(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】同期モータの回転子構造
(51)【国際特許分類】
H02K 1/27 20220101AFI20220124BHJP
【FI】
H02K1/27 501M
(21)【出願番号】P 2020160993
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 学
(72)【発明者】
【氏名】長田 啓亮
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-078176(JP,A)
【文献】特表2018-522524(JP,A)
【文献】特開2015-231254(JP,A)
【文献】特開昭61-280746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、
固定子の内周側に配置された回転可能な回転子と、から構成され、
前記回転子が、回転軸に固定された回転子コアと、前記回転子コアの外周側に設置された永久磁石と、を備えた同期モータにおいて、
前記回転子コアの外周側に設置された前記永久磁石は主磁石と補助磁石からなり、
前記補助磁石は前記回転子コアの外周側に
埋め込まれて設けられ、
前記主磁石は前記補助磁石の外周側に接して設けられること
を特徴とする同期モータの回転子構造。
【請求項2】
前記補助磁石が前記回転子コアの外周に設けられた複数の凹み又は穴に埋め込まれている、請求項1に記載の同期モータの回転子構造。
【請求項3】
前記主磁石及び前記補助磁石は、互いに形状の異なるものである、請求項1又は2に記載の同期モータの回転子構造。
【請求項4】
前記主磁石及び前記補助磁石は、互いに材質の異なるものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の同期モータの回転子構造。
【請求項5】
前記主磁石は、断面がリング形状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の同期モータの回転子構造。
【請求項6】
前記補助磁石は、円弧の表面に向かって磁束が拡散する拡散配向磁石である、請求項1~5のいずれか1項に記載の同期モータの回転子構造。
【請求項7】
前記回転子は、前記回転軸の軸線に直交する各断面が、前記永久磁石のうちの前記主磁石のみを含む断面と、前記主磁石及び前記補助磁石の両者を含む断面と、を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の同期モータの回転子構造。
【請求項8】
前記回転子は、前記回転軸の軸線方向に、複数枚の鋼板を積層する、請求項1~7のいずれか1項に記載の同期モータの回転子構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、永久磁石を備えた同期モータにおいて、回転子の磁石の直下に別の磁石を埋め込むことで、空隙磁束密度の実効値を向上させ、モータ性能が高く、精度及び量産性の高い永久磁石の構造及び配置を有する同期モータの回転子構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来事例においては、同期モータの中でも回転子の表面に永久磁石が貼り付けられている表面磁石形同期電動機(Surface Permanent Magnet Synchronous Motor、以下「SPMSM」と略記。)については、回転子の代表的な構造として3つのパターンが知られている。
【0003】
1つ目は、断面円形のシャフト又は回転子コアの外周上に、回転軸に対する断面でみて(以下同じ。)、外周側の曲率が小さく、内周側の曲率が大きい異なる曲率で包囲された形状に加工されているC字形の永久磁石を貼り付けたパターンである。
【0004】
