(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】端子金具
(51)【国際特許分類】
H01R 13/03 20060101AFI20220125BHJP
H01R 12/51 20110101ALI20220125BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20220125BHJP
C22F 1/04 20060101ALN20220125BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220125BHJP
【FI】
H01R13/03 A
H01R13/03 D
H01R12/51
C22C21/06
C22F1/04 D
C22F1/00 602
C22F1/00 603
C22F1/00 604
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 630M
C22F1/00 640A
C22F1/00 650A
C22F1/00 661A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
(21)【出願番号】P 2017247467
(22)【出願日】2017-12-25
【審査請求日】2020-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】境 利郎
(72)【発明者】
【氏名】荻原 茂
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0103476(US,A1)
【文献】特開2017-098035(JP,A)
【文献】国際公開第2018/155531(WO,A1)
【文献】特開2011-040350(JP,A)
【文献】特開2004-183098(JP,A)
【文献】特開2016-186125(JP,A)
【文献】特開平06-346178(JP,A)
【文献】特開昭63-096239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
H01R 12/72-12/73
H01R 13/03
C22F 1/00,1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4.0質量%以上、6.0質量%以下のMgを含有し、
残部がAlと不可避的不純物よりなり、
0.2%耐力が、290MPa以上、330MPa以下であ
り、
破断伸びが10%以上であり、
平均結晶粒径が10μm以下であるアルミニウム合金
、
または前記アルミニウム合金の表面の少なくとも一部を被覆して他の金属または有機材料よりなる被覆層を設けた材料よりなることを特徴とする
端子。
【請求項2】
前記アルミニウム合金におけるMgの含有量が4.5質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の端子。
【請求項3】
前記アルミニウム合金は、0.4質量%以上、1.8質量%以下のMnをさらに含有することを特徴とする請求項1
または2に記載の
端子。
【請求項4】
前記アルミニウム合金におけるMnの含有量が0.7質量%以上であることを特徴とする請求項3に記載の端子。
【請求項5】
前記アルミニウム合金は、
0.2質量%以下のFe、
0.2質量%以下のCr、
0.2質量%以下のZr、
0.1質量%以下のSc、のうち1種または2種以上の添加元素をさらに含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の端子。
【請求項6】
前記アルミニウム合金において、Mnが含有される場合のMg、Mn、前記添加元素の合計含有量、およびMnが含有されない場合のMg、前記添加元素の合計含有量が、5.0質量%超、5.5質量%以下であることを特徴とする請求項5に記載の端子。
【請求項7】
前記
アルミニウム合金の表面の少なくとも一部を被覆して、最表面に露出した、スズまたはスズ合金よりなる
前記被覆層を有することを特徴とする請求項1から
6のいずれか1項に記載の
端子。
【請求項8】
メス型端子と嵌合可能なオス型端子であって、
前記メス型端子と電気的に接続される端子接続部と、回路基板のスルーホールに挿入され、はんだ付けによって前記スルーホールと電気的に接続される基板接続部と、前記端子接続部と前記基板接続部の間を連結する連結部と、を有し、
前記連結部は、折り曲げ部を有することを特徴とする請求項1から
7のいずれか1項に記載の
端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子金具に関し、さらに詳しくは、アルミニウム合金を基材としてなる端子金具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来一般に、電気接続に用いられる端子金具を構成する材料としては、銅や銅合金、またそれらの表面にスズやスズ合金等の金属被覆層を設けたものが、広く用いられてきた。しかし近年、自動車用のワイヤーハーネス等に用いられる端子金具において、材料費の低減や軽量化が強く求められており、銅や銅合金に比べて安価で軽量なアルミニウムやアルミニウム合金を端子金具の基材として用いることが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、基板コネクタに用いられるコネクタ用端子を、アルミニウム材から構成することが開示されている。用いるアルミニウム材としては、5000系アルミニウム合金が挙げられている。