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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】眼科用組成物及び析出抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4741 20060101AFI20220125BHJP
   A61K 31/07 20060101ALI20220125BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220125BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220125BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20220125BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220125BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220125BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220125BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
A61K31/4741
A61K31/07
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/44
A61K9/08
A61P27/02
A61P31/04
A61P29/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018139345
(22)【出願日】2018-07-25
(65)【公開番号】P2020015683
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椛嶋 恭平
(72)【発明者】
【氏名】中川 未紗
(72)【発明者】
【氏名】石井 玲子
(72)【発明者】
【氏名】田淵 照人
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-048780(JP,A)
【文献】特開平05-271053(JP,A)
【文献】特開2013-181020(JP,A)
【文献】特開平06-247853(JP,A)
【文献】特開2009-292841(JP,A)
【文献】特開2005-298448(JP,A)
【文献】特開2018-002717(JP,A)
【文献】特開昭58-140014(JP,A)
【文献】特開平11-035489(JP,A)
【文献】特開2014-129326(JP,A)
【文献】特開2014-129330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 27/00
A61P 31/00
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ベルベリン又はその塩
(B)ビタミンA(B-1)及びビタミンE(B-2)からなる脂溶性成分:0.09w/v%以下
(C)グリチルリチン酸又はその塩、及び
(D)非イオン性界面活性剤
を含有し、(C)/(D)で表される配合質量比が1.5以上、(D)/((A)+(B))で表される配合質量比が1.0~5.0である眼科用組成物。
【請求項2】
眼科用組成物が点眼剤である請求項1記載の眼科用組成物。
【請求項3】
(A)ベルベリン又はその塩
(B)ビタミンA(B-1)及びビタミンE(B-2)からなる脂溶性成分、及び
(D)非イオン性界面活性剤
を含有する眼科用組成物に、
(C)グリチルリチン酸又はその塩を配合し、さらに、(B)成分の配合量を眼科用組成物中0.09w/v%以下、(C)/(D)で表される配合質量比を1.5以上、(D)/((A)+(B))で表される配合質量比を1.0~5.0とすることを特徴とする、上記眼科用組成物の凍結融解におけるベルベリン析出を抑制する方法。
【請求項4】
(A)ベルベリン又はその塩
(B)ビタミンA(B-1)及びビタミンE(B-2)からなる脂溶性成分、及び
(D)非イオン性界面活性剤
を含有する眼科用組成物に、
(C)グリチルリチン酸又はその塩を配合し、さらに、(B)成分の配合量を眼科用組成物中0.09w/v%以下、(C)/(D)で表される配合質量比を1.5以上、(D)/((A)+(B))で表される配合質量比を1.0~5.0とすることを特徴とする、ビタミンA(B-1)が安定化すると共に、上記眼科用組成物の凍結融解におけるベルベリン析出を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルベリン又はその塩を含有する眼科用組成物及び析出抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベルベリン又はその塩は、抗炎症作用や細菌に対する高い抗菌性を持つことが知られている(特許文献1:特開2008-24700号公報、特許文献2:特開2001-64108号公報)。一方、ビタミンAは上皮細胞の増殖・分化に必須な物質として知られており、ムチン産生を促進する作用、角膜創傷を治癒する作用が報告されている(特許文献3:特許第5673531号公報)。以上のことから、ベルベリン又はその塩とビタミンAとを併用する眼科用組成物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-24700号公報
【文献】特開2001-64108号公報
