(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】連続鋳造用金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/059 20060101AFI20220125BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20220125BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20220125BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20220125BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20220125BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20220125BHJP
C22C 27/06 20060101ALI20220125BHJP
C22C 19/07 20060101ALN20220125BHJP
C22C 27/04 20060101ALN20220125BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20220125BHJP
C22C 28/00 20060101ALN20220125BHJP
【FI】
B22D11/059 110A
B22D11/059 110H
B22F10/25
C22C19/05 B
C22C30/00
B22F5/00 F
B22F7/04 B
C22C27/06
C22C19/07 G
C22C27/04 101
C22C27/04 102
C22C21/00 E
C22C28/00 A
(21)【出願番号】P 2017232375
(22)【出願日】2017-12-04
【審査請求日】2020-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000155470
【氏名又は名称】株式会社野村鍍金
(74)【代理人】
【識別番号】100085615
【氏名又は名称】倉田 政彦
(72)【発明者】
【氏名】石田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 利幸
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-254317(JP,A)
【文献】特開平09-285844(JP,A)
【文献】特表2016-516580(JP,A)
【文献】特開2011-052289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
B22F 10/00-12/90
B22F 3/105
B22F 3/16
B22F 5/00
B22F 7/00
C22C 19/00
C22C 21/00
C22C 27/00
C22C 28/00
C22C 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金基体表面に、ニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・固化して形成した厚み0.1~3mmのニッケル基合金層を、厚み0.3~10mmに多層肉盛りした被覆層を
形成する連続鋳造用金型
の製造方法であって、前記被覆層は、銅の含有量が10wt%以下となるように銅または銅合金の一部が肉盛り層中に固溶した第1層と、第1層上に形成された多層のレーザー肉盛り層を備え、肉盛り層中の銅固溶量が内部から表面に傾斜的に減少する多層レーザー肉盛り層
とすることを特徴とする連続鋳造用金型
の製造方法。
【請求項2】
ニッケル基耐熱合金粉末が、ハステロイC(53Ni19Mo17Cr)、インコネル(80Ni13Cr)、モネル(65Ni31Cu4(Fe+Mn))、NiCoCrAlY(47.9Ni23Co20Cr8.5Al0.6Y)、NiCr(50Ni50Cr)、Waspaloy(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti)の一種からなることを特徴とする請求項1の連続鋳造用金型
の製造方法。
【請求項3】
基体表面にニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射する際に、銅または銅合金基体を100~400℃に加熱しながらレーザー肉盛りすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の連続鋳造用金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に耐熱、耐摩耗性に優れる被覆層を付与した連続鋳造用金型の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に製鋼工程で使用される連続鋳造用金型用材料には、溶鋼からの成形過程における冷却を効果的に行えるよう、熱伝導性の観点から銅や銅合金を使用することが多い。しかし、銅や銅合金はニッケル基合金などより耐熱性、耐蝕性に劣り、また硬度が低く耐摩耗性にも劣ることから、銅や銅合金基体表面に耐蝕、耐熱層あるいは耐摩耗層を形成し、金型の長寿命化を図ることが知られている。
