(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】メチルケトン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/26 20060101AFI20220207BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20220207BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C12P7/26
C12N1/14 B
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2017162005
(22)【出願日】2017-08-25
【審査請求日】2020-03-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本農芸化学会2017年度(平成29年度)大会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西川 卓
(72)【発明者】
【氏名】佐野 恵右
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-054580(JP,A)
【文献】特開昭56-106588(JP,A)
【文献】特開平02-265495(JP,A)
【文献】特開平03-076588(JP,A)
【文献】特許第4764309(JP,B2)
【文献】特開2004-344087(JP,A)
【文献】特開2002-253221(JP,A)
【文献】特開平04-189790(JP,A)
【文献】特開平05-268875(JP,A)
【文献】日本農芸化学会誌,1960年,Vol.34, No.5,p.440-442
【文献】日本醸造協会誌,1992年,Vol.87, No.2,p.101-106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/26
JSTPlus/ST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペクチン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、リン酸架橋デンプン、ゼラチン、グアーガムからなる群より選択される少なくとも1種の増粘剤を添加することにより培養液の粘度を1~13mPa・sに調整した液体培地にメチルケトン類を生産可能な真菌類としてペニシリウム属菌の分生子を接種して培養した後、液体培地および脂肪酸を加えてさらに培養するメチルケトン類の製造方法。
【請求項2】
ペクチン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、リン酸架橋デンプン、ゼラチン、グアーガムからなる群より選択される少なくとも1種の増粘剤を添加することにより培養液の粘度を1~13mPa・sに調整した液体培地にメチルケトン類を生産可能な真菌類のチーズスターターを接種して培養した後、液体培地および脂肪酸を加えてさらに培養するメチルケトン類の製造方法。
【請求項3】
チーズスターターが懸濁液状のものである請求項
2に記載のメチルケトン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真菌類を用いた発酵法によって乳脂肪酵素分解物および脂肪酸を効率よく変換したメチルケトン類の製造方法に関する。さらに詳しくは、主として生乳由来成分からなる液体培地に増粘安定剤を加えて真菌類を培養し、乳脂肪酵素分解物および脂肪酸を効率よく変換したメチルケトン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルケトン類はブルーチーズの特徴成分として、いわゆるカビによって生成することが知られている(非特許文献1)。その生成経路は脂肪酸のβ酸化の経路から派生したものであることも知られており、ブルーチーズ以外においても微量ながら含まれている(非特許文献2、3)。このため、メチルケトン類はチーズフレーバーのキー成分として重要であるとともに、乳製品その他のフレーバー成分として利用価値の高い化合物とされている。
【0003】
また、前述のとおりメチルケトン類はいわゆるカビにより生成することが知られているため、真菌類を使用した発酵による製造方法が種々提案されている。例えば、真菌類の固体培養物を液体培地に投入することでペレット状の菌糸体を形成させ、油脂とリパーゼを添加することでメチルケトンを生産する方法(特許文献1)。反応系を油水二層系として、流加培養にて少量ずつ油層に脂肪酸を加えることで生育阻害を避け、メチルケトンを大量生産する方法(非特許文献4)。これらの製造方法は、メチルケトンの製造工程である二次培養の効率性に関するものであり、真菌類の増殖過程にあたる一次培養については特に目立った提案はない。真菌類の多くは偏性好気性であり、分生子を増殖させる場合は固体培養が一般的であり、発酵工程では発酵効率や生成物の回収効率の面で液体培養が有利であるため、特にプラントにおける効率的な生産を考えた場合に固体培養と液体培養の両方が取り入れられる。しかしながら、固体培養によって得た分生子を液体培養に転用する場合、固体培地ごと液体培地に投入するか、もしくは分生子を掻きとって投入する必要があり、前者は液体培地中に残った固体培地の処理、後者は大量の分生子の掻き取り作業がありいずれも非常に煩雑である。また、固体培養および液体培養を行う設備がそれぞれ必要であり、培養に時間がかかることも問題点であった。
