(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】車載流体機械
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220125BHJP
【FI】
H02M7/48 F
(21)【出願番号】P 2018070140
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-06-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】久保田 雅士
(72)【発明者】
【氏名】川島 隆
(72)【発明者】
【氏名】名嶋 一記
【審査官】土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199334(WO,A1)
【文献】特開2016-185040(JP,A)
【文献】特開2014-050121(JP,A)
【文献】特表2017-527252(JP,A)
【文献】特開2001-069781(JP,A)
【文献】特開2005-312178(JP,A)
【文献】特開2006-320134(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0288306(US,A1)
【文献】特開2018-64322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42-7/98
H02P 4/00
H02P 6/00-6/34
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を備えるとともにモータに交流電力を供給するインバータ回路と、
d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出する電流制御部と、
前記モータに流れるd軸電流及びq軸電流と、前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値から、ロータの回転角を算出する回転角推定部と、を備えたインバータ装置を有する車載流体機械であって、
前記ロータは、永久磁石を有し、
前記スイッチング素子は、前記モータのU相端子、V相端子、W相端子にそれぞれ接続された複数のスイッチング素子であり、
前記モータの停止時において前記スイッチング素子を所定のスイッチングパターンについてオンにして前記モータに対してパルス電圧を複数角度にわたって印加するとともに印加に伴い前記モータに流れるd軸電流とq軸電流との比較結果に応じて前記モータの制御のための因子を補正する補正部を備え、
前記回転角推定部は、前記パルス電圧の印加に伴い前記モータに流れるU相電流、V相電流、W相電流から前記ロータの回転
角を推定
し、
前記制御のための因子は前記インバータ回路の電源電圧検出値であることを特徴とする車載流体機械。
【請求項2】
スイッチング素子を備えるとともにモータに交流電力を供給するインバータ回路と、
d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出する電流制御部と、
前記モータに流れるd軸電流及びq軸電流と、前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値から、ロータの回転角を算出する回転角推定部と、を備えたインバータ装置を有する車載流体機械であって、
前記ロータは、永久磁石を有し、
前記スイッチング素子は、前記モータのU相端子、V相端子、W相端子にそれぞれ接続された複数のスイッチング素子であり、
前記モータの停止時において前記スイッチング素子を所定のスイッチングパターンについてオンにして前記モータに対してパルス電圧を複数角度にわたって印加するとともに印加に伴い前記モータに流れるd軸電流とq軸電流との比較結果に応じて前記モータの制御のための因子を補正する補正部を備え、
前記回転角推定部は、前記パルス電圧の印加に伴い前記モータに流れるU相電流、V相電流、W相電流から前記ロータの回転
角を推定
し、
前記制御のための因子はd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値であることを特徴とする車載流体機械。
【請求項3】
スイッチング素子を備えるとともにモータに交流電力を供給するインバータ回路と、
d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出する電流制御部と、
前記モータに流れるd軸電流及びq軸電流と、前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値から、ロータの回転角を算出する回転角推定部と、を備えたインバータ装置を有する車載流体機械であって、
前記ロータは、永久磁石を有し、