【文献】特許第5673531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(A)ベルベリン又はその塩と、(B)レチノールパルミチン酸エステル(B-1)及び酢酸d-α-トコフェノール(B-2)からなる脂溶性成分とを併用した場合、凍結保存後に融解させると(以下、「凍結融解」と記載する場合がある。)ベルベリンが析出するという課題が発生した。この析出を抑制するために、(C)グリチルリチン酸又はその塩の配合が有効であったが、(C)成分の配合により、レチノールパルミチン酸エステル(B-1)の安定性が悪くなるという課題が生じた。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、上記(A)、(B)及び(D)成分を含有する眼科用組成物の凍結保存後の融解により、ベルベリンが析出することを抑制すると共に、ビタミンAの安定性に優れた、ベルベリン又はその塩を含有する眼科用組成物を提供することを目的とする。
以下、眼科用組成物の凍結保存後の融解によりベルベリンが析出することを「凍結融解における析出」、ビタミンAの(保存)安定性を「VA安定性」と記載する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、
(A)ベルベリン又はその塩
(B)ビタミンA(B-1)及びビタミンE(B-2)からなる脂溶性成分:0.09w/v%以下
(C)グリチルリチン酸又はその塩、及び
(D)非イオン性界面活性剤
を含有し、(C)/(D)で表される配合質量比が1.5以上、(D)/((A)+(B))で表される配合質量比が1.0~5.0である眼科用組成物とすることで、上記課題を解決できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は下記を提供する。
[1].(A)ベルベリン又はその塩
(B)ビタミンA(B-1)及びビタミンE(B-2)からなる脂溶性成分:0.09w/v%以下
(C)グリチルリチン酸又はその塩、及び
(D)非イオン性界面活性剤
を含有し、(C)/(D)で表される配合質量比が1.5以上、(D)/((A)+(B))で表される配合質量比が1.0~5.0である眼科用組成物。
[2].眼科用組成物が点眼剤である[1]記載の眼科用組成物。
[3].(A)ベルベリン又はその塩
(B)ビタミンA(B-1)及びビタミンE(B-2)からなる脂溶性成分、及び
(D)非イオン性界面活性剤
を含有する眼科用組成物に、
(C)グリチルリチン酸又はその塩を配合し、さらに、(B)成分の配合量を眼科用組成物中0.09w/v%以下、(C)/(D)で表される配合質量比を1.5以上、(D)/((A)+(B))で表される配合質量比を1.0~5.0とすることを特徴とする、上記眼科用組成物の凍結融解におけるベルベリン析出を抑制する方法。
[4].(A)ベルベリン又はその塩
(B)ビタミンA(B-1)及びビタミンE(B-2)からなる脂溶性成分、及び
(D)非イオン性界面活性剤
を含有する眼科用組成物に、
(C)グリチルリチン酸又はその塩を配合し、さらに、(B)成分の配合量を眼科用組成物中0.09w/v%以下、(C)/(D)で表される配合質量比を1.5以上、(D)/((A)+(B))で表される配合質量比を1.0~5.0とすることを特徴とする、ビタミンA(B-1)が安定化すると共に、上記眼科用組成物の凍結融解におけるベルベリン析出を抑制する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、眼科用組成物の凍結融解後にベルベリンが析出することを抑制すると共に、ビタミンAの安定性に優れた、ベルベリン又はその塩を含有する眼科用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
[(A)成分]
本発明の(A)成分はベルベリン又はその塩であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。ベルベリン又はその塩としては、例えば、ベルベリン硫化物やベルベリン塩化物等の硫酸塩、塩酸塩等が挙げられる。また、水和物等であってもよい。
【0010】
(A)成分の配合量は、眼科用組成物中(以下、単に組成物と記載する場合がある。)0.0005~0.1w/v%(質量/体積%、g/100mL)が好ましく、0.001~0.025w/v%がより好ましく、0.001~0.02w/v%がさらに好ましい。抗菌効果の点から、上記下限以上が好ましく、凍結融解における析出抑制効果及びVA安定性の点から上記上限以下が好ましい。
【0011】
[(B)成分]
本発明の(B)成分は、(B)ビタミンA(B-1)及びビタミンE(B-2)からなる脂溶性成分であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0012】
(B-1)ビタミンA
ビタミンAとしては、ビタミンAそれ自体の他に、ビタミンA油等のビタミンA含有混合物、ビタミンA脂肪酸エステル等のビタミンA誘導体が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。具体的には、レチノールパルミチン酸エステル、レチノール酢酸エステル、レチノール、レチノイン酸、レチノイド等が挙げられる。中でも、レチノールパルミチン酸エステル、レチノール酢酸エステル、レチノイン酸が好ましい。レチノールパルミチン酸エステルは、通常100~180万国際単位/g(以下、I.U./gと略記する)のものが市販されており、具体的には、DSM社製レチノールパルミチン酸エステル[174万I.U./g)]、シグマアルドリッチ社製パルミチン酸レチノール等が挙げられる。
【0013】
(B-2)ビタミンE
ビタミンEとしては、酢酸トコフェロール(酢酸d-α-トコフェロール、酢酸dl-α-トコフェロール)が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、酢酸d-α-トコフェロールが好ましい。
【0014】
(B)成分全体の配合量は、組成物中0.09w/v%以下であり、0.01~0.09w/v%が好ましく、0.02~0.07w/v%がより好ましく、0.03~0.06w/v%がさらに好ましい。0.01w/v%以上とすることで、VAの作用効果やVA安定性がより向上し、上限0.09w/v%を超えると、凍結融解における析出抑制効果が低下する。
【0015】