2つ目は、永久磁石の形状が、例えば回転軸に取り付けられた断面四角形の回転子コアの外周の各辺に、回転軸に対して外周面が一定の曲率を有し、底面がフラットに加工されたD字形の永久磁石を貼り付けたパターンである。この場合、回転子コアは電磁鋼板を積層して製造されることが多い。
【0005】
3つ目は、リングマグネットと呼ばれる円環状の永久磁石を断面円形のシャフト又は回転子コアに貼り付けたパターンであり、構造が非常に簡便で製造が容易であり、かつ信頼性の高い構造として知られている。これらのパターンは、必ずしもモータ性能の面で完璧なものではないが、いずれも製造や位置決め等が容易であり、相応の性能を発揮でき、コストも低いことから現実的な選択肢として広く利用されているものである。
【0006】
これに対して、さらにモータ性能を向上させるためにいくつかの事例が研究されている。
【0007】
例えば、非特許文献1が知られている。同文献には様々な永久磁石形状に関する考察がなされているが、特に、回転子コア側、すなわち主軸に向かって凸状を為し、外周側の曲率よりも内周側の曲率が小さくなる逆R形状のような磁石が性能を向上できる例として提案されている。
【0008】
また、特許文献1では、磁極中心線上であって、回転子の径方向外側に設定された任意の集向点に磁束が集束するように永久磁石を配向したものとしており、この永久磁石の回転子との固着面である永久磁石側固着面は、軸方向と垂直な面での断面形状が、円弧形状の凸縁であるとともに、回転子コアの永久磁石との固着面である回転子コア側固着面は、同断面形状が、円弧形状の凹溝であり、永久磁石側固着面と回転子コア側固着面31aとは整合する形状であるとともに、永久磁石の配向方向は、永久磁石側固着面及び前記回転子コア側の接線Tに対し、接点Pを通る法線となるように設定されている。この特許文献1では、磁石の配向性が逆ラジアル配向(集中配向)の磁石に対して前述の従来事例のような形状の磁石を提案していることとなる。
【0009】
これらの例では、いずれも、永久磁石の形状が回転軸から放射方向に見てそれぞれが外側と内側の両方向に凸形状となるような変形楕円形の磁石が用いられている。
【0010】
永久磁石を固定子に用いる場合には、第一に、磁石サイズの円周方向長さの制限があげられる。すなわち、C形の磁石を例にとると、磁石幅、磁石1極分の半分の締める中心角度、磁石の内径の寸法を定めないとならないが、電動機のトルクを出すために永久磁石のサイズを大きく、すなわち永久磁石の厚さを厚くして幅を広げようとした場合、その限界値は永久磁石内周側の角となる点が、前記中心角度で定める線をこえないことが必要となってくる。
【0011】
その理由は、その隣には別の永久磁石が貼り付けられているからである。永久磁石の幅を広げていくと、永久磁石内周側の角となる点が隣の永久磁石に干渉してしまうので、例えば、固定子コアの内径を大きくして永久磁石を薄くするしかないこととなる。逆に永久磁石を厚く、すなわち固定子コアの内径を小さくしていくと、同じように永久磁石内周側の角となる点の干渉が起こるので、永久磁石の幅を狭くしなければならないこととなる。
【0012】
このように、永久磁石の幅と厚さはトレードオフの関係にあり、永久磁石の量を増やして磁束量を増加させ、発生トルクを大きくすることには限界があることが分かる。これに対して永久磁石内周側の角となる点の角部を面取りして永久磁石の幅を大きくする形状など、実用化は進められており、それによる永久磁石量増加の設計工夫もないわけではない。
【0013】
それに対して、上述の特許文献1及び非特許文献1に開示されたような内外に凸状をなす永久磁石はそのトレードオフの制約を回避し、磁束量の増加、すなわちトルクの増加を図ることができるものとして期待されている。
【0014】
しかしながら、大量に製造される永久磁石を用いた同期モータの場合には、生産性と歩留まりないしは制度の両面に考慮せざるを得ず、実際には、楕円形状では加工基準となる底面が存在しないため、砥石による研削などの大量生産に適した工法が適用できず、永久磁石それ自体の製造難易度が高度となってしまうとか、ワイヤーカットなどの工法では製作できるが生産性に問題が生じるとかの理由から、採用され難いものとなっている。