【0003】
連続鋳造用金型の銅または銅合金基体表面に、耐蝕性、耐熱性あるいは耐摩耗性の被覆層を形成する方法として、Ni、Co、Crおよびその合金などの電気めっき法や、自溶性合金を使用する溶射法が知られており、実際に製鋼工程で使用されている。
【0004】
たとえば、特許文献1では、連続鋳造用金型の銅または銅合金基体表面にNiまたはNiにFe、Mn、Coを含む合金からなるめっき層を形成し、また特許文献2では、Ni、Feを含有するCo基合金めっき層を形成し、それぞれ耐摩耗性を向上させることが提案されている。
【0005】
また、特許文献3では、連続鋳造用金型の銅または銅合金基体表面にCr、B、Si、C、Fe、Co、Mo、Cuを含有し、さらに耐摩耗性硬質セラミックスの微粉末を5~50wt%含有したニッケル基自溶性合金を溶射することにより、耐熱性、耐摩耗性を改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭54-46131号公報
【文献】特開平8-197197号公報
【文献】特開2002-86248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のめっき法による被覆層は、例えば耐熱合金として金属学的手法により開発されたハステロイのような多種類の金属を含む合金を、最適組成にて被覆することは困難である。一方、溶射法では、溶射粉末からプラズマ熱により緻密な合金層を作るために、粒子表面を活性化することが必要であり、BやSiなどの活性化剤を含む自溶性合金を使用せざるを得ない。また、溶射法では、銅または銅合金基体との密着性についても課題があった。
【0008】
本発明は、連続鋳造用金型のさらなる長寿命化を達成するために、耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性に優れていることが既知の合金を、その組成をほとんど変化させることなく、且つ密着性良く、銅あるいは銅合金基体表面に被覆することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、銅または銅合金基体表面に、ニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・固化して形成した厚み0.1~3mmのニッケル基合金層を、厚み0.3~10mmに多層肉盛りした被覆層を形成する連続鋳造用金型の製造方法であって、前記被覆層は、銅の含有量が10wt%以下となるように銅または銅合金の一部が肉盛り層中に固溶した第1層と、第1層上に形成された多層のレーザー肉盛り層を備え、肉盛り層中の銅固溶量が内部から表面に傾斜的に減少する多層レーザー肉盛り層とすることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の連続鋳造用金型の製造方法において、ニッケル基耐熱合金粉末が、ハステロイC(53Ni19Mo17Cr)、インコネル(80Ni13Cr)、モネル(65Ni31Cu4(Fe+Mn))、NiCoCrAlY(47.9Ni23Co20Cr8.5Al0.6Y)、NiCr(50Ni50Cr)、Waspaloy(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti)の一種からなることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2のいずれかに記載の連続鋳造用金型の製造方法であって、基体表面にニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射する際に、銅または銅合金基体を100~400℃に加熱しながらレーザー肉盛りすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の連続鋳造用金型の製造方法は、銅または銅合金基体表面に、ニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末を溶融・固化して形成した厚み0.1~3mmのニッケル基合金層を、厚み0.3~10mmに多層肉盛りした被覆層を形成するから、肉盛りしたニッケル基合金層が合金本来の特性を発揮することができる。また、溶射法により表面保護皮膜を形成する場合に比べると、密着性よく表面保護皮膜を形成することができる利点がある。
【0014】
請求項1の発明によれば、第1層のニッケル基合金層に基体の銅または銅合金の一部が固溶するほど強固に密着性よく第1層を基体表面に接合することができ、なおかつ、この第1層上に形成された多層のレーザー肉盛り層を備え、肉盛り層中の銅固溶量が内部から表面に傾斜的に減少する多層レーザー肉盛り層としたので、表面のニッケル基合金層は基体の銅または銅合金の影響を殆ど受けないという効果がある。