【0004】
また、リパーゼ、カビ、脂肪酸基質を炭水化物からなる多孔質固相に吸着させてカビを培養し、メチルケトンを生産する方法(特許文献2)が提案されており、カビを液中で固定化するために多孔質樹脂などを用いて担体の表面に菌糸を増殖させることで、固体培養法によるカビの培養と液体培養による発酵を両立しており、基質および生成物による生育阻害を受けづらく効率的な発酵法となっているが、培養に特殊な装置や専用の樹脂を用意しなければならないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4764309号公報
【文献】特許第3049399号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】カビによる加水分解乳脂肪からのメチルケトン類の生産、日本食品工業学会誌、Vol.31,No.8,477-482,1984年
【文献】白カビチーズに特徴的な香り成分とその生成経路、Milk Science Vol.59,No.3,303-307,2010年
【文献】、「The biology of methyl ketones」Jounal of Lipid Research vol.12,383-395,1971年
【文献】「Bioconversion of fatty acids into methyl ketones by spores of Penicillium roquefortii in a water-organic solvent,two phase system」Enzyme and Microbial Technology Vol.14,669-678(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって一次培養から一貫して液体培養を行い、乳脂肪酵素分解物および脂肪酸を効率よく変換したメチルケトン類の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、増粘剤を添加して粘度調整をした液体培地で真菌類を培養することで、再現よく乳脂肪酵素分解物をメチルケトン類に変換することを見出した。すなわち、本発明は液体培地にメチルケトン類を生産可能な真菌類の分生子を、増粘安定剤を含む液体培地に接種して培養後、脂肪酸源を添加しさらに培養することを特徴とするメチルケトン類の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液体培養で十分な分生子を生育させることが可能となることにより、一次培養からメチルケトン類の回収まで一貫して液体培養で製造が可能である。また、本発明においては、製造に必要な装置が液体培養に必要な機能(通気、撹拌、温度制御、無菌状態の維持)を備えた発酵槽と乳化機のみであり、固体培養に必要な恒温槽やクリーンベンチなどを必要としないため比較的低コストで製造条件を達成できる。さらには、本発明は液体培養による一貫製法であるため、同一装置内で培養、発酵、加熱殺菌まで行うことから培養液中の真菌類を系外に放出するリスクが低く、真菌類による環境汚染リスクを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、真菌類による発酵法によってメチルケトン類を製造する方法であって、分生子の接種からメチルケトンの製造、回収までを一貫して行うことを可能とするものである。本発明では、特殊な装置を使用せず一般的に使用されている液体培養のための発酵槽を用いて内容物を撹拌しながら培養を行う。本発明において、メチルケトンを生成する真菌類として菌糸を形成する偏性好気性菌を使用するため、液体培養するにあたって、分生子及び菌体に酸素を効率よく供給するために培地の粘度を調整する。
【0011】
本発明において、粘度の調整は増粘剤の添加によって行う。粘度の調整範囲は、真菌類を接種する前の液体培地の粘度が1~13mPa・sの範囲、さらに好ましくは1~3mPa・sとなるように任意の濃度で増粘安定剤を添加することによって行う。粘度が1mPa・s未満だと、少なくとも一般的に液体培養に使用される発酵槽において菌体を損傷させない撹拌速度では酸素の供給を十分に行うことができず粘度調整の効果が得られない。また13mPa・s以上だと粘度が上がりすぎて、通気・撹拌時に培地が発泡して培養が困難となるか、酸素供給の効率が低下することで菌体の増殖速度が上がらないなどにより生産効率が低下する。