【0015】
さらに、シャフト又は回転子コアに永久磁石を貼り付ける際に、永久磁石の貼り付け基準が特定できず、貼り付け時のズレなどによる制度の低下が生じ、完成した同期モータのコギングトルクやトルクリプルに悪影響を与えることとなり、それを防ぐためには、生産性の低下を甘受して精密な位置決めを行うなど、現実的な解決策にならないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【非特許文献】
【0017】
【文献】水谷 良治、 松井 信行 「永久磁石形低速大トルクモータ最適形状設計の一考察」電気学会論文誌、D、産業応用部門誌、120(3)、328-335、2000/03/01
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本件発明は、前述の問題点に鑑み、永久磁石を用いた同期モータの回転子において、モータ性能が高く、精度及び量産性の高い永久磁石の構造及び配置を有する、同期モータの回転子構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明、前述の課題を達成するために、以下の構成を採用した。すなわち、
固定子と、
固定子の内周側に配置された回転可能な回転子と、から構成され、
前記回転子が、回転軸に固定された回転子コアと、前記回転子コアの外周側に設置された永久磁石と、を備えた同期モータにおいて、
前記回転子コアの外周側に設置された前記永久磁石は主磁石と補助磁石からなり、
前記補助磁石は前記回転子コアの外周側に接して設けられ、
前記主磁石は前記補助磁石の外周側に接して設けられる
同期モータの回転子構造、としたものである。
【0020】
また、前記補助磁石が前記回転子コアの外周に設けられた複数の凹み又は穴に埋め込まれている、ものであっても良い。
【0021】
さらに、前記主磁石及び前記補助磁石は、互いに形状の異なる、ものであっても良い。
【0022】
他に、前記主磁石及び前記補助磁石は、互いに材質の異なる、ものであっても良い。
【0023】
その他に、前記主磁石は、断面がリング形状であっても良い。
【0024】
加えて、前記補助磁石は、円弧の表面に向かって磁束が拡散する拡散配向磁石であっても良い。
【0025】
また、前記回転子は、前記回転軸の軸線に直交する各断面が、前記永久磁石のうちの前記主磁石のみを含む断面と、前記主磁石及び前記補助磁石の両者を含む断面と、を有する、ものであっても良い。さらに、前記回転子は、前記回転軸の軸線方向に、複数枚の鋼板を積層する、ものであっても良い。
【発明の効果】
【0026】
本件発明は、以上に掲げた本件発明の各形態により、永久磁石を用いた同期モータの回転子において、モータ性能が高く、精度及び量産性が高い永久磁石の構造及び配置を有する、同期モータの回転子構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本件発明の各形態を示す断面図(a)~(c)
【
図2】本件発明の各形態を示す断面図(d)~(e)及び磁石寸法の制約を説明する断面図(f)
【
図3】本件発明の回転子コアの外観の各形態を示す斜視図(a)及び(b)
【
図4】
図3の形態におけるコギングトルクの変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1(a)から(c)並びに
図2(d)及び(e)は本件発明の回転子の各形態を示す断面図である。また、
図2(f)は、比較のために、一般的な固定子の磁石寸法の制約を説明するための段面図である。
【0029】