【0015】
請求項2の発明によれば、耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性に優れていることが既知の合金を、その組成をほとんど変化させることなく、且つ密着性良く、銅あるいは銅合金基体表面に被覆することができるから、合金めっき法や溶射法により表面保護皮膜を形成した連続鋳造用金型に比べると、優れた耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性を発揮することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、基体表面にニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射する際に、高熱伝導性の銅または銅合金基体を100~400℃に加熱しながらレーザー肉盛りするので、レーザーエネルギーが合金粉末の溶融目的以外に散逸することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例1の断面構造を比較例1及び2の断面構造と対比して示す説明図である。
【
図2】本発明の実施例2の肉盛り層の厚さと、皮膜中のCu含有率及び皮膜硬さの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
連続鋳造用金型では、型に溶鋼を流し込むと同時に、背面を冷却水で冷やした金型表面で、溶鋼を抜熱し凝固させることにより連続的に鋼を鋳込み成型していく。金型上部のメニスカス部付近は、高い耐熱性と耐蝕性が求められる。同時に、冷却水との温度差から最も強い熱応力を受け、熱クラックも発生しやすい。また、溶鋼が冷却され凝固した状態の金型下部では、モールドパウダーに含まれるガラス質のセラミックパウダーの擦り摩耗や、溶鋼が凝固し体積収縮した後の密度上昇した鋼自身の重量増により金型表面を強く擦ることによる金型摩耗から寿命に至ることもある。さらに、溶鋼中の硫黄成分による化学的腐食や金型通過後の鋼冷却用吹付け水の蒸気による金型下部の腐食摩耗にも対策が必要である。
【0019】
このように、連続鋳造用金型の寿命要因である熱負荷による熱衝撃、こすり摩耗と化学的腐食などに対して、優れた耐性を発揮する金型が必要である。金型基体には、熱伝導性に優れ冷却効果の高い銅または銅合金が使用されるが、耐熱、耐蝕、耐摩耗性と強度を併せ持つ基体保護層が不可欠であり、銅または銅合金基体表面に、金属学的手法により開発され高温での耐蝕性や耐摩耗性に優れるハステロイやインコネルなど既知のニッケル基合金層を形成することにより課題解決ができると考えられ、本研究のレーザー肉盛り法により実現した。
【0020】
肉盛りしたニッケル基合金層が合金本来の特性を発揮するためには、合金層内に空孔などの欠陥がなく、合金本来の密度に到達していることが必要である。合金層が空孔のない真密度を得るためには、肉盛りに寄与する合金部を一度完全に溶融することが求められる。合金部を完全溶融するためのエネルギーは外部から供給するが、熱伝導性の良い銅または銅合金基体などから熱伝導により逃げていくことから、良質な合金層を得るために、エネルギーの供給量、金属粉末の溶融熱量、熱拡散量のすべてを制御できることが重要である。
【0021】
本発明ではレーザーエネルギーを、供給する合金粉末の溶融のために効率的に使用するために、合金粉末が溶融し形成する溶融プールのサイズと温度を管理し、レーザーエネルギーを制御する。すなわち、銅または銅合金基体表面に、ニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末の溶融プールを形成させ、それが固化して形成される厚み0.1~3mmのニッケル基合金レーザー肉盛り層を被覆した後、同様なレーザー肉盛り法により厚み0.3~10mmに多層肉盛りした被覆層を形成する。これにより、優れた耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性の合金組成を有する被覆層を持つ連続鋳造用金型を作製可能とした。
【0022】
金属肉盛り法には、溶接棒を使う方法や合金板を溶解していく方法があるが、これらの方法は粉末を使う方法に比較し、溶接棒や未溶解合金板から熱伝導により逃げていく熱エネルギーが大きいため、熱量の制御が困難になるだけでなく、過大なエネルギーを外部より供給する必要がある。このため、銅または銅合金基体にまで大きな影響を与え、同時に大きな熱ひずみが発生する要因となっている。
【0023】
これに対して、本発明では、レーザー照射ノズルからレーザー光と共に、使用する合金粉末を供給しながら、基体表面にノズルを走査させレーザー肉盛りするので、レーザーエネルギーを、供給する合金粉末の溶融目的のみに使用でき、最も効率的である。
【0024】
また、合金肉盛り層が銅または銅合金基体と完全に密着し、連続鋳造用金型が使用される過酷な熱衝撃環境下でも十分な密着強度を有していることがさらに重要である。本発明では、主にレーザーエネルギーを、供給する合金粉末の溶融に使用し、同時に粉末の溶融により形成される溶融プールのサイズと温度を管理しながら、レーザーエネルギーを制御することが可能である。
