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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-21
(45)【発行日】2022-01-31
(54)【発明の名称】導電性インクジェット印刷インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20220124BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20220124BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220124BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220124BHJP
   C09D 11/36 20140101ALI20220124BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20220124BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/52
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41J2/01 501
C09D11/36
C09D11/322
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021535983
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2019086225
(87)【国際公開番号】W WO2020127676
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】18214389.1
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502099902
【氏名又は名称】エッカルト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Eckart GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルカー ジョーダン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン エンゲル
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ヘルツィング
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/172213(WO,A1)
【文献】特開2005-247905(JP,A)
【文献】特開2005-120225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構成成分を含み:
(a)60~84.5重量%の有機溶媒若しくは有機溶媒の混合物、
(b)0.5~5重量%の結合剤であって、エチルセルロースを結合剤の総量に対して85~100重量%の範囲の量で含み、
(c)15~25重量%の、130nm~800nmの範囲のd50値を有する銀粒子、
(d)任意で、酸化防止剤、
(e)任意で、結合剤(b)とは異なる銀粒子のための分散剤、
全ての量は、別途規定されない場合には、インクジェット印刷インク組成物の総量を対照とする、インクジェット印刷インク組成物。
【請求項2】
組成物は、構成成分(a)、(b)、(c)、及び(e)を、全組成物に対して95~100重量%の範囲の量で含むことを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット印刷インク組成物。
【請求項3】
組成物は少なくとも61℃の引火点を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のインクジェット印刷インク組成物。
【請求項4】
銀粒子は500~2,500nmの範囲のd90値を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のインクジェット印刷インク組成物。
【請求項5】
結合剤はエチルセルロースを結合剤の総量に対して95~100重量%の範囲の量で含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のインクジェット印刷インク組成物。
【請求項6】
結合剤はエチルセルロースであることを特徴とする、請求項5に記載のインクジェット印刷インク組成物。
【請求項7】
結合剤の量の銀粒子の量に対する比率は3%~10%の範囲である、請求項1~6のいずれかに記載のインクジェット印刷インク組成物。
【請求項8】
組成物は、25℃の温度でBrookfield回転粘度計LV,Model DV-II+を用いスピンドルno.61を使用し100rpmにて決定された、3~25mPasの範囲の粘度を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載のインクジェット印刷インク組成物。