ここで、各図に共通して、モータの構成部品である、固定子は、S、回転子は、R、回転子コアは、Rc、永久磁石は、Pm、主磁石は、Pmm、補助磁石は、Pms、及び主軸は、Cとしてそれぞれ引き出し線により符号を付して示している。
【0030】
<実施の形態1>
図1(a)に、本件発明を代表する一形態の断面図を示し、以下、回転子の構造について説明する。
【0031】
同期モータMのシャフト1に取り付けられた回転子コアRcは、一定の半径rを有しており、その外周には、周知の断面略C字形状で、主軸Cに対する曲率5の内周側面を有する永久磁石Pmに相当する主磁石Pmmが、主軸廻りに90度毎に計4つ接合されている。ここで、これら主磁石Pmmの内周面側の曲率5は、回転子コアRcの半径rと同じであり、永久磁石Pmの幅1は後述する限界の位置まで広がるように設計されている。
【0032】
回転子コアRcの主磁石Pmmの内周面側、すなわち背部には、それぞれの主磁石Pmmの円周方向中央部と合致するように内周面側が主軸方向に凸状の凹み又は穴(以下、「凹み等L」という。)が設けられており、回転子コアRcの外周側に接するように、それぞれの凹み等Lに、計4つの補助磁石Pmsが埋め込まれて配置されている。
【0033】
補助磁石Pmsの外周面側は、回転子コアRcの半径rと同じであり、かつ主磁石Pmmの内周面側の曲率5と等しい円弧に形成されており、回転子コアRcの外周面と面一に設けられている。この構造により、永久磁石Pmに相当する主磁石Pmmの外周面側が主磁石Pmmの内周面側に概ね一致するように接して貼り付けられている。
【0034】
永久磁石Pm、主磁石Pmm、補助磁石Pms、回転子コアRc等を貼り付ける手段は、接着剤等が用いられることが多いが、同期モータの使用に耐えられる強度で固定できる手段であれば、すべての接面を固定しなくとも、また、他のどのような手段によるものであっても良い。
【0035】
永久磁石Pmは、前述したとおり、主磁石はPmm及び補助磁石Pmsの対から構成されるが、両者の幅は製造時の位置決めを考慮して以下のとおりとされている。なお、以下、幅と称する場合には、必要に応じて、回転子コアRcの円周上の弧長を意味する場合もある。
【0036】
すなわち、永久磁石Pmの主磁石はPmmの幅1は、回転子コアRcの凹み等Lの幅、すなわち補助磁石Pmsの幅よりも大とされ、主磁石はPmmの幅の両側が回転子コアRcに接するようにされている。これは、主磁石Pmmが回転子コアRcの外周面上に安定して配置が可能となるためのものである。
【0037】
なお、この形態においては、永久磁石Pmの形状は図示のものに限定されるものではなく、形状が同じであるとか、異なるものであるとか、適宜形状のものを用いることができることは言うまでもない。この点は、永久磁石Pmが、主磁石Pmm及び補助磁石Pmsから構成されることで、様々な形状の組み合わせが可能となり、電磁気学的な形状及び配置の自由度が高くなる。
【0038】
また、永久磁石Pmの配置に影響を及ぼさないその材質については、任意のものが使用でき、例えば、ネオジウム、サマリウム等重希土類を用いた磁石のほか、コバルト系やフェライト系などのものなど比較的材料が入手用意で安価なものであっても適宜選択して使用することができる。
【0039】
図2(f)に、比較のために、一般的な固定子の磁石寸法の制約を説明しているので、それを参照して本件発明の前記態様を説明する。
図2(f)では、C形の永久磁石の寸法として、永久磁石P
mの幅1、永久磁石P
m1極分の占める主軸C廻りの円周角度の半分の角度2、永久磁石の内周面側の曲率5を示している。
【0040】
同期モータのトルクを出すために永久磁石Pmのサイズを大きくしようとする、すなわち永久磁石Pmの厚3を厚くして幅を広げようとした場合には、その限界値は永久磁石Pmの内周面側の端部(角)となる点4が、前記角度2で決まる線を超えないことが必要となる。
【0041】