【0025】
本発明によれば、ニッケル基耐熱合金の供給量と照射レーザーエネルギーを制御することにより、銅または銅合金基体を過度に溶解することなく、表面の最表部を合金溶融プールに固溶させることにより、界面部に欠陥が無く、下地基体と密着性に優れる強固な肉盛り層を形成することが可能となった。また、下部基体からの固溶量も低く抑えることが可能となり、合金肉盛り層の基体固溶成分による組成変化も10wt%以下と低くできた。
【0026】
レーザー肉盛り時の基体からの熱伝導によるエネルギーの散逸を少なくするために、銅または銅合金基体を100~400℃に加熱しながらレーザー肉盛りを実施する方法は、エネルギー制御を容易にし、肉盛り層への基体固溶成分を少なくでき、密着性に優れ、耐熱合金本来の特性を発揮できることから有効である。基体加熱温度が400℃より高温になると、金型の銅または銅合金基体の強度低下が発生し、連鋳モールド金型としての機能が大きく低下し、利用できなくなる場合がある。一方、100℃以下でもエネルギーの散逸防止に効果は認められるが、エネルギー制御の容易さがそれほど向上しなかった。
【0027】
現在、レーザー肉盛り法で使用できるレーザーの波長は900~1200nmで、ニッケル基合金では、光を効率的に吸収し、レーザー肉盛りが比較的容易にできる。一方、銅または銅合金では、この波長の光を吸収しないことから、レーザー光を銅または銅基体の加熱に使用できない。銅または銅合金が吸収できる青色半導体レーザーや高調波レーザーが開発されているが、現状では量産に使用できるようなエネルギーを出すことができていない。将来、高出力が可能となるであろう近未来には、基体加熱の必要性は薄れ、また、エネルギー制御がより容易になると予想される。
【0028】
金型基体の主成分である銅の融点は、耐熱性ニッケル基合金の融点より300℃以上低く、ニッケル基合金より低温で溶融する。その結果、銅が固溶したニッケル基合金の耐熱性が損ねられる結果となった。肉盛り層を多層重ね合わせる際には、下層の表面部分を溶解し上層に固溶させ、上下層の密着強度を高度に維持する必要がある。この場合、下層に固溶している銅成分が、上層にも固溶するが、その銅組成は下層の1/10以下になる。本発明のレーザー肉盛りを3層以上繰り返した場合、銅の固溶量は段階的・傾斜的に減少し、3層目以上の表面では、銅の含有量を実質的にゼロに近づけることができ、使用したニッケル基合金粉末と同じ組成の肉盛り層を形成することができた。このことにより、金属学的手法により開発され高温での耐蝕性や耐摩耗性に優れるハステロイやインコネルなど既知のニッケル基合金肉盛り層を得ることができた。
【0029】
本発明のニッケル基耐熱合金粉末を供給しながらレーザーを照射し、粉末の溶融プールを形成させ、それを固化して肉盛り層を形成する方法は、不活性ガス雰囲気中で行う。具体的には、Arガスと一緒に合金粉末を肉盛り点に供給する。なお、肉盛り層に欠陥が生じる場合は、Arガスによるアフター・シールを行い肉盛り層の酸化を抑制し、濡れ性を改善する。合金粉末粒度は、溶融プールを形成するレーザーエネルギーや肉盛り厚みに影響し、粒度は20~150μmが好ましい。粒度が150μmより大きくなると粉末溶融のために大きなエネルギーが必要になり、溶融プールのサイズや温度の制御精度が悪くなり、肉盛り層の厚みも厚くなってしまう。粒度が小さいと肉盛り精度が向上することから精密肉盛りには適しているが、20μm以下になると、粉末が軽量過ぎて粉末の飛散が過大になり、肉盛り層への変換効率が低下するだけでなく、粉塵による作業環境の悪化が進む。このことから微細すぎる粉末の使用は好ましくない。
【0030】
レーザー肉盛りの厚みは0.1~3mmが好ましい。厚みを0.1mmより薄くする場合には、粉末粒度も小さくする必要があり、微粉末の使用は作業環境と収率の点から好ましくない。肉盛り層を3mmより厚くするためには、合金溶融プールのサイズも大きくなり、大きなレーザーエネルギーが必要になる。エネルギーが過大になると基体あるいは下地層の固溶量制御がより困難になり、基体や下地層の固溶量が大きくなり、肉盛り層組成が本来の耐熱合金組成から大きくずれる結果となる。一方、エネルギー制御の困難さから、エネルギーが不足する場合には、界面や膜中に欠陥が発生するなど付着強度が弱いあるいは脆い肉盛り層となってしまう。
【0031】
レーザー肉盛り法において、密着性が良く緻密な肉盛り層を形成するために、基体や下地層から10wt%以下の固溶が必要になり、供給粉末本来の合金組成からずれが生じる。しかしレーザー肉盛り層を多層積み重ねることにより、基体からの銅固溶量が減少し合金本来の組成を持つ肉盛り層を得ることができる。一層の厚みは0.1~3mmが好適であり、3層以上の積層にするために合計の厚み0.3~10mmが必要になる。合計厚みを10mm以上にすることも可能であるが、被覆層以外の原因で生じる金型全体の寿命を考慮すると10mm以上の厚みは必要でないと判断された。なお、積層された肉盛り層は、金型内面下部のほか金型内面上部のメニスカス部付近にも形成しても良い。