(B-1)の配合量は、組成物中0.0025~0.08w/v%が好ましく、0.005~0.05w/v%がより好ましく、0.006~0.03w/v%がさらに好ましい。上記下限未満では、ビタミンAが有する角結膜損傷治癒効果が不十分となるおそれがあり、上記上限を超えると、凍結融解における析出抑制効果が低下するおそれがある。
【0016】
(B-2)の配合量は、組成物中0.0075~0.08w/v%が好ましく、0.02~0.07w/v%がより好ましく、0.03~0.06w/v%がさらに好ましい。上記下限未満では、VA安定性が低下するおそれがあり、上記上限を超えると、凍結融解における析出抑制効果が低下するおそれがある。
【0017】
[(C)成分]
本発明の(C)成分は、グリチルリチン酸又はその塩であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。グリチルリチン酸又はその塩類としては、グリチルリチン酸そのものの他に、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸三カリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム等が挙げられる。
【0018】
(C)成分の配合量は、組成物中0.01~0.5w/v%が好ましく、0.03~0.4w/v%がより好ましく、0.05~0.3w/v%がさらに好ましい。上記下限以上において、凍結融解における析出抑制効果がより向上し、上記上限以下でVA安定性がより向上する。
【0019】
[(D)成分]
本発明の(D)成分は非イオン性界面活性剤であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。ビタミンA保存安定性の観点から、2種以上を適宜組み合わせて用いることが好ましい。具体的には、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(POEソルビタン脂肪酸エステル)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(POEPOPグリコール)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0020】
ポリオキシエチレンヒマシ油(POEヒマシ油)は、ヒマシ油に酸化エチレン(EO)を付加重合することによって得られる化合物であり、酸化エチレンの平均付加モル数が異なるいくつかの種類が知られている。ポリオキシエチレンヒマシ油における酸化エチレンの平均付加モル数については、特に限定はないが、3~60モルが例示される。具体的にはポリオキシエチレンヒマシ油3(EO平均付加モル数3)、ポリオキシエチレンヒマシ油10(EO平均付加モル数10)、ポリオキシエチレンヒマシ油20(EO平均付加モル数20)、ポリオキシエチレンヒマシ油35(EO平均付加モル数35)、ポリオキシエチレンヒマシ油40(EO平均付加モル数40)、ポリオキシエチレンヒマシ油50(EO平均付加モル数50)、ポリオキシエチレンヒマシ油60(EO平均付加モル数60)等が挙げられる。中でも、ポリオキシエチレンヒマシ油35が好ましい。
【0021】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(POE硬化ヒマシ油)は、水添したヒマシ油に酸化エチレンを付加重合することによって得られる化合物であり、酸化エチレンの平均付加モル数が異なるいくつかの種類が知られている。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油における酸化エチレンの平均付加モル数については、特に限定はないが、5~100モルが例示される。具体的にはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5(EO平均付加モル数5)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10(EO平均付加モル数10)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20(EO平均付加モル数20)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油30(EO平均付加モル数30)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40(EO平均付加モル数40)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50(EO平均付加モル数50)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(EO平均付加モル数60)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油80(EO平均付加モル数80)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100(EO平均付加モル数100)等が挙げられる。中でも、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が好ましい。
【0022】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(POEソルビタン脂肪酸エステル)としては、モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート80)が挙げられる。中でも、モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(ポリソルベート80)が好ましい。