その理由は、その隣に別の永久磁石Pmが貼り付けられる必要があることによる。永久磁石Pmの幅1を広げていくと、点4が隣の永久磁石に干渉するので、永久磁石の内周面側の曲率5を大きくする、すなわち永久磁石の厚み3を薄くするしかないこととなる。逆に永久磁石Pmの厚み3を大きくする、すなわち永久磁石の内周面側の曲率5を小さくしていくと、同じく点4の干渉が起こるので、永久磁石の幅1を狭くしなければならない。すなわち永久磁石Pmの幅と厚み3さはトレードオフの関係にあり、永久磁石の分量を増やして磁束量を増加させ、発生トルクを大きくするのは限界があることになる。
【0042】
しかしながら、前述の本件発明の一形態では、永久磁石Pmを主磁石Pmmと補助磁石Pmsとの一対の永久磁石を用いることにより、前述の固定子の磁石寸法の制約を主磁石Pmmで甘受しながらも、主磁石Pmmの背部に配置された補助磁石Pmsにより、発生トルクの増加を図っているものである。
【0043】
この際、永久磁石Pmの主磁石Pmmは、内周面側に相当する底面が、回転子コアRcの半径rと同じ一定曲率5の弧面となるので、永久磁石Pmの主磁石Pmmの製造時の加工基準を容易に設定できる。
【0044】
また、永久磁石Pmの補助磁石Pmsも、外周面側に相当する頂面が、回転子コアRcの半径rと同じ一定曲率5の弧面となるので、永久磁石Pmの主磁石Pmmと同様に、製造時の加工基準を容易に設定できることとなる。
【0045】
このように、本件発明の固定子の構造の一形態は、同期モータとしてのトルク向上のみならず、製造、加工や位置決めが困難な永久磁石Pmの形成を容易になし得ることができ、かつ、そのために低コストで製造することが可能となる。
【0046】
<実施の形態2>
図1(b)は、前記実施の形態1と異なり、回転子コアR
cが略正方形とされた形態である。
【0047】
同期モータMのシャフト1に取り付けられた回転子コアRcは、略正方形とされており、その4つの各辺は、主軸Cから半径方向に延びる線と直交する直線状と構成している。これら各辺にはそれぞれ、周知の断面略D字形状で、回転子コアRcの4つの辺に接する内周側面を有する永久磁石Pmに相当する主磁石Pmmが、主軸廻りに各辺毎、すなわち90度毎に計4つ接合されている。ここで、これら主磁石Pmmの幅は、前述したとおり、限界の位置まで広がるように設計されている。
【0048】
回転子コアRcの主磁石Pmmの内周面側、すなわち背部には、それぞれの主磁石Pmmの円周方向中央部と合致するように内周面側が主軸方向に凸状の凹み等が設けられており、それぞれの凹みに、計4つの補助磁石Pmsが配置されている。
【0049】
補助磁石Pmsの外周面側は、回転子コアRcの各辺と一致して接するように直線状とされており、かつ主磁石Pmmの内周面側の直線状の部分と一致して接するように形成されており、回転子コアRcの外周面と面一に設けられている。この構造により、永久磁石Pmに相当する補助磁石Pmsの外周面側が主磁石Pmmの内周面側に概ね一致して貼り付けられている。
【0050】
この形態においては、永久磁石Pmのうち、主磁石Pmmと補助磁石Pmsとの大きさを前者が大きいものとなるように形成しているが、主磁石Pmmと補助磁石Pmsとを同じものとして、2枚重ね合わせて配置しても良い。
【0051】
その余の構成は前述の実施の形態1と同じである。以下、構成に差異がない部分については、特段の事情がない限り、説明を省略する。
【0052】
この形態によれば、永久磁石Pmの主磁石Pmm及び補助磁石Pmsとも、一側面が直線状に形成されているので、前述の実施の形態1よりも、永久磁石Pmの製造、加工や位置決めがより容易になし得ることができ、かつ、そのために低コストで製造することが可能となる。また、積層体が用いられることの多い回転子コアRcにおいては、永久磁石Pm、主磁石Pmm又は補助磁石Pmsが存在しない積層板部分も形成可能であり、その場合には、それら永久磁石Pmの存在しない積層板面が永久磁石Pmをはめ込むための軸方向の位置決めに寄与したり、凹み等Lに別の位置決め面が増加したりして、さらに多くの接着基準となる面が形成され、より貼り付けが容易となる。
