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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】生体成分付着抑制材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20220125BHJP
   A61M 1/16 20060101ALI20220125BHJP
   A61M 1/18 20060101ALI20220125BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20220125BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20220125BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20220125BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
A61L31/04 110
A61M1/16 101
A61M1/18 500
A61L29/04 100
A61L27/16
A61L27/44
A61L27/50 300
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017541718
(86)(22)【出願日】2017-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2017027493
(87)【国際公開番号】W WO2018025772
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2016154761
(32)【優先日】2016-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鵜城 俊
(72)【発明者】
【氏名】林 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】上野 良之
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0127390(US,A1)
【文献】国際公開第2000/005335(WO,A1)
【文献】特表2015-535303(JP,A)
【文献】特表2013-517058(JP,A)
【文献】国際公開第2013/015046(WO,A1)
【文献】特開2014-042913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61M 1/00- 1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体成分と接触する面に飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が固定された機能層を備える基材からなり、
前記高分子は、共重合体であり、
前記共重合体において飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルと共重合されるモノマーが、ビニルピロリドンモノマー、又はビニルアセトアミドモノマーであり、
前記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットにおける飽和脂肪族モノカルボン酸が、1つのカルボキシ基と、該カルボキシ基の炭素原子に結合した飽和脂肪族炭化水素基とからなり、
前記飽和脂肪族炭化水素基が、炭素原子と水素原子のみから構成され、
前記機能層の表面をTOF-SIMS装置で組成分析した際に検出される飽和脂肪族モノカルボン酸のイオンシグナルの脂肪族鎖炭素数は、2~であり、
前記機能層の表面をXPS測定した際、エステル基由来のピークが存在する、生体成分付着抑制材料。
【請求項2】
前記共重合体は、親水性モノマーが共重合された共重合体である、請求項1記載の生体成分付着抑制材料。
【請求項3】
前記飽和脂肪族モノカルボン酸のイオンシグナルは、飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルを含有する共重合体由来であり、抗血栓性を有する、請求項1又は2記載の生体成分付着抑制材料。
【請求項4】
前記機能層の表面をXPS測定した際、炭素由来の全ピーク面積を100(原子数%)とした場合のエステル基由来の炭素ピークの面積百分率は、0.5~25(原子数%)である、請求項1~のいずれか一項記載の生体成分付着抑制材料。
【請求項5】
前記機能層の表面をATR-IR測定した際、1711~1751cm-1の範囲と1549~1620cm-1の範囲の双方にピークが存在し、前記1549~1620cm -1 の範囲に存在するピークは、ポリスルホン系高分子の芳香族基由来であり、前記1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=Oと前記1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率(AC=O/AC=C)の平均値は、0.01~1.0である、請求項1~のいずれか一項記載の生体成分付着抑制材料。
【請求項6】
前記機能層の表面をATR-IR測定した際、1617~1710cm-1の範囲にピークが存在し、前記1617~1710cm -1 の範囲に存在するピークは、ビニルピロリドンユニット、又はビニルアセトアミドユニットを含有する親水性ポリマーのアミド結合由来である、請求項記載の生体成分付着抑制材料。
【請求項7】
血液浄化用である、請求項1~のいずれか一項記載の生体成分付着抑制材料。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項記載の生体成分付着抑制材料を備える、血液浄化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体成分付着抑制材料、及びそれを備える血液浄化器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の医療材料は、生体成分にとって異物として認識され、血小板やタンパク質の付着、さらには生体反応を惹起し、深刻な問題となっていた。また、従来の人工腎臓用モジュール等の血液浄化器では、血小板やタンパク質が血液浄化器中の材料表面に付着することによって、分画性能や透水性能の低下が起こっていた。特に、急性腎不全の治療に用いられる持続緩徐式血液浄化器では、1日ないし数日間もの連続使用が必要とされる。そのため、血小板やタンパク質の付着を抑制し、長時間の使用に耐えうる仕様にすることが重要である。
【0003】
また、医療材料以外についても、例えば、抗体精製等に用いられる分離用材料においては、抗体の分離材料表面への付着により、回収率が低下することが課題である。かかる問題に対して、これまで、医療材料の表面を親水化することによる解決が試みられており、様々な検討がなされている。
【0004】
特許文献1には、親水性高分子であるポリビニルピロリドンを、製膜原液の段階で混合させて成形することで、膜に親水性を与え、汚れを抑制したポリスルホン系高分子が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ポリビニルピロリドン等の親水性高分子溶液と接触させた後、放射線架橋により不溶化した被膜層を形成させたポリスルホン系高分子の分離膜が開示されている。
【0006】
特許文献3及び4には、ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体を表面に固定したポリスルホン系高分子の分離膜が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献5には、脂溶性ビタミンとポリ(2-ヒドロキシアルキルメタクリラート)を表面に固定したポリスルホン系高分子の分離膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公平2-18695号公報
【文献】特開平6-238139号公報
【文献】特開2010-104984号公報
【文献】特開2011-173115号公報
【文献】国際公開2013/015046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、ポリビニルピロリドン等の親水性高分子と、疎水性高分子であるポリスルホン系高分子の相互作用が弱いために、被膜層を形成させることが困難であった。そのため、この方法で表面に親水性を付与するためには、製膜原液中の親水性高分子を多く用いる必要があることや、基材となる高分子と相溶性のある親水性高分子に限定する必要がある。
【0010】
一方、特許文献3及び4に記載の方法では、酢酸ビニルユニットが疎水性の基材と相互作用することで、共重合体の導入効率が高まり、効率的に親水化することができるが、市販高分子であるビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体を使用しており、血小板やタンパク質の付着を抑制するのに適した構造設計がまったく検討されていない。実際、本発明者が特許文献3及び4に記載の方法に基づいて医療材料を作製したところ、当該医療材料は、長時間、血液等と接触すると血小板やタンパク質が付着することがわかった。
【0011】
特許文献5に記載の方法は、抗酸化性能の向上を目的としており、抗血栓性については評価されていない。さらに、医療材料の表面を親水化する際には、高分子の配置や固定化等の表面設計が重要であるが、その点についてはまったく記載されていない。
【0012】
そこで本発明は、血液等と接触しても血小板やタンパク質の付着を抑制可能な生体成分付着抑制材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
血液等に含まれるタンパク質は疎水性表面に付着しやすいため、医療材料の接触表面全体が親水性を有していることが重要とされている。これは、材料表面にタンパク質が接近することにより、タンパク質の高次構造が変化して、タンパク質内部にある疎水性部位が露出し、かかる疎水性部位が材料表面と疎水性相互作用することが原因と考えられる。
【0014】
一方で、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコールのような親水性高分子で医療材料の接触表面を被覆した場合、タンパク質等の付着は抑制できないことが分かっている。これは、医療材料の接触表面の親水性が強すぎると、タンパク質の構造が不安定化するために、タンパク質の付着を充分に抑制することができないためと考えられる。
【0015】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を進めた結果、血小板やタンパク質の付着が大きく抑制され、長時間血液等と接触しても使用可能となる、以下の生体成分付着抑制材料及び当該生体成分付着抑制材料を用いた血液浄化器を見出した。
(1)生体成分と接触する面に飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が固定された機能層を備える基材からなり、前記機能層の表面をTOF-SIMS装置で組成分析した際に検出される飽和脂肪族モノカルボン酸のイオンシグナルの脂肪族鎖炭素数は、2~20であり、前記機能層の表面をXPS測定した際、エステル基由来のピークが存在する、生体成分付着抑制材料。