前記スイッチング素子は、前記モータのU相端子、V相端子、W相端子にそれぞれ接続された複数のスイッチング素子であり、
前記モータの停止時において前記スイッチング素子を所定のスイッチングパターンについてオンにして前記モータに対してパルス電圧を複数角度にわたって印加するとともに印加に伴い前記モータに流れるd軸電流とq軸電流との比較結果に応じて前記モータの制御のための因子を補正する補正部を備え、
前記回転角推定部は、前記パルス電圧の印加に伴い前記モータに流れるU相電流、V相電流、W相電流から前記ロータの回転
角を推定
し、
前記制御のための因子はd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスであることを特徴とする車載流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載流体機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータ制御の中でもロータの回転角(回転位置)を推定しながら運転するという位置センサレス制御が行われており、特許文献1においては各相コイルに正方向及び負方向に所定のパルス幅の電圧を印加して流れる電流に基づいてロータの位置を導出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁石埋込型モータの磁石には生産の都合上、磁束量にばらつきが存在する。磁石の磁束量に比例して、磁気飽和の影響でインダクタンスは減少する。そのため、磁石磁束量にばらつきがあると以下の課題がある。位置センサレスでモータ電流とインバータ出力電圧(モータ印加電圧)から回転角を推定する際に、インダクタンスに起因して推定位置がずれてしまう。具体的には、例えば
図11(a)に示すように、ロータ回転における制御位相が最大トルク位相に対しずれると、出力トルクが低下するため、その分を補うためのトルクマージンが必要になる。そのためモータの大型化を招いている。
【0005】
本発明の目的は、モータの小型化を図ることができる車載流体機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、スイッチング素子を備えるとともにモータに交流電力を供給するインバータ回路と、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出する電流制御部と、前記モータに流れるd軸電流及びq軸電流と、前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値から、ロータの回転角を算出する回転角推定部と、を備えたインバータ装置を有する車載流体機械であって、前記モータの停止時において前記モータに対してパルス電圧を印加するとともに印加に伴い前記モータに流れるd軸電流とq軸電流との比較結果に応じて前記モータの制御のための因子を補正する補正部を備えることを要旨とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、モータの停止時においてモータに対してパルス電圧を印加するとともに印加に伴いモータに流れるd軸電流とq軸電流との比較結果に応じて突極比(q軸インダクタンス/d軸インダクタンス)を推定することでモータのインダクタンスを間接的に検出し、モータの制御のための因子を補正する。これにより、ロータ回転における制御位相と最大トルク位相の定常偏差が小さくなり、出力トルクの低下を抑制してトルクマージンの設定を小さくできモータの小型化を図ることができる。上記の突極比推定はモータのインダクタンスを間接的に検出する手法であり、磁石磁束量の変化に応じて、d軸インダクタンスに比べてq軸インダクタンスの変化が大きいことを利用している。また、d軸電流とq軸電流との比較結果を用いてモータ制御のための因子を補正するので、電流センサのゲイン誤差をキャンセルすることができ、補正値の算出精度が高まる。
【0008】
請求項2記載のように、請求項1に記載の車載流体機械において、前記回転角推定部は、前記パルス電圧の印加に伴い前記モータに流れるU相電流、V相電流、W相電流から前記ロータの角度を推定するとよい。d軸電流とq軸電流を導出する際に必要となるU相電流、V相電流、W相電流を用いてロータの回転角を推定するので、一度のパルス電圧印加で突極比と回転角の両方を推定することができる。停止時のロータの回転角を予め推定しておくことで、再起動を速やかに行うことが出来る。
【0009】
請求項3に記載のように、請求項1または2に記載の車載流体機械において、前記制御のための因子は前記インバータ回路の電源電圧検出値であるとよい。
請求項4に記載のように、請求項1または2に記載の車載流体機械において、前記制御のための因子はd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値であるとよい。
