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  • 特許-解体方法 図1
  • 特許-解体方法 図2
  • 特許-解体方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】解体方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/12 20060101AFI20220125BHJP
   E04G 23/08 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
E04G23/08 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017215350
(22)【出願日】2017-11-08
(65)【公開番号】P2019085787
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】勝二 理智
(72)【発明者】
【氏名】藤森 健史
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-112218(JP,A)
【文献】特開2010-133206(JP,A)
【文献】特開2009-013720(JP,A)
【文献】特開平08-060875(JP,A)
【文献】特開平04-350264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/12
E04G 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存杭の上方に配置され、鉄筋コンクリートで構成された杭頭接合部の上面に、溝を形成する第1工程と、
前記溝によって前記杭頭接合部に形成された突出部を解体する第2工程とを備え、
前記第1工程及び第2工程によって前記杭頭接合部を解体した前記既存杭の上部に、新たな杭頭接合部を形成し、この杭頭接合部上に新規構造物を構築可能にすることを特徴とする解体方法。
【請求項2】
前記第1工程において、切断装置によって、前記第2工程の前記突出部を解体する圧砕具の刃の間隔で、前記溝を並列に複数、形成することを特徴とする請求項1に記載の解体方法。
【請求項3】
前記第1工程の前に、前記杭頭接合部に連結された基礎梁を切断して解体する工程を更に備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存杭を利用して新規構造物を構築するための杭頭接合部の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物を解体する場合、圧砕具を先端に取り付けた重機(圧砕機)を用いることが多い。ここで、既存建物を支持していた既存杭を新規建物に用いる場合には、既存杭を損傷させずに、基礎躯体を解体する必要がある。そこで、既存杭を損傷させずに再利用可能に切断する解体方法が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載の解体方法は、コンクリート製の既存杭と基礎躯体との接合部における杭頭を切断する。この場合、既存杭の杭頭を、コアボーリングマシンを水平方向にボーリングさせるとともに、順次、既存杭の径方向にコアボーリングマシンを移動させることによって切断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-350264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、既存杭を損傷させないために、杭頭においてコアボーリングマシンを移動させることを繰り返す。このため、解体の手間や時間が掛かり、解体費用が大きくなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための解体方法は、既存杭の上方に配置され、鉄筋コンクリートで構成された杭頭接合部の上面に、溝を形成する第1工程と、前記溝によって前記杭頭接合部に形成された突出部を解体する第2工程とを備え、前記第1工程及び第2工程によって前記杭頭接合部を解体した前記既存杭の上部に、新たな杭頭接合部を形成し、この杭頭接合部上に新規構造物を構築可能にする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、既存杭の損傷を抑制しながら、杭頭接合部を効率的に解体することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態における解体作業の処理手順を説明する流れ図。
図2】実施形態における基礎梁の解体を説明する説明図であって、(a)は上面図、(b)は解体中の一部破断の断面正面図。
図3】実施形態における杭頭接合部の解体を説明する説明図であって、(a)は上層に溝を形成する状態、(b)は突出部を解体する状態、(c)は下層に溝を形成する状態、(d)は突出部を解体する状態を示す。