【0012】
液体培地の粘度は培地に増粘剤を添加した後、殺菌処理して25℃まで冷却したものを測定する。振動粘度計、B型粘度計など任意の粘度計を用いることができる。
【0013】
本発明において使用される増粘剤は、食品に使用される増粘安定剤が好ましく、具体的にはペクチン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸架橋デンプン、ゼラチン、グアーガム、アラビアガムを挙げることができる。
【0014】
使用することのできる真菌類としては、メチルケトン類を生産することのできる真菌類であればいずれの微生物を選択しても構わない。メチルケトンを生産する真菌類としては、例えば、アスペルギルス ルバー、アスペルギルス レペンスなどのアスペルギルス属、リゾープス ジャポニクス、リゾープス オリザエなどのリゾープス属の真菌類も知られているが、チーズの特有香気を生成することで知られているペニシリウム(Penicillium)属に属する真菌類を使用することが好ましい。ペニシリウム属菌として具体的は、ペニシリウム・ロックフォルティ(P. roqueforti)、ペニシリウム・カマンベルティ(P. camemberti)、ペニシリウム・カゼイ(P. casei)、ペニシリウム・ジャンシネラム(P.janthinellum)、ペニシリウム・キャンディダム(P.candidum)を挙げることができる。これらの菌はチーズスターターとして市販されており、それらを利用することができる。また、チーズスターターには分生子を含む懸濁液状のスターターカルチャーが市販されており、それら懸濁液状のものを使用することで、当初の接種時に分生子が飛散せず、真菌類による環境汚染を防止できるため特に好ましい。
【0015】
本発明の製造方法において、メチルケトン類の出発物質は脂肪酸類である。本発明における脂肪酸源は任意のものを使用することができるが、食品由来の油脂を加水分解物したものであることが食品に含まれるメチルケトン類を再現しやすく好ましい。食品由来の油脂を加水分解する方法としては、酵素分解によるものが食品成分に近い生成過程が再現できることから好ましい。さらには、上記の真菌類のうちチーズスターターを使用した場合には特にチーズの香気生成過程を再現し得ることから、乳脂肪の加水分解物を脂肪酸源とすることが特に好ましい。メチルケトン類の出発物質として使用することのできる乳脂肪酵素分解物は、乳脂肪を含む食品を酵素処理したものであればよいが、乳脂肪を含む食品として、バター、クリーム、チーズ、生乳、ヨーグルトなどを例示することができる。また脂肪酸としては任意の炭素鎖を持つものを単独もしくは2つ以上を組み合わせて選択できるが、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸のうち少なくとも1つの脂肪酸を含む必要がある。
【0016】
本発明における培地の脂肪酸源以外の成分については、使用する真菌類の生育に必要な成分として、一般的に使用される炭素源、窒素源、ミネラルなどの微量栄養素などが含まれているものであれば、いずれも使用することができるが、脂肪酸源の選択理由と同じ理由から食品由来のものが好ましく、チーズスターターを使用した製造の場合は乳由来のもの、たとえば全脂乳、全脂粉乳、脱脂乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、ホエイソルト、カゼイン、乳糖、およびこれらを適宜組み合わせたものが例示される。
【0017】
本発明の液体培地には、基質、栄養成分、粘度調整用の増粘剤の他、発泡を抑制するための消泡剤を加えておくことが望ましい。使用する消泡剤は任意のものが使用できるが、例えばシリコーン消泡剤のように食品工業で一般に使用されるものが望ましい。
【0018】
本発明のメチルケトン類の製造方法は、菌体生育増殖のための一次培養とメチルケトン生成のための二次培養を同一装置内で連続して行うことを特徴としている。本発明の製造方法は、一次培養のための液体培地の調整、殺菌、分生子の接種、一次培養、基質の投入と培地追加、二次培養、殺菌、メチルケトン類の回収の各工程からなる。本発明によれば、二次培養のための基質と追加培地の調整以外は同一装置で連続的に実施することが可能である。
【0019】