(2)前記飽和脂肪族モノカルボン酸のイオンシグナルは、飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステル単独重合体又は飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルを含有する共重合体由来であり、抗血栓性を有する、上記(1)記載の生体成分付着抑制材料。
(3)前記飽和脂肪族モノカルボン酸のイオンシグナルの脂肪族鎖炭素数は、2~9である、上記(1)又は(2)記載の生体成分付着抑制材料。
(4)前記機能層の表面をXPS測定した際、炭素由来の全ピーク面積を100(原子数%)とした場合のエステル基由来の炭素ピークの面積百分率は、0.5~25(原子数%)である、上記(1)~(3)のいずれか一項記載の生体成分付着抑制材料。
(5)前記機能層の表面をATR-IR測定した際、1711~1751cm-1の範囲と1549~1620cm-1の範囲の双方にピークが存在し、前記1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=Oと前記1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率(AC=O/AC=C)の平均値は、0.01~1.0である、上記(1)~(4)のいずれか一項記載の生体成分付着抑制材料。
(6)前記1549~1620cm-1の範囲に存在するピークは、ポリスルホン系高分子の芳香族基由来である、上記(5)記載の生体成分付着抑制材料。
(7)前記機能層の表面をATR-IR測定した際、1617~1710cm-1の範囲にピークが存在する、上記(5)又は(6)記載の生体成分付着抑制材料。
(8)前記1617~1710cm-1の範囲に存在するピークは、ビニルピロリドンユニット、ビニルカプロラクタムユニット、ビニルアセトアミドユニット又はアクリルアミドユニットを含有する親水性ポリマーのアミド結合由来である、上記(7)記載の生体成分付着抑制材料。
(9)血液浄化用である、上記(1)~(8)のいずれか一項記載の生体成分付着抑制材料。
(10)上記(1)~(9)のいずれか一項記載の生体成分付着抑制材料を備える、血液浄化器。
【発明の効果】
【0016】
本発明の生体成分付着抑制材料は、血小板やタンパク質の付着を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明の生体成分付着抑制材料は、生体成分と接触する面に飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が固定された機能層を備える基材からなり、上記機能層の表面を飛行時間型二次イオン質量分析(以下、TOF-SIMSという場合がある)装置で組成分析した際に検出される飽和脂肪族モノカルボン酸のイオンシグナルの脂肪族鎖炭素数は、2~20であり、上記機能層の表面をXPS測定した際、エステル基由来のピークが存在する。
【0019】
「飽和脂肪族モノカルボン酸」とは、1つのカルボキシ基と、当該カルボキシ基の炭素原子に結合した飽和脂肪族炭化水素基とからなる物質を意味し、例えば、酢酸、プロパン酸、酪酸等が挙げられる。
【0020】
「飽和脂肪族」とは、炭素-炭素間の結合が全て単結合からなり、芳香族基のような多重結合を含まないことを意味する。
【0021】
「脂肪族鎖炭素数」とは、カルボン酸のカルボキシ基の炭素原子に結合している飽和脂肪族炭化水素基の炭素数を意味する。例えば、脂肪族鎖炭素数1とは酢酸のことを、脂肪族鎖炭素数2とはプロパン酸のことを指す。上記脂肪族鎖炭素数が少ないと飽和脂肪族モノカルボン酸の運動性が乏しく、タンパク質や血小板が付着しやすくなってしまう。一方で、上記脂肪族鎖炭素数が多いと飽和脂肪族モノカルボン酸の疎水性が高くなり、血小板やタンパク質との疎水性相互作用が大きくなる。その結果、血小板やタンパク質が付着してしまう。したがって、本発明の生体成分付着抑制材料において、前記飽和脂肪族モノカルボン酸のイオンシグナルの脂肪族鎖炭素数は、2~20であり、好ましくは2~9であり、より好ましくは2~5である。
【0022】
上記飽和脂肪族炭化水素基は、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の直鎖構造のみならずイソプロピル基やターシャリーブチル基のような分岐構造や、シクロプロピル基、シクロブチル基のような環状構造、さらには、脂肪族鎖内にエーテル結合やエステル結合などを含んでいてもよい。ただし、末端にスルホン酸基やカルボキシ基等のアニオン性官能基を有する構造は除く。これは、脂肪族鎖末端のアニオン性官能基は、血小板やタンパク質の構造を不安定化させ、生体成分付着抑制材料表面への付着を誘起するばかりでなく、ブラジキニン活性化、補体活性化等好ましくない生体反応を誘発するためである。カルボン酸の製造コストの観点から、上記飽和脂肪族炭化水素基は、直鎖構造又は分岐構造が好ましく、直鎖構造がより好ましい。さらには、カルボン酸の入手容易性および重合の簡便性の観点から、上記飽和脂肪族炭化水素基は、炭素原子と水素原子のみから構成されることが好ましい。
【0023】
「生体成分」とは、糖、タンパク質、血小板など生物由来の物質を意味する。好ましくは、血液、涙液、髄液など体液に含まれる物質であり、中でも抗血栓性を有する生体成分付着抑制材料としては、血液に含まれる物質が対象として好ましい。
【0024】
「飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子」とは、飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステル単独重合体又は飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルを含有する共重合体を意味する。さらに、材料の生体成分付着抑制の観点から、飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルを含有する共重合体が好ましい。なお、枝部分が、飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニット、幹部分がその他のユニットからなるグラフト共重合体等を含む。
【0025】
「固定」とは、高分子を基材と化学的または物理的に結合させることを意味し、その方法としては、例えば、放射線照射による架橋固定が挙げられる。
【0026】
「機能層」とは、血液等の生体成分と接触する層を意味する。人工腎臓用中空糸膜を例に挙げると、血液が流れる中空糸膜内側が機能層となる。
【0027】
「基材」とは、生体成分付着抑制材料を構成する成分のうち、体積含有量がもっとも高いものをいう。
【0028】
「生体成分付着抑制材料」とは、生体成分の材料表面への付着が抑制される材料を意味する。当該材料が使用される製品としては、体内埋め込み又は体外循環で使用される医療材料、糖タンパクや抗体の精製に使用される分離用材料、体液中の成分の濃度等を測定する分析用材料等が挙げられる。生体成分付着抑制材料は、基材を少なくとも材料の一部として含む材料を意味し、基材単独及び適当な補強材に基材が固定化又は混合されたものを含む。
【0029】
「抗血栓性」とは、生体成分の中でもタンパク質や血小板の付着が抑制されることを意味する。
【0030】
「医療材料」とは、主には血液や体液に含まれる生体成分と接触して使用されるものを意味し、例えば、平膜、中空糸膜やチューブが挙げられる。そして、当該医療材料が使用される製品としては、例えば、分離膜を内蔵した、人工腎臓モジュール若しくは血漿分離器に代表される血液浄化器、血液回路、血液保存バッグ、カテーテル、ステント又はコンタクトレンズ等が挙げられる。
【0031】
本発明の生体成分付着抑制材料は、抗血栓性を有することが好ましい。かかる場合、本発明の生体成分付着抑制材料は、特に血液や体液に含まれるタンパク質や血小板の付着抑制に優れていることから抗血栓性医療材料であることが好ましい。
【0032】
本発明の生体成分付着抑制材料において、前記飽和脂肪族モノカルボン酸のイオンシグナルは、飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステル単独重合体又は飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルを含有する共重合体由来であることが好ましい。すなわち、上記飽和脂肪族モノカルボン酸は生体成分付着抑制材料の機能層の表面においては、エステル結合を形成し、飽和脂肪族モノカルボン酸エステルとして存在していることが好ましい。カルボキシ基は、親水性が高く、血小板やタンパク質の構造を不安定化させてしまう。一方で、エステル基は親水性も疎水性も大きすぎないため、血小板やタンパク質の付着を誘起しにくい。本発明の生体成分付着抑制材料において、前記飽和脂肪族モノカルボン酸のイオンシグナルは、飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステル単独重合体又は飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルを含有する共重合体由来であり、抗血栓性を有することが好ましい。
【0033】
上記TOF-SIMS装置による組成分析とX線電子分光法(XPS)測定を組み合わせることにより、上記飽和脂肪族モノカルボン酸エステルの、最表面10nm程度の配置について、解析可能である。
【0034】
まず、TOF-SIMS装置による組成分析によって、上記飽和脂肪族モノカルボン酸エステルのカルボン酸イオン由来のピークが検出されるため、その質量(m/z)を分析することによって、カルボン酸の構造が明らかとなる。TOF-SIMS装置による組成分析では、超高真空中においた試料表面にパルス化されたイオン(1次イオン)が照射され、試料表面から放出されたイオン(2次イオン)は一定の運動エネルギーを得て飛行時間型の質量分析計へ導かれる。同じエネルギーで加速された2次イオンのそれぞれは、質量に応じた速度で分析計を通過するが、検出器までの距離は一定であるため、そこに到達するまでの時間(飛行時間)は質量の関数となり、この飛行時間の分布を精密に計測することによって2次イオンの質量分布、すなわち質量スペクトルが得られる。
【0035】
例えば、1次イオン種としてBi ++を用い、2次負イオンを検出する場合、m/z=59.02のピークは、C 、すなわち、酢酸(脂肪族鎖炭素数:1)に相当する。また、m/z=73.04のピークは、C 、すなわち、プロパン酸(脂肪族鎖炭素数:2)に相当する。
【0036】
TOF-SIMS装置による組成分析の条件は、以下の通りである。
【0037】
測定領域を200μm×200μmとし、1次イオン加速電圧を30kV、パルス幅を5.9nmとする。本分析手法における検出深さは数nm以下である。この際、総2次イオン強度に対するカルボン酸イオン強度が0.4%以下の場合は、ノイズと判断し、カルボン酸イオンは存在しないとする。
【0038】
さらに、XPS測定において、エステル基(COO)由来の炭素のピークがCHxやC-Cのメインピーク(285eV付近)から+4.0~4.2eVに現れるため、上記カルボン酸がエステル結合を形成していることがわかる。XPSの測定角としては90°で測った値を用いる。測定角90°で測定した場合、表面からの深さが約10nmまでの領域が検出される。この際、炭素由来の全ピーク面積に対するエステル基由来のピーク面積の割合が0.4%以下の場合は、ノイズと判断し、エステル基は存在しないとする。