【0010】
請求項5に記載のように、請求項1または2に記載の車載流体機械において、前記制御のための因子はd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスであるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モータの小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】車載用電動圧縮機を模式的に示す一部破断図。
【
図2】第1の実施形態におけるモータ駆動用インバータ装置の構成図。
【
図6】(a),(b),(c),(d),(e),(f)は作用を説明するためのタイムチャート。
【
図7】第2の実施形態におけるモータ駆動用インバータ装置の構成図。
【
図8】(a)は電圧指令値補正部の構成図、(b)はマップを示す図。
【
図9】第3の実施形態におけるモータ駆動用インバータ装置の構成図。
【
図10】(a)はパラメータ補正部の構成図、(b)はマップを示す図、(c)はマップを示す図。
【
図11】(a)は課題を説明するためのモータ特性及び必要出力トルクを示す図、(b)は実施形態を説明するためのモータ特性及び必要出力トルクを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、本発明を車載用電動圧縮機に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
本実施形態の車載用電動圧縮機は例えば車両空調装置に用いられる。つまり、本実施形態において車載用電動圧縮機の圧縮対象の流体は冷媒である。
【0014】
図1に示すように、車両空調装置10は、車載用電動圧縮機20と、車載用電動圧縮機20に対して冷媒を供給する外部冷媒回路100とを備えている。外部冷媒回路100は、例えば熱交換器及び膨張弁などを有している。車両空調装置10は、車載用電動圧縮機20によって冷媒が圧縮され、且つ、外部冷媒回路100によって冷媒の熱交換及び膨張が行われることによって、車両の室内の冷暖房を行う。
【0015】
なお、車両空調装置10は、当該車両空調装置10の全体を制御する空調ECU101を備えている。空調ECU101は、車内温度や設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、車載用電動圧縮機20に対してオン/オフ指令等といった各種指令を送信する。
【0016】
車載用電動圧縮機20は、外部冷媒回路100から冷媒が吸入される吸入口21aが形成されたハウジング21と、ハウジング21に収容された圧縮部22及び三相モータ23とを備えている。
【0017】
ハウジング21は、全体として略円筒形状である。ハウジング21には、冷媒が吐出される吐出口21bが形成されている。
圧縮部22は、吸入口21aからハウジング21内に吸入された冷媒を圧縮し、その圧縮された冷媒を吐出口21bから吐出させるものである。なお、圧縮部22の具体的な構成は、スクロールタイプ、ピストンタイプ、ベーンタイプ等任意である。
【0018】
三相モータ23は、圧縮部22を駆動させるものであり、IPMモータ(磁石埋込型モータ)を用いている。三相モータ23は、例えばハウジング21に対して回転可能に支持された円柱状の回転軸26と、当該回転軸26に対して固定された円筒形状のロータ24と、ハウジング21に固定されたステータ25とを有する。ロータ24は、磁石24aが埋設された円筒形状のロータコア24bを有している。磁石24aは永久磁石である。回転軸26の軸線方向と、円筒形状のハウジング21の軸線方向とは一致している。ステータ25は、円筒形状のステータコア25aと、当該ステータコア25aに形成されたティースに捲回されたコイル25bとを有している。ロータ24及びステータ25は、回転軸26の径方向に対向している。
【0019】
車載用電動圧縮機20は、三相モータ23を駆動させるモータ駆動用インバータ装置31と、当該モータ駆動用インバータ装置31が収容されたケース32とを有するインバータユニット30を備えている。三相モータ23のコイル25bとモータ駆動用インバータ装置31とは電気的に接続されている。ケース32は、固定具としてのボルト33によってハウジング21に固定されている。すなわち、本実施形態の車載用電動圧縮機20には、モータ駆動用インバータ装置31が一体化されている。
【0020】
モータ駆動用インバータ装置31は、回路基板34と、当該回路基板34と電気的に接続されたパワーモジュール35とを備えている。回路基板34には、各種電子部品が実装されている。ケース32の外面にはコネクタ36が設けられており、回路基板34とコネクタ36とが電気的に接続されている。コネクタ36を介してモータ駆動用インバータ装置31に電力供給が行われるとともに、空調ECU101とモータ駆動用インバータ装置31とが電気的に接続されている。