【請求項9】
組成物は、グラファイト、グラフェン、若しくはカーボンナノチューブ等の、炭素を主体とするいずれの導電性粒子も含有しないことを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載のインクジェット印刷インク組成物。
【請求項10】
銀粒子は実質的に球状粒子であることを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載のインクジェット印刷インク組成物。
【請求項11】
溶媒は、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、若しくはイソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ベースとして、メチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、ヘキシル、若しくは2-エチルヘキシルのレジン基及び二重結合を有するアリル若しくはフェニル基を含有するエチレングリコール系エーテル若しくはプロピレングリコール系エーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、及びそれらの混合物の群から選択されることを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載のインクジェット印刷インク組成物。
【請求項12】
有機溶媒はアルキレングリコールジエーテル及びアルキレングリコールモノエーテルのブレンドであるか又はブレンドを含むことを特徴とする、請求項11に記載のインクジェット印刷インク組成物。
【請求項13】
下記の工程を含むことを特徴とする、請求項1~12のいずれかに記載のインクジェット印刷インク組成物の製造方法:
(i)130nm~800nmの範囲のd50値を有する銀粒子分散物を提供し、任意で、銀粒子を分散剤(e)でコーティングする工程、
(ii)任意で、工程(i)の銀顔料分散物を乾燥する工程、
(iii)結合剤(b)を有機溶媒若しくは有機溶媒の混合物(a)中に溶解することによって第1の分散物を調製する工程、
(iv)工程(i)の銀顔料分散物若しくは工程(ii)の銀顔料粉末を、撹拌及び/若しくは超音波の衝撃の下で、工程(iii)の分散物に加える工程。
【請求項14】
導電性の層を形成するための基材上のドロップ・オン・デマンドインクジェット印刷プロセスにおける、請求項1~12のいずれかのインクジェット印刷インク組成物の使用。
【請求項15】
下記を特徴とする、導電性のライン若しくはパターンを基材に適用するプロセス:
(i)請求項1~12のインクジェット印刷インクがドロップ・オン・デマンドインクジェットプロセス若しくは連続式インクジェットプロセスによって基材上に印刷されること、
(ii)任意で、印刷されたインクが35℃~80℃の温度で乾燥されること、及び
(iii)印刷されたインクが400~600℃の温度で焼結されること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性インク組成物、かかる組成物の製造、及びこの組成物のインクジェット印刷プロセスにおける使用に関する。
【0002】
インクジェット印刷プロセスにおいては、インクジェット印刷インクのごく小さな滴が印刷用基材の表面に、印刷装置と基材表面との物理的接触なしで直接発射される。印刷面上での各滴の配置は電子的に制御される。インクジェット印刷技術は、可変のデータ及び画像を、紙、厚紙、缶、瓶、箔等のような種々の基材上に印刷するための重要な技術となっている。インクジェット技術は、データ及び画像を高速で印刷することを可能にし、かつ、高精細の印刷物を提供することができる。
【0003】
これまでに種々の小滴形成プロセスが開発されてきた。小滴形成は、例えば、静電気的に、磁力的に、圧電的に、熱電的に、機械的マイクロ弁を介して、若しくはスパーク放電により、行うことができる。小滴形成の仕方とは関係なく、インクジェット技術は、原理上、2つのカテゴリー、即ち、連続式インクジェット(CIJ)及びインパルス若しくはドロップ・オン・デマンド(DOD)技術に分けられる。
【0004】
連続式インクジェット技術においては、インクは、圧力下、ノズルを通って流れて、連続噴射において基材に適用される小滴を形成する。インパルス技術においては、インクリザーバは大気圧以下に保持される。インクの小滴は、小滴形成ユニットが制御された刺激インパルスに曝されたことに応答した場合にのみ印刷ノズルから放出される。この技術は現在、業務用の及び個人用のインクジェットプリンターにおいて使用されているだけでなく、3D印刷技術においても使用されている。
【0005】