特許文献1では、アルミニウム材においては、銅や銅合金に比べて、曲げ加工を施した後のスプリングバック量が大きくなりやすいことから、相手方コネクタ端子と電気的に接続される嵌合部と、嵌合部と直交する方向に延びており、回路基板と電気的に接続される基板接続部との間の連結部において、曲げ加工を複数段階に分けて行うことにより、各段階での曲げ角度を小さくし、スプリングバック量を小さくすることを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、アルミニウム合金を端子金具の基材として用いる場合には、銅や銅合金に比べて、所定の端子金具の形状に加工する際の加工性が低くなる場合が多い。上記特許文献1に記載される連結部の曲げ構造のように、端子金具の形状を工夫することで、材料の加工性の低さをある程度補うことが可能ではあるが、基材となるアルミニウム合金自体の加工性を高めることが重要である。
【0006】
一方で、アルミニウム合金を端子金具の基材として使用するためには、そのアルミニウム合金が、端子金具としての使用に耐える十分な強度を有する必要がある。従来一般に端子金具の基材として用いられてきた銅や銅合金と同等、またはそれに近い強度を有することが望まれる。従来一般のアルミニウム合金において、端子金具としての用途において必要な強度と加工性を両立することは、困難である。
【0007】
本発明の課題は、強度と加工性に優れたアルミニウム合金を基材としてなる端子金具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明にかかる端子金具は、4.0質量%以上、6.0質量%以下のMgを含有し、0.2%耐力が、290MPa以上、330MPa以下であるアルミニウム合金を基材としてなるものである。
【0009】
ここで、前記アルミニウム合金の破断伸びが、10%以上であるとよい。
【0010】
また、前記アルミニウム合金の平均結晶粒径が、10μm以下であるとよい。
【0011】
前記アルミニウム合金は、0.4質量%以上、1.8質量%以下のMnをさらに含有するとよい。
【0012】
前記端子金具は、前記基材の表面の少なくとも一部を被覆して、最表面に露出した、スズまたはスズ合金よりなる被覆層を有するとよい。
【0013】
前記端子金具は、メス型端子と嵌合可能なオス型端子であって、前記メス型端子と電気的に接続される端子接続部と、回路基板のスルーホールに挿入され、はんだ付けによって前記スルーホールと電気的に接続される基板接続部と、前記端子接続部と前記基板接続部の間を連結する連結部と、を有し、前記連結部は、折り曲げ部を有するとよい。
【発明の効果】
【0014】
上記発明にかかる端子金具は、アルミニウム合金が、Mgを4.0質量%以上、6.0質量%以下含有することで、基材の材料強度と圧延性に優れた端子金具となる。また、アルミニウム合金の0.2%耐力が290MPa以上であることで、端子金具として必要な強度が確保される。一方、0.2%耐力が330MPa以下であることで、曲げ加工等の機械加工における割れの発生が抑制され、曲げ加工等を経て端子金具を製造する際の加工性を確保することができる。
【0015】
ここで、アルミニウム合金の破断伸びが、10%以上である場合には、曲げ加工等の機械加工における加工性を特に確保しやすい。
【0016】
また、アルミニウム合金の平均結晶粒径が、10μm以下である場合には、アルミニウム合金の耐力および破断伸びをともに向上させやすい。
【0017】
アルミニウム合金が、0.4質量%以上、1.8質量%以下のMnをさらに含有する場合には、0.4質量%以上のMnの含有により、合金組織中に微細な析出物が生成することで、アルミニウム合金の強度および耐力を向上させやすくなる。一方で、Mnの含有量が1.8質量%以下に抑えられることで、粗大な析出物が生成して曲げ加工性が低下するのを、回避しやすくなる。
【0018】
端子金具が、基材の表面の少なくとも一部を被覆して、最表面に露出した、スズまたはスズ合金よりなる被覆層を有する場合には、基材であるアルミニウム合金が高温でも高い強度を維持しやすいものであるため、スズまたはスズ合金の層を基材の表面に形成した後、加熱してリフロー処理を行っても、基材の強度が低下しにくい。その結果、リフロー処理を含む被覆層の形成およびその後の端子金具の加工工程において、意図しない基材の変形を避けることができる。
【0019】
端子金具が、メス型端子と嵌合可能なオス型端子であって、メス型端子と電気的に接続される端子接続部と、回路基板のスルーホールに挿入され、はんだ付けによってスルーホールと電気的に接続される基板接続部と、端子接続部と基板接続部の間を連結する連結部と、を有し、連結部が、折り曲げ部を有する場合には、その種の基板接続用のオス型端子として十分な基材強度を得られるとともに、曲げ加工による折り曲げ部の形成を含むオス型端子の製造において、高い製造性を確保することができる。さらに、端子接続部や基板接続部において、基材表面にスズまたはスズ合金よりなる被覆層を形成することで、それら接続部の電気接続特性やはんだ濡れ性を向上させることができるが、そのような被覆層を形成する際にリフロー処理を行っても、基材が変形しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるオス型端子を含んだ基板コネクタの構成を示す断面図である。
【
図2】上記オス型端子の材料構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態にかかる端子金具について、詳細に説明する。
【0022】
[オス型端子の概略]
まず、本発明の一実施形態にかかる端子金具の一例として、オス型端子の概略について説明する。