【0023】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(POEPOPグリコール)は特に限定されるものではなく、医薬品添加物規格(薬添規)に記載されたものを用いることができる。エチレンオキシドの平均重合度は4~200が好ましく、20~200がより好ましく、プロピレンオキシドの平均重合度は5~100が好ましく、20~70がより好ましく、ブロック共重合体でもランダム重合体でもよい。具体的には、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール:Lutrol F127(BASF社製)、ユニルーブ70DP-950B(日本油脂(株)製)等、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコール:プルロニックF-87(BASF社製)、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール:プルロニックF-68(BASF社製)、プロノン#188P(日本油脂(株)製)等、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール:プルロニックP123(BASF社製)、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール:プルロニックP85(BASF社製)、プロノン#235P(日本油脂(株)製)等、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール:プルロニックL-44、テトロニック(BASF社製)等が挙げられる。中でも、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコールが好ましい。
【0024】
ポリエチレングリコール脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸ポリエチレングリコール-25、ステアリン酸ポリエチレングリコール-40等が挙げられ、中でもステアリン酸ポリエチレングリコール-40が好ましい。
【0025】
中でも、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が好ましく、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとの組み合わせが好ましい。
【0026】
(D)成分の配合量は、組成物中0.01~1.0w/v%が好ましく、0.05~0.8%がより好ましく、0.1~0.5w/v%がさらに好ましい。
【0027】
本発明において、(C)/(D)で表される、(D)成分に対する(C)成分の配合質量比は1.5以上であり、1.5~5.0が好ましく、1.8~4.0がより好ましく、2.0~3.0がさらに好ましい。上記比が1.5未満だと、凍結融解における析出抑制効果及びVA安定性が不十分となる。一方、VA安定性の点から5.0以下が好ましい。
【0028】
さらに、(D)/((A)+(B))で表される、(A)成分と(B)成分の合計量に対する(D)成分の配合質量比は1.0~5.0であり、1.0~2.0が好ましく、1.2~1.7がより好ましい。上記比が1.0未満だと、凍結融解における析出抑制効果が不十分となり、5.0を超えると、凍結融解における析出抑制効果及びVA安定性が不十分となる。
【0029】
本発明の効果である、凍結融解における析出抑制効果及びVA安定性の両立は、単に(D)非イオン性界面活性剤の配合量を増やせばいいというものではなく、上記(C)グリチルリチン酸又はその塩の配合と、上記配合比率を調整することにより得ることができる。
【0030】
[その他の成分]
本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、眼科用組成物に配合されるその他の成分を適量配合することができる。その他の成分としては下記のものが例示され、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0031】
糖類としては、例えば、グルコース、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。なお、これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよい。糖類を配合する場合の配合量は、組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0032】
緩衝剤としては、例えば、ホウ酸又はその塩(ホウ砂等)、トロメタモール、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム等)、リン酸又はその塩(リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等)、酒石酸又はその塩(酒石酸ナトリウム等)、グルコン酸又はその塩(グルコン酸ナトリウム等)、酢酸又はその塩(酢酸ナトリウム等)、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム等)、各種アミノ酸類(イプシロン-アミノカプロン酸、アスパラギン酸カリウム、アミノエチルスルホン酸、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム)等が挙げられる。中でも、ホウ酸、ホウ砂、トロメタモールが好ましい。緩衝剤を配合する場合の配合量は、組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~2w/v%がより好ましく、0.001~1w/v%がさらに好ましい。
【0033】
pH調整剤としては、例えば、無機酸又は無機アルカリ剤が挙げられる。具体的には、無機酸としては(希)塩酸が挙げられる。無機アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。組成物のpHは3.5~8.0が好ましく、5.5~8.0がより好ましい。凍結融解における析出抑制効果の観点から、6.0~8.0がさらに好ましい。なお、pHの測定は、25℃でpHメータ(HM-25R、東亜ディーケーケー(株))を用いて行う。