金属光沢を有する反射面を得るために、銀ナノ粒子等の金属粒子が使用されてきた。例えば、WO2008/024542には、反射面を得るためにインクジェット印刷プロセスにおいて使用するためのインクであって、溶媒としての水と2~40重量%の5μm未満の平均粒子径を有する金属粒子(銀、金、亜鉛、スズ、銅、ニッケル、コバルト、ロジウム、パラジウム、若しくは白金)とを含むインクが開示されている。
【0006】
インクジェット印刷プロセスにおいて導電性インクが使用される場合、この技術を利用して、導電性ネットワークを、いずれの写真撮影用マスクも使用する必要なく、速く、信頼性のある、及びフレキシブルな態様で提供することができるということが認識されてきた。この技術は、原理上、導電性組成物が以下の条件の下では、フレキシブル基材を含む様々な基材上に導電性パターンを提供するのにも適している。
-比較的低温において硬化され、乾燥され、若しくは焼結されうること、
-基材に対して良好な接着性を示すこと、及び
-良好な電気伝導度を示すこと
【0007】
一般に、導電性インク組成物は、
-溶媒若しくは溶媒の混合物、
-結合剤若しくは結合剤の混合物、及び
-導電性顔料
を含む。
【0008】
かかる組成物は、例えばWO2015/023370により、当該技術分野で既知である。その組成物においては、熱可塑性樹脂及び任意で有機希釈剤若しくは溶媒と組み合わせてサブミクロンの銀粒子が使用される。
【0009】
US6,979,416B2には、広範な粒子径における金属粉末と、セルロース樹脂、ビニル樹脂、若しくは石油樹脂等の結合剤と、溶媒とを含むインクジェット印刷インクが開示されている。
【0010】
EP1571186には、インクジェット印刷プロセスにおいて使用するための、コロイド状金属粒子(ニッケル、銅、金、白金、パラジウム、若しくはそれらのアマルガム、200~30,000g/molの範囲の分子量を有する分散剤、及び水若しくは水と混和する有機溶媒を有する溶媒混合物を含む、インク組成物が開示されている。その金属粒子は最大で200nmの直径を有する。
【0011】
CN103146260には、インクジェット印刷プロセスにおいて使用することができる導電性インク組成物が開示されている。結合剤はアクリレート系である。
【0012】
CN203967239Uには、極超短波RFIDアンテナを形成する、インクジェット印刷インクによってコーティングされた紙が記載されている。そのインクジェット印刷インクは、ナノ銀粒子を含み、かつ、多くの異なる構成成分を有する。
【0013】
WO2017121982A1は、導電性ペーストをガラス基材に適用するプロセスを開示している。その導電性ペーストは、Ag粒子等の導電性粒子と、このインクをガラス基材に適合させるためのガラスフリット粒子とを含有する。
【0014】
これらの最新技術による導電性インク組成物は、ある程度の時間の後に分離する傾向を示し、そのため、それらは使用に先立ち再分散させる必要があり、又はこれらの組成物に好適な分散剤を加える必要があるということが分かった。かかる分散剤は、基材上への適用及び乾燥後にインクの導電性を低下させる可能性がある。
【0015】
過去には、溶液の安定性を改善するためにナノ粒子が使用された。しかしながら、それらは環境的な不利益及び健康上の問題を提示する疑いがある。それらはまた、硬化フィルムにおいて導電性を強力に減少させる酸化に敏感でありやすいことがある。したがって、より大きな金属粒子を用いて安定な溶液を有することは望ましいと考えられる。
【0016】
一方で、より大きな銀粒子を用いる多くのインク処方は、インクジェット技術と共に使用された場合、ノズル目詰まりを起こしやすい。
【0017】
当該技術分野における多くのインクジェット処方は、多くの異なる構成成分を有し、このことがそれらの使用の汎用性を減少させている。例えば、こうしたインクは、ガラス粒子、又は、グラファイト、グラフェン、若しくはナノチューブのような追加の導電性粒子を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、先行技術の導電性インク組成物の不利益を伴わずに様々な基材上に様々な導電性パターンを印刷するための最新のインクジェット印刷装置における使用が高度に可能である、導電性インクジェット印刷インクを見出すことである。
【0019】
更なる課題は、このようなインクジェット印刷インクを作製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
これらの課題は、下記の構成成分を含むインクジェット印刷インク組成物を提供することによって解決され:
(a)60~84.5重量%の有機溶媒若しくは有機溶媒の混合物、
(b)0.5~5重量%の結合剤であって、エチルセルロースを結合剤の総量に対して85~100重量%の範囲の量で含み、
(c)15~25重量%の、130nm~800nmの範囲のd50値を有する銀粒子、
(d)任意で、酸化防止剤、
(e)任意で、結合剤(b)とは異なる銀粒子のための分散剤、
全ての量は、別途規定されない場合には、インクジェット印刷インク組成物の総量を対照とする。
【0021】
好ましい実施形態では、インクジェット印刷インク組成物は、構成成分(a)、(b)、(c)、及び(e)を、全組成物に対して95~100重量%の範囲の量で含む。