【0023】
本発明の実施形態にかかる端子金具は、具体的な形状や用途を特に限定されるものではないが、一例として、基板コネクタを構成するオス型端子10について、以下で簡単に構造を説明する。そのようなオス型端子10を含んだ基板コネクタ1の構造を、
図1に示す。このオス型端子10は、特許文献1に記載されるコネクタ用端子と同様の構造を有している。
【0024】
オス型端子10は、アルミニウム合金を基材とする板状の金属材料をプレス打ち抜き成形した細長い部材として構成され、一端に端子接続部11を、他端に基板接続部12を有している。端子接続部11は、タブ状のオス型の電気接続部として構成されており、箱型等に形成された相手方のメス型端子と嵌合接続されて、メス型端子との間に電気的接続を形成することができる。一方、基板接続部12は、ピン状の電気接続部として構成されており、回路基板に形成されたスルーホールに挿入される。スルーホールの内周面には、回路基板上の導電路につながる導電性の接点部が形成されており、スルーホールに挿入した基板接続部12に対してはんだ付けを行うことで、基板接続部12と、スルーホール内周面の接点部および回路基板の導電路との間に、電気的接続を形成することができる。
【0025】
端子接続部11と基板接続部12の間には、連結部13が設けられており、端子接続部11と基板接続部12が、連結部13を介して、一体に連続している。連結部13は、中途に折り曲げ部14を有しており、折り曲げ部14において、オス型端子10の構成材料が折り曲げられることで、端子接続部11と基板接続部12が、相互に略直交する方向に延出した状態となっている。ここでは、折り曲げ部14が多段の構成を有しており、連結部13が多段(図示した形態では2段)に折り曲げられている。
【0026】
オス型端子10は、複数を共通の樹脂製のコネクタハウジング20に固定して、基板コネクタ1として用いることができる。オス型端子10の端子接続部11を、相手方のメス型端子に、基板接続部12を回路基板のスルーホールに、それぞれ接続することで、回路基板の導電路と相手方のメス型端子との間に、オス型端子10を介して、電気接続を形成することができる。
【0027】
なお、
図1に示した形態では、端子接続部11と基板接続部12の間の連結部13の中途に形成されている折り曲げ部14において、折り曲げを多段で行うことにより、オス型端子10を構成するアルミニウム合金の曲げ加工を行いやすくすることができる。しかし、下記で説明するように、本実施形態にかかるオス型端子10の基材となるアルミニウム合金は、曲げ加工等における加工性に優れたものであり、実施例にも示すように、90°での曲げを経ても、割れが生じにくいので、折り曲げ部14を1段構成とし、90°の曲げを1段のみで行うようにしてもよい。また、折り曲げ構造は、オス型端子10の他の部位に設けることもでき、例えば、端子接続部11や基板接続部12において、板材を打ち抜くだけでなく、折り曲げを経て、所望の電気接続部の形状への加工を行ってもよい。
【0028】
[オス型端子の構成材料]
次に、本実施形態にかかるオス型端子10を構成する金属材料について説明する。
【0029】
本実施形態にかかるオス型端子10は、下記で詳しく説明するアルミニウム合金を基材としてなるものである。さらに、基材表面への特性の付与等を目的として、オス型端子10を構成する基材の表面の一部を被覆して、他の金属や有機材料等よりなる被覆層を適宜設けることができる。そのような被覆層の構成の一例を、
図2に示す。
【0030】
図2に示した構成では、基材31の表面に接触して、ニッケルまたはニッケル合金よりなるニッケル層32が設けられている。そして、ニッケル層32の表面に接触し、最表面に露出して、スズまたはスズ合金よりなるスズ層33が設けられている。
【0031】
図1に示したオス型端子10において、
図2のようなニッケル層32とスズ層33の積層構造よりなる被覆層は、少なくとも、端子接続部11および基板接続部12において、基材31の表面に形成することが好ましい。アルミニウム合金は、比較的活性であることから、基材31の表面には、硬く厚い酸化皮膜が形成されやすいが、スズ層33は軟らかく、また表面に形成された薄い酸化皮膜を低い接触荷重で破ることができるため、端子接続部11の最表面にスズ層33を露出させておくことで、相手方のメス型端子との嵌合接続時に、電気的接触を、安定に、また確実に形成しやすくなる。また、基材31のアルミニウム合金の表面に形成された酸化膜は、基材31のはんだ濡れ性を低下させるものとなるが、スズ層33を基板接続部12の最表面に露出させておくことで、基板接続部12におけるはんだ濡れ性を確保し、はんだ付けによる回路基板のスルーホールとの間の電気的接続の形成を、安定に、また確実に行いやすくなる。スズ層33は、リフロー処理を施したものであることが好ましい。リフロー処理により、スズ層33の耐熱性を向上させることや、ウィスカの発生を抑制することができる。スズ層33は、端子接続部11および基板接続部12の表面にのみ設けても、オス型端子10の表面全体に設けてもよい。
【0032】
上記のように、基材31のアルミニウム合金の表面には硬く厚い酸化皮膜が形成されやすいため、めっき等によって直接スズ層33を表面に形成するのは困難であり、また基材31とスズ層33の間の密着性も低くなってしまう。そこで、基材31とスズ層33の間にニッケル層32を設けることで、ニッケルがスズとアルミニウムの双方と合金を形成することを利用して、基材31に対するスズ層33の密着性を向上させることができる。スズ層33を端子接続部11および基板接続部12の表面にのみ形成する場合に、ニッケル層32は、スズ層33を形成する領域だけに設けてもよいが、オス型端子10の表面全体に設けることが好ましい。これにより、オス型端子10の耐食性を向上させることができる。この場合に、スズ層33が形成されない領域においては、ニッケル層32が最表面に露出することになる。