【0034】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられる。涙液油層不安定化が引き起こす諸症状をより改善する点から、塩化ナトリウム又は塩化カリウムを配合し、等張化されていることが好ましい。組成物の対生理食塩水浸透圧比は、0.60~2.00が好ましく、0.60~1.55がより好ましく、0.83~1.20が最も好ましい。なお、浸透圧の測定は、25℃で自動浸透圧計(A2O、アドバンスドインストルメンツ社)を用いて行う。
【0035】
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム水和物、シクロデキストリン、亜硫酸塩、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。VA安定性の観点からエデト酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム水和物、亜硫酸塩、ジブチルヒドロキシトルエンを配合することが好ましい。安定化剤を配合する場合の配合量は、組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0036】
清涼化剤としては、例えば、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、リナロール等が挙げられる。d体、l体又はdl体のいずれでもよい。清涼化剤を配合する場合の配合量は、組成物中0.0001~0.2w/v%が好ましい。
【0037】
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。多価アルコールを配合する場合の配合量は、眼科用組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0038】
粘稠剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。粘稠剤を配合する場合、その配合量は組成物中0.001~5.0w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0039】
防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ソルビン酸、チメロサール、フェニルエチルアルコール、アルキルアミノエチルグリシン、クロルヘキシジングルコン酸、パラオシキ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル等が挙げられる。これらは、組成物中0.1w/v%以下が好ましく、0.01w/v%以下がより好ましく、0.001w/v%以下がさらに好ましく、0.0001w/v%以下が最も好ましく、配合しなくてもよい。
【0040】
油成分としては、流動パラフィン、ヒマシ油、大豆油、オリーブ油、ゴマ油、コーン油、ヤシ油、アーモンド油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、白色ワセリン、ミックストコフェロール、流動パラフィン、ワックスエステル、ステロールエステル等が挙げられる。油成分を配合する場合その配合量は、組成物中0.001~1.0w/v%が好ましい。
【0041】
薬物(薬学的有効成分)としては、例えば、充血除去成分(例えば、エピネフリン、塩酸エピネフリン、エフェドリン塩酸塩、ナファゾリン塩酸塩、ナファゾリン硝酸塩、フェニレフリン塩酸塩、dl-メチルエフェドリン塩酸塩等)、消炎・収斂剤(例えば、イプシロン-アミノカプロン酸、アラントイン、アズレンスルホン酸ナトリウム、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、リゾチーム塩酸塩等)、抗ヒスタミン剤等、水溶性ビタミン類(フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、ピリドキシン塩酸塩、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム等)、アミノ酸類(例えば、L-アスパラギン酸カリウム、L-アスパラギン酸マグネシウム、L-アスパラギン酸カリウム・マグネシウム(等量混合物)、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム等)、サルファ剤等が挙げられる。薬物を配合する場合、薬物の配合量は、各薬物の有効な適性量を選択することができるが、組成物中0.001~5w/v%が好ましく、0.001~1w/v%がより好ましく、0.001~0.1w/v%がさらに好ましい。
【0042】
水としては、精製水、滅菌水等を用いることができ、水の配合量は、組成物の残部とすることができる。具体的には、組成物中90~99.9w/v%が好ましく、93~98w/v%がより好ましい。
【0043】
[製造方法]
本発明の組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、(B)成分等の油性成分と(D)成分等の界面活性剤成分との混合溶液を、(A)成分及び(C)成分等の水性成分を含む水溶液と混合して乳化し、pH調整後、総体積を水により調整することにより得ることができる。各液体の混合方法は、一般的な方法でよく、パルセーター、プロペラ羽根、パドル羽根、タービン羽根等を用いて適宜行われるが、回転数は特に限定されず、激しく泡立たない程度に設定することが好ましい。各液体の混合温度は特に限定しないが、油性成分と界面活性剤成分が共に融解温度以上であることが好ましく、具体的には40~95℃の範囲から適宜選定される。
【0044】
また、得られた組成物を樹脂製容器に充填後、さらに包装体により密封し、上記容器と上記包装体との間に形成された空間の不活性ガス濃度を封入してもよく、眼科用組成物を樹脂製容器に充填し、脱酸素剤と共に包装体により密封してもよい。
【0045】
[眼科用組成物]
本発明の組成物の透過率は70~100%が好ましく、90~100%がより好ましい。本発明の透過率は、分光光度計(例えば、UV-1800、(株)島津製作所)を用いて測定した波長600nmの透過率をいう。
【0046】