【0032】
ニッケル基合金肉盛り層は、耐熱、耐蝕性に優れる合金組成のものを選択し、これらの合金粉末を供給しながらレーザー照射する方法で作製した。耐熱、耐蝕性に優れるニッケル基合金として、ハステロイC(53Ni19Mo17Cr)、インコネル(80Ni13Cr)、モネル(65Ni31Cu4(Fe+Mn))、NiCoCrAlY(47.9Ni23Co20Cr8.5Al0.6Y)、NiCr(50Ni50Cr)、Waspaloy(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti)の一種を選択し、いずれも市販されている合金粉末を使用した。なお、使用できる合金粉末は、これらに限定されるものではなく、重量%で、Ni:30%以上93%以下、Co:1%以上、Cr:8%以上、Mo:1%以上、W:0.5%以上、Al:0.2%以上、Ti:0.4~6%、Nb:0.4~6%、Ta:0.1~4%、Y:0.1%以上の一種以上、残部、不可避的不純物からなるもの、などが使用できる。
【0033】
肉盛り層が厚くなると、肉盛り層表面の粗さが悪くなる。このため、レーザー肉盛り層の形成後、その表面を研磨加工し、表面粗さをRy10μm以下に平坦化することにより、肉盛り層の異常摩耗発生を抑制することができる。
以下、本発明の試験結果に基づき、本発明を詳しく説明する。
【実施例1】
【0034】
モールド短辺(サイズ230mm×900mm×50mm)の表面に、粒度45~125μmのニッケル基合金粉末を、粉末供給速度8g/min、ノズルスキャン速度600mm/min、波長950~1070nmの半導体レーザーを照射し、ニッケル基合金肉盛り層を0.5mm、形成した。肉盛り層に固溶するCu含有量をEPMAにより分析した結果を表1に示す。レーザーエネルギーの違いにより、表1に示すように肉盛り層へのCu固溶量が変化する。レーザーエネルギーが大きすぎると、比較例1のようにCuの固溶量が10wt%を超えて肉盛り層の耐熱性が低下する。一方、レーザーエネルギーが小さいと、比較例2のように界面や肉盛り層内に欠陥や異常組織が観察された。従って、Cuの固溶量が10wt%以下となる本発明例が優れている。なお、レーザー肉盛り条件は、基体金属の種類や金型サイズや形状によって、熱伝導による熱拡散速度が異なることから、最適肉盛り条件も異なるが、Cuの固溶量が10wt%以下となるように条件を選定すればよい。
【0035】
図1は本発明例の断面構造を比較例1及び2の断面構造と対比して示す説明図である。図中、1は銅素地、2は肉盛り層、3はクラック、4はポアである。同図(a)は本発明例の断面構造であり、素地との界面は小さな波打ち状態が見られ、界面での溶融反応が見られる。皮膜内部での欠陥は見られない。同図(b)は比較例1の断面構造であり、素材との界面は大きく波打ち、素地界面での熱影響部が素地部にも大きく見られる。また界面近傍の皮膜内部にはクラックが発生している。同図(c)は比較例2の断面構造であり、素地との界面は直線的で、界面の溶融反応は見られない。界面近傍の皮膜内に多数のポア状の欠陥が発生している。
【0036】
【実施例2】
【0037】
1層目のレーザー肉盛り層は実施例1の条件で、2層目以降のレーザー肉盛り層は、粉末供給速度24g/min、ノズルスキャン速度1000mm/min、レーザーエネルギー2800Wにする以外は、実施例1の条件で、4層のレーザー肉盛り層を、各層1.25mm×4層の合計5mmで作製した。各層のCu固溶量をEPMAで測定し、その結果を表2及び
図2に示す。肉盛り層を積み重ねるにつれ、含有Cu量は低下し、3層目ではCu含有量は、約0.5wt%であり、4層目ではCu含有量は、0.1wt%以下となり、本来の合金組成層を得ることができた。
【0038】
【0039】
図2は本発明の実施例2の肉盛り層の厚さ(mm)と、皮膜中のCu含有率(wt%)及び皮膜硬さ(HV)の関係を示す図である。図中、◆は皮膜中のCu含有率(wt%)、■は皮膜硬さ(HV)である。図中のCu含有率の推移を見れば、肉盛り層中のCu固溶量が内部から表面に傾斜的に減少していることが分かる。また、皮膜硬さの推移を見れば、表面のニッケル基合金層は基体からのCuの影響を殆ど受けず、合金本来の特性(耐摩耗性等)を発揮することが分かる。
【実施例3】
【0040】
Cu金型基体(サイズ200mm×200mm×40mm)を高周波加熱法により、350℃に加熱した状態で、レーザーエネルギーを2000Wとする条件以外は実施例1の条件でレーザー肉盛りを実施した。基体を加熱することによりレーザーエネルギーを小さくしても欠陥が無く、Cuが2.2wt%と少量固溶した緻密なレーザー肉盛り層を形成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明による連続鋳造用金型は、溶鋼からの製鋼用金型として、優れた耐熱性、耐蝕性、耐摩耗性を有しているが、その金型の高温における長寿命性や高い精度維持性は、高温や腐食性環境における高品質の成形品製造用途にも活用できる。