【0053】
<実施の形態3>
図1(c)は、前述の実施の形態2における、補助磁石Pm
sに断面直方形の板面構造(断面構造を意味するものであって、主軸Cの軸方向に連続する直方体のものであっても差し支えない。)のものを採用したものである。本形態においては、補助磁石Pm
sの構造が単純なので、永久磁石Pmの製造、加工や位置決めがより容易になし得ることができ、かつ、そのために低コストで製造することが可能となる。
【0054】
<実施の形態4>
図2(d)は、前述の実施の形態1~3とは異なり、永久磁石Pmの主磁石Pm
mが、回転子コアR
cと同芯をなす円環状の磁石からなる例である。
【0055】
同期モータMのシャフト1に取り付けられた回転子コアRcは、一定の半径rを有しており、その周りには、周知の、一定の厚みを有する断面環状(リング状)の永久磁石Pmの主磁石Pmmが嵌入されている。
【0056】
この形態においては、永久磁石Pmの主磁石Pmmの配置が一意のものとなるので、専ら補助磁石Pmsの配置が肝要となる。この例では、回転子コアRcの主磁石Pmmの内周面側、すなわち背部には、それぞれの主磁石Pmmの内周面側とその外周面側が合致する主軸に対して弧を描くそれぞれ独立した一定の深さの凸状の凹み又は穴が設けられており、それぞれの凹み等に、計4つの補助磁石Pmsが埋め込まれて主磁石Pmmに接し、かつ回転子コアRcに接するように配置されている。すなわち、各補助磁石Pmsは主軸廻りに90度毎に計4つ接合されている。
【0057】
ここで、これら補助磁石Pmsの外周面側の曲率5は、回転子コアRcの半径r及び回転子コアRcの主磁石Pmmの内周面側曲率と同じであるが、補助磁石Pmsの内周面側は、主軸とは反対方向に凸状となり、補助磁石Pmsの厚さ分だけ小さい曲率とされている。
【0058】
この形態の回転子Rにおいては、最初に、回転子コアRcに、補助磁石Pmsが埋め込まれ、次いで、回転子コアRcと補助磁石Pmsの外周面が面一に形成された後、一定の厚みを有する断面環状(リング状)の永久磁石Pmの主磁石Pmm嵌入して形成される。
【0059】
この形態によれば、主軸Cと補助磁石Pmsの間に広いスペースが生じるので、同期モータ全体を小型化することも可能であり、また、そのスペースを活用して厚みの大なる補助磁石Pmsを設けることにより、同期モータのトルクの設定自由度が増加する。
【0060】
<実施の形態5>
図2(e)は、
図2(d)と同様に、永久磁石Pmの主磁石Pm
mが、回転子コアR
cと同芯をなす円環状の磁石からなる例である。
【0061】
この形態においては、回転子コアRcの主磁石Pmmの内周面側、すなわち背部には、それぞれの主磁石Pmmの内周面側とその外周面側が合致する主軸に対して弧を描く外周面側と、主軸C側が、主軸Cから半径方向に延びる線と直交する直線状に構成された内周面側とからなるそれぞれ独立した凸状の凹み又は穴が設けられており、それぞれの凹み等に、計4つの補助磁石Pmsが埋め込まれて配置されている。すなわち、各補助磁石Pmsは主軸廻りに90度毎に計4つ接合されている。
【0062】
この形態によれば、前述の実施の形態4よりも、補助磁石Pmsを大型のものにでき、同期モータのトルクをより増加させることができる。
【0063】
<別の実施の形態>
本件発明の前述の各形態を適用する、回転子コアRcの形態を以下に説明する。
【0064】
図3は電磁鋼板を積層して形成した回転子コアR
cの例である。代表例として、前述の実施の形態3を用いた例について、その外観を同図(a)に示し、永久磁石Pmの主磁石Pm
mを取り外した外観を同図(b)に示す。
【0065】
図3(a)に示す通り、その外観は通常のD字形状の永久磁石Pmのみを用いたもののような形態をしているが、その永久磁石Pmに相当する本件発明における主磁石Pm
mを取り外すと、同図(b)のように、回転子コアR