【0022】
更に好ましい実施形態は、請求項3~11に示される。
【0023】
課題は更に、下記の工程を含むことを特徴とするインクジェット印刷インク組成物の製造方法を提供することによって解決される:
(i)130nm~800nmの範囲のd50値を有する銀粒子分散物を提供し、任意で、銀粒子を分散剤(e)でコーティングする工程、
(ii)任意で、工程(i)の銀顔料分散物を乾燥する工程、
(iii)結合剤(b)を有機溶媒若しくは有機溶媒の混合物(a)中に溶解することによって第1の分散物を調製する工程、
(iv)工程(i)の銀顔料分散物若しくは工程(ii)の銀顔料粉末を、撹拌及び/若しくは超音波の衝撃の下で、工程(iii)の分散物に加える工程。
【0024】
更なる実施形態では、本発明は、導電性の層を形成するための基材上のドロップ・オン・デマンドインクジェット印刷プロセスにおける、インクジェット印刷インク組成物の使用に関する。
【0025】
更なる実施形態では、本発明は、以下を特徴とする、導電性のライン若しくはパターンを基材に適用するプロセスに関する:
(i)インクジェット印刷インクがドロップ・オン・デマンドインクジェットプロセス若しくは連続式インクジェットプロセスによって基材上に印刷されること、
(ii)任意で、印刷されたインクが35℃~80℃の温度で乾燥されること、及び
(iii)印刷されたインクが400~600℃の温度で焼結されること。
【発明を実施するための形態】
【0026】
溶媒(a):
本発明によるインクジェット組成物では、有機溶媒若しくは有機溶媒の混合物が使用される。本発明の意味において使用される場合、用語「溶媒」と「有機溶媒」とは同等である。
【0027】
更に好ましい実施形態では、インクジェット印刷インクは少なくとも61℃、好ましくは少なくとも62℃の引火点を有する。揮発性材料の「引火点」は、発火源があった場合に、そのインク組成物の蒸気が発火することになる最低温度である。本発明においては、引火点はAbel-Penskyの方法に従い決定される。
【0028】
インクジェット印刷インクの引火点は主に、それに使用されている溶媒によって決定される。
【0029】
有機溶媒は好ましくは極性の有機溶媒であり、例には、アルコール(例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、若しくはイソプロピルアルコール、ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル(例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、及びプロピオン酸エチル等)、及びエーテル(例えばジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサン等)が含まれる。
【0030】
特に、有機溶媒は、好ましくは、周囲の温度及び圧力で液体である1種以上のアルキレングリコールエーテルを含有する。
【0031】
アルキレングリコールエーテルは、メチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、ヘキシル、若しくは2-エチルヘキシルのレジン基、及び/又は二重結合を有するアリル若しくはフェニル基のいずれかをベースとして含有する、エチレングリコール系エーテル又はプロピレングリコール系エーテルであることができる。これらのアルキレングリコールエーテルは無色でほとんど臭気がなく、分子中にエーテル基及びヒドロキシル基を有し、したがって、アルコールとエーテルの両方の性質を示し、室温において液体である。更に、これらのアルキレングリコールエーテルは、ヒドロキシル基のうちの1つだけが置換されたモノエーテルであることができ、又はヒドロキシル基の両方が置換されたジエーテルであることもでき、更には複数の種類が共に組み合わされて使用されることもできる。
【0032】
特定の実施形態では、有機溶媒は好ましくは、アルキレングリコールジエーテルとアルキレングリコールモノエーテルとのブレンドであるか又はブレンドを含む。
【0033】
かかるブレンドを用いると、最適化された粘度を容易に達成することができる。このブレンドによって確実に、プリントヘッドの損傷がなくなり、臭気も少なくなる。加えて、VOCの排出が、例えばアセトン若しくは酢酸エチルのような高い揮発性を有する典型的な溶媒の場合ほど高くない。
【0034】
アルキレングリコールモノエーテルの例には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルトリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等が含まれる。
【0035】
アルキレングリコールジエーテルの例には、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等が含まれる。
【0036】