【0033】
ニッケル層32およびスズ層33は、上記のような効果を十分に得る観点から、それぞれ0.3μm以上の厚さを有していること、また合計で1μm以上の厚さを有していることが好ましい。一方、被覆層を過剰に厚くしない観点から、ニッケル層32およびスズ層33の厚さは、それぞれ1.0μm以下、合計で3μm以下に抑えられていることが好ましい。
【0034】
[基材を構成するアルミニウム合金]
本実施形態にかかるオス型端子10を構成する基材31は、以下のようなアルミニウム合金よりなっている。
【0035】
(成分組成)
本アルミニウム合金は、4.0質量%以上、6.0質量%以下のMgを含有している。
【0036】
(1)Mgの添加
アルミニウムにMgを添加することで、アルミニウム合金がひずみを蓄積しやすくなり、加工硬化が効果的に起こる。また、アルミニウム合金の結晶粒が微細化されやすくなる。それらの結果、アルミニウム合金の強度や破断伸びを高めることができる。Mgの含有量を4.0質量%以上とすることで、オス型端子10に求められる高い室温強度を得ることができる。特に高い強度を得る観点から、Mgの含有量が4.5質量%以上であると、さらに好ましい。
【0037】
また、Mg原子は、アルミニウム合金において、移動転位の粘性抵抗として作用するため、高温における強度の低下を抑制するのにも寄与する。Mgの含有量が4.0質量%以上、さらには4.5質量%以上である場合には、200℃以上のような高温でも、高い強度を維持することが可能となる。
【0038】
一方、Mgの含有量が多くなりすぎると、アルミニウム合金の圧延性、つまり熱間圧延性および冷間圧延性が低下してしまう。本アルミニウム合金においては、Mgの含有量が、6.0質量%以下に抑えられていることで、圧延性が十分に高くなる。その結果、オス型端子10の製造性を確保し、製造コストを抑制することができる。特に高い製造性を確保する観点から、Mgの含有量が5.5質量%以下であると、さらに好ましい。
【0039】
アルミニウム合金は、添加元素としてMgのみを含有し、残部がAlと不可避的不純物よりなるものであっても、さらにMg以外の添加元素をMgに加えて含有するものであってもよい。Mg以外の添加元素としては、以下のようなものを例示することができる。
【0040】
(2)Mnの添加
アルミニウム合金は、Mgに加えて、Mnを含有することが好ましい。Mnをアルミニウム合金に添加することで、Al-Mn系の比較的大きな金属間化合物と、微細な析出物が生成しやすくなる。これらのうち、微細な析出物は、分散強化により、アルミニウム合金の強度や耐力を向上させるのに寄与する。また、ピン留め効果により、再結晶粒の粗大化を抑制することができる。分散強化や再結晶粒のピン留め効果を十分に得る観点から、アルミニウム合金におけるMnの含有量は、0.4質量%以上、さらには0.7質量%以上であることが好ましい。
【0041】
一方、大きなAl-Mn系金属間化合物が多数形成されると、曲げ加工時に割れの起点となりやすく、アルミニウム合金の曲げ加工性を低下させる可能性がある。そこで、曲げ加工時の割れを抑制する観点から、アルミニウム合金におけるMnの含有量は、1.8質量%以下、さらには1.5質量%以下であることが好ましい。
【0042】
(3)その他の添加元素
アルミニウム合金は、Mgに加えて、あるいはMgおよびMnに加えて、以下のような添加元素を、1種または2種以上含有してもよい。
・Fe≦0.2質量%
・Cr≦0.2質量%
・Zr≦0.2質量%
・Sc≦0.1質量%
・Si≦0.1質量%
・Zn≦0.1質量%
・Ti≦0.1質量%
・Cu≦0.1質量%
【0043】
上記の各元素を添加することで、結晶粒の微細化や、分散強化、析出強化の効果を得ることができる。それらの現象は、上記各元素を少量添加した場合でも効果的に起こるため、添加量の下限は特に設けられない。一方、各元素を、上記上限値を超えて添加すると、粗大な析出物や晶出物が生成しやすく、かえって結晶粒微細化や分散強化、析出強化の効果が得られにくくなるうえ、成形加工時に割れの起点となり、アルミニウム合金の成形性を低下させやすくなるので、各元素の添加量は、上記上限値の範囲内に抑えることが好ましい。
【0044】
また、室温および高温での強度の確保、微細な結晶粒の維持の観点から、MgとMnと、上記Fe,Cr,Zr,Sc,Si,Zn,Ti,Cuの各元素(元素Aとする)の合計添加量を、5.0%<[Mg]+[Mn]+[A]≦5.5%とすることが望ましい。Mnが含有されない場合も同様とすることが望ましい(5.0%<[Mg]+[A]≦5.5%)。
【0045】
本アルミニウム合金は、上記各特性に影響を与えない程度の不可避的不純物を含有してもよい。例えば、各種金属元素を、それぞれ0.05質量%未満、合計で0.1質量%未満程度であれば、含有していてもよい。
【0046】
(結晶組織)
本アルミニウム合金においては、平均結晶粒径が、10μm以下、さらには7μm以下であることが好ましい。結晶粒を微細化することで、アルミニウム合金の耐力と伸びの両方を向上させることができる。本アルミニウム合金において、平均結晶粒径を上記の値以下に小さくすることで、オス型端子10として求められる耐力、および室温および高温における強度を獲得しやすくなる。同時に、伸びを向上させることで、オス型端子10における曲げ加工等に必要な加工性を確保しやすくなる。
【0047】