【0021】
このようにして、車載用電動圧縮機20は、ハウジング21内に、圧縮部22と、圧縮部22を駆動する三相モータ23が配置されるとともにモータ23に電力を供給するモータ駆動用インバータ装置31が一体化されている。
【0022】
図2に示すように、モータ駆動用インバータ装置31は、インバータ回路40とインバータ制御装置50を備えている。インバータ制御装置50は、ドライブ回路55と、PWM制御部60を備えている。
【0023】
インバータ回路40は、6つのスイッチング素子Q1~Q6と6つのダイオードD1~D6を有する。スイッチング素子Q1~Q6としてIGBTを用いている。正極母線と負極母線との間に、U相上アームを構成するスイッチング素子Q1と、U相下アームを構成するスイッチング素子Q2が直列接続されている。正極母線と負極母線との間に、V相上アームを構成するスイッチング素子Q3と、V相下アームを構成するスイッチング素子Q4が直列接続されている。正極母線と負極母線との間に、W相上アームを構成するスイッチング素子Q5と、W相下アームを構成するスイッチング素子Q6が直列接続されている。スイッチング素子Q1~Q6にはダイオードD1~D6が逆並列接続されている。正極母線、負極母線には平滑コンデンサCを介して直流電源としてのバッテリBが接続されている。
【0024】
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2の接続部が三相モータ(以下、モータという)23のU相端子に接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4の接続部がモータ23のV相端子に接続されている。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6の接続部がモータ23のW相端子に接続されている。上下のアームを構成するスイッチング素子Q1~Q6を有するインバータ回路40は、スイッチング素子Q1~Q6のスイッチング動作に伴いバッテリBの電圧である直流電圧を交流電圧に変換してモータ23に供給することができるようになっている。即ち、インバータ回路40は、スイッチング素子Q1~Q6を備えるとともにモータに交流電力を供給する。
【0025】
各スイッチング素子Q1~Q6のゲート端子にはドライブ回路55が接続されている。ドライブ回路55は、制御信号に基づいてインバータ回路40のスイッチング素子Q1~Q6をスイッチング動作させる。
【0026】
スイッチング素子Q2のエミッタと負極母線との間に電流センサ41が設けられている。スイッチング素子Q4のエミッタと負極母線との間に電流センサ42が設けられている。スイッチング素子Q6のエミッタと負極母線との間に電流センサ43が設けられている。電圧センサS1によりバッテリBの両端電圧(バッテリ電圧)、即ち、電源電圧が直流電圧として検出される。
【0027】
本実施形態では回転角センサを用いておらず位置センサレス化が図られている。ロータの回転角(回転位置)θは後記する回転角推定部70においてモータに流れるd軸電流Id及びq軸電流Iqと、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*から算出される。
【0028】
PWM制御部60は、速度制御部61と、減算部62,63,68と、電流制御部64と、座標変換部65,66と、PWM発生部67と、回転角推定部70と、補正部としての電圧値補正部72を備えている。
【0029】
座標変換部65は、電流センサ41,42,43により検出されたモータに流れるU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iw及び、回転角推定部70により算出されるロータの推定回転角(回転位置)θに基づいて、U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwをd軸電流(励磁成分電流)Id及びq軸電流(トルク成分電流)Iqに変換する。なお、d軸電流(励磁成分電流)Idはモータ23に流れる電流において、磁石の作る磁束と同じ方向の電流ベクトル成分であり、q軸電流(トルク成分電流)Iqはモータ23に流れる電流において、d軸と直交する電流ベクトル成分である。
【0030】
減算部68は、外部から入力される回転数指令値と推定回転数との差を算出する。なお、推定回転数は、回転角推定部70において演算される推定角(θ)を微分することで得られる。
【0031】
速度制御部61は、外部から入力される回転数指令値と推定回転数との差分を受け、d軸電流Idに対するd軸電流指令値Id*、および、q軸電流Iqに対するq軸電流指令値Iq*を算出する。
【0032】