インクジェット印刷インク用の好ましい有機溶媒は、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、ブチルグリコールアセテート、エチレングリコールn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、イソプロパノール、酢酸エチル、ブチルグリコール、ジブチルグリコール、及びそれらの混合物である。
【0037】
更に好ましい実施形態では、有機溶媒は好ましくは、プロピレングリコールn-ブチルエーテルとジプロピレングリコールジメチルエーテルとのブレンドであるか又はブレンドを含む。このブレンドにおいて、ジプロピレングリコールジメチルエーテルは全ての製品規制に準拠する。他方でプロピレングリコールn-ブチルエーテルは、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルのような特定のポリマー基材をわずかにエッチングする性質を有し、これらの基材に対する導電性フィルムのより良好な接着を確実にする。両方の溶媒は更に、インクジェット印刷における乾燥特性と粘度に関して最適化された挙動を示す。
【0038】
当業者は、有機溶媒若しくは有機溶媒の混合物が好ましくは、水溶媒を含まないことを意味するということを理解するであろう。かかる溶媒が購入された状態で使用される場合、含水量は、溶媒の総量に対して3重量%よりも高くない、好ましくは1.5重量%よりも高くないものとする。最も好ましくは、溶媒は実質的に水を含まず、これは、本発明の文脈においては、含水量が1重量%未満であることを意味する。
【0039】
本発明によるインクジェット印刷インク組成物は、溶媒若しくは有機溶媒の混合物を、組成物の総重量に対して60~84.5重量%の範囲の量で含む。好ましくは溶媒若しくは有機溶媒の混合物の量は、76.3~83重量%の範囲であり、より好ましくは77.3~82重量%の範囲である。
【0040】
60重量%の量未満では、組成物は粘性が高くなり過ぎて、インクジェット印刷技術において使用できない。更に、銀粒子の凝集が起こる場合がある。
【0041】
84.5重量%の量を超えると、それに伴い印刷インクにおいて使用される銀粒子の量が少なくなり過ぎるという意味において、印刷インクの効率が不足する。更に、乾燥中の有機溶媒の排出量が多くなり過ぎる。
【0042】
銀粒子(b):
本発明による組成物では、銀導電性顔料が使用され、その量は組成物の総重量に対して15~25重量%の範囲である。好ましくは、導電性顔料の量は、それぞれ組成物の総重量に対して17.5~23重量%の範囲である。
【0043】
25重量%を超える銀粒子の量を有する組成物は、インクジェット印刷の使用を不可能にする望ましくないノズル目詰まりを起こす傾向があることが分かった。15重量%未満では、導電性顔料に関する組成物の効率が低くなりすぎる。
【0044】
銀粒子の粒子径は極めて重要である。粒子径分布は、レーザー散乱法を用いて決定され、体積平均累積度数分布として表示される。この分布関数から、d10、d50、若しくはd90値は、顔料のそれぞれ10%、50%、若しくは90%が、各場合において特定された値以下の直径を有するということを示す。
【0045】
径分布全体において、d10値は微細粒子の含有量の指標であり、メジアンd50値は平均粒子径の指標であり(しかしメジアンは算術平均値に等しくはない)、d90値は粗大粒子の含有量の指標である。
【0046】
本発明によれば、粒子径は、Mastersizer2000(Quantachrome)装置を用いてメーカーの推奨に従いデータ評価に関するMie-theoryを用いて決定される。測定中若しくは測定の直前に、緩い凝集を分解するべく銀粒子を超音波で処理する。このようにして、実質的に一次径分布を決定することができる。
【0047】
本発明によれば、銀粒子は、130nm~800nmの範囲、好ましくは150nm~650nmの範囲、最も好ましくは160~400nmの範囲のd50値を有する。
【0048】
130nmのd50未満では、銀粒子は、長時間にわたり安定化されることが困難である傾向がある、即ち、凝集が開始する。約5nmや約10nmのように非常に小さな銀粒子の場合には、これらの粒子は長時間にわたり安定化されることが非常に困難であり、凝集に加えて、酸化が起こる場合がある。したがって、これらの問題を回避するためにはより大きな銀粒子を使用することが有利である。更に、ナノ銀粒子は、安全規制要件に従うそれらの承認において困難を有すると思われる。例えば、銀ナノ粒子は、2013年以来、欧州共同体ローリングアクションプラン(Community Rolling Action Plan)のリストに挙げられている。更に、それらは非常に高価である。
【0049】
50が800nmを超えると、プリントヘッドにおけるノズル目詰まりが観察される可能性がある。更に、印刷され焼結されたフィルムの導電性が低下する可能性がある。
【0050】
更に好ましい実施形態ではインクジェット印刷インク組成物中の銀粒子は、500~2,500nmの範囲、更に好ましくは600~2,000nmの範囲のd90値を有する。d90値が2,500nmを超えると、ノズル目詰まりが観察される可能性がある。
【0051】