平均結晶粒径の微細化は、上記所定の下限量以上のMgの含有をはじめ、アルミニウム合金の成分組成の制御によって、達成することができる。また、平均結晶粒径は、アルミニウム合金の製造条件にも依存し、例えば、アルミニウム合金の圧延時に、圧延率を高くすることでも、結晶粒を微細化することができる。
【0048】
結晶粒径が小さいほど、アルミニウム合金の耐力および伸びの向上の効果が、大きくなるため、平均結晶粒径の下限値は特に設けられない。しかし、工業的にアルミニウム合金を製造する際の実質的な平均結晶粒径の下限値は、5.0μm程度である。また、平均結晶粒径が5.0μm以上であれば、耐力を過剰に上昇させ、アルミニウム合金の加工性を低下させるようなことも、起こりにくい。
【0049】
アルミニウム合金における平均結晶粒径は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた組織観察によって、評価することができる。結晶粒の円相当径の平均値を、平均結晶粒径とすればよい。
【0050】
(物理的特性)
本アルミニウム合金は、以下のような物理的特性を有していることが好ましい。なお、本明細書において、各物性値は、特記しない限り、室温、大気中にて測定される値を指す。
【0051】
(1)0.2%耐力
0.2%耐力は、金属材料の強度の指標となる量であり、本アルミニウム合金は、290MPa以上の0.2%耐力を有している。それにより、オス型端子10としての使用に耐えられるだけの高い強度を有するものとなり、オス型端子10としての使用時に、折損等、基材31の損傷を回避しやすくなる。290MPa以上との0.2%耐力は、従来一般のオス型端子の基材として用いられてきた黄銅やコルソン合金と同等、あるいはそれに近接したものである。アルミニウム合金において、特に高い強度を得るために、0.2%耐力は、300MPa以上であるとさらに好ましい。
【0052】
一方、本アルミニウム合金の0.2%耐力は、330MPa以下に抑えられている。アルミニウム合金の耐力が大きくなりすぎると、成形が困難になる。特に、曲げ加工時に、せん断帯の形成によって、割れが発生しやすくなる。しかし、アルミニウム合金の0.2%耐力を330MPa以下に抑えておくことで、
図1に示した折り曲げ部14における曲げ加工等、オス型端子10を製造する際の加工において必要な加工性を、確保しやすくなる。後の実施例に示すように、90°の曲げを行った際にも、割れの発生を回避しやすい。なお、本発明の実施形態にかかる端子金具は、オス型端子に限られるものではないが、一般に、オス型端子は、メス型端子をはじめとして、種々の端子金具の中で、比較的単純な形状を有するものであるため、端子金具がオス型端子である場合には、0.2%耐力を330MPa以下としておくことで、割れ等の損傷を避けながら、所定の形状への加工を特に簡便に行うことができる。特に高い加工性を確保する観点から、0.2%耐力は、320MPa以下であるとさらに好ましい。
【0053】
このように、アルミニウム合金が、290MPa以上かつ330MPa以下の0.2%耐力を有することで、オス型端子10において、高い強度と加工性を両立することができる。0.2%耐力は、アルミニウム合金の成分組成に依存する。例えば、MgやMnの添加量を多くすることで、0.2%耐力を向上させることができる。また、Cr,Fe,Zr,Sc等を添加することでも、0.2%耐力を向上させやすくなる。
【0054】
0.2%耐力は、アルミニウム合金の製造時の条件によっても、調整することができる。例えば、冷間圧延における圧延率によって、0.2%耐力を調整することができる。後述するように、冷間圧延工程は、熱間圧延工程後に板状のアルミニウム合金を所定の最終板厚とするために行われるが、290MPa以上かつ330MPa以下の0.2%耐力を達成する観点から、加工硬化を効果的に得るとともに、結晶粒径を微細化するために、最終冷間圧延率を、30%以上、80%以下とすることが好ましい。最終冷間圧延率は、45%以上、また75%以下であると、より好ましい。なお、冷間圧延の前または途中、あるいはそれら両方において、中間焼鈍を行ってもよい。中間焼鈍の条件としては、300~400℃で1~5時間程度を例示することができる。
【0055】
アルミニウム合金の0.2%耐力、および次に述べる破断伸び、引張強さは、例えば、JIS Z 2241に準拠した引張試験によって、評価することができる。
【0056】
(2)破断伸び
アルミニウム合金が高い破断伸びを有しているほど、曲げ加工等の機械加工において、高い加工性を確保することができる。破断伸びは、10%以上であることが好ましい。すると、曲げに伴う割れ等の損傷を回避しながら、オス型端子10として必要な形状への加工を行いやすくなる。破断伸びは、12%以上であると、特に好ましい。破断伸びは高いほど好ましいため、下限値は特に設けられない。
【0057】
(3)引張強さ
金属材料において、引張強さは、材料の破断時までに印加される荷重を示す量である。一方、0.2%耐力は、弾性限において印加される荷重を示す量である。よって、引張強さと0.2%耐力の差が大きいほど、金属材料が高い伸びを示しやすく、曲げ加工等における加工性を高めやすい。この観点から、アルミニウム合金の引張強さと0.2%耐力の差(引張強さ-0.2%耐力)が、60MPa以上、さらには100MPa以上であることが好ましい。
【0058】
(4)高温強度
本アルミニウム合金は、上記のように、室温において、高い強度を有するが、Mgを所定量以上含有すること等の効果により、高温に加熱した状態でも、高い強度を維持しやすいものとなっている。例えば、200℃以上に加熱した状態でも、アルミニウム合金に変形が起こるのを、避けることができる。アルミニウム合金の高温強度は、結晶粒の微細化によっても、向上させることができる。