本発明における一次培養は、増粘剤の添加以外には通常の液体培養の方法によって実施される。すなわち、発酵槽に水、栄養成分、pH調整剤、増粘剤を投入し、液体培地を作成してpH調整および粘度調整を行う。本発明のpH調整剤は有機酸類が使用されるが、培養時に菌により消費されることでpHが上昇することを避けるため、脂肪酸以外の有機酸を使用することが望ましい。また、使用する真菌類に対する生育・増殖阻害の少ない有機酸であることが望ましく、具体的には乳酸を使用することが特に好ましい。pHの調整範囲は、通常3~7の範囲とされる。なお、液体培地のpHの使用する真菌類の最適pHに近いことが好ましいが、雑菌の増殖を抑制するために、例えば真菌類の最適pH5.0付近に対して、pH3.5~4.0の範囲に調整するなど、最適pHよりも低い値に調整することもできる。次いで、液体培地の調整後に殺菌処理を行う。殺菌処理の条件は培地の成分に著しい変質がなく、十分に殺菌できる条件であれば常法に従えばよいが、具体例として60~80℃で10~30分間加熱撹拌する方法が挙げられる。加熱殺菌する時の撹拌速度は、発酵槽の容量、撹拌手段を考慮し加熱むらが発生しない程度に適宜設定される。殺菌処理の後、冷却して培養に適した温度まで液体培地を冷却して温度を調整する。培養温度は使用する真菌類の生育・増殖が可能な範囲であればよいが、生育・増殖の最適温度付近であることが好ましく、一般的なものとしては、20~40℃が例示され、より好ましくは25~30℃の範囲が提示される。液体培地の温度調整をした後、培地に分生子を接種して通気、撹拌しながら培養する。接種する分生子の量は適宜選択することができるが、一般的な培養時間を勘案して液体培地に対して103~106個/mlとなるよう調整することが好ましい。培養時の通気量は好気性菌の培養において採用される一般的な通気量であれば十分である。培養時の撹拌速度は本発明においては、液体培地の粘度調整によって酸素供給の効率を向上させているため、菌体の損傷を抑えられる範囲で発酵槽の容量、培養液の量を勘案して調整される。具体的には例えば、30Lの発酵槽で一般的な撹拌翼を使用した場合で100~200rpm程度の撹拌速度が例示される。本発明の一次培養時間は、培養する真菌類や前記各条件の設定によって変動するため一概にはいえないが、培養後の分生子数を目安として決定される。具体的な目安としては107個/mlを超えることが好ましい。
【0020】
本発明における二次培養は、一次培養後の発酵槽に二次培養に必要な培地と脂肪酸源の混合物を追加資材として投入して行われる。追加資材は一次培養と同様の液体培地に脂肪酸源を混合した後、殺菌したものを用いる。殺菌の条件は一次培養の液体培地と同様の条件で行うことができる。殺菌後の追加資材は培養温度近傍まで冷却されてから投入される。二次培養の条件は基本的に一次培養と同等の条件で行われる。二次培養の時間はサンプリングした培養液を分析し、メチルケトン量を測定した結果を参照して決定することもできるが、脂肪酸源の消費により変化するpHをモニタリングしてその数値変化を目安として終点を決定することもできる。例えば前記のpH設定の例として記したpHを3.5~4.0に調整した培地で培養した場合にpH4.2~5.2となったところで二次培養を終了するという方法が例示できる。また、一般的な培養時間としては、12~72時間が例示される。
【0021】
本発明において、二次培養終了後のメチルケトン類の回収工程は任意の方法で実施することができるが、具体的な方法としては溶媒抽出法と蒸留法が簡便な方法として挙げられる。
【0022】
溶媒抽出法については、非水溶性の溶媒であれば任意のものを使用できるが、食品もしくは食品添加物の製造に一般的に使用されるものであることが好ましい。抽出の方法は一般的な方法が使用されるが、具体的には二次培養後に殺菌処理を行い、ろ過、遠心分離などにより固液分離をした後に液々抽出する方法が提示される。このとき抽出溶媒は固液分離の前後どちらで添加してもよいが、固形物への吸着などによる損失を減らす目的で固液分離前に抽出溶媒を加えて撹拌抽出する方法が好ましい。
【0023】
蒸留法については、二次培養後の培養液をそのまま加熱蒸留してもよく、エタノールなどの共沸溶剤を加えて蒸留することもできる。共沸溶媒としては、水よりも低沸点で、かつ食品に混入しても安全な溶媒であれば使用することができる。添加する共沸溶媒の量は、メチルケトン類の濃度や回収効率に応じて任意に変更して構わないが、具体例としては発酵液重量に対して10%のエタノールを発酵液に加えた後、撹拌しながら加熱して留分を得る方法が提示される。蒸留による回収量はメチルケトン類の濃度に応じて任意に変更ができるが、好ましくは発酵液重量の3~9%である。また本発明の蒸留回収においては、発酵槽に留出経路を設け、留出液の冷却手段を接続することで、二次培養後にそのまま発酵槽を用いて単蒸留することもできる。この場合は、二次培養後の殺菌と蒸留を同時もしくは連続で行うことができる。
【0024】
上記により得られた抽出液もしくは回収液に含まれるメチルケトン類の量は常法によりガスクロマトグラフによる分析で確認することができる。
【実施例1】
【0025】
増粘安定剤の比較
