包括的に使用され、追加の素子、特徴、行為、作動などを排除するものではない。また、「又は」という用語は、その包括的な意味で(そしてその排他的な意味ではない)使用されているので、例えば、素子のリストをつなぐために、使用される場合、「又は」という用語が、リスト内の素子の一つ、いくつか、又はすべてを意味することを意図しておらず、示唆するべきではない。
【0100】
「X、Y又はZの少なくとも1つ」という語句などの選言的な言葉は、他に具体的に述べられていない限り、一般に、項目、用語などがX、Y又はZ、又はそれらの任意の組み合わせ(例えば、X、Y及び/又はZ)であってもよいことを示すことができる。従って、そのような選言的言語は、概して、特定の実施形態が、少なくとも1つのX、少なくとも1つのY、又は少なくとも1つのZがそれぞれ存在することを必要とすることを意味するものではない。
【0101】
「約」又は「およそ」などの用語は同義語であり、その用語によって修飾された値は、それに関連する理解された範囲を有することを示すために、使用され、その範囲は、±20%、±15%、±10%、±5%、又は±1%であり得る。「実質的に」という用語は、結果(例えば、測定値)が目標値に近いことを示すために、使用され、ここで近いこととは、例えば、結果が、値の80%以内、値の90%以内、値の95%以内、又は値の99%以内であることを意味し得る。
【0102】
特に明記しない限り、「a」又は「an」などの冠詞は一般に、1つ以上の記載された項目を含むと解釈されるべきである。従って、「から構成されている装置」などの語句は、1つ以上の列挙された装置を含むことを意図している。そのような1つ以上の列挙された装置はまた、記載されたことを実行するように、集合的に構成され得る。例えば、「記述のA、B及びCを実行するように構成されているプロセッサ」は、記述のB及びCを実行するように構成されている第2のプロセッサと連携して作動する記述のAを実行するように構成されている第1のプロセッサを含んでもよい。
【0103】
上記の詳細な説明は、例示的な実施形態に適用されるような新規の特徴を示し、説明し、指摘したが、本開示の精神から逸脱することなく、例示された装置又は方法の形態及び詳細における様々な省略、置換、及び変更が可能であることが分かる。認識されるように、いくつかの特徴が、他のものとは別に使用又は実行され得るため、本明細書に記載される特定の実施形態は、本明細書に示される特徴及び利益の全てを提供しない形態で具体化され得る。特許請求の範囲との均等の意味及び範囲内にある全ての変更はそれらの範囲内に包含されるべきである。