銀粒子は好ましくは分散剤(e)によって安定化される。この剤の量は低くすることができ、好ましくはそれは、組成物の総重量に対して≦2重量%である。
【0052】
分散剤(e)若しくは安定剤はエチルセルロースとは異なる。それは、クエン酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、チオール及びその誘導体、アミン、カルボン酸及びそのカルボキシレート誘導体、ポリエチレングリコール、及びそれらの混合物等の既知の安定剤から選択されることができる。
【0053】
好ましい実施形態では、分散剤(e)は少なくとも6個のC原子を有する脂肪酸である。脂肪酸は好ましくは22個までのC原子を有する。典型的な例はパルミチン酸若しくはステアリン酸である。
【0054】
通常、この安定化剤は、銀粒子の形成工程の間に使用されることとなり、銀ナノ粒子の表面に吸着されることとなる。
【0055】
銀粒子は、銀塩の湿式化学還元、レーザーアブレーション、電気化学的方法(例えばDE112012001784B4)、又はエレクトロビームリソグラフィのような幾つかの方法によって製造することができる。好ましい実施形態では、銀粒子は、銀塩、典型的には硝酸銀の周知の湿式化学還元、及び好適な分散剤によるin-situ安定化によって製造される。
【0056】
銀粒子は、それ以上再分散のできない凝集を形成しないように、印刷インク組成物中で良好に安定化される。したがって、インクヘッドのノズル目詰まりを回避するためには、銀粒子は、例えば多数の粒子が凝集して大きな粒子を形成している「花形状」のような、超格子形態を形成しないことが好ましい。
【0057】
好ましい実施形態では、銀粒子は実質的に球状粒子である。
【0058】
かかる球状粒子は、焼結された導電層における最も大きな充填密度を確実にする。更に、粒子のインクジェット印刷インクの粘度に対する影響は、任意の他の形態の場合よりも低い。印刷プロセス中に、インクジェット印刷インクは、プリントヘッド若しくはインク供給システム中ポンプ輸送されることとなり、ここで、球状粒子は、粘度及び流動挙動に対する影響が最も少なく、一定の流動特性を確実にする。
【0059】
結合剤(c):
本発明による組成物においては、0.5~5重量%の結合剤であって、エチルセルロースを結合剤の総量に対して85~100重量%の範囲の量で含む結合剤が使用される。好ましい実施形態では、インクジェット印刷インク組成物は、エチルセルロースを結合剤の総量に対して95~100重量%の範囲の量で含む結合剤を有する。更なる実施形態では、結合剤はエチルセルロースのみである。
【0060】
結合剤は、ポリビニルピロリドン、CAB、若しくはアクリレート等の他の結合剤を、全結合剤の含有量に対して15重量%まで、好ましくは5重量%までの少量で含むことができる。より多くの量の他の結合剤は、銀粒子の安定性又は印刷後に得られるフィルムの導電性に関して有利とならないことが検証済みである。
【0061】
エチルセルロースは導電性に対する影響の小さい非常に良好な結合剤であることが判明した。更に、エチルセルロースは加えて、銀粒子をその凝集安定性に関して安定化することができる。更に、エチルセルロースは粘度調整剤として作用する。これらの組み合わされた有益な特性のため、むしろほんの少量のこの構成成分が必要とされる。エチルセルロースの量は、全組成物の重量に対して、0.5~5重量%の範囲、好ましくは0.6~3.5重量%の範囲、より好ましくは0.7~2.5重量%の範囲、最も好ましくは0.75~1.5重量%の範囲である。
【0062】
このような少ない量は、硬化フィルムの導電性に対するこの有機化合物の最小限の影響を確実にする。エチルセルロースはインクジェット印刷インクの粘度に対して強い影響を有し、したがって5重量%よりも多くの、好ましくは3.5重量%よりも多くの量は許容できないような高粘度に繋がる。
【0063】
インクジェット印刷インク:
非常に好ましい実施形態では、本発明のインクジェット印刷インク組成物は、構成成分(a)溶媒、(b)銀粒子、(c)結合剤、及び(e)安定剤を、全組成物に対して95~100重量%の範囲の量で含む。更に好ましい実施形態では、これらの構成成分の量は97~100重量%の範囲であり、最も好ましい実施形態では、99~100重量%の範囲である。
【0064】
かかる組成物は、異なる構成成分を少量しか含まないという利点をまさに有する。故に、この組成物は、調製及び取り扱いが容易であり、多くの異なる用途において利用可能である。
【0065】
それは調製が容易であり、構成成分の最適化された性質のために、必要とされる結合剤若しくは安定剤はごく少量である。かかる構成成分は、それらが銀粒子の表面に位置する非導電性の剤であるため、印刷後の硬化フィルムの導電性に対して負の影響を有する場合がある。フィルムが完全に焼結されないとしたら、これらの残存する構成成分は互いに接触し合う銀粒子の界面になお存在する場合があり、そしてそこで抵抗を生ずる場合がある。
【0066】
したがって、好ましい実施形態では、インクジェット印刷インク組成物は、例えばグラファイト、グラフェン、酸化グラファイト、酸化グラフェン、カーボンナノチューブ等の、炭素を主体とするいずれの更なる導電性粒子も含有しない。