純水551.4gに粘度が1~3mPa・sとなる量の増粘剤(表1に示した事前に調整試験をした結果を参照し、それぞれ、ペクチン0.6g、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム6.0g、ヒドロキシプロピルデンプン3.6g、リン酸架橋デンプン6.0g、ゼラチン6.0g、グアーガム1.2g、アラビアガム0.6gを添加)、乳糖30.0g、ホエイソルト9.0g、ホエイたんぱく質濃縮物5.1g、シリコーン樹脂1.2g、90%乳酸3.0gを2L容のジャーファーメンターに投入し80℃、30分間加熱殺菌後27℃まで冷却したものを液体培地とした。この液体培地にチーズ用カビスターターを分生子数が5×105個/mlとなるように添加した。培養温度27℃、撹拌速度180rpm、5.0L/minにて通気を行いながら96時間培養したものを培養液とした。その後純水372.8g、乳糖19.5g、ホエイソルト5.6g、ホエイたんぱく質濃縮物3.4g、乳脂肪酵素分解物3.0g(酸価220)を別容器に投入し、TKホモミキサー正転6000回転で乳化しながらウォーターバスで80℃、30分間加熱殺菌後27℃まで冷却したものを基質液とし、前述の培養液に投入した。この培養液をさらに撹拌速度180rpm、2.0L/minにて通気を行いながら18時間培養したものを発酵液とした。この発酵液に95vol.%エタノール100.5gを投入し、常圧蒸留にて99gまでの留分を得た。
【0026】
表1に増粘安定剤の添加量と添加時の培養液の粘度を示す。
【0027】
【0028】
微生物変換によって生成する炭素数11以下のメチルケトン類をガスクロマトグラフィー法により分析した。メチルケトン類とピークが重ならないトリデカン酸を、内部標準として分析した結果を表2に示した。
(分析条件)
Instrument : HP 6890N
Column : TC-WAX、 30m×0.25mm×0.25μm
Flow : 1.5mL/min、 34cm/sec
17.0psi(定圧モード)
Column Temp : 65℃-120℃(3℃/min)
120℃-250℃(5℃/min)
Detector : FID、280℃
Injection : 250℃
キャリアガス : He
【0029】
【実施例2】
【0030】
(ペクチン濃度検討)
純水551.4g、乳糖30g、ホエイソルト9.0g、ホエイタンパク質濃縮物5.1g、シリコーン樹脂1.2g、90%乳酸3.0gを含む培地にペクチンを0.01%、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%それぞれ加えて2L容ジャーファーメンターに投入し80℃、30分間加熱殺菌後27℃まで冷却したものを液体培地とした。その後の工程は実施例1に示した方法に準じた。表3にペクチン添加量と粘度、メチルケトン生成量を示す。
【0031】
【実施例3】
【0032】
(オクテニルコハク酸デンプンナトリウム濃度検討)
純水551.4g、乳糖30g、ホエイソルト9.0g、ホエイタンパク質濃縮物5.1g、シリコーン樹脂1.2g、90%乳酸3.0gを含む培地にオクテニルコハク酸デンプンナトリウムを1%、5%、10%それぞれ加えて2L容ジャーファーメンターに投入し80℃、30分間加熱殺菌後27℃まで冷却したものを液体培地とした。その後の工程は実施例1に示した方法に準じた。表4にオクテニルコハク酸デンプンナトリウムの添加濃度、粘度、メチルケトン生成量を示す。なお、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムを5%添加した場合でもメチルケトン発酵は進行したが生成量は減少したことから5%添加では効率が低下すると判断した。また、10%添加時の粘度140mPa・sでもメチルケトン発酵は進行したが、消泡できないほど発泡が著しいため、製造条件として現実的ではないと判断した。
【0033】
【0034】
実施例2、3の結果より本発明における培養液の粘度は1~13mPa・sのいずれを選択しても構わないが、より好ましくは1~3mPa・sである。
【実施例4】
【0035】
純水8271gにHMペクチン9g、乳糖450g、ホエイソルト135g、ホエイたんぱく質濃縮物77g、シリコーン樹脂18g、90%乳酸45gを30L容ジャーファーメンターに投入し80℃、30分間加熱殺菌後27℃まで冷却したものを液体培地とした。この液体培地にブルーチーズ製造用カビスターターであるPenicillium roquefortiを、分生子数が2×105個/mlとなるように添加した。培養温度27℃、撹拌速度115rpm、4.2L/minにて通気を行いながら96時間培養したものを培養液とした。その後純水5604g、乳糖293g、ホエイソルト84g、ホエイたんぱく質濃縮物51g、乳脂肪酵素分解物45g(酸価220)を別容器に投入し、TKホモミキサー正転6000回転で乳化しながらウォーターバスで80℃、30分間加熱殺菌後27℃まで冷却したものを基質液とし、前述の培養液に投入した。この培養液をさらに撹拌速度115rpm、通気量2.0L/minで18時間培養して発酵液とした。この発酵液に95%エタノール1510gを投入し、常圧蒸留にて1485gまでの留分を回収した。
【0036】
微生物変換によって生成した留分中の炭素数11以下のメチルケトン類をガスクロマトグラフィー法により分析した。その結果を表5に示す。
【0037】