【0059】
アルミニウム合金が高い高温強度を有することで、オス型端子10の製造工程において、またオス型端子10の使用時において、オス型端子10を構成する基材31が加熱を受けても、オス型端子10の基材31が、変形等を起こしにくくなる。特に、上記のように、基材31の表面に、電気接続特性の向上やはんだ濡れ性の確保を目的として、スズ層33を形成する場合に、スズ層33に対してリフロー処理を行う観点から、アルミニウム合金が高い高温強度を有することが有利となる。
【0060】
スズ層33においては、耐熱性や耐ウィスカ性を向上させるために、スズの融点(232℃)以上でのリフロー処理が行うことが好ましい。この際、基材31のアルミニウム合金が十分な高温強度を有していないと、製造されるオス型端子10に、意図しない変形が生じる場合がある。従来一般に端子金具の基材として用いられていた銅や銅合金の場合には、融点が高いため、スズ層のリフロー処理程度の加熱では、変形が問題になることはほとんどないが、一般に、アルミニウム合金の融点は約600℃と低いため、リフロー処理の際のスズの融点以上での加熱によって、大幅に耐力が低下し、材料の変形が起こる可能性がある。例えば、材料の自重や、熱処理ライン内での搬送時に材料に印加される荷重によって、そのような変形が起こりやすい。しかし、本アルミニウム合金をオス型端子10の基材31として用いることで、所定量以上のMgを含有すること等の効果により、高い高温強度が得られ、リフロー処理等の加熱を経ても、基材31の変形が起こりにくくなる。
【0061】
[オス型端子の製造方法]
次に、本実施形態にかかるオス型端子10の製造方法について説明する。
【0062】
(アルミニウム合金の製造)
まず、基材31を構成するアルミニウム合金を製造する。アルミニウム合金は、以下の各工程によって製造することができる。
【0063】
(1)鋳造工程
本アルミニウム合金は、所定の成分組成を有する合金溶湯を調製し、鋳造することで、製造することができる。一般的な半連続鋳造法であるDC鋳造法(Direct Chill Casting)を好適に用いることができるが、鋳造法は特に限定されるものではなく、連続鋳造法であるロールキャスト法などを用いてもよい。鋳造によって得られた鋳塊に対して、適宜切削加工を行って、表面の不均一層を除去してもよい。
【0064】
(2)均質化処理工程
上記で得られた鋳塊に対して、均質化処理を行って、鋳塊内の偏析の解消を行うことが好ましい。均質化は、例えば400~560℃の雰囲気中で、0.5~24時間にわたって、鋳塊を保持することで、行うことができる。処理温度を400℃以上とすることで、均質化を十分に進行させやすい。一方、560℃以下とすることで、共晶溶融の発生による品質の劣化を防止しやすい。また、処理時間を0.5時間以上とすることで、偏析を十分に解消しやすい。一方、12時間以下とすることで、均質化効果の飽和を避けることができる。好ましくは、500℃以上の雰囲気中で、0.5~12時間の均質化処理を行うとよい。
【0065】
(3)熱間圧延工程
適宜均質化処理を行った材料に対して、熱間圧延処理を行うことで、組織の微細化と均一化を行うとともに、所定の板厚に成形することができる。熱間圧延処理の開始温度を、均質化処理を行ったのと同じ温度としても、均質化処理を熱間圧延処理の前の予備加熱として利用するようにしてもよい。
【0066】
熱間圧延の仕上げ温度は、250℃以上とすることが好ましい。250℃以上とすることで、アルミニウム合金の変形抵抗が小さく抑えられ、圧延を行いやすくなる。熱間圧延は通常、複数のパスで行われるが、最終パスの圧延率を、30%以上、好ましくは40%以上とするとよい。圧延率をそのように設定することで、最終パスを経て、均一にひずみが導入された組織が得られやすい。
【0067】
(4)冷間圧延工程
熱間圧延工程の後に、冷間圧延を行って、アルミニウム合金を、所定の最終的な板厚に圧延することができる。材料全体にひずみを導入して、再結晶粒を微細化するため、冷間圧延工程における最終冷間圧延率は、30%以上、80%以下とすることが好ましい。最終冷間圧延率は、45%以上、75%以下であると、さらに好ましい。最終冷間圧延率が30%未満であれば、ひずみが不均一になることや、再結晶粒の微細化が不純になることが起こりやすい。一方、最終冷間圧延率が80%を超えると、端子への成形加工時にひずみが局在化し、割れが発生しやすくなる。
【0068】
(5)中間焼鈍工程
さらに、冷間圧延工程の前、および/または冷間圧延工程の途中において、1回以上の中間焼鈍を行ってもよい。中間焼鈍により、組織の均一性を高めることができる。中間焼鈍は、300~400℃の温度で、1~5時間、材料を加熱することにより、行うことが好ましい。中間焼鈍を行うと、加工硬化は小さくなる。
【0069】
(オス型端子の製造)
次に、上記のようにして製造したアルミニウム合金の板材を基材31として、適宜、その表面に、ニッケル層32およびスズ層33等の被覆層を形成する。そして、プレス打ち抜き成形や、曲げ加工等による端子形状への成形等を行って、オス型端子10を製造することができる。
【0070】
(1)被覆層の形成
ニッケル層32とスズ層33の積層構造は、基材31の表面に、めっき等により、ニッケル層32を形成し、さらにその表面に、めっき等によりスズ層33を形成することで、作製することができる。上記のように、基材31の表面には厚い酸化皮膜が形成されやすいため、ニッケル層32を形成する際には、適宜、置換めっき法を利用するとよい。
【0071】