【0067】
更に好ましい実施形態では、インクジェット印刷インク組成物はガラス粒子のような更なる構成成分を含有しない。この種の粒子は、ガラス基材若しくは太陽電池上への印刷が意図される場合に、インク中に見られることが多い。
【0068】
インクジェット印刷インク組成物の粘度が3~25mPasの範囲、更に好ましくは4~20mPasの範囲、最も好ましくは4.5~16mPasの範囲の粘度を有することが極めて重要である。インクジェット印刷インクは、この印刷技術をもって利用されるためにはこのような低い粘度を必要とする。
【0069】
粘度は、25℃の温度でBrookfield回転粘度計LV,Model DV-II+を用いスピンドルno.61を使用し100rpmにて決定される。
【0070】
インクジェット印刷インク組成物の好ましい実施形態では、結合剤の量の銀粒子の量に対する比率は3%~10%の範囲、更に好ましくは4~7%の範囲である。結合剤は、結合及び安定化のその並外れた特性のために、かかる低い比率において使用されることが可能である。より多くの量はインクの高すぎる粘度に繋がる場合がある。
【0071】
更なる実施形態では、インクジェット印刷インク組成物は、それぞれ組成物の総重量に対して、≦2重量%、好ましくは<1.5重量%、最も好ましくは<1重量%の、酸化防止剤(d)を含む。かかる剤は、銀粒子を酸化に対して安定化することを補助することができる。
【0072】
酸化防止剤の例としては、アスコルビン酸若しくはビタミンC(E300)、ナトリウムのアスコルビン酸塩(E301)、カルシウムのアスコルビン酸塩(E302)、ジアセチル5-6-1アスコルビン酸(E303)、パルミチル6-1アスコルビン酸(E304);クエン酸(E330)、ナトリウムのクエン酸塩(E331)、カリウムのクエン酸塩(E332)、及びカルシウムのクエン酸(E333);酒石酸(E334)、ナトリウムの酒石酸塩(E335)、カリウムの酒石酸塩(E336)、及びナトリウム及びカリウムの酒石酸塩(E337);ブチルヒドロキシアニソール(E320)及びブチルヒドロキシトルエン(E321);オクチルの没食子酸エステル(E311)若しくはドデシルの没食子酸エステル(E312);ナトリウムの乳酸塩(E325)、カリウムの乳酸塩(E326)、若しくはカルシウムの乳酸塩(E327);レシチン(E322);天然トコフェロール(E306)、α-トコフェロールの合成物(E307)、γ-トコフェロールの合成物(E308)、及びδ-トコフェロールの合成物(E309)全てのトコフェロールがビタミンEを形成する;オイゲノール、チモール、及び/若しくはシンナムアルデヒド、並びにこれらの酸化防止剤の2つ以上の混合物が挙げられる。
【0073】
インクジェット印刷インク組成物がこうした酸化防止剤を含む実施形態では、構成成分a)溶媒、b)銀粒子、c)結合剤、及びe)安定剤の量は、それぞれ全組成物に対して、95~100重量%の範囲、好ましくは96~99重量%の範囲、より好ましくは97~98重量%の範囲である。
【0074】
好ましいインクジェット印刷インク組成物は、下記の構成成分を含むか又は下記の構成成分から成り:
(a)76.3~83重量%の有機溶媒若しくは有機溶媒の混合物,
(b)0.7~2.5重量%の結合剤としてのエチルセルロース、
(c)17.5~23重量%の、130nm~800nmの範囲のd50値を有する銀粒子、
(d)任意で、酸化防止剤、
(e)任意で、結合剤(b)とは異なる銀粒子のための分散剤、
全ての量は、別途規定されない場合には、インクジェット印刷インク組成物の総量を対照とする。
【0075】
更なる態様において、下記の工程を含むことを特徴とする、インクジェット印刷インク組成物の製造方法が提供される:
(i)130nm~800nmの範囲のd50値を有する銀粒子分散物を提供し、任意で、銀粒子を分散剤(e)でコーティングする工程、
(ii)任意で、工程(i)の銀顔料分散物を乾燥する工程、
(iii)結合剤(b)を有機溶媒若しくは有機溶媒の混合物(a)中に溶解することによって第1の分散物を調製する工程、
(iv)工程(i)の銀顔料分散物若しくは工程(ii)の銀顔料粉末を、撹拌及び/若しくは超音波の衝撃の下で、工程(iii)の分散物に加える工程。
【0076】
この方法は、結合剤の良好な溶解性を確実にし、したがって、金属粒子同士の集塊が起きないことが、均質なインクジェット印刷インクをもたらす。
【0077】
導電性インクジェット印刷インクは、種々の基材上に印刷されることが可能である。基材の例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアニリン、ポリフッ化ビニリデン、若しくはABS(アクリロニトリル、ブタジエン、スチロール)等の共重合体のようなプラスチック、又はかかるプラスチックの組み合わせが挙げられる。更に好適な基材は、プリンテッドエレクトロニクス用途向けに設計されたガラス若しくは紙である。
【0078】