cに埋め込まれて配置された補助磁石Pm
sが存在することが分かる。このことにより、通常のD字形状の永久磁石Pmを用いた同期モータと比して、永久磁石の量を増加させることができるので、トルクの大きい同期モータを得ることができる。そして、前述した如く、その製造や、位置決め等は容易になし得るものである。
【0066】
また、
図3(b)では、主軸Cの通る方向に沿って視た時に、二つの板状の永久磁石Pmの補助磁石Pm
sを配置するスロット状の凹み等Lが、凹み等Lの無い部分を挟んで設けられている。この構造によれば、回転子コアR
cの強度を維持・向上させることができる。また、そのことにより、永久磁石Pmの分量を調整することも可能となる。
【0067】
この場合、スロット状の凹み等Lにおいて、積層板の凹み等Lの主軸C方向に視た面及び円周方向に視た面は、永久磁石Pmを埋め込む際の位置決め機能を有しており、精度及び量産性の高い回転子構造を得ることができる。なお、この形態においては、回転子コアRcを積層板から構成しているが、ダイキャストその他の一体形成によるものであっても、同様の機能を奏することは言うまでもない。
【0068】
さらに、図示しないが、磁石が配置される部分と配置されない部分を積層板の一枚以上にわたって交互に配置したり、前記のようなスロット状の凹みを3つ以上設けたりするとか、その構造は任意であり、電磁気学的必要性に応じて、自由度が高い回転子構造を得ることができる。
【0069】
ここで、
図3において補助永久磁石のある箇所と無い箇所の断面におけるコギングトルクの波形を
図4に示す。
図4においてそれぞれの波形を比較すると、トルクが正方向に出ている位置と負方向に出ている位置がずれてきていることが分かる。これは回転子側の磁束が固定子を通って再び回転子に返ってくる一周の磁気回路において、永久磁石による起磁力と回転子コアの磁気抵抗および永久磁石の磁気抵抗を含めた磁気回路網の状態が、補助永久磁石の有無によって異なるためである。
【0070】
このようなコギングの脈動に位相差が生じる特性を活かして、補助永久磁石のある部分と無い部分を、
図3のように軸方向にある一定の比率で混合すると、回転子全体のコギングトルクは、補助永久磁石のある部分の波形と軸方向の比率の積と、補助永久磁石のない部分の波形と軸方向の比率の積の和が、全体の合成波形となり、これにより混合の比率を適切に選択することで、合成波形の脈動を相殺することができることが分かる。
【0071】
<さらに別の実施の形態>
図5には、本件発明の前述の各形態の一部に適用可能な、永久磁石Pmの主磁石Pm
mの一例を示す。
【0072】
図は拡散配向永久磁石の例を示している。永久磁石は内部の磁束6の向きがランダムに配向している等方性と、一定の方向に拘束されている異方性に大別される。さらに異方性については、配向方向が円周のラジアル方向に向かっているラジアル異方性、配向が並行にそろっているパラレル異方性、配向が極から極へ円弧状につながることで大きな磁束6を生み出すことができる極異方性などの種類があるが、近年はこれに加えて、円弧の中心に向かって磁束6が集中する集中配向など技術も提案されている。
【0073】
一般的にモータのトルクはラジアル異方性<パラレル異方性<集中配向性≦極異方配向性の順にトルク特性が向上する。本永久磁石はこの逆であり、図に示すように磁束6が円弧に対して発散する方向に広がっていく拡散配向としている。しかし底面は面に対して鉛直にそろっているパラレル配向である。こうした永久磁石は、従来事例においてはもちろん、前述の実施の形態1~3に適用すると、さらに、トルクを増加させることが可能となる。
【0074】
図6には、前述の実施の形態1~5の永久磁石Pmの補助磁石Pm
sに、さらにこのような拡散配向永久磁石を用いた際の磁束6分布を示す。なお、ここで、Sは固定子、Smは界磁石、S
cは固定子コアである。
【0075】