【0039】
上記二つの結果を合わせることで、機能層の表面、すなわち、生体成分と接触する面に飽和脂肪族モノカルボン酸エステルが配置されているか否かが明らかとなる。
【0040】
生体成分付着抑制材料の機能層の表面の飽和脂肪族モノカルボン酸エステル量は、X線電子分光法(XPS)を用いて、エステル基由来の炭素量を測定することによって求めることができる。本発明の生体成分付着抑制材料において、前記機能層の表面をXPS測定した際、炭素由来の全ピーク面積を100(原子数%)とした場合のエステル基由来の炭素ピークの面積百分率は、0.5~25(原子数%)であることが好ましい。タンパク質や血小板の付着を抑制する効果を発揮するためには、前記エステル基由来の炭素ピークの面積百分率が、0.5(原子数%)以上が好ましく、1.0(原子数%)以上がより好ましく、1.5(原子数%)以上がさらに好ましい。一方で使用する生体成分付着抑制材料の種類にもよるが、飽和脂肪族モノカルボン酸エステル量が多すぎると、生体成分付着抑制材料本来の性能が低下することが見られる。例えば、人工腎臓等の血液浄化器では、高分子量が多すぎると分離性能が低下するため、エステル基由来の炭素ピーク面積百分率は、25(原子数%)以下が好ましく、20(原子数%)以下がより好ましく、10(原子数%)以下がさらに好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
【0041】
XPS測定の際は、生体成分付着抑制材料の機能層の表面の異なる2箇所について測定を行い、該2箇所の値の平均値を用いる。エステル基(COO)由来の炭素のピークは、C1sのCHやC-C由来のメインピークから+4.0~4.2eVに現れるピークをピーク分割することによって求めることができる。炭素由来の全ピーク面積に対するエステル基由来のピーク面積の割合を算出することで、エステル基由来の炭素量(原子数%)が求まる。より具体的には、C1sのピークは、主にCHx,C-C,C=C,C-S由来の成分、主にC-O,C-N由来の成分、π-π*サテライト由来の成分、C=O由来の成分、COO由来の成分の5つの成分から構成される。以上の5つの成分にピーク分割を行う。COO由来の成分は、CHxやC-Cのメインピーク(285eV付近)から+4.0~4.2eVに現れるピークである。この各成分のピーク面積比は、小数第2位を四捨五入し、算出する。
【0042】
ここで、上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子は、化学反応や架橋反応により基材に固定されていることが好ましい。生体成分付着抑制材料表面に血液などの生体成分が接触した場合、上記高分子が溶出することを防ぐためである。
【0043】
上記飽和脂肪族モノカルボン酸エステルを固定する方法としては、特に限定されないが、例えば、基材とカルボン酸を混合し、成形時に縮合させる方法や、基材をカルボン酸又はカルボン酸エステル含有溶液に浸漬し、放射線照射や熱に起因する反応により、結合させる方法が挙げられる。特に、上記脂肪族鎖炭素数が2以上20以下の飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子を用いる方法は、生体成分付着抑制材料への導入効率が良く、また、機能層の表面に配置しやすいことから、好適に用いられる。
【0044】
ここで、「ユニット」とは、モノマーを重合して得られる単独重合体又は共重合体中の繰り返し単位を指す。例えば、カルボン酸ビニルエステルユニットとは、カルボン酸ビニルエステルモノマーを重合して得られる単独重合体中の繰り返し単位又はカルボン酸ビニルモノマーを共重合して得られる共重合体中のカルボン酸ビニルエステルモノマー由来の繰り返し単位を指す。
【0045】
例えば、人工血管等に使用されるポリエチレンテレフタレートの平膜に高分子の水溶液を浸漬し、放射線照射を行うことにより、高分子が架橋固定化される。血小板の付着を抑制する観点から、上記高分子の水溶液の濃度は、0.01ppm以上であることが好ましく、0.1ppm以上であることがより好ましい。血小板の付着数は4.3×10μm面積あたり20個以下であることが好ましく、10個以下であることがより好ましい。血小板付着数の測定は後述する方法により行うことができる。また、血液回路の場合は、回路を構成するチューブ等における、主に血液等が接触する内表面に高分子を固定して用いることが好ましい。カテーテル、ステント等においても、主に血液等が接触する(金属)材料の表面に高分子を固定することが考えられる。
【0046】
さらに、上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子を基材表面に固定する方法としては、化学反応による共有結合を利用してもよい。例えば、基材表面のヒドロキシ基やカルボキシ基、アミノ基、スルホン酸基、ハロゲン化アルキル基等の反応性基と、高分子の主鎖の末端や側鎖に導入された反応性基とを反応させることによって達成される。
【0047】
基材表面に、反応性基を導入する方法としては、反応性基を有するモノマーを重合して表面に反応性基を有する基材を得る方法や、重合後、オゾン処理、プラズマ処理によって反応性基を導入する方法等が挙げられる。
【0048】
上記高分子の主鎖の末端に反応性基を導入する方法としては、例えば、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]や4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)のような反応性基を有する開始剤を使用する方法等が挙げられる。
【0049】
上記高分子の側鎖に反応性基を導入する方法としては、高分子の作用・機能を阻害しない程度において、メタクリル酸グリシジルやメタクリル酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステルのような反応性基を有するモノマーを共重合する方法等が挙げられる。
【0050】
上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子の数平均分子量は、小さすぎると、生体成分付着抑制材料の表面へ固定した場合に効果が十分発揮されない場合があり、血小板やタンパク質の付着が抑制されにくくなる場合があることから、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましい。一方、高分子の数平均分子量の上限については特に制限はないが、数平均分子量が大きすぎると生体成分付着抑制材料表面への導入効率が低下する場合があることから、1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましい。なお、単独重合体又は共重合体の数平均分子量は、後述のとおり、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。
【0051】
飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステル単独重合体の具体例としては、ポリプロパン酸ビニル、ポリピバル酸ビニル、ポリデカン酸ビニル、ポリメトキシ酢酸ビニル等が挙げられるが、疎水性が強すぎないことから、ポリプロパン酸ビニル(脂肪族鎖炭素数:2)、ポリ酪酸ビニル(脂肪族鎖炭素数:3)、ポリペンタン酸ビニル(脂肪族鎖炭素数:4)、ポリピバル酸ビニル(脂肪族鎖炭素数:4)、ポリヘキサン酸ビニル(脂肪族鎖炭素数:5)が好ましい。
【0052】
上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルと共重合させるモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸アルキル系モノマー、アクリル酸アルキル系モノマー、スチレン系モノマー等に代表される疎水性モノマーや、ビニルアルコールモノマー、アクリロイルモルホリンモノマー、ビニルピリジン系モノマー、ビニルイミダゾール系モノマー、ビニルピロリドンモノマー等に代表される親水性モノマーが挙げられる。この際、共重合体全体の親水性を制御する点から、親水性モノマーを共重合することが望ましい。中でも、カルボキシ基、スルホン酸基を有するモノマーに比べて、親水性が強すぎず、疎水性モノマーとのバランスが取りやすいことから、アミド結合、エーテル結合、エステル結合を有するモノマーが好ましい。特に、アミド結合を有するビニルアセトアミドモノマー、ビニルピロリドンモノマーやビニルカプロラクタムモノマーがより好ましい。このうち、ビニルピロリドンモノマーが、重合体の毒性が低いことから、さらに好ましい。カルボン酸ビニルエステルを含有する共重合体としては、例えば、ビニルアルコール/ペンタン酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0053】
ここで、「親水性モノマー」とは、それ単独の重合体が水に易溶であるモノマーと定義する。ここで、水に易溶とは、20℃の純水100gに対する溶解度が1gを超えることをいい、10g以上が好ましい。
【0054】
生体成分付着抑制材料の生体成分付着抑制の観点から、上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルを含有する共重合体全体における上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルのモル分率は、10%以上90%以下が好ましく、20%以上80%以下がより好ましい。上記モル分率が多すぎると、共重合体全体の疎水性が大きくなり、タンパク質や血小板が付着しやすくなる。一方で、上記モル分率が少なすぎると、共重合体全体の親水性が大きくなり、血小板やタンパク質の構造不安定化・変性が誘起され、付着に至ることがある。なお、上記モル分率の算出方法は、例えば、核磁気共鳴(NMR)測定を行い、ピーク面積から算出する。ピーク同士が重なる等の理由でNMR測定による上記モル分率の算出ができない場合は、元素分析により上記モル分率を算出してもよい。
【0055】
なお、上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルを含有する高分子の作用・機能を阻害しない程度において、他のモノマー、例えば、ヒドロキシ基やカルボキシ基、グリシジル基のような反応性基を含有するモノマーが共重合されていてもよい。
【0056】
上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルを含有する共重合体におけるユニットの配列としては、例えば、ブロック共重合体、交互共重合体又はランダム共重合体等が挙げられる。これらのうち、共重合体全体で親水性・疎水性の分布が小さいという点から、交互共重合体又はランダム共重合体が好ましい。なかでも、合成が煩雑でないという点から、ランダム共重合体がより好ましい。なお、少なくともモノマー配列の一部が秩序無く並んだ共重合体はランダム共重合体とする。
【0057】
上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子は、例えば、アゾ系開始剤を用いたラジカル重合法に代表される連鎖重合法により合成できるが、合成法はこれに限られるものではない。
【0058】