ここではインクジェット印刷の全ての利点を用いて、種々のパターンを印刷することが可能である。パターンは、適用者の必要に対して個々に適合されることが可能であり、唯一のロットサイズまでにわたる。インクジェット印刷は非接触の印刷法であるため、例えば篩の提供のような、他の印刷法には典型的な更なる調製を行う必要がない。
【0079】
基材は、ドロップ・オン・デマンド若しくは連続式インクジェット技術によって印刷される。ドロップ・オン・デマンド技術は、ここでは異なる印刷ヘッドを用いた印刷インクの広範な使用が可能となるため、好ましい。
【0080】
印刷された基材の用途は、RFIDアンテナ、有機薄膜トランジスタ(OTFT)、PCB板、若しくはソーラーグリッドであり得る。
【0081】
基材上へのインクジェット印刷後に、インクは、好ましくは最初に、35℃~80℃の範囲、より好ましくは40℃~70℃の範囲の温度で乾燥される。この乾燥工程は、約2~3秒から約半時間続く。溶媒のほとんどがここで蒸発される。
【0082】
次いで、フィルムは、典型的には400~600℃の範囲、好ましくは430~500℃の範囲の温度で焼結される。この焼結工程は、レーザー焼結、フラッシュライト焼結、熱焼結、若しくはIR光の照射によって行うことが可能である。
【実施例
【0083】
調製:
エチルセルロース(Ethocel 45、Dow Chemical)若しくは他の結合剤を、表1に表示された量に従い、有機溶媒の混合物中に溶解した。市販の銀粒子(Metalor P620-7)を表1に表示された量に従って添加し、激しく撹拌しながらよく分散させた。
【0084】
粒子径測定:
実施例1~3のインクを超音波の衝撃下で更にイソプロパノール中に希釈し、Mastersizer2000を用いて粒子径分布を測定した。データは、機器のブルーライト(λ=466nm)を用いたMie-theoryモードによる体積平均データとして、また、光学定数として屈折率=0.14及び吸収係数=3.99に対して、評価した。
【0085】
全てのインクに対して180nm~210nmのd50が決定された。d90値は750~850nmの範囲であった。
【0086】
EN ISO13736に従い、引火点検出器ABA4(Petrotest)を用い、二次標準としてシクロヘキサノン及び1-ヘキサノールを用いて、Abelの方法にて引火点を測定した。
【0087】
比較例7:実施例3に従ったインクを調製したが、d50値が約2.1μmであり、d90値が約3.7μmの銀粒子(Metalor P554-32)を用いた。
【0088】
印刷ヘッドのノズルが目詰まりしたため、このインクを印刷することはできなかった。
【0089】
【表1】
【0090】
混合の直後に、得られた組成物をガラス試験管に充填した。
【0091】
こうして充填された試験管を更に混合することなく、ある程度の時間室温にて、及び高温(45℃)にて保持することによって、分散安定性試験を行った。規則的な時間間隔にて、試験管を判定した。これらの試験の結果を表2及び3にまとめる。
【0092】
この判定において、下記の採点法を使用した:
0:目に見える沈殿がない
1:試験管の底に目に見える沈殿の最初の兆候がある
2:試験管の底に目に見えるかすかな沈殿が幾らかある
3:試験管の底及び頂部に目に見える沈殿が幾らかある
4:はっきりと目に見える沈殿がある
5:銀粒子の大部分が試験管の底に沈殿している
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
明らかに、発明実施例のインクは、沈降に関して比較例よりもはるかに良好な安定性を有した。この効果は、エチルセルロースの安定化特性に起因する。28日後に見られた少量の沈降粒子は、超音波処理を用いて容易に再分散することができた。沈降の一年後であっても再分散は可能であった。比較例からの沈降した顔料は、ここでは凝集が開始して不可逆となったため、完全に再分散させることができなかった。
【0096】
導電性測定の手順:
xy-100-table(Konica Minolta)を、GISのプリントヘッド制御システム及びインク供給システム(Jet-set Industrial、print head:X1002 from Xaar)と組み合わせた。基材として、透明PET箔(Hostaphan GN4660/175μm)を使用した。そこに実施例3の印刷インクをパターンにおいて印刷した。40℃にて(約5分間)インクを乾燥した後、光源としてXeフラッシュランプ(350Vの電圧を用いた、持続時間がそれぞれ2,000μs及び1,700μsの2回の閃光に対するパルスエンベロープを有するPulseforge(Novacentrix))を使用して焼結させた。乾燥したフィルムの厚みは3μmであった。
【0097】
10cm×2cmの長方形から導電性を測定した。フィルムの導電性は、Loresta-GP MCP-T610装置(Mitsubishi Chemical Analytech)を使用して10Vの電圧にて4点測定を用いて測定した。体積抵抗は1.0×10-4Ωcmであり、シート抵抗は3.3×10-1Ω/□であった。これらの値は3μmの厚みのフィルムにしては非常に低い。