図4】実施形態における弾性波探査試験によって得られた測定結果を示す図であって、(a)は実施形態の解体方法を用いて解体した杭、(b)は従来の圧砕機のみを用いて解体して破損した杭、(c)はワイヤソーを用いて輪切りして解体した杭を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1図4を用いて、解体方法の一実施形態を説明する。本実施形態では、既存建物の既存杭を用いて、新規建物を建築する。
図1に示すように、基礎梁の解体を実行する(ステップS1)。この基礎梁の解体前には、基礎梁よりも上の既存建物の躯体を解体しておく。
【0009】
図2(a)は、基礎梁30の一部の上面図である。この図に示すように、本実施形態では、3つ既存杭10の上部に1つのパイルキャップ20が固定されている。パイルキャップ20は、既存杭10と基礎梁30とを接合する杭頭接合部である。パイルキャップ20は、既存杭10と一体となるように、鉄筋コンクリートで構成される。本実施形態のパイルキャップ20の高さ(せい)は、約1.9mである。パイルキャップ20の上には、基礎梁30が一体形成されている。基礎梁30は、水平方向に格子状に延在して、隣接する複数のパイルキャップ20と接続している。
【0010】
図2(b)は、解体する基礎梁の一部破断の断面正面図である。この図に示すように、基礎梁の解体(ステップS1)においては、圧砕具55を取り付けた重機50を用いる。圧砕具55は、1対の刃先を備え、刃先の間に圧砕する対象物を挟んで圧力により対象物を砕く。具体的には、圧砕具55によって、パイルキャップ20から所定距離以上(例えば300mm)離間した位置にある(図中のドット部分にある)基礎梁30を挟み込んで解体する。
【0011】
次に、既存杭の上方に設けられているパイルキャップを解体する(ステップS2)。本実施形態では、パイルキャップの解体は、パイルキャップ20の上面に溝を形成し(ステップS21)、溝によって形成された突出部を解体する(ステップS22)。これらの処理を、パイルキャップ20を解体できるまで繰り返して実行する(ステップS23)。
【0012】
図3を用いて、このパイルキャップの解体処理(ステップS2)の詳細について、説明する。
図3(a)に示すように、カッター65を取り付けた重機60を用いて、パイルキャップ20の上面に溝21を形成する(ステップS21)。このカッター65は、円板の外周に複数の刃が形成され、円板を高速で回転して切断を行なう。本実施形態では、圧砕具55の各刃先の先端が挿入可能な幅(例えば300mm)の溝21を形成できるカッター65を用いる。なお、このカッター65は、切断高さ(切断可能な深さ)が約1mであり、最大深さ1m程度の溝を形成することができる。そして、カッター65を、パイルキャップ20の上面から垂直方向に降下させ、横方向に移動させて溝21を形成する。本実施形態では、垂直方向の深さが約0.9mの溝21を形成する。この場合、カッター65は、パイルキャップ20内の鉄筋を切断する。
【0013】
更に、カッター65は、溝21を、所定の間隔で複数、並列となるように形成する。本実施形態では、複数の溝21を、圧砕具55の1対の刃先の間隔で形成する。この間隔は、1対の刃先で圧砕可能な最大幅が望ましい。具体的には、圧砕具55の1対の刃先で挟み込める幅(例えば800mm)の間隔で形成する。
【0014】
図3(b)に示すように、溝21によってパイルキャップ20の上部には、突出部22が形成される。そこで、圧砕具55によって、各突出部22を圧砕して解体する(ステップS22)。具体的には、圧砕具55の各刃先を溝21に挿入して、両刃先で、突出部22を挟み込んで圧砕する。
【0015】
図3(c)に示すように、溝21が形成されていた部分まで解体した後、再度、重機60を用いて、残りのパイルキャップ20の上面に溝25を形成する(ステップS21)。この場合においても、カッター65を、パイルキャップ20の上面から垂直方向に降下させ、横方向に移動させることにより、深さ約0.9mの溝21を、圧砕具55の1対の刃先に対応する間隔で並べて形成する。この場合も、カッター65は、パイルキャップ20に内蔵された鉄筋を切断する。
【0016】
次に、図3(d)に示すように、溝25によって、パイルキャップ20の上部に形成された各突出部26を、圧砕具55によって圧砕して解体する(ステップS22)。
以上により、パイルキャップ20の解体が終了する。
そして、既存杭10の上部に鉄筋コンクリートで構成された杭頭接合部を形成し、この杭頭接合部に一体化するように、新しい基礎梁を形成する。そして、この基礎梁の上に、新規建物の躯体(新規構造物)を建築する。
【0017】
<既存杭の健全性評価>
上述した本実施形態における解体方法と、他の解体方法との既存梁の健全性を評価した。この評価は、ボアホールカメラ観察、目視観察及び杭の弾性波探査試験(IT試験)の3つで行なった。ボアホールカメラ観察においては、杭体ボーリング孔内にカメラを挿入し、孔内観察にひび割れ等の状態を観察する。また、目視観察においては、露出した杭頭を直接目視し、ひび割れ等の状態を観察する。杭の弾性波探査試験は、杭頭をハンマで軽打し、低ひずみの弾性波を発生させ、杭体からの反射波を杭頭に取り付けたセンサで計測することで、健全性を推定する試験である。