上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子は、例えば、以下の製造方法により製造されるが、この方法に限られるものではない。
【0059】
飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルモノマーと、重合溶媒及び重合開始剤とを混合し、窒素雰囲気下で所定温度にて所定時間、攪拌しながら混合し、重合反応させる。必要に応じて、親水性モノマー、疎水性モノマーとともに共重合させる。反応液を室温まで冷却して重合反応を停止し、ヘキサン等の溶媒に投入する。析出した沈殿物を回収し、減圧乾燥することで、カルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子を得ることができる。
【0060】
上記重合反応の反応温度は、30~150℃が好ましく、50~100℃がより好ましく、70~80℃がさらに好ましい。
【0061】
上記重合反応の圧力は、常圧であることが好ましい。
【0062】
上記重合反応の反応時間は、反応温度等の条件に応じて適宜選択されるが、1時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましく、5時間以上がさらに好ましい。反応時間が短いと、高分子に大量の未反応モノマーが残存しやすくなる場合がある。一方、反応時間は24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましい。反応時間が長くなると、二量体の生成等副反応が起こりやすくなり、分子量の制御が困難になる場合がある。
【0063】
上記重合反応に用いる重合溶媒は、モノマーと相溶する溶媒であれば特に限定はされず、例えば、ジオキサン若しくはテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、ベンゼン若しくはトルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アミルアルコール若しくはヘキサノール等のアルコール系溶媒又は水等が用いられるが、毒性の点から、アルコール系溶媒又は水を用いることが好ましい。
【0064】
上記重合反応の重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤や熱重合開始剤が用いられる。ラジカル、カチオン、アニオンいずれを発生する重合開始剤を用いてもよいが、モノマーの分解を起こさないという点から、ラジカル重合開始剤が好適に使用される。ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル若しくはアゾビス(イソ酪酸)ジメチル等のアゾ系開始剤又は過酸化水素、過酸化ベンゾイル、ジ-tert-ブチルペルオキシド若しくはジクミルペルオキシド等の過酸化物開始剤が使用される。
【0065】
重合反応停止後、重合反応溶液を投入する溶媒としては、高分子が沈殿する溶媒であれば特に限定はされず、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン若しくはデカン等の炭化水素系溶媒又はジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル若しくはジフェニルエーテル等のエーテル系溶媒が用いられる。
【0066】
本発明における基材となる高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリスルホン系高分子、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル又はポリエステル等が挙げられる。中でも、生体成分付着抑制材料に十分な強度を持たせる観点から、基材となる高分子には芳香族基を有することが好ましい。特に、ポリスルホン系高分子は、平膜や中空糸膜を形成させやすく、また、上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子をコーティングしやすいため好適に用いられる。
【0067】
上記生体成分付着抑制材料の機能層の表面の飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子の固定化量は、全反射赤外分光法(ATR-IR)によっても定量可能である。なお、ATR-IRでは表面から深さ数マイクロメートルまでの組成分析の測定が可能である。
【0068】
上記生体成分付着抑制材料の機能層の表面に飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が含まれる場合、1711~1751cm-1の範囲にエステル基C=O由来の赤外吸収ピークが表れる。また、基材が芳香族基を有する高分子からなる場合、1549~1620cm-1の範囲に芳香族基C=C由来の赤外吸収ピークが表れる。本発明の生体成分付着抑制材料において、前記1549~1620cm-1の範囲に存在するピークは、ポリスルホン系高分子の芳香族基由来であることが好ましい。ポリスルホン系高分子が好ましい理由については、後述のとおりである。
【0069】
ATR-IRで飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子の表面固定化量を定量する際には、1711~1751cm-1のエステル基C=O由来の赤外吸収ピーク面積(AC=O)の、1549~1620cm-1の芳香族基C=C由来の赤外吸収ピーク面積(AC=C)に対する比率(AC=O/AC=C)を同一の生体成分付着抑制材料の機能層の表面における任意の3箇所で測定し、その平均値を高分子の表面固定化量とする。
【0070】
本発明の生体成分付着抑制材料において、前記機能層の表面をATR-IR測定した際、1711~1751cm-1の範囲と1549~1620cm-1の範囲の双方にピークが存在し、前記1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=Oと前記1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率(AC=O/AC=C)の平均値は、0.01~1.0であることが好ましい。生体成分付着抑制材料へのタンパク質や血小板の付着を十分に抑制するためには、飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子の表面固定化量、つまり、(AC=O/AC=C)の平均値が、0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.03以上であることがさらに好ましい。飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子の表面固定化量の上限については、特に制限はないが、高分子の表面固定化量が多すぎると、溶出物が多くなる場合があるので、1.0以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。ただし、上記表面固定化量が0.005以下である場合は、ノイズと判断し、カルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子は存在しないとする。
【0071】
上記芳香族基を有する高分子としては、ポリスルホン系高分子、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド等が挙げられる。このうち、ポリスルホン系高分子は、平膜や中空糸膜を形成させやすく、また、上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子をコーティングしやすいため好適に用いられる。なお、上記方法は、基材が芳香族基を有する高分子である場合の定量方法であるが、基材が異なる素材からなる場合は、別のピークを適宜選択し、算出すればよい。
【0072】
上記芳香族基を有する基材は、一般的に疎水性が高いため、親水性ポリマーを含有させることがある。
【0073】
上記親水性ポリマーは、親水性が極度に高くないことから、アミド結合を含有することが好ましい。
【0074】
アミド結合を含有する親水性ポリマーとしては、例えば、ビニルカプロラクタム、ビニルピロリドン、ビニルアセトアミド、アクリルアミド又はそれらの誘導体を(共)重合して得られる親水性ポリマーが挙げられる。このうち、ポリスルホン系高分子など芳香族基を有する高分子との成形性・紡糸性が良く、中空糸膜を形成させる際には造孔剤の役割も果たすことから、ビニルピロリドンを重合して得られる親水性ポリマーが好適に用いられる。
【0075】
ここで、「親水性ポリマー」とは、水に易溶である重合体と定義する。ここで、水に易溶とは、20℃の純水100gに対する溶解度が1gを超えることをいい、10g以上が好ましい。
【0076】
生体成分付着抑制材料の表面にアミド結合を含有する親水性ポリマーが存在することは、ATR-IR測定において1617~1710cm-1の範囲にピークが観測されることで確認可能である。すなわち、本発明の生体成分付着抑制材料において、前記機能層の表面をATR-IR測定した際、1617~1710cm-1の範囲にピークが存在することが好ましい。また、本発明の生体成分付着抑制材料において、前記1617~1710cm-1の範囲に存在するピークは、ビニルピロリドンユニット、ビニルカプロラクタムユニット、ビニルアセトアミドユニット又はアクリルアミドユニットを含有する親水性ポリマーのアミド結合由来であることが好ましい。1617~1710cm-1の範囲にピークが存在すること、すなわち、アミド結合を含有することや、アミド結合が上記各ユニット由来であることが好ましい理由については上述のとおりである。
【0077】
生体成分付着抑制材料の表面のアミド結合を含有する親水性ポリマーの存在量は、アミド結合由来のピーク面積(AN-C=O)と芳香族基のピーク面積(AC=C)との比率(AN-C=O/AC=C)を同一の生体成分付着抑制材料の機能層の表面における任意の3箇所で測定し、その平均値を親水性ポリマーの存在量とする。親水性ポリマーの存在量、つまり、(AN-C=O/AC=C)の平均値は、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。また、上限は特に設けないが、親水性ユニットが多すぎると、生体成分付着抑制材料の表面からの溶出物が多くなることがあるため、親水性ポリマーの存在量(AN-C=O/AC=C)の平均値は、50以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。ただし、(AN-C=O/AC=C)の平均値が0.005以下である場合は、ノイズと判断し、アミド結合を含有する親水性ポリマーは存在しないとする。
【0078】
また、本発明の血液浄化器は、本発明の生体成分付着抑制材料を備える。
【0079】
例えば、生体成分付着抑制材料の一形態である分離膜を形成する一成分として、血液成分の付着を抑制するために膜の表面(特に、血液と接触させることが多い内表面)に上記高分子を固定して、かかる分離膜をケーシングに内蔵してなる分離膜モジュールとしてもよい。分離膜の形態としては、血液浄化の効率の観点から中空糸膜が好ましい。
【0080】
「血液浄化用途」とは、血液中の老廃物や有害物質を取り除くことを目的に使用されることを意味する。
【0081】