本発明の組成物は目への適応を容易にする点から液体が好ましく、25℃における粘度は、20mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以下がより好ましく、5mPa・s以下がさらに好ましい。なお、粘度の測定方法はコーンプレート型粘度計(DV2T、英弘精機(株))を用いて行う。
【0047】
本発明の組成物は、そのまま液剤としてもよく、ゲル剤等に調製してもよい。使用形態としては、具体的には点眼剤(例えば、一般用点眼剤、コンタクトレンズ用点眼剤等)、洗眼剤(一般用洗眼剤、コンタクトレンズをはずした後に使用する洗眼剤等)、コンタクトレンズ装着液、コンタクト取り出し液等が挙げられる。中でも、コンタクトレンズ用点眼剤、コンタクトレンズをはずした後に使用する洗眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクト取り出し液等のコンタクトレンズ用眼科用組成物として好適である。ソフトコンタクトレンズとしては、ハードコンタクトレンズ、O2ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ等特に限定されない。
【0048】
本発明の組成物は、点眼剤又はコンタクトレンズ用点眼剤として使用する場合、1回につき10~100μLを1~3滴、1日につき1~6回点眼することが好ましく、1回につき10~50μLを1~3滴、1日につき1~6回がより好ましい。1回につき10~30μLを1~3滴1日につき1~6回がさらに好ましい。洗眼剤として使用する場合、1回につき3~6mL、1日につき3~6回洗眼することが好ましい。
【0049】
[凍結融解におけるベルベリン析出を抑制する方法]
本発明は、下記凍結融解におけるベルベリン析出を抑制する方法を提供する。
(A)ベルベリン又はその塩
(B)ビタミンA(B-1)及びビタミンE(B-2)からなる脂溶性成分、及び
(D)非イオン性界面活性剤
を含有する眼科用組成物に、
(C)グリチルリチン酸又はその塩を配合し、さらに、(B)成分の配合量を眼科用組成物中0.09w/v%以下、(C)/(D)で表される配合質量比を1.5以上、(D)/((A)+(B))で表される配合質量比を1.0~5.0とすることを特徴とする、上記眼科用組成物の凍結融解におけるベルベリン析出を抑制する方法。
(A)ベルベリン又はその塩
(B)ビタミンA(B-1)及びビタミンE(B-2)からなる脂溶性成分、及び
(D)非イオン性界面活性剤
を含有する眼科用組成物に、
(C)グリチルリチン酸又はその塩を配合し、さらに、(B)成分の配合量を眼科用組成物中0.09w/v%以下、(C)/(D)で表される配合質量比を1.5以上、(D)/((A)+(B))で表される配合質量比を1.0~5.0とすることを特徴とする、ビタミンA(B-1)が安定化すると共に、上記眼科用組成物の凍結融解におけるベルベリン析出を抑制する方法。
上記方法において、好適な成分及び配合量等は上記と同じである。
【実施例
【0050】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。組成の「%」はw/v%(g/100mL)、組成の「%」はw/v%、比率は質量比(w/v%比と同じ値)を示す。
【0051】
[実施例、比較例]
下表に示す(A)成分及び(C)成分を含む各水性成分を90mLの水に溶解し、90℃、15分間加温混合して水性成分水溶液を得た。同時に、(B)成分及び(D)成分のプレミックスを作製し、90℃、15分間加熱混合した。次に、プレミックスを上記水性成分水溶液に所定量加え、さらに90℃、15分間加熱混合した。その後、室温まで冷却し、100mLになるように水を加えた。得られた組成物について、下記評価を行った。結果を表中に併記する。
【0052】
[凍結融解におけるベルベリン析出の抑制効果]
製造直後の眼科用組成物13mLを点眼剤容器(15mL)に充填し、-20℃で凍結させ1週間保存した。その後常温に取り出した。取り出し3時間後における、解凍した眼科用組成物の波長600nmの透過率を、紫外可視近赤外分光光度計UV-1800((株)島津製作所)を用いて測定した。凍結融解におけるベルベリン析出を下記評価基準で示す。
〈評価基準〉
◎:析出物は認められず、透過率が90%以上である
○:析出物は認められず、透過率が90%未満であり、振とうすれば透過率が90%以上となる
●:析出物は認められず、透過率が90%未満であり、振とうしても透過率は変わらない
×:析出物が認められる
「◎」、「○」及び「●」を合格とする。
なお、析出物を分析したところ、(A)成分のベルベリンであることを確認した。
【0053】
[VA安定性]
眼科用組成物中のレチノールパルミチン酸エステル含量を、製造直後及び50℃で2ヶ月保存後(過酷試験)に測定した。測定は高速液体クロマトグラフ法を用いた。得られたレチノールパルミチン酸エステル含量から下記式に基づき、レチノールパルミチン酸エステル残存率(%)を算出した。
レチノールパルミチン酸エステル残存率(%)={保存後のレチノールパルミチン酸エステル含量/製造直後のレチノールパルミチン酸エステル含量}×100
VA安定性を下記評価基準で示す。
〈評価基準〉
◎:75%以上
○:70%以上~75%未満
×:70%未満
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
上記例で使用した原料を下記に示す。なお、特に明記がない限り、表中の各成分の量は純分換算量である。
ベルベリン塩化物水和物(日局 ベルベリン塩化物水和物、アルプス薬品工業社製)
レチノールパルミチン酸エステル(レチノールパルミチン酸エステル[174万I.U./g)]、DSM社製)
酢酸d-α-トコフェロール(理研Eアセテートα、理研ビタミン社製)
グリチルリチン酸二カリウム(局外規 グリチルリチン酸二カリウム、丸善製薬社製)
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HCO60、日本サーファクタント工業社製)
モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(レオドールTW-O120V、花王社製)