【0018】
ボアホールカメラ観察及び目視観察において、本実施形態における解体方法では、ひび割れの発生は見られなかった。なお、従来の圧砕具のみでパイルキャップ20を解体した場合には、杭頭にひび割れが生じた既存杭も存在していた。
【0019】
図4は、杭の弾性波探査試験の結果を示している。図4(a)は、本実施形態における解体方法で解体した既存杭の結果、図4(b)は、従来の圧砕具のみで解体して破損した既存杭の結果、図4(c)は、ワイヤソーでパイルキャップ20を水平方向に輪切りにして解体した既存杭の結果を示す。
【0020】
図4(a)及び図4(c)においては、先端反射が明確であり、打撃部から先端反射までの間に、損傷を示す下向きの反射が見られない。このため、既存杭の健全性が高いと判断できる。
【0021】
本実施形態によれば、以下のような作用及び効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、パイルキャップ20の上面に溝を形成する工程(ステップS21)と、突出部22,26を解体する工程(ステップS22)とにより、パイルキャップ20を解体する。これにより、既存杭10に加わる力を低減し、既存杭10の破損を抑制して、効率的に解体することができる。
【0022】
(2)本実施形態では、溝を形成する工程(ステップS21)と、溝21,25によって形成された突出部22,26を解体する工程(ステップS22)とを、パイルキャップ20の解体が終了するまで繰り返す。これにより、パイルキャップ20の高さより低い切断高さのカッター65を用いて、パイルキャップ20を解体することができる。
【0023】
(3)本実施形態では、上面に溝を形成する工程(ステップS21)において、パイルキャップ20の鉄筋を切断する。これにより、パイルキャップ20を分断し、圧砕具55による解体を円滑に行なうことができる。
【0024】
(4)本実施形態では、上面に溝を形成する工程(ステップS21)において、圧砕具55の先端が挿入できる幅の溝21,25を形成できるカッター65を用いる。これにより、溝21,25に、圧砕具55の刃先を引っ掛けて、突出部22,26を効率的に解体することができる。
【0025】
(5)本実施形態では、上面に溝を形成する工程(ステップS21)において、圧砕具55の刃先が挟み込める幅の間隔で、複数の溝21,25を形成する。これにより、突出部を圧砕具55が突出部22,26を挟み込んで、効率的に解体することができる。
【0026】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態において、溝を形成する工程(ステップS21)では、パイルキャップ20の上面から垂直方向に延在し、横方向に直線状に延在する溝21,25を形成する。第1工程で形成される溝は、この形状に限定されず、圧砕具で圧砕可能な幅を実現できるものであればよい。例えば、パイルキャップ20の上面において格子形状に形成してもよいし、上面から斜め垂直方向に延在するように形成してもよい。
【0027】
・上記実施形態において、基礎梁の解体(ステップS1)においては、パイルキャップ20から所定距離で離間した位置にある基礎梁30の全体を、圧砕具55によって挟みながら解体した。基礎梁の解体処理は、基礎梁30の全体を、圧砕具55によって解体する方法に限定されない。例えば、パイルキャップ20から所定距離だけ離間した位置で、切断装置(例えば、カッターやワイヤソー等)で、基礎梁30を切断してパイルキャップ20との接続を切った後、基礎梁30を解体してもよい。この場合、基礎梁30の解体において既存杭10に加わる力を低減することができる。
【0028】
・上記実施形態においては、溝を形成する工程(ステップS21)において、円板の外周に複数の刃が形成され、円板を高速で回転して切断を行なうカッター65を用いる。溝を形成する切断装置は、このようなカッター65に限定されない。例えば、ウォータジェット等、水圧によって溝を形成してもよい。
【0029】
・上記実施形態においては、カッター65を取り付けた重機60を用いて、パイルキャップ20の上面に溝21を形成する(ステップS21)。ここでは、カッター65により、パイルキャップ20内の鉄筋を切断する。この場合、パイルキャップ20内の鉄筋の配置を考慮して、溝21の配置を決定してもよい。例えば、鉄筋の配置に応じて、鉄筋を細かく切断できる方向で、カッター65をパイルキャップ20に挿入して分断する。これにより、圧砕解体(ステップS22)を効率的に行なうことができる。
【0030】
・上記実施形態においては、圧砕具55を取り付けた重機50を用いて、溝によって形成された突出部を解体した(ステップS22)。突出部を解体する装置は、刃先で物を挟んで解体する圧砕具55に限定されない。例えば、ブレーカ等、振動によって突出部を解体してもよいし、他の解体装置を用いてもよい。
【符号の説明】
【0031】
10…既存杭、20…パイルキャップ、21,25…溝、22,26…突出部、30…基礎梁、50,60…重機、55…圧砕具、65…カッター。
図1
図2
図3
図4