減算部62は、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの差ΔIdを算出する。減算部63は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの差ΔIqを算出する。電流制御部64は、差ΔId及び差ΔIqに基づいてd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。座標変換部66は、回転角推定部70により算出されるロータの推定回転角(回転位置)θに基づいて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をモータへの印加電圧である電圧指令値Vu、Vv、Vwに変換する。
【0033】
PWM発生部67は、電圧指令値Vu,Vv,Vwをインバータの電源電圧値で正規化し、三角波との比較結果に基づいてインバータ回路40の各スイッチング素子Q1~Q6をオン、オフさせるためのPWM制御信号を出力する。
【0034】
つまり、PWM制御部60は、モータ23に流れるU、V、Wの各相の電流Iu,Iv,Iwに基づいてモータ23におけるd軸電流(励磁成分電流)とq軸電流(トルク成分電流)が目標値となるようにモータ23の電流経路に設けられたスイッチング素子Q1~Q6を制御する。PWM発生部67からの信号はドライブ回路55に送られる。
【0035】
回転角推定部70は、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*に基づき、モータの推定回転角θおよび推定角速度ωを演算(推定)する。
電圧値補正部72は、電圧センサS1による直流電圧検出値を入力値Vinとして入力したのちインバータの電源電圧Vdcを補正して出力値Voutとして出力する。この補正後の直流電圧(Vout)はPWM発生部67に送られて、電圧指令値Vu,Vv,Vwを正規化し、三角波との比較結果に基づいてPWM制御信号が算出される。
【0036】
図3には電圧値補正部72の構成を示す。
電圧値補正部72は、乗算部80と補正係数決定部81を有する。乗算部80は、直流電圧(入力値Vin)を入力して補正係数Kaを乗算して、即ち、Ka×Vinを補正後の直流電圧(出力値Vout)として出力する。補正係数決定部81は、
図4に示すマップを用いて補正係数Kaを算出する。
図4において、横軸に突極比をとり、縦軸に補正係数Kをとっており、特性線L1が規定されている。特性線L1は、突極比が大きいほど補正係数Kも大きくなるように規定されている。
図3の補正係数決定部81は、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとの比である突極比Lq/Ldを、d軸電流Idとq軸電流Iqとの比較結果から推定する。そして、補正係数決定部81は、
図4のマップを用いて推定突極比から補正係数Kaを算出する。このように求められた補正係数Kaを用いて乗算部80においてKa×Vinが補正後の直流電圧(出力値Vout)として算出される。
【0037】
次に、作用について説明する。
モータ23の停止中において、補正係数決定部81において、d軸電流Idとq軸電流Iqとの比較結果からモータの突極比(Lq/Ld)を推定し、
図4のマップを用いて推定突極比から補正係数Kを算出する。この補正係数Kが、最適値、即ち、最大トルク位相補正係数Kaを決定する。以後、このように決定された補正係数Kaを用いてモータ制御が行われる。
【0038】
モータ停止中の補正係数Kの算出、即ち、乗算部80で使用するゲイン(補正係数Ka)として決定する処理の詳細を
図5及び
図6を用いて説明する。
図5に示すように、補正係数決定部81において、ステップS100でVdc×δTが同じになる電圧パルスを順番に複数角度にわたり印加する。具体的には、
図6(a)に示すU相上アーム用スイッチング素子Q1、
図6(b)に示すU相下アーム用スイッチング素子Q2、
図6(c)に示すV相上アーム用スイッチング素子Q3、
図6(d)に示すV相下アーム用スイッチング素子Q4、
図6(e)に示すW相上アーム用スイッチング素子Q5、
図6(f)に示すW相下アーム用スイッチング素子Q6について、所定のタイミングt1,t2,t3,t4,t5,t6において微小時間δTだけあらかじめ決められたスイッチングパターンについてオンする。微小時間δTは、電源電圧Vdcが変わっても電圧パルスの面積(Vdc×δT)が同じになるように、スイッチング毎にδTを決める。例えば、制御周期であるキャリア信号の一周期の100μsec以下の範囲で決定する。このように、U相、V相、W相のそれぞれの相において正負の母線間に電圧を印加して電流を流す。
【0039】
そして、補正係数決定部81において、