図に示すように、永久磁石Pmの補助磁石Pmsにこのような拡散配向永久磁石を用いると、回転子内部で隣の永久磁石に対して円弧状に磁束6を誘導する効果を生み出し、主永久磁石と合わせて擬似極異方配向を生み出すことができる。こうした効果により、回転子からより多くの界磁磁束6を発生することができ、さらにトルク向上が期待できる。
【0076】
<各形態の利点>
以上、本件発明の各種の形態について説明してきたいが、以上をまとめるとこれらの形態による得られる利点の例は以下のとおりである。
【0077】
(1) 永久磁石の幅を表面に貼り付けた永久磁石で、永久磁石の厚みを内側に貼り付けた永久磁石でそれぞれ補うことができるため、形状の自由度が向上する。
【0078】
(2) 内側の永久磁石と外側の永久磁石の形状を加工基準面のあるシンプルな形に設計できるため、永久磁石の量産性が高い。
【0079】
(3) 回転子コアを基準として永久磁石の貼り付けを行うことができるため精度が高く、回転子の量産性が高い。
【0080】
(4) 外側の永久磁石は電機子からの磁束の影響(逆磁場)を受けて減磁する可能性があるため、固有保磁力の高い材質を選定する必要があり、こうした材質には重希土類が多く含まれたNd-Fe-B系永久磁石が適している。しかし重希土類の含有は環境に対して問題がある。これに対して内側の永久磁石は逆磁場の影響を直接受けにくいため、固有保磁力の低い永久磁石でも使用することができる。すなわち内側の永久磁石は重希土類の含有されていない希土類永久磁石、あるいはフェライト永久磁石など選定の自由度があり、上下異なる材質でも構成が可能である。加えて永久磁石全体に重希土類を含まないことでトータルとしてモータの希土類量を削減し、環境に配慮した製造が実現可能である。
【0081】
(5) 希土類永久磁石の場合、線膨張係数が径方向に対してほとんどゼロであるため、シャフトまたは回転子コア間の接着剤に接着力と膨張・収縮応力の吸収の二つの性能が求められる。これは回転電機では回転子の半径の大きさに従って弧の長さが長くなるため、膨張・収縮応力も比例して大きくなるが、内側の永久磁石は外側の永久磁石に対してこの影響が小さくなるだけでなく、回転子コア側面での接着保持も可能になる。その上に貼り付けられた外側の永久磁石は、永久磁石同士の接着になり、線膨張の差を生まないため、純粋に接着力のみを基準とした強度が確保できる。
【0082】
なお、上記の実施の形態において、図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて、適宜変更して実施することや、本発明の各構成要素を任意に取捨選択し、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0083】
同期モータ M
固定子 S
界磁石 Sm
固定子コア Sc
回転子 R
回転子コア Rc
回転子コアの半径 r
永久磁石 Pm
主磁石 Pmm
回転子コアの凹み等 L
補助磁石 Pms
主軸 C
永久磁石の幅 1
永久磁石の占める円周角度の1/2 2
永久磁石の厚み 3
永久磁石の端部 4
永久磁石の曲率 5
永久磁石の磁束 6
【要約】
【課題】永久磁石を備えた同期モータにおいて、回転子の磁石の直下に別の磁石を埋め込むことで、空隙磁束密度の実効値を向上させ、モータ性能が高く、精度及び量産性の高い永久磁石の構造及び配置を有する同期モータの回転子構造に関する。
【解決手段】固定子Sと、固定子Sの内周側に配置された回転可能な回転子Rと、から構成され、回転子Rが、回転軸Cに固定された回転子コアR
cと、回転子コアR
cの外周側に設置された永久磁石Pm
mと、を備えた同期モータMにおいて、回転子コアR
cの外周側に設置された永久磁石Pmは、回転子コアR
cの外周側の輪郭と一致する設置面を有する主磁石Pm
mと、回転子コアR
cの前記輪郭の回転軸C側に埋設され、前記主磁石Pm
mの設置面に接して設けられる、主磁石Pm
mとは別の補助磁石Pm
sと、を備える、同期モータの回転子構造。
【選択図】
図1