スズ層33をめっき等によって形成した後には、加熱を行い、スズ層33の耐熱性や耐ウィスカ性を向上させるために、リフロー処理を行うことが好ましい。リフロー処理は、スズの融点(232℃)以上の温度で加熱してスズ層33を溶融させた後、急冷凝固させることで、行うことができる。上記のように、基材31を構成するアルミニウム合金は、高温での強度に優れるため、リフロー処理を行っても、リフロー処理中や、その後の工程において、高温の状態にある基材31が、変形を起こしにくい。
【0072】
(2)端子形状への加工
上記のように適宜被覆層32,33を形成した基材31に対して、所定の端子形状へのプレス打ち抜き成形を行う。この際、大面積の板状の基材31に対して、ニッケル層32およびスズ層33よりなる被覆層を形成してから、打ち抜き成形を行っても、基材31に対して打ち抜き成形を行って端子形状を形成した後に、その端子形状となった基材31に対して、被覆層32,33の形成を行ってもよい。しかし、基材31に対して打ち抜き成形を行った後に、被覆層32,33の形成を行う方が好ましい。被覆層32,33を形成した板材に対して打ち抜き成形を行う場合には、打ち抜きによって露出した端面(切断面)において、被覆層32,33で被覆されずに基材31が露出した部位が生じ、スズ層33によるはんだ濡れ性の向上等の効果やニッケル層32による耐食性の向上等の効果が、それらの端面で得られなくなってしまうのに対し、基材31の打ち抜き成形を行った後で被覆層32,33を形成すれば、被覆層32,33で被覆されない端面を形成しない、あるいは低減することができるからである。
【0073】
例えば、多数のオス型端子10を製造する際に、大面積の基材31に対して、複数のオス型端子10が連結された形状に、プレス打ち抜き成形を行う。この際、複数のオス型端子10は、キャリア部によって、相互に連結され、相互につながった状態とされる。キャリア部は、オス型端子10の中で、端子接続部11において相手方端子と嵌合する部位、および基板接続部12においてはんだ付けが行われる部位を避けて設けることが好ましい。例えば、両接続部11,12の間を連結する連結部13に、小面積のキャリア部を設けることが好ましい。このように複数のオス型端子10がキャリア部において連結された状態に対して、めっき法等により、順次、ニッケル層32とスズ層33を形成し、さらに、必要に応じてリフロー処理を行えばよい。めっき処理およびリフロー処理は、製造コスト低減の観点から、バッチ処理ではなく連続処理によって行うことが好ましい。
【0074】
そして、複数のオス型端子10をキャリア部で相互に分断すればよい。この際、分断したキャリア部に相当する部位には、被覆層32,33に被覆されずに基材31が露出した端面が形成されることになるが、端面の露出を小面積に抑えることができる。また、端子接続部11において相手方端子と嵌合する部位や基板接続部12においてはんだ付けが行われる部位を避けてキャリア部を設けておくことで、端面における基材31の露出部が、両接続部11,12における電気接続特性やはんだ濡れ性に影響を与えることを避けられる。
【0075】
このように、複数のオス型端子10の端子形状が、小面積のキャリア部を介して連結された形状に、プレス打ち抜き成形を行ってから、めっき処理とリフロー処理を連続的に行う場合には、打ち抜き成形を行う前の基材31に対してめっき処理とリフロー処理を行う場合と比較して、リフロー処理後の高温の基材31において、自重や搬送時に印加される荷重による変形が、問題となりやすい。特に、小面積のキャリア部の断面に、応力が集中しやすいため、高温における基材31の変形は、キャリア部において発生しやすい。
【0076】
しかし、上記のようなアルミニウム合金よりなる基材31は、高い高温強度を有するため、リフロー処理が行われる200℃以上の温度でも、変形を起こしにくい。その結果、複数の端子形状がキャリア部を介して結合された材料に対して、スズ層33のリフロー処理等による加熱を行って、基材31が高温になった状態で、搬送等を行っても、キャリア部をはじめとして、オス型端子10の各部において、変形が起こりにくくなる。よって、リフロー処理等の加熱を伴う場合にも、所定の形状からの変形が抑制されたオス型端子10の製造を、効率的に行うことができる。
【0077】
リフロー処理後に、キャリア部にてオス型端子10を1つずつ分断した後、折り曲げ部14における曲げ加工等を行えばよい。オス型端子10をコネクタハウジング20で保持して基板コネクタ1とする場合には、コネクタハウジング20にオス型端子10を挿入してから、曲げ加工による折り曲げ部14の形成を行えばよい。
【実施例】
【0078】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0079】
[試験方法]
(1)試料の作製
表1に示した各成分元素を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金を、厚さ(t)が0.6mmの板材として作製し、実施例1~6および比較例1~5にかかる試料とした。アルミニウム合金の製造は、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延を経て行ったが、冷間圧延における最終圧延率、および中間焼鈍(300℃×1時間)の有無は、表1に示したとおり、試料ごとに選択した。なお、0.6mmとの板厚は、
図1に示したような基板接続用のオス型端子において代表的に用いられる板厚を想定している。
【0080】
(2)物理的特性の評価
各アルミニウム合金に対して、室温、大気中にて、JIS Z 2241に準拠した引張試験を行い、応力-ひずみ曲線から、0.2%耐力、引張強さ、破断伸びをそれぞれ評価した。
【0081】
(3)結晶粒径の評価