図5のステップS101でパルス印加により流れた、U相電流、V相電流、W相電流を、それぞれdq軸座標に変換してd軸電流Idとq軸電流Iqを取得する。補正係数決定部81において、ステップS102でd軸電流Idとq軸電流Iqの比較結果から突極比を推定する。具体的には、各スイッチングパターンにて取得したd軸電流の絶対値の総和Σ|Id|とq軸電流の絶対値の総和Σ|Iq|から、突極比推定式(Σ|Id|/Σ|Iq|)により突極比を推定する。あるいは、各スイッチングパターンにて取得したd軸電流の二乗和ΣId^2とq軸電流の二乗和ΣIq^2から、突極比推定式((ΣId^2)/(ΣIq^2))により突極比を推定する。例えば
図6に示すスイッチングパターンについて、各スイッチングパターンごとに相電流取得し、それらを全てd軸電流とq軸電流に変換したのち、上述の突極比推定式に代入することで突極比を推定する。補正係数決定部81において、ステップS103で
図4のマップを参照してK値を算出する。つまり、設計値の突極比と比較し乖離量を算出する。
【0040】
そして、乗算部80において、ステップS104で、モータ運転時に、K値から入力値Vinを補正する(乖離量に応じて制御パラメータである直流電圧(入力値Vin)を補正する)。つまり、モータ停止時においてモータにパルス電圧を印加したことに伴いモータに流れるd軸電流Idとq軸電流Iqとの比較結果に応じて制御のための因子としてのインバータの電源電圧検出値、即ち、電圧センサS1による直流電圧検出値(Vin)を補正する。
【0041】
よって、制御位相のずれによる出力トルク低下を解消できる。そのため、モータのトルクマージンを削減して小型化・低コスト化が可能となる。
図11(a),(b)を用いて説明する。
【0042】
本実施形態のような調整を行わないと、
図11(a)に示すように、モータ特性と電流位相との関係において推定角度が正しいとモータ特性のピークに持っていくことができるが推定がずれるとモータ特性のピーク、即ち、最大トルク位相(トルクピークとなる電流位相)を狙えずに左右にずれてしまう。これはモータの磁石の公差だったりインバータのハードウェアによってずれ方が変わる。
【0043】
これに対し、
図11(b)に示すように初期の磁石の磁束の状態では推定値にずれが生じており、初期にどのようなばらつきを持っているのか分からないが、本実施形態のような調整を行うことにより最適ポイントが分かるのでその位置までパラメータをずらしてピーク位置にシフトすることができる。即ち、初期の電流位相からオートチューニングにより最大トルク位相(トルクピークとなる電流位相)に対する推定ずれを補正することができる。
【0044】
また、電圧値補正部72を用いることなく、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iw及び直流電圧に基づいて回転角θを演算すると
図11(a)に示すようにモータ特性と必要出力トルクとの関係において次のようになる。
図11(a)においてモータ特性はピーク値を有しており、必要出力トルクは一定値である。ここで、制御位相がモータ特性のピーク値(最大トルク位相)とずれると、必要出力トルクを確保するためには、より出力の大きなモータを使用する必要がある。
【0045】
これに対し、
図11(b)に示す本実施形態では、電圧値補正部72を用いて初期の電流位相とモータ特性のピーク値とのずれを補正して、制御位相とモータ特性のピーク値とを一致させることができる。そのため、必要出力トルクを確保できるモータとして、より出力の小さなモータを使用することができる。
【0046】
まとめると次のようになる。
モータ制御技術として、位置センサレス制御がある。この制御は取得した入力電圧とモータ電流を使って、ロータの回転角を演算で推定している。このモータ推定位置に基づいて、最大トルクにて運転できるようにパラメータをチューニングして、モータの出力最大トルクを得ている。ところで、モータにばらつき(例えば永久磁石の磁束)がある場合、モータ特性が変化する。位置センサレス制御はこの影響を受けるため、モータ推定位置に誤差が発生し、出力最大トルクが出せなくなることがある。
【0047】
本実施形態においては、モータばらつきによる出力トルク低下を解決する。
具体的には、モータ停止中にモータの突極比(Lq/Ld)を推定し、モータ設計値の突極比と比較し、算出された乖離量に応じて制御に利用するパラメータを補正する。そのために、モータ停止中において、極短時間の電圧パルス、例えば、制御周期であるキャリア信号の一周期で複数角度に印加し、流れたd軸電流及びq軸電流から突極比を推定する。突極比推定はロータの磁石磁束量を間接的に検出する手法であり、磁石磁束量の変化に応じてインダクタンスが変化することを利用している。予め補正する制御パラメータのマップをソフトウェア内にて保持しておき、検出した突極比と設計値の突極比の乖離量を算出し、マップにしたがって制御パラメータの補正量(Ka)を決定する。このようにして、モータばらつきによる、最大出力トルクの低下を軽減できる。また、トルクマージンを無くすことでモータの小型・軽量化を図ることができる。