「血液浄化器」とは、血液を体外に循環させて、血液中の老廃物や有害物質を取り除くことを目的とする医療材料を少なくとも一部に有する製品のことをいい、例えば、人工腎臓用モジュールや外毒素吸着カラム等が挙げられる。
【0082】
血液浄化器は、慢性腎不全の治療に用いられる人工腎臓モジュールであれば約4時間、急性腎不全の治療に用いられる持続緩徐式血液濾過器であれば1日ないし数日間と、長時間血液に接触した状態で使用される。このため、血小板やタンパク質の付着により、分画性能や透水性能の低下が生じる。さらに、人工腎臓モジュールや持続緩徐式血液濾過器は、血液中の老廃物や有害物質を取り除くことを目的に、中空糸膜の内側から外側へ濾過がかけられるため、血小板やタンパク質の付着が特に起こりやすい。
【0083】
「分離膜」とは、血液や水溶液等の処理する液体に含まれる特定の物質を、吸着又は物質の大きさ等により、選択的に除去する膜を意味する。上記分離膜の製造方法としては、例えば、膜を形成した後に高分子をコーティングする方法が好ましく、高分子を溶液(好ましくは水溶液)として膜の表面に接触させる方法が用いられる。より具体的には、高分子の溶液を所定流量で流す方法、上記溶液に膜を浸漬させる方法が挙げられる。その他、膜を形成する原液に高分子を添加して、紡糸する方法において、意図的に高分子が膜表面に集まるように条件設定する方法も挙げられる。
【0084】
上記分離膜の主原料は、ポリスルホン系高分子であることが好ましい。ここで、「ポリスルホン系高分子」とは、主鎖に芳香環、スルフォニル基及びエーテル基を有する高分子であり、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン等が挙げられる。ここで、「主原料」とは、ポリスルホン系高分子全体に対して90重量%以上含まれる原料を意味する。
【0085】
上記分離膜の主原料として、例えば、次式(1)及び/又は(2)の化学式で示されるポリスルホン系高分子が好適に使用されるが、これらに限定されるものではない。式中のnは、1以上の整数であり、30~100が好ましく、50~80がより好ましい。なお、nが分布を有する場合は、その平均値をnとする。
【0086】
【化1】
【0087】
[式中、nは、1以上の整数を表す。]
上記分離膜モジュールに用いることができるポリスルホン系高分子は、上記式(1)及び/又は(2)で表される繰り返し単位のみからなる高分子が好適ではあるが、本発明の効果を妨げない範囲で上記式(1)及び/又は(2)で表される繰り返し単位に由来するモノマー以外の他のモノマーと共重合した共重合体や、変性体であってもよい。上記の他のモノマーと共重合した共重合体における上記の他のモノマーの共重合比率は、ポリスルホン系高分子全体に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0088】
上記分離膜モジュールに用いることができるポリスルホン系高分子としては、例えば、ユーデルポリスルホンP-1700、P-3500(ソルベイ社製)、ウルトラゾーン(登録商標)S3010、S6010(BASF社製)、ビクトレックス(住友化学株式会社製)、レーデル(登録商標)A(ソルベイ社製)又はウルトラゾーン(登録商標)E(BASF社製)等のポリスルホン系高分子が挙げられる。
【0089】
上記分離膜モジュールを製造する方法としては、その用途により種々の方法があるが、その一態様としては、分離膜の製造工程と、当該分離膜をモジュールに組み込む工程とにわけることができる。分離膜モジュールの製造において、放射線照射による処理は、分離膜をモジュールに組み込む工程の前に行ってもよいし、分離膜をモジュールに組み込む工程の後に行ってもよい。本発明における分離膜モジュールが医療用である場合、モジュールに組み込む工程の後に、放射線照射による処理としてγ線照射による処理を行うことは、滅菌も同時に行うことができる点で好ましい。
【0090】
血液浄化器に用いられる中空糸膜モジュールの製造方法についての一例を示す。
【0091】
血液浄化器に内蔵される中空糸膜の製造方法としては、例えば、次の方法がある。すなわち、ポリスルホンとポリビニルピロリドン(重量比率20:1~1:5が好ましく、5:1~1:1がより好ましい)をポリスルホンの良溶媒(N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン又はジオキサン等が好ましい)及び貧溶媒(水、エタノール、メタノール又はグリセリン等が好ましい)の混合溶液に溶解させた原液(濃度は、10~30重量%が好ましく、15~25重量%がより好ましい)を二重環状口金から吐出する際に内側に注入液を流し、乾式部を走行させた後凝固浴へ導く。この際、乾式部の湿度が影響を与えるために、乾式部走行中に膜外表面からの水分補給によって、外表面近傍での相分離挙動を速め、孔径拡大し、結果として透析の際の透過・拡散抵抗を減らすことも可能である。ただし、相対湿度が高すぎると外表面での原液凝固が支配的になり、かえって孔径が小さくなり、結果として透析の際の透過・拡散抵抗を増大する傾向がある。そのため、相対湿度としては60~90%が好適である。また、注入液組成としてはプロセス適性から原液に用いた溶媒を基本とする組成からなるものを用いることが好ましい。注入液濃度としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミドを用いたときは、45~80重量%が好適に用いられ、60~75重量%の水溶液がより好適に用いられる。
【0092】
ここで、良溶媒とは、20℃において、対象とする高分子が10重量%以上溶解する溶媒のことを意味する。貧溶媒とは、20℃において、対象とする高分子が10重量%未満溶解する溶媒のことを意味する。
【0093】
中空糸膜をモジュールに内蔵する方法としては、特に限定されないが、例えば、次の方法がある。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0094】
中空糸膜の主原料に用いられるポリスルホン系高分子は、総じて疎水性が強いことから、そのまま中空糸膜として用いるとタンパク質等の有機物が付着しやすくなる。そこで、上記カルボン酸エステルユニットを含有する高分子を機能層の表面に固定した中空糸膜が好適に用いられる。特に、機能層の表面の親水性を向上させる観点から、上記親水性ユニットを共重合したカルボン酸エステルユニットを含有する高分子が好適に用いられる。機能層の表面への高分子の導入方法としては、例えば、高分子を溶解した溶液をモジュール内の中空糸膜に接触させる方法や、中空糸膜紡糸の際に、高分子を含んだ注入液を中空糸膜内側に接触させる方法が挙げられる。
【0095】
上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子を溶解した水溶液をモジュール内の中空糸膜に通液させ、表面へ導入する場合、水溶液の高分子の濃度が小さすぎると十分な量の高分子が表面に導入されない。よって、上記水溶液中の高分子濃度は10ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、300ppm以上がさらに好ましい。ただし、水溶液の高分子の濃度が大きすぎると、モジュールからの溶出物の増加が懸念されるため、上記水溶液中の高分子濃度は100,000ppm以下が好ましく、10,000ppm以下がより好ましい。
【0096】
なお、上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が水に所定の濃度溶解しない場合は、中空糸膜を溶解しない有機溶媒、又は、水と相溶し、かつ中空糸膜を溶解しない有機溶媒と水との混合溶媒に高分子を溶解させてもよい。上記有機溶媒又は混合溶媒に用いうる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール又はプロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
また、上記混合溶媒中の有機溶媒の割合が多くなると、中空糸膜が膨潤し、強度が低下する場合がある。したがって、上記混合溶媒中の有機溶媒の重量分率は60%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0098】
さらに、中空糸膜全体の親水性を向上させる観点から、ポリスルホン系高分子と親水性ユニットを含有する高分子を混合させ、紡糸することが好ましい。
【0099】
上記生体成分付着抑制材料は、導入したカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が使用時に溶出するのを防ぐため、高分子を表面に導入後、放射線照射や熱処理を行い不溶化し、固定することが好ましい。
【0100】
上記放射線照射にはα線、β線、γ線、X線、紫外線又は電子線等を用いることができる。ここで、人工腎臓等の血液浄化器では出荷前に滅菌することが義務づけられており、その滅菌には近年、残留毒性の少なさや簡便さの点から、γ線や電子線を用いた放射線滅菌法が多用されている。したがって、医療用分離膜モジュール内の中空糸膜に本発明に用いられる高分子を溶解した水溶液を接触させた状態で放射線滅菌法を用いることは、滅菌と同時に該高分子の不溶化も達成できるため好ましい。
【0101】
上記生体成分付着抑制材料において、中空糸膜の滅菌と改質を同時に行う場合、放射線の照射線量は15kGy以上が好ましく、25kGy以上がより好ましい。血液浄化用モジュール等をγ線で滅菌するには15kGy以上が効果的なためである。また、上記照射線量は100kGy以下が好ましい。照射線量が100kGyを超えると、高分子が3次元架橋やカルボン酸ビニルエステルユニットのエステル基部分の分解等を起こしやすくなり、血液適合性が低下する場合があるためである。
【0102】
放射線を照射する際の架橋反応を抑制するため、抗酸化剤を用いてもよい。抗酸化剤とは、他の分子に電子を与えやすい性質を持つ物質のことを意味し、例えば、ビタミンC等の水溶性ビタミン類、ポリフェノール類又はメタノール、エタノール若しくはプロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの抗酸化剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。抗酸化剤を上記医療用分離膜モジュールに用いる場合、安全性を考慮する必要があるため、エタノールやプロパノール等、毒性の低い抗酸化剤が好適に用いられる。
【0103】
人工腎臓用モジュール等の血液浄化器では、タンパク質や血小板が付着することによって、分画性能や透水性能が低下するのみならず、血液凝固が原因で中空糸膜内部に血液が流通できなくなり、体外循環を続けられなくなることがある。血小板やタンパク質の中空糸膜内部への付着は、特に血液に接してから60分以内に顕著に起こることから、血液を60分間循環させた後の中空糸膜内表面へのフィブリノーゲン相対付着量を測定することで、その性能を評価することができる。
【0104】
血液凝固や血液成分の活性化は、フィブリノーゲンの生体成分付着抑制材料表面への付着を起点として、開始するとされており、すなわち、フィブリノーゲンの付着量が少ないほど、抗血栓性の高い生体成分付着抑制材料ということができる。
【0105】
本発明において、中空糸膜のフィブリノーゲンの付着量は後述の方法により、測定できる。フィブリノーゲンの付着量は、血液によるバラつきが生じないようにするため、コントロールとして東レ社製人工腎臓“トレライト”CXの中空糸膜の測定も同時に行い、その相対付着率として、算出を行う。