各アルミニウム合金に対して、板面をSEMによって観察した。そして、平均結晶粒径を見積もった。観察と粒径の計測および平均値の算出は、250μm×250μmの視野において行った。
【0082】
(4)曲げ加工性の評価
各アルミニウム合金に対して、曲げ試験を行った。曲げ試験においては、板材に対して、圧延直角方向(TD方向)に、90°の曲げを加えた。そして、曲げを加えた部位に対して目視観察と断面観察を行い、曲げの外側に割れが発生しているかどうかを評価した。内側の曲げ半径(内R)を0.2mmとした場合(R/t=0.33)の曲げで、割れが発生しなかったものを、曲げ加工性に優れる(◎)と判定した。内Rを0.2mmとした曲げでは割れが発生したが、内Rを0.3mmとした曲げ(R/t=0.5)では割れが発生しなかったものを、曲げ加工性が高い(○)と判定した。内Rを0.3mmとした曲げでも割れが発生したものを、曲げ加工性が低い(×)と判定した。
【0083】
(5)高温強度の評価
各アルミニウム合金に対して、スズのリフロー処理を模した加熱を行い、高温強度を評価した。つまり、複数の端子形状がキャリア部を介して連結された形状に成形し、それぞれ厚さ1μmのニッケル層とスズ層をこの順に形成したアルミニウム合金材を、320℃の還元雰囲気中にて20秒間保持した。加熱中、アルミニウム合金材は、キャリア部に荷重(50N以上、150N以下)を印加した状態で、空中で水平に保持した。そして、加熱後のアルミニウム合金を目視にて観察し、変形が生じていないものを、高温強度が高い(○)と判定した。一方、変形が生じているものを、高温強度が低い(×)と評価した。
【0084】
[結果]
表1に、実施例1~6および比較例1~5にかかるアルミニウム合金の成分組成と、製造工程における中間焼鈍の有無および最終冷間圧延率、各評価の結果を示す。なお、比較例4においては、板材の製造時に圧延が行えなかったため、評価用の板状の試料を作製できず、各評価を行っていない。
【0085】
【0086】
表1の結果によると、実施例1~6にかかるアルミニウム合金は、いずれも、4.0質量%以上、6.0質量%以下のMgを含有している。また、290MPa以上、330MPa以下の0.2%耐力を有している。0.2%耐力が290MPa以上であることにより、アルミニウム合金が、室温において、端子金具として求められる高い強度を有するものであることが示される。一方、0.2%耐力が330MPa以上であることにより、アルミニウム合金の加工性が確保されることが示され、そのことは、曲げ加工性の試験結果において、高い加工性が確認されていることと、対応している。
【0087】
また、いずれの実施例においても、10%以上の破断伸びと、10μm以下の平均結晶粒径が得られている。引張強さについては、0.2%耐力との差が、60MPa以上となっている。これらも、高い曲げ加工性と対応している。さらに、いずれの実施例においても、スズのリフロー処理を模した加熱を受けても変形しないだけの高い高温強度を有することが、確認されている。
【0088】
一方、各比較例においては、4.0質量%以上、6.0質量%以下のMg含有量、および290MPa以上、330MPa以下の0.2%耐力のいずれか少なくとも一方を満たしていない。
【0089】
比較例1,3においては、Mgの含有量が4.0質量%よりも少なくなっている。その結果、平均結晶粒径が15μm以上に大きくなっている。そして、平均結晶粒径が大きくなっていることと対応して、アルミニウム合金の0.2%耐力が、290MPaに達していない。各実施例と比較して、破断伸びも小さくなっており、そのことと対応して、十分な曲げ加工性が得られていない。さらに、Mgの含有量が少ないことで、アルミニウム合金の高温強度も低くなってしまっている。なお、比較例1,3の成分組成は、それぞれ、JIS A5025およびA5454に相当するものである。
【0090】
比較例2においては、アルミニウム合金が、4.0質量%以上、6.0質量%以下のMgを含有しているが、0.2%耐力が290MPaに達しておらず、端子金具として必要な強度が得られていない。これは、Mgの含有量が、4.5質量%と、上記範囲の中で比較的少ないことに加え、結晶粒微細化および分散強化に効果を有するMnを多く含有する訳ではないため、また、中間焼鈍を行っていることや、冷間圧延の最終圧延率が低いことに起因して、加工硬化が小さいためであると考えられる。実際に、平均結晶粒径が、19μmと大きくなっている。平均結晶粒径が大きいことに対応して、アルミニウム合金の曲げ加工性および高温強度も低くなってしまっている。
【0091】
比較例4においては、Mgの含有量が6.0質量%を超えて多くなっている。その結果、アルミニウム合金の圧延性が、圧延不可能な水準にまで、低くなっている。
【0092】
比較例5においては、アルミニウム合金が、4.0質量%以上、6.0質量%以下のMgを含有しているが、0.2%耐力が330MPaを超えて高くなっている。これは、冷間圧延の最終圧延率が高いことに起因して、大きな加工硬化が起こっていることによる。その結果、端子金具として十分な強度が、低温および高温で得られるものの、端子金具の加工に求められる曲げ加工性が得られていない。実施例3では、比較例5と近接した成分組成を有しているが、最終圧延率を比較的小さく抑えているうえ、中間焼鈍を行っていることにより、過剰な加工硬化が起こっておらず、0.2%耐力が330MPa以下に抑えられている。
【0093】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 基板コネクタ
10 オス型端子(端子金具)
11 端子接続部
12 基板接続部
13 連結部
14 折り曲げ部
20 コネクタハウジング
31 基材
32 ニッケル層
33 スズ層