【0048】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)車載流体機械としての車載用電動圧縮機20はインバータ装置31を有し、インバータ装置31は、スイッチング素子Q1~Q6を備えるとともにモータに交流電力を供給するインバータ回路40と、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する電流制御部64と、モータに流れるd軸電流Id及びq軸電流Iqと、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*から、ロータの回転角θを算出する回転角推定部70と、を備える。さらに、モータの停止時においてモータに対してパルス電圧を印加するとともに印加に伴いモータに流れるd軸電流Idとq軸電流Iqとの比較結果に応じてモータの制御のための因子を補正する電圧値補正部72を備える。
【0049】
具体的には、電圧値補正部72において、モータ停止時においてモータにパルス電圧を印加したことに伴いモータに流れるd軸電流Idとq軸電流Iqとの比較結果に応じて制御のための因子としてのインバータの電源電圧検出値、即ち、電圧センサS1による直流電圧検出値(Vin)を補正するようにした。
【0050】
このように、モータの停止中に、補正量(K)を決定して、ロータ回転における制御位相が最大トルク位相からずれにくくして出力トルクの低下を抑制してトルクマージンを小さく設定できモータの小型化を図ることができる。特に、制御のための因子はインバータ回路40の電源電圧検出値であり、インバータの電源電圧検出値、即ち、電圧センサS1による直流電圧検出値(Vin)を補正することによりモータの運転の安定性がよい。
【0051】
このようにして、モータの停止時においてモータに対してパルス電圧を印加するとともに印加に伴いモータに流れるd軸電流とq軸電流との比較結果に応じて突極比(q軸インダクタンス/d軸インダクタンス)を推定することでモータのインダクタンスを間接的に検出し、モータの制御のための因子を補正する。これにより、ロータ回転における制御位相と最大トルク位相の定常偏差が小さくなり、出力トルクの低下を抑制してトルクマージンの設定を小さくできモータの小型化を図ることができる。上記の突極比推定はモータのインダクタンスを間接的に検出する手法であり、磁石磁束量の変化に応じて、d軸インダクタンスに比べてq軸インダクタンスの変化が大きいことを利用している。また、d軸電流とq軸電流との比較結果を用いてモータ制御のための因子を補正するので、電流センサのゲイン誤差をキャンセルすることができ、補正値の算出精度が高まる。
【0052】
(2)回転角推定部70は、パルス電圧の印加に伴いモータに流れるU相電流、V相電流、W相電流からロータの角度を推定する。d軸電流とq軸電流を導出する際に必要となるU相電流、V相電流、W相電流を用いてロータの回転角を推定するので、一度のパルス電圧印加で突極比と回転角の両方を推定することができる。停止時のロータの回転角を予め推定しておくことで、再起動を速やかに行うことが出来る。
【0053】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
図2に代わり、第2の実施形態では
図7に示す構成となっている。
図7において、補正部としての電圧指令値補正部90を有する。電圧指令値補正部90は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を入力し、補正して回転角推定部70に出力する。
【0054】
電圧指令値補正部90は、
図8(a)に示すように、乗算部91,92と補正係数決定部93を有する。乗算部91は、d軸電圧指令値Vd*(入力値Vdin)を入力して補正係数Kaを乗算して、即ち、Ka×Vdinを補正後のd軸電圧指令値Vd*(出力値Vdout)として出力する。乗算部92は、q軸電圧指令値Vq*(入力値Vdin)を入力して補正係数Kaを乗算して、即ち、Ka×Vqinを補正後のq軸電圧指令値Vq*(出力値Vqout)として出力する。補正係数決定部93は、
図8(b)に示すマップを用いて補正係数Kaを算出する。
図8(b)において、横軸に突極比をとり、縦軸に補正係数Kをとっており、特性線L10が規定されている。特性線L10は、突極比が大きいほど補正係数Kも大きくなるように規定されている。
図8(a)の補正係数決定部93は、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとの比である突極比Lq/Ldを、d軸電流Idとq軸電流Iqとの比較結果から推定する。そして、補正係数決定部93は、
図8(b)のマップを用いて推定突極比から補正係数Kaを算出する。このように求められた補正係数Kaを用いて乗算部91,92においてKa×Vdin及びKa×Vqinが補正後の電圧指令値(出力値Vout)として算出され、補正される。