【0106】
本発明において、抗血栓性を有するとは、フィブリノーゲンの相対付着量が90%以下であることをいい、好ましくは55%以下である。生体成分付着抑制材料のフィブリノーゲンの相対付着量は、血液凝固、血液成分の活性化を抑制する観点から、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。
【0107】
一方で、本発明の生体成分付着抑制材料は、分離用材料や分析用材料にも使用できる。分離用材料としては、例えば、抗体精製用分離膜が挙げられる。抗体精製用分離膜は、血清、腹水や細胞培養液からIgG、IgM、IgA、IgD、IgEといった抗体を精製するため、その他のタンパク質などの不純物を除去する目的で使用されるが、抗体が分離膜表面に付着することにより、回収率が低下してしまうことが課題である。本発明の生体成分付着抑制材料を使用することにより、回収率の低下を抑制することができる。例えば、IgGを精製する場合、分離膜の使用方法にもよるが、コストの観点から回収率は50%以上好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。
【0108】
また、分析用材料としては、例えば、血糖値センサーが挙げられる。血糖値センサーでは、血清などの体液中のグルコース濃度を測定するが、体液中のタンパク質のセンサー素子表面への付着により、グルコースを認識できず、感度が低下してしまうことが課題である。本発明の生体成分付着抑制材料を使用することにより、感度の低下を抑制することができる。
【実施例
【0109】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
<評価方法>
(1)数平均分子量
水/メタノール=50/50(体積比)の0.1N LiNO溶液を調製し、GPC展開溶液とした。この溶液2mlに、高分子2mgを溶解させた。この高分子溶液100μLを、カラム(東ソーGMPWXL)を接続したGPCに注入した。流速0.5mL/minとし、測定時間は30分間であった。検出は示差屈折率検出器RID-10A(島津製作所社製)により行い、溶出時間15分付近にあらわれる高分子由来のピークから、数平均分子量を算出した。数平均分子量は、十の位を四捨五入して算出した。検量線作成には、Agilent社製ポリエチレンオキシド標準サンプル(0.1kD~1258kD)を用いた。
(2)カルボン酸ビニルエステルユニットのモル分率
共重合体2mgをクロロホルム-D、99.7%(和光純薬0.05V/V%TMS有)2mlに溶解し、NMRサンプルチューブに入れ、NMR測定(超伝導FTNMREX-270:JEOL社製)を行った。温度は室温とし、積算回数は32回とした。この測定結果から、2.7~4.3ppm間に認められるビニルピロリドンの窒素原子に隣接した炭素原子に結合したプロトン(3H)由来のピークとベースラインで囲まれた領域の面積:3APVPと、4.3~5.2ppm間に認められるカルボン酸ビニルエステルのα位の炭素に結合したプロトン(1H)由来のピークとベースラインで囲まれた領域の面積:AVCから、AVC/(APVP+AVC)×100の値を算出し、カルボン酸ビニルエステルユニットのモル分率とした。なお、本方法はビニルピロリドンとカルボン酸ビニルエステルとの共重合体においてモル分率を測定する場合の例であり、他のモノマーの組み合わせからなる共重合体の場合は適宜、適切なプロトン由来のピークを選択してモル分率を求める。モル分率は、一の位を四捨五入して算出した。
(3)TOF-SIMS測定
中空糸膜の場合は、片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の機能層の表面(内側表面)の異なる箇所を3点測定した。平膜等、中空糸膜以外の場合も、必要に応じて機能層表面を露出させ、機能層の表面の異なる箇所を3点測定した。測定サンプルは、超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させた後、測定に供した。測定装置、条件は、以下の通りである。
測定装置:TOF.SIMS 5(ION-TOF社製)
1次イオン:Bi ++
1次イオン加速電圧: 30kV
パルス幅: 5.9ns
2次イオン極性:負
スキャン数: 64 scan/cycle
Cycle Time: 140μs
測定範囲:200×200μm
質量範囲(m/z): 0~1500
得られた質量m/zのスペクトルから、カルボン酸イオンの生体成分付着抑制材料表面における存在の有無を確かめた。ただし、総2次イオン強度に対するカルボン酸イオン強度が0.4%以下の場合は、ノイズと判断し、カルボン酸は存在しないとする。
(4)X線電子分光法(XPS)測定
中空糸膜の場合は、片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の機能層の表面(内側表面)の異なる箇所を2点測定した。平膜等、中空糸膜以外の場合も、必要に応じて機能層表面を露出させ、機能層の表面の異なる箇所を2点測定した。測定サンプルは、超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させた後、測定に供した。測定装置、条件は、以下の通りである。
【0110】
測定装置: ESCALAB220iXL(VG社製)
励起X線: monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6eV)
X線径: 0.15mm
光電子脱出角度: 90°(試料表面に対する検出器の傾き)
C1sのピークは、主にCHx,C-C,C=C,C-S由来の成分、主にC-O,CN由来の成分、π-π*サテライト由来の成分、C=O由来の成分、COO由来の成分の5つの成分から構成される。以上の5つ成分にピーク分割を行う。COO由来の成分は、CHxやC-Cのメインピーク(285eV付近)から+4.0~4.2eVに現れるピークである。この各成分のピーク面積比を、小数第2位を四捨五入し、算出した。なお、ピーク分割の結果、ピーク面積百分率が0.4%以下であれば、検出限界以下とした。
(5)ATR-IR測定
中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させ、表面測定用の試料とした。平膜等、中空糸膜以外の場合も、必要に応じて機能層表面を露出させ、超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させ、表面測定用の試料とした。この乾燥試料の機能層の表面を、JASCO社製IRT-3000を用いて顕微ATR法により測定した。測定は視野(アパーチャ)を100μm×100μmとし、測定範囲は3μm×3μmで積算回数を30回測定した。得られたスペクトルの波長1549~1620cm-1で基準線を引き、その基準線とスペクトルの正の部分で囲まれた部分をポリスルホン由来芳香族基C=C由来のピーク面積を(AC=C)とした。同様に1711~1751cm-1で基準線を引き、その基準線とスペクトルの正部分で囲まれた部分をエステル基由来のピーク面積を(AC=O)とした。ただし、カルボン酸ビニルエステルユニットの種類やポリスルホン系高分子の種類によって、ピークが±10cm-1程度シフトすることがありうるので、その場合は適宜、基準線を引きなおす。
上記操作を同一中空糸膜の異なる3箇所を測定し、(AC=O/AC=C)の平均値を算出し、小数第3位を四捨五入した値を用いた。
また、1617~1710cm-1のピークで基準線を引き、その基準線とスペクトルの正部分で囲まれた部分をエステル基由来のピーク面積を(AN-C=O)とした。上記操作を同一中空糸膜の異なる3箇所を測定し、(AN-C=O/AC=C)の平均を算出し、小数第3位を四捨五入した値を用いた。
(6)平膜の血小板付着試験方法
18mmφのポリスチレン製の円形板に両面テープを貼り付け、そこに0.5cm四方に切り取った平膜を固定した。平膜表面に汚れや傷、折り目等があると、その部分に血小板が付着し、正しい評価ができないことがあるので、汚れ、傷、折り目のない平膜を用いた。筒状に切ったFalcon(登録商標)チューブ(18mmφ、No.2051)に該円形板を、平膜を貼り付けた面が、円筒内部にくるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。この円筒管内を生理食塩水で洗浄後、生理食塩水で満たした。ヒトの静脈血を採血後、直ちにヘパリンを50U/mlになるように添加した。上記円筒管内の生理食塩水を廃棄後、上記血液を、採血後10分以内に、円筒管内に1.0ml入れて37℃にて1時間振盪させた。その後、平膜を10mlの生理食塩水で洗浄し、2.5%グルタルアルデヒド生理食塩水で血液成分の固定を行い、20mlの蒸留水にて洗浄した。洗浄した平膜を20℃、0.5Torrにて10時間減圧乾燥した。この平膜を走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた。その後、スパッタリングにより、Pt-Pdの薄膜を平膜表面に形成させて、試料とした。この平膜の表面をフィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(日立社製S800)にて、倍率1500倍で試料の内表面を観察し、1視野中(4.3×103μm2)の付着血小板数を数えた。50個以上付着している場合は、血小板付着抑制効果が無いものとして、付着数は50個とした。平膜中央付近で、異なる20視野での付着血小板数の平均値を血小板付着数(個/4.3×103μm2)とした。なお、視野面積が異なる電子顕微鏡を用いる場合は、適宜、血小板付着数(個/4.3×103μm2)となるように換算すればよい。
(7)フィブリノーゲンの相対付着量測定
ACD―A液15%添加ヒト新鮮血液4mLを流速1mL/minで、中空糸膜モジュールに1時間循環させた。リン酸緩衝溶液(PBS)を通液して20分間洗浄した後、ミニモジュールから中空糸を10cm相当切り出し、約2mm長に細切しエッペンチューブに入れた。PBSにて洗浄した(1mL×3回、血液が残っている場合には繰り返した)。トゥイーン-20(片山化学)をPBSで0.05重量%になるように調整した(以下、PBS-Tと略記)。スキムミルクを0.1重量%になるように、PBS-Tに溶解させ、該溶液で3回洗浄した。抗ヒトフィブリノーゲン(HPR)抗体を0.1重量%のスキムミルク/PBS-T溶液で10000倍に希釈し、1mL添加した後、室温にて2時間ローテーターで回転、撹拌させた。0.1重量%のスキムミルク/PBS-T溶液で2回洗浄した後、0.1重量%のスキムミルク/PBS溶液で2回洗浄した。TMBonesolutionを1mL添加し、ミクロミキサーで撹拌した。発色具合をみて6Nの塩酸を200μL添加し、反応停止した(後述のコントロールの吸光度が1~1.5の範囲に入るように反応を制御する)。450nmの吸光度を吸光度測定装置:マイクロプレートリーダーMPR-A4i(東ソー社製)により測定した。コントロール(“トレライト”CX)の吸光度(Ac)と対象サンプルの吸光度(As)から、フィブリノーゲンの相対付着量を下記式により求めた。
フィブリノーゲンの相対付着量(%)=As/Ac×100
なお、中空糸膜以外のフィブリノーゲンの相対付着量測定を行う場合には、血液中への浸漬等の方法により、サンプルの機能層にヒト新鮮血4mLを1時間接触させ、リン酸緩衝溶液(PBS)を用いてサンプルを洗浄する。その後、中空糸膜と同様に吸光度を測定し、フィブリノーゲンの相対付着量を算出する。コントロールには機能層に飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が固定化する前の材料を用いる。