【0055】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(3)制御のための因子はd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*であり、モータ停止時においてモータに対してパルス電圧を印加するとともに印加に伴いモータに流れるd軸電流Idとq軸電流Iqとの比較結果に応じてモータの制御のための因子としてのd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を補正するようにした。よって、ロータ回転における制御位相が最大トルク位相にずれにくくして出力トルクの低下を抑制してトルクマージンを小さく設定できモータの小型化を図ることができる。
【0056】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
図2に代わり、第3の実施形態では
図9に示す構成となっている。本実施形態では制御パラメータがインダクタンスである。
【0057】
図9において、本実施形態の回転角推定部95は補正部としてのパラメータ補正部95aを有する。パラメータ補正部95aは、
図10(a)に示すように、乗算部96,97と補正係数決定部98,99を有する。乗算部96は、d軸インダクタンスLdinを入力して補正係数Kaを乗算して、即ち、Ka×Ldinを補正後のd軸インダクタンスLdin(出力値Ldout)として出力する。乗算部97は、q軸インダクタンスLqinを入力して補正係数Kbを乗算して、即ち、Kb×Lqinを補正後のq軸インダクタンスLqin(出力値Lqout)として出力する。補正係数決定部98は、
図10(b)に示すマップを用いて補正係数Kaを算出する。
図10(b)において、横軸に突極比をとり、縦軸に補正係数Kをとっており、特性線L20が規定されている。特性線L20は、突極比が大きいほど補正係数Kも大きくなるように規定されている。補正係数決定部99は、
図10(c)に示すマップを用いて補正係数Kbを算出する。
図10(c)において、横軸に突極比をとり、縦軸に補正係数Kをとっており、特性線L21が規定されている。特性線L21は、突極比が大きいほど補正係数Kも大きくなるように規定されている。
【0058】
図10(a)の補正係数決定部98,99は、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとの比である突極比Lq/Ldを、d軸電流Idとq軸電流Iqとの比較結果から推定する。そして、補正係数決定部98,99は、
図10(b)のマップ及び
図10(c)のマップを用いて推定突極比から補正係数Ka,Kbを算出する。このように求められた補正係数Ka,Kbを用いて乗算部96,97においてKa×Ldin及びKb×Lqinが補正後のインダクタンス(出力値Lout)として算出され、補正される。
【0059】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(4)制御のための因子はd軸インダクタンスLdin及びq軸インダクタンスLqinであり、モータ停止時においてモータに対してパルス電圧を印加するとともに印加に伴いモータに流れるd軸電流Idとq軸電流Iqとの比較結果に応じてモータの制御のための因子としてのd軸インダクタンスLdin及びq軸インダクタンスLqinを補正するようにした。よって、ロータ回転における制御位相が最大トルク位相にずれにくくして出力トルクの低下を抑制してトルクマージンを小さく設定できモータの小型化を図ることができる。
【0060】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 制御パラメータは電圧値、インダクタンス以外にも電流値、逆起電圧定数等でもよい。
【0061】
○ 突極比と補正係数Kとの関係は
図4などに示されるような直線関係でなくても良い。また突極比が大きいほど補正係数Kも大きくなるように規定されてなくても良い。
○ 突極比推定式は実施形態記載のものに限定されない。d軸電流とq軸電流を比較した結果として電流センサのゲイン誤差をキャンセルできる式であれば良い。
【0062】
○ 車載用電動圧縮機に具体化したが、これに限るものではない。例えば、車載用水素ポンプや車載用ウォーターポンプであってもよい。
【符号の説明】
【0063】
20…車載用電動圧縮機、23…モータ、31…モータ駆動用インバータ装置、40…インバータ装置、64…電流制御部、70…回転角推定部、72…電圧値補正部、Vd*…d軸電圧指令値、Vq*…q軸電圧指令値、Id…d軸電流、Iq…q軸電流、Iu…U相電流、Iv…V相電流、Iw…W相電流、Q1~Q6…スイッチング素子、θ…モータの回転角。