(8)抗体精製モデル試験方法
IgG(ヒト血清由来、オリエンタル酵母工業)100mgを添加したヒト血漿10mLを準備し、抗体精製用分離膜モジュールに流速3mL/min、濾過流速1.5mL/min、PBSの補液流速1.5mL/minで1時間循環した。PBS5mLで分離膜内表面を洗浄し、その液を循環後の血漿に加え、回収液とした。IgGの回収率を(回収液に含まれるIgGの重量)/(はじめの血漿中に含まれるIgGの重量)×100%で算出した。IgGの重量は、ELISAキット(フナコシ社製)を用いてIgG濃度を測定し、液量の値をかけることにより算出した。
【0111】
<中空糸膜モジュールの製造方法>
ポリスルホン(テイジンアモコ社製ユーデルP-3500)18重量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)9重量部をN,N-ジメチルアセトアミド72重量部、水1重量部に加え、90℃で14時間加熱溶解した。この製膜原液を外径0.3mm、内径0.2mmのオリフィス型二重円筒型口金より吐出し芯液としてN,N-ジメチルアセトアミド57.5重量部、水42.5重量部からなる溶液を吐出させ、乾式長350mmを通過した後、水100%の凝固浴に導き中空糸膜を得た。得られた中空糸膜の径は内径200μm、膜厚40μmであった。プラスチック管に中空糸膜を50本通し、両端を接着剤で固定した有効長100mmのプラスチック管ミニモジュールを作製した。上記高分子を溶解した水溶液を、上記ミニモジュールの血液側入口から透析液側入口に通液させた。さらに、0.1重量%エタノール水溶液を、上記中空糸膜モジュールの血液側入口から透析液側入口及び血液側入口から血液側出口へ通液後、25kGyのγ線を照射して中空糸膜モジュールとした。
(実施例1)
ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体を以下の方法で作製した。ビニルピロリドンモノマー(和光純薬工業)16.2g、ヘキサン酸ビニルモノマー(東京化成工業)20.8g、重合溶媒としてイソプロパノール(和光純薬工業)56g、重合開始剤としてアゾビスジメチルブチロニトリル0.35gを混合し、窒素雰囲気下、70℃にて8時間撹拌した。反応液を室温まで冷却して、濃縮後、濃縮残渣をヘキサンに投入した。析出した白色沈殿物を回収し、50℃で12時間減圧乾燥を行い、ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体25.0gを得た。H―NMRの測定結果から、ヘキサン酸ビニルユニットのモル分率は40%であった。GPCの測定結果から、数平均分子量が2,200であった。
【0112】
作製した上記ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体300ppmを溶解した1.0重量%エタノール水溶液を、上記中空糸膜モジュールの製造方法により作製した中空糸膜モジュールの血液側入口から透析液側入口に通液させた。さらに、0.1重量%エタノール水溶液を、上記中空糸膜モジュールの血液側入口から透析液側入口及び血液側入口から血液側出口へ通液後、25kGyのγ線を照射して中空糸膜モジュールを作製した。
【0113】
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面にヘキサン酸エステルが存在することが確認された。また、ATR-IRの測定結果から、1711~1751cm-1、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在することがわかった。ATR-IRの測定結果から、中空糸膜内表面の共重合体固定化量(1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=O、1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率AC=O/AC=Cの平均値)は0.03であることがわかった。作製した中空糸膜モジュールのフィブリノーゲン相対付着量測定を行った。その結果、表1に示すとおり、相対付着量は12%であった。
(実施例2)
中空糸膜モジュール作製時の共重合体の濃度を300ppmから500ppmに変更した以外は、実施例1と同様の手段により中空糸膜モジュールを作製した。
【0114】
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面にヘキサン酸エステルが存在することが確認された。また、ATR-IRの測定結果から、1711~1751cm-1、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在することがわかった。ATR-IRの測定結果から、中空糸膜内表面の共重合体固定化量(1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=O、1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率AC=O/AC=Cの平均値)は0.08であることがわかった。作製した中空糸膜モジュールのフィブリノーゲン相対付着量測定を行った。その結果、表1に示すとおり、相対付着量は7%であった。
(実施例3)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体を以下の方法で作製した。ビニルピロリドンモノマー19.5g、プロパン酸ビニルモノマー17.5g、重合溶媒としてt-アミルアルコール56g、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.175gを混合し、窒素雰囲気下、70℃にて6時間撹拌した。反応液を室温まで冷却して反応を停止し、濃縮後、ヘキサンに投入した。析出した白色沈殿物を回収し、減圧乾燥して、共重合体21.0gを得た。
【0115】
H―NMRの測定結果から、プロパン酸ビニルユニットのモル分率は40%であった。また、GPCの測定結果から、数平均分子量が16,500であった。
【0116】
ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体の代わりにビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体を用いた以外は、実施例1と同様の手段により、中空糸膜モジュールを作製した。
【0117】
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面にプロパン酸エステルが存在することが確認された。また、ATR-IRの測定結果から、1711~1751cm-1、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在することがわかった。中空糸膜内表面の共重合体固定化量(1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=O、1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率AC=O/AC=Cの平均値)は0.06であった。作製した中空糸膜モジュールのフィブリノーゲン相対付着量測定を行った。その結果、表1に示すとおり、相対付着量は5%であった。
(実施例4)
ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体の代わりにビニルピロリドン/吉草酸ビニルランダム共重合体(吉草酸ビニルユニットのモル分率40%、数平均分子量3,900)を用いた以外は、実施例1と同様の手段により中空糸膜モジュールを作製した。
【0118】
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面に吉草酸エステルが存在することが確認された。また、ATR-IRの測定結果から、1711~1751cm-1、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在することがわかった。中空糸膜内表面の共重合体固定化量(1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=O、1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率AC=O/AC=Cの平均値)は0.02であった。作製した中空糸膜モジュールのフィブリノーゲン相対付着量測定を行った結果、表1に示すとおり、相対付着量は25%であった。
(実施例5)
ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体300ppmの代わりにビニルアセトアミド/ピバル酸ビニルランダム共重合体100ppm(ピバル酸ビニルユニットのモル分率50%、数平均分子量7,700)を用いた以外は、実施例1と同様の手段により中空糸膜モジュールを作製した。
【0119】
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面にピバル酸エステルが存在することが確認された。また、ATR-IRの測定結果から、1711~1751cm-1、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在することがわかった。中空糸膜内表面の共重合体固定化量(1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=O、1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率AC=O/AC=Cの平均値)は0.06であった。作製した中空糸膜モジュールのフィブリノーゲン相対付着量測定を行った結果、表1に示すとおり、相対付着量は9%であった。
(比較例1)
ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体の代わりにポリビニルピロリドン(BASF社製“K90”)を用いた以外は、実施例1と同様の手段により中空糸膜モジュールを作製した。
【0120】
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面にカルボン酸エステルは存在しないことが確認された。また、ATR-IRの測定結果から、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在するが1711~1751cm-1の範囲にはピークが存在しないことがわかった。作製した中空糸膜モジュールのフィブリノーゲン相対付着量測定を行った。その結果、表1に示すとおり、相対付着量は90%であった。
(比較例2)
ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体の代わりにビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(BASF社製“コリドンVA64”)を用いた以外は、実施例1と同様に中空糸膜モジュールを作製した。TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面に酢酸エステルが存在することが確認された。
【0121】
また、ATR-IRの測定結果から、1711~1751cm-1、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在することがわかった。中空糸膜内表面の共重合体固定化量(1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=O、1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率AC=O/AC=Cの平均値)は0.04であることがわかった。作製した中空糸膜モジュールのフィブリノーゲン相対付着量測定を行った結果、表1に示すとおり、相対付着量は60%であった。
(比較例3)
ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体の代わりにビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(BASF社製“コリドンVA64”)を用い、中空糸膜モジュール作製時の共重合体の濃度を300ppmから1000ppmに変更し、0.1重量%エタノール水溶液の代わりに全て水を用いた以外は、実施例1と同様の手段により中空糸膜モジュールを作製した。
【0122】
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面に酢酸エステルが存在することが確認された。また、ATR-IRの測定結果から、1711~1751cm-1、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在することがわかった。中空糸膜内表面の共重合体固定化量(1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=O、1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率AC=O/AC=Cの平均値)は0.12であった。作製した中空糸膜モジュールのフィブリノーゲン相対付着量測定を行った結果、表1に示すとおり、相対付着量は65%であった。
(比較例4)
1.0重量%エタノール水溶液を、上記中空糸膜モジュールの製造方法により作製した中空糸膜モジュールの血液側入口から透析液側入口に通液させた。次に、0.1重量%エタノール水溶液を、上記中空糸膜モジュールの血液側入口から透析液側入口及び血液側入口から血液側出口へ通液後、25kGyのγ線を照射して中空糸膜モジュールを作製した。
【0123】
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面にカルボン酸エステルは存在しないことが確認された。また、ATR-IRの測定結果から、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在するが、1711~1751cm-1の範囲にはピークが存在しないことがわかった。作製した中空糸膜モジュールのフィブリノーゲン相対付着量測定を行った結果、表1に示すとおり、相対付着量は110%であった。
(比較例5)
1.0重量%エタノール水溶液の代わりに全て1.0重量%ヘキサノール水溶液を用いた以外は、比較例4と同様の手段により中空糸膜モジュールを作製した。
【0124】
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面にカルボン酸エステルは存在しないことが確認された。また、ATR-IRの測定結果から、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在するが、1711~1751cm-1の範囲にはピークが存在しないことがわかった。作製した中空糸膜モジュールのフィブリノーゲン相対付着量測定を行った結果、表1に示すとおり、相対付着量は73%であった。
(比較例6)
ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体の代わりにビニルピロリドン/酢酸ビニルブロック共重合体(酢酸ビニルユニットのモル分率40%、数平均分子量4,600)を用い、中空糸膜モジュール作製時の共重合体の濃度を300ppmから30ppmに変更した以外は、実施例1と同様の手段により中空糸膜モジュールを作製した。
【0125】
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面に酢酸エステルが存在することが確認された。また、ATR-IRの測定結果から、1711~1751cm-1、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在することがわかった。中空糸膜内表面の共重合体固定化量(1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=O、1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率AC=O/AC=Cの平均値)は0.04であった。作製した中空糸膜モジュールのフィブリノーゲン相対付着量測定を行った結果、表1に示すとおり、相対付着量は83%であった。
【0126】
【表1】
【0127】
<平膜の製造方法>
高分子をクロロホルム(和光純薬工業)に溶解して、濃度1重量%に調整した。直径2cmのスライドガラス上に、高分子溶液を1mL滴下し、20℃で1時間、自然乾燥させた。γ線(25kGy)を照射し、高分子をガラス表面に架橋・固定化することにより、平膜を得た。
(実施例6)
上記高分子として、ポリプロパン酸ビニル単独重合体(数平均分子量15,500)を用い、上記平膜の製造方法により平膜を作製した。
【0128】
得られた平膜のTOF-SIMS測定及びXPS測定を行った結果、プロパン酸エステルが存在することがわかった。血小板付着試験を行ったところ、表2に示すとおり、血小板付着数は6個であり、血小板の付着が大きく抑制されていることがわかった。
(実施例7)
上記高分子として、ビニルピロリドン/デカン酸ビニルランダム共重合体(デカン酸ビニルユニットのモル分率40%、数平均分子量35,000)を用い、上記平膜の製造方法により平膜を作製した。
【0129】
得られた平膜のTOF-SIMS測定及びXPS測定を行った結果、デカン酸エステルが存在することがわかった。血小板付着試験を行ったところ、表2に示すとおり、血小板付着数は11個であり、血小板の付着が大きく抑制されていることがわかった。
(実施例8)
上記高分子として、ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体(ヘキサン酸ビニルユニットのモル分率40%、数平均分子量2,200)を用い、上記平膜の製造方法により平膜を作製した。
【0130】
得られた平膜のTOF-SIMS測定及びXPS測定を行った結果、ヘキサン酸エステルが存在することがわかった。血小板付着試験を行ったところ、表2に示すとおり、血小板付着数は0個であり、血小板の付着が大きく抑制されていることがわかった。
(実施例9)
上記高分子として、ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(プロパン酸ビニルユニットのモル分率40%、数平均分子量16,500)を用い、上記平膜の製造方法により平膜を作製した。
【0131】
得られた平膜のTOF-SIMS測定及びXPS測定を行った結果、プロパン酸エステルが存在することがわかった。血小板付着試験を行ったところ、表2に示すとおり、血小板付着数は1個であり、血小板の付着が大きく抑制されていることがわかった。
(実施例10)
上記高分子として、ビニルアセトアミド/ピバル酸ビニルランダム共重合体(ピバル酸ビニルユニットのモル分率30%、数平均分子量5,500)を用い、上記平膜の製造方法により平膜を作製した。
【0132】
得られた平膜のTOF-SIMS測定及びXPS測定を行った結果、ピバル酸エステルが存在することがわかった。血小板付着試験を行ったところ、表2に示すとおり、血小板付着数は2個であり、血小板の付着が大きく抑制されていることがわかった。
(比較例7)
高分子を固定していない未処理のスライドガラスについて、血小板付着試験を行った。
【0133】
その結果、表2に示すとおり、血小板付着数は50個であった。
(比較例8)
上記高分子として、ポリビニルピロリドン(BASF社製“K30”)を用い、上記平膜の製造方法により平膜を作製した。
【0134】
得られた平膜のTOF-SIMS測定及びXPS測定を行った結果、カルボン酸エステルは存在しないことがわかった。血小板付着試験を行ったところ、血小板付着数は47個であり、血小板の付着は抑制されていないことがわかった。
(比較例9)
上記高分子として、ビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(酢酸ビニルユニットのモル分率20%、数平均分子量3,200)を用い、上記平膜の製造方法により平膜を作製した。
【0135】
得られた平膜のTOF-SIMS測定及びXPS測定を行った結果、酢酸エステルが存在することがわかった。血小板付着試験を行ったところ、血小板付着数は43個であり、血小板の付着は抑制されていないことがわかった。
【0136】
【表2】
【0137】
<抗体精製用分離膜モジュールの製造方法>
芯液をN,N-ジメチルアセトアミド65重量部、水35重量部とした以外は、中空糸膜モジュールの製造方法と同様に分離膜モジュールを作製した。
(実施例11)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(プロパン酸ビニルユニットのモル分率20%、数平均分子量12,500)50ppmを溶解した0.1重量%エタノール水溶液を、上記抗体精製用分離膜モジュールの製造方法により作製した分離膜モジュールの血液側入口から透析液側入口に通液させた。その後、25kGyのγ線を照射して分離膜モジュールを作製した。
【0138】
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、分離膜機能層の表面にプロパン酸エステルが存在することが確認された。また、ATR-IRの測定結果から、1711~1751cm-1、1617~1710cm-1及び1549~1620cm-1の範囲にピークが存在することがわかった。ATR-IRの測定結果から、分離膜内表面の共重合体固定化量(1711~1751cm-1の範囲のピーク面積AC=O、1549~1620cm-1の範囲のピーク面積AC=Cとの比率AC=O/AC=Cの平均値)は0.01であることがわかった。抗体精製モデル試験を行ったところ、IgG回収率は70%であった。
(比較例10)
高分子の溶液を通液せずに、25kGyのγ線を照射して分離膜モジュールを作製した。得られた分離膜のTOF-SIMS測定及びXPS測定を行った結果、カルボン酸エステルは存在しないことがわかった。抗体精製モデル試験を行ったところ、IgG回収率は45%であった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の生体成分付着抑制材料は、生体適合性に優れ、血小板やタンパク質などの生体成分の付着を抑制できるため、医療材料や生体成分の分離用材料、分析用材料として好適に利用することができる。本発明の生体付着抑制材料は、特に、生体成分の付着を抑制することにより長時間の使用が可能となるため、血液浄化器の材料として